(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-29
(45)【発行日】2022-08-08
(54)【発明の名称】成膜装置及び成膜方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/35 20060101AFI20220801BHJP
H05H 1/46 20060101ALI20220801BHJP
【FI】
C23C14/35 E
C23C14/35 B
H05H1/46 A
(21)【出願番号】P 2018152204
(22)【出願日】2018-08-13
【審査請求日】2021-06-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】特許業務法人南青山国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【氏名又は名称】高橋 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168181
【氏名又は名称】中村 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100144211
【氏名又は名称】日比野 幸信
(72)【発明者】
【氏名】小野田 淳吾
(72)【発明者】
【氏名】小林 大士
(72)【発明者】
【氏名】氏原 祐輔
【審査官】宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-090578(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/35
H05H 1/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を支持する基板ホルダと、
前記基板に対向するスパッタリングターゲットと、
前記スパッタリングターゲットの裏面側に配置され、前記スパッタリングターゲットの表面と平行な方向に揺動可能な第1磁気回路部、及び、前記基板の裏面側に配置され、前記スパッタリングターゲットに対して臨む極性が前記第1磁気回路部が前記基板に対して臨む極性とは反対であり、前記第1磁気回路部とともに前記方向に揺動可能な第2磁気回路部からなる磁気回路ユニットを少なくとも1つ含む磁場発生機構と
を具備
し、
前記方向に、前記磁気回路ユニットが複数並び、
複数の磁気回路ユニットが纏まって前記方向に揺動する
成膜装置。
【請求項2】
請求項
1に記載された成膜装置であって、
前記第1磁気回路部及び前記第2磁気回路部が同じ位相で揺動する
成膜装置。
【請求項3】
請求項1
または2に記載された成膜装置であって、
前記スパッタリングターゲットは、高融点金属ターゲットである
成膜装置。
【請求項4】
基板ホルダによって基板を支持し、前記基板にスパッタリングターゲットを対向させて前記基板に対して前記スパッタリングターゲットを構成する材料を成膜する成膜方法であって、
前記スパッタリングターゲットの裏面側に配置され、前記スパッタリングターゲットの表面と平行な方向に揺動可能な第1磁気回路部、及び、前記基板の裏面側に配置され、前記スパッタリングターゲットに対して臨む極性が前記第1磁気回路部が前記基板に対して臨む極性とは反対であり、前記第1磁気回路部とともに前記方向に揺動可能な第2磁気回路部からなる一組の磁気回路ユニット
が前記方向に複数並んだ磁場発生機構を準備し、
前記方向に
複数の磁気回路ユニット
が纏まって揺動しながら、前記スパッタリングターゲットの表面に放電プラズマを発生させて、前記スパッタリングターゲットに含まれる材料を前記基板に成膜する
成膜方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜装置及び成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基板上に膜を成膜する方法として、マグネトロンスパッタリング法がある。この方法では、スパッタリングターゲットの裏に磁石を配置し、スパッタリングターゲット裏面からスパッタリングターゲット表面に磁場を漏洩させて基板上に膜を成膜する。スパッタリングターゲット表面に磁場を漏洩させることにより、スパッタリングターゲット表面における電子の拘束が高まり、スパッタリングターゲット・基板間に高密度プラズマが形成される(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、基板を基板ホルダに支持しながらスパッタリング成膜を行う装置系では、スパッタリングターゲット・基板間の電界が基板ホルダに集中する場合がある。このような場合、スパッタリングターゲット・基板間のプラズマにおいては、基板の中心付近と外周付近とで、プラズマ密度に分布が生じてしまい、基板に形成される膜の膜質が不均一になる場合がある。例えば、大型の基板を用いた場合、高融点材料のスパッタリングターゲットを用いた場合などは、このような現象が顕著になる。
