(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-02
(45)【発行日】2022-08-10
(54)【発明の名称】熱伝導性シリコーン組成物及びその製造方法、並びに熱伝導性シリコーン硬化物
(51)【国際特許分類】
C08L 83/07 20060101AFI20220803BHJP
C08L 83/05 20060101ALI20220803BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20220803BHJP
【FI】
C08L83/07
C08L83/05
C08K3/22
(21)【出願番号】P 2019083342
(22)【出願日】2019-04-24
【審査請求日】2021-04-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】森村 俊晴
【審査官】堀 洋樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/088416(WO,A1)
【文献】特開2018-188559(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)~(D)成分
(A)1分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)ケイ素原子に直接結合した水素原子を少なくとも2個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:ケイ素原子に直接結合した水素原子のモル数が前記(A)成分由来のアルケニル基のモル数の0.1~5.0倍量となる量、
(C)下記(C-1)~(C-6)からなる熱伝導性充填材:7,500~11,500質量部、
(C-1)平均粒径が100μmを超えて150μm以下である球状アルミナフィラーを1,400~5,500質量部、
(C-2)平均粒径が65μmを超えて100μm以下である球状アルミナフィラーを
900~2,200質量部、
(C-3)平均粒径が35μmを超えて65μm以下である球状アルミナフィラーを
900~2,200質量部、
(C-4)平均粒径が5μmを超えて30μm以下である球状アルミナフィラーを
900~2,200質量部、
(C-5)平均粒径が0.85μmを超えて5μm以下である不定形アルミナフィラーを1,000~4,500質量部、
(C-6)平均粒径が0.2μmを超えて0.85μm以下である球状アルミナフィラーを0~450質量部、
(D)白金族金属系硬化触媒:前記(A)成分に対して白金族元素質量換算で0.1~2,000ppm、
を含むものであることを特徴とする熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項2】
更に、(F)成分として、
(F-1)下記一般式(1)
R
1
aR
2
bSi(OR
3)
4-a-b (1)
(式中、R
1は独立に炭素原子数6~15のアルキル基であり、R
2は独立に非置換又は置換の炭素原子数1~12の1価炭化水素基であり、R
3は独立に炭素原子数1~6のアルキル基であり、aは1~3の整数、bは0~2の整数であり、但しa+bは1~3の整数である。)
で表されるアルコキシシラン化合物、及び
(F-2)下記一般式(2)
【化1】
(式中、R
4は独立に炭素原子数1~6のアルキル基であり、cは5~100の整数である。)
で表される分子鎖片末端がトリアルコキシシリル基で封鎖されたジメチルポリシロキサンからなる群から選ばれる少なくとも1種:前記(A)成分100質量部に対し0.01~300質量部を含有するものであることを特徴とする請求項1に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項3】
更に、(G)成分として、下記一般式(3)
【化2】
(式中、R
5は独立に炭素原子数1~12の脂肪族不飽和結合を含まない1価炭化水素基、dは5~2,000の整数である。)
で表される23℃における動粘度が10~100,000mm
2/sのオルガノポリシロキサンを前記(A)成分100質量部に対し0.1~100質量部含有するものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項4】
23℃における絶対粘度が800Pa・s以下であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の熱伝導性シリコーン組成物の硬化物であることを特徴とする熱伝導性シリコーン硬化物。
【請求項6】
熱伝導率が6.5W/mK以上であることを特徴とする請求項5に記載の熱伝導性シリコーン硬化物。
【請求項7】
硬度がアスカーC硬度計で60以下であることを特徴とする請求項5又は6に記載の熱伝導性シリコーン硬化物。
【請求項8】
絶縁破壊電圧が10kV/mm以上であることを特徴とする請求項5から7のいずれか1項に記載の熱伝導性シリコーン硬化物。
【請求項9】
請求項2に記載された熱伝導性シリコーン組成物の製造方法であって、前記(A)、(C)及び(F)成分を加熱しながら攪拌する工程を有することを特徴とする熱伝導性シリコーン組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に熱伝導による電子部品の冷却のために、発熱性電子部品の熱境界面とヒートシンク又は回路基板等の放熱部材との界面に介在させる熱伝達材料として有用な熱伝導性シリコーン組成物及びその製造方法、並びに熱伝導性シリコーン硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
パーソナルコンピューター、デジタルビデオディスク、携帯電話等の電子機器に使用されるCPU、ドライバICやメモリー等のLSIチップは、高性能化・高速化・小型化・高集積化に伴い、それ自身が大量の熱を発生するようになり、その熱によるチップの温度上昇はチップの動作不良、破壊を引き起こす。そのため、動作中のチップの温度上昇を抑制するための多くの熱放散方法及びそれに使用する熱放散部材が提案されている。
【0003】
従来、電子機器等においては、動作中のチップの温度上昇を抑えるために、アルミニウムや銅等の熱伝導率の高い金属板を用いたヒートシンクが使用されている。このヒートシンクは、そのチップが発生する熱を伝導し、その熱を外気との温度差によって表面から放出する。
チップから発生する熱をヒートシンクに効率よく伝えるために、ヒートシンクをチップに密着させる必要があるが、各チップの高さの違いや組み付け加工による公差があるため、柔軟性を有するシートや、グリースをチップとヒートシンクとの間に介装させ、このシート又はグリースを介してチップからヒートシンクへの熱伝導を実現している。
