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特許7116242寿命特性が改善された再充電可能なリチウムイオンバッテリ
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-01
(45)【発行日】2022-08-09
(54)【発明の名称】寿命特性が改善された再充電可能なリチウムイオンバッテリ
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/058 20100101AFI20220802BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20220802BHJP
   H01M 4/1391 20100101ALI20220802BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20220802BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20220802BHJP
   H01M 50/103 20210101ALI20220802BHJP
   H01M 50/107 20210101ALI20220802BHJP
   H01M 50/134 20210101ALI20220802BHJP
   H01M 50/136 20210101ALI20220802BHJP
   H01M 50/209 20210101ALI20220802BHJP
   H01M 50/213 20210101ALI20220802BHJP
   H01M 50/262 20210101ALI20220802BHJP
【FI】
H01M10/058
H01M4/131
H01M4/1391
H01M4/525
H01M10/052
H01M50/103
H01M50/107
H01M50/134
H01M50/136
H01M50/209
H01M50/213
H01M50/262 S
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2021502510
(86)(22)【出願日】2019-07-10
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-11-11
(86)【国際出願番号】 EP2019068552
(87)【国際公開番号】W WO2020016077
(87)【国際公開日】2020-01-23
【審査請求日】2021-01-15
(31)【優先権主張番号】18183630.5
(32)【優先日】2018-07-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501094270
【氏名又は名称】ユミコア
(73)【特許権者】
【識別番号】517107151
【氏名又は名称】ユミコア・コリア・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】リアン・ジュ
(72)【発明者】
【氏名】ジョン-レ・キム
(72)【発明者】
【氏名】アルム・パク
(72)【発明者】
【氏名】ユリ・イ
【審査官】小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/012497(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/168160(WO,A1)
【文献】特開2002-352860(JP,A)
【文献】特開2015-079678(JP,A)
【文献】特開2021-064598(JP,A)
【文献】特開2017-147054(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/058
H01M 4/131
H01M 4/1391
H01M 4/525
H01M 10/052
H01M 50/103
H01M 50/107
H01M 50/134
H01M 50/136
H01M 50/209
H01M 50/213
H01M 50/262
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシングを備える二次Liイオンバッテリであって、前記ケーシングが、
-粉末状正極活物質を含む正極と、
-負極と、
-セパレータと、
-電解質と、をバッテリ部品として備え、
前記ケーシングに、前記ケーシングの所定の外部形態を維持するための手段が提供され、前記バッテリが使用中であるとき、及び前記使用中に前記ケーシング内から加えられる圧力が生成されたとき、前記所定の外部形態によって前記バッテリ部品間の永久接触確実にされており、前記正極活物質が、一般式Li1+a(NiCo1-aを有し、式中、M=M’1-bであり、M’はAl及びMgのいずれか一方又は両方であり、Aはb≦0.10のドーパントであり、-0.03≦a≦0.03、0.80≦x≦0.95、0.05≦y≦0.20、z≦0.10であり、x+y+z=1であり、前記正極活物質が、Cu Κα放射線源を用いてX線回折パターンから得た(104)面のピークに基づいて、シェラーの等式によって決定される結晶子径≦43nmを有し、前記正極活物質が更に0.40重量%~0.75重量%のLiOHを含む、二次Liイオンバッテリ。
【請求項2】
前記バッテリが、前記ケーシングの内側から加えられる前記圧力に耐えることができる剛性ケーシングを備える、請求項1に記載の二次Liイオンバッテリ。
【請求項3】
前記バッテリが、前記バッテリ部品間の永久接触を確実にするために外部からかけられた圧力が印加される、可撓性ケーシングを備える、請求項1に記載の二次Liイオンバッテリ。
【請求項4】
aが、-0.005~-0.010である、請求項1~3のいずれか一項に記載の二次Liイオンバッテリ。
【請求項5】
前記正極活物質が、30nm~43nmの結晶子径を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の二次Liイオンバッテリ。
【請求項6】
0≦z≦0.03である、請求項1~5のいずれか一項に記載の二次Liイオンバッテリ。
【請求項7】
Aが、Ti、B、Ca、Ga及びNbのうちのいずれか1つ以上である、請求項1~6のいずれか一項に記載の二次Liイオンバッテリ。
【請求項8】
前記正極活物質が、一般式Li1+a(NiCoAl1-aを有し、式中、-0.03≦a≦0.03、0.80≦x≦0.90、0.10≦y≦0.20、及びz=0又は0.02≦z≦0.05のいずれかであり、x+y+z=1である、請求項1~7のいずれか一項に記載の二次Liイオンバッテリ。
【請求項9】
前記粉末状正極活物質が、10μm~15μmのD50を有する粒径分布を有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の二次Liイオンバッテリ。
【請求項10】
前記バッテリが、円筒形18650、20700、21700、22700、26650若しくは26700リチウムイオンセル、又は硬質ケースの角柱状リチウムイオンセルのいずれか1つであり、それによって前記バッテリが複数のバッテリのパックに組み込まれ得る、請求項1~9のいずれか一項に記載の二次Liイオンバッテリ。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の二次Liイオンバッテリの調製方法であって、
A)粉末状正極材料を含む正極を提供する工程と、
B)負極を提供する工程と、
C)電解質を提供する工程と、
D)セパレータを提供する工程と、
