(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-03
(45)【発行日】2022-08-12
(54)【発明の名称】バラスト水処理装置およびバラスト水処理方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/50 20060101AFI20220804BHJP
C02F 1/70 20060101ALI20220804BHJP
B63B 13/00 20060101ALI20220804BHJP
【FI】
C02F1/50 510A
C02F1/50 520F
C02F1/50 531P
C02F1/50 532C
C02F1/50 532D
C02F1/50 532H
C02F1/50 540B
C02F1/50 550C
C02F1/50 550L
C02F1/50 560Z
C02F1/70 Z
B63B13/00 Z
(21)【出願番号】P 2019505954
(86)(22)【出願日】2018-03-08
(86)【国際出願番号】 JP2018009102
(87)【国際公開番号】W WO2018168665
(87)【国際公開日】2018-09-20
【審査請求日】2021-01-13
(31)【優先権主張番号】P 2017047175
(32)【優先日】2017-03-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100187908
【氏名又は名称】山本 康平
(72)【発明者】
【氏名】山本 耕司
(72)【発明者】
【氏名】山本 光章
(72)【発明者】
【氏名】松田 武
【審査官】富永 正史
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-046892(JP,A)
【文献】特開2012-254402(JP,A)
【文献】特開2013-075250(JP,A)
【文献】特開2017-042710(JP,A)
【文献】国際公開第2017/033848(WO,A1)
【文献】特開昭47-030518(JP,A)
【文献】特開2015-160468(JP,A)
【文献】特開2015-016761(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0224571(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/50
C02F 1/70
C02F 1/76
B63B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バラストタンクに接続されてバラスト水を流通させるバラスト配管に接続される両端を有し、前記バラスト配管を流れるバラスト水の一部を、前記バラスト配管から分流させた後に前記バラスト配管に合流させるためのバイパス配管と、
薬剤が収容された薬剤保持部と、
前記薬剤保持部と前記バイパス配管とを接続し、前記薬剤保持部から前記バイパス配管に前記薬剤を供給する薬剤配管とを備え、
前記薬剤保持部は、殺菌剤が収容された殺菌剤保持部であり、
前記薬剤配管は、前記殺菌剤保持部と前記バイパス配管とを接続し、前記殺菌剤保持部から前記バイパス配管に前記殺菌剤を供給する殺菌配管であり、
前記殺菌剤を中和する性質を示す中和剤が収容された中和剤保持部と、
前記中和剤保持部と前記バイパス配管とを接続し、前記中和剤保持部から前記バイパス配管に前記中和剤を供給する中和配管とをさらに備え
、
前記バイパス配管の少なくとも内面は、前記バラスト配管を構成する材料よりも耐食性が優れた材料で構成されている、バラスト水処理装置。
【請求項2】
前記殺菌剤保持部から供給された殺菌剤が含まれるバラスト水を船外に排出するための廃棄配管が、前記バラスト配管における前記バイパス配管の接続部と前記バラストタンクとの間に接続されている請求項1に記載のバラスト水処理装置。
【請求項3】
前記中和配管と前記バイパス配管との接続部分は、前記殺菌配管と前記バイパス配管との接続部分よりも前記バイパス配管の上流側に位置している請求項1又は2に記載のバラスト水処理装置。
【請求項4】
前記バイパス配管に設けられ、前記バラスト配管から前記バイパス配管にバラスト水を取り込むためのバラスト水取込部をさらに有する請求項1~3のいずれか一項に記載のバラスト水処理装置。
【請求項5】
前記バラスト配管と前記バイパス配管との合流部分よりも下流側に接続され、前記バラスト配管を流れるバラスト水中の薬剤の濃度を測定するための濃度測定部をさらに有する請求項1~4のいずれか一項に記載のバラスト水処理装置。
【請求項6】
前記バラスト配管に接続される両端を有し、前記バラスト配管を流れるバラスト水の一部を前記バラスト配管から分流させた後に前記バラスト配管に合流させるための測定用バイパス配管をさらに有し、
前記濃度測定部は、前記測定用バイパス配管に設けられている請求項5に記載のバラスト水処理装置。
【請求項7】
バラストタンクに接続されたバラスト配管にバラスト水を流通させる工程と、
前記バラスト配管に両端が接続され
、少なくとも内面が前記バラスト配管を構成する材料よりも耐食性が優れた材料で構成されたバイパス配管に、前記バラスト配管を流れるバラスト水の一部を分流させた後に前記バラスト配管に合流させる工程と、
薬剤が収容された薬剤保持部から薬剤配管を通じて前記バイパス配管に前記薬剤を供給する工程と、を含み、
前記薬剤を供給する工程では、殺菌剤及び前記殺菌剤を中和する性質を示す中和剤を前記バイパス配管に供給するバラスト水処理方法。
【請求項8】
