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特許7116056定着部材形成用シリコーンゴム組成物および定着部材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-01
(45)【発行日】2022-08-09
(54)【発明の名称】定着部材形成用シリコーンゴム組成物および定着部材
(51)【国際特許分類】
   G03G 15/20 20060101AFI20220802BHJP
   C08L 83/07 20060101ALI20220802BHJP
   C08L 83/05 20060101ALI20220802BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20220802BHJP
【FI】
G03G15/20 515
C08L83/07
C08L83/05
C08K3/04
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019523922
(86)(22)【出願日】2018-06-05
(86)【国際出願番号】 JP2018021622
(87)【国際公開番号】W WO2018225750
(87)【国際公開日】2018-12-13
【審査請求日】2021-05-12
(31)【優先権主張番号】P 2017112104
(32)【優先日】2017-06-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】719000328
【氏名又は名称】ダウ・東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】入江 正和
【審査官】三橋 健二
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-051550(JP,A)
【文献】特開2010-072438(JP,A)
【文献】特開平08-254917(JP,A)
【文献】特開2009-144000(JP,A)
【文献】特開2007-086498(JP,A)
【文献】米国特許第06365279(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/20
C08L 83/07
C08L 83/05
C08K 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)一分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサン 100質量部、
(B)平均粒径が1~100μmの球状黒鉛 10~300質量部、および
(C)有効量の硬化剤
から少なくともなり、硬化して、JIS K 7312に規定されるタイプCデュロメーター硬さ試験機を用いて測定した硬さ(アスカーC硬さ)が5~70であるシリコーンゴムを形成する定着部材形成用シリコーンゴム組成物。
【請求項2】
(C)成分が、(C)一分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合水素原子を有するオルガノポリシロキサン{(A)成分中のアルケニル基1モルに対して、本成分中のケイ素原子結合水素原子が0.1~10モルとなる量}および(C)触媒量のヒドロシリル化反応用触媒である、請求項1記載の定着部材形成用シリコーンゴム組成物。
【請求項3】
さらに、(D)硬化遅延剤を、(A)成分100質量部に対して0.001~5質量部含む、請求項2に記載の定着部材形成用シリコーンゴム組成物。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の定着部材形成用シリコーンゴム組成物を硬化してなる定着部材。
【請求項5】
定着部材が定着ロールまたは定着ベルトである、請求項4記載の定着部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、定着部材形成用シリコーンゴム組成物、および該組成物を用いて形成された定着部材に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコーンゴム組成物は、硬化して、電気絶縁性、耐熱性、耐候性、および難燃性に優れるシリコーンゴムを形成するため、家電、建築、自動車、OA機器、事務機等の分野で幅広く使用されている。特に、その耐熱性を活かして、アルミナ等の高熱伝導性フィラーを含有するシリコーンゴム組成物が複写機やレーザープリンターに用いられる定着ロールや定着ベルト等の定着部材を形成するための材料として利用されている(特許文献1参照)。
【0003】
近年、複写機やレーザープリンターの立ち上げ時間を短くし、待機電力を削減するため、低熱容量のシリコーンゴムが求められているが、アルミナを含有するシリコーンゴムの比重は大きく、それに伴い熱容量が大きくなるという課題がある。また、定着部材では、シリコーンゴムの上にフッ素樹脂を被覆するタイプが多く採用されているが、アルミナを含有するシリコーンゴムは、フッ素樹脂被覆の際の高温での熱エージングにより、その表面に硬いスキン層を形成する傾向があり、定着部材としての特性が変化するという課題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-072728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、低熱容量で、高熱伝導性を有し、高温での熱エージングによってもスキン層を形成しにくい定着部材の形成に好適なシリコーンゴム組成物、および該組成物を用いて形成された、低熱容量で、高熱伝導性を有し、耐熱性に優れる定着部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の定着部材形成用シリコーンゴム組成物は、
