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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-01
(45)【発行日】2022-08-09
(54)【発明の名称】ケーブル及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/00 20060101AFI20220802BHJP
   H01B 7/18 20060101ALI20220802BHJP
   H01B 11/18 20060101ALI20220802BHJP
【FI】
H01B7/00 306
H01B7/18 D
H01B7/18 H
H01B11/18 D
H01B11/18 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019008637
(22)【出願日】2019-01-22
(65)【公開番号】P2020119705
(43)【公開日】2020-08-06
【審査請求日】2021-05-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】特許業務法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐川 英之
(72)【発明者】
【氏名】杉山 剛博
(72)【発明者】
【氏名】末永 和史
【審査官】中嶋 久雄
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-081938(JP,A)
【文献】特開2008-060062(JP,A)
【文献】特許第6245402(JP,B1)
【文献】特開2009-181792(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0013559(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/00
H01B 7/18
H01B 11/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
線状の導体と、
前記導体の周囲を被覆する第1の絶縁体と、
前記第1の絶縁体の表面を被覆するめっき層からなるシールドと、
前記シールドの表面を被覆する第2の絶縁体と、
を備え、
端末処理の際に前記第2の絶縁体を除去して前記シールドを露出させるシールド露出部を少なくとも一方の端部に有し、
前記シールド露出部における前記シールドと前記第2の絶縁体との密着性が、その他の部分における前記シールドと前記第2の絶縁体との密着性よりも低い
ケーブル。
【請求項2】
前記その他の部分における前記シールドの表面の算術平均粗さRaが0.5μm以上、10μm以下の範囲にある、
請求項1に記載のケーブル。
【請求項3】
線状の導体が第1の絶縁体に被覆され、前記第1の絶縁体の表面にめっき層であるシールドが形成された線状部材を用意する工程と、
前記シールドの表面に、前記線状部材の長手方向に沿って断続的に、粗化処理と親水化処理の少なくともいずれか一方を含む表面処理を施す工程と、
前記表面処理の後、前記シールドの表面に塗装により第2の絶縁体を形成する工程と、
前記第2の絶縁体が形成された前記線状部材を、前記シールドに前記表面処理が施されていない部分で切断する工程と、
を含み、
前記シールドに前記表面処理が施されていない部分が、端末処理の際に前記第2の絶縁体を除去して前記シールドを露出させる部分である、
ケーブルの製造方法。
【請求項4】
前記粗化処理が、ブラスト処理、又は前記シールドを腐食させることのできる薬液を用いたエッチングにより実施される、
請求項3に記載のケーブルの製造方法。
【請求項5】
前記塗装が、前記第2の絶縁体の材料である絶縁塗料の吹付け又は塗布により実施される、
請求項3又は4に記載のケーブルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケーブル及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シールドがめっき処理により形成されたケーブルが知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、一対の信号線と、信号線の周囲を被覆する絶縁体層と、絶縁体層を被覆するシールドとしてのめっき層と、めっき層の周囲を被覆する外側絶縁層を備えたケーブルが記載されている。
【0003】