前記バラスト配管を流れるバラスト水中の薬剤の濃度を測定する工程をさらに含む請求項7に記載のバラスト水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バラスト水処理装置およびバラスト水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、貨物船などの船舶を積荷が搭載されていない状態で安定化させるために、船舶内に配置されたバラストタンクに海水をバラスト水として充填する対策が知られている。このバラスト水として利用される海水には、微生物や菌類などが多数存在している。そのため、外国間を行き来する船舶からバラスト水を排出する際には、微生物や菌類による海洋の生態系への影響を防ぐためにバラスト水の殺菌処理を行う必要がある。
【0003】
バラスト水の殺菌方法の一例として、例えば下記特許文献1には、船外から取水した海水を殺菌するバラスト水処理装置が開示されている。このバラスト水処理装置は、薬剤水溶液を収容する薬剤タンクと、この薬剤水溶液をバラストタンクに繋がるバラスト配管に注入する殺菌剤配管とを備えている。このバラスト水処理装置では、薬剤タンクに保持された薬剤水溶液が、殺菌剤配管を経由してバラスト配管に注入される。そして、バラスト配管に注入された薬剤水溶液は、バラスト配管を流れるバラスト水とともにバラストタンクに供給される。
【0004】
下記特許文献1に開示のバラスト水処理装置では、比較的高濃度の薬剤水溶液がバラスト配管に注入されることになるが、バラスト配管を流れるバラスト水中で薬剤水溶液が十分に混じり合わずに、バラスト水において薬剤の濃度に濃淡が生じることがあった。また特許文献1に開示のバラスト水処理装置の構成では、バラスト配管を流れるバラスト水に対して薬剤水溶液を均一に希釈するために複雑な形状で圧力損失の大きなミキサーを設置する必要があった。特に、ミキサーとしてスタティックミキサーを使用する場合には、ミキシングの距離を長く確保する必要があった。また、上記薬剤として塩素系薬剤を用いる場合には、バラスト配管に対して高濃度の塩素系薬剤が直接供給されるので、当該塩素系薬剤の作用によってバラスト配管が腐食するリスクがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【0006】
本発明の目的は、バラスト配管を流れるバラスト水中の薬剤の濃度をより均一にできるバラスト水処理装置およびバラスト水処理方法を提供することである。このバラスト水処理装置を用いた場合には、薬剤水溶液を均一に希釈するための大規模なミキサーを省略することができる。さらに、薬剤として塩素系薬剤を用いる場合には、当該塩素系薬剤の作用によってバラスト配管が腐食するリスクを低減することも可能となる。
【0007】
本発明の一局面に係るバラスト水処理装置は、バラストタンクに接続されてバラスト水を流通させるバラスト配管に接続される両端を有し、前記バラスト配管を流れるバラスト水の一部を、前記バラスト配管から分流させた後に前記バラスト配管に合流させるためのバイパス配管と、薬剤が収容された薬剤保持部と、前記薬剤保持部と前記バイパス配管とを接続し、前記薬剤保持部から前記バイパス配管に前記薬剤を供給する薬剤配管とを備える。前記薬剤保持部は、殺菌剤が収容された殺菌剤保持部である。前記薬剤配管は、前記殺菌剤保持部と前記バイパス配管とを接続し、前記殺菌剤保持部から前記バイパス配管に前記殺菌剤を供給する殺菌配管である。前記バラスト水処理装置は、前記殺菌剤を中和する性質を示す中和剤が収容された中和剤保持部と、前記中和剤保持部と前記バイパス配管とを接続し、前記中和剤保持部から前記バイパス配管に前記中和剤を供給する中和配管とをさらに備え、前記バイパス配管の少なくとも内面は、前記バラスト配管を構成する材料よりも耐食性が優れた材料で構成されている。
【0008】
本発明のバラスト水処理方法は、バラストタンクに接続されたバラスト配管にバラスト水を流通させる工程と、前記バラスト配管に両端が接続され、少なくとも内面が前記バラスト配管を構成する材料よりも耐食性が優れた材料で構成されたバイパス配管に、前記バラスト配管を流れるバラスト水の一部を、前記バラスト配管から分流させた後に前記バラスト配管に合流させる工程と、薬剤が収容された薬剤保持部から薬剤配管を通じて前記バイパス配管に前記薬剤を供給する工程とを含む。前記薬剤を供給する工程では、殺菌剤及び前記殺菌剤を中和する性質を示す中和剤を前記バイパス配管に供給する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態に係るバラスト水処理装置の構成を示す概略図である。
【
図2】実施形態のバラスト水処理装置に用いられる各種ポンプの動作状態および各種バルブの開閉状態を纏めた表である。
【
図3】実施形態のバラスト水処理装置において、漲水運転をしているときの状態を示す模式図である。
【
図4】実施形態のバラスト水処理装置において、殺菌剤排出運転をしているときの状態を示す模式図である。
【
図5】実施形態のバラスト水処理装置において、排水運転をしているときの状態を示す模式図である。
【
図6】実施形態のバラスト水処理装置において、中和剤排出運転をしているときの状態を示す模式図である。
【
図7】実施形態のバラスト水処理装置において、洗浄運転をしているときの状態を示す模式図である。
【
図8】実施形態のバラスト水処理装置の構成の変形例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[バラスト水処理装置]
本発明の実施形態に係るバラスト水処理装置1の構成について、
図1を参照して説明する。
図1は、実施形態に係るバラスト水処理装置の構成を示す概略図である。この実施形態のバラスト水処理装置1は、
