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特許7116123高電圧用途のためのカソード材料及び電解質添加剤を含むリチウムバッテリ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-01
(45)【発行日】2022-08-09
(54)【発明の名称】高電圧用途のためのカソード材料及び電解質添加剤を含むリチウムバッテリ
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0567 20100101AFI20220802BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20220802BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20220802BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20220802BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20220802BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20220802BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20220802BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20220802BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01M4/36 C
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/587
H01M10/052
H01M10/0568
H01M10/0569
【請求項の数】 12
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020120475
(22)【出願日】2020-07-14
(62)【分割の表示】P 2018513817の分割
【原出願日】2016-09-15
(65)【公開番号】P2020174053
(43)【公開日】2020-10-22
【審査請求日】2020-07-15
(31)【優先権主張番号】62/219,177
(32)【優先日】2015-09-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】15185611.9
(32)【優先日】2015-09-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】15190115.4
(32)【優先日】2015-10-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501094270
【氏名又は名称】ユミコア
(73)【特許権者】
【識別番号】517107151
【氏名又は名称】ユミコア・コリア・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】シン・シア
(72)【発明者】
【氏名】マキシム・ブランジェロ
(72)【発明者】
【氏名】ジン・ジャン
(72)【発明者】
【氏名】ウェンロン・ヤン
(72)【発明者】
【氏名】ジェンス・ポールセン
【審査官】小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-331943(JP,A)
【文献】特表2014-516454(JP,A)
【文献】特開2010-198916(JP,A)
【文献】特開2009-123465(JP,A)
【文献】特開2014-241300(JP,A)
【文献】国際公開第2008/138132(WO,A1)
【文献】特開2012-256502(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0567
H01M 4/36
H01M 4/485
H01M 4/505
H01M 4/525
H01M 4/587
H01M 10/052
H01M 10/0568
H01M 10/0569
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア及び表面層を有する粉末ドープLiCoO活性材料を含むカソードと、グラファイトを含むアノードと、カーボネート系溶媒、リチウム塩並びにスクシノニトリル(SN)及びリチウムビス(オキサラト)ボレート(LiBOB)添加剤の両方を含む電解質とを含み、前記活性材料が少なくとも0.5モル%のMn、Mg、及びTiの1つ又は複数のいずれかでドープされており、前記活性材料のコア及び表面層の両方が、Mn、Mg、及びTiの1つ又は複数のいずれかでドープされたLiCoOを含み、
前記活性材料をMgでドープする場合、前記表面層におけるMg:Co比対前記コアにおけるMg:Co比は2超である、又は
前記活性材料をMnでドープする場合、前記表面層におけるMn:Co比対前記コアにおけるMn:Co比は2超である、又は
前記活性材料をTiでドープする場合、前記表面層におけるTi:Co比対前記コアにおけるTi:Co比は2超である、ことのいずれかであり、
4.5Vで100%の充電状態(SOC)から3Vで0%のSOCへのC/10速度での45℃での放電の間の4.42V及び4.35VのSOCの差は、少なくとも7%以上14%未満である、4.35V以上の作動電圧を有するリチウム二次電池。
【請求項2】
前記電解質は、0.5w%~3wt%のスクシノニトリルを含む、請求項1に記載のリチウム二次電池。
【請求項3】
前記電解質は、0.5w%~3wt%のスクシノニトリル及び0.5wt%~5wt%のリチウムビス(オキサラト)ボレートを含む、請求項1に記載のリチウム二次電池。
【請求項4】
前記カーボネート系溶媒は、エチレンカーボネート(EC)、ビニレンカーボネート(VC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)及びジエチルカーボネート(DEC)のうちの1つ又は複数のいずれかを含み、前記リチウム塩はLiPFからなる、請求項1に記載のリチウム二次電池。
【請求項5】
前記活性材料の前記コアが層状結晶構造を有し、かつ元素Li、金属M及び酸素からなり、前記金属Mは、式M=Co1-a”M’a”を有し、0≦a”≦0.05であり、M’はAlである、又は、M’はAl並びにMg、Ti、Ga及びBの1つ又は複数のいずれかであり、前記表面層は、Li、Co、及び無機N系酸化物又はリチウム化酸化物を含み、Nは、Al、Mg、Ti、Ni、Mn、Fe、Cu、Ca、Ba、Y、Sn、Sb、Na、Zn、Zr及びSiからなる群の1つ又は複数のいずれかの金属であり、前記活性材料中のAl:Coのモル比は0.004超であり、前記コアのMg及びAlの両方の含有量は、前記表面層のMg及びAlの含有量とは異なる、請求項1に記載のリチウム二次電池。
【請求項6】
前記活性材料の前記表面層は、前記コアに緻密に焼結された複数の島からなり、前記島はNiと少なくとも5モル%のMnとを含む、請求項1に記載のリチウム二次電池。
【請求項7】
前記島中のMn濃度は、前記コア中のMn濃度より少なくとも4モル%高く、前記島中のNi濃度は前記コア中のNi濃度よりも少なくとも2モル%高い、請求項6に記載のリチウム二次電池。
【請求項8】
前記活性材料は、一般組成LiCo1-a-b 2-d、0.97<x<1.01、0.005≦a<0.10、0.001≦b≦0.02及び-0.1≦d≦0.1を有し、MはNi及びMnの一方又は両方であり、MはAl、Mg、Ca、Ti及びZrからなる群からの1つ又は複数のいずれかの金属であり、前記活性材料の粒子は、コアP2及びシェルP1を含み、P1は、前記コアP2に緻密に焼結された複数の島からなり、重量比P1/P2が0.5未満であり、かつP1+P2=1であり、P2におけるMのモル含有量はP1におけるモル含量より小さく、P2における(M+Co)のモル含有量はP1よりも大きい、請求項1に記載のリチウム二次電池。
【請求項9】
前記活性材料は、一般組成Lix’Co1-a’-b’ a’ b’2-d’、0.97<x’<1.01、0.005≦a’<0.10、0.001≦b’≦0.02及び-0.1≦d’≦0.1を有し、MはNi及びMnの一方又は両方であり、MはAl、あるいはAl並びにMg、Ca、Ti及びZrからなる群からの1つ又は複数のいずれかの金属であり、前記活性材料の粒子は、コアP2及びシェルP1を含み、P1は、Co及びMを含み、P2はCo及びAlを含み、P1は、前記コアに緻密に焼結された複数の島からなり、重量比P1/P2が0.5未満であり、かつP1+P2=1であり、P2におけるMのモル含有量はP1におけるモル含量より小さく、P2におけるAlのモル含有量はP1よりも大きい、請求項1に記載のリチウム二次電池。
【請求項10】
