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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-01
(45)【発行日】2022-08-09
(54)【発明の名称】ポリイミド樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 79/08 20060101AFI20220802BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20220802BHJP
【FI】
C08L79/08 B
C08G73/10
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020163238
(22)【出願日】2020-09-29
(62)【分割の表示】P 2016209251の分割
【原出願日】2016-10-26
(65)【公開番号】P2021006641
(43)【公開日】2021-01-21
【審査請求日】2020-10-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【弁理士】
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100207295
【弁理士】
【氏名又は名称】寺尾 茂泰
(72)【発明者】
【氏名】蓮池 真保
【審査官】久保田 葵
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-123863(JP,A)
【文献】国際公開第2015/020020(WO,A1)
【文献】特開平07-188554(JP,A)
【文献】特開2009-173847(JP,A)
【文献】国際公開第2016/147997(WO,A1)
【文献】特許第5365762(JP,B1)
【文献】MA and TAKAHASHI,Binary blends of a new wholly aromatic thermoplastic polyimide and poly(ether imide),Polymer,1996年,Vol.37, No.25,5589-5596
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08G 73/00-73/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエーテルイミド樹脂(A)、及び、テトラカルボン酸成分(b-1)と脂肪族ジアミン成分(b-2)とを含有する結晶性ポリイミド樹脂(B)を含有するポリイミド系樹脂組成物であって、前記ポリエーテルイミド樹脂(A)と前記結晶性ポリイミド樹脂(B)の含有割合が(A):(B)=60:40~99:1質量%であることを特徴とする成形体用ポリイミド系樹脂組成物(但し、ポリエステルとポリエーテルイミドを含有する二軸配向フィルム用樹脂組成物であって、ポリエーテルイミドとナノ相溶する結晶性ポリイミド樹脂を1重量%以上、40重量%以下の含有率で含み、樹脂組成物全体に対するポリエステルの割合が40重量%以上の二軸配向フィルム用樹脂組成物、を除く)。
【請求項2】
前記脂肪族ジアミン成分(b-2)が、少なくとも炭素数4~12の直鎖状脂肪族ジアミンを含むことを特徴とする請求項1に記載の成形体用ポリイミド系樹脂組成物。
【請求項3】
前記脂肪族ジアミン成分(b-2)が、少なくとも脂環族ジアミンを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の成形体用ポリイミド系樹脂組成物。
【請求項4】
前記脂環族ジアミンが、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンであることを特徴とする請求項3に記載の成形体用ポリイミド系樹脂組成物。
【請求項5】