図1に示すように、バラストタンク10に接続されたバラスト配管11に対し、バイパス配管12を経由して適度に希釈された薬剤(例えば、殺菌剤および中和剤)を供給する装置である。バラスト水処理装置1は、バイパス配管12と、測定用バイパス配管13と、殺菌配管14と、中和配管15と、迂回用バイパス配管16と、殺菌剤保持部30と、中和剤保持部40と、ミキサー50と、濃度測定部60と、制御部70とを主に備えている。本実施形態では、上記「殺菌配管14」および「中和配管15」は「薬剤配管」に相当し、上記「殺菌剤保持部30」および「中和剤保持部40」は「薬剤保持部」に相当する。
【0011】
バラスト配管11は、バラストタンク10に繋がれるバラスト主配管11aと、バラストタンク10に貯留されたバラスト水をバラスト主配管11aの上流側に戻すための戻し配管11bと、バラスト水を船外に排水するための廃棄配管11cとを有している。これらの各配管によって、船内に汲み上げられた海水をバラストタンク10へ導くための供給経路と、バラストタンク10に貯留されたバラスト水を船外に排出するための排出経路とが構成されている。以下において、バラスト配管11に取り込んだ後の原水(海水)を「バラスト水」と記す。
【0012】
バラスト配管11は、その内部が殺菌剤または中和剤によって腐食しにくい材料で構成されている必要がある。このため、バラスト配管11は、例えばポリ塩化ビニル樹脂、ポリエチレン樹脂、エポキシ樹脂またはフッ素樹脂でライニング加工された炭素鋼鋼管、チタン管、ステンレス鋼管であることが好ましく、より好ましくは、エポキシ樹脂でライニング加工された炭素鋼鋼管である。
【0013】
バラスト主配管11aは、バラスト水が流入する一方の配管口と、バラストタンク10に繋がれる他方の配管口とを有している。バラスト水は、バラスト主配管11aの一方の配管口からバラスト主配管11a内に流入し、他方の配管口に向かってバラスト主配管11a内を流れる。これにより、バラスト水がバラストタンク10へ導かれ、船体を安定化させるためにバラストタンク10において貯留される。このバラスト主配管11aには、手動バルブVAと、バラストポンプP5と、バルブV3と、濾過装置20と、ミキサー50と、手動バルブVBとがこの順に設けられている。バラスト主配管11aには、迂回用バイパス配管16と、バイパス配管12と、測定用バイパス配管13と、戻し配管11bと、廃棄配管11cとがそれぞれ接続されている。
【0014】
手動バルブVAおよび手動バルブVBは、いずれも手動で開閉可能なバルブである。手動バルブVAを開けることにより、船外の海水をバラスト主配管11a内に取り込み可能な状態となる。逆に手動バルブVAを閉めることにより、戻し配管11bを流れるバラスト水が船外に排出されることを防ぐことができる。また手動バルブVBを開けることにより、バラスト主配管11a内を流れるバラスト水をバラストタンク10に供給することができる。逆に手動バルブVBを閉めることにより、バラスト主配管11aを流れるバラスト水を廃棄配管11cに導くことが可能となる。
【0015】
戻し配管11bは、バラストタンク10に貯留されたバラスト水を船外に排水するときに用いられるものである。戻し配管11bの一端は、バラスト主配管11aにおける手動バルブVBよりもバラスト水の流れ方向の下流側に接続されている。戻し配管11bの他端は、バラスト主配管11aにおけるバラストポンプP5よりもバラスト水の流れ方向の上流側に接続されている。この戻し配管11bを経由して、バラストタンク10内のバラスト水が、バラスト主配管11aにおけるバラストポンプP5よりも上流側に戻される。
【0016】
この戻し配管11bには、手動バルブVDが設けられている。手動バルブVDを開けることで、バラストタンク10に貯留されたバラスト水が戻し配管11bを経由してバラスト主配管11aの上流側に戻される。逆に、手動バルブVDを閉めることで、バラスト主配管11aを流れるバラスト水が戻し配管11bを経由してバラスト主配管11aの上流側に戻されることがなくなる。
【0017】
廃棄配管11cは、バラストタンク10に貯留されたバラスト水を船外に排出する流路を構成している。廃棄配管11cの一端は、測定用バイパス配管13よりも下流側のバラスト主配管11aに接続されている。廃棄配管11cの他端は、船外への経路を構成している。この廃棄配管11cを経由してバラストタンク10内のバラスト水が船外に排出される。
【0018】
この廃棄配管11cには、手動バルブVCが設けられている。手動バルブVCを開けることで、バラスト主配管11aを流れるバラスト水が廃棄配管11cを経由して船外に排出可能となる。逆に手動バルブVCを閉めることで、バラスト主配管11aを流れるバラスト水が船外に排出されることを防ぐことができる。
【0019】
バラストポンプP5は、バラスト主配管11aにバラスト水を取り込むためのものである。このバラストポンプP5は、バラスト主配管11aにおける一方の配管口側に配置されている。バラストポンプP5は、バラスト主配管11a内に流入させたバラスト水に対し、バラストタンク10に向けて流れるように所定の吸込圧を付与する。
【0020】
濾過装置20は、バラスト水に含まれる大型の異物および大型の微生物等を濾過によって除去するものである。濾過装置20は、バラスト主配管11aにおけるバラストポンプP5よりもバラスト水の流れ方向の下流側(バラストタンク10側)であって、バラスト主配管11aとバイパス配管12との接続部分よりも上流側に配置されている。この濾過装置20は、バラストポンプP5よりも上流側に配置されていてもよい。濾過装置20を通過した後のバラスト水は、大型の微生物や異物が除去されているので、小型の微生物に対して効率的に薬剤を作用させることができる。なお、
図1では、濾過装置20の上流側にバルブV3が設けられている場合を示しているが、濾過装置20にバルブV3が内蔵されている場合もある。
【0021】
迂回用バイパス配管16は、バラストタンク10に貯留したバラスト水を船外に排水する時に濾過装置20を迂回するために用いられる。