前記活性材料において、M’はAlである、又は、M’はAl、並びにGa及びBの一方又は両方であり、前記表面層が、Li、Co、及び無機N系酸化物又はリチウム化酸化物からなり、NはAl、Ti及びMgであり、又はNはAl、Ti、Mg、並びにFe、Cu、Ca、Ba、Y、Sn、Sb、Na、Zn、Zr及びSiからなる群の1つ又は複数のいずれかの金属である、請求項5に記載のリチウム二次電池。
【請求項11】
ル比Li:(Co+Al)は、0.98超1.01未満である、請求項10に記載のリチウム二次電池。
【請求項12】
前記活性材料は、25℃で63.7MPaの圧力下で測定して10-5S/cm未満の導電率を有する、請求項10に記載のリチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高電圧用途に有用な正極材料及び電解質添加剤を含有する二次リチウムイオンバッテリに関する。より具体的には、正極は、コバルト酸リチウム化合物を含む。
【背景技術】
【0002】
近年、再充電可能なリチウムイオンバッテリは、携帯電話、ラップトップコンピュータ、デジタルカメラ、及びビデオカメラなどの様々なポータブル電子機器用途に広く使用されている。商業用リチウムイオンバッテリは、カソード材料としてコバルト酸リチウムを、アノード材料としてグラファイトを使用する。カスタマーエレクトロニクスの発展に伴い、エネルギー密度のより高いリチウムコバルト酸化物系二次リチウムイオンバッテリが急増している。昨年、容積エネルギー密度を改善した充填技術、粉末操作及びアノード系を含む電池設計の最適化のための最初の試みがなされた。しかし、改善はカソード系によって制限される。より高いエネルギー密度を達成するためには、カソード材料の連続最適化が必要である。ここで、カソード材料のエネルギー密度は、充填密度(g/cm)、比容量(mAh/g)及び平均作動電圧(V)の積として定義することができる。
【0003】
エネルギー密度を向上させるためには、(a)粉末粒子の粒径を大きくするなどして充填密度を高めること、(b)充電電圧、コイン電池に合う場合は通常4.5V又は4.6V対Li金属、並びにより高い電圧で充電され得るより強固なカソード材料を必要とするフル電池に合う場合は4.35V、4.4V以上対グラファイト、を増大させることにより比容量を高めることの2つの通常の方法がある。最先端のLiCoO系カソード材料は概して、高い重量密度を有するが、高電圧で安定してサイクルしない。LiCoOカソードを有するフル電池は、通常、グラファイトアノードに対して約4.2Vの上限カットオフ電圧でサイクルされ、約143mAh/gの比容量を生じる。充電電圧を4.35Vまで上昇させることにより、比容量を164mAh/gに改善することができる。
【0004】
更に4.40Vへの上昇は、4.2Vの値と比較して比容量を20%上げることができる。しかし、脱インターカレートされたLiCoOの構造的不安定性、及びLiCoOの不安定な表面と電解質との間の副反応により、このような高い上限カットオフ電圧(≧4.35V)下でのLiCoOの充放電サイクルは、容量劣化を早める結果となる。リチウムがLixCoO(x<1)から除去されるにつれて、Co3+が不安定な酸化状態のCo4+に酸化される。充電電圧が高いほど、Co4+の量が多くなる。充電されたコバルト酸リチウムは、非常に強い酸化剤であり、反応性が高い。従って、酸化表面は、電解質が還元剤であることによる望ましくない副反応を劇的に増加させる。高電圧での通常のサイクル中の低温においてさえも、これらの寄生的な反応はゆっくりとしかし連続的に進行する。これにより、Coイオンが電解質に溶解し、最終的にコバルトがアノードの表面に堆積し、電解質が分解する。これらの全ての影響は、バッテリの電気化学的性能の連続的劣化を引き起こす:容量の損失及び内部抵抗の強い増加(分極としても知られている)が観察される。従って、カソードを寄生的な反応から保護し、高電圧用途に適用するためには、LiCoO化合物のドーピング及びコーティングのような改変が必要である。
【0005】
この改善されたLiCoOはより安定であるが、高電圧に充電すると電解質とまだ反応し、充電後に高温で電池を保存するとこの副反応が確実に加速される。従って、本質的に、LiCoOは、過酷な貯蔵問題を有し、これは、カットオフ電圧が上昇すると悪化する。ストレージ及び性能を改善するための現在の解決法は、例えば、寄生的な反応を予防又は低減する適切な電解質添加剤を加えることにより、より強固なLiCoO系カソード材料及びより安定した電解質系を開発することである。「Energy Environmental Science,2011,4,4038」において、Young-Soo Kimらは、LiCoO系カソード及びグラファイト系アノードからなるリチウムイオンバッテリの高温での安定性を改善する、SNと称される電解質添加剤スクシノニトリル、C(CN)を提案した。彼らは、SNの導入が電池の膨張を減少させ、この改善はLiCoOの表面とSNとの間の強い錯体配位に起因すると考えた。US20040013946A1において、SNはまた、サイクル性能及びストレージ特性を改善するための電解質添加剤として示唆されている。従って、SNは、ストレージ中の電解質安定性を維持するための良好な候補の添加剤である。
【0006】
しかしながら、この電解質添加剤は望ましくない副作用を引き起こす。「Journal of The Electrochemical Society,2014,161(4)A506」において、40℃で0.1Cで充/放電を20サイクル行った後に、SNを添加した場合と添加しなかった場合のLiCoO/グラファイトパウチ電池のACインピーダンスを測定した。著者らは、SNを有する電池がSNを有しない電池と比較してはるかに大きなインピーダンスを有するので、SNはサイクル中のインピーダンスの増大を容易にすることを発見した。これらのサイクル条件は、ストレージのような条件であり、それらはインピーダンスの増大に有利である。SNは、室温でのサイクル性能にほとんど影響を及ぼさず、日常的に使用されるバッテリに適用されても問題を起こさない可能性がある。しかし、電池が様々な温度で使用されることを考慮すると、電池を高温で充電し、保存した後、常温でサイクルさせる場合のように、高温期間中のインピーダンス増大は、常温でのサイクルに不可避的な負の影響をもたらし得る。従って、ストレージ安定性を向上させるためにSNを電解質添加剤として使用する場合、インピーダンスの増加を緩和するための解決策を見出すことが必要である。
【0007】
LiBOBと呼ばれるリチウムビス(オキサラト)ボレート、LiB(Cも公知の電解質添加剤であるが、Fujiらは、https://www.electrochem.org/dl/ma/202/pdfs/0203.PDFにおいて、LiCoOを含む電池では、LiBF及びLiBFなどの一般的な添加剤と比較して、LiBOBは電気化学的安定性及び放電容量が劣ると判断されたことを見出した。更に、LiBOBは、4.5Vを超えて充電されると酸化された。Taubertらは、「214th ECS Meeting,Abstract #740」において、電解質塩としてのLiBOBの使用がLiCoOカソード材料との適合性が低いようであることも確認している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
要約すると、本発明の目的は、高電圧(フル電池で4.35V超)に充電することができ、高温ストレージ中に良好な安定性と低インピーダンス増大を有する二次リチウムイオンバッテリを提供することである。具体的には、高温ストレージでのインピーダンス増大が少ない安定した電解質系と組み合わせた高電圧LiCoO系カソード材料の開発を目標とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の態様から見ると、本発明は、以下の製品の実施形態を提供し得る:
実施形態1:コア及び表面層を有する粉末ドープLiCoO活性材料を含むカソードと、グラファイトを含むアノードと、カーボネート系溶媒、リチウム塩並びにスクシノニトリル(SN)及びリチウムビス(オキサラト)ボレート(LiBOB)添加剤の両方を含む電解質とを含み、活性材料が少なくとも0.5モル%のMn、Mg、及びTiの1つ又は複数のいずれかでドープされており、
活性材料をMgでドープする場合、表面層におけるMg:Co比対コアにおけるMg:Co比は2超である、又は
活性材料をMnでドープする場合、表面層におけるMn:Co比対コアにおけるMn:Co比は2超である、又は
活性材料をTiでドープする場合、表面層におけるTi:Co比対コアにおけるTi:Co比は2超である、ことのいずれかである、4.35V以上の作動電圧を有するリチウム二次電池。活性材料の粒子は、コア及び表面層のみからなるものであってもよい。表面層は、1μm未満又は500nm未満の厚さを有してもよい。
【0010】
実施形態2:4.5Vで100%の充電(SOC)状態から3Vで0%のSOCへのC/10速度での45℃での放電の間の4.42V及び4.35VのSOCの差は、少なくとも7%以上14%未満である、リチウム二次電池。
【0011】
実施形態3.電解質は、0.5wt%~3wt%のスクシノニトリル及び0.5wt%~5wt%のリチウムビス(オキサラト)ボレートを含む、リチウム二次電池。この実施形態では、電解質が1wt%~2wt%のスクシノニトリル及び1wt%~2wt%のリチウムビス(オキサラト)ボレートを含むことでもあり得る。
