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特許7116962有機薄膜トランジスタ用の電極形成方法および電極形成装置ならびに有機薄膜トランジスタの製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-03
(45)【発行日】2022-08-12
(54)【発明の名称】有機薄膜トランジスタ用の電極形成方法および電極形成装置ならびに有機薄膜トランジスタの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/336 20060101AFI20220804BHJP
   H01L 29/786 20060101ALI20220804BHJP
   H01L 51/05 20060101ALI20220804BHJP
   H01L 51/40 20060101ALI20220804BHJP
   H01L 21/28 20060101ALI20220804BHJP
   H01L 29/417 20060101ALI20220804BHJP
【FI】
H01L29/78 616K
H01L29/78 618B
H01L29/78 626C
H01L29/28 100A
H01L29/28 370
H01L21/28 301B
H01L21/28 Z
H01L29/50 M
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020516215
(86)(22)【出願日】2019-04-11
(86)【国際出願番号】 JP2019015802
(87)【国際公開番号】W WO2019208241
(87)【国際公開日】2019-10-31
【審査請求日】2020-10-22
(31)【優先権主張番号】P 2018083277
(32)【優先日】2018-04-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100105935
【弁理士】
【氏名又は名称】振角 正一
(74)【代理人】
【識別番号】100136836
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 一正
(72)【発明者】
【氏名】陶山 武史
(72)【発明者】
【氏名】芝藤 弥生
(72)【発明者】
【氏名】木村 知玄
(72)【発明者】
【氏名】関谷 毅
(72)【発明者】
【氏名】植村 隆文
【審査官】岩本 勉
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-163418(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0030067(US,A1)
【文献】特表2013-534726(JP,A)
【文献】特開2009-218295(JP,A)
【文献】特開2009-188132(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/336
H01L 29/786
H01L 51/05
H01L 51/40
H01L 21/28
H01L 29/417
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気絶縁性の樹脂材料により形成されたベース層の表面に電極を形成する、有機薄膜トランジスタ用の電極形成方法であって、
前記ベース層を準備する工程と、
前記ベース層を構成する前記樹脂材料を軟化させる溶剤と電極材料とを含む塗布液を、前記ベース層の表面に電極形状に応じたパターンで塗布する工程と、
未固化の前記塗布液を前記ベース層に対し押圧する工程と、
前記溶剤を揮発させ前記塗布液を固化させて、前記電極を形成する工程と
を備える有機薄膜トランジスタ用の電極形成方法。
【請求項2】
前記溶剤は、前記樹脂材料を膨潤させまたは溶解する有機溶媒である請求項1に記載の有機薄膜トランジスタ用の電極形成方法。
【請求項3】
前記ベース層は、基板に前記樹脂材料またはその原料物質を含む液体を塗布し固化させることにより形成される請求項1または2に記載の有機薄膜トランジスタ用の電極形成方法。
【請求項4】
前記樹脂材料がポリウレタンであり、前記溶剤が高沸点溶剤である請求項1ないし3のいずれかに記載の有機薄膜トランジスタ用の電極形成方法。
【請求項5】
前記電極形状に応じてパターニングされた前記塗布液のパターンを担持体に担持させ、前記担持体を前記ベース層に押し当てることで、前記ベース層へ前記塗布液を転写しつつ押圧を行う、請求項1ないし4のいずれかに記載の有機薄膜トランジスタ用の電極形成方法。
【請求項6】
前記担持体のパターン担持面が平坦であり、前記パターン担持面を前記ベース層の被塗布面に近接対向させまたは密着させて、前記担持体の前記パターン担持面とは反対側の面を、または前記ベース層の前記被塗布面とは反対側の面を、ローラで押圧する請求項5に記載の有機薄膜トランジスタ用の電極形成方法。
【請求項7】
前記ベース層の厚さが前記電極の厚さよりも大きい請求項1ないし6のいずれかに記載の有機薄膜トランジスタ用の電極形成方法。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかに記載の電極形成方法により、前記ベース層に前記電極を形成する工程と、
前記ベース層の表面に、前記電極を覆う有機半導体層を形成する工程と
を備える有機薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項9】
前記電極の形成後、前記電極の表面を改質するためのウェット処理を実行する工程を備える請求項8に記載の有機薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項10】
電気絶縁性の樹脂材料により形成されたベース層の表面に電極を形成する、有機薄膜トランジスタ用の電極形成装置であって、
前記ベース層を有する基板を保持する基板保持部と、
前記ベース層を構成する前記樹脂材料を軟化させる溶剤と電極材料とを含む塗布液が電極形状に応じてパターニングされたパターンを担持する平板状の担持体を、パターン担持面を前記ベース層の被塗布面に近接対向させて保持する担持体保持部と、
前記担持体の前記パターン担持面とは反対側の面、または前記基板の前記被塗布面とは反対側の面を押圧しながら前記基板に沿って移動するローラ状の押圧部材と
