(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-01
(45)【発行日】2022-08-09
(54)【発明の名称】ポリテトラフルオロエチレン水性分散液
(51)【国際特許分類】
C08L 27/18 20060101AFI20220802BHJP
C08K 5/095 20060101ALI20220802BHJP
C08L 71/00 20060101ALI20220802BHJP
C08L 91/00 20060101ALI20220802BHJP
【FI】
C08L27/18
C08K5/095
C08L71/00 Z
C08L91/00
(21)【出願番号】P 2019514496
(86)(22)【出願日】2018-04-23
(86)【国際出願番号】 JP2018016476
(87)【国際公開番号】W WO2018199034
(87)【国際公開日】2018-11-01
【審査請求日】2021-03-12
(31)【優先権主張番号】P 2017090702
(32)【優先日】2017-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】515110409
【氏名又は名称】エージーシー ケミカルズ ヨーロッパ リミテッド
【氏名又は名称原語表記】AGC Chemicals Europe, Limited
【住所又は居所原語表記】PO Box 4, Thornton-Cleveleys, Lancashire, FY5 4QD, UNITED KINGDOM
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼澤 政博
(72)【発明者】
【氏名】モルゴヴァン-エネ アリアナ クラウディア
(72)【発明者】
【氏名】ウェイド アントニー ユージン
(72)【発明者】
【氏名】ケイン ダイアン
【審査官】工藤 友紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-161616(JP,A)
【文献】国際公開第2015/098867(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/203727(WO,A1)
【文献】特表2007-501332(JP,A)
【文献】特開平10-287837(JP,A)
【文献】国際公開第2018/097141(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 27/18
C08K 5/095
C08L 71/00
C08L 91/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均一次粒子径が0.1~0.5μmのポリテトラフルオロエチレン粒子を15~70質量%、
炭素数4~7でエーテル性酸素原子
の1~4個を有する含フッ素カルボン酸およびその塩からなる群から選ばれる含フッ素乳化剤を、前記ポリテトラフルオロエチレン粒子の質量に対して0.1~20,000ppm、
下式(1)で表される非イオン性界面活性剤を、前記ポリテトラフルオロエチレン粒子の100質量部に対して1~20質量部、
ポリシロキサン鎖およびポリエーテル鎖を有し、前記ポリエーテル鎖がポリオキシプロピレン基のみからなるポリエーテルポリシロキサンコポリマーを、前記ポリテトラフルオロエチレン粒子の100質量部に対して0.004~0.040質量部、
ミネラルオイルを、前記ポリテトラフルオロエチレン粒子の100質量部に対して0.001~0.010質量部、
下式(2)で表される化合物を、前記ポリテトラフルオロエチレン粒子の100質量部に対して0.005~0.050質量部、
および水を含有することを特徴とするポリテトラフルオロエチレン水性分散液。
R
1-O-A-H ・・・(1)
[式中、R
1は炭素数8~18のアルキル基であり、Aはオキシエチレン基の平均繰り返し数5~20およびオキシプロピレン基の平均繰り返し数0~2より構成されるポリオキシアルキレン鎖である。]
【化1】
[式中、R
2
は、炭素数2~4のアルキル基を示し、R
3
は炭素数1~12のアルキル基を示し、nは1または2であり、m
1
、m
2
はそれぞれ独立にオキシエチレン基の平均繰り返し数を表し、m
1
とm
2
の合計が2~35である。]
【請求項2】
前記式(1)において、R
1の炭素数が10~16であり、Aがオキシエチレン基の平均繰り返し数7~12およびオキシプロピレン基の平均繰り返し数0~2より構成されるポリオキシアルキレン鎖である、請求項
1に記載のポリテトラフルオロエチレン水性分散液。
【請求項3】
前記式(1)で表される非イオン性界面活性剤を、前記ポリテトラフルオロエチレン粒子の100質量部に対して1~20質量部含有する、請求項1
または2に記載のポリテトラフルオロエチレン水性分散液。
【請求項4】
前記ポリテトラフルオロエチレン粒子が、非溶融成形性のポリテトラフルオロエチレンの粒子である、請求項1~
3のいずれか一項に記載のポリテトラフルオロエチレン水性分散液。
【請求項5】
前記非溶融成形性のポリテトラフルオロエチレンの粒子が、テトラフルオロエチレンと共重合性のコモノマーとのコポリマーである変性ポリテトラフルオロエチレンの粒子である、請求項
4に記載のポリテトラフルオロエチレン水性分散液。
【請求項6】
前記コモノマーが、パーフルオロアルキル部分の炭素数が8以下の(パーフルオロアルキル)エチレンである、請求項
5に記載のポリテトラフルオロエチレン水性分散液。
【請求項7】
前記ポリテトラフルオロエチレン粒子が、全構成単位に対するコモノマーに基づく構成単位の含有量が0.5質量%以下の変性ポリテトラフルオロエチレンの粒子である、請求項
4~
6のいずれか一項に記載のポリテトラフルオロエチレン水性分散液。
【請求項8】
前記ポリエーテルポリシロキサンコポリマーが、下式(3)~(5)で表される化合物から選ばれる1種以上である、請求項1~
7のいずれか一項に記載のポリテトラフルオロエチレン水性分散液。
【化2】
[式中、R
