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特許7115320電子写真感光体、電子写真感光体カートリッジ、及び画像形成装置
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  • 特許-電子写真感光体、電子写真感光体カートリッジ、及び画像形成装置 図1
  • 特許-電子写真感光体、電子写真感光体カートリッジ、及び画像形成装置 図2
  • 特許-電子写真感光体、電子写真感光体カートリッジ、及び画像形成装置 図3
  • 特許-電子写真感光体、電子写真感光体カートリッジ、及び画像形成装置 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-01
(45)【発行日】2022-08-09
(54)【発明の名称】電子写真感光体、電子写真感光体カートリッジ、及び画像形成装置
(51)【国際特許分類】
   G03G 5/06 20060101AFI20220802BHJP
   G03G 5/05 20060101ALI20220802BHJP
   G03G 5/047 20060101ALI20220802BHJP
【FI】
G03G5/06 312
G03G5/06 313
G03G5/05 104B
G03G5/047
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018564635
(86)(22)【出願日】2018-01-25
(86)【国際出願番号】 JP2018002355
(87)【国際公開番号】W WO2018139555
(87)【国際公開日】2018-08-02
【審査請求日】2021-01-15
(31)【優先権主張番号】P 2017012881
(32)【優先日】2017-01-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017056370
(32)【優先日】2017-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】和田 光央
(72)【発明者】
【氏名】宮下 渉
(72)【発明者】
【氏名】長田 卓博
(72)【発明者】
【氏名】安藤 明
(72)【発明者】
【氏名】渕上 宏恵
【審査官】川村 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-018036(JP,A)
【文献】特開2004-117849(JP,A)
【文献】特開2005-308925(JP,A)
【文献】特開2014-209224(JP,A)
【文献】特開平06-230590(JP,A)
【文献】特開2015-052734(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0151999(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 5/00-5/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性支持体と、前記導電性支持体上に電荷発生層及び電荷輸送層とを備えた積層型電子写真感光体であって、
前記電荷輸送層が密度汎関数計算B3LYP/6-31G(d,p)による構造最適化計算に基づくHOMOのエネルギーレベル(E_homo)が-4.550eV以上である化合物とフッ素樹脂粒子とを含有し、
前記フッ素樹脂粒子の含有量が前記電荷輸送層の総質量に対し、3重量%以上20重量%以下であり、
前記E_homoが-4.550eV以上である化合物が、下記式(1)で示される化合物および下記式(2)で示される化合物から選ばれる少なくとも1種を含む電子写真感光体。
【化1】
(上記式(1)において、Ar ~Ar はそれぞれ独立して置換基を有していてもよいアリール基を表し、Ar ~Ar はそれぞれ独立して置換基を有していてもよい1,4-フェニレン基を表す。m及びnはそれぞれ独立して1以上3以下の整数を表す。)
【化2】
(上記式(2)において、R 、R 、R 及びR はそれぞれ独立して、アルキル基、アルコキシ基、アリール基又はアラルキル基を示す。m、n、p及びqはそれぞれ独立して0~3の整数を示す。但し、R 及びR が同一の基であるとき、m及びnは異なる整数を示す。また、R 及びR が同一の基であるとき、p及びqは異なる整数を示す。R 及びR はそれぞれ独立して、水素原子又はアルキル基を示す。また、R 、R 、R 及びR がそれぞれ複数存在する場合、複数存在する基はそれぞれ同一でも異なっていてもよく、また複数存在する基同士が結合して環を形成していてもよい。)
【請求項2】
電子写真感光体表面の粗さ(Rz)が0.1μm以上0.4μm以下である請求項1に記載の電子写真感光体。
【請求項3】
前記フッ素樹脂粒子の平均一次粒径が0.05μm以上1μm以下である請求項1又は2に記載の電子写真感光体。
【請求項4】
導電性支持体と、前記導電性支持体上に電荷発生層及び電荷輸送層とを備えた積層型電子写真感光体であって、
前記電荷輸送層が下記式(1)で示される化合物とフッ素樹脂粒子とを含有し、
前記フッ素樹脂粒子の含有量が前記電荷輸送層の総質量に対し、3重量%以上20重量%以下である電子写真感光体。
【化3】
(上記式(1)において、Ar~Arはそれぞれ独立して置換基を有していてもよいアリール基を表し、Ar~Arはそれぞれ独立して置換基を有していてもよい1,4-フェニレン基を表す。m及びnはそれぞれ独立して1以上3以下の整数を表す。)
【請求項5】
導電性支持体と、前記導電性支持体上に電荷発生層及び電荷輸送層とを備えた積層型電子写真感光体であって、
前記電荷輸送層が下記式(2)で示される化合物とフッ素樹脂粒子とを含有し、
前記フッ素樹脂粒子の含有量が電荷輸送層の総質量に対し、3重量%以上20重量%以下である電子写真感光体。
【化4】
(上記式(2)において、R、R、R及びRはそれぞれ独立して、アルキル基、アルコキシ基、アリール基又はアラルキル基を示す。m、n、p及びqはそれぞれ独立して0~3の整数を示す。但し、R及びRが同一の基であるとき、m及びnは異なる整数を示す。また、R及びRが同一の基であるとき、p及びqは異なる整数を示す。R及びRはそれぞれ独立に、水素原子又はアルキル基を示す。また、R、R、R及びRがそれぞれ複数存在する場合、複数存在する基はそれぞれ同一でも異なっていてもよく、また複数存在する基同士が結合して環を形成していてもよい。)
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の電子写真感光体、並びに、前記電子写真感光体を帯電させる帯電装置、帯電した前記電子写真感光体を露光させて静電潜像を形成する露光装置、及び、前記電子写真感光体上に形成された静電潜像を現像する現像装置よりなる群から選ばれる少なくとも1の装置を備えた電子写真感光体カートリッジ。
【請求項7】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の電子写真感光体、前記電子写真感光体を帯電させる帯電装置、帯電した前記電子写真感光体を露光させて静電潜像を形成する露光装置、及び、前記電子写真感光体上に形成された前記静電潜像を現像する現像装置を備えた画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複写機やプリンター等に用いられる電子写真感光体、電子写真感光体カートリッジ及び画像形成装置に関するものであり、画像形成装置においても高温高湿環境下において、繰り返し使用した場合においても残留電位の上昇等の劣化が少なく耐久性の高い電子写真感光体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子写真感光体には有機感光体(以下、単に感光体とも云う)が広く用いられている。有機感光体は可視光から赤外光まで各種露光光源に対応した材料が開発しやすいこと、環境汚染のない材料を選択できること、製造コストが安いことなど他の感光体に対して有利な点がある。
一方、欠点としては機械的強度が弱く摩耗しやすい、多数枚のプリント時に感光体の静電特性が劣化しやすい等の課題がある。特に昨今は、画像形成装置の高速・高画質化が進むに連れて、感光体には感度以外に、フィルミングや繰り返し使用に対する電位の安定性などの耐久性が求められる。さらに、感光体自身が画像形成装置の部品の一部とみなされ、これまで以上に耐久性(耐摩耗性)が要求されている。またプロセスカートリッジ(電子写真感光体カートリッジ)に使用される部材も安価化が進み、体積抵抗率の低い帯電ロールを用いるとリークしやすい課題がある。
【0003】
フィルミングは感光体における感光層上に付着したトナー由来のワックスや、外添剤を起点として発生することから、ワックスや外添剤が感光体に付着するのを防ぐことを目的として、ポリテトラフルオロエチレン樹脂粒子等の材料を感光層中に分散し、感光層の表面自由エネルギーを下げ感光層とワックス・外添剤との間の付着力を低減させるための検討が行われている。
【0004】
そこで、感光体の耐摩耗性を向上させるために、感光体の最表面層にポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)等の含フッ素樹脂微粒子を含有させる技術が知られている(特許文献1)。またフッ素樹脂粒子を特定量含有させることにより、リーク性を向上させる技術が知られている(特許文献2)。
また電気特性の優れた特定の電荷輸送物質を用いることにより、感光体の電気特性を向上する技術が知られている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】日本国特開2005-345686号公報
【文献】日本国特開平06-230590号公報
【文献】日本国特開2009-186969号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、フッ素樹脂粒子を感光層中に分散すると感光体を繰り返し使用した際の露光後電位の上昇が顕著となり、感光体の耐久性に大きな問題が発生する。また、使用される電荷輸送物質によっては、電気特性の観点から耐摩耗性との両立が困難である。
また、電気特性の優れた特定の電荷輸送物質を用いた場合には、感光体の耐摩耗性が不十分、また耐リーク性が悪化するという課題があった。
【0007】
上記のように、電荷輸送層にフッ素樹脂粒子を用いると、電位の上昇が顕著になってしまう。本発明は、電荷輸送層にフッ素樹脂を用いても電位の上昇を抑制し、更に、電気特性とトレードオフの関係にある耐摩耗性及びリーク性を、両立して実現できる電子写真感光体、電子写真感光体カートリッジ及び画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、特定の電荷輸送材料となる化合物とフッ素樹脂粒子とを組み合わせて用いることにより、感光体の電気特性、耐摩耗性を両立できることを見出した。さらに、高温高湿下で繰り返し使用した場合においても残留電位の上昇等の劣化が少なく耐久性の高い電子写真感光体を提供することが可能であることを見出し、以下の本発明の完成に至った。
すなわち、本発明は、以下[1]~[10]に示す具体的態様等を提供する。
【0009】
[1] 導電性支持体と、前記導電性支持体上に電荷発生層及び電荷輸送層とを備えた積層型電子写真感光体であって、
前記電荷輸送層が密度汎関数計算B3LYP/6-31G(d,p)による構造最適化計算に基づくHOMOのエネルギーレベル(E_homo)が-4.550eV以上である化合物とフッ素樹脂粒子とを含有し、
前記フッ素樹脂粒子の含有量が前記電荷輸送層の総質量に対し、3重量%以上20重量%以下である電子写真感光体。
[2] 電子写真感光体表面の粗さ(Rz)が0.1μm以上0.4μm以下である前記[1]に記載の電子写真感光体。
[3] 前記E_homoが-4.550eV以上である化合物の安定構造における、密度汎関数計算B3LYP/6-31G(d,p)及びHF/6-31G(d,p)計算に基づく分極率の計算値αcalが、70Å以上である前記[1]又は[2]に記載の電子写真感光体。
[4] 前記フッ素樹脂粒子の平均一次粒径が0.05μm以上1μm以下である前記[1]乃至[3]のいずれか一に記載の電子写真感光体。
[5] 前記E_homoが-4.550eV以上である化合物が下記式(1)で示される化合物を含む前記[1]乃至[4]のいずれか一に記載の電子写真感光体。
【0010】
【化1】
【0011】
(上記式(1)において、Ar~Arはそれぞれ独立して置換基を有していてもよいアリール基を表し、Ar~Arはそれぞれ独立して置換基を有していてもよい1,4-フェニレン基を表す。m及びnはそれぞれ独立して1以上3以下の整数を表す。)
【0012】
[6] 前記E_homoが-4.550eV以上である化合物が下記式(2)で示される化合物を含む前記[1]乃至[4]のいずれか一に記載の電子写真感光体。
【0013】
【化2】
【0014】
(上記式(2)において、R、R、R及びRはそれぞれ独立して、アルキル基、アルコキシ基、アリール基又はアラルキル基を示す。m、n、p及びqはそれぞれ独立して0~3の整数を示す。但し、R及びRが同一の基であるとき、m及びnは異なる整数を示す。また、R及びRが同一の基であるとき、p及びqは異なる整数を示す。R及びRはそれぞれ独立して、水素原子又はアルキル基を示す。また、R、R、R及びRがそれぞれ複数存在する場合、複数存在する基はそれぞれ同一でも異なっていてもよく、また複数存在する基同士が結合して環を形成していてもよい。)
【0015】
[7] 導電性支持体と、前記導電性支持体上に電荷発生層及び電荷輸送層とを備えた積層型電子写真感光体であって、
前記電荷輸送層が下記式(1)で示される化合物とフッ素樹脂粒子とを含有し、
前記フッ素樹脂粒子の含有量が前記電荷輸送層の総質量に対し、3重量%以上20重量%以下である電子写真感光体。
【0016】
【化3】
【0017】
(上記式(1)において、Ar~Arはそれぞれ独立して置換基を有していてもよいアリール基を表し、Ar~Arはそれぞれ独立して置換基を有していてもよい1,4-フェニレン基を表す。m及びnはそれぞれ独立して1以上3以下の整数を表す。)
【0018】
[8] 導電性支持体と、前記導電性支持体上に電荷発生層及び電荷輸送層とを備えた積層型電子写真感光体であって、
前記電荷輸送層が下記式(2)で示される化合物とフッ素樹脂粒子とを含有し、
前記フッ素樹脂粒子の含有量が電荷輸送層の総質量に対し、3重量%以上20重量%以下である電子写真感光体。
【0019】
【化4】
【0020】
(上記式(2)において、R、R、R及びRはそれぞれ独立して、アルキル基、アルコキシ基、アリール基又はアラルキル基を示す。m、n、p及びqはそれぞれ独立して0~3の整数を示す。但し、R及びRが同一の基であるとき、m及びnは異なる整数を示す。また、R及びRが同一の基であるとき、p及びqは異なる整数を示す。R及びRはそれぞれ独立に、水素原子又はアルキル基を示す。また、R、R、R及びRがそれぞれ複数存在する場合、複数存在する基はそれぞれ同一でも異なっていてもよく、また複数存在する基同士が結合して環を形成していてもよい。)