を備える有機薄膜トランジスタ用の電極形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、有機薄膜トランジスタの製造に好適な電極の製造技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば表示装置やタッチパネル装置等を製造する目的で、ガラス基板や樹脂基板等の基板の表面に薄膜トランジスタなどの薄膜半導体素子を形成する技術が研究されている。特に近年では、性能や生産技術の向上が著しく、また材料によっては印刷技術を利用したデバイス作成が可能であるとの観点から、薄膜半導体素子の材料として有機半導体が注目されている。
【0003】
例えば特許文献1には、ガラス基板、半導体基板、樹脂基板等の基板の表面に有機半導体材料を用いた薄膜トランジスタを形成する技術が記載されている。この技術においては、基板に形成された電極を覆うように有機半導体層を形成する場合に、電極端部における基板との段差が電気抵抗の増大を招くという問題を解決するため、次のような製造方法が用いられている。すなわち、この技術では、絶縁性ポリマー層が軟化した状態で電極材料が絶縁性ポリマー層に積層され、加圧によってポリマー層と電極層とが平坦化された後、ポリマー層が硬化される。これにより、電極はポリマー層に埋め込まれた状態となって基板との段差のない電極が実現される。
【0004】
特許文献1には、軟化したポリマー層を実現する方法として、架橋前のポリマー前駆体、硬化処理前のポリマー、または加熱による軟化等を使用可能であることが記載されている。また電極を形成する方法としては、フォトリソグラフ法、リフトオフ法、エッチング、レーザーアブレーションの他、インクジェット印刷やスクリーン印刷等の印刷技術を用いて導電性インクによるパターニングを行う方法等が列記されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-147346号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来技術では、ポリマー層(樹脂層)が軟化した状態で電極形成を行う必要がある。しかしながら、工程間での搬送、電極材料の積層、加圧による平坦化等の処理が、ポリマー層(樹脂層)が軟化した状態を維持したまま行われることが必要となる。このことから、実際に適用可能な製造プロセスは限定されると考えられ、また軟化したポリマー層を有する基板の取り扱いにも特別な注意が必要となる。このため、上記従来技術は、実用性および製造コストの点で改良の余地が残されている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は上記課題に鑑みなされたものであり、周囲との段差のない電極を、より簡単な製造プロセスで形成することのできる技術を提供することを目的とする。
【0008】
この発明の一の態様は、電気絶縁性の樹脂材料により形成されたベース層の表面に電極を形成する、有機薄膜トランジスタ用の電極形成方法であって、上記目的を達成するため、前記ベース層を準備する工程と、前記ベース層を構成する前記樹脂材料を軟化させる溶剤と電極材料とを含む塗布液を、前記ベース層の表面に電極形状に応じたパターンで塗布する工程と、未固化の前記塗布液を前記ベース層に対し押圧する工程と、前記溶剤を揮発させ前記塗布液を固化させて、前記電極を形成する工程とを備えている。
【0009】
このように構成された発明では、ベース層に塗布される塗布液が、ベース層を構成する樹脂材料を軟化させる溶剤を含んでいる。このため、事前にベース層を軟化させておく必要はない。つまり、塗布液が塗布される時点でベース層は一定の硬度を有するものであってよい。したがって、電極材料を含む塗布液の塗布については種々の塗布方法を適用することが可能である。そして、溶剤により軟化したベース層に対し、未固化の塗布液を押圧することにより塗布液がベース層の内部に浸透する。この状態で塗布液が固化することにより、ベース層との間の段差が解消された電極を形成することができる。なお、以下では、本発明に係る「有機薄膜トランジスタ用の電極形成方法」を単に「電極形成方法」と、また「有機薄膜トランジスタ用の電極形成装置」を単に「電極形成装置」と、それぞれ略称することがある。
【0010】
このように、本発明の電極形成方法によれば、塗布液の溶剤としてベース層を軟化させる性質を有するものを使用したことで、塗布液を塗布するプロセス自体がベース層を軟化させるプロセスとなっている。このため、一定の硬度を有するベース層に塗布液を塗布しそれを押圧するという比較的簡素な製造プロセスによって、ベース層に埋め込まれた、つまりベース層との境界において段差のない電極を実現することが可能となっている。また、ベース層のうち軟化するのは塗布液が塗布されて溶剤に触れる部分、つまり電極が形成されるべき部分のみに限定される。このため、ベース層の他の部分に表面形状の乱れや電気絶縁性の低下などの影響を及ぼすことがなく、また形成される電極の形状の崩れも抑制される。
【0011】
また、この発明に係る有機薄膜トランジスタの製造方法の一の態様は、上記目的を達成するため、上記の電極形成方法により前記ベース層に前記電極を形成する工程と、前記ベース層の表面に、前記電極を覆う有機半導体層を形成する工程とを備えている。このように構成された発明では、ベース層と電極との間で段差のない状態でこれらを覆うように有機半導体層が形成されるので、段差に起因する有機半導体の結晶性の乱れを抑制することができる。そのため、このような結晶性の乱れに起因する半導体の電気的特性の低下を抑えて、性能の良好な有機薄膜トランジスタを製造することが可能となる。
【0012】
また、この発明の他の一の態様は、電気絶縁性の樹脂材料により形成されたベース層の表面に電極を形成する、有機薄膜トランジスタ用の電極形成装置であって、上記目的を達成するため、前記ベース層を有する基板を保持する基板保持部と、前記ベース層を構成する前記樹脂材料を軟化させる溶剤と電極材料とを含む塗布液が電極形状に応じてパターニングされたパターンを担持する平板状の担持体を、パターン担持面を前記ベース層の被塗布面に近接対向させて保持する担持体保持部と、前記担持体の前記パターン担持面とは反対側の面、または前記基板の前記被塗布面とは反対側の面を押圧しながら前記基板に沿って移動するローラ状の押圧部材とを備えている。
