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特許7117135石炭灰組成物及びセメント組成物、ならびに石炭灰組成物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-03
(45)【発行日】2022-08-12
(54)【発明の名称】石炭灰組成物及びセメント組成物、ならびに石炭灰組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 18/10 20060101AFI20220804BHJP
   C04B 24/32 20060101ALI20220804BHJP
   C04B 24/02 20060101ALI20220804BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20220804BHJP
   C04B 7/28 20060101ALI20220804BHJP
【FI】
C04B18/10 A ZAB
C04B24/32 Z
C04B24/02
C04B28/02
C04B7/28
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018081341
(22)【出願日】2018-04-20
(65)【公開番号】P2019189480
(43)【公開日】2019-10-31
【審査請求日】2021-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】521297587
【氏名又は名称】UBE三菱セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(72)【発明者】
【氏名】高林 龍一
(72)【発明者】
【氏名】後藤 卓
(72)【発明者】
【氏名】長尾 有記
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 貴康
(72)【発明者】
【氏名】高橋 恵輔
(72)【発明者】
【氏名】吉井 清隆
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-086311(JP,A)
【文献】特開2008-189491(JP,A)
【文献】特開平09-002848(JP,A)
【文献】特開平07-196346(JP,A)
【文献】特開2002-003264(JP,A)
【文献】特開2007-197261(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 7/00-28/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
BET比表面積が5m/g以上の石炭灰と、非イオン性界面活性剤とを含み、
前記非イオン性界面活性剤がアルキレンオキサイド付加物を含み、
前記アルキレンオキサイド付加物の含有量が前記石炭灰に対して0.0001~10質量%であることを特徴とする石炭灰組成物。
【請求項2】
前記非イオン性界面活性剤の限界ミセル濃度が150mg/L以下であることを特徴とする、請求項に記載の石炭灰組成物。
【請求項3】
前記アルキレンオキサイド付加物がオキシプロピレン基を含む、請求項1又は2に記載の石炭灰組成物。
【請求項4】
記アルキレンオキサイド付加物が前記非イオン界面活性剤1molに対して1mol以上のオキシプロピレン基を含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の石炭灰組成物。
【請求項5】
前記石炭灰の粒径5μm未満の粒子が10~40体積%、粒径45μm以上の粒子が30体積%以下であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の石炭灰組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の石炭灰組成物とセメントとを含むことを特徴とする、セメント組成物。
【請求項7】
前記石炭灰組成物の含有量が0.1質量%以上50質量%以下であることを特徴とする、請求項6に記載のセメント組成物。
【請求項8】
BET比表面積が5m/g以上の石炭灰と非イオン性界面活性剤とを混合することを特徴とする、石炭灰組成物の製造方法であって、
前記非イオン性界面活性剤がアルキレンオキサイド付加物を含み、
