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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-29
(45)【発行日】2022-08-08
(54)【発明の名称】スパッタリング装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/35 20060101AFI20220801BHJP
【FI】
C23C14/35 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018154388
(22)【出願日】2018-08-21
(65)【公開番号】P2020029577
(43)【公開日】2020-02-27
【審査請求日】2021-06-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】特許業務法人南青山国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168181
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100144211
【弁理士】
【氏名又は名称】日比野 幸信
(72)【発明者】
【氏名】中光 豊
【審査官】宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-073167(JP,A)
【文献】特開昭63-100176(JP,A)
【文献】特開平01-309959(JP,A)
【文献】特開2008-255389(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/34
C23C 14/35
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空中で基板上に成膜を行うためのスパッタリング装置であって、
内径Tが200mm以上の円筒状のターゲットと、
前記円筒状のターゲットに電力を印加する電源と、
前記円筒状のターゲットの外周面の外側において当該円筒状のターゲットを挟んで異なる極性の部分が相対するように配置され、回転駆動機構によって前記円筒状のターゲットの外周面に沿って回転するように構成された少なくとも一対の筒状の磁気回路形成部とを有し、
前記円筒状のターゲットの内径Tに対する前記相対する一対の筒状の磁気回路形成部の外径Aが、T≧Aとなるよう設けられ、
前記電力を前記円筒状のターゲットの基板を配置するステージに対して反対側の部分に印加するように構成されているスパッタリング装置。
【請求項2】
前記相対する一対の筒状の磁気回路形成部が、それぞれ断面コ字型の磁性体からなるヨーク部材に取り付けられている請求項1記載のスパッタリング装置。
【請求項3】
前記相対する一対の筒状の磁気回路形成部は、それぞれの内径Bが100mm以上である請求項1又は2のいずれか1項記載のスパッタリング装置。
【請求項4】
前記相対する一対の筒状の磁気回路形成部の厚さYがそれぞれ10mm以上である請求項2又は3のいずれか1項記載のスパッタリング装置。
【請求項5】
前記相対する一対の筒状の磁気回路形成部の長さLがそれぞれ40mm以上である請求項2乃至4のいずれか1項記載のスパッタリング装置。
【請求項6】
前記回転駆動機構は、前記円筒状のターゲットの回転軸に対して異なる位置の回転軸を中心として回転するように構成されている請求項1乃至5のいずれか1項記載のスパッタリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタリングによって成膜を行う装置に関し、特に円筒状のスパッタリングターゲット(以下、適宜「ターゲット」という。)を用いて成膜を行うスパッタリング装置の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、種々のデバイス(半導体、電子、ディスプレイ、太陽電池など)の高性能化、微細化が進んでいる。
【0003】
このようなデバイスを製造するには、真空中においてパーティクルの発生が少なく高品質な薄膜形成技術が重要である。
【0004】
かかる薄膜形成技術としては、従来より、マグネトロン式スパッタリング装置と対向ターゲット式スパッタリング装置が知られている。
【0005】
しかし、マグネトロン式スパッタリング装置では、成膜中に高い運動エネルギーを持った粒子が基板表面に衝突し膜質の低下を引き起こすという問題がある。
【0006】
これに対し、対向ターゲット式スパッタリング装置は、一対のターゲットが対向し基板はその側方に設置する構造であるため、成膜中に高い運動エネルギーを持った粒子が基板表面に衝突するのを抑制することができ、これにより高品質の薄膜を形成することができる。
【0007】
