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特許7116397乾燥水電解水素ガスの製造方法及び吸収液
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-02
(45)【発行日】2022-08-10
(54)【発明の名称】乾燥水電解水素ガスの製造方法及び吸収液
(51)【国際特許分類】
   C01B 3/52 20060101AFI20220803BHJP
   B01D 53/26 20060101ALI20220803BHJP
   B01D 53/28 20060101ALI20220803BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20220803BHJP
   C01B 3/04 20060101ALI20220803BHJP
   C01B 3/56 20060101ALI20220803BHJP
【FI】
C01B3/52
B01D53/26 300
B01D53/28
C25B1/04
C01B3/04 R
C01B3/56
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018100047
(22)【出願日】2018-05-24
(65)【公開番号】P2019202917
(43)【公開日】2019-11-28
【審査請求日】2021-02-19
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000230593
【氏名又は名称】日本化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100177149
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 浩義
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(72)【発明者】
【氏名】金久保 光央
(72)【発明者】
【氏名】牧野 貴至
(72)【発明者】
【氏名】河野 雄樹
(72)【発明者】
【氏名】前田 哲彦
(72)【発明者】
【氏名】黒坂 万里子
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 努
(72)【発明者】
【氏名】古井 恵里
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-051543(JP,A)
【文献】国際公開第2016/152399(WO,A1)
【文献】特開2003-336078(JP,A)
【文献】特表2007-501105(JP,A)
【文献】特開2014-223590(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 3/52
B01D 53/26
B01D 53/28
C25B 1/04
C01B 3/04
C01B 3/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水を電解して、水素と原料水由来の水蒸気とを含有する湿潤水電解水素ガスを得る水素生成工程と、
前記湿潤水電解水素ガスと、イオン液体と無機塩とを含有する吸収液とを接触させ前記水蒸気を選択的に前記吸収液に吸収させて、湿度の減少した乾燥水電解水素ガスと水蒸気を吸収した富吸収液とを得る吸収工程と、
前記乾燥水電解水素ガスと、前記富吸収液を気液分離する分離工程と、
を含み、
前記無機塩は、炭素を含まない酸、炭酸、酢酸、蟻酸、シアン酸、又はシアン化水素酸のアニオンと、無機化合物のカチオンとからなる塩(前記イオン液体を除く)である、乾燥水電解水素ガスの製造方法。
【請求項2】
前記無機塩は、前記イオン液体に均一に溶解しうる無機の塩であり、前記イオン液体に対する前記無機塩の含有量は、前記イオン液体の常温における溶解度以下である、請求項1に記載の乾燥水電解水素ガスの製造方法。
【請求項3】
前記無機塩は、酢酸リチウム、酢酸カルシウム、塩化リチウム、塩化カルシウム、硝酸リチウム又は硝酸カルシウムである、請求項1又は2に記載の乾燥水電解水素ガスの製造方法。
【請求項4】
前記イオン液体は、ホスホニウム類とリン酸エステルイオンとからなる塩である、請求項1から3のいずれか1項に記載の乾燥水電解水素ガスの製造方法。
【請求項5】
前記イオン液体は、式(1)で表される請求項1から4のいずれか1項に記載の乾燥水電解水素ガスの製造方法。
【化1】
【請求項6】
前記富吸収液から水分を除去して前記吸収液を再生させる再生工程を更に含み、
前記再生工程は、前記富吸収液と乾燥ガスとを接触させる方法、前記富吸収液を加熱する方法、及び/又は前記富吸収液を減圧する方法、である、請求項1から5のいずれか1項に記載の乾燥水電解水素ガスの製造方法。
【請求項7】
前記再生工程は、前記富吸収液と乾燥ガスとを接触させる方法であり、前記乾燥ガスは、前記分離工程で気液分離された前記乾燥水電解水素ガスの一部である、請求項6に記載の乾燥水電解水素ガスの製造方法。
【請求項8】
前記再生工程は、100℃以下で行う、請求項6又は7に記載の乾燥水電解水素ガスの製造方法。
【請求項9】
式(1)で表されるイオン液体と、無機塩とを含有し、
前記無機塩は、炭素を含まない酸、炭酸、酢酸、蟻酸、シアン酸、又はシアン化水素酸のアニオンと、無機化合物のカチオンとからなる塩(前記イオン液体を除く)である、吸収液。
【化2】
【請求項10】
前記無機塩は、酢酸リチウム、酢酸カルシウム、塩化リチウム、塩化カルシウム、硝酸リチウム又は硝酸カルシウムである、請求項9に記載の吸収液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾燥水電解水素ガスの製造方法及び吸収液に関する。
【背景技術】
【0002】
水素自動車の燃料、燃料電池車の燃料などの用途で水素ガスの需要が増大している。例えば燃料電池車用の水素ステーションでは高圧水素ガスを燃料電池車に充填する際に断熱膨脹により低温になる部分があるため、水素ガスに水分が多いと、その低温部で水蒸気が凝縮、凝固して、配管が閉塞するなどの問題が生じる恐れがある。そのため、用いる水素ガスの露点は低いほど望ましい。水素ガスの純度や露点に関する規格として、G1グレードでは、純度が99.99999体積%超で、窒素含有量が0.05体積ppm未満、露点が-80℃未満と規定し、G2グレードでは、純度が99.999体積%超で、窒素含有量が5体積ppm未満、露点が-70℃以下と規定する。
【0003】
一方、水素の製造方法としては、アルカリ水電解、固体高分子型水電解などの、水を電解して水素を製造する方法がある。水電解による水素の製造は、太陽光、風力などの再生可能エネルギーによって得られる発電電力を用いることができ有益である。しかし、水電解によって得られる水素には原料の水由来の水分が混入するため、この水分を除去することが必要であり、除湿プロセスの研究がなされている。
【0004】
例えば、特許文献1では、本発明者らは、水を電解して水電解ガスを得る水電解ガス生成工程と、前記水電解ガス生成工程で得られた、原料水由来の水蒸気を含有する水電解ガスと、イオン液体を含有する吸収液とを接触させて、水蒸気を選択的に前記吸収液に吸収させる吸収工程と、前記吸収工程で湿度の減少した乾燥水電解ガスと、水蒸気を吸収した富吸収液を気液分離する分離工程と、を含む乾燥水電解ガスの製造方法を開示した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-51543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
気体の一般的な除湿プロセスとしては、水蒸気を含む混合気体をチラーで冷却して露点を下げるプロセス、水蒸気を含む混合気体を吸着剤や吸収液に接触させるプロセスなどがある。
