(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-01
(45)【発行日】2022-08-09
(54)【発明の名称】製紙工程におけるピッチ含有被処理水の処理方法
(51)【国際特許分類】
D21H 21/02 20060101AFI20220802BHJP
C02F 1/24 20060101ALI20220802BHJP
D21F 1/66 20060101ALI20220802BHJP
【FI】
D21H21/02
C02F1/24 B
D21F1/66
(21)【出願番号】P 2020173360
(22)【出願日】2020-10-14
【審査請求日】2021-10-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【氏名又は名称】渡邊 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100147865
【氏名又は名称】井上 美和子
(74)【代理人】
【識別番号】100130683
【氏名又は名称】松田 政広
(72)【発明者】
【氏名】田口 千草
(72)【発明者】
【氏名】和田 敏
(72)【発明者】
【氏名】三枝 隆
(72)【発明者】
【氏名】駿河 圭二
【審査官】長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/176182(WO,A1)
【文献】特開2019-039113(JP,A)
【文献】特表平07-504235(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105217753(CN,A)
【文献】特開昭63-152493(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第1766227(CN,A)
【文献】中国実用新案第202072970(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F1/20-1/26
1/30-1/38
D21B1/00-1/38
D21C1/00-11/14
D21D1/00-99/00
D21F1/00-13/12
D21G1/00-9/00
D21H11/00-27/42
D21J1/00-7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
製紙工程におけるピッチ含有被処理水の処理方法であり、
前記製紙工程におけるピッチ含有被処理水が、
スクリーン処理後のピッチ含有被処理水であるか、又は、スクリーン処理後のピッチ含有被処理水を再利用する、調成工程、抄紙工程、及び水回収工程から選択される1種又は2種以上のピッチ含有被処理水であり、
前記被処理水が、懸濁物質濃度0.3%以上であり、
前記被処理水にHLB値12以下のノニオン性界面活性剤をさらに添加したピッチ含有被処理水に対して、曝気にて気泡を発生させて
前記被処理水中のピッチが気泡に付着して形成されたフロスを除去することで、前記被処理水からピッチを除去することを特徴とする、ピッチ含有被処理水の処理方法。
【請求項2】
前記
被処理水は、粒子径が20μm以上
のピッチを含む被処理水である、請求項1に記載のピッチ含有被処理水の処理方法。
【請求項3】
フロス中ピッチの選択的濃縮倍率を3以上にする、請求項1
又は2に記載のピッチ含有被処理水の処理方法。
【請求項4】
製紙工程における
懸濁物質濃度0.3%以上のピッチ含有被処理水
に対して気泡を供給して当該被処理水からピッチを除去する
ことを含み、
前記ピッチ含有被処理水が、
スクリーン処理後の粒子径が20μm以上のピッチ含有被処理水であるか、又は、スクリーン処理後のピッチ含有被処理水を再利用する、調成工程、抄紙工程、及び水回収工程から選択される1種又は2種以上の
粒子径が20μm以上のピッチ含有被処理水で
ある、
前記ピッチ含有被処理水から
粒子径が20μm以上のピッチを
低減させる方法。
【請求項5】
前記ピッチが気泡に付着して形成されたフロスを除去する、請求項4に記載のピッチ含有被処理水から粒子径が20μm以上のピッチを低減させる方法。
【請求項6】
前記気泡を供給する被処理水は、HLB値12以下のノニオン性界面活性剤が添加されたものである、請求項4又は5に記載のピッチ含有被処理水から粒子径が20μm以上のピッチを低減させる方法。
【請求項7】
フロス中ピッチの選択的濃縮倍率を3以上にする、請求項4~6のいずれか一項に記載のピッチ含有被処理水から粒子径が20μm以上のピッチを低減させる方法。
【請求項8】
ピッチ含有被処理水を処理するための槽と、
前記被処理水に曝気にて気泡を発生させるように構成されている曝気装置と、
前記被処理水に撹拌にて対流を発生させるように構成されている撹拌装置と、
前記曝気と前記撹拌とを同一槽内にて行うことで、ピッチを気泡に付着させて形成させたフロスを除去するように構成されているフロス除去装置と、
前記被処理水に薬剤を添加するように構成されている装置と、
を備え
、
請求項1~3のいずれか一項に記載のピッチ含有被処理水の処理方法、又は、請求項4~7のいずれか一項に記載のピッチ含有被処理水から粒子径が20μm以上のピッチを低減させる方法を実施する、
ピッチ含有被処理水の処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製紙工程におけるピッチ含有被処理水の処理方法及び製紙工程におけるピッチ除去方法、並びにピッチ含有被処理水の処理装置などに関する。
【背景技術】
【0002】
製紙は、パルプ原料を水に分散させた原料スラリーを抄紙する抄紙工程を経ることによって行われる。抄紙工程において、パルプなどの微細繊維及び填料を含む水が抄紙機などから多量に排出される。排出されたパルプ含有水は、水資源の有効活用及び再利用の観点から、水回収工程などによって抄紙工程中で循環させて使用されている。
【0003】
このとき、排出されたパルプ含有水を繰り返し循環させて使用することで、この使用する水には、製紙工程で発生したピッチが多く含まれるようになってくる。また、古紙にはピッチの原因成分が多く含まれているため、古紙を原料として用いる調成工程及びそれ以降の抄紙工程では、パルプ含有水にピッチが多く含まれやすい。
【0004】
一般的に、ピッチとは、パルプ由来の樹脂成分、再生古紙中の合成粘着物質、製紙工程で使用される添加薬剤に由来する有機物を主体とする疎水性の粘着性物質を示す。
ピッチは、水中でコロイドとして分散して存在しているが、大きなせん断力の変化、pH変化、水温変化、薬剤の添加などでコロイド状態が破壊されることにより水中で析出し、微細なピッチ同士あるいは炭酸カルシウムなどの填料や微細繊維などと凝集物を形成する。また、ピッチは疎水性が高いため、ワイヤー、フェルトなどの抄紙用具に付着しやすい。このことで、製品へのピッチ由来の凝集物の混入、搾水不良、断紙などを引き起こすことがある。このため、ピッチに起因して、製品の品質及び歩留まり低下、整備を停止して抄紙用具などの洗浄することにより生産性低下などの問題が発生する。このようなピッチによる製品品質及び生産効率を低下させる障害を、ピッチ障害と呼んでいる。
【0005】
このため、例えば、製紙工程におけるピッチを抑制できるような薬剤が種々検討されている。例えば、当該ピッチ抑制剤として、合成ポリマー、無機凝集剤などが使用されている。ピッチ抑制剤には、凝集物を形成させないように、ピッチの粘着性を低下させたり、ピッチ同士を分散させる効果が期待されており、これによって、ピッチ障害を起こりにくくしている。
【0006】
また、例えば、特許文献1には、製紙システムにおいて繊維からの有機汚染物質の堆積を制御する方法であって、繊維を含有する水性懸濁液を、少なくとも1つのリパーゼ及び少なくとも1つの過酸化物源無含有酸化剤で処理することを含み、前記有機汚染物質が1つ又は複数のピッチ成分を含む、方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献】
【0008】
【文献】金沢 毅、粘着異物除去に関するスクリーン装置の最適化、紙パ技協誌、1997年51巻1号、p.40-47
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述の特許文献1のような技術は、薬剤処理によって、パルプ含有水中で、ピッチの発生を抑制したり、ピッチ同士を分散させたりする技術であり、ピッチが系外に排出されていない。さらに、例えば、非特許文献1では、例えば、400μmや500μmの大きさのピッチが、スクリーン装置をすり抜けることが、記載されている。
そこで、本発明者らは、パルプ含有水に含まれるピッチを効率よく系外に排出できるような技術について検討することにした。
