(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-02
(45)【発行日】2022-08-10
(54)【発明の名称】石材構造物の補修方法
(51)【国際特許分類】
E04G 23/02 20060101AFI20220803BHJP
E02B 3/14 20060101ALI20220803BHJP
【FI】
E04G23/02 B
E02B3/14 301
(21)【出願番号】P 2019022366
(22)【出願日】2019-02-12
【審査請求日】2021-09-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000166627
【氏名又は名称】五洋建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】100107272
【氏名又は名称】田村 敬二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109140
【氏名又は名称】小林 研一
(72)【発明者】
【氏名】谷口 修
(72)【発明者】
【氏名】加藤 弘義
【審査官】山口 敦司
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-307697(JP,A)
【文献】特開2016-889(JP,A)
【文献】特開2018-184715(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/02
E02B 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
石材からなる石材構造物の表面において検出された欠陥を補修する方法であって、
弾性材料からなる光透過性のシート材を補修対象の欠陥のある石材構造物の表面に接着剤により固定するステップと、
前記シート材の表面に形成された注入部を通して可塑性グラウト材を注入することで前記欠陥に前記可塑性グラウト材を充填するステップと、
前記可塑性グラウト材の充填状態を前記光透過性のシート材を通して確認するステップと、を含み、
前記シート材の裏面の少なくとも互いに対向する一端部領域と他端部領域とに前記シート材よりも前記接着剤との付着性のよい付着補助シートが貼り付けられており、
前記シート材を、前記石材構造物の表面と前記付着補助シートとの間に前記接着剤を介在させることで固定する、石材構造物の補修方法。
【請求項2】
前記一端部領域および前記他端部領域の少なくとも一方において前記シート材の表面にも前記付着補助シートが貼り付けられており、
前記接着剤が前記シート材の表面側の前記付着補助シートに達するように塗布される請求項1に記載の石材構造物の補修方法。
【請求項3】
前記シート材の裏面側の前記付着補助シートを、ネット材を間に挟んだ2層構造とし、
前記ネット材は、前記シート材の弾性変形に追従して変形可能であり、前記シート材の端部からはみ出した部分を有し、
前記石材構造物の表面上の前記ネット材の前記はみ出し部分に前記接着剤が塗布される、請求項1または2に記載の石材構造物の補修方法。
【請求項4】
前記シート材はシリコーンゴムからなり、
前記付着補助シートは、ブチルゴムからなり、前記シート材に熱溶着により貼り付けられる、請求項1乃至3のいずれかに記載の石材構造物の補修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石材からなる石材構造物の補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石積護岸等の石材の目地等における欠陥の補修を充填材料の注入・充填により行う場合、従来方法によれば、充填材料の漏出防止のため木材等からなる型枠を設置する必要があった。
【0003】
特許文献1は、コンクリート構造物の水中部にあるひび割れを補修する方法であって、弾性材料からなる光透過性のゴムシート等のシート材を、ひび割れのある水中部の表面に前記ひび割れを覆うように固定し、前記シート材の表面に形成された注入部を通して水中不分離性の可塑性グラウト材を充填材料として注入することで前記ひび割れ内に前記充填材料を充填し、前記充填材料の充填状態を前記光透過性のシート材を通して確認する水中部のひび割れ補修方法を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