(A)一分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサン 100質量部、
(B)平均粒径が1~100μmの黒鉛 10~300質量部、および
(C)有効量の硬化剤
から少なくともなることを特徴とする。
【0007】
前記(B)成分は球状黒鉛であることが好ましい。
【0008】
前記(C)成分は、(C)一分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合水素原子を有するオルガノポリシロキサン{(A)成分中のアルケニル基1モルに対して、本成分中のケイ素原子結合水素原子が0.1~10モルとなる量}および(C)触媒量のヒドロシリル化反応用触媒であることが好ましく、さらに、(D)硬化遅延剤を0.001~5質量部含むことが好ましい。
【0009】
また、本発明の定着部材は、上記シリコーンゴム組成物を硬化してなることを特徴とする。
【0010】
この定着部材は、定着ロールまたは定着ベルトであることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の定着部材形成用シリコーンゴム組成物は、低熱容量で、高熱伝導性を有し、高温での熱エージングによってもスキン層を形成しにくい、定着ロールや定着ベルト等の定着部材に好適なシリコーンゴムを形成するという特徴がある。また、本発明の定着部材は、低熱容量で、高熱伝導性を有し、耐熱性に優れるという特徴がある。
【発明を実施するための形態】
【0012】
はじめに、本発明の定着部材形成用シリコーンゴム組成物について詳細に説明する。
(A)成分は、一分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサンである。(A)成分中のアルケニル基としては、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基等の炭素数2~12のアルケニル基が例示され、経済性、反応性の点から、ビニル基、アリル基、ヘキセニル基、オクテニル基が好ましい。(A)成分中のアルケニル基の結合位置は限定されず、例えば、分子鎖末端のケイ素原子および/または分子鎖中のケイ素原子に結合していてもよい。また、(A)成分のアルケニル基以外のケイ素原子に結合している基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基等の炭素数1~12のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等の炭素数6~12のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等の炭素数7~12のアラルキル基;3-クロロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基等のハロゲン置換の炭素数1~12のアルキル基が例示され、経済性、耐熱性の点から、メチル基、フェニル基が好ましい。さらに、(A)成分中のケイ素原子には、本発明の目的を損なわない範囲で、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、i-プロポキシ基、n-ブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基等のアルコキシ基、あるいは水酸基が少量結合していてもよい。
【0013】
(A)成分の分子構造は限定されず、例えば、直鎖状、分岐鎖状、一部分岐鎖を有する直鎖状、樹枝状(デンドリマー状)が挙げられ、(A)成分はこれらの分子構造を有する一種のオルガノポリシロキサンであってもよく、また、これらの分子構造を有する二種以上のオルガノポリシロキサンの混合物であってもよい。
【0014】
(A)成分の25℃における粘度は限定されないが、好ましくは、50~1,000,000mPa・sの範囲内、200~500,000mPa・sの範囲内、あるいは、1,000~100,000mPa・sの範囲内である。これは、(A)成分の25℃における粘度が上記範囲の下限以上であると、得られるシリコーンゴムの物理特性が向上するからであり、一方、上記範囲の上限以下であると、得られるシリコーンゴム組成物の取扱作業性が向上するからである。なお、本発明において、粘度は、JIS K 7117-1987「液状の樹脂の回転粘度計による粘度試験方法」に規定の回転粘度計により測定できる。なお、(A)成分の一部として、JIS K 6249に規定の可塑度が100~800 のガム状オルガノポリシロキサンを用いることにより、本組成物の貯蔵中、(B)成分の沈降分離を抑制することが期待される。
【0015】