【0004】
シートはグリースに比べ、取り扱い性に優れており、熱伝導性シリコーンゴム等で形成された熱伝導シート(熱伝導性シリコーンゴムシート)は様々な分野に用いられている。
特許文献1には、シリコーンゴム等の合成ゴム100質量部に酸化ベリリウム、酸化アルミニウム、水和酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛から選ばれる少なくとも1種以上の金属酸化物を100~800質量部配合した絶縁性組成物が開示されている。
【0005】
一方、パーソナルコンピューター、ワードプロセッサ、CD-ROMドライブ等の電子機器の高集積化が進み、装置内のLSI、CPU等の集積回路素子の発熱量が増加したため、従来の冷却方法では不十分な場合がある。特に、携帯用ノート型パーソナルコンピューターの場合、機器内部の空間が狭いため大きなヒートシンクや冷却ファンを取り付けることができない。更に、これらの機器では、プリント基板上に集積回路素子が搭載されており、基板の材質に熱伝導性の悪いガラス補強エポキシ樹脂やポリイミド樹脂が用いられるので、従来のように放熱絶縁シートを介して基板に熱を逃がすことができない。
【0006】
そこで、集積回路素子の近傍に自然冷却タイプあるいは強制冷却タイプの放熱部品を設置し、素子で発生した熱を放熱部品に伝える方式が用いられる。この方式で素子と放熱部品を直接接触させると、表面の凹凸のため熱の伝わりが悪くなり、更に放熱絶縁シートを介して取り付けても放熱絶縁シートの柔軟性がやや劣るため、熱膨張により素子と基板との間に応力がかかり、破損するおそれがある。
また、各回路素子に放熱部品を取り付けようとすると余分なスペースが必要となり、機器の小型化が難しくなるので、いくつかの素子をひとつの放熱部品に組み合わせて冷却する方式が採られることもある。
特にノート型パーソナルコンピューターで用いられているBGAタイプのCPUは、高さが他の素子に比べて低く発熱量が大きいため、冷却方式を十分考慮する必要がある。
【0007】
そこで、素子ごとに高さが異なることにより生じる種々の隙間を埋めることができる低硬度の高熱伝導性材が必要になる。このような課題に対して、熱伝導性に優れ、柔軟性があり、種々の隙間に対応できる熱伝導性シートが要望される。
この場合、特許文献2には、シリコーン樹脂に金属酸化物等の熱伝導性材料を混入したものを成形したシートで、取り扱いに必要な強度を持たせたシリコーン樹脂層の上に柔らかく変形し易いシリコーン層が積層されたシートが開示されている。また、特許文献3には、熱伝導性充填材を含有し、アスカーC硬度が5~50であるシリコーンゴム層と直径0.3mm以上の孔を有する多孔性補強材層を組み合わせた熱伝導性複合シートが開示されている。特許文献4には、可とう性の三次元網状体又はフォーム体の骨格格子表面を熱伝導性シリコーンゴムで被覆したシートが開示されている。特許文献5には、補強性を有したシートあるいはクロスを内蔵し、少なくとも一方の面が粘着性を有してアスカーC硬度が5~50である厚さ0.4mm以下の熱伝導性複合シリコーンシートが開示されている。特許文献6には、付加反応型液状シリコーンゴムと熱伝導性絶縁性セラミック粉末を含有し、その硬化物のアスカーC硬度が25以下で熱抵抗が3.0℃/W以下である放熱スペーサーが開示されている。
【0008】
これら熱伝導性シリコーン硬化物は、絶縁性も要求されることが多いため、熱伝導率が0.5~6W/mKの範囲では、熱伝導性充填材として酸化アルミニウム(アルミナ)が主に用いられることが多い。一般的に、不定形のアルミナは球状のアルミナに比べ、熱伝導率を向上させる効果が高いが、シリコーンに対する充填性が悪く、充填により材料粘度が上昇し、加工性が悪くなるという欠点がある。また、アルミナは研磨剤に用いられるようにモース硬度が9と非常に硬い。そのために、特に粒子径が10μm以上である不定形アルミナを用いた熱伝導性シリコーン組成物は、製造時にシェアがかかると、反応釜の内壁や撹拌羽を削ってしまうという問題があった。すると、熱伝導性シリコーン組成物に反応釜や撹拌羽の成分が混入し、熱伝導性シリコーン組成物、及びこれを用いた硬化物の絶縁性が低下する。また、反応釜と撹拌羽のクリアランスが広がり、撹拌効率が落ちてしまい、同条件で製造しても一定の品質が得られなくなる。また、それを防ぐためには部品を頻繁に交換する必要がある、というような問題があった。
【0009】
この問題を解決するために、球状アルミナ粉のみを使用する方法もあるが、高熱伝導化のためには、不定形アルミナに比べ、大量に充填する必要があり、組成物の粘度が上昇し、加工性が悪化する。また、相対的に組成物及びその硬化物におけるシリコーンの存在量が減少するため、硬度が上昇してしまい、圧縮性に劣るものになる。
また、熱伝導率を上げるためには、一般的に熱伝導率の高い熱伝導性充填材、例えば窒化アルミニウムや窒化ホウ素等の熱伝導性充填材を使用する方法があるが、コストが高く、加工も難しい、というような問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開昭47-32400号公報
【文献】特開平2-196453号公報
【文献】特開平7-266356号公報
【文献】特開平8-238707号公報
【文献】特開平9-1738号公報
【文献】特開平9-296114号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、圧縮性、絶縁性、熱伝導性、加工性に優れた、特に6.5W/mK以上の熱伝導率を有する、例えば電子機器内の発熱部品と放熱部品の間に設置されて放熱に用いられる熱伝導性樹脂成形体用として好適に用いられる熱伝導性シリコーン組成物及びその硬化物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を達成するために、本発明では、下記(A)~(D)成分
(A)1分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)ケイ素原子に直接結合した水素原子を少なくとも2個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:ケイ素原子に直接結合した水素原子のモル数が前記(A)成分由来のアルケニル基のモル数の0.1~5.0倍量となる量、
(C)下記(C-1)~(C-6)からなる熱伝導性充填材:7,500~11,500質量部、