【0007】
しかしながら、前者の除湿プロセスを水電解水素ガスに適用すると、除去対象の水だけでなく、水電解水素ガスそのものも冷却しなければならず、余分にエネルギーが必要となる。また、水電解水素ガスの水素ガスは、除湿後に圧縮し、貯蔵や運搬することが多いが、冷却による水素ガスの分圧低下は、その後の圧縮工程の圧縮エネルギーの増加に繋がり、エネルギー的に不利となる。
【0008】
後者の除湿プロセスには、固体吸着剤と液体の吸収液を用いる方法がある。ゼオライトなどの固体吸着剤を用いて除湿を行う場合、水分を吸収した固体吸着剤の再生には、高温(~200℃)で加熱処理する必要がある。そのため、この除湿プロセスを水分の量が多い水電解水素ガスに適用すると、必要とされるエネルギーが多大となる。また、一般に固体吸着剤による除湿はバッチ処理(2筒あるいは多筒式)が行われている。このバッチ処理は、その都度バッチ処理部の装置全体を加熱し、その後に冷却する必要がある。そしてこの処理においては熱交換が困難であるので、吸着剤のみならず装置そのものを昇温および冷却する必要があり、エネルギーが多大となる。
【0009】
液体の吸収液を用いる場合には、水リッチな吸収液を再生塔に送り込み、吸収された水を除去して、再生したリーン吸収液を吸収塔に戻して、再使用することが可能である。この場合には、再生塔は所定の温度に保てば良く、昇温および冷却を繰り返す必要はない。くわえて、低温の水リッチな吸収液と高温のリーン吸収液との間などで熱交換が容易である。吸収液としては、トリエチレングリコール(以下「TEG」と略記することがある。)がガス吸収液や空気調湿液として知られている。しかし、水電解水素ガスの除湿プロセスにTEGを吸収液として用いようとすると、吸収液自体が蒸気圧を有しており、水素の高純度化の妨げになる。また、TEGは、可燃性であり、水素ガスと併用するには不適であるなどの他の課題もある。
【0010】
したがって、本発明の課題は、水電解により製造された、高湿度な水電解水素ガスから、効率良く乾燥水電解水素ガスを製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を達成すべく鋭意検討を行った結果、水電解によって製造された高湿度の水電解水素ガスの除湿には、イオン液体に無機塩を添加した吸収液が有用であることを見出した。本発明者らは、これらの知見に基づき本発明を完成するに至った。
【0012】
前記課題を解決するため、本発明の乾燥水電解水素ガスの製造方法は、
水を電解して、水素と原料水由来の水蒸気とを含有する湿潤水電解水素ガスを得る水素生成工程と、
前記湿潤水電解水素ガスと、イオン液体と無機塩とを含有する吸収液とを接触させ前記水蒸気を選択的に前記吸収液に吸収させて、湿度の減少した乾燥水電解水素ガスと水蒸気を吸収した富吸収液とを得る吸収工程と、
前記乾燥水電解水素ガスと、前記富吸収液を気液分離する分離工程と、
を含み、
前記無機塩は、炭素を含まない酸、炭酸、酢酸、蟻酸、シアン酸、又はシアン化水素酸のアニオンと、無機化合物のカチオンとからなる塩(前記イオン液体を除く)である
【0013】
前記無機塩は、前記イオン液体に均一に溶解しうる無機の塩であり、前記イオン液体に対する前記無機塩の含有量は、前記イオン液体の常温における溶解度以下である、と好ましい。
【0014】
前記無機塩は、酢酸リチウム、酢酸カルシウム、塩化リチウム、塩化カルシウム、硝酸リチウム又は硝酸カルシウムである、と好ましい。
【0015】
前記イオン液体は、ホスホニウム類とリン酸エステルイオンとからなる塩である、と好ましい。
【0016】
前記イオン液体は、式(1)で表される、と好ましい。
【化1】
【0017】
前記富吸収液から水分を除去して前記吸収液を再生させる再生工程を更に含み、
前記再生工程は、前記富吸収液と乾燥ガスとを接触させる方法、前記富吸収液を加熱する方法、及び/又は前記富吸収液を減圧する方法、であると好ましい。
【0018】
前記再生工程は、前記富吸収液と乾燥ガスとを接触させる方法であり、前記乾燥ガスは、前記分離工程で気液分離された前記乾燥水電解水素ガスの一部である、と好ましい。
【0019】
前記再生工程は、100℃以下で行う、と好ましい。
【0020】
また、本発明の吸収液は、式(1)で表されるイオン液体と、無機塩とを含有し、
前記無機塩は、炭素を含まない酸、炭酸、酢酸、蟻酸、シアン酸、又はシアン化水素酸のアニオンと、無機化合物のカチオンとからなる塩(前記イオン液体を除く)である。
【化2】
【0021】
前記無機塩は、酢酸リチウム、酢酸カルシウム、塩化リチウム、塩化カルシウム、硝酸リチウム又は硝酸カルシウムである、と好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、水電解により製造された、高湿度な水電解水素ガスから、効率良く乾燥水電解水素ガスを製造する方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明に係る乾燥水電解水素ガスの製造装置の一態様を示す図(吸収液再生に減圧のみを行う場合)。
図2】本発明に係る乾燥水電解水素ガスの製造装置の一態様を示す図(吸収液再生に窒素のみを使用する場合)。
図3】本発明に係る乾燥水電解水素ガスの製造装置の一態様を示す図(吸収液再生に窒素を使用し減圧する場合)。
図4】本発明に係る乾燥水電解水素ガスの製造装置の一態様を示す図(吸収液再生に水素のみを使用する場合)。
図5】本発明に係る乾燥水電解水素ガスの製造装置の一態様を示す図(吸収液再生に水素を使用し減圧する場合)。
図6】本発明に係る乾燥水電解水素ガスの製造装置の一態様を示す図(吸収液再生に水素を循環させる場合)。
図7】実施例2~7、比較例1、2の水蒸気を吸収した吸収液の相状態を示す写真(25℃)。
図8】実施例2~7、比較例1、2の水蒸気を吸収した吸収液の相状態を示す写真(80℃)。
図9】実施例1~7、比較例1~3の吸収液の水蒸気吸収量の湿度依存性(25℃)を示すグラフ。
図10】実施例1~7、比較例1~3の吸収液の水蒸気吸収量の湿度依存性(80℃)を示すグラフ。
図11】実施例8~11の水蒸気を吸収した吸収液の相状態を示す写真(25℃、80℃)。
図12】実施例3、4、7~11、比較例3の吸収液の水蒸気吸収量の湿度依存性(25℃)を示すグラフ。
図13】実施例3、4、7~11、比較例3の水蒸気吸収量の湿度依存性(80℃)を示すグラフ。
図14】除湿試験に用いる装置の写真。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の乾燥水電解水素ガスの製造方法は、水を電解して、水素と原料水由来の水蒸気とを含有する湿潤水電解水素ガスを得る水素生成工程と、前記湿潤水電解水素ガスと、有機塩のイオン液体と無機塩とを含有する吸収液とを接触させ前記水蒸気を選択的に前記吸収液に吸収させて、湿度の減少した乾燥水電解水素ガスと水蒸気を吸収した富吸収液とを得る吸収工程と、前記乾燥水電解水素ガスと、前記富吸収液を気液分離する分離工程と、を含む。
【0025】
(水素生成工程)
本発明に係る水素生成工程では、水を電解して、水素と原料水由来の水蒸気とを含有する湿潤水電解水素ガスを得る。水の電解方法は、水素が発生する方法であれば特に限定されないが、アルカリ水電解、固体高分子型水電解、高温水蒸気電解などが挙げられる。
【0026】
アルカリ水電解は、通常、電解質として水酸化ナトリウム水溶液または水酸化カリウム水溶液を用いる。アルカリ水電解では、陰極側で、水から水素と水酸化物イオンが得られ、陽極側で、水酸化物イオンから水と酸素が得られる。陽極側(アノード側)で酸素が得られ、陰極側(カソード側)で水素が得られるので、水素は、酸素と別に得ることができるが、蒸気圧分の高湿度で水を含む。アルカリ水電解の電解温度は、通常室温~200℃、好ましくは70℃~90℃である。高温であると電極反応速度が向上する傾向にある。
