IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社リコーの特許一覧

<>
  • 特許-記録方法、及び記録装置 図1
  • 特許-記録方法、及び記録装置 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-01
(45)【発行日】2022-08-09
(54)【発明の名称】記録方法、及び記録装置
(51)【国際特許分類】
   B41M 5/00 20060101AFI20220802BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20220802BHJP
   C09D 11/30 20140101ALI20220802BHJP
【FI】
B41M5/00 132
B41J2/01 123
B41J2/01 501
B41J2/01 305
B41M5/00 120
C09D11/30
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018051415
(22)【出願日】2018-03-19
(65)【公開番号】P2019162756
(43)【公開日】2019-09-26
【審査請求日】2021-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(72)【発明者】
【氏名】梁川 宜輝
(72)【発明者】
【氏名】坂口 裕美
(72)【発明者】
【氏名】高橋 聡
(72)【発明者】
【氏名】遠山 郁
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 亮太
(72)【発明者】
【氏名】前川 勉
(72)【発明者】
【氏名】玉井 崇詞
【審査官】倉本 勝利
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-060125(JP,A)
【文献】特開2016-117240(JP,A)
【文献】特開2017-114112(JP,A)
【文献】特開2018-039206(JP,A)
【文献】国際公開第2016/030452(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2011-0021201(KR,A)
【文献】特開2013-064074(JP,A)
【文献】特開2012-045788(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 5/00
B41J 2/01
C09D 11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体に対してカチオン性物質を含む処理液を付与する処理液付与工程と、
前記記録媒体の前記処理液を付与した領域に対して色材を含むインクを付与して画像部を形成する画像形成工程と、
前記記録媒体の前記画像部が形成された領域を切断する切断工程と、を含み、
前記カチオン性物質は、ポリマーであり、
前記画像部のマルテンス硬度は、45N/mm以上200N/mm以下であり、
前記記録媒体のJIS P 8140による60秒コッブ値は、30.0g/m未満であり、
前記処理液付与工程における前記処理液の付与量は、400mg/m以上2000mg/m以下である記録方法。
【請求項2】
記録媒体に対してカチオン性物質を含む処理液を付与する処理液付与工程と、
前記記録媒体の前記処理液を付与した領域に対して色材を含むインクを付与して画像部を形成する画像形成工程と、
前記記録媒体の前記画像部が形成された領域を切断する切断工程と、を含み、
前記カチオン性物質は、ポリマーであり、
前記画像部のマルテンス硬度は、45N/mm以上200N/mm以下であり、
前記記録媒体のJIS P 8140による60秒コッブ値は、30.0g/m以上であり、
前記処理液付与工程における前記処理液の付与量は、1000mg/m以上4000mg/m以下である記録方法。
【請求項3】
記録媒体に対してカチオン性物質を含む処理液を付与する処理液付与工程と、
前記記録媒体の前記処理液を付与した領域に対して色材を含むインクを付与して画像部を形成する画像形成工程と、
前記記録媒体の前記画像部が形成された領域を切断する切断工程と、を含み、
前記カチオン性物質は、ポリマーであり、
前記画像部のマルテンス硬度は、45N/mm以上200N/mm以下であり、
前記ポリマーの含有量は、前記処理液の全量に対して40質量%未満であり、
前記処理液付与工程における前記処理液の付与量は、400mg/m以上2000mg/m以下である記録方法。
【請求項4】
記録媒体に対してカチオン性物質を含む処理液を付与する処理液付与工程と、
前記記録媒体の前記処理液を付与した領域に対して色材を含むインクを付与して画像部を形成する画像形成工程と、
前記記録媒体の前記画像部が形成された領域を切断する切断工程と、を含み、
前記カチオン性物質は、ポリマーであり、
前記画像部のマルテンス硬度は、45N/mm以上200N/mm以下であり、
前記ポリマーの含有量は、前記処理液の全量に対して40質量%以上であり、
前記処理液付与工程における前記処理液の付与量は、1000mg/m以上4000mg/m以下である記録方法。
【請求項5】
前記画像部のマルテンス硬度は、60N/mm以上である請求項1乃至4のいずれか一項に記載の記録方法。
【請求項6】
前記インクは、樹脂粒子を含み、
前記樹脂粒子は、ウレタン樹脂粒子、ポリエステル樹脂粒子、及びアクリル樹脂粒子から選ばれる少なくとも1つである請求項1乃至5のいずれか一項に記載の記録方法。
【請求項7】
前記インクは、樹脂粒子を含み、
前記樹脂粒子の含有量は、前記インク全量に対して1質量%以上5質量%以下である請求項1乃至6のいずれか一項に記載の記録方法。
【請求項8】
前記記録媒体は、連続紙である請求項1乃至7のいずれか一項に記載の記録方法。
【請求項9】
記録媒体に対してカチオン性物質を含む処理液を付与する処理液付与手段と、
前記記録媒体の前記処理液を付与した領域に対して色材を含むインクを付与して画像部を形成する画像形成手段と、
前記記録媒体の前記画像部が形成された領域を切断する切断手段と、を含み、
前記カチオン性物質は、ポリマーであり、
前記画像部のマルテンス硬度は、45N/mm以上200N/mm以下であり、
前記記録媒体のJIS P 8140による60秒コッブ値は、30.0g/m未満であり、
前記処理液付与手段における前記処理液の付与量は、400mg/m以上2000mg/m以下である記録装置。
【請求項10】
記録媒体に対してカチオン性物質を含む処理液を付与する処理液付与手段と、
前記記録媒体の前記処理液を付与した領域に対して色材を含むインクを付与して画像部を形成する画像形成手段と、
前記記録媒体の前記画像部が形成された領域を切断する切断手段と、を含み、
前記カチオン性物質は、ポリマーであり、
前記画像部のマルテンス硬度は、45N/mm 以上200N/mm 以下であり、
前記記録媒体のJIS P 8140による60秒コッブ値は、30.0g/m以上であり、
前記処理液付与手段における前記処理液の付与量は、1000mg/m以上4000mg/m以下である記録装置。
【請求項11】
記録媒体に対してカチオン性物質を含む処理液を付与する処理液付与手段と、
