(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-01
(45)【発行日】2022-08-09
(54)【発明の名称】エポキシ樹脂、エポキシ樹脂組成物、樹脂シート、Bステージシート、Cステージシート、硬化物、樹脂付金属箔、金属基板、及びパワー半導体装置
(51)【国際特許分類】
C08G 59/20 20060101AFI20220802BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20220802BHJP
C08K 3/00 20180101ALI20220802BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20220802BHJP
B32B 15/092 20060101ALI20220802BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20220802BHJP
B32B 27/38 20060101ALI20220802BHJP
H01L 23/36 20060101ALI20220802BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20220802BHJP
C08J 5/24 20060101ALI20220802BHJP
【FI】
C08G59/20
C08L63/00 C
C08K3/00
C08K3/013
B32B15/092
B32B27/00 101
B32B27/38
H01L23/36 D
C08J5/18 CFC
C08J5/24 CFC
(21)【出願番号】P 2020506071
(86)(22)【出願日】2018-03-15
(86)【国際出願番号】 JP2018010347
(87)【国際公開番号】W WO2019176074
(87)【国際公開日】2019-09-19
【審査請求日】2021-01-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木口 一也
(72)【発明者】
【氏名】西山 智雄
(72)【発明者】
【氏名】藤本 大輔
(72)【発明者】
【氏名】坂本 徳彦
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-214599(JP,A)
【文献】特開2015-048400(JP,A)
【文献】国際公開第2012/018126(WO,A1)
【文献】特開平09-118673(JP,A)
【文献】特開2018-003008(JP,A)
【文献】米国特許第05138010(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/00-59/72
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08J 5/18
C08J 5/24
B32B 15/092
B32B 27/00
B32B 27/38
H01L 23/36
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メソゲン構造とシロキサン構造とを有
し、
前記メソゲン構造は、メソゲン構造とエポキシ基とを有するエポキシ化合物に由来する構造単位を含み、
前記エポキシ化合物は、前記エポキシ基を2個有するエポキシ樹脂。
【請求項2】
前記メソゲン構造は、下記一般式(1)で表される構造を含む請求項1に記載のエポキシ樹脂。
【化1】
[一般式(1)中、Xは、単結合又は下記2価の基からなる群(I)より選択される少なくとも1種の連結基を示し、Yは、それぞれ独立に、炭素数1~8の脂肪族炭化水素基、炭素数1~8の脂肪族アルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、シアノ基、ニトロ基、又はアセチル基を示し、nは、各々独立に0~4の整数を示し、*は、分子中における連結位置を示す。]
【化2】
[2価の基からなる群(I)中、Yはそれぞれ独立に、炭素数1~8の脂肪族炭化水素基、炭素数1~8の脂肪族アルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、シアノ基、ニトロ基、又はアセチル基を示し、nは、各々独立に0~4の整数を示し、kは、0~7の整数を示し、mは、0~8の整数を示し、lは0~12の整数を示す。]
【請求項3】
前記エポキシ化合物は、下記一般式(2)で表されるエポキシ化合物を含む請求項
1又は請求項
2に記載のエポキシ樹脂。
【化3】
[一般式(2)中、Xは、単結合又は下記2価の基からなる群(I)より選択される少なくとも1種の連結基を示し、Yは、それぞれ独立に、炭素数1~8の脂肪族炭化水素基、炭素数1~8の脂肪族アルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、シアノ基、ニトロ基、又はアセチル基を示し、nは、各々独立に0~4の整数を示す。]
【化4】
[2価の基からなる群(I)中、Yはそれぞれ独立に、炭素数1~8の脂肪族炭化水素基、炭素数1~8の脂肪族アルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、シアノ基、ニトロ基、又はアセチル基を示し、nは、各々独立に0~4の整数を示し、kは、0~7の整数を示し、mは、0~8の整数を示し、lは0~12の整数を示す。]
【請求項4】
前記シロキサン構造は、エポキシ基と反応可能な官能基を有するシロキサン化合物に由来する構造単位を含む請求項1~請求項
3のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂。
【請求項5】
前記シロキサン化合物は、前記官能基を2個有する請求項
4に記載のエポキシ樹脂。
【請求項6】
前記シロキサン化合物は、下記一般式(3-1)~(3-3)で表される構造単位を有する化合物の少なくとも1種を含む請求項
4又は請求項
5に記載のエポキシ樹脂。
【化5】
[一般式(3-1)~(3-3)中、R
1~R
3はそれぞれ独立に、アルキル基又はフェニル基を示し、Y
1~Y
3はそれぞれ独立に、アミノ基、カルボキシル基、酸無水物基、水酸基、エポキシ基、メルカプト基、又はイソシアネート基を示し、X
1~X
3はそれぞれ独立に、2価の有機基を示し、括弧で括られた部分は構造単位を示し、分子内に1以上有する。]
【請求項7】
前記シロキサン化合物は、重量平均分子量(Mw)が200~5000である請求項
4~請求項
6のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂。
【請求項8】
前記メソゲン構造と前記シロキサン構造との比率(メソゲン構造:シロキサン構造)が、質量基準で、10:1~10:30である請求項1~請求項
7のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂。
【請求項9】
重量平均分子量(Mw)が600~5000である請求項1~請求項8のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂。
【請求項10】
液晶相を示す請求項1~請求項
9のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂。
【請求項11】
請求項1~請求項
10のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂と、硬化剤とを含有するエポキシ樹脂組成物。
【請求項12】
フィラーをさらに含有する請求項
11に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項13】
前記フィラーの含有率が、エポキシ樹脂組成物の全固形分の全体に対して、45体積%~90体積%である、請求項
12に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項14】
高次構造を形成可能な請求項
11~請求項
13のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項15】
請求項
11~請求項
14のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物を含む樹脂組成物層を有する樹脂シート。
【請求項16】
請求項
11~請求項
14のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物の半硬化物を含む半硬化樹脂組成物層を有するBステージシート。
【請求項17】
前記半硬化樹脂組成物層が、高次構造を含む請求項
16に記載のBステージシート。
【請求項18】
請求項
11~請求項
14のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物の硬化物を含む硬化樹脂組成物層を有するCステージシート。
【請求項19】
前記硬化樹脂組成物層が、高次構造を含む請求項
18に記載のCステージシート。
【請求項20】
請求項
11~請求項
14のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物の硬化物。
【請求項21】
高次構造を含む請求項
20に記載の硬化物。
【請求項22】
金属箔と、前記金属箔上に配置される請求項
11~請求項
14のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物の半硬化物を含む半硬化樹脂組成物層と、を備える樹脂付金属箔。
【請求項23】
金属支持体と、前記金属支持体上に配置される請求項
11~請求項
14のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物の硬化物を含む硬化樹脂組成物層と、前記硬化樹脂組成物層上に配置される金属箔と、を備える金属基板。
【請求項24】
金属板、はんだ層及び半導体チップをこの順に有する半導体モジュールと、放熱部材と、前記半導体モジュールの前記金属板と前記放熱部材との間に配置される請求項
11~請求項
14のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物の硬化物を含む硬化樹脂組成物層と、を備えるパワー半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂、エポキシ樹脂組成物、樹脂シート、Bステージシート、Cステージシート、硬化物、樹脂付金属箔、金属基板、及びパワー半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子部品装置の小型化に伴って発熱量が増大したため、その熱をいかに放散させるかが重要な課題となっている。これらの機器に広く用いられている絶縁材料としては、電気絶縁性、耐熱性等の観点から、熱硬化性樹脂の硬化物が挙げられる。しかし、一般的に熱硬化性樹脂の硬化物の熱伝導性は低く、熱放散を妨げる大きな要因の一つとなっている。そのため、高熱伝導性を有する熱硬化性樹脂の硬化物の開発が望まれている。
【0003】
高熱伝導性を有する熱硬化性樹脂の硬化物としては、例えば、分子構造中にメソゲン構造を有するエポキシ樹脂組成物の硬化物が提案されている(例えば、特許文献1~特許文献3参照)。
【0004】
さらに近年の電子部品装置は、薄型化も進んでいる。これに伴い、チップと基板との熱膨張率の差に起因して、電子部品装置が反りやすい状態となっている。熱応力によって電子部品装置が反った際には、電子部品装置から熱硬化性樹脂の硬化物が剥離する等の不具合が生じる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4118691号公報
【文献】特許第4619770号公報
【文献】特開2011-84557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
熱応力によって電子部品装置が反った際に熱硬化性樹脂の硬化物の剥離を抑えるには、硬化物の低弾性化が有効であると考えられる。すなわち、本発明は、硬化物としたときに、熱伝導性に優れ、かつ低弾性化を図ることが可能なエポキシ樹脂、これを用いたエポキシ樹脂組成物、エポキシ樹脂組成物、樹脂シート、Bステージシート、Cステージシート、硬化物、樹脂付金属箔、金属基板、及びパワー半導体装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための手段には、以下の実施態様が含まれる。
【0008】
<1> メソゲン構造とシロキサン構造とを有するエポキシ樹脂。
<2> 前記メソゲン構造は、下記一般式(1)で表される構造を含む<1>に記載のエポキシ樹脂。
【化1】
[一般式(1)中、Xは、単結合又は下記2価の基からなる群(I)より選択される少なくとも1種の連結基を示し、Yは、それぞれ独立に、炭素数1~8の脂肪族炭化水素基、炭素数1~8の脂肪族アルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、シアノ基、ニトロ基、又はアセチル基を示し、nは、各々独立に0~4の整数を示し、*は、分子中における連結位置を示す。]
【化2】
[2価の基からなる群(I)中、Yはそれぞれ独立に、炭素数1~8の脂肪族炭化水素基、炭素数1~8の脂肪族アルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、シアノ基、ニトロ基、又はアセチル基を示し、nは、各々独立に0~4の整数を示し、kは、0~7の整数を示し、mは、0~8の整数を示し、lは0~12の整数を示す。]
<3> 前記メソゲン構造は、メソゲン構造とエポキシ基とを有するエポキシ化合物に由来する構造単位を含む<1>又は<2>に記載のエポキシ樹脂。
<4> 前記エポキシ化合物は、前記エポキシ基を2個有する<3>に記載のエポキシ樹脂。