このような(A)成分としては、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端メチルフェニルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルビニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖メチルビニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖メチル(3,3,3-トリフルオロプロピル)ポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖メチル(3,3,3-トリフルオロプロピル)シロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、分子鎖両末端シラノール基封鎖メチルビニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、分子鎖両末端シラノール基封鎖メチルビニルシロキサン・メチルフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、式:(CH)SiO1/2で表されるシロキサン単位と式:(CH)(CH=CH)SiO1/2で表されるシロキサン単位と式:CHSiO3/2で表されるシロキサン単位と式:(CH)SiO2/2で表されるシロキサン単位からなるオルガノシロキサン共重合体が例示される。
【0016】
(B)成分は、平均粒径が1~100μmの範囲内、好ましくは、1~50μmの範囲内、1~40μmの範囲内、5~40μmの範囲内、5~35μmの範囲内、5~30μmの範囲内、あるいは10~30μmの範囲内の黒鉛である。これは、(B)成分の平均粒径が上記範囲の下限以上であると、シリコーンゴム組成物に多量の(B)成分を配合することができるからであり、一方、上記範囲の上限以下であると、得られるシリコーンゴムの物理特性が良好であるからである。なお、この平均粒径は、例えばレーザー光回折法等の分析手段を使用した粒度分布計により、累積重量平均値;D50(又はメジアン径)等として求めることができる。
【0017】
(B)成分は、天然、人造のいずれのものでもよく、形状としては、球状、鱗状、鱗片状等が例示され、(B)成分としては、これらの形状を有する単一の黒鉛、あるいは二種以上併用してなる黒鉛混合物を用いることができ、比較的熱容量が低く、熱伝導率が高いシリコーンゴムを形成しやすいことから、少なくとも球状黒鉛を使用することが好ましい。
【0018】
このような(B)成分は、例えば、中越黒鉛工業所社製の商品名:WF-15C、同G-6S、同BF-3AK、富士黒鉛工業社製の商品名:WF-010、同WF-015、同FT-2、同JSG-25、日本黒鉛工業の商品名:CGB-20、同CGB-50、あるいは伊藤黒鉛工業の商品名:SG-BH8、同SG-BH、同SG-BL30、同SG-BL40として入手可能である。
【0019】
(B)成分の含有量は、(A)成分100質量部に対して10~300質量部の範囲内であり、好ましくは、10~250質量部の範囲内、あるいは、20~200質量部の範囲内である。これは、(B)成分の含有量が上記範囲の下限以上であると、得られるシリコーンゴムの熱伝導率を大きくするが、その熱容量を小さくすることができるからであり、一方、上記範囲の上限以下であると、得られるシリコーンゴム組成物の取扱作業性が良好であるからである。
【0020】
(C)成分は硬化剤であり、本組成物がヒドロシリル化反応で硬化するタイプのものであれば、(C)一分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合水素原子を有するオルガノポリシロキサンおよび(C)ヒドロシリル化反応用触媒であり、本組成物がラジカル反応で硬化するタイプのものであれば、(C)有機過酸化物である。
【0021】
(C)成分は、一分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合水素原子を有するオルガノポリシロキサンである。(C)成分中のケイ素原子結合水素原子の結合位置は限定されず、分子鎖末端および/または分子鎖中のケイ素原子に結合していてもよい。また、(C)成分中の水素原子以外のケイ素原子に結合する基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基等の炭素数1~12のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基等の炭素数6~20のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等の炭素数7~20のアラルキル基;3-クロロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基等のハロゲン置換の炭素数1~12のアルキル基が例示され、経済性、耐熱性の点から、メチル基、フェニル基が好ましい。さらに、(C)成分中のケイ素原子には、本発明の目的を損なわない範囲で、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、i-プロポキシ基、n-ブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基等のアルコキシ基、あるいは水酸基が少量結合していてもよい。
【0022】
