IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 旭硝子株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-結晶化ガラスおよび化学強化ガラス 図1
  • 特許-結晶化ガラスおよび化学強化ガラス 図2
  • 特許-結晶化ガラスおよび化学強化ガラス 図3
  • 特許-結晶化ガラスおよび化学強化ガラス 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-01
(45)【発行日】2022-08-09
(54)【発明の名称】結晶化ガラスおよび化学強化ガラス
(51)【国際特許分類】
   C03C 10/12 20060101AFI20220802BHJP
   C03C 21/00 20060101ALI20220802BHJP
【FI】
C03C10/12
C03C21/00 101
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019532615
(86)(22)【出願日】2018-07-23
(86)【国際出願番号】 JP2018027578
(87)【国際公開番号】W WO2019022034
(87)【国際公開日】2019-01-31
【審査請求日】2021-02-09
(31)【優先権主張番号】P 2017144868
(32)【優先日】2017-07-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018002200
(32)【優先日】2018-01-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018043494
(32)【優先日】2018-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】李 清
(72)【発明者】
【氏名】小池 章夫
(72)【発明者】
【氏名】金原 一樹
【審査官】有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-228180(JP,A)
【文献】特開平11-228181(JP,A)
【文献】特開2000-044282(JP,A)
【文献】特開2006-330010(JP,A)
【文献】特開2001-348250(JP,A)
【文献】特開2001-316132(JP,A)
【文献】特開2002-154840(JP,A)
【文献】国際公開第2016/154235(WO,A1)
【文献】特開平01-052631(JP,A)
【文献】特開平03-023237(JP,A)
【文献】特開昭61-101434(JP,A)
【文献】特表2007-527354(JP,A)
【文献】特開2010-116315(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00-14/00
C03C 21/00
C03B 32/02
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さが0.8mmに換算した可視光透過率が85%以上の結晶化ガラスであって、厚さ0.8mm換算のヘーズ値が1.0%以下であり、
酸化物基準の質量%表示で、
SiOを58~70%、
Alを15~30%、
LiOを4~10%、
NaOを1.99~5%、
Oを0~2%、
SrOを0~1.8%、
BaOを0~2%、
SnOを0.5~6%、
ZrO2.28~6%、
~6%含有し、
SrOおよびBaOの含有量の合計が0.5~2%であり、
NaOおよびKOの含有量の合計が1~5%であり、
SnOおよびZrOの含有量の合計が3%以上である結晶化ガラス。
【請求項2】
β-スポジュメンを含有する請求項1に記載の結晶化ガラス。
【請求項3】
SrOを0.1%以上含有する請求項1または2に記載の結晶化ガラス。
【請求項4】
厚さ0.8mm換算のヘーズ値が0.6%以下である請求項1~3のいずれか一項に記載の結晶化ガラス。
【請求項5】
表面に圧縮応力層を有する化学強化ガラスであって、
厚さが0.8mmに換算した可視光透過率が85%以上、かつ厚さ0.8mm換算のヘーズ値が1.0%以下であり、
表面圧縮応力が600MPa以上かつ圧縮応力深さが80μm以上であり、
酸化物基準の質量%表示で、
SiOを58~70%、
Alを15~30%、
LiOを4~10%、
NaOを0~5%、
Oを0~2%、
SrOを0~1.8%、
BaOを0~2%、
SnOを0.5~6%、
ZrOを0.5~6%、
を0~6%含有し、
SrOおよびBaOの含有量の合計が0.5~2%であり、
NaOおよびKOの含有量の合計が1~5%であり、
SnOおよびZrOの含有量の合計が3%以上の結晶化ガラスである化学強化ガラス。
【請求項6】
β-スポジュメンを含有する請求項5に記載の化学強化ガラス。
【請求項7】
圧縮応力値が50MPa以上である最大の深さが80μm以上である請求項5または6に記載の化学強化ガラス。
【請求項8】
50℃~350℃における平均熱膨張係数が30×10-7/℃以下である請求項5~7のいずれか一項に記載の化学強化ガラス。
【請求項9】
ビッカース硬さが720以上である請求項5~8のいずれか一項に記載の化学強化ガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶化ガラスおよび化学強化ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯端末のカバーガラス等には、化学強化ガラスが用いられている。
化学強化ガラスは、例えばアルカリ金属イオンを含む溶融塩にガラスを接触させて、ガラス中のアルカリ金属イオンと、溶融塩中のアルカリ金属イオンとの間でイオン交換を生じさせ、ガラス表面に圧縮応力層を形成したものである。
【0003】
結晶化ガラスは、ガラス中に結晶を析出させたものであり、結晶を含まない非晶質ガラスと比較して硬く、傷つきにくい。特許文献1には、結晶化ガラスをイオン交換処理して化学強化した例が記載されている。しかし、結晶化ガラスは、透明性の点で非晶質ガラスに及ばない。
【0004】
特許文献2には、透明結晶化ガラスが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】日本国特表2016-529201号公報