(C-1)平均粒径が100μmを超えて150μm以下である球状アルミナフィラーを1,400~5,500質量部、
(C-2)平均粒径が65μmを超えて100μm以下である球状アルミナフィラーを0~2,200質量部、
(C-3)平均粒径が35μmを超えて65μm以下である球状アルミナフィラーを0~2,200質量部、
(C-4)平均粒径が5μmを超えて30μm以下である球状アルミナフィラーを0~2,200質量部、
(C-5)平均粒径が0.85μmを超えて5μm以下である不定形アルミナフィラーを1,000~4,500質量部、
(C-6)平均粒径が0.2μmを超えて0.85μm以下である球状アルミナフィラーを0~450質量部、
(D)白金族金属系硬化触媒:前記(A)成分に対して白金族元素質量換算で0.1~2,000ppm、
を含む熱伝導性シリコーン組成物を提供する。
【0013】
この熱伝導性シリコーン組成物は、圧縮性、絶縁性、熱伝導性、加工性に優れ、6.5W/mK以上の熱伝導率を有する熱伝導性シリコーン硬化物を与えるものである。
【0014】
この熱伝導性シリコーン組成物は、更に、(F)成分として、
(F-1)下記一般式(1)
R
1
aR
2
bSi(OR
3)
4-a-b (1)
(式中、R
1は独立に炭素原子数6~15のアルキル基であり、R
2は独立に非置換又は置換の炭素原子数1~12の1価炭化水素基であり、R
3は独立に炭素原子数1~6のアルキル基であり、aは1~3の整数、bは0~2の整数であり、但しa+bは1~3の整数である。)
で表されるアルコキシシラン化合物、及び
(F-2)下記一般式(2)
【化1】
(式中、R
4は独立に炭素原子数1~6のアルキル基であり、cは5~100の整数である。)
で表される分子鎖片末端がトリアルコキシシリル基で封鎖されたジメチルポリシロキサンからなる群から選ばれる少なくとも1種:前記(A)成分100質量部に対し0.01~300質量部を含有するものであることが好ましい。
【0015】
この熱伝導性シリコーン組成物が、前記アルコキシシラン化合物及び前記ジメチルポリシロキサンからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有すると、前記(C)熱伝導性充填材を前記(A)オルガノポリシロキサン中により均一に分散させることができる。
【0016】
この熱伝導性シリコーン組成物は、更に、(G)成分として、下記一般式(3)
【化2】
(式中、R
5は独立に炭素原子数1~12の脂肪族不飽和結合を含まない1価炭化水素基、dは5~2,000の整数である。)
で表される23℃における動粘度が10~100,000mm
2/sのオルガノポリシロキサンを前記(A)成分100質量部に対し0.1~100質量部含有するものであることが好ましい。
【0017】
この熱伝導性シリコーン組成物が上記一般式(3)で表されるオルガノポリシロキサンを含有すると、この組成物の硬化物である熱伝導性シリコーン硬化物の柔軟性がより向上する。
【0018】
この熱伝導性シリコーン組成物の23℃における絶対粘度は800Pa・s以下であることが好ましい。
この熱伝導性シリコーン組成物の絶対粘度が上記されるとおりであると、この組成物の成形性がより高くなる。
【0019】
また、本発明では、上記熱伝導性シリコーン組成物の硬化物である熱伝導性シリコーン硬化物を提供する。
この熱伝導性シリコーン硬化物は、圧縮性、絶縁性、熱伝導性、加工性に優れ、6.5W/mK以上の熱伝導率を有するものである。
【0020】
この熱伝導性シリコーン硬化物の熱伝導率は6.5W/mK以上であることが好ましい。
この熱伝導性シリコーン硬化物の熱伝導率が上記されるとおりであると、この硬化物はより高い熱伝導性を有するものとなる。
【0021】
この熱伝導性シリコーン硬化物の硬度はアスカーC硬度計で60以下であることが好ましい。
この熱伝導性シリコーン硬化物の硬度が上記されるとおりであると、この硬化物は被放熱体の形状に沿うように変形し、被放熱体に応力をかけることなくより良好な放熱特性を示すものとなる。
【0022】
この熱伝導性シリコーン硬化物の絶縁破壊電圧は10kV/mm以上であることが好ましい。
この熱伝導性シリコーン硬化物の絶縁破壊電圧が上記されるとおりであると、この硬化物は使用時により安定的に絶縁を確保できるものとなる。
【0023】
さらに、本発明では、前記(A)、(C)及び(F)成分を加熱しながら攪拌する工程を有する前記熱伝導性シリコーン組成物の製造方法が提供される。
この熱伝導性シリコーン組成物の製造方法により、表面での気泡の発生が低減された硬化物を与える熱伝導性シリコーン組成物を製造できる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、平均粒径が0.85μmを超えて5μm以下である不定形アルミナフィラー、必要に応じて平均粒径が0.2μmを超えて100μm以下の球状アルミナフィラーと、平均粒径が100μmを超えて150μm以下の球状アルミナフィラーとを特定の配合量で併用することで、粒径が小さい不定形アルミナフィラーの欠点を大粒径球状アルミナフィラーが補い、大粒径球状アルミナフィラーの欠点を粒径が小さい不定形アルミナフィラーが補うことで、圧縮性、絶縁性、熱伝導性、加工性に優れた、特に6.5W/mK以上の熱伝導率を有する熱伝導性シリコーン硬化物を与える熱伝導性シリコーン組成物を提供することができる。
また、上記組成物を製造する工程において、加熱しながら撹拌することにより、成型後の硬化物表面に発生する気泡を低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
上述のように、圧縮性、絶縁性、熱伝導性、加工性に優れた、発熱部品と放熱部品の間に設置されて放熱に用いられる熱伝導性樹脂成形体用として好適に用いられる熱伝導性シリコーン組成物及びその硬化物の開発が求められていた。
【0026】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、平均粒径が0.85μmを超えて5μm以下である不定形アルミナフィラー、必要に応じて平均粒径が0.2μmを超えて100μm以下の球状アルミナフィラーと、平均粒径が100μmを超えて150μm以下の球状アルミナフィラーとを特定の配合量で併用することで上記問題を解決することができることを見出した。即ち、比表面積が小さい100μmを超えて150μm以下の球状アルミナフィラーを配合することで、効果的に熱伝導性を向上させることが可能であり、かつ粘度が低く加工性に優れたシリコーン組成物及びその硬化物を提供できる。