JIS K7244-4に記載の動的粘弾性の温度分散測定により、歪み0.1%、周波数10Hz、昇温速度3℃/分にて測定した損失正接(tanδ)のピーク値が一つ存在することを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の成形体用ポリイミド系樹脂組成物。
【請求項6】
前記損失正接(tanδ)のピーク値が示す温度(Tg)が150℃以上、300℃以下であることを特徴とする請求項5に記載の成形体用ポリイミド系樹脂組成物。
【請求項7】
JIS K7127に準拠して測定した引張弾性率が2200MPa以上、3100MPa以下であることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の成形体用ポリイミド系樹脂組成物。
【請求項8】
JIS K7127に準拠して測定した引張破断伸度が130%以上であることを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の成形体用ポリイミド系樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の成形体用ポリイミド系樹脂組成物を用いて成形されてなる成形体。
【請求項10】
前記成形体がフィルムであることを特徴とする請求項9に記載の成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性、剛性、耐衝撃性に優れるポリイミド系樹脂組成物、及び、該ポリイミド系樹脂組成物を成形して得られる成形体、特にフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエーテルイミド樹脂は、ガラス転移温度が200℃を超える非晶性のスーパーエンジニアリングプラスチックであり、その優れた耐熱性や難燃性、成形性を活かして自動車部材、航空機部材、電気・電子部材等に幅広く使用されている。しかしながら、ポリエーテルイミド樹脂は非常に脆い材料であり、耐衝撃性が必要とされる用途では使用が難しいという課題がある。また、剛性が高く、柔軟性が低いため、プラスチックフィルム本来の柔軟性(しなやかさ)が要求される用途においては使用が難しいという課題がある。
【0003】
これらの課題に対して、特許文献1には、ポリエーテルイミド樹脂に対してポリエステル樹脂とエポキシ系化合物をブレンドした樹脂組成物が開示されており、該組成物は耐衝撃性、耐加水分解性、耐タブ曲げ性(耐折り曲げ性)に優れる旨の記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2002-532599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ポリエーテルイミド樹脂はガラス転移温度が高く、成形時の温度が高いため、ブレンド時にポリエステル樹脂が分解・劣化してしまう恐れがある。また、ポリエーテルイミド樹脂とポリエステル樹脂は非相溶系の組み合わせが多く、ブレンドによって必ずしも耐衝撃性が向上するとは言えない。例えば、特許文献1の実施例では、引張破断伸度や耐折り曲げ性で評価した耐衝撃性が向上している例や、弾性率(剛性)が低下して適切な範囲に含まれている例が存在するが、全ての性能をバランス良く満たす例は無く、ポリエーテルイミド樹脂の持つ課題を十分満足に解決できているとは言えない。
【0006】
一方、テトラカルボン酸と脂肪族ジアミンからなる結晶性ポリイミド樹脂は、耐熱性と耐衝撃性のバランスに優れる。しかし、耐衝撃性に優れるものの、剛性が比較的低いため、用途によっては、薄膜として使用する際のハンドリング性に劣るという課題がある。また、脂環族ジアミン等の高価なモノマーを使用するため、原料単価が高くなり、用途が限定されてしまうという課題もある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、特定の構造を有する結晶性ポリイミド樹脂はポリエーテルイミド樹脂との相溶性が高いため、これらのブレンド物は上記課題を解決できる事を見出し、本発明に至った。
【0008】