前記アルキレンオキサイド付加物の含有量が前記石炭灰に対して0.0001~10質量%である、石炭灰組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント、コンクリート及び固化材添加用の石炭灰組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今の電力需要の増加に伴って石炭火力発電所から排出される石炭灰の量は年々増加している。これに対応するため、最終処分場での埋め立て処理ならびにセメントクリンカー用原料及びセメント混和材料への利用が進められている。特に、国内の最終処分場は逼迫しつつあることから、持続的に処理可能なセメント混和材料としての利用拡大が期待される。
【0003】
しかし、石炭灰をセメント混和材として利用した場合、セメント・コンクリートに好ましくない影響を及ぼす場合がある。
【0004】
その一つとして、石炭灰中に含有される未燃カーボンがモルタル・コンクリート表面や固化材スラリー表面に黒色に浮き出し、スラリーや硬化体の美観を損ねるという問題がある。これに対し、特許文献1には、石炭灰を熱処理して未燃カーボン自体を除去する技術が記載されている。特許文献2には、石炭灰に界面活性剤を加えることで未燃カーボンの浮きが抑制される技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-126117号公報
【文献】特開2000-86311号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、石炭灰を熱処理して未燃カーボンを低減する場合には、熱処理操作に多額の設備投資及びランニングコストが必要になるという問題があった。また、石炭灰に界面活性剤を添加する場合も、黒色浮遊物が発生しない石炭灰にまで界面活性剤を添加すると、処理コストを不必要に増加することになる。さらに、セメント混和材として利用した場合に、セメントの強度発現性低下を抑制可能な石炭灰も望まれている。
【0007】
本発明は上記に鑑みなされたものであり、モルタル・コンクリート及び固化材スラリーを作製した際の表面の未燃カーボン浮きが低減された石炭灰組成物を提供することを目的とする。
【0008】
また、本発明は、上記の課題に加えて強度発現性の低下を抑制した石炭灰組成物を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで発明者らは上記課題を解決すべく検討した結果、特定のBET比表面積を有する石炭灰に対して特定の構造あるいは特性を有する界面活性剤を混合することによって、モルタル・コンクリート表面または固化材スラリー表面の黒色浮遊物の発生が抑制されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明はBET比表面積が2m/g以上の石炭灰と、非イオン性界面活性剤とを含むことを特徴とする石炭灰組成物に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によればモルタル・コンクリート及び固化材スラリーを作製した際の表面の未燃カーボン浮きが低減された石炭灰組成物を提供することができる。これにより、従来はモルタル・コンクリート・固化材スラリー表面に黒色浮遊物が発生する為に活用が困難とされていた石炭灰を有効利用することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0013】
本発明の石炭灰は、セメント・コンクリート用の混和材、固化材用の混和材などに使用することができる。
【0014】
本発明の石炭灰組成物に含有される石炭灰の由来は特に限定されないが、石炭火力発電所から発生する石炭灰が好適に用いられる。JIS A 6201:2015に規定されるフライアッシュを使用することもできるが、特にモルタル・コンクリート・固化材スラリー表面に黒色浮遊物が発生し易いBET比表面積2m/g以上の石炭灰を有効に利用することが出来る。好ましくは3m/g以上、より好ましくは4m/g以上、更に好ましくは5m/g以上の石炭灰であれば、従来は利用が困難だった石炭灰を有効利用することが出来る。
【0015】
また、本発明の石炭灰組成物には、分級操作によってブレーン比表面積を高めて強度発現性を向上した石炭灰を使用することが好ましい。分級操作でブレーン比表面積を高めた石炭灰は、活性度指数が向上してJIS A 6201:2015に規定されるII種フライアッシュの規格を満足することが可能となるが、分級前と比較して未燃カーボンの含有割合が増加するため、スラリー表面に黒色浮遊物が特に発生しやすくなる。本願発明はそのような分級操作を行った分級灰を使用した場合でもモルタル・コンクリート・固化材スラリー表面の黒色浮遊物の発生を抑制可能であり、優れた強度発現性を持ちながら従来は有効活用することができていなかった分級灰を有効利用することが可能となる。
【0016】