【0021】
[9] 前記[1]乃至[8]のいずれか一に記載の電子写真感光体、並びに、前記電子写真感光体を帯電させる帯電装置、帯電した前記電子写真感光体を露光させて静電潜像を形成する露光装置、及び、前記電子写真感光体上に形成された静電潜像を現像する現像装置よりなる群から選ばれる少なくとも1の装置を備えた電子写真感光体カートリッジ。
[10] 前記[1]乃至[8]のいずれか一に記載の電子写真感光体、前記電子写真感光体を帯電させる帯電装置、帯電した前記電子写真感光体を露光させて静電潜像を形成する露光装置、及び、前記電子写真感光体上に形成された前記静電潜像を現像する現像装置を備えた画像形成装置。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、電荷輸送層に特定の電荷輸送材料である化合物とフッ素樹脂粒子を組み合わせて用いることにより、高温高湿下で繰り返し使用した場合においても残留電位の上昇等の劣化が少なく耐久性の高い電子写真感光体を提供することが可能となる。
【0023】
また、本発明は、感光体の電気特性と耐摩耗性と相反する特性を同時に解決し、好ましくは、さらに電気特性とリーク性といった相反する特性をも同時に解決し、電気特性及び耐摩耗性、好ましくは、さらにリーク性にも優れた電子写真感光体、電子写真カートリッジ(プロセスカートリッジ)を提供することができる。
【0024】
本発明の効果が奏される理由は完全に解明されてはいないが、電荷輸送層中に、相対的に大きい分子である、特定のHOMOのエネルギーレベルを有する化合物又は特定の構造を有する化合物によって形成される空孔を、特定量のフッ素樹脂粒子が適度に埋めるためであると推測される。前記化合物が誘電体中に存在すると空孔が生じ、その部分にかかる電場は、空孔以外の部分よりも大きくなってしまう。その結果、感光層内でも破壊が進行され、リークが発生しやすくなる。フッ素樹脂粒子により、当該化合物に基づく空孔が埋められれば、電場の上昇が抑えられ、リーク性を改善でき、更には電気特性、耐摩耗性にも寄与する総合的な性能バランスに優れた感光体が得られると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、本発明の画像形成装置の一実施態様の要部構成を示す概略図である。
図2図2は、実施例で用いたD型オキシチタニウムフタロシアニンのCuKα特性X線による回折スペクトルを示す図である。
図3図3は、実施例で用いたA型オキシチタニウムフタロシアニンのCuKα特性X線による回折スペクトルを示す図である。
図4図4は、帯電ロールの体積抵抗率の測定方法を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態につき詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は本発明の実施形態の代表例であって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変形して実施することができる。また、本明細書において“質量部”と“重量部”、“質量%”と“重量%”とはそれぞれ同義であり、単に“ppm”と記載した場合は“重量ppm”であることを意味する。
【0027】
≪本発明の感光体に使用する電荷輸送物質≫
通常負帯電積層型感光体の場合、感光体表面がマイナスに帯電され、露光後、電荷発生層で発生された正孔は電荷輸送層中に注入される。この注入された正孔は電荷輸送物質のHOMOの軌道をホッピング伝導しながら感光層表面に到達し、感光体表面のマイナス電荷を打ち消し、所望の表面電位まで減衰する。
【0028】
一般的にフッ素樹脂粒子を電荷輸送層に含有させる場合、フッ素樹脂粒子を電荷輸送層用塗布液中に分散させる必要性があり、分散剤を用いて塗布液中に分散させ、その塗布液を塗布することでフッ素樹脂粒子を含有する電荷輸送層を形成する。ただ、フッ素樹脂粒子や分散剤には製造時の触媒や、原料残渣等の電荷輸送層中での正孔のホッピング伝導に悪影響を与える不純物が残存している場合が多く、感光体を繰り返して使用した際、露光後表面電位が上昇していくという弊害が現れる。
【0029】
この課題を克服するために、鋭意検討を行った結果、フッ素樹脂粒子、及び分散剤中に、一般的に用いられる電荷輸送物質のHOMOのエネルギーレベルよりも高い準位のHOMOのエネルギーレベルを有する不純物化合物が存在し、この不純物化合物が電荷輸送層に注入された正孔をトラップすることで、感光体の繰り返し使用で露光後表面電位が上昇してしまうという結論に達した。
【0030】
そこで本発明では、フッ素樹脂粒子、及び分散剤由来の不純物化合物のHOMOのエネルギーレベルよりも高い準位のHOMOのエネルギーレベルを有する電荷輸送物質を用いることで、電荷輸送層に注入された正孔がフッ素樹脂粒子由来の不純物にトラップされず、感光体表面に到達することで電荷輸送層中の電荷の蓄積が起こらないため、感光体を繰り返し使用した場合でも露光後の表面電位の上昇を抑制することが可能となる。
【0031】
上記理由から、本願発明に用いることの出来る、電荷輸送層に含まれる電荷輸送物質は、そのB3LYP/6-31G(d,p)を用いた構造最適化計算によるHOMOのエネルギーレベル(E_homo)が-4.550eV以上が好ましく、より好ましくは-4.500eV以上、さらに好ましくは-4.450eV以上である。上記の範囲内であると、電荷輸送層に注入された正孔がフッ素樹脂粒子由来の不純物にトラップされず、感光体表面に到達することで電荷輸送層中の電荷の蓄積が起こらないため、感光体を繰り返し使用した場合でも露光後の表面電位の上昇を抑制することが可能となる。一方、上限に特に制限はないが、耐ガス性の向上、ゴーストの防止の観点から、好ましくは-4.150eV以下、より好ましくは-4.200eV以下、更に好ましくは-4.250eV以下である。
【0032】
さらにB3LYP/6-31G(d,p)を用いた構造最適化計算に基づく安定構造に対し、HF/6-31G(d,p)計算を行うと、該安定構造の分極率の計算値αcalを算出することができる。前記E_homoが-4.550eV以上である化合物の該密度汎関数計算B3LYP/6-31G(d,p)及びHF/6-31G(d,p)計算に基づく、該正孔輸送材料の安定構造における分極率の計算値αcalに特に制限はないが、通常は70Å以上が好ましく、より好ましくは80Å以上、さらに好ましくは90Å以上である。
αcalが大きい電荷輸送物質を含む電荷輸送層は高い電荷移動度を示し、該電荷輸送層を用いることにより、帯電性、感度などに優れた電子写真感光体が得られるからである。一方、溶解性の観点から、通常200Å以下であり、好ましくは170Å以下、より好ましくは150Å以下、更に好ましくは130Å以下である。
【0033】
本発明においてHOMOのエネルギーレベルE_homoは密度汎関数法の一種であるB3LYP(A. D. Becke, J. Chem. Phys. 98, 5648 (1993), C. Lee, W. Yang, and R. G. Parr, Phys. Rev. B37, 785 (1988)及びB. Miehlich, A. Savin, H. Stoll, and H. Preuss, Chem. Phys. Lett. 157, 200 (1989)参照)を用い構造最適化計算により安定構造を求めて得た。この時、基底関数系として6-31Gに分極関数を加えた6-31G(d,p)を用いた(R. Ditchfield, W. J. Hehre, and J. A. Pople, J. Chem. Phys. 54, 724 (1971), W. J. Hehre, R. Ditchfield, and J. A. Pople, J. Chem. Phys. 56, 2257 (1972), P. C. Hariharan and J. A. Pople, Mol. Phys. 27, 209 (1974), M. S. Gordon, Chem. Phys. Lett. 76, 163 (1980), P. C. Hariharan and J. A. Pople, Theo. Chim. Acta 28, 213 (1973), J. -P. Blaudeau, M. P. McGrath, L. A. Curtiss, and L. Radom, J. Chem. Phys. 107, 5016 (1997), M. M. Francl, W. J. Pietro, W. J. Hehre, J. S. Binkley, D. J. DeFrees, J. A. Pople, and M. S. Gordon, J. Chem. Phys. 77, 3654 (1982), R. C. Binning Jr. and L. A. Curtiss, J. Comp. Chem. 11, 1206 (1990), V. A. Rassolov, J. A. Pople, M. A. Ratner, and T. L. Windus, J. Chem. Phys. 109, 1223 (1998),及びV. A. Rassolov, M. A. Ratner, J. A. Pople, P. C. Redfern, and L. A. Curtiss, J. Comp. Chem. 22, 976 (2001)を参照)。本発明において6-31G(d,p)を用いたB3LYP計算をB3LYP/6-31G(d,p)と記述する。
【0034】
さらに分極率αcalは上記B3LYP/6-31G(d,p)による構造最適化計算により得られた安定構造において、制限Hartree-Fock法計算(“Modern Quantum Chemistry”, A. Szabo and N. S. Ostlund, McGraw-Hill publishing company, New York, 1989を参照)により求めた。この時、基底関数は6-31G(d,p)を用いた。本発明において6-31G(d,p)を用いたHartree-Fock計算をHF/6-31G(d,p)と記述する。
【0035】
本発明では、B3LYP/6-31G(d,p)計算及びHF/6-31G(d,p)計算とも用いたプログラムはGaussian 03,Revision D.01(M. J. Frisch, G. W. Trucks, H. B. Schlegel, G. E. Scuseria, M. A. Robb, J. R. Cheeseman, J. A. Montgomery, Jr., T. Vreven, K. N. Kudin, J. C. Burant, J. M. Millam, S. S. lyengar, J. Tomasi, V. Barone, B. Mennucci, M. Cossi, G. Scalmani, N. Rega, G. A. Petersson, H. Nakatsuji, M. Hada, M. Ehara, K. Toyota, R. Fukuda, J. Hasegawa, M. Ishida, T. Nakajima, Y. Honda, O. Kitao, H. Nakai, M. Klene, X. Li, J. E. Knox, H. P. Ilratchian, J. B. Cross, V. Bakken, C. Adamo, J. Jaramillo, R. Gomperts, R. E. Stratmann, O. Yazyev, A. J. Austin, R. Cammi, C. Pomelli, J. W. Ochterski, P. Y. Ayala, K. Morokuma, G. A. Voth, P. Salvador, J. J. Dannenberg, V. G. Zakrzewski, S. Dapprich, A. D. Daniels, M. C. Strain, O. Farkas, D. K. Malick, A. D. Rabuck, K. Raghavachari, J. B. Foresman, J. V. Ortiz, Q. Cui, A. G. Baboul, S. Clifford, J. Cioslowski, B. B. Stefanov, G. Liu, A. Liashenko, P. Piskorz, I. Komaromi, R. L. Martin, D. J. Fox, T. Keith, M. A. Al-Laham, C. Y. Peng, A. Nanayakkara, M. Challacombe, P. M. W. Gill, B. Johnson, W. Chen, M. W. Wong, C.Gonzalez, and J. A. Pople, Gaussian, Inc., Wallingford CT, 2004.を参照)である。
【0036】
本発明のパラメータを満たす電荷輸送物質の構造に制限はなく、芳香族アミン誘導体、スチルベン誘導体、ブタジエン誘導体、ヒドラゾン誘導体、カルバゾール誘導体、アニリン誘導体、エナミン誘導体、及びこれらの化合物の複数種が結合したもの、あるいはこれらの化合物からなる基を主鎖、もしくは側鎖に有する重合体等の電子供与性材料等が挙げられる。これらの中で、芳香族アミン誘導体、スチルベン誘導体、ヒドラゾン誘導体、エナミン誘導体、及びこれらの化合物の複数種が結合したものが好ましく、中でも、エナミン誘導体、及び芳香族アミンが複数結合したものがより好ましく、下記式(1)及び式(2)で表される化合物の少なくともいずれか一方を含有することがより好ましい。
【0037】
【化5】
【0038】
(上記式(1)において、Ar~Arはそれぞれ独立して置換基を有していてもよいアリール基を表し、Ar~Arはそれぞれ独立して置換基を有していてもよい1,4-フェニレン基を表す。m及びnはそれぞれ独立して1以上3以下の整数を表す。)
【0039】
上記式(1)において、Ar~Arは、それぞれ独立して置換基を有していてもよいアリール基を表す。アリール基の炭素数としては、30以下が好ましく、より好ましくは20以下、更に好ましくは15以下である。具体的にはフェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、アントリル基、フェナントリル基等が挙げられる。中でも、電子写真感光体の特性を考慮すると、フェニル基、ナフチル基、アントリル基が好ましく、電荷輸送能力の観点からは、フェニル基、ナフチル基がより好ましく、フェニル基が更に好ましい。
【0040】