E)工程A)~工程D)において提供される材料をケーシング内で組み立てる工程と、を含み、前記ケーシングに、前記ケーシングの所定の外部形態を維持するための手段が提供され、前記バッテリが使用中であるとき、及び前記ケーシングの内部から加えられる圧力が、前記使用中に生成されるとき、前記所定の外部形態によって前記バッテリ部品間の永久接触確実にされており、工程A)が、前記粉末状正極材料を提供するための、
a)Ni及びCoを含み、金属塩を塩基で共沈させることによって調製される金属水酸化物又は金属オキシ水酸化物のいずれかを提供するサブ工程と、
b)z>0のとき、Mg及びAlのいずれか一方又は両方を含む前駆体化合物を提供するサブ工程と、
c)工程a)及びb)の化合物を、LiOH、LiO及びLiOH・HOのいずれか1つと混合するサブ工程と、
d)工程c)の混合物を、酸素下、700℃~750℃の温度で加熱するサブ工程と、を含む、方法。
【請求項12】
Ni及びCoを含む前記金属水酸化物又は金属オキシ水酸化物が、Aを更に含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
Mg及びAlのいずれか一方又は両方を含む前記前駆体化合物が、Mg及びAlのいずれか一方又は両方の酸化物である、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
電気車両又はハイブリッド電気車両のバッテリパックにおける、請求項1~10のいずれか一項に記載の二次Liイオンバッテリの使用。
【請求項15】
前記バッテリパックが、少なくとも0.8C/0.8Cの充電/放電レートで、少なくとも2.50V~最大4.50Vでサイクルされる、請求項14に記載の使用。
【請求項16】
前記バッテリが、1Cの充電/1Cの放電レートで少なくとも1000サイクル後に80%の保持容量を有する、請求項15に記載の使用。
【請求項17】
前記圧力が少なくとも500kPaである、請求項1~10のいずれか一項に記載の二次Liイオンバッテリ。
【請求項18】
前記圧力が少なくとも500kPaである、請求項11~13のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、専用の正極活物質を含む再充電可能なリチウムイオンバッテリに関する。特に、本発明は、特定の組成物及び結晶子径を有する正極材料としてのリチウム遷移金属酸化物化合物が、剛性バッテリで使用されることを説明する。本出願は、高電圧及び高温であっても、長期間のサイクル安定性などのバッテリ性能を向上させる。
【0002】
リチウムイオンバッテリ(LIB)の正極活物質としては、一般に、LiCoO(ドープされているか否かを問わず、以下「LCO」と称する)が一般に使用されている。しかしながら、LCOは、多くの理由により、EV及びHEVで必要とされる大型バッテリについては持続可能ではない。第1に、LCOは、比較的低い電圧で低い容量を有する。LCOを4.4Vまで使用することが可能であるが、電解質及びセパレータに関するより高い標準的なバッテリ技術を必要とする。第2に、LCOは、電解質との反応の開始温度が低いため、安全ではない。高電圧セルで使用される場合、安全性がより低くなる。第3に、コバルト資源には限りがあり、Cobalt Development Instituteによると、2015年の世界のコバルト需要の約41%がバッテリ産業に使用された。したがって、理論容量及びサイクル安定性が高い新たな正極材料が開発されてきた。LCOを開始点として、金属置換、すなわちCoを他の遷移金属に交換することによって、リチウムニッケルコバルトマンガン系酸化物(以下、「lithium nickel cobalt manganese-based oxide、NMC」と称する)及びリチウムニッケルコバルトアルミニウム系酸化物(以下、「lithium nickel cobalt aluminum-based oxide、NCA」と称する)が、LIBの代替物として提案されている。特に、NMC化合物は比較的安価であり、より高い電圧でより高い容量を有する。しかしながら、NMC組成物のNi含有量が増加するにつれて、その安全性は非常に悪くなる。最新式のNMC、高Ni NMC、超高Ni NMC化合物は、小さな一次粒子で構成される通常球状の高密度二次粒子を構成する、一般式Li1+a(Ni(Ni0.5Mn0.5Co1-aを有する粉末である。ここで、高Ni NMCの定義は、Ni過剰(1-x-y、「z」と称する)が、少なくとも0.4かつ0.7未満のNMCである。超高Ni NMCは、zが少なくとも0.7であるNMCとして定義される。NCAは、ニッケル-コバルト-酸化アルミニウムであり、一般式は、
Li1+a(Ni1-x’-yCoAlx’1-aである。
【0003】
長時間にわたって安全に機能する大型バッテリ用の理想的な正極材料は、比較的低いセル電圧で高い重量エネルギー密度(Wh/g)を有するべきである。理論的には、正極材料中のNi含有量を増加させることで、正極活物質の容量が向上する。しかしながら、正極材料のNi含有量が高いほど、製造することが困難であり、LIBでの使用がより困難になる。例えば、Ni含有量が増加すると、正極材料の製作プロセスでは、100%のリチウム化に到達することがより困難になる。最終生成物未反応リチウム(Li)の表面には、後処理中に、LiOH及びLiCOなどの表面不純物が形成される。フルセル用途では、これらの不純物は、高動作電圧で分解してもよく、又は電解質と反応させてもよい。両方の反応とも気相を生成し、(1)電解質の量の不足と(2)内部のガス蓄積とが、最終的にフルセルの可撓性ハウジングの膨張につながる。結果として、フルセル電極又はセパレータが、電解質から容易に分離され得、高速の容量フェージングをもたらす可能性がある。
【0004】
1つの簡単な解決策は、蒸留水中で洗浄し、続いて乾燥プロセス及び熱処理によって、新たに作製された超高Ni正極材料の表面不純物を除去することである。この洗浄及び乾燥プロセスは、工業規模で実現可能であるが、追加の製造コストを伴う。しかしながら、洗浄プロセスは、正極材料の表面上の残留Liを除去するだけでなく、水とのかなりの量のLiイオン交換をもたらす。これは、正極材料のごく表面上だけでなく、一次粒子間の粒界でも起こる。前者は、充電及び放電中のLiイオン伝導度が低い不動態化(Li欠乏)層をもたらす。後者は、粒界を弱めることになり、サイクル中の固有のセル容積の膨張及び収縮に起因して、粒界間の亀裂がより発生しやすくなる。その結果、洗浄され乾燥された正極材料は、洗浄していないものよりもサイクルの安定性が悪くなる。
【0005】
表面不純物を低減する別の方法は、より高温度で正極材料をリチウム化し、焼結することである。一般に、より高温度での処理は、より完全なリチウム化反応をもたらし、したがって、表面上の未反応のLi不純物がより少なくなる。しかしながら、高温での熱処理はまた、より強い焼結生成物をもたらし、より多くの一次結晶成長が起こると、これは脆性二次粒子を作成することになる。加えて、高温で焼結された超高Ni正極材料は、電極の構成要素を圧縮するためのロールプレス工程である電極カレンダー加工中により多く亀裂する傾向がある。この工程で誘発されるマイクロスケールの亀裂は、総表面積を増加させ、電解質と正極材料との間の望ましくない副反応が起こり得るため、好ましいものではない。一方、マイクロクラックは電解質によって湿潤しにくく、その結果、Li抽出及びインターカレーションのための、低いレート性能又は更にはアクセス不可能な領域をもたらす。両方とも、サイクル安定性が劣る理由である。したがって、理想的な正極活物質は、以前の推論を考慮した妥協点である最適な反応温度よりも高い温度で焼結されるべきではない。