【0027】
固体高分子型水電解は、通常、電解質膜としてフッ素樹脂系カチオン膜などの、プロトン型のカチオン膜を用いる。固体高分子型水電解では、陽極側に水を供給すると酸素と水素イオンが生成する。この水素イオンは膜中を通り陰極側に移動し、電子を得て水素となる。水素イオンの膜中の移動に伴い、水も親和水として陰極側に移動する。陰極側で、発生したガスと移動した水を気液分離して、水素ガスが得られる。水素は、酸素と別に得ることができるが、蒸気圧分の高湿度で水を含む。固体高分子型水電解の電解温度は、通常60℃~100℃である。
【0028】
高温水蒸気電解は、アルカリ水電解を改良したものであり、電解質として酸化ジルコニウム等の固体電解質を用いる。高温水蒸気電解では、陰極側に供給された水蒸気の一部が水素と酸化物イオンになり、水素と水蒸気の混合ガスが得られる。酸化物イオンは電解質の膜中を移動して陽極側で酸素になる。従って、水素は、酸素と別に得ることができるが、未反応の水蒸気との混合ガスとして得られ、高湿度で水を含む。高温水蒸気電解の電解温度は、例えば500℃以上や700℃以上、1000℃以下である。
【0029】
このように、本発明に係る水素生成工程では、水素ガスは、水素と原料水由来の水蒸気とを含有する湿潤水電解水素ガスとして得られる。
【0030】
(吸収工程)
本発明に係る吸収工程では、前記の水素生成工程で得られた湿潤水電解水素ガスと、吸収液とを接触させる。本発明に用いる吸収液は、有機塩のイオン液体と無機塩とを含有する。湿潤水電解水素ガス中の水蒸気は、吸収液に選択的に吸収され、湿度の減少した乾燥水電解水素ガスと、水蒸気を吸収した富吸収液が得られる。本明細書では、水蒸気を吸収した吸収液を、吸収前の吸収液と区別するために「富吸収液」あるいは「水リッチな吸収液」と呼ぶことがある。
【0031】
(イオン液体)
本発明に用いるイオン液体は、カチオンとアニオンからなり、100℃、大気圧で液体の塩である。本発明に係るイオン液体は、特に室温(25℃)で液体であると好ましい。すなわち、本発明に係るイオン液体の融点は、100℃以下であれば特に限定されないが、50℃未満であると好ましく、25℃未満であるとより好ましく、10℃未満であると特に好ましい。このイオン液体には、微量の水分を含むことで融点が100℃以下になるものも含むことができる。また、本発明に係るイオン液体の融点の下限は、特に限定されない。なお、イオン液体は融点以下でも過冷却となり液体状態をとることが多く、そのような液体状態を保持できれば融点が高くとも限定されない。
【0032】
本発明に用いるイオン液体を構成するカチオンとアニオンは、その両方又は、いずれか一方が有機化合物であると好ましい。
【0033】
本発明に用いるイオン液体を構成するアニオンは、特に限定されないが、オキソ酸イオンであると好ましい。本明細書においてオキソ酸とは、酸素を含む無機又は有機の酸である。
【0034】
オキソ酸としては例えば、カルボン酸、硝酸、硫酸、スルホン酸、リン酸エステル、リン酸、ホスホン酸エステル、ホスホン酸が挙げられる。
【0035】
カルボン酸イオンは、式1で表されるアニオンである。
【化3】
ここで、式1中Rは、水素原子又は無置換若しくは置換基を有していてもよい炭化水素基である。炭化水素基は、特に限定されないが、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、芳香族炭化水素基が挙げられ、環状であっても非環状であってもよく、骨格にヘテロ原子を有していてもよい。具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基などのアルキル基;これらのアルケニル基、アルキニル基;メトキシ基、エトキシ基などアルコキシ基、アリル基、アリール基などが挙げられる。炭化水素基としては、脂肪族炭化水素基が好ましく、アルキル基がより好ましい。置換基としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲン基;水酸基;シアノ基などが挙げられる。
【0036】
カルボン酸のより具体的な例としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、オレイン酸、安息香酸、乳酸、トリフルオロ酢酸、ヘプタフルオロ酪酸が挙げられる。中でも、酢酸、トリフルオロ酢酸が好ましい。
【0037】
スルホン酸イオンは、式2で表されるアニオンである。
【化4】
ここで、式2中Rは、水素原子又は無置換若しくは置換基を有していてもよい炭化水素基である。置換基及び炭化水素基としては、カルボン酸イオンの置換基及び炭化水素基として挙げたものが挙げられる。スルホン酸の具体例としては、メチルスルホン酸、エタンスルホン酸などのアルキルスルホン酸;トリフルオロメタンスルホン酸、ノナフルオロブタンスルホン酸などのパーフルオロアルキルスルホン酸;ラウリル硫酸、ポリオキシエチレンアルキル硫酸などのアルキル硫酸が挙げられる。中でもメチルスルホン酸が好ましい。
【0038】
リン酸エステルイオン及びリン酸イオンは、式3で表されるアニオンである。
【化5】
ここで、式3中RとRは、水素原子又は無置換若しくは置換基を有していてもよい炭化水素基である。置換基及び炭化水素基としては、カルボン酸イオンの置換基及び炭化水素基として挙げたものが挙げられる。式3で表されるアニオンは、RとRが水素原子である場合がリン酸イオンであり、一方が水素原子で他方が炭化水素基である場合がリン酸モノエステルイオンであり、両方が炭化水素基である場合がリン酸ジエステルイオンである。リン酸エステルの具体例としては、ブチルホスフェート、フェニルホスフェートなどのリン酸エステル;ジメチルホスフェート、ジブチルホスフェート、ビス(2-エチルヘキシル)ホスフェートなどのリン酸ジエステルが挙げられる。炭化水素基の中でも、脂肪族炭化水素基が好ましく、アルキル基がより好ましく、炭素数2以下のアルキル基が特に好ましく、メチル基が最も好ましい。
【0039】
ホスホン酸エステルイオン及びホスホン酸イオンは、式4で表されるアニオンである。
【化6】
ここで、式4中Rは、水素原子又は無置換若しくは置換基を有していてもよい炭化水素基である。置換基及び炭化水素基としては、カルボン酸イオンの置換基及び炭化水素基として挙げたものが挙げられる。式4で表されるアニオンは、Rが水素原子である場合がホスホン酸イオンであり、Rが炭化水素基である場合がホスホン酸エステルイオンである。炭化水素基の中でも、脂肪族炭化水素基が好ましく、アルキル基がより好ましく、炭素数2以下のアルキル基が特に好ましく、メチル基が最も好ましい。ホスホン酸エステルの具体例としては、メチルホスファイト((MeO)HPOO)が挙げられる。
【0040】
これらのアニオンの中でも、リン酸エステルイオンが好ましく、ホスフェートがより好ましく、ジメチルホスフェートが特に好ましい。
【0041】
本発明に係るイオン液体を構成するカチオンは、特に限定されないが、例えばイミダゾリウム類、ピロリジニウム類、ピペリジニウム類、ピリジニウム類、モルホリニウム類、アンモニウム類、ホスホニウム類、スルホニウム類が挙げられる。
【0042】
これらのカチオンの中でも、ホスホニウム類が好ましく、メチルトリブチルホスホニウムがより好ましい。
【0043】
本発明に係るイオン液体において、前述のカチオンとアニオンの組合せは、塩がイオン液体になるものであれば特に限定されないが、より具体的には、メチルトリブチルホスホニウムとジメチルホスフェートの組み合わせが好ましい。吸収液が、イオン液体としてメチルトリブチルホスホニウム ジメチルホスフェートを含有していると、トリエチレングリコールを単独で用いた吸収液に比べて除湿量が2倍以上となり、好ましい。
【0044】