4は水素原子または炭素数1~12のアルキル基を示し、a、b、cはそれぞれ平均繰り返し数を表し、aは0~2、bは1~3、cは16~60である。]
【化3】
[式中、R
4は水素原子または炭素数1~12のアルキル基を示し、d、e、fはそれぞれ平均繰り返し数を表し、dは1~3、eとfの合計は16~50である。]
【化4】
[式中、R
4は水素原子または炭素数1~12のアルキル基を示し、g、hはそれぞれ平均繰り返し数を表し、gは1~3、hは16~60である。]
【請求項9】
前記ポリエーテルポリシロキサンコポリマーを、前記ポリテトラフルオロエチレン粒子の100質量部に対して0.005~0.040質量部含有する、請求項1~
8のいずれか一項に記載のポリテトラフルオロエチレン水性分散液。
【請求項10】
23℃における粘度が3~300mPa・sである、請求項1~
9のいずれか一項に記載のポリテトラフルオロエチレン水性分散液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEという。)水性分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的にPTFEは、水性媒体中で乳化剤を用いてテトラフルオロエチレン(以下、TFEという。)を重合する乳化重合法により製造される。乳化重合法によれば、PTFE粒子が水性媒体中に分散した水性乳化液が得られる。該水性乳化液は粘度が低く不安定で凝集物を生じやすい。
特許文献1には、該水性乳化液に、分散剤として非イオン性界面活性剤を添加して安定化し、必要に応じて濃縮して、機械的安定性が良好なPTFE水性分散液とする方法が記載されている。
かかるPTFE水性分散液は、例えば水性分散液の形態で基材に含浸、コーティングまたはスクリーン印刷する方法に用いられる。さらに増粘剤や表面改質剤を添加して高粘度とした塗料の形態で、比較的厚い塗膜の形成に用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者等の知見によれば、特許文献1に記載の方法で得られるPTFE水性分散液は、粘度が低いにもかかわらず機械的安定性は良好であるが、撹拌等のせん断力を受けたときの泡立ちが問題となる場合があり、改善が求められる。
本発明は、機械的安定性に優れるとともに、泡立ち難いPTFE水性分散液の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の[1]~[13]に記載の構成を有するPTFE水性分散液を提供する。
[1] 平均一次粒子径が0.1~0.5μmのポリテトラフルオロエチレン粒子を15~70質量%、
炭素数4~7でエーテル性酸素原子を有してもよい含フッ素カルボン酸およびその塩からなる群から選ばれる含フッ素乳化剤を、前記ポリテトラフルオロエチレン粒子の質量に対して0.1~20,000ppm、
下式(1)で表される非イオン性界面活性剤を、前記ポリテトラフルオロエチレン粒子の100質量部に対して1~20質量部、
ポリシロキサン鎖およびポリエーテル鎖を有し、前記ポリエーテル鎖がポリオキシプロピレン基のみからなるポリエーテルポリシロキサンコポリマーを、前記ポリテトラフルオロエチレン粒子の100質量部に対して0.004~0.040質量部、および水を含有することを特徴とするポリテトラフルオロエチレン水性分散液。
R1-O-A-H ・・・(1)
[式中、R1は炭素数8~18のアルキル基であり、Aはオキシエチレン基の平均繰り返し数5~20およびオキシプロピレン基の平均繰り返し数0~2より構成されるポリオキシアルキレン鎖である。]
【0006】
[2] ミネラルオイルを、前記ポリテトラフルオロエチレン粒子の100質量部に対して0.001~0.010質量部含有する、[1]のポリテトラフルオロエチレン水性分散液。
[3] 下式(2)で表される化合物を、前記ポリテトラフルオロエチレン粒子の100質量部に対して0.005~0.050質量部含有する、[1]または[2]のポリテトラフルオロエチレン水性分散液。
【化1】
[式中、R
2は、炭素数2~4のアルキル基を示し、R
3は炭素数1~12のアルキル基を示し、nは1または2であり、m
1、m
2はそれぞれ独立にオキシエチレン基の平均繰り返し数を表し、m
1とm
2の合計が2~35である。]
【0007】
[4] 前記含フッ素乳化剤が、炭素数4~7で、エーテル性酸素原子の1~4個を有する含フッ素カルボン酸およびその塩からなる群から選ばれる含フッ素乳化剤である、[1]~[3]のいずれかのポリテトラフルオロエチレン水性分散液。
[5] 前記式(1)において、R1の炭素数が10~16であり、Aがオキシエチレン基の平均繰り返し数7~12およびオキシプロピレン基の平均繰り返し数0~2より構成されるポリオキシアルキレン鎖である、[1]~[4]のいずれかのポリテトラフルオロエチレン水性分散液。
[6] 前記式(1)で表される非イオン性界面活性剤を、前記ポリテトラフルオロエチレン粒子の100質量部に対して1~20質量部含有する、[1]~[5]のいずれかのポリテトラフルオロエチレン水性分散液。
【0008】
[7] 前記ポリテトラフルオロエチレン粒子が、非溶融成形性のポリテトラフルオロエチレンの粒子である、[1]~[6]のいずれかのポリテトラフルオロエチレン水性分散液。
[8] 前記非溶融成形性のポリテトラフルオロエチレンの粒子が、テトラフルオロエチレンと共重合性のコモノマーとのコポリマーである変性ポリテトラフルオロエチレンの粒子である、[7]のポリテトラフルオロエチレン水性分散液。
[9] 前記コモノマーが、パーフルオロアルキル部分の炭素数が8以下の(パーフルオロアルキル)エチレンである、[8]のポリテトラフルオロエチレン水性分散液。
[10] 前記ポリテトラフルオロエチレン粒子が、全構成単位に対するコモノマーに基づく構成単位の含有量が0.5質量%以下の変性ポリテトラフルオロエチレンの粒子である、[7]~[9]のいずれかのポリテトラフルオロエチレン水性分散液。
【0009】
[11] 前記ポリエーテルポリシロキサンコポリマーが、下式(3)~(5)で表される化合物から選ばれる1種以上である、[1]~[10]のいずれかのポリテトラフルオロエチレン水性分散液。