<5> 前記エポキシ化合物は、下記一般式(2)で表されるエポキシ化合物を含む<3>又は<4>に記載のエポキシ樹脂。
【化3】
[一般式(2)中、Xは、単結合又は下記2価の基からなる群(I)より選択される少なくとも1種の連結基を示し、Yは、それぞれ独立に、炭素数1~8の脂肪族炭化水素基、炭素数1~8の脂肪族アルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、シアノ基、ニトロ基、又はアセチル基を示し、nは、各々独立に0~4の整数を示す。]
【化4】
[2価の基からなる群(I)中、Yはそれぞれ独立に、炭素数1~8の脂肪族炭化水素基、炭素数1~8の脂肪族アルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、シアノ基、ニトロ基、又はアセチル基を示し、nは、各々独立に0~4の整数を示し、kは、0~7の整数を示し、mは、0~8の整数を示し、lは0~12の整数を示す。]
<6> 前記シロキサン構造は、エポキシ基と反応可能な官能基を有するシロキサン化合物に由来する構造単位を含む<1>~<5>のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂。
<7> 前記シロキサン化合物は、前記官能基を2個有する<6>に記載のエポキシ樹脂。
<8> 前記シロキサン化合物は、下記一般式(3-1)~(3-3)で表される構造単位を有する化合物の少なくとも1種を含む<6>又は<7>に記載のエポキシ樹脂。
【化5】
[一般式(3-1)~(3-3)中、R
1~R
3はそれぞれ独立に、アルキル基又はフェニル基を示し、Y
1~Y
3はそれぞれ独立に、アミノ基、カルボキシル基、酸無水物基、水酸基、エポキシ基、メルカプト基、又はイソシアネート基を示し、X
1~X
3はそれぞれ独立に、2価の有機基を示し、括弧で括られた部分は構造単位を示し、分子内に1以上有する。]
<9> 前記シロキサン化合物は、重量平均分子量(Mw)が200~5000である<6>~<8>のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂。
<10> 前記メソゲン構造と前記シロキサン構造との比率(メソゲン構造:シロキサン構造)が、質量基準で、10:1~10:30である<1>~<9>のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂。
<11> 液晶相を示す<1>~<10>のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂。
<12> <1>~<11>のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂と、硬化剤とを含有するエポキシ樹脂組成物。
<13> フィラーをさらに含有する<12>に記載のエポキシ樹脂組成物。
<14> 前記フィラーの含有率が、エポキシ樹脂組成物の全固形分の全体に対して、45体積%~90体積%である、<13>に記載のエポキシ樹脂組成物。
<15> 高次構造を形成可能な<12>~<14>のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物。
<16> <12>~<15>のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物を含む樹脂組成物層を有する樹脂シート。
<17> <12>~<15>のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物の半硬化物を含む半硬化樹脂組成物層を有するBステージシート。
<18> 前記半硬化樹脂組成物層が、高次構造を含む<17>に記載のBステージシート。
<19> <12>~<15>のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物の硬化物を含む硬化樹脂組成物層を有するCステージシート。
<20> 前記硬化樹脂組成物層が、高次構造を含む<19>に記載のCステージシート。
<21> <12>~<15>のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物の硬化物。
<22> 高次構造を含む<21>に記載の硬化物。
<23> 金属箔と、前記金属箔上に配置される<12>~<15>のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物の半硬化物を含む半硬化樹脂組成物層と、を備える樹脂付金属箔。
<24> 金属支持体と、前記金属支持体上に配置される<12>~<15>のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物の硬化物を含む硬化樹脂組成物層と、前記硬化樹脂組成物層上に配置される金属箔と、を備える金属基板。
<25> 金属板、はんだ層及び半導体チップをこの順に有する半導体モジュールと、放熱部材と、前記半導体モジュールの前記金属板と前記放熱部材との間に配置される<12>~<15>のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物の硬化物を含む硬化樹脂組成物層と、を備えるパワー半導体装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、硬化物としたときに、熱伝導性に優れ、かつ低弾性化を図ることが可能なエポキシ樹脂、これを用いたエポキシ樹脂組成物、エポキシ樹脂組成物、樹脂シート、Bステージシート、Cステージシート、硬化物、樹脂付金属箔、金属基板、及びパワー半導体装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示のパワー半導体装置の構成の一例を示す概略断面図である。
【
図2】本開示のパワー半導体装置の構成の一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合を除き、必須ではない。数値及びその範囲についても同様であり、本発明を制限するものではない。
【0012】
本開示において「工程」との語には、他の工程から独立した工程に加え、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の目的が達成されれば、当該工程も含まれる。
本開示において「~」を用いて示された数値範囲には、「~」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において各成分は該当する物質を複数種含んでいてもよい。組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、各成分の含有率又は含有量は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計の含有率又は含有量を意味する。
本開示において各成分に該当する粒子は複数種含んでいてもよい。組成物中に各成分に該当する粒子が複数種存在する場合、各成分の粒子径は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の粒子の混合物についての値を意味する。
本開示において「層」との語には、当該層が存在する領域を観察したときに、当該領域の全体に形成されている場合に加え、当該領域の一部にのみ形成されている場合も含まれる。
本開示において「積層」との語は、層を積み重ねることを示し、二以上の層が結合されていてもよく、二以上の層が着脱可能であってもよい。
【0013】
<エポキシ樹脂>
本開示のエポキシ樹脂は、メソゲン構造とシロキサン構造とを有する。以下、メソゲン構造とシロキサン構造を有するエポキシ樹脂を、「エポキシ樹脂」と略称する場合がある。このような構成を有するエポキシ樹脂は、硬化物としたときに、熱伝導性に優れ、かつ低弾性化を図ることが可能である。その理由は明らかではないが以下のように考えることができる。
【0014】
メソゲン構造を有するエポキシ樹脂は、硬化物中で分子がスタッキングして液晶性を発現する性質を有する。その結果、フォノン散乱が抑制されるため、熱伝導性に優れている。
また、シロキサン化合物は、弾性の低い材料である。その理由は、シロキサン結合の結合距離の長さ、結合角度等に起因する。シロキサン結合の結合距離は1.64Åであり、炭素結合の結合距離の1.54Åに比べて長い。また、炭素結合の結合角度が110°であるのに対して、シロキサン結合の結合角度は134°と広くなっている。したがって、炭素結合に比べてシロキサン結合は動きやすく、その結果、炭素結合を含む有機化合物に比べてシロキサン化合物は低弾性となる。
【0015】
しかしながら、一般に、エポキシ樹脂とシロキサン化合物とは相溶性に劣る。そのため、エポキシ樹脂とシロキサン化合物との混合物では分散性に劣り、それぞれの利点を充分に発揮することができない。特にメソゲン構造を有する化合物は、配向性の高さ故に相溶性が著しく低い。
【0016】
これに対して、本開示のエポキシ樹脂は、一分子内に、メソゲン構造とシロキサン構造の双方を有する。これにより、相溶性の問題を回避でき、優れた熱伝導性と低弾性化の両立を図ることが可能であると考えられる。
【0017】
本開示において、メソゲン構造とは、分子間相互作用の働きにより、硬化物に結晶性又は液晶性を発現し易くする構造を指す。具体的には、ビフェニル基、ターフェニル基、フェニルベンゾエート基、シクロヘキシルベンゾエート基、アゾベンゼン基、スチルベン基、アントラセン基、これらの誘導体、これらがアゾメチン基、エステル基等で接続された基などが挙げられる。メソゲン構造としては、一般式(1)で表される構造が挙げられる。
【0018】
【0019】
一般式(1)中、Xは、単結合又は下記2価の基からなる群(I)より選択される少なくとも1種の連結基を示す。Yは、それぞれ独立に、炭素数1~8の脂肪族炭化水素基、炭素数1~8の脂肪族アルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、シアノ基、ニトロ基、又はアセチル基を示す。nは、各々独立に0~4の整数を示す。*は、分子中における連結位置を示す。
【0020】
【0021】
2価の基からなる群(I)中、Yはそれぞれ独立に、炭素数1~8の脂肪族炭化水素基、炭素数1~8の脂肪族アルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、シアノ基、ニトロ基、又はアセチル基を示す。nは各々独立に0~4の整数を示し、kは0~7の整数を示し、mは0~8の整数を示し、lは0~12の整数を示す。
上記2価の基からなる群(I)において、各2価の基の結合手の連結方向はいずれであってもよい。
【0022】
一般式(1)におけるXは、下記2価の基からなる群(II)より選択される少なくとも1種の連結基であることが好ましい。2価の基からなる群(II)におけるY、n、k、m及びlは、2価の基からなる群(I)におけるY、n、k、m及びlとそれぞれ同じであり、好ましい態様も同様である。
【0023】
【0024】
一般式(1)及び2価の基からなる群(I)におけるYは、それぞれ独立に、炭素数1~4の脂肪族炭化水素基、炭素数1~4の脂肪族アルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、シアノ基、ニトロ基、又はアセチル基であることが好ましく、メチル基、エチル基、メトキシ基、エトキシ基、又は塩素原子であることがより好ましく、メチル基又はエチル基であることがさらに好ましい。
【0025】
一般式(1)及び2価の基からなる群(I)におけるnは、それぞれ独立に、0~2の整数であることが好ましく、0又は1であることがより好ましい。kは0~3の整数であることが好ましく、0又は1であることがより好ましい。mは0~4の整数であることが好ましく、0又は1であることがより好ましい。lは0~4の整数であることが好ましく、0又は1であることがより好ましい。
【0026】
メソゲン構造は、高次構造を形成し易く、硬化物の熱伝導性がより向上する観点から、3個以上の6員環基が直鎖状に連結した構造を有することが好ましい。直鎖状に連結した6員環基の数は、3個以上であることが好ましく、成形性の観点から、3個又は4個であることがより好ましい。
【0027】
メソゲン構造に含まれる直鎖状に連結した6員環基は、ベンゼン等の芳香環に由来する6員環基であってもよく、シクロヘキサン、シクロヘキセン等の脂肪族環に由来する6員環基であってもよい。中でも、少なくとも1つは芳香環に由来する6員環基であることが好ましく、構造に含まれる直鎖状に連結した6員環基のうち、1つが脂肪族環に由来する6員環基であり、残りの環が全て芳香環に由来する6員環基であることがより好ましい。
【0028】
エポキシ樹脂に含まれるメソゲン構造は、1種単独であっても、2種以上であってもよい。
【0029】
本開示において、シロキサン構造とは、-O-Si-O-を有する構造をいう。Siの残りの2つの結合手は、それぞれ独立にシロキサン構造又は有機基(R)と結合する。シロキサン構造としては、D単位(R2SiO2/2)、T単位(RSiO3/2)、及びQ単位(SiO4/2)が挙げられる。得られるエポキシ樹脂の粘度の上昇を抑える観点からは、少なくともD単位(R2SiO2/2)を含んでいることが好ましい。全シロキサン構造に占めるD単位の含有率は、90質量%以上であることが好ましく、95質量%であることがより好ましく、100質量%であることがさらに好ましい。
【0030】
Siに結合する有機基としては、アルキル基、フェニル基、エポキシ基、アミノ基、カルボキシル基、水酸基、メルカプト基、イソシアネート基等を有する基が挙げられる。これらの有機基は、置換基を有していてもよい。これらの有機基の中でも、アルキル基及びフェニル基からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、メチル基及びフェニル基からなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましい。