従来、一般的には、銅箔と絶縁膜が積層されたテープを巻き付けてシールドを形成する方法が用いられている。この方法によれば、銅箔がシールド、絶縁膜がシールドを被覆する絶縁体として機能するため、シールドと絶縁体が同時に形成される。しかしながら、このテープを巻き付けてシールドを形成する方法は作業性が悪く、巻き付け対象である絶縁体との間に空隙が生じやすいという問題がある。
【0004】
シールドをめっき処理により形成する場合には、このようなテープを巻き付ける方法の問題点を解消することができるが、めっき層の周囲を被覆する外側の絶縁体をシールドとは別工程で形成する必要がある。特許文献1には、外側絶縁層の形成方法として、絶縁テープやラミネートテープを用いる方法、絶縁体をスプレー塗布する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6245402号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、めっき層からなるシールドを絶縁体で被覆する場合、シールドと絶縁体の密着性を高める必要があり、一方で、シールドと絶縁体の密着性を高めると、ケーブルの端末処理の際に絶縁体を除去してシールドを露出させることが困難になる。
【0007】
したがって、本発明の目的は、めっき層からなるシールドとその周囲を被覆する絶縁体の密着性が高く、かつ端末処理が容易な構造を有するケーブル及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決することを目的として、線状の導体と、前記導体の周囲を被覆する第1の絶縁体と、前記絶縁体の表面を被覆するめっき層からなるシールドと、前記シールドの表面を被覆する第2の絶縁体と、を備え、端末処理の際に第2の絶縁体を除去して前記シールドを露出させるシールド露出部を少なくとも一方の端部に有し、前記シールド露出部における前記シールドと前記第2の絶縁体との密着性が、その他の部分における前記シールドと前記第2の絶縁体との密着性よりも低い、又は、前記シールド露出部における前記シールドが前記第2の絶縁体に被覆されない、ケーブルを提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、めっき層からなるシールドとその周囲を被覆する絶縁体の密着性が高く、かつ端末処理が容易な構造を有するケーブル及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、第1の実施の形態に係るケーブルの斜視図である。
図2図2は、端末処理の際のシールドへの接地線のはんだ接続などのために、端部の第2の絶縁体を除去してシールドを露出させたケーブルの斜視図である。
図3図3は、分割前のケーブルの、シールド露出部の位置及び切断位置を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
〔実施の形態〕
(線状部材の構造)
図1は、第1の実施の形態に係るケーブル1の斜視図である。ケーブル1は、導体10と、導体10の周囲を被覆する線状の第1の絶縁体11と、第1の絶縁体11の表面(外周面)を直接被覆するめっき層であるシールド12と、シールド12の表面(外周面)を直接被覆する第2の絶縁体13を備える。ケーブル1の直径は、例えば、0.1~5.0μmである。
【0012】
線状の導体10は、ケーブル1の芯線であり、銅などの導体からなる。また、導体10は、屈曲特性を確保するために、複数の導線を撚って形成される撚線であってもよい。ケーブル1に含まれる導体10の本数は特に限定されず、ケーブル1の形態に応じて適宜設定される。図1に示される例では、ケーブル1は、ツイナックス構造を有する差動信号用ケーブルであり、2本の導体10を備える。
【0013】
第1の絶縁体11は、図示されない他の部材を介して導体10を被覆してもよい。すなわち、第1の絶縁体11は、直接又は間接的に導体10を被覆する。
【0014】
第1の絶縁体11の材料は、めっき層であるシールド12を形成するために用いられる触媒液やめっき液に触れても溶けない材料であれば、特に限定されないが、典型的には、ポリエチレン又はフッ素樹脂である。特に、ポリエチレンは入手性がよく、また、耐電子線性能が高いため、第1の絶縁体11の材料として好ましい。フッ素樹脂としては、具体的には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフロロアルコキシ(PFA)、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー(FEP)、エチレン・テトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロジオキソールコポリマー(TFE/PDD)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン-クロロトリフロオロエチレンコポリマー(ECTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)などを用いることができる。