Ar~Arが有していてもよい置換基としてはアルキル基、アリール基、アルコキシ基、ハロゲン原子等が挙げられる。具体的には、アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基等の直鎖状アルキル基、イソプロピル基、エチルヘキシル基等の分岐状アルキル基、シクロヘキシル基等の環状アルキル基が挙げられる。アリール基としては、置換基を有していてもよいフェニル基、ナフチル基等が挙げられる。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、n-ブトキシ基等の直鎖状アルコキシ基、イソプロポキシ基、エチルヘキシロキシ基等の分岐状アルコキシ基、シクロヘキシロキシ基等の環状アルコキシ基、トリフルオロメトキシ基、ペンタフルオロエトキシ基、1,1,1-トリフルオロエトキシ基等のフッ素原子を有するアルコキシ基が挙げられる。ハロゲン原子としてはフッ素原子、塩素原子、臭素原子等が挙げられる。
【0041】
これらの中でも、製造原料の汎用性から炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基が好ましく、製造時の取扱性の面から、炭素数1~12のアルキル基、炭素数1~12のアルコキシ基がより好ましく、電子写真感光体としての光減衰特性の面から、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基が更に好ましい。
Ar~Arがフェニル基である場合、電荷輸送能力の観点から置換基を有することが好ましく、置換基の数としては1~5個が可能であるが、製造原料の汎用性からは1~3個が好ましく、電子写真感光体の特性の面からは、1~2個がより好ましい。また、Ar~Arがナフチル基である場合は、製造原料の汎用性から置換基の数が2以下、もしくは置換基を有さないことが好ましく、より好ましくは置換基の数が1、もしくは置換基を有さないことである。
Ar~Arは、窒素原子に対してオルト位又はパラ位に少なくとも1つの置換基を有することが好ましく、置換基としては、溶解性の観点から炭素数1~6のアルコキシ基又は炭素数1~6のアルキル基が好ましい。
【0042】
上記式(1)において、Ar~Arは、それぞれ独立して置換基を有していてもよい1,4-フェニレン基、すなわちアリーレン基を表す。アリーレン基の炭素数としては、30以下が好ましく、より好ましくは20以下、更に好ましくは15以下である。具体的にはフェニレン基、ビフェニレン基、ナフチレン基、アントリレン基、フェナントリレン基が例として挙げられ、この中でも電子写真感光体の特性を考慮すると、フェニレン基、ナフチレン基が好ましく、より好ましくはフェニレン基である。Ar~Arが有していてもよい置換基としては、Ar~Arが有していてもよい置換基として挙げたものが適用できる。これらの中でも、製造原料の汎用性から炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基が好ましく、製造時の取扱性の面から、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基がより好ましく、電子写真感光体としての光減衰特性の面から、メチル基、エチル基、メトキシ基、エトキシ基が更に好ましい。Ar~Arが置換基を有すると、分子構造にねじれが生じ、分子内でのπ共役拡張を妨げ、電子輸送能力が低下する可能性があることから、Ar~Arは置換基を有さないことが好ましい。
【0043】
m、nはそれぞれ独立して1以上3以下の整数を表す。m、nが大きくなると塗布溶媒への溶解性が低下する傾向にあることから、好ましくは2以下であり、電荷輸送物質としての電荷輸送能力の面から、より好ましくは1である。m、nが1の場合、エテニル基を表し、幾何異性体を有するが、電子写真感光体特性の面から、好ましくはトランス体構造が好ましいである。m、nが2の場合、ブタジエニル基を表し、この場合も幾何異性体を有するが、塗布液保管安定性の面から、2種以上の幾何異性体混合物であることが好ましい。
【0044】
【化6】
【0045】
(上記式(2)において、R、R、R及びRはそれぞれ独立して、アルキル基、アルコキシ基、アリール基又はアラルキル基を示す。m、n、p及びqはそれぞれ独立して0~3の整数を示す。但し、R及びRが同一の基であるとき、m及びnは異なる整数を示す。また、R及びRが同一の基であるとき、p及びqは異なる整数を示す。R及びRはそれぞれ独立して、水素原子又はアルキル基を示す。また、R、R、R及びRがそれぞれ複数存在する場合、複数存在する基はそれぞれ同一でも異なっていてもよく、また複数存在する基同士が結合して環を形成していてもよい。)
【0046】
本発明の電子写真感光体は、電荷輸送層に、式(1)又は式(2)で表される化合物を単一成分として含有するものでもよいし、式(1)で表される化合物及び式(2)で表される化合物の少なくとも一方の混合物として含有することも可能であり、さらには、式(1)で表される化合物及び式(2)で表される化合物の混合物として含有することも可能である。
【0047】
また、式(1)で表される化合物の中でも、特に下記式(3)で表される化合物が特に好ましい。式(3)は、式(1)におけるArがアルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、又はアラルキルオキシ基を有する、フェニル基であり、Ar~Arはそれぞれ独立して、置換基として炭素数1~6のアルキル基を有していてもよい、フェニル基であり、Ar~Arはいずれも無置換の1,4-フェニレン基であり、m及びnは共に1である。
【0048】
【化7】
【0049】
(上記式(3)において、R~Rはそれぞれ独立して、アルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、又は水素原子を表す。)
【0050】
感光層中の結着樹脂(バインダー樹脂)と式(1)及び式(2)で表される化合物の少なくとも一方の化合物またはそれら化合物の合計(電荷輸送物質)との割合は、同一層中の結着樹脂100質量部に対して、通常、電荷輸送物質を10質量部以上、好ましくは20質量部以上で使用する。残留電位低減の観点から25質量部以上がより好ましく、繰り返し使用した際の安定性や電荷移動度の観点から30質量部以上が更に好ましく、40質量部以上が特に好ましい。一方、感光層の熱安定性の観点から、通常、電荷輸送物質を150質量部以下、好ましくは80質量部以下で使用する。電荷輸送物質と結着樹脂との相溶性の観点から75質量部以下が好ましく、耐熱性の観点から70質量部以下がより好ましく、耐傷性の観点から65質量部以下が更に好ましく、耐摩耗性の観点から60質量部以下が特に好ましい。また、上記の範囲であると、感光層の電荷移動度、安定性、耐摩耗性の観点から、好ましい。
【0051】
以下に本発明に好適な、式(1)で表される電荷輸送物質の構造を例示する。以下の構造は本発明をより具体的にするために例示するものであり、本発明の概念を逸脱しない限りは下記構造に限定されるものではない。
なお、本明細書における構造式中、Etはエチル基、Meはメチル基、Buがブチル基を表し、nはノルマル(枝分かれのない直鎖状)、t-はターシャリー(枝分かれのある分枝状)であることを意味する。
【0052】
【化8】
【0053】
【化9】
【0054】
【化10】

【0055】
【化11】
【0056】
上記の式(1)で表される化合物の中でも、CT1、CT2、CT3、CT5、CT8、CT9、CT10、CT18、CT20及びCT22で表される化合物が露光後の残留電位の観点で好ましく、CT1、CT2、CT5、CT8、CT10、CT20及びCT22で表される化合物が正孔輸送の移動度・応答性の観点でより好ましい。
【0057】
また、式(2)で表される電荷輸送物質の構造を例示する。以下の構造は本発明をより具体的にするために例示するものであり、本発明の概念を逸脱しない限りは下記構造に限定されるものではない。
【0058】
【化12】
【0059】
【化13】
【0060】
【化14】
【0061】
上記の式(2)で表される化合物の中でも、電気特性、耐摩耗性、リーク性の観点から、(HT-17)が好ましい。
【0062】
上記の式(1)又は式(2)で表される化合物の中でも、CT1、CT2、CT3、CT5、CT8、CT9、CT10、CT18、CT20、CT22及び(HT-17)が好ましく、CT1、CT2、CT5、CT8、CT10、CT20、CT22及び(HT-17)がより好ましい。
【0063】
≪フッ素樹脂粒子≫
本発明の電荷輸送層はフッ素樹脂粒子を含有し、該フッ素樹脂粒子の含有量が電荷輸送層の総質量に対し、通常3質量%以上、好ましくは4.5質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは6質量%以上であり、一方通常20質量%以下、好ましくは17.5質量%以下、より好ましくは15質量%以下、更に好ましくは12質量%以下、特に好ましくは10質量%以下である。上記の範囲内であると感光体を繰り返し使用した際の光減衰挙動の安定性、及び露光後の現像・クリーニングプロセスとのバランスの観点から好ましい。また、上記の範囲であると、摩耗性、分散性の観点から好ましい。
【0064】
フッ素樹脂粒子としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリジクロロジフルオロエチレン及びそれらの共重合体の粒子の中から1種又は2種以上を選択するのが望ましい。これらの中も、特に好ましくはポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンが好ましく、最も好ましくはポリテトラフルオロエチレンである。上記のフッ素樹脂粒子であると、摩耗性の観点から好ましい。
【0065】
フッ素樹脂粒子の平均一次粒径は特に制限されないが、分散性と摩耗性の両立観点から、通常、0.05μm以上が好ましく、より好ましくは0.1μm以上である。一方、通常、1μm以下が好ましく、より好ましくは0.5μm以下である。
なお、この平均一次粒径は、電子写真感光体の最表面層(電荷輸送層)から試料片を得て、これをSEM(走査型電子顕微鏡)により、倍率5000倍で観察し、一次粒子状態のフッ素樹脂粒子の最大径を測定し、その平均値とする。
【0066】
フッ素樹脂粒子は、分散剤としてフッ素系グラフトポリマーを併用することがよい。この分散剤の量は、特に規定するものではないが、フッ素樹脂粒子に対して0.1質量%以上10質量%以下であることがよい。分散剤としては、例えばフッ素系クシ型グラフトポリマー(東亜合成製:GF400)などを利用できる。
【0067】
また、電荷輸送層には、必要に応じて、さらにフッ素変性シリコーンオイルを含んでもよい。このフッ素変性シリコーンオイルは、例えば、オルガノポリシロキサンの置換基の一部又は全部がフルオロアルキル基(例えば炭素数1以上10以下のフルオロアルキル基)で置換されたフッ素変性シリコーンオイル等が挙げられる。
【0068】
フッ素変性シリコーンオイルの含有量に特に制限はないが、通常0.1ppm以上、好ましくは0.5質量%以上であり、一方、通常1000ppm以下、好ましくは500ppm以下の範囲である。
【0069】
フッ素樹脂粒子を最外層塗液中に分散させるために、ペイントシェーカー、ボールミル、サンドミル等のメディアを用いる分散機や、高圧衝突タイプ等のメディアを用いない分散機を用いることができる。高圧とは、前記高圧ポンプの吐出量、吐出圧とオリフィス径及び長さ、更には溶媒及び被分散物の粘度によりおおむね決定される。
【0070】
中でも分散中にフッ素樹脂粒子を傷つけないという観点から、メディアを用いない分散機が好ましく、特に高圧衝突タイプの分散機が凝集防止という意味で好ましい。本発明における高圧状態に昇圧し、該高圧の液衝突により粉砕及び/又は分散させる(高圧液体衝突分散法)とは、例えば、微細な流路に流体を圧送し、該微細な流路の吐出口直後の高圧液同士の衝突、及び高圧液と装置の壁面との衝突により被分散物を粉砕及び/又は分散させることである。このための手段としては、高圧ポンプとこれに配管により接続された複数の小径のオリフィスを有する治具と、該オリフィスより液が吐出される際に液同士が衝突すべく加工された治具により構成される装置を用いることができる。
【0071】
このような装置としては、スギノマシン(株)のスターバースト、吉田機械興業(株)のナノヴェイタ、マイクロフルイディックスのマイクロフルイダイザーが利用できる。衝突パス回数が増えると、液衝突の発熱が蓄積しやすいことから、分散回路に冷却装置をつけるのが望ましい。
液衝突の圧力に特に制限はないが、通常10MPa以上、より好ましくは50MPa以上であり、一方、通常300MPa以下、好ましくは50MPa以下である。上記の圧力であると、液同士の衝突エネルギーが好適であり、所望する粒径まで分散しやすくなるため、好ましい。また分散物の安定性の観点から好ましい。
【0072】
樹脂粒子以外の粒子としては、無機粒子がある。例えば、銅、スズ、アルミニウム、インジウムなどの金属粉末、シリカ、酸化錫、酸化亜鉛、酸化チタン、アルミナ、酸化インジウム、酸化アンチモン、酸化ビスマス、酸化カルシウム、アンチモンをドープした酸化錫、錫をドープした酸化インジウム等の金属酸化物、フッ化錫、フッ化カルシウム、フッ化アルミニウム等の金属フッ化物、チタン酸カリウム、窒化硼素などが挙げられる。
【0073】
≪電子写真感光体≫
以下、本発明の電子写真感光体について説明する。
本発明の電子写真感光体は、導電性支持体と、前記導電性支持体上に電荷発生層及び電荷輸送層とを備える。すなわち、電子写真感光体の感光層は、導電性支持体上に設けられ、さらに下引き層を有する場合は下引き層上に設けられる。
感光層の型式としては、電荷発生物質と電荷輸送物質とが同一層に存在し、バインダー樹脂中に分散された、いわゆる単層型感光体と、電荷発生物質がバインダー樹脂中に分散された電荷発生層及び電荷輸送物質がバインダー樹脂中に分散された電荷輸送層の二つに機能分離された複層構造の、いわゆる積層型感光体とが挙げられるが、何れの構成であってもよい。また、感光層上に、帯電性の改善や、耐摩耗性改善を目的としてオーバーコート層を設けてもよい。
【0074】
積層型感光層としては、導電性支持体側から電荷発生層、電荷輸送層をこの順に積層して設ける順積層型感光層と、逆に電荷輸送層、電荷発生層の順に積層して設ける逆積層型感光層とがあり、いずれを採用することも可能であるが、最もバランスの取れた光導電性を発揮できる順積層型感光層が好ましい。
【0075】
<導電性支持体>
感光体に用いる導電性支持体(以下、単に支持体と称することがある。)としては、例えばアルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス鋼、銅、ニッケル等の金属材料や、金属、カーボン、酸化錫などの導電性粉体を添加して導電性を付与した樹脂材料、アルミニウム、ニッケル、ITO(酸化インジウム酸化錫)等の導電性材料をその表面に蒸着又は塗布した樹脂、ガラス、紙等が主として使用される。
形態としては、ドラム状、シート状、ベルト状などのものが用いられる。金属材料の導電性支持体に、導電性、表面性などの制御のためや欠陥被覆のために、適当な抵抗値をもつ導電性材料を塗布したものでもよい。
