(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-01
(45)【発行日】2022-08-09
(54)【発明の名称】飲水行動検出方法、センサ装置の位置推定方法、pH推定方法、反芻動物の監視方法、反芻動物の監視装置、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
A01K 29/00 20060101AFI20220802BHJP
【FI】
A01K29/00
(21)【出願番号】P 2018058269
(22)【出願日】2018-03-26
【審査請求日】2021-02-26
(73)【特許権者】
【識別番号】504165591
【氏名又は名称】国立大学法人岩手大学
(73)【特許権者】
【識別番号】500473807
【氏名又は名称】山形東亜DKK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 繁
(72)【発明者】
【氏名】柿▲崎▼ 伸也
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 和紀
(72)【発明者】
【氏名】岸 大輔
【審査官】田辺 義拓
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-144428(JP,A)
【文献】特開2011-103793(JP,A)
【文献】特開2008-011916(JP,A)
【文献】特開2008-092856(JP,A)
【文献】特開2011-045284(JP,A)
【文献】国際公開第2010/147175(WO,A1)
【文献】特表2014-525738(JP,A)
【文献】特開2018-042485(JP,A)
【文献】特表2015-509744(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0142937(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
反芻動物の胃内に留置されたセンサ装置を用いた飲水行動検出方法であって、前記センサ装置は、前記胃内の液体の温度を測定する温度センサと、前記温度センサの温度測定データを無線で送信する送信部とを含み、前記温度測定データは無線受信部によって受信され、前記飲水行動検出方法は、
前記温度測定データに基づいて、単位時間あたりの前記温度の平均値を算出するステップと、
前記平均値および前記温度測定データを用いて、前記平均値からの低下幅が第1の閾値を上回る第1の温度低下と、前記温度低下の後に前記平均値からの前記低下幅が前記第1の閾値より小さい第2の閾値未満となる第1の温度回復とを含む第1の温度変化を検出することにより、前記飲水行動を検出するステップとを備える、飲水行動検出方法。
【請求項2】
前記第1の温度変化が検出されない場合に、前記平均値からの前記低下幅が、前記第1の閾値よりも小さい第3の閾値を上回る第2の温度低下と、前記第2の温度低下の後に前記平均値からの前記低下幅が前記第3の閾値より小さい第4の閾値未満となる第2の温度回復とを含む第2の温度変化を検出することにより、前記飲水行動を検出するステップをさらに備える、請求項1に記載の飲水行動検出方法。
【請求項3】
反芻動物の胃内に留置されたセンサ装置の位置推定方法であって、前記センサ装置は、前記胃内の液体の温度を測定する温度センサと、前記温度センサの温度測定データを無線で送信する送信部とを含み、前記温度測定データは無線受信部によって受信され、前記位置推定方法は、
前記温度測定データに基づいて、単位時間あたりの前記温度の平均値を算出するステップと、
前記平均値および前記温度測定データを用いて、前記平均値からの温度低下および前記温度低下の後の温度回復を含む、前記胃内の温度変化を検出するステップと、
前記温度変化に基づいて前記センサ装置の前記胃内の位置を推定するステップとを備える、センサ装置の位置推定方法。
【請求項4】
前記推定するステップは、
第1の所定の条件を満たす前記温度変化が検出されるかどうかを判定するステップと、
前記第1の所定の条件を満たす前記温度変化が検出された場合に、前記センサ装置が前記反芻動物の第2胃にあると推定するステップとを含み、
前記第1の所定の条件は、
前記温度低下における前記平均値からの低下幅が第1の閾値を上回り、かつ、前記温度回復における前記平均値からの前記低下幅が前記第1の閾値より小さい第2の閾値未満となる、という条件である、請求項3に記載のセンサ装置の位置推定方法。
【請求項5】
前記推定するステップは、
前記第1の所定の条件を満たす前記温度変化が検出されない場合に、第2の所定の条件を満たす前記温度変化が検出されるかどうかを判定するステップと、
前記第2の所定の条件を満たす前記温度変化が検出された場合に、前記センサ装置が前記反芻動物の第1胃にあると推定するステップとを含み、
前記第2の所定の条件は、
前記温度低下における前記平均値からの前記低下幅が、前記第1の閾値よりも小さい第3の閾値を上回り、かつ、前記温度回復における前記平均値からの前記低下幅が、前記第3の閾値より小さい第4の閾値未満となる、という条件である、請求項4に記載のセンサ装置の位置推定方法。
【請求項6】
反芻動物の胃内に留置されたセンサ装置の位置推定方法であって、前記センサ装置は、前記胃内の液体の温度を測定する温度センサと、前記温度センサの温度測定データを無線で送信する送信部とを含み、前記温度測定データは無線受信部によって受信され、前記位置推定方法は、
前記温度測定データに基づいて、単位時間あたりの前記温度の平均値を算出するステップと、
前記平均値および前記温度測定データを用いて、前記平均値からの温度低下および前記温度低下の後の温度回復を含む、前記胃内の温度変化を検出するステップと、
前記検出するステップにおいて、所定の条件を満たす前記温度変化が、所定の検出時間内に予め設定された回数検出されたことによって、前記センサ装置の前記胃内の位置を推定するステップとを備える、センサ装置の位置推定方法。
【請求項7】
前記センサ装置は、前記反芻動物の胃内のpHを測定するpHセンサをさらに含み、
前記pHセンサからpH測定データを取得するステップと、
請求項3から請求項6のいずれか1項に記載のセンサ装置の位置推定方法を実行することにより、前記センサ装置の位置の推定結果を取得するステップと、
前記推定結果に基づいて、
推定された位置における前記センサ装置の前記pH測定データを補正すべきか否かを判定するステップと、
前記pH測定データを補正すべき場合には、前記pH
測定データに関する第1胃と第2胃との間の予め定められた関係に基づいて、前記pH測定データを補正してpH推定値を算出するステップと、