前記記録媒体の前記処理液を付与した領域に対して色材を含むインクを付与して画像部を形成する画像形成手段と、
前記記録媒体の前記画像部が形成された領域を切断する切断手段と、を含み、
前記カチオン性物質は、ポリマーであり、
前記画像部のマルテンス硬度は、45N/mm以上200N/mm以下であり、
前記ポリマーの含有量は、前記処理液の全量に対して40質量%未満であり、
前記処理液付与手段における前記処理液の付与量は、400mg/m以上2000mg/m以下である記録装置。
【請求項12】
記録媒体に対してカチオン性物質を含む処理液を付与する処理液付与手段と、
前記記録媒体の前記処理液を付与した領域に対して色材を含むインクを付与して画像部を形成する画像形成手段と、
前記記録媒体の前記画像部が形成された領域を切断する切断手段と、を含み、
前記カチオン性物質は、ポリマーであり、
前記画像部のマルテンス硬度は、45N/mm以上200N/mm以下であり、
前記ポリマーの含有量は、前記処理液の全量に対して40質量%以上であり、
前記処理液付与手段における前記処理液の付与量は、1000mg/m以上4000mg/m以下である記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録方法、及び記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、微細なノズルから少量のインク液滴を飛翔させて紙などの記録媒体に付着させ、文字や画像を記録する方式であり、家庭用プリンタとして広く普及している。また、近年、インクジェット記録方式は商用印刷としても用途が拡大している。このような商用印刷に用いられる記録媒体としては、例えば、普通紙等の吸水性の高い紙、コート紙等の吸水性の低い紙などが知られている。
【0003】
一方で、大きく特性の異なる記録媒体に対してインクを付与する場合、記録媒体の特性によって画像濃度やビーディング性等の画像特性が変わってしまうことがあり、インクに要求される機能が記録媒体ごとに異なってしまう課題がある。
【0004】
このような課題に対し、カチオン性物質などのインク中の色材を凝集させる凝集剤を含有する処理液を予め記録媒体上に付与し、その後、処理液が付与された領域にインクを吐出することで、記録媒体の特性によらずに好ましい画像濃度やビーディング性等を実現する方法が知られている。
【0005】
特許文献1には、水性インクの着色剤用凝集剤として水溶性カチオンポリマーを使用できることが開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、処理液を付与した記録媒体に対してインクを付与することで形成される画像部は、処理液に含まれるカチオン性物質によって強度が低下する場合があり、これにより、画像部を切断するときに画像部が欠損する場合がある。すなわち、処理液を用いた場合に、優れた画像濃度とビーディング性を維持しつつ、画像部を切断するときに生じる画像部の欠損を抑制することが困難となる課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、記録媒体に対してカチオン性物質を含む処理液を付与する処理液付与工程と、前記記録媒体の前記処理液を付与した領域に対して色材を含むインクを付与して画像部を形成する画像形成工程と、前記記録媒体の前記画像部が形成された領域を切断する切断工程と、を含み、前記カチオン性物質は、ポリマーであり、前記画像部のマルテンス硬度は、45N/mm以上200N/mm以下であり、前記記録媒体のJIS P 8140による60秒コッブ値は、30.0g/m 未満であり、前記処理液付与工程における前記処理液の付与量は、400mg/m 以上2000mg/m 以下である記録方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の記録方法は、処理液を用いた場合において、優れた画像濃度とビーディング性を維持しつつ、画像部を切断するときに生じる画像部の欠損を抑制することができる優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、インクジェット記録装置の一例を示す概略図である。
図2図2は、処理液を付与する構成の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0011】
〔記録方法〕
本実施形態は、記録媒体に対してカチオン性物質を含む処理液を付与する処理液付与工程と、記録媒体の処理液を付与した領域に対して色材を含むインクを付与して画像部を形成する画像形成工程と、インクが付与されることで形成された画像部を切断する切断工程と、を含み、画像部のマルテンス硬度は、45N/mm以上200N/mm以下である記録方法である。
【0012】
本実施形態の記録方法は、インクジェット記録装置などの記録装置を用いて行われる。図1を用いて本実施形態のインクジェット記録装置について説明する。図1は、インクジェット記録装置の一例としての概略図である。インクジェット記録装置300は、記録媒体搬送部301、記録媒体203に処理液を付与する処理液付与工程部302、画像形成工程部304、乾燥工程部306、切断工程部315で構成されている。記録媒体搬送部301は、給紙装置307、複数の搬送ローラ、で構成されている。そして図1の記録媒体はロール状に巻かれた連続紙(ロール紙)の例であり、記録媒体203は搬送ローラによって給紙装置から巻き出され、プラテン上を搬送ベルトにより搬送される。画像形成工程部304では、インクジェットノズルからインクが吐出され、記録媒体203上に画像部が形成され、更に乾燥工程を経て乾燥定着される。切断工程部315では切断部材316によって記録媒体203が切断され、シート状に積層される。本実施形態においてはこの後、断裁機などを用いて、さらに記録媒体を所望のサイズに切断してもよい。なお、本実施形態では、記録媒体203の搬送方向における長さが、給紙装置307から切断部材316までにおける記録媒体203の搬送経路の長さより長い記録媒体を「連続紙」と定義する。
【0013】
<<処理液付与工程>>
処理液付与工程は、記録媒体の表面に処理液を付与する工程である。処理液付与工程で用いられる処理液付与手段としては特に制限はないが、例えば、ブレードコート法、グラビアコート法、グラビアオフセットコート法、バーコート法、ロールコート法、インクジェット法などが挙げられる。図2を用いて本実施形態の処理液付与工程について説明する。図2は、処理液を付与する構成の一例を示す模式図である。ここでは一例としてロールコート法を用いた場合について説明するが、他の方法を用いた処理液付与工程でもよい。
記録媒体203は搬送ローラによって処理液付与装置204内に搬送される。処理液付与装置204には処理液205が貯留されており、処理液205は攪拌・供給ローラ206、移送・薄膜化ローラ207a、207bによって付与ローラ208のローラ面に薄膜状に転写される。そして、付与ローラ208は、回転する対向ローラ201に押し付けられながら回転し、その間を記録媒体203が通過することにより、表面に処理液205が付与される。また、対向ローラ201は、圧力調整装置209によって、処理液を付与するときのニップ圧を調節することが可能であり、これにより処理液205の付与量を変化させることができる。また、付与量は付与ローラ208の回転速度を変えることにより調節することも可能である。