【0012】
実施形態4.カーボネート系溶媒は、エチレンカーボネート(EC)、ビニレンカーボネート(VC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)及びジエチルカーボネート(DEC)のうちの1つ又は複数のいずれかを含み、リチウム塩はLiPFからなる、リチウム二次電池。
【0013】
実施形態5.活性材料のコアが層状結晶構造を有し、かつ元素Li、金属M及び酸素からなり、金属Mは、式M=Co1-a”M’a”を有し、0≦a”≦0.05であり、M’はAlである、又は、M’はAl並びにMg、Ti、Ga及びBの1つ又は複数のいずれかであり、表面層は、Li、Co、及び無機N系酸化物又はリチウム化酸化物を含み、Nは、Al、Mg、Ti、Ni、Mn、Fe、Cu、Ca、Ba、Y、Sn、Sb、Na、Zn、Zr及びSiからなる群の1つ又は複数のいずれかの金属であり、活性材料中のAl:Coのモル比は0.004超であり、コアのMg及びAlの両方の含有量は、表面層のMg及びAlの含有量とは異なる、リチウム二次電池。この実施形態では、コア中のAl含有量は半径方向に一定であり、表面層中のAl含有量よりも少ない。
【0014】
実施形態6.活性材料の表面層は、コアに緻密に焼結された複数の島からなり、島はNiと少なくとも5モル%、好ましくは少なくとも10モル%のMnとを含む、リチウム二次電池。
【0015】
実施形態7.島中のMn濃度は、コア中のMn濃度より少なくとも4モル%、又は少なくとも7モル%高く、島中のNi濃度はコア中のNi濃度よりも少なくとも2モル%、又は少なくとも6モル%高い、実施形態6に記載のリチウム二次電池。
【0016】
実施形態8.活性材料は、一般組成LiCo1-a-b 2-d、0.97<x<1.01、0.005≦a<0.10、0.001≦b≦0.02及び-0.1≦d≦0.1を有し、MはNi及びMnの一方又は両方であり、MはAl、Mg、Ca、Ti及びZrからなる群からの1つ又は複数のいずれかの金属であり、材料の粒子は、コアP2及びシェルP1を含み、P1は、コアP2に緻密に焼結された複数の島からなり、重量比P1/P2が0.5未満であり、かつP1+P2=1であり、P2におけるMのモル含有量はP1におけるモル含量より小さく、P2における(M+Co)のモル含有量はP1よりも大きい、リチウム二次電池。好ましくは、0.98≦x<1.00である。ここでは、次のような場合もあり得る:
P1はCo及びMを含み、P2はCo及びMを含み、P2におけるMのモル含有量はP1におけるものよりも多いか、又は
P1とP2との間の界面の近くでは、Mのモル含有量は、P2のbからP1のb/2未満に減少する勾配様プロファイルを有するか、又は
P1とP2との間の界面の近くでは、Mのモル含有量は、P1のaからP2のa/5未満に減少する勾配様プロファイルを有するか、又は
は0.5モル%~1.5モル%のMgと0.5モル%~1.5モル%のAlの一方又は両方からなる。
【0017】
実施形態9.活性材料は、一般組成Lix’Co1-a’-b’ a’ b’2-d’、0.97<x’<1.01、0.005≦a’<0.10、0.001≦b’≦0.02及び-0.1≦d’≦0.1を有し、MはNi及びMnの一方又は両方であり、MはAl、あるいはAl並びにMg、Ca、Ti及びZrからなる群からの1つ又は複数のいずれかの金属であり、材料の粒子は、コアP2及びシェルP1を含み、P1は、Co及びMを含み、P2はCo及びAlを含み、P1は、コアに緻密に焼結された複数の島からなり、重量比P1/P2が0.5未満であり、かつP1+P2=1であり、P2におけるMのモル含有量はP1におけるモル含量より小さく、P2におけるAlのモル含有量はP1よりも大きい、リチウム二次電池。好ましくは、0.98≦x’<1.00である。ここでは、次のような場合もあり得る:
P2におけるCo及びAlのそれぞれのモル含有量は、P1におけるものよりも多く、又は
P1とP2との間の界面の近くでは、Alのモル含有量は、P2のb’からP1のb’/2未満に減少する勾配様プロファイルを有するか、又は
P1とP2との間の界面の近くでは、Mのモル含有量は、P1のa’からP2のa’/5未満に減少する勾配様プロファイルを有するか、又は
は0.5モル%~1.5モル%のMgと0.5モル%~1.5モル%のAlとからなる。
【0018】
実施形態10.活性材料において、M’はAlである、又は、M’はAl、並びにGa及びBの一方又は両方であり、表面層が、Li、Co、及び無機N系酸化物又はリチウム化酸化物からなり、NはAl、Ti及びMgであり、又はNはAl、Ti、Mg、並びにFe、Cu、Ca、Ba、Y、Sn、Sb、Na、Zn、Zr及びSiからなる群の1つ又は複数のいずれかの金属である、実施形態5に記載のリチウム二次電池。表面層中のMg:Co及びTi:Coのモル比の1つ又は複数のいずれかは、対応する名目上のMg:Co又はTi:Coのモル比の2倍超、又は5倍超であってもよく、名目上の比は、コア及び表面層を含む粉末中の比である。
【0019】
実施形態11.モル比Li:(Co+Al)は、0.98超1.01未満である、実施形態10に記載のリチウム二次電池。
【0020】
実施形態12.活性材料は、25℃で63.7MPaの圧力下で測定して10-5S/cm未満又は10-6S/cm未満の導電率を有する、実施形態10に記載のリチウム二次電池。
【0021】
特に言及しない限り、上述の各個々の製品実施形態は、その前に記載された製品実施形態のうちの1つ以上と組み合わせることができる。いくつかの実施形態では、活性材料は、小粒径分画がD50≧5μmを有し、3vol%~20vol%であり、大きな粒径分画がD50≧15μmを有する二峰性粒径分布を有し得る。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】等価電気回路の図。
図2】浮動試験結果の図。
図3a】3.0V~4.61Vの電圧範囲におけるEx1、Ex2、及びCEx1の電圧プロファイル。
図3b】4.45V~4.61Vの電圧範囲における図3(a)の拡大グラフ。
図4】4.40V~4.61Vの電圧範囲におけるEx1、Ex2、及びCEx1のサイクル性。
図5】dQ/dV対3.0V~4.61Vの電圧範囲におけるEx1、Ex2、及びCEx1の電圧のプロット。
図6】浮遊電流対Ex1、Ex2及びCEx1の時間のプロット。
図7】ストレージ1及びストレージ2中の電池1~電池8の電圧変化。
図8】ストレージ試験における電池1~電池8の正規化された保持容量。
図9】ストレージ試験における電池1~電池8の正規化された回復容量。
図10】電池1~電池6のストレージ後の抵抗の増加(パーセンテージ)。
図11a】3.0V~4.5Vの電圧範囲における電池9~電池11の第1のサイクル電圧プロファイル。
図11b】4.3V~4.5Vの電圧範囲における図11(a)の拡大グラフ。
図12】市販のLiCoOの第1のサイクル電圧プロファイルの微分曲線dV/dQ。
図13】電池9~電池12に対応するフル電池(SOC)、グラフ(a)~グラフ(d)の充電状態の関数としての第1のサイクル電圧プロファイル。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、高電圧時での動作に特に適したLiCoO系カソード材料とSN及びLiBOBを含む電解質添加剤とを含む再充電可能なリチウムイオンバッテリを提供する。カソードの活性材料は、Mn、Mg及びTiのうちの1つ又は複数のいずれかを少なくとも0.5モル%ドープされる。この活性材料を得るにはいくつかの方法がある。
【0024】
1つの方法は、WO2012/171780に記載されている方法に類似しており、以下の工程からなる:
(i)Li対金属のモル比が>1.01、更には1.05~1.10、特に1.07~1.09の第1の金属M含有粉末と第1のLi含有前駆体粉末との第1の混合物を準備すること、
(ii)この混合物を酸素を含む雰囲気中で少なくとも600℃の温度Tで焼結して、それによりLi富化リチウム金属酸化物化合物を得ること、
(iii)第2のM含有前駆体粉末を準備すること、
(iv)Li富化リチウム金属酸化物化合物と第2のM含有前駆体粉末とを混合して第2の混合物にし、それにより、混合物中のLi:Mのモル比が、1.00±0.01に調整されること、並びに
(v)少なくとも600℃の温度Tで、酸素を含む雰囲気中で第2の混合物を焼結すること。この方法は、コア及び表面層を有するリチウム金属酸化物粉末をもたらし、コアは、元素Li、金属M及び酸素からなる層状構造を有し、MはドープされたCoであり、表面層は、コアLi、M及び酸素の元素並びにNがMg、Al及びTiである無機N系酸化物を含む。これらのN酸化物はまたLiを含み得る。
【0025】