【化2】
[式中、R
4は水素原子または炭素数1~12のアルキル基を示し、a、b、cはそれぞれ平均繰り返し数を表し、aは0~2、bは1~3、cは16~60である。]
【化3】
[式中、R
4は水素原子または炭素数1~12のアルキル基を示し、d、e、fはそれぞれ平均繰り返し数を表し、dは1~3、eとfの合計は16~50である。]
【化4】
[式中、R
4は水素原子または炭素数1~12のアルキル基を示し、g、hはそれぞれ平均繰り返し数を表し、gは1~3、hは16~60である。]
【0010】
[12] 前記ポリエーテルポリシロキサンコポリマーを、前記ポリテトラフルオロエチレン粒子の100質量部に対して0.005~0.040質量部含有する、[1]~[11]のいずれかのポリテトラフルオロエチレン水性分散液。
[13] 23℃における粘度が3~300mPa・sである、[1]~[12]のいずれかのポリテトラフルオロエチレン水性分散液。
【発明の効果】
【0011】
本発明のPTFE水性分散液は、機械的安定性に優れるとともに、泡立ち難い特性を有する。本発明において泡立ち難いとは、泡立たない、または泡立ちが生じても速やかに泡が消滅することを意味する。以下、泡立ち難いことを低起泡性ともいう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】機械的安定性および低起泡性の評価に用いた撹拌翼を示したもので、(a)は上方から見た平面図、(b)は側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下の用語は、以下の意味を有する。
「平均一次粒子径」は、PTFE水性分散液中のPTFE粒子の粒子径をレーザー散乱法粒子径分布分析計により測定した体積基準のメジアン径を意味する。
「標準比重(以下、SSGともいう。)」は、PTFEの分子量の指標であり、この値が大きいほど分子量が小さいことを意味する。測定はASTM D1457-91a、D4895-91aに準拠して行う。
PTFE水性分散液の粘度は、ブルックフィールド型粘度計で、No.1スピンドルを用い、回転数60rpm、温度23℃で測定した値である。
含有量の単位である「ppm」は質量基準である。
「変性PTFE」とは、溶融成形性を与えない程度に、TFEにコモノマーを共重合したTFE重合体を意味する。
「非溶融成形性」とは、溶融成形可能ではないこと、つまり溶融流動性を示さないことを意味する。具体的には、ASTM D3307に準拠し、測定温度372℃、荷重49Nで測定されるメルトフローレートが0.5g/10分未満であることを意味する。
【0014】
<PTFE粒子>
本発明において、PTFE粒子は、非溶融成形性のTFE重合体の粒子であり、TFE単独重合体の粒子と変性PTFEの粒子の両方を含む意味を有する。
【0015】
変性PTFEの製造に用いられるコモノマーとしては、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)、クロロトリフルオロエチレン、(パーフルオロアルキル)エチレン、フッ化ビニリデン、パーフルオロ(アルケニルビニルエーテル)、パーフルオロ(2,2-ジメチル-1,3-ジオキソール)、パーフルオロ(4-アルキル-1,3-ジオキソール)等が挙げられる。コモノマーは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
コモノマーとしては、パーフルオロアルキル部分の炭素数が8以下の(パーフルオロアルキル)エチレンが好ましく、パーフルオロアルキル部分の炭素数が2~6の(パーフルオロアルキル)エチレンがより好ましい。特に、(パーフルオロエチル)エチレン、(パーフルオロブチル)エチレンおよび(パーフルオロヘキシル)エチレンからなる群から選ばれる(パーフルオロアルキル)エチレンが好ましい。
変性PTFEにおけるコモノマーに基づく構成単位の含有量は、全構成単位に対して、好ましくは0.5質量%以下であり、より好ましくは0.4質量%以下である。
変性PTFEの製造において、TFEとコモノマーとの共重合反応において消費されるTFEとコモノマーの合計量は、生成する変性PTFEの量とほぼ等しい。
【0016】
PTFE粒子の平均一次粒子径は0.1~0.5μmであり、0.18~0.45μmが好ましく、0.20~0.35μmが特に好ましい。該平均一次粒子径が0.1μmよりも小さいとコーティング層にクラックが発生する場合があり、0.5μmより大きいとPTFE水性分散液中でPTFE粒子の沈降が速すぎ、保存安定性の点で好ましくない。
【0017】
PTFEの標準比重(SSG)は、2.14以上、2.22未満が好ましく、2.15~2.21がより好ましい。SSGが上記の範囲内であると、最終製品におけるPTFEの良好な機械的特性が得られやすい。
【0018】
PTFE水性分散液中のPTFE粒子の含有量は15~70質量%であり、18~70質量%が好ましく、20~70質量%がより好ましい。
PTFE粒子の含有量が15質量%未満であると、PTFE水性分散液の粘度が低すぎてPTFE粒子が沈降しやすく保存安定性が低い。また、PTFE粒子の含有量が70質量%よりも大きいと流動性が不十分で、次工程での取扱い性が良くない。例えば次工程が含浸工程である場合は浸透が不充分となりやすく、混合工程である場合は分散性が低下しやすい。
【0019】
<含フッ素乳化剤>
PTFE水性分散液には、炭素数が4~7であり、エーテル性酸素原子を有してもよい含フッ素カルボン酸およびその塩からなる群から選ばれる含フッ素乳化剤が含まれる。ここで、炭素数とは、一分子中の全炭素数を意味する。PTFE水性分散液には、2種以上の含フッ素乳化剤が含まれていてもよい。
該含フッ素乳化剤の一部または全部は、乳化重合法によりPTFEを製造する工程で用いられた乳化剤である。
該含フッ素乳化剤としては、炭素数が4~7であり、エーテル性酸素原子を有する含フッ素カルボン酸およびその塩からなる群から選ばれる含フッ素乳化剤が好ましい。