処理液を記録媒体に付与することで、その後、処理液が付与された領域に付与されるインクに含まれる色材の分散を破壊し、色材の凝集を促進することで、色材を記録媒体表面に留めることができる。それにより、高画像濃度化およびドット均一性の向上を行うことができ、ビーディングやカラーブリードの発生を抑制することができる。
なお、記録媒体に対する処理液の付与量は、400mg/m以上4000mg/m以下であることが好ましいが、使用する記録媒体の浸透性等に合わせて調整することが好ましい。
【0014】
<処理液>
次に、処理液付与工程で付与される処理液について説明する。本実施形態における処理液は、カチオン性物質を含み、必要に応じて水、有機溶剤、界面活性剤等の添加剤を含むことができる。
【0015】
-カチオン性物質-
カチオン性物質は、インクに含まれる色材の分散を破壊し、色材の凝集を促進する色材凝集機能を有する。カチオン性物質としては、例えば、ポリマー、有機酸などの酸、多価金属塩等が挙げられる
ポリマーとしては、第四級アンモニウム塩型のカチオン性ポリマーが好ましく、例えばジアルキルアリルアンモニウムコロライド重合物、ジアルキルアミノエチル(メタ)アクリレート4級アンモニウム塩重合物、変性ポリビニルアルコールジアルキルアンモニウム塩重合物、ジアルキルジアリルアンモニウム塩重合物、ポリアミン-エピクロルヒドリン共重合体、カチオン性特殊変性ポリアミン化合物、カチオン性ポリアミドポリアミン化合物、カチオン性尿素-ホルマリン樹脂化合物、カチオン性ポリアクリルアミド化合物、カチオン性アルキルケテンダイマー、カチオン性ジシアンジアミド化合物、カチオン性ジシアンジアミド-ホルマリン縮合化合物、カチオン性ジシアンジアミド-ポリアミン縮合化合物、カチオン性ポリビニルホルムアミド化合物、カチオン性ポリビニルピリジン化合物、カチオン性ポリアルキレンポリアミン化合物、カチオン性エポキシポリアミド化合物等が挙げられる。
酸としては、水溶性脂肪族系の有機酸が好ましく、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、蓚酸、マロン酸、琥珀酸、アジピン酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、グルコン酸、ピルビン酸、フマル酸等が挙げられる。また、これらの有機酸のアミン塩であっても良い。
多価金属塩としては、水溶性2価金属塩や水溶性1価アルカリ金属塩が挙げられる。水溶性2価金属塩としては、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、硫酸マンガン、硫酸ニッケル、硫酸鉄(II)、硫酸銅(II)、硫酸亜鉛、硝酸鉄(II)、硝酸鉄(II)、硝酸コバルト、硝酸ストロンチウム、硝酸銅(II)、硝酸ニッケル(II)、硝酸鉛(II)、硝酸マンガン(II)、塩化ニッケル(II)、塩化カルシウム、塩化スズ(II)、塩化ストロンチウム、塩化バリウム、塩化マグネシウム、乳酸カルシウム、硝酸カルシウム等が挙げられる。水溶性1価アルカリ金属塩としては、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸リチウム、硫酸水素ナトリウム、硫酸水素カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム等が挙げられる。
【0016】
カチオン性物質の含有量は、処理液全量に対して10.0質量%以上70.0質量%以下であることが好ましく、30質量%以上60質量%以下がより好ましい。10.0質量%以上であればインクの着色剤凝集機能が発揮され良好な画像品質を得ることができる。また、70.0質量%以下であれば十分な画像品質を得ることができる。
【0017】
-水-
処理液における水の含有量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、処理液の乾燥性及び吐出信頼性の点から、10質量%以上90質量%以下が好ましく、20質量%以上60質量%以下がより好ましい。
【0018】
-有機溶剤-
本発明に使用する有機溶剤としては特に制限されず、水溶性有機溶剤を用いることができる。例えば、多価アルコール類、多価アルコールアルキルエーテル類や多価アルコールアリールエーテル類などのエーテル類、含窒素複素環化合物、アミド類、アミン類、含硫黄化合物類が挙げられる。
多価アルコール類の具体例としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,2-ペンタンジオール、1,3-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、2,4-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,3-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、1,5-ヘキサンジオール、グリセリン、1,2,6-ヘキサントリオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、エチル-1,2,4-ブタントリオール、1,2,3-ブタントリオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、ペトリオール等が挙げられる。
多価アルコールアルキルエーテル類としては、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等が挙げられる。
多価アルコールアリールエーテル類としては、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル等が挙げられる。
含窒素複素環化合物としては、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、N-ヒドロキシエチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ε-カプロラクタム、γ-ブチロラクトン等が挙げられる。
アミド類としては、ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド等が挙げられる。
アミン類としては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエチルアミン等が挙げられる。
含硫黄化合物類としては、ジメチルスルホキシド、スルホラン、チオジエタノール等が挙げられる。
その他の有機溶剤としては、プロピレンカーボネート、炭酸エチレン等が挙げられる。
湿潤剤として機能するだけでなく、良好な乾燥性を得られることから、沸点が250℃以下の有機溶剤を用いることが好ましい。
【0019】
有機溶剤として、炭素数8以上のポリオール化合物、及びグリコールエーテル化合物も好適に使用される。炭素数8以上のポリオール化合物の具体例としては、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールなどが挙げられる。