すなわち本発明の第1の態様は、ポリエーテルイミド樹脂(A)、及び、テトラカルボン酸成分(b-1)と脂肪族ジアミン成分(b-2)とを含有する結晶性ポリイミド樹脂(B)を含有するポリイミド系樹脂組成物であって、前記ポリエーテルイミド樹脂(A)と前記結晶性ポリイミド樹脂(B)の含有割合が(A):(B)=1:99~99:1質量%であることを特徴とするポリイミド系樹脂組成物である。
【0009】
本発明の第1の態様において、前記脂肪族ジアミン成分(b-2)が、少なくとも炭素数4~12の直鎖状脂肪族ジアミンを含むことが好ましい。
【0010】
本発明の第1の態様において、前記脂肪族ジアミン成分(b-2)が、少なくとも脂環族ジアミンを含むことが好ましい。
【0011】
本発明の第1の態様において、前記脂環族ジアミンが、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンであることが好ましい。
【0012】
本発明の第1の態様において、JIS K7244-4に記載の動的粘弾性の温度分散測定により、歪み0.1%、周波数10Hz、昇温速度3℃/分にて測定した損失正接(tanδ)のピーク値が一つ存在することが好ましい。
【0013】
本発明の第1の態様において、前記損失正接(tanδ)のピーク値が示す温度(Tg)が150℃以上、300℃以下であることが好ましい。
【0014】
本発明の第1の態様において、JIS K7127に準拠して測定した引張弾性率が2200MPa以上、3100MPa以下であることが好ましい。
【0015】
本発明の第1の態様において、JIS K7127に準拠して測定した引張破断伸度が130%以上であることが好ましい。
【0016】
本発明の第2の態様は、上記本発明の第1の態様に係るポリイミド系樹脂組成物を用いて成形されてなる成形体である。
【0017】
本発明の第2の態様において、前記成形体がフィルムであることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、耐熱性、剛性、耐衝撃性に優れるポリイミド系樹脂組成物、ならびに、該組成物を用いた成形体やフィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を詳しく説明するが、本発明は以下に説明する実施形態に限定されるものではない。なお、特に断らない限り、数値AおよびBについて「A~B」という表記は「A以上B以下」を意味するものとする。かかる表記において数値Bのみに単位を付した場合には、当該単位が数値Aにも適用されるものとする。
【0020】
本発明のポリイミド系樹脂組成物は、ポリエーテルイミド樹脂(A)、及び、結晶性ポリイミド樹脂(B)を含有する。
【0021】
<ポリエーテルイミド樹脂(A)>
ポリエーテルイミド樹脂(A)は特に限定されることはなく、周知の化合物を使用することができ、その製造方法及び特性は例えば米国特許3,803,085及び同3,905,942に記載されている。
【0022】
本発明において用いるポリエーテルイミド樹脂(A)としては、具体的には、下記の式(1)で表される構造を有している事が、耐熱性と成形性のバランスに優れる点で好ましい。
【0023】
【化1】
上記式(化1)において、n(繰り返し数)は通常10~1,000の範囲の整数であり、好ましくは10~500である。nがかかる範囲にあれば、成形性と耐熱性のバランスに優れる。
【0024】
上記式(化1)は、結合様式の違い、具体的にはメタ結合とパラ結合の違いから、下記の(化2)と(化3)でそれぞれ表される構造に分類できる。
【0025】
【化2】
【0026】
【化3】
上記(化2)及び(化3)において、n(繰り返し数)は通常10~1,000の範囲の整数であり、好ましくは10~500である。nがかかる範囲にあれば、成形性と耐熱性のバランスに優れる。
【0027】
このような構造をもつポリエーテルイミド樹脂(A)の具体例としては、例えばサビックイノベーティブプラスチックス社から商品名「Ultem」シリーズとして市販されている。
【0028】