図1に示すように、迂回用バイパス配管16は、上記濾過装置20を迂回するようにバラスト主配管11aに両端が接続されている。より具体的には、迂回用バイパス配管16の一方の端部は、バラスト主配管11aにおけるバラストポンプP5よりも下流側で濾過装置20よりも上流側に位置する部分に接続されている。迂回用バイパス配管16の他方の端部は、濾過装置20よりも下流側でかつミキサー50およびバイパス配管12の接続部よりも上流側に位置する部分に接続されている。この迂回用バイパス配管16には、バルブV4が取り付けられている。
【0022】
バラストタンク10に貯留されたバラスト水を船外に排水するときには、バラスト主配管11aに取り付けられたバルブV3が閉められるとともにバルブV4が開けられる。これにより、バラスト主配管11aを流れるバラスト水が濾過装置20を迂回するように迂回用バイパス配管16を流れるので、バラスト主配管11aを流れるバラスト水の流速を速めることができる。その結果、より迅速にバラスト水を船外に排水することができる。またバラスト水をバラストタンク10に漲水する時には、迂回用バイパス配管16に取り付けられたバルブV4が閉められるとともにバルブV3が開けられる。これにより、船内に取り込まれたバラスト水が迂回用バイパス配管16に流入することなく、バラスト水を濾過装置20に確実に通過させることができる。
【0023】
バイパス配管12は、バラスト主配管11aを流れるバラスト水に対し、薬剤を供給するために設けられるものである。
図1に示すように、バイパス配管12は、迂回用バイパス配管16よりも下流側のバラスト主配管11aにバイパス配管12の両端が接続されて使用される。ここで、本実施形態における「薬剤」とは、殺菌剤および殺菌剤の殺菌作用を中和する中和剤の両方を意味する。このバイパス配管12は、バラスト主配管11aに接続されることにより、バラスト主配管11aを流れるバラスト水の一部を、バラスト主配管11aから分流させた後にバラスト主配管11aに合流させる流路を形成する。バイパス配管12には、その内部にバラスト水を取り込むためのバイパスポンプP1が設けられており、さらにバイパス配管12には中和剤を供給するための中和配管15と、殺菌剤を供給する殺菌配管14とがこの順に接続されている。これらの配管から供給された殺菌剤および中和剤はそれぞれ、バイパス配管12内を流れるバラスト水によって希釈された上でバラスト主配管11aに戻される。
【0024】
バイパス配管12は、バラスト配管11内を流れるバラスト水と比べて高濃度の殺菌剤または中和剤を含むバラスト水が流れる。このため、バイパス配管12の少なくとも内面は、バラスト配管11の内面を構成する材料よりも耐食性が優れた材料で構成されていることが好ましい。バイパス配管12の内面を構成する材料としては、チタン、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリエチレン樹脂およびフッ素樹脂からなる群より選択される1種以上が用いられる。このようなバイパス配管12としては、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリエチレン樹脂またはフッ素樹脂でライニング加工された炭素鋼鋼管、チタン管、ポリ塩化ビニル管が好適であり、特に好ましくポリエチレン樹脂でライニング加工された炭素鋼鋼管である。このような材質のバイパス配管12を用いることにより、バイパス配管12の腐食を抑制することができるので、バラスト水処理装置の安全性を高めることができる。
【0025】
バイパスポンプP1は、後述する制御部70によって動作が制御される。制御部70がバイパスポンプP1を駆動することにより、バイパス配管12にバラスト水が取り込まれる。このバラスト水によって、バイパス配管12に供給された薬剤が希釈される。本実施形態では、このバイパスポンプP1がバイパス配管12にバラスト水を取り込むためのバラスト水取込部として機能する。
【0026】
殺菌剤保持部30は、バラストタンク10に貯留されるバラスト水に対して十分な殺菌成分を供給できる程度の分量の殺菌剤を収容し得る容器である。ここで、上記殺菌剤としては塩素系薬剤が好適に用いられる。塩素系薬剤とは、溶媒である水に溶解した時に殺菌作用を有する遊離有効塩素を放出する薬剤水溶液または遊離有効塩素を放出し得る物質を生成する薬剤水溶液である。このような殺菌剤としては、次亜塩素酸カルシウム水溶液、次亜塩素酸ナトリウム水溶液、トリクロロイソシアヌル酸水溶液、ジクロロイソシアヌル酸水溶液、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム水溶液、およびジクロロイソシアヌル酸カリウム水溶液からなる群より選択される1種または2種以上の混合水溶液が用いられる。この殺菌剤保持部30は、薬剤を収容する薬剤保持部として機能する。
【0027】
上記殺菌剤保持部30には、殺菌配管14が接続されている。殺菌配管14は、殺菌剤保持部30とバイパス配管12とを接続し、殺菌剤保持部30からバイパス配管12に殺菌剤を供給するための流路を形成している。殺菌配管14には、殺菌剤保持部30側から順に、バルブV1と、殺菌剤ポンプP2とが設けられている。このバルブV1の開閉および殺菌剤ポンプP2の吸込圧は、後述する制御部70によって制御されている。このバルブV1を開けるとともに殺菌剤ポンプP2を駆動させることで、殺菌剤保持部30に保持された殺菌剤が殺菌配管14を経由してバイパス配管12に供給される。さらに制御部70が殺菌剤ポンプP2の回転数を調整することにより、殺菌配管14を流れる殺菌剤の流量が調整される。本実施形態では、この殺菌配管14が、バイパス配管に薬剤を供給するための薬剤配管として機能する。
【0028】