第1のM含有前駆体及び第2のM含有前駆体は、コバルト含有前駆体及びM’含有前駆体の混合物であってもよい。適切なコバルト含有前駆体の例としては、酸化コバルト、水酸化コバルト、オキシ水酸化コバルト、コバルトカーボネート及びシュウ酸コバルトが挙げられる。M’含有前駆体は、均質な分配及び容易な混合プロセスを達成するために、好ましくはサブマイクロメートルの粉末形態を有する酸化物、水酸化物又は有機錯体であり得る。いくつかの実施形態では、第1のM、第2のM及び第1のLi含有前駆体粉末のいずれか1つ又は全ては、Al、Mg、Fe、Cu、Ti、Ca、Ba、Y、B、Sn、Sb、Na、Ga、Zn、F、P、S及びZrからなる群からの少なくとも1つのドーパントを更に含む。これらの実施形態の1つでは、第1のM及び第1のLi含有前駆体粉末のいずれか一方又は両方は、Mg、Fe、Cu、Ti、Ca、Ba、Y、Sn、Sb、Na、Zn、Zr、F、P、S及びSiからなる群の少なくとも1つの元素を更に含む。ドーパント元素の均質な分布は重要であり、このプロセスの実施形態を使用することによって改善され得る。代替のプロセスの実施形態では、第2のM含有前駆体粉末が、Mg、Fe、Cu、Ti、Ca、Ba、Y、Sn、Sb、Na、Zn、Zr及びSiからなるドーパント元素群の少なくとも1つの元素を更に含む場合、ドーパントの均一な分散が改善される。ドーパント元素を含む適切な化合物の例は、サブミクロンの粒径を有する酸化物(MgO、TiO、SiOなど)、蛍石(MgFなど)である。
【0026】
1つの特定の実施形態では、好ましくはそれぞれ100nm未満及び1μm未満のD50を有するTiO、Al及びMgO粒子の形態のTi、Al及びMgを、上記の第1及び第2の混合物の一方又は両方に添加する。別の実施形態では、好ましくは100nm未満のD50を有するAl粒子の形態のAlを上記の第2の混合物に添加する。別の特定の実施形態では、Li富化リチウム金属酸化物化合物は、少なくとも5、好ましくは少なくとも10マイクロメートル~20マイクロメートルの高密度モノリシック粒子を有するLi1+xCoOである。多くの商業的な先行技術のLiCoO材料は既にこの所望の形態を有する。
【0027】
別の方法は、US2012/0134914A1に記載されている方法に類似しており、以下の工程からなる:
(i)ドープされたLiCoO粉末又は少なくとも90モル%のコバルト含有量を有するコバルト含有前駆体化合物とドーパント前駆体との混合物のいずれかからなる第1の粉末を準備すること、
(ii)Li-Ni-Mn-Co-酸化物又はNi-Mn-Co前駆体粉末のいずれか及び場合によりLi前駆体化合物、好ましくはリチウムカーボネートからなる第2の粉末を準備すること、
(iii)第1の粉末と第2の粉末とを混合すること、
(iv)第1及び第2の粉末の混合物を少なくとも900℃の温度Tで1時間から48時間の時間t焼結して、それらの表面にMn及びNi富化島を有するMn及びNiがドープされたLiCoO粒子を得ること。ドーパント前駆体の量は、Al及びMgからなる群から選択される1つ以上のドーパントの5モル%未満(最終Co+Mn+Ni含有量に対して)かつTi、Be、B、Ca、Zr、S、F及びPからなる群から選択される1つ以上のドーパントの1モル%未満(最終Co+Mn+Ni含有量に対して)を含む最終生成物を生じさせるために選択される。一実施形態では、最終生成物の組成及び構造は、いくつかのNi及びMnが拡散したMgドープLiCoOコア並びにNi及びMnで富化された表面層であり、いくつかのCoはコアから拡散している。連続的な表面層のような表面的な島の構造に加えて、異なる実施形態が可能である。
【0028】
この方法の一実施形態では、Ni-Mn-Co前駆体粉末は、遷移金属水酸化物、オキシ水酸化物、カーボネート、オキシカーボネート又はリチウム遷移金属化合物であり、遷移金属組成M’’は、M’’=NiMnCo1-o-p(o+p>0.5かつo>p)である。また、Ni-Mn-Co前駆体粉末は、粉末リチウム遷移金属酸化物の5モル%~70モル%の遷移金属含有量を有し得る。別の実施形態では、第2の粉末がLi-Ni-Mn-Co-酸化物からなる場合、この粉末のD50はコアドープLiCoO粒子のD50より小さい。
【0029】
本発明による再充電可能なバッテリは、高電圧で動作することができ、カソードにおける利用可能なリチウムをより良く利用するので、より高いエネルギー密度を達成することを可能にする。このような安定なカソード材料を含むバッテリは、SN及びLiBOBのような本発明による適切な電解質添加剤の組み合わせを添加して、以下に説明する高温(HT)-ストレージ試験において高い安定性及び低い増大抵抗を有する。従って、本発明の提案された再充電可能なリチウムイオンバッテリは、高電圧条件下で安定して動作することが期待され、高エネルギー密度の要求を結果的に満足する。
【0030】
本発明は、特定のドープされた又は表面改質されたLiCoO系カソード材料が、コイン電池浮動試験において4.35Vを超える電圧に対して安定して充電され、コイン電池試験において約4.6Vの高電圧でサイクルされ得ることを発見する。一実施形態では、LiCoO粉末は、1モル%のMg、1モル%のAl及び0.283モル%のTiによってドープされる。このドーピングは、浮動試験におけるCo溶解を低減させることに対して正の影響をもたらし、驚くべきことに、3.0V~4.6Vの範囲でサイクルすることによって得られる電圧プロファイルにおいてO3からH1-3遷移プラトーの長さを最適化する。
【0031】
O3-H1-3遷移の概念は、「Journal of Electrochemical Society,1988,145(6),2149」に最初に記載されている。LixCoOがx=0.4未満でx=0.2(4.55Vにおいて)に近いLi濃度に脱リチウム化されると、そのO3ホストは菱面体晶LiCoO(O3構造)と六方晶CoO(O1構造)とのハイブリッド構造に変換する。ハイブリッド構造では、LiイオンはO3環境でプレーンに存在し、空孔はO1環境を有する。電圧プロファイルでは、O3とH1-3との間の二相領域に対応する、0.2に近いLi濃度で(又は約4.55Vの電圧で)一般的に現れる大きなプラトーが存在する。二相プラトーの出現は明らかに比容量を増加し得る。しかしながら、高電圧でのO3とH1-3との間の構造遷移は、CoO平面滑走を誘発し、結果的にサイクル中の構造的不安定性をもたらす。本発明は、二相プラトーの長さが高電圧でのサイクル中の材料の安定性に関係し、過度に長いプラトーは速い劣化をもたらすことを観察する。さもなくば、プラトーが小さすぎると、カソードの可逆容量が少なくなる。ドーピング及びコーティング並びに特別な調製技術により、O3からH1-3への遷移プラトーの性質が影響を受ける。
【0032】
一実施形態では、LiCoO系カソードはまた、ニッケル及びマンガンを含む。Ni-Mnは、LiCoO粒子の表面で富化され、Ni-Mnのいくつかは、分離されたLi-Ni-Mn-Co粒子中に存在し得る。この材料は、4.4V~4.61Vの電圧範囲を有するコイン電池試験においてカソード材料として適用される。その電圧プロファイルは、裸のLiCoO系材料と比較して、低減された二相プラトー及びより良いサイクル安定性を示す。従って、本発明の改質LiCoO系の粉末は、容量とサイクル特性とのバランスを取るのに有益な、O3からH1-3遷移の最適化された性質を有する。本発明のドープされた又は表面改質されたLiCoO系粉末は、浮動試験において改善された安定性をもたらす。一実施形態では、NMC被覆LiCoO系粉末は、50℃で4.4Vの一定電圧下で長期間使用した場合に少量のCoしか溶解しない。従って、このような改善されたLiCoO系粉末は、高電圧下での使用のための良好な候補のカソード材料である。この発明の高V系LiCoO2材料の良好な性能とH1-3遷移のサイズとの間に密接な関係がある。適切な量のH1-3相転移をもたらす好適な組成物は、概要に記載されるリチウム金属酸化物である。
【0033】
本発明による改質LiCoO系粉末は、フル電池構成の正極として適用され、高温ストレージ試験で試験される。この結果は、SNが電解質に添加されると、そのようなカソード材料を有するフル電池が高温ストレージ下で満足のいく安定性を有することを証明する。更に示されるように、SNは60℃でのストレージ試験中において電池のインピーダンスを強く増大させることが観察される。増大したインピーダンスは、常温での更なるサイクル性能に大きく影響する。より詳細に説明すると、高いVLiCoOカソードと電解質中のSNとを含有するバッテリは、比較的高い温度でサイクル又は保存すると良好に機能する。抵抗性インピーダンス層が増大するが、より高いTでのより速い運動により、インピーダンスは許容され得る。同じバッテリは、サイクル又はより低い温度で保存するとうまく動作する。ここで、たとえSNが電解質中に存在するとしても、インピーダンスの増大は非常に遅く生じ、バッテリは長時間良好に動作し得る。しかし、より高い温度でストレージされた高いVLiCoOカソード及び電解質中のSNを含む充電されたバッテリは、より低い温度で使用されると、著しい劣化を示す。高温度ではインピーダンス層が急速に増大し、低温では増大した層が性能を著しく低下させる。
【0034】