本発明に係るイオン液体は、市販のものを入手することができ、または公知の方法により製造することができる。例えば、前記のメチルトリブチルホスホニウム ジメチルホスフェートは、商品名「ヒシコーリンPX-4MP」(日本化学工業株式会社製)として入手することができる。
【0045】
(無機塩)
本発明に係る無機塩は、無機化合物のアニオンと無機化合物のカチオンとからなる塩であり、前述のイオン液体を除く化合物である。具体的には、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、クロム酸などの炭素を含まない酸、炭酸、酢酸、シアン酸、シアン化水素酸などの無機酸のアニオンと、金属イオンのカチオンとからなる塩であって、100℃、大気圧で非液体の化合物が挙げられる。
【0046】
無機塩のカチオンは、無機のカチオンであれば特に限定されないが、金属カチオンであると好ましく、アルカリ金属カチオン及びアルカリ土類金属カチオンが好ましく、リチウムイオン及びカルシウムイオンが好ましい。
【0047】
無機塩のアニオンは、無機酸のアニオンであれば、特に限定されないが、ハロゲン、酢酸、蟻酸、炭酸、硝酸、硫酸、硝酸、リン酸、クロム酸、シアン酸、シアン化水素酸のアニオンなどが挙げられる。中出も、ハロゲン、硝酸、酢酸のアニオンが好ましく、塩酸、硝酸、酢酸のアニオンが好ましい。
【0048】
本発明に係る無機塩の具体例としては、前述の無機のカチオンと前述の無機酸のアニオンを組み合わせたものが挙げられるが、より具体的には、酢酸リチウム、酢酸カリウム、酢酸カリウム、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム等の酢酸塩;塩化リチウム、塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウムなどの塩化物塩;臭化リチウム、臭化カリウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化マグネシウム、臭化カルシウム、臭化マグネシウムなどの臭化物塩;硝酸リチウム、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸マグネシウム、硝酸カルシウム、硝酸マグネシウムなどの硝酸塩などが挙げられる。中でも、リチウム塩及びカルシウム塩、並びに酢酸塩、塩化物塩、臭化物塩、硝酸塩が好ましく、酢酸リチウム、酢酸カルシウム、塩化カルシウム、塩化リチウム、硝酸カルシウム、臭化リチウムがより好ましく、酢酸リチウム、塩化カルシウム、塩化リチウム、硝酸リチウム、硝酸カルシウムが特に好ましい。
【0049】
(吸収液)
本発明に係る吸収液中のイオン液体と無機塩との組み合わせは特に限定されないが、無機塩がイオン液体に均一に溶解しうる無機塩であると好ましく、無機塩がイオン液体中に使用温度で均一に溶解または分散しうるものであるとより好ましい。具体的には、イオン液体としてのメチルトリブチルホスホニウム ジメチルホスフェートと、無機塩としての酢酸リチウム、酢酸カルシウム、塩化カルシウム、塩化リチウム、硝酸カルシウム、硝酸リチウム又は臭化リチウムの組み合わせが好ましく、イオン液体としてのメチルトリブチルホスホニウム ジメチルホスフェートと、無機塩としての酢酸リチウム、塩化カルシウム又は塩化リチウムの組み合わせがより好ましい。
【0050】
本発明に係る吸収液中のイオン液体と無機塩との含有割合は特に限定されないが、吸収液が流動性を有するように、イオン液体に無機塩が使用温度で均一に溶解または分散しうる割合であると好ましく、イオン液体の常温における溶解度以下であるとより好ましく、イオン液体に無機塩が使用温度で均一に溶解しうる割合であると特に好ましい。ここで常温とは、例えば20℃±15℃をいう(JIS Z8703)。含有割合がこの範囲にあると、吸収液は循環性に優れ、吸収及び放出の速度が速い点で好ましい。
【0051】
本発明に係る吸収液に用いられる無機塩は、単独で空気や有機溶媒用の乾燥剤として用いられているものもあるが、それらの乾燥剤は固体であり流動性に劣る場合や、吸湿後に溶液となり、再生のために乾燥すると形状が乾燥剤に不向きな形状となったり、乾燥自体が困難である場合がある。それに対して、無機塩とイオン液体を併用した本発明に係る吸収液は、液状であるので循環させることが可能であり、また、吸収放出の速度が速く、再生も容易である。
【0052】
本発明に係る吸収液は、本発明の効果を損なわない範囲で、更に添加剤を含有させることができる。
【0053】
吸収工程における水電解水素ガスと吸収液の接触方法は、水電解水素ガス中の水蒸気が吸収液に吸収される限り特に限定されない。例えば、水電解水素ガスに吸収液をスプレーする方法、塔の壁面に上方から吸収液を流下させ、水電解水素ガスを流通させる方法、充填物を充填した充填塔の上方から吸収液を流下させ、水電解水素ガスを流通させる方法、吸収液中に水電解水素ガスをバブリングさせる方法が挙げられる。
【0054】
前述の通り、水電解水素ガス生成工程で得られる水素は、気体又は液体の水を伴う。液体の水が存在する場合は、吸収工程の前に気液分離して除去できる。必要により気液分離して得られた気体は、水素と水蒸気との混合ガスになるが、水分を多く含み、通常、飽和水蒸気量の水蒸気を含む。例えば、25℃、常圧では、1m当たり飽和水蒸気量の23gの水蒸気を含む。
【0055】
吸収液中のイオン液体及び無機塩は、水素をほとんど吸収せず水を吸収する。したがって、吸収工程において、水電解水素ガスを吸収液と接触させると、気相側の水蒸気を、液相の吸収液側に移動させて、気相の水分量を減らすことができる。
【0056】
(分離工程)
本発明に係る分離工程は、前記吸収工程で湿度の減少した乾燥水電解水素ガスと、水蒸気を吸収した富吸収液を気液分離する。吸収液に含まれるイオン液体及び無機塩は、水蒸気を吸収し、かつ蒸気圧が低いので、気液分離して、富吸収液を除くだけで乾燥水電解水素ガスが得られる。
【0057】
本発明に係る分離工程は、前記吸収工程で湿度の減少した乾燥水電解水素ガスと、水蒸気を吸収した富吸収液を気液分離できる方法であれば特に限定されないが、吸収工程と同時に行うことが好ましい。例えば、吸収工程で、水電解水素ガスに吸収液をスプレーする方法を用いた場合には、管の一方から他方に水電解水素ガスを流通させ、その水電解水素ガスに吸収液をスプレーし、水蒸気を吸収した富吸収液を下方から抜き出す方法が挙げられる。水電解水素ガス中の水蒸気は吸収液に吸収されて抜き出され、管の他方から乾燥水電解水素ガスが排出される。
【0058】
また、吸収工程として、塔の壁面に上方から吸収液を流下させ、水電解水素ガスを流通させる方法や、充填物を充填した充填塔の上方から吸収液を流下させ、水電解水素ガスを流通させる方法を用いた場合には、下方から水電解水素ガスを吹き込み、上方から、乾燥水電解水素ガスを抜き出し、下方から水蒸気を吸収した富吸収液を抜き出すことができる。
【0059】
前記の水電解水素ガス生成工程は、温度が高いとエネルギー効率が高い。一方、吸収工程の吸収液は、温度が低いほど、水の吸収量が多い。従って、高湿水電解水素ガスを吸収工程前に冷却すると好ましい。そのため、吸収工程前の水電解水素ガスと富吸収液とで熱交換を行う熱交換工程を行うと、エネルギー効率の点で好ましい。
【0060】
(再生工程)
本発明の乾燥水電解水素ガスの製造方法は、前述の分離工程で得られた富吸収液を再生させる再生工程を含むことができる。
【0061】
富吸収液を吸収液に再生させる方法は特に限定されない。例えば、富吸収液と乾燥ガスとを接触させる方法、富吸収液を加熱する方法、及び/又は富吸収液を減圧する方法が挙げられる。
【0062】
富吸収液に乾燥ガスを接触させると、富吸収液から乾燥ガスに水分が移動し、富吸収液を吸収液に再生できる。乾燥ガスとしては、乾燥窒素ガスや、吸収工程で得られる乾燥水電解水素ガスの一部を用いることができる。
【0063】
また、本発明の吸収液の水の吸収量は、温度が高いほど低下する傾向にある。従って、水電解水素ガスと吸収液を接触させた温度よりも富吸収液を高温にすることで、水蒸気を放出させ、吸収液を再生させることができる。