該エーテル性酸素原子を有する含フッ素カルボン酸は、炭素数が4~7で主鎖の炭素鎖の途中にエーテル性酸素原子を有し、末端に-COOHを有する化合物である。末端の-COOHは塩を形成していてもよい。主鎖の途中に存在するエーテル性酸素原子は1個以上であり、1~4個が好ましく、1または2個がより好ましい。炭素数は5~7が好ましい。
【0020】
該含フッ素カルボン酸の好ましい具体例としては、C2F5OCF2CF2OCF2COOH、C3F7OCF2CF2OCF2COOH、CF3OCF2OCF2OCF2OCF2COOH、CF3O(CF2CF2O)2CF2COOH、CF3CF2O(CF2)4COOH、CF3CFHO(CF2)4COOH、CF3OCF(CF3)CF2OCF(CF3)COOH、CF3O(CF2)3OCF(CF3)COOH、CF3O(CF2)3OCHFCF2COOH、C4F9OCF(CF3)COOH、C4F9OCF2CF2COOH、CF3O(CF2)3OCF2COOH、CF3O(CF2)3OCHFCOOH、CF3OCF2OCF2OCF2COOH、C4F9OCF2COOH、C3F7OCF2CF2COOH、C3F7OCHFCF2COOH、C3F7OCF(CF3)COOH、CF3CFHO(CF2)3COOH、CF3OCF2CF2OCF2COOH、C2F5OCF2CF2COOH、C3F7OCHFCOOH、CF3OCF2CF2COOH、CF3(CF2)4COOH、C5F11COOH、C6F13COOHが挙げられる。
より好ましい具体例としては、C2F5OCF2CF2OCF2COOH、CF3O(CF2)3OCF2COOH、CF3OCF(CF3)CF2OCF(CF3)COOH、CF3O(CF2)3OCF2CF2COOH、CF3O(CF2)3OCHFCF2COOH、C4F9OCF(CF3)COOH、C3F7OCF(CF3)COOHが挙げられる。
上記含フッ素カルボン酸の塩としては、Li塩、Na塩、K塩、NH4塩などが挙げられる。
さらに好ましい含フッ素乳化剤は、上記含フッ素カルボン酸のNH4塩(アンモニウム塩)である。アンモニウム塩であると水性媒体中への溶解性に優れるとともに、金属イオン成分がPTFEに不純物として残留するおそれがない。
C2F5OCF2CF2OCF2COONH4(以下、EEAという。)が特に好ましい。
【0021】
PTFE水性分散液中の前記含フッ素乳化剤の含有量は、PTFE粒子の質量に対して0.1~20,000ppmであり、0.1~10,000ppmが好ましく、0.1~1,000ppmがより好ましく、0.1~100ppmがさらに好ましく、0.1~50ppmが特に好ましく、0.1~10ppmが最も好ましい。
該含フッ素乳化剤の含有量が上記範囲の上限値以下であると、PTFE水性分散液の流動性が良好で次工程での取扱い性が良い。上記範囲の下限値以上であるとPTFE粒子の良好な分散性が得られる。泡立ちが生じ難い点では該含フッ素乳化剤の含有量は少ない方が好ましい。
【0022】
<非イオン性界面活性剤>
本発明において、PTFE水性分散液は、下式(1)で表される非イオン性界面活性剤を含む。非イオン性界面活性剤はPTFE水性分散液の分散安定性に寄与する。
R1-O-A-H ・・・(1)
式(1)において、R1は炭素数8~18のアルキル基である。R1の炭素数は10~16が好ましく、12~16がより好ましい。R1の炭素数が18以下であるとPTFE水性分散液の良好な分散安定性が得られやすい。またR1の炭素数が18を超えると流動温度が高いため取扱い難い。R1の炭素数が8より小さいとPTFE水性分散液の表面張力が高くなり、浸透性やぬれ性が低下しやすい。
Aはオキシエチレン基の平均繰り返し数5~20およびオキシプロピレン基の平均繰り返し数0~2からなるポリオキシアルキレン鎖であり、親水基である。オキシプロピレン基の平均繰り返し数が0超の場合、Aにおけるオキシエチレン基とオキシプロピレン基はブロック状に配列しても、ランダム状に配列してもよい。
PTFE水性分散液の粘度および安定性の点からは、オキシエチレン基の平均繰り返し数7~12およびオキシプロピレン基の平均繰り返し数0~2より構成されるポリオキシアルキレン鎖が好ましい。特にAがオキシプロピレン基を平均して0.5~1.5有すると低起泡性が良好であり好ましい。
【0023】
式(1)において、R1の炭素数が10~16であり、Aがオキシエチレン基の平均繰り返し数7~12およびオキシプロピレン基の平均繰り返し数0~2より構成されるポリオキシアルキレン鎖である非イオン性界面活性剤(1a)が好ましい。
非イオン性界面活性剤(1a)の市販品としては、ダウケミカル社製タージトール(登録商標)TMN100X、ダウケミカル社製タージトール(登録商標)15Sシリーズ、ライオン社製ライオノール(登録商標)TDシリーズなどが挙げられる。
非イオン性界面活性剤の具体例としては、C13H27-O-(C2H4O)10-H、C12H25-O-(C2H4O)10-H、C10H21CH(CH3)CH2-O-(C2H4O)9-H、C13H27-O-(C2H4O)9-(CH2CH(CH3)O)-H、C16H33-O-(C2H4O)10-H、HC(C5H11)(C7H15)-O-(C2H4O)9-H等が挙げられる。
【0024】
PTFE水性分散液中の非イオン性界面活性剤の含有量は、PTFE粒子の100質量部に対して1~20質量部であり、2~15質量部が好ましく、2~10質量部がより好ましく、3~10質量部がさらに好ましく、5~10質量部が特に好ましく、5~8質量部が最も好ましい。
非イオン性界面活性剤の含有量が上記範囲の下限値以上であると、PTFE水性分散液の良好な分散安定性が得られる。また良好なぬれ性も得られやすい。上限値以下であると、コーティング層に欠陥が生じ難い。また最終製品において良好な耐久性が得られやすい。
【0025】
<ポリエーテルポリシロキサンコポリマー>
PTFE水性分散液は、ポリシロキサン鎖およびポリエーテル鎖を有し、該ポリエーテル鎖がポリオキシプロピレン基のみからなるポリエーテルポリシロキサンコポリマーを含む。ポリシロキサン鎖は直鎖でもよく、分岐鎖でもよい。直鎖が好ましい。