すなわち、本発明は、製紙工程におけるピッチ含有水からピッチを効率よく系外に排出できる技術を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために、調成工程、抄紙工程及び水回収工程におけるピッチ含有水の性状に着目し、この性状を考慮して当該ピッチ含有水から効率よくピッチを系外に排出する技術について鋭意検討した。この結果、本発明者らは、ピッチ含有水に対して、曝気にて気泡を発生させることで、ピッチ含有水からピッチを効率よく系外に排出できる技術を見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0011】
本発明は、製紙工程におけるピッチ含有被処理水の処理方法であり、
前記製紙工程におけるピッチ含有被処理水が、調成工程、抄紙工程、及び水回収工程から選択される1種又は2種以上のピッチ含有被処理水であり、
前記被処理水が、懸濁物質濃度0.3%以上であり、
前記被処理水に対して、曝気にて気泡を発生させてピッチを除去することを特徴とする、ピッチ含有被処理水の処理方法を提供することができる。
【0012】
本発明は、製紙工程におけるピッチ含有被処理水からピッチを除去するピッチ除去方法であり、
前記製紙工程におけるピッチ含有被処理水が、調成工程、抄紙工程、及び水回収工程から選択される1種又は2種以上のピッチ含有被処理水であり、
前記被処理水が、懸濁物質濃度0.3%以上であり、
前記被処理水に対して、気泡を供給してピッチを除去することを特徴とする、ピッチ除去方法を提供することができる。
【0013】
本発明は、ピッチ含有被処理水を処理するための槽と、
前記被処理水に曝気にて気泡を発生させるように構成されている曝気装置と、
前記被処理水に撹拌にて対流を発生させるように構成されている撹拌装置と、
前記曝気と前記撹拌とを同一槽内にて行うことで、ピッチを気泡に付着させて形成させたフロスを除去するように構成されているフロス除去装置と、
を備える、ピッチ含有被処理水の処理装置を提供することができる。
【0014】
前記ピッチの粒子径が、20μm以上であってもよい。
前記被処理水が、スクリーン処理後の被処理水であってもよい。
前記ピッチが気泡に付着して形成されたフロスを除去してもよい。
フロス中ピッチの選択的濃縮倍率を3以上にしてもよい。
前記被処理水に、HLB値12以下のノニオン性界面活性剤をさらに添加してもよい。
前記製紙工程におけるピッチ含有被処理水の処理方法又は前記製紙工程におけるピッチ除去方法を実施する、前記ピッチ含有被処理水の処理装置であってもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、製紙工程におけるピッチ含有水からピッチを効率よく系外に排出できる技術を提供することができる。
なお、本発明の効果は、ここに記載された効果に必ずしも限定されるものではなく、本明細書中に記載されたいずれかの効果であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本実施形態に係る製紙工程(調成工程、抄紙工程、水回収工程)の一例を示す概略図であり、本実施形態の工程はこれに限定されない。
【
図2】本実施形態に係る装置の設置場所の一例を示す概略図であり、
図2Aは調成工程での一例であり、
図2B及び
図2Cは抄紙工程での一例であり、本実施形態の装置の設置場所はこれらに限定されない。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が限定されて解釈されることはない。なお、数値における上限値と下限値は、所望により、任意に組み合わせることができる。
【0018】
1.本発明に係る製紙工程におけるピッチ含有被処理水の処理方法
本発明は、製紙工程におけるピッチ含有被処理水の処理方法であり、前記被処理水に対して、曝気にて気泡を発生させてピッチを除去することを特徴とする、ピッチ含有被処理水の処理方法を提供することができる。さらに好適には、除去されるピッチは、気泡に付着して形成されたフロスである。
【0019】
前記製紙工程におけるピッチ含有被処理水が、調成工程、抄紙工程、及び水回収工程から選択される1種又は2種以上のピッチ含有被処理水であることが好適である。さらに、新聞古紙を除く古紙を原料とした調成工程のピッチ含有被処理水が好適である。
前記被処理水が、懸濁物質濃度0.3%以上及び/又はピッチの粒子径が20μm以上であることが好適である。
前記被処理水が、スクリーン処理後の被処理水であることが好適であり、スクリーン処理後で次の工程前の被処理水であることがより好適である。
より好ましい態様として、前記被処理水に、好適にはノニオン性界面活性剤、より好適にはHLB値12以下のノニオン性界面活性剤、さらに好適にはHLB12以下のポリアルキレングリコールを、添加することである。
【0020】
本実施形態の方法によるピッチ除去の作用機構について、本発明者らは、以下の仮説を想定しているが、依然不明な点が多く、本発明の作用機構についてはさらに鋭意検討している。
ピッチ含有処理水を処理するための槽内で、曝気にて発生させた気泡は水と比べて疎水性である。一方のピッチも疎水性の異物である。そして、特定の性状の製紙スラリー中に、曝気にて気泡が吹き込まれることで、疎水性相互作用により、水に含まれるピッチは水中から泡表面へと移行する。さらに気泡の表面に付着したピッチは、気泡の浮上によってスラリーの水面へと移動し、水面付近ではピッチが濃縮したスカムとして存在するようになる。
水面付近で、ピッチが気泡に付着して形成された微細な泡スカムが濃縮され高密になった状態になっているため、この高密な泡スカムを水面の流れに乗って系外に廃棄させるか、スレクーバーなどのフロス除去装置によって回収し系外へと排出させることができる。
このように、特定の性状の製紙スラリーと、曝気とを組み合わせることで、製紙スラリーに含まれるピッチを選択的に系外に排出することができるようになる。
さらに、ピッチ含有被処理水からピッチを効率よく除去された処理水は、ピッチ含有量が良好に低減されているので、調成工程及び/又は抄紙工程に移送され再利用されうる。
これによって、系内のピッチ含有量が低減し、系内(特に抄紙工程)でのピッチ由来の障害を抑制することができる。
【0021】
これにより、製紙工程における調成工程、抄紙工程及び水回収工程から選択される1種又は2種以上のピッチ含有被処理水から、ピッチを効率よく系外に排出することができる。
【0022】
なお、本発明に係る実施形態の工程は、製造、装置又はシステムに適用することができる。例えば、製紙工程の場合、製紙工程を、製紙(紙の製造)、製紙装置、又は製紙システムとしてもよい。
【0023】
1-1.製紙工程の概要
本実施形態の方法を使用する製紙工程は、特に限定されず、本実施形態の方法は、公知の製紙工程又は将来生じ得る製紙工程に適用することができる。
本実施形態における製紙工程には、調成工程、抄紙工程、及び水回収工程が含まれていることが好適である。一例として、
図1を示すが、本実施形態の工程はこれに限定されない。
調成工程は、一般的な調成工程でもよく、例えば、抄紙に用いられる原料(パルプなど)を調整及び配合して製紙原料をつくるように構成されていてもよい。抄紙工程は、一般的な抄紙工程でもよく、製紙原料を抄紙機で抄き上げるように構成されてもよい。水回収工程は、一般的な水回収工程でもよく、例えば、調成工程及び/又は抄紙工程にて生じた水を、回収、循環又は排出させるように構成されていてもよく、さらに、抄紙工程にて生じた水を回収する工程が好ましい。
本実施形態の方法は、製紙工程のうち、調成工程、抄紙工程、及び水回収工程から選択される1種又は2種以上のピッチ含有被処理水を処理することが好適ある。
【0024】
以下に、本実施形態における、調成工程、抄紙工程、及び水回収工程について、詳細に説明する(例えば
図1参照)が、本実施形態の各工程はこれに限定されない。
【0025】
1-1-1.調成工程
調成工程は、特に限定されず、通常の調成工程でもよく、例えば、化学パルプ、機械パルプ又は古紙パルプを調製する工程が挙げられる。
本実施形態の方法における調成工程では、古紙を原料とした調成工程が好ましい。古紙にはピッチの元となる成分が含まれているが、本実施形態の方法は、古紙を原料とした調成工程におけるピッチ含有水から、ピッチを効率よく系外に排出できる。
【0026】
調成工程において、原料に使用する古紙として、特に限定されないが、例えば、新聞古紙、ダンボール古紙(段ボール箱古紙及びライナー古紙など)、白古紙及び上質古紙(バージンパルプ100%の白紙、原料に古紙が使用されている白紙、普通紙、上質紙など)、裾物古紙(雑誌古紙、雑古紙、地券古紙、再生紙など)などが挙げられ、これらから選択される1種又は2種以上を使用することができる。