【0064】
また、吸収液中のイオン液体の蒸気圧と水の蒸気圧の差や、イオン液体及び無機塩の水の吸収量が水蒸気分圧が低いほど低下することを利用して、富吸収液を減圧することによって水蒸気を放出させ吸収液を再生させることができる。加熱と減圧を同時に行うこともできる。放出された水蒸気は、水電解の原料として再利用することもできる。
【0065】
再生工程で、富吸収液を加熱する場合、富吸収液の加熱は、吸収工程前の水電解水素ガスと熱交換を行う熱交換を行うと、エネルギー効率の点で好ましい。
【0066】
一方、再生工程で再生した吸収液を、吸収工程に用いる際は、水の吸収量を上げるために温度を下げることが好ましい。再生した吸収液の冷却には、再生工程前の富吸収液を用いることができる。すなわち、再生工程で再生した吸収液と、富吸収液とで熱交換を行う第2の熱交換工程を行うと、エネルギー効率の点で好ましい。
【0067】
前述のイオン液体を含有する吸収液を用いた吸収工程は、水蒸気量の非常に高い水電解水素ガスを中程度の湿度まで低下させることを、連続的に、かつ低コストで行うこともできる。従って、その後の分離工程で得られた、水分量を減らした乾燥水電解水素ガスを、塩化カルシウムやゼオライトなどの固体乾燥剤などで水分を更に低下させる場合にも、固体乾燥剤の使用量を減らす事や使用期間を延ばす事ができる。
【0068】
(乾燥水電解水素ガスの製造装置)
本発明の乾燥水電解水素ガスの製造方法について、図を用いて説明するが本発明はこれに限定されない。
【0069】
図1は、乾燥水電解水素ガスの製造装置の一態様を示す図であり、吸収液の再生を減圧で行う態様である。水電解装置1は、水を電気分解して水素と酸素を発生させる。電気分解の態様としては、アルカリ水電解、固体高分子型水電解、高温水蒸気電解などがあるが、例えばアルカリ水電解の場合は、陰極側(カソード側)で水素が発生する。水素の発生量は、水電解装置1の電力量により制御でき、水電解装置1は加圧状態になる。この水素は、水蒸気を含む湿潤水素2である。マスフローコントローラ(MFC)3を水電解装置1の出口に設け湿潤水素2の流出量を制御する。湿潤水素2は、三方弁4を介して吸収塔5へ導入される。吸収塔5では吸収液6と湿潤水素2を接触させる。例えば、吸収塔5の内部に充填物を詰め、吸収塔5の上部から吸収液6を導入し、吸収塔5の下部から湿潤水素2を導入して接触させる。吸収塔5内の吸収液6は、温度制御し、例えば25℃などの一定温度とすることができる。吸収塔5内の圧力は、圧力調整弁を設けて制御することもできる。湿潤水素2中の水分は、吸収液6に吸収されて減少する。水分の減少した水素は、吸収塔5の上部から三方弁7を介してトラップ8に導入される。トラップ8は、水素に飛沫同伴された吸収液を除去することができる。トラップ8を通過した水素は、静電容量式露点計9及び鏡面式露点計10を通して露点が計測され、乾燥水素11が得られる。
【0070】
吸収塔5で水分を吸収した吸収液6は、富吸収液12として吸収塔5の下部から排出され、流量計13を通して再生塔14内に上部から導入される。再生塔14は、例えば80℃などの一定温度に調整することができる。図1では、再生塔14の上部にトラップ16を介して、真空ポンプ17が配置されており、減圧を行う事ができる。再生塔14内が減圧されると富吸収液12中の水分は、富吸収液12から放出され、吸収液6が再生される。水分は、再生塔14の上部から放出され、トラップ16で回収され、又は排気口18から排気される。再生された吸収液6は、再生塔14の下部から排出されて、送液ポンプ15によって吸収塔5へ循環される。
【0071】
図2は、乾燥水電解水素ガスの製造装置の一態様を示す図であり、吸収液の再生に乾燥窒素を用いる態様である。図2に示す乾燥水電解水素ガスの製造装置では、乾燥窒素ボンベ19から、流量計20を介して、一定量の乾燥窒素21を再生塔14内に下部から導入して、再生塔14内に上部から導入される富吸収液12と接触させる。再生塔14は、例えば100℃、80℃、60℃などの一定温度に調整することができる。再生塔14内で、乾燥窒素21と富吸収液12とが接触することで、富吸収液12中の水分は、富吸収液12から乾燥窒素21に移動し、湿潤窒素22として排気口23から放出され、吸収液6が再生される。再生された吸収液6は、再生塔14の下部から排出されて、送液ポンプ15によって吸収塔5へ循環される。
【0072】
再生塔14における乾燥窒素21の流量は、特に限定されないが、例えば、富吸収液12:乾燥窒素21(体積比(常圧))で、1:300~1:1が好ましく、1:200~1:1がより好ましい。乾燥窒素の量が少ないほど再生に要するエネルギーを低減でき好ましい。
【0073】
図3は、乾燥水電解水素ガスの製造装置の一態様を示す図であり、吸収液の再生に乾燥窒素を用いかつ減圧する態様である。図3に示す乾燥水電解水素ガスの製造装置では、乾燥窒素ボンベ19から、流量計20を介して、一定量の乾燥窒素21を再生塔14内に下部から導入して、再生塔14内に上部から導入される富吸収液12と接触させる。再生塔14は、例えば100℃、80℃、60℃などの一定温度に調整することができる。また、図3では、再生塔14の上部にトラップ16を介して、真空ポンプ17が配置されており、減圧を行う事ができる。減圧は、例えば、-50kPaG(ゲージ圧)などにすることができる。再生塔14内で、減圧下、乾燥窒素21と富吸収液12とが接触することで、富吸収液12中の水分は、富吸収液12から乾燥窒素21に移動し、湿潤窒素22として排気口18から放出され、吸収液6が再生される。再生された吸収液6は、再生塔14の下部から排出されて、送液ポンプ15によって吸収塔5へ循環される。
【0074】
図4は、乾燥水電解水素ガスの製造装置の一態様を示す図であり、吸収液の再生に製造した乾燥水素の一部を用いる態様である。図4に示す乾燥水電解水素ガスの製造装置では、吸収塔5の上部から抜き出した水分の減少した水素の一部を、T字コネクター24で抜き出しマスフローコントローラ(MFC)25で流量を制御して、一定量を再生塔14内に下部から導入し、再生塔14内に上部から導入される富吸収液12と接触させる。再生塔14は、例えば100℃、80℃、60℃などの一定温度に調整することができる。再生塔14内で、水分の減少した水素と富吸収液12とが接触することで、富吸収液12中の水分は、富吸収液12から水分の減少した水素に移動し、水分の増加した水素として排気口23から放出され、吸収液6が再生される。再生された吸収液6は、再生塔14の下部から排出されて、送液ポンプ15によって吸収塔5へ循環される。
【0075】
図5は、乾燥水電解水素ガスの製造装置の一態様を示す図であり、吸収液の再生に製造した乾燥水素の一部を用いかつ減圧する態様である。図5に示す乾燥水電解水素ガスの製造装置では、吸収塔5の上部から抜き出した水分の減少した水素の一部を、T字コネクター24で抜き出しマスフローコントローラ(MFC)25で流量を制御して、一定量を再生塔14内に下部から導入し、再生塔14内に上部から導入される富吸収液12と接触させる。再生塔14は、例えば100℃、80℃、60℃などの一定温度に調整することができる。更に、図5では、再生塔14の上部にトラップ16を介して、真空ポンプ17が配置されており、減圧を行う事ができる。減圧は、例えば、-50kPaG(ゲージ圧)などにすることができる。再生塔14内で、減圧下、水分の減少した水素と富吸収液12とが接触することで、富吸収液12中の水分は、富吸収液12から水素に移動し、湿潤した水素として排気口18から放出され、吸収液6が再生される。再生された吸収液6は、再生塔14の下部から排出されて、送液ポンプ15によって吸収塔5へ循環される。
【0076】