【0013】
このように構成された発明では、ベース層を軟化させる溶剤を含む塗布液がパターニングされた担持体をベース層に密着させることで、塗布液をベース層に塗布することができる。そして、ローラ状の押圧部材による加圧が軟化したベース層に塗布液を浸透させることで、ベース層に埋め込まれた電極を形成することができる。すなわち、上記構成の電極形成装置は、本発明に係る電極形成方法を実行するのに好適なものとなっている。
【発明の効果】
【0016】
上記のように、本発明によれば、塗布液の溶剤としてベース層を軟化させる性質を有するものを使用する。こうすることにより、一定の硬度を有するベース層に塗布液を塗布しそれを押圧するという比較的簡素な製造プロセスによって、ベース層との境界において段差のない電極を実現することが可能である。
【0017】
この発明の前記ならびにその他の目的と新規な特徴は、添付図面を参照しながら次の詳細な説明を読めば、より完全に明らかとなるであろう。ただし、図面は専ら解説のためのものであって、この発明の範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】半導体素子の製造方法の一実施形態を示すフローチャートである。
図2A】各製造工程における半導体素子の構造を示す図である。
図2B】各製造工程における半導体素子の構造を示す図である。
図2C】各製造工程における半導体素子の構造を示す図である。
図2D】各製造工程における半導体素子の構造を示す図である。
図3A】各製造工程における半導体素子の構造を示す図である。
図3B】各製造工程における半導体素子の構造を示す図である。
図3C】各製造工程における半導体素子の構造を示す図である。
図3D】各製造工程における半導体素子の構造を示す図である。
図3E】各製造工程における半導体素子の構造を示す図である。
図4A】転写処理工程における電極の埋め込みを説明する模式図である。
図4B】転写処理工程における電極の埋め込みを説明する模式図である。
図4C】転写処理工程における電極の埋め込みを説明する模式図である。
図5A】試作した有機薄膜トランジスタの構造を例示する図である。
図5B】試作した有機薄膜トランジスタの構造を例示する図である。
図6A】試作した有機薄膜トランジスタの構造を例示する図である。
図6B】試作した有機薄膜トランジスタの構造を例示する図である。
図7A】試作した有機薄膜トランジスタの電気的特性の例を示す図である。
図7B】比較例のトランジスタの断面構造を模式的に示す図である。
図8A】電極形成処理の過程を示す図である。
図8B】電極形成処理の過程を示す図である。
図8C】電極形成処理の過程を示す図である。
図8D】電極形成処理の過程を示す図である。
図9A】パターニング工程を示す模式図である。
図9B】転写工程を示す模式図である。
図10】電極形成処理の他の態様を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は本発明に係る電極形成方法を含む半導体素子の製造方法の一実施形態を示すフローチャートである。また、図2Aないし図2Dおよび図3Aないし図3Eは、この製造方法により製造される半導体素子の各工程における構造を示す図である。この製造方法は、例えば半導体基板、ガラス基板、樹脂基板等の種々の平板状の基板に半導体素子を形成するために用いることができる。以下、基板Sとしての例えばガラス板またはポリイミド製シートの表面に、半導体素子の一例としての有機薄膜トランジスタを形成する場合の処理について詳しく説明する。しかしながら、これ以外にも種々の半導体素子の形成のために下記の方法および装置を用いることができる。
【0020】
以下の説明では、基板Sに対し各種の機能層が積層されてなる構造体を、各工程における処理対象物たる「ワーク」と称し、符号Wkを付す。このような構造体の構造は製造工程の進行に伴って順次変化するが、それらのいずれについてもワークWkと称するものとする。また、以下のワーク断面図においては構造上の特徴を明示するため、各層の寸法や相対的な厚さは実際のものと必ずしも一致しない。
【0021】
最初に、処理対象となる基板が適宜の洗浄剤により洗浄され(ステップS101)、基板表面が清浄化される。そして、図2Aに示すように、基板Sの一方表面Saにベース層Bとなる樹脂層が形成される(ステップS102)。ベース層Bについては、例えば硬化状態で電気絶縁性を示す樹脂(例えば各種のポリマー樹脂)の材料を含む溶液を、例えばスピンコート法によって基板表面Saに一様に塗布することにより形成することができる。なお、これに限定されず、一様な層を形成することのできる任意の形成方法を用いてベース層Bを形成することが可能である。
【0022】
ベース層Bの材料を含む溶液を基板Sに塗布する方法が用いられる場合、形成された塗膜を乾燥硬化させるため、塗布後に焼成処理が行われる(ステップS103)。これにより塗膜が硬化して、基板表面Saに密着したベース層Bが形成される。また、硬化したベース層Bの表面に、新たな層を形成することが可能となる。ベース層Bは、基板S表面を均一かつ安定した絶縁層で被覆するとともに、後工程で形成される各層の形状を安定的に維持する機能を有する。特に、ベース層Bがプライマー層として機能することで、基板Sに対する電極の密着性を向上させ、後述するウェット処理において電極の崩れや剥落を効果的に防止することが可能である。
【0023】
ベース層Bを構成するポリマー樹脂材料としては、例えば、ポリウレタン、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリビニルアルコール、ポリビニルフェノール、ポリエステル、ポリエチレン等を用いることができる。この場合、ポリマーを硬化させるための焼成処理は、例えば120℃、30分程度の条件で行うことができる。例えば、所定の焼成温度に温度調整されたオーブン等の加熱炉内でワークWkを所定時間保持することにより、焼成処理を実行可能である。このような低い焼成温度で硬化するポリマー材料を採用することで、耐熱性の高くない樹脂材料も基板として用いることが可能となる。ワークWkは加熱炉内に静置されてもよく、また加熱炉内で搬送されつつ加熱される態様でもよい。
【0024】