エポキシ樹脂に含まれるシロキサン構造は、1種単独であっても、2種以上であってもよい。
【0031】
本開示のエポキシ樹脂は、エポキシ基を1つ有する単官能エポキシ樹脂であっても、エポキシ基を2つ有する2官能エポキシ樹脂であっても、エポキシ基を3つ以上有する多官能エポキシ樹脂であってもよい。
エポキシ基は、シロキサン構造に結合していても、メソゲン構造に結合していてもよく、メソゲン構造に結合していることが好ましい。エポキシ基は、シロキサン構造及びメソゲン構造からなる群より選択される少なくとも1種に、直接結合していても、連結基を介して結合していてもよい。連結基としては、アルキレン基、酸素原子、カルボニルオキシ基、及びこれらの組み合わせが挙げられる。エポキシ基、並びにエポキシ基及び連結基を有するエポキシ含有基からなる群より選択される少なくとも1種が、メソゲン構造に結合していることが好ましい。エポキシ含有基としては、グリシジル基、グリシジルオキシ基、エポキシシクロヘキシル基等が挙げられる。
【0032】
エポキシ樹脂は、直鎖状であっても、分岐状であってもよく、粘度の上昇が抑えられる観点から、直鎖状であることが好ましい。
直鎖状のエポキシ樹脂は、主鎖にシロキサン構造とメソゲン構造とを有している。分岐状のエポキシ樹脂は、シロキサン構造を主鎖とし側鎖にメソゲン構造を有していても、メソゲン構造を主鎖とし側鎖にシロキサン構造を有していてもよい。
エポキシ樹脂は、主鎖にシロキサン構造とメソゲン構造とを有し、このメソゲン構造の少なくとも一部がエポキシ基及びエポキシ含有基からなる群より選択される少なくとも1種を有することがより好ましい。
【0033】
エポキシ樹脂におけるシロキサン構造とメソゲン構造とは、直接連結していても、連結基を介して連結していてもよく、連結基を介して連結していることが好ましい。シロキサン構造とメソゲン構造との連結基としては、エポキシ基及びエポキシ含有基からなる群より選択される少なくとも1種と、エポキシ基と反応可能な官能基との反応により生じた2価の基が挙げられる。
【0034】
エポキシ基と反応可能な官能基としては、活性水素を含む官能基が挙げられ、例えば、アミノ基、カルボキシル基、酸無水物基、水酸基、エポキシ基、メルカプト基、及びイソシアネート基が挙げられる。
【0035】
エポキシ樹脂における、メソゲン構造とシロキサン構造との比率(メソゲン構造:シロキサン構造)は、質量基準で、10:1~10:30であることが好ましく、10:3~10:20であることが好ましく、10:4~10:15であることが好ましい。
エポキシ樹脂における、メソゲン構造とシロキサン構造との比率は、NMR、MALDI-TOF-MS等によって測定することができる。
【0036】
エポキシ樹脂のエポキシ当量は、250g/eq~4000g/eqであることが好ましく、250g/eq~2000g/eqであることがより好ましく、300g/eq~1000g/eqであることがさらに好ましい。
本開示において、エポキシ樹脂のエポキシ当量は、過塩素酸滴定法により測定する。
【0037】
エポキシ樹脂のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定における重量平均分子量(Mw)は、エポキシ樹脂組成物の流動性及び硬化物の熱伝導性を両立する点から、500~10000であることが好ましく、500~8000であることがより好ましく、600~5000であることがさらに好ましい。
本開示において、重量平均分子量(Mw)は、ゲル浸透クロマトグラフ法(GPC法)により測定する。
【0038】
ゲル浸透クロマトグラフ法による測定には、市販の装置を用いることが可能である。一例として、ポンプ:L-6000(株式会社日立製作所)、カラム:TSKgel G4000HR+G3000HR+G2000XL(東ソー株式会社)、検出器:示差屈折率計RI-8020(東ソー株式会社)、及び溶出溶媒:テトラヒドロフラン(クロマトグラフィー用安定剤不含、和光純薬工業株式会社)を使用し、樹脂サンプルを5mg/cm3の濃度になるようテトラヒドロフランに溶解したものをサンプルとして流速1.0cm2/分の条件で測定すればよい。
また、ポリスチレン標準サンプルを用いて検量線を作成し、ポリスチレン換算値でエポキシ樹脂の重量平均分子量(Mw)を計算する。
【0039】
本開示のエポキシ樹脂は、硬化物中に高次構造を形成する。ここで、高次構造とは、その構成要素が配列してミクロな秩序構造を形成した高次構造体を含む構造を意味し、例えば結晶相及び液晶相が相当する。このような高次構造体の存在の有無は、偏光顕微鏡によって判断することができる。すなわち、クロスニコル状態での観察において、偏光解消による干渉縞が見られることで判別可能である。
【0040】
液晶相としては、ネマチック構造とスメクチック構造とが挙げられる。ネマチック構造は分子長軸が一様な方向を向いており、配向秩序のみをもつ液晶構造である。これに対し、スメクチック構造は配向秩序に加えて一次元の位置の秩序を持ち、層構造を有する。秩序性はネマチック構造よりもスメクチック構造の方が高い。
【0041】
<エポキシ樹脂の製造方法>
本開示のエポキシ樹脂は、分子内に、メソゲン構造とシロキサン構造とエポキシ基とを有するように製造できれば、特に限定されない。
例えば、本開示のエポキシ樹脂は、メソゲン構造を有するエポキシ化合物(以下、「メソゲン含有エポキシ化合物」ともいう)と、エポキシ基と反応可能な官能基を有するシロキサン化合物(以下、「反応性シロキサン化合物」ともいう)とを反応させることで得ることができる。メソゲン含有エポキシ化合物及び反応性シロキサン化合物は、それぞれ1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0042】
メソゲン含有エポキシ化合物は、メソゲン構造と、エポキシ基と、を有する。メソゲン含有エポキシ化合物におけるエポキシ基は、エポキシ含有基であってもよい。メソゲン含有エポキシ化合物における「メソゲン構造」及び「エポキシ含有基」は、上述のメソゲン構造で説明したものと同様である。
メソゲン含有エポキシ化合物は、エポキシ基を2個以上することが好ましく、得られるエポキシ樹脂が直鎖状となる観点からは、2個有することが好ましい。
【0043】
メソゲン含有エポキシ化合物としては、一般式(2)で表されるエポキシ化合物が挙げられる。
【0044】
【0045】
一般式(2)中のX、Y及びnは、上述の一般式(1)で表されるメソゲン構造におけるX、Y及びnとそれぞれ同じであり、好ましい範囲についても同様である。
【0046】
一般式(2)で表されるエポキシ化合物としては、液晶相を発現する温度範囲が25℃以上であり、硬化物としたときの液晶相の配向性が高く、水素ガスバリア性に優れる観点から、1-{(3-メチル-4-オキシラニルメトキシ)フェニル}-4-4-(4-オキシラニルメトキシフェニル)-1-シクロヘキセン、1-(3-メチル-4-オキシラニルメトキシフェニル)-4-(4-オキシラニルメトキシフェニル)ベンゼン、2-メチル-1,4-フェニレン-ビス{4-(2,3-エポキシプロポキシ)ベンゾエート}、4-{4-(2,3-エポキシプロポキシ)フェニル}シクロヘキシル=4-(2,3-エポキシプロポキシ)-3-メチルベンゾエート、及び4-{4-(2,3-エポキシプロポキシ)フェニル}シクロヘキシル=4-(2,3-エポキシプロポキシ)ベンゾエートからなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0047】
一般式(2)で表されるエポキシ化合物は、公知の方法により製造することができる。例えば、一般式(2)で表されるエポキシ化合物は、特許第4619770号公報、特開2011-98952号公報、特許第5471975号公報等に記載の製造方法によって得られる。
【0048】
反応性シロキサン化合物は、「シロキサン構造」と「エポキシ基と反応可能な官能基」とを有する。反応性シロキサン化合物における「シロキサン構造」は、上述のシロキサン構造で説明したものと同様である。
【0049】
反応性シロキサン化合物は、エポキシ基と反応可能な官能基を2個以上有することが好ましく、得られるエポキシ樹脂が直鎖状となる観点からは、エポキシ基と反応可能な官能基を2個有することが好ましい。
【0050】
反応性シロキサン化合物としては、例えば、下記一般式(3-1)~(3-3)で表される構造単位を有する化合物を挙げることができる。
【0051】
【0052】
一般式(3-1)~(3-3)中、R1~R3はそれぞれ独立に、アルキル基又はフェニル基を示し、Y1~Y3はそれぞれ独立に、アミノ基、カルボキシル基、酸無水物基、水酸基、エポキシ基、イソシアネート基、又はメルカプト基を示し、X1~X3はそれぞれ独立に、2価の有機基を示し、括弧で括られた部分は構造単位を示し、分子内に1以上有する。
R1~R3で表されるアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられ、メチル基であることが好ましい。
R1~R3で表されるアルキル基及びフェニル基は、それぞれ置換基を有していてもよい。
【0053】
X1~X3で表される2価の有機基としては、アルキレン基、フェニレン基、アルキレンオキシアルキル基、及びこれらの組み合わせが挙げられる。アルキレン基、フェニレン基、及びアルキレンオキシアルキル基は、置換基を有していてもよい。
【0054】
X1~X3で表されるアルキレン基の炭素数は、1~6であることが好ましく、1~3であることが好ましい。
X1~X3で表されるアルキレンオキシアルキル基におけるアルキレン基の炭素数は、1~6であることが好ましく、1~3であることが好ましい。X1~X3で表されるアルキレンオキシアルキル基におけるアルキル基の炭素数は、1~6であることが好ましく、1~3であることが好ましい。
【0055】
Y1~Y3は、カルボキシル基、アミノ基又は水酸基であることが好ましく、アミノ基又はフェノール性水酸基であることがより好ましく、フェノール性水酸基であることがさらに好ましい。
【0056】
一般式(3-1)~(3-3)で表される構造単位を有する化合物の中でも、反応性シロキサン化合物としては、一般式(3-1)で表される構造単位を有する化合物であることが好ましい。一般式(3-1)で表される構造単位を有する化合物は、末端に官能基を有するため、得られるエポキシ樹脂が直鎖状になりやすく、粘度の上昇が抑えられる傾向にある。
【0057】
反応性シロキサン化合物の重量平均分子量(Mw)は、メソゲン含有エポキシ化合物との混合性及び反応性の観点から、200~5000であることが好ましく、300~3500であることがより好ましく、500~2000であることがさらに好ましい。
【0058】
一般式(3-1)におけるY1及びY2がアミノ基であるシロキサンジアミンは、市販品としては、例えば、「KF-8010」(アミン当量430)、「X-22-161A」(アミン当量800)、「X-22-161B」(アミン当量1500)、「KF-8012」(アミン当量2200)、「KF-8008」(アミン当量5700)、「X-22-9409」(アミン当量700)、「X-22-1660B-3」(アミン当量2200)(以上、信越化学工業株式会社、商品名)、「XF42-C5379」(アミン当量740)(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社、商品名)、「BY-16-853U」(アミン当量460)、「BY-16-853」(アミン当量650)、及び「BY-16-853B」(アミン当量2200)(以上、東レ・ダウコーニング株式会社、商品名)が挙げられる。
【0059】
これらのシロキサンジアミンの中でも、エポキシ樹脂及び溶剤との溶解性の点から、アミン当量が小さい「KF-8010」(アミン当量430)、「X-22-161A」(アミン当量800)、「BY-16-853U」(アミン当量460)、「BY-16-853」(アミン当量650)が好ましい。
【0060】
一般式(3-1)におけるY1及びY2がフェノール性水酸基である化合物は、市販品としては、例えば、「X-22-1876」(水酸基価:120KOHmg/g)、「KF-2201」(水酸基価:35KOHmg/g)、「X-22-1822」(水酸基価:20KOHmg/g)(以上、信越化学工業株式会社、商品名)、及び「BY16-752A」(水酸基価:30KOHmg/g、東レ・ダウコーニング株式会社、商品名)が挙げられる。
【0061】
また、一般式(3-1)におけるY1及びY2がアルコール性水酸基である化合物は、市販品としては、例えば、「X-22-160AS」(水酸基価:112KOHmg/g)、「KF-6001」(水酸基価:62KOHmg/g)、「KF-6002」(水酸基価:35KOHmg/g)、「KF-6003」(水酸基価:20KOHmg/g)、及び「X-22-4015」(水酸基価:27KOHmg/g)(以上、信越化学工業株式会社、商品名)が挙げられる。
【0062】
また、一般式(3-1)におけるY1及びY2がカルボキシル基である化合物は、市販品としては、例えば、「X-22-162AS」(カルボキシル当量:420g/eq、「X-22-162A」(カルボキシル当量:865g/eq)(以上、信越化学工業株式会社、商品名)が挙げられる。
【0063】
メソゲン含有エポキシ化合物と反応性シロキサン化合物とは、溶媒中で反応させることができる。この反応で使用される溶媒は特に制限されず、例えば、シクロヘキサノン、トルエン、キシレン及びメシチレンから選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0064】
溶媒の使用量は、メソゲン含有エポキシ化合物と反応性シロキサン化合物の総量100質量部に対して、25質量部~1000質量部とすることが好ましく、50質量部~500質量部とすることがより好ましい。溶媒の使用量を25質量部~1000質量部とすると、溶解性が充分となり、反応時間の長時間化が抑えられる傾向にある。
【0065】