前記pH測定データの補正が不要な場合には、前記pH測定データを前記pH推定値として算出するステップとを備える、pH推定方法。
【請求項8】
反芻動物の監視方法であって、
請求項7に記載のpH推定方法を実行することによって前記pH推定値を得るステップと、
前記pH推定値を監視するステップとを備える、反芻動物の監視方法。
【請求項9】
請求項3に記載のセンサ装置の位置推定方法を実行することによって、前記センサ装置の位置を監視する、反芻動物の監視装置。
【請求項10】
請求項3に記載のセンサ装置の位置推定方法をコンピュータに実行させる、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反芻動物の胃内に設置されたセンサ装置によって反芻動物の飲水行動を検出する方法、そのセンサ装置の位置を推定する方法、そのセンサ装置の測定データに基づいて反芻動物の胃内のpH値を推定する方法、反芻動物の監視方法、反芻動物の監視装置、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、人あるいは動物の体内への設置を目的として小型化された電子機器が提案されている。たとえば特表2015-509744号公報(特許文献1)は、人または人以外の動物の消化管内における出血のインビボ検出のための装置を開示する。この装置は、さらに、装置の現在位置を検知するためのセンサと、装置の現在位置を判定するためのシステムにデータを送信するための送信器とを含む。
【0003】
酪農あるいは畜産において牛(乳牛および肉牛をこのように総称する)の健康状態は生産性や繁殖性に影響を与える大きな要素である。従来から、牛に多量の濃厚飼料を供給することによる、ルーメンアシドーシス、およびルーメンアシドーシスと関連のある各種の代謝病、感染症あるいは蹄病の発生が報告されている。ルーメンアシドーシスとは、ルーメンpH(ルーメン液のpH値)が低下した状態である。ルーメンpHの測定の重要性が広く認識されるとともに、ルーメンpHの測定によるルーメンアシドーシスの制御が重要な課題となっている。
【0004】
一方で、牛の看視あるいは観察には多大な労力が必要である。個々の牛の状態を、少ない労力、低コスト、かつ自動的にセンシングするための技術が求められる。したがって小型のセンサ装置を牛の胃内に留置させて、そのセンサ装置から牛の胃内の環境に関する情報を収集することが検討されている。
【0005】
たとえば非特許文献1では、ルーメン機能に関わるセンシングデータを無線で送信することができる、経口投与型のセンサ端末が開示されている。同様に、非特許文献2は、無線伝送式pHセンサを用いた、乳牛の亜急性第1胃アシドーシスの診断と制御に関する研究結果を開示する。亜急性ルーメンアシドーシス(SARA)は、ルーメンpHが長時間低い状態にある症状である。たとえば非特許文献3は、SARAの判定基準を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【文献】伊藤寿浩、「牛消化器疾病早期摘発のための無線ルーメンセンサ・センサネットワークシステムの開発」、科学研究費助成事業 研究成果報告書 平成27年6月11日、https://kaken.nii.ac.jp/ja/file/KAKENHI-PROJECT-24248044/24248044seika.pdf
【文献】木村 淳、「無線伝送式pHセンサを用いた乳牛の亜急性第一胃アシドーシスの診断と制御に関する研究」、岩獣会報(Iwate Vet.),Vol.39 (No.2),51-56 (2013)
【文献】Shigeru Sato, Aya Ikeda, Yoshiyuki Tsuchida, et al. "Diagnosis of subacute ruminal acidosis (SARA) by continuous reticular pH measurements in cows", Vet Res Commun (2012)36, 201-205
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
牛の飲水行動の検出は、牛の健康状態の管理にとって重要である。牛が長期間にわたり飲水を行わない場合、あるいは逆に、余りにも牛が頻繁に飲水する場合には、健康上、環境上、あるいは設備上の重大な問題が発生していると予想される。非特許文献1によれば、牛の飲水時に牛の胃内のセンサによって、一時的な温度低下が検出できたことを開示する。しかし、牛の胃内の温度は飲水以外の要因でも変動し得る。このため飲水行動をより正確に検出することが求められる。
【0009】
また、非特許文献2に開示されるように第1胃と第2胃とではpH値が異なる。ルーメン内部の状態の正確な診断のためには、胃内のセンサ装置によりpH値を測定するだけでなく、そのセンサ装置の位置をできるだけ正確に推定することも求められる。
【0010】
本発明の目的は、飲水行動の把握、センサを用いて生体情報を測定する際の測定位置の推定、および、そのセンサによるルーメンpH測定を、できるだけ安全、簡便かつ正確に実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のある局面に係る飲水行動検出方法は、反芻動物の胃内に留置されたセンサ装置を用いた飲水行動検出方法である。センサ装置は、胃内の液体の温度を測定する温度センサと、温度センサの温度測定データを無線で送信する送信部とを含む。温度測定データは無線受信部によって受信される。飲水行動検出方法は、温度測定データに基づいて、単位時間あたりの温度の平均値を算出するステップと、平均値および温度測定データを用いて、平均値からの低下幅が第1の閾値を上回る第1の温度低下と、温度低下の後に平均値からの低下幅が第1の閾値より小さい第2の閾値未満となる第1の温度回復とを含む第1の温度変化を検出することにより、飲水行動を検出するステップとを備える。
【0012】
上記の飲水行動検出方法は、第1の温度変化が検出されない場合に、平均値からの低下幅が、第1の閾値よりも小さい第3の閾値を上回る第2の温度低下と、第2の温度低下の後に平均値からの低下幅が第3の閾値より小さい第4の閾値未満となる第2の温度回復とを含む第2の温度変化を検出することにより、飲水行動を検出するステップをさらに備える。
【0013】
本発明のある局面に係るセンサ装置の位置推定方法は、反芻動物の胃内に留置されたセンサ装置の位置推定方法である。センサ装置は、胃内の液体の温度を測定する温度センサと、温度センサの温度測定データを無線で送信する送信部とを含む。温度測定データは無線受信部によって受信される。位置推定方法は、温度測定データに基づいて、単位時間あたりの温度の平均値を算出するステップと、平均値および温度測定データを用いて、平均値からの温度低下および温度低下の後の温度回復を含む、胃内の温度変化を検出するステップと、温度変化に基づいてセンサ装置の胃内の位置を推定するステップとを備える。