木材等による重量のある型枠を用いると、その固定方法が困難となることから、型枠材としてゴムシートの使用が考えられる。しかし、特許文献1のようなコンクリート構造物のひび割れの補修の場合、コンクリート釘にてシート材を固定することが可能であるが、石材構造物の場合には、石材が硬いことからコンクリート釘を使用することができない。このため、石積護岸等の石材構造物の表面において検出された欠陥の補修を充填材料の注入・充填により行う際に、充填材料の漏出防止のための型枠として弾性のあるシート材を使用する場合には、シート材の固定設置方法が課題となる。
【0006】
また、充填材料の充填の程度を確認するためシート材として光透過性のあるシリコーンゴムシートを用いると、かかるシート材は、水中硬化型の接着剤との付着性が悪く、接着剤による単純な固定が難しいことも課題である。
【0007】
本発明は、上述のような従来技術の問題に鑑み、石材からなる石材構造物の表面において検出された欠陥を充填材料の充填により補修する際に、型枠として用いるシート材を接着剤により石材構造物の表面に確実に固定し設置できる石材構造物の補修方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための石材構造物の補修方法は、石材からなる石材構造物の表面において検出された欠陥を補修する方法であって、弾性材料からなる光透過性のシート材を補修対象の欠陥のある石材構造物の表面に接着剤により固定するステップと、前記シート材の表面に形成された注入部を通して可塑性グラウト材を注入することで前記欠陥に前記可塑性グラウト材を充填するステップと、前記可塑性グラウト材の充填状態を前記光透過性のシート材を通して確認するステップと、を含み、
前記シート材の裏面の少なくとも互いに対向する一端部領域と他端部領域とに前記シート材よりも前記接着剤との付着性のよい付着補助シートが貼り付けられており、前記シート材を、前記石材構造物の表面と前記付着補助シートとの間に前記接着剤を介在させることで固定する。
【0009】
この石材構造物の補修方法によれば、シート材を石材構造物の表面に固定し、シート材の表面の注入部から可塑性グラウト材を注入して補修対象の欠陥に充填し、その充填状態を光透過性のシート材を通して確認できる。
【0010】
また、シート材の裏面(石材構造物の表面側)の少なくとも互いに対向する一端部領域と他端部領域とにシート材よりも接着剤との付着性のよい付着補助シートを貼り付けたシート材を、石材構造物の表面と付着補助シートとの間に接着剤を介在させることで固定する。シート材と接着剤との付着性が悪い場合でも、シート材と接着剤との間に付着補助シートが介在することでシート材と接着剤とを確実に付着できる。このため、接着剤により石材構造物の表面にシート材を確実に接着させることができ、シート材の石材構造物の表面への確実な固定・設置を実現できる。また、付着補助シートをシート材の裏面の互いに対向する一端部領域と他端部領域とに貼り付け、それ以外の部分には付着補助シートが存在しないので、付着補助シートが光非透光性を有するものでも、光透過性のシート材を通した充填状態の確認に支障は生じない。
【0011】
上記石材構造物の補修方法において、前記一端部領域および前記他端部領域の少なくとも一方において前記シート材の表面にも前記付着補助シートが貼り付けられており、前記接着剤が前記シート材の表面側の前記付着補助シートに達するように塗布されることで、接着剤によるシート材の固定がより確実となる。
【0012】
また、前記シート材の裏面側の前記付着補助シートを、ネット材を間に挟んだ2層構造とし、前記ネット材は、前記シート材の弾性変形に追従して変形可能であり、前記シート材の端部からはみ出した部分を有し、前記石材構造物の表面上の前記ネット材の前記はみ出し部分に前記接着剤が塗布されることで、接着剤によるシート材の石材構造物への接着性がより向上し、シート材の固定がよりいっそう確実となる。また、ネット材は、シート材の弾性変形に追従して変形可能であり、石材構造物の表面の凹凸にも追従して変形できるので、石材構造物の表面に接着させやすい。なお、ネット材は、たとえば、樹脂材料からなることが好ましく、付着補助シートは、樹脂製のネット材と接着し易い材料からなることが好ましい。
【0013】
また、前記シート材はシリコーンゴムからなり、前記付着補助シートは、ブチルゴムからなり、前記シート材に熱溶着により貼り付けられることが好ましい。シリコーンゴム製のシート材は、弾性材料でありかつ光透過性を有するので、上記シート材として好適であるが、接着剤との付着性がよくないことの対策として、接着剤との付着性が比較的よいブチルゴムシートを付着補助シートに用いて、シート材に熱溶着により貼り付けることで、シート材と接着剤との付着性を向上させることができる。
【0014】