この反応には硬化触媒を使用することができる。硬化触媒の種類は特に限定されず、反応速度、反応温度、貯蔵安定性等の観点から適切なものを選択することができる。硬化触媒の具体例としては、イミダゾール化合物、有機リン化合物、第3級アミン、第4級アンモニウム塩等が挙げられる。これらは一種類単独で用いてもよく、二種類以上を併用してもよい。中でも、成形物の耐熱性の観点から有機ホスフィン化合物;有機ホスフィン化合物に無水マレイン酸、キノン化合物(1,4-ベンゾキノン、2,5-トルキノン、1,4-ナフトキノン、2,3-ジメチルベンゾキノン、2,6-ジメチルベンゾキノン、2,3-ジメトキシ-5-メチル-1,4ベンゾキノン、2,3-ジメトキシ-1,4-ベンゾキノン、フェニル-1,4-ベンゾキノン等)、ジアゾフェニルメタン、フェノール樹脂等のπ結合をもつ化合物を付加してなる分子内分極を有する化合物;及び有機ホスフィン化合物と有機ボロン化合物(テトラフェニルボレート、テトラ-p-トリルボレート、テトラ-n-ブチルボレート等)との錯体;からなる群より選択される少なくとも一つであることが好ましい。
【0066】
有機ホスフィン化合物としては、具体的には、トリフェニルホスフィン、ジフェニル(p-トリル)ホスフィン、トリス(アルキルフェニル)ホスフィン、トリス(アルコキシフェニル)ホスフィン、トリス(アルキルアルコキシフェニル)ホスフィン、トリス(ジアルキルフェニル)ホスフィン、トリス(トリアルキルフェニル)ホスフィン、トリス(テトラアルキルフェニル)ホスフィン、トリス(ジアルコキシフェニル)ホスフィン、トリス(トリアルコキシフェニル)ホスフィン、トリス(テトラアルコキシフェニル)ホスフィン、トリアルキルホスフィン、ジアルキルアリールホスフィン、アルキルジアリールホスフィン等が挙げられる。
硬化触媒の量は特に制限されない。反応速度及び貯蔵安定性の観点から、メソゲン含有エポキシ化合物と反応性シロキサン化合物の合計質量に対し、0.1質量%~3質量%であることが好ましく、0.2質量%~1.5質量%であることがより好ましい。
【0067】
メソゲン含有エポキシ化合物と反応性シロキサン化合物との反応温度及び反応時間は、用いるメソゲン含有エポキシ化合物及び反応性シロキサン化合物の種類に応じて適宜設定することが好ましい。例えば、反応温度は、70℃~150℃とすることができ、100℃~130℃とすることが好ましい。反応時間は、0.1時間~10時間とすることができ、1時間~6時間とすることが好ましい。
【0068】
メソゲン含有エポキシ化合物のエポキシ基の当量数と、反応性シロキサン化合物のエポキシ基と反応可能な官能基の当量数との比(エポキシ基の当量数/官能基の当量数)が、1.1~10.5となることが好ましく、1.8~5.2となることがより好ましい。
【0069】
メソゲン含有エポキシ化合物と反応性シロキサン化合物との配合比率(メソゲン含有エポキシ化合物:反応性シロキサン化合物)は、質量基準で10:1~10:30であることが好ましく、10:3~10:20であることが好ましく、10:4~10:15であることが好ましい。
エポキシ樹脂における、メソゲン構造とシロキサン構造との比率は、NMR、MALDI-TOF-MS等によって測定することができる。
【0070】
<エポキシ樹脂組成物>
本開示のエポキシ樹脂組成物は、本開示のエポキシ樹脂と硬化剤とを含有する。本開示のエポキシ樹脂組成物は、硬化物としたときに、熱伝導性に優れ、低弾性である。本開示のエポキシ樹脂組成物は、必要に応じて、上記成分に加えてその他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、フィラー、硬化触媒、シランカップリング剤、溶剤、離型剤、応力緩和剤、補強材、エラストマ、分散剤、沈降防止剤等をさらに含有していてもよい。
【0071】
本開示のエポキシ樹脂組成物は、本開示のエポキシ樹脂を含有するため、高次構造が形成可能となっている。本開示のエポキシ樹脂組成物は、例えば、封止材又は成形材として用いることが可能である。
【0072】
(エポキシ樹脂)
エポキシ樹脂組成物に含まれるエポキシ樹脂は、上述のエポキシ樹脂である。
エポキシ樹脂組成物に含まれるエポキシ樹脂の含有率は、5質量%~30質量%であることが好ましく、7質量%~28質量%であることがより好ましく、10質量%~25質量%であることがさらに好ましい。
【0073】
(硬化剤)
硬化剤は、エポキシ樹脂と硬化反応が可能な化合物であれば特に制限されず、通常用いられる硬化剤を適宜選択して用いることができる。硬化剤の具体例としては、酸無水物系硬化剤、アミン系硬化剤、フェノール系硬化剤、メルカプタン系硬化剤等が挙げられる。これらの硬化剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
中でも耐熱性の観点から、硬化剤としては、アミン系硬化剤及びフェノール系硬化剤からなる群より選択される少なくとも1種を用いることが好ましく、さらに、保存安定性の観点から、フェノール系硬化剤の少なくとも1種を用いることがより好ましい。
【0074】
アミン系硬化剤としては、エポキシ樹脂の硬化剤として通常用いられるものを特に制限なく用いることができ、市販されているものを用いてもよい。中でも硬化性の観点から、アミン系硬化剤としては、2以上の官能基を有する多官能硬化剤であることが好ましく、さらに熱伝導性の観点から、芳香環等の剛直な骨格を有する多官能硬化剤であることがより好ましい。
【0075】
2官能のアミン系硬化剤としては、具体的には、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノ-3,3’-ジメトキシビフェニル、4,4’-ジアミノフェニルベンゾエート、1,5-ジアミノナフタレン、1,3-ジアミノナフタレン、1,4-ジアミノナフタレン、1,8-ジアミノナフタレン等が挙げられる。
中でも、熱伝導率の観点から、4,4’-ジアミノジフェニルメタン及び1,5-ジアミノナフタレン及び4,4’-ジアミノジフェニルスルホンからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、1,5-ジアミノナフタレンであることがより好ましい。
【0076】
フェノール系硬化剤としては、エポキシ樹脂の硬化剤として通常用いられるものを特に制限なく用いることができ、市販されているものを用いてもよい。例えば、フェノール及びそれらをノボラック化したフェノール樹脂を用いることができる。
フェノール系硬化剤としては、フェノール、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール等の単官能の化合物;カテコール、レゾルシノール、ヒドロキノン等の2官能の化合物;1,2,3-トリヒドロキシベンゼン、1,2,4-トリヒドロキシベンゼン、1,3,5-トリヒドロキシベンゼン等の3官能の化合物などが挙げられる。また、硬化剤としては、これらフェノール系硬化剤をメチレン鎖等で連結してノボラック化したフェノールノボラック樹脂を用いることができる。
【0077】
フェノールノボラック樹脂としては、具体例には、クレゾールノボラック樹脂、カテコールノボラック樹脂、レゾルシノールノボラック樹脂、ヒドロキノンノボラック樹脂等の1種のフェノール化合物をノボラック化した樹脂;カテコールレゾルシノールノボラック樹脂、レゾルシノールヒドロキノンノボラック樹脂等の2種又はそれ以上のフェノール化合物をノボラック化した樹脂などが挙げられる。
【0078】
フェノール系硬化剤としてフェノールノボラック樹脂が用いられる場合、フェノールノボラック樹脂は、下記一般式(II-1)及び下記一般式(II-2)からなる群より選択される少なくとも1つで表される構造単位を有する化合物を含むことが好ましい。
【0079】
【0080】
一般式(II-1)及び一般式(II-2)中、R21及びR24はそれぞれ独立に、アルキル基、アリール基又はアラルキル基を示す。R22、R23、R25及びR26はそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アリール基又はアラルキル基を示す。m21及びm22はそれぞれ独立に0~2の整数を示す。n21及びn22はそれぞれ独立に1~7の整数を示す。
【0081】
アルキル基は、直鎖状、分岐鎖状、及び環状のいずれであってもよい。
アリール基は、芳香族環にヘテロ原子を含む構造であってもよい。この場合、ヘテロ原子と炭素原子の合計数が6~12となるヘテロアリール基であることが好ましい。
アラルキル基におけるアルキレン基は、直鎖状、分岐鎖状、及び環状のいずれであってもよい。アラルキル基におけるアリール基は、芳香族環にヘテロ原子を含む構造であってもよい。この場合、ヘテロ原子と炭素原子の合計数が6~12となるヘテロアリール基であることが好ましい。
【0082】
一般式(II-1)及び一般式(II-2)において、R21及びR24はそれぞれ独立に、アルキル基、アリール基、又はアラルキル基を示す。これらアルキル基、アリール基、及びアラルキル基は、さらに置換基を有していてもよい。置換基としては、アルキル基(但し、R21及びR24が、アルキル基の場合を除く)、アリール基、ハロゲン原子、水酸基等を挙げることができる。
m21及びm22はそれぞれ独立に、0~2の整数を示し、m21又はm22が2の場合、2つのR21又はR24は同一であっても異なっていてもよい。m21及びm22は、それぞれ独立に、0又は1であることが好ましく、0であることがより好ましい。
n21及びn22はフェノールノボラック樹脂に含まれる一般式(II-1)及び一般式(II-2)で表される構造単位の数であり、それぞれ独立に、1~7の整数を示す。
【0083】
一般式(II-1)及び一般式(II-2)において、R22、R23、R25及びR26はそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アリール基、又はアラルキル基を示す。
R22、R23、R25及びR26で表されるアルキル基、アリール基、及びアラルキル基は、さらに置換基を有していてもよい。置換基としては、アルキル基(但し、R22、R23、R25及びR26が、アルキル基の場合を除く)、アリール基、ハロゲン原子、水酸基等を挙げることができる。
【0084】
一般式(II-1)及び一般式(II-2)におけるR22、R23、R25及びR26は、保存安定性と熱伝導性の観点から、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、又はアリール基であることが好ましく、水素原子、炭素数1~4であるアルキル基又は炭素数6~12であるアリール基であることがより好ましく、水素原子であることがさらに好ましい。
さらに、耐熱性の観点から、R22及びR23の少なくとも一方はアリール基であることが好ましく、炭素数6~12であるアリール基であることがより好ましい。また、R25及びR26の少なくとも一方は、同様にアリール基であることが好ましく、炭素数6~12であるアリール基であることがより好ましい。
なお、上記アリール基は芳香族環にヘテロ原子を含む構造であってもよい。この場合、ヘテロ原子と炭素原子の合計数が6~12となるヘテロアリール基であることが好ましい。
【0085】
フェノール系硬化剤は、一般式(II-1)又は一般式(II-2)で表される構造単位を有する化合物を1種単独で含んでもよく、2種以上を組み合わせて含んでいてもよい。好ましくは、一般式(II-1)で表されるレゾルシノールに由来する構造単位を有する化合物の少なくとも1種を含む場合である。
【0086】
一般式(II-1)で表される構造単位を有する化合物は、レゾルシノール以外のフェノール化合物に由来する部分構造の少なくとも1種をさらに含んでいてもよい。一般式(II-1)において、レゾルシノール以外のフェノール化合物に由来する部分構造としては、例えば、フェノール、クレゾール、カテコール、ヒドロキノン、1,2,3-トリヒドロキシベンゼン、1,2,4-トリヒドロキシベンゼン、及び1,3,5-トリヒドロキシベンゼンに由来する部分構造が挙げられる。これらに由来する部分構造は、1種単独で含んでも、2種以上を組み合わせて含んでいてもよい。
また、一般式(II-2)で表される構造単位を有する化合物は、カテコール以外のフェノール化合物に由来する部分構造の少なくとも1種を含んでいてもよい。一般式(II-2)において、カテコール以外のフェノール化合物に由来する部分構造としては、例えば、フェノール、クレゾール、レゾルシノール、ヒドロキノン、1,2,3-トリヒドロキシベンゼン、1,2,4-トリヒドロキシベンゼン、及び1,3,5-トリヒドロキシベンゼンに由来する部分構造が挙げられる。これらに由来する部分構造は、1種単独で含んでも、2種以上を組み合わせて含んでいてもよい。
【0087】
ここで、フェノール化合物に由来する部分構造とは、フェノール化合物のベンゼン環部分から1個又は2個の水素原子を取り除いて構成される1価又は2価の基を意味する。なお、水素原子が取り除かれる位置は特に制限されない。
【0088】
また、一般式(II-1)で表される構造単位を有する化合物において、レゾルシノールに由来する部分構造の含有率については特に制限されない。弾性率の観点から、一般式(II-1)で表される構造単位を有する化合物の全質量に対するレゾルシノールに由来する部分構造の含有率が55質量%以上であることが好ましく、ガラス転移温度(Tg)と線膨張率の観点から、80質量%以上であることがより好ましく、熱伝導性の観点から、90質量%以上であることがさらに好ましい。
【0089】
さらに、フェノールノボラック樹脂は、下記一般式(III-1)~一般式(III-4)からなる群より選択される少なくとも1つで表される部分構造を有するノボラック樹脂を含むことがより好ましい。
【0090】
【0091】
【0092】
【0093】
【0094】
一般式(III-1)~一般式(III-4)中、m31~m34及びn31~n34は、それぞれ独立に、正の整数を示し、それぞれの構造単位が含有される数を示す。また、Ar31~Ar34は、それぞれ独立に、下記一般式(III-a)で表される基又は下記一般式(III-b)で表される基を示す。
【0095】
【0096】