【0014】
上記のセンサ装置の位置推定方法において、推定するステップは、第1の所定の条件を満たす温度変化が検出されるかどうかを判定するステップと、第1の所定の条件を満たす温度変化が検出された場合に、センサ装置が反芻動物の第2胃にあると推定するステップとを含む。第1の所定の条件は、温度低下における平均値からの低下幅が第1の閾値を上回り、かつ、温度回復における平均値からの低下幅が第1の閾値より小さい第2の閾値未満となる、という条件である。
【0015】
上記のセンサ装置の位置推定方法において、推定するステップは、第1の所定の条件を満たす温度変化が検出されない場合に、第2の所定の条件を満たす温度変化が検出されるかどうかを判定するステップと、第2の所定の条件を満たす温度変化が検出された場合に、センサ装置が反芻動物の第1胃にあると推定するステップとを含む。第2の所定の条件は、温度低下における平均値からの低下幅が、第1の閾値よりも小さい第3の閾値を上回り、かつ、温度回復における平均値からの低下幅が、第3の閾値より小さい第4の閾値未満となる、という条件である。
【0016】
本発明のある局面に係るセンサ装置の位置推定方法は、反芻動物の胃内に留置されたセンサ装置の位置推定方法である。センサ装置は、胃内の液体の温度を測定する温度センサと、温度センサの温度測定データを無線で送信する送信部とを含む。温度測定データは無線受信部によって受信される。位置推定方法は、温度測定データに基づいて、単位時間あたりの温度の平均値を算出するステップと、平均値および温度測定データを用いて、平均値からの温度低下および温度低下の後の温度回復を含む、胃内の温度変化を検出するステップと、検出するステップにおいて、所定の条件を満たす温度変化が、所定の検出時間内に予め設定された回数検出されたことによって、センサ装置の胃内の位置を推定するステップとを備える。
【0017】
本発明のある局面に係るpH推定方法は、上記のいずれかのセンサ装置の位置推定方法を実行することにより、センサ装置の位置の推定結果を取得するステップと、推定結果に基づいて、pH測定データを補正すべきか否かを判定するステップと、pH測定データを補正すべき場合には、pHに関する第1胃と第2胃との間の予め定められた関係に基づいて、pH測定データを補正してpH推定値を算出するステップと、pH測定データの補正が不要な場合には、pH測定データをpH推定値として算出するステップとを備える。
【0018】
本発明のある局面に係る反芻動物の監視方法は、上記のpH推定方法を実行することによってpH推定値を得るステップと、pH推定値を監視するステップとを備える。
【0019】
本発明のある局面に係る反芻動物の監視装置は、上記のセンサ装置の位置推定方法を実行することによって、センサ装置の位置を監視する。
【0020】
本発明のある局面に係るプログラムは、上記のセンサ装置の位置推定方法をコンピュータに実行させるプログラムである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、飲水行動の把握、センサを用いて生体情報を測定する際の測定位置の推定、および、そのセンサによるルーメンpH測定を、できるだけ安全、簡便かつ正確に実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の一実施形態に係る、監視システムの全体構成を概略的に説明した図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係るセンサ装置の回路構成の一例を示したブロック図である。
【
図3】サーバの典型的なハードウェア構成を説明するためのブロック図である。
【
図4】本発明の実施の形態に係るセンサ装置が投与された牛をその側方から見た図である。
【
図5】
図4に示した牛の胃(複胃)の模式的な断面図である。
【
図6】牛の第1胃および第2胃の各々の内部の温度変化を一胃センサおよび二胃センサによりそれぞれモニタした結果を示す第1の図である。
【
図7】牛の第1胃および第2胃の各々の内部の温度変化を一胃センサおよび二胃センサによりそれぞれモニタした結果を示す第2の図である。
【
図8】胃の内部の温度変化に基づく飲水行動の検出を説明するための図である。
【
図9】本実施の形態に従う飲水行動の検出方法を説明するためのフローチャートである。
【
図10】別の実施の形態に従う飲水行動の検出方法を説明するためのフローチャートである。
【
図11】本実施の形態に係るセンサ装置の牛の胃内の位置を推定する方法を示したフローチャートである。
【
図12】本実施の形態に従うpH推定方法を示したフローチャートである。
【
図13】SARA推定方法のフローを示したフローチャートである。
【
図14】SARA診断方法のフローを示したフローチャートである。
【
図16】日間変動レポート画面の一例を示した図である。
【
図17】日内変動レポート画面の一例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0024】
図1は、本発明の一実施形態に係る、監視システム100の全体構成を概略的に説明した図である。
図1を参照して、本発明の実施の形態に係る監視システム100は、牛1の胃3の内部の状態に関する情報を収集するとともに、その情報に基づいて牛1の健康状態を監視する。牛1は、本発明の実施の形態に係る監視システムの監視の対象となる反芻動物の例である。
図1に示した牛1は乳牛および肉牛のいずれでもよい。
【0025】
監視システム100は、センサ装置2を備える。センサ装置2は牛1の胃3内に留置されて胃3(主に第1胃および第2胃)の内部の状態を検出する。センサ装置2は、牛1の口から投与されることによって、牛1の胃3の内部に留置される。センサ装置2を経口投与するための方法は種々の公知の方法を適用することができるので、ここでは詳細な説明を繰返さない。なお、経口投与に限らず、たとえばセンサ装置2は、ルーメンフィステル(牛のルーメンに外科的に取り付けられた窓)から胃内に投与されてもよい。
【0026】