【0015】
また、誘電率、誘電正接を小さくするため、第1の絶縁体11の材料として、発泡絶縁樹脂を用いてもよい。この場合、例えば、樹脂に発泡剤を混練させて、成型時の温度や圧力によって発泡度を制御する方法、窒素などの不活性ガスを成型圧力により樹脂へ注入し、圧力解放時に発泡させる方法などを用いて第1の絶縁体11を形成することができる。
【0016】
ケーブル1の径方向の断面において、第1の絶縁体11の外縁の形状は、円形、楕円形、角丸長方形(角が丸められた長方形)であることが好ましい。この場合、第1の絶縁体11の表面全体に均一な厚さでめっき層を形成することが容易になる。また、第1の絶縁体11の表面全体に均一に後述する粗化処理及び親水化処理を行うことが容易になる。
【0017】
第1の絶縁体11の表面には、シールド12との密着性を向上させるための表面処理が施されていることが好ましい。表面処理は、粗化処理と親水化処理の少なくともいずれかが含まれる。
【0018】
第1の絶縁体11の表面に粗化処理が施されている場合、第1の絶縁体11は凹凸を表面に有する。これにより、シールド12を形成する際のめっき処理において、触媒が第1の絶縁体11の表面から脱離しにくくなる。また、シールド12が凹部に入り込むことによりアンカー効果が生じる。その結果、めっき層であるシールド12と第1の絶縁体11との密着性が向上する。さらに、第1の絶縁体11の表面積が大きくなるため、後述する親水化処理による、表面ぬれ性の向上に寄与する極性官能基の生成量が増加する。
【0019】
上記の第1の絶縁体11の表面の粗化処理には、例えば、ブラスト処理を用いることができる。ブラスト処理としては、ドライアイスの粒子を噴射剤として用いるドライアイスブラスト、アルミナ、SiCなどの粒子を噴射剤として用いるサンドブラスト、水と研磨材の混合液(スラリー)を噴射剤として用いるウェットブラストなどを用いることができる。
【0020】
特に、第1の絶縁体11の表面の粗化処理には、ドライアイスブラストを用いることが好ましい。ドライアイスは常圧下で昇華し、処理後に第1の絶縁体11の表面に残らないため、ドライアイスブラストを用いた場合は、処理後の洗浄工程が不要になる。
【0021】
第1の絶縁体11の表面の粗化処理にブラスト処理を用いる場合、ブラストの噴射剤の粒径、ブラストの噴射圧力(吹付圧力)、ブラスト装置の噴射ノズルと第1の絶縁体11との距離、第1の絶縁体11の硬さなどを調整することにより、第1の絶縁体11の表面の粗さを制御することができる。
【0022】
また、薬液の濃度や温度により薬液と第1の絶縁体11の反応速度を調整して、第1の絶縁体11の表面の粗さを制御することができる場合は、ナトリウムナフタレン錯体溶液やクロム酸溶液などの薬液を用いた湿式のエッチング処理を第1の絶縁体11の粗化処理に用いてもよい。ただし、第1の絶縁体11がポリエチレン又はフッ素樹脂からなる場合は、処理に非常に時間が掛かるため、クロム酸溶液を用いたエッチング処理の使用は現実的ではない。
【0023】
また、第1の絶縁体11の押出成形の際に、短周期の脈動を実施することにより、第1の絶縁体11の表面の粗化処理を実施してもよい。また、押出機の口金内壁に第1の絶縁体11の表面を粗化するための凹凸を設け、第1の絶縁体11の押出成形の際に第1の絶縁体11の表面の粗化処理を実施してもよい。
【0024】
また、第1の絶縁体11は、親水化処理により表面のぬれ性が高められていることが好ましい。親水化処理を施すことにより、第1の絶縁体11の表面に極性官能基を生成することができ、それによってぬれ性が向上する。ここで、極性官能基は、カルボニル基やヒドロキシ基などの極性を有する官能基(親水基)である。一般に、極性官能基の存在は表面ぬれ性に直結する(例えば、中島 章著、固体表面の濡れ性 超親水性から超撥水性まで(共立出版(株)、2014年)を参照)。
【0025】
第1の絶縁体11の表面のぬれ性が向上することにより、めっき処理に用いられる触媒液やめっき液が第1の絶縁体11の表面と全周にわたって接触しやすくなる。その結果、めっき層であるシールド12と第1の絶縁体11との密着性が向上し、また、シールド12の厚さの均一性が向上する。シールド12と第1の絶縁体11との密着性が向上することにより、シールド12と第1の絶縁体11との間に空隙が形成されることによるケーブル1の伝送特性の低下を抑えることができる。また、シールド12の厚さの均一性が向上することにより、シールド12の厚さのばらつきに起因するケーブル1の伝送特性の低下を抑えることができる。また、第1の絶縁体11の表面に粗化処理と親水化処理の両方を実施することにより、シールド12を形成する際のめっき処理において、めっき液が粗化処理により形成された凹凸の凹部に入り込みやすくなり、より第1の絶縁体11の表面に広がりやすくなる。