また、上記石材構造物の補修方法は、水中でも気中でも適用可能であるので、石材構造物の水中部および気中部の補修が可能である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の石材構造物の補修方法によれば、石材からなる石材構造物の表面において検出された欠陥を充填材料の充填により補修する際に、型枠として用いるシート材を接着剤により石材構造物の表面に確実に固定し設置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】第1の実施形態による石材構造物の補修方法における石材構造物の表面へのシート材の設置状態を概略的に示す要部正面図(a)および上方から見た要部上面図(b)である
【
図2】第1の実施形態による石材構造物の補修方法の各ステップS01~S09を説明するためのフローチャートである。
【
図3】
図1の石材間の補修対象である目地に充填材料を充填する様子を概略的に示す要部側断面図である
【
図4】第1の実施形態の変形例による石材表面へのシート材の設置状態を概略的に示す拡大上面図である。
【
図5】第2の実施形態による石材構造物の補修方法における石材構造物の表面へのシート材の設置状態を概略的に示す要部正面図(a)および上方から見た要部上面図(b)である。
【
図6】
図5のシート材の設置状態を拡大してみた拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態について図面を用いて説明する。
図1は第1の実施形態による石材構造物の補修方法における石材構造物の表面へのシート材の設置状態を概略的に示す要部正面図(a)および上方から見た要部上面図(b)である。
【0018】
最初に、第1の実施形態において型枠としてのシート材を石材構造物の表面に固定し設置する方法について
図1を参照して説明する。
【0019】
図1(a)(b)のように、石材構造物を構成する石材1,2間の縦方向に延びる開きすぎた目地(隙間)3を補修対象とし、目地3を覆うようにシート材11を石材1,2の表面Sに固定し設置する。
【0020】
シート材11は、目地3の縦方向長さに適合した長方形状を有し、シート材11の裏面(石材1,2の表面S側)の左右端部の互いに対向する一端部領域11aと他端部領域11bには、シート材11の縦方向長さに適合した細長い形状の付着補助シート12,13が貼り付けられている。また、シート材11の表面の一端部領域11aと他端部領域11bには、同様の付着補助シート14,15が貼り付けられている。
【0021】
図1(a)のように、シート材11の中央縦方向には、充填材料を目地3に注入するために十字状の切り込みからなる複数の注入部21~24が等間隔に並んで設けられている。
【0022】
シート材11は、弾性材料で半透明のシリコーンゴムシートからなる。付着補助シート12~15は、ブチルゴムシートからなり、シート材11の一端部領域11aと他端部領域11bの両面に、外部の熱源によって加熱されて熱溶着されることで貼り付けられる。また、熱溶着とともに必要に応じて圧着を行うようにしてもよい。シリコーンゴムシートは、接着剤との付着性が悪いが、両者の間にブチルゴムシートを介在させることで、接着剤との付着性が改善される。なお、シート材11は充填材料が充分に固化するまでの期間(10日程度)の耐久性があればよい。
【0023】
付着補助シート12~15が熱溶着されたシート材11を接着剤により石材1,2の表面Sに接着させる。すなわち、シート材11の裏面側の付着補助シート12,13に接着剤を塗布し、シート材11を石材1,2の表面Sに貼り付ける。しかる後、シート材11の各端からシート材11の表面側の付着補助シート14,15にまで達するように接着剤をさらに塗布する。かかる接着剤の塗布により、シート材11の左右端を接着剤で包み込むようにして石材1,2の表面Sから左右端の下端、上端を経てシート材11の付着補助シート14,15の若干内側まで延在し側断面形状が略コ字状の接着剤層16,17(
図1(a)では破線で示す)を形成する。
【0024】
接着剤は、水中硬化型の接着剤が好ましく、たとえば、水中硬化型のエポキシ樹脂系接着剤などを使用できる。具体例としては、コニシ株式会社製の水中硬化型エポキシ樹脂系パテ状接着剤のボンドE380(商品名)、積水フーラー株式会社製のエポキシ樹脂系充填目地材のエスダインジョイナーW(商品名)などがあるが、これらに限定されず、他の商品も使用可能である。これらの接着剤によれば、補修対象が石材構造物の水中部・気中部のいずれにあってもシート材を、付着補助シートを介して石材表面に接着することができる。
【0025】