ポリエーテルイミド樹脂(A)のガラス転移温度は、160℃以上300℃以下であるのが好ましく、170℃以上290℃以下であるのがより好ましく、180℃以上280℃以下であるのが更に好ましく、190℃以上270℃以下であることが特に好ましく、200℃以上260℃以下であることがとりわけ好ましい。ポリエーテルイミド樹脂(A)のガラス転移温度が160℃以上であることにより、ポリイミド系樹脂組成物の耐熱性が十分なものとなる。一方、ポリエーテルイミド樹脂(A)のガラス転移温度が300℃以下であることにより、比較的低温で成形または二次加工できるため、結晶性ポリイミド樹脂(B)とブレンドする際に、結晶性ポリイミド樹脂(B)の分解・劣化を引き起こすことが無い。
【0029】
<結晶性ポリイミド樹脂(B)>
本発明に用いる結晶性ポリイミド樹脂(B)は、テトラカルボン酸成分とジアミン成分とを重合して得られる。
【0030】
結晶性ポリイミド樹脂(B)を構成するテトラカルボン酸成分(b-1)は、シクロブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸、シクロペンタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸、シクロヘキサン-1,2,4,5-テトラカルボン酸等の脂環族テトラカルボン酸、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ビフェニルテトラカルボン酸、ナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸、ピロメリット酸等を例示する事ができる。また、これらのアルキルエステル体も使用する事が出来る。
【0031】
なかでも、テトラカルボン酸成分(b-1)のうち50モル%を超える成分がピロメリット酸であることが好ましい。テトラカルボン酸成分(b-1)がピロメリット酸を主成分とする事により、本発明のポリイミド系樹脂組成物が耐熱性、二次加工性および低吸水性に優れる。かかる観点から、テトラカルボン酸成分(b-1)のうち、ピロメリット酸は60モル%以上であることがより好ましく、80モル%以上であることが更に好ましく、90モル%以上であることが特に好ましく、とりわけテトラカルボン酸成分(a-1)の全て(100モル%)がピロメリット酸であることが好ましい。
【0032】
結晶性ポリイミド樹脂(B)を構成するジアミン成分は、脂肪族ジアミン(b-2)を主成分とする事が重要である。すなわち、ジアミン成分のうち50モル%を超える成分が脂肪族ジアミン(b-2)であることが重要であり、60モル%以上であることがより好ましく、80モル%以上であることが更に好ましく、90モル%以上であることが特に好ましく、とりわけジアミン成分の全て(100モル%)が脂肪族ジアミン(b-2)であることが好ましい。このことにより、本発明のポリイミド系樹脂組成物に、耐熱性、低吸水性、成形性および二次加工性を付与することができる。なお、本発明における脂肪族ジアミンには、脂環族ジアミンも包まれる。
【0033】
前記脂肪族ジアミン(b-2)としては、炭化水素基の両末端にアミン基を有するジアミン成分であれば特に制限はないが、耐熱性を重視する場合には、環状炭化水素の両末端にアミン基を有する脂環族ジアミンを含むことが好ましい。脂環族ジアミンの具体例としては、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン、4,4’-メチレンビス(2-メチルシクロヘキシルアミン)、イソフォロンジアミン、ノルボルナンジアミン、ビス(アミノメチル)トリシクロデカン等が挙げられる。これらの中でも、耐熱性、成形性および二次加工性を両立できるという観点から、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンが好適に用いられる。
【0034】