本発明の石炭灰組成物に含有される石炭灰の粒度分布は特に限定されないが、粒径5μm未満の粒子の体積割合が10~40%であり、好ましくは20~35%、より好ましくは25~30%である。粒径10μm未満の粒子の体積割合は10~90%、好ましくは30~80%、より好ましくは50~75%、特に好ましくは70~75%である。粒径45μm以上の粒子の体積割合は30%以下、好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下である。このような粒度分布を満たす石炭灰であれば、黒色浮遊物の発生を抑制し、更に優れた強度発現性を得ることが可能となる。
【0017】
本発明の石炭灰組成物は非イオン性界面活性剤を含有する。非イオン性界面活性剤とは水に溶解させた場合にイオンにならない界面活性剤である。具体的にはエステル型界面活性剤,エーテル型界面活性剤,ポリオキシエチレン型界面活性剤などがあげられる。特に好ましくは、ポリオキシエチレン型界面活性剤である。そのような非イオン性界面活性剤を使用すれば、黒色浮遊物の発生を抑制することができる。また同様の観点から、非イオン性界面活性剤はアルキレンオキサイド付加物であることが好ましく、前期アルキレンオキサイドはオキシプロピレン基を含むことが更に好ましい。前記オキシプロピレン基は非イオン性界面活性剤1molあたりに1mol以上、好ましくは3mol以上、より好ましくは6mol以上含まれていることが黒色浮遊物の発生を抑制する観点から好ましい。
【0018】
本発明の石炭灰組成物に含有される非イオン性界面活性剤は、限界ミセル濃度(CMC)が150mg/L以下のものを使用することが、黒色浮遊物の低減または非イオン性界面活性剤の使用量低減の観点から望ましい。100mg/L以下がより好ましく、50mg/L以下が更に好ましく、20mg/L以下が特に好ましく、10mg/L以下が最も好ましい。
【0019】
本発明の石炭灰組成物に含有される非イオン性界面活性剤の含有量は特に限定されないが、好ましくは石炭灰に対する質量割合で0.0001~10質量%、より好ましくは0.001~5質量%、更に好ましくは0.01~1質量%、特に好ましくは0.04~0.1質量%である。このような範囲とすることで、モルタル・コンクリート・固化材スラリー表面の黒色浮遊物の発生を抑制可能となるほか、より強度発現性に優れるモルタル硬化体、コンクリート硬化体又は固化処理土とすることができる。また、後述の消泡剤を使用する場合には圧縮強さへの影響が緩和される為、非イオン性界面活性剤の量を増やすことができる。この場合は、セメント・コンクリート・固化材の硬化体における収縮量の低減が期待できる。
【0020】
本発明の石炭灰組成物は、さらに各種の消泡剤を含むこともできる。消泡剤の種類は特に限定されないが、ポリエーテル系消泡剤、エステル系消泡剤、エーテル・エステル系消泡剤、ポリプロピレングリコール(PPG)を含むものが使用でき、特にポリプロピレングリコールを含むものが非イオン性界面活性剤との相性の観点から好ましい。また、非イオン性界面活性剤を多量に含有した場合の圧縮強さ低下の改善も期待できる。前記消泡剤の含有量は特に限定されないが、非イオン性界面活性剤との合量100質量%に対して好ましくは1~50質量%、より好ましくは5~30質量%、特に好ましくは10~20質量%である。
【0021】
本願発明の石炭灰組成物は、特定のBET比表面積を有する石炭灰と非イオン性界面活性剤とを混合することで製造することができる。混合方法は特に限定されず、例えば液状の非イオン性界面活性剤を石炭灰に対して噴霧する方法、滴下する方法、その他の物質(例えばセメント、石灰石、スラグ、石膏、珪石、ゼオライトなど)に担持させてから石炭灰と混合する方法などが挙げられる。固形の非イオン性界面活性剤であれば、固形のまま石炭灰に添加してボールミル等で混合粉砕したり、予め細かく粉砕した非イオン性界面活性剤と石炭灰とを混合したりすることが出来る。
【0022】
石炭灰と非イオン性界面活性剤との混合には市販の撹拌・混合装置、例えばロッキングミキサー、ボールミル、アイリッヒミキサー、サイクロン、気流混合機、ジェットミルなどが使用可能である。また、セメント仕上げ工程のサイクロン又はセメント仕上用ボールミルを使用すれば、同時にセメントやセメントクリンカーとも混合することが可能である。セメント仕上用ボールミルで混合する場合は、非イオン性界面活性剤を既存の粉砕助剤と共に添加することができ、同時にセメントと混合することもでき、添加設備の増設費用を抑えながら石炭灰混合セメント中に非イオン性界面活性剤を均一に分散させることができる。この場合は、非イオン性界面活性剤がセメントの粉砕を促進する効果も期待できる。セメント仕上げ工程中のサイクロンで混合する場合も、サイクロン内部で非イオン性界面活性剤を石炭灰に十分に分散させることができるので、特別な添加設備がなくとも、非イオン性界面活性剤が均一に分散した高品質な石炭灰組成物を得ることが出来る。また、上記混合の順番も特に限定されない。例えば、セメント又はセメントクリンカーと非イオン性界面活性剤との混合物と石炭灰とを混合してもよいし、非イオン性界面活性剤と石炭灰との混合物とセメント又はセメントクリンカーとを混合してもよいし、セメント又はセメントクリンカーと石炭灰との混合物に非イオン性界面活性剤を混合してもよい。特に、セメントクリンカーと非イオン性界面活性剤とを予め混合粉砕してから石炭灰を混合すれば、非イオン性界面活性剤の粉砕助剤効果によってセメント粉砕効率の向上が期待できる。