(C)成分の分子構造は限定されず、例えば、直鎖状、分岐鎖状、一部分岐鎖を有する直鎖状、樹枝状(デンドリマー状)が挙げられ、(C)成分はこれらの分子構造を有する一種のオルガノポリシロキサンであってもよく、また、これらの分子構造を有する二種以上のオルガノポリシロキサンの混合物であってもよい。
【0023】
(C)成分の25℃における動粘度は限定されないが、好ましくは、1~100,000mm/sの範囲内、1~10,000mm/sの範囲内、あるいは、1~5,000mm/sの範囲内である。これは、(C)成分の25℃における動粘度が上記範囲の下限以上であると、得られるシリコーンゴムの物理特性が向上するからであり、一方、上記範囲の上限以下であると、得られるシリコーンゴム組成物の取扱作業性が向上するからである。なお、本発明において、動粘度は、JIS Z 8803-1991「液体の粘度-測定方法」に規定のウベローデ型粘度計により測定できる。
【0024】
このような(C)成分としては、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、環状メチルハイドロジェンポリシロキサン、式:(CH)SiO1/2で表されるシロキサン単位と式:(CH)HSiO1/2で表されるシロキサン単位と式:SiO4/2で表されるシロキサン単位からなるオルガノシロキサン、テトラキス(ジメチルハイドロジェンシロキシ)シラン、メチルトリス(ジメチルハイドロジェンシロキシ)シランが例示される。
【0025】
(C)成分の含有量は、(A)成分中のケイ素原子結合アルケニル基1モルに対して、本成分中のケイ素原子結合水素原子が0.1~10モルの範囲内となる量であり、好ましくは、0.1~5モルの範囲内となる量、あるいは、0.5~5モルの範囲内となる量である。これは(C)成分の含有量が上記範囲の下限以上であると、得られるシリコーンゴム組成物が十分に硬化するからであり、一方、上記範囲の上限以下であると、得られるシリコーンゴムの耐熱性が向上するからである。
【0026】
(C)成分のヒドロシリル化反応用触媒は、本組成物の硬化を促進するための触媒である。(C)成分としては、白金微粉末、白金黒、塩化白金酸、四塩化白金、アルコール変性塩化白金酸、白金のオレフィン錯体、白金のアルケニルシロキサン錯体、白金のカルボニル錯体、これらの白金系触媒を含むメチルメタクリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、シリコーン樹脂等の熱可塑性有機樹脂粉末等の白金系触媒;式:[Rh(OCCH)]、Rh(OCCH)、Rh(C15)、Rh(C)、Rh(C)(CO)、Rh(CO)[PhP](C)、RhX[(R)S]、(R' P)Rh(CO)X、(R P)Rh(CO)H、Rh、HRh(En)Cl、またはRh[O(CO)R]3-j(OH)で表されるロジウム系触媒(式中、Xは水素原子、塩素原子、臭素原子、またはヨウ素原子であり、Yはメチル基、エチル基等のアルキル基、CO、C14、または0.5C12であり、Rはメチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基;シクロヘプチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;またはフェニル基、キシリル基等のアリール基であり、R'はメチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基等のアリール基;メトキシ基、エトキシ基等のアルコシ基;またはフェノキシ基等のアリロキシ基であり、Enは、エチレン、プロピレン、ブテン、ヘキセン等のオレフィンであり、fは0または1であり、gは1または2であり、hは1~4の整数であり、iは2、3、または4であり、jは0または1である。);式:Ir(OOCCH)、Ir(C)、[Ir(Z)(En)]、または[Ir(Z)(Dien)]で表されるイリジウム系触媒(式中、Zは塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、またはメトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基であり、Enは、エチレン、プロピレン、ブテン、ヘキセン等オレフィンであり、Dienはシクロオクタジエンである。)が例示される。
【0027】
本組成物において、(C)成分の含有量は触媒量であり、好ましくは、(A)成分および(C)成分の合計量に対して、本成分中の白金族金属が質量単位で0.01~1,000ppmの範囲内となる量、あるいは、0.1~500ppmの範囲内となる量である。
【0028】
(C)成分は有機過酸化物であり、有機過酸化物硬化型シリコーンゴム組成物において、(A)成分の架橋反応を促進するための触媒として使用されるものであればよく、従来公知のものを使用することができる。(C)成分としては、例えば、ジクミルパーオキサイド、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン、ベンゾイルパーオキサイド、ビス(2-メチルベンゾイル)パーオキサイド、ビス(4-メチルベンゾイル)パーオキサイド、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、tert-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネートが挙げられる。
【0029】