また、平均粒径が0.85μmを超えて5μm以下である不定形アルミナフィラー、必要に応じて平均粒径が0.2μmを超えて100μm以下の球状アルミナフィラーを併用することにより、組成物の流動性が向上し、加工性が改善する。更に、粒径10μm以上の粒子としては球状アルミナフィラーを使用し、研磨効果大きい不定形アルミナフィラーを使用しないため、反応釜や撹拌羽の磨耗が抑えられ、絶縁性が向上する。
【0027】
つまり、粒径が小さい不定形アルミナフィラーの欠点を大粒径球状アルミナフィラーが補い、大粒径球状アルミナフィラーの欠点を粒径が小さい不定形アルミナフィラーが補うことで、圧縮性、絶縁性、熱伝導性、加工性に優れた、特に6.5W/mK以上の熱伝導率を有するコストの低い熱伝導性シリコーン組成物及びその硬化物を与えることができることを見出し、本発明をなすに至った。
【0028】
即ち、本発明は、下記(A)~(D)成分
(A)1分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)ケイ素原子に直接結合した水素原子を少なくとも2個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:ケイ素原子に直接結合した水素原子のモル数が前記(A)成分由来のアルケニル基のモル数の0.1~5.0倍量となる量、
(C)下記(C-1)~(C-6)からなる熱伝導性充填材:7,500~11,500質量部、
(C-1)平均粒径が100μmを超えて150μm以下である球状アルミナフィラーを1,400~5,500質量部、
(C-2)平均粒径が65μmを超えて100μm以下である球状アルミナフィラーを0~2,200質量部、
(C-3)平均粒径が35μmを超えて65μm以下である球状アルミナフィラーを0~2,200質量部、
(C-4)平均粒径が5μmを超えて30μm以下である球状アルミナフィラーを0~2,200質量部、
(C-5)平均粒径が0.85μmを超えて5μm以下である不定形アルミナフィラーを1,000~4,500質量部、
(C-6)平均粒径が0.2μmを超えて0.85μm以下である球状アルミナフィラーを0~450質量部、
(D)白金族金属系硬化触媒:前記(A)成分に対して白金族元素質量換算で0.1~2,000ppm、
を含む熱伝導性シリコーン組成物である。
【0029】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、(A)アルケニル基含有オルガノポリシロキサン、(B)オルガノハイドロジェンポリシロキサン、(C)熱伝導性充填材、及び(D)白金族金属系硬化触媒を含有する。
【0030】
[アルケニル基含有オルガノポリシロキサン]
(A)成分であるアルケニル基含有オルガノポリシロキサンは、ケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子中に2個以上有するオルガノポリシロキサンであり、本発明の熱伝導性シリコーン硬化物の主剤となるものである。通常は主鎖部分が基本的にジオルガノシロキサン単位の繰り返しからなるのが一般的であるが、これは分子構造の一部に分枝状の構造を含んだものであってもよく、また環状体であってもよいが、硬化物の機械的強度等、物性の点から直鎖状のジオルガノポリシロキサンが好ましい。
【0031】
ケイ素原子に結合するアルケニル基以外の官能基としては、非置換又は置換の1価炭化水素基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等のシクロアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ビフェニリル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、メチルベンジル基等のアラルキル基、並びにこれらの基に炭素原子が結合している水素原子の一部又は全部がフッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子、シアノ基等で置換された基、例えば、クロロメチル基、2-ブロモエチル基、3-クロロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、クロロフェニル基、フルオロフェニル基、シアノエチル基、3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロヘキシル基等が挙げられる。代表的なものは炭素原子数が1~10、特に代表的なものは炭素原子数が1~6のものであり、好ましくはメチル基、エチル基、プロピル基、クロロメチル基、ブロモエチル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、シアノエチル基等の炭素原子数1~3の非置換又は置換のアルキル基、及びフェニル基、クロロフェニル基、フルオロフェニル基等の非置換又は置換のフェニル基である。また、ケイ素原子に結合したアルケニル基以外の官能基は全てが同一であることに限定するものではない。
【0032】
また、アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基等の通常炭素原子数が2~8程度のものが挙げられ、中でもビニル基、アリル基等の低級アルケニル基が好ましく、より好ましくはビニル基である。なお、アルケニル基は、分子中に2個以上存在することが好ましいが、得られる硬化物の柔軟性がよいものとするため、分子鎖末端のケイ素原子にのみ結合して存在することが好ましい。
【0033】
このオルガノポリシロキサンの23℃における動粘度は、通常、好ましくは10~100,000mm2/s、より好ましくは500~50,000mm2/sの範囲である。前記粘度が10mm2/s以上であると、得られる組成物の保存安定性が良くなり、また前記粘度が100,000mm2/s以下であると得られる組成物の伸展性が高くなる。なお、動粘度はオストワルド粘度計を用いた場合の値である(以下、同じ)。
この(A)成分のオルガノポリシロキサンは、1種単独でも、粘度が異なる2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
[オルガノハイドロジェンポリシロキサン]
(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、1分子中に平均で2個以上、好ましくは2~100個のケイ素原子に直接結合する水素原子(Si-H基)を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンであり、(A)成分の架橋剤として作用する成分である。即ち、(B)成分中のSi-H基と(A)成分中のアルケニル基とが、後述する(D)成分の白金族金属系硬化触媒により促進されるヒドロシリル化反応により付加して、架橋構造を有する3次元網目構造を与える。なお、Si-H基の数が2個未満の場合、硬化しない。