中和剤保持部40は、上記殺菌剤の殺菌成分を中和する中和剤を収容し得る容器である。殺菌剤として塩素系薬剤を用いる場合、中和剤として、塩素系薬剤と酸化還元反応を示す物質を用いることが好ましい。このような中和剤としては、例えば、亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム(亜硫酸水素ナトリウム)、チオ硫酸ナトリウムなどが挙げられる。中でも、中和剤として亜硫酸ナトリウムを用いることが好ましい。
【0029】
中和剤保持部40には、中和配管15が接続されている。この中和配管15は、中和剤保持部40とバイパス配管12とを接続し、中和剤保持部40からバイパス配管12に中和剤を供給するための流路を形成している。この中和配管15には、中和剤保持部40側から順に、バルブV2と、中和剤ポンプP3とが設けられている。このバルブV2の開閉および中和剤ポンプP3の回転数は、後述する制御部70によって制御されている。このバルブV2を開けるとともに中和剤ポンプP3を駆動させることによって、中和剤保持部40に保持された中和剤が中和配管15を経由してバイパス配管12に供給される。さらに制御部70が中和剤ポンプP3の回転数を調整することにより、中和配管15を流れる中和剤の流量が調整される。
【0030】
ここで、バイパス配管12は、
図1に示すようにバラスト主配管11aに対して殺菌剤保持部30側および中和剤保持部40側に配置されている。言い換えると、バイパス配管12の少なくとも一部は、バラスト主配管11aと殺菌剤保持部30および中和剤保持部40との間の位置に配置されている。このため、殺菌配管14の長さは、殺菌剤保持部30からバラスト主配管11aまでの経路を結ぶ従来の配管よりも短くされている。同様に、中和配管15の長さは、中和剤保持部40からバラスト主配管11aまでを結ぶ従来の配管よりも短くされている。
【0031】
また、殺菌配管14または中和配管15には、バイパス配管12内を流れるバラスト水と比べて高濃度の殺菌剤または中和剤を含むバラスト水が流れる。このため、殺菌配管14および中和配管15の少なくとも内面は、バイパス配管12の内面を構成する材料の耐食性と同等以上の耐食性を有する材料で構成されていることが好ましい。殺菌配管14および中和配管15の内面を構成する材料としては、チタン、ポリ塩化ビニルおよびフッ素樹脂からなる群より選択される1種以上が用いられる。殺菌配管14および中和配管15は、チタン管、ポリ塩化ビニル管、ポリ塩化ビニル樹脂若しくはフッ素樹脂でライニング加工された圧延鋼管、またはポリ塩化ビニル樹脂若しくはフッ素樹脂でライニング加工された炭素鋼鋼管が好適であり、特に好ましくはチタン管である。このような材質の殺菌配管14および中和配管15を用いることにより、殺菌配管14および中和配管15の腐食を抑制することができ、バラスト水処理装置の安全性を高めることができる。
【0032】
ミキサー50は、バラストタンク10に取り込まれるバラスト水中の薬剤成分(殺菌成分または中和成分)を均一化するためにバラスト水を撹拌するものであり、バラスト主配管11aにおけるバイパス配管12との接続部分よりも下流側に設けられている。バラスト主配管11aを流れるバラスト水がミキサー50によって撹拌されることで、バラスト水に溶解している薬剤(殺菌剤および中和剤)の濃度を均一化させることができる。本実施形態の構成によれば、ミキサー50にバラスト水が供給される前の状態の時点でバラスト水中の薬剤がバラスト水中で比較的均一に分散されているので、必ずしも大型のミキサーを設置する必要はない。
【0033】
測定用バイパス配管13は、薬剤成分の濃度を測定するためにバラスト水の一部を分流させるものであり、
図1に示すように、バラスト主配管11aにおけるミキサー50よりも下流側に、測定用バイパス配管13の両端が接続されて使用される。この測定用バイパス配管13は、バラスト主配管11aに接続されることにより、バラスト主配管11aを流れるバラスト水の一部を、バラスト主配管11aから分流させた後にバラスト主配管11aに合流させる流路を形成する。測定用バイパス配管13には、測定用ポンプP4および濃度測定部60がこの順にそれぞれ設けられている。この測定用ポンプP4を駆動させることによって、バラスト主配管11aを流れるバラスト水を測定用バイパス配管13に取り込むことができる。測定用ポンプP4の駆動は後述する制御部70によって制御されている。
【0034】
濃度測定部60は、バラスト主配管11a内を流れるバラスト水中の薬剤の濃度を測定する濃度測定計であり、例えばDPD試薬を用いた計測器等が挙げられる。殺菌剤として塩素系薬剤を用いる場合、殺菌成分の濃度は塩素濃度と相関がある。この塩素濃度(mg/L)は、バラスト水の総残留酸化物(TRO:Total Residual Oxidant)濃度で表され、上記DPD試薬を用いた計測器で測定することができる。なお、濃度測定部60は、バラスト主配管11a内を流れるバラスト水中の薬剤の濃度を検知可能なものである限り、他の種類のセンサも同様に用いることができる。
【0035】
上記濃度測定部60の測定結果は、後述する制御部70にフィードバックされる。これにより、バラスト主配管11a内を流れるバラスト水中の薬剤の濃度を管理することができる。ここで得られた薬剤の濃度変化に基づいて、殺菌剤ポンプP2および中和剤ポンプP3の回転数が制御される。これにより、バラスト主配管11aを流れるバラスト水に対して適正な分量の薬剤(殺菌剤および中和剤)を供給することができる。
【0036】
制御部70は、判定部、演算部および記憶部等を備えたコンピュータによって構成されており、各ポンプP1~P4および各バルブV1~V4並びに濃度測定部60にそれぞれ接続されている。制御部70は、濃度測定部60によって測定されたバラスト水中の薬剤の濃度の情報を取得し、当該情報に基づいて殺菌剤ポンプP2および中和剤ポンプP3の回転数を制御するとともに各バルブV1~V4の開閉を制御する。制御部70によって各バルブV1~V4が開閉されることにより、バラスト水を流れる流水経路が定められる。そして、制御部70によって殺菌剤ポンプP2および中和剤ポンプP3の回転数が設定されることにより、バイパス配管12に供給される殺菌剤および中和剤の流量が設定される。これにより、バラスト主配管11aに流れるバラスト水中の薬剤の濃度を適切に調整することができる。この具体的手順については、後述するバラスト水処理方法において説明する。