【0026】
第1の絶縁体11の親水化処理には、例えば、コロナ放電暴露、大気組成ガスや希ガスを混合したガス中のプラズマ暴露、紫外線照射、電子線照射、γ線照射、X線照射、イオン線照射、オゾン含有液浸漬などを用いることができる。
【0027】
例えば、第1の絶縁体11の親水化処理に、放電プローブからコロナ放電光を噴出する形式の装置によるコロナ放電暴露を用いる場合、電圧出力、暴露時間、第1の絶縁体11の表面と放電プローブの先端の距離などを調整することにより、第1の絶縁体11の表面に生成される極性官能基の量を制御することができる。
【0028】
シールド12は、第1の絶縁体11の表面にめっき処理を施すことにより形成されるめっき層である。シールド12は、銅などの金属からなる。シールド12の厚さは、例えば、1~10μmである。
【0029】
シールド12はめっき層であるため、従来一般的に用いられている、絶縁体の周囲に巻き付けられた金属テープからなるシールドと比べて、第1の絶縁体11との間に空隙が生じにくく、この空隙の形成による伝送特性の低下を抑えることができる。特に、ケーブル1が高速伝送用ケーブルなどの細径のケーブルである場合は、金属テープの巻き付けが難しく、より空隙が生じやすいため、めっき層をシールドに用いることによる効果が大きい。
【0030】
また、シールド12はめっき層であるため、金属テープからなるシールドのように、巻きつけに必要な機械的強度が得られる厚さを有する必要がなく、ケーブル1においてノイズを抑制できるだけの厚さを有していればよい。例えば、一般的な電子機器のシールドに必要な1/30~1/1000のノイズ減弱を想定した場合(例えば、技術解説 電磁シールドについて、岡山県工業技術センター・技術情報、No.457、p.5を参照)、表皮効果の原理上、銅シールド層であれば1~2μmにまで薄くしても、数10GHz帯域では、ほぼ所望のシールド効果を得られる。このため、シールド12の厚さを金属テープからなるシールドの厚さの約1/10にすることができる。例えば、表面処理後のめっき処理により、数10nm~数10μmの均一な厚さを有するシールド12を形成することができる。
【0031】
シールド12の表面には、第2の絶縁体13との密着性を向上させるための表面処理が施されている。表面処理は、第1の絶縁体11の表面に施されるものと同様であり、粗化処理と親水化処理の少なくともいずれかが含まれる。なお、この表面処理はシールド12の表面の全体に施されているのではなく、ケーブル1の少なくとも一方の端部にはシールド12の表面処理が施されていない部分が存在するが、それについては後述する。
【0032】
シールド12の表面に粗化処理が施されている場合、シールド12は凹凸を表面に有する。また、第2の絶縁体13が凹部に入り込むことによりアンカー効果が生じる。その結果、第2の絶縁体13とシールド12との密着性が向上する。さらに、シールド12の表面積が大きくなるため、親水化処理による、表面ぬれ性の向上に寄与する極性官能基の生成量が増加する。
【0033】
第2の絶縁体13とシールド12との密着性をより大きくするためには、シールド12の表面の表面処理が施された部分の算術平均粗さRaが0.5μm以上であることが好ましい。また、伝送損失の低下を抑制するため、シールド12の表面の表面処理が施された部分の算術平均粗さRaは10μm以下であることが好ましい。シールド12の表面の算術平均粗さRaは、レーザー顕微鏡などにより測定することができる。
【0034】
上記のシールド12の表面の粗化処理には、ブラスト処理などの第1の絶縁体11の表面の粗化処理と同様の処理を用いることができる。
【0035】
シールド12の表面の粗化処理にブラスト処理を用いる場合、アルミナ、SiCなどの硬い粒子を噴射剤として用いるサンドブラストを用いることが好ましい。これは、金属からなるシールド12が第1の絶縁体11などよりも硬いためであり、例えば、ドライアイスを噴射剤として用いるドライアイスブラストでは、シールド12の表面を効率的に粗化することが難しい。
【0036】
シールド12の表面の粗化処理にブラスト処理を用いる場合、ブラストの噴射剤の粒径、ブラストの噴射圧力(吹付圧力)、ブラスト装置の噴射ノズルとシールド12との距離などを調整することにより、シールド12の表面の粗さを制御することができる。
【0037】