こうして形成されたベース層Bの表面に、有機半導体薄膜トランジスタを構成するソース電極およびドレイン電極が形成される(ステップS104)。これらの電極の形成方法については種々の方法を採用可能である。ここではその一例として、予め形成された電極パターンをベース層Bに転写することで電極を形成する、印刷技術を応用した方法について説明する。
【0025】
図2Bに示すように、金属粒子(例えば銀)等の導電性材料および溶剤を含む導電性インクにより形成された電極パターンPTが、ガラス板、樹脂板等で形成されたブランケットBLの表面に予め形成される。この例では、ブランケットBLのパターン担持面(図における下面)に、互いに離隔した2つの電極パターンPTが担持されている。これら2つの電極パターンPTは、最終的にそれぞれソース電極およびドレイン電極となって機能する。
【0026】
ブランケットBLは、パターン担持面をベース層Bの表面に向けた状態でワークWkに近接対向配置される。この状態から、図2Cに示すように、パターン担持面とは反対側のブランケットBL表面にローラ部材RLが当接される。ローラ部材RLがブランケットBLをワークWK側へ押しやりながらブランケットBL表面に沿って転動する。これにより、ブランケットBLに担持された電極パターンPTがベース層Bに押し付けられ、最終的にベース層Bの表面に転写される。ローラ部材RLによるブランケットBLに対する押圧力としては、例えば0.05N/mm2ないし0.3N/mm2とすることができる。転写時の転写後のブランケットBLは、ワークWk近傍から搬出される。
【0027】
転写された電極パターンPTの導電性を得るために、転写後のワークWkに対し焼成処理が行われる(ステップS105)。このときの焼成条件としては、例えば120℃、30分とすることができるが、ステップS103における焼成処理と同一条件とすることは必須ではない。この時点でのワークWkは、図2Dに示すように、転写された電極パターンが硬化することにより形成されるソース電極Esおよびドレイン電極Edが、ベース層Bの内部に埋め込まれた状態となっている。このような埋め込みが生じる原理については後述する。
【0028】
次に、形成された電極の表面を改質するための処理として、電極表面に自己組織化単分子膜(Self-Assembled Monolayer;SAM)を形成するSAM処理が実行される(ステップS106)。SAM処理の原理および方法は公知であるので、ここではウェット処理によりSAM膜を形成する方法の一例を簡単に説明する。イソプロプルアルコール(Isopropyl alcohol;IPA)に濃度0.01M程度のペンタフルオロベンゼンチオール(Pentafluorobenzenethiol;PFBT)を溶解させた溶液にワークWkを少なくとも2分浸漬する。その後にIPAでリンスし乾燥させることにより、PFBTによるSAM膜を形成することが可能である。このようなSAM膜を電極表面に形成することで、この後に積層される有機半導体層と電極との間の電気的接触を低抵抗かつ安定したものとすることができる。SAM処理後のワークWkでは、図3Aに示すように、ワークWkのうち電極Es,Edの露出した表面にPFBTによる単分子膜Mが形成された状態となっている。
【0029】
次に、こうして電極Es,Edが形成されたワークWkの表面を覆うように、有機半導体層が積層される(ステップS107)。有機半導体層は、例えば公知の真空蒸着法を用いて成膜することができる。この時点でのワークWkは、図3Bに示すように、電極Es,Edを覆う単分子膜Mと露出したベース層Bの表面とが、有機半導体層Scにより連続的に覆われた状態となっている。
【0030】
次に、有機半導体膜Scの表面を覆うゲート絶縁層が形成される(ステップS108)。ゲート絶縁層は、例えば、電気絶縁性を有する材料を、公知の化学的気相成長法(Chemical Vapor Deposition;CVD)を用いて有機半導体膜Scの表面に堆積させて成膜することにより、形成することができる。この時点でのワークWkは、図3Cに示すように、有機半導体層Scの表面全体が連続的なゲート絶縁層Igにより覆われた状態となっている。
【0031】
次に、ゲート絶縁層Igの表面にゲート電極が形成される(ステップS109)。例えば、ソース電極Es、ドレイン電極Edの形成と同様の技術でゲート電極を形成することが可能である。すなわち、図3Dに示すように、ゲート電極となる電極パターンPTを担持するブランケットBLをワークWkに近接配置し、ローラ部材RL(図2C)によりブランケットBLを押圧することで、電極パターンPTをゲート絶縁層Igの表面に転写する。これを焼成処理することで(ステップS110)、図3Eに示すように、ゲート絶縁層Igの表面にゲート電極Egが形成される。
【0032】
この場合の転写処理および焼成処理における処理条件についても、ソース電極Esおよびドレイン電極Ed形成時の処理条件と同等とすることができる。例えば、転写処理時のローラ部材RLの押圧力を0.05N/mm2ないし0.3N/mm2、焼成処理温度を120℃、焼成時間を30分とすることができる。
【0033】
図示を省略しているが、この他に、各電極を配線による接続する工程や、形成された素子の表面を覆う保護層を形成する工程等の追加工程が適宜付加されることにより、有機薄膜トランジスタTrを含む電子デバイスが完成する。
【0034】
以上の一連の処理により、基板S、ベース層B、ソースおよびドレイン電極Es,Ed、有機半導体層Sc、単分子膜M、ゲート絶縁層Ig、ゲート電極Egがこの順番で積層された構造体を形成することができる。このうち、ソースおよびドレイン電極Es,Ed、有機半導体層Sc、ゲート絶縁層Ig、ゲート電極Egが一体として有機薄膜トランジスタTrとして機能する。基板Sおよびベース層Bは、有機薄膜トランジスタTrを支持する基材として機能する。なお、実際の製造工程においては、上記した構造の有機薄膜トランジスタTrが、1つの基板Sに多数並んだ状態で同時に形成される。
【0035】
各層の厚さの一例を示すが、これらの数値に限定されるものではない。ベース層Bの厚さは、例えば100nmである。また、ソースおよびドレイン電極Es,Edの厚さは例えば70nmである。また、有機半導体層Scの厚さは30nmである。また、ソース電極Esとドレイン電極Edとの距離、つまりチャネル長は例えば50μmである。また、ゲート絶縁層Igおよびゲート電極Egの厚さは、それぞれ例えば100nm、200nmである。
【0036】