グリコールエーテル化合物の具体例としては、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等の多価アルコールアルキルエーテル類;エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル等の多価アルコールアリールエーテル類などが挙げられる。
【0020】
有機溶剤の処理液中における含有量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、処理液の乾燥性の点から、10質量%以上60質量%以下が好ましく、20質量%以上60質量%以下がより好ましい。
【0021】
-添加剤-
処理液には、必要に応じて、界面活性剤、消泡剤、防腐防黴剤、防錆剤、pH調整剤等を加えても良い。
【0022】
<<画像形成工程>>
画像形成工程は、記録媒体の処理液を付与した領域に対し、色材を含むインクを付与して画像部を形成する工程である。画像形成工程で用いられる画像形成手段としては特に制限はないが、例えば、ブレードコート法、グラビアコート法、グラビアオフセットコート法、バーコート法、ロールコート法、インクジェット法などを用いた手段が挙げられる。図1を用いて本実施形態の画像形成工程について説明する。ここでは一例としてインクジェット法を用いた場合について説明するが、他の方法を用いた画像形成工程でもよい。
処理液付与工程後の記録媒体203には、画像形成工程で画像データに応じた画像が形成される。画像形成工程部304は、フルライン型のヘッドであり、記録媒体搬送方向上流側から順に、ブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)のインクを吐出可能な4つの記録ヘッド304K、304C、304M、304Yが配設されている。この画像形成工程部304は、記録媒体の処理液が付与された領域に対し各記録ヘッドから各インクを吐出する。
【0023】
<インク>
次に、画像形成工程で付与されるインクについて説明する。本実施形態におけるインクは、色材を含み、必要に応じて水、有機溶剤、樹脂、界面活性剤等の添加剤を含むことができる。なお、水、有機溶剤、界面活性剤等の添加剤については処理液と同様なので、その説明を省略する。
【0024】
-色材-
色材としては特に限定されず、顔料、染料を使用可能である。
顔料としては、無機顔料又は有機顔料を使用することができる。これらは、1種単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。また、顔料として、混晶を使用しても良い。
顔料としては、例えば、ブラック顔料、イエロー顔料、マゼンダ顔料、シアン顔料、白色顔料、緑色顔料、橙色顔料、金色や銀色などの光沢色顔料やメタリック顔料などを用いることができる。
無機顔料として、酸化チタン、酸化鉄、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、バリウムイエロー、カドミウムレッド、クロムイエローに加え、コンタクト法、ファーネス法、サーマル法などの公知の方法によって製造されたカーボンブラックを使用することができる。
また、有機顔料としては、アゾ顔料、多環式顔料(例えば、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、インジゴ顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料など)、染料キレート(例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレートなど)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラックなどを使用できる。これらの顔料のうち、溶媒と親和性の良いものが好ましく用いられる。その他、樹脂中空粒子、無機中空粒子の使用も可能である。
顔料の具体例として、黒色用としては、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)類、または銅、鉄(C.I.ピグメントブラック11)、酸化チタン等の金属類、アニリンブラック(C.I.ピグメントブラック1)等の有機顔料があげられる。
さらに、カラー用としては、C.I.ピグメントイエロー1、3、12、13、14、17、24、34、35、37、42(黄色酸化鉄)、53、55、74、81、83、95、97、98、100、101、104、108、109、110、117、120、138、150、153、155、180、185、213、C.I.ピグメントオレンジ5、13、16、17、36、43、51、C.I.ピグメントレッド1、2、3、5、17、22、23、31、38、48:2、48:2(パーマネントレッド2B(Ca))、48:3、48:4、49:1、52:2、53:1、57:1(ブリリアントカーミン6B)、60:1、63:1、63:2、64:1、81、83、88、101(べんがら)、104、105、106、108(カドミウムレッド)、112、114、122(キナクリドンマゼンタ)、123、146、149、166、168、170、172、177、178、179、184、185、190、193、202、207、208、209、213、219、224、254、264、C.I.ピグメントバイオレット1(ローダミンレーキ)、3、5:1、16、19、23、38、C.I.ピグメントブルー1、2、15(フタロシアニンブルー)、15:1、15:2、15:3、15:4(フタロシアニンブルー)、16、17:1、56、60、63、C.I.ピグメントグリーン1、4、7、8、10、17、18、36、等がある。
染料としては、特に限定されることなく、酸性染料、直接染料、反応性染料、及び塩基性染料が使用可能であり、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
染料として、例えば、C.I.アシッドイエロー 17,23,42,44,79,142、C.I.アシッドレッド 52,80,82,249,254,289、C.I.アシッドブルー 9,45,249、C.I.アシッドブラック 1,2,24,94、C.I.フードブラック 1,2、C.I.ダイレクトイエロー 1,12,24,33,50,55,58,86,132,142,144,173、C.I.ダイレクトレッド 1,4,9,80,81,225,227、C.I.ダイレクトブルー 1,2,15,71,86,87,98,165,199,202、C.I.ダイレクドブラック 19,38,51,71,154,168,171,195、C.I.リアクティブレッド 14,32,55,79,249、C.I.リアクティブブラック 3,4,35が挙げられる。
【0025】
インク中の色材の含有量は、画像濃度の向上、良好な定着性や吐出安定性の点から、0.1質量%以上15質量%以下が好ましく、より好ましくは1質量%以上10質量%以下である。
【0026】
顔料を分散してインクを得る方法としては、顔料に親水性官能基を導入して自己分散性顔料とする方法、顔料の表面を樹脂で被覆して分散させる方法、分散剤を用いて分散させる方法、などが挙げられる。
顔料に親水性官能基を導入して自己分散性顔料とする方法としては、例えば、顔料(例えばカーボン)にスルホン基やカルボキシル基等の官能基を付加することで、水中に分散可能とする方法が挙げられる。