【0035】
オルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、下記平均構造式(4)で示されるものが用いられるが、これに限定されるものではない。
【化3】
(式中、R
6は独立に水素原子又は脂肪族不飽和結合を含有しない非置換又は置換の1価炭化水素基であるが、少なくとも2個、好ましくは2~10個は水素原子であり、eは1以上の整数、好ましくは10~200の整数である。)
【0036】
式(4)中、R6の水素原子以外の脂肪族不飽和結合を含有しない非置換又は置換の1価炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等のシクロアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ビフェニリル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、メチルベンジル基等のアラルキル基、並びにこれらの基の炭素原子が結合している水素原子の一部又は全部がフッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子、シアノ基等で置換された基、例えば、クロロメチル基、2-ブロモエチル基、3-クロロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、クロロフェニル基、フルオロフェニル基、シアノエチル基、3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロヘキシル基等が挙げられる。代表的なものは炭素原子数が1~10、特に代表的なものは炭素原子数が1~6のものであり、好ましくはメチル基、エチル基、プロピル基、クロロメチル基、ブロモエチル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、シアノエチル基等の炭素原子数1~3の非置換又は置換のアルキル基、及びフェニル基、クロロフェニル基、フルオロフェニル基等の非置換又は置換のフェニル基である。また、R6は全てが同一であることを限定するものではない。
【0037】
(B)成分の添加量は、(B)成分由来のSi-H基が(A)成分由来のアルケニル基1モルに対して0.1~5.0モルとなる量、好ましくは0.3~2.0モルとなる量、更に好ましくは0.5~1.0モルとなる量である。(B)成分由来のSi-H基の量が(A)成分由来のアルケニル基1モルに対して0.1モル未満であると熱伝導性シリコーン組成物が硬化しない、又は硬化物の強度が不十分で成形体としての形状を保持できず取り扱えない場合がある。また5.0モルを超えると硬化物の柔軟性がなくなり、硬化物が脆くなる。
【0038】
[熱伝導性充填材]
(C)成分である熱伝導性充填材は、下記(C-1)~(C-6)成分からなるものである。
(C-1)平均粒径が100μmを超えて150μm以下である球状アルミナフィラー、
(C-2)平均粒径が65μmを超えて100μm以下である球状アルミナフィラー、
(C-3)平均粒径が35μmを超えて65μm以下である球状アルミナフィラー、
(C-4)平均粒径が5μmを超えて30μm以下である球状アルミナフィラー、
(C-5)平均粒径が0.85μmを超えて5μm以下である不定形アルミナフィラー、
(C-6)平均粒径が0.2μmを超えて0.85μm以下である球状アルミナフィラー
なお、本発明において、上記平均粒径は、例えば日機装(株)製の粒度分析計であるマイクロトラックMT3300EXにより測定した体積基準の累積平均粒径(メディアン径)の値である。
【0039】
(C-1)成分の球状アルミナフィラーは、熱伝導率を優位に向上させることができる。(C-1)成分の球状アルミナフィラーの平均粒径は100μmを超えて150μm以下であり、105~140μmであることが好ましい。(C-1)成分の球状アルミナフィラーの平均粒径が150μmより大きいと、反応釜や撹拌羽の磨耗が顕著となり、組成物の絶縁性が低下する。(C-1)成分の球状アルミナフィラーとしては1種又は2種以上を複合して用いてもよい。
【0040】
(C-2)~(C-4)成分の球状アルミナフィラーは、組成物の熱伝導率を向上させるとともに、(C-5)成分の不定形アルミナフィラーと反応釜や攪拌羽の接触を抑制し、磨耗を抑えるバリア効果を提供する。平均粒径については、(C-2)成分は65μmを超えて100μm以下であり、70~95μmであることが好ましく、(C-3)成分は35μmを超えて65μm以下であり、40~60μmであることが好ましく、(C-4)成分は5μmを超えて30μm以下であり、7~25μmであることが好ましい。(C-2)~(C-4)成分の球状アルミナフィラーとしては1種又は2種以上を複合して用いてもよい。
【0041】
(C-5)成分の不定形アルミナフィラーは、組成物の熱伝導率を向上させる役割も担うが、その主な役割は組成物の粘度調整、滑らかさ向上、充填性向上である。(C-5)成分の平均粒径は0.85μmを超えて5μm以下であり、0.9~4μmであることが、上記した特性発現のために好ましい。
【0042】
(C-6)成分の球状アルミナフィラーの主な役割は組成物の粘度調整、滑らかさ向上、充填性向上である。(C-6)成分の平均粒径は0.2μmを超えて0.85μm以下である。平均粒径が0.2μm未満であると、組成物の粘度が顕著に大きくなり、成形性が大きく損なわれる。
【0043】
(C-1)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して1,400~5,500質量部であり、好ましくは1,800~4,000質量部である。(C-1)成分の配合量が少なすぎると熱伝導率の向上が困難であり、多すぎると反応釜や撹拌羽の磨耗が顕著となり、組成物の絶縁性が低下する。
【0044】
(C-2)~(C-4)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して、それぞれ0~2,200質量部であり、好ましくは900~1,600質量部である。(C-2)~(C-4)成分のそれぞれが配合されると硬化物の熱伝導率が向上し、多すぎると組成物の流動性が失われ、成形性が損なわれる。
【0045】