ポリエーテルポリシロキサンコポリマーとしては、例えば下式(3)~(5)で表される化合物が挙げられる。ポリエーテルポリシロキサンコポリマーは1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0026】
【0027】
式(3)においてR4は水素原子または炭素数1~12のアルキル基である。a、b、cはそれぞれ平均繰り返し数を表し、aは0~2、bは1~3、cは16~60である。
R4は好ましくは水素原子または炭素数1~3のアルキル基であり、水素原子またはメチル基がより好ましい。aは好ましくは0~1、bは好ましくは1~2、cは好ましくは16~50である。
a+bは1~5が好ましく、1~3がより好ましい。
【0028】
【0029】
式(4)おいてR4は、好ましい態様も含めて式(3)のR4と同じである。d、e、fはそれぞれ平均繰り返し数を表し、dは1~3、eとfの合計は16~50である。
dは好ましくは1~2、eとfの合計は好ましくは16~40であり、16~32がより好ましい。
【0030】
【0031】
式(5)おいてR4は、好ましい態様も含めて式(3)のR4と同じである。g、hはそれぞれ平均繰り返し数を表し、gは1~3、hは16~60である。
gは好ましくは1~2、hは好ましくは16~40である。
【0032】
ポリエーテルポリシロキサンコポリマーが、上式(4)で表され、R4が水素原子またはメチル基であり、dが1~2、eとfの合計が16~40である化合物(4a)を含むことが好ましい。ポリエーテルポリシロキサンコポリマーの総質量に対して、化合物(4a)が30~100質量%であることが好ましく、50~100質量%であることがより好ましい。
PTFE水性分散液中のポリエーテルポリシロキサンコポリマーの含有量は、PTFE粒子の100質量部に対して0.004~0.040質量部であり、0.005~0.0040質量部が好ましく、0.006~0.040質量部がより好ましく、0.006~0.03質量部がさらに好ましく、0.008~0.020質量部が特に好ましい。
ポリエーテルポリシロキサンコポリマーの含有量が上記範囲の下限値以上であると泡立ち難さにより優れ、上記範囲の上限値以下であると機械的安定性により優れる。
【0033】
<ミネラルオイル>
PTFE水性分散液は、ミネラルオイルを含んでもよい。本明細書において、ミネラルオイルは、石油、天然ガス、石炭及びこれらの均等物から選ばれる炭素質源に由来する炭化水素油を意味する。その例としては、パラフィン系オイルと、ナフテン系オイルがある。パラフィン系オイルが好ましく、炭素数は12~50、分子量は170~700の範囲がより好ましい。さらに好ましくは炭素数が15~35、分子量が200~500である。炭素数が15~50、平均分子量が200~700、動粘度が4~70mm2/S(40℃)、密度が0.80~0.89g/mL、引火点が100~300℃のパラフィン系オイルが商業的に入手可能である。
これらのパラフィン系オイルの具体例としては以下のものが挙げられる。
MORESCO社製、流動パラフィン、商品名:モレスコホワイト、型番:P-40(平均分子量230),P-55(平均分子量300)、P-100(平均分子量365),P-200(平均分子量430),P-350P(平均分子量480)などがある。
【0034】
PTFE水性分散液中のミネラルオイルの含有量は、PTFE粒子の100質量部に対して0.001~0.01質量部であり、0.001~0.008質量部が好ましく、0.0012~0.007質量部がより好ましく、0.0013~0.006質量部がさらに好ましく、0.0015~0.005質量部が特に好ましい。
ミネラルオイルの含有量が上記範囲の下限値以上であると泡立ちにくさにより優れ、上記範囲の上限値以下であると機械的安定により優れる。
【0035】
<下式(2)で表される化合物>
PTFE水性分散液は、下式(2)で表される化合物(以下、化合物(2)ともいう。)を含んでもよい。化合物(2)は特定の基(-R3)でキャップされたアセチレンジオールエトキシレートである。
【0036】
【0037】
式(2)において、R2は、炭素数2~4のアルキル基であり、R3は炭素数1~12のアルキル基であり、nは1または2である。m1、m2はそれぞれ独立にオキシエチレン基の平均繰り返し数を表し、m1とm2の合計が2~35である。m1とm2の合計は、3~15が好ましく、5~10がより好ましい。
R2のアルキル基は、直鎖状、分岐状のいずれでもよく、炭素数は3~4が好ましく、炭素数3がより好ましく、-CH(CH3)2が特に好ましい。
R3のアルキル基は、直鎖状、分岐状のいずれでもよく、炭素数は4~18が好ましく、炭素数6~10がより好ましく、2-エチルヘキシル基が特に好ましい。
化合物(2)としては、R2が-CH(CH3)2であり、かつR3が2-エチルヘキシル基である化合物がより好ましい。
化合物(2)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。併用する場合、m1とm2の合計は、その平均値を示すことから、整数でなくてもよい。
【0038】
PTFE水性分散液中の化合物(2)の含有量は、PTFE粒子の100質量部に対して0.005~0.050質量部であり、0.006~0.040質量部が好ましく、0.007~0.035質量部がより好ましく、0.007~0.030質量部がさらに好ましく、0.008~0.030質量部が特に好ましい。
化合物(2)の含有量が上記範囲の下限値以上であると低起泡性の向上効果により優れ、上記範囲の上限値以下であるとPTFE水性分散液の機械的安定性により優れる。
【0039】
<他の界面活性剤>
PTFE水性分散液は、上記含フッ素乳化剤、非イオン性界面活性剤、ポリエーテルポリシロキサンコポリマー、化合物(2)のいずれにも該当しない、他の界面活性剤を本発明の効果を損なわない範囲で含んでもよい。
他の界面活性剤を含有する場合、その含有量はPTFE粒子の100質量部に対して、3質量部以下が好ましく、2質量部以下がより好ましく、1質量部以下がさらに好ましい。
【0040】
<水・その他の成分>
PTFE水性分散液は、分散媒の一部または全部として水を含む。