一般的なバッテリ試験では、この問題を見落とす傾向があり、例えば、バッテリは通常、高温又は低温でサイクル又は保存されることによって試験される。しかし、実際の使用では温度の変化が典型的である。従って、良好なストレージ性能を達成することが不可欠であり、先行技術は、これを達成するためにSNが良好な添加剤であることを教示しているが、抵抗性インピーダンス層の増大が少ないながらも良好なストレージ特性を達成しなければならない。本発明は、高いVLiCoO系カソード、SN添加剤及びLiBOB添加剤の組み合わせがこれを達成することを開示する。特に、LiBOBとSNとの間には相乗効果がある。良好なストレージは維持されるが、インピーダンス増大は観察されない。
【0035】
一実施形態では、SN及びLiBOBの組み合わせは、EC(エチレンカーボネート):DEC(ジエチルカーボネート):FEC(モノフルオロエチレンカーボネート)(重量比23.8:71.4:4.8)の標準的な溶媒組成において電解質添加剤として働く。このような電解質系を有するフル電池のストレージ試験は、自己放電がほとんどなく、インピーダンスが非常に低いことを示している。フル電池系へのLiBOBの添加は、インピーダンス増大を防止すると考えられている。文献から知られているように、LiBOBは、高電圧でカソード表面上で酸化され、不動態化膜を形成する傾向がある。SNはまた、その孤立した電子対の存在により、カソード表面上の遷移金属と反応することに有利である。LiBOBの添加は、SNとLiBOBとの間の「競合」をもたらし、HTストレージ中にSNとカソード表面との反応によって生じる抵抗を緩和すると考えられる。
【0036】
他の実施形態では、PRS(プロペンスルトン)又はVC(ビニレンカーボネート)の添加がインピーダンスの低減にわずかな影響を与えることも発見されている。LiBOB及びSNが添加剤として働き、EC/DEC/FECのような標準的な溶媒系が溶媒として使用される場合、PRS又は/及びVCの添加がフル電池のストレージ特性に有益であり、本発明による表面改質LiCoO系粉末を正極として適用することが想像し得る。
【0037】
従って、本発明は、電解質が4.35V~4.42Vの間のH1-3相転移を示す高電圧LiCoO系カソードを含む正極を有する添加剤LiBOB及びSNを含む再充電可能なリチウムイオンバッテリ装置を提供する。LiCoO系カソード材料は、概要に記載されている。この電気化学装置は、高電圧でのサイクル中に高い容量及び満足のいく安定性を有するだけでなく、HTストレージ中においても良好に機能する。自己放電はほとんどない。特に、インピーダンス増大はほとんどない。従って、高いエネルギー密度を必要とする用途に、安定して繰り返し使用することができる。
【0038】
以下の説明では、分析試験について詳しく説明する。
コイン電池製造
電極を、次のように調製する。約27.27wt%の活性カソード材料、1.52wt%ポリフッ化ビニリデンポリマー(KF polymer L #9305,Kureha America Inc.)、1.52wt%導電性カーボンブラック(Super P,Erachem Comilog Inc.)及び69.70wt%N-メチル-2-ピロリドン(NMP)(Sigma-Aldrich製)を高速ホモジナイザーにより密に混合する。次いで、このスラリーを、テープキャスティング法によってアルミニウム箔上に薄層(典型的には100マイクロメートルの厚さ)で広げる。NMP溶媒を蒸発させた後、キャストフィルムを40マイクロメートルのギャップを使用してロールプレスで処理する。電極は直径14mmの円形ダイカッタを使用してフィルムから打ち抜かれる。次いで電極を90℃で一晩乾燥させる。続いて電極を秤量して、活性材料の積載量を求める。典型的には、電極は、約17mg(約11mg/cm)の活性材料積載重量を有する90wt%活性材料を含む。次いで、電極をアルゴン充填グローブボックスに入れ、2325型コイン電池本体内で組み立てる。アノードは、500マイクロメートルの厚さのリチウム箔である(Hosenより入手)。セパレータはTonen 20MMS微多孔性ポリエチレンフィルムである。コイン電池に、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートの1:2体積比の混合物に溶出したLiPFの1M溶液を充填する(Techno Semichem Co.より入手)。
【0039】
コイン電池試験
本発明では、各コイン電池を、Toscat-3100コンピュータ制御ガルバノスタティックサイクルステーション(Toyo製)を用いて25℃でサイクルする。以下の実施例を評価するために使用したコイン電池試験スケジュールを表1に詳述する。このスケジュールでは、160mA/gの1C電流定義を使用する。全てのサイクルにおいて、充電工程は定電流-定電圧モード(CCCV)で行われ、放電モードは定電流モード(CC)で動作する。第1のサイクル中、初期充電容量CQ1及び放電容量DQ1は、4.61V/Li~3.0V/Liメタルウィンドウ範囲の0.1Cで測定される。各充放電の間に30分の休憩時間を設ける。次に、電池を4.61V/Li~4.40V/Li金属の電圧範囲内の0.2Cにおける第2のサイクル~第99のサイクルのセグメントサイクル法により試験する。最後に、第1のサイクルと同じ条件で電池を確認する。容量劣化は、第1のサイクルと第100のサイクルの放電容量を比較することによって計算され、以下の式(1)で表すことができる。
【0040】
【数1】
【0041】
【表1】
【0042】
フル電池調製
200mAhのパウチ型電池は、以下のように調製される。正極活性材料粉末は、本発明に従って調製される。Super-P(Timcalから市販されているSuper-PTM Li)、正極導電剤としてグラファイト(Timcalから市販されているKS-6)、及び正極結合剤としてポリフッ化ビニリデン(Kurehaから市販されているPVDF 1710)を分散媒としてNMP(N-メチル-2-ピロリドン)に、正極活性材料粉末、正極結合剤及び正極導電剤の質量比が96/2/2となるように加えた。その後、混合物を混練して正極混合スラリーを調製する。次いで、得られた正極混合スラリーを厚さ15μmのアルミニウム箔からなる正極集電体の両面に塗布する。典型的なカソード活性材料充填重量は12.9mg/cmである。次いで、電極を乾燥し、カレンダー処理する。典型的な電極密度は4.1g/cmである。また、正極の端部には、正極集電体タブとして働くアルミニウム板がアーク溶接されている。
【0043】
市販の負極が用いられる。要するに、グラファイト、CMC(カルボキシ-メチル-セルロース-ナトリウム)とSBR(スチレンブタジエンゴム)との質量比96/2/2の混合物を銅箔の両面に塗布する。負極の端部には、負極集電体タブとして働くニッケル板がアーク溶接されている。電池バランシングに使用される典型的なカソード及びアノード放電容量比は0.75である。非水性電解質は、本発明による添加剤を含む予混合された溶媒中に目標濃度で六フッ化リン酸リチウム(LiPF)塩を溶解することによって得られる。螺旋状に巻かれた電極アセンブリを得るために、正極シートと負極シートとそれらの間に差し込まれた厚さ20μmの微多孔性ポリマーフィルム(Celgardから市販のCelgard(登録商標)2320)から作られたセパレータシートとを巻線コアロッドを用いて螺旋状に巻いた。次いで、その巻かれた電極アセンブリを、空気乾燥室内のアルミニウム積層パウチに入れる。非水電解液を室温で8時間含浸させる。バッテリはその理論容量の15%で予備充電され、室温でも1日で消耗する。次いで、バッテリを、-760mmHgの圧力を用いて30秒間脱気し、アルミニウムパウチを密閉する。
【0044】
フル電池サイクル試験
0.1C速度(10時間以内に充電された電池を放電する電流に対応する)でCC/CV(定電流/定電圧)モードの下3.0V~4.5Vの間でNeware BTS-4008コンピュータ制御ガルバノスタティックサイクルステーションを使用して、45℃(=HT)でフル電池をサイクルさせる。
【0045】
高温ストレージ試験
高電圧でのLiCoO系カソード材料の安定性を試験及び監視するために高電圧下での充放電サイクル法を使用して、高温でバッテリを保存する方法が一般的である。それらを使用する場合、バッテリは高温環境に一定期間曝されるのが一般的であるため、高温で動作し保存されているバッテリの安定性を確認することが重要である。ストレージ試験では、電池を最初に高カットオフ電圧まで充電し、次いで60℃のような高温で保存する。高温での保存中、高電圧でのサイクル試験と同様に、同様の寄生的な反応が起こる。カットオフ電圧が増加すると、副反応が加速し、電池の急速な自己放電をもたらす。この現象は、保存中の電圧降下及び保存後に測定された保持容量から観察され得る。ストレージ試験では、容量劣化による電池の安定性を確認するために、電池は、ストレージ期間の前後で1サイクルの充電/放電/充電で通常処理される。保持容量及び回復容量は、ストレージ後の充放電容量から計算される電池の安定性を評価するための2つのパラメータである。現状では、回復容量はストレージ性能を判断する唯一の標準的な特性と考えられる傾向があり、保持容量は無視される傾向がある。これは、電池を再充電し得る限り、残りの容量について心配する必要はないという考えから生まれたものである。実際には、寄生的な反応による急速な自己放電がストレージ中に起こると、それは、回復容量からは観察される、保持容量からのみ観察され得る。このような急速な自己放電を伴う電池が頻繁に再充電されると、電池が寄生的な反応によって損傷されるため、電池性能が低下するだろう。従って、保持容量は、電池の安定性を評価するための指標である。