【0023】
本発明の石炭灰組成物に含まれる石炭灰の粒度分布は様々な方法で調整することができる。例えば空気分級機、篩分級、サイクロンセパレーター、湿式分級機などである。分級効率の観点から、特に好ましいのは空気分級機である。
【0024】
本発明の石炭灰組成物の製造方法は、窒素の吸脱着等温線から求めたBET比表面積が2m/g、好ましくは3m/g以上、より好ましくは4m/g以上、更に好ましくは5m/g以上の石炭灰を選別する工程を含むこともできる。このような選別工程を含むことにより、従来は黒色浮遊物が発生する為に活用が困難であった石炭灰を選択的に処理することができ、処理コストの低減にも寄与することができる。
【0025】
本発明の石炭灰組成物を混和材として使用してセメント組成物、コンクリート組成物又は固化材組成物を製造することができる。セメント組成物、コンクリート組成物及び固化材組成物中の石炭灰組成物含有量は特に限定されないが、好ましくは0.1質量%以上50質量%以下、より好ましくは1質量%以上30質量%以下、更に好ましくは2質量%以上20質量%以下、特に好ましくは3質量%以上10質量%以下、最も好ましくは5質量%以上10質量%未満である。石炭灰組成物の含有量をこのような範囲とすることにより、流動性及び強度発現性に優れたセメント組成物、コンクリート組成物又は固化材組成物とすることができる。
【0026】
本発明の石炭灰組成物とセメントとを混合してセメント組成物を製造する場合、石炭灰組成物と混合するセメントは特に限定されないが、JIS R 5210に規定されるポルトランドセメント、JIS R 5211に規定される高炉セメント、JIS R 5212に規定されるシリカセメント、JIS R 5213に規定されるフライアッシュセメント等が使用可能である。
【0027】
本発明の石炭灰組成物を混和材として使用して製造されるセメント組成物、コンクリート組成物、固化材組成物には、その他の無機材料を加えることもできる。例えば、石灰石微粉末、高炉スラグ微粉末、二水石膏、無水石膏、半水石膏、シリカ質混合材等である。前記無機材料の含有量は特に限定されないが、好ましくは1~30質量%、より好ましくは2~20質量%、さらに好ましくは3~10質量%、特に好ましくは5質量以上10質量%未満である。このような含有量であれば、流動性及び強度発現性に優れたセメント組成物、コンクリート組成物、固化材組成物とすることができる。
【実施例
【0028】
次に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
【0029】
[1.使用原料]
石炭灰:国内の石炭火力発電所で発生したもの
普通ポルトランドセメント
無水石膏
水:純水
【0030】
[使用した石炭灰について]
表に示す石炭灰1-1~10-1及びJIS A 6201:2015規格を満足する市販のJISII種灰を使用した。いずれも、日本国内の石炭火力発電所から発生した石炭灰である。また、石炭灰1、2、4、7、8及び10については、空気分級装置(製品名:ターボクライファイア、TC-15)を使用して回転数2920~3500rpmで粗粉側をカットした石炭灰1-2、2-2、4-2、7-2、8-2及び10-2をそれぞれ調整した。また、石炭灰2又は10を回転数3000rpmで分級して粗粉をカットし、さらに回転数6000、8000又は10000rpmで空気分級して微粉側をカットすることで石炭灰2-3~2-5、10-3及び10-4をそれぞれ調製した。調製した石炭灰の活性度指数はJCAS I-61:2008に準拠する方法で、ブレーン比表面積はJIS R 5201:2015に準拠する方法で、BET比表面積は窒素の吸脱着等温線から求めた。
【0031】
【表1】
【0032】
[石炭灰組成物、石炭灰組成物を使用した固化材の未燃カーボンの浮きについて]
石炭灰1-1~10-4について、表2に示す配合で普通ポルトランドセメント、無水石膏、石炭灰及び水を混合して固化材スラリーを作製し、スラリー表面の黒色浮遊物(未燃カーボン)の有無を確認した。黒色組成部の有無は、上記手順で作成した直後のスラリー表面を肉眼で観察し、黒色浮遊物の発生が完全に抑制された(黒色浮遊物が認められない)ものは◎、ある程度抑制された(黒色浮遊物がごくわずかに認められるが使用上問題無い)ものは〇、若干抑制された(低減されているが黒色浮遊物が認められる)ものは△、抑制されていない(明らかに黒色浮遊物が認められる)ものは×として評価した。また、水80質量部に石炭灰10質量部を加えて混合して石炭灰スラリーを作製し、同様の基準でスラリー表面の黒色浮遊物の有無を評価した。