しかし、一対のターゲットが対向する構造の対向ターゲット式スパッタリング装置は、基板以外の部分にターゲット材料が付着してこれを利用することができないため、ターゲットの利用効率が良くないという問題がある。
【0008】
一方、円筒状のターゲット等を用いるホローカソード型のスパッタリング法も知られているが、この方法によってもターゲットの全面が均一にスパッタされないので、ターゲットの利用効率は良くない。
【0009】
この課題を解決するため、従来、円筒状のターゲットを用い、磁場形成用の磁石をターゲットの背面側に配置し、この磁石をターゲットと同心円上に回転させてターゲット内において回転磁場を形成するようにしたスパッタリング装置が提案されている。
【0010】
このような構成のスパッタリング装置によれば、ターゲットの全面をスパッタすることができるので、ターゲットの利用効率を高めることができる。
【0011】
しかし、従来の円筒状のターゲットを用い当該ターゲット内において回転磁場を形成するスパッタリング装置では、マグネトロンプラズマによるターゲットの内表面付近のプラズマ密度が高く、円筒状のターゲットの中央部分の対向プラズマのプラズマ密度が低いため、スパッタ時におけるスパッタ粒子のイオン化率が低いという問題がある。
【0012】
特にウェハサイズが200mm、300mm向けのスパッタリング装置では、円筒状のターゲットの径を大きくする必要があるため、この傾向が強くなるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開平10-008246号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、このような従来の技術の課題を考慮してなされたもので、その目的とするところは、円筒状のターゲットを用いてターゲット内において回転磁場を形成するスパッタリング装置において、円筒状のターゲットの中央部分の対向プラズマのプラズマ密度を高めることによってスパッタ時のスパッタ粒子のイオン化率を高めることができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するためになされた本発明は、真空中で基板上に成膜を行うためのスパッタリング装置であって、内径Tが200mm以上の円筒状のターゲットと、前記円筒状のターゲットに電力を印加する電源と、前記円筒状のターゲットの外周面の外側において当該円筒状のターゲットを挟んで相対するように配置され、回転駆動機構によって前記円筒状のターゲットの外周面に沿って回転するように構成された少なくとも一対の筒状の磁気回路形成部とを有し、前記円筒状のターゲットの内径Tに対する前記相対する一対の筒状の磁気回路形成部の外径Aが、T≧Aとなるよう設けられ、前記電力を前記円筒状のターゲットの基板を配置するステージに対して反対側の部分に印加するように構成されているスパッタリング装置である。
本発明では、前記相対する一対の筒状の磁気回路形成部が、それぞれ断面コ字型の磁性体からなるヨーク部材に取り付けられている場合にも効果的である。
本発明では、前記相対する一対の筒状の磁気回路形成部は、それぞれの内径Bが100mm以上である場合にも効果的である。
本発明では、前記相対する一対の筒状の磁気回路形成部の厚さYがそれぞれ10mm以上である場合にも効果的である。
本発明では、前記相対する一対の筒状の磁気回路形成部の長さLがそれぞれ40mm以上である場合にも効果的である。
本発明では、前記回転駆動機構は、前記円筒状のターゲットの回転軸に対して異なる位置の回転軸を中心として回転するように構成されている場合にも効果的である。
【発明の効果】
【0016】
本発明にあっては、少なくとも一対の筒状の磁気回路形成部が、内径Tが200mm以上の円筒状のターゲットの外周面の外側において当該円筒状のターゲットを挟んで相対するように配置され、回転駆動機構によって円筒状のターゲットの外周面に沿って回転するように構成され、円筒状のターゲットの内径Tに対する一対の筒状の磁気回路形成部の外径Aが、T≧Aとなるよう設けられていることから、円筒状のターゲットの中央部分の対向磁場の磁場強度を大きくして当該ターゲットの中央部分に生成される対向プラズマのプラズマ密度を向上させることができ、これによりスパッタリング時のスパッタ粒子のイオン化率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】(a)(b):本発明に係るスパッタリング装置の実施の形態の構成を示す概略図で、図1(a)は部分断面正面図、図1(b)は、図1(a)のA-A線断面図
図2】(a)(b):本実施の形態に用いる第1及び第2の磁気回路形成部の例を示す斜視図
図3】本発明のスパッタリング装置の寸法関係を示す説明図