【0006】
残留表面不純物を制御する代替的な方法は、正極材料の表面を、残留Liと容易に反応し得る特定の元素、例えばB、P、F、Al等でコーティングすることが挙げられる。正極材料のコーティングは、産業界で広く適用されている。しかし、コーティングは、正極材料とコーティング源との追加的なブレンドを必要とし、それに続く焼成プロセスを必要とし、これは製造コストを増加させる。加えて、過剰なコーティングは、容量低減のために好ましくなく、一方、不十分なコーティングは不均一なコーティングにつながる可能性がある。したがって、工業規模でのコーティング戦略は、それほど簡単ではない。
【0007】
製造においてスループットを妥協することはまた、目標焼結温度で表面上の少ない残留Li不純物を有する超高Ni正極材料を作製するのに有用であり得る。例えば、正極材料の製造において適用される典型的なローラーヘアーキルン(RHK)では、トレー(又はサガー)内の装填量を低減して、より良好な完全なリチウム化のための適切なガス交換を確実にすることができる。これにより、残存する未反応のLi不純物が抑制される。しかしながら、トレーの負荷を低減することは、スループットを減少させ、より高い製造コストになることは明らかである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
要約すると、工業規模で、良好なサイクル性能を有する超高Ni正極材料を低コストで製造することは困難である。したがって、本発明は、製造コスト及び/又はバッテリの電気化学的性能に悪影響を及ぼす、超高Ni正極材料の製造プロセス中に特定の手段を廃棄することを可能にする、代替的なバッテリ設計及び組成物を定義することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の態様から鑑みると、本発明は、ケーシングを備える二次Liイオンバッテリであって、ケーシングが、
-粉末状正極活物質を含む正極と、
-負極と、
-セパレータと、
-電解質と、をバッテリ部品として備え、
ケーシングに、ケーシングの所定の外部形態を維持するための手段が提供され、所定の外部形態が、バッテリが使用中であるとき、及び使用中にケーシング内から加えられる、好ましくは少なくとも500kPaの圧力が生成されたとき、バッテリ部品間の永久接触を確実にすることを可能にし、正極活物質が、一般式Li1+a(NiCo1-aを有し、式中、M=M’1-bであり、M’はAl及びMgのいずれか一方又は両方であり、Aはb≦0.10のドーパントであり、-0.03≦a≦0.03、0.80≦x≦0.95、0.05≦y≦0.20、z≦0.10であり、x+y+z=1であり、正極活物質が、Cu Kα放射線源を使用してX線回折パターンから得た(104)面のピークに基づいて、シェラーの等式によって決定される結晶子径≦43nmを有し、正極活物質が更に0.40重量%~0.75重量%のLiOHを含む、二次Liイオンバッテリを提供し得る。このような正極活物質をバッテリ内でサイクルさせると、ガスの形成及びセル内の圧力の内部蓄積が起こる可能性があり、したがって、セルのケーシングは、この圧力に永久に耐えるように適合される。Louliらの「Volume、Pressure and Thickness Evoluition of Li-Ion Pouch Cells with Silicon-Composite Negative Electrodes」、Journal of The Electrochemical Society、164(12)A2689-A2696(2017)のように、「剛性」は、永久に変形されることなく、50N/cm(5bar又は500KPa)の圧力に耐えることができ、この圧力はサイクル中にセル内部に蓄積することが既知である。しかしながら、剛性バッテリは、通常、80N/cm又は8barなどのより高い圧力を、永久に変形されることなく取り扱うことができる。
【0010】
式Li1+a(NiCo1-aでは、
-「a」が0.03を超える場合、Li/M’化学量論比が1.062を超え、表面不純物の含有量が増加し、サイクル寿命が悪化し、
-「a」が-0.03未満である場合、Li/M’化学量論比が0.942未満となり、容量やサイクルの安定性が悪化する。
【0011】
したがって、本発明では、リチウム対遷移金属のモル比Li/M’は、0.942~1.062(-0.03≦a≦0.03に相当)である。一実施形態では、「a」は-0.005~-0.010であり、したがって、Li/M’化学量論比は、1.00未満(0.98~0.99)であり、適切な量の表面不純物及び良好な電気化学的特性をもたらす。別の実施形態では、正極活物質は、30nm~43nmの結晶子径を有する。結晶子径が30nm未満であると、その物質が十分な結晶性を有していないため、正極活物質の容量が低下する。更に別の実施形態では、容量が過度に低下することを防止するために、0≦z≦0.03である。代替実施形態では、正極活物質の式は、Li1+a(NiCoAl1-aであり、式中、-0.03≦a≦0.03、0.80≦x≦0.90、0.10≦y≦0.20、及びz=0又は0.02≦z≦0.05のいずれかであり、x+y+z=1である。異なる実施形態では、ドーパントAは、Ti、B、Ca、Ga及びNbのうちのいずれか1つ以上であり得る。粉末状正極活物質は、10μm~15μmのD50を有する粒径分布を有することは有利であり得るが、これは、高タップ密度、高エネルギー密度、良好な粒子強度などの利点を提供し得るためである。15μmを超えるD50値を有することは困難であり、したがって、粗い遷移金属前駆体、典型的には、調製が困難な、遷移金属(オキシ-)水酸化物が必要とされる。
【0012】
本発明は、高電圧及び高温でも長期間のサイクル安定性などの優れた電気化学的特性を有する、超高Ni正極材料を含むリチウムイオンバッテリを提供する。一実施形態では、バッテリは、ケーシングの内側から加えられる圧力に耐えることができる剛性ケーシング、又はバッテリ部品間の永久接触を確実にするために圧力が印加される可撓性ケーシングのいずれかを備える。異なる実施形態では、バッテリは、円筒形18650、20700、21700、22700、26650又は26700リチウムイオンセルのいずれかであってもよく、それにより、バッテリはまた、複数のバッテリのパックに組み込まれ得る。バッテリはまた、硬質ケースの角柱状リチウムイオンセルであり得る。
【0013】
本発明の好ましい実施形態では、バッテリ部品は、膨脹可能な容積を有する密閉された可撓性容器内に含まれ、この容器は、ケーシングの内部空間に倒伏され、内部空間は、互いに対向するケーシングの少なくとも2つの異なる壁部によって画定され、壁部は、ケーシングの所定の外部形態を維持するための手段によって互いに接続され、壁部及びケーシングの所定の外部形態を維持するための手段は、バッテリが使用されるときに、ケーシングが、密閉容器の容積の膨張から生じる圧力に耐え得るよう十分に剛性であり、それにより、バッテリ部品間の永久接触を確実にし、圧力は、好ましくは少なくとも500kPa、より好ましくは最大800KPaである。
【0014】
本発明の別の実施形態では、バッテリ部品は、膨脹可能な容積を有する密閉された可撓性容器内に含まれ、この容器は、ケーシングの内部空間に倒伏され、内部空間は、互いに対向するケーシングに対して少なくとも2つの異なる壁部によって画定され、壁部は、ケーシングの所定の外部形態を維持するための手段によって互いに接続され、少なくとも1つの壁部及びケーシングの所定の外部形態を維持するための手段の各々又は両方が可撓性であり、ケーシングが、壁部の各々又は両方に圧力を印加するための手段と、ケーシングの所定の外部形態を維持するための手段と、を備え、バッテリ部品間の永久接触を確実にするために、圧力は、好ましくは少なくとも500kPa、より好ましくは最大800KPaである。