【0005】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、基板に形成される膜の膜質がより均一になる成膜装置及び成膜方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る成膜装置は、基板ホルダと、スパッタリングターゲットと、磁場発生機構とを具備する。
基板ホルダは、基板を支持する。
スパッタリングターゲットは、上記基板に対向する。
磁場発生機構は、上記スパッタリングターゲットの裏面側に配置され、上記スパッタリングターゲットの表面と平行な方向に揺動可能な第1磁気回路部、及び、上記基板の裏面側に配置され、上記スパッタリングターゲットに対して臨む極性が上記第1磁気回路部が上記基板に対して臨む極性とは反対であり、上記第1磁気回路部とともに上記方向に揺動可能な第2磁気回路部からなる磁気回路ユニットを少なくとも1つ含む。
このような成膜装置であれば、ターゲットと基板との間において、プラズマが基板の表面に引き寄せられ、ターゲットと基板との間において、高密度で、プラズマ密度がより均一なプラズマが形成される。これにより、基板に形成される膜の膜質がより均一になる。
【0007】
上記の成膜装置においては、上記方向に、上記磁気回路ユニットが複数並び、複数の磁気回路ユニットが纏まって上記方向に揺動してもよい。
このような成膜装置であれば、上記の方向に、磁気回路ユニットが複数並んでいることから、ターゲットと基板との間の広い空間において、高密度で、プラズマ密度がより均一なプラズマが形成される。これにより、基板に形成される膜の膜質がより均一になる。
【0008】
上記の成膜装置においては、上記第1磁気回路部及び上記第2磁気回路部が同じ位相で揺動してもよい。
このような成膜装置であれば、第1磁気回路部及び上記第2磁気回路部が同じ位相で揺動することから、ターゲットと基板との間において、高密度で、プラズマ密度がより均一なプラズマが形成される。これにより、基板に形成される膜の膜質がより均一になる。
【0009】
上記の成膜装置においては、上記スパッタリングターゲットは、高融点金属ターゲットであってもよい。
このような成膜装置であれば、スパッタリングターゲットが高融点金属ターゲットで構成されても、ターゲットと基板との間において、高密度で、プラズマ密度がより均一なプラズマが形成される。これにより、基板に形成される膜の膜質がより均一になる。
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る成膜方法は、基板ホルダによって基板を支持し、上記基板にスパッタリングターゲットを対向させて上記基板に対して上記スパッタリングターゲットを構成する材料を成膜する成膜方法である。
上記成膜方法では、上記磁場発生機構が準備され、上記方向に磁気回路ユニットを揺動しながら、上記スパッタリングターゲットの表面に放電プラズマを発生させて、上記スパッタリングターゲットに含まれる材料を上記基板に成膜する。
【発明の効果】
【0011】
以上述べたように、本発明によれば、基板に形成される膜の膜質がより均一になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】図(a)は、本実施形態の成膜装置を示す模式的断面図である。図(b)は、該成膜装置に含まれる磁場発生機構及びターゲットを示す模式的断面図である。
【
図3】比較例の成膜装置を示す模式的断面図である。
【
図4】本実施形態の変形例に係る成膜装置を示す模式的断面図である。
【
図5】基板内におけるシート抵抗の分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。各図面には、XYZ軸座標が導入される場合がある。また、同一の部材または同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その部材を説明した後には適宜説明を省略する場合がある。
【0014】
図1(a)は、本実施形態の成膜装置を示す模式的断面図である。
図1(b)は、該成膜装置に含まれる磁場発生機構及びターゲットを示す模式的断面図である。
【0015】
図2(a)及び
図2(b)は、成膜装置の動作を示す模式的断面図である。
【0016】