【0076】
導電性支持体としてアルミニウム合金等の金属材料を用いた場合、陽極酸化被膜を施してから用いてもよい。陽極酸化被膜を施した場合、公知の方法により封孔処理を施すのが望ましい。
例えば、クロム酸、硫酸、シュウ酸、ホウ酸、スルファミン酸等の酸性浴中で、陽極酸化処理することにより陽極酸化被膜が形成されるが、硫酸中での陽極酸化処理がより良好な結果を与える。硫酸中での陽極酸化の場合、硫酸濃度は100~300g/l、溶存アルミニウム濃度は2~15g/l、液温は15~30℃、電解電圧は10~20V、電流密度は0.5~2A/dmの範囲内に設定されるのが好ましいが、前記条件に限定されるものではない。
【0077】
このようにして形成された陽極酸化被膜に対して、封孔処理を行なうことが好ましい。封孔処理は、公知の方法で行われればよいが、例えば、主成分としてフッ化ニッケルを含有する水溶液中に浸漬させる低温封孔処理、あるいは主成分として酢酸ニッケルを含有する水溶液中に浸漬させる高温封孔処理が施されるのが好ましい。
【0078】
上記低温封孔処理の場合に使用されるフッ化ニッケル水溶液濃度は、適宜選べるが、3~6g/lの範囲で使用された場合、より好ましい結果が得られる。また、封孔処理をスムーズに進めるために、処理温度としては、25~40℃、好ましくは30~35℃で、また、フッ化ニッケル水溶液pHは、4.5~6.5、好ましくは5.5~6.0の範囲で処理するのがよい。
pH調節剤としては、シュウ酸、ホウ酸、ギ酸、酢酸、水酸化ナトリウム、酢酸ナトリウム、アンモニア水等を用いることが出来る。処理時間は、被膜の膜厚1μmあたり1~3分の範囲で処理することが好ましい。なお、被膜物性を更に改良するためにフッ化コバルト、酢酸コバルト、硫酸ニッケル、界面活性剤等をフッ化ニッケル水溶液に添加しておいてもよい。
次いで水洗、乾燥して低温封孔処理を終える。
【0079】
前記高温封孔処理の場合の封孔剤としては、酢酸ニッケル、酢酸コバルト、酢酸鉛、酢酸ニッケル-コバルト、硝酸バリウム等の金属塩水溶液を用いることが出来るが、特に酢酸ニッケルを用いるのが好ましい。酢酸ニッケル水溶液を用いる場合の濃度は5~20g/lの範囲内で使用するのが好ましい。処理温度は好ましくは80~100℃、より好ましくは90~98℃で、また、酢酸ニッケル水溶液のpHは5.0~6.0の範囲で処理するのが好ましい。
ここでpH調節剤としてはアンモニア水、酢酸ナトリウム等を用いることが出来る。処理時間は10分以上が好ましく、20分以上処理するのがより好ましい。なお、この場合も被膜物性を改良するために酢酸ナトリウム、有機カルボン酸、アニオン系、ノニオン系界面活性剤等を酢酸ニッケル水溶液に添加してもよい。
次いで水洗、乾燥して高温封孔処理を終える。
【0080】
平均膜厚が厚い場合には、封孔液の高濃度化、高温・長時間処理により強い封孔条件を必要とする。従って生産性が悪くなると共に、被膜表面にシミ、汚れ、粉ふきといった表面欠陥を生じやすくなる。このような点から、陽極酸化被膜の平均膜厚は通常20μm以下、特に7μm以下で形成されることが好ましい。
【0081】
支持体表面は、平滑であってもよいし、特別な切削方法を用いたり、研磨処理したりすることにより、粗面化されていてもよい。また、支持体を構成する材料に適当な粒径の粒子を混合することによって、粗面化されたものであってもよい。また、安価化のためには切削処理を施さず、引き抜き管をそのまま使用することも可能である。特に引き抜き加工、インパクト加工、しごき加工等の非切削アルミニウム支持体を用いる場合、処理により、表面に存在した汚れや異物等の付着物、小さな傷等が無くなり、均一で清浄な支持体が得られるので好ましい。
【0082】
<下引き層>
導電性支持体と感光層との間には、接着性、ブロッキング性等の改善のため、下引き層を設けてもよい。下引き層としては、樹脂や、樹脂に金属酸化物等の粒子を分散したものなどが用いられるが、金属酸化物粒子のような無機フィラーを含有することが電気特性等の面で好ましい。
【0083】
下引き層に用いる金属酸化物粒子の例としては、シリカ、アルミナ、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化鉛、酸化インジウム等の1種の金属元素を含む金属酸化物粒子、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム等の複数の金属元素を含む金属酸化物粒子などが挙げられる。これらは一種類の粒子を単独で用いてもよいし、複数の種類の粒子を混合して用いてもよい。これらの金属酸化物粒子の中で、n型半導体特性を示す金属酸化物粒子が好ましく、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ及び酸化アルミニウムがより好ましく、特に酸化チタンが好ましい。上述した金属酸化物粒子は下引き層塗布液において分散安定性が高いため好ましい。
【0084】
酸化チタン粒子は、その表面に、酸化錫、酸化アルミニウム、酸化アンチモン、酸化ジルコニウム、酸化珪素等の無機物、又はステアリン酸、ポリオール、シリコン等の有機物による処理を施されていてもよい。酸化チタンは結晶質、非晶質いずれも使用できるが、結晶質が好ましい。酸化チタン粒子の結晶型としては、ルチル、アナターゼ、ブルッカイト、アモルファスのいずれも用いることができる。また、複数の結晶状態のものが含まれていてもよい。好ましくはアナターゼ型又はルチル型であり、より好ましくはルチル型である。これらの酸化チタンは吸水性、表面処理の効率等から好ましい。
【0085】
また、金属酸化物粒子の粒径としては種々のものが利用できるが、中でも電気特性及び下引き層形成用の塗布液の安定性の面から、平均一次粒径として通常1nm以上、好ましくは10nm以上、また、通常100nm以下、好ましくは50nm以下のものが望ましい。塗布液に用いる粒子の粒径は、均一であってもまた、異なる粒径の複合系でもよい。
異なる粒径の複合系の場合、粒径の最大ピークが150nm付近にあり最小粒径が約30nmから約500nmの粒径分布をもつようなものが好ましい。例えば、平均粒径が0.1μmのものと0.03μmのものを混合して用いてもよい。
【0086】
金属酸化物粒子は、有機金属化合物等により表面処理されていることが好ましい。表面処理は乾式法及び湿式法の製造法で製造することができる。すなわち、乾式法では、表面処理剤を、金属酸化物粒子と混合することによって金属酸化物粒子に被覆させ、必要に応じて加熱処理を行う方法で処理することができる。湿式法では、金属酸化物粒子と、適当な溶媒に表面処理剤を混合したものを、均一に付着されるまでよく攪拌するか、メディアによって混合し、その後乾燥し、必要に応じて加熱処理を行う方法で処理することができる。
【0087】
表面処理剤は、反応性有機金属化合物が好ましい。例えば、メチルハイドロジェンポリシロキサン、下記式で表される構造を有するシラン処理剤が好ましく、メチルジメトキシシランが特に好ましい。また、アクリル基を有するシランカップリング剤も好ましく、3-アクリロキシプロピルメトキシシランが特に好ましい。
【0088】
【化15】
【0089】
(R11は水素原子又はアルキル基、R12はそれぞれ独立してアルキル基、R13はアルキル基又はアルコキシ基を表す。)
【0090】
表面処理剤の量に特に制限はないが、通常、0.3質量部以上であり、好ましくは1質量部であり、一方、通常、20質量部以下であり、好ましくは10質量部以下である。上記の範囲であると、表面処理の効果が好適に得られ、塗布工程等の際に塗布膜のはじきの防止の観点から好ましい。
【0091】
下引き層は、金属酸化物粒子をバインダー樹脂に分散した形で形成するのが望ましい。下引き層に用いられるバインダー樹脂としては、エポキシ樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、フェノール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアクリル酸樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、ポリビニルピリジン樹脂、水溶性ポリエステル樹脂、ニトロセルロース等のセルロースエステル樹脂、セルロースエーテル樹脂、カゼイン、ゼラチン、ポリグルタミン酸、澱粉、スターチアセテート、アミノ澱粉、ジルコニウムキレート化合物、ジルコニウムアルコキシド化合物等の有機ジルコニウム化合物、チタニルキレート化合物、チタニルアルコキシド化合物等の有機チタニル化合物、シランカップリング剤などの公知のバインダー樹脂が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、或いは2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。また、硬化剤とともに硬化した形で使用してもよい。中でも、支持体の接着性に優れることから、ポリアミド樹脂が好ましい。
【0092】
アルコール可溶性の共重合ポリアミド、変性ポリアミド等は、良好な分散性、塗布性を示すことから好ましい。さらに、環構造を構成成分として有する共重合ポリアミドが好ましく、より好ましくは炭素原子及び水素原子の少なくとも一種が含まれている環構造が好ましく、更に好ましくは炭素原子及び水素原子からなる環構造である。
環構造は、通常4員環以上であり、好ましくは5員環以上、一方、通常8員環以下、好ましくは7員環以下であり、最も好ましくは6員環である。
【0093】
下引き層に用いられるバインダー樹脂に対する無機粒子の使用比率は任意に選ぶことが可能であるが、分散液の安定性、塗布性の観点から、通常10質量%以上、好ましくは50質量%以上、より好ましくは200質量%以上であり、一方通常800質量%以下、好ましくは500質量%以下である。
【0094】
下引き層の膜厚に特に制限はないが、通常0.1μm以上、好ましくは2μm以上、より好ましくは3μm以上であり、一方通常20μm以下、好ましくは10μm以下、より好ましくは6μm以下である。上記の範囲であると、帯電性や残留電位上昇抑制、導電性基体と感光層の間での接着強度の観点から好ましい。また、上記の範囲であると、感光体特性及び塗布性を向上させる観点から好ましい。
下引き層には、公知の酸化防止剤等を混合してもよい。画像欠陥防止などを目的として、顔料粒子、樹脂粒子等を含有させ用いてもよい。
【0095】
下引き層の体積抵抗値に特に制限はないが、通常1×1011Ω・cm以上、好ましくは1×1012Ω・cm以上であり、一方、通常1×1014Ω・cm以下、好ましくは1×1013Ω・cm以下である。
【0096】
金属酸化物粒子とバインダー樹脂を含有する下引き塗布液を得るには、遊星ミル、ボールミル、サンドミル、ビーズミル、ペイントシェーカー、アトライター、超音波などの粉砕又は分散処理装置で処理された金属酸化物粒子のスラリーに、バインダー樹脂又は、バインダー樹脂を適当な溶媒に溶かした溶解液を混合し、溶解及び攪拌処理を行えばよい。逆に、バインダー樹脂溶解液に金属酸化物粒子を添加し、上記のような分散装置で、粉砕又は分散処理を行う事によってもよい。
【0097】
<電荷発生層>
電荷発生層は、電荷発生物質をバインダー樹脂で結着することにより形成される。
電荷発生物質としては、セレニウム及びその合金、硫化カドミウム等の無機系光導電材料と、有機顔料等の有機系光導電材料とが挙げられるが、有機系光導電材料の方が好ましく、特に有機顔料が好ましい。
有機顔料としては、例えば、フタロシアニン顔料、アゾ顔料、ジチオケトピロロピロール顔料、スクアレン(スクアリリウム)顔料、キナクリドン顔料、インジゴ顔料、ペリレン顔料、多環キノン顔料、アントアントロン顔料、ベンズイミダゾール顔料等が挙げられる。これらの中でも、特にフタロシアニン顔料又はアゾ顔料が好ましい。電荷発生物質として有機顔料を使用する場合、通常はこれらの有機顔料の粒子を、各種のバインダー樹脂で結着した分散層の形で使用する。
【0098】
電荷発生物質として無金属フタロシアニン化合物、金属含有フタロシアニン化合物を用いた場合は比較的長波長のレーザー光、例えば780nm近辺の波長を有するレーザー光に対して高感度の感光体が得られる。またモノアゾ、ジアゾ、トリスアゾ等のアゾ顔料を用いた場合には、白色光、又は660nm近辺の波長を有するレーザー光、もしくは比較的短波長のレーザー光、例えば450nm、400nm近辺の波長を有するレーザーに対して十分な感度を有する感光体を得ることができる。
【0099】
電荷発生物質として有機顔料を使用する場合、特にフタロシアニン顔料又はアゾ顔料が好ましい。フタロシアニン顔料は、比較的長波長のレーザー光に対して高感度の感光体が得られる点で、また、アゾ顔料は、白色光及び比較的短波長のレーザー光に対し十分な感度を持つ点で、それぞれ優れている。
電荷発生物質としてフタロシアニン顔料を使用する場合、具体的には無金属フタロシアニン、銅、インジウム、ガリウム、スズ、チタン、亜鉛、バナジウム、シリコン、ゲルマニウム、アルミニウムなどの金属又はその酸化物、ハロゲン化物、水酸化物、アルコキシドなどの配位したフタロシアニン類の各結晶型を持ったもの、酸素原子等を架橋原子として用いたフタロシアニンダイマー類などが使用される。特に、感度の高い結晶型であるX型、τ型無金属フタロシアニン、A型(別称β型)、B型(別称α型)、D型(別称Y型)等のチタニルフタロシアニン(別称:オキシチタニウムフタロシアニン)、バナジルフタロシアニン、クロロインジウムフタロシアニン、ヒドロキシインジウムフタロシアニン、II型等のクロロガリウムフタロシアニン、V型等のヒドロキシガリウムフタロシアニン、G型、I型等のμ-オキソ-ガリウムフタロシアニン二量体、II型等のμ-オキソ-アルミニウムフタロシアニン二量体が好適である。
【0100】
また、これらフタロシアニンの中でも、A型(別称β型)、B型(別称α型)、及び粉末X線回折の回折角2θ(±0.2゜)が27.1゜、もしくは27.3゜に明瞭なピークを示すことを特徴とするD型(Y型)チタニルフタロシアニン、II型クロロガリウムフタロシアニン、V型及び28.1゜にもっとも強いピークを有すること、また26.2゜にピークを持たず28.1゜に明瞭なピークを有し、かつ25.9゜の半値幅Wが1゜≦W≦0.4゜であることを特徴とするヒドロキシガリウムフタロシアニン、G型μ-オキソ-ガリウムフタロシアニン二量体等が特に好ましい。
【0101】
フタロシアニン化合物は単一の化合物のものを用いてもよいし、幾つかの混合又は混晶状態のものを用いてもよい。ここでのフタロシアニン化合物ないしは結晶状態における混合状態としては、それぞれの構成要素を後から混合したものを用いてもよいし、合成、顔料化、結晶化等のフタロシアニン化合物の製造・処理工程において混合状態を生じさせたものでもよい。
このような処理としては、酸ペースト処理・磨砕処理・溶剤処理等が知られている。混晶状態を生じさせるためには、日本国特開平10-48859号公報に記載のように、2種類の結晶を混合後に機械的に磨砕、不定形化した後に、溶剤処理によって特定の結晶状態に変換する方法が挙げられる。