シート材11の裏面側の付着補助シート12,13はシート材11よりも接着剤との付着性がよいので、シート材11に貼り付けることで接着剤との付着性が向上し、シート材11と接着剤との付着性が悪い場合でも、接着剤を、付着補助シート12,13を介してシート材11に確実に付着できる。このため、接着剤からなる接着剤層16,17により石材1,2の表面Sにシート材11を確実に接着させることができる。
【0026】
また、シート材11の表面側の付着補助シート14,15は、同様に、シート材11に貼り付けることで接着剤との付着性が向上し、シート材11の表面側にまで接着剤を確実に接着できる。このように、シート材11の両面に付着補助シート12~15を設けることでシート材11の両面において接着剤層16,17の付着性が向上するので、接着剤によるシート材11の固定がより確実となる。
【0027】
以上のように、石材構造物の場合、コンクリート構造物のようにコンクリート釘でシート材を固定することができず、また、シート材としてシリコーンゴムシートを用いると接着剤との付着性が悪くとも、シート材11の石材1,2の表面Sへの確実な固定・設置を実現することができる。
【0028】
次に、補修対象である目地に充填する充填材料について説明する。充填材料として、水中不分離性の可塑性グラウト材を使用する。可塑性グラウト材は、圧力を加えている段階では流動性があるが、圧力がなくなると流動性が失われる性質がある。型枠等のすき間等において可塑性グラウト材は、圧力がなくなり、流動性が失われるため、すき間等から流失せず、本実施形態のような使用に適している。この水中不分離性の可塑性グラウト材として、たとえば、ベントナイトを水で膨潤させて、それと水、セメント、砂および水中不分離剤や減水剤などの混和剤を用いた水中不分離モルタルとを練り混ぜることで得られる可塑性グラウトを用いることができる。
【0029】
また、水中不分離性の可塑性グラウト材として、特殊な起泡剤を用いたエアモルタルに可塑剤を加え、エアモルタルを瞬時に固結させてエアをグラウト内に封じ込め、この時、同時に可塑状になるようにした二液性注入工法により得られる可塑状空洞充填材料がある。かかる工法は、エアパック工法(登録商標)として公知である(パンフレット「エアパック工法」可塑状グラウト協会2007年10月発行、特許第3618275号公報参照)。
【0030】
さらに、水中不分離性の可塑性グラウト材として、セメントミルク材に含有される主材セメントを、低熱ポルトランドセメントとし、セメントミルク材に含有されるフライアッシュを、JIS規格II種相当の高品質フライアッシュである改質フライアッシュとし、セメントミルク材に含有される水中不分離性混和剤を、アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸系増粘剤とした可塑性グラウト材がある(特開2016-175803号公報参照)。
【0031】
本発明者の実験によれば、充填材料として、非可塑性のグラウト材を使用した場合には、シート材と水中部のコンクリート表面との間から充填材料が漏出し、充填が不可能であったのに対し、充填材料として水中不分離性の可塑性グラウト材を使用することで、充填材料が水中部の石材表面とシート材との間から漏出することを防止できることが確認された。水中不分離性の可塑性グラウト材は、水に強く、また可塑性であるので、水中部のひび割れへの充填材料として好適である。
【0032】
次に、第1の実施形態による石材構造物の補修方法の各ステップについて
図1~
図3を参照して説明する。
図2は、第1の実施形態による石材構造物の補修方法の各ステップS01~S09を説明するためのフローチャートである。
図3は、
図1の石材間の補修対象である目地に充填材料を充填する様子を概略的に示す要部側断面図である。
【0033】
図2を参照して説明する。まず、多数の石材が積み重ねられて構成された石積護岸の水中部に対しダイバー等が目視検査を行い(S01)、
図1(a)(b)のように水中部の石材1,2間の目地3が開きすぎたため欠陥として検出され(S02)、この目地3が補修対象と判断されると、次のように、補修工程がダイバー等により実行される。
【0034】
上述のようにして、
図1(a)(b)の石材1,2間の目地3を覆うようにシリコーンゴムシートからなる光透過性のシート材11を水中硬化型の接着剤により石材1,2の表面Sに固定する(S03)。
【0035】
次に、
図3のように、ハンドガンタイプの注入器20に上述の充填材料を内部に詰め、注入器20の注入側に設けられた小径パイプ20bの先端にナイフ状に形成された先端部20cを、
図1(a)のシート材11の最下位に形成された十字状の注入部21に差し込み、注入器20をセットする(S04)。
【0036】