図4】(a)(b):本実施の形態の第1及び第2の磁気回路形成部によって発生した磁場(磁束)の分布並びに本実施の形態において生成されたプラズマの分布を模式的に示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して詳細に説明する。
【0019】
図1(a)(b)は、本発明に係るスパッタリング装置の実施の形態の構成を示す概略図で、図1(a)は部分断面正面図、図1(b)は、図1(a)のA-A線断面図である。
【0020】
また、図2(a)(b)は、本実施の形態に用いる第1及び第2の磁気回路形成部の例を示す斜視図である。
【0021】
図1(a)に示すように、本実施の形態のスパッタリング装置1は、ステージ2a上に基板20が配置される真空成膜室2を有している。
【0022】
この真空成膜室2は、図示しない真空排気装置に接続されるとともに、アルゴンガス等のプロセスガスを導入するように構成されている。
そして、本実施の形態の真空成膜室2は接地されている。
【0023】
真空成膜室2の基板20の成膜面側(例えば上部)にはスパッタ室4が設けられている。
【0024】
このスパッタ室4には、基板20の表面に対して直交する方向(例えば鉛直方向)に延びる回転軸O1を有する円筒状のバッキングプレート5とターゲット6(以下、適宜「ターゲット6」と称する。)が設けられている。
【0025】
そして、スパッタ室4は真空成膜室2に連通し、真空成膜室2と同等の真空雰囲気の放電空間が形成されるようになっている。
【0026】
本実施の形態では、バッキングプレート5の内側に密着してターゲット6が設けられており、高周波電源7からバッキングプレート5を介してターゲット6に高周波電力を印加するように構成されている。
【0027】
本実施の形態の場合は、ターゲット6の真空成膜室2内のステージ2aに対して反対側の部分(特に端部)に高周波電力を印加するように構成されている(図1(a)参照)。
【0028】
これは、次のような理由によるものである。
すなわち、カソードであるターゲット6に印加された高周波電力は、表皮効果によってターゲット6の内表面を介してアノードである真空成膜室2側(図1(a)の下側)に流れる。
【0029】
本実施の形態では、ターゲット6の真空成膜室2内のステージ2aに対して反対側の端部に高周波電力を印加することにより、ターゲット6の回転駆動機構11側の端部近傍においても密度の高いプラズマが生成される。
【0030】
これに対し、ターゲット6の真空成膜室2側の端部に高周波電力を印加した場合には、アノードである真空成膜室2に近いため、高周波電力は回転駆動機構11側(図1(a)の上側)には流れず、またターゲット6の中央部分に高周波電力を印加した場合には、表皮効果によってターゲット6の内表面を介してアノードである真空成膜室2側(図1(a)の下側)に流れるため、これらの場合には、ターゲット6の回転駆動機構11側(図1(a)の上側)の端部近傍において生成されるプラズマは密度が低いため、スパッタリングがされにくくなってしまう。
【0031】
このような理由により、本実施の形態では、ターゲット6の真空成膜室2内のステージ2aに対して反対側の部分の端部に高周波電力を印加するように構成するようにしている。
【0032】
スパッタ室4のバッキングプレート5の外周面の近傍には、一対の即ち第1及び第2の磁気回路形成部8、9が設けられている。
【0033】
本実施の形態の第1及び第2の磁気回路形成部8、9は、例えばネオジウム磁石を有している。
【0034】
これら第1及び第2の磁気回路形成部8、9は、同等の構成を有するもので、例えば鉄(Fe)等の磁性体を用いて断面「コ」字あるいは(U)字状に形成された板状のヨーク部材10に取り付けられている。
【0035】
この場合、第1及び第2の磁気回路形成部8、9は、ヨーク部材10の平板状の部分10aの両端部を例えば90度の角度に屈曲して形成された取付部10bにそれぞれ固定され、スパッタ室4を挟んで異なる極性の部分が相対するように配置されている。
【0036】
本実施の形態では、このようにヨーク部材10に第1及び第2の磁気回路形成部8、9を固定することにより、ヨーク部材10を用いない場合と比べてターゲット6の中央部分の磁場強度を大きく(1.5倍程度)することができる。
【0037】
また、第1及び第2の磁気回路形成部8、9の長さを短くすることができる。
【0038】
本発明の第1及び第2の磁気回路形成部8、9は、筒状(断面形状が環状)に形成されたものが用いられる。
【0039】
この場合、第1及び第2の磁気回路形成部8、9は、必ずしも一つの継ぎ目のない筒形状であることを意味しない。すなわち、筒は複数の部品から構成されていていてもよい。
【0040】
図2(a)(b)に示すように、本例の第1及び第2の磁気回路形成部8、9は、円筒形状に形成されている。
【0041】
ただし、本発明はこれに限られず、正方形筒状のものや矩形筒状のものを用いることもできる。
【0042】