センサ装置2は、胃3の内部の液体の温度およびpHを測定する。センサ装置2は、温度測定データおよびpH測定データを、そのセンサ装置2に割り当てられた固有番号および測定時刻とともに無線で送信する。監視システム100は、センサ装置2から無線で送られたデータ信号を受信する受信機4(無線受信部)を含む。本実施の形態は、センサ装置2からの単方向通信に限定されない。受信機4に代えて送受信機を適用することにより、送受信機とセンサ装置2との間で双方向の通信が可能であってもよい。この場合、たとえば送受信機は、センサ装置2に設定情報あるいは制御コマンドを送信してもよい。なお、センサ装置2は、胃3の内部の液体の温度を測定するものでもよいし、胃3の内部の液体の温度と、pH、位置姿勢変位(3軸加速度)、ORP/Redox(酸化還元状態)、Conductivity(導電率)、アンモニアイオン、塩化物イオン、亜硝酸イオン、アンモニア、メタン、Dissolved Oxygen(溶残酸素)、VFAs(揮発性脂肪酸)、Lactic Acid(乳酸)、微生物濃度のいずれか一つもしくは任意の組合せの測定対象とを測定するものでもよい。
【0027】
監視システム100は、センサ装置2と受信機4とを最低限の構成要素として運用することが可能である。
図1に示した構成では、監視システム100は、さらに、ネットワーク6と、サーバ8と、情報端末10とを含む。受信機4、サーバ8、および情報端末10は、ネットワーク6に接続される。さらに、監視システム100は、水温センサ11および環境センサ12を備えてもよい。また、監視システムを実現するためのハードウェア構成は、
図1に示すように限定されず、監視システムの少なくとも一部の構成要素を、代替可能な別の構成要素に置き換えてもよい。
【0028】
水温センサ11は、牛1の飲用水13の水温を測定する。水温センサ11は、その測定値を表示してもよい。環境センサ12は、畜舎ごとに設置される。
図1では、畜舎201,202が例示される。特に限定されないが、環境センサ12は、温度、湿度、照度、気圧、騒音、風速、風向等の環境を測定してもよい。環境センサ12は、それらの測定値を表示してもよい。
【0029】
水温センサ11および環境センサ12は、各々の測定値を、無線または有線により受信機4に送信することができる。あるいは、水温センサ11および環境センサ12は、ネットワーク6を経由して各々の測定値を送信してもよい。さらに、それらの測定値は、サーバ8に送信されてもよい。
【0030】
受信機4は、たとえば畜舎ごとに設置されてもよい。受信機4は、センサ装置2、水温センサ11および環境センサ12から送信されたデータを受信する。受信機4は、受信されたデータを蓄積してもよい。受信機4は、受信および蓄積したデータを、ネットワーク6を通じてサーバ8にアップロードする。これにより、サーバ8は、測定データを蓄積する。
【0031】
受信機4は、受信および蓄積したデータを図示しない外部メモリ(たとえばUSBメモリ等)に出力する機能を有してもよい。受信機4は、受信および蓄積されたデータの表示機能を有してもよく、データの編集機能を有してもよい。また、受信機4は、受信および蓄積されたデータを常時監視してもよい。さらに、受信機4は、受信および蓄積したデータを解析して、その解析結果を出力してもよい。出力の方法は特に限定されず、たとえば画面への表示、外部メモリへの出力、電子メールの送信等である。データ解析は定期的に実行されてもよい。受信機4は、データの解析結果に基づいて、警告を外部に出力してもよい。
【0032】
受信機4は、センサ装置2、水温センサ11および環境センサ12の各々に対して、設定に関する情報を送信してもよい。受信機4は、情報端末10等の外部機器による遠隔制御が可能であってもよい。受信機4は、サーバ8に保存された設定情報、あるいは制御プログラム(ファームウェア)をダウンロードすることが可能であってもよい。
【0033】
受信機4は無線の送受信装置とパーソナルコンピュータ等の情報機器との組み合わせにより実現してもよい。また、受信機4に水温センサ11、環境センサ12、およびサーバ8の各機能を含めてもよい。水温センサ11および環境センサ12の各々は複数台設置してもよい。
【0034】
ネットワーク6は、たとえばインターネット等の公共回線であり、受信機4、サーバ8、情報端末10等の各機器を接続するためのものである。公共回線が整備されていない場所などでは有線または無線の専用回線によって各機器間を接続してもよい。さらに、各機器間の接続は、個別に公共回線または専用回線を選択してもよい。
【0035】
サーバ8は、複数の受信機4からネットワーク6を介してアップロードされたデータを蓄積する。サーバ8は、蓄積されたデータに基づいて、センサ装置2が投与された牛1の胃3内の状態を監視するための各種の処理を実行する。
【0036】
情報端末10は、表示機能、通信機能、データ処理機能等の各種の機能を実行するコンピュータである。
図1には、情報端末10として、パーソナルコンピュータ10a、およびスマートフォン10bが例示される。情報端末10は、たとえばサーバ8が公開するデータの取得、閲覧、編集などを実行可能である。さらに情報端末10は、受信機4を遠隔制御してもよい。
【0037】
本発明の実施の形態によれば、牛1に経口投与可能なサイズを有するセンサ装置2を牛1の胃3内に留置する。センサ装置2が胃内の温度およびpHの測定値を無線で送信して、受信機4がセンサ装置2から送信された情報を取得する。したがって本発明の実施の形態によれば、牛1の胃3内の状態をリアルタイムで測定および監視することができる。センサ装置2のサイズは、センサ装置2を牛1が飲み込むことが可能なサイズであるので、センサ装置2を牛1の胃3内に安全に留置することができる。本発明の実施の形態によれば、牛1への影響を少なくしながら、安全、簡便かつ正確に牛1の健康状態を監視することができる。
【0038】
図2は、本発明の実施の形態に係るセンサ装置2の回路構成の一例を示したブロック図である。
図2を参照して、センサ装置2は、センサユニット21と、アンプ回路22と、A/Dコンバータ23と、CPU(Central Processing Unit)24と、無線モジュール25と、アンテナ26とを備える。センサ装置2は、さらに、ROM(Read Only Memory)27と、RAM(Random Access Memory)28と、不揮発性メモリ29と、RTC(Real Time Clock)30と、有線通信インターフェース(I/F)回路31と、電池32と、電源IC(Integrated Circuit)33とをさらに備える。
【0039】
センサユニット21は、牛の胃3の内部の液体のpHを測定するためのpHセンサ35およびその液体の温度を測定するための温度センサ36を含む。各センサによる検出結果(測定結果)はアナログ信号として出力される。
【0040】
アンプ回路22は、センサユニット21から出力されたアナログ信号を増幅する。A/Dコンバータ23は、アンプ回路22から出力されたアナログ信号をデジタル信号に変換する。
【0041】