【0015】
第2の態様から鑑みると、本発明は、前述した実施形態のいずれか1つに記載の二次Liイオンバッテリを調製するための方法を提供し、この方法は、
A)粉末状正極材料を含む正極を提供する工程と、
B)負極を提供する工程と、
C)電解質を提供する工程と、
D)セパレータを提供する工程と、
E)工程A)~工程D)において提供される材料をケーシング内で組み立てる工程と、を含み、ケーシングに、ケーシングの外部形態を維持するための手段が提供され、バッテリが使用中であるとき、工程A)は、粉末状正極材料を提供するための、
a)Ni及びCoを含み、金属塩を塩基で共沈させることによって調製される金属水酸化物又は金属オキシ水酸化物のいずれかを提供するサブ工程と、
b)z>0のとき、Mg及びAlのいずれか一方又は両方を含む前駆体化合物を提供するサブ工程と、
c)工程a)及びb)の化合物を、LiOH、LiO及びLiOH・HOのいずれか1つと混合するサブ工程と、
d)工程c)の混合物を、酸素下、700℃~750℃の温度で加熱する工程と、を含む。
【0016】
この方法では、Ni及びCoを含む金属水酸化物又は金属オキシ水酸化物が、Aを更に含み得る。また、Mg及びAlのいずれか一方又は両方を含む前駆体化合物が、Mg及びAlのいずれか一方又は両方の酸化物であり得、例えばAl又はMgOであり得る。
【0017】
第3の態様から鑑みると、本発明は、電気車両又はハイブリッド電気車両のバッテリパックにおいて、本発明の第1の態様に記載される実施形態のいずれか1つに記載の二次Liイオンバッテリの使用を提供することができる。このバッテリパックは、少なくとも0.8C/0.8Cの充電/放電レートで、少なくとも2.50V~最大4.5Vでサイクルされることがあり得る。また、このバッテリは、少なくとも1Cの充電/1Cの放電レートで1000サイクル後に80%の保持容量を有するものであり得る。このようなバッテリパックの電圧範囲については多くの可能性があり、例えば、2.7Vと4.2V、2.7Vと4.3V、2.7Vと4.35V、2.7Vと4.4V~4.5Vのいずれか1つの間でサイクルされ得る。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】バッテリテスト「B1:クランピングセル」の概略図。
図2】25℃及び45℃で2.7V~4.2Vの範囲のEEX1.1~EEX1.3のフルセル試験結果。
図3.1】25℃で2.7V~4.2Vの範囲のEEX2.1~EEX2.6のフルセル試験結果。
図3.2】45℃で2.7V~4.2Vの範囲のEEX2.1~EEX2.6のフルセル試験結果。
図4】EEX1.1~EEX1.3及びEEX2.1~EEX2.6の膨張試験結果。
図5.1】45℃で2.7V~4.2Vでの範囲のEX1とCEX1とのフルセル試験結果。
図5.2】45℃で2.7V~4.2Vの範囲のCEX2.1~CEX2.4のフルセル試験結果。
図5.3】45℃で2.7V~4.3Vでの範囲のEX1とCEX1とのフルセル試験結果。
図6】45℃で2.7V~4.2Vでの範囲のEX2、CEX3、及びCEX4のフルセル試験結果。
図7】45℃で2.7V~4.2Vでの範囲のEX3、CEX5、及びCEX6のフルセル試験結果。
図8】45℃で2.7V~4.2Vでの範囲のEX4.1、EX4.2、CEX7.1、及びCEX7.2のフルセル試験結果。
図9】45℃で2.7V~4.2Vでの範囲のEX5.1、EX5.2、CEX8.1、及びCEX8.2のフルセル試験結果。
【発明を実施するための形態】
【0019】
超高Ni正極活物質が、EV及びHVEsバッテリにおいて商業的に使用されている。一例として、Teslaの電流バッテリは、NCAを正極材料として有するセルを含んでいる。これらのバッテリは、いくつかの理由から十分なサイクル寿命を有する。
【0020】
まず、Teslaバッテリは充放電反応が遅いので、完全に充電するには数時間かかる。走行距離が数百キロメートルになると、バッテリが放電するまでに数時間かかってしまう。これは、ノートパソコンや携帯電話のような一般的な携帯電子機器が、より速いレートで充放電するのとは異なり、充放電試験は通常、1C/1Cのレート(フル充電1時間/フル放電1時間)で行われる。このレートと比較すると、Teslaバッテリは、充放電レートがはるかに遅く、バッテリのサイクルにより安定性をもたらす。
【0021】
第2に、Teslaバッテリは数千回のサイクルに耐え抜く必要がない。極端な例として、300,000kmの生涯走行距離(自動車の一般的な使用量を超える)を目指す場合、2回の充電間の走行距離300km(これは、TeslaモデルSよりはるかに少ない)は、自動車の寿命にわたる1000回の全充電-放電サイクルに相当する。したがって、500サイクルのバッテリ寿命は実際に十分であり得、80%未満の保持容量が残されたとき、理論的にはバッテリ寿命は終了する。
【0022】
最後に、Teslaバッテリは、穏やかな条件下でセルを動作させる。充電はセル当たり4.1Vを超えないが、現状、ポータブルアプリケーションでは、セル毎に4.35V、4.40V、又は更には4.45Vまで充電される。
【0023】
将来、異なる種類のバッテリが必要とされ得る。これらのバッテリは、より小型化されなければならず、そのため、より短い駆動範囲を提供し、高速充電を可能にする必要がある。したがって、これらのバッテリは、より速いレートで効果的にサイクルされ、より多くの充放電サイクルを耐え抜く必要がある。エネルギー密度を増加させるために、充電電圧は、4.20V、4.25V、又は更には4.50Vまで増加されるべきである。一般的なバッテリ要件は、2000サイクル後に初期エネルギー密度の少なくとも80%が残っている状態で、1C/1Cレートで少なくとも2000サイクルを実施することであろう。現状、最新式のTeslaバッテリがこのような条件下でサイクルされる場合、サイクル寿命が大幅に低下することを示す。現在適用されている正極材料自体が、1C/1Cレートで2000サイクル後に80%以上の容量保持を達成することが全くできないことが予想される。
【0024】
本発明は、4.20V以上の充電電圧を使用し、高速1C/1Cレートで数千サイクルを目標とする、サイクル安定性が改善されたバッテリに焦点を当てる。これらのバッテリは、「急速充電セル」と呼ばれるタイプのセルを含む。本発明者らは、超高Ni含有量を有する正極材料を使用して、このような急速充電セルにおいて高い容量及び良好なサイクル寿命を達成する可能性を検討した。結論は、以下のように単純なやり方で要約され得る。
【0025】
1)超高Ni含有量を有する最新式の正極材料は、急速充電バッテリにおいて良好なサイクル寿命を達成できない。その理由は、正極粒子に亀裂が生じることに起因するバッテリ固有の劣化である。これらの粒子は、他の粒子から分離されると、可逆容量にもはや寄与しない。
【0026】
2)本発明のNi含有量が非常に高く及び結晶化度の低い正極材料は、性能試験中に使用される標準的な可撓性パウチセルにおける容量保持率が低いことを示す。低い結晶化度を有する超高Ni正極材料は、より低い焼結温度で調製されるため、ガス発生及びバッテリの膨張に影響を及ぼす、多量の残存Li不純物をもたらす可能性が高い。
【0027】
3)しかしながら、驚くべきことに、フェージングメカニズムは、粒子の亀裂に起因するものではなく、むしろ、活性Liの損失及び負極材料への損傷に起因する。事後分析では、正極材料自体が依然として、可逆容量の100%近くを有することを示す。
【0028】