図6は、乾燥水電解水素ガスの製造装置の一態様を示す図であり、吸収液の再生に製造した乾燥水素の一部を用いかつその水素を水電解装置に循環させる態様である。図6に示す乾燥水電解水素ガスの製造装置では、吸収塔5の上部から抜き出した水分の減少した水素の一部を、T字コネクター24で抜き出しマスフローコントローラ(MFC)25で流量を制御して、一定量を再生塔14内に下部から導入し、再生塔14内に上部から導入される富吸収液12と接触させる。再生塔14は、例えば100℃、80℃、60℃などの一定温度に調整することができる。再生塔14内で、水分の減少した水素と富吸収液12とが接触することで、富吸収液12中の水分は、富吸収液12から水分の減少した水素に移動し、水素の水分が増加するとともに、吸収液6が再生される。再生塔14の上部からは水分の増加した水素が得られ、再生塔14の下部からは再生した吸収液6が得られる。再生した吸収液6は、再生塔14の下部から排出されて、送液ポンプ15によって吸収塔5へ循環される。水分の増加した水素は、コンプレッサ26により加圧されて、水電解装置1に戻される。
【0077】
(実施例)
以下、本発明を実施例に基づき説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。圧力は、特に断りのない限り絶対圧である。
【0078】
(露点の測定)
大気圧下で、露点計(ロトロニック社製;工業用温湿度変換器HF533-WAA3D14X・耐圧型プローブHC2-IE102-M、東京光電子工業株式会社製;鏡面式露点計DPH-703A)を用いて、露点を測定した。
【0079】
(水蒸気吸収量の測定)
各種の吸収液を用いて、その水蒸気吸収量を測定した。測定は、乾燥空気で充填した恒温恒湿器内に、所定の質量の吸収液(イオン液体及び無機塩)をサンプル瓶に入れて設置する。その後、吸収液を攪拌子で攪拌しながら、恒温恒湿器に所定の温度で所定の湿度の空気を通気して吸収液に接触させ、所定の時間間隔で吸収量の質量変化を測定した。吸収液の質量変化が無くなった時点を飽和状態とみなし、水蒸気吸収量wH2O(g/g-吸収液)を求めた。ここで、「g-吸収液」は、特に断りの無い限り、吸収液の質量である。温度及び相対湿度の条件は、約25℃(相対湿度約50%、約70%、約90%)及び約80℃(相対湿度約30%、約50%、約70%、約90%)で行った。なお、イオン液体及び無機塩への水素の吸収量と、空気の吸収量は、いずれも水分の吸収量に比べて無視できる程度のものである。また、湿潤水素と湿潤空気における水蒸気吸収量の差がない。そのため、湿潤空気の水蒸気吸収量を測定することで、湿潤水素の除湿効果を確認することができる。
【0080】
(実施例1)
乾燥空気雰囲気下で、攪拌子を入れた蓋付きサンプル瓶(容量9ml)に、無機塩としての酢酸リチウム0.5084gを入れ、イオン液体としての、下式で示される、メチルトリブチルホスホニウム ジメチルホスフェート(日本化学工業株式会社製、ヒシコーリンPX-4MP、化学式[(n-C(CH)][(MeO)PO ])0.5080gを加えて、酢酸リチウムが完全に溶解するまで攪拌し、均一溶液の吸収液E1を調製した(質量比;イオン液体:無機塩=1:1)。
【化7】
【0081】
調製した吸収液E1について、約25℃(相対湿度約50%、約70%、約90%)及び約80℃(相対湿度約30%、約50%、約70%、約90%)の条件で水蒸気吸収量の測定を行った。測定結果を表1に示す。吸収液E1を調製する前の酢酸リチウムは、白色固体であった。吸収液E1は、約25℃の場合、湿度50%RHのときは固体が残っていた。湿度70%RH及び湿度90%RHのときは吸収液は透明な均一溶液になった。さらに、吸収液E1は、約80℃の場合、湿度30%RHのときは固体が残り、湿度50%RH、湿度90%RHのときは透明な均一溶液になった。
【0082】
このように、吸収液に流動性がある場合には、吸収塔で、湿潤水電解水素ガスと、この吸収液とを接触させて、湿潤水電解水素ガス中の水蒸気を選択的に前記吸収液に吸収させて、湿度の減少した乾燥水電解水素ガスと水蒸気を吸収した富吸収液とを得、その乾燥水電解水素ガスと、富吸収液を気液分離することで、乾燥水電解水素ガスを製造することができる。また、富吸収液を、吸収塔から再生塔に移送して低湿度ガスに接触させることで、富吸収液中の水分が低湿度ガスに移動するため、富吸収液から水分を除去して吸収液を再生させることができる。再生した吸収液は、再び吸収塔に移送して利用することができる。
【0083】
【表1】
【0084】
(実施例2)
無機塩としての酢酸リチウムの質量を0.5042gに変え、イオン液体のPX-4MPの質量を0.2523gに変えた以外は、実施例1と同様にして、吸収液E2を調製した(質量比;イオン液体:無機塩=1:2)。調製した吸収液E2について、約25℃(相対湿度約50%、約70%、約90%)及び約80℃(相対湿度約30%、約50%、約70%、約90%)の条件で水蒸気吸収量の測定を行った。測定結果を表1に示す。また、吸収液E2を調製する前の酢酸リチウム、各温度、湿度下での飽和状態における目視による外観を図7、8に示す。吸収液E2を調製する前の酢酸リチウムは、白色固体であった。吸収液E2は、約25℃の場合、湿度50%RHのときは固体が残っていた。湿度70%RH及び湿度90%RHのときは吸収液は透明な均一溶液になった。さらに、吸収液E1は、約80℃の場合、湿度30%RHのときは透明な均一溶液になり、湿度50%RHのときはゲル状になり、湿度90%RHのときは、固体になった。このように特定の条件で固体になる組成比の場合、固体にならない条件下で、吸収液の移送を行うことができる。
【0085】
(実施例3)
無機塩の酢酸リチウムの質量を0.6203gに変え、イオン液体のPX-4MPを0.2063gに、た以外は、実施例1と同様にして、吸収液E3を調製した(質量比;イオン液体:無機塩=1:3)。調製した吸収液E3について、約25℃(相対湿度約50%、約70%、約90%)及び約80℃(相対湿度約30%、約50%、約70%、約90%)の条件で水蒸気吸収量の測定を行った。測定結果を表1に示す。また、吸収液E3を調製する前の酢酸リチウム、各温度、湿度下での飽和状態における目視による外観を図7、8に示す。吸収液E3を調製する前の酢酸リチウムは白色固体であった。また、吸収液E3は、約25℃の場合、湿度50%RH及び湿度70%RHのときは固体が残っていた。湿度90%RHのときは透明な均一溶液になった。さらに吸収液E3は、約80℃の場合、湿度30%RHのときは透明な均一溶液になり、湿度50%RHのときは固体が残り、湿度90%RHのときは固体になった。
【0086】
(実施例4)
無機塩としての酢酸リチウムを、塩化カルシウム0.4181gに変え、イオン液体のPX-4MPを、PX-4MP0.4180gに変えた以外は実施例1と同様にして吸収液E4を調製した(質量比;イオン液体:無機塩=1:1)。調製した吸収液E4について、約25℃(相対湿度約50%、約70%、約90%)及び約80℃(相対湿度約30%、約50%、約70%、約90%)の条件で水蒸気吸収量の測定を行った。測定結果を表1に示す。また、吸収液E4を調製する前の塩化カルシウム、各温度、湿度下での飽和状態における目視による外観を図7、8に示す。吸収液E4を調製する前の塩化カルシウムは白色固体であった。また、吸収液E4は、約25℃の場合、湿度50%RHでは固体が残っており、湿度70%RH、湿度90%RHでは透明な均一溶液になった。また、吸収液E4は、約80℃の場合、湿度30%RHでは白濁溶液となり、湿度70%RH及び湿度90%RHでは固体になった。
【0087】
(実施例5)