また、シールド12を構成する金属を腐食させることのできる薬液を使ったエッチング処理を粗化処理に用いても良い。例えば、シールド12が銅からなる場合は、硝酸を薬液として用いるエッチング処理を用いることができる。
【0038】
エッチング処理を粗化処理に用いる場合、薬液の濃度や温度により腐食反応の速度を調整して、シールド12の表面の粗さを制御することができる。
【0039】
また、シールド12は、親水化処理により表面のぬれ性が高められていることが好ましい。親水化処理を施すことにより、シールド12の表面に極性官能基を生成することができ、それによってぬれ性が向上する。
【0040】
シールド12の表面のぬれ性が向上することにより、第2の絶縁体13を形成する際の塗装工程において、絶縁塗料がシールド12の表面と全周にわたって接触しやすくなる。その結果、第2の絶縁体13とシールド12との密着性が向上する。また、第2の絶縁体13の厚さや品質の均一性が高くなる。また、シールド12の表面に粗化処理と親水化処理の両方を実施することにより、第2の絶縁体13を形成する際の塗装工程において、絶縁塗料が粗化処理により形成された凹凸の凹部に入り込みやすくなり、よりシールド12の表面に広がりやすくなる。
【0041】
シールド12の親水化処理には、コロナ放電暴露などの第1の絶縁体11の表面の親水化処理と同様の処理を用いることができる。
【0042】
例えば、シールド12の親水化処理に、放電プローブからコロナ放電光を噴出する形式の装置によるコロナ放電暴露を用いる場合、電圧出力、暴露時間、シールド12の表面と放電プローブの先端の距離などを調整することにより、シールド12の表面に生成される極性官能基の量を制御することができる。
【0043】
第2の絶縁体13は、ケーブル1における保護材などとして機能する部材であり、ポリウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリイミド樹脂などを用いて形成することができる。第2の絶縁体13の厚さは、例えば、1~20μmである。
【0044】
第2の絶縁体13は、シールド12の表面に第2の絶縁体の材料である絶縁塗料を塗装することにより形成される。この絶縁塗料の塗装は、スプレーによる吹付け、ハケやローラーによる塗布、浸漬塗装(第2の絶縁体13を形成する前のケーブル1を絶縁塗料に浸漬する方法)などにより実施される。
【0045】
図2は、端末処理の際のシールド12への接地線のはんだ接続などのために、端部の第2の絶縁体13を除去してシールド12を露出させたケーブル1の斜視図である。以下、このケーブル1の第2の絶縁体13を除去してシールド12を露出させる部分をシールド露出部14とする。シールド露出部14は、ケーブル1の少なくとも一方の端部に設けられ、典型的には、両端に設けられる。
【0046】
上述のように、シールド12の表面には、第2の絶縁体13との密着性を高めるための表面処理が施されているが、シールド露出部14におけるシールド12の表面には、表面処理が施されていない。これは、シールド露出部14における第2の絶縁体13の除去を容易にするためである。
【0047】
ケーブル1においては、シールド露出部14におけるシールド12と第2の絶縁体13との密着性が、その他の部分におけるシールド12と第2の絶縁体13との密着性よりも低い。
【0048】
また、第2の絶縁体13を形成する工程において、シールド12の表面処理が施されていない領域には、絶縁塗料がうまく塗布されず、第2の絶縁体13が形成されない場合もある。この場合は、ケーブル1のシールド露出部14におけるシールド12は、第2の絶縁体13に被覆されない。
【0049】
(ケーブルの製造方法)
以下、本実施の形態に係るケーブル1の製造方法の一例について説明する。
【0050】
まず、従来の押出成形などにより、導体10の周囲を第1の絶縁体11で被覆する。
【0051】
次に、第1の絶縁体11の表面に上述の表面処理を施した後、めっき処理を施して、めっき層であるシールド12を形成する。めっき処理は、例えば、無電解めっき処理と電解めっき処理を含む。以下、ここまでの工程を経て得られた、導体10、第1の絶縁体11、及びシールド12から構成される部材を線状部材と呼ぶ。
【0052】
次に、シールド12の表面に、線状部材の長手方向に沿って断続的に、粗化処理と親水化処理の少なくともいずれか一方を含む上述の表面処理を施す。このとき、シールド12の表面のシールド露出部14に含まれる部分には、表面処理を施さない。
【0053】
例えば、粗化処理にブラスト処理を用いる場合には、シールド12の表面のシールド露出部14に含まれない領域にのみ噴射剤を噴射したり、シールド12の表面のシールド露出部14に含まれる領域をマスクした状態でシールド12の表面の全領域に噴射剤を噴射したりする。また、粗化処理にエッチング処理を用いる場合には、シールド12の表面のシールド露出部14に含まれる領域をマスクした状態で薬液に浸漬する。