4)負極材料の損傷の慎重な調査が、根本的な原因がセル内でのガス発生であることを示す。生成された小さなガス気泡は、直線状のLi拡散経路を遮断する。Liイオンは、気泡の縁部に再方向付けされ、より多くのLiが負極上に析出され、それによって電解質副反応及び動的なLiめっきを引き起こす。その結果、電解質はLiによって還元され、活性Liが消費される。
【0029】
5)先行技術が、洗浄(Journal of Power Sources,222,318-325(2013)のように)、又はコーティング(国際公開第2016/116862号及び同第2015/128722号のように)等によって不純物を低減するために正極材料を変更しようとする場合、これは常に正極のサイクル安定性を低下させる結果となる。本発明者らは、将来のバッテリが、高不純物含有量、特にLiOHの十分な高含有量を許容できる超高Ni正極材料を含むべきであると結論付ける。
【0030】
6)最後に、本発明の低い結晶化度を有する超高Ni正極材料は、機械的圧力下での強化されたサイクル性能を達成する。例えば、パウチセルのサイクル中に圧力が印加されると、セルの内壁に気泡が絞り出され、正極と負極との間のLi拡散経路を遮断しなくなる。したがって、セル内部の圧力蓄積に抵抗するケース又は容器を備える、剛性タイプの密閉されたセル又はバッテリは、所望の長期サイクル安定性を示す。
【0031】
剛性セルとは、バッテリ部品間の良好な接触を確実にする圧力が印加される、硬質ケース又はセルを有するセルを意味する。以下は、そのような剛性セルの例である。
【0032】
1)内部にゼリーロールが巻かれた円筒形硬質ケースバッテリ。調製されたゼリーロールの直径は、バッテリのスチール缶の内径よりも0.5mm~1mm小さいが、セル部分、主に正極と負極、が膨張しており、サイクル時にゼリーロールの直径が増加する。ゼリーロール直径の増大によるバッテリの変形は、缶を介して制御され得る。この缶の材料は、ステンレス鋼、アルミニウムなどで作製され得る。円筒形セルは、圧力緩和機構を含んでいる。
【0033】
2)同様のシステムが、平坦に巻かれた電極を含んでいる様々な幾何学的形状の硬質ケースの角柱状セルに適用される。
【0034】
3)ボタン型又はコイン型のバッテリは、金属底部本体及び上部キャップを有する。バッテリケースは、サイクル中に発生する内部圧力に耐える。ケース材料は、一般にステンレス鋼で作製される。
【0035】
4)ガス及び電極変形はまた、剛性プレートを用いたクランプ技術を使用することにより、可撓性ハウジングを有する角柱状又はポリマーパウチ型のバッテリにおいても容易に制御され得る。米国特許第9,620,809号に開示されているように、プレート及び圧縮性弾性部材を含むクランプ装置は、充電時のバッテリ内の電極の変形を低減するように構成されている。パウチ型のフルセルが、クランプ装置内で一定の距離をおいてプレート間に配置されると、バッテリ内のガス生成による膨らみが抑制され、バッテリの電気化学的特性の維持をもたらす。これはセルの初期性能を保持するための効率的かつ簡易な方法である。本発明では、クランプ装置は、角柱型及びポリマー型のバッテリに圧力を印加するため、ねじなどの剛性プレート及び圧縮ツールから構成される。この装置は、ガス及び電極歪みに対するセル部品間の良好な接触を維持するのに役立つ。
【0036】
したがって、本発明では、最適な結晶子径を有する超高Ni正極材料が調製され、金属製の剛性ケーシングを有するセルなどのバッテリの元の外部形態を維持する手段を有するセルに適用される。その結果、高温高遮断電圧動作時の長期サイクル寿命など、強化された電気化学的性能が達成される。
【0037】
実施例では、以下の分析方法を使用する。
【0038】
A)X線回折測定
正極材料のX線回折パターンは、1.5418Åの波長で放射されるCu Kα放射線源(40kV、40mA)を使用して、Rigaku X線回折計(Ultima IV)を使用して収集する。機器の構成は、1°のソーラースリット(Soller slit、SS)、10mmの発散高さ制限スリット(divergent height limiting slit、DHLS)、1°の発散スリット(divergence slit、DS)、及び0.3mmの受光スリット(reception slit、RS)に設定する。ゴニオメータの直径は、158mmである。XRDでは、回折パターンは、1分毎に1°のスキャン速度及びステップ毎に0.02°のステップサイズで、15~85°(2θ)の範囲で得る。結晶子径は、既知のシェラーの等式を使用して、X線回折パターンから得た(104)面のピークの回折角及び半値全幅(full width at half maximum、FWHM)から計算する。
【0039】
【数1】
【0040】
D:結晶子径(nm)
K:シェラー定数、0.9
λ:X線波長(CuΚα=1.542Å)
β:FWHM
θ:XRDピーク位置、2θの1/2
X線回折パターンの(ほぼ)44.5±1°で、空間群R-3mを有する結晶構造に割り当てられた(104)面のピークを観察する。
【0041】
B)pH滴定試験
可溶性塩基含有量は、最終生成物の表面上の基本的なタイプのLi不純物を意味し、国際公開第2012-107313号で記載されるように、表面と水との間の反応生成物の分析によって定量的に測定され得る物質表面特性である。粉末が水に浸されると、表面反応が起こる。反応中、水のpHは(塩基性化合物が溶出するにつれて)増加し、塩基はpH滴定によって定量される。滴定の結果は、「可溶性塩基含有量」(SBC)である。可溶性塩基の含有量は以下の通りに測定され得る:4.0gの粉末を、100mLの脱イオン水中に浸し、密閉ガラスフラスコ内で10分間撹拌する。撹拌して塩基を溶解した後に、水中の粉末の懸濁液を濾過して、透明な溶液を得る。次いで、90mLの透明溶液は、pHが3に達するまで、0.5ml/分のレートで撹拌しながら、0.1M HClの添加中にpHプロファイルを記録することによって滴定される。参照電圧プロファイルは、DI水中に低濃度で溶出したLiOH及びLiCOの適切な混合物を滴定することによって得られる。ほとんど全ての場合において、プロファイル中に2つの異なるプラトーが観察される。pH8~pH9の間の終点γ1(mL)を有する上部プラトーはOH/HO、続いてCO 2-/HCO であり、pH4~pH6の間の終点γ2(mL)を有する下部プラトーはHCO3-/HCOである。第1プラトーと第2プラトーとの間の変曲点γ1並びに第2プラトーの後の変曲点γ2は、pHプロファイルの微分係数dpH/dVolの対応する最小値から得られる。第2の変曲点は一般にpH4.7に近い。次いで、結果は、以下のように、LiOH及びLiCOの重量パーセントで表される。
【0042】
【数2】
【0043】
C)フルセル試験
C1)フルセル調製
650mAh(可撓性)のパウチ型セルを次のように作製する:正極材料、Super-P(Super-P、Timcal)、正極導電剤としてのグラファイト(KS-6、Timcal)、及び正極バインダーとしてのポリフッ化ビニリデン(PVDF 1710、Kureha)を、分散媒としての-メチル-2-ピロリドン(NMP)に加え、それによって、正極活物質粉末、正極導電剤(super P及びグラファイト)、及び正極バインダーの質量比が92/3/1/4となるようにした。その後、混合物を混練して正極混合スラリーを調製する。次いで、得られた正極混合スラリーを、厚さ15μmのアルミニウム箔からなる正極集電体の両面に塗布する。適用領域の幅は43mmであり、長さは406mmである。正極活物質の典型的な負荷重量は約11.5±0.2mg/cmである。次いで、電極を、乾燥させ、120kgf(1176.8N)の圧力を使用して電極密度3.3±0.05g/cmになるまでカレンダー加工する。また、正極の端部には、正極集電体タブとして機能するアルミニウム板がアーク溶接されている。