一般式(III-a)及び一般式(III-b)中、R31及びR34はそれぞれ独立に、水素原子又は水酸基を示す。R32及びR33は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~8のアルキル基を示す。
【0097】
一般式(III-1)~一般式(III-4)のうち少なくとも1つで表される部分構造を有する硬化剤は、2価のフェノール化合物をノボラック化する製造方法によって副生成的に生成可能なものである。
【0098】
一般式(III-1)~一般式(III-4)で表される部分構造は、化合物の主鎖骨格として含まれていてもよく、又は側鎖の一部として含まれていてもよい。さらに、一般式(III-1)~一般式(III-4)のいずれか1つで表される部分構造を構成するそれぞれの構造単位は、ランダムに含まれていてもよいし、規則的に含まれていてもよいし、ブロック状に含まれていてもよい。また、一般式(III-1)~一般式(III-4)において、水酸基の置換位置は芳香族環上であれば特に制限されない。
【0099】
一般式(III-1)~一般式(III-4)のそれぞれについて、複数存在するAr31~Ar34は全て同一の原子団であってもよいし、2種以上の原子団を含んでいてもよい。なお、Ar31~Ar34は、それぞれ独立に、一般式(III-a)及び一般式(III-b)のいずれか1つで表される基を示す。
【0100】
一般式(III-a)及び一般式(III-b)におけるR31及びR34はそれぞれ独立に、水素原子又は水酸基であるが、熱伝導性の観点から水酸基であることが好ましい。また、R31及びR34の置換位置は特に制限されない。
【0101】
一般式(III-a)におけるR32及びR33はそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~8であるアルキル基を示す。R32及びR33における炭素数1~8のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、及びn-オクチル基が挙げられる。また、一般式(III-a)におけるR32及びR33の置換位置は特に制限されない。
【0102】
一般式(III-1)~一般式(III-4)におけるAr31~Ar34は、より優れた熱伝導性を達成する観点から、ジヒドロキシベンゼンに由来する基(一般式(III-a)においてR31が水酸基であって、R32及びR33が水素原子である基)、及びジヒドロキシナフタレンに由来する基(一般式(III-b)においてR34が水酸基である基)から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0103】
ここで、「ジヒドロキシベンゼンに由来する基」とは、ジヒドロキシベンゼンの芳香環部分から水素原子を2つ取り除いて構成される2価の基を意味し、水素原子が取り除かれる位置は特に制限されない。また、「ジヒドロキシナフタレンに由来する基」についても同様の意味である。
【0104】
また、樹脂組成物の生産性及び流動性の観点からは、Ar31~Ar34は、それぞれ独立に、ジヒドロキシベンゼンに由来する基であることがより好ましく、1,2-ジヒドロキシベンゼン(カテコール)に由来する基及び1,3-ジヒドロキシベンゼン(レゾルシノール)に由来する基からなる群より選択される少なくとも1種であることがさらに好ましい。特に、熱伝導性を特に高める観点から、Ar31~Ar34は、少なくともレゾルシノールに由来する基を含むことが好ましい。また、熱伝導性を特に高める観点から、n31~n34の付された構造単位は、レゾルシノールに由来する基を含んでいることが好ましい。
【0105】
一般式(III-1)~一般式(III-4)からなる群より選択される少なくとも1つで表される部分構造を有する化合物が、レゾルシノールに由来する基を含む構造単位を含む場合、レゾルシノールに由来する基を含む構造単位の含有率は、弾性率の観点から、一般式(III-1)~一般式(III-4)のうち少なくとも1つで表される構造を有する化合物全質量中において55質量%以上であることが好ましく、Tg及び線膨張率の観点から、80質量%以上であることがより好ましく、熱伝導性の観点から、90質量%以上であることがさらに好ましい。
【0106】
一般式(III-1)~一般式(III-4)におけるmx及びnx(xは31、32、33又は34のいずれかの同一の値)の比は、流動性の観点から、mx/nx=20/1~1/5であることが好ましく、20/1~5/1であることがより好ましく、20/1~10/1であることがさらに好ましい。また、mx及びnxの合計値(mx+nx)は、流動性の観点から20以下であることが好ましく、15以下であることがより好ましく、10以下であることがさらに好ましい。なお、mx及びnxの合計値の下限値は特に制限されない。
【0107】
mx及びnxは構造単位数を示し、対応する構造単位が、分子中にどの程度付加されているかを示すものである。したがって、単一の分子については整数値を示す。なお、(mx/nx)及び(mx+nx)におけるmx及びnxは、複数種の分子の集合体の場合には、平均値である有理数を示す。
【0108】
一般式(III-1)~一般式(III-4)からなる群より選択される少なくとも1つで表される部分構造を有するフェノールノボラック樹脂は、特にAr31~Ar34が置換又は非置換のジヒドロキシベンゼン及び置換又は非置換のジヒドロキシナフタレンの少なくともいずれか1種である場合、これらを単純にノボラック化したフェノール樹脂等と比較して、その合成が容易であり、融点の低い硬化剤が得られる傾向にある。したがって、このようなフェノール樹脂を硬化剤として含むことで、樹脂組成物の製造及び取り扱いも容易になる等の利点がある。
なお、フェノールノボラック樹脂が一般式(III-1)~一般式(III-4)のいずれかで表される部分構造を有するか否かは、電界脱離イオン化質量分析法(FD-MS)によって、そのフラグメント成分として、一般式(III-1)~一般式(III-4)のいずれかで表される部分構造に相当する成分が含まれるか否かによって判断することができる。
【0109】
一般式(III-1)~一般式(III-4)からなる群より選択される少なくとも1つで表される部分構造を有するフェノールノボラック樹脂の分子量は特に制限されない。流動性の観点から、数平均分子量(Mn)としては2000以下であることが好ましく、1500以下であることがより好ましく、350~1500であることがさらに好ましい。また、重量平均分子量(Mw)としては2000以下であることが好ましく、1500以下であることがより好ましく、400~1500であることがさらに好ましい。
【0110】
一般式(III-1)~一般式(III-4)からなる群より選択される少なくとも1つで表される部分構造を有するフェノールノボラック樹脂の水酸基当量は特に制限されない。耐熱性に関与する架橋密度の観点から、水酸基当量は平均値で45g/eq~150g/eqであることが好ましく、50g/eq~120g/eqであることがより好ましく、55g/eq~120g/eqであることがさらに好ましい。なお、本開示において、水酸基当量は、JIS K0070:1992に準拠して測定された値をいう。
【0111】
フェノールノボラック樹脂は、フェノールノボラック樹脂を構成するフェノール化合物であるモノマーを含んでいてもよい。フェノールノボラック樹脂を構成するフェノール化合物であるモノマーの含有率(以下、「モノマー含有率」ともいう。)としては特に制限されない。熱伝導性及び成形性の観点から、フェノールノボラック樹脂中のモノマー含有率は、5質量%~80質量%であることが好ましく、15質量%~60質量%であることがより好ましく、20質量%~50質量%であることがさらに好ましい。
【0112】
モノマー含有率が80質量%以下であると、硬化反応の際に架橋に寄与しないモノマーが少なくなり、架橋に寄与する高分子量体が多くを占めることになるため、より高密度な高次構造が形成され、熱伝導率が向上する傾向にある。また、モノマー含有率が5質量%以上であることで、成形の際に流動し易いため、必要に応じて含まれるフィラーとの密着性がより向上し、より優れた熱伝導性と耐熱性が達成される傾向にある。
【0113】
樹脂組成物中の硬化剤の含有量は特に制限されない。例えば、硬化剤がアミン系硬化剤の場合は、アミン系硬化剤の活性水素の当量数(活性水素の当量数)と、エポキシ樹脂のエポキシ基の当量数との比(活性水素の当量数/エポキシ基の当量数)が0.5~2.0となることが好ましく、0.8~1.2となることがより好ましい。また、硬化剤がフェノール系硬化剤の場合は、フェノール系硬化剤のフェノール性水酸基の当量数(フェノール性水酸基当量数)と、エポキシ樹脂のエポキシ基の当量数との比(フェノール性水酸基の当量数/エポキシ基の当量数)が0.5~2.0となることが好ましく、0.8~1.2となることがより好ましい。
【0114】
(硬化促進剤)
樹脂組成物は、硬化促進剤を含んでもよい。硬化剤と硬化促進剤とを併用することで、エポキシ樹脂をさらに十分に硬化させることができる。硬化促進剤の種類及び含有率は特に制限されず、反応速度、反応温度及び保管性の観点から、適切なものを選択することができる。
【0115】
硬化促進剤として具体的には、イミダゾール化合物、第3級アミン化合物、有機ホスフィン化合物、有機ホスフィン化合物と有機ボロン化合物との錯体等が挙げられる。中でも、耐熱性の観点から、有機ホスフィン化合物、及び有機ホスフィン化合物と有機ボロン化合物との錯体からなる群より選択される少なくとも1つであることが好ましい。
【0116】
有機ホスフィン化合物としては、具体的には、トリフェニルホスフィン、ジフェニル(p-トリル)ホスフィン、トリス(アルキルフェニル)ホスフィン、トリス(アルコキシフェニル)ホスフィン、トリス(アルキルアルコキシフェニル)ホスフィン、トリス(ジアルキルフェニル)ホスフィン、トリス(トリアルキルフェニル)ホスフィン、トリス(テトラアルキルフェニル)ホスフィン、トリス(ジアルコキシフェニル)ホスフィン、トリス(トリアルコキシフェニル)ホスフィン、トリス(テトラアルコキシフェニル)ホスフィン、トリアルキルホスフィン、ジアルキルアリールホスフィン、アルキルジアリールホスフィン等が挙げられる。
【0117】
また、有機ホスフィン化合物と有機ボロン化合物との錯体としては、具体的には、テトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレート、テトラフェニルホスホニウム・テトラ-p-トリルボレート、テトラブチルホスホニウム・テトラフェニルボレート、テトラフェニルホスホニウム・n-ブチルトリフェニルボレート、ブチルトリフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレート、メチルトリブチルホスホニウム・テトラフェニルボレート等が挙げられる。
これら硬化促進剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0118】
硬化促進剤の2種以上を組み合わせて用いる場合、得られる硬化物の特性(柔軟性等)に応じて、配合割合を適宜設定することができる。
【0119】
樹脂組成物が硬化促進剤を含有する場合、樹脂組成物中の硬化促進剤の含有率は特に制限されない。成形性の観点からは、硬化促進剤の含有率は、エポキシ樹脂と必要に応じて用いられる硬化剤の合計質量の0.2質量%~3.0質量%であることが好ましく、0.3質量%~2.0質量%であることがより好ましく、0.4質量%~1.5質量%であることがさらに好ましい。
【0120】
(フィラー)
エポキシ樹脂組成物は、フィラーを含んでいてもよい。エポキシ樹脂組成物がフィラーを含むことで、得られる硬化物の熱伝導性が向上する。メソゲン構造を有するエポキシ樹脂は、硬化物中で、フィラーを中心とした高い秩序性を有する高次構造を形成し、硬化物の熱伝導性が著しく向上する傾向にある(例えば、国際公開第WO2013/065159号公報を参照)。これは、高次構造を形成したエポキシ樹脂の硬化物において、フィラーが効率的な熱伝導パスとして機能するためと考えられている。
【0121】
フィラーを含むエポキシ樹脂の硬化物において、フィラーを中心とした高次構造が形成されているか否かは、例えば、硬化物(厚さ:約1mm)をスライドガラスに挟んだ状態で、偏光顕微鏡(例えば、オリンパス株式会社のBX51)により観察することで判断することができる。このとき、フィラーが存在する領域ではフィラーを中心として干渉模様が観察される。
【0122】
上記観察は、クロスニコル状態ではなく、偏光子に対して検光子を60°回転させた状態で行うことが好ましい。クロスニコル状態で観察すると、干渉模様が観察されない領域(つまり、硬化物が高次構造を形成していない領域)が暗視野となり、フィラー部分と判別できなくなるが、偏光子に対して検光子を60°回転させることで干渉模様が観察されない領域が暗視野でなくなり、フィラー部分との判別が可能となる。
【0123】
エポキシ樹脂組成物中のフィラーの含有率は、特に制限されない。エポキシ樹脂組成物の成形性及びエポキシ樹脂シートの取り扱い性の観点からは、エポキシ樹脂組成物の全固形分の全体におけるフィラーの含有率は45体積%~90体積%であることが好ましく、硬化物の熱伝導性の観点からは、45体積%~85体積%であることがより好ましく、エポキシ樹脂組成物をワニス状のエポキシ樹脂組成物を用いて形成する場合のエポキシ樹脂組成物の揺変性の観点からは、50体積%~78体積%であることがさらに好ましい。
【0124】
エポキシ樹脂組成物の全固形分に含まれるフィラーの体積基準の含有率は、例えば、以下のようにして測定される。まず、25℃におけるエポキシ樹脂組成物の質量(Wc)を測定し、これを空気中、400℃で2時間、次いで700℃で3時間加熱し、樹脂分を分解及び燃焼して除去する。その後、25℃における残存したフィラーの質量(Wf)を測定する。次いで、電子比重計又は比重瓶を用いて、25℃におけるフィラーの密度(df)を求める。次いで、同様の方法で25℃におけるエポキシ樹脂組成物の密度(dc)を測定する。次いで、エポキシ樹脂組成物の体積(Vc)及び残存したフィラーの体積(Vf)を求め、(式1)に示すように残存したフィラーの体積をエポキシ樹脂組成物の体積で除すことで、フィラーの体積比率(Vr)を求める。