無機塩としての酢酸リチウムを、硝酸カルシウム0.4141gに変え、イオン液体のPX-4MPを0.4148gに変えた以外は、実施例1と同様にして、吸収液E5を調製した(質量比;イオン液体:無機塩=1:1)。調製した吸収液E5について、約25℃(相対湿度約50%、約70%、約90%)及び約80℃(相対湿度約30%、約50%、約70%、約90%)の条件で水蒸気吸収量の測定を行った。測定結果を表1に示す。また、吸収液E5を調製する前の硝酸カルシウム、各温度、湿度下での飽和状態における目視による外観を図7、8に示す。吸収液E5を調製する前の硝酸カルシウムは白色固体であった。また、吸収液E5は、約25℃の場合、湿度50%RH及び湿度70%RHのときは固体が残っており、湿度90%RHのときは透明な2層の溶液になった。また、吸収液E5は、約80℃の場合、湿度30%RHでは黄色の2層の溶液となり、湿度70%RH及び湿度90%RHでは固体になった。
【0088】
(実施例6)
無機塩としての酢酸リチウムを、酢酸カルシウム0.4141gに変え、イオン液体のPX-4MPを0.4148gに変えた以外は、実施例1と同様にして、吸収液E6を調製した(質量比;イオン液体:無機塩=1:1)。調製した吸収液E6について、約25℃(相対湿度約50%、約70%、約90%)及び約80℃(相対湿度約30%、約50%、約70%、約90%)の条件で水蒸気吸収量の測定を行った。測定結果を表1に示す。また、吸収液E6を調製する前の酢酸カルシウム、各温度、湿度下での飽和状態における目視による外観を図7、8に示す。吸収液E6を調製する前の硝酸カルシウムは白色固体であった。また、吸収液E6は、約25℃の場合、湿度50%RH、湿度70%RH及び湿度90%RHのときは固体であった。また、吸収液E6は、約80℃の場合、湿度30%RHでは黄色の2層の溶液となり、湿度70%RH及び湿度90%RHでは固体になった。
【0089】
(実施例7)
無機塩としての酢酸リチウムを、塩化リチウム0.402gに変え、イオン液体のPX-4MPを0.4013gに変えた以外は、実施例1と同様にして、吸収液E7を調製した(質量比;イオン液体:無機塩=1:1)。調製した吸収液E7について、約25℃(相対湿度約50%、約70%、約90%)及び約80℃(相対湿度約30%、約50%、約70%、約90%)の条件で水蒸気吸収量の測定を行った。測定結果を表1に示す。また、吸収液E7を調製する前の塩化リチウム、各温度、湿度下での飽和状態における目視による外観を図7、8に示す。吸収液E7を調製する前の塩化リチウムは白色固体であった。また、吸収液E7は、約25℃の場合、湿度50%RH、湿度70%RH及び湿度90%RHのいずれの場合も均一な溶液であった。また、吸収液E7は、約80℃の場合、湿度30%RHでは均一で透明な溶液となり、湿度70%RH及び湿度90%RHでは固体と液体の混合物であった。
【0090】
(比較例1)
トリエチレングリコール(以下「TEG」と略記することがある)を吸収液R1として用い、約25℃(相対湿度約50%、約70%、約90%)及び約80℃(相対湿度約30%、約50%、約70%、約90%)の条件で水蒸気吸収量の測定を行った。測定結果を表1に示す。表1の吸収量は、TEG単位質量当たりの水蒸気吸収量を示す。なお、80℃の条件では、吸収液が揮発し吸収量は測定できなかった。吸収液R1、各温度、湿度下での飽和状態における目視による外観を図7、8に示す。水蒸気を吸収する前の吸収液R1は無色の液体であった。また、約25℃の場合、湿度50%RH、湿度70%RH、及び湿度90%RHのときは、透明な無色の液体であった。
【0091】
(比較例2)
イオン液体としての、下式で示されるテトラブチルホスホニウム o,o-ジエチルホスホロジチオエート(日本化学工業株式会社製、ヒシコーリンPX-4ET、化学式[(n-][(CO)PSS])を吸収液R2として用い、約25℃(相対湿度約50%、約70%、約90%)及び約80℃(相対湿度約30%、約50%、約70%、約90%)の条件で水蒸気吸収量の測定を行った。測定結果を表1に示す。表1の吸収量は、PX-4ET単位質量当たりの水蒸気吸収量を示す。
【化8】
【0092】
吸収液R2、各温度、湿度下での飽和状態における目視による外観を図7、8に示す。水蒸気を吸収する前の吸収液R2は無色の液体であった。また、約25℃の場合、湿度50%RH、湿度70%RH及び湿度90%RHのいずれのときも、透明な無色の液体であった。また、吸収液R2は、約80℃の場合、湿度30%RH、湿度70%RH及び湿度90%RHのいずれのときも、透明な無色の液体であった。
【0093】
(比較例3)
無機塩を用いない以外は、実施例1と同様にして、吸収液R3(イオン液体のみ)を調製した。調製した吸収液R3について、約25℃(相対湿度約50%、約70%、約90%)及び約80℃(相対湿度約30%、約50%、約70%、約90%)の条件で水蒸気吸収量の測定を行った。測定結果を表1に示す。水蒸気を吸収する前の吸収液R3は無色の液体であった。また、約25℃の場合、湿度50%RH、湿度70%RH及び湿度90%RHのいずれのときも、透明な無色の液体であった。また、吸収液R3は、約80℃の場合、湿度30%RH、湿度70%RH及び湿度90%RHのいずれのときも、透明な無色の液体であった。
【0094】
実施例1~7及び比較例1~3について、25℃における水蒸気吸収量の湿度依存性を図9に、80℃における水蒸気吸収量の湿度依存性を図10に示す。
以上の結果から、カルシウム塩、リチウム塩などの無機塩を添加すると、水蒸気吸収量が増加することがわかった。水分吸収量については、実施例4(PX-4MP+CaCl=1:1)が最も水蒸気吸収量が多く、続いて実施例7(PX-4MP+LiCl=1:1)、実施例2(PX-4MP+CHCOOLi=1:2)、実施例3(PX-4MP+CHCOOLi=1:3)、実施例1(PX-4MP+CHCOOLi=1:1)、実施例5(PX-4MP+Ca(NO=1:1)の順に水蒸気吸収量が増加したことがわかる。イオン液体とTEGの比較を行うと、比較例3(PX-4MP)のほうが比較例1(TEG)よりも水分吸収量が多く、比較例2(PX-4ET)はほとんど水蒸気を吸収していないことがわかる。イオン液体に酢酸リチウムを添加する場合、混合割合が、PX-4MP:CH3COOLiで、1:1(実施例1)のときより1:2(実施例2)及び1:3(実施例3)のほうが水蒸気吸収量が多く、湿度の依存性も高かった。1:2(実施例2)は、1:3(実施例3)よりわずかに吸収量が多かった。
次に、無機塩の割合に対する水蒸気吸収量について検討を行った。
【0095】
(実施例8)
無機塩としての酢酸リチウムを、塩化リチウム0.4524gに変え、イオン液体のPX-4MPを0.2272gに変えた以外は、実施例1と同様にして、吸収液E8を調製した(質量比;イオン液体:無機塩=1:2)。調製した吸収液E8について、約25℃(相対湿度約50%、約70%、約90%)及び約80℃(相対湿度約30%、約50%、約70%、約90%)の条件で水蒸気吸収量の測定を行った。測定結果を表2に示す。また、吸収液E8を調製する前の塩化リチウム、各温度、湿度下での飽和状態における目視による外観を図11に示す。吸収液E8を調製する前の塩化リチウムは白色固体であった。また、吸収液E8は、約25℃の場合、湿度50%RH、湿度70%RH、及び湿度90%RHのとき、透明な均一溶液になった。また、吸収液E8は、約80℃の場合、湿度30%RH及び湿度70%RHでは白濁溶液となり、湿度90%RHでは透明な均一溶液になった。
【0096】
(実施例9)
無機塩としての酢酸リチウムを、塩化リチウム0.7991gに変え、イオン液体のPX-4MPを0.2655gに変えた以外は、実施例1と同様にして、吸収液E9を調製した(質量比;イオン液体:無機塩=1:3)。調製した吸収液E9について、約25℃(相対湿度約50%、約70%、約90%)及び約80℃(相対湿度約30%、約50%、約70%、約90%)の条件で水蒸気吸収量の測定を行った。測定結果を表2に示す。また、吸収液E9を調製する前の塩化リチウム、各温度、湿度下での飽和状態における目視による外観を図11に示す。吸収液E9を調製する前の塩化リチウムは白色固体であった。また、吸収液E9は、約25℃の場合、湿度50%RH、湿度70%RH及び湿度90%RHのとき、透明な均一溶液になった。また、吸収液E9は、約80℃の場合、湿度30%RH及び湿度70%RHでは白濁溶液となり、湿度90%RHでは透明な均一溶液になった。