第1及び第2の磁気回路形成部8、9は、それぞれのターゲット6側の表面8a、9aが、バッキングプレート5及びターゲット6の回転軸O1と平行になるように形成されている。
【0043】
本実施の形態では、ヨーク部材10の平板状の部分10aが、回転駆動機構11の駆動軸11aに連結され、ヨーク部材10の平板状の部分10aを、基板20に対して平行に配置した状態でバッキングプレート5及びターゲット6の回転軸O1と平行な回転軸O2を中心として回転駆動させるように構成されている(図1(a)参照)。
【0044】
本発明の場合、特に限定されることはないが、回転駆動機構11の回転軸O2が、バッキングプレート5及びターゲット6の回転軸O1と重ならない(オフセットさせる)ように構成することが好ましい(図1(b)参照)。
【0045】
そして、このような構成により、第1及び第2の磁気回路形成部8、9は、ヨーク部材10を上記回転軸O2を中心として回転させることにより、ターゲット6を有するスパッタ室4の周囲を回転するようになっている。
【0046】
このような本実施の形態によれば、上述したようにターゲット6の真空成膜室2内のステージ2aに対して反対側の部分端部に高周波電力を印加することと相俟って、ターゲット6内に生成されるプラズマの密度が均一になり、ターゲット6の利用効率を向上させることができる。
【0047】
図3は、本発明のスパッタリング装置の寸法関係を示す説明図である。
本発明では、円筒状のターゲット6の内径Tが200mm以上となるようにその寸法が設定されている。
【0048】
そして、第1及び第2の磁気回路形成部8、9の外径Aが、円筒状のターゲット6の内径以下(T≧A)となるようにその寸法が設定されている。
【0049】
これは、第1及び第2の磁気回路形成部8、9の外径Aがターゲット6の内径以下でないと、いわゆるミラー型の対向磁場を形成することができないからである。
【0050】
本発明の場合、特に限定されることはないが、後述の図4(a)に示す第1及び第2の磁気回路形成部8、9の間に形成される対向磁場15の磁束はある程度の幅を有し、かかる対向磁場15の磁束のターゲット6に対する影響を考慮すると、第1及び第2の磁気回路形成部8、9の外径Aが、円筒状のターゲット6の内径Tより20mm以上小さい寸法となるように設定することが好ましい。
【0051】
なお、第1及び第2の磁気回路形成部8、9の形状が円筒形状である場合には、それぞれの外周部の直径が外径Aに相当するが、第1及び第2の磁気回路形成部8、9の形状が正方形を含む矩形形状である場合には、第1及び第2の磁気回路形成部8、9の回転駆動機構11及び真空成膜室2側の部分(図1(a)中において上部及び下部)の外径が当該外径Aに相当する。
【0052】
一方、第1及び第2の磁気回路形成部8、9の内径Bについては特に限定されることはないが、必要な磁場強度を確保してターゲット6の中央部分のプラズマ密度を高くする観点からは、それぞれ100mm以上に設定することが好ましい。
【0053】
また、エロージョン領域を広くする観点からは、第1及び第2の磁気回路形成部8、9の内径Bをより大きくすることが好ましい。
【0054】
なお、第1及び第2の磁気回路形成部8、9の形状が円筒形状である場合には、それぞれの内周部の直径が内径Bに相当するが、第1及び第2の磁気回路形成部8、9の形状が正方形を含む矩形形状である場合には、当該矩形形状の第1及び第2の磁気回路形成部8、9の内周部の対向する部分(縦方向及び横方向:例えば鉛直方向及び水平方向)間の距離のうち小さい方の距離が当該内径Bに相当し、当該内径Bを100mm以上に設定することが好ましい。
【0055】
一方、第1及び第2の磁気回路形成部8、9は筒状に形成されており、その筒の長さ(ヨーク部材10の表面に対する高さ)Lが短いと磁石の周辺に形成される磁場の形状が小さく、その筒の長さLが長いと磁石の周辺に形成される磁場の形状が大きくなる。
【0056】
本発明の場合、筒状の第1及び第2の磁気回路形成部8、9の当該筒の長さLについては特に限定されることはないが、対向磁場の必要な磁場強度を確保してターゲット6の中央部分のプラズマ密度を高くする観点からは、それぞれ40mm以上に設定することが好ましい。
【0057】
その一方、装置の小型化を図る観点からは、第1及び第2の磁気回路形成部8、9の筒の長さLは小さい方が好ましい。
【0058】
さらに、第1及び第2の磁気回路形成部8、9の厚さYについては特に限定されることはないが、対向磁場の必要な磁場強度を確保してターゲット6の中央部分のプラズマ密度を高くする観点からは、それぞれ10mm以上に設定することが好ましい。
【0059】
さらにまた、本発明では、第1及び第2の磁気回路形成部8、9の間の距離(ターゲット6側の表面8a、9a間の距離)をXとしたときに、第1及び第2の磁気回路形成部8、9の筒の長さLが、X≦400mm、かつ、L≧X/7.5の関係を満たすように設定することが好ましい。