【0027】
古紙調成工程にて得られる古紙パルプとして、例えば、新聞古紙パルプ、ダンボール古紙パルプ、白古紙パルプ、上質古紙パルプ、裾物古紙パルプなどが挙げられる。これら古紙パルプから選択される1種又は2種以上を、製紙のためのパルプ原料として使用してもよく、古紙パルプと、さらに化学パルプ及び/又は機械パルプを含んでもよい。
【0028】
古紙調成工程に用いる古紙は、新聞古紙を除く古紙が、好ましい。本実施形態の方法では、古紙全量に対して新聞古紙が実質的に含まれないことが好ましく、例えば、新聞古紙が古紙全量の5%、3%、1%又は0.5%以下であることが挙げられる。なお、抄紙工程及び水回収工程におけるピッチ含有被処理水には、古紙パルプが含まれていてもよく、この古紙パルプには、新聞古紙パルプが含まれていてもよい。
【0029】
本実施形態の方法は、新聞古紙以外の古紙を原料とし、製紙原料をつくる調成工程におけるピッチ含有被処理水を使用することが、好ましく、当該調成工程のうち、新聞古紙を原料とした新聞古紙の調成工程を除くことが、好ましい。
【0030】
調成工程として、例えば、パルパー装置などによる溶解工程、ニーダー装置などによる離解工程、クリーナー装置及び/又はスクリーン装置などによる除塵工程、シックナー装置などによる洗浄及び/又は濃縮工程、リファイナー装置などによる叩解工程など及びこれらの組み合わせなどが挙げられる。
【0031】
除塵工程におけるクリーナー工程は、原料に混入した砂利やステープラーの針などの大きな異物をクリーナー装置などの分離装置にて分離するように構成されている工程である。
除塵工程におけるスクリーン工程は、スクリーン装置に設けられたスリット幅を通過できない異物を除去するように構成されている工程である。スクリーン方式として、スリットスクリーン方式及びホールスクリーン方式などが挙げられるが、これらに限定されない。一例として、所定(例えば400μm又は500μm)のスリット幅を有するスリットスクリーンの場合、例えば、ピッチ含有被処理水を所定のスリット幅のスリットスクリーンを通過させたときに、ピッチ含有被処理水中に含まれていた所定(例えば400μm又は500μm)の大きさ以上の異物は、このスリット幅を通過できずに除去される。
本実施形態の方法では、除塵工程において、大きな異物を除去するクリーナー工程を行い、次いで小さな異物を除去するスクリーン工程を行う順が好ましい。
【0032】
調成工程として、離解工程、除塵工程、濃縮工程、及び、叩解工程の順に行うことが好ましく、これらの工程の前に、原料を溶解させる溶解工程、除塵工程を加えて、溶解工程、除塵工程、並びに、離解工程、除塵工程、濃縮工程、及び叩解工程の順に行ってもよい。
【0033】
本実施形態の方法では、調成工程のうち、除塵工程におけるスクリーン工程以降のピッチ含有水を処理することが好ましい。なお、「以降」とは、スクリーン工程以降の調成工程、抄紙工程、及び水回収工程である。本実施形態では、より好適な態様として、洗浄及び/又は濃縮工程、叩解工程、さらに抄紙工程、及び水回収工程から選択される1種又は2種以上のピッチ含有水を処理することである。
【0034】
本実施形態の方法であれば、スクリーンなどの除塵装置をすり抜けるような大きさのピッチであっても系外に効率よく排出できるため、より好ましくは除塵処理後(好適にはスクリーン処理後)のピッチ含有被処理水を処理することが好ましい。これによりピッチが低減された処理水を提供し、次の工程及びそれ以降でのピッチ障害を抑制する観点から、より好ましい(例えば、
図2A参照)。
【0035】
一般的に脱墨パルプ製造工程の場合、解離工程、第一除塵(粗選)工程、脱墨工程、第二除塵(精選)工程、洗浄工程、晒タワーなどによる漂白工程、チェストなどによる貯留工程が挙げられ、これらを順に行うことがある。
本実施形態の方法は、従来製紙工程において対応できなかったピッチを効率よく系外に排出することを主な目的とし、さらに上述のようにスクリーンをすり抜けるようなピッチに対しても対応できる。このため、本実施形態の方法は、脱墨工程におけるピッチ含有水を使用するのではなく、脱墨工程を除く他の工程におけるピッチ含有被処理水を使用することが望ましい。
本実施形態の方法は、上述のようにスクリーンをすり抜けるようなピッチに対しても対応できるため、脱墨工程を含む製紙工程の場合には、抄紙工程又は水回収工程のピッチ含有被処理水を処理することが好ましい。これにより、スクリーン工程をすり抜けたピッチをより良好に処理し、これによりピッチが低減された処理水を提供することができる。
【0036】
なお、調成工程を行う調成系又は調成装置は、製紙原料をつくるように構成されていればよく、一般的な調成系又は調成装置を用いてもよい。
【0037】
1-1-2.抄紙工程
抄紙工程は、特に限定されず、通常の抄紙工程でもよい。
抄紙工程には、ワイヤーパートで、調成した製紙原料(精選紙料)を網上に流し込んでろ過させて紙層を形成する紙層形成工程、プレスパートで、得られた湿紙を毛布(フェルト)と共に2本のロール間に通して圧搾脱水する湿紙脱水工程、及びこれら工程から生じた水を貯留部及び流路(サイロ、ピット、配管など)などにて水(特にパルプ含有水)を回収し、種箱やチェストなどに循環させる一次循環水工程が含まれ、この抄紙工程の水には、パルプの他にピッチが含まれている。なお、抄紙工程は、湿紙脱水工程の後にドライヤーパートで、湿紙を乾燥する湿紙乾燥工程を含んでいてもよい。
本実施形態の方法では、抄紙工程のうち、紙層形成工程、湿紙脱水工程、及び一次循環水工程などから選択される1種又は2種以上におけるピッチ含有被処理水を処理することが好ましい。
【0038】
本実施形態の方法では、抄紙工程で生じる水及び/又は回収する水にはピッチが含まれているため、これらピッチ含有水を、ピッチ含有被処理水として、処理することができる。より好適な態様として、例えば、ワイヤーパートでのシャワー水、ワイヤー及びフェルトなどの洗浄水、シールピット、白水サイロ及び回収水タンクなどからの回収水又はろ液などが挙げられ、これらから選択される1種又は2種以上のピッチ含有被処理水を処理してもよい。
【0039】
抄紙工程を行う抄紙系又は抄紙装置は、抄紙できるように構成されていればよく、一般的な抄紙系又は抄紙装置を用いてもよい。
抄紙系又は抄紙装置として、例えば、ワイヤーパート、プレスパート及びドライヤーパートなどが備えられているが、これらに限定されず、さらに、スクリーンなどの除塵装置、チェスト(例えばミキシングチェスト、マシンチェストなど)、リファイナー、種箱及びインレット、白水サイロ、シールピット、回収水タンク、白水回収水流路、などから選択される1種又は2種以上がさらに備えられていてもよい。
【0040】
1-1-3.水回収工程
水回収工程は、特に限定されず、通常、製紙工程の各工程(より好適には調成工程及び/又は抄紙工程)から発生した水(例えば、シャワー水、洗浄水、余剰水、白水、ろ液など)を、調成工程及び/又は抄紙工程にて再利用するために水を回収し循環させるように構成されている。当該水回収工程には、例えば、スクリーンなどの除塵装置、加圧浮上装置、ポリディスクフィルター、水貯留部、チェスト、配管や流路、ポンプなどから選択される1種又は2種以上が備えられ、これらは、目的に応じるように、水を回収、循環、又は処理できるようにネットワーク的に接続されていることが好ましい。
本実施形態の方法において、水回収工程において回収、循環、再利用する水にはピッチが含まれているので、水回収工程におけるピッチ含有水を、ピッチ被処理水として、処理することが、好ましい。
【0041】
本実施形態における水回収工程は、一次循環水工程と、二次循環水工程とを含むことが好ましい。通常、抄紙工程内における水循環を一次循環といい、抄紙工程にて生じ当該工程外に移送されて循環する水循環を二次循環という。
一例として、一次循環水工程は、抄紙工程で生じた水を回収し、回収した水を、抄紙工程にて循環して再利用することが好ましい。
一例として、二次循環水工程は抄紙工程で生じた水を回収し、回収した水を、調成工程に移送し再利用する、又は系外に排出するように構成されていることが好ましい。
【0042】
水回収工程を行う水回収系又は水回収装置は、各工程から発生した水を回収したり、目的の設備に水を移送したり、また水が循環できるように構成されており、例えば、水貯留部、チェスト、配管や流路、ポンプ、スクリーンなどの除塵装置などを含み、目的に応じてネットワーク的に接続されているように構成されていてもよい。
【0043】
1-2.ピッチ含有被処理水
本実施形態で用いるピッチ含有被処理水は、上記「1-1.」で説明したように、製紙工程におけるピッチ含有水であることが好適であり、当該ピッチ含有水には、パルプが含まれていてもよく、当該パルプは、バージンパルプ、古紙パルプ又はこれらの混合物のいずれでもよい。