次に、注入器20の後端側に設けられた押し込み部20aを先端側に押すことで、注入器20の内部の充填材料を送り出し、
図4(a)のように、目地3内に充填材料の可塑性グラウト材Gを注入する(S05)。
【0037】
上述の注入ステップS05により、可塑性グラウト材Gが目地3の下部から充填されていくが、その途中、注入の続行・中断を判断する(S06)。かかる判断は、光透過性のシート材11を通して、目地3内の可塑性グラウト材Gの充填状態を視認することで容易に行うことができる。
【0038】
また、可塑性グラウト材Gの目地3内への充填により、他の切り込みからなる注入部22~24を通して外部に排出される。
【0039】
たとえば、
図3のように、注入器20をセットした高さ(注入部21の高さ)まで可塑性グラウト材Gが充填されたと判断されると、充填材料の注入を中断し(S06)、次に、注入位置を変更する否かを判断する(S07)。この注入位置変更の判断も、光透過性のシート材11を通して、目地3内の可塑性グラウト材Gの充填状態を視認することで容易に行うことができる。
【0040】
注入位置を変更すると判断した場合(S07)、注入器20をシート材11の注入部21から引き抜き、上記ステップS04に戻り、注入部21の上側の注入部、たとえば、注入部22に注入器20をセットし、上記ステップS05と同様に充填材料を注入する。かかる注入により、可塑性グラウト材Gが引き続き目地3内に充填されていく。
【0041】
上記ステップS04~S07を繰り返すことで、可塑性グラウト材Gが目地3内に充填されていくが、光透過性のシート材11を通して目地3内の可塑性グラウト材Gの充填状態を視認することにより、可塑性グラウト材Gが目地3内に充分に充填されたと判断されると、可塑性グラウト材Gの注入が完了する(S08)。次に、シート材11の除去や可塑性グラウト材Gが充填された表面の後処理を必要に応じて行う(S09)。
【0042】
以上のように、本実施形態による水中構造物の補修方法によれば、シリコーンゴムシートからなる光透過性のシート材11を、補修対象の目地3を覆うようにして水中硬化型の接着剤により水中部の石材1,2の表面Sに固定することで水中部に簡易な型枠を設置し、充填材料の充填が可能になるので、従来の重量のある木製などの型枠やパテによる被覆が不要で、しかも、光透過性のシート材11を通して、目地3内に充填される充填材料を目視で把握できるので、充填材料の充填状態を容易に確認できる。
【0043】
また、
図1(a)(b)のように、付着補助シート12~15をシート材11の互いに対向する一端部領域11aと他端部領域11bとに貼り付け、シート材11の領域11a,11b以外の部分には付着補助シートが存在しないので、付着補助シートが光非透光性であっても、光透過性のシート材11を通した充填状態の確認に支障は生じない。
【0044】
次に、シート材の石材表面への固定設置方法の別の例について
図4を参照して説明する。
図4は、第1の実施形態の変形例による石材表面へのシート材の設置状態を概略的に示す拡大上面図である。
【0045】
図4のように、シリコーンゴムシートからなるシート材11の一端部領域11aの裏面側に、ブチルゴムシートからなる付着補助シート12が熱溶着により貼り付けられている。水中硬化型の接着剤からなる接着剤層18により付着補助シート12が石材1の表面Sに接着され、シート材11が石材1の表面に固定される。シート材11の他端部領域11b(
図1)でも同様にしてシート材11が石材2の表面S(
図1)に固定される。
【0046】
図4の例によれば、付着補助シートをシート材の裏面側にのみ設けることで、接着剤によりシート材を石材の表面に確実に固定できる。
図4の固定方法は、
図1と比べて、シート材の表面側の付着補助シートを省略したため、シート材の固定性が低下するが、たとえば、水中部よりも接着条件のよい気中部の欠陥補修に適用することで、より簡単な構成でより簡易な固定方法で補修を行うことができる。
【0047】
次に、第2の実施形態による石材構造物の補修方法について説明する。
図5は第2の実施形態による石材構造物の補修方法における石材構造物の表面へのシート材の設置状態を概略的に示す要部正面図(a)および上方から見た要部上面図(b)である。
図6は、
図5のシート材の設置状態を拡大してみた拡大図である。
【0048】
図5,
図6の例は、シート材11の裏面側の付着補助シートを、ネット材31,32を間に挟んだ2層構造とし、石材1,2の表面S上でシート材11の左右端からはみ出たネット材31,32のはみ出し部分31a,32bにも接着剤を塗布したものである。
【0049】