【文献】日本国特開昭64-52631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、透明結晶化ガラスでもカバーガラスに適するほどの高い透明性を有するものは少ない。また、特許文献2に記載の結晶化ガラスは化学強化されていないので、カバーガラスとしては強度が不十分である。
結晶化ガラスの化学強化特性は、ガラス組成や析出結晶の影響を強く受ける。結晶化ガラスの傷付きにくさや透明性も、ガラス組成や析出結晶の影響を強く受ける。そこで、化学強化特性と透明性の両方が優れる結晶化ガラスを得るためには、ガラス組成や析出結晶の微妙な調整が必要となる。
本発明は、透明性と化学強化特性に優れた結晶化ガラスを提供する。また、透明性と強度に優れ、かつ傷つきにくい化学強化ガラスを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、厚さが0.8mmに換算した可視光透過率が85%以上の結晶化ガラスであって、厚さ0.8mm換算のヘーズ値が1.0%以下であり、酸化物基準の質量%表示で、
SiOを58~70%、
Alを15~30%、
LiOを2~10%、
NaOを0~5%、
Oを0~2%、
SrOを0~1.8%、
BaOを0~2%、
SnOを0.5~6%、
ZrOを0.5~6%、
を0~6%含有し、
SrOおよびBaOの含有量の合計が0.1~3%であり、
NaOおよびKOの含有量の合計が1~5%である結晶化ガラスを提供する。
【0008】
また本発明は、表面に圧縮応力層を有する化学強化ガラスであって、厚さが0.8mmに換算した可視光透過率が85%以上、厚さ0.8mm換算のヘーズ値が1.0%以下であり、表面圧縮応力が600MPa以上かつ圧縮応力深さが80μm以上であり、酸化物基準の質量%表示で、
SiOを58~70%、
Alを15~30%、
LiOを2~10%、
NaOを0~5%、
Oを0~2%、
SrOを0~1.8%、
BaOを0~2%、
SnOを0.5~6%、
ZrOを0.5~6%、
を0~6%含有し、
SrOおよびBaOの含有量の合計が0.1~3%であり、
NaOおよびKOの含有量の合計が1~5%の結晶化ガラスである化学強化ガラスを提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、透明性と化学強化特性に優れた結晶化ガラスが得られる。また、透明性と機械的強度に優れ、傷つきにくい化学強化ガラスが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、化学強化ガラスの応力プロファイルの一例を示す図である。
図2図2は、結晶化ガラスの粉末X線回折パターンの一例を示す図である。
図3図3は、結晶化ガラス表面のSEM像の一例を示す。
図4図4は、結晶化ガラスのTEM像の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において数値範囲を示す「~」とは、特段の定めがない限り、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0012】
本明細書においては、「非晶質ガラス」と「結晶化ガラス」とを合わせて「ガラス」という。本明細書において「非晶質ガラス」とは、粉末X線回折法によって、結晶を示す回折ピークが認められないガラスをいう。「結晶化ガラス」とは、「非晶質ガラス」を加熱処理して、結晶を析出させたものであり、結晶を含有する。
粉末X線回折測定は、CuKα線を用いて2θが10°~80°の範囲を測定し、回折ピークが現れた場合には、例えば、3強線法によって析出結晶を同定する。
【0013】
以下において、「化学強化ガラス」は、化学強化処理を施した後のガラスを指し、「化学強化用ガラス」は、化学強化処理を施す前のガラスを指す。
また、「化学強化ガラスの母組成」とは、化学強化用ガラスのガラス組成であり、極端なイオン交換処理がされた場合を除いて、化学強化ガラスの圧縮応力深さDOLより深い部分のガラス組成は化学強化ガラスの母組成である。
【0014】
本明細書において、ガラス組成は、特に断らない限り酸化物基準の質量%表示で表し、質量%を単に「%」と表記する。
また、本明細書において「実質的に含有しない」とは、原材料等に含まれる不純物レベル以下である、つまり意図的に加えたものではないことをいう。具体的には、たとえば0.1%未満である。
【0015】
本明細書において「応力プロファイル」はガラス表面からの深さを変数として圧縮応力値を表したものをいう。一例を図1図2に示す。応力プロファイルにおいて、引張応力は負の圧縮応力として表される。
「圧縮応力値(CS)」は、ガラスの断面を薄片化し、該薄片化したサンプルを複屈折イメージングシステムで解析することによって測定できる。複屈折イメージングシステムとしては、例えば、東京インスツルメンツ製複屈折イメージングシステムAbrio-IMがある。また、散乱光光弾性を利用しても測定できる。この方法では、ガラスの表面から光を入射し、その散乱光の偏光を解析してCSを測定できる。散乱光光弾性を利用した応力測定器としては、例えば、折原製作所製散乱光光弾性応力計SLP-1000がある。
また、「圧縮応力層深さ(DOL)」は、圧縮応力値がゼロとなる深さである。
【0016】
以下では表面圧縮応力をCS、深さがDOL/4における圧縮応力をCS、深さがDOL/2における圧縮応力をCSと記載することがある。
また、圧縮応力値がCS/2となる深さをDOLとし、次の式で表されるmをガラス表面から深さDOLにおける応力プロファイルの傾きとする。
=(CS-CS/2)/(0-DOL
次の式で表されるmを深さDOL/4から深さDOL/2における応力プロファイルの傾きとする。
=(CS-CS)/(DOL/4-DOL/2)
次の式で表されるmを深さDOL/2から深さDOLにおける応力プロファイルの傾きとする。
=(CS-0)/(DOL/2-DOL)
【0017】
本明細書において「内部引張応力(CT)」は、板厚tの1/2の深さにおける引張応力値をいう。
【0018】
本明細書において「可視光透過率」は、波長380nm~780nmの光における平均透過率をいう。また、「ヘーズ値」はC光源を使用し、JIS K3761:2000に従って測定する。
本明細書において、「ソラリゼーション耐性」は、ソラリゼーションを生じにくいガラスの性質である。
【0019】
本明細書において「ビッカース硬度」は、JIS R1610:2003に規定されるビッカース硬さ(HV0.1)である。