一方、本発明のポリイミド系樹脂組成物において、耐衝撃性、成形性、二次加工性を重視する場合には、前記脂肪族ジアミン(b-2)として、直鎖状炭化水素の量末端にアミン基を有する直鎖状脂肪族ジアミンを含むことが好ましい。直鎖状脂肪族ジアミンとしては、アルキル基の両末端にアミン基を有するジアミン成分であれば特に制限はないが、具体例としては、エチレンジアミン(炭素数2)、プロピレンジアミン(炭素数3)、ブタンジアミン(炭素数4)、ペンタンジアミン(炭素数5)、ヘキサンジアミン(炭素数6)、ヘプタンジアミン(炭素数7)、オクタンジアミン(炭素数8)、ノナンジアミン(炭素数9)、デカンジアミン(炭素数10)、ウンデカンジアミン(炭素数11)、ドデカンジアミン(炭素数12)、トリデカンジアミン(炭素数13)、テトラデカンジアミン(炭素数14)、ペンタデカンジアミン(炭素数15)、ヘキサデカンジアミン(炭素数16)、ヘプタデカンジアミン(炭素数17)、オクタデカンジアミン(炭素数18)、ノナデカンジアミン(炭素数19)、エイコサン(炭素数20)、トリアコンタン(炭素数30)、テトラコンタン(炭素数40)、ペンタコンタン(炭素数50)等が挙げられる。これらの中でも、成形性や二次加工性、低吸湿性に優れるという観点から、炭素数4~12の直鎖状脂肪族ジアミンが挙げられる。また、これら直鎖状脂肪族ジアミンが炭素数1~10の枝分かれ構造を有するものであってもよい。
【0035】
前記脂肪族ジアミン(b-2)以外の成分として、他のジアミン成分を含んでいてもよい。具体的には、1,4-フェニレンジアミン、1,3-フェニレンジアミン、2,4-トルエンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、α,α’-ビス(4-アミノフェニル)1,4’-ジイソ
プロピルベンゼン、α,α’-ビス(3-アミノフェニル)-1,4-ジイソプロピルベンゼン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、2,6-ジアミノナフタレン、1,5-ジアミノナフタレン、p-キシリレンジアミン、m-キシリレンジアミン等の芳香族ジアミン成分、ポリエチレングリコールビス(3-アミノプロピル)エーテル、ポリプロピレングリコールビス(3-アミノプロピル)エーテル等のエーテルジアミン成分、シロキサンジアミン類等が挙げられる。
【0036】
脂肪族ジアミン(b-2)は、脂環族ジアミンと直鎖状脂肪族ジアミンのいずれか、または両方を含んでも良いが、耐熱性と成形性のバランスに優れる事から、脂環族ジアミンと直鎖状脂肪族ジアミンの両方を含む事が好ましい。脂環族ジアミンと直鎖状脂肪族ジアミンを両方含む場合、それぞれの含有量は、脂環族ジアミン:直鎖状脂肪族ジアミン=99:1~1:99モル%の範囲であることが好ましく、90:10~10:90モル%であることがより好ましく、80:20~20:80モル%であることが更に好ましく、70:30~30:70モル%であることが特に好ましく、60:40~40:60モル%であることがとりわけ好ましい。脂肪族ジアミン(b-2)に含まれる脂環族ジアミンと直鎖状脂肪族ジアミンの割合がかかる範囲であれば、本発明のポリイミド系樹脂組成物は耐熱性、耐衝撃性、成形性のバランスに優れる。
【0037】
結晶性ポリイミド樹脂(B)の結晶融解温度は260℃以上、350℃以下であることが好ましく、270℃以上、345℃以下であることがより好ましく、280℃以上、340℃以下であることが更に好ましい。結晶性ポリイミド樹脂(B)の結晶融解温度が260℃以上であれば、ポリイミド系樹脂組成物の耐熱性が十分なものとなる。一方、結晶融解温度が350℃以下であれば、例えば、本発明のポリイミド系樹脂組成物を用いて成形する際に、比較的低温で成形または二次加工が出来るため好ましい。
【0038】
結晶性ポリイミド樹脂(B)のガラス転移温度は150℃以上、300℃以下であることが好ましく、160℃以上、290℃以下であることがより好ましく、170℃以上、280℃以下であることが更に好ましい。結晶性ポリイミド樹脂(B)のガラス転移温度が150℃以上であれば、ポリイミド系樹脂組成物の耐熱性が十分なものとなる。一方、ガラス転移温度が300℃以下であれば、本発明のポリイミド系樹脂組成物を用いて成形する際に、比較的低温で成形が出来るため好ましい。また、得られた成形体を二次加工する場合も、同様の理由で好ましい。
【0039】
<ポリイミド系樹脂組成物>
本発明のポリイミド系樹脂組成物は、前記ポリエーテルイミド樹脂(A)と前記結晶性ポリイミド樹脂(B)の含有割合が(A):(B)=1:99~99:1質量%であることを特徴とする。
【0040】