【0044】
市販の負極が用いられる。要するに、グラファイトとカルボキシ-メチル-セルロース-ナトリウム(CMC)とスチレンブタジエンゴム(SBR)との質量比96/2/2の混合物を、厚さ10pmの銅箔の両面に塗布する。負極の端部には、負極集電体タブとして機能するニッケル板をアーク溶接する。負極活物質の典型的な充填重量は8±0.2mg/cmである。エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とジエチルカーボネート(DEC)との体積比1:1:1の混合溶媒中に、1.0モル/Lの濃度にてヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)塩を溶解させることにより、非水電解質を得る。
【0045】
螺旋状に巻かれた電極アセンブリを得るために、正極、及び負極、並びにそれらの間に差し込まれた、厚さ20pmの微多孔性ポリマーフィルム(Celgard(登録商標)2320,Celgard)から作製されたセパレータシートを、巻線コアロッドで螺旋状に巻いた。アセンブリ及び電解質は、次に、乾燥室内で-50℃の露点にてアルミニウム積層パウチ内に入れられ、これにより、平坦なパウチ型のリチウム二次バッテリが作製される。二次バッテリの設計容量は4.2V又は4.3Vに充電されたときに650mAhである。非水電解液を、室温で8時間含浸させる。バッテリはその期待容量の15%にて予備充電し、室温で1日充電する。次にバッテリを脱気させて、アルミラミネートフィルムパウチを密閉する。使用するためのバッテリを、以下のように作製する:CCモード(定電流)にて0.2C(1C=630mA)の電流を使用して4.2V又は4.3Vまで、次いでCVモード(定電圧)にてC/20のカットオフ電流に到達するまで、CCモードにて0.5Cレートで放電して2.7Vのカットオフ電圧まで下がる前に、バッテリを充電する。
【0046】
C2)サイクル寿命試験
下記条件下で25℃及び45℃にて、調製したフルセルバッテリを充電し、かつ数回放電して、その充放電サイクルの性能を測定する:
-CCモードにて1Cのレートで4.2V又は4.3Vまで、次いでCVモードにてC/20に到達するまで、充電を実施する。
-次いで、セルを10分間休止するように設定する。
-CCモードにて1Cレートで、2.7Vまで放電を行う。
-次いで、セルを10分間休止するように設定する。
-バッテリの保持容量が約80%に達するまで充放電サイクルを続ける。
【0047】
100サイクル毎に、CCモードにおいて0.2のCレートで、2.7Vまでの放電を一度行う。
【0048】
通常のサイクル数の終わりまでに80%の保持容量に達していない場合、80%の保持容量を得るまでの期待サイクル数が、線形傾向線によって計算される。
【0049】
本発明の特定の実施例では、上述のフルセル試験は、剛性セル、すなわち、バッテリ内のガス発生によって誘発される膨張を抑制するために、可撓性パウチ(C1で調製されたもの)又は既知の円筒型のバッテリのいずれかに圧力が印加されるセルに対して実施される。圧力が印加されるセルでは、2つのステンレス鋼板を備えるいわゆるクランピングセルが使用され、パウチセルがプレート間に配置され、ねじを使用してセルに圧力を印加する。図1に示されるように、剛性プレート(A1及びA2)は、パウチ型のバッテリ(C)の使用中にねじ(B)を使用して一定の厚さを提供する。以下、このような「クランプされた」パウチ型のバッテリにおける試験は、「B1:クランピングセル」と呼ばれる。円筒型のバッテリは、「B2:円筒型バッテリ」と呼ばれる。比較例では、外部から圧力をかけない可撓性バッテリの試験は、「B3:標準パウチセル」と呼ばれる。
【0050】
C3)膨張試験
上記の調製方法によって調製した650mAhのパウチ型バッテリを、4.2Vまで完全に充電し、オーブンに入れて90℃まで加熱し、そこで、4時間とどめておく。充電された正極は、90℃で電解質と反応しガスを発生させる。発生したガスが、膨張を生じさせる。4時間後に、厚さ((保管後の厚さ-保管前の厚さ))/保管前の厚さ)の増加を測定する。
【0051】
本発明を、以下の実施例において更に例示する。NMC及びNCAの他に、NC及びNCXも調製され、NCはLi1+a(Ni1-yCo1-aを表し、NCXはNiCoに添加されたドーパントを表す。
【0052】
説明実施例1
説明実施例は、異なる結晶子径を有する正極材料を含む標準的なパウチ型フルセル(B3タイプ)における電気化学的特性を調査したものである。(1+a)/(1-a)がLi/M’化学量論比を表す、式Li1+a(Ni0.2(Ni0.5Mn0.50.6Co0.21-aを有するNMC粉末は、以下のようにリチウム源と混合遷移金属源との間の固体状態反応である直接焼結プロセスを通じて得られる。
【0053】
1)共沈工程:ニッケル-マンガン-コバルト硫酸塩、水酸化ナトリウム及びアンモニアを混合した大型連続撹拌槽反応器(CSTR)を用いた共沈法により、金属組成M’=Ni0.2(Ni0.5Mn0.50.6Co0.2を有する合金水酸化物前駆体M’O0.32(OH)1.68が調製される。
【0054】
2)ブレンド工程:混合遷移金属前駆体及びLiCOをリチウム源として、工業用ブレンド装置中で1.05のLi/M’比で30分間均質にブレンドする。
【0055】
3)焼結工程:上記ブレンドは、ローラーハースキルン(RHK)中の酸素含有雰囲気下、900℃で10時間リチウム化され、焼結される。
【0056】
4)後処理工程:焼結後に、焼結されたケークが粉砕され、非凝集粉末を得るために分類及びふるい分けされる。
【0057】
上記の工程によって製造されたNMC化合物は、M’=Ni0.2(Ni0.5Mn0.50.6Co0.2を有する式Li0.964M’1.036としてラベル付けされたENMC1.1である。ENMC1.2及びENMC1.3は、M’=Ni0.2(Ni0.5Mn0.50.6CO0.2を有する式Li1.024M’0.976であり、焼結温度がそれぞれ915℃及び930℃であることを除いては、ENMC1.1と同様の方法を使用して調製される。
【0058】
焼結温度に応じたNMC化合物の結晶化度を調査するために、方法A)でENMC1.1~ENMC1.3を分析する。この分析では、結晶子径は、X線回折パターンにおける(ほぼ)44.5±1°での(104)面のピークを使用してシェラーの等式によって計算する。実施例のLi不純物の量は、方法B)で分析する。方法C2)によって、実施例の電気化学的性能を評価する。フルセル試験は、「B3:標準パウチセル」を使用して、25℃、45℃で4.2V~2.7Vの範囲で実施される。分析のために、バッテリはEEX1.1~EEX1.3とラベル付けされた。結晶子径、Li不純物としてのLiOH及びLiCOの量、及びENMC1.1~ENMC1.3のフルセル試験結果を表1に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
「CS」は、結晶子径を意味する。
「膨張」は、膨張試験C3)後の厚さの増加(%)を意味する。
「サイクル#80%」は、C2)で説明されるように、80%に到達する前のサイクル数を意味する。
【0061】
表1に示すように、結晶子径は、焼結温度が上昇すると増加し、一方、Li不純物、特にLiOHは減少する。フルセルサイクル寿命は、図2(x軸:サイクル数#、y軸:相対放電容量(%)、サイクル#数での放電容量を初期放電容量で割った値に100を乗じた値)と、表1とに示すように、25℃及び45℃のサイクルにおいて、フルセルサイクルの安定性と結晶子径との間に相関関係があることを示す。したがって、より小さい結晶子径を有するより低い温度で焼結されたNMCは、フルセルにおいて長期間のサイクル安定性を確実にする。