まず、
図1(a)、(b)によって、成膜装置1の構成について説明する。
【0017】
図1(a)に示すように、成膜装置1は、真空容器10と、基板ホルダ20と、スパッタリングターゲット30(以下、単にターゲット30)と、磁場発生機構40と、揺動機構(不図示)とを具備する。
【0018】
真空容器10は、減圧状態を維持することができる真空槽である。例えば、真空容器10内のガスは、排気口10eを通じてターボ分子ポンプ等の排気機構(不図示)によって外部に排気される。
【0019】
真空容器10内には、成膜対象である基板21が基板ホルダ20によって支持される。基板21の成膜面21dには、ターゲット30に含まれる材料がスパッタリング成膜される。基板21は、例えば、平面形状が矩形の大型ガラス基板である。基板21は、一例として、フラットパネルディスプレイ用に用いられる。基板ホルダ20は、成膜装置1内の発塵防止、帯電防止といった観点から導電材で構成されていることが好ましい。真空容器10及び基板ホルダ20は、接地されている。
【0020】
ターゲット30は、基板21に対向する。ここで「対向」とは、直接的に何らかの部材に向かい合う意味でもよく、あるいは他の部材を介して何らかの部材に向かい合う意味で用いられる。また、基板21とターゲット30とは、地面に対して水平に配置されてもよく、地面に対して垂直に配置されてもよい。
【0021】
ターゲット30は、バッキングプレート31に支持される。バッキングプレート31は、基板21と反対側のターゲット30の裏面に配置される。バッキングプレート31の内部には、冷却媒体が流れる流路が設けられてもよい(不図示)。ターゲット30は、例えば、Mo、W、Ta、Nb等の高融点金属を含む。ターゲット30の材料は、これらの材料に限らない。
【0022】
また、真空容器10には、流量調整器71及びガスノズル72が付設され、流量調整器71を介してガスノズル72から放電ガスが真空容器10内に導入される。放電ガスとしては、例えば、Ar等の不活性ガスが用いられる。次いで、電源80からターゲット30に電力が供給され、ターゲット30と基板21との間に放電ガスが電離したプラズマが形成される。このプラズマによって、ターゲット30の表面がスパッタリングされ、ターゲット30からスパッタリング粒子が基板21の成膜面21dに向かい飛遊する。スパッタリング粒子が成膜面21dに堆積すると、成膜面21dに膜が形成される。
【0023】
電力は、直流電力または交流電力である。直流電力は、パルス式の直流電力でもよい。また、交流電圧の場合、その周波数は、10kHz以上300MHz以下(例えば、13.56MHz)である。なお、成膜は、基板21が基板ホルダ20によって固定された状態で行われてもよく、基板21がX軸方向に搬送されながら行われてもよい。
【0024】
磁場発生機構40は、磁気回路ユニット400を少なくとも1つ含む。磁気回路ユニット400のY軸方向の幅は、基板21の幅よりも狭い。
図1(a)の例では、複数の磁気回路ユニット400がY軸方向に並んでいる。磁気回路ユニット400は、磁気回路部410(第1磁気回路部)と、磁気回路部420(第2磁気回路部)とからなる。磁気回路部410と、磁気回路部420とが一組となって磁気回路ユニット400が構成される。
【0025】
磁気回路部410は、基板21とは反対側のターゲット30の裏面側に少なくとも1つ配置されている。例えば、磁気回路部410は、バッキングプレート31の裏面に配置される。磁気回路部410では、磁石410SがX軸方向(第1方向)に一列に配置され、一列に配置された磁石410Sを囲むように磁石410NがX-Y軸平面に配置されている。磁石410Sにおいては、S極(第1極)が基板21に対して臨んでいる。磁石410Nにおいては、N極(第2極)が基板21に対して臨んでいる。
【0026】
磁気回路部410は、ターゲット30の表面と平行な方向に揺動することができる。例えば、磁気回路部410は、Y軸方向(第2方向)に揺動する。磁気回路部410は、真空容器10内または真空容器10外に設置された揺動機構(不図示)によって揺動される。
【0027】
磁気回路部420は、ターゲット30とは反対側の基板21の裏面側に少なくとも1つ配置されている。磁気回路部420では、磁石420NがX軸方向に一列に配置され、一列に配置された磁石420Nを囲むように磁石420SがX-Y軸平面に配置されている。磁石420Nにおいては、N極がターゲット30に対して臨んでいる。磁石420Sにおいては、S極が基板21に対して臨んでいる。
【0028】
すなわち、磁気回路部420では、ターゲット30に対して臨む極性が磁気回路部410が基板21に対して臨む極性とは反対になっている。