【0046】
本発明では、調製した200mAhパウチ型電池を、表2のスケジュールに従って高温ストレージすることによって試験する。温度は60℃に設定される。
【0047】
【表2】
【0048】
電池は2つのストレージサイクルで試験される。ストレージ期間の前後には、保持容量と回復容量とを計算するために1回の充電/放電/充電サイクルがある。ストレージ1後の保持容量はDQ2-PCQ2によって得られ、ストレージ1後の回復容量はDQ2から測定され得る。異なる電池のストレージ性能を比較するために、これら2つのパラメータをDQ1で正規化する。つまり、
ストレージ1の正規化された保持容量=(DQ2-PCQ2)/DQ1;
ストレージ1の正規化された回復容量=DQ2/DQ1;
ストレージ2の正規化された保持容量=(DQ3-PCQ3)/DQ1;
ストレージ2の正規化された回復容量=DQ3/DQ1;
膨張挙動を確認するために、高温ストレージの前後で電池の厚さを測定する。測定はデジタル厚さ計によって行われる。
【0049】
ACインピーダンス試験
ストレージ後のインピーダンス変化を確認するために、室温での高温ストレージの前後でACインピーダンス試験を行う。周波数は、100000から0.1Hzに設定され、10年当たり25ポイントで設定される。得られたナイキストプロットは、図1に示す等価電気回路モデルに基づいてフィッティングされる。Rsは電解質抵抗を表す。R1(又はR2)及びQ1(又はQ2)はそれぞれ、界面上の二重層の挙動をモデル化する抵抗及び定相要素を表す。W=ウォーバーグ拡散。全抵抗はRs、R1及びR2の合計である。このパラメータはストレージ前後で比較され、抵抗の増加率は100%として計算される(ストレージ後の全抵抗-ストレージ前の全抵抗)/ストレージ前の全抵抗
【0050】
浮動試験
「3Mのバッテリ電解質HQ-115」の最近の技術報告書において、高電圧において新規な電解質の安定性を試験するために、浮動充電法が使用されている。この方法は、4.2V及び60℃で900時間、LCO/グラファイトパウチ電池又は18650電池を連続充電することにより行われる。充電下で記録される電流を比較する。より高い電流はより多くの副反応の発生に影響を及ぼし、従って、この方法は、高電圧におけるバッテリの副反応の検討に利用可能である。「Energy Environment of Science,6(2013),1806~1810」において、Zhangらは、浮動充電法を使用して、5V~6.3Vの高電圧下で電解質の酸化に対する安定性を試験している。上記の知見に基づいて、要求される充電電圧に対して比較的安定な電解質及びアノード材料を選択することによって、この方法を使用して、LiCoO系材料のような高電圧下のカソード材料の安定性を研究することができ、ここでは、金属溶解が漏れ電流によって影響を受け得る。更に、「Nature Communication,4:2437(2013),doi:10.1038/ncomms3437」において、Zhanらは、リチウムマンガン酸化物カソードからの溶解したマンガンがアノード上に堆積し、堆積量は誘導結合プラズマ原子吸光分析ICP-AAS又はICP-OESによって検出できることを報告している。これらのICP試験は、LiCoO系材料のCo溶解を研究するために使用され得る。従って、ICP測定に関連するフロート充電試験(以下、「浮動試験」と呼ぶ)は、高電圧でのLiCoO系カソード材料の副反応及びCo溶解を評価するための実現可能な方法である。
【0051】
この電気化学的試験は、LiCoOのための高電圧充電、例えば、4.45Vでのカソード材料の安定性を分析することを目的とする。一部の実施形態では、試験した電池の構成は、以下の通り組み立てられたコイン電池である:2つのセパレータ(SK Innovation製)が、正極及び負極の間に置かれている。EC/DMC(1:2)中の1MのLiPFを電解質として使用し、セパレータと電極との間に滴下する。調製されたコイン電池は、以下の充電プロトコルに従って試験される:コイン電池は、定電流モード及びC/20速度(1C=160mAh/g)で規定上限電圧に最初に充電され、次に、高温(50℃)で一定の上限電圧に5日間以上保持される。浮動試験の後、このコイン電池を分解する。先行技術は、金属溶解が起こると、溶解した金属が金属又は金属合金の形態でアノードの表面上に堆積するだろうと記載しているので、アノード及びアノードに近いセパレータをICPによって分析して金属溶解を評価する。
【0052】
図2は、典型的な浮動試験の結果を示す。まず、定電流(CC)モードでカソードを充電する(データなし)。最終電圧に達すると、電池は定電圧(CV)モードで連続的に充電される。グラフは電流を示しており、t=0は、CVモード充電を開始した時間である。一旦、副反応又は金属溶出が起こると、電圧が低下するであろう。電気化学機器は、電圧を一定に保つよう、自動的に電流を補償する。従って、記録された電流は、進行中の副反応の尺度である。図2に示すように、左側のy軸はコイン電池への印加電圧を表し、右側のy軸は記録された浮動電流を表す。図において、時間は、一定電圧の充電の開始から始まり、記録された電圧及び浮動電流は、それぞれ、破線及び実線によって表されている。電流の変化から、浮動している間試験したコイン電池の分解を観察し得る。Qfloating(電流の積分値)は、金属溶出が、試験したコイン電池において、どの程度、深刻であるかを、定量的に記載し得る。従って、この比浮動容量は、高い充電電圧における、カソード材料の安定性を評価する重要な因子である。
【0053】
本発明を次の実施例において更に例示する。
【0054】
[実施例]
実施例1
この実施例は、アルミニウム、チタン及びマグネシウムドープLiCoO系粉末を示す。材料は以下のように製造される:
1)Mg及びTiがドープされたLiCoO系コアの調製:LiCO、Co、MgO及びTiOの粉末を1.1/1.0/0.0025/0.0025のモル比で均一に混合する。次いで、混合物を空気流4m/kg中で990℃で10時間焼成する。焼結された生成物を粉砕し、分級して平均粒径D50が18μmの粉末状材料を得る。最終的なLi:Coモル比は、ICPにより1.079として測定される。
2)Li化学量論的に制御された錯体Mg、Al及びTiの空間分布を有する層状コバルト酸リチウム粒子の調製:Co(Co)/Co(工程1からの生成物)のコバルトモル分率における工程1からの生成物にCoを導入する=13.04%/86.96%である。MgO、Al及びTiO粉末を工程1)からの焼結生成物に添加して、1%/1%/0.283%(Mg/Al/Ti)対全Coのモル含有量を得る。Li化学量論を精密に制御するためにLiCOを導入して、Li/(Co+Al+Mg)=0.990又はLi/(Co+Al)=1.000のモル比を達成する。この混合物を箱型炉中で空気中で980℃で10時間焼成する。炉は室温まで-5K/分の速度で自然冷却される。黒色の焼結粉末を粉砕し、270メッシュのふるいを用いてふるい分けた。平均粒径は、約17μmの結果を有するPSDによって測定される。生成物は、水分摂取及びその後の分解から保護するために、密閉された積層袋に保存される。上記調製粉末はEx1と名付けられる。これは、コイン電池構成のカソード材料として適用され、「コイン電池試験」及び「浮動試験」の記載に従って試験される。
【0055】
実施例2
この実施例は、NMC被覆LiCoO系粉末を示す。材料は以下のように製造される:
1)Mg及びAlがドープされたLiCoO系コアの調製:パイロットスケール装置を用いてリチウムカーボネート、四酸化三コバルト、マグネシウムカーボネート及び酸化アルミニウムを1.05/0.98/0.01/0.01のモル比で混合する。次に、3.2kgの混合物を5.9Lのムライト匣鉢に入れ、4m/kgの空気流中で980℃で12時間焼成する。焼結ケーキを粉砕し、分級して平均粒径D50=21.4μm及びD100=71.0μm、一般組成Li1.05Co0.98Mg0.01Al0.01の粉末状材料を得る。
2)コア-シェルLiCoO系材料の調製:Mg及びAlがドープされたLiCoO系コア粉末は、95/5のモル比で、3μmのD50を有するNi0.55Mn0.3Co0.15(OH)粉末と更に混合される。3.0kgの混合物を2.3Lのムライト匣鉢に入れ、1000℃で8時間空気中で焼成する。焼結ケーキを粉砕し、分級して、0.22m/gのBET表面積を有する粉末状材料を得る。最終生成物の化学組成は、誘導結合プラズマ原子発光分光法によって測定され、0.99/0.940/0.028/0.015/0.009/0.009のLi、Co、Ni、Mn、Al及びMgのモル比が得られ、これは、理論的な期待と非常によく一致する。上記調製粉末はEx2と名付けられる。これは、カソード材料として適用され、「コイン電池試験」及び「浮動試験」の記載に従って試験される。
【0056】
反例1