(C-5)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して1,000~4,000質量部であり、好ましくは2,000~2,800質量部である。(C-5)成分の配合量が少なすぎると組成物の流動性が失われ、成形性が損なわれる。(C-5)成分を4,000質量部より多く配合しても硬化物の熱伝導率の向上は困難である。
【0046】
(C-6)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して0~450質量部であり、好ましくは250~400質量部である。(C-6)成分が配合されると組成物の流動性改善効果が発揮される。
【0047】
更に、(C)成分の配合量(即ち、上記(C-1)~(C-6)成分の合計配合量)は、(A)成分100質量部に対して7,500~11,500質量部であり、好ましくは7,600~9,000質量部である。この配合量が7,500質量部未満の場合には、得られる硬化物の熱伝導率が悪くなり、11,500質量部を超える場合には、組成物の流動性が失われ、成形性が損なわれる。
【0048】
上記配合量で(C)成分を用いることで、上記した本発明の効果がより有利にかつ確実に達成できる。
【0049】
[白金族金属系硬化触媒]
(D)成分の白金族金属系硬化触媒は、(A)成分由来のアルケニル基と、(B)成分由来のSi-H基の付加反応を促進するための触媒であり、ヒドロシリル化反応に用いられる触媒として周知の触媒が挙げられる。その具体例としては、例えば、白金(白金黒を含む)、ロジウム、パラジウム等の白金族金属単体、H2PtCl4・nH2O、H2PtCl6・nH2O、NaHPtCl6・nH2O、KHPtCl6・nH2O、Na2PtCl6・nH2O、K2PtCl4・nH2O、PtCl4・nH2O、PtCl2、Na2HPtCl4・nH2O(但し、式中、nは0~6の整数であり、好ましくは0又は6である。)等の塩化白金、塩化白金酸及び塩化白金酸塩、アルコール変性塩化白金酸(米国特許第3,220,972号明細書参照)、塩化白金酸とオレフィンとのコンプレックス(米国特許第3,159,601号明細書、同第3,159,662号明細書、同第3,775,452号明細書参照)、白金黒、パラジウム等の白金族金属をアルミナ、シリカ、カーボン等の担体に担持させたもの、ロジウム-オレフィンコンプレックス、クロロトリス(トリフェニルフォスフィン)ロジウム(ウィルキンソン触媒)、塩化白金、塩化白金酸又は塩化白金酸塩とビニル基含有シロキサン、特にビニル基含有環状シロキサンとのコンプレックス等が挙げられる。
【0050】
(D)成分の使用量は、(A)成分に対する白金族金属元素の質量換算で0.1~2,000ppmであり、好ましくは50~1000ppmである。
【0051】
[付加反応制御剤]
本発明の熱伝導性シリコーン組成物には、更に(E)成分として付加反応制御剤を使用することができる。付加反応制御剤は、通常の付加反応硬化型シリコーン組成物に用いられる公知の付加反応制御剤を全て用いることができる。例えば、1-エチニル-1-ヘキサノール、3-ブチン-1-オール、エチニルメチリデンカルビノール等のアセチレン化合物や各種窒素化合物、有機リン化合物、オキシム化合物、有機クロロ化合物等が挙げられる。
【0052】
(E)成分を配合する場合の使用量としては、(A)成分100質量部に対して0.01~1質量部が好ましく、0.1~0.8質量部程度がより好ましい。前記(E)成分の配合量が前記上限以下であると硬化反応が進み、成形効率が損なわれない。
【0053】
[表面処理剤]
本発明の熱伝導性シリコーン組成物には、組成物調製時に(C)成分である熱伝導性充填材を疎水化処理し、(A)成分であるオルガノポリシロキサンとの濡れ性を向上させ、(C)成分である熱伝導性充填材を(A)成分からなるマトリックス中に均一に分散させることを目的として、(F)成分の表面処理剤を配合することができる。該(F)成分としては、特に下記に示す(F-1)成分及び(F-2)成分が好ましい。
【0054】
(F-1)成分は、下記一般式(1)で表されるアルコキシシラン化合物である。
R1
aR2
bSi(OR3)4-a-b (1)
(式中、R1は独立に炭素原子数6~15のアルキル基であり、R2は独立に非置換又は置換の炭素原子数1~12の1価炭化水素基であり、R3は独立に炭素原子数1~6のアルキル基であり、aは1~3の整数、bは0~2の整数であり、但しa+bは1~3の整数である。)
【0055】
上記一般式(1)において、R1で表されるアルキル基としては、例えば、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基等が挙げられる。このR1で表されるアルキル基の炭素原子数が6~15の範囲を満たすと(A)成分の濡れ性が十分に向上し、取り扱い性がよく、組成物の低温特性が良好なものとなる。
【0056】
R2で表される非置換又は置換の1価炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等のシクロアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ビフェニリル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、メチルベンジル基等のアラルキル基、並びにこれらの基の炭素原子が結合している水素原子の一部又は全部がフッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子、シアノ基等で置換された基、例えば、クロロメチル基、2-ブロモエチル基、3-クロロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、クロロフェニル基、フルオロフェニル基、シアノエチル基、3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロヘキシル基等が挙げられ、代表的なものは炭素原子数が1~10、特に代表的なものは炭素原子数が1~6のものであり、好ましくはメチル基、エチル基、プロピル基、クロロメチル基、ブロモエチル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、シアノエチル基等の炭素原子数1~3の非置換又は置換のアルキル基、及びフェニル基、クロロフェニル基、フルオロフェニル基等の非置換又は置換のフェニル基が挙げられる。R3としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基等が挙げられる。
【0057】
(F-2)成分は、下記一般式(2)で表される分子鎖片末端がトリアルコキシシリル基で封鎖されたジメチルポリシロキサンである。