【0062】
説明実施例2
この説明実施例では、標準的なパウチ型セルの電気化学的特性を調査し、Al又はMgドーピングの量と相関させる。式Li1+a(Ni0.85Co0.151-aを有するNC粉末は、(1+a)/(1-a)がLi/M’化学量論比を表す場合、合金水酸化物前駆体がM’=Ni0.85Co0.15であるM’O0.17(OH)1.83であることを除いては、ENMC1.1と同様の方法を通じて得られる。ブレンド工程では、混合遷移金属前駆体及びリチウム源としてのLiOH・HOは、Li/M’比0.98で均質にブレンドされる。そのブレンドは、RHK中の酸素含有雰囲気下、795℃で10時間リチウム化され、焼結される。
【0063】
最終NC生成物は、M’=Ni0.85Co0.15で、式Li0.99M’1.01を有する、ENC1.1とラベル付けされる。ENC1.2~ENC1.4は、ブレンド工程中にドーパント源としての酸化アルミニウム(Al)を添加し、NCAをもたらすことを除いては、ENC1.1と同様の方法を使用して調製される。最終生成物の全金属元素(Ni、Co、及びAl)が100mol%に設定された場合の実施例のAlドーピング量(mol%)を表2に示す。
【0064】
ENC1.5及びENC1.6はまた、ブレンド工程中にドーパント源として酸化マグネシウム(MgO)を添加することを除いて、ENC1.1と同じ方法を使用して調製される。最終生成物の全金属元素(Ni、Co及びMg)が100mol%に設定された場合のMgドーピング(mol%)の量を表2に示す。
【0065】
ENC1.1~ENC1.6の結晶子径、Li不純物及び電気化学的性能を、説明実施例1と同じ方法によって評価する。分析のために、バッテリはEEX2.1~EEX2.6とラベル付けされた。これらの結果を表2に示す。
【0066】
【表2】
【0067】
超高Ni正極材料は、式Li1+a(Ni0.2(Ni0.5Mn0.50.6Co0.21-aを有するENMC1などの、比較的低いNi正極材料と比較して、より多量の表面不純物を含んでいる。
【0068】
表2に示すように、これらのドープされた及び非ドープされたNC生成物はENMC1.1~ENMC1.3よりもはるかに低い温度で焼結されているが、それらの結晶子径はENMC1.1~ENMC1.3と同程度の範囲である。Alドーピング量を増加させると、結晶子径は減少する。AlドープされたNC生成物では、「B3:標準パウチセル」中のフルセルサイクルもまた、説明実施例1と同様の傾向であることを確認しており、図3.1及び図3.2(x軸:サイクル数#、y軸:相対放電容量(%)、サイクル#数での放電容量を初期放電容量で割った値に100を乗じた値)と、表2とが示すように、25℃及び45℃の両方で結晶子径が小さくなるほど、サイクル安定性が向上する。逆に、MgドープされたNC生成物については、これらの標準的な可撓性セルにおいて、Mgドーピングは、結晶子径及びサイクル寿命に明らかな影響を及ぼさない。
【0069】
小さな結晶子径を有する正極活物質は、より大きな結晶子径を有するものよりも大きな表面積を有する。Li交換の表面積が大きいほど、残留Li不純物はより多くなり得る。したがって、より小さい結晶子径を有するNC生成物は、不可避的に、より多くの表面不純物を有する。この特性は、フルセル性能、特にサイクル中のガス発生に関連する。
【0070】
フルセルは、高電圧又は高温動作に晒されたとき、ガスを生成することが多い。1つの典型的な試験が、フルセル膨張試験C3)であり、すなわち、完全に充電されたフルセルが、90℃のチャンバ内に4時間保管される。試験後、セルの厚さの増加率をガス量の指標として使用することができ、これは残留表面不純物に関係する。
【0071】
図4(x軸:LiOH含有量(pH滴定により測定した重量%);Y軸:膨張試験後の厚さの増加(%))、表1及び表2は、NMC及び(ドープされた)NC生成物における一般的な傾向を示し、ここで、LiOHの含有量が多いほど、膨張試験中のガス発生量が多くなり、より厚さが増加することを示す。サイクル中、特に45℃で又はより高いカットオフ電圧で動作する間、フルセルの厚さも増加する。
【0072】
45℃でのサイクル中のガス発生のメカニズムは、膨張試験のものと同様である。ガス発生及びセル厚の増加は、電極構成要素の分離につながることは容易に想像できる。深刻な場合には、電極と電解質との間の接触も影響を受け、高速容量フェージングをもたらし得る。例えば、ガス気泡付近の負極上のLiめっきは、局所電流密度が高いため、バッテリ特性の劣化の主な原因となる。したがって、結晶径をLi不純物と相関させ、更にサイクル中のガス生成と相関させることができる。少量の表面LiOH及びその結果としての少量のガスが、バッテリによって依然として持続され得る可能性があった。
【0073】
説明実施例1のフルセル(図2参照)を適用した場合には、奇妙なサイクル現象は観察されなかったが、図3.2では、45℃でのサイクル中のジグザグサイクル挙動がEEX2.3及びEEX2.4で観察されていることに留意されたい。これらの結果では、150回目のサイクル前及び500回目のサイクル後の容量フェージングの傾きはほぼ同じである。一方、容量フェージングの傾きは、150回目のサイクルと、500回目のサイクルとの間で明らかに異なり、異なるフェージングメカニズムを示す。この現象は、より多量のLiOHを有する実施例でのみ観察される。固有のLiOH含有量は、高温又はより高いカットオフ電圧でサイクルするとき、バッテリ内部にガスを発生させ、サイクルの安定性を低下させる。標準パウチセルでは、小さい結晶子径を有する高Ni正極材料を使用することは、良好なサイクル安定性を確実にするために重要であることが理解される。しかしながら、LiOH含有量は、結晶子径が小さくなるにつれて増加し、結果としてサイクル安定性の低下及びバッテリの膨張をもたらす。結晶子径及びLiOH含有量とは無関係に、正極材料において、Al及びMgなどのドーピング元素は、サイクル中の結晶構造を保持するため、サイクル性能の向上に寄与する。
【0074】
実施例1及び比較例1並びに比較例2
式Li0.99(Ni0.833Co0.147Al0.0201.01を有するNCA粉末は、Li/M’比が0.98である場合、ブレンド工程中に、ドーパント源としてAlが添加され、かつ焼結温度が750℃であることを除いては、ENC1.1と同様の方法を通じて得られる。最終NCA生成物は、式Li0.99(Ni0.833Co0.147Al0.0201.01を有するNC1とラベル付けされる。CNC1.1及びCNC1.2は、焼結温度がそれぞれ770℃及び790℃であることを除いて、NC1と同じ方法を使用して調製される。
【0075】
NC1、CNC1.1及びCNC1.2の結晶子径及びLi不純物を、説明実施例1と同じ方法によって評価する。これらの分析結果を表3に示す。EX1のフルセル試験は、45℃で2.7V~4.2V又は4.3Vの範囲で「B1:クランピングセル」及び「B3:標準パウチセル」を使用して実施される。セル試験タイプについては、バッテリIDは、それぞれEX1及びCEX1である。CNC1.1及びCNC1.2のフルセル試験は、45℃で2.7V~4.2Vの範囲の「B1:クランピングセル」及び「B3:標準パウチセル」を使用して実施される。セル試験タイプについては、バッテリIDはCEX2.1~CEX2.4である。これらのフルセル試験結果を表3及び図5.1~図5.3に示す。
【0076】