この実施例は、Al、Ti及びMgがドープされたLiCoO系粉末を示す。この材料は、第2の工程において、MgO、Al及びTiO粉末対全Coのモル含有量を0.18%/0.348%/0.283%(Mg/Al/Ti)に変更したことを除いて、Ex1の調製と同じ工程に従い製造した。上記調製粉末はCEx1と名付けられる。これは、カソード材料として適用され、「コイン電池試験」及び「浮動試験」の記載に従って試験される。
【0057】
実施例1、実施例2、及び反例1の考察:
表3は、試料Ex1、Ex2及びCEx1のコイン電池及び浮動試験結果を列挙する。
【0058】
コイン電池試験は、第1のサイクルにおける充放電容量(CQ1及びDQ1)と、4.4V~4.61Vの電圧範囲における0.2Cでの98回サイクル後の容量損失とを提供する。試料Ex1及びEx2の充電容量は、放電容量の場合と同様に、試料CEx1の値よりも小さい。この現象は図3からも観察され得、ここで、グラフ(a)はこれらの試料の第1のサイクル電圧プロファイルを示し、グラフ(b)はグラフ(a)の拡大右上部分である。太い実線は試料Ex1の電圧曲線、細い実線は試料CEx1、破線は試料Ex2を示す。これらの曲線は全て、図3(b)に示すように、約4.5Vの電圧プラトーを示すことによってH1-3遷移の外観を示す。電圧プラトーの長さは、図3(b)の電圧曲線の4.47Vと4.52Vとの間の容量差によって推定される。結果を表4に要約する。CEx1は、4.47Vと4.52Vとの間で27.2mAh/gの容量差を有するが、Ex1とEx2は、約22mAh/gに近い値を有する。Ex1及びEx2と比較して、CEx1のH1-3遷移プラトーはより長い。3つの試料は同じ電圧範囲で試験されるので、より長いプラトーを有するものはより大きな容量を有することになる。従って、CEx1は、充放電容量の点でより優れた性能を示す。
【0059】
しかし、コイン電池の性能は、第1のサイクルにおける充電/放電容量の要素によってのみ決定されない。式(1)を用いてサイクル性並びにEx1、Ex2及びCEx1からサイクル1とサイクル100とで得られた容量を調べると、CEx1は約12%の容量劣化を示し、これはEx1及びEx2の両方の値よりも高い。図4は、4.4V~4.61Vの間でサイクルする3つの試料の放電容量を記録しており、これは表1の第2のサイクル~第99のサイクルの工程に対応する。図中、三角記号は試料Ex1、円記号は試料Ex2、四角記号は試料CEx1を示す。98サイクルの間に、CEx1の放電容量は、他の試料と比較して速く劣化し、非常に悪化する。従って、試料CEx1は、H1-3遷移のその長いプラトーのために高容量を有するが、そのサイクル性能は満足のいくものではない。
【0060】
可能性として、その理由の1つは、H1-3遷移プラトーの縮小である。図5は、コイン電池試験の1回目及び100回目の放電におけるdQ/dVのプロットを示す。プロットは上から下へ、試料Ex1、Ex2及びCEx1にそれぞれ対応する。プロットでは、実線は第1のサイクルのdQ/dVの変化を示し、破線は第100のサイクルのdQ/dVの変化を示す。第1のサイクルでは、CEx1は約4.5Vで急峻なピークを有するが、同じ位置でEx1及びEx2のプロットは、はるかに小さなピークを有する。これは、図3のH1-3遷移プラトーの観察を確認する。100サイクル目では、全てのH1-3遷移ピークがより低い電圧にシフトする。CEx1のH1-3遷移ピークは、Ex1及びEx2と同様の高さに短縮される。これは、サイクル中のCEx1のH1-3遷移プラトーの収縮を示し、コイン電池試験におけるCEx1の安定性の低さを意味する。Ex1及びEx2の第1のサイクル電圧プロファイルの微分曲線は、以下の特性を有する:
C/10速度での最初の充電中の4.40V~4.70Vの電圧範囲対Li金属におけるdQ/dV<700mAh/gV、及び
C/10速度での最初の放電中の4.40V~4.70Vの電圧範囲対Li金属におけるdQ/dV<2000mAh/gV。
【0061】
上記の考察によれば、LiCoO系材料におけるH1-3遷移のプラトーは、高電圧でのサイクル中に許容可されるサイクル性とともに高容量を達成するように最適化されなければならないと結論付けられ得る。高電圧及び高温での試料Ex1、Ex2及びCEx1の安定性は、「浮動試験」の記載に従って更に確認される。図6は、電池を50℃で4.45Vの一定電圧で充電したときに記録された電流変化を示す。図中、Ex1、Ex2、CEx1の結果をそれぞれ破線、点線、実線で示す。CEx1は明らかにEx1及びEx2に比べてはるかに大きな浮動電流を有する。電池を分解した後、アノードの金属含有量をICPによって測定する。浮動中にアノードに堆積するCoの積算容量及び質量は、表3に列挙される。従って、CEx1は、その大きな電流のためにより多くの積算容量を失い、試験中により多くのCoを溶解してアノード上に堆積させる。Ex1及びEx2は、高電圧及び高温で充電した場合にはるかに高い安定性を有する。従って、より高いMg及びAlのドーピング含有量並びにNMC被覆の両方は、高電圧条件で印加されたときにLCO系カソード材料の安定性を改善することに対して正の影響を与える。
【0062】
従って、Ex1及びEx2は、高電圧用途のための有望なLCO系カソード材料である。
【0063】
【表3】
【0064】
【表4】
【0065】
実施例3:SN及びLiBOBの添加剤を含む電解質
この実施例は、「フル電池調製」の記載に従って調製された再充電可能なリチウムイオンバッテリを示し、ここで、電解質は、
(a)非水溶媒:5wt%のモノフルオロエチレンカーボネート(FEC)を添加した3:7の重量比のエチレンカーボネート(EC)/ジエチルカーボネート(DEC)、
(b)電解質塩:15wt%の六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、
(c)電解質添加剤:2wt%のスクシノニトリル(SN)及び1wt%のリチウムビス(オキサラト)ボレート(LiBOB)、を含む。
【0066】
カソード活性材料は「実施例1」のEx1である。調製された200mAhパウチ型バッテリは、電池1と呼ばれる。(a)及び(b)のみからなる比較電解質を電解質1と呼ぶ。
【0067】
反例2:SNの添加剤を有する電解質
この実施例は、電解質添加剤(c)が2wt%のスクシノニトリル(SN)のみを含むことを除いて、電池1と同じ手順で調製された再充電可能なリチウムイオンバッテリを示す。調製した650mAhパウチ型バッテリを電池2と呼ぶ。
【0068】
反例3:SN及びLiBFの添加剤を有する電解質
この実施例は、電解質添加剤(c)が2wt%のスクシノニトリル(SN)及び0.2wt%のリチウムテトラフルオロボレート(LiBF)のみを含むことを除いて、電池1と同じ手順で調製された再充電可能なリチウムイオンバッテリを示す。調製した650mAhパウチ型バッテリを電池3と呼ぶ。
【0069】
反例4:SN及びPRSの添加剤を有する電解質
この実施例は、電解質添加剤(c)が2wt%のスクシノニトリル(SN)及び0.5wt%のプロペンスルトン(PRS)のみを含むことを除いて、電池1と同じ手順で調製された再充電可能なリチウムイオンバッテリを示す。調製した650mAhパウチ型バッテリを電池4と呼ぶ。
【0070】
反例5:SN及びVCの添加剤を有する電解質
この実施例は、電解質添加剤(c)が2wt%のスクシノニトリル(SN)のみを含み、溶媒が1wt%のビニレンカーボネート(VC)を加えることによって改質されていること除いて、電池1と同じ手順で調製された再充電可能なリチウムイオンバッテリを示す。調製した650mAhパウチ型バッテリを電池5と呼ぶ。
【0071】
反例6:SN及びPSの添加剤を有する電解質
この実施例は、電解質添加剤(c)が2wt%のスクシノニトリル(SN)及び0.5wt%のプロパンスルトン(PS)のみを含むことを除いて、電池1と同じ手順で調製された再充電可能なリチウムイオンバッテリを示す。調製した650mAhパウチ型バッテリを電池6と呼ぶ。
【0072】
実施例3及び反例2~6の考察:
表5は、電池1~電池6の電解質配合を要約したものである。(電池7~8:以下を参照)これらの6つのバッテリは、同じカソード、アノード及び電解質組成物を有するが、異なる電解質添加剤を有する。
【0073】
【表5】
【0074】
種々の添加剤の影響は、HTストレージ及びACインピーダンス試験によって調べられる。表6は、電池1~電池6のストレージ結果を示す。図7は、ストレージ1及びストレージ2の間の電池1~電池6の電圧の変化を示す。図8は、ストレージ1及びストレージ2の後の電池1~電池6の正規化された保持容量をプロットしたものである。図9は、ストレージ1及びストレージ2の後の電池1~電池6の正規化された回復容量を示す。電池1~電池6の全てが、非常に近い保持容量及び回復容量を有し、ストレージ1及びストレージ2の間で同様の無視できる電圧変化を有するようである。これは、ストレージ性能に正の影響を与えることが確認され、以下に説明されるSNの存在に起因し得る。
【0075】
【表6】
【0076】