【0102】
電荷発生物質としてアゾ顔料を使用する場合には、各種ビスアゾ顔料、トリスアゾ顔料が好適に用いられる。電荷発生物質として有機顔料を用いる場合には、1種を単独で用いてもよいが、2種類以上の顔料を混合して用いてもよい。この場合、可視域と近赤域の異なるスペクトル領域で分光感度特性を有する2種類以上の電荷発生物質を組み合わせて用いることが好ましく、中でもジスアゾ顔料、トリスアゾ顔料とフタロシアニン顔料とを組み合わせて用いることがより好ましい。
【0103】
電荷発生層に用いるバインダー樹脂は特に制限されないが、例としては、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、ブチラールの一部がホルマールや、アセタール等で変性された部分アセタール化ポリビニルブチラール樹脂等のポリビニルアセタール系樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、変性エーテル系ポリエステル樹脂、フェノキシ樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリビニルピリジン樹脂、セルロース系樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、シリコン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、カゼインや、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、ヒドロキシ変性塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、カルボキシル変性塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル-酢酸ビニル-無水マレイン酸共重合体等の塩化ビニル-酢酸ビニル系共重合体、スチレン-ブタジエン共重合体、塩化ビニリデン-アクリロニトリル共重合体、スチレン-アルキッド樹脂、シリコン-アルキッド樹脂、フェノール-ホルムアルデヒド樹脂等の絶縁性樹脂や、ポリ-N-ビニルカルバゾール、ポリビニルアントラセン、ポリビニルペリレン等の有機光導電性ポリマーなどが挙げられる。これらのバインダー樹脂は、何れか1種を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の組み合わせで混合して用いてもよい。
【0104】
電荷発生層は、具体的に例えば、上述のバインダー樹脂を有機溶剤に溶解した溶液に、電荷発生物質を分散させて塗布液を調製し、これを導電性支持体上に(下引き層を設ける場合は下引き層上に)塗布することにより形成される。
塗布液の作製に用いられる溶剤としては、バインダー樹脂を溶解させるものであれば特に制限されないが、例えば、ペンタン、ヘキサン、オクタン、ノナン等の飽和脂肪族系溶媒、トルエン、キシレン、アニソール等の芳香族系溶媒、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、クロロナフタレン等のハロゲン化芳香族系溶媒、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン等のアミド系溶媒、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、ベンジルアルコール等のアルコール系溶媒、グリセリン、ポリエチレングリコール等の脂肪族多価アルコール類、アセトン、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン等の鎖状又は環状ケトン系溶媒、ギ酸メチル、酢酸エチル、酢酸n-ブチル等のエステル系溶媒、塩化メチレン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素系溶媒、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、メチルセルソルブ、エチルセルソルブ等の鎖状又は環状エーテル系溶媒、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、スルフォラン、ヘキサメチルリン酸トリアミド等の非プロトン性極性溶媒、n-ブチルアミン、イソプロパノールアミン、ジエチルアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、トリエチレンジアミン、トリエチルアミン等の含窒素化合物、リグロイン等の鉱油、水などが挙げられる。これらは何れか1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用して用いてもよい。なお、上述の下引き層を設ける場合には、この下引き層を溶解しないものが好ましい。
【0105】
電荷発生層において、バインダー樹脂と電荷発生物質との配合比(質量)は、バインダー樹脂100質量部に対して電荷発生物質が通常10質量部以上、好ましくは30質量部以上、また、通常1000質量部以下、好ましくは500質量部以下の範囲であり、その膜厚は通常0.1μm以上、好ましくは0.15μm以上、また、通常10μm以下、好ましくは0.6μm以下の範囲である。電荷発生物質の比率が高過ぎると、電荷発生物質の凝集等により塗布液の安定性が低下するおそれがある一方、電荷発生物質の比率が低過ぎると、感光体としての感度の低下を招くおそれがある。
【0106】
電荷発生物質を分散させる方法としては、ボールミル分散法、アトライター分散法、サンドミル分散法、ビーズミル分散等の公知の分散法を用いることができる。この際、粒子を0.5μm以下、好ましくは0.3μm以下、より好ましくは0.15μm以下の範囲の粒子サイズに微細化することが有効である。
【0107】
<電荷輸送層>
積層型感光体の電荷輸送層は、電荷輸送物質及びフッ素樹脂粒子を含有するとともに、通常はバインダー樹脂と、必要に応じて使用されるその他の成分とを含有する。このような電荷輸送層は、具体的には、例えば電荷輸送物質等とバインダー樹脂とを溶剤に溶解又は分散して塗布液を作製し、これを順積層型感光層の場合には電荷発生層上に、また、逆積層型感光層の場合には導電性支持体上に(下引き層を設ける場合は下引き層上に)塗布、乾燥して得ることができる。
本発明では、密度汎関数計算B3LYP/6-31G(d,p)による構造最適化計算に基づくHOMOのエネルギーレベル(E_homo)が-4.550eV以上である化合物、式(1)で表される化合物及び/又は式(2)で表される化合物を電荷輸送物質として用い、更にその他の電荷輸送物質を混合して用いてもよい。
【0108】
混合して用いてもよいその他の電荷輸送物質としては特に限定されず、任意の物質を用いることが可能である。公知の電荷輸送物質の例としては、2,4,7-トリニトロフルオレノン等の芳香族ニトロ化合物、テトラシアノキノジメタン等のシアノ化合物、ジフェノキノン等のキノン化合物等の電子吸引性物質、カルバゾール誘導体、インドール誘導体、イミダゾール誘導体、オキサゾール誘導体、ピラゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、ベンゾフラン誘導体等の複素環化合物、アニリン誘導体、ヒドラゾン誘導体、芳香族アミン誘導体、スチルベン誘導体、ブタジエン誘導体、エナミン誘導体及びこれらの化合物の複数種が結合したもの、あるいはこれらの化合物からなる基を主鎖又は側鎖に有する重合体等の電子供与性物質等が挙げられる。これらの中でも、カルバゾール誘導体、芳香族アミン誘導体、スチルベン誘導体、ブタジエン誘導体、エナミン誘導体、及びこれらの化合物の複数種が結合したものが好ましい。
【0109】
前記その他の電荷輸送物質の好適な構造の具体例を以下に示す。これら具体例は例示のために示したものであり、本発明の趣旨に反しない限りはいかなる公知の電荷輸送物質を用いてもよい。これらの電荷輸送物質は、何れか1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせで併用してもよい。
【0110】
【化16】
【0111】
【化17】
【0112】
【化18】
【0113】
<バインダー樹脂>
感光層は、蒸着膜であっても構わないが、通常、前記の電荷発生物質や電荷輸送物質などの原料をバインダー樹脂により結着することにより形成され、好ましくは、ポリカーボネート等をバインダー樹脂として用いられる。
バインダー樹脂としては、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル等のビニル重合体、及びその共重合体、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリエステルポリカーボネート、ポリスルホン、フェノキシ、エポキシ、シリコーン樹脂等の熱可塑性樹脂や種々の熱硬化性樹脂などが挙げられ、またこれらの部分的架橋硬化物も使用できる。これら樹脂の中でもポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、又はポリアリレート樹脂が好ましい。これらの樹脂は単独でも、複数を混合して用いてもよい。
【0114】
前記バインダー樹脂の好適な繰り返し単位構造の具体例を以下に示す。これら具体例は例示のために示したものであり、本発明の趣旨に反しない限りはいかなる公知のバインダー樹脂を混合して用いてもよい。
【0115】
【化19】
【0116】
上記の繰り返し単位を有する樹脂の中でも、繰り返し単位が複数存在するものが好ましい。
バインダー樹脂の粘度平均分子量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、好ましくは10,000以上、より好ましくは20,000以上、また、その上限は、好ましくは150,000以下、より好ましくは120,000以下、更に好ましくは100,000以下であることが望ましい。粘度平均分子量の値が小さすぎる場合、感光体の機械的強度が不足する可能性があり、大き過ぎる場合、感光層形成のための塗布液の粘度が高すぎて生産性が低下する可能性がある。
【0117】
単層型感光体の感光層の膜厚は、通常5~100μm、好ましくは10~50μmの範囲で使用され、順積層型感光体の電荷輸送層の膜厚は、通常5μm以上、好ましくは10μm以上、より好ましくは15μm以上、一方通常50μm以下、好ましくは45μm以下、より好ましくは35μm以下、更に好ましくは30μm以下、特に好ましくは25μm以下である。上記の範囲であると、電気特性、画像安定性の観点、更には高解像度の観点から好ましい。また、順積層型感光体の場合、長寿命、画像安定性の観点から好ましくは10~45μmであり、高解像度の観点からは10~30μmがより好ましい。
なお、感光層には成膜性、可撓性、塗布性、耐汚染性、耐ガス性、耐光性などを向上させるために酸化防止剤、可塑剤、紫外線吸収剤、電子吸引性化合物、染料、顔料、レベリング剤、可視光遮光剤などの添加物を含有させてもよい。
【0118】
酸化防止剤の例としては、ヒンダードフェノール化合物、ヒンダードアミン化合物、トリアルキルアミン、ジアルキルアリールアミン、ジアリールアルキルアミン等が挙げられるが、残留電位等の感光体としての特性の面からヒンダードフェノール化合物、トリアルキルアミン化合物が好ましく、より好ましくはヒンダードフェノール化合物である。
可塑剤の例としては、炭化水素化合物、エステル化合物、エーテル化合物、チオエーテル化合物等が挙げられる。電気特性の観点から、炭化水素化合物、エステル化合物、エーテル化合物が好ましく、炭化水素化合物、エーテル化合物がより好ましい。可塑剤は、バインダー樹脂へ相溶性の観点から、芳香族基を有することが好ましい。
【0119】
可塑剤の分子量は、150以上が好ましく、170以上がより好ましく、200以上がさらに好ましく、一方、400以下が好ましく、380以下がより好ましく、350以下がさらに好ましい。上記範囲内の分子量とすることで、成膜/乾燥時における昇華を抑えつつ、バインダー樹脂と馴染むことにより耐クラック性や耐ガス性を向上させることが可能となる。
【0120】
これらの可塑剤は単独で用いてもよいし、いくつかを混合してもよい。可塑剤の好適な構造の具体例を以下に表す。
【0121】
【化20】
【0122】
これらの可塑剤の中でも、好ましくはAD-2、AD-4、AD-5、AD-6、AD-8、AD-10、AD-11、AD-13であり、より好ましくは、AD-2、AD-6、AD-8、AD-10、AD-11、AD-13である。上記の可塑剤であれば、電気特性を悪化させることなく、耐ガス性や耐クラック性を向上させることができる。
また染料、顔料の例としては、各種の色素化合物、アゾ化合物等が挙げられる。
【0123】
電荷輸送層には、感光体表面の摩擦抵抗や、摩耗を低減、トナーの感光体から転写ベルト、紙への転写効率を高める等の目的で、アルミナ、シリカ等の無機粒子、フッ素樹脂粒子、シリコーン粒子、ポリエチレン粒子、架橋ポリスチレン粒子、架橋(メタ)アクリレート粒子等の有機粒子等を含有させてもよい。
また感光層には必要に応じて塗布性を改善するためのレベリング剤や酸化防止剤、増感剤等の各種添加剤を含んでいてもよい。酸化防止剤の例としては、ヒンダードフェノール化合物、ヒンダードアミン化合物などが挙げられる。また染料、顔料の例としては、各種の色素化合物、アゾ化合物などが挙げられ、界面活性剤の例としては、シリコ-ンオイル、フッ素系オイルなどが挙げられる。
【0124】
電子吸引性化合物としては、テトラシアノキノジメタン、ジシアノキノメタン、ジシアノキノビニル基を有する芳香族エステル類等のシアノ化合物、2,4,6-トリニトロフルオレノン等のニトロ化合物、ペリレン等の縮合多環芳香族化合物、ジフェノキノン誘導体、キノン類、アルデヒド類、ケトン類、エステル類、酸無水物、フタリド類、置換及び無置換サリチル酸の金属錯体、置換及び無置換サリチル酸の金属塩、芳香族カルボン酸の金属錯体、芳香族カルボン酸の金属塩が挙げられる。好ましくは、シアン化合物、ニトロ化合物、縮合多環芳香族化合物、ジフェノキノン誘導体、置換及び無置換サリチル酸の金属錯体、置換及び無置換サリチル酸の金属塩、芳香族カルボン酸の金属錯体、芳香族カルボン酸の金属塩が用いられる。
【0125】
本発明における電子写真感光体表面の粗さ(Rz)は0.1μm以上が好ましく、また、1μm以下が好ましく、より好ましくは0.8μm以下、更に好ましくは0.6μm以下、よりさらに好ましくは0.4μm以下の範囲である。
1μm超になると耐摩耗性が悪化する可能性がある。これはフィラーの分散状態が悪化し、フィラーと感光体内部における接触界面が少なくなり、フィラーの効果が少なくなるためと考えられる。フィラーの分散状態が悪くなれば、凝集したフィラーの量が増え粗さも大きくなる。更にRzが大きすぎると凸部と凹部(すなわち、相対的に表面層の厚いところと薄いところ)とで帯電性が異なり、帯電ムラや摩耗ムラが生じやすくなる。