また、好適な態様として、製紙工程におけるピッチ含有被処理水は、調成工程、抄紙工程、及び水回収工程から選択される1種又は2種以上のピッチ含有被処理水である。
また、本実施形態におけるピッチ含有被処理水の性状の測定方法については、後記〔実施例〕の<本実施形態に用いる測定方法>に示す。
【0044】
本実施形態で用いるピッチ含有被処理水の性状について、以下で説明するが、好適な数値範囲内になるように、希釈(例えば水希釈)及び/又は濃縮(例えば、熱、膜、減圧)を行ってもよく、当該希釈又は濃縮は、ピッチ含有被処理水を希釈及び/又は濃縮するように構成されている装置にて行ってもよい。当該被処理水のpHは特に限定されないが、好ましくはpH5~13、より好ましくはpH5~10である。
【0045】
1-2-1.ピッチ含有被処理水のパルプ濃度
ピッチ含有被処理水に含まれるパルプ濃度は、特に限定されないが、より好適な下限値として、好ましくは1000mg/L以上、より好ましくは2000mg/L以上、さらに好ましくは3000mg/L以上、より好適な上限値として、好ましくは、35000mg/L以下、より好ましくは30000mg/L以下、さらに好ましくは25000mg/L以下であり、当該好適な数値範囲として、より好ましくは1000~35000mg/L、さらに好ましくは3000~30000mg/Lである。これにより、調成工程、抄紙工程及び水回収工程におけるピッチ含有水からピッチをより効率よく系外に排出できるので、系内のピッチ量を低減することができ、ピッチ障害を抑制することができる。
なお、パルプ濃度(mg/L)は、懸濁物質重量(mg/L)-灰分重量(mg/L)-ピッチ重量(mg/L)から算出することができる。
【0046】
1-2-2.ピッチ含有被処理水の懸濁物質濃度(SS濃度)
ピッチ含有被処理水に含まれる懸濁物質濃度は、特に限定されないが、より好適な下限値として、好ましくは0.3%以上、より好ましくは0.4%以上であり、また、より好適な上限値として、好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下、さらに好ましくは4%以下、さらにより好ましくは3%以下である。当該好適な数値範囲として、より好ましくは0.3~10%、さらに好ましくは0.4~5%である。なお、懸濁物質濃度は、後述の<本実施形態に用いる測定方法>「(1)懸濁物質濃度」により求めることができる。
これにより、調成工程、抄紙工程、又は水回収工程の少なくともいずれか1つにおけるピッチ含有水からピッチをより効率よく系外に排出できるので、系内のピッチ量を低減することができ、さらに系内のピッチ障害を抑制することができる。
【0047】
本実施形態の方法では、後記〔実施例〕に示すように、ピッチ含有水被処理水中の懸濁物質濃度が0.1%から0.2%になると、フロス中ピッチの選択的濃縮倍率が少し低下したが、0.2%を超え0.5%になると急激に跳ね上がり、高い濃縮倍率を示すことを本発明者らは見出すことができた。
さらに、ピッチ含有被処理水中の懸濁物質が低濃度ではなく、高濃度になってくるとピッチ抑制剤などの薬剤の増量が通常想定される。しかしながら、本実施形態の方法では、製紙工程において、懸濁物質が高濃度であるピッチ含有被処理水でも、ピッチをより効率よく系外に排出できる。しかも、本実施形態の方法は、機械的な曝気を用いるので、濃度調整が必要な薬剤を用いるよりも、ピッチ含有被処理水からピッチをより容易に系外に排出することができる。さらに、本実施形態の方法では、スクリーンにてすり抜けるような大きさのピッチであっても、ピッチ含有被処理水中の懸濁物質濃度が所定以上の高濃度であっても、ピッチを系外により効率よく排出できる。このように、本実施形態の方法では、ピッチの除去が困難な場合であっても、ピッチ含有被処理水からピッチを効率よく系外に排出できる。これにより、系内のピッチ含有量を低減することができ、さらに系内(特に抄紙工程)のピッチ障害を抑制することができる。
【0048】
1-2-3.ピッチ含有被処理水のピッチの大きさ(粒子径)
ピッチ含有被処理水に含まれるピッチの大きさ(粒子径)は、特に限定されないが、その好適な下限値として、好ましくは10μm以上、より好ましくは15μm以上、さらに好ましくは20μm以上であり、その好適な上限値として、好ましくは1000μm以下、より好ましくは800μm以下、さらに好ましくは600μm以下、さらにより好ましくは500μm以下、より好ましくは425μm以下である、より好適な数値範囲として、より好ましくは20μm以上500μm以下、さらに好ましくは20μm以上425μm以下である。なお、ピッチの大きさは、後述の<本実施形態に用いる測定方法>「(2)ピッチ粒子径」に記載するように篩分けにより求めることができる。
【0049】
一般的なピッチ抑制剤などの薬剤では数10μm以下の大きさのピッチに対して有効に処理できるが、数10μm以上、特に100μm以上を越えるようなピッチの処理には適していない。さらに、ピッチは一般的にスクリーンを用いて除去されているが、ピッチは柔軟性が高いため、形状を変え、スリット幅以上の大きさのピッチが、例えば400μmや500μmの大きさのピッチが、スクリーンをすり抜けることが確認されている(非特許文献1)。このように大きなピッチが被処理水に含まれている場合には、従来の薬剤処理又は機械的処理を用いても、十分に系外に排出することが難しいという技術的な困難性があった。
【0050】
しかしながら、本実施形態の方法を用いることで、ピッチの大きさが10μm以上の大きなピッチを含有する被処理水であっても良好に処理することができ、当該被処理水から良好にピッチを除去することができる。このように、本実施形態によれば、大きなピッチであっても効率よく系外に排出することができるので、系内のピッチ量を低減することができ、ピッチ障害を抑制することができる。また、大きなピッチを低減した処理水を、調成工程及び/又は抄紙工程において再利用することができる。
【0051】
1-2-4.ピッチ含有被処理水の灰分
ピッチ含有被処理水に含まれる灰分量として、特に限定されないが、その好適な下限値として、好ましくは100mg/L以上、より好ましくは300mg/L以上、さらに好ましくは400mg/L以上であり、また、その好適な上限値として、好ましくは10000mg/L以下、より好ましくは7000mg/L以下、さらに好ましくは5000mg/L以下である。当該好適な数値範囲として、より好ましくは300~7000mg/L、さらに好ましくは400~5000mg/Lである。これにより、調成工程、抄紙工程及び水回収工程におけるピッチ含有水からピッチをより効率よく製紙系外に排出できる。
【0052】
1-3.ピッチ除去工程
本実施形態の方法は、前記ピッチ含有被処理水に対して、曝気にて気泡を発生させてピッチを除去することができる。曝気を用いることで選択的にピッチを、気泡に付着させたフロスにして、水面付近に浮上させることができる。このようにして、ピッチを浮上分離させて、系外へピッチを排出することができる。
【0053】
より具体的な説明として、曝気による気泡発生により、水中に存在するピッチと気泡を接触させることで、ピッチが気泡に付着して水面付近に浮上し、水面付近にて濃縮されることでフロスを形成する。フロスはピッチ濃度が高密になっているため、当該水面付近を処理することで、フロスに高密に含有されるピッチを効率よく容易に回収することができる。回収されたフロスは、簡便に系外に排出することができる。このようにして、製紙工程におけるピッチ含有被処理水からピッチを効率よく系外に排出することができるとともに系内のピッチ含有量を低減することができる。これにより、系内におけるピッチ障害も抑制することができる。また、得られた処理水は、ピッチ含有量が低減され、ピッチ由来の障害も低減されているので、調成工程及び/又は抄紙工程にてより良好に再利用することができる。
【0054】
本実施形態におけるピッチ除去工程では、曝気及び/又は撹拌にて、気泡を発生させる気泡発生工程を備えることが好ましく、気泡発生工程後に、気泡により形成された、ピッチを含むフロスを系外に排出するフロス除去工程をさらに備えることが好ましい。本実施形態におけるピッチ除去工程では、気泡発生工程と、フロス除去工程とを含むことが、より好ましい。
【0055】
1-3-1.ピッチ含有被処理水の曝気方法
曝気方法として、特に限定されず、公知の曝気方法を使用してもよい。曝気方法にて、ピッチ含有被処理水に気泡を供給することもできる。
曝気方法として、例えば、散気装置又は撹拌装置などを使用する方法を採用することができる。曝気可能なように構成されている撹拌装置にて空気を取り込むように強く撹拌することで曝気させることもできるが、散気の方が気泡の大きさ、方向、量などを調整しやすいので、好ましい。