【0029】
磁気回路部420は、磁気回路部410が揺動する方向と同じ方向に揺動する。例えば、磁気回路部420は、Y軸方向に揺動する。また、磁気回路部410及び磁気回路部420は、同じ位相で揺動する。つまり、磁気回路部410及び磁気回路部420は、同期して揺動する。磁気回路部420は、真空容器10内または真空容器10外に設置された揺動機構(不図示)によって揺動される。さらに、複数の磁気回路ユニット400においては、Y軸方向において磁気回路ユニット400のそれぞれが同じ位相で揺動する。すなわち、複数の磁気回路ユニット400が纏まった磁場発生機構40がY軸方向において揺動する。
【0030】
なお、磁場発生機構40を固定して、基板21及び基板ホルダ20をY軸方向に揺動しても磁場発生機構40と基板1との相対距離が変わるので同じ効果が得られる。しかし、基板21及び基板ホルダ20をY軸方向に揺動すると、基板20が損傷を受けたり、基板ホルダ20から発塵したりする可能性があるので、基板21及び基板ホルダ20よりも磁場発生機構40を揺動することが望ましい。
【0031】
成膜装置1の動作について説明する。
【0032】
成膜装置1では、磁気回路部410において、磁石410NのN極から磁石410SのS極に磁力線B1が延びる(
図1(b))。磁力線B1がターゲット30の表面に漏洩することにより、ターゲット30の表面における磁束密度が高くなる。これにより、ターゲット30の表面近傍におけるプラズマ密度が高くなる。
【0033】
また、成膜装置1では、磁気回路部420において、磁石420NのN極から磁石420SのS極に磁力線B2が延びる。磁力線B2が基板21の表面に漏洩することにより、基板21の表面における磁束密度が高くなる。これにより、基板21の表面近傍におけるプラズマ密度が高くなる。
【0034】
さらに、成膜装置1では、磁気回路部410と磁気回路部420とが対向する磁石の極性が互いに反対となっている。このため、磁気回路部410の磁石410NのN極から磁気回路部420の磁石420SのS極、磁気回路部420の磁石420NのN極から磁気回路部410の磁石410SのS極にも磁力線B3が延びる。そして、この延びた磁力線B3にもプラズマ中の電子が拘束される。
【0035】
これにより、磁気回路部410と磁気回路部420との間では、基板21及びターゲット30のそれぞれの表面近傍に高密度のプラズマ500が形成されるだけでなく、基板21とターゲット30との間の空間にも高密度のプラズマ500が形成される。
【0036】
さらに、成膜装置1では、磁気回路ユニット400がY軸方向において複数配置されているため、高密度のプラズマ500がY軸方向に繋がる。これにより、ターゲット30と基板21との間には、高密度で、X-Y軸面内におけるプラズマ密度が略均一なプラズマ50が形成される。そして、成膜装置1では、磁気回路ユニット400のそれぞれがY軸方向において、同じ位相で揺動する(
図2(a)、(b))。このため、ターゲット30と基板21との間においては、複数の磁気回路ユニット400が纏まってY軸方向に揺動することにより、大型の基板21とターゲット30との間の広い空間で、プラズマ50の全体が揺動することになる。
【0037】
ここで、比較のために、磁気回路部420が設けられていない成膜装置について考察する。
【0038】
図3は、比較例の成膜装置を示す模式的断面図である。
【0039】
図3に示す成膜装置においては、ターゲット30の裏面側に複数の磁気回路部410がY軸方向に列になるように配置されている。但し、基板21の裏側には、磁気回路部が配置されていない。
【0040】
この場合、ターゲット30の表面近傍では、プラズマ中の電子拘束が高まり、ターゲット30の表面近傍では、X-Y軸方向に広がるプラズマ50cが形成する。
【0041】
しかし、基板21の裏側には磁気回路部420が配置されていない。このため、プラズマ50は、基板21に引き寄せられることなく、ターゲット30と基板ホルダ20との間で放電しやすくなる。つまり、アノード(基板21)側では、プラズマ50cが基板ホルダ20に集中しやすくなる。さらに、基板21がガラス基板のような絶縁性基板の場合は、基板21の存在がプラズマ50cの基板ホルダ20への集中をさらに助長する。
【0042】
従って、比較例において、複数の磁気回路部410のそれぞれをY軸方向に揺動させたとしても、プラズマ50cが基板ホルダ20に集中するため、基板21の近傍でのプラズマ密度の分布改善には至らない。特に、ターゲット30が高融点金属で構成されている場合には、スパッタリング粒子が基板21上で構造緩和しにくく、基板21の近傍でのプラズマ密度分布が高融点金属膜の膜質の分布を決定することになる。ここで、膜質とは、膜の物性値、膜厚等である。