前記ポリエーテルイミド樹脂(A)と前記結晶性ポリイミド樹脂(B)の含有割合は、要求される用途に応じて適宜調整することができる。本発明のポリイミド系樹脂組成物において、例えば耐熱性や剛性を重視する場合には、前記ポリエーテルイミド樹脂(A)と前記結晶性ポリイミド樹脂(B)の含有割合が(A):(B)=60:40であることが好ましく、70:30であることがより好ましく、80:20であることが更に好ましい。一方、耐衝撃性を重視する場合には、前記ポリエーテルイミド樹脂(A)と前記結晶性ポリイミド樹脂(B)の含有割合が(A):(B)=40:60であることが好ましく、30:70であることがより好ましく、20:80であることが更に好ましい。
【0041】
本発明のポリイミド系樹脂組成物は、JIS K7244-4に記載の動的粘弾性の温度分散測定により、歪み0.1%、周波数10Hz、昇温速度3℃/分にて測定した損失正接(tanδ)のピーク値が一つ存在することを特徴とする。
【0042】
本発明においては、前記損失正接(tanδ)のピーク値が示す温度をガラス転移温度(Tg)と定義する。また、損失正接(tanδ)のピーク値が一つ存在するとは、前記ガラス転移温度(Tg)が単一である、と言い換えることもできる。さらに、JIS K7121に準じて、加熱速度10℃/分で示差走査熱量計を用いてガラス転移温度を測定した際に、ガラス転移温度を示す変曲点が1つだけ現れる、ということもできる。
【0043】
一般的にポリマーブレンド組成物のガラス転移温度が単一であれば、混合する樹脂が分子レベルで相溶した状態にあることを意味し、相溶系と認める事ができる。また、ブレンド後の損失正接(tanδ)のピーク値が二つ存在するものの、それぞれのピークが中央に寄る場合、具体的には、高温側のピークが低温に、低温側のピークが高温にそれぞれシフトする場合、これらは部分相溶系であると言える。ブレンド後も損失正接(tanδ)のピーク値が二つ存在する場合、非相溶系であると言える。部分相溶系では、一方のピークが明確でなく、相溶系と明確に区別するのが難しい場合があるので、本発明においては、明らかにピークが二つ以上観察される場合を除いて、全て相溶系として取り扱う。
【0044】
一般的に非相溶系の場合、引張や曲げ等の外力を加えた際に界面で剥離が生じ、機械物性の低下や白化を招く。本発明のポリイミド系樹脂組成物を構成するポリエーテルイミド樹脂(A)と結晶性ポリイミド樹脂(B)は相溶系を示すため、耐衝撃性を損ねることなくそれぞれの樹脂の改質が可能である。
【0045】
上述の通り、本発明のポリイミド系樹脂組成物はガラス転移温度(Tg)が単一となる特徴を有する組成物である。当該ガラス転移温度は150℃以上、300℃以下であることが好ましく、160℃以上、290℃以下であることがより好ましく、170℃以上、280℃以下であることが更に好ましい。ポリイミド系樹脂組成物のガラス転移温度が150℃以上であれば、ポリイミド系樹脂組成物の耐熱性が十分なものとなる。一方、ガラス転移温度が300℃以下であれば、ポリイミド系樹脂組成物を用いて成形する際に比較的低温で成形が出来るため好ましい。また、得られた成形体を二次加工する場合も、同様の理由で好ましい。
【0046】
本発明のポリイミド系樹脂組成物は、JIS K7127に準拠した引張弾性率が2200MPa以上、3100MPa以下であることが好ましい。引張弾性率が2200MPa以上であれば、ポリイミド系樹脂組成物を用いて得られたフィルムは十分な剛性を有し、ハンドリング性に優れる。かかる観点から、引張弾性率は2250MPa以上であることがさらに好ましく、2300MPa以上であることが特に好ましい。一方、引張弾性率が3100MPa未満であれば、フィルムとして十分な柔軟性を有するため好ましい。かかる観点から、引張弾性率は3050MPa以下であることがさらに好ましく、3000MPa以下であることが特に好ましい。
【0047】
本発明のポリイミド系樹脂組成物は、JIS K7127に準拠して測定した引張破断伸度が130%以上であることが好ましく、135%以上であることがより好ましい。引張破断伸度がかかる範囲であれば、本発明のポリイミド系樹脂組成物をフィルムとしたとき耐衝撃性に優れる。また、破断等のトラブルを生じる事なく、種々の形状に安定して成形または二次加工する事ができる。