【0056】
さらに、曝気を安定的かつ連続的に行うことができるという観点から、散気管及び散気板などの散気部材にて気泡を発生させうる気泡発生部を備える散気装置(例えば、フローテーターなど)を使用する方法を採用することが好ましい。散気装置を使用した方法として、より好適な態様として、気泡発生部(又は装置でもよい)を槽の底部に設け、微細気泡を底部より下方及び/又は上方に吹き上げ、ピッチ含有被処理水と気泡との接触効率を高めることで、曝気を効率よく行うことができる。
【0057】
気泡発生部は、特に限定されないが、微細な気泡を発生させることができるように構成されている気泡発生部を使用する方法を採用することが好ましい。気泡発生部が気泡を送る方向は、槽の底面方向、側面方向、又は上方向のいずれでもよく、これにより、下方向、側面方向、又は上方向に、気泡を噴霧し、対流を発生させることができる。
【0058】
本実施形態の方法において発生させる泡の粒径は、特に限定されないが、微細な気泡が好ましく、その好適な下限値として、好ましくは0.5mm以上、より好ましくは1mm以上であり、その好適な上限値として、好ましくは10mm以下、より好ましくは5mm以下、さらに好ましくは3mm以下であり、当該好適な数値範囲として、より好ましくは1~3mmである。
【0059】
本実施形態の方法において曝気する気体量は、特に限定されないが、試料水1Lあたりに対し、より好適な下限値として、好ましくは0.5L/分以上、より好ましくは0.7L/分以上であり、さらに好ましくは1L/分以上、よりさらに好ましくは1.2L/分以上であり、上限値は特に限定されず、使用する曝気装置の性能によって適宜設定することができる。当該気体は、空気が好ましい。また、本実施形態の方法において曝気時間は、特に限定されず、使用する曝気装置の性能又は使用する槽サイズなどによって適宜設定することができる。
【0060】
本実施形態の方法において曝気する際のピッチ含有被処理水の水温度は、特に限定されないが、その好適な下限値として、好ましくは20℃以上、より好ましくは30℃以上、より好ましくは35℃以上であり、また、その好適な上限値として、好ましくは50℃以下、よりさらに好ましくは45℃以下である。当該好適な数値範囲として、より好ましくは20~50℃である。これにより、ピッチと気泡とが接触したときにフロスを形成しやすくなるので、ピッチ含有被処理水からピッチを効率よく系外に排出することができる。
なお、後記「1-3-2.ピッチを含むフロスの除去方法」において処理する際のピッチ含有被処理水の水温度は、上記「曝気する際のピッチ含有被処理水の水温度」の温度条件を採用することができ、より好ましくは20~50℃である。
【0061】
本実施形態の方法において、曝気に加えて、ピッチ含有被処理水に対して対流を発生させるように撹拌を行うことが好ましい。対流は、鉛直対流又は水平対流がより好ましい。これにより、槽内のピッチ含有被処理水に対して均一的に気泡を接触させることができるとともにピッチと気泡とが接触したときにフロスを形成しやすくなるので、ピッチ含有被処理水からピッチを効率よく系外に排出することができる。
撹拌方法は、特に限定されないが、ピッチ含有被処理水に対して、対流を発生させるように構成されている撹拌装置を使用する方法を採用することが好ましい。撹拌装置として、例えば、撹拌羽式や噴射式などを、単数又は複数備える水中撹拌装置などが挙げられるが、これに限定されない。
【0062】
1-3-2.ピッチを含むフロスの除去方法
フロス除去方法として、特に限定されないが、通常のフロス除去装置を使用する方法を採用することができる。フロス除去方法として、水面付近にあるフロスを水面付近の流れに乗せることで排出するように構成されている機構又は装置、水面付近にあるフロスを掻き取るように構成されている機構又は装置などを使用する方法を採用することが好ましい。前記曝気方法にて槽内の水面付近に高密に濃縮されたフロスが存在しているため、簡便な装置又は機構を採用しても、ピッチ含有被処理水からピッチをより効率よく容易に系外に排出することができる。なお、フロスを除去する際の条件は、上記「1-3-1.」の条件(例えば、水温度)を適宜採用することができる。
【0063】
水面付近の流れにてフロスを排出する方法として、より具体的には、例えば、水面よりわずかに高い又は低い位置に設けた排水口に、水面付近のフロスを寄せて落とし込み除去する機構又は装置を使用する方法を採用することが好ましい。
また、水面付近のフロスを掻き取る方法として、より具体的には、例えば、掻き取り板の移動又は回転装置(クロフタ)、スクープロボ(浮遊物自動回収装置)、ミニスキマー(超小型浮遊物回収装置)などのスキマーなどの装置を使用する方法を採用することが好ましい。これらから選択される1種又は2種以上を使用してもよい。
これら機構又は装置は、例えば、装置(掻き取り装置、回収装置、移送ポンプなど)、槽、流路などを備えて、系外にピッチを排出できるように構成されていてもよい。例えば、ピッチを気泡に付着させて形成させたフロスを除去するように構成されているフロス除去装置であってもよい。当該機構又は装置は、他の部(例えば、装置(ポンプなど)、槽、流路など)と接続し、最終的に系外にピッチを排出するように構成されていてもよい。
【0064】
1-3-3.フロス中のピッチの選択的濃縮倍率
本実施形態の方法では、前記ピッチ含有被処理水に対して曝気にて気泡を発生させてピッチを除去することによって、フロス中のピッチの選択的濃縮倍率を向上させることができる。
さらに、本実施形態の方法では、フロス中のピッチの選択的濃縮倍率が向上するようにピッチ含有被処理水の処理を行うことにより、ピッチ含有被処理水から、ピッチを効率よく系外に排出することができる。
また、ピッチ含有被処理水からピッチを効率よく除去された処理水は、ピッチ含有が大幅に低減されおり、調成工程及び/又は抄紙工程に移送され、再利用されうる。この処理水を用いることで、製紙工程で発生するピッチ障害を低減することができる。
【0065】
本実施形態の方法におけるフロス中ピッチの選択的濃縮倍率は、より好適な下限値として、好ましくは2以上、より好ましくは3以上、さらに好ましくは4以上、さらにより好ましくは5以上、より好ましくは5.5以上、より好ましくは6以上である。当該フロス中ピッチの選択的濃縮倍率の上限値は、本実施形態の方法であれば2段や3段と連続でも処理することができるので特に限定されないが、例えば500以下、250以下又は100以下にすることができ、また、10以下、20以下、50以下なども挙げることができる。ピッチ含有被処理水中の懸濁物質濃度が0.5%以上のときに、フロス中ピッチの選択的濃縮倍率が急激に高くなるので、本実施形態の方法では、懸濁物質が高濃度になる工程に使用することがより好ましい。
【0066】
1-3-4.薬剤の使用
本実施形態の方法の好適な態様として、上述した曝気の際に、ピッチの泡への吸着選択性を向上させる目的又はピッチ除去率をより向上させる目的にて、さらに薬剤をピッチ含有被処理水に含有させることが好ましい。
薬剤は、ピッチの泡への吸着選択性向上用又はピッチ除去率向上用の用途として又は当該用途の組成物又は製剤に使用することができ、当該薬剤を含むピッチの泡への吸着選択性向上用又はピッチ除去率向上用の組成物又は製剤することができる。当該薬剤を、ピッチの泡への吸着選択性向上用又はピッチ除去率向上用の組成物又は製剤を製造するために使用してもよい。当該薬剤を、ピッチの泡への吸着選択性向上方法又はピッチ除去率向上方法に使用するために添加してもよい。なお、本実施形態に用いる薬剤は公知の製造方法にて得ても使用してもよいし、市販品を使用してもよい。
【0067】
1-3-4-1.HLB値
薬剤のHLB値は、特に限定されないが、その好適な上限値として、好ましくは14以下、より好ましくは13以下、さらに好ましくは12以下であり、HLB値が低い、疎水性が高い薬剤を併用することにより、さらに回収する際のピッチの濃縮効果を向上させることができる。また、薬剤のHLB値は、その好適な下限値として、好ましくは6以上、より好ましくは8以上、さらに好ましくは10以上であり、これにより、被処理水中のピッチと接触しやすくするとともに、かつ曝気させた際にピッチを気泡に付着させて被処理水から分離させ浮上させやすい。
【0068】
HLB値は、小田らによるHLB算出方法として、当業者において広く知られているものであり(小田良平ほか著「界面活性剤の合成とその応用」、槇書店(1964))、下記(数式1)で算出される。下記(数式1)における「無機性値」と「有機性値」は、化合物の基毎にあらかじめ決められた値であり、HLBはこれらの値を用いて化合物全体について合計することによって算出される。