顔料の表面を樹脂で被覆して分散させる方法としては、顔料をマイクロカプセルに包含させ、水中に分散可能とする方法が挙げられる。これは、樹脂被覆顔料と言い換えることができる。この場合、インクに配合される顔料はすべて樹脂に被覆されている必要はなく、本発明の効果が損なわれない範囲において、被覆されない顔料や、部分的に被覆された顔料がインク中に分散していてもよい。
分散剤を用いて分散させる方法としては、界面活性剤に代表される、公知の低分子型の分散剤、高分子型の分散剤を用いて分散する方法が挙げられる。
分散剤としては、顔料に応じて例えば、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン界面活性剤等を使用することが可能である。
分散剤として、竹本油脂社製RT-100(ノニオン系界面活性剤)や、ナフタレンスルホン酸Naホルマリン縮合物も、分散剤として好適に使用できる。
分散剤は1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0027】
-顔料分散体-
顔料に、水や有機溶剤などの材料を混合してインクを得ることが可能である。また、顔料と、その他水や分散剤などを混合して顔料分散体としたものに、水や有機溶剤などの材料を混合してインクを製造することも可能である。
顔料分散体は、水、顔料、顔料分散剤、必要に応じてその他の成分を混合、分散し、粒径を調整して得られる。分散は分散機を用いると良い。
顔料分散体における顔料の粒径については特に制限はないが、顔料の分散安定性が良好となり、吐出安定性、画像濃度などの画像品質も高くなる点から、最大個数換算で最大頻度が20nm以上500nm以下が好ましく、20nm以上150nm以下がより好ましい。顔料の粒径は、粒度分析装置(ナノトラック Wave-UT151、マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いて測定することができる。
顔料分散体における顔料の含有量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、良好な吐出安定性が得られ、また、画像濃度を高める点から、0.1質量%以上50質量%以下が好ましく、0.1質量%以上30質量%以下がより好ましい。
顔料分散体に対し、必要に応じて、フィルター、遠心分離装置などで粗大粒子をろ過し、脱気することが好ましい。
【0028】
-樹脂-
インク中に含有する樹脂の種類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、スチレン系樹脂、ブタジエン系樹脂、スチレン-ブタジエン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、アクリルスチレン系樹脂、アクリルシリコーン系樹脂などが挙げられる。
これらの樹脂からなる樹脂粒子を用いても良い。樹脂粒子を、水を分散媒として分散した樹脂エマルションの状態で、色材や有機溶剤などの材料と混合してインクを得ることが可能である。樹脂粒子としては、適宜合成したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。また、これらは、1種を単独で用いても、2種類以上の樹脂粒子を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
樹脂粒子の体積平均粒径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、良好な定着性、高い画像硬度を得る点から、10nm以上1,000nm以下が好ましく、10nm以上200nm以下がより好ましく、10nm以上100nm以下が特に好ましい。
体積平均粒径は、例えば、粒度分析装置(ナノトラック Wave-UT151、マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いて測定することができる。
【0030】
インク中の固形分の粒径については、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。吐出安定性、画像濃度などの画像品質を高くする点から、インク中の固形分の粒径の最大頻度が最大個数換算で20nm以上1000nm以下が好ましく、20nm以上150nm以下がより好ましい。固形分は樹脂粒子や顔料の粒子等が含まれる。粒径は、粒度分析装置(ナノトラック Wave-UT151、マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いて測定することができる。
【0031】
<<乾燥工程>>
乾燥工程は、記録媒体の表面に付与された処理液及びインクを乾燥させる工程である。乾燥工程で用いられる乾燥手段としては特に制限はないが、例えば、温風を吹き付ける手段、ヒートローラーに接触させる手段、赤外線を照射する手段などが挙げられる。図1を用いて本実施形態の乾燥工程について説明する。ここでは一例としてヒートローラーに接触させる方法を用いる場合について説明するが、他の方法を用いた乾燥工程でもよい。
画像形成工程後の記録媒体203は、搬送ローラによりヒートローラー313、314に搬送される。ヒートローラー313、314は高温に熱せられており、記録媒体203は、ヒートローラー313、314からの接触伝熱により、水分等が蒸発し乾燥する。加熱による乾燥温度は80℃以上が好ましく、特に好ましくは100~150℃である。100℃以上であると効率的に記録媒体上の水分や湿潤剤を蒸発させることができる。しかし、150℃を超えると、記録媒体の種類によっては黄変が発生しやすく、損紙が増大する場合があるので好ましくない。
【0032】
<<切断工程>>
切断工程は、記録媒体の表面に付与された処理液及びインクが乾燥した後において、記録媒体のインクが付与されて形成された画像部を切断する工程である。切断工程に用いられる切断手段としては特に制限はないが、断裁機、穴あけパンチ、カッターなどが挙げられる。ここでは一例として断裁機を用いた場合について説明するが、他の方法を用いた切断工程でもよい。
乾燥工程後の記録媒体203は、搬送ローラにより切断工程部315に搬送される。切断工程部には、切断手段として切断部材が設けられており、所定のタイミングで、記録媒体を切断する。なお、切断工程は、記録装置に組み込まれた切断手段を用いて記録媒体の画像部が形成された領域を切断する工程、及び断裁機等の記録装置に組み込まれていない外部装置に設けられた切断部材を用いて記録媒体の画像部が形成された領域を切断する工程のいずれであってもよい。また、切断部材は、積層されていない1層の記録媒体を切断する手段、積層された複数の記録媒体をまとめて切断する手段のいずれであってもよい。切断部材として、積層された複数の記録媒体をまとめて切断する手段を用いる場合、記録媒体を切断するとき、記録媒体を固定するために記録媒体に対して負荷される重さは、記録媒体の積層高さなどにも依存するが、50kg以上4000kg以下に設定することが好ましい。多量の記録媒体を扱う商用印刷分野においては、切断時に記録媒体に負荷される重さを大きくする必要がある。そして、このように付加される重さが大きい場合において、フチなし用途向けなど、画像部を切断する必要があるとき、切断時に画像部が欠損するといった不具合が発生することがある。しかし、本実施形態のマルテンス硬度とすることで、このような不具合を解消することができる。なお、切断工程部としては、市販されている切断装置を適宜使用することができ、例えば、柳田機械製作所製YNK700NC、YNK770NC、YNK860NC、YNK1010NC、YNK1160NC、YNK1320NCなどが挙げられる。