なお、ベース層Bへのソースおよびドレイン電極Es,Edの埋め込みを確実に行わせるために、ベース層Bの厚さがブランケットBL上における電極パターンPTの厚さよりも大きくなるように、各層の厚さが設定されてもよい。
【0037】
有機薄膜トランジスタTrにおいて良好な電気的特性を得るための1つの条件として、有機半導体層Scの結晶性が良好であることが挙げられる。すなわち、有機半導体層Scが結晶粒界の多い多結晶性のものであるとき、有機半導体層Sc内におけるキャリア移動度が低いことで有機薄膜トランジスタTrの性能が制限される。高いキャリア移動度を得るために、有機半導体層Scは単結晶に近い良好な結晶性を有することが求められる。
【0038】
ソースおよびドレイン電極Es,Edが形成されたワークWkに結晶性の良好な有機半導体層Scを形成するために、ワークWk表面におけるソースおよびドレイン電極Es,Edとその周囲のベース層Bとの間で、段差が少なく平滑な表面となっていることが望ましい。図2Dに示すように、ベース層Bにソースおよびドレイン電極Es,Edが埋め込まれた構造は、このような要求に応えることのできるものである。以下、本実施形態においてこのような埋め込み構造を実現するための構成について説明する。
【0039】
図4Aないし図4Cは転写処理工程における電極の埋め込みを説明する模式図である。先に説明したように、ベース層Bへのソースおよびドレイン電極Es,Edの形成は、電極材料および溶剤を含む導電性インクにより形成されたパターンPTをベース層Bに転写することによりなされる。導電性インクに含まれる溶剤は、ベース層Bを構成する硬化後のポリマー樹脂を軟化させる性質を有するものが用いられる。具体的には、ポリマー樹脂を膨潤させまたは溶解させるような性質を有する溶剤が用いられる。例えばベース層Bを構成するポリマーがポリウレタンである場合、溶剤としてはこれを軟化させる有機溶媒、特に反転印刷用導電性インクに用いられる高沸点溶媒、具体的には例えばブチルカルビトール、ヘキシルカルビトール、エチルカルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテート、2‐エチル‐1,3‐ヘキサンジオール、2,4‐ジエチル‐1,5‐ペンタンジオール、1,3‐ブチレングリコール、オクタンジオールを用いることができる。
【0040】
図4Aに示すように、ブランケットBLに担持された電極パターンPTがベース層Bの表面に触れたとき、電極パターンPTに含まれる溶剤成分がベース層Bに浸透する。これにより、ベース層Bの上部に溶剤により膨潤または溶解し軟化した領域(軟化領域)SRが生じる。この状態で、図4Bに示すように、ローラ部材RLによる押圧力が加えられると、電極パターンPTが軟化領域SRの内部に向けて押し込まれることになる。その結果、図4Cに示すように、電極パターンPTがベース層Bに埋め込まれた構造が実現される。また、電極パターンPTの表面がベース層Bに押し付けられることで、電極パターンPTと周囲のベース層Bとの界面に段差が生じることが抑制される。
【0041】
つまり、この製造方法においては、電極パターンPTをベース層Bに転写するプロセスそのものが、電極パターンPTをベース層Bに埋め込むプロセスにもなっている。このため、転写前のベース層Bの下処理や、転写後の後加工等によって電極パターンPTの埋め込みを行う必要がない。
【0042】
図5A図5B図6Aおよび図6Bは試作した有機薄膜トランジスタの構造を例示する図である。より具体的には、図5Aは、上記製造方法によって製造された有機薄膜トランジスタの断面構造の一例を示す顕微鏡(TEM)写真であり、図5Bはそのうちドレイン電極の形状を模式的に示す図である。また、図6Aは、上記製造方法によって製造された有機薄膜トランジスタの断面構造の他の一例を示す顕微鏡写真であり、図6Bはそのうちドレイン電極の形状を模式的に示す図である。なおソース電極の形状も基本的に同じである。
【0043】
図5Aおよび図5Bに示す事例では、ドレイン電極Edの厚みが概ね一定に保たれたまま、その端部がベース層Bに埋め込まれた形状となっている。一方、図6Aおよび図6Bに示す事例では、ドレイン電極Edがその端部において厚みが次第に減少する態様でベース層Bに埋め込まれている。このように複数個体の間で電極の断面形状には幾分ばらつきが見られるが、いずれの事例においても、ドレイン電極Edはベース層Bの表面から緩やかに盛り上がるような表面形状となっており、有機半導体層Scとの界面は段差のない滑らかな曲面となっている。このため、顕著な段差に起因する有機半導体層Scの結晶性の乱れを抑えて、有機薄膜トランジスタTrの性能を良好なものとすることが可能である。
【0044】
なお、ゲート電極Egの形成に際し、電極パターンPTがゲート絶縁層Igに埋め込まれることは、電気的特性に影響を与えないため必要ではない。したがって、ゲート電極Egの形成工程においては電極パターンPTに含まれる溶剤成分とゲート絶縁層Igの材料との間に特別の関係は必要とされない。むしろ、絶縁性を担保するとの観点からは、ゲート絶縁層Igは溶剤に対し変化を示さない材料で形成されることが好ましい。
【0045】
図7Aおよび図7Bは試作した有機薄膜トランジスタの電気的特性の例を示す図である。より具体的には、図7Aは試作した有機薄膜トランジスタおよび比較例における電気的特性の実測例を示すグラフである。また、図7Bは比較例のトランジスタの断面構造を模式的に示す図である。なお、構造の対比を容易にするため、図7Bでは、図3Eに示すトランジスタTrの各構成と同一の機能を有する構成に同一の符号を付している。
【0046】
本実施形態の製造方法により製造される有機薄膜トランジスタTrは、図3Eに示すように、ソースおよびドレイン電極Es,Edが層間に配置されゲート電極Egが素子表面に現れる、いわゆるトップゲート型のトランジスタである。一方、比較例として図7Bに示すトランジスタは、ゲート電極Egが層間に配置されソースおよびドレイン電極Es,Edが素子表面に現れる、いわゆるボトムゲート型のトランジスタである。比較例においては、ガラス基板Sにクロム(膜厚3nm)および金(膜厚50nm)を積層したゲート電極Eg、CVD法による膜厚100nmのゲート絶縁層Ig、真空蒸着法による膜厚30nmの有機半導体層Sc、金の真空蒸着によるソースおよびドレイン電極Es,Ed(膜厚50nm、チャネル長50μm)が順に積層されている。
【0047】