【化4】
(式中、R
4は独立に炭素原子数1~6のアルキル基であり、cは5~100、好ましくは5~70、より好ましくは10~50の整数である。)
【0058】
(F)成分の表面処理剤としては、(F-1)成分と(F-2)成分のいずれか一方でも両者を組み合わせて配合しても差し支えない。
(F)成分を配合する場合の配合量としては、(A)成分100質量部に対して0.01~300質量部であることが好ましく、0.1~200質量部であることがより好ましい。(F)成分の配合量が前記上限以下であるとオイル分離を誘発しない。
【0059】
[オルガノポリシロキサン]
本発明の熱伝導性シリコーン組成物には、熱伝導性シリコーン組成物の粘度調整剤等の特性付与を目的として、(G)成分として、下記一般式(3)
【化5】
(式中、R
5は独立に炭素原子数1~12の脂肪族不飽和結合を含まない1価炭化水素基、dは5~2,000の整数である。)
で表される23℃における動粘度が10~100,000mm
2/sのオルガノポリシロキサンを添加することができる。(G)成分は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0060】
上記一般式(3)において、R5は独立に非置換又は置換の炭素原子数1~12の脂肪族不飽和結合を含まない1価炭化水素基である。R5としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等のシクロアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ビフェニリル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、メチルベンジル基等のアラルキル基、並びにこれらの基の炭素原子が結合している水素原子の一部又は全部がフッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子、シアノ基等で置換された基、例えば、クロロメチル基、2-ブロモエチル基、3-クロロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、クロロフェニル基、フルオロフェニル基、シアノエチル基、3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロヘキシル基等が挙げられ、代表的なものは炭素原子数が1~10、特に代表的なものは炭素原子数が1~6のものであり、好ましくはメチル基、エチル基、プロピル基、クロロメチル基、ブロモエチル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、シアノエチル基等の炭素原子数1~3の非置換又は置換のアルキル基、及びフェニル基、クロロフェニル基、フルオロフェニル基等の非置換又は置換のフェニル基が挙げられるが、メチル基、フェニル基がより好ましい。
上記dは要求される粘度の観点から、好ましくは5~2,000の整数で、より好ましくは10~1,000の整数である。
【0061】
また、(G)成分の23℃における動粘度は、好ましくは10~100,000mm2/sであり、100~10,000mm2/sであることがより好ましい。該動粘度が10mm2/s以上であると、得られる熱伝導性シリコーン硬化物がオイルブリードを発生させない。該動粘度が100,000mm2/s以下であると、得られる熱伝導性シリコーン硬化物の柔軟性が十分である。
【0062】
(G)成分を本発明の熱伝導性シリコーン組成物に配合する場合、その配合量は特に限定されず、所望の効果が得られる量であればよいが、(A)成分100質量部に対して、好ましくは0.1~100質量部、より好ましくは1~50質量部である。該配合量がこの範囲にあると、硬化前の熱伝導性シリコーン組成物に良好な流動性、作業性を維持し易く、また(C)成分の熱伝導性充填材を該組成物に充填するのが容易である。
【0063】
[その他の成分]
本発明の熱伝導性シリコーン組成物には、更に他の成分を配合しても差し支えない。例えば、酸化鉄、酸化セリウム等の耐熱性向上剤;シリカ等の粘度調整剤;着色剤;離型剤等の任意成分を配合することができる。
【0064】
[熱伝導性シリコーン組成物の粘度]
本発明の熱伝導性シリコーン組成物の絶対粘度は、23℃において好ましくは800Pa・s以下、より好ましくは700Pa・s以下である。粘度が800Pa・s以下であると組成物の成形性が損なわれない。なお、本発明において、この粘度はB型粘度計による測定に基づく。
【0065】
[熱伝導性シリコーン組成物の調製]
本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、上述した各成分を常法に準じて均一に混合することにより調製することができる。(F)成分を使用する場合、(A)、(C)及び(F)成分を加熱しながら攪拌することが好ましい。加熱温度は好ましくは50~200℃、より好ましくは80~170℃である。
【0066】
[熱伝導性シリコーン硬化物の製造方法]
熱伝導性シリコーン組成物を成形する硬化条件としては、公知の付加反応硬化型シリコーンゴム組成物と同様でよく、例えば、常温でも十分硬化するが、必要に応じて加熱してもよい。好ましくは100~120℃で8~12分で付加硬化させるのがよい。このような本発明のシリコーン硬化物は熱伝導性に優れる。
【0067】
[熱伝導性シリコーン硬化物の熱伝導率]
本発明の熱伝導性シリコーン硬化物の熱伝導率は、ホットディスク法により測定した23℃における測定値が6.5W/mK以上であることが好ましく、7.0W/mK以上であることがより好ましい。
【0068】
[熱伝導性シリコーン硬化物の硬度]
本発明における熱伝導性シリコーン硬化物の硬度は、アスカーC硬度計で測定した23℃における測定値が好ましくは60以下、より好ましくは40以下、更に好ましくは30以下であり、また5以上であることが好ましい。硬度が60以下である場合、被放熱体の形状に沿うように変形し、被放熱体に応力をかけることなく良好な放熱特性を示すことができる。なお、このような硬度は、(A)成分と(B)成分の比率を変えて、架橋密度を調節することにより、調整することができる。
【0069】
[熱伝導性シリコーン硬化物の絶縁破壊電圧]
本発明の熱伝導性シリコーン硬化物の絶縁破壊電圧は、1mm厚の成形体の絶縁破壊電圧をJIS K 6249に準拠して測定したときの測定値として好ましくは10kV以上、より好ましくは13kV以上である。絶縁破壊電圧が10kV/mm以上のシートの場合、使用時に安定的に絶縁を確保することができる。なお、このような絶縁破壊電圧は、フィラーの種類や純度を調節することにより、調整することができる。