【0033】
【表2】
【0034】
結果を表1に示す。BET比表面積が大きい石炭灰を使用して作製した固化材スラリーでは、表面に黒色浮遊物が発生することが分かった。特に、BET比表面積が5m/gの場合に黒色浮遊物が発生し易い。また、3000rpm付近の回転数で空気分級を行い粗粉をカットした石炭灰では、分級前の石炭灰から作製したスラリーには黒色浮遊物が認められなかったのに、分級後の石炭灰から作製したスラリーでは黒色浮遊物が発生しているものがあった(石炭灰2-2、4-2)。一方で、分級操作で粗粉をカットした石炭灰の活性度指数(材齢28日)は80%以上とJISII種フライアッシュ(JIS A 6201:2015)の規格を満たしていた。
【0035】
[非イオン性界面活性剤による効果]
次に、石炭灰から作製した固化材スラリー表面の黒色浮遊物の発生を抑制するため、表3に示す有機添加剤を混合して固化材スラリーを作製し、黒色浮遊物の有無を確認した。有機添加剤の添加量は石炭灰に対する質量割合で添加した。また、同様の有機添加剤量でセメント75質量部、石炭灰組成物25質量部、砂132質量部を混合してJIS R 5201:2015に記載の方法で作製したモルタル硬化体の材齢1日時点における収縮量を測定した。収縮量の測定は、特開2016-50123号公報に記載の方法に従って行った。なお参考として、市販のJISI種灰及びJISII種灰を使用して参考例1及び2のスラリー、モルタル硬化体を上記実施例と同様の手順でそれぞれ作製し、評価を行った。使用した石炭灰と有機添加剤との組み合わせならびに黒色浮遊物及び収縮量の評価結果を表4に示す。
【0036】
【表3】
【0037】
【表4】
【0038】
石炭灰と有機添加剤との組み合わせを検討した結果、非イオン性界面活性剤を使用しない比較例1~5ではスラリー表面に黒色浮遊物が認められたのに対し、非イオン性界面活性剤を使用した実施例1~14では黒色浮遊物の発生が低減されていた。特に、CMC濃度が155mg/L未満の非イオン性界面活性剤を使用した場合、または非イオン性界面活性剤の使用量を4×10-3質量%超とした場合に、黒色浮遊物の発生が著しく抑制された。更に、非イオン性界面活性剤を使用して作製したモルタルでは、一般的なJISII種フライアッシュ(JIS A 6201)を使用したモルタルと比較して収縮量が小さくなった。
【0039】
[2回分級を行った石炭灰について]
石炭灰2-3~2-5及び10-1~10-4についても、同様に固化材スラリーを作製し、スラリー表面の黒色浮遊物の有無を評価した。また、石炭灰2-3~2-5の粒度分布をレーザー回折式の粒度分布測定器(メーカー:島津製作所、型番:SALD2200)により測定した。結果を表5に示す。
【0040】
【表5】
【0041】
参考例3~5の石炭灰を使用した固化材スラリーでは、スラリー表面の黒色浮遊物の発生が低減され、特に実施例3では黒色浮遊物の発生が完全に抑制された。加えて、参考例6~8の石炭灰は、上記の分級操作を行うことによって活性度指数が向上した。
【0042】
[消泡剤の効果について]
添加剤2及び4~6と消泡剤(ポリプロピレングリコール)を、添加剤と消泡剤の質量比が9:1となるように混合して混合溶液を作製し、さらに石炭灰に対する添加剤の含有量が2.5×10-2、1.3×10-1、2.5×10-1質量%となるように前記混合溶液と石炭灰9-1とを混合した。調製した石炭灰に水:石炭灰の質量比が8:1となるように水を混合して石炭灰スラリーを作製した。添加剤を加えていない石炭灰から調製したスラリーの表面には黒色浮遊物が認められたが、添加剤を加えた石炭灰で調整したスラリーには黒色浮遊物は認められなかった。加えて、スラリー表面の泡立ちも低減されていた。
【0043】
[非イオン性界面活性剤が圧縮強度に及ぼす効果について]
石炭灰11に表6に示す配合で普通ポルトランドセメント及び石灰石を混合し、JIS R 5201に準拠する方法でモルタルを作製した。得られたモルタルの圧縮強さを測定した結果を表7に示す。
【0044】
【表6】
【0045】
【表7】
【0046】
非イオン性界面活性剤を石炭灰に対して0.004質量%又は0.04質量%添加した実施例のモルタルは、界面活性剤を添加しなかったモルタルと比較して強度発現性が向上した。また、非イオン性界面活性剤を増やした場合の強度低下は、モルタル供試体の密度と関連性があることから、消泡剤との併用によって解消できると思われる。