また、「破壊靭性値」は、JIS R1607:2010に規定される圧子圧入法(IF法)破壊靭性値をいう。
【0020】
<結晶化ガラス>
本発明の結晶化ガラスは、β-スポジュメンが析出した結晶化ガラスが好ましい。β-スポジュメンは、LiAlSiと表され、一般的には、X線回折スペクトルにおいてブラッグ角(2θ)が25.55°±0.05°、22.71°±0.05°、28.20°±0.05°に回折ピークを示す結晶である。しかしながら、リートベルト法を用いることで、結晶構造が歪んだ場合でも、X線回折スペクトルからβ-スポジュメンの析出を確認することができる。
本結晶化ガラスは、後に説明する非晶質ガラスを加熱処理して結晶化することで得られる。
また、結晶化ガラスの組成は、後に説明する非晶質ガラスの組成と同様なので説明を省略する。
【0021】
β-スポジュメンを含有する結晶化ガラスは、化学強化特性が優れる。β-スポジュメンが析出し得る非晶質ガラスは、熱処理条件等によってβ-石英固溶体またはバージライトが析出する場合がある。バージライトは、β-スポジュメンと同様にLiAlSiと表される結晶である。β-スポジュメンを含有する結晶化ガラスは化学強化によって表面圧縮応力が大きくなりやすい。β-スポジュメンは結晶構造がβ-石英固溶体やバージライトに比べて緻密なので、化学強化のためのイオン交換処理によって析出結晶中のイオンがより大きいイオンに置換されたときに高い圧縮応力が発生し、化学強化の効果が高くなると考えられる。
【0022】
β-スポジュメンを含有する結晶化ガラスは、熱膨張係数が小さいことでも知られている。本結晶化ガラスは熱膨張係数が小さいので化学強化等に伴う熱処理による反りの発生が抑制される。また、耐熱衝撃性に優れるので、急速に加熱または冷却することが可能であり、化学強化用ガラスとして扱いやすい。本結晶化ガラスの50℃~350℃における平均熱膨張係数は、好ましくは30×10-7/℃以下、より好ましくは25×10-7/℃以下、さらに好ましくは20×10-7/℃以下、特に好ましくは15×10-7/℃以下である。50℃~350℃における平均熱膨張係数は、小さい程好ましいが、通常は、10×10-7/℃以上である。
【0023】
β-スポジュメンは、結晶成長速度が大きいことが知られている。そこで、β-スポジュメンを含有する結晶化ガラスは含有する結晶が大きくなりやすく、そのために透明性が低く、ヘーズ値が大きいことが多い。しかし、本結晶化ガラスは、微小な結晶を多数含有しているので、結晶化率が高くても透明性が高く、ヘーズ値が小さい。
【0024】
本結晶化ガラスの結晶化率は、機械的強度を高くするために10%以上が好ましく、15%以上がより好ましく、20%以上がさらに好ましく、25%以上が特に好ましい。また、透明性を高くするために、70%以下が好ましく、60%以下がより好ましく、50%以下が特に好ましい。結晶化率が小さいことは、加熱して曲げ成形等しやすい点でも優れている。
結晶化率は、X線回折強度からリートベルト法で算出できる。リートベルト法については、日本結晶学会「結晶解析ハンドブック」編集委員会編、「結晶解析ハンドブック」(協立出版 1999年刊、p492~499)に記載されている。
【0025】
本結晶化ガラスの析出結晶の平均粒径は、300nm以下が好ましく、200nm以下がより好ましく、150nm以下がさらに好ましく、100nm以下が特に好ましい。析出結晶の平均粒径は、透過型電子顕微鏡(TEM)像から求めることができる。また走査型電子顕微鏡(SEM)像から、推定できる。
図3に結晶化ガラスの断面を鏡面研磨してフッ酸でエッチングして観察したSEM像の一例を示す。図3のSEM像において、明るく見える部分が析出結晶であり、暗く見える部分はガラス相である。
図4は、結晶化ガラスをイオンミリング法によって薄片化したものについて、観察倍率50000倍で観察したTEM像の一例を示す。
【0026】
本結晶化ガラスの破壊靱性値は、0.8MPa・m1/2以上、より好ましくは1MPa・m1/2以上であると、化学強化ガラスが割れた時に破片が飛散しにくいので好ましい。
本結晶化ガラスは、結晶を含むために、ビッカース硬度が大きい。そのために傷つきにくく、耐摩耗性にも優れる。耐摩耗性を大きくするために、ビッカース硬度は680以上が好ましく、700以上がより好ましく、740以上がさらに好ましい。
硬度が高過ぎると加工しにくくなるため、本結晶化ガラスのビッカース硬度は、1100以下が好ましく、1050以下がより好ましく、1000以下がさらに好ましい。
【0027】
本結晶化ガラスの可視光透過率は、厚さが0.8mmの場合に、85%以上なので、携帯ディスプレイのカバーガラスに用いた場合に、ディスプレイの画面が見えやすい。可視光透過率は88%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましい。可視光透過率は、高い程好ましいが、通常は91%以下である。90%は普通の非晶質ガラスと同等の透過率である。
また、ヘーズ値は、厚さ0.8mmの場合に、1.0%以下が好ましく、0.8%以下がより好ましく、0.6%以下がさらに好ましく、0.5%以下がよりさらに好ましく、0.4%以下が特に好ましく、0.3%以下が最も好ましい。ヘーズ値は小さい程好ましいが、ヘーズ値を小さくするために結晶化率を下げたり、結晶粒径を小さくしたりすると、機械的強度が低下する。機械的強度を高くするためには、厚さ0.8mmの場合のヘーズ値は0.05%以上が好ましく、0.07%以上がより好ましく、0.09%以上がさらに好ましい。
【0028】
本結晶化ガラスの厚さ(t)は、化学強化により顕著な強度向上を可能にするとの観点から、3mm以下が好ましく、より好ましくは、以下段階的に、2mm以下、1.6mm以下、1.1mm以下、0.9mm以下、0.8mm以下、0.7mm以下である。また、当該厚さ(t)は、化学強化処理による十分な強度が得られるために、好ましくは0.3mm以上であり、より好ましくは0.4mm以上であり、さらに好ましくは0.5mm以上である。
本結晶化ガラスのガラス組成は、結晶化前の非晶質ガラスの組成と同じなので、非晶質ガラスの項で説明する。
【0029】
<化学強化ガラス>
本結晶化ガラスを化学強化して得られる化学強化ガラス(以下において、「本強化ガラス」ということがある)は、表面圧縮応力CSが600MPa以上なので、撓み等の変形によって割れにくく、好ましい。本強化ガラスの表面圧縮応力は、800MPa以上がより好ましい。
【0030】