【実施例】
【0070】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、動粘度は23℃においてオストワルド粘度計により測定した。また、平均粒径は日機装(株)製の粒度分析計であるマイクロトラックMT3300EXにより測定した体積基準の累積平均粒径(メディアン径)の値である。
【0071】
下記実施例及び比較例に用いられる(A)~(F)成分を下記に示す。
(A)成分:下記の2種類のオルガノポリシロキサン
(A-1)成分:下記式(5)で示される動粘度400mm
2/sのオルガノポリシロキサン
(A-2)成分:下記式(5)で示される動粘度30,000mm
2/sのオルガノポリシロキサン
【化6】
(式中、Xはビニル基であり、fは上記粘度を与える数である。)
(B)成分:下記式(6)で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン
【化7】
(式中、gは27、hは3である。)
【0072】
(C)成分:平均粒径が下記の通りである球状アルミナ、不定形アルミナ
(C-1)平均粒径が124.2μmの球状アルミナ
(C-2)平均粒径が88.6μmの球状アルミナ
(C-3)平均粒径が48.7μmの球状アルミナ
(C-4)平均粒径が16.7μmの球状アルミナ
(C-5)平均粒径が2.4μmの不定形アルミナ
(C-6)平均粒径が0.8μmの球状アルミナ
【0073】
(D)成分:5質量%塩化白金酸2-エチルヘキサノール溶液
(E)成分:付加反応制御剤としてエチニルメチリデンカルビノール
【0074】
(F)成分:下記式(7)で示される平均重合度が30の片末端がトリメトキシシリル基で封鎖されたジメチルポリシロキサン
【化8】
【0075】
(G)成分:可塑剤として下記式(8)で示されるジメチルポリシロキサン
【化9】
(式中、jは80である。)
【0076】
<実施例1~4、比較例1~2>
実施例1~4及び比較例1~2において、上記(A)~(G)成分を下記表1に示す所定の量を用いて下記のように組成物を調製し、下記方法に従って組成物の粘度を測定した。組成物を成形、硬化させ、得られた硬化物の熱伝導率、硬度、絶縁破壊電圧、比重及び硬化物表面の気泡を下記方法に従って測定又は観察した。結果を表1に示す。
【0077】
[組成物の調製]
(A)、(C)、(F)成分を下記表1の実施例1~4及び比較例1~2に示す所定の配合量で加え、プラネタリーミキサーで30分間混練した後、145℃で60分間加熱しながら又は加熱せずに混練した。充分に冷却した後、そこに(D)成分と(G)成分を下記表1の実施例1~4及び比較例1~2に示す所定の量で加え、更にセパレータとの離型を促す内添離型剤として、信越化学製のフェニル変性シリコーンオイルであるKF-54を有効量加え、30分間混練した。
そこに更に(B)、(E)成分を下記表1の実施例1~4及び比較例1~2に示す所定の配合量で加え、30分間混練し、組成物を得た。
【0078】
[粘度]
実施例1~4で得られた組成物の粘度を、B型粘度計にて23℃環境下で測定した。
【0079】
[熱伝導率]
実施例1~4で得られた組成物を60mm×60mm×6mmの金型に流し込み、プレス成型機を用いて120℃、10分間の条件で6mm厚のシート状に硬化させ、そのシートを2枚用いて、熱伝導率計(商品名:TPS-2500S、京都電子工業(株)製)により該シートの熱伝導率を測定した。
【0080】
[硬度]
実施例1~4で得られた組成物を上記と同様にして6mm厚のシート状に硬化させ、そのシートを2枚重ねて該シートの硬度をアスカーC硬度計で測定した。
【0081】
[絶縁破壊電圧]
実施例1~4で得られた組成物を60mm×60mm×6mmの金型に流し込み、プレス成型機を用いて120℃、10分間の条件で1mm厚のシート状に硬化させ、JIS K 6249に準拠して絶縁破壊電圧を測定した。
【0082】
[比重]
実施例1~4で得られた組成物を60mm×60mm×6mmの金型に流し込み、プレス成型機を用いて120℃、10分間の条件で1mm厚のシート状に硬化させ、硬化物の比重を水中置換法により測定した。
【0083】
[硬化物表面の気泡]
実施例1~4で得られた組成物を60mm×60mm×6mmの金型に流し込み、プレス成型機を用いて120℃、10分間の条件で2mm厚のシート状に硬化させ、硬化物表面の気泡の有無を観察した。
【0084】
【表1】
H/Viは、(B)成分のケイ素原子に結合した水素原子のモル数/(A)成分由来のアルケニル基のモル数である。
【0085】
実施例1~3では、(C)成分の配合量が、(A)成分100質量部に対して7,500~11,500質量部の範囲であり、かつ、(C)成分が、
(C-1)平均粒径が100μmを超えて150μm以下である球状アルミナフィラーを1,400~5,500質量部、
(C-2)平均粒径が65μmを超えて100μm以下である球状アルミナフィラーを0~2,200質量部、
(C-3)平均粒径が35μmを超えて65μm以下である球状アルミナフィラーを0~2,200質量部、
(C-4)平均粒径が5μmを超えて30μm以下である球状アルミナフィラーを0~2,200質量部、
(C-5)平均粒径が0.85μmを超えて5μm以下である不定形アルミナフィラーを1,000~4,000質量部、
(C-6)平均粒径が0.2μmを超えて0.85μm以下である球状アルミナフィラーを0~450質量部
からなり、(A)、(C)及び(F)成分を撹拌中に加熱処理することにより、組成物の粘度、硬化物の熱伝導率、硬度、絶縁破壊電圧及び比重とも良好な結果となり、成型後の硬化物の表面に気泡は観察されなかった。
【0086】
実施例4では、(A)、(C)及び(F)成分を撹拌中に加熱されない以外実施例1と同様であり、組成物の粘度、硬化物の熱伝導率、硬度、絶縁破壊電圧及び比重とも、実施例1~3のものと同等であった。しかし、実施例4の硬化物の表面に気泡が観察された。
【0087】
比較例1のように(C)成分の配合量が(A)成分100質量部に対して11,500質量部を超えると、組成物の濡れ性が不足し、ペースト状の均一な組成物を得ることができない。比較例2のように(C-5)成分である平均粒径0.85μmを超えて5μm以下の不定形アルミナの配合量が(A)成分100質量部に対して1,000質量部未満であると、組成物の充填性が著しく悪くなり、ペースト状の均一な組成物を得ることができない。
【0088】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。