CPU24は、センサ装置2の動作を統括的に制御するものであり、各部に対して所定の指示を出力する。たとえばCPU24はセンサユニット21の測定結果および不揮発性メモリ29に記憶されるセンサ装置2の固有番号を用い、pH値、温度値、および測定時刻を含む送信データを生成する。ROM27は、CPU24の所定の機能を実現するために用いられるソフトウェアプログラムが格納された記憶領域である。RAM28は、CPU24のワーク領域として用いられる。
【0042】
無線モジュール25およびアンテナ26は、CPU24から送られたデータを無線によって送信する。不揮発性メモリ29は、たとえばセンサ装置2の固有番号、データの送信スケジュール(たとえば送信間隔あるいは送信予定時刻等)等を記憶する。
【0043】
CPU24はRTC30から現在の日時(年月日および時刻)を取得する。センサユニット21の測定データは、CPU24が取得した時刻に関連付けられる。電池32および電源IC33は、センサ装置2の各ブロックに電力を供給する。
【0044】
図3は、サーバ8の典型的なハードウェア構成を説明するためのブロック図である。
図3を参照して、サーバ8は、プログラムを実行するCPU41と、データを不揮発的に格納するROM42と、データを揮発的に格納するRAM43と、データを不揮発的に格納するHDD44と、LED45と、スイッチ46と、通信IF(Interface)47と、電源回路48と、ディスプレイ49と、操作キー50とを含む。各構成要素は、相互にデータバスによって接続されている。
【0045】
サーバ8における処理は、各ハードウェアおよびCPU41により実行されるソフトウェアによって実現される。このようなソフトウェアは、HDD44に予め記憶されている場合がある。ソフトウェアは、その他の記憶媒体に格納されて、プログラムプロダクトとして流通している場合もある。あるいはソフトウェアは、いわゆるインターネットに接続されている情報提供事業者によってダウンロード可能なプログラムプロダクトとして提供される場合もある。このようなソフトウェアは、読取装置によりその記憶媒体から読み取られて、あるいは、通信IF47等を介してダウンロードされた後、HDD44に一旦格納される。そのソフトウェアは、CPU41によってHDD44から読み出され、RAM43に実行可能なプログラムの形式で格納される。CPU41は、そのプログラムを実行する。
【0046】
記録媒体は、当該プログラム等をコンピュータが読取可能な一時的でない媒体である。ここでいうプログラムとは、CPUにより直接実行可能なプログラムだけでなく、ソースプログラム形式のプログラム、圧縮処理されたプログラム、暗号化されたプログラム等を含む。
【0047】
本実施の形態に係る各方法を実行するためのコンピュータは、サーバ8であると限定されず、受信機4あるいは情報端末10であってもよい。受信機4および情報端末10のいずれも、
図3に示した構成を採用することができる。たとえばスマートフォン10bの場合、
図3に示したHDD154に替えてフラッシュメモリを採用してもよい。フラッシュメモリは、プログラムを記憶する記憶媒体として機能することができる。
【0048】
<飲水行動の検出>
図4は、本発明の実施の形態に係るセンサ装置2が投与された牛1をその側方から見た図である。
図5は、
図4に示した牛1の胃3(複胃)の模式的な断面図である。
図4および
図5を参照して、牛は4つの胃を有する。4つの胃の中で最も大きい胃が第1胃(ルーメン)3aである。第2胃3bは、噴門5a(食道5と胃3との境界)の直下に位置する。牛1に経口投与されたセンサ装置2は、たとえば第1胃3aに留置される。
【0049】
牛の飲水行動によって、第1胃3aおよび第2胃3bの各々の内部の温度に変化が生じる。
図6および
図7に、牛の第1胃および第2胃の各々の内部の温度変化を一胃センサおよび二胃センサによりそれぞれモニタした結果を示す。
図6および
図7において、「一胃センサ」とは牛の第1胃の内部の温度を検出するためのセンサであり、「二胃センサ」とは牛の第2胃の内部の温度を検出するためのセンサである。また、
図6および
図7において、「スパイク」とは、単位時間の間隔で区切られた各区間の温度平均値に対して「閾値1」を超える温度低下が発生し、その後に、温度平均値に対する温度の低下幅が「閾値2」を下回るまで温度が回復するという温度変化である。
【0050】
図6および
図7の各々には、温度値の時間変化を示す第1のグラフ、一胃センサにより検出された温度に基づいて検出された、1日あたりのスパイク回数の推移を示す第2のグラフ、二胃センサにより検出された温度に基づいて検出された、1日あたりのスパイク回数の推移を示す第3のグラフが含まれる。
図6の第1のグラフ(7月16日以前)および
図7の第1のグラフを比較すると、一胃センサによって検出された温度変化よりも二胃センサによって検出された温度変化が大きい。
【0051】
牛が飲み込んだ水は、第2胃に直接流入する。したがって二胃センサでは大きな温度変化が検出される。一方、飲水行動により、第1胃の前嚢の温度も低下するものの、第1胃の底部3cでは、飲水行動に伴う温度変化が小さい。このため、一胃センサが第1胃の底部にある状態では、一胃センサによって検出される温度低下のレベルが、二胃センサによって検出される温度低下のレベルよりも小さい。
【0052】
さらに、
図6および
図7の比較から、寒冷期においては、飲水による第2胃の内部の温度の低下幅が大きいことが分かる。これは寒冷期には、飲用水の温度が低いためである。
【0053】
図8は、胃の内部の温度変化に基づく飲水行動の検出を説明するための図である。
図8には、
図6あるいは
図7に示された牛の第2胃内部の1日の温度変化が模式的に示されている。
図8のグラフの縦軸は温度を表し、横軸は1日の時刻を表す。
【0054】
本実施の形態では、牛の胃内温度の低下およびその後の回復によって飲水行動を検出する。しかし牛の胃内の温度は、飲水以外の要因によって、緩やかな速度で変動する。このため、飲水行動に関連する特徴的な温度変化を検出することが必要である。本実施の形態では、牛の胃内の温度の低下および回復が、予め設定された時間間隔(単位時間)内の平均温度に対する温度変化幅と閾値との比較により判定される。単位時間(
図8の例では4時間)内の温度の測定値(
図8中の「(1)温度値(℃)」)から、その単位時間の温度平均値(
図8中の「(2)単位時間の平均値」)を算出する。第1の閾値(
図8中の「(3)閾値1」)および第2の閾値(
図8中の「(4)閾値2」)は、それぞれ温度低下の閾値および温度回復の閾値である。第1の閾値および第2の閾値は、温度平均値に対する低下幅を表す値である。第1の閾値の絶対値よりも第2の閾値の絶対値が小さい。