また、上述したPTFE粒子、含フッ素乳化剤、非イオン性界面活性剤、ポリエーテルポリシロキサンコポリマー、化合物(2)、他の界面活性剤、ミネラルオイルおよび水のいずれにも該当しない成分(以下、他の成分という)を、本発明の効果を損なわない範囲で含んでもよい。
他の成分としては、例えば、PTFE粒子の乳化重合工程で使用された成分であってもよい。また、ポリエチレングリコールやポリウレタン系の粘性調整剤、レベリング剤、防腐剤、着色剤、フィラー、有機溶剤、アンモニア水など公知の添加剤等であってもよい。
ポリエチレングリコールの質量平均分子量は10万~150万が好ましく、20万~100万がより好ましい。
ポリウレタン系の粘度調整剤としては、SNシックナー621N(商品名、サンノプコ社製)、アデカノールUH140S(商品名、旭電化工業社製)等が挙げられ、アデカノールUH140S(商品名、旭電化工業社製)が好ましい。
ポリエチレングリコールやポリウレタン系の粘度調整剤を含有すると、PTFE水性分散液は機械的安定性により優れる。
他の成分の合計量は、PTFE粒子の100質量部に対して5質量部以下が好ましく、4質量部以下がより好ましく、3質量部以下がさらに好ましい。
【0041】
<粘度>
PTFE水性分散液の23℃における粘度は3~300mPa・sが好ましく、3~100mPa・sがより好ましく、5~50mPa・sがさらに好ましい。該粘度が上記範囲の下限値以上であるとコーティングしたときにコーティング層が薄くなりすぎず、上限値以下であるとコーティングしたときのコーティング層の厚みを調整しやすい。
【0042】
<製造方法>
本発明のPTFE水性分散液は、水性媒体中で、上記含フッ素乳化剤を用いて乳化重合する方法によりPTFE水性乳化液を得、該PTFE水性乳化液に非イオン性界面活性剤を添加して安定化し、これを濃縮して、または濃縮せずにポリエーテルポリシロキサンコポリマーを配合して製造することができる。
好ましくは、前記PTFE水性乳化液に非イオン性界面活性剤を添加して安定化し、これを濃縮して、または濃縮せずに、ポリエーテルポリシロキサンコポリマーと、ミネラルオイルまたは化合物(2)の少なくとも一方とを配合してPTFE水性分散液を製造する。
【0043】
[PTFE水性乳化液の製造]
PTFE水性乳化液は、水性媒体、重合開始剤、前記含フッ素乳化剤、安定化助剤の存在下で、TFEを重合反応させる方法、またはTFEとコモノマーの1種以上を重合反応させる方法で製造できる。
コモノマーを用いる場合、重合反応の開始前に、その全量を重合反応容器に仕込んでおくと、生成するPTFEの粒子径が均一になりやすい点で好ましい。
重合条件としては、重合温度は10~95℃が好ましく、重合圧力は0.5~4.0MPaが好ましい。重合時間は1~20時間が好ましい。
重合工程における前記含フッ素乳化剤の使用量は、最終的なPTFE粒子の収量に対して1,500~20,000ppmが好ましく、2,000~20,000ppmがより好ましく、2,000~15,000ppmがさらに好ましい。
【0044】
安定化助剤としては、パラフィンワックス、フッ素系オイル、フッ素系溶剤、シリコーンオイル等が好ましい。安定化助剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。安定化助剤としては、パラフィンワックスがより好ましい。
安定化助剤の使用量は、使用する水性媒体に対して0.1~12質量%が好ましく、0.1~8質量%がより好ましい。
安定化助剤は乳化重合反応後に除去することが好ましい。
【0045】
重合開始剤としては、水溶性ラジカル開始剤や水溶性酸化還元系触媒等が好ましい。水溶性ラジカル開始剤としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩、ジコハク酸パーオキシド、ビスグルタル酸パーオキシド、tert-ブチルヒドロパーオキシド等の水溶性有機過酸化物が好ましい。
重合開始剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。開始剤としては、ジコハク酸パーオキシドと過硫酸塩の混合系がより好ましい。
重合開始剤の使用量は、通常、最終的なPTFE粒子の収量に対して、0.01~0.20質量%が好ましく、0.01~0.15質量%がより好ましい。
【0046】
重合工程において、重合系に連鎖移動剤を存在させると生成するPTFEの分子量を制御できる。
連鎖移動剤としては、メタノール、エタノール、メタン、エタン、プロパン、水素、およびハロゲン化炭化水素からなる群から選ばれる連鎖移動剤が好ましく、メタノールがより好ましい。連鎖移動剤は2種以上を併用することができ、その場合にはその一部としてメタノールを使用することが好ましい。
連鎖移動剤を用いる場合は、重合反応の開始後から、重合に使用するTFEの全量の添加が終了するまでの間に、重合系中に連鎖移動剤を添加することが好ましい。連鎖移動剤の添加は、一括添加、連続添加、断続添加のいずれでもよい。
特に、連鎖移動剤は、TFEの添加量がTFEの全使用量の10~95質量%に達した時点に添加することがより好ましい。
連鎖移動剤の合計の使用量は、最終的なPTFE粒子の収量に対して、0.002~0.3質量%が好ましく、0.005~0.3質量%がより好ましく、0.006~0.25質量%が特に好ましい。
【0047】
水性媒体は、水、または、水溶性有機溶媒と水との混合液が用いられる。水としては、イオン交換水、純水、超純水等が挙げられる。水溶性有機溶媒としては、アルコール類(メタノールおよびエタノールを除く。)、ケトン類、エーテル類、エチレングリコール類、プロピレングリコール類などが挙げられる。TFEの重合において、水性媒体としては、水が好ましい。
PTFE水性乳化液中の、PTFE粒子の含有量は15~40質量%が好ましく、17~35質量%がより好ましく、20~30質量%が特に好ましい。
【0048】
[PTFE水性乳化液、PTFE水性分散液の濃縮]
乳化重合で得られたPTFE水性乳化液に、非イオン性界面活性剤およびポリエーテルポリシロキサンコポリマーを配合して低濃度のPTFE水性分散液が得られる。