【0037】
[バラスト水処理方法]
上記バラスト水処理装置1を用いて実施される本実施形態に係るバラスト水処理方法について説明する。上記実施形態のバラスト水処理装置1を用いた水処理としては、海水をバラスト水として取り込んでバラストタンク10に供給するときの運転(漲水運転)と、バラストタンク10に貯留したバラスト水を船外に排出するときの運転(排水運転)とに大別される。漲水運転では、船外から取り込んだバラスト水に対して殺菌剤が導入される。排水運転では、バラストタンク10に貯留されたバラスト水に対し、当該バラスト水に含まれる殺菌成分を中和する中和剤が導入される。
【0038】
上記各運転に付随する運転として、漲水運転後に殺菌剤保持部30に保持された余剰分の殺菌剤を船外に排出する殺菌剤排出運転と、排水運転後に中和剤保持部40に保持された余剰分の中和剤を船外に排出する中和剤排出運転と、殺菌剤排出運転後および中和剤排出運転後にバイパス配管12を洗浄する洗浄運転とがある。
図2は、各種の運転時における制御部70の各ポンプの動作と各バルブの開閉状態の制御を示している。
図3~
図7はそれぞれ、漲水運転時、殺菌剤排出運転時、排水運転時、中和剤排出運転時、および洗浄運転時におけるバラスト水の流れを太線および矢印で示した模式図である。以下に各運転を個別に説明する。
【0039】
(漲水運転)
漲水運転は、バラストタンク10にバラスト水を漲水するために行われる。この漲水運転時には、
図2に示すように、制御部70が、バイパスポンプP1を駆動させ、かつ殺菌剤ポンプP2の回転数を調整するとともに、バルブV1、V3を開状態とし、バルブV2、V4を閉状態とする。以下に
図3を参照しつつ具体的なバラスト水の流れを説明する。
【0040】
まず、バラストポンプP5の吸引力によってバラスト水がバラスト主配管11a内に汲み上げられる。漲水運転時には、バルブV3が開状態で、バルブV4が閉状態であるため、バラスト主配管11aに汲み上げられたバラスト水は、迂回用バイパス配管16に流入することなく、バラスト主配管11aに設けられた濾過装置20で濾過される。これによりバラスト水に含まれる大型の異物等が除去される。
【0041】
次に、バイパスポンプP1の吸引力によってバラスト主配管11aを流れるバラスト水の一部がバイパス配管12に分流される。バイパス配管12への分流量は、バイパスポンプP1のポンプ圧によって決められる。具体的には、バイパス配管12への分流量は、バラスト主配管11aを流れるバラスト水の流量の1000分の1以上10分の1以下であることが好ましく、500分の1以上20分の1以下であることがより好ましく、さらに好ましくは200分の1以上50分の1以下である。このような割合でバラスト水の一部が分流されることにより、バイパス配管12で殺菌剤が適度に希釈される。したがって、バラスト主配管11aとバイパス配管12とが合流したときにバラスト水の殺菌剤の濃度に濃淡が生じることを抑制することができる。
【0042】
次に、殺菌剤ポンプP2の吸引力によって殺菌剤保持部30内の殺菌剤が殺菌配管14を経由してバイパス配管12に供給される。これにより、バイパス配管12を流れるバラスト水に殺菌剤が供給される。殺菌配管14を流れる殺菌剤の流量は、殺菌剤ポンプP2の回転数の高低によって調整される。この流量は、バイパス配管12を流れるバラスト水の流量の1000分の1以上10分の1以下であることが好ましく、500分の1以上20分の1以下であることがより好ましく、さらに好ましくは200分の1以上50分の1以下である。このような流量割合で殺菌剤がバイパス配管12に供給されることにより、バイパス配管12を流れるバラスト水中の殺菌剤の濃度が過剰に高くなることを抑制することができる。なお、殺菌配管14の流量は、殺菌剤保持部30に保持された殺菌剤の濃度に応じて設定されるため、上記好適数値範囲は一例に過ぎない。
【0043】
本実施形態では、殺菌配管14を流れる殺菌剤が、殺菌配管14とバイパス配管12との接続部分でバイパス配管12を流れるバラスト水によって希釈される。この希釈後のバラスト水が、バイパス配管12とバラスト主配管11aとの接続部分でバラスト主配管11aを流れるバラスト水によってさらに希釈される。例えば、殺菌剤として10000ppm程度のTRO濃度の塩素系薬剤を用いる場合、当該塩素系薬剤がバイパス配管12を流れるバラスト水によって60ppm以上300ppm以下に希釈される。この希釈後のバラスト水が、バラスト主配管11aを流れるバラスト水によって10ppm以下のTRO濃度に希釈される。したがって、バイパス配管12を流れるバラスト水のTRO濃度は60ppm以上300ppm以下であることが好ましく、バラスト主配管11aを流れるバラスト水のTRO濃度は10ppm以下であることが好ましい。このような濃度になるように制御部70が殺菌剤ポンプP2の回転数(吸引力)を制御する。このようにバラスト水に対して殺菌剤が2段階で希釈されることで、従来のように、殺菌剤がバラスト主配管11aに直接供給される場合と比べて、殺菌剤がバラスト水に希釈されやすくなっている。したがって、バラスト主配管11aを流れるバラスト水中の殺菌剤の濃度に濃淡が生じにくくなっている。
【0044】