【0055】
単位時間内の温度測定値の変化において、温度平均値に対する低下幅が第1の閾値を上回る温度低下(
図8中の「(5)閾値1通過」)と、温度平均値からの温度低下幅が第2の閾値を下回る温度上昇((
図8中の「(6)閾値2通過」)との両方があるか否かを検出する。上述の温度低下および温度回復(温度上昇)の1サイクルを、1回の飲水行動として検出する。
図8の例では、0時から4時の間、8時から12時の間、16時から20時の間、および、20時から24時の間に、「(5)閾値1通過」および「(6)閾値2通過」のサイクルが検出される。すなわち
図6および
図7に示したスパイクを検出することにより飲水行動を検出する。
【0056】
図9は、本実施の形態に従う飲水行動の検出方法を説明するためのフローチャートである。このフローチャートに示した処理は、所定のタイミングでコンピュータにより実行される。この方法を実行するコンピュータは、
図1に示すサーバ8、情報端末10および受信機4のいずれであってもよい。以下の説明ではサーバ8がセンサ装置2の温度測定データを蓄積し、その蓄積されたデータに基づいて飲水行動を検出するものとする。なお、以下に説明する各方法も、サーバ8によって実行されるものとする。
【0057】
図9を参照して、処理が開始されると、ステップS1において、サーバ8は、蓄積された温度測定データに基づいて、単位時間あたりの温度の平均値を算出する。ステップS2において、サーバ8は、温度平均値および単位時間内の温度測定データを用いて、温度平均値からの低下幅が第1の閾値を上回る温度低下と、その温度低下の後に、温度低下幅が第2の閾値未満まで回復する温度変化(大きなスパイク)が検出されるかどうかを判定する。大きなスパイクは、センサ装置2が第2胃3bにある際に、飲水行動に起因して検出される温度変化である。一方、センサ装置2が第1胃3aにある際には、飲水行動に起因して検出される温度変化は、小さなスパイクとして検出される。単位時間、第1の閾値および第2の閾値は、サーバ8に予め記憶された値が用いられる。これらの設定値は、サーバ8がユーザからの入力を受け付けることによりサーバ8に記憶される。たとえば
図1に示す水温センサ11、または環境センサ12、またはその両方の測定値に基づいて、サーバ8が第1の閾値および第2の閾値を決定してもよい。また、以下に説明する第3の閾値および第4の閾値も第1および第2の閾値と同様にサーバ8に記憶される。第3の閾値および第4の閾値も、
図1に示す水温センサ11、または、環境センサ12、またはその両方の測定値に基づいて、サーバ8が決定してもよい。
【0058】
上記の温度変化(大きなスパイク)が検出された場合(ステップS2においてYES)、サーバ8は、飲水行動を検出する(ステップS3)。一方、大きなスパイクが検出されない場合(ステップS2においてNO)、ステップS4において、サーバ8は、温度平均値からの低下幅が第3の閾値を上回る温度低下と、その温度低下の後に、温度低下幅が第4の閾値未満まで回復する温度変化(小さなスパイク)が検出されるかどうかを判定する。なお、第3の閾値は、第1の閾値よりも小さく、第4の閾値は第3の閾値よりも小さい。小さなスパイクが検出された場合(ステップS4においてYES)、サーバ8は、飲水行動を検出する(ステップS3)。大きなスパイクが検出された場合には、第1の閾値を上回る温度低下を検出したときを飲水行動の日時とする。小さなスパイクが検出された場合には、第3の閾値を上回る温度低下を検出したときを飲水行動の日時とする。ステップS5において、サーバ8は、検出結果を出力する。一例では、情報端末10あるいは受信機4のディスプレイの画面に、飲水行動の検出を示すメッセージあるいは記号等が表示される。なお、ステップS4の処理は省略されてもよい。
【0059】
飲水行動以外の要因により牛の胃内の温度が変化する場合、その温度変化の速度は、飲水行動による温度変化の速度に比べて緩やかである。したがって温度変化の速度に基づいて飲水行動の有無を検出してもよい。このような実施形態を以下に説明する。
【0060】
図10は、別の実施の形態に従う飲水行動の検出方法を説明するためのフローチャートである。
図9および
図10の比較から理解されるように、
図10に示すフローチャートは、ステップS2に替えてステップS2A,S2Bの処理が実行される点、ステップS4に代えてステップS4Aの処理が実行される点において、
図9に示したフローチャートと異なる。
【0061】
ステップS2Aにおいて、サーバ8は、温度低下時および温度回復時における温度平均値からの低下幅と温度変化の速度とを検出する。ステップS2Bにおいて、サーバ8は、温度平均値からの低下幅または温度変化の速度に基づいて、大きなスパイクが検出されたかどうかを判定する。ステップS2Bにおいて、温度低下の速度、または温度回復の速度、または、両方の速度が、大きなスパイクと判定される所定の条件を満たすかどうかが判定されてもよい。大きなスパイクが検出された場合(ステップS2BにおいてYES)、飲水行動が検出される(ステップS3)。大きなスパイクが検出されない場合(ステップS2BにおいてNO)、ステップS4Aにおいて、サーバ8は、温度平均値からの低下幅または温度変化の速度に基づいて、小さなスパイクが検出されたかどうかを判定する。ステップS2Bと同じく、ステップS4Aにおいて、温度低下の速度、または温度回復の速度、または、両方の速度が、小さなスパイクと判定される所定の条件を満たすかどうかが判定されてもよい。小さなスパイクが検出された場合(ステップS4AにおいてYES)、飲水行動が検出される(ステップS3)。
【0062】
<センサ装置の位置の推定>
図6の第1のグラフにおいて、7月16日頃以後の一胃センサの温度低下幅は二胃センサの温度低下幅とほぼ同じになっている。この結果は、牛の胃の動きによって、一胃センサが第2胃に移動したことを示している。センサ装置が牛の胃内で移動し得るので、胃内の状態を正確に把握するためにはセンサ装置の位置を正確に推定する必要がある。
【0063】
図11は、本実施の形態に係るセンサ装置2の牛の胃内の位置を推定する方法を示したフローチャートである。
図11を参照して、ステップS11において、サーバ8は、飲水行動の検出処理の結果を取得する。すなわち、ステップS11の処理の以前に、
図9あるいは
図10に示されたフローに従う処理が実行される。このフローについては既に説明したので以後の説明は繰り返さない。ステップS11では、さらに、飲水行動の検出処理の結果から、所定の検出時間(たとえば24時間)の間隔で、大きなスパイクの回数および小さなスパイクの回数を集計する。
【0064】