【0126】
ここで、粗さ(Rz)とは、JIS-B-0601(1994)で定義される十点平均粗さをいう。即ち、感光体の断面曲線から基準長さだけ抜き取った部分において、平均線に平行、且つ断面曲線を横切らない直線から、平均線に垂直な方向に測定した最高から5番目までの山頂の標高の平均値と最深から5番目までの谷底の標高の平均値との差の値をマイクロメートル(μm)で表したものをいう。
【0127】
この粗さ(Rz)は、例えば、表面粗さ測定装置(ミツトヨ製 表面粗さ測定機 SV-548)を用いて、基準長さ0.8mm、カットオフ波長0.8mm、測定速度0.1mm/sec、カットオフ種類ガウシアンの方法で測定が行われる。粗さの測定位置は、電子写真感光体の軸方向の中央部とする。
【0128】
感光体の最表面層には、感光層の損耗を防止したり、帯電器等からの発生する放電物質等による感光層の劣化を防止・軽減する目的で保護層を設けてもよい。保護層は導電性材料を適当な結着樹脂中に含有させて形成するか、日本国特開平9-190004号公報や、日本国特開平10-252377号公報に記載のようなトリフェニルアミン骨格等の電荷輸送能を有する化合物を用いた共重合体を用いることが出来る。
【0129】
導電性材料としては、TPD(N,N’-ジフェニル-N,N’-ビス-(m-トリル)ベンジジン)等の芳香族アミノ化合物、酸化アンチモン、酸化インジウム、酸化錫、酸化チタン、酸化錫-酸化アンチモン、酸化アルミ、酸化亜鉛等の金属酸化物などを用いることが可能であるが、これに限定されるものではない。
【0130】
保護層に用いる結着樹脂としてはポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリケトン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルケトン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、シロキサン樹脂等の公知の樹脂を用いることができ、また、日本国特開平9-190004号公報や、日本国特開平10-252377号公報に記載のようなトリフェニルアミン骨格等のを電荷輸送能を有する骨格と上記樹脂の共重合体を用いることも出来る。
上記保護層は電気抵抗が10~1014Ω・cmとなるように構成することが好ましい。電気抵抗が1014Ω・cmより高くなると残留電位が上昇しカブリの多い画像となるおそれがあり、一方10Ω・cmより低くなると画像のボケ、解像度の低下が生じるおそれがある。また、保護層は像露光に照射される光の透過を実質上妨げないように構成される。
【0131】
また、感光体表面の摩擦抵抗や、摩耗を低減、トナーの感光体から転写ベルト、紙への転写効率を高める等の目的で、表面層にフッ素系樹脂、シリコーン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリスチレン樹脂等を含んでいてもよい。また、これらの樹脂からなる粒子やシリカやアルミナ等の無機化合物の粒子を含んでいてもよい。
【0132】
<層形成方法>
感光体を構成する各層は、各層を構成する材料を含有する塗布液を、支持体上に公知の塗布方法を用い、各層ごとに塗布・乾燥工程を繰り返し、順次塗布していくことにより形成される。
【0133】
感光層の作製に用いられる溶媒又は分散媒に特に制限は無いが、具体例としては、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、ジメトキシエタン等のエーテル類、ギ酸メチル、酢酸エチル等のエステル類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン、1,1,2-トリクロロエタン、1,1,1-トリクロロエタン、テトラクロロエタン、1,2-ジクロロプロパン、トリクロロエチレン等の塩素化炭化水素類、n-ブチルアミン、イソプロパノールアミン、ジエチルアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、トリエチレンジアミン等の含窒素化合物類、アセトニトリル、N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶剤類等が挙げられる。また、これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び種類で併用してもよい。
【0134】
溶媒又は分散媒の使用量は特に制限されないが、各層の目的や選択した溶媒・分散媒の性質を考慮して、塗布液の固形分濃度や粘度等の物性が所望の範囲となるように適宜調整するのが好ましい。
層形成用の塗布液は、単層型感光体及び積層型感光体の電荷輸送層の場合には、塗布液の固形分濃度を通常5質量%以上、好ましくは10質量%以上、一方通常40質量%以下、好ましくは35質量%以下の範囲とする。また、該塗布液の粘度は、通常10mPa・s以上、好ましくは50mPa・s以上、一方通常1,500mPa・s以下、好ましくは1,200mPa・s、より好ましくは500mPa・s以下、更に好ましくは400mPa・s以下の範囲とする。
積層型感光体の電荷発生層の場合には、塗布液の固形分濃度は、通常0.1質量%以上、好ましくは1質量%以上、一方通常15質量%以下、好ましくは10質量%以下の範囲とする。また、該塗布液の粘度は、通常0.01mPa・s以上、好ましくは0.1mPa・s以上、また、通常20mPa・s以下、好ましくは10mPa・s以下の範囲とする。
【0135】
塗布液の塗布方法としては、浸漬コーティング法、スプレーコーティング法、スピナーコーティング法、ビードコーティング法、ワイヤーバーコーティング法、ブレードコーティング法、ローラーコーティング法、エアーナイフコーティング法、カーテンコーティング法等が挙げられるが、他の公知のコーティング法を用いることも可能である。
塗布液の乾燥は室温における指触乾燥後、30~200℃の温度範囲で、1分から2時間の間、無風、又は送風下で加熱乾燥させることが好ましい。また加熱温度は一定であっても、乾燥時に変更させながら行なってもよい。
【0136】
<電子写真感光体カートリッジ、画像形成装置>
本発明の電子写真感光体を使用する複写機、プリンター等に用いられる電子写真感光体カートリッジ(プロセスカートリッジ、カートリッジ)、また当該カートリッジが搭載された画像形成装置は、帯電、露光、現像、転写、クリーニング等の各プロセスを含むが、どのプロセスも通常用いられる方法のいずれを用いてもよい。
【0137】
本発明の電子写真感光体カートリッジは、電子写真感光体、並びに、前記電子写真感光体を帯電させる帯電装置、帯電した前記電子写真感光体を露光させて静電潜像を形成する露光装置、及び、前記電子写真感光体上に形成された静電潜像を現像する現像装置よりなる群から選ばれる少なくとも1の装置を備える。
また、本発明の画像形成装置は、電子写真感光体、前記電子写真感光体を帯電させる帯電装置、帯電した前記電子写真感光体を露光させて静電潜像を形成する露光装置、及び、前記電子写真感光体上に形成された前記静電潜像を現像する現像装置を備える。
【0138】
帯電方法(帯電機)としては、例えばコロナ放電を利用したコロトロン、スコロトロン帯電の他に、電圧印加された直接帯電部材を感光体表面に接触させて帯電させる直接帯電手段を用いてもよい。直接帯電手段としては、帯電ロールあるいはブラシ、フィルムなどによる接触帯電などいずれを用いてもよく、気中放電を伴うもの、あるいは気中放電を伴わない注入帯電いずれも可能である。
このうち、コロナ放電を使用した帯電方法では暗部電位を一定に保つため、スコロトロン帯電が好ましい。本願に用いられる帯電ロールは導電性の軸芯体上に導電性弾性層が形成されているものが好ましい。帯電ロール等を用いた接触帯電装置の場合の帯電方式としては、直流帯電又は交流重畳直流帯電を用いることができる。
【0139】
本発明に用いられる帯電ロールの体積抵抗率は25℃、湿度50%RHにおいて、0.1MΩ・cm以上、5MΩ・cm以下であることが好ましい。上記の範囲内であると、耐リーク性が向上したり、放電開始電圧が適度になるため、同じ印加電圧に対して、ゴースト性が改善するため、好ましい。
【0140】
次に、本発明の電子写真感光体を用いたカートリッジの一例としてドラムカートリッジを挙げ、当該ドラムカートリッジと画像形成装置について、装置の一例を示す図1に基づいて説明する。
図1に示すように、画像形成装置は、電子写真感光体1、帯電装置2、露光装置3及び現像装置4を備えて構成され、更に、必要に応じて転写装置5、クリーニング装置6及び定着装置7が設けられる。
【0141】
電子写真感光体1は、上述した本発明の電子写真感光体であれば特に制限はないが、図1ではその一例として、円筒状の導電性支持体の表面に上述した感光層を形成したドラム状の感光体を示している。この電子写真感光体1の外周面に沿って、帯電装置2、露光装置3、現像装置4、転写装置5及びクリーニング装置6がそれぞれ配置されている。
帯電装置2は、電子写真感光体1を帯電させるもので、電子写真感光体1の表面を所定電位に均一帯電させる。図1では帯電装置2の一例としてローラ型の帯電装置(帯電ローラ)を示しているが、他にもコロトロンやスコロトロン等のコロナ帯電装置、帯電ブラシ等の接触型帯電装置などがよく用いられる。
【0142】
なお、電子写真感光体1及び帯電装置2は、多くの場合、この両方を備えたカートリッジ(以下、感光体カートリッジということがある)として、画像形成装置の本体から取り外し可能に設計されている。そして、例えば電子写真感光体1や帯電装置2が劣化した場合に、この感光体カートリッジを画像形成装置本体から取り外し、別の新しい感光体カートリッジを画像形成装置本体に装着することができるようになっている。また、帯電装置2に加えて、又は帯電装置2に代えて、感光体1と露光装置3及び/又は現像装置4を備えたカートリッジとして、画像形成装置の本体から取り外し可能に設計されていてもよい。
【0143】
なお、後述するトナーTについても、多くの場合、トナーカートリッジ中に蓄えられて、画像形成装置本体から取り外し可能に設計され、使用しているトナーカートリッジ中のトナーが無くなった場合に、このトナーカートリッジを画像形成装置本体から取り外し、別の新しいトナーカートリッジを装着することができるようになっている。
更に、電子写真感光体1、帯電装置2、トナーTが全て備えられたカートリッジを用いることもある。
【0144】
露光装置3は、電子写真感光体1に露光を行なって電子写真感光体1の感光面に静電潜像を形成することができるものであれば、その種類に特に制限はない。具体例としては、ハロゲンランプ、蛍光灯、半導体レーザーやHe-Neレーザー等のレーザー、LEDなどが挙げられる。また、感光体内部露光方式によって露光を行なうようにしてもよい。露光を行なう際の光は任意であるが、例えば波長が780nmの単色光、波長600nm~700nmのやや短波長寄りの単色光、波長380nm~500nmの短波長の単色光などで露光を行なえばよい。
【0145】
現像装置4は、その種類に特に制限はなく、電子写真感光体1上に形成された静電潜像を現像することができるものであればよい。具体的には、カスケード現像、一成分導電トナー現像、二成分磁気ブラシ現像などの乾式現像方式や、湿式現像方式などの任意の装置を用いることができる。
図1では、現像装置4は、現像槽41、アジテータ42、供給ローラ43、現像ローラ44、及び、規制部材45からなり、現像槽41の内部にトナーTを貯留している構成となっている。また、必要に応じ、トナーTを補給する補給装置(図示せず)を現像装置4に付帯させてもよい。この補給装置は、ボトル、カートリッジなどの容器からトナーTを補給することが可能に構成される。
【0146】
転写装置5は、その種類に特に制限はなく、コロナ転写、ローラ転写、ベルト転写などの静電転写法、圧力転写法、粘着転写法など、任意の方式を用いた装置を使用することができる。ここでは、転写装置5が電子写真感光体1に対向して配置された転写チャージャー、転写ローラ、転写ベルト等から構成されるものとする。この転写装置5は、トナーTの帯電電位とは逆極性で所定電圧値(転写電圧)を印加し、電子写真感光体1に形成されたトナー像を記録紙(用紙、媒体)Pに転写するものである。
【0147】
クリーニング装置6について特に制限はなく、ブラシクリーナー、磁気ブラシクリーナー、静電ブラシクリーナー、磁気ローラクリーナー、ブレードクリーナーなど、任意のクリーニング装置を用いることができるが、本発明では、ブレードクリーナーの場合に効果が発揮しやすい。クリーニング装置6は、感光体1に付着している残留トナーをクリーニング部材で掻き落とし、残留トナーを回収するものである。
【0148】
以上のように構成された電子写真装置(画像形成装置)では、次のようにして画像の記録が行なわれる。
図1において、ドラム状の感光体1は矢印方向に所定の周速度で回転駆動される。感光体1はその回転過程で帯電装置2により、その表面に正又は負の所定電位の均一帯電を受ける。この際、直流電圧により帯電させてもよく、直流電圧に交流電圧を重畳させて帯電させてもよい。ついで露光装置3において像露光手段により潜像形成のための露光が行われる。
【0149】
形成された静電潜像は、次に現像装置4でトナー現像され、そのトナー現像像がコロナ転写等の転写装置5により給紙部から給送された転写体である紙などの記録紙Pに順次転写されていく。図1では、現像装置4は、現像槽41、アジテータ42、供給ローラ43、現像ローラ44、及び、規制部材45からなり、現像槽41の内部にトナーTを貯留している構成となっている。また、必要に応じ、トナーTを補給する補給装置(図示せず)を現像装置4に付帯させてもよい。この補給装置は、ボトル、カートリッジなどの容器からトナーTを補給することが可能に構成される。像転写された転写体はついで定着装置7に送られ、像定着され、機外へプリントアウトされる。
【0150】
定着装置7は、上部定着部材(定着ローラ)71及び下部定着部材(定着ローラ)72から構成され、上部または下部定着部材71又は72の内部には加熱装置73が備えられている。なお、図1では、上部定着部材71の内部に加熱装置73が備えられた例を示す。上部及び下部の各定着部材71及び72は、ステンレス、アルミニウムなどの金属素管にシリコンゴムを被覆した定着ロール、更にテフロン(登録商標)樹脂で被覆した定着ロール、定着シートなどに公知の熱定着部材を使用することができる。更に、上部及び下部の各定着部材71及び72は、離型性を向上させる為にシリコーンオイル等の離型剤を供給する構成としてもよく、バネ等により互いに強制的に圧力を加える構成としてもよい。
【0151】
記録紙P上に転写されたトナーは、所定温度に加熱された上部定着部材71と下部定着部材72との間を通過する際、トナーが溶融状態まで熱加熱され、通過後冷却されて記録紙P上にトナーが定着される。
像転写後の感光体1の表面はクリーニング装置6により転写残りのトナーが除去され、除電手段により除電されて次の画像形成のために清浄化される。