【0048】
さらに、本発明のポリイミド系樹脂組成物は、上記した成分以外に、本発明の趣旨を超えない範囲で、その他の樹脂や充填材、各種添加剤、例えば、熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、核剤、着色剤、滑剤、難燃剤等を適宜配合してもよい。
【0049】
<成形体>
本発明のポリイミド系樹脂組成物を用いて成形されてなる成形体としては、例えば、フィルムやプレート、パイプ、棒、キャップ、ボルト等の形状を有する成形体が挙げられる。なかでも、本発明のポリイミド系樹脂組成物は耐熱性や剛性、耐衝撃性に優れることから、フィルムとして好適に使用することができる。
【0050】
成形体およびフィルムの用途としては、自動車用部材、航空機用部材、電気・電子用部材等の耐熱性や剛性、耐衝撃性が要求される用途が挙げられる。
【0051】
<成形体の製造方法>
前記成形体の製造方法としては、特に限定されるものではないが、公知の方法、例えば、押出成形、射出成形、ブロー成形、真空成形、圧空成形、プレス成形等を採用することができる。
【0052】
また、フィルムの成形(製膜)方法としては、特に限定されるものではないが、公知の方法、例えばTダイを用いる押出キャスト法やカレンダー法、あるいは流延法等を採用する事ができ、なかでもフィルムの生産性等の面からTダイを用いる押出キャスト法が好適に用いられる。
【0053】
また、前記フィルムは、一方向または二方向に延伸を施した一軸または二軸延伸フィルムであっても良く、延伸フィルムの製造方法としては、Tダイキャスト法、プレス法、カレンダー法等によって前駆体としての未延伸フィルムを作製した後、ロール延伸法、テンター延伸法等により延伸成形する方法や、インフレーション法、チューブラー法等により、溶融押出と延伸成形を一体的に行う方法を挙げることが出来る。
【0054】
Tダイを用いる押出キャスト法での成形温度は、用いる組成物の流動特性や製膜性等によって適宜調整されるが、概ね280℃以上、350℃以下である。溶融混練には、一般的に使用される単軸押出機、二軸押出機、ニーダーやミキサーなどが使用でき、特に制限されるものではない。
【0055】
Tダイを用いる押出キャスト法の場合、得られるフィルムは急冷して非晶状態で採取しても良いし、キャスティングロールで加熱することによって結晶化させても良いし、非晶状態で採取した後に加熱処理を施して結晶化した状態で採取しても良い。一般に非晶状態のフィルムは耐久性や二次加工性に優れ、結晶化後のフィルムは耐熱性や剛性(コシ)に優れるため、用途に応じて最適な結晶化状態のフィルムを使用することが重要である。
【0056】
本発明のポリイミド系樹脂組成物を用いて成形されてなるフィルムの厚みは、特に制限されるものではないが、通常1~200μmである。また、フィルムの押出機からの流れ方向(MD)とその直交方向(TD)における物性の異方性ができるだけ少なくなるように製膜する事も重要である。
【0057】
なお、一般的に「フィルム」とは、長さ及び幅に比べて厚さが極めて小さく、最大厚さが任意に限定されている薄い平らな製品で、通常、ロールの形で供給されるものをいい(JIS K6900)、一般的に「シート」とは、JISにおける定義上、薄く、その厚さが長さと幅のわりには小さく平らな製品をいう。しかし、シートとフィルムの境界は定かでなく、本発明において文言上両者を区別する必要がないので、本発明においては、「フィルム」と称する場合でも「シート」を含むものとし、「シート」と称する場合でも「フィルム」を含むものとする。
【実施例
【0058】
以下に実施例でさらに詳しく説明するが、これらにより本発明は何ら制限を受けるものではない。なお、本明細書中に記載される原料及び本発明のポリイミド系樹脂組成物に用いられるフィルムについての種々の測定は次のようにして行った。
【0059】
(1)ガラス転移温度