表7は、ストレージ試験の前後で測定した電池1~電池6の抵抗値と、「ACインピーダンス試験」に記載される抵抗増加率を示す。ストレージする前に、電池1~電池6は全抵抗値が非常に近い値になっている。2サイクルのストレージの後、抵抗はこれらの電池の中で異なって増大した。図10は、電池1~電池6の抵抗増加率をプロットしている。この図から、電池1は、LiBOBの添加によって引き起こされる最も低い抵抗増加率を有すると結論付けることができる。従って、LiBOBは、高温での保存中にインピーダンス増大を緩和し得る。電解質添加剤としてのLiBOB及びSNの組み合わせにより、バッテリを高温で保存すると自己放電が少なくなり、インピーダンス増大がほとんどなくなり得る。
【0077】
【表7】
【0078】
説明例4:HTストレージに対するSNの影響
この実施例は、5wt% FECの代わりに2wt% VCを含み、電解質添加剤を添加しない非水溶媒を除き、電池2と同じ手順で調製された再充電可能なリチウムイオンバッテリを提供する。上記調製バッテリは電池7と名付けられる。この実施例はまた、電解質中に2wt%のスクシノニトリル(SN)を添加して、電池7と同じ手順で調製した再充電可能なリチウムイオンバッテリを提供する。調製バッテリは電池8と名付けられる。電池7及び電池8は、高電圧でのバッテリの安定性に対するSNの影響を確認するために、高温ストレージ及びACインピーダンス試験に供される。表6は、ストレージ1及びストレージ2の正規化された保持容量及び回復容量を含む、ストレージ結果を示す。電池1~電池6の結果とは対照的に、電池7は、SN添加剤なしで、負の残存容量が達成されることを示す。しかしながら、正のSN影響は、電池が高温で保存された場合(例えば、以下の表8の電池8~電池7を比較)SNの存在が、インピーダンスを増大させるという観察によっても相殺される。
【0079】
電池8は、両方のストレージサイクルで電池7に比べてはるかに大きな正規化された保持容量を有することは明らかである(図8も参照)。電池7の値は負でもある。我々はSNを有しない電解質の負の残存容量を繰り返し観察した。従って、SNを有しない電解質にとっては典型的である。負の残存容量とは、この電池が、ストレージ試験中に3V未満に完全に自己放電したことを意味する。比較例として、我々は、SNを有しない電解質の結果を1つだけ選択した。
【0080】
これら2つの電池の正規化された回復容量は非常に近い(図9も参照)。これは、電池7及び電池8が同様の高いT性能を有することを意味するものではない。電池8は、高いV(電池7は自己放電が早い)に曝された方がずっと長時間であった。従って、電池8は高いVでのストレージ中においてより強固である。これは実際の使用にとって重要である。携帯電話は通常、毎日の「チャージ・キープ・ユース」アプローチを適用する。電池7は1日未満でわずかに自己放電し、従って電池8はより多くのサイクルを持続するだろう。電池7の高速自己放電の問題は、ストレージ試験で保持容量を確認する必要がある理由が説明されている、回復容量データからのみ判別することは難しい。
【0081】
図7は、ストレージ工程中の時間に対する電池7及び電池8の電圧変化を示す。電池7では、3V未満ではっきりとした電圧降下があるが、電池8では両方のストレージサイクルで無視できる電圧変化がある。これにより、電池8は電池7と比較してより安定しており、自己放電がはるかに少ないことが確認される。電池7と電池8との配合の違いを考慮すると、電池8の改善された性能は、SNの追加によって理解され得る。従って、電解質添加剤SNは、高温で保存された場合にバッテリの安定性に良い影響を与える。
【0082】
しかし、SNの追加はまた、ある種の悪影響をもたらす。表8は、HTストレージ試験後の相対インピーダンス変化率を示す。電池1~電池6には、EC/DEC/FEC系の同じ溶媒系が含まれている。従って、電池1をベースとして最も低いインピーダンスとした場合、電池2~電池6のインピーダンス増加は、電池1の値で除算され、それにより相対抵抗増加を得る。電池7及び電池8は、電池1~電池6とは異なる溶媒系を有する。それらの電解質溶媒は、EC/DEC/VC系である。SNを添加しない電池7をベースとした場合、電池8のインピーダンス増加率と電池7の値の比から、電池8の相対インピーダンス増加が得られる。表9の結果から、電池8は、電池7と比較して、ストレージ中のインピーダンス増大がより大きいことが実証され得る。従って、SNの追加は、ストレージ中のインピーダンスの増大において役割を果たす。従って、無視できる自己放電及びわずかな増大インピーダンスを意味する良好なストレージ性能を得るためにSNを使用する場合、インピーダンスを低減する解決策を見出すことが必要である。
【0083】
【表8】
【0084】
実施例5
この実施例は、Ex1、Ex2、CEx1及び正常な電圧印加用のUmicore Koreaの市販のLiCoOカソード材料に記載されているものである、4つのフル電池のフル電池サイクル結果を示す。アノードはグラファイトであり、電解質は25:58:15:2の重量比を有するEC/DEC/LiPF/VCを含む。市販のLiCoOは、一回の焼成工程を有する実施例1のMg及びTiをドープされたLiCoO系コア材料のように調製されたが、異なる組成:Li1.05Co0.9895Mg0.01Al0.0005を有する。Ex1を含むフル電池は電池9とラベルされ、Ex2を使用するフル電池は電池10とラベルされ、CEx1を使用するフル電池は電池11とラベルされ、市販のLCOを使用するフル電池は電池12とラベルされる。これらのフル電池は、「フル電池調製」の説明に従って調製され、フル電池におけるH1-3遷移の現象を確認するために2つのサイクルについて「フル電池サイクル試験」によって試験される。試験は良好な可動性を得るために45℃で実施する。0.1C速度は、電流が「プラトー特徴」を正確に観察するのに十分遅くなるように設定されています。
【0085】
図11は、0.1C速度で3.0V~4.5Vの電圧範囲における電池9~電池12のサイクルプロットを示す。グラフには、特定のカソード容量が示されている。フル電池(SOC)の充電状態は次のようになる:電圧4.5VでSOC=100%、3.0V付近の充電開始は各電池でSOC=0%である。グラフ(a)は、第1のサイクルの電圧プロファイルを示し、グラフ(b)はグラフ(a)の4.3V~4.5Vの領域の分解図である。太い実線は電池9の電圧曲線、細い実線は電池11用、短点線は電池12を表し、破線は電池10を表す。コイン電池試験の結果を示す「実施例1、実施例2及び反例1の考察」で観察されたように、H1-3遷移は、放電中に約4.45Vの電圧プラトーで電池9~電池11のフル電池のサイクルプロットに現れ、放電中に約4.4Vの非常に短い電圧プラトーで電池12の曲線に存在する。第1のサイクルでは、放電中の電圧プラトーの長さは、図11(b)の電圧曲線の4.35V及び4.42Vでの点の間の容量の差によって推定される。結果を表9に要約する。CEx1のカソード材料を含む電池11は、4.35Vと4.42Vとの間でほぼ30mAh/gの容量差を有するが、Ex1及びEx2をそれぞれ含む電池9及び電池10は、約26mAh/gより低い値を有する。市販のLCO生成物を含む電池12は、約11.9mAh/gの小さな値を有する。電池12の小さなH1-3遷移プラトーは、表9に示されたCQ1及びDQ1で表される第1のサイクルにおけるその比較的低い充放電容量に帰することができ、これは、LCO系材料を高電圧で使用するための有望な特性ではない。
【0086】
図12は、電池12の第1のサイクル電圧プロファイルの微分曲線を示す。放電容量の関数としてdV/dQの情報を提供する。このプロットでは、150mAh/g付近に広いピークがあり、これは放電中のアノード挙動に相当する。このピークの右側には、図11の電池12の電圧プラトーの存在を表す約175mAh/gでの急激な低下があり、たとえ電圧プラトーが非常に乱雑であっても、これは電池12の放電中にH1-3遷移の存在を確認する。
【0087】
図13は、グラフ(a)~グラフ(d)がそれぞれ電池9~電池12に対応するフル電池(SOC)の充電状態の関数とした第1のサイクル電圧プロファイルを示す。前に説明したように、SOCの100%は4.5Vのデータ点で定義される。H1-3遷移の電圧プラトーは、約4.35V~4.42Vの電圧範囲内に現れる。これらの電圧における各フル電池のSOCを推定し、表10に要約する。前に考察し、ここで確認されたように、Ex1及びEx2は、H1-3遷移電圧プラトーの最適化された長さに本質的に関連する高電圧でのそれらの有望なサイクル安定性により、高電圧用途のLCO系カソード材料としてより好ましい。H1-3遷移電圧プラトーの最適化された長さは、4.5V(100%に相当)から3Vへの45℃でのC/10速度での放電の間のV=4.35でのSOC1とV=4.42でのSOC2のフル電池容量差によって示され得、少なくとも7%以上14%未満異なる。
【0088】
フル電池構成では、この材料は、H1-3遷移が位置するところに近い100%SOC付近で安定した電圧を提供するので、本発明のアノード材料としてグラファイトが好ましい。他のアノード材料は、そのような充電状態で可変の値を有し得る。従って、グラファイトは、フル電池におけるH1-3遷移プラトーの長さの正確な推定を保証し得る。
【0089】
【表9】
【0090】
【表10】
図1
図2
図3a
図3b
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11a
図11b
図12
図13