【0097】
(実施例10)
無機塩としての酢酸リチウムを、塩化カルシウム0.6018gに変え、イオン液体のPX-4MPを0.3007gに変えた以外は、実施例1と同様にして、吸収液E10を調製した(質量比;イオン液体:無機塩=1:2)。調製した吸収液E10について、約25℃(相対湿度約50%、約70%、約90%)及び約80℃(相対湿度約30%、約50%、約70%、約90%)の条件で水蒸気吸収量の測定を行った。測定結果を表2に示す。また、吸収液E10を調製する前の塩化カルシウム、各温度、湿度下での飽和状態における目視による外観を図11に示す。吸収液E10を調製する前の塩化カルシウムは白色固体であった。また、吸収液E10は、約25℃の場合、湿度50%RH、湿度70%RH及び湿度90%RHのとき、透明な均一溶液になった。また、吸収液E10は、約80℃の場合、湿度30%RHのとくは固体となり、湿度70%RHのときは2層となり、湿度90%RHのときは透明な均一溶液になった。
【0098】
(実施例11)
無機塩としての酢酸リチウムを、塩化カルシウム0.6375gに変え、イオン液体のPX-4MPを0.2078gに変えた以外は、実施例1と同様にして、吸収液E11を調製した(質量比;イオン液体:無機塩=1:3)。調製した吸収液E11について、約25℃(相対湿度約50%、約70%、約90%)及び約80℃(相対湿度約30%、約50%、約70%、約90%)の条件で水蒸気吸収量の測定を行った。測定結果を表2に示す。また、吸収液E11を調製する前の塩化カルシウム、各温度、湿度下での飽和状態における目視による外観を図11に示す。吸収液E11を調製する前の塩化リチウムは白色固体であった。また、吸収液E10は、約25℃の場合、湿度50%RH、湿度70%RH及び湿度90%RHのとき、透明な均一溶液になった。また、吸収液E11は、約80℃の場合、湿度30%RHのときは固体になり、湿度70%RHのときは2層になり、湿度90%RHでは透明な均一溶液になった。
【表2】
【0099】
(除湿試験)
図14に示す除湿装置を用いて、各種の条件で水電解水素ガスの除湿を行った。図14に示す除湿装置は、水電解装置(不図示)と、水電解水素ライン27、加湿塔28、富吸収液33用の流量計30、再生塔31、再生した吸収液34用の送液ポンプ32を備える。水電解装置(不図示)で発生した水電解水素ガスは、露点の確認後、水電解水素ライン27を通して加湿塔28に供給する。加湿塔28では、除湿性能を評価するため温度10℃で飽和湿度まで加湿する。吸収塔29では、加湿された湿潤水素と吸収液34とを所定の温度で接触させる。吸収塔29で水分を吸収した富吸収液33を、流量計30で流量調整し、再生塔31へ移送する。再生塔31では、富吸収液33と乾燥窒素を接触させて、吸収液34を再生させる。再生した吸収液34は、送液ポンプ32で流量を調整して吸収塔29へ循環させる。
なお、下記の実験では、イオン液体単独、エチレングリコール単体の吸収液を用いているが、本願発明の吸収液を用いて同様に行う事で、より効率的に水電解水素ガスの除湿を行う事ができる。
【0100】
(除湿試験1)
水電解水素ガスを、流量2L/min、圧力0.30MPaGで水電解水素ライン27に供給し、加湿塔温度を10℃、吸収塔温度を25℃、吸収塔圧力を0.30MPaG、吸収塔液量を500mL、再生塔液量を500mL、吸収液をイオン液体PX-4MPに固定し、再生塔の温度を約60℃~100℃、再生塔の圧力を、-50kPaG~0kPaG、乾燥窒素流量を100~500mL/min、吸収液の循環量を2~5mL/minの範囲で表3に示す条件で除湿試験を行った。より具体的には、1)露点計へ乾燥させた水電解水素ガスを流し、乾燥水素の露点を測定し、次いで、2)露点計へ加湿塔28からのラインを切り替え、加湿水素の露点を測定し露点が10℃程度であることを確認し、次いで3)露点計へ吸収塔29からのラインを切り替え(すなわち、水電解水素ガスを水電解水素ライン27で加湿塔28に導入して加湿し、更に吸収塔29に導入し)、吸収液による除湿を行い、除湿水素の露点を経時的に測定し、露点が一定になった時点の露点を除湿水素の露点とした。結果を表3に示す。また、吸収液中の水分量を測定した。結果を表3に示す。
【0101】
【表3】
【0102】
以上の結果から以下の事がわかる。1)窒素流量を500mL/min、300mL/min、100mL/minと減らしていくと、除湿水素の露点は徐々に高くなった。2)再生塔温度を100℃、80℃、60℃と下げていくと、除湿水素の露点は徐々に高くなった。3)再生塔の圧力を-50kPaから0kPaに増大させると、除湿水素の露点は高くなり、再生塔温度100℃より60℃でその傾向はより顕著であった。4)吸収液の循環量を5mL/minから2mL/minに減少させると、除湿水素の露点は高くなり、再生塔温度100℃より60℃でその傾向はより顕著であった。特に、窒素流量300mL/minと100mL/minや、再生塔温度80℃と60℃、再生塔圧力-50kPaと0kPaでは、除湿水素の露点の差が大きく、要因としてより重要である。
【0103】
(除湿試験2)
次に、吸収液としてイオン液体PX-4MP及びTEGを用いて比較を行った。
(固定条件)水素流量を2L/min、加湿塔温度を10℃、吸収塔温度を25℃、吸収塔圧力を0.30MPaG、吸収塔液量を500mL、再生塔液量を500mLに固定し、表4に示す条件で、除湿試験1と同様にして除湿試験を行った。結果を表4に示す。
【表4】
【0104】
以上の結果から以下の事がわかる。吸収液としてTEGよりもイオン液体PX-4MPを使用したほうが、6~11℃程度、除湿水素の露点が低くなった。具体的には、1)窒素流量を500mL/min、300mL/min、100mL/minと減らしていくと、除湿水素の露点の差は7.13℃、8.85℃、11.18℃と大きくなっていった。2)再生塔温度を100℃から80℃に下げると、除湿水素の露点の差は7.13℃から11.18℃と大きくなった。3)再生塔の圧力を-50kPaGから0kPaGに増大させると、除湿水素の露点の差は7.13℃から6.18℃と小さくなった。4)吸収液の循環量を5mL/minから2mL/minに減少させても、除湿水素の露点の差は7.13と6.98℃であり、ほぼ一定であった。このように、窒素流量が少なく、再生塔温度が低く、再生塔圧力が低い場合に、TEGと比較して、イオン液体を含有する吸収液の性能が高くなる傾向にある。
【0105】
以上の除湿試験は、吸収液として、イオン液体であるPX-4MPを単体を用いて行っているが、前述の実施例中の流動性を備える条件で、イオン液体と無機塩を含む吸収液を用いると性能のより良い、乾燥水素の製造方法となる。
【符号の説明】
【0106】
1 ・・・水電解装置
2 ・・・湿潤水素
3 ・・・マスフローコントローラ(MFC)
4 ・・・三方弁
5 ・・・吸収塔
6 ・・・吸収液
7 ・・・三方弁
8 ・・・トラップ
9 ・・・静電容量式露点計
10・・・鏡面式露点計
11・・・乾燥水素
12・・・富吸収液
13・・・流量計
14・・・再生塔
15・・・送液ポンプ
16・・・トラップ
17・・・真空ポンプ
18・・・排気口
19・・・乾燥窒素ボンベ
20・・・流量計
21・・・乾燥窒素
22・・・湿潤窒素
23・・・排気口
24・・・T字コネクター
25・・・マスフローコントローラ(MFC)
26・・・コンプレッサ
27・・・水電解水素ライン
28・・・加湿塔
29・・・吸収塔
30・・・流量計
31・・・再生塔
32・・・送液ポンプ
33・・・富吸収液
34・・・吸収液
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14