次に、バイパス配管12と合流後のバラスト主配管11aを流れるバラスト水がミキサー50に流入し、当該ミキサー50によってバラスト水が撹拌される。これにより、殺菌成分の濃度が均一化されたバラスト水を得ることができる。このミキサー50を通過したバラスト水がバラストタンク10に供給されるので、殺菌剤の濃度が均一なバラスト水がバラストタンク10に漲水される。本実施形態のバラスト水処理装置1では、殺菌配管14とバイパス配管12との接続部分、およびバイパス配管12とバラスト主配管11aとの接続部分の2段階で殺菌剤が希釈されるので、ミキサー50よりも上流側でバラスト水中の殺菌剤の濃度を均一化することができる。これにより、従来よりもミキサー50の撹拌速度を下げたり、ミキサー50の撹拌時間を短時間化したりしても、殺菌剤をバラスト水に均一に分散することができる。
【0045】
(殺菌剤排出運転)
殺菌剤排出運転は、上記漲水運転を終えた後に、殺菌剤保持部30に余剰の殺菌剤が保持されている場合に、その余剰の殺菌剤を船外に排出するために行われる。この殺菌剤排出運転時に、制御部70は、
図2および
図4に示すように、殺菌剤ポンプP2および中和剤ポンプP3の回転数を調整するとともに、バイパスポンプP1および測定用ポンプP4を駆動し、さらにバルブV1、V2、V4を開状態とし、バルブV3を閉状態とする。以下に具体的なバラスト水の流れを説明する。
【0046】
まず、バラストポンプP5の吸引力によってバラスト水がバラスト主配管11a内に汲み上げられる。殺菌剤排出運転時には、バルブV4が開状態で、バルブV3が閉状態であるため、バラスト主配管11aに汲み上げられたバラスト水は、迂回用バイパス配管16に流入して濾過装置20を迂回してからバラスト主配管11aに戻される。次に、バイパスポンプP1の吸引力によってバラスト主配管11aを流れるバラスト水の一部がバイパス配管12に分流される。
【0047】
次に、中和剤ポンプP3の吸引力によって中和剤保持部40に保持された中和剤が中和配管15を経由してバイパス配管12に供給される。中和剤の供給量は、中和剤ポンプP3の回転数の高低によって調整され、殺菌剤を中和できる程度の流量で中和剤がバイパス配管12に供給される。バイパス配管12に中和剤が供給された後に、殺菌剤保持部30内の殺菌剤が殺菌剤ポンプP2の吸引力によって殺菌配管14を経由してバイパス配管12に供給される。殺菌剤の供給量は、殺菌剤ポンプP2の回転数の高低によって調整される。バイパス配管12には、中和剤が先に供給されてから殺菌剤が供給されるので、殺菌剤がバイパス配管12に供給された直後に殺菌剤が中和剤によって中和される。このため、バイパス配管12を流れるバラスト水中の殺菌剤の濃度が過剰に高くなることを防ぐことができる。
【0048】
次に、バラスト主配管11aを流れるバラスト水がミキサー50に流入し、当該ミキサー50によってバラスト水が撹拌される。これにより、バラスト水中の殺菌剤を中和剤によって確実に中和させることができる。
【0049】
次いで、ミキサー50を通過した後のバラスト主配管11a内のバラスト水が測定用ポンプP4の吸引力によって測定用バイパス配管13内に取り込まれる。そして、濃度測定部60によって測定用バイパス配管13内を流れるバラスト水の殺菌剤および中和剤の濃度が測定され、その測定結果は制御部70に送られる。制御部70は、濃度測定部60で測定された濃度が船外に排出可能な基準範囲内であるかどうかを判定し、その範囲外となる場合は警告を発する。ここでの基準範囲は殺菌剤および中和剤によって予め設定されている。一方、濃度測定部60によって測定されたバラスト水中の殺菌剤の濃度が基準範囲内であれば、バラスト主配管11aから廃棄配管11cを経由して船外に排出される。このように廃棄配管11cから排出されるバラスト水の殺菌剤の濃度を予め測定し、その測定結果をフィードバックすることで、船外に排出するバラスト水中の殺菌剤の濃度を適正値に調整することができる。このような手順で殺菌剤保持部30に保持された殺菌剤の余剰分が外部に排出されることで、殺菌剤保持部30に保持された殺菌剤が濃化して固化してしまうことを防ぐことができるし、殺菌剤保持部30の腐食を防止することができる。
【0050】
(排水運転)
排水運転は、バラストタンク10に保持されたバラスト水を船外に排水するために行われる。この排水運転時には、制御部70は、
図2および
図5に示すように、中和剤ポンプP3の回転数を調整するとともにバイパスポンプP1および測定用ポンプP4を駆動させて、バルブV2、V4を開状態とし、バルブV1、V3を閉状態とする。以下に具体的なバラスト水の流れを説明する。
【0051】
まず、バラストポンプP5の吸引力によってバラストタンク10内のバラスト水は、バラスト主配管11aに汲み戻され、戻し配管11bを経由してバラスト主配管11aのバラストポンプP5よりも上流側に戻される。排水運転時には、バルブV3が閉状態で、バルブV4が開状態であるため、バラスト主配管11aを流れるバラスト水は、迂回用バイパス配管16に流入し、濾過装置20を迂回してバラスト主配管11aに戻される。排水運転時にはバラスト水が濾過装置20を通過しなくてもよいので、バラスト主配管11aを流れるバラスト水の流速が速められる。次に、バイパスポンプP1の吸引力によってバラスト主配管11aを流れるバラスト水の一部がバイパス配管12に分流される。
【0052】
次に、中和剤ポンプP3の吸引力によって中和剤保持部40に保持された中和剤が中和配管15を経由してバイパス配管12に供給される。そして、このバイパス配管12を流れるバラスト水がバラスト主配管11aに供給された後にミキサー50で撹拌される。ミキサー50で撹拌された後のバラスト水は、上記殺菌剤排出運転と同様に、濃度測定部60によって濃度が測定され、この測定結果に基づいてバラスト主配管11aから廃棄配管11cを経由して船外に排出される。もちろん、濃度測定部60によって測定された殺菌剤の濃度が基準範囲を超える場合には、中和剤ポンプP3の回転数を高めて中和剤の供給量を増加させる。
【0053】
(中和剤排出運転)