HLB=(Σ無機性値/Σ有機性値)×10 …(数式1)
【0069】
1-3-4-2.界面活性剤
薬剤として、界面活性剤が好ましく、より具体的には疎水基を有する界面活性剤が好ましい。当該疎水基は、アルキル基及び/又はアルキレン基であることが好ましく、これらは直鎖、分岐鎖、又は環状のいずれでもよいが、直鎖又は分岐鎖がより好ましい。より具体的には、例えば、メチル基、プロピル基、ブチル基などの炭素数1~4のアルキル基;メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基などの炭素数1~4のアルキレン基が挙げられ、これらから選択される1種又は2種以上であってもよい。これらは単独の重合物であってもよく、その他モノマーとの共重合物であってもよい。
【0070】
さらに、薬剤の好適な態様として、非イオン性界面活性剤が好ましく、さらに好ましくは、ポリアルキレングリコールであり、当該ポリアルキレングリコールは下記(化学式1)にて表すことができる。
【0071】
HO-(R‐O)n-H …(化学式1)
前記(化学式1)中、Rは炭素数1~4の直鎖又は分岐のアルキレン基であることが好ましく、nは整数であり、n≧450(好適にはn≧20)であることが好ましい。
前記(化学式1)における「アルキレン基」は上記「アルキレン基」の定義と同じであることが好ましく、このうち、炭素数1~3がより好ましく、さらに好ましくはエチレン基であり、当該「n」は5~20程度が好ましく、より好ましくは5~10である。
【0072】
1-3-4-3.数平均分子量
本実施形態に用いる薬剤(ポリマー)の数平均分子量は、特に限定されないが、その好適な下限値として、好ましくは100以上、より好ましくは200以上、さらに好ましくは300以上であり、また、その好適な上限値として、好ましくは3000以下、より好ましくは2000以下、さらに好ましくは1000以下である。
【0073】
本実施形態に用いる「ポリマー」又は水溶性高分子重合体の数平均分子量は、標準ポリスチレンを標準物質として、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)分析により、測定することができる。
【0074】
1-3-4-4.薬剤使用量
本実施形態に用いる薬剤の使用量は、特に限定されないが、ピッチ含有被処理水に対し、その好適な下限値として、好ましくは0.1mg/L以上、より好ましくは0.5mg/L以上であり、さらに好ましくは1mg/L以上であり、また、その好適な上限値として、フロス発生状況を見ながら適宜添加することが好ましく特に限定されないが、好ましくは50mg/L以下、より好ましくは20mg/L以下、さらに好ましくは10mg/L以下、さらにより好ましくは5mg/L以下である。
【0075】
さらに、薬剤は、ピッチ含有被処理水を処理する工程又はピッチ除去をする工程にて添加されることが好ましい。
薬剤を使用する場所としては、ピッチ含有被処理水の処理もしくはピッチ除去を行う場所あるいは装置、又はその上流がより好ましい。当該上流として、好適には、当該処理又は除去を行う場所又は装置と接続されている配管又は流路などが挙げられる。
さらに好適な態様として、曝気する場所又はその上流で、薬剤を添加することが好ましい。より具体的には、曝気にて気泡を発生させるように構成されている槽又はその槽以前の工程又は流路にて、薬剤を添加することが好ましい。当該槽以前の工程又は流路として、好ましくは、その槽に接続されている配管又は流路であって、当該槽に流入する直前の配管又は流路が好ましい。
【0076】
1-3-5.本実施形態における例
実施形態におけるピッチ含有被処理水の処理方法において、より具体的な態様として、例えば、
図1及び2に示すが、これに限定されない。製紙工程1は、調成工程2、抄紙工程3、及びこれら各工程から発生する水を回収する水回収工程4を含む。
【0077】
調成工程2は、溶解工程21、解離工程22、除塵工程(クリーナー工程、スクリーン工程)23、濃縮工程24、叩解工程25を含み、当該調成工程2にて、古紙などの原料10が溶解工程21から叩解工程25にて製紙原料にすることができる。
【0078】
抄紙工程3は、除塵工程31、紙層形成工程32、湿紙脱水工程33、湿紙乾燥工程34を含み、都外抄紙工程にて、最終的に紙5にすることができる。抄紙工程3(各工程31~34)は、抄紙する際に洗浄水など発生した水(例えば、ピッチ及びパルプ含有水など)を回収する一次循環水41及び/又は二次循環水42の水回収工程に接続されている。
【0079】
水回収工程4では、抄紙工程3で発生した水を回収する。再利用可能な水は、調成工程2及び/又は抄紙工程3に循環され、不要となった水は排水6として系外に排出される。
【0080】
本実施形態におけるピッチ含有被処理水の処理方法100は、製紙工程に使用することができ、好適には、調成工程2、抄紙工程3、及び水回収工程4から選択される1種又は2種以上の工程に、使用することができる。さらに、本実施形態における処理方法100は、調成工程2、抄紙工程3、及び水回収工程4から選択される1種又は2種以上のピッチ含有被処理水を処理することができる。
【0081】
例えば、
図2Aに示すように、本実施形態におけるピッチ含有被処理水の処理方法100を、調成工程2における除塵(好適にはスクリーン)工程23と濃縮工程24との間で使用することができる。
本実施形態における処理方法100は、調成工程2における除塵(好適にはスクリーン)工程23以降かつ濃縮工程24前のピッチ含有被処理水を処理することができる。
本実施形態の処理方法100により、ピッチ含有量が低減された処理水を、濃縮工程24に移送し、ピッチを含む水は、排水6として系外に排出されうる。
【0082】
また、例えば、
図2B及び
図2Cに示すように、本実施形態におけるピッチ含有被処理水の処理方法100を、抄紙工程3における余剰白水を含む白水43と調成工程2及び/又は抄紙工程3との間で使用することができる。
本実施形態の処理方法100により、ピッチ含有量が低減された処理水を、調成工程2及び/又は抄紙工程3に移送するが、当該処理水の移送先は複数箇所であってもよい。また、処理後の、ピッチを含む水は、二次循環水工程42を経て、排水6として系外に排出されうる。
【0083】
また、本実施形態におけるピッチ含有被処理水の処理方法100を、所定(例えば、所定の「フロス中のピッチの選択的濃縮倍率」)になるまで、繰り返し行ってもよい。
【0084】
なお、本発明の実施形態に係るピッチ含有被処理水の処理方法では、後述する「2.」「3.」などの説明が、本実施形態にも当てはまり、当該説明を適宜採用することができる。
【0085】
2.本発明に係る製紙工程におけるピッチ含有被処理水からのピッチ除去方法
本発明の実施形態に係る製紙工程におけるピッチ含有被処理水からのピッチ除去方法では、上記「1.」、下記「3.」などの構成と重複する、ピッチ、被処理水、曝気などの各構成などの説明については適宜省略するが、当該「1.」「3.」などの説明が、本実施形態にも当てはまり、当該説明を適宜採用することができる。
【0086】
本実施形態は、製紙工程におけるピッチ含有被処理水からピッチを除去するピッチ除去方法であり、
前記被処理水に対して、気泡を供給してピッチを除去することを特徴とする、ピッチ除去方法を提供することができる。より好適には、曝気にて気泡を発生させることで、気泡を供給することである(例えば、
図1及び
図2参照)。
前記製紙工程におけるピッチ含有被処理水が、調成工程、抄紙工程、及び水回収工程から選択される1種又は2種以上のピッチ含有被処理水であることが好適である。さらに、新聞古紙を除く古紙を原料とした調成工程のピッチ含有被処理水であることが好適である。
前記被処理水が、懸濁物質濃度0.3%以上であることが好適である。
前記被処理水中のピッチが、粒子径20μm以上であることが好適である。
前記被処理水が、スクリーン処理後の被処理水であることが好適である。
前記被処理水が、さらにHLB13値以下の界面活性剤を含むものであることが好適である。
前記除去が、ピッチが気泡に付着して形成されたフロスを除去することが好適である。
前記除去が、フロス中ピッチの選択的濃縮倍率を3以上にするように除去することが好適である。
【0087】
より好適な態様として、本実施形態におけるピッチ除去方法を、調成工程における除塵(好適にはスクリーン)工程と濃縮工程との間で使用することができる、又は、抄紙工程における余剰白水を含む白水と調成工程及び/又は抄紙工程との間で使用することができる。
また、より好適な態様として、本実施形態におけるピッチ除去方法では、調成工程における除塵(好適にはスクリーン)工程以降かつ濃縮工程前のピッチ含有被処理水を処理することができる、又は、抄紙工程における白水サイロや余剰白水及び/又はその回収水のピッチ含有被処理水を処理することができる。