【0033】
<マルテンス硬度>
切断工程で切断される記録媒体の画像部におけるマルテンス硬度は、45N/mm以上であり、60N/mm以上であることが好ましい。また、マルテンス硬度は、200N/mm以下である。マルテンス硬度が45N/mm以上200N/mm以下であることで、画像部の強度が向上し、切断工程において切断手段が画像部に直接接触して大きな力が付与される場合であっても、画像部の欠損が抑制される。
ここでマルテンス硬度とは、押し込み深さ試験において得られる材料の硬さを表す指標である。この試験では、材料にビッカース圧子を押し込み、その際の負荷試験力と押し込み深さを連続的に測定し、「押し込み深さ-試験力」の関係を得る。そして、この曲線の最大負荷試験力の50%値と90%値までの押し込み深さが、負荷試験力の平方根に比例する傾きからマルテンス硬度が求められる。この試験に用いる測定対象としては、記録媒体上に処理液を付与し、その後、付与された処理液上にインクをベタ画像として印刷し、乾燥して得られた記録物を、室温環境下(温度:約23℃/湿度:約55%)で24時間以上静置したものを用いる。この記録物のベタ画像部分にフィシャー・インストルメンツ社製、微小硬度計HM-2000を用いて、ビッカース圧子を1.0[mN]の力で10秒かけて押し込み、5秒間保持し、10秒間かけて圧子を引き抜くと、インクのマルテンス硬度を測定することができる。
【0034】
次に、マルテンス硬度を上記範囲に調整するための手法について説明する。マルテンス硬度は、記録媒体表面付近の硬度特性であり、処理液に含まれるカチオン性物質として有機酸または多価金属塩を選択することで硬度の低下を抑制することができる。一方、マルテンス硬度は、処理液に含まれるカチオン性物質としてポリマーを選択することで低下する。処理液のカチオン性物質として用いられるポリマーは低分子であるものが多く、ポリマーが記録媒体表面に多く留まることでマルテンス硬度が低下するためである。
このようにカチオン性物質としてポリマーを用いる場合、処理液の塗布量を制限することでマルテンス硬度の低下を抑制することができるが、処理液の塗布量を過度に減らすと処理液を用いることによる効果(例えば、画像濃度向上、ビーディング性向上)が得にくくなる場合がある。また、カチオン性物質としてポリマーを用いる場合、そのカチオン性物質を含有する処理液の記録媒体に対する浸透性もマルテンス硬度と関係する。例えば、処理液の浸透性が低い記録媒体では、処理液に含まれるポリマーが記録媒体の表面付近に多く存在するため、マルテンス硬度が低下するが、処理液を用いることによる効果(例えば、画像濃度向上、ビーディング性向上)は得やすくなる。一方で、処理液の浸透性が高い記録媒体では、処理液に含まれるポリマーが記録媒体の内部まで浸透することで表面付近に残留する量が多くならないため、マルテンス硬度が過度には低下しないが、処理液を用いることによる効果(例えば、画像濃度向上、ビーディング性向上)は得にくくなる。
【0035】
すなわち、カチオン性物質としてポリマーを用いる場合、記録媒体の浸透性及び処理液の付与量を調整することによって、画像部のマルテンス硬度、画像濃度、ビーディング性を制御することができる。ここで、記録媒体の浸透性の調整は、浸透性が低い記録媒体と浸透性が高い記録媒体の選択によって行う。浸透性が低い記録媒体とは、JIS P 8140による60秒コッブ値が30.0g/m未満であるものを示す。また、浸透性が高い記録媒体とは、JIS P 8140による60秒コッブ値が30.0g/m以上であるものを示す。なお、JIS P 8140は、ISO規格535:1991(E)に対応する。また、本実施形態の60秒コッブ値の測定値としては、吸水が45秒、水の拭き取りが15秒であって、水の接触時間の合計が60秒となる場合の値を採用した。そして、このような場合にマルテンス硬度を45N/mm以上200N/mm以下とするためには、記録媒体の浸透性及び処理液の付与量を次のように調整することが好ましい。例えば、記録媒体のJIS P 8140による60秒コッブ値が30.0g/m未満である場合、処理液付与工程における処理液の付与量は、400mg/m以上2000mg/m以下であることが好ましく、500mg/m以上1000mg/m以下であることがより好ましい。また、記録媒体のJIS P 8140による60秒コッブ値が30.0g/m以上である場合、処理液付与工程における処理液の付与量は、1000mg/m以上4000mg/m以下であることが好ましく、2000mg/m以上3000mg/m以下であることがより好ましい。このように、記録媒体の浸透性に合わせて処理液の付与量を調整することで、記録媒体表面に存在するポリマー量が過剰にならず、画像部のマルテンス硬度を切断工程に耐えられる範囲で保持できるとともに、処理液を用いることによる効果(例えば、画像濃度向上、ビーディング性向上)も得ることができる。
【0036】
一方で、カチオン性物質としてポリマーを用いる場合、処理液中のポリマーの含有量及び処理液の付与量を調整することによって、画像部のマルテンス硬度、画像濃度、ビーディング性を制御することができる。そして、このような場合にマルテンス硬度を45N/mm以上200N/mm以下とするためには、処理液中のポリマーの含有量及び処理液の付与量を次のように調整することが好ましい。例えば、ポリマーの含有量が処理液の全量に対して40質量%未満である場合、処理液付与工程における処理液の付与量は、400mg/m以上2000mg/m以下であることが好ましい。また、ポリマーの含有量が処理液の全量に対して40質量%以上である場合、処理液付与工程における処理液の付与量は、1000mg/m以上4000mg/m以下であることが好ましい。このように、処理液中のポリマーの含有量に合わせて処理液の付与量を調整することで、記録媒体表面に存在するポリマー量が過剰にならず、画像部のマルテンス硬度を切断工程に耐えられる範囲で保持できるとともに、処理液を用いることによる効果(例えば、画像濃度向上、ビーディング性向上)も得ることができる。
【0037】
また、記録媒体のJIS P 8140による60秒コッブ値が30.0g/m未満である場合であって、且つポリマーの含有量が処理液の全量に対して40質量%未満である場合、処理液付与工程における処理液の付与量は、400mg/m以上2000mg/m以下であることが好ましい。
また、記録媒体のJIS P 8140による60秒コッブ値が30.0g/m以上である場合であって、且つポリマーの含有量が処理液の全量に対して40質量%以上である場合、処理液付与工程における処理液の付与量は、1000mg/m以上4000mg/m以下であることが好ましい。
また、記録媒体のJIS P 8140による60秒コッブ値が30.0g/m未満である場合であって、且つポリマーの含有量が処理液の全量に対して40質量%以上である場合、処理液付与工程における処理液の付与量は、1000mg/m以上2000mg/m以下であることが好ましい。