ステップS12において、サーバ8は、スパイクの回数を集計した結果から、大きなスパイク(ステップS2の処理を参照)の回数が第1の設定値以上であるかどうかを判定する。大きなスパイクの回数が第1の設定値以上である場合(ステップS12においてYES)、サーバ8は、小さなスパイク(ステップS4の処理を参照)の回数が第2の設定値以上であるかどうかを判定する(ステップS13)。第2の設定値は、第1の設定値とは独立に設定可能である。小さなスパイクの回数が第2の設定値未満の場合(ステップS13においてNO)、センサ装置2の位置が牛の第2胃3b内であると推定する(ステップS14)。小さなスパイクの回数が第2の設定値以上である場合(ステップS13においてYES)、サーバ8は、センサ装置2が移動中であると推定する(ステップS15)。
【0065】
大きなスパイクの回数が第1の設定値未満である場合(ステップS12においてNO)、ステップS13と同様に、小さなスパイクの回数が第2の設定値以上であるかどうかを判定する(ステップS17)。小さなスパイクの回数が第2の設定値以上の場合(ステップS17においてYES)、センサ装置2が第1胃3a内にあると推定される(ステップS18)。小さなスパイクの回数が第2の設定値未満の場合(ステップS17においてNO)、センサ装置2の位置を推定不可であると判定する(ステップS19)。サーバ8は、上記の各ステップでの推定結果を出力する(ステップS16)。
【0066】
センサ装置2が第1胃3aの内部にある場合でも、たとえば、牛1が大量の水を飲む、あるいは、センサ装置2が第1胃3aの内部で一時的に移動するといったことによって、単発的に大きなスパイクが発生する可能性がある。これらの現象は、センサ装置2の位置の誤推定を生じさせる要因となる。
図11に示すフローでは、所定の検出時間(たとえば24時間)の間隔でスパイク回数を集計して、その時間内に設定回数以上のスパイクが繰り返されたことを判定する。これによってセンサ装置2の位置の誤推定を抑制することができる。
【0067】
図9に示したステップS4の処理が省略される場合、小さいスパイクの検出によるセンサ装置2の位置の推定は省略される。この場合、まず、ステップS11において、サーバ8は、飲水行動の検出処理の結果から、所定の検出時間(たとえば24時間)の間隔で、大きなスパイクの回数を集計する。大きなスパイクの回数が第1の設定値以上である場合(ステップS12においてYES)、センサ装置2の位置が牛の第2胃3b内であると推定する(ステップS14)。大きなスパイクの回数が第1の設定値未満の場合(ステップS12においてNO)、ステップS18の処理およびステップS19の処理のどちらの処理を実行してもよい。すなわち、センサ装置2の位置が牛の第1胃3a内であると推定されてもよく、センサ装置2の位置が推定不可と判定してもよい。
【0068】
<pH値の推定>
反芻動物、特に牛において、胃内のpH値は、SARA(亜急性ルーメンアシドーシス)の診断を行うために必須の情報であり、飼料給与管理等を行うために必要な情報である。牛の正確な診断や適切な管理を行うためには高精度のpH値を把握する必要がある。
【0069】
牛の胃のpHの値は第1胃内と第2胃内とで差があることが知られている。センサ装置2の位置を推定できない場合には、pH値の差が測定結果の誤差になる可能性がある。本実施の形態ではpH測定値と、センサ装置2の位置の推定結果とを用いる。これによりpH値をより正確に推定することができる。
【0070】
図12は、本実施の形態に従うpH推定方法を示したフローチャートである。ステップS21において、サーバ8は、センサ装置2により測定されたpH値、すなわちpH測定値を取得する。ステップS22において、サーバ8は、センサ装置2の位置の推定結果を取得する。センサ装置2の位置の推定結果は、
図11に示すフローチャートを実行することによって取得することができる。
【0071】
ステップS23において、サーバ8は、センサ装置2の位置の推定結果に基づいてpH測定値を補正すべきか否かを判定する。ルーメンpHの正確な推定のために、センサ装置2が第2胃3b内に位置する場合には、センサ装置2のpH測定値を補正する必要がある。サーバ8は、センサ装置2が第2胃に位置するかどうかを判定する。センサ装置2が第1胃3aに位置する場合、センサ装置2のpH測定値はルーメンpHの値に相当する。この場合(ステップS23においてNO)、サーバ8は、センサ装置2のpH測定値を、そのままpH推定値とする。一方、センサ装置2が第2胃3bの内部に位置すると判定された場合(ステップS23においてYES)、サーバ8は、センサ装置2のpH測定値を補正してpH推定値を算出する。
【0072】
センサ装置2のpH測定値をpH0とし、pH推定値をpH1とする。センサ装置2が第1胃3a内にある場合はpH1=pH0である。センサ装置2が第2胃3b内にある場合はpH1=f(pH0)である。fはpH測定値からpH推定値を導き出すための関数であり、pHに関する第1胃3aと第2胃3bとの間の予め定められた関係を定める。関数fは、たとえば事前の実験等によって導き出される。
【0073】
第1胃のpH値のほうが第2胃のpH値よりも約0.7程度低いという測定結果が報告されている(非特許文献2を参照)。この関係を利用すると、ステップS24の処理において、f(pH0)=pH0-0.7と表される関数を用いてpH推定値pH1を算出できる。
【0074】
ステップS26では、サーバ8はステップS24またはステップS25の処理によって算出されたpH推定値を出力する。サーバ8は、pH推定値、および/またはpH測定値とともにセンサ装置2の位置を示す情報を出力してもよい。
【0075】
ステップS24の処理と、ステップS25の処理とを入れ替えてもよい。センサ装置2が第2胃3bの内部に位置すると判定された場合、サーバ8は、センサ装置2のpH測定値をそのままpH推定値としてもよい。センサ装置2が第1胃3aの内部に位置すると判定された場合、サーバ8は、センサ装置2のpH測定値を補正してpH推定値を算出してもよい。たとえばf(pH0)=pH0+0.7と表される関数fを用いてpH測定値を補正することができる。
【0076】
<SARAの推定/診断>
本実施の形態に係るpH推定方法を利用して、SARAを推定する、あるいはSARAを診断することができる。
図13は、SARA推定方法のフローを示したフローチャートである。
図13を参照して、ステップS31において、サーバ8は、pH推定値を取得する。pH推定値は
図12に示したpH推定方法によって算出される。ステップS32において、サーバ8は、pH推定値が所定値以下になる1日あたりの時間を算出する。そして、サーバ8は、その算出された時間が、1日あたりの所定時間以上であるかどうかを判定する。たとえばpH値がおおよそ5.6以下となる1日当たりの時間が算出される。その算出された時間が、1日のうち3時間以上の継続した時間であるかどうかが判定される。