(C)成分の含有量は限定されないが、(A)成分100質量部に対して、0.01~10質量部の範囲内、0.05~10質量部の範囲内、0.05~5質量部の範囲内、あるいは、0.01~5質量部の範囲内が好ましい。これは、(C)成分の含有量が上記範囲の下限以上であると、得られるシリコーンゴム組成物が十分に硬化するからであり、一方、上記範囲の上限以下であると、得られるシリコーンゴムに気泡等を生じ難くなるからである。
【0030】
本組成物には、本組成物がヒドロシリル化反応で硬化するタイプである場合、その硬化速度を調節し、取扱作業性を向上させるために(D)硬化遅延剤を含有してもよい。(D)成分としては、1-エチニルシクロヘキサン-1-オール、2-メチル-3-ブチン-2-オール、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール、2-フェニル-3-ブチン-2-オール等のアルキンアルコール;3-メチル-3-ペンテン-1-イン、3,5-ジメチル-3-ヘキセン-1-イン等のエンイン化合物;1,3,5,7-テトラメチル-1,3,5,7-テトラビニルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラメチル-1,3,5,7-テトラヘキセニルシクロテトラシロキサン等のメチルアルケニルシロキサンオリゴマー;ジメチルビス(3-メチル-1-ブチン-3-オキシ)シラン、メチルビニルビス(3-メチル-1-ブチン-3-オキシ)シラン等のアルキンオキシシラン;メチルトリス(1-メチル-1-フェニル-プロピンオキシ)シラン、ジメチルビス(1-メチル-1-フェニル-プロピンオキシ)シラン、メチルトリス(1,1-ジメチル-プロピンオキシ)シラン、ジメチルビス(1,1-ジメチル-プロピンオキシ)シラン等のアルキンオキシシラン化合物;その他、ベンゾトリアゾールが例示される。この(D)成分の含有量は限定されないが、好ましくは、(A)成分100質量部に対して、0.0001~5質量部の範囲内、0.01~5質量部の範囲内、あるいは、0.01~3質量部の範囲内である。
【0031】
本組成物には、得られるシリコーンゴムの熱伝導性をさらに向上させるため、本発明の目的を損なわない範囲で、粉砕石英、窒化ホウ素、炭化珪素、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ等の熱伝導性充填剤を含有してもよい。このような熱伝導性充填剤の含有量は限定されないが、(A)成分100質量部に対して200質量部以下であることが好ましい。
【0032】
本組成物には、得られるシリコーンゴムの耐熱性をさらに向上させるために酸化鉄を含有してもよい。この酸化鉄の平均粒径は限定されないが、その分散性が良好であることから、0.01~0.5μmの範囲内、0.02~0.3μmの範囲内、あるいは0.05~0.2μmの範囲内のものが好適である。本組成物における酸化鉄の含有量も限定されないが、本組成物の取扱作業性を低下させず、一方、得られるシリコーンゴムの耐熱性を向上できることから、(A)成分100質量部に対して0.1~20質量部の範囲内、あるいは0.5~15質量部の範囲内であることが好ましい。
【0033】
本組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、ヒュームドシリカ、溶融シリカ、焼成シリカ、沈降性シリカ、ゾルーゲル法の球状シリカ、珪藻土等のシリカ微粒子;補強性となるシリコーン系のレジン;クレイ、炭酸カルシウム、二酸化チタン等の非補強性充填剤;ファーネスブラック、ランプブラック、チャンネルブラック、サーマルブラック、オイルブラック、アセチレンブラック等のカーボンブラック;酸化セリウム、水酸化セリウム等の耐熱性向上剤;シリコーンオイル等の内部離型剤;接着性や成形加工性を向上させるための各種カーボンファンクショナルシラン;難燃性を付与させる窒素化合物やハロゲン化合物等を含有してもよい。
【0034】
また、本組成物には、(B)成分やその他の充填剤を均一に配合するため、それらの表面処理剤を配合してもよい。この表面処理剤としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、n-オクチルトリメトキシシラン等のオルガノアルコキシシラン;テトラメトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、エチルポリシリケート等のテトラアルコキシシランまたはその部分加水分解縮合物;ジメチルジクロロシラン、メチルトリクロロシラン等のオルガノハロシラン;ヘキサメチルジシラザン等のオルガノシラザン;シラノール基封鎖ジオルガノシロキサンオリゴマー、ケイ素原子結合アルコキシ基を含有するジオルガノシロキサンオリゴマー、ケイ素原子結合アルコキシ基を含有するジオルガノポリシロキサン、環状のジオルガノシロキサンオリゴマー等のシロキサンが例示される。
【0035】
本組成物は、上記(A)~(C)成分、必要に応じて、その他任意の成分を公知の混合手段により均一に混合することにより容易に調製することができる。この混合手段としては、プラネタリーミキサー、ニーダーミキサー、ロスミキサー、ホバートミキサーが例示されるが、これらに限定されるものではない。また、本組成物がヒドロシリル化反応で硬化するタイプである場合、各成分の混合順序についても限定はなく、任意の順序で混合することができるが、均一な組成を得ることができることから、予め、(A)成分の一部と(B)成分、および必要に応じてその他充填剤を加熱下で均一に混合した後、残余の(A)成分と他の成分を混合することが好ましい。