【0043】
これに対して、本実施形態の成膜装置1では、基板21の裏側に磁気回路部420が設けられている。このため、ターゲット30と基板21との間で放電するプラズマ50は、絶縁性の基板21を用いても、基板21の表面に引き寄せられ、ターゲット30と基板21との間に、高密度で、X-Y軸面内におけるプラズマ密度がより均一なプラズマ50が形成される。
【0044】
さらに、成膜装置1では、磁気回路ユニット400がY軸方向に揺動するため、ターゲット30におけるエロージョン形成が抑制される。さらに、この揺動によって、プラズマ密度が基板21の表面近傍でより均一になる。これにより、スパッタリング粒子が基板21上で構造緩和しにくいターゲット30を用いても、基板21には、例えば、膜密度、抵抗率、膜厚等の膜質の分布がより均一な膜が形成される。
【0045】
このように、本実施形態では、基板ホルダ20によって基板21が支持され、基板21にターゲット30を対向させて基板21に対してターゲット30を構成する材料を成膜する成膜装置と、成膜方法とが提供される。本実施形態では、真空容器10内に磁場発生機構40が準備され、Y軸に磁気回路ユニット400を揺動させながらターゲット30の表面に放電プラズマを発生させて、ターゲット30に含まれる材料が基板21に成膜される。
【0046】
また、複数の磁気回路ユニット400のそれぞれは、分離されて配置されていることから、複数の磁気回路ユニット400のそれぞれの磁石配置、磁場強度を独立して設定することができる。例えば、以下に成膜装置の変形例を示す。
【0047】
(変形例1)
【0048】
図4(a)は、本実施形態の変形例1に係る成膜装置を示す模式的断面図である。
【0049】
成膜装置2においては、磁気回路部410において、ターゲット30の中心から外周に向かうにつれ、磁場強度が弱くなっている。また、磁気回路部420において、基板21の中心から外周に向かうにつれ、磁場強度が弱くなっている。
【0050】
例えば、成膜装置2においては、磁場発生機構40の中央に、磁気回路ユニット400aが配置され、磁気回路ユニット400aの外側に磁気回路ユニット400bが配置される。また、磁気回路ユニット400bの外側には、磁気回路ユニット400cが配置されている。ここで、磁気回路ユニット400aに含まれる磁気回路部410及び磁気回路部420の磁場は、磁気回路ユニット400bに含まれる磁気回路部410及び磁気回路部420の磁場よりも強い。また、磁気回路ユニット400bに含まれる磁気回路部410及び磁気回路部420の磁場は、磁気回路ユニット400cに含まれる磁気回路部410及び磁気回路部420の磁場よりも強い。
【0051】
このような構成によれば、ターゲット30(または基板21)の外側から中心に向かって磁気回路ユニットの磁場が強くなるので、ターゲット30(または基板21)の中心ほどプラズマ中の電子が拘束されやくなる。従って、プラズマ50は、基板ホルダ20よりもターゲット30(または基板21)の中心に益々引き寄せられ、ターゲット30と基板21との間に、高密度で、X-Y軸面内におけるプラズマ密度がより均一なプラズマ50が形成される。
【0052】
(変形例2)
【0053】
図4(b)は、本実施形態の変形例2に係る成膜装置を示す模式的断面図である。
【0054】
成膜装置3では、磁気回路部410において、ターゲット30の中心から外周に向かうにつれ、磁気回路部410に含まれる磁石の間隔が広くなっている。また、磁気回路部420において、基板21の中心から外周に向かうにつれ、磁気回路部420に含まれる磁石の間隔が広くなっている。
【0055】
例えば、成膜装置3においては、磁気回路ユニット400aに含まれる磁気回路部410及び磁気回路部420のそれぞれに含まれる磁石の間隔は、磁気回路ユニット400bに含まれる磁気回路部410及び磁気回路部420のそれぞれに含まれる磁石の間隔よりも狭い。また、磁気回路ユニット400bに含まれる磁気回路部410及び磁気回路部420のそれぞれに含まれる磁石の間隔は、磁気回路ユニット400cに含まれる磁気回路部410及び磁気回路部420のそれぞれに含まれる磁石の間隔よりも狭い。
【0056】
このような構成によれば、ターゲット30(または基板21)の外側から中心に向かって磁気回路ユニットを構成する磁石の間隔が狭くなるので、ターゲット30(または基板21)の中心ほどプラズマ中の電子が拘束されやくなる。従って、プラズマ50は、基板ホルダ20よりもターゲット30(または基板21)の中心に益々引き寄せられ、ターゲット30と基板21との間に、高密度で、X-Y軸面内におけるプラズマ密度がより均一なプラズマ50が形成される。