薄膜トランジスタでは半導体層のうちソース電極とドレイン電極とを接続する部分が電流の流通するチャネルとして機能する。従来のトップゲート型トランジスタでは、ソースおよびドレイン電極の周囲での有機半導体層の結晶性の乱れに起因して、ソース電極とドレイン電極とを電気的に接続するチャネル部分における有機半導体のキャリア移動度が小さい。このため、有機半導体層を平坦な層とすることができるボトムゲート型トランジスタに比べて電気的特性が劣る傾向がある。
【0048】
しかしながら、図7Aに示すように、本実施形態により製造されるトップゲート型トランジスタは、比較例のボトムゲート型トランジスタとほぼ同等の電気的特性を有するものとなった。より具体的には、ドレイン電圧が(-5)Vの測定条件において、本実施形態により製造されるトランジスタと比較例のトランジスタとの間で、飽和領域でのキャリア移動度(電界効果移動度)および最大ドレイン電流を比較した。その結果は、
・本実施形態:
電界効果移動度 0.283[cm2/V・s]、
最大ドレイン電流 8.26×10-7[A]
・比較例:
電界効果移動度 0.297[cm2/V・s]、
最大ドレイン電流 7.30×10-7[A]
であった。このことから、本実施形態の製造方法により製造される有機半導体薄膜トランジスタTrが、比較例のボトムゲート型トランジスタとほぼ同等の電気的特性を有することがわかる。したがって有機半導体層Scが良好な結晶性を有していると言える。
【0049】
次に、基板Sにベース層Bが形成された図2Aに示すワークWk、あるいはゲート絶縁層Igが形成された図3Cに示すワークWkに電極パターンPTを転写し電極を形成する方法につき、さらに詳しく説明する。前述のように、この実施形態において電極(ソース電極Es、ドレイン電極Ed、ゲート電極Eg)は、ブランケットBL表面でパターン化された導電性インクをワークWkに転写することにより形成される。
【0050】
このような電極形成処理は、ブランケットBL上に導電性インクによる電極パターンPTを形成するパターニング工程と、形成された電極パターンPTをワークWkに転写する転写工程とに細分化することができる。以下に説明するように、パターニング工程と転写工程とは同一の処理装置を用いて実行することが可能である。なお、ここに説明する処理については、例えば本願出願人が先に開示した特開2016-203518号公報に記載された転写装置により実行することが可能である。
【0051】
図8Aないし図8Dは電極形成処理の過程を示す図である。また、図9Aおよび図9Bはパターニング工程および転写工程を示す模式図である。図8Aないし図8Dに示す直交座標系において、XY平面が水平面を表す。また、Z方向が鉛直方向を表し、より具体的には、(+Z)方向が鉛直上向き方向を表す。図8Aないし図8Dを参照しながら、まずパターニング工程について説明する。
【0052】
電極形成処理を実行する転写装置1では、下面が真空吸着面となった上ステージ11と、中央部が大きく開口する額縁形状を有する下ステージ12とが、それぞれ水平姿勢で互いに近接対向配置されている。下ステージ12の開口121の開口サイズは、上ステージ11の平面サイズよりも大きい。開口121の内部には、図示しない昇降機構により個別に昇降可能に支持された複数の昇降ハンド13が配置されている。
【0053】
また、開口121の(-X)側(図において左方)端部付近には、Y方向に延びる円柱状または円筒状の押圧ローラ14が配置されている。押圧ローラ14は、支持部材15によりY方向の中心軸回りに回転自在に支持されている。支持部材15は図示しない駆動機構によりZ方向への昇降およびX方向への走行が可能となっている。押圧ローラ14は、図2Cに示すローラ部材RLに相当する機能を有するものである。
【0054】
パターニング工程では、図8Aに示すように、最初に、所望の電極パターンを反転させた凸パターンを有する版PPが転写装置1に搬入され、上ステージ11にセットされる。上ステージ11は、凸パターンが形成されたパターン形成面を下向きにして版PPを吸着保持する。また、予め導電性インクIkが一様に塗布されたブランケットBLが転写装置1に搬入され、下ステージ12にセットされる。下ステージ12は、導電性インクIkが塗布された面を上向きにして版PPに対向させた状態で、ブランケットBLの周縁部を吸着保持する。
【0055】
初期状態では、各昇降ハンド13が、その上面が下ステージ12の上面と同じ高さとなるような高さに位置決めされることで、開放された状態のブランケットBL中央部が水平姿勢に維持される。また、押圧ローラ14は、水平方向においては版PPの(-X)側端部の下方、鉛直方向においては上端がブランケットBL下面から離間した状態となる位置に位置決めされる。
【0056】
この状態から、支持部材15が押圧ローラ14を上昇させることで、押圧ローラ14がブランケットBLの下面に当接する。押圧ローラ14がブランケットBL下面に当接した後も上昇を続けることにより、図8Bに示すように、ブランケットBLが押圧ローラ14により押し上げられ、最終的にはブランケットBL上面が版PPの下面に当接する。これにより、ブランケットBL上面に担持されたインクIkが版PPに密着する。さらに押圧ローラ14がブランケットBLを押し上げることで、インクIkが所定の押圧力で版PPに押し付けられる。
【0057】
この状態で支持部材15が押圧ローラ14を(+X)方向に移動させることで、押圧ローラ14がブランケットBLの下面に当接して従動回転しながら(+X)方向へ走行する。これにより、インクIkを介してブランケットBLと版PPとが密着する領域がX方向に広がってゆく。このとき、複数の昇降ハンド13のそれぞれは、図8Cに示すように、走行する押圧ローラ14との干渉を避けるために、支持部材15の移動に伴って順次下降する。
【0058】
図8Dに示すように、押圧ローラ14が版PPの(+X)側端部直下の終了位置に到達すると、版PP全体がブランケットBLに当接した状態となる。この状態で版PPとブランケットBLとが剥離されると、ブランケットBLに一様塗布されたインクIkのうち凸パターンに対応する部分が版PPに移行し、他の部分がブランケットBL上に残留する。こうすることで、インクIkが凸パターンによりパターニングされ、当該凸パターンの反転パターンが電極パターンPTとしてブランケットBLに転写される。図9AはブランケットBLに塗布されたインクIkが版PPによりパターニングされ電極パターンPTが形成される過程を模式的に示した図である。
【0059】