本強化ガラスは、圧縮応力深さDOLが80μm以上なので、表面に傷が生じた時も割れにくく、好ましい。DOLは、好ましくは100μm以上である。
また、圧縮応力値が50MPa以上となる最大深さ(以下において「50MPa深さ」ということがある。)が80μm以上であると、アスファルト落下強度が高くなるのでより好ましい。50MPa深さは、さらに好ましくは100μm以上である。
【0031】
ここで、アスファルト落下強度は、以下のアスファルト落下試験によって評価できる。
(アスファルト落下試験)
評価対象のガラス板(120mm×60mm×0.8mm)をスマートフォンのカバーガラスに見立てて、スマートフォンを模擬した筐体に取り付けて、平坦なアスファルト面上に落下する。ガラス板と筐体を合わせた質量は約140gとする。
高さ30cmから試験を開始し、化学強化ガラス板が割れなかったら、高さを10cm高くして落下させる試験を繰り返し、割れたときの高さ[単位:cm]を記録する。この試験を1セットとして、10セット繰り返し、割れたときの高さの平均値を「落下高さ」とする。
本強化ガラスのアスファルト落下試験における落下高さは、100cm以上が好ましい。
【0032】
本強化ガラスにおいて、ガラス表面から深さDOLにおける応力プロファイルの傾きmは-50MPa/μm以下が好ましく、-55MPa/μm以下がより好ましく、-60MPa/μm以下がさらに好ましい。化学強化ガラスは、表面に圧縮応力層を形成したガラスであり、表面から遠い部分には引張応力が発生することから、その応力プロファイルは、深さがゼロの表面から内部に向かって負の傾きを有している。そこでmは負の値であり、その絶対値が大きいことで、表面圧縮応力CSが大きく、かつ内部引張応力CTが小さい応力プロファイルが得られる。
深さDOL/4から深さDOL/2における応力プロファイルの傾きmは負の値を有する。傾きmは、強化ガラスが破壊した時の破片の飛散を抑制するために-5以上が好ましく、-3以上がより好ましく、-2以上がさらに好ましい。mは大きすぎると50MPa深さが小さくなり、アスファルト落下強度が不足するおそれがある。50MPa深さを大きくするために、mは-0.3以下が好ましく、-0.5以下がより好ましく、-0.7以下がさらに好ましい。
【0033】
本強化ガラスにおいて、深さDOL/2からDOLにおける応力プロファイルの傾きmは、負の値を有する。強化ガラスが破壊した時に破片の飛散を抑制するために、mは、-5以上が好ましく、-3以上がより好ましく、-2以上がさらに好ましい。mの絶対値は小さすぎると50MPa深さが小さくなり、傷付いた際に割れやすくなる。50MPa深さを大きくするために、mは-0.3以下が好ましく、-0.5以下がより好ましく、-0.7以下がさらに好ましい。
傾きmと傾きmの比m/mは2以下であると、深いDOLとともに小さいCTが得られるので好ましい。m/mは1.5以下がより好ましく、1以下がさらに好ましい。強化ガラスの端面にクラックが発生することを防止するためには、m/mは0.3以上が好ましく、0.5以上がより好ましく、0.7以上がさらに好ましい。
【0034】
本強化ガラスの内部引張応力(CT)は110MPa以下であると、化学強化ガラスが破壊した時に破片の飛散が抑制されるので好ましい。CTは、より好ましくは100MPa以下、さらに好ましくは90MPa以下である。一方でCTを小さくすると表面圧縮応力が小さくなり、充分な強度が得られ難くなる傾向がある。そのため、CTは50MPa以上が好ましく、55MPa以上がより好ましく、60MPa以上がさらに好ましい。
【0035】
本強化ガラスの4点曲げ強度は、900MPa以上が好ましい。
ここで4点曲げ強度は、40mm×5mm×0.8mmの試験片を用いて、下スパン30mm、上スパン10mm、クロスヘッドスピード0.5mm/分で測定する。10試験片の平均値を4点曲げ強度とする。
【0036】
本強化ガラスのビッカース硬度は、化学強化処理によって、強化前よりも大きくなる傾向がある。結晶中の小さいイオンと溶融塩中の大きいイオンとのイオン交換によって、結晶中に圧縮応力が生じるため、と考えられる。
本強化ガラスのビッカース硬度は、720以上が好ましく、740以上がより好ましく、780以上がさらに好ましい。また、本強化ガラスのビッカース硬度は、通常は950以下である。
【0037】
図2に本強化ガラスと強化前の結晶化ガラス(化学強化用ガラス)とのX線回折パターンの例を示す。図2において、実線は強化前の結晶化ガラス板について測定されたX線回折パターンであり、図2中に黒丸で示したβ-スポジュメン結晶の回折線が認められる。点線で示したのは、化学強化後の結晶化ガラス板について測定されたX線回折パターンである。化学強化によって回折ピークの位置が低角度側にシフトしているのは、結晶中の小さいイオンと溶融塩中の大きいイオンとのイオン交換が生じて、格子面間隔が大きくなったためと考えられる。
しかし、本発明者等が化学強化前後の粉末X線回折パターンを比較したところ、このような回折線のシフトは認められなかった。これは、化学強化処理による格子面間隔の変化が、ガラス板の表面付近でのみ生じ、内部の結晶については化学強化処理による変化が生じないためと考えられる。
【0038】
本強化ガラスの可視光透過率やヘーズ値及び組成は、本結晶化ガラスと同様なので説明を省略する。
【0039】
本強化ガラスは、極端なイオン交換処理がされた場合を除いて、全体として強化前の結晶化ガラスとほぼ同じ組成を有している。特に、ガラス表面から最も深い部分の組成は、極端なイオン交換処理がされた場合を除いて、強化前の結晶化ガラスの組成と同じである。
【0040】
<非晶質ガラス>
本発明における非晶質ガラスは、酸化物基準の質量%表示でSiOを58~70%、Alを15~30%、LiOを2~10%、NaOを0~5%、KOを0~2%、SrOを0~1.8%、BaOを0~2%、SnOを0.5~6%、ZrOを0.5~6%、Pを0~6%含有し、SrOおよびBaOの含有量の合計が0.1~3%であり、NaOおよびKOの含有量の合計が1~5%である。
以下、このガラス組成を説明する。
【0041】
本非晶質ガラスにおいて、SiOはガラスのネットワーク構造を形成する成分である。また、化学的耐久性を上げる成分であり、析出結晶であるβ-スポジュメンの構成成分でもある。SiOの含有量は58%以上が好ましい。SiOの含有量は、より好ましくは、60%以上、さらに好ましくは64%以上である。一方、溶融性を良くするためにSiOの含有量は70%以下が好ましく、より好ましくは68%以下、さらに好ましくは66%以下である。