【0054】
次に、シールド12の表面に塗装により第2の絶縁体13を形成する。このとき、シールド12の表面の表面処理が施されていない部分(シールド露出部14に含まれる部分)に第2の絶縁体13が形成される場合は、シールド露出部14におけるシールド12と第2の絶縁体13との密着性が、その他の部分におけるシールド12と第2の絶縁体13との密着性よりも低くなる。
【0055】
また、シールド12の表面の表面処理が施されていない部分に第2の絶縁体13が形成されない場合は、シールド露出部14におけるシールド12は、第2の絶縁体13に被覆されない。
【0056】
以下、第2の絶縁体が形成された線状部材をケーブル2と呼ぶ。
【0057】
次に、ケーブル2をシールド12に表面処理が施されていない部分、すなわちシールド露出部14で切断し、ケーブル1を得る。
【0058】
図3は、ケーブル1に分割する前のケーブル2の、シールド露出部14の位置及び切断位置を示す概念図である。例えば、ケーブル2を図3の点線A-Aで示される位置で切断、すなわちケーブル2の長さ方向のシールド露出部14の途中で切断すると、両端にシールド露出部14を有するケーブル1が得られる。また、ケーブル2を図3の点線B-Bで示される位置で切断、すなわちケーブル2の長さ方向のシールド露出部14の端で切断すると、一方の端部にシールド露出部14を有するケーブル1が得られる。
【0059】
(実施の形態の効果)
上記実施の形態によれば、シールドとその周囲を被覆する絶縁体の密着性が高く、かつ端末処理が容易な構造を有するケーブル及びその製造方法を提供することができる。
【0060】
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号等は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0061】
[1]線状の導体(10)と、導体(10)の周囲を被覆する第1の絶縁体(11)と、第1の絶縁体(11)の表面を被覆するめっき層からなるシールド(12)と、シールド(12)の表面を被覆する第2の絶縁体(13)と、を備え、端末処理の際に第2の絶縁体(13)を除去してシールド(12)を露出させるシールド露出部(14)を少なくとも一方の端部に有し、シールド露出部(14)におけるシールド(12)と第2の絶縁体(13)との密着性が、その他の部分におけるシールド(12)と第2の絶縁体(13)との密着性よりも低い、又は、シールド露出部(14)におけるシールド(12)が第2の絶縁体(13)に被覆されない、ケーブル(1)。
【0062】
[2]前記その他の部分におけるシールド(12)の表面の算術平均粗さRaが0.5μm以上、10μm以下の範囲にある、上記[1]に記載のケーブル(1)。
【0063】
[3]線状の導体(10)が第1の絶縁体(11)に被覆され、第1の絶縁体(11)の表面にめっき層であるシールド(12)が形成された線状部材を用意する工程と、シールド(12)の表面に、前記線状部材の長手方向に沿って断続的に、粗化処理と親水化処理の少なくともいずれか一方を含む表面処理を施す工程と、前記表面処理の後、シールド(12)の表面に塗装により第2の絶縁体(13)を形成する工程と、第2の絶縁体(13)が形成された線状部材(2)を、シールド(12)に前記表面処理が施されていない部分で切断する工程と、を含み、シールド(12)に前記表面処理が施されていない部分が、端末処理の際に第2の絶縁体(13)を除去してシールド(12)を露出させる部分である、ケーブル(1)の製造方法。
【0064】
[4]前記粗化処理が、ブラスト処理、又はシールド(12)を腐食させることのできる薬液を用いたエッチングにより実施される、上記[3]に記載のケーブル(1)の製造方法。
【0065】
[5]前記塗装が、第2の絶縁体(13)の材料である絶縁塗料の吹付け又は塗布により実施される、上記[3]又は[4]に記載のケーブル(1)の製造方法。
【0066】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、上記実施の形態に限定されず、発明の主旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施が可能である。
【0067】
また、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0068】
1、2 ケーブル
10 導体
11 第1の絶縁体
12 シールド
13 第2の絶縁体
図1
図2
図3