【0077】
pH推定値が所定値以下になる1日あたりの時間が所定時間以上である場合(ステップS32においてYES)、ステップS33において、サーバ8は、SARAを推定する。ステップS34において、サーバ8は、SARAの可能性があることを表す警告を出力する。たとえばサーバ8は、警告を表す文字あるいは記号等を画面上に表示させてもよい。あるいはサーバ8は、電子メールの形態により警告を出力してもよい。pH推定値が所定値以下になる1日あたりの時間が所定時間未満である場合(ステップS32においてNO)、警告が出力されることなく処理が終了する。
【0078】
pH推定値に基づいてSARAを診断してもよい。
図14は、SARA診断方法のフローを示したフローチャートである。
図14に示すフローは基本的には
図13に示したフローと同じであり、ステップS33,S34の処理に替えてステップS33A,S34Aの処理が実行される。ステップS33Aでは、サーバ8は、SARAを診断する。ステップS34Aでは、サーバ8は、診断結果を出力する。
【0079】
上記のフローでは、SARAの推定およびSARAの診断は、pH推定値が所定値以下になる1日当たりの時間(累積時間)に基づく。しかし、pH推定値が所定値以下になる状態の継続する時間(継続時間)に基づいて、SARAの推定およびSARAの診断を実行してもよい。また、pH測定値、センサ装置の位置推定結果、および推定位置ごとの所定の条件に基づいてSARAの推定およびSARAの診断を実行してもよい。
【0080】
<アプリケーション>
上述の飲水行動検出方法、センサ位置推定方法、pH推定方法、SARA推定方法、およびSARA診断方法の各々は、コンピュータのCPUがアプリケーションプログラム(ソフトウェア)を実行することにより実行される。この場合、コンピュータは、プログラムを実行することによって、本実施の形態に係る反芻動物の監視装置を実現する。反芻動物の監視装置は、上述の飲水行動検出方法、センサ位置推定方法、pH推定方法、SARA推定方法、およびSARA診断方法を実行する。したがって、反芻動物の監視装置は、飲水行動検出装置、センサ位置推定装置、pH推定装置、SARA推定装置、およびSARA診断装置の各々であるともいえる。
【0081】
アプリケーションプログラムの実行時に、CPUは、上記方法の実行に相当する各種の情報をディスプレイに表示する。以下に表示される画面の一例を示す。
【0082】
図15は、設定画面の一例を示した図である。
図15に示すように、設定画面51は、飲水行動の判定基準を入力するための入力部52を含む。入力部52は、温度平均化の時間間隔、温度低下の閾値(第1の閾値)、温度回復の閾値(第2の閾値)、および、飲水による温度低下から位置を推定する温度低下の回数の各々の入力値をユーザから受付けるための部分である。入力部に入力された値は、コンピュータの記憶部(たとえばハードディスク)に記憶され、上述の方法の実行時に記憶部から読み出される。
【0083】
図15に示した画面例では、pH値および温度値の測定結果の時間推移を示すグラフが表示される。なお、
図15には、温度低下の回数(
図11のステップS12の処理における「第1の設定値」に相当)の例として「2回/日」と示されている。飲水行動を検出するための温度低下の回数は、1回であってもよく、3回以上であってもよい。
【0084】
本発明の実施の形態によれば、センサ装置2が投与された牛の状態の変動を、1日単位、あるいは1日未満の所定時間単位で表示することができる。
図16は、日間変動レポート画面の一例を示した図である。
図16には、センサ装置2が投与された牛の状態の変動を示す日間変動レポート画面61が例示される。個体識別コードによって、どの牛の状態の変動を示すレポートであるかを特定することができる。
【0085】
日間変動レポート画面61では、温度、pH値等の情報の1日単位での変動が表示される。日間変動レポート画面61は、センサ装置2が牛の第2胃内にあると推定される期間を表す期間表示部62および、その期間表示部62を説明するための推定位置項目63を含む。
【0086】
図17は、日内変動レポート画面の一例を示した図である。
図16および
図17には、同じ牛(個体識別コード)の状態を表示したレポート画面である。
図17に示すように、日内変動レポート画面71は、温度値の変動を表示する温度推移表示部72を含む。温度推移表示部72は、本実施の形態に係る飲水行動検出方法によって飲水行動が検出された時刻を、記号により表示する。さらに、当該記号が飲水行動の検出を意味する記号であることを説明するための飲水行動項目73が表示される。さらに日内変動レポート画面71は、日間変動レポート画面61と同様に、センサ装置2が牛の第2胃内にあると推定される期間を表す期間表示部74および、その期間表示部74を説明するための推定位置項目75を含む。さらに飲水行動の回数を、日間変動レポート画面61、または日内変動レポート画面71、またはその両方に表示してもよい。
【0087】
上記の実施の形態では、牛を対象とした。一般に反芻動物は複数の胃を有する。したがって、牛に限定されない反芻動物を対象として、本発明の実施形態を適用できる。センサ装置2の大きさは、その対象となる反芻動物の種類に応じて適切に定めることができる。
【0088】
本発明の実施の形態について説明したが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0089】
1 牛、2 センサ装置、3 胃、3a 第1胃、3b 第2胃、3c 底部、4 受信機、5 食道、5a 噴門、6 ネットワーク、8 サーバ、10 情報端末、10a パーソナルコンピュータ、10b スマートフォン、11 水温センサ、12 環境センサ、13 飲用水、21 センサユニット、22 アンプ回路、23 A/Dコンバータ、24,41 CPU、25 無線モジュール、26 アンテナ、27,42 ROM、28,43 RAM、29 不揮発性メモリ、30 RTC、31 有線通信インターフェース回路、32 電池、33 電源IC、35 pHセンサ、36 温度センサ、44 HDD、46 スイッチ、47 通信IF、48 電源回路、49 ディスプレイ、50 操作キー、51 設定画面、52 入力部、61 日間変動レポート画面、62,74 期間表示部、63,75 推定位置項目、71 日内変動レポート画面、72 温度推移表示部、73 飲水行動項目、100 監視システム、201,202 畜舎、S1~S5,S2A,S2B,S4A,S11~S19,S21~S26,S31~S34,S33A,S34A ステップ。