【0042】
Alは化学強化による表面圧縮応力を大きくするために有効な成分である。また、β-スポジュメンの構成成分であり、必須である。Alの含有量は15%以上が好ましい。Alの含有量は、より好ましくは、20%以上である。一方、ガラスの失透温度が高くなりすぎないためにAlの含有量は、30%以下が好ましく、25%以下がより好ましい。
【0043】
LiOは、イオン交換により表面圧縮応力を形成させる成分であり、β-スポジュメンの構成成分であり、必須である。
LiOの含有量は、好ましくは2%以上であり、より好ましくは4%以上である。一方、LiOの含有量は、10%以下が好ましく、より好ましくは8%以下、さらに好ましくは6%以下である。
【0044】
LiOとAlの含有量比LiO/Alは透明性を高くするために0.3以下が好ましい。LiO/Alが大きすぎると熱処理時に結晶化が急激に進行して結晶の粒径が大きくなり、透明性が低下すると考えられる。
【0045】
NaOは、ガラスの溶融性を向上させる成分である。
NaOは必須ではないが、好ましくは0.5%以上、より好ましくは1%以上である。NaOは多すぎるとβ-スポジュメン結晶が析出しにくくなり、または化学強化特性が低下するため、5%以下が好ましく、4%以下がより好ましく、3%以下がさらに好ましい。
【0046】
Oは、NaOと同じくガラスの溶融温度を下げる成分であり、含有してもよい。
Oを含有する場合の含有量は、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上である。またNaOとKOとの合計の含有量NaO+KOは1%以上が好ましく、2%以上がより好ましい。
Oは多すぎるとβ-スポジュメン結晶が析出しにくくなるため、2%以下が好ましい。またNaOとKOとの合計の含有量NaO+KOは、透明性を高くするためには5%以下が好ましく、4%以下がより好ましく、3%以下がさらに好ましい。
【0047】
ZrOは、結晶化処理に際して、結晶核を構成する成分であり、含有することが好ましい。ZrOの含有量は、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上である。一方、溶融時の失透を抑制するために、ZrOの含有量は6%以下が好ましく、5%以下がより好ましく、4%以下がさらに好ましい。
【0048】
SnOは、結晶化処理に際して、結晶核を構成する成分であり、β-スポジュメン結晶の析出を促進する効果が高いので、0.5%以上含有することが好ましい。SnOの含有量は、1%以上がより好ましく、1.5%以上がさらに好ましい。SnOの含有量は6%以下であると、ガラス中に未融物による欠点が生じにくく好ましい。より好ましくは5%以下、さらに好ましくは4%以下である。
SnOは、ソラリゼーション耐性を高める成分でもある。ソラリゼーションを抑制するためには、SnOの含有量は、1%以上が好ましく、1.5%以上がより好ましい。
【0049】
一般的に、結晶化ガラスの結晶核形成成分として、TiOやZrOが知られているが、本発明者等の検討によれば、本結晶化ガラスにおいては、TiOよりもZrOの効果が高かった。また、SnOを加えることで、結晶化ガラスの透明性が高くなった。
【0050】
SnOとZrOとの含有量の合計SnO+ZrOが3%以上であるとZrO核が大量に形成され、透過率が向上するので好ましい。SnO+ZrO含有量は4%以上がより好ましく、5%以上がさらに好ましく、6%以上が特に好ましく、7%以上が最も好ましい。また、SnO+ZrOは、ガラス中に未融物による欠点が生じにくいために12%以下が好ましく、10%以下がより好ましく、9%以下がさらに好ましく、8%以下が特に好ましい。
【0051】
SnOとZrOとをともに含有する場合、その合計量に対するSnO量の比SnO/(SnO+ZrO)は透明性を高くするために0.3以上が好ましく、0.35以上がより好ましく、0.45以上がさらに好ましい。
またSnO/(SnO+ZrO)は、強度を高くするために0.7以下が好ましく、0.65以下がより好ましく、0.6以下がさらに好ましい。
【0052】
TiOは、結晶化ガラスの核形成成分となり、また化学強化ガラスが破壊した時に破片が飛散しにくくする成分であり、含有してもよい。TiOを含有する場合の含有量は、好ましくは0.1%以上であり、より好ましくは0.15%以上、さらに好ましくは0.2%以上である。
一方、TiOの含有量が5%超であると溶融時に失透しやすくなり、化学強化ガラスの品質が低下する恐れがある。好ましくは、3%以下、より好ましくは1.5%以下である。
また、ガラス中にFeが含まれる場合に、ガラスがTiOを含有するとイルメナイト複合体とよばれる複合体が形成され、黄色または褐色の着色を生じやすい。Feはガラス中に不純物として普通に含まれるので、着色を防止するためにはTiOの含有量は1%以下が好ましく、より好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.25%以下であり、実質的に含有しないことが特に好ましい。
【0053】
は、必須ではないが、ガラスの分相を促して結晶化を促進する効果があり、含有してもよい。Pを含有する場合の含有量は、好ましくは0.1%以上であり、より好ましくは0.5%以上、さらに好ましくは1%以上、特に好ましくは2%以上である。一方、Pの含有量が多すぎると、化学強化ガラスが破壊した時に破片が飛散しやすくなる、また耐酸性が著しく低下する。Pの含有量は、好ましくは6%以下、より好ましくは5%以下、さらに好ましくは4%以下、特に好ましくは3%以下、極めて好ましくは2%以下である。耐酸性をさらに高くするためには実質的に含有しないことが好ましい。
【0054】
は、化学強化用ガラスまたは化学強化ガラスのチッピング耐性を向上させ、また溶融性を向上させる成分であり、含有してもよい。Bは必須ではないが、Bを含有する場合の含有量は、溶融性を向上するために好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは2%以上である。一方、Bの含有量が5%を超えると溶融時に脈理が発生し化学強化用ガラスの品質が低下しやすいため5%以下が好ましい。Bの含有量は、より好ましくは4%以下、さらに好ましくは3%以下であり、特に好ましくは1%以下である。耐酸性を高くするためには実質的に含有しないことが好ましい。
【0055】