【0060】
本発明では、このような構成を採用することにより、第1及び第2の磁気回路形成部8、9間に形成される対向磁場の磁場強度をより強くすることができる。
【0061】
すなわち、第1及び第2の磁気回路形成部8、9間に形成される対向磁場は、対向する第1及び第2の磁気回路形成部8、9間の磁石の距離が拡がると弱くなる一方、対向する磁石に届かなかった磁束は自己リターンによる磁場を形成するので、マグネトロン磁場の磁場強度が強くなり、マグネトロンプラズマが強くなる傾向があるから、第1及び第2の磁気回路形成部8、9の間の距離Xと、第1及び第2の磁気回路形成部8、9の筒の長さLについて上述した関係を満たすように設定することが好ましい。
【0062】
図4(a)(b)は、本実施の形態の第1及び第2の磁気回路形成部によって発生した磁場(磁束)の分布並びに本実施の形態において生成されたプラズマの分布を模式的に示す説明図である。
【0063】
本実施の形態では、第1の磁気回路形成部8のN極と、第2の磁気回路形成部9のS極が対向するように配置されている。
【0064】
これにより、本実施の形態では、第1の磁気回路形成部8から第2の磁気回路形成部9に向かう方向の磁力線を有する対向磁場15が発生する。この対向磁場15は、ターゲット6を貫くように形成される。
【0065】
上述したように、第1及び第2の磁気回路形成部8、9は筒状に形成されているから、発生した対向磁場15は筒状(いわゆるミラー型)に形成され、ターゲット6内においても筒状に形成される。
【0066】
また、第1の磁気回路形成部8の当該筒の内側には、そのN極からS極へ向かう方向の第1のマグネトロン磁場16が発生する。
【0067】
一方、第2の磁気回路形成部9の当該筒の内側には、そのN極からS極へ向かう方向の第2のマグネトロン磁場17が発生する。
【0068】
このような磁場が形成された状態において、第1及び第2の磁気回路形成部8、9を回転させながら、真空下の真空成膜室2内にプロセスガスを導入し、高周波電源7において発生させた高周波電力をバッキングプレート5を介してターゲット6に印加すると、ターゲット6の内表面の例えば対向する部分間において放電が生じ、図4(b)に示すように、円筒状のターゲット6の中央部分において対向プラズマ30が生成される。
【0069】
この対向プラズマ30は、上述した円筒形状の対向磁場15によってこの対向磁場15の内側に閉じこめられた状態になる。
【0070】
また、ターゲット6の内表面の第1及び第2の磁気回路形成部8、9の近傍には、上述した第1及び第2のマグネトロン磁場16、17により、マグネトロンプラズマ31、32が生成される。
【0071】
本実施の形態では、第1及び第2の磁気回路形成部8、9がターゲット6の外周面に沿って回転するように構成されているから、ターゲット6内において、均一な状態の対向プラズマ30及びマグネトロンプラズマ31、32が生成される。
【0072】
そして、これら対向プラズマ30及びマグネトロンプラズマ31、32中のアルゴンイオンがターゲット6の内表面に衝突することにより、ターゲット6の内表面においてスパッタリングが行われる。
【0073】
以上述べた本実施の形態では、筒状の第1及び第2の磁気回路形成部8、9が、内径Tが200mm以上の円筒状のターゲット6の外周面の外側において当該ターゲット6を挟んで相対するように配置され、回転駆動機構11によってターゲット6の外周面に沿って回転するように構成され、ターゲット6の内径Tに対する第1及び第2の磁気回路形成部8、9の外径Aが、T≧Aとなるよう設けられていることから、ターゲット6の中央部分の対向磁場15の磁場強度を大きくしてターゲット6の中央部分に生成される対向プラズマ30のプラズマ密度を向上させることができ、これによりスパッタリング時のスパッタ粒子のイオン化率を高めることができる。
【0074】
なお、本発明は上記実施の形態に限られず、種々の変更を行うことができる。例えば、上記実施の形態では、円筒状のターゲットの周囲に相対する一対の筒状の磁気回路形成部を一つ設けるように構成したが、本発明はこれに限られず、円筒状のターゲットの周囲に相対する一対の筒状の磁気回路形成部を二つ以上設けることもできる。
【0075】
また、上記実施の形態では、高周波電源を用いてターゲットに電力を印加するようにしたが、本発明はこれに限られず、直流電源を用いてターゲットに電力を印加することもでき、さらに、高周波電源と直流電源を組み合わせてターゲットに電力を印加することもできる。
【符号の説明】
【0076】
1……スパッタリング装置
2……真空成膜室
4……スパッタ室
5……バッキングプレート
6……円筒状のターゲット
7……高周波電源(電源)
8……第1の磁気回路形成部
9……第2の磁気回路形成部
10…ヨーク部材
10b…取付部
11…回転駆動機構
20…基板
図1
図2
図3
図4