図5.1(x軸:サイクル数#、y軸:相対放電容量(%)、サイクル#数での放電容量を初期放電容量で割った値に100を乗じた値、同じ軸を図5.2、図6図7に示す)において、「B3:標準パウチセル」に適用されたCEX1は、130回目のサイクル以降に急激なサイクルのフェージングを示す。クランピングセル(EX1)における可撓性セルの変形を防止することにより、サイクルフェージングが抑制される。この効果は、図5.3に示されるように、4.3Vのような高いカットオフ電圧でのサイクル時にも生じる。一方、43nmよりも大きな結晶子径を有する実施例(CEX2.1及びCEX2.2)は、図5.2にも示されるように、クランプ装置においても依然として不十分なサイクル安定性を有する。
【0077】
実施例2及び比較例3並びに比較例4
式Li0.99(Ni0.85Co0.151.01を有するNC粉末は、Li/M’比が0.98である場合、焼結温度が750℃であることを除いてENC1.1と同様の方法を通じて得られる。最終NCを、NC2としてラベル付けする。焼結温度が770℃であることを除いて、NC2と同じ方法を使用して、CNC2を調製する。NC2及びCNC2の結晶子径及びLi不純物を、説明実施例1と同じ方法によって評価する。これらの分析結果を表3に示す。
【0078】
NC2のフルセル試験は、「B1:クランピングセル」及び「B3:標準パウチセル」を使用して、45℃で2.7V~4.2Vの範囲で実施される。セル試験タイプについては、バッテリIDは、それぞれEX2及びCEX3である。CNC2フルセル試験は、「B3:標準パウチセル」を使用して、45℃で2.7V~4.2Vの範囲で実施される。分析のために、バッテリIDはCEX4である。
【0079】
これらのフルセル試験結果を表3及び図6に示す。
【0080】
実施例3及び比較例5並びに比較例6
式Li0.99(Ni0.8415Co0.1485Mg0.01001.01を有するMgドープされたNC粉末は、Li/M’比が0.98である場合、ブレンド工程中に、ドーパント源としてMgOが添加され、かつ焼結温度が750℃であることを除いては、ENC1.1と同様の方法を通じて得られる。最終的なNC生成物は、1mol%のMgドープされたLi0.99(Ni0.8415Co0.1485Mg0.01001.01の式を有するNC3とラベル付けされる。焼結温度が770℃であることを除いて、NC3と同じ方法を使用して、CNC3を調製する。
【0081】
NC3及びCNC3の結晶子径及びLi不純物を、説明実施例1と同じ方法によって評価する。これらの分析結果を表3に示す。
【0082】
NC3のフルセル試験は、「B1:クランピングセル」及び「B3:標準パウチセル」を使用して、45℃で2.7V~4.2Vの範囲で実施される。各セル試験タイプについて、バッテリIDはそれぞれEX3及びCEX5としてラベル付けされる。CNC3のフルセル試験は、「B3:標準パウチセル」を使用して、45℃で2.7V~4.2Vの範囲で実施される。分析のために、バッテリIDはCEX6である。これらのフルセル試験結果を表3及び図7に示す。
【0083】
EX2及びEX3はまた、図6及び図7に示されるように、クランピングセルに適用されたときのサイクル安定性の向上を示すと結論付けることができる。
【0084】
【表3】
【0085】
表3に示すように、1mol%のMgドープされた又はドープされていないNC生成物(NC2及びNC3)は同じ結晶子径を有し、これは、Mgドーパントが焼結時の結晶子径の成長に影響を与えないことを意味する。しかしながら、43nm未満の結晶子径を有するMgドープされたNC生成物は、ENC1.5及び1.6.と比較してより良好な長期バッテリ性能をもたらす。
【0086】
更に、43nm未満の結晶子径を有する例は、より良好なサイクル安定性を有する。特に、790℃で製作された2mol%のAlドープされたNC生成物(EX1)は、「B1:クランピングセル」におけるサイクル安定性が著しく改善されている。
【0087】
EX1及びCEX1、EX2及びCEX3、最後にEX3及びCEX5を比較して上述したように、0.4重量%を超えるLiOH含有量を有する例は、常に、サイクル中のガス発生による容量フェージングの区間を有する(図5.1~図5.3、図6及び図7)。クランピングセルに適用されると、この現象は克服され、最終的に良好なサイクル安定性が得られる。したがって、43nm未満の結晶子径を有する高Ni正極材料と、クランピングセルのような剛性セルとの組み合わせにより、長期間のサイクル寿命などの良好な電気化学的性能を確実にすることができる。
【0088】
実施例4及び比較例7
式Li1+a(Ni0.85Co0.151-aを有するNC粉末は、(1+a)/(1-a)がLi/M’化学量論比を表す場合、Li/M’比が0.99であり、かつ焼結温度が700℃であることを除いては、ENC1.1と同様の方法を通じて得られる。最終的なNC生成物は、M’=Ni0.85Co0.15である、式Li0.995M’1.005を有するNC4.1とラベル付けされる。NC4.2は、焼結温度が710℃であることを除いて、NC4.1と同じ方法を使用して調製される。
【0089】
NC4.1及びNC4.2の結晶子径及びLi不純物を、説明実施例1と同じ方法によって評価する。これらの分析結果を表4に示す。NC4.1及びNC4.2のフルセル試験は、45℃で2.7V~4.2Vの範囲の「B1:クランピングセル」及び「B3:標準パウチセル」を使用して実施される。各セル試験タイプについて、バッテリは、それぞれEX4.1、EX4.2、CEX7.1及びCEX7.2としてラベル付けされる。これらのフルセル試験結果を表4及び図8に示す。
【0090】
実施例5及び比較例8
NC5.1は、焼成温度が710℃であり、かつドーパント源としてのAlがブレンド工程中に添加されることを除いて、NC4.1と同じ方法を使用して調製される。
【0091】
NC5.2は、焼結温度が720℃であることを除いて、NC5.1と同じ方法を使用して調製される。最終NCA生成物NC5.12とNC5.2は両方とも、式Li0.99(Ni0.833CO0.147Al0.0201.01を有する。
【0092】
NC5.1及びNC5.2の結晶子径及びLi不純物を、説明実施例1と同じ方法によって評価する。これらの分析結果を表4に示す。NC5.1及びNC5.2のフルセル試験は、45℃で2.7V~4.2Vの範囲の「B2:円筒型セル」及び「B3:標準パウチセル」を使用して実施される。各セル試験タイプについて、バッテリは、それぞれEX5.1、EX5.2、CEX8.1及びCEX8.2としてラベル付けされる。これらのフルセル試験結果を表4及び図9に示す。
【0093】
【表4】
【0094】
表4に示すように、これらの実施例は、はるかに低い焼結温度で製作されるため、NC1~NC3よりもはるかに高いLiOH含有量を有する。これらの実施例が「B3:標準パウチセル」に適用される場合、それらは、不十分なサイクル安定性を示す。しかしながら、実施例がクランプされたセル又は円筒型セルに適用される場合、それらは、著しく向上したサイクル安定性をもたらす。円筒型セルは、ゼリーロール及び円筒型スチールケースを備える。このスチールケースは、ある一定の圧力を加え、セル内のガス生成によって誘発される膨張を防止するように設計される。したがって、43nm未満の結晶子径を有する超高Ni正極材料と、円筒型セルのような剛性セルとの組み合わせは、正極材料にLiOHが多く含まれているため、先験的には最先端のフルセルでの使用には適していないが、高いサイクル安定性を提供することができる。焼結温度が更に低下すると、結晶子径は小さくなりすぎ、LiOH含有量が0.75重量%を超え、セルの容量が低くなりすぎてしまう。
図1
図2
図3.1】
図3.2】
図4
図5.1】
図5.2】
図5.3】
図6
図7
図8
図9