【0152】
本発明の電子写真感光体を使用するにあたって、帯電器としては、コロトロン、スコロトロンなどのコロナ帯電器の他に、電圧印加された直接帯電部材を感光体表面に接触させて帯電させる直接帯電手段を用いてもよい。
直接帯電手段の例としては、帯電ローラ、帯電ブラシ等の接触帯電器などが挙げられる。直接帯電手段として、気中放電を伴うもの、あるいは気中放電を伴わない注入帯電のいずれも可能である。また、帯電時に印可する電圧としては、直流電圧だけの場合、及び直流に交流を重畳させて用いることもできる。
【0153】
露光はハロゲンランプ、蛍光灯、レーザー(半導体、He-Ne)、LED、感光体内部露光方式等が用いられるが、デジタル式電子写真方式として、レーザー、LED、光シャッターアレイ等を用いることが好ましい。波長としては780nmの単色光の他、600~700nm領域のやや短波長寄りの単色光を用いることができる。
現像行程はカスケード現像、1成分絶縁トナー現像、1成分導電トナー現像、二成分磁気ブラシ現像などの乾式現像方式や湿式現像方式などが用いられる。
【0154】
トナーとしては、粉砕トナーの他に、懸濁造粒、懸濁重合、乳化重合凝集法等のケミカルトナーを用いることができる。特に、ケミカルトナーの場合には、4~8μm程度の小粒径のものが用いられ、形状も球形に近いものから、ポテト状等の球形から外れたものも使用することができる。重合トナーは、帯電均一性、転写性に優れ、高画質化には好適に用いられる。
【0155】
転写行程はコロナ転写、ローラー転写、ベルト転写などの静電転写法、圧力転写法、粘着転写法が用いられる。定着は熱ローラー定着、フラッシュ定着、オーブン定着、圧力定着、IH定着、ベルト定着、IHF定着などが用いられ、これら定着方式は単独で用いてもよく、複数の定着方式を組み合わせた形で使用してもよい。
クリーニングにはブラシクリーナー、磁気ブラシクリーナー、静電ブラシクリーナー、磁気ローラークリーナー、ブレードクリーナーなどが用いられる。
【0156】
除電工程は、省略される場合も多いが、使用される場合には、蛍光灯、LED等が使用され、強度としては露光光の3倍以上の露光エネルギーが使用される場合が多い。これらのプロセスのほかに、前露光工程、補助帯電工程のプロセスを有してもよい。
【0157】
本発明においては、上記ドラム状の感光体1、帯電装置2、現像装置4及びクリーニング装置6等の構成要素の内の複数のものをドラムカートリッジとして一体に結合して構成し、このドラムカートリッジを複写機やレーザービームプリンタ等の電子写真装置本体に対して着脱可能な構成にしてもよい。例えば、帯電装置2、現像装置4及びクリーニング装置6の内、少なくとも1つをドラム状の感光体1と共に一体に支持してカートリッジ化とすることが出来る。
【0158】
また、画像形成装置は更に変形して構成してもよく、例えば、前露光工程、補助帯電工程などの工程を行なうことができる構成としたり、オフセット印刷を行なう構成としたり、更には複数種のトナーを用いたフルカラータンデム方式の構成としてもよい。
【実施例
【0159】
以下、実施例を示して本発明の実施の形態をさらに具体的に説明する。ただし、以下の実施例は本発明を詳細に説明するために示すものであり、本発明はその要旨を逸脱しない限り、以下に示した実施例に限定されるものではなく任意に変形して実施することができる。また、以下の実施例、及び比較例中の「部」の記載は、特に指定しない限り「質量部」であることを示す。
【0160】
≪実施例1-1~1-8及び比較例1-1~1-10≫
<下引き層形成用塗布液の製造>
塗布液A
平均一次粒径40nmのルチル型酸化チタン(石原産業株式会社製「TTO55N」)と、該酸化チタンに対して3質量%のメチルジメトキシシラン(東芝シリコーン社製「TSL8117」)とを、ヘンシェルミキサーにて混合した。得られた表面処理酸化チタン50質量部と、メタノール120質量部を混合してなる原料スラリー1kgを、直径約100μmのジルコニアビーズ(株式会社ニッカトー製 YTZ)を分散メディアとして、ミル容積約0.15Lの寿工業株式会社製ウルトラアペックスミル(UAM-015型)を用い、ロータ周速10m/秒、液流量10kg/時間の液循環状態で1時間分散処理し、酸化チタン分散液を作製した。
【0161】
前記酸化チタン分散液と、メタノール/1-プロパノール/トルエンの混合溶媒、及び、ε-カプロラクタム[下記式Aで表わされる化合物]/ビス(4-アミノ-3-メチルシクロヘキシル)メタン[下記式Bで表わされる化合物]/ヘキサメチレンジアミン[下記式Cで表わされる化合物]/デカメチレンジカルボン酸[下記式Dで表わされる化合物]/オクタデカメチレンジカルボン酸[下記式Eで表わされる化合物]の組成モル比率が、75%/9.5%/3%/9.5%/3%からなる共重合ポリアミドのペレットとを加熱しながら撹拌、混合してポリアミドペレットを溶解させた。その後、出力1200Wの超音波発信器による超音波分散処理を1時間行い、更に孔径5μmのPTFE製メンブレンフィルター(アドバンテック製 マイテックス LC)により濾過し、表面処理酸化チタン/共重合ポリアミドを質量比が3/1であり、メタノール/1-プロパノール/トルエンの混合溶媒の質量比が7/1/2であって、含有する固形分の濃度が18.0質量%の下引き層形成用塗布液Aを得た。
【0162】
【化21】
【0163】
<電荷発生層形成用塗布液の製造>
電荷発生層形成用塗布液B
電荷発生層形成用塗布液は以下のように作製した。電荷発生物質として、図2のX線回折スペクトルで示されるオキシチタニウムフタロシアニン20質量部と1,2-ジメトキシエタン280質量部を混合し、サンドグラインドミルで1時間粉砕して微粒化分散処理を行なった。続いて、この微細化処理液に、ポリビニルブチラール(電気化学工業(株)製、商品名「デンカブチラール」#6000C)10質量部を、1,2-ジメトキシエタンの255質量部と4-メトキシ-4-メチル-2-ペンタノンの85質量部の混合液に溶解させて得られたバインダー液、及び、230質量部の1,2-ジメトキシエタンを混合して電荷発生層形成用塗布液B1を調製した。
【0164】
電荷発生物質として、図3のX線回折スペクトルで示されるオキシチタニウムフタロシアニン20質量部と1,2-ジメトキシエタン280質量部を混合し、サンドグラインドミルで4時間粉砕して微粒化分散処理を行なった。続いて、この微細化処理液に、ポリビニルブチラール(電気化学工業(株)製、商品名「デンカブチラール」#6000C)10質量部を、1,2-ジメトキシエタンの255質量部と4-メトキシ-4-メチル-2-ペンタノンの85質量部の混合液に溶解させて得られたバインダー液、及び、230質量部の1,2-ジメトキシエタンを混合して電荷発生層形成用塗布液B2を調製した。
電荷発生層形成用塗布液B1と電荷発生層形成用塗布液B2を6:4(質量比)の割合で混合し、本実施例で用いる電荷発生層形成用塗布液Bを作製した。
【0165】
<電荷輸送層形成用塗布液の製造>
電荷輸送層形成用塗布液C1
ポリテトラフルオロエチレン粒子(平均一次粒径=0.3μm)(喜多村化学製、KTL-500F、以下KTLと呼ぶ。)を10質量部、フッ素系グラフトポリマー(GF400、東亜合成社製)0.5質量部をテトラヒドロフラン溶媒90質量部に対して加え、1時間超音波分散を行い、一次スラリー液CA1を得た。
【0166】
次にこの一次スラリー液CA1を高圧衝突タイプの分散機(スギノマシン スターバストミニ)を用いて、100MPaまで昇圧しての分散処理を5パス回繰りし、KTL分散液CA2を得た。
CB液として、下記の繰り返し構造で表されるポリカーボネート樹脂64質量部(樹脂X1、粘度平均分子量50,000)、電荷輸送物質として先述した(HT-17)で表される化合物を29質量部、下記式で表される化合物AD1を1質量部、レベリング剤シリコーンオイル(信越化学性KF96-10CS)0.03質量部をテトラヒドロフランとアニゾールが9:1(質量比)の混合溶媒に加熱撹拌して溶解し、固形分の濃度が18質量%のCB液を得た。
前記CB液に前記KTL分散液CA2をフッ素樹脂粒子が6質量部となるように加え、ホモキサーを用いて7000rpmで更に1時間ほど分散し、電荷輸送層形成用塗布液C1を得た。
【0167】
【化22】
【0168】
電荷輸送層形成用塗布液C2
電荷輸送層形成用塗布液C1に用いたKTL分散液CA2のCB液の添加質量部数をフッ素樹脂粒子が11質量部となるように添加したこと以外は、C1と同様にして電荷輸送層形成用塗布液C2を調液した。
【0169】
電荷輸送層形成用塗布液C3
電荷輸送層形成用塗布液C1に用いたKTL分散液CA2のCB液の添加質量部数をフッ素樹脂粒子が16質量部となるように添加したこと以外は、C1と同様にして電荷輸送層形成用塗布液C3を調液した。
【0170】
電荷輸送層形成用塗布液C4
電荷輸送層形成用塗布液C1に用いたKTL分散液CA2の代わりに、超音波分散のみの一次スラリー液CA1をCB液にフッ素樹脂粒子が6質量部となるように添加したこと以外は、C1と同様にして電荷輸送層形成用塗布液C4を調液した。
【0171】
電荷輸送層形成用塗布液C5
電荷輸送層形成用塗布液C4に用いた一次スラリー液CA1のCB液への添加質量部数をフッ素樹脂粒子が11質量部となるように添加したこと以外は、C4と同様にして電荷輸送層形成用塗布液C5を調液した。
【0172】
電荷輸送層形成用塗布液C6
電荷輸送層形成用塗布液C4に用いた一次スラリー液CA1のCB液への添加質量部数をフッ素樹脂粒子が16質量部となるように添加したこと以外は、C4と同様にして電荷輸送層形成用塗布液C6を調液した。
【0173】
電荷輸送層形成用塗布液C7
電荷輸送層形成用塗布液C1に用いたKTL分散液CA2をCB液に添加せずに、CB液をそのまま用いたこと以外は、C1と同様にして電荷輸送層形成用塗布液C7を調液した。
【0174】
電荷輸送層形成用塗布液C8
電荷輸送層形成用塗布液C1に用いたKTL分散液CA2のCB液への添加質量部数をフッ素樹脂粒子が1質量部となるように添加したこと以外は、C1と同様にして電荷輸送層形成用塗布液C8を調液した。
【0175】
電荷輸送層形成用塗布液C9
電荷輸送層形成用塗布液C1に用いたKTL分散液CA2のCB液への添加質量部数をフッ素樹脂粒子が22質量部となるように添加したこと以外は、C1と同様にして電荷輸送層形成用塗布液C9を調液した。
【0176】
電荷輸送層形成用塗布液C10
電荷輸送層形成用塗布液C1に用いたKTL分散液CA2をCB液に添加せず、かつCB液中のCTMを(HT-17)から下記式で表されるHT-20に変更した以外はC1と同様にして電荷輸送層形成用塗布液C10を調液した。
【0177】
【化23】
【0178】
電荷輸送層形成用塗布液C11
電荷輸送層形成用塗布液C1に用いたKTL分散液CA2のCB液への添加質量部数をフッ素樹脂粒子が1質量部となるように添加し、かつCB液中のCTMを(HT-17)から上記(HT-20)に変更した以外はC1と同様にして電荷輸送層形成用塗布液C11を調液した。
【0179】
電荷輸送層形成用塗布液C12
電荷輸送層形成用塗布液C11に用いたKTL分散液CA2のCB液への添加質量部数をフッ素樹脂粒子が6質量部となるように添加したこと以外は、C11と同様にして電荷輸送層形成用塗布液C12を調液した。
【0180】
電荷輸送層形成用塗布液C13
電荷輸送層形成用塗布液C11に用いたKTL分散液CA2のCB液への添加質量部数をフッ素樹脂粒子が11質量部となるように添加したこと以外は、C11と同様にして電荷輸送層形成用塗布液C13を調液した。
電荷輸送層形成用塗布液C14
電荷輸送層形成用塗布液C11に用いたKTL分散液CA2のCB液への添加質量部数をフッ素樹脂粒子が22質量部となるように添加したこと以外は、C11と同様にして電荷輸送層形成用塗布液C14を調液した。
【0181】
電荷輸送層形成用塗布液C15
電荷輸送層形成用塗布液C2に用いたCTMを(HT-17)から下記式で表されるHT-21に変更した以外はC2と同様にして電荷輸送層形成用塗布液C15を調液した。
【0182】
【化24】
【0183】
電荷輸送層形成用塗布液C16
電荷輸送層形成用塗布液C2に用いたCTMを(HT-17)から下記式で表されるHT-22に変更した以外はC2と同様にして電荷輸送層形成用塗布液C16を調液した。
【0184】
【化25】
【0185】
電荷輸送層形成用塗布液C17
ヘキサメチレンジシラザンで表面処理された酸化珪素(平均粒径=0.2μm)(株式会社日本触媒製、製品名 KE-S30を表面処理、以下KET30と呼ぶ)10質量部をテトラヒドロフラン溶媒90質量部に対して加え、1時間超音波分散を行い、一次スラリー液CA17を得た。
【0186】
CB17液として、CB液と同様の繰り返し構造で表されるポリカーボネート樹脂64質量部(樹脂X1、粘度平均分子量50,000)、電荷輸送物質として上記(HT-17)を29質量部、上記化合物AD1を1質量部、レベリング剤シリコーンオイル(信越化学性KF96-10CS)0.03質量部をテトラヒドロフランとアニゾールが9:1(質量比)の混合溶媒に加熱撹拌して溶解し、固形分の濃度が18質量%のCB17液を得た。
前記CB17液に前記一次スラリー液CA17液をKET30が11質量部となるように加え、ホモキサーを用いて7000rpmで更に1時間ほど分散し、電荷輸送層形成用塗布液C17を得た。
【0187】
<感光体ドラムの製造>
上記で得られた電荷輸送層形成用塗布液(塗布液)C1~C17を用いて、表-1に示すように実施例1-1~1-8(塗布液C1~C6、C12、C13)及び比較例1-1~1-10(塗布液C7~C11、C14~C17)に相当する感光体ドラムを以下のように製造した。
表面が切削加工された外径30mm、長さ248mm、肉厚0.75mmのアルミニウム合金よりなるシリンダーに塗布液の製造例で作製した下引き層形成用塗布液、電荷発生層形成用塗布液、電荷輸送層形成用塗布液を浸漬塗布法により順次塗布、乾燥し、乾燥後の膜厚がそれぞれ、1.5μm、0.5μm、36μmとなるように、下引き層、電荷発生層、電荷輸送層を形成し、感光体ドラムを製造した。なお、電荷輸送層の乾燥は、125℃で24分間行なった。
またリーク試験用には、表面が切削加工された外径24mm、長さ255mm、肉厚0.75mmのアルミニウム合金よりなるシリンダーを用いて電荷輸送層の膜厚を20μmとした以外は同様にして感光体ドラムを製造した。
【0188】
<分散性の評価>
感光体表面のフッ素樹脂粒子の分散性を目視若しくは触診にて確認した。結果を表-1に示す。分散性のレベルは以下の通りである。
○:感光体表面の凝集は少なく、また手で触ってもザラザラとした凝集物を感じることはない。
△:特に感光体表面の下端の極一部に凝集がみられる。また手で触るとザラザラとした凝集物を感じる。但し、画像域外のために実用上問題はない。
×:感光体全面に凝集が見られ、また手で触るとザラザラとした凝集物を感じる。画像域内のため、実用上も問題がある。
【0189】
<電気特性の評価>