【0125】
(式1)
Vc=Wc/dc
Vf=Wf/df
Vr(%)=(Vf/Vc)×100
【0126】
Vc:エポキシ樹脂組成物の体積(cm3)
Wc:エポキシ樹脂組成物の質量(g)
dc:エポキシ樹脂組成物の密度(g/cm3)
Vf:フィラーの体積(cm3)
Wf:フィラーの質量(g)
df:フィラーの密度(g/cm3)
Vr:フィラーの体積比率(%)
【0127】
エポキシ樹脂組成物に含まれるフィラーの質量基準の含有量は、特に限定されない。例えば、エポキシ樹脂組成物の全固形分を100質量部としたときに、フィラーの含有量は、1質量部~99質量部であることが好ましく、40質量部~95質量部であることがより好ましく、60質量部~90質量部であることがさらに好ましい。フィラーの含有量が上記範囲内であることにより、硬化物の熱伝導性がより向上する傾向にある。
→低質量%側にシフトさせました。
【0128】
フィラーの種類は、特に制限されない。例えば、アルミナ、シリカ、酸化マグネシウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素等が挙げられる。フィラーは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0129】
硬化物の熱伝導性の観点からは、フィラーとしては窒化ホウ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム等の窒化物が好ましく、窒化ホウ素及び窒化アルミニウムの少なくとも一方がより好ましく、電気絶縁性の観点からは窒化ホウ素がさらに好ましい。
【0130】
エポキシ樹脂組成物に含まれるフィラーの種類は、例えば、エネルギー分散型X線分析法(EDX)によって確認することができる。
【0131】
フィラーは、単一ピークを有する粒径分布を示すものであっても、2つ以上のピークを有する粒径分布を示すものであってもよい。エポキシ樹脂組成物におけるフィラーの充填率の観点からは、2つ以上のピークを有する粒径分布を示すことが好ましい。2つ以上のピークを有する粒径分布を示すフィラーは、粒径の異なる2種以上のフィラーを組み合わせて得てもよい。
【0132】
フィラーが2つ以上のピークを有する粒径分布を示す場合、0.1μm~0.8μmの範囲に存在する第一のピークと、20μm~60μmの範囲に存在する第二のピークとを有することが好ましい。このような粒度分布のフィラーを得るためには、0.1μm~0.8μmの平均粒子径を示す第一のフィラーと、20μm~60μmの平均粒子径を示す第二のフィラーとを併用することが好ましい。
【0133】
フィラーが2つ以上のピークを有する粒径分布を示すことで、フィラーの充填率がより向上し、硬化物の熱伝導性がより向上する傾向にある。フィラーの充填性の観点からは、第二のフィラーの平均粒子径は30μm~50μmであることが好ましく、第一のフィラーの平均粒子径は第二のフィラーの平均粒子径の1/150~1/8であることが好ましい。
【0134】
本開示においてフィラーの粒度分布は、レーザー回折法を用いて測定される体積累積粒度分布をいう。また、フィラーの平均粒子径は、レーザー回折法を用いて測定される体積累積粒度分布が50%となる粒子径をいう。レーザー回折法を用いた粒度分布測定は、レーザー回折散乱粒度分布測定装置(例えば、ベックマン・コールター株式会社の商品名:LS13)を用いて行うことができる。測定に用いるフィラー分散液は、例えば、フィラーを0.1質量%のメタリン酸ナトリウム水溶液に投入し、超音波分散させ、装置の感度上適切な光量となる濃度に調製することで得られる。
【0135】
フィラーが上述した第一のフィラー及び第二のフィラーを含む場合、第二のフィラーが窒化物フィラーであることが好ましい。この場合、第一のフィラーは、窒化物フィラーであっても、その他のフィラーであってもよく、硬化物の熱伝導性、及びワニス状のエポキシ樹脂組成物の揺変性の観点からは、アルミナ及び窒化アルミニウムの少なくとも一方であることが好ましい。
【0136】
硬化物の熱伝導性、接着性、及び機械的強度の観点からは、フィラーとしてアルミナを含むことが好ましく、α-アルミナを含むことがより好ましい。フィラーとしてアルミナを含む場合、アルミナとしてはγ-アルミナ、θ-アルミナ、δ-アルミナ等が挙げられるが、熱伝導性の観点から、α-アルミナのみを含むことが好ましい。
【0137】
フィラーとしてのアルミナの形状は、粒子状であることが好ましい。アルミナの形状は走査型電子顕微鏡(SEM)によって確認することができる。アルミナにおけるα-アルミナの存在は、X線回折スペクトルによって確認することができる。具体的には、特許第3759208号公報の記載に準じて、α-アルミナに特有のピークを指標としてα-アルミナの存在を確認することができる。
【0138】
フィラーとしてのアルミナにおけるα-アルミナの含有率は、熱伝導性及び流動性の観点からアルミナの総体積の80体積%以上であることが好ましく、90体積%以上であることがより好ましく、100体積%であることがさらに好ましい。α-アルミナの含有率が大きいほど、メソゲン含有エポキシ化合物による高次構造の形成が促進され、熱伝導性により優れる硬化物が得られる傾向にある。なお、フィラーとしてのアルミナにおけるα-アルミナの含有率は、X線回折スペクトルによって確認することができる。
【0139】
フィラーとしてのα-アルミナは、横軸に粒子径を、縦軸に頻度をとった粒度分布曲線を描いた場合に単一のピークを有していてもよく、複数のピークを有していてもよい。
フィラーとしてのα-アルミナが粒度分布曲線を描いたときに単一のピークを有する場合、α-アルミナの体積累積粒度分布の小粒径側からの体積累積が50%となるときの粒子径である平均粒子径(D50)は、熱伝導性の観点から、0.1μm~50μmであることが好ましく、0.1μm~30μmであることがより好ましい。
【0140】
フィラーが窒化ホウ素を含む場合、窒化ホウ素の結晶形は、六方晶(hexagonal)、立方晶(cubic)及び菱面体晶(rhombohedral)のいずれであってもよく、粒子径を容易に制御できることから六方晶が好ましい。また、結晶形の異なる窒化ホウ素の2種以上を併用してもよい。
【0141】
フィラーが窒化ホウ素を含む場合、硬化物の熱伝導性、及びエポキシ樹脂組成物を形成する際にワニス状のエポキシ樹脂組成物を用いる場合の粘度の観点から、窒化物フィラーは、粉砕加工又は凝集加工したものであることが好ましい。窒化物フィラーの粒子形状としては、丸み状、球形、りん片状等の形状が挙げられる。また、窒化物フィラーは、これらの粒子が凝集した凝集粒子であってもよい。窒化物フィラーの充填性を高くする観点から、粒子の長径と短径との比(アスペクト比)が3以下の丸み状又は球形であることが好ましく、より好ましくはアスペクト比が2以下の丸み状又は球形であり、球形がさらに好ましい。なお、粒子のアスペクト比は、電子顕微鏡等を用いて粒子を画像化し、粒子1つ1つの長径及び短径を測定し、長径と短径との比の算術平均にて得られる値を意味する。
【0142】
本開示において、粒子の長径とは、粒子の外接長方形の長さをいい、粒子の短径とは、粒子の外接長方形の幅をいう。また、粒子が球形であるとは、アスペクト比が1.5以下であることをいう。
【0143】
窒化物フィラーとしては、凝集加工した六方晶窒化ホウ素粒子が好ましい。凝集加工した六方晶窒化ホウ素粒子は隙間を多く有するため、粒子に圧力をかけることで粒子が潰れて変形しやすい。そのため、ワニス状のエポキシ樹脂組成物の低粘度化のためにフィラーの含有率を低くしても、プレス等でエポキシ樹脂組成物を圧縮することで実質的なフィラーの含有率を高めることが可能になる。熱伝導率が高いフィラー同士の接触による熱伝導パスの形成のし易さという観点から見ると、フィラーの粒子形状は球形よりも丸み状又はりん片状の方が、粒子の接触点が多くなり好ましいと考えられるが、フィラーの充填性並びにエポキシ樹脂組成物の揺変性及び粘度の兼ね合いから、球形の粒子が好ましい。
【0144】
窒化物フィラーの体積平均粒子径(D50)は、特に制限されない。エポキシ樹脂組成物の成形性の観点からは100μm以下であることが好ましく、硬化物の熱伝導性及びワニス状のエポキシ樹脂組成物の揺変性の観点からは20μm~100μmであることがより好ましく、硬化物の電気絶縁性の観点からは20μm~60μmであることがさらに好ましい。
【0145】
フィラーに占める窒化物フィラーの割合は、特に制限されない。ある態様では、硬化物の電気絶縁性の観点からは、フィラー全体の10体積%~100体積%であることが好ましく、ワニス状のエポキシ樹脂組成物の揺変性の観点からは、20体積%~98体積%であることがより好ましく、硬化物の熱伝導性の観点からは、30体積%~95体積%であることがさらに好ましい。
また、フィラーに占める窒化物フィラーの割合は、その他の態様では、フィラー全体の50体積%~98体積%であることが好ましく、充填性の観点からは、60体積%~95体積%であることがより好ましく、硬化物の熱伝導性の観点からは、65体積%~95体積%であることがさらに好ましい。
【0146】
(シランカップリング剤)
エポキシ樹脂組成物は、シランカップリング剤を含んでいてもよい。エポキシ樹脂組成物がシランカップリング剤を含むことで、硬化物の熱伝導性と絶縁信頼性がより向上する傾向にある。これは例えば、シランカップリング剤は、フィラーの表面とその周りを取り囲む樹脂との間で共有結合を形成する役割(バインダ剤に相当)、熱伝導率の向上、及び水分の侵入を妨げることによって絶縁信頼性を向上させる働きを果たすと考えることができる。
【0147】
なお、シランカップリング剤は、エポキシ樹脂組成物に含まれるフィラーの表面を被覆した状態で存在していても、フィラーの表面以外の部分に存在していてもよい。
【0148】
シランカップリング剤の種類としては特に限定されず、市販されているものを用いてもよい。樹脂と硬化剤との相溶性、及び樹脂とフィラーとの界面での熱伝導欠損を低減することを考慮すると、本開示においては、末端にエポキシ基、アミノ基、メルカプト基、ウレイド基又は水酸基を有するシランカップリング剤を用いることが好適である。
【0149】
シランカップリング剤の具体例としては、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン等を挙げることができる。また、商品名:SC-6000KS2に代表されるシランカップリング剤オリゴマ(日立化成テクノサービス株式会社)等も挙げられる。これらシランカップリング剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0150】
樹脂組成物がシランカップリング剤を含む場合、エポキシ樹脂組成物中のシランカップリング剤の含有率は特に制限されない。シランカップリング剤の含有率は、樹脂と必要に応じて用いられる硬化剤の合計質量の0.01質量%~0.2質量%であることが好ましく、0.03質量%~0.1質量%であることがより好ましい。
【0151】
(溶剤)
溶剤としては、エポキシ樹脂組成物の硬化反応を阻害しないものであれば特に制限はなく、通常用いられる有機溶剤を適宜選択して用いることができる。
【0152】
<樹脂シート>
本開示の樹脂シートは、本開示のエポキシ樹脂組成物を含む樹脂組成物層を有する。樹脂組成物層は1層であっても2層以上であってもよい。本開示の樹脂シートは、必要に応じて離型フィルムをさらに有していてもよい。
樹脂シートは、例えば、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等の有機溶剤をエポキシ樹脂組成物に添加して調製されるワニス状のエポキシ樹脂組成物(以下、「樹脂ワニス」ともいう)をPETフィルム等の離型フィルム上に付与後、乾燥することで製造することができる。
【0153】
樹脂ワニスの付与は公知の方法により実施することができる。具体的には、コンマコート、ダイコート、リップコート、グラビアコート等の方法が挙げられる。所定の厚みに樹脂組成物層を形成するための樹脂ワニスの付与方法としては、ギャップ間に被塗工物を通過させるコンマコート法、ノズルから流量を調節した樹脂ワニスを塗布するダイコート法等を適用する。例えば、乾燥前の樹脂組成物層の厚みが50μm~500μmである場合は、コンマコート法を用いることが好ましい。
【0154】
乾燥方法は、樹脂ワニス中に含まれる有機溶剤の少なくとも一部を除去できれば特に制限されず、通常用いられる乾燥方法から適宜選択することができる。
【0155】
樹脂シートは、エポキシ樹脂組成物を含む第1の樹脂組成物層と、第1の樹脂組成物層上に積層されているエポキシ樹脂組成物を含む第2の樹脂組成物層と、を有することが好ましい。例えば、樹脂シートは、エポキシ樹脂組成物から形成される第1の樹脂組成物層と、エポキシ樹脂組成物から形成される第2の樹脂組成物層との積層体であることが好ましい。これにより絶縁耐圧をより向上させることができる。第1の樹脂組成物層及び第2の樹脂組成物層を形成するエポキシ樹脂組成物は、同一の組成であっても互いに異なる組成を有していてもよい。第1の樹脂組成物層及び第2の樹脂組成物層を形成するエポキシ樹脂組成物は、熱伝導性の観点から、同一の組成であることが好ましい。
【0156】
樹脂シートが積層体である場合、エポキシ樹脂組成物から形成される第1の樹脂組成物層と第2の樹脂組成物層とを重ね合わせて製造されることが好ましい。かかる構成であることにより、絶縁耐圧がより向上する傾向にある。
【0157】