MgOは、化学強化ガラスの表面圧縮応力を増大させる成分であり、また、化学強化ガラスが破壊した時に破片の飛散を抑制する成分であり、含有してもよい。MgOを含有する場合の含有量は、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上である。一方、溶融時の失透を抑制するためには5%以下が好ましく、4%以下がより好ましく、3%以下がさらに好ましい。
【0056】
CaOは、化学強化用ガラスの溶融性を向上させる成分であり、溶融時の失透を防止し、かつ熱膨張係数の上昇を抑制しながら溶解性を向上させるため含有してもよい。CaOを含有する場合の含有量は、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上である。一方、イオン交換特性を高くするために、CaOの含有量は4%以下が好ましく、3%以下がより好ましく、2%以下が特に好ましい。
【0057】
SrOは、化学強化用ガラスの溶融性を向上する成分であり、またガラスの屈折率を向上させる成分である。SrOは、結晶化後に残留するガラス相の屈折率と析出結晶の屈折率とを近づけることによって結晶化ガラスの透過率を向上し、ヘーズ値を下げるため含有してもよい。SrOを含有する場合の含有量は、好ましくは0.1%以上であり、より好ましくは0.2%以上であり、さらに好ましくは0.5%以上であり、特に好ましくは1%以上である。
一方、SrO含有量が多すぎるとイオン交換速度が低下するため2.5%以下が好ましく、1.8%以下がより好ましく、1.5%以下がさらに好ましく、1%以下が特に好ましく、0.5%以下が最も好ましい。
【0058】
BaOは、化学強化用ガラスの溶融性を向上する成分であり、またガラスの屈折率を向上させる成分である。BaOは、結晶化後に残留するガラス相の屈折率とβ-スポジュメン結晶相の屈折率とを近づけることによって結晶化ガラスの透過率を向上し、ヘーズ値をさげるため含有してもよい。BaOを含有する場合の含有量は、好ましくは0.1%以上であり、より好ましくは0.2%以上であり、さらに好ましくは0.5%以上であり、特に好ましくは1%以上である。一方、BaO含有量が多すぎるとイオン交換速度が低下するため2%以下が好ましく、1.5%以下がより好ましく、1%以下がさらに好ましく、0.5%以下が特に好ましく、0.3%以下が最も好ましい。
【0059】
化学強化ガラスの透過率を高くし、ヘーズ値を下げるためには、SrOおよびBaOの一方または両方を含有することが好ましい。SrOおよびBaOの含有量の合計は0.1%以上が好ましく、0.2%以上がより好ましく、0.5%以上がより好ましく、1%以上がさらに好ましく、1.5%以上が特に好ましい。一方SrOおよびBaOの合計含有量が多すぎると結晶化後に残留するガラス相の屈折率とβ-スポジュメン結晶相の屈折率との差が大きくなり透過率が低下するため、3%以下が好ましく、2%以下がさらに好ましく、1.5%以下がより好ましく、1%以下がよりさらに好ましく、0.8%以下が特に好ましく、0.5%以下が最も好ましい。
【0060】
ZnOは、化学強化用ガラスの熱膨張係数を低下させ、化学的耐久性を増大させる成分であり、結晶化ガラスの透過率を向上し、ヘーズ値を下げるため含有させてもよい。結晶化後に残留するガラス相の屈折率とβ-スポジュメン結晶相の屈折率を近づけるためにZnOを含有させる場合の含有量は、好ましくは0.5%以上、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは1.5%以上、特に好ましくは2%以上である。
一方、溶融時の失透を抑制するためには4%以下が好ましく、3%以下がより好ましく、2%以下がさらに好ましい。
【0061】
、La、NbおよびTaは、いずれも化学強化ガラスが破壊した時に破片が飛散しにくくする成分であり、屈折率を高くするために、含有させてもよい。これらの成分を含有させる場合、Y、La、Nbの含有量の合計Y+La+Nbは好ましくは0.5%以上、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは1.5%以上、特に好ましくは2%以上である。また、溶融時にガラスが失透しにくくなるために、Y+La+Nbの含有量は4%以下が好ましく、より好ましくは3%以下、さらに好ましくは2%以下であり、特に好ましくは1%以下である。
、La、NbおよびTaの合計の含有量Y+La+Nb+Taは好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上であり、さらに好ましくは1.5%以上であり、特に好ましくは2%以上である。また、溶融時にガラスが失透しにくくなるために、Y+La+Nb+Taは4%以下が好ましく、より好ましくは3%以下であり、さらに好ましくは2%以下であり、特に好ましくは1%以下である。
【0062】
また、CeOを含有してもよい。CeOはガラスを酸化する効果があり、SnOが多く含有される場合に、SnOが着色成分のSnOに還元することを抑制して着色を抑える場合がある。CeOを含有する場合の含有量は0.03%以上が好ましく、0.05%以上がより好ましく、0.07%以上がさらに好ましい。CeOを酸化剤として用いる場合には、CeOの含有量は、透明性を高くするために1.5%以下が好ましく、1%以下がより好ましい。
【0063】
さらに、強化ガラスを着色して使用する際は、所望の化学強化特性の達成を阻害しない範囲において着色成分を添加してもよい。着色成分としては、例えば、Co、MnO、Fe、NiO、CuO、Cr、V、Bi、SeO、Er、Ndが好適なものとして挙げられる。
着色成分の含有量は、合計で1%以下の範囲が好ましい。ガラスの可視光透過率をより高くしたい場合は、これらの成分は実質的に含有しないことが好ましい。
また、ガラスの溶融の際の清澄剤として、SO、塩化物、フッ化物などを適宜含有してもよい。Asは含有しないことが好ましい。Sbを含有する場合は、0.3%以下が好ましく、0.1%以下がより好ましく、含有しないことが最も好ましい。
【0064】
<化学強化ガラスの製造方法>
本発明の化学強化ガラスは、上記の非晶質ガラスを加熱処理して結晶化ガラスを得、得られた結晶化ガラスを化学強化処理して製造する。
【0065】
(非晶質ガラスの製造)
非晶質ガラスは、例えば、以下の方法で製造できる。なお、以下に記す製造方法は、板状の化学強化ガラスを製造する場合の例である。