【0088】
本実施形態のピッチ除去方法によれば、ピッチ含有被処理水から、ピッチを選択的に系外に排出することができるようになる。さらに、ピッチ含有被処理水からピッチを効率よく除去された処理水は、ピッチ含有量が良好に低減されており、調成工程及び/又は抄紙工程に移送され再利用されうる。これによって、系内のピッチ量が低減し、抄紙工程でのピッチ由来の障害を抑制することができる。
【0089】
なお、本実施形態の方法を、上述したピッチ含有被処理水の処理方法又はピッチ除去方法などの方法(例えば、上記「1.」及び「2.」に記載の方法)を実施又は管理するための装置又は当該装置に備える制御部(当該制御部はCPUなどを含む)によって実現させることも可能であり、これら装置又は制御部を提供することができる。当該実施又は管理するための装置として、例えば、コンピュータ、ノートパソコン、デスクトップパソコン、タブレットPC、PLC、サーバ、クラウドサービスなどが挙げられる。さらに、前記実施又は管理するための装置などには、タッチパネルやキーボードなどの入力部、各部間の送受信部やネットワーク、ネットワークアクセス部などの通信部、タッチパネルやディスプレイなどの表示部などを適宜備えてもよい。これにより、本実施形態の方法を実施することができる。
【0090】
また、本実施形態の方法を、記憶媒体(不揮発性メモリ(USBメモリなど)、SSD(Solid State Drive)、HDD(Hard Disk Drive)、CD、DVD、ブルーレイなど)などを備えるハードウェア資源にプログラムとして格納し、前記制御部によって実現させることも可能である。本実施形態の方法をプログラムとして提供することができる。本実施形態の方法を記憶した記憶媒体を提供することができる。これにより、本実施形態の方法を実施することができる。
【0091】
また、前記制御部、前記記憶媒体又は前記プログラムなどを含む、ピッチ含有被処理水の処理又はピッチ除去を制御するように構成されている、ピッチ含有被処理水の処理系又はピッチ除去系などのシステムなどを提供することができる。これにより、本実施形態の方法を実施することができる。
【0092】
また、本実施形態での一例として、コンピュータに、所定の工程におけるピッチ含有被処理水に対して、曝気及び/又は撹拌にて気泡を発生させる機能と、ピッチ含有被処理水中のピッチと気泡とを接触させることにより形成されたフロスを系外に排出させる機能と、を含む、ピッチ含有被処理水の処理を、実現させるプログラムを提供することができ、これに限定されない。これにより、本実施形態の方法を実施することができる。
【0093】
また、本実施形態での一例として、所定の工程におけるピッチ含有被処理水に対して、曝気及び/又は撹拌にて気泡を発生させるように構成されている制御部を備える装置が、好ましく、当該制御部は、さらに、ピッチ含有被処理水中のピッチと気泡とを接触させることにより形成されたフロスを系外に排出させるように構成されていることが、より好ましい。これにより、本実施形態の方法をより良好に実施することができる。
【0094】
3.本発明に係る製紙工程におけるピッチ含有被処理水の処理装置
本発明に係る製紙工程におけるピッチ含有被処理水の処理装置では、上記「1.」「2.」などの構成と重複する、ピッチ、被処理水、曝気などの各構成などの説明については適宜省略するが、当該「1.」「2.」などの説明が、本実施形態にも当てはまり、当該説明を適宜採用することができる。
【0095】
本発明は、ピッチ含有被処理水を処理するための槽を備える、ピッチ含有被処理水の処理装置であり、前記槽は、曝気を行うことで、ピッチを気泡に付着させて形成させたフロスを除去するように構成されている、ピッチ含有被処理水の処理装置を提供することができる(例えば、
図1及び
図2参照)。より好ましくは、前記槽が、曝気及び/又は撹拌を同一槽内にて行うように構成されていることである。
さらに、薬剤を添加するように構成されている装置を備えることが好適である。
さらに、本実施形態の方法(例えば、上記「1.」及び「2.」に記載の方法)を実行するように構成されている制御部をさらに備えることが好適である。
【0096】
本実施形態の好適な態様として、ピッチ含有被処理水を処理するための槽と、
当該被処理水に曝気にて気泡を発生させる曝気装置、及び/又は、
当該被処理水に撹拌にて対流を発生させる撹拌装置と、
当該曝気及び/又は当該撹拌を同一槽内にて行うことで、ピッチを気泡に付着させて形成させたフロスを除去するように構成されているフロス除去装置と、
を備える、ピッチ含有被処理水の処理装置である。
【0097】
また、本実施形態におけるピッチ含有被処理水の処理装置は、ピッチ除去装置として使用することができる(例えば、
図2参照)。
さらに、本実施形態における装置(例えば処理装置及び除去装置など)は、ピッチ含有被処理水の処理システム又はピッチ除去システムであってもよい(例えば、
図1及び
図2参照)。
また、本実施形態における装置の構成となるそれぞれの装置は、部とすることができ、例えば曝気装置は曝気部としてもよい。
【0098】
また、槽は、ピッチ含有被処理水が他の部から流入できるように構成されていてもよく、さらに、槽から処理水が目的とする他の部に移送できるように構成されていてもよく、また、回収されたピッチを系外に排出できるように、他の部(例えば、装置、槽、流路など)と接続されていてもよい。槽の形状や大きさは、特に限定されない。
【0099】
また、本実施形態の装置について製紙工程での設置場所又は使用場所は、特に限定されず、いずれかの工程で設置又は使用することができ、このとき本実施形態の装置を、単数又は複数設置してもよい(例えば、
図2参照)。本実施形態の装置における好適な態様として、調成工程、抄紙工程、及び水回収工程から選択される1種又は2種以上に、単数又は複数で、設置又は使用されることがより好適である。本実施形態の装置におけるさらに好適な態様として、スクリーン処理後が望ましい。例えば、
図2に示すように、本実施形態の装置100を、調成工程2における除塵(好適にはスクリーン)工程23と濃縮工程24との間に設置若しくは使用してもよい。また、本実施形態の装置100を、抄紙工程3における余剰白水を含む白水43と調成工程2及び/又は抄紙工程3との間に設置又は使用しても良い。このとき、設置又は使用する本実施形態の装置は、単数又は複数であってもよい。
【0100】
本実施形態の装置によれば、ピッチ含有被処理水から、ピッチを効率よく選択的に除去することができ、最終的にピッチを系外に排出することができる。さらに、ピッチ含有被処理水からピッチを効率よく除去された処理水を製造することができ、当該処理水は、ピッチ含有量が良好に低減されているので、調成工程及び/又は抄紙工程に移送され再利用されうる。これによって、系内のピッチ量が低減し、抄紙工程でのピッチ由来の障害を抑制することができる。
【0101】
なお、本実施形態の装置は、好適な態様として、上記「1.」のピッチ含有被処理水の処理方法、上記「2.」のピッチ除去方法を実施することができる。
また、本実施形態の装置は、好適な態様として、上記「1.」のピッチ含有被処理水の処理方法、上記「2.」のピッチ除去方法を実施できるように構成されている、装置であってもよい。
【0102】
本発明は、以下の構成を採用することも可能である。
〔1〕
製紙工程におけるピッチ含有被処理水の処理方法であり、
前記製紙工程におけるピッチ含有被処理水が、調成工程、抄紙工程、及び水回収工程から選択される1種又は2種以上のピッチ含有被処理水であり、
前記被処理水が、懸濁物質濃度0.3%以上であり、
前記被処理水に対して、曝気にて気泡を発生させてピッチを除去することを特徴とする、ピッチ含有被処理水の処理方法。前記調成工程におけるピッチ含有被処理水は、新聞古紙を除く古紙を原料とした調成工程のピッチ含有被処理水が好適である。
〔2〕
製紙工程におけるピッチ含有被処理水からピッチを除去するピッチ除去方法であり、
前記製紙工程におけるピッチ含有被処理水が、調成工程、抄紙工程、及び水回収工程から選択される1種又は2種以上のピッチ含有被処理水であり、
前記被処理水が、懸濁物質濃度0.3%以上であり、
前記被処理水に対して、気泡を供給してピッチを除去することを特徴とする、ピッチ除去方法。前記調成工程におけるピッチ含有被処理水は、新聞古紙を除く古紙を原料とした調成工程のピッチ含有被処理水が好適である。
〔3〕
前記ピッチの粒子径が、20μm以上である、前記〔1〕又は〔2〕に記載の方法。
〔4〕
前記被処理水が、スクリーン処理後の被処理水である、前記〔1〕~〔3〕のいずれか一つに記載の方法。前記被処理水のpHは、好ましくはpH5~13、より好ましくはpH5~10である。