【0057】
図4(a)、(b)に示された磁気回路ユニット400a、400b、400cのY軸方向における揺動幅は、必ずしも同じである必要はなく、磁気回路ユニット400a、400b、400cのそれぞれの揺動幅が異なってもよい。
【0058】
例えば、成膜装置2、3においては、ターゲット30(または基板21)の外側から中心に向かうほど、磁気回路ユニットの揺動幅を大きく設定してもよい。これにより、持続密度がより高い磁気回路部の揺動幅がより大きくなり、プラズマ50において、X-Y軸面内におけるプラズマ密度がより均一になる。
【実施例】
【0059】
図5は、基板内におけるシート抵抗の分布を示す図である。
【0060】
基板21としては、一例として、縦650mm×横550mmのガラス基板が用いられている。その他の成膜条件は以下の通りである。
ターゲット材料:モリブデン
放電電力:DC電力5.6W/cm2
圧力:0.3Pa(アルゴンガス)
膜厚:220nm(目表値)
ターゲット・基板間距離:110mm
【0061】
シート抵抗(Ω/sq.)の測定点は、基板21の中心C1と、中心C1から±Y軸方向に等間隔に離れた4点(Y1~Y4)と、中心C1から±X軸方向に等間隔に離れた4点(X1~X4)の計9点である。各点の括弧内の数値は、基板21の裏側に磁気回路部420が設けてない場合のMo膜のシート抵抗である。これを比較例とする。一方、括弧内の数値の上の数値は、成膜装置1で形成した本実施形態のMo膜のシート抵抗である。
【0062】
図5に示すように、比較例のMo膜のシート抵抗は、本実施形態のMo膜のシート抵抗に比べて、全体的に高くなっていることが分かる。また、シート抵抗の最大値をI
maxとし、最小値をI
minとしたときの、(I
max-I
min)/(I
max+I
min)の式Aから導かれるシート抵抗のばらつきの程度は、以下の通りになった。ここで、式Aから導かれる値は、低くなる程、測定値のばらつきが少ないことを意味する。
【0063】
比較例では、±Y軸方向のシート抵抗のばらつきが0.103であるのに対し、本実施形態では、0.084となった。また、比較例では、±X軸方向のシート抵抗のばらつきが0.169であるのに対し、本実施形態では、0.148となった。すなわち、比較例に比べて、本実施形態ではシート抵抗のばらつきは少なく、シート抵抗の面内分布が改善されていることが分かった。
【0064】
また、本実施形態と比較例とを同じXRD回折条件で測定した結果からは、各ピークの半値幅が比較例よりも本実施形態のほうが狭くなる傾向にあった。測定条件は、以下の通りである。
【0065】
測定装置:Rigaku製Smartlab
光学系:中分解能平行ビーム法
走査方法:2θ/θ法
ターゲット:Cu
管電圧:45kV
管電流:200mA
スキャンスピード:10°/min
サンプリング幅:0.01°
入射スリット:1mm
受光スリット1:1mm
受光スリット2:1mm
【0066】
図5の中心C1において、本実施形態及び比較例における(110)面に帰属するピークの半値幅を比較した。比較例では、0.22°であったのに対し、本実施形態では、0.19°となり、半値幅がより狭くなった。これは、磁場発生機構40を設けたことにより、基板21上におけるMo膜の構造緩和が進行して、結晶性が良好になったと推察できる。磁場発生機構40を設けたことにより、Mo膜の構造緩和が進行することは、シート抵抗がより低くなっていることからも裏付けられる。
【0067】
Mo膜の結晶性を向上させる手段として、放電電力を増加させたり、基板温度を上昇させる方法がある。しかし、放電電力の増加は、大型の基板ホルダ20を用いた場合には、局所的な異常放電の要因となり好ましくない。また、基板温度の上昇は、スループットの向上を阻害し、さらに、大型基板の割れや欠けが生じやすく好ましくない。これに対して本実施形態では、磁場発生機構40を設けることにより、Mo膜の結晶性がより良好になることが分かった。
【0068】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく種々変更を加え得ることは勿論である。各実施形態は、独立の形態とは限らず、技術的に可能な限り複合することができる。
【符号の説明】
【0069】
1…成膜装置
10e…排気口
10…真空容器
20…基板ホルダ
21…基板
21d…成膜面
30…スパッタリングターゲット、ターゲット
31…バッキングプレート
40…磁場発生機構
50、500…プラズマ
71…流量調整器
72…ガスノズル
80…電源
400…磁気回路ユニット
410N、410S、420N、420S…磁石
410、420…磁気回路部