【0036】
また、本組成物がヒドロシリル化反応で硬化するタイプである場合、一液型の組成物とすることもできるが、貯蔵安定性を考慮し、使用時に混合する二液型の組成物とすることもできる。二液型の組成物とする場合には、一方の組成物は(A)成分、(B)成分、(C)成分、およびその他の任意成分からなる混合物とし、他方の組成物は(A)成分、(B)成分、(C)成分、およびその他の任意成分からなる混合物とすることが一般的である。
【0037】
本組成物を硬化する温度は限定されず、一般には、室温~220℃の範囲内、60~180℃の範囲内、あるいは80~150℃の範囲内で良好に硬化させることができる。シリコーンゴムを十分に硬化させるため、本組成物を室温~100℃、あるいは60~80℃で加熱し、その後、80~180℃、あるいは100~150℃で加熱して硬化させる、いわゆるステップキュアを行うことが好ましい。また、シリコーンゴム中の揮発性成分を除去するために、150~250℃で10分間~2時間程度の二次硬化(熱エージング)を行うことも好ましい。
【0038】
本組成物を硬化して得られるシリコーンゴムの硬さは限定されないが、JIS K 7312に規定されるタイプCデュロメーター硬さ試験機を用いて測定した硬さ(いわゆる、アスカーC硬さ)が5~70の範囲内、あるいは10~70の範囲内であることが好ましい。この硬さは、シリコーンゴムの架橋密度を低下させることによって調節することができ、例えば、(A)成分中のアルケニル基の含有量、(C)成分中のケイ素原子結合水素原子の含有量、あるいは(A)成分中のアルケニル基に対する(C)成分中のケイ素原子結合水素原子のモル比等により調節することができる。
【0039】
また、本組成物を硬化して得られるシリコーンゴムの熱伝導率は限定されないが、0.5W/m・K以上、0.5~3W/m・K、あるいは0.5~2W/m・Kであることが好ましい。
【0040】
次に、本発明の定着部材について詳細に説明する。
本定着部材は、上記のシリコーンゴム組成物を硬化してなることを特徴とする。本定着部材としては、定着ロールあるいは定着ベルトが例示される。具体的には、芯金の外周面にシリコーンゴム層が介在された定着ロール、あるいは耐熱性樹脂あるいは金属の薄膜からなる無端ベルト等の基材の表裏面上にシリコーンゴム層が介在された定着ベルトが例示され、さらに前記のシリコーンゴム層上にフッ素系樹脂層が表層として形成されたフッ素系樹脂被覆定着ロールあるいはフッ素系樹脂被覆定着ベルトが例示される。本定着部材は、低熱容量で、圧縮永久ひずみが小さく、熱エージングによってもスキン層を形成しにくいシリコーンゴムからなるので、複写機やレーザービームプリンターの定着ロールあるいは定着ベルトとして有用である。
【0041】
定着ロールの芯金、あるいは定着ベルトのベルト基材の材質、寸法等はロールあるいはベルトの種類に応じて適宜選定されるが、シリコーンゴムの弾性が十分に発揮でき、かつ効率よく熱を伝えることができることから、定着ロールにおけるシリコーンゴム層の厚さは、0.1~5.0mmの範囲内、あるいは0.3~3.0mmの範囲内であることが好ましい。一方、定着ベルトにおけるシリコーンゴム層の厚さは、シリコーンゴム層の厚さを均一にすることができ、効率よく熱を伝えることができることから、0.05~2.0mmの範囲内、あるいは0.1~1.0mmの範囲内であることが好ましい。
【0042】
フッ素系樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体樹脂(PFA)、フッ化エチレン-プロピレン共重合体樹脂(FEP)、ポリフッ化ビニリデン樹脂(PVDF)、ポリフッ化ビニル樹脂が挙げられる。
【0043】
なお、フッ素系樹脂層とシリコーンゴム層との接着性を向上させるため、それらの表面を、コロナ放電処理、プラズマ処理、ナトリウムナフタレン法、液体アンモニア法、スパッタエッチング法、エキシマレーザー法等で処理することが好ましい。さらに、その接着耐久性を向上させるために、それらの表面をプライマー処理してもよい。
【0044】
このフッ素系樹脂層の厚さは限定されないが、通常、0.1mm以下であり、好ましくは、0.1~100μmの範囲、あるいは1~50μmの範囲である。
【実施例
【0045】
本発明の定着部材形成用シリコーンゴム組成物および定着部材を実施例により詳細に説明する。なお、実施例中の特性は25℃における値であり、その測定は次のようにして行った。
【0046】
<粘度>
オルガノポリシロキサンの25℃における粘度(mPa・s)は、JIS K7117-1に準拠したB型粘度計によって測定した値であり、動粘度(mm/s)は、JIS Z 8803に準拠したウベローデ型粘度計によって測定した値である。
<密度>
JIS K 6268に準じてシリコーンゴムの密度を測定した。
<硬さ>
JIS K 7312に規定されたタイプCデュロメーター硬さ試験機を用いてシリコーンゴムの硬さを測定した。
<熱伝導率>
迅速熱伝導率計QTM-500(京都電子工業株式会社製)を用いてシリコーンゴムの熱伝導率を測定した。
<耐熱性>
シリコーンゴムを、330℃の熱風循環式オーブン中に40分間静置して、その後、室温まで冷却した。加熱処理後のシリコーンゴムの表面を目視及び指触により観察し、表面状態に変化が無い場合を“○”、表面状態に変化があった場合を“×”として評価した。