〔5〕
前記ピッチが気泡に付着して形成されたフロスを除去する、前記〔1〕~〔4〕のいずれか一つに記載の方法。
〔6〕
フロス中ピッチの選択的濃縮倍率を3以上にする、前記〔1〕~〔5〕のいずれか一つに記載の方法。
〔7〕
前記被処理水に、HLB値13以下(好適には12以下)の界面活性剤をさらに添加する、前記〔1〕~〔6〕のいずれか一つに記載の方法。好適には、ノニオン性界面活性剤であり、より好適には、HLB値13以下(好適には12以下)のポリアルキレングリコールである。
【0103】
〔8〕
ピッチ含有被処理水を処理するための槽を備える、ピッチ含有被処理水の処理装置であり、前記槽は、曝気を行うことで、ピッチを気泡に付着させて形成させたフロスを除去するように構成されている、ピッチ含有被処理水の処理装置。
前記ピッチ含有被処理水の処理装置は、ピッチ除去装置であってもよい。
好適には、前記槽が、曝気及び/又は撹拌を同一槽内にて行うように構成されている槽を備えることである。
さらに、薬剤を添加するように構成されている装置を備えることが好適である。
〔9〕
ピッチ含有被処理水を処理するための槽と、
前記被処理水に曝気にて気泡を発生させる曝気装置と、
前記被処理水に撹拌にて対流を発生させる撹拌装置と、
前記曝気と前記撹拌とを同一槽内にて行うことで、ピッチを気泡に付着させて形成させたフロスを除去するように構成されているフロス除去装置と、
を備える、前記〔8〕記載のピッチ含有被処理水の処理装置。
〔10〕
前記〔1〕~〔7〕のいずれか一つに記載の方法を実行するように構成されている制御部をさらに備える、前記〔8〕又は〔9〕に記載の装置。
〔11〕
前記処理装置は、調成工程、抄紙工程、及び水回収工程から選択される1種又は2種以上に設置される、前記〔8〕~〔10〕のいずれか一つに記載の装置。前記装置は、単数又は複数であってもよい。
〔12〕
前記〔1〕~〔7〕のいずれか一つに記載の方法を実施する、前記〔8〕~〔11〕のいずれか一つに記載の装置。
〔13〕
前記〔8〕~〔11〕のいずれか一つに記載の装置を用いる、前記〔1〕~〔7〕のいずれか一つに記載の方法。
【実施例】
【0104】
以下の実施例及び比較例などを挙げて、本発明の実施形態について説明をする。なお、本発明の範囲は実施例などに限定されるものではない。
【0105】
〔試験例1:フローテーション試験〕
以下のように、実施例1~5及び比較例1~2の試料(ピッチ及びダンボール古紙パルプを含む被処理水)を調製した。各試料に対してフローテーションを行い、水面付近に浮上したピッチが付着して形成された微細な泡スカム(フロス)を、スクレーバー(かきとり板)にて掻き取りを行った。
【0106】
<本実施形態に用いる測定方法>
本実施形態に用いる測定方法は、以下のとおりである。
(1)懸濁物質濃度
被処理水及び処理水の懸濁物質(SS)濃度は、試料を、JIS K0102に準拠して測定した。
(2)ピッチ粒子径
被処理水及び処理水中のピッチ粒子径は、試料を、目開き篩を用いたふるい分けにて測定した。
(3)ピッチ濃度
被処理水及び処理水中のピッチ濃度は、試料を目開き篩にてふるい分け後に、ふるい分けした試料にナイルレッド(1.25mg/L)を添加し、吸光度をアクアフルオ ハンドヘルド・フルオロメーター(TURNER DESIGNS製)を用いて測定した。検量線は、標品として水性EVA系接着剤EL―105(株式会社レヂテックス製)を用いて、EL-105の濃度として0~250mg/Lの範囲にて作成した。
【0107】
(4)灰分
被処理水及び処理水中の灰分は、JIS K0102に準拠して測定した。
【0108】
(5)SS絶乾質量
被処理水及び処理水中のSS絶乾質量は、試料を温度105±5℃の乾燥器内において一定質量になるまで乾燥した後、室温23℃、湿度50%に調整した室内にて冷却、調湿したときの質量である。
(6)pH
被処理水及び処理水中のpH(40℃)は、試料を一般的なpHメーター(例えば、(株)堀場製作所製「ポータブルpHメーターD-54(pH/mV(ORP)/COND/電気抵抗率/塩分/TDS)」又はその後継機種)を用いて測定した。
【0109】
(7)パルプ濃度(パルプ重量)
被処理水及び処理水中のパルプ濃度(パルプ重量)(mg/L)は、「パルプ重量+灰分重量+ピッチ重量=懸濁物質濃度(SS重量)」に基づき、算出した。
【0110】
(8)ピッチ濃度、及びフロス中ピッチの選択的濃縮倍率
ピッチ除去効果は、フロス中に除去されたSS濃度及びピッチの比率から、下記(式2)及び(式3)によって、ピッチ濃度と、フロス中ピッチの選択的濃縮倍率を求めた。
【0111】
(式2) ピッチ濃度=(425μmろ過後のろ液中ピッチ濃度)-(20μmろ過後のろ液中ピッチ濃度)
(式3) フロス中ピッチの選択的濃縮倍率=(フロス中のピッチ濃度/原水中のピッチ濃度)/(フロス中のSS濃度/原水中のSS濃度)
【0112】
より詳細には以下のとおりである。
実施例1~5及び比較例1~2の各試験用スラリーは、購入後に使用していない段ボールを、水道水により、懸濁物質(SS)濃度が所定濃度になるように離解して調製した。このとき、カナダ標準フリーネスは300mLになるよう調製した。これらを、試験用スラリーとして用いた(SS濃度1%時pH6.5(水温40℃))。
【0113】
表2に示す懸濁物質濃度になるように、40℃に調整した各試験用スラリー(実施例1~5及び比較例1~2)を調製し、これらを各試料とした。なお、実施例4及び5の40℃に調整した試験用スラリーは、フローテーターを行う前に、それぞれに、ピッチ除去薬品A及びBを、試料水に対し、1.4mg/Lになるように添加した。
各試料に対して、小型机上フローテーター装置(石川島産業製 MT-5L)を用いてエアー量(空気)を6L/分として、気泡(気泡の粒径は1~2mm)を発生させ、中撹拌条件(回転速度3800rpm相当)で水平対流を発生させながら、3分間フローテーションした。小型卓上フローテーターは、素気泡を高速回転するタービンに接触させることで1~2mmの気泡へ破砕し、360度方向へ曝気するとともに、水平対流が生じる撹拌をするように構成されている。
フロスとしては、小型机上フローテーター装置付属のスクレーバーを、30秒毎に水面付近を移動させて掻き取ったものを、回収した。
【0114】
用いたピッチ除去薬品は、表1にまとめて示す。表1中の数平均分子量及びHLB値は、上記<1-3-3.添加薬剤>に記載の方法にて、算出することができる。
【0115】
【0116】
その後、フローテーション処理にて回収したフロス中に含有するSS濃度を、JIS K0102に準拠して測定した。また、フロス中のピッチ濃度は、目開き425μmあるいは20μmの篩でろ過した時のろ液に対し、1.25mg/Lの濃度になるようナイルレッドを添加し、吸光度をアクアフルオ ハンドヘルド・フルオロメーター(TURNER DESIGNS製)を用いて測定した。
ピッチ除去効果は、フロス中に除去されたSS濃度とピッチの比率から判断した。上記「(7)ピッチ濃度、及びフロス中ピッチの選択的濃縮倍率」によって、フロス中ピッチの選択的濃縮倍率を求めた。
実施例1~5及び比較例1~2に関する結果を表2にまとめて示す。
【0117】
<結果>
実施例1~5のように、フローテーターを用い、原水のSS濃度が0.5%以上の時、フロス中のピッチはSSと比べて高い濃縮倍率を示した。これは、SSよりも選択的にピッチが泡に吸着し、浮上分離されたことを示す。比較例1~2のように、原水のSS濃度が0.1%から0.2%になると濃縮倍率が減少したが、実施例1~5のように原水のSS濃度が0.5%以上になると、濃縮倍率が反転して急上昇したことを本発明者らは見出した。このときのピッチは粒子径20μm以上425μm以下と比較的大きな粒子径であることから、粒子径が大きいピッチを有するピッチ含有水から、ピッチをより効率よく除去できたことを本発明者らは見出した。
さらに、薬品Aを併用した実施例4は、実施例5と比べて高いピッチ濃縮倍率を示したことから、HLB値が低い(好適にはHLB値12以下)、すなわち疎水性が高い薬品をフローテーターと併用することにより、さらに濃縮効果を向上させることができたことを本発明者らは見出した。
【0118】
【符号の説明】
【0119】
1:製紙工程、10:原料、2:調成工程、21:溶解工程、22:解離工程、23:除塵工程(クリーナー工程、スクリーン工程)、24:濃縮工程、25:叩解工程、3:抄紙工程、31:除塵工程、32:紙層形成工程、33:湿紙脱水工程、34:湿紙乾燥工程、4:水回収工程、41:一次循環水工程、42:二次循環水工程、43:白水、5:紙、6:排水、100:本実施形態のピッチ含有被処理水の処理工程(ピッチ除去工程)若しくは装置