好ましくは、乳化重合で得られたPTFE水性乳化液に、非イオン性界面活性剤と、ポリエーテルポリシロキサンコポリマーと、ミネラルオイルまたは化合物(2)の少なくとも一方とを配合して低濃度のPTFE水性分散液が得られる。
【0049】
さらに、上記PTFE水性乳化液に、非イオン性界面活性剤を添加し、公知の方法で濃縮して得られた濃縮液に、ポリエーテルポリシロキサンコポリマーを添加して高濃度のPTFE水性分散液を得ることができる。
好ましくは、上記PTFE水性乳化液に、非イオン性界面活性剤を添加し、公知の方法で濃縮して得られた濃縮液に、ポリエーテルポリシロキサンコポリマーと、ミネラルオイルまたは化合物(2)の少なくとも一方とを添加して高濃度のPTFE水性分散液を得ることができる。
高濃度のPTFE水性分散液中の、PTFE粒子の含有量は40~70質量%が好ましく、50~70質量%がより好ましい。
【0050】
濃縮方法としては、たとえば、ふっ素樹脂ハンドブックの32頁(里川孝臣編、日刊工業新聞社発行)に記載されるように、遠心沈降法、電気泳動法、相分離法などの公知の方法が利用できる。
濃縮工程においては、上澄みとともにある程度の量の含フッ素乳化剤や非イオン性界面活性剤が除去される。
また濃縮工程の前に、公知の方法によって含フッ素乳化剤を低減させてもよい。例えば、アニオン交換樹脂に吸着させる方法を用いることができる。
非イオン性界面活性剤は、PTFE水性分散液の濃縮工程後に、追加添加して、所定の含有量に調整することが好ましい。
【0051】
<用途>
本発明のPTFE水性分散液は、例えば以下の用途に用いられる。
各種フッ素樹脂コーティング加工、フッ素樹脂フィルム、フッ素樹脂繊維等の作製。
コーティング加工において、PTFE水性分散液組成物を被塗装物に塗装することにより、表面にPTFE被覆層を有する塗装物品が得られる。被塗装物(基材ともいう)としては、特に限定されず、例えば、各種金属、ホーロー、ガラス、各種セラミックス、各種耐熱樹脂成形品が挙げられる。
上記塗装は、通常、本発明のPTFE水性分散液組成物を基材に塗布した後、乾燥し、次いで焼成することにより行う。PTFE水性分散液組成物は、基材に直接塗装してもよく、基材との密着性を向上させるために、プライマー層を設けてその上塗り層として形成してもよい。
通常、被塗装物と接したままの樹脂成形品、または、被塗装物とプライマー層等を介して接したままの樹脂成形品として使用される。
樹脂成形品としては、例えば、金属調理器具、ベアリング、バルブ、電線、金属箔、ボイラー、パイプ、船底、オーブン内張り、アイロン底板、製氷トレー、雪かきシャベル、すき、シュート、コンベア、ロール、金型、ダイス、のこぎり、やすり、きり等の工具、包丁、はさみ、ホッパー、その他の工業用コンテナ(特に半導体工業用)、鋳型等が挙げられる。
基材の種類によっては、上記焼成の後、基材から剥離してPTFEフィルムを得ることもできる。前記PTFEフィルムは、高周波プリント基板、搬送用ベルト、パッキン等の被覆材として好適に使用できる。
基材として繊維状基材、織布、不織布等の多孔性基材を使用すると、基材にPTFEが含浸された製品が得られる。
繊維状基材としては、例えば、ガラス繊維、カーボン繊維、アラミド繊維(ケプラー繊維等)が挙げられる。織布や不織布としては、例えば、膜構造建築物の屋根材(テント膜)等が挙げられる。該屋根材として光透過性が求められる場合、PTFEとして変性PTFEを用いることが好ましい。
【0052】
<作用・機序>
後述の比較例1に示されるように、非イオン性界面活性剤を含有させたポリテトラフルオロエチレン水性分散液は、機械的安定性には優れるものの、撹拌等のせん断力を受けたときに泡立ちやすい。
本発明によれば、ポリテトラフルオロエチレン水性分散液に特定量の非イオン性界面活性剤を含有させるとともに、特定のポリエーテルポリシロキサンコポリマーを含有させることにより、機械的安定性の低下を抑えつつ、泡立ちを抑制することができる。
かかる効果が得られる理由は明かではないが、非イオン性界面活性剤による表面活性効果と、ポリエーテルポリシロキサンコポリマーによる表面活性効果の相互作用と相乗効果によるものと考えられる。
【実施例】
【0053】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
以下の測定方法および評価方法を用いた。
<PTFEの平均一次粒子径>
レーザー散乱法粒子径分布分析計(堀場製作所社製名 LA-920(製品名)を用いて測定した。
【0054】
<PTFE粒子の含有量>
PTFE水性分散液の10gを質量既知のアルミ皿に入れ、380℃で35分間加熱し、界面活性剤等を熱分解して除去した。加熱後にアルミ皿に残存した固形分(PTFE)の質量を、PTFE水性分散液の10g中のPTFE粒子の含有量とした。
<含フッ素乳化剤の含有量>
LCMS(質量分析装置付き高速液体クロマトグラフィー)を用い、あらかじめ濃度既知の含フッ素乳化剤を使用して得られたピーク面積から検量線を作成した。次に、PTFE水性分散液の所定量をサンプルとし、70℃で16時間乾燥した後、含フッ素乳化剤をエタノールで抽出し、LCMSでのピーク面積を測定し、検量線を用いてサンプル中の含フッ素乳化剤の含有量を求めた。
<非イオン性界面活性剤の含有量>
PTFE水性分散液の10gを質量既知のアルミ皿に入れ、120℃で1時間乾燥後の質量を測定した。加熱後にアルミ皿に残存した固形分(非イオン性界面活性剤とPTFE粒子)の質量から上記方法で測定したPTFE粒子の含有量を差し引いて非イオン性界面活性剤の含有量を求めた。
【0055】
<機械的安定性試験>
直径65mm、内容積400mlのプラスチックカップにPTFE水性分散液の100gを入れ、60℃の水槽に漬け、直径55mmの撹拌翼(
図1)を、プラスチックカップの底面から撹拌翼の中心(
図1(b)の軸方向において、撹拌翼の下端から7mmの位置)までの高さが20mmとなるようにセットして、3000rpmで回転させ、PTFE水性分散液が凝集するか固化して飛び散るまでの時間を、安定性保持時間として測定した。
【0056】
<ロスマイルス法による低起泡性試験>