<硬さ変化>
6mm厚のシリコーンゴムシートを作製し、これを間隙4mmのロール間を10回通過させた。その後、JIS K 7312に規定されたタイプCデュロメーター硬さ試験機を用いてシリコーンゴムの硬さを測定し、1回通過させた後の硬さを初期値として、初期の硬さに対する差を示した。
【0047】
[実施例1~8および比較例1]
下記の成分を表1に示した組成で均一に混合して、定着部材形成用シリコーンゴム組成物を調製した。得られたシリコーンゴムの特性を表1に示した。なお、表1中のSiH/Viは、(A)成分中のビニル基に対する(C)成分中のケイ素原子結合水素原子のモル比を示す。
【0048】
(A)成分として、下記の成分を用いた。
(a-1)成分:粘度8,000mPa・sの分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体(ビニル基の含有量=0.31質量%)
(a-2)成分:粘度10,000mPa・sの分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン(ビニル基の含有量=0.13質量%)
(a-3)成分:粘度40,000mPa・sの分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン(ビニル基の含有量=0.09質量%)
(a-4)成分:粘度40,000mPa・sの分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体(ビニル基の含有量=0.13質量%)
【0049】
(B)成分として、下記の成分を用いた。
(b-1)成分:平均粒径15μmの球状黒鉛粒子
また、比較として、次の成分を用いた。
(b-2)成分:平均粒径2.2μmの不定形状アルミナ粒子
(b-3)成分:平均粒径10μmの球状アルミナ粒子
(b-4)成分:平均粒径2.5μmの不定形状アルミナ粒子
【0050】
(C)成分として、下記の成分を用いた。
(c-1)成分:動粘度10mm/sの分子鎖末端がジメチルハイドロジェンシロキシ基とトリメチルシロキシ基で封鎖されたジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体(ケイ素原子結合水素原子の含有量=0.39質量%)
【0051】
(C)成分として、下記の成分を用いた。
(c-2)成分:白金の1,3-ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体の1,3-ジビニルテトラメチルジシロキサン溶液(白金金属の含有量=約7,000ppm)
【0052】
(D)成分として、下記の成分を用いた。
(d)成分:1-エチニルシクロヘキサン-1-オール 2質量部と粘度10,000mPa・sの分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン(ビニル基の含有量=0.13質量%) 98質量部との混合物
【0053】
その他の成分として、下記の成分を用いた。
石英粉末:平均粒径5μmの石英粉末(株式会社龍森製のクリスタライトVX-S2)
酸化鉄MB: 平均粒径0.17μmの酸化鉄(バイエル社製の商品名:バイフェロックス) 40質量部と粘度10,000mPa・sの分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ポリジメチルシロキサン(ビニル基の含有量=0.13質量%) 60質量部との混合物
表面処理剤:粘度40mPa・sの分子鎖両末端シラノール基封鎖ジメチルシロキサンポリシロキサン
【0054】
【表1】
【0055】
[実施例9~13]
上記の成分に加え、下記の成分を表2に示した組成で均一に混合して、定着部材形成用シリコーンゴム組成物を調製した。得られたシリコーンゴムの特性を表2に示した。なお、表2中のSiH/Viは、(A)成分中のビニル基に対する(C)成分中のケイ素原子結合水素原子のモル比を示す。
【0056】
(A)成分として、さらに下記の成分を用いた。
(a-5)成分:粘度2,000mPa・sの分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン(ビニル基の含有量=0.23質量%)
(a-6)成分:JIS K 6249に規定の可塑度が160であり、一分子中に少なくとも2個のビニル基を有するガム状ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体(ビニル基の含有量=0.22質量%)
【0057】
その他の成分として、さらに、下記の成分を用いた。
カーボンブラックMB: アセチレンブラック(デンカブラック:電気化学工業株式会社製) 20質量部と粘度2,000mPa・sの分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ポリジメチルシロキサン(ビニル基の含有量=0.23質量%) 80質量部との混合物
【0058】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0059】
本組成物は、低熱容量で、高熱伝導性を有し、熱エージングによってもスキン層を形成しにくいシリコーンゴムを形成するので、複写機やレーザープリンターに用いられる定着ロールや定着ベルト等の定着部材の形成用材料として好適である。