好ましい組成のガラスが得られるようにガラス原料を調合し、ガラス溶融窯で加熱溶融する。その後、バブリング、撹拌、清澄剤の添加等により溶融ガラスを均質化し、公知の成形法により所定の厚さのガラス板に成形し、徐冷する。または、溶融ガラスをブロック状に成形して、徐冷した後に切断する方法で板状に成形してもよい。
【0066】
板状ガラスの成形法としては、例えば、フロート法、プレス法、フュージョン法及びダウンドロー法が挙げられる。特に、大型のガラス板を製造する場合は、フロート法が好ましい。また、フロート法以外の連続成形法、たとえば、フュージョン法及びダウンドロー法も好ましい。
【0067】
(結晶化処理)
上記の手順で得られた非晶質ガラスを加熱処理することで結晶化ガラスが得られる。
加熱処理は、室温から第一の処理温度まで昇温して一定時間保持した後、第一の処理温度より高温である第二の処理温度に一定時間保持する2段階の加熱処理によることが好ましい。
【0068】
二段階の加熱処理による場合、第一の処理温度は、そのガラス組成において結晶核生成速度が大きくなる温度域が好ましく、第二の処理温度は、そのガラス組成において結晶成長速度が大きくなる温度域が好ましい。また、第一の処理温度での保持時間は、充分な数の結晶核が生成するように長く保持することが好ましい。多数の結晶核が生成することで、各結晶の大きさが小さくなり、透明性の高い結晶化ガラスが得られる。
第一の処理温度は、たとえば550℃~800℃であり、第二の処理温度は、たとえば850℃~1000℃であり、第一処理温度で2時間~10時間保持した後、第二処理温度で2時間~10時間保持する。
【0069】
上記手順で得られた結晶化ガラスを必要に応じて研削及び研磨処理して、結晶化ガラス板を形成する。結晶化ガラス板を所定の形状及びサイズに切断したり、面取り加工を行ったりする場合、化学強化処理を施す前に、切断や面取り加工を行えば、その後の化学強化処理によって端面にも圧縮応力層が形成されるため、好ましい。
【0070】
(化学強化処理)
化学強化処理は、大きなイオン半径の金属イオン(典型的には、NaイオンまたはKイオン)を含む金属塩(例えば、硝酸カリウム)の融液に浸漬する等の方法で、ガラスを金属塩に接触させることにより、ガラス中の小さなイオン半径の金属イオン(典型的には、NaイオンまたはLiイオン)が大きなイオン半径の金属イオン典型的には、Liイオンに対してはNaイオンまたはKイオンであり、Naイオンに対してはKイオン)と置換させる処理である。
化学強化処理の速度を速くするためには、ガラス中のLiイオンをNaイオンと交換する「Li-Na交換」を利用することが好ましい。またイオン交換により大きな圧縮応力を形成するためには、ガラス中のNaイオンをKイオンと交換する「Na-K交換」を利用することが好ましい。
【0071】
化学強化処理を行うための溶融塩としては、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、塩化物などが挙げられる。このうち硝酸塩としては、例えば、硝酸リチウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸セシウム、硝酸銀などが挙げられる。硫酸塩としては、例えば、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸セシウム、硫酸銀などが挙げられる。炭酸塩としては、例えば、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、などが挙げられる。塩化物としては、例えば、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化セシウム、塩化銀などが挙げられる。これらの溶融塩は単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0072】
化学強化処理の処理条件は、ガラス組成や溶融塩の種類などを考慮して、時間及び温度等を適切に選択すればよい。
【0073】
本強化ガラスは、たとえば以下の2段階の化学強化処理によって得ることが好ましい。
まず、本結晶化ガラスを350~500℃程度のNaイオンを含む金属塩(たとえば硝酸ナトリウム)に0.1~10時間程度浸漬する。これによって結晶化ガラス中のLiイオンと金属塩中のNaイオンとのイオン交換が生じ、たとえば表面圧縮応力が200MPa以上で圧縮応力深さが80μm以上の圧縮応力層が形成できる。一方、表面圧縮応力が1000MPaを超えると、CTを低く保ちつつ、DOLを大きくすることが困難になる。表面圧縮応力は好ましくは900MPa以下であり、より好ましくは700MPa以下、さらに好ましくは600MPa以下である。
次に、350~500℃程度のKイオンを含む金属塩(たとえば硝酸カリウム)に0.1~10時間程度浸漬する。これによって、前の処理で形成された圧縮応力層の、たとえば深さ10μm程度以内の部分に、大きな圧縮応力が生じる。
このような2段階の処理によれば、表面圧縮応力が600MPa以上の、好ましい応力プロファイルが得られやすい。
【0074】
はじめにNaイオンを含む金属塩に浸漬した後、大気中で350~500℃に1~5時間保持してから、Kイオンを含む金属塩に浸漬してもよい。保持温度は好ましくは425℃~475℃、さらに好ましくは440℃~460℃である。
大気中で高温に保持することで、はじめの処理によって金属塩からガラス内部に導入されたNaイオンが、ガラス中で熱拡散することで、より好ましい応力プロファイルが形成され、それによってアスファルト落下強度が高められる。
【0075】
または、Naイオンを含む金属塩に浸漬した後、大気中で保持するかわりに、350~500℃の、NaイオンとLiイオンとを含む金属塩(たとえば硝酸ナトリウムと硝酸リチウムとの混合塩)に0.1~20時間浸漬してもよい。
NaイオンとLiイオンとを含む金属塩に浸漬することで、ガラス中のNaイオンと金属塩中のLiイオンとのイオン交換が生じ、より好ましい応力プロファイルが形成され、それによってアスファルト落下強度が高められる。
【0076】
このような2段階または3段階の強化処理を行う場合には、生産効率の点から、処理時間は合計で10時間以下が好ましく、5時間以下がより好ましく、3時間以下がさらに好ましい。一方、所望の応力プロファイルを得るためには、処理時間は合計で0.5時間以上必要である。より好ましくは1時間以上である。
【0077】