また、また、記録媒体のJIS P 8140による60秒コッブ値が30.0g/m以上である場合であって、且つポリマーの含有量が処理液の全量に対して40質量%未満である場合、処理液付与工程における処理液の付与量は、1000mg/m以上2000mg/m以下であることが好ましい。
【0038】
なお、上記以外のマルテンス硬度を調整する方法としては、インク中の樹脂の種類、含有量を調整する方法が挙げられる。インク中に含有される樹脂として、画像部の強度を向上させるものが知られており、これらの種類、含有量を変えることでマルテンス硬度を調整できる。一方で、これらの樹脂の種類、含有量によっては、インクを吐出するノズルの詰まりが発生しやすくなる場合があり、上記のように処理液でマルテンス硬度を調整することが好ましい。
【0039】
〔記録媒体〕
記録媒体としては、特に制限なく用いることができ、普通紙、光沢紙、特殊紙、布などを用いることもできるが、上記の通り記録媒体に対する処理液の付与量を調整することで低浸透性基材(低吸収性基材)に対しても好適に用いることができる。
低浸透性基材とは、水透過性、吸収性、又は吸着性が低い表面を有する基材を意味し、内部に多数の空洞があっても外部に開口していない材質も含まれる。低浸透性基材としては、商業印刷に用いられるコート紙や、古紙パルプを中層、裏層に配合して表面にコーティングを施した板紙のような記録媒体等が挙げられる。
【0040】
<<低浸透性基材>>
低浸透性基材としては、例えば、支持体と、支持体の少なくとも一方の面側に設けられた表面層と、を有し、更に必要に応じてその他の層を有するコート紙などの記録媒体が挙げられる。
【0041】
支持体と表面層を有する記録媒体においては、動的走査吸液計で測定した接触時間100msにおける純水の記録媒体への転移量は、2mL/m以上35mL/m以下が好ましく、2mL/m以上10mL/m以下がより好ましい。
【0042】
接触時間100msでのインク及び純水の転移量が少なすぎると、ビーディングが発生しやすくなることがあり、多すぎると、画像形成後のインクドット径が所望の径よりも小さくなりすぎることがある。
【0043】
動的走査吸液計にて測定した接触時間400msにおける純水の記録媒体への転移量は、3mL/m以上40mL/m以下が好ましく、3mL/m以上10mL/m以下がより好ましい。
【0044】
接触時間400msでの転移量が少ないと、乾燥性が不十分となり、多すぎると、乾燥後の画像部の光沢が低くなりやすくなることがある。接触時間100ms及び400msにおける純水の記録媒体への転移量は、いずれも記録媒体の表面層を有する側の面において測定することができる。
【0045】
ここで、動的走査吸収液計(dynamic scanning absorptometer;DSA,紙パ技協誌、第48巻、1994年5月、第88頁~92頁、空閑重則)は、極めて短時間における吸液量を正確に測定できる装置である。動的走査吸液計は、吸液の速度をキャピラリー中のメニスカスの移動から直読する、試料を円盤状とし、この上で吸液ヘッドをらせん状に走査する、予め設定したパターンに従って走査速度を自動的に変化させ、1枚の試料で必要な点の数だけ測定を行う、という方法によって測定を自動化したものである。
【0046】
紙試料への液体供給ヘッドはテフロン(登録商標)管を介してキャピラリーに接続され、キャピラリー中のメニスカスの位置は光学センサで自動的に読み取られる。具体的には、動的走査吸液計(K350シリーズD型、協和精工株式会社製)を用いて、純水又はインクの転移量を測定することができる。
【0047】
接触時間100ms及び接触時間400msにおける転移量としては、それぞれの接触時間の近隣の接触時間における転移量の測定値から補間により求めることができる。
【0048】
-支持体-
支持体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、木材繊維主体の紙、木材繊維及び合成繊維を主体とした不織布のようなシート状物質などが挙げられる。
支持体の厚みは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、50μm~300μmが好ましい。また、支持体の坪量は、45g/m~290g/mが好ましい。
【0049】
-表面層-
表面層は、顔料、バインダー(結着剤)を含有し、更に必要に応じて、界面活性剤、その他の成分を含有する。
顔料としては、無機顔料、もしくは無機顔料と有機顔料を併用したものを用いることができる。無機顔料としては、例えば、カオリン、タルク、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、亜硫酸カルシウム、非晶質シリカ、チタンホワイト、炭酸マグネシウム、二酸化チタン、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、クロライトなどが挙げられる。無機顔料の添加量は、バインダー100質量部に対し50質量部以上が好ましい。
有機顔料としては、例えば、スチレン-アクリル共重合体粒子、スチレン-ブタジエン共重合体粒子、ポリスチレン粒子、ポリエチレン粒子等の水溶性ディスパージョンがある。有機顔料の添加量は、表面層の全顔料100質量部に対し2質量部~20質量部が好ましい。
バインダーとしては、水性樹脂を使用することが好ましい。水性樹脂としては、水溶性樹脂及び水分散性樹脂の少なくともいずれかを好適に用いることができる。水溶性樹脂としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリビニルアルコール、カチオン変性ポリビニルアルコール、アセタール変性ポリビニルアルコール、ポリエステル、ポリウレタン、ポリエステルとポリウレタンなどが挙げられる。
表面層に必要に応じて含有される界面活性剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、アニオン活性剤、カチオン活性剤、両性活性剤、非イオン活性剤のいずれも使用することができる。
表面層の形成方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、支持体上に表面層を構成する液を含浸又は塗布する方法により行うことができる。表面層を構成する液の付着量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、固形分で、0.5g/m~20g/mが好ましく、1g/m~15g/mがより好ましい。
【実施例
【0050】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0051】
<処理液の作製例>
-処理液1の作製例-
以下の処方混合物を十分に攪拌した後、0.8μmポリプロピレンフィルターにて濾過し処理液1を作製した。
・ハイマックスSC-506(ハイモ株式会社製、カチオンポリマー):50.0質量部
・1,3-ブタンジオール:15.0質量部
・オクタンジオール:4.0質量部
・Capstone-FS34(ケマーズ株式会社製、界面活性剤):1.0質量部
・高純水:30.0質量部
【0052】
-処理液2の作製例-