中和剤排出運転は、上記排水運転を終えた後に、中和剤保持部40に余剰の中和剤が保持されている場合に、その余剰の中和剤を船外に排出するために行われる。この中和剤排出運転時に、制御部70は、
図2および
図6に示すように、バイパスポンプP1を駆動し、かつ中和剤ポンプP3の回転数を調整するとともにバルブV2、V4を開状態とし、バルブV1、V3を閉状態とする。以下に具体的なバラスト水の流れを説明する。
【0054】
まず、バラストポンプP5の吸引力によってバラスト水がバラスト主配管11a内に汲み上げられる。中和剤排出運転時には、バルブV4が開状態で、バルブV3が閉状態であるため、バラスト主配管11aに汲み上げられたバラスト水は、迂回用バイパス配管16に流入し、バラスト主配管11aに設けられた濾過装置20を迂回してバラスト主配管11aに戻される。次に、バイパスポンプP1の吸引力によってバラスト主配管11aを流れるバラスト水の一部がバイパス配管12に分流される。
【0055】
次に、中和剤ポンプP3の吸引力によって中和剤保持部40に保持された中和剤が中和配管15を経由してバイパス配管12に供給される。中和剤の供給量は、中和剤ポンプP3の回転数の高低によって調整される。そして、バラスト主配管11aを流れるバラスト水がミキサー50に流入し、当該ミキサー50によってバラスト水が撹拌される。これによりバラスト水中の中和剤が均一化される。
【0056】
次いで、ミキサー50によって中和剤が均一化されたバラスト水が廃棄配管11cを経由して船外に排出される。この中和剤排出運転によって余剰の中和剤が中和剤保持部40から船外に排出されることにより、中和剤保持部40に保持された中和剤が濃化して固化してしまうことを防ぐことができるし、中和剤の変質劣化を防止することができる。
【0057】
(洗浄運転)
洗浄運転は、バラスト水処理装置1内の各配管に残留した殺菌剤または中和剤等を船外に排出するため、またはバラスト配管11およびバイパス配管12を流れる水を置換するために行われる。この洗浄運転時には、制御部70は、
図2および
図7に示すように、バイパスポンプP1および測定用ポンプP4を駆動させるとともに、バルブV4を開状態とし、バルブV1~V3を閉状態とする。以下に具体的なバラスト水の流れを説明する。
【0058】
まず、バラストポンプP5の吸引力によって海水がバラスト主配管11aに取り込まれる。洗浄運転時には、バルブV4が開状態であるため、バラスト配管11に取り込まれた海水(バラスト水)は迂回用バイパス配管16に流入して濾過装置20を迂回し、バラスト主配管11aに戻される。次に、バイパスポンプP1の吸引力によってバラスト水の一部がバイパス配管12に供給され、残りのバラスト水はバラスト主配管11aを流れる。そして、このバイパス配管12を流れるバラスト水がバラスト主配管11aに合流した後にミキサー50で撹拌される。ミキサー50で撹拌された後のバラスト水は、測定用ポンプP4の吸引力によって測定用バイパス配管13に取り込まれ、廃棄配管11cを経由して船外に排出される。このようにバラスト水をバラスト主配管11a、バイパス配管12および測定用バイパス配管13に流すことにより、各配管に付着した殺菌剤および中和剤をバラスト水で流すことができ、殺菌剤および中和剤による各配管の腐食等の不具合を防止することができる。また、バラスト主配管11aの内部およびバイパス配管12の内部に滞留した水をバラスト水で置換することにより、バラスト主配管11aおよびバイパス配管12の腐食を防止することができる。
【0059】
<バラスト水処理装置による作用効果>
次に、上記バラスト水処理装置1およびバラスト水処理方法による作用効果について説明する。本実施形態のバラスト水処理装置1は、バラストタンク10に接続されてバラスト水を流通させるバラスト主配管11aに接続される両端を有し、バラスト主配管11aを流れるバラスト水の一部を、バラスト主配管11aから分流させた後にバラスト主配管11aに合流させるためのバイパス配管12と、殺菌剤が収容された殺菌剤保持部30と、殺菌剤保持部30とバイパス配管12とを接続し、殺菌剤保持部30からバイパス配管12に薬剤を供給する殺菌配管14とを備えている。このため、殺菌剤保持部30に保持された薬剤が、バラスト主配管11aから分流してバイパス配管12を流れるバラスト水によって一旦希釈されてからバラスト主配管11aに供給される。これにより、バイパス配管12を経由せずに殺菌剤保持部30に保持された殺菌剤がバラスト主配管11aに直接供給される場合と比べて、バラスト主配管11aを流れるバラスト水中の殺菌剤の濃度に濃淡が生じることを抑制することができる。このように薬剤の濃度に濃淡が生じることが抑制されることにより、バラスト配管に複雑な形状で圧力損失の大きなミキサーを設置しなくてもよくなる。また、ミキサーとしてスタティックミキサーを使用する場合には、ミキシングの距離を短くすることが可能となる。特に、上記薬剤として高濃度の塩素系薬剤を用いる場合でも、高濃度の塩素系薬剤がバイパス配管を経由してバラスト配管に供給されるので、バラスト配管が高濃度の塩素系薬剤に触れることがない。このため、バラスト主配管11aの腐食、閉塞等の不具合を防止することができる。
【0060】
しかも、上記バイパス配管12がバラスト主配管11aよりも殺菌剤保持部30側に位置するようにバラスト主配管11aに取り付けられるので、バラスト主配管11aよりも近い位置にあるバイパス配管12に殺菌配管14を接続することができる。これにより、バラスト主配管11aに殺菌配管14を接続する場合と比べて、殺菌剤保持部30から殺菌配管14までの長さを短くすることができる。よって、バラスト主配管11aへの殺菌成分の注入を終えた後に、殺菌配管14に残る殺菌剤の残液を従来の殺菌配管よりも減らすことができるので、ランニングコストを削減することができる。
【0061】
さらに、殺菌剤をバラスト主配管11aに