JIS K3362に準処するロスマイルス法に従って低起泡性試験を行った。具体的には、内径50mmのシリンダーにPTFE水性分散液の50mLを入れ、この液に対して、90cmの高さから200mLのPTFE水性分散液を、内径2.9mmの開口より流下させた。シリンダー内の液に流下した液が衝突することにより泡が発生する。200mLを流下し終えた直後の泡の高さ(単位:cm)を測定した。この値が小さいほど泡立ち難いことを示す。
【0057】
以下の記載において、下記の各名称は以下の成分を表す。
コモノマー(1): (パーフルオロブチル)エチレン。
含フッ素乳化剤(1):EEA。
連鎖移動剤(1):メタノール。
非イオン性界面活性剤(1):CH3CH(CH3)CH2CH(CH3)CH2CH(CH2CH(CH3)2)O(CH2CH2O)10.1Hで表される非イオン性界面活性剤の有効成分濃度90質量%の水溶液(製品名;タージトールTMN100X、ダウケミカル社製)。
ポリエーテルポリシロキサンポリマー(1):式(4)において、R4がH、dが1、eとfの合計が22である化合物。
ミネラルオイル(1):MORESCO社製、流動パラフィンモレスコホワイト,P-55(平均分子量300)。
式(2)で表される化合物(1):式(2)において、R2が-CH(CH3)2、R3が2-エチルヘキシル基、nが1、かつm1+m2が8である化合物。
比較化合物(1):Surfynol(登録商標)104E(製品名、エアープロダクツ社製、キャップされていないアセチレンジオールエトキシレートの2-エチルヘキシルアルコール50質量%溶液)。
比較化合物(2):Surfynol(登録商標)DC110C(製品名、エアープロダクツ社製、化合物名:2.5.8.11-テトラメチルー6-ドデシンー5.8-ジオール)。
比較化合物(3):TEGO(登録商標)Foamex 810(製品名、エボニック社製、化合物名:オクタメチルシクロテトラシロキサン)。
比較化合物(4):TEGO(登録商標)Wet 270(製品名、エボニック社製、化合物名:ジメチルシロキサン-エチレンオキシドブロックコポリマー)。
比較化合物(5):Airase(登録商標)8070(製品名、エアープロダクツ社製、化合物名:2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール-ジ(ポリオキシエチレン)エーテル)。
【0058】
(製造例1:PTFE水性乳化液の製造)
邪魔板、撹拌機を備えた、100Lのステンレス鋼製オートクレーブに、含フッ素乳化剤(1)の75g、パラフィンワックスの924g、脱イオン水の59リットルを仕込んだ。オートクレーブを窒素置換した後、減圧にして、コモノマー(1)の3.5gを仕込んだ。さらにTFEで加圧し、撹拌しながら79℃に昇温した。次いでTFEで1.42MPaまで昇圧し、過硫酸アンモニウム0.2g、ジコハク酸パーオキシド(濃度80質量%、残りは水分)の26.3gを約70℃の温水の1リットルに溶解して注入して重合反応を開始した。6分ほどで内圧が1.40MPaまで降下した。オートクレーブ内圧が1.42MPaに保たれるようにTFEを添加しながら重合を進行させた。重合開始後のTFEの添加量が3.91kgになったところで、含フッ素乳化剤(1)を158g添加した。また、重合開始後のTFEの添加量が20.80kgになったところで、連鎖移動剤(1)の13.9gを添加した。そして、重合開始後のTFEの添加量が23.11kgになったところで反応を終了させた。この間、重合温度は85℃まで上げた。重合時間は140分であった。
得られたPTFE水性乳化液を冷却し、上澄みのパラフィンワックスを除去し、PTFE水性乳化液を取り出した。反応器に残った凝固物は痕跡程度であった。得られたPTFE水性乳化液中のPTFE粒子の含有量は26.5質量%であった。
【0059】
本例において、PTFE粒子の質量に対して、含フッ素乳化剤(1)の使用量の合計(233g)の割合は10,000ppmである。
得られたPTFE水性乳化液中のPTFE微粒子の平均一次粒子径は、0.21μmであり、PTFEのSSGは2.179であった。
【0060】
(実施例1:PTFE水性分散液の調製)
製造例1で得たPTFE水性乳化液に、非イオン性界面活性剤(1)を、PTFE粒子の100質量部に対して有効成分が3質量部となるように溶解させて、安定な水性分散液とした。次いで5Lビーカーに該水性分散液の5kgと強塩基型イオン交換樹脂(ピュロライト社製PUROLITE(登録商標)A300)の200gを入れ、室温で12時間撹拌した。
さらに該水性分散液をメッシュサイズ100のナイロン製メッシュで濾別後、電気泳動法により濃縮し、上澄みを除去し、PTFE粒子の含有量が66質量%であり、非イオン性界面活性剤(1)の含有量がPTFE粒子の100質量部に対して2.2質量部である濃縮液を得た。
この濃縮液に、非イオン性界面活性剤(1)をPTFE粒子の100質量部に対して有効成分が4.8質量部、ポリエーテルポリシロキサンポリマー(1)、ミネラルオイル(1)、および式(2)で表される化合物(1)を、表1に示す含有量となるように加えるとともに、水および濃度500ppmとなる量のアンモニアを加えて、目的のPTFE水性分散液を得た。
得られたPTFE水性分散液について、上記の方法で機械的安定性試験および低起泡性試験を行った。
得られたPTFE水性分散液における主な成分の含有量と、試験結果を表1に示す(以下、同様)。
【0061】
(実施例2、3、比較例1~10:PTFE水性分散液の調製)
実施例1において、濃縮液に添加する化合物および配合量を表1、2に示す通りに変更した。その他は実施例1と同様にしてPTFE水性分散液(PTFE高濃度水性分散液)を得、同様に評価した。
比較例5~10は、消泡剤として一般的に知られている化合物を用いた例である。
【0062】
【0063】
表1の評価結果より、実施例1~3のPTFE水性分散液は、機械的安定性に優れるとともに、泡立ち難いことが認められる。
なお、2017年04月28日に出願された日本特許出願2017-090702号の明細書、特許請求の範囲、要約書および図面の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。