以下の処方混合物を十分に攪拌した後、0.8μmポリプロピレンフィルターにて濾過し処理液1を作製した。
・硫酸マグネシウム(東京化成工業製、無機塩):20.0質量部
・グリセリン:19.0質量部
・Capstone-FS34(ケマーズ株式会社製、界面活性剤):1質量部
・高純水:60.0質量部
【0053】
-処理液3の作製例-
以下の処方混合物を十分に攪拌した後、0.8μmポリプロピレンフィルターにて濾過し処理液1を作製した。
・ハイマックスSC-506(ハイモ株式会社製、カチオンポリマー):25.0質量部
・1,3-ブタンジオール:15.0質量部
・オクタンジオール:4.0質量部
・Capstone-FS34(ケマーズ株式会社製、界面活性剤):1.0質量部
・高純水:55.0質量部
【0054】
<顔料分散体の作製例>
Solsperse37500(LUBRIZOL社製、分散剤)4.0質量部を、高純水80.0質量部に溶解した。得られた共重合体水溶液84.0質量部に対し、16.0質量部のカーボンブラック(NIPEX150、デグサ社製)を加えて12時間攪拌した。得られた混合物をディスクタイプのビーズミル(シンマルエンタープライゼス社製、KDL型、メディア:直径0.1mmのジルコニアボール使用)を用いて、周速10m/sで1時間循環分散した後、孔径1.2μmのメンブレンフィルターでろ過し、顔料分散体を得た。
【0055】
<インクの作製例>
-インク1の作製例-
以下の処方混合物を十分に攪拌した後、1.2μmポリプロピレンフィルターにて濾過しインク1を作製した。
・顔料分散体:15.0質量%
・グリセリン:5.0質量%
・1,3プロパンジオール:10.0質量%
・1,2ヘキサンジオール:4.0質量%
・WBR-016U(大成ファインケミカル株式会社製、ウレタンエマルジョン、不揮発分30質量%):10.0質量%
・ユニダインDSN-403N(ダイキン工業製、界面活性剤):1.0質量%
・高純水:55.0質量%
【0056】
-インク2~5の作製例-
インク1の作製例において、処方を下記表1に示すように変更してインク2~5を作製した。なお、表1における各数字の単位は「質量%」である。
【0057】
【表1】
【0058】
なお、表1において、成分の商品名、及び製造会社名については下記の通りである。
・ペスレジンA-645GH(高松油脂社製、ポリエステル樹脂、不揮発分30重量%)
・ジョンクリル611(BASF社製、アクリル樹脂、不揮発分99重量%)
【0059】
(実施例1)
バーコートを用いて処理液1の付与量が2000mg/mとなるように調整し、処理液1を記録媒体であるOKトップコート+(王子製紙製コート紙、60秒コッブ値:26.1g/m)に対して付与した。次に、90℃のオーブンを用いて60秒間乾燥を行い、処理液を付与した記録媒体を作製した。この処理液を付与した記録媒体に対し、インク1を搭載したインクジェットプリンタ(リコー製、IPSiO GX-e5500)を用いてベタ画像部を有する日本画像学会テストチャートNo.7を印刷した。印字モードは、プリンタ添付のドライバにおける普通紙のユーザー設定より「普通紙-標準はやい」モードを「色補正なし」に改変したモードを使用した。更に、印刷した記録媒体を室温環境下(温度:23℃/湿度:55%)で24時間静置した後、柳田機械製作所製断裁機(YNK700NC、記録媒体に付加される重さ:2500kg)を用いてベタ画像部の切断を行った。
【0060】
次に、実施例1で作製した印刷後に切断した記録媒体の特性などを、下記の方法及び評価基準に従って評価した。結果を表2に示す。
【0061】
[マルテンス硬度]
ベタ画像部にフィシャー・インストルメンツ社製、微小硬度計HM-2000を用いて、ビッカース圧子を1.0[mN]の力で10秒かけて押し込み、5秒間保持し、10秒間かけて圧子を引き抜くことでマルテンス硬度を測定した。繰り返しの測定回数は10回とし、測定場所を変えながら測定を行い、得られた特性値の平均値をマルテンス硬度とした。
【0062】
[画像濃度]
ベタ画像部についてX-Rite938(エックスライト社製)により測色し、下記の基準で評価した。評価がB以上であるときを実用可能な場合であると判断した。
-評価基準-
A:2.20以上
B:2.00以上2.20未満
C:2.00未満
【0063】
[ビーディング]
ベタ画像部について濃度ムラの程度を目視で評価し、下記の基準で評価した。評価がB以上であるときを実用可能な場合であると判断した。
-評価基準-
A:濃度ムラなし
B:わずかに濃度ムラあり
C:大きな濃度ムラあり
【0064】
[切断試験]
ベタ画像部を切断した部分を目視で観察し、下記の基準で評価した。評価がB以上であるときを実用可能な場合であると判断した。
-評価基準-
A:画像に欠損なし
B:端部にわずかな欠損あり
C:大きな欠損あり
【0065】
[定着性]
ベタ画像部の表面を、クロックメーター(アトラス社製)にセットされた綿布にて15往復し、綿布に転写されたインクの画像濃度をX-Rite938(エックスライト社製)にて測定し、下記の基準で評価した。評価がB以上であるときを好ましい場合であると判断した。なお、数値が小さいほど定着性は良好である。
-評価基準-
A:0.05未満
B:0.05以上0.1未満
C:0.1以上
【0066】
[吐出安定性]
インク1を搭載したインクジェットプリンタ(リコー製、IPSiO GX-e5500)を用いて、印字面積が5%の印刷チャートを1000枚印刷した。1000枚印刷直後及び印刷終了から24時間後にベタ画像、ハーフトーン画像、ノズルチェックパターンを産業用インクジェット用紙(三菱製紙社製、SWORD iJET 4.3 グロス)に5枚ずつ印刷し、画像の均一性やノズル抜けの有無を目視で観察し、吐出の乱れやノズル詰まりについて下記の基準で評価した。評価がB以上であるときを好ましい場合であると判断した。
-評価基準-
A:吐出の乱れがなく、ノズル詰まりもない
B:吐出が若干乱れるが、ノズル詰まりはない
C:吐出が大きく乱れ、ノズルも詰まる
【0067】
次に、実施例1において、使用したインク及び処理液を下記表2に示すように変更し、また、処理液の付与量を下記表2に示すように変更して実施例2~11、比較例1~2の記録方法を実施した。
その後、実施例2~11、比較例1~2で作製した印刷後に切断した記録媒体の特性などを、実施例1と同様の方法及び評価基準に従って評価した。結果を表2に示す。
なお、表2に示す紙種1、紙種2については下記の通りである。
・紙種1:OKトップコート+(王子製紙製コート紙、60秒コッブ吸水度:26.1g/m
・紙種2:LumiArt Gloss 90GSM(STORA ENSO製コート紙、60秒コッブ吸水度:55.6g/m
【0068】
【表2】
【符号の説明】
【0069】
201 対向ローラ
203 記録媒体
204 処理液付与装置
205 処理液
206 攪拌・供給ローラ
207a、207b 移送・薄膜化ローラ
208 付与ローラ
209 圧力調整装置
300 インクジェット記録装置
301 記録媒体搬送部
302 処理液付与工程部
304 画像形成工程部
306 乾燥工程部
307 給紙装置
308 切断工程部
313、314 ヒートローラー
315 巻取装置
316 切断部材
【先行技術文献】
【特許文献】
【0070】
【文献】特開2016-204524号公報
図1
図2