次に、これら電子写真感光体を、電子写真学会標準に従って作製された電子写真特性評価装置(続電子写真技術の基礎と応用、電子写真学会編、コロナ社(1996年)、404~405頁記載)に装着し、感光体特性測定機に装着し、以下の手順に従って、帯電(マイナス極性)、露光、電位測定、除電のサイクルによる電気特性の25℃/湿度50%RHの環境下で評価を行なった。また、感光体の初期表面電位が-800Vになるように帯電させ、ハロゲンランプの光を干渉フィルターで波長780nmの単色光としたものを照射して、該露光光を0.6μJ/cmの強度で照射したときの40ms後の露光後表面電位(VL)を測定した(-V)。測定データを表-1に示す。
【0190】
<体積抵抗率の測定>
帯電ロールの体積抵抗率を図4に示す装置を用いて測定した。帯電ロールをアルミニウムドラムに押し当て、30rpmで回転させながら測定した。直流電圧を10V以上100V以下の範囲で印加し、各電圧での電流値を測定した。これらの測定値からオームの法則を使い抵抗値を算出した。更に帯電ロールの形状として、帯電ロールがアルミニウムドラムに接触しているニップ幅、帯電ロールの軸芯からアルミニウムドラムまでの幅(導電性弾性層の層幅)、帯電ロールの長さから、体積抵抗率を求めた。抵抗率と体積抵抗率は一般に下記式の関係にある。
R=ρA/L
R:抵抗率
ρ:体積抵抗率
A:アルミニウムドラムに接触する面積
L:導電性弾性層の層幅
【0191】
その結果、実施例1-1~1-8、比較例1-1~1-8及び比較例1-10で使用した帯電ロールの体積抵抗率は1.3MΩ・cmであり、比較例1-9で使用した帯電ロールは10.3MΩ・cmであった。
【0192】
<画像試験>
得られた感光体を、サムスン社製モノクロプリンター ML6510(DCローラ帯電、レーザー露光、非磁性2成分、非接触現像)の感光体カートリッジに搭載して、気温25℃、相対湿度50%下において、印字率5%で、30,000枚の連続印字を行った。30,000枚印刷後に印字前後の膜厚を測定し、感光体1,000回転換算の膜減り量を計算した。結果を表-1に示す。
【0193】
<リーク試験>
得られた感光体を、サムスン社製カラープリンター CLP-680用のカートリッジに、帯電ロールと共に搭載した。このカートリッジを気温32℃、相対湿度80%下において、帯電ロールに-1.5kVから1分ごとに、-0.5kVごとに増加させながら印加し、リークした際の電圧を記録した。電圧の印加はドラムを毎分30回転させながら行った。結果を表-1に示す。
【0194】
【表1】
【0195】
表-1の結果より、実施例1-1~1-6は総合的なバランスに優れている。フッ素樹脂粒子の添加量が多い、比較例1-3及び比較例1-6の分散性は×のレベルであり、粗さの値も大きくなっている。電気特性については、実施例1-1~1-6は、比較例1-7~1-10にと比較して良好であることが分かる。また実施例1-2、実施例1-5と比較例1-10を比較することにより、フッ素樹脂粒子の耐リーク性が良いことも分かる。実施例1-1~1-6と比較例1-1~1-3を比べると、耐摩耗、耐リーク性の観点から、フッ素樹脂粒子の添加量が3~20質量%で本願の効果が得られることが分かる。更に、実施例1-2、1-5、比較例1-8、1-9を比較することにより、体積抵抗の低い帯電ロールを用いても耐リーク性が良好なことが分かる。
【0196】
≪実施例2-1~2-4及び比較例2-1~2-12≫
[実施例2-1]
<下引き層形成用塗布液の製造>
平均一次粒径40nmのルチル型酸化チタン(石原産業株式会社製「TTO55N」)と、該酸化チタンに対して3質量%のメチルジメトキシシラン(東芝シリコーン社製「TSL8117」)とを、ヘンシェルミキサーにて混合した。得られた表面処理酸化チタン50部と、メタノール120部を混合してなる原料スラリー1kgを、直径約100μmのジルコニアビーズ(株式会社ニッカトー製 YTZ)を分散メディアとして、ミル容積約0.15Lの寿工業株式会社製ウルトラアペックスミル(UAM-015型)を用い、ロータ周速10m/秒、液流量10kg/時間の液循環状態で1時間分散処理し、酸化チタン分散液を作製した。
【0197】
前記酸化チタン分散液と、メタノール/1-プロパノール/トルエンの混合溶媒、及び、ε-カプロラクタム[下記式Aで表わされる化合物]/ビス(4-アミノ-3-メチルシクロヘキシル)メタン[下記式Bで表わされる化合物]/ヘキサメチレンジアミン[下記式Cで表わされる化合物]/デカメチレンジカルボン酸[下記式Dで表わされる化合物]/オクタデカメチレンジカルボン酸[下記式Eで表わされる化合物]の組成モル比率が、75%/9.5%/3%/9.5%/3%からなる共重合ポリアミドのペレットとを加熱しながら撹拌、混合してポリアミドペレットを溶解させた。その後、出力1200Wの超音波発信器による超音波分散処理を1時間行い、更に孔径5μmのPTFE製メンブレンフィルター(アドバンテック製 マイテックス LC)により濾過し、表面処理酸化チタン/共重合ポリアミドを質量比が3/1であり、メタノール/1-プロパノール/トルエンの混合溶媒の質量比が7/1/2であって、含有する固形分の濃度が18.0質量%の下引き層形成用塗布液を作製した。
【0198】
【化26】
【0199】
<電荷発生層形成用塗布液の製造>
電荷発生物質として、図2のCuKα特性X線によるX線回折スペクトルを示すオキシチタニウムフタロシアニン20部と1,2-ジメトキシエタン280部とを混合し、サンドグラインドミルで1時間粉砕して微粒化分散処理を行なった。続いてこの微細化処理液に、ポリビニルブチラール(電気化学工業(株)製、商品名「デンカブチラール」#6000C)10部を、1,2-ジメトキシエタンの255部と4-メトキシ-4-メチル-2-ペンタノンの85部との混合液に溶解させて得られたバインダー液、及び230部の1,2-ジメトキシエタンを混合して電荷発生層形成用塗布液を調製した。
【0200】
<電荷輸送層形成用塗布液の製造>
ポリテトラフルオロエチレン樹脂粒子(KTL-500F (株)喜多村化学製 平均一次粒径:0.3μm)10質量部、フッ素系グラフトポリマー(GF400、東亞合成(株)製)0.5質量部をテトラヒドロフラン90質量部と共に撹拌混合後、ボール衝突チャンバーを装着した高圧ホモジナイザー((株)スギノマシン製)を用いて70MPaまで昇圧して分散処理を行うことによりポリテトラフルオロエチレン樹脂粒子懸濁液を得た。
【0201】
次に下記の繰り返し構造で表されるポリカーボネート樹脂100部(樹脂X、粘度平均分子量50,000)、下記式で表される電荷輸送物質CTM-1[E_homo=-4.349eV]を50部、下記式で表される化合物AD1を4部、AD2を1部、ジメチルポリシロキサン(信越化学社製KF96-10CS)0.05部をテトラヒドロフラン/トルエン(80/20(質量比))混合溶媒570部に溶解させ、先に得られたポリテトラフルオロエチレン樹脂粒子懸濁液と混合し、ホモジナイザーで撹拌することで電荷輸送層形成用塗布液を調製した。
【0202】
【化27】
【0203】
<感光体ドラムの製造>
表面が切削加工された外径30mm、長さ254mm、肉厚0.8mmのアルミニウム合金よりなるシリンダーに、塗布液の製造例で作製した下引き層形成用塗布液、電荷発生層形成用塗布液、電荷輸送層形成用塗布液を浸漬塗布法により順次塗布、乾燥し、乾燥後の膜厚がそれぞれ、1.5μm、0.4μm、25μmとなるように、下引き層、電荷発生層、電荷輸送層を形成し、感光体ドラムを製造した。なお、電荷輸送層の乾燥は、125℃で24分間行なった。
【0204】
[実施例2-2]
実施例2-1における<電荷輸送層形成用塗布液の製造>中で用いた電荷輸送物質CTM-1の使用量を60質量部に変更した以外は実施例2-1と同様にして感光体ドラムを作製した。
【0205】
[実施例2-3]
実施例2-1における<電荷輸送層形成用塗布液の製造>中で用いた電荷輸送物質CTM-1の使用量を40質量部に変更した以外は実施例2-1と同様にして感光体ドラムを作製した。
【0206】
[実施例2-4]
実施例2-1における<電荷輸送層形成用塗布液の製造>中で用いた電荷輸送物質CTM-1を下記式で表される電荷輸送物質CTM-2[E_homo=-4.400eV]に変更した以外は実施例2-1と同様にして感光体ドラムを作製した。
【0207】
【化28】
【0208】
[比較例2-1]
実施例2-1における<電荷輸送層形成用塗布液の製造>中で用いた電荷輸送物質を下記式で表される電荷輸送物質CTM-A[E_homo=-4.576eV]に変更した以外は実施例2-1と同様にして感光体ドラムを作製した。
【0209】
【化29】
【0210】
[比較例2-2]
実施例2-1中の<電荷輸送層形成用塗布液の製造>中で用いた電荷輸送物質を比較例2-1と同様に電荷輸送物質CTM-Aとし、その使用量を60質量部に変更した以外は実施例2-1と同様にして感光体ドラムを作製した。
【0211】
[比較例2-3]
実施例2-1中の<電荷輸送層形成用塗布液の製造>中で用いた電荷輸送物質を下記式で表される電荷輸送物質CTM-B[E_homo=-4.603eV]に変更した以外は実施例2-1と同様にして感光体ドラムを作製した。
【0212】
【化30】
【0213】
[比較例2-4]
実施例2-1中の<電荷輸送層形成用塗布液の製造>中で用いた電荷輸送物質を比較例2-3と同様に電荷輸送物質CTM-Bとし、その使用量を60質量部に変更した以外は実施例2-1と同様にして感光体ドラムを作製した。
【0214】
[比較例2-5]
実施例2-1中の<電荷輸送層形成用塗布液の製造>中で用いた電荷輸送物質を下記式で表される電荷輸送物質CTM-C[E_homo=-4.677eV]に変更し、その使用量を60質量部に変更した以外は実施例2-1と同様にして感光体ドラムを作製した。
【0215】
【化31】
【0216】
[比較例2-6]
実施例2-1中の<電荷輸送層形成用塗布液の製造>中で用いた電荷輸送物質を下記式で表される電荷輸送物質CTM-D[E_homo=-4.687eV]に変更し、その使用量を70質量部に変更した以外は実施例2-1と同様にして感光体ドラムを作製した。
【0217】
【化32】
【0218】
[比較例2-7]
実施例2-1と同じ繰り返し構造で表されるポリカーボネート樹脂100部(樹脂X、粘度平均分子量50,000)、前記式で表される電荷輸送物質CTM-1[E_homo=-4.349eV]を50部、前記式で表される化合物AD1を4部、AD2を1部、ジメチルポリシロキサン(信越化学社製KF96-10CS)0.03部をテトラヒドロフラン/トルエン(80/20(質量比))混合溶媒620部に溶解させて電荷輸送層形成用塗布液を調製した以外は、実施例2-1と同様にして感光体ドラムを作製した。
【0219】
[比較例2-8]
比較例2-7中で用いた電荷輸送物質を前記式で表される電荷輸送物質CTM-2[E_homo=-4.400eV]に変更した以外は比較例2-7と同様にして感光体ドラムを作製した。
【0220】
[比較例2-9]
比較例2-7中で用いた電荷輸送物質を前記式で表される電荷輸送物質CTM-A[E_homo=-4.576eV]に変更した以外は比較例2-7と同様にして感光体ドラムを作製した。
【0221】
[比較例2-10]
比較例2-7中で用いた電荷輸送物質を前記式で表される電荷輸送物質CTM-B[E_homo=-4.603eV]に変更した以外は比較例2-7と同様にして感光体ドラムを作製した。
【0222】
[比較例2-11]
比較例2-7中で用いた電荷輸送物質を前記式で表される電荷輸送物質CTM-C[E_homo=-4.677eV]に変更した以外は比較例2-7と同様にして感光体ドラムを作製した。
【0223】
[比較例2-12]
比較例2-7中で用いた電荷輸送物質を前記式で表される電荷輸送物質CTM-D[E_homo=-4.687eV]に変更した以外は比較例2-7と同様にして感光体ドラムを作製した。
【0224】
<繰り返し耐久試験>
室温35℃、相対湿度80%の環境下、実施例及び比較例において作製した電子写真感光体を、電子写真学会標準に従って作製された電子写真特性評価装置(続電子写真技術の基礎と応用、電子写真学会編、コロナ社(1996年)、404~405頁記載)に装着し、以下の手順に従って、帯電(マイナス極性)、露光、電位測定、除電のサイクルによる電気特性の評価を行なった。
【0225】
感光体の初期表面電位が-700Vになるように帯電させ、ハロゲンランプの光を干渉フィルターで波長780nmの単色光としたものを0.8μJ/cmの強度で照射して100ms後に繰り返し耐久試験前の露光後表面電位(VL1)を測定した(-V)。
そして、繰り返し耐久試験前の露光後表面電位を測定後、上記装置で-700Vの帯電と約15μJ/cm強度の除電のサイクルを5000回繰り返し行った後に、表面電位が-700Vになるように帯電させ、ハロゲンランプの光を干渉フィルターで波長780nmの単色光としたものを0.8μJ/cmの強度で照射して100ms後に繰り返し耐久試験後の露光後表面電位(VL2)の測定を行った。
【0226】
繰り返し耐久試験前後の変化量の小さい感光体の方が、繰り返し使用に対して特性変化が小さいことを示し、感光体の電気特性として安定性が高く、耐久性能が優れたものである。
【0227】
【表2】
【0228】
表-2の結果において、繰り返し耐久試験前後の変化量の小さい感光体の方が、繰り返し使用に対して特性変化が小さいことを示し、感光体の電気特性として安定性が高く、耐久性能が優れたものである。
比較例2-1は比較例2-9に比べて大幅にVL2-VL1の値が上昇している一方、実施例2-1は比較例2-7に比べてVL2-VL1の値の上昇が抑えられている。本発明の感光体は繰り返し耐久試験前後の露光後表面電位の変化量が小さく、本発明により繰り返し使用に対して非常に安定性が高く、耐久性能の優れた感光体の提供が可能であることが明らかとなった。
【0229】
本発明を詳細に、また特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。本出願は2017年1月27日出願の日本特許出願(特願2017-012881)及び2017年3月22日出願の日本特許出願(特願2017-056370)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0230】
本発明にかかる電子写真感光体、電子写真感光体カートリッジ及び画像形成装置は、複写機やプリンター等の各種画像形成装置における高品質化や、長寿命化等に著しく寄与することが期待される。
【符号の説明】
【0231】
1 感光体(電子写真感光体)
2 帯電装置(帯電ローラ;帯電部)
3 露光装置(露光部)
4 現像装置(現像部)
5 転写装置
6 クリーニング装置
7 定着装置
41 現像槽
42 アジテータ
43 供給ローラ
44 現像ローラ
45 規制部材
71 上部定着部材(定着ローラ)
72 下部定着部材(定着ローラ)
73 加熱装置
T トナー
P 記録紙(用紙、媒体)
図1
図2
図3
図4