これは例えば以下のように考えることができる。すなわち、2つの樹脂組成物層を重ねることで、一方の樹脂組成物層中に存在しうる厚みの薄くなる箇所(ピンホール又はボイド)がもう一方の樹脂組成物層により補填されることになる。これにより、最小絶縁厚みを大きくすることができ、絶縁耐圧がより向上すると考えることができる。樹脂シートの製造方法におけるピンホール又はボイドの発生確率は高くはないが、2つの樹脂組成物層を重ねることで薄い部分の重なり合う確率はその2乗になり、ピンホール又はボイドの個数はゼロに近づくことになる。絶縁破壊は最も絶縁的に弱い箇所で起こることから、2つの樹脂組成物層を重ねることにより絶縁耐圧がより向上する効果が得られると考えることができる。さらに、2つの樹脂組成物層を重ねることにより、フィラー同士の接触確率も向上し、熱伝導性の向上効果も生じると考えることができる。
【0158】
樹脂シートの製造方法は、エポキシ樹脂組成物から形成される第1の樹脂組成物層上に、エポキシ樹脂組成物から形成される第2の樹脂組成物層を重ねて積層体を得る工程と、得られた積層体を加熱加圧処理する工程とを含むことが好ましい。かかる製造方法であることにより、絶縁耐圧がより向上する傾向にある。
【0159】
樹脂シートの密度は特に制限されず、通常、3.0g/cm3~3.4g/cm3とされる。柔軟性と熱伝導性の両立を考慮すると、樹脂シートの密度は3.0g/cm3~3.3g/cm3であることが好ましく、3.1g/cm3~3.3g/cm3であることがより好ましい。樹脂シートの密度は、例えば、無機フィラーの配合量で調整することができる。
本開示において、樹脂シートの密度は、樹脂シートが2層以上の樹脂組成物層を有する場合、全ての樹脂組成物層の密度の平均値をいう。また、樹脂シートに離型フィルムが含まれている場合、離型フィルムを除いた樹脂組成物層の密度をいう。
【0160】
樹脂シートの厚さは特に制限されず、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、樹脂シートの厚さは、10μm~350μmとすることができ、熱伝導率、熱応力に対する剥離の抑制、電気絶縁性及びシート可とう性の観点から、50μm~300μmであることが好ましい。
【0161】
樹脂シートは、硬化反応がほとんど進行していない。このため、可とう性を有するものの、シートとしての柔軟性に乏しい。したがって、PETフィルム等の支持体(被付与体)を除去した状態ではシート自立性に乏しく、取り扱いが困難な場合がある。そこで、樹脂シートは、これを構成する樹脂組成物が半硬化状態になるまで、さらに熱処理されてなることが好ましい。
【0162】
ここで、樹脂組成物を乾燥して得られる樹脂シートをAステージシートとも称する。また、Aステージシートをさらに熱処理して得られる半硬化状態の樹脂シートをBステージシートとも称し、Aステージシート又はBステージシートをさらに熱処理して得られる硬化状態のシートをCステージシートとも称する。なお、Aステージ、Bステージ、及びCステージについては、JIS K6900:1994の規定を参照するものとする。
【0163】
<Bステージシート>
本開示のBステージシートは、本開示のエポキシ樹脂組成物の半硬化物を含む半硬化樹脂組成物層を有する。
Bステージシートは、例えば、樹脂シートをBステージ状態まで熱処理する工程を含む製造方法で製造できる。
樹脂シートを熱処理して形成されることで、熱伝導性に優れ、熱応力に対する剥離が抑制され、Bステージシートとしての可とう性及び可使時間に優れる。
【0164】
Bステージシートが半硬化物であるとは、樹脂組成物層が常温(25℃)においては104Pa・s~105Pa・sであり、100℃で102Pa・s~103Pa・sである状態を意味する。なお、上記粘度は、動的粘弾性測定(周波数1Hz、荷重40g、昇温速度3℃/分)によって測定される。
【0165】
樹脂シートを熱処理する条件は、樹脂組成物層をBステージ状態にまで半硬化することができれば特に制限されず、エポキシ樹脂組成物の構成に応じて適宜選択することができる。熱処理には、エポキシ樹脂組成物を付与する際に生じた樹脂組成物層中の空隙(ボイド)を消滅させる目的から、熱真空プレス、熱ロールラミネート等から選択される熱処理方法が好ましい。これにより平坦なBステージシートを効率よく製造することができる。
具体的には、例えば、減圧下(例えば、1MPa)、温度50℃~180℃で、1秒間~3分間、1MPa~30MPaのプレス圧で加熱及び加圧処理することで、樹脂組成物層をBステージ状態に半硬化させることができる。
【0166】
Bステージシートの厚さは、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、10μm~350μmとすることができ、熱伝導率、熱応力に対する剥離の抑制、電気絶縁性及び可とう性の観点から、50μm~300μmであることが好ましい。また、2層以上の樹脂シートを積層しながら熱プレスすることによりBステージシートを作製することもできる。
【0167】
<Cステージシート>
本開示のCステージシートは、本開示のエポキシ樹脂組成物の硬化物を含む硬化樹脂組成物層を有する。
Cステージシートは、例えば、樹脂シート又はBステージシートをCステージ状態まで熱処理する工程を含む製造方法により製造することができる。
樹脂シート又はBステージシートを熱処理する条件は、樹脂組成物層又は半硬化樹脂組成物層をCステージ状態にまで硬化することができれば特に制限されず、エポキシ樹脂組成物の構成に応じて適宜選択することができる。熱処理には、Cステージシート中のボイドの発生を抑制し、Cステージシートの耐電圧性を向上させる観点から、熱真空プレス等の熱処理方法により行うことが好ましい。これにより平坦なCステージシートを効率よく製造することができる。
具体的には例えば、加熱温度100℃~250℃で、1分間~30分間、1MPa~20MPaで加熱プレス処理することで樹脂組成物層又は半硬化樹脂組成物層をCステージ状態に硬化することができる。加熱温度は130℃~230℃であることが好ましく、150℃~220℃であることがより好ましい。
【0168】
Cステージシートの厚みは、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、50μm~350μmとすることができ、熱伝導性、熱応力に対する剥離の抑制、電気絶縁性及びシート可とう性の観点から、60μm~300μmであることが好ましい。また、2層以上の樹脂シート又はBステージシートを積層した状態で熱プレスすることによりCステージシートを作製することもできる。
【0169】
Cステージシートは、JIS K 7244-1:1998に準拠した動的粘弾性測定の引張試験にて、25℃での貯蔵弾性率が、10GPa以下であることが好ましく、7GPa以下であることがより好ましい。
Cステージシートの貯蔵弾性率の測定は、厚み200μmのCステージシートを30mm×5mm角に切り出した後、動的粘弾性測定装置(例えば、TAインスツルメント社製、RSA III)を用いて、引張モード、チャック間距離:20mm、周波数:10Hz、測定温度範囲:20℃~300℃、昇温速度:5℃/分、温度25℃の条件で行う。
【0170】
<硬化物>
本開示の硬化物は、本開示のエポキシ樹脂組成物の硬化物である。エポキシ樹脂組成物を硬化する方法としては、特に制限はなく、通常用いられる方法を適宜選択することができる。例えば、エポキシ樹脂組成物を熱処理することでエポキシ樹脂組成物の硬化物が得られる。
エポキシ樹脂組成物を熱処理する方法としては特に制限はなく、また加熱条件についても特に制限はない。熱処理の温度範囲は、エポキシ樹脂組成物を構成するエポキシ樹脂及び硬化剤の種類に応じて適宜選択することができる。また、熱処理の時間としては、特に制限はなく、硬化物の形状、厚み等に応じて適宜選択される。
【0171】
硬化物は、JIS K 7244-1:1998に準拠した動的粘弾性測定の引張試験にて、25℃での貯蔵弾性率が、10GPa以下であることが好ましく、7GPa以下であることがより好ましい。
硬化物の貯蔵弾性率の測定は、厚み200μmのCステージシートを30mm×5mm角に切り出した後、動的粘弾性測定装置(例えば、TAインスツルメント社製、RSA III)を用いて、引張モード、チャック間距離:20mm、周波数:10Hz、測定温度範囲:20℃~300℃、昇温速度:5℃/分、温度25℃の条件で行う。
【0172】
<樹脂付金属箔>
本開示の樹脂付金属箔は、金属箔と、前記金属箔上に配置される本開示のエポキシ樹脂組成物の半硬化物を含む半硬化樹脂組成物層と、を備える。本開示のエポキシ樹脂組成物の半硬化物を含む半硬化樹脂組成物層を有することで、本開示の樹脂付金属箔は、熱伝導性に優れ、熱応力に対する剥離が抑制される。
半硬化樹脂組成物層はエポキシ樹脂組成物をBステージ状態になるように熱処理して得られるものである。
【0173】
金属箔としては、金箔、銅箔、アルミニウム箔等が挙げられ、一般的には銅箔が用いられる。
金属箔の厚みとしては、例えば、1μm~35μmが挙げられ、可とう性の観点から、20μm以下であることが好ましい。
また、金属箔としては、ニッケル、ニッケル-リン合金、ニッケル-スズ合金、ニッケル-鉄合金、鉛、鉛-スズ合金等を中間層とし、この両面に銅層を設けた3層構造の複合箔、アルミニウム箔と銅箔とを複合した2層構造の複合箔などが挙げられる。中間層の両面に銅層を設けた3層構造の複合箔では、一方の銅層の厚さを0.5μm~15μmとし、他方の銅層の厚さを10μm~300μmとすることが好ましい。
【0174】
樹脂付金属箔は、例えば、エポキシ樹脂組成物(好ましくは、樹脂ワニス)を金属箔上に塗布し乾燥することにより樹脂組成物層(樹脂シート)を形成し、これを熱処理して樹脂組成物層をBステージ状態とすることで製造することができる。樹脂組成物層の形成方法は上述の通りである。
【0175】
樹脂付金属箔の製造条件は特に制限されるものではない。乾燥後の樹脂組成物層において、樹脂ワニスに使用した有機溶剤が80質量%以上揮発していることが好ましい。乾燥温度としては、特に制限はなく、80℃~180℃程度が好ましい。乾燥時間としては、樹脂ワニスのゲル化時間との兼ね合いで適宜選択することができる。樹脂ワニスの付与量は、乾燥後の樹脂組成物層の厚みが50μm~350μmとなるように付与することが好ましく、60μm~300μmとなるように付与することがより好ましい。
乾燥後の樹脂組成物層は、さらに熱処理されることでBステージ状態になる。樹脂組成物層を熱処理する条件は、Bステージシートにおける熱処理条件と同様である。
【0176】
<金属基板>
本開示の金属基板は、金属支持体と、前記金属支持体上に配置される本開示のエポキシ樹脂組成物の硬化物を含む硬化樹脂組成物層と、前記硬化樹脂組成物層上に配置される金属箔と、を備える。
金属支持体と金属箔との間に、本開示のエポキシ樹脂組成物の硬化物を含む硬化樹脂組成物層を配置することで、熱伝導性が向上し、熱応力に対する剥離が抑制される。
【0177】
金属支持体は、目的に応じて、その素材、厚さ等は適宜選択することができる。具体的には、アルミニウム、鉄等の金属を用い、厚さを0.5mm~5mmとすることができる。
【0178】
金属基板における金属箔は、樹脂付金属箔で説明した金属箔と同様のものを用いることができ、好ましい態様も同様である。
【0179】
本開示の金属基板は、例えば以下のようにして製造することができる。
金属支持体上に、エポキシ樹脂組成物を付与し乾燥することで樹脂組成物層を形成し、さらに樹脂組成物層上に金属箔を配置して、これを熱処理及び加圧処理することで樹脂組成物層を硬化して、金属基板を製造することができる。金属支持体上に樹脂組成物層を付与し乾燥する方法としては、樹脂付金属箔で説明した方法と同様の方法を用いることができる。
また、金属支持体上に、樹脂付金属箔を樹脂組成物層の半硬化物が金属支持体に対向するように貼り合わせた後、これを熱処理及び加圧処理することで樹脂組成物層の半硬化物を硬化して、金属基板を製造することもできる。
【0180】
<パワー半導体装置>
本開示のパワー半導体装置は、金属板、はんだ層及び半導体チップをこの順に有する半導体モジュールと、放熱部材と、前記半導体モジュールの前記金属板と前記放熱部材との間に配置される本開示のポキシ樹脂組成物の硬化物を含む硬化樹脂組成物層と、を備える。
パワー半導体装置は、半導体モジュール部分のみが封止材等で封止されていても、パワー半導体モジュール全体がモールド樹脂等でモールドされていてもよい。以下、パワー半導体装置の例を、図面を用いて説明する。
【0181】
図1はパワー半導体装置の構成の一例を示す概略断面図である。
図1では、金属板106とはんだ層110と半導体チップ108とをこの順に有する半導体モジュールにおける金属板106と、放熱ベース基板104との間にエポキシ樹脂組成物の硬化物102が配置され、半導体モジュールの部分が封止材114で封止されている。
【0182】
また、
図2はパワー半導体装置の構成の別の一例を示す概略断面図である。
図2では、金属板106とはんだ層110と半導体チップ108とをこの順に有する半導体モジュールにおける金属板106と、放熱ベース基板104との間にエポキシ樹脂組成物の硬化物102が配置され、半導体モジュールと放熱ベース基板104とがモールド樹脂112でモールドされている。
【0183】
このように、本開示のエポキシ樹脂組成物の硬化物は、
図1に示すように半導体モジュールと放熱ベース基板との間の放熱性の接着層として用いることが可能である。また、
図2のようにパワー半導体装置の全体をモールド成形する場合でも、放熱ベース基板と金属板との間の放熱材として用いることが可能である。
【実施例】
【0184】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
以下に、エポキシ樹脂組成物の調製に用いた材料とその略号を示す。
【0185】
(エポキシ樹脂)
・エポキシ樹脂1:4-{4-(2,3-エポキシプロポキシ)フェニル}シクロヘキシル=4-(2,3-エポキシプロポキシ)ベンゾエート(エポキシ当量:212g/eq、特開2011-74366号公報に記載の方法により製造したもの、下記化学式、メソゲン含有エポキシ化合物1)と、末端に水酸基を有するシロキサン樹脂(信越化学工業株式会社;商品名X-22-1876、水酸基当量:487、重量平均分子量:700)との反応生成物(仕込み当量比:メソゲン含有エポキシ化合物1:X-22-1876=10:2.5)