一方、こうしてブランケットBLに形成された電極パターンPTをワークWkに転写する転写工程は、上記処理における版PPをワークWkに、インクIkを電極パターンPTに読み替えることで説明可能である。すなわち、電極パターンPTが担持されたブランケットBLが下ステージ12により、該パターンを転写されるワークWkが上ステージ11により、それぞれ保持される(図8A)。
【0060】
そして、押圧ローラ14がブランケットBLを所定の押圧力でワークWkに押し付けながらX方向に走行することで(図8Bないし図8D)、ブランケットBLとワークWkとが電極パターンPTを介して密着する。ワークWkとブランケットBLとを剥離させると、ブランケットBL上の電極パターンPTがワークWkに転写される。
【0061】
図9Bは、基板Sにベース層Bが形成されてなるワークWkに電極パターンPTが転写される過程(図1のステップS104)を模式的に示した図である。ベース層Bは事前の焼成処理により既に硬化した状態となっている。このため、押圧ローラ14からの押圧力によってベース層Bが塑性変形することはない。一方、電極パターンPTは未乾燥の状態であり溶剤成分を多く含んでいる。このため、電極パターンPTと接するベース層Bが溶解または膨潤することで軟化し、電極パターンPTがベース層Bに強く押し付けられることでベース層Bに埋め込まれる。
【0062】
なお、上記の電極形成処理は、いずれも平板形状を有するブランケットBLとワークWkとを密着させた後剥離することで電極パターンPTをブランケットBLからワークWkに転写させる、平行平板印刷技術を応用したものである。しかしながら、ワークWkに電極パターンPTを形成する方法はこれに限定されず、例えば以下に例示するように種々の方法を適用することが可能である。
【0063】
図10は電極形成処理の他の態様を示す図である。この態様に用いられる転写装置2では、円筒状のブランケット胴21の表面にブランケット22が巻回されている。また、電極パターンPTは凹版23上でパターニングされている。ブランケット胴21を所定速度で回転させつつ、凹版23がブランケット22と当接しながら移動することにより、凹版23でパターニングされた電極パターンPTがブランケット22に転写される。続いて、ステージ24に載置されたワークWkをブランケットBLに当接させながらステージ24が移動することにより、ブランケットBL上の電極パターンPTがワークWkに転写される。電極パターンPTに含まれる溶剤成分がワークWkのベース層Bを溶解または膨潤させることにより、電極パターンPTはベース層Bに埋め込まれる。この方法はオフセット凹版印刷技術に相当するものである。このような方法によっても、ワークWkに電極を形成することが可能である。
【0064】
また、平板または円筒状のブランケット上でのパターン形成が他の方法により実行されてもよい。例えば、スクリーン印刷法、インクジェット法等の印刷技術を用いて導電性インクをブランケット表面に部分的に着液させることによって、電極パターンが形成されてもよい。ワークWkに電極パターンPTを転写するという目的においては、これらの印刷技術によりワークWk表面に直接インクを着液させることも考えられる。しかしながら、インクをワークWkに接触させつつ加圧することで電極パターンPTをベース層Bに埋め込むという目的に合致するものではない。
【0065】
ただし、これらの印刷技術によりワークWk表面にインクを着液させた後、別途押圧のための工程を追加することにより、同様の効果を得ることは可能である。そのような方法と比較したとき、パターン転写と押圧とを同時に実行することができるという点で、上記実施形態は特に有効である。
【0066】
以上のように、この実施形態では、半導体素子(有機薄膜トランジスタ)中において有機半導体層の形成に先立つ電極の形成に際し、有機半導体層と接する界面における顕著な段差を生じさせないようにするために、次のような方法が採られている。すなわち、電極の形成に先立ち、基板Sに絶縁性樹脂材料によるベース層Bが形成される。そして、ベース層Bの表面に、電極材料および溶剤を含むインクが定められたパターンに応じて部分的に塗布される。ここで、溶剤はベース層を構成する樹脂材料を軟化させる性質を有するものとされる。
【0067】
ベース層B表面に形成された電極パターンPTが未固化の状態で押圧を受けることにより、溶剤により軟化したベース層Bの内部に浸透する。このため、電極パターンPTを固化させることにより形成される電極は、ベース層Bに埋め込まれた状態となる。その結果、こうして形成される半導体素子において、ベース層Bに積層された電極の表面とベース層の露出表面とが滑らかな曲面を構成することとなる。これにより、両表面の境界において顕著な段差が生じることが回避される。
【0068】
したがって、これらを覆うように形成される有機半導体層も平滑な表面を有することとなる。そのため、段差によって生じる結晶性の乱れに起因する有機半導体層の電気的特性の低下を抑制することができる。すなわち、本実施形態の製造方法によれば、電気的特性の良好な有機薄膜トランジスタを安定的に製造することが可能である。
【0069】
また、電極パターンPTの転写による電極形成時にローラ部材による押圧を行っているので、パターン転写と電極の埋め込みとを同時に実現することが可能である。このため、電極形成により生じる段差を解消するための処理工程が不要であり、製造装置の設備コストおよび製造コストを大きく低減することが可能である。
【0070】
以上説明したように、上記実施形態の有機薄膜トランジスタ用電極形成方法およびこれを含む有機薄膜トランジスタの製造方法においては、導電性インクIkが本発明の「塗布液」に相当している。そして、ブランケットBLおよびローラ部材RLが、それぞれ本発明の「担持体」および「ローラ」として機能している。
【0071】
また、図8Aに示す転写装置1および図10に示す転写装置2が本発明の「電極形成装置」として機能している。転写装置1においては、上ステージ11が本発明の「基板保持部」として機能しており、下ステージ12が本発明の「担持体保持部」として機能している。また、押圧ローラ14が本発明の「押圧部材」として機能している。一方、転写装置2においては、ステージ24が本発明の「基板保持部」として機能しており、ブランケット22が本発明の「担持体」として機能している。そして、ブランケット胴21は、本発明の「担持体保持部」および「押圧部材」としての機能を兼備している。