ネット材31,32は、網状の材料で、たとえば、柔軟性のある樹脂材料からなり、シート材11の弾性変形に追従して変形可能であり、石材1,2の表面Sの凹凸にも追従して変形できる。なお、鋼線等からなる剛性が高いネット材は折れ曲がりが容易でなく、石積護岸等の凹凸に追従することができないため適切でない。
【0050】
シート材11の裏面側の一端部領域11aと他端部領域11bとにブチルゴムシートからなる付着補助シート12a,13aを熱溶着し、付着補助シート12a,13aとブチルゴムシートからなる別の付着補助シート12b,13bとの間にネット材31,32を挟むようにして配置する。かかるブチルゴムシートの2層構造により樹脂製のネット材31,32をブチルゴムシートの粘着力によってシート材11の左右端に設けることができる。シート材11の表面側にもブチルゴムシートからなる付着補助シート14,15が熱溶着されている。
【0051】
ネット材31,32が設けられたシート材11を水中硬化型の接着剤により石材1,2の表面Sに接着させる。すなわち、シート材11の裏面側の付着補助シート12b,13bおよびネット材31,32のはみ出し部分31a、32aに水中硬化型の接着剤を塗布し、シート材11をネット材31,32とともに石材1,2の表面Sに貼り付ける。しかる後、ネット材31,32のはみ出し部分31a、32aおよびシート材11の各端からシート材11の表面側の付着補助シート14,15にまで達するように水中硬化型の接着剤をさらに塗布する。かかる接着剤の塗布により、ネット材31,32のはみ出し部分31a、32aとシート材11の左右端とを接着剤で包み込むようにして石材1,2の表面Sから左右端の下端、上端を経てシート材11の付着補助シート14,15の若干内側まで広範囲に延在した接着剤層33,34(
図5(a)では破線で示す)を形成する。
【0052】
上述のように、本実施形態によれば、シート材11の左右端側にシート材11の弾性変形に追従して変形可能なネット材31,32を設け、シート材11をネット材31,32とともに接着剤層33,34により石材1,2の表面Sに接着することで、水中硬化型の接着剤によるシート材11の石材1,2の表面Sへの接着性がより向上し、シート材11の固定がよりいっそう確実となる。また、ネット材31,32は、石材1,2の表面Sの凹凸にも追従して変形できるので、石材1,2の表面Sに接着させやすい。
【0053】
また、第2の実施形態によるシート材の固定方法によれば、石材構造物の補修対象部がたとえば、水面付近に存在する場合、波浪等の水面の動揺の影響により型枠としてのシート材11が剥がれやすいが、ネット材31,32をシート材11の左右端に設けることで、石材1,2の表面Sにおいて接着剤層33,34を広範囲に設けることができ、シート材11の接着性をいっそう向上できる。よって、シート材11は、補修対象部が水面付近に存在しても、剥がれにくくなる。
【0054】
なお、第2の実施形態において、シート材の固定ステップS03以外は、
図2と同様にして石材構造物の補修方法の各ステップを行うことができる。
【0055】
以上のように本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で各種の変形が可能である。たとえば、本実施形態では石材からなる石材構造物として石積護岸を例にして説明したが、本発明による石材構造物の補修方法は、他の石材構造物の補修に適用できることはもちろんであり、たとえば、石積擁壁や石橋等にも適用できる。
【0056】
また、本実施形態では、石材構造物の石材間の目地開きを欠陥として補修対象としたが、補修対象の欠陥はこれに限定されず、石材端部の目地開き、石材間や端部の目地材の欠落箇所、石材単体のクラック、ピンホールの発生箇所、石材の割れ、剥がれ落ち等の復元箇所も補修対象とすることができる。また、本明細書において、石材構造物の表面とは、石材の正面・左右側面・上下面を含み、また、目地部分も含む。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の石材構造物の補修方法によれば、石材からなる石材構造物の表面において検出された欠陥を充填材料の充填により補修する際に、弾性材料からなる光透過性のシート材を接着剤により石材構造物の表面に確実に固定し設置できるので、軽量で構造の簡単なシート材を型枠として用い、欠陥に充填材料を漏れ出すことなく充填でき、また、その充填状態を確実に確認できる。
【符号の説明】
【0058】
1,2 石材
11 シート材
11a 一端部領域
11b 他端部領域
12~15 付着補助シート
16,17,18 接着剤層
21~24 注入部
31,32 ネット材
33,34 接着剤層
G 可塑性グラウト材(充填材料)
S 石材の表面