原料ペレット及び得られたフィルムについて、粘弾性スペクトロメーターDVA-200(アイティー計測制御株式会社製)を用いて歪み0.1%、周波数10Hz、昇温速度3℃/分にて動的粘弾性の温度分散測定(JIS K7244-4法の動的粘弾性測定)を行い、損失正接(tanδ)の主分散のピークを示す温度をガラス転移温度とした。
【0060】
(2)引張弾性率
得られたフィルムについてJIS K7127に準拠して温度23℃の条件で測定した。
【0061】
(3)引張破断伸度
得られたフィルムについてJIS K7127に準拠して温度23℃、試験速度200mm/分の条件で測定した。
【0062】
[ポリエーテルイミド樹脂(A)]
(A)-1:ポリエーテルイミド(SABICイノベーティブプラスチックス株式会社製、Ultem1000、ガラス転移温度:232℃)
(A)-2:ポリエーテルイミド(SABICイノベーティブプラスチックス株式会社製、UltemCRS5001、ガラス転移温度:240℃)
【0063】
[結晶性ポリイミド樹脂(B)]
(B)-1:結晶性ポリイミド樹脂(三菱ガス化学株式会社製、商品名:サープリムTO65S、テトラカルボン酸成分:ピロメリット酸=100モル%、ジアミン成分:1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン/オクタメチレンジアミン=60/40モル%、結晶融解温度:322℃、ガラス転移温度:208℃)
【0064】
(実施例1)
(A)-1、及び、(B)-1を混合質量比80:20の割合でドライブレンドした後、Φ40mm同方向二軸押出機を用いて340℃で混練した後、Tダイより押出し、次いで約200℃のキャスティングロールにて急冷し、厚み0.1mmのフィルムを作製した。得られたフィルムについて、ガラス転移温度、引張弾性率、引張破断伸度の評価を行った。結果を表1に示す。
【0065】
(実施例2)
(A)-1と(B)-1の混合質量比を60:40とした以外は実施例1と同様の方法でフィルムの作製、評価を行った。結果を表1に示す。
【0066】
(実施例3)
(A)-1と(B)-1の混合質量比を40:60とした以外は実施例1と同様の方法でフィルムの作製、評価を行った。結果を表1に示す。
【0067】
(実施例4)
(A)-1と(B)-1の混合質量比を20:80とした以外は実施例1と同様の方法でフィルムの作製、評価を行った。結果を表1に示す。
【0068】
(実施例5)
(A)-1の代わりに(A)-2を使用した以外は実施例1と同様の方法でフィルムの作製、評価を行った。結果を表1に示す。
【0069】
(実施例6)
(A)-1の代わりに(A)-2を使用し、(A)-2と(B)-1の混合質量比を60:40とした以外は実施例1と同様の方法でフィルムの作製、評価を行った。結果を表1に示す。
【0070】
(実施例7)
(A)-1の代わりに(A)-2を使用し、(A)-2と(B)-1の混合質量比を40:60とした以外は実施例1と同様の方法でフィルムの作製、評価を行った。結果を表1に示す。
【0071】
(実施例8)
(A)-1の代わりに(A)-2を使用し、(A)-2と(B)-1の混合質量比を20:80とした以外は実施例1と同様の方法でフィルムの作製、評価を行った。結果を表1に示す。
【0072】
(比較例1)
(A)-1を単独で用いた以外は実施例1と同様の方法でフィルムの作製、評価を行った。結果を表1に示す。
【0073】
(比較例2)
(A)-2を単独で用いた以外は実施例1と同様の方法でフィルムの作製、評価を行った。結果を表1に示す。
【0074】
(比較例3)
(B)-1を単独で用いた以外は実施例1と同様の方法でフィルムの作製、評価を行った。結果を表1に示す。
【0075】
【表1】
【0076】
実施例1~8の組成物からなるフィルムは、ポリエーテルイミド樹脂(A)と結晶性ポリイミド樹脂(B)のブレンド物であるにもかかわらず、主分散のピークで表されるガラス転移温度はいずれも単一であり、相溶系であると認める事が出来た。該フィルムは全ての物性が適切な範囲に含まれている。
【0077】
一方、比較例1及び2のフィルムは、引張弾性率が高く、柔軟性が十分でない上、引張破断伸度の値が低く、耐衝撃性も十分ではない。
【0078】
比較例3のフィルムは、逆に引張弾性率が低く、薄膜で使用した際のハンドリング性が懸念される。