【0186】
【0187】
・エポキシ樹脂2:ビフェニル型エポキシ化合物(三菱ケミカル株式会社;商品名YL6121H、メソゲン含有エポキシ化合物2)と、末端に水酸基を有するシロキサン化合物(信越化学工業株式会社;商品名X-22-1876)との反応生成物
・エポキシ樹脂3:1-{(3-メチル-4-オキシラニルメトキシ)フェニル}-4-4-(4-オキシラニルメトキシフェニル)-1-シクロヘキセン(エポキシ当量:201g/eq、下記化学式、メソゲン含有エポキシ化合物3)と、末端に水酸基を有するシロキサン化合物(X-22-1876)との反応生成物(仕込み当量比:メソゲン含有エポキシ化合物3:X-22-1876=10:2.5)
【0188】
【0189】
・エポキシ樹脂4:4-{4-(2,3-エポキシプロポキシ)フェニル}シクロヘキシル=4-(2,3-エポキシプロポキシ)-3-メチルベンゾエート(エポキシ当量:219g/eq、特開2011-74366号公報に記載の方法により製造、下記化学式、メソゲン含有エポキシ化合物4)と、末端に水酸基を有するシロキサン化合物(X-22-1876)との反応生成物(仕込み当量比:メソゲン含有エポキシ化合物4:X-22-1876=10:2.5)
【0190】
【0191】
・エポキシ樹脂5:2-メチル-1,4-フェニレン-ビス{4-(2,3-エポキシプロポキシ)ベンゾエート}(エポキシ当量:238、特開2011-241797号公報に記載の方法により製造、下記化学式、メソゲン含有エポキシ化合物5)と、末端に水酸基を有するシロキサン化合物(X-22-1876)との反応生成物(仕込み当量比:メソゲン含有エポキシ化合物5:X-22-1876=10:2.5)
【0192】
【0193】
・エポキシ樹脂6:メソゲン含有エポキシ化合物1と、末端にアミノ基を有するシロキサン樹脂(信越化学工業株式会社;商品名KF-8010、アミン当量:430g/eq、重量平均分子量:830)との反応生成物
(仕込み当量比:メソゲン含有エポキシ化合物1:KF105=10:2.5)
・エポキシ樹脂7:メソゲン含有エポキシ化合物1と、末端にカルボキシル基を有するシロキサン化合物(信越化学工業株式会社;商品名X-22-162AS、カルボキシ当量:420g/eq、重量平均分子量:800)との反応生成物。(仕込み当量比:メソゲン含有エポキシ化合物1:X-22-162AS=10:2.5)
・エポキシ樹脂8:メソゲン含有エポキシ化合物1と、末端に水酸基を有するシロキサン化合物(信越化学工業株式会社;商品名X-22-1875、水酸基当量:965g/eq、重量平均分子量:1500)との反応生成物(仕込み当量比:メソゲン含有エポキシ化合物1:X-22-1875=10:2.5)
・エポキシ樹脂9:メソゲン含有エポキシ化合物1と、末端に水酸基を有するシロキサン化合物(X-22-1876)との反応生成物(仕込み当量比:メソゲン含有エポキシ化合物1:X-22-1876=10:7.5)
【0194】
<合成例1>
温度計、撹拌装置、還流冷却管の付いた加熱及び冷却可能な容積0.5リットルの反応容器に、末端に水酸基を有するシロキサン化合物(X-22-1876):33.0g、メソゲン含有エポキシ化合物1:60.0g、及びシクロヘキサノン:93.0gを投入した。
【0195】
次いで、撹拌しながら120℃に昇温し、樹脂固形分が溶解し均一な溶液になっていることを確認した後、TPP10%シクロヘキサノン溶液を10g添加し、約130℃で5時間反応を行った。その後、室温(25℃)に冷却しエポキシ樹脂1の溶液を得た。
【0196】
得られたエポキシ樹脂1の重量平均分子量(Mw)を以下の方法で測定した。
高速液体クロマトグラフィー(株式会社日立製作所、商品名:L6000)及びデータ解析装置(株式会社島津製作所、商品名:C-R4A)を用いて行った。分析用GPCカラムは東ソー株式会社のG2000HXL、G3000HXL及びG4000HR(以上、商品名)を使用した。試料濃度は5mg/cm3、移動相にはテトラヒドロフランを用い、流速1.0mL/minで測定を行った。ポリスチレン標準サンプルを用いて検量線を作成し、それを用いてポリスチレン換算値でMwを計算した。
測定の結果、エポキシ樹脂1の重量平均分子量(Mw)は、1700であった。
【0197】
得られたエポキシ樹脂1のエポキシ当量を、過塩素酸滴定法により測定した。エポキシ樹脂1のエポキシ当量は、460であった。
【0198】
<エポキシ樹脂2~9の合成方法>
合成例1において用いたメソゲン含有エポキシ化合物とシロキサン化合物を下記表1のように変えて、エポキシ樹脂2~9を合成した。合成例1と同様の方法で、エポキシ樹脂2~9の重量平均分子量(Mw)及びエポキシ当量を測定した。
【0199】
【0200】
(フィラー)
・AA-04[アルミナ粒子、住友化学株式会社、D50:0.4μm]
・HP-40[窒化ホウ素粒子、水島合金鉄株式会社、D50:40μm]
【0201】
(硬化剤)
・MEHC-7403H[高耐熱・難燃性フェノール樹脂、明和化成株式会社、水酸基当量:136g/eq]
・CRN[カテコールレゾルシノールノボラック樹脂(質量基準の仕込み比:カテコール/レゾルシノール=5/95)、シクロヘキサノン50質量%含有]
【0202】
<CRNの合成方法>
撹拌機、冷却器及び温度計を備えた3Lのセパラブルフラスコに、レゾルシノール627g、カテコール33g、37質量%ホルムアルデヒド水溶液316.2g、シュウ酸15g、水300gを入れ、オイルバスで加温しながら100℃に昇温した。104℃前後で還流し、還流温度で4時間反応を続けた。その後、水を留去しながらフラスコ内の温度を170℃に昇温した。170℃を保持しながら8時間反応を続けた。反応後、減圧下20分間濃縮を行い、系内の水等を除去し、目的物であるフェノールノボラック樹脂CRNを得た。
また、得られたCRNについて、FD-MS(電界脱離イオン化質量分析法)により構造を確認したところ、一般式(III-1)~一般式(III-4)で表される部分構造すべての存在が確認できた。
【0203】
なお、上記反応条件では、一般式(III-1)で表される部分構造を有する化合物が最初に生成し、これがさらに脱水反応することで一般式(III-2)~一般式(III-4)のうちの少なくとも1つで表される部分構造を有する化合物が生成すると考えられる。
【0204】
得られたCRNについて、エポキシ樹脂の数平均分子量(Mn)の測定と同様の方法で、数平均分子量(Mn)、さらには重量平均分子量(Mw)を測定した。
【0205】
得られたCRNについて、水酸基当量の測定を次のようにして行った。
水酸基当量は、塩化アセチル-水酸化カリウム滴定法により測定した。なお、滴定終点の判断は溶液の色が暗色のため、指示薬による呈色法ではなく、電位差滴定によって行った。具体的には、測定樹脂の水酸基をピリジン溶液中で塩化アセチルによりアセチル化した後に、過剰の試薬を水で分解し、生成した酢酸を水酸化カリウム/メタノール溶液で滴定した。
【0206】
得られたCRNは、低分子希釈剤として単量体成分(レゾルシノール)を35質量%含み、水酸基当量62g/eq、数平均分子量422、重量平均分子量564のノボラック樹脂であった。
【0207】
(硬化促進剤)
・TPP:トリフェニルホスフィン[和光純薬工業株式会社、商品名]
【0208】
(添加剤)
・KBM-573:N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン[シランカップリング剤、信越化学工業株式会社、商品名]
【0209】
(溶剤)
・CHN:シクロヘキサノン
【0210】
(支持体)
・PETフィルム[帝人フィルムソリューション株式会社、商品名:A53、厚さ50μm]
・銅箔[古河電気工業株式会社、厚さ:105μm、GTSグレード]
【0211】
<実施例1>
(樹脂組成物の調製)
シクロヘキサノン50質量%含有のエポキシ樹脂1を31.86質量%と、硬化剤としてMEHC-7403Hを3.79質量%、CRNを0.84質量%と、硬化促進剤としてTPPを0.16質量%と、フィラーとしてHP-40を43.99質量%と、AA-04を5.44質量%と、添加剤としてKBM-573を0.05質量%と、溶剤としてCHNを13.87質量%と、を混合し、ワニス状のエポキシ樹脂組成物を調製した。
【0212】
窒化ホウ素(HP-40)の密度を2.20g/cm3、アルミナ(AA-04)の密度を3.98g/cm3、及びエポキシ樹脂1と硬化剤(CRN)との混合物の密度を1.20g/cm3として、エポキシ樹脂組成物の全固形分の全体積に対するフィラーの割合を算出したところ、56体積%であった。
【0213】
<Bステージシートの作製>
ワニス状のエポキシ樹脂組成物を、アプリケーターを用いてPETフィルム上に塗布した後、120℃で10分間乾燥させた。その後、真空プレスにて、熱間加圧(プレス温度:80℃、真空度:1kPa、プレス圧:10MPa、加圧時間:3分)を行い、Bステージシートを得た。
【0214】
<銅箔付エポキシ樹脂組成物の硬化物の作製>
上記で得られたBステージシートのPETフィルムを剥がした後、2枚の銅箔で、銅箔のマット面がそれぞれ半硬化樹脂組成物層に対向するようにして挟み、真空プレスにて、真空熱圧着(プレス温度:150℃、真空度:1kPa、プレス圧:5MPa、加圧時間:30分)した。その後、大気圧条件下、150℃で2時間、210℃で4時間加熱し、銅箔付エポキシ樹脂組成物の硬化物を得た。
【0215】
<評価>
(高次構造(液晶相)の確認)
合成したエポキシ樹脂1を10℃/分で加熱しながら、状態変化を偏光顕微鏡(オリンパス株式会社、製品名「BS51」)にて観察(倍率:100倍)した。クロスニコル状態での観察において、エポキシ樹脂が流動性を有し、かつ偏光解消による透過光が肉眼で観察される温度領域が存在することが確認されれば、液晶相を示すと判断した。
尚、ここでの流動性を有する状態とは、物体を静置したときにその自重及びそれと同等の外部応力によって塑性変形を引き起こす状態と定義する。また、偏光解消による透過光が肉眼で観測される状態とは、クロスニコル状態の暗視野部分と偏光解消を引き起こした部分の変化を肉眼にて一般的な当業者の過半数が認識できる状態をいう。
【0216】
(熱伝導率の測定)
上記で得られた銅箔付エポキシ樹脂組成物の硬化物の銅箔をエッチングして取り除き、シート状のエポキシ樹脂組成物の硬化物(Cステージシート)を得た。得られたCステージシートの厚みを、マイクロメーター(株式会社ミツトヨ、マイクロメーター IP65)を用いて9点測定し、その算術平均値を求めたところ、200μmであった。
【0217】
得られたCステージシートを10mm角の正方形に切断してこれを試料とした。試料をグラファイトスプレーにて黒化処理した後、キセノンフラッシュ法(NETZSCH社の商品名:LFA447 nanoflash)にて熱拡散率を評価した。この値と、アルキメデス法で測定した密度と、DSC(示差走査熱量測定装置;Perkin Elmer社の商品名:DSC Pyris1)にて測定した比熱との積から、Cステージシートの厚さ方向の熱伝導率を求めた。
【0218】
(動的粘弾性の測定)
得られたCステージシートを30mm×5mm角に切り出した後、動的粘弾性測定装置(TAインスツルメント社製、RSA III)を用いて、引張モード、チャック間距離:20mm、周波数:10Hz、測定温度範囲:20℃~300℃、昇温速度:5℃/分、温度25℃の条件で、JIS K 7244-1:1998に準拠して、動的粘弾性を測定した。
【0219】
<実施例2~9>
エポキシ樹脂1をエポキシ樹脂2~9にそれぞれ代え、エポキシ樹脂のエポキシ基の当量数と硬化剤の水酸基の当量数の比(エポキシ基の当量数:水酸基の当量数)が1:1となるように硬化剤の添加量を変更した以外は、実施例1と同様の方法で、エポキシ樹脂組成物2~9を調製した。
エポキシ樹脂組成物1を上記で得られたエポキシ樹脂組成物2~9に代えた以外は、実施例1と同様の方法で、シート状のエポキシ樹脂組成物の硬化物(Cステージシート)を作製し、上記と同様にして評価した。その結果を表2に示す。
【0220】
<比較例1>
エポキシ樹脂1を、メソゲン含有エポキシ化合物1に代え、エポキシ樹脂のエポキシ基の当量数と硬化剤の水酸基の当量数の比(エポキシ基の当量数:水酸基の当量数)が1:1となるように硬化剤の添加量を変更した以外は、実施例1と同様の方法で、エポキシ樹脂組成物C1を調製した。
エポキシ樹脂組成物1を上記で得られたエポキシ樹脂組成物C1に代えた以外は、実施例1と同様の方法で、比較のCステージシートを作製し、上記と同様にして評価した。その結果を表2に示す。
【0221】
<比較例2>
エポキシ樹脂1を、メソゲン構造を有しないエポキシ化合物(多官能型エポキシ樹脂、三菱ケミカル株式会社、商品名1032-H60、エポキシ当量:170g/eq)に代え、エポキシ樹脂のエポキシ基の当量数と硬化剤の水酸基の当量数の比(エポキシ基の当量数:水酸基の当量数)が1:1となるように硬化剤の添加量を変更した以外は、実施例1と同様の方法で、エポキシ樹脂組成物C2を調製した。
エポキシ樹脂組成物1を上記で得られたエポキシ樹脂組成物C2に代えた以外は、実施例1と同様の方法で、比較のCステージシートを作製し、上記と同様にして評価した。その結果を表2に示す。
【表2】
【0222】
表2に示されるように、メソゲン構造を有するがシロキサン構造を有さないエポキシ樹脂を用いた比較例1は、メソゲン構造もシロキサン構造も有さないエポキシ樹脂を用いた比較例2に比べて、熱伝導性に優れていた。
しかしながら、比較例1は、メソゲン構造とシロキサン構造とを有するエポキシ樹脂を用いた実施例1~9に比べると、弾性率が高くなっていた。
また、メソゲン構造とシロキサン構造とを有するエポキシ樹脂を用いた実施例1~9では、メソゲン構造を有するがシロキサン構造を有さないエポキシ樹脂を用いた比較例1と同程度の優れた熱伝導性が発揮されていた。
【符号の説明】
【0223】
102:エポキシ樹脂組成物の硬化物、104:放熱ベース基板、106:金属板、108:半導体チップ、110:はんだ層、112:モールド樹脂、114:封止材