【0072】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば、上記した実施形態は、本発明の電極形成方法を含む半導体素子(具体的には有機薄膜トランジスタ)の製造方法に関するものである。しかしながら、本発明の電極形成方法は、半導体素子の製造プロセス以外にも適用することが可能である。
【0073】
また例えば、本発明は、上記のような有機薄膜トランジスタに限定されない種々の半導体素子の製造に適用することが可能である。上記方法で製造される半導体素子はトップゲート・ボトムコンタクト型の有機薄膜トランジスタであるが、例えばボトムゲート・トップコンタクト型の有機薄膜トランジスタの製造に本発明が適用されてもよい。
【0074】
また、上記実施形態の原理説明(図2C)においては、ワークWkの上面に電極パターンPTが転写され、上方からローラ部材RLによる押圧を受ける。一方、これとは逆に、具体的な転写装置1ではワークWkの下面に電極パターンPTが転写され、下方から押圧ローラ14による押圧ローラを受ける。しかしながら、これらは技術的には等価であり、ワークWkに対する押圧方向は任意である。電極パターンPTの転写を受けるベース層Bは予め硬化されて流動性を有していないので、押圧方向による差異は特に生じない。
【0075】
また、上記実施形態では、基板Sの表面にベース層Bが形成されたワークWkに対し電極パターンPTが転写される。しかしながら、基板S自体が電気絶縁性を有し、かつ導電性インクの溶剤により軟化する性質のものであれば、改めてベース層を形成する必要はない。すなわちこの場合、基板S自体が本発明の「ベース層」としての機能を有することとなる。
【0076】
以上、具体的な実施形態を例示して説明してきたように、本発明に係る有機薄膜トランジスタ用の電極形成方法において、溶剤は、樹脂材料を膨潤させまたは溶解する有機溶媒であってよい。このような構成によれば、溶剤により膨潤または溶解したベース層に塗布液が浸透することにより、ベース層の内部に埋め込まれた電極を形成することができる。
【0077】
また例えば、ベース層は、基板に樹脂材料またはその原料物質を含む液体を塗布し固化させることにより形成されるものであってよい。このようにして既に固化した状態のベース層に塗布液が塗布されることにより、未固化のベース層への塗布とは異なり、安定した塗布が可能となる。そして、いったん固化したベース層を溶剤で軟化させることにより、電極のベース層への埋め込みを効果的に実現することができる。
【0078】
また例えば、樹脂材料がポリウレタンであり、溶剤が2,4‐ジエチル‐1,5‐ペンタンジオールであってよい。このような樹脂材料と溶剤との組み合わせにより上記した電極の埋め込みが実現可能であることが、本願発明者の実験により明らかとなっている。
【0079】
また例えば、電極形状に応じてパターニングされた塗布液のパターンを担持体に担持させ、該担持体をベース層に押し当てることで、ベース層へ塗布液を転写しつつ押圧を行う構成であってよい。このような構成によれば、ベース層に塗布液を転写するプロセス自体が塗布液を押圧するプロセスを兼ねることとなるので、これらを別工程として設ける必要がなく、製造に要する時間およびコストの短縮を図ることが可能となる。
【0080】
この場合、担持体のパターン担持面が平坦であり、パターン担持面をベース層の被塗布面に近接対向させまたは密着させて、担持体のパターン担持面とは反対側の面を、またはベース層の被塗布面とは反対側の面を、ローラで押圧する構成であってよい。このような構成によれば、担持体に担持されたパターンをベース層に押し当てることにより転写を行いつつ、同時にパターンを軟化したベース層の内部に浸透させることができる。
【0081】
また例えば、ベース層の厚さが電極の厚さよりも大きくてもよい。電極の厚さに対しベース層が薄すぎると、ベース層に対する電極の埋め込み量が限定され、結果としてベース層表面と電極表面との間の段差を解消することができない場合が生じ得る。少なくともベース層の厚さが電極の厚さよりも大きければ、この問題を回避して、確実に電極の埋め込みを実現することが可能である。
【0082】
また、本発明に係る有機薄膜トランジスタの製造方法においては、例えば、電極の形成後、電極の表面を改質するためのウェット処理を実行する工程を備えてもよい。基板に直接電極を設けた場合、このようなウェット処理工程で形成済みの電極が基板から剥がれ落ちてしまうおそれがある。予めベース層を設けておくことは、このような問題にも対応して、電極の剥落を効果的に防止することのできるものである。
【0083】
また、本発明に係る有機薄膜トランジスタでは、例えば、ソース電極およびドレイン電極それぞれの露出表面と有機半導体層との間に自己組織化単分子膜が設けられてもよい。このような構成によれば、電極と有機半導体層との間の電気的接触を低抵抗かつ安定したものとすることができる。
【0084】
以上、特定の実施例に沿って発明を説明したが、この説明は限定的な意味で解釈されることを意図したものではない。発明の説明を参照すれば、本発明のその他の実施形態と同様に、開示された実施形態の様々な変形例が、この技術に精通した者に明らかとなるであろう。故に、添付の特許請求の範囲は、発明の真の範囲を逸脱しない範囲内で、当該変形例または実施形態を含むものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0085】
この発明は、基板に電極を形成する電極形成技術全般に適用することが可能であるが、基板と電極との間の段差に起因する結晶性の乱れが電気的特性の劣化原因となる有機薄膜トランジスタの製造において特に有効なものである。
【符号の説明】
【0086】
1,2 転写装置(電極形成装置)
11 上ステージ(基板保持部)
12 下ステージ(担持体保持部)
14 押圧ローラ(押圧部材)
21 ブランケット胴(担持体保持部、押圧部材)
22 ブランケット(担持体)
24 ステージ(基板保持部)
B ベース層
Ed ドレイン電極
Eg ゲート電極
Es ソース電極
Ig ゲート絶縁層
Ik 導電性インク(塗布液)
PT 電極パターン
S 基板
Sc 有機半導体層
Tr 有機半導体薄膜トランジスタ
Wk ワーク
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図8C
図8D
図9A
図9B
図10