本強化ガラスは、携帯電話、スマートフォン等のモバイル機器等に用いられるカバーガラスとして、特に有用である。さらに、携帯を目的としない、テレビ、パーソナルコンピュータ、タッチパネル等のディスプレイ装置のカバーガラス、エレベータ壁面、家屋やビル等の建築物の壁面(全面ディスプレイ)にも有用である。また、窓ガラス等の建築用資材、テーブルトップ、自動車や飛行機等の内装等やそれらのカバーガラスとして、また曲面形状を有する筺体等の用途にも有用である。
また、本強化ガラスは、透明性は高いが紫外光の透過率が低いので、特に有機ELディスプレイ用カバーガラスに用いると、有機ELディスプレイの動作安定性や高寿命化につながり、好ましい。
【実施例
【0078】
以下、本発明を実施例によって説明するが、本発明はこれによって限定されない。例1~8は実施例、例9、10は比較例である。
<非晶質ガラスの作製と評価>
表1に酸化物基準の質量%表示で示したガラス組成となるようにガラス原料を調合し、800gのガラスが得られるように秤量した。ついで、混合したガラス原料を白金るつぼに入れ、1500~1700℃の電気炉に投入して5時間程度溶融し、脱泡し、均質化した。
得られた溶融ガラスを型に流し込み、ガラス転移点の温度において1時間保持した後、0.5℃/分の速度で室温まで冷却してガラスブロックを得た。得られたブロックの一部を用いて、非晶質ガラスのガラス転移点と屈折率を評価した結果を表1に示す。空欄は未評価を示す。
【0079】
(ガラス転移点)
JIS R1618:2002に基づき、熱膨張計(ブルカー・エイエックスエス社製;TD5000SA)を用いて、昇温速度を10℃/分として熱膨張曲線を得て、得られた熱膨張曲線からガラス転移点Tg[単位:℃]を求めた。
【0080】
(結晶化前屈折率)
得られたガラスブロックを15mm×15mm×0.8mmに鏡面研磨し、精密屈折率計KPR-2000(島津デバイス製造社製)を用いて、Vブロック法による屈折率測定を行った。なお、屈折率測定は、後述の結晶化処理後にも、同様にして測定した。結果を表1、表2に示す。なお空欄は未測定を示す。
【0081】
【表1】
【0082】
<結晶化処理および結晶化ガラスの評価>
得られたガラスブロックを50mm×50mm×1.5mmに加工してから、表2に記載した条件で熱処理して結晶化ガラス(例1~例10)を得た。表の結晶化条件欄は、上段が核生成処理条件、下段が結晶成長処理条件であり、たとえば上段に750℃―4h、下段に920℃―4hと記載した場合は、750℃で4時間保持した後、920℃に4時間保持したことを意味する。
【0083】
得られた結晶化ガラスを加工し、鏡面研磨して厚さtが0.8mmの結晶化ガラス板を得た。また、熱膨張係数を測定するための棒状試料を作製した。残った結晶化ガラスの一部は粉砕して、析出結晶の分析に用いた。結晶化ガラスの評価結果を表2に示す。空欄は未評価を示す。
(熱膨張係数)
JIS R1618:2002に基づき、熱膨張計(ブルカー・エイエックスエス社製;TD5000SA)を用いて、50℃~350℃における平均熱膨張係数[単位:×10-7/℃]を測定した。昇温速度は、10℃/分とした。
【0084】
(析出結晶:粉末X線回折測定)
以下の条件で粉末X線回折を測定し、析出結晶を同定した。また、リートベルト法を用いて、結晶化率[単位:%]を計算した。結果を表2に示す。表中βSPはβ-スポジュメン、を意味する。
測定装置:リガク社製 SmartLab
使用X線:CuKα線
測定範囲:2θ=10°~80°
スピード:10°/分
ステップ:0.02°
【0085】
(析出結晶:SEM観察)
例1の結晶化ガラスの表面を5%HF水溶液で2分間エッチングしたものについて、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて反射電子像を観察倍率50000倍で観察したところ平均粒径はおよそ150nmであった。SEM像を図3に示す。
(析出結晶:TEM観察)
例1の結晶化ガラスをイオンミリング法によって薄片化したものについて、透過電子顕微鏡(TEM)を用いて観察倍率50000倍で観察し、析出結晶の平均粒径[単位:nm]を求めた。TEM像を図4に示す。
【0086】
(透過率)
分光光度計(PerkinElmer社製;LAMBDA950)を用いて、結晶化ガラス板の波長380~780nmにおける平均透過率[単位:%]を測定した。結果を表2に示す。
(ヘーズ値)
ヘーズメーター(スガ試験機製;HZ-2)を用いて、C光源でのヘーズ値[単位:%]測定した。結果を表2に示す。
【0087】
(ビッカース硬度)
島津マイクロビッカース硬度計(島津製作所製;HMV-2)を用い、荷重100gfで15秒間圧子を圧入して測定した。なお、ビッカース硬度は、後述の化学強化処理後にも、同様にして測定した。結果を表2に示す。
【0088】
<化学強化処理および強化ガラスの評価>
例1~例7、例9、例10のガラス板について、450℃の硝酸ナトリウム溶融塩に30分浸漬した後、450℃の硝酸カリウム溶融塩に30分浸漬して化学強化した。
得られた化学強化ガラス板について応力プロファイルを測定した。
【0089】
(応力プロファイル)
折原製作所社製の表面応力計FSM-6000及び散乱光光弾性を応用した折原製作所社製の測定機SLP1000を用いて応力値を測定し、ガラス表面の圧縮応力値CS[単位:MPa]と、圧縮応力値がゼロになる深さDOL[単位:μm]を読み取った。
例1の応力プロファイルを図1に示す。
【0090】
【表2】
【0091】
例1、例2と例10を比較すると、本発明の実施例である例1、例2は、SrO、BaOを含有しないガラス10を用いた例10より透過率が高く、ヘーズが小さいことが分かる。
例1と例9を比較すると、SrOを1.8%超含有する結晶化ガラスは、透過率が低く、ヘーズ値が大きいことがわかる。
例1と例8を比較すると、結晶平均粒径が小さくてもヘーズ値が大きい。これはβ-スポジュメンと屈折率が違う結晶が析出することで屈折率差が大きくなったからである。
【0092】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。本出願は2017年7月26日出願の日本特許出願(特願2017-144868)、2018年1月10日出願の日本特許出願(特願2018-002200)、及び2018年3月9日出願の日本特許出願(特願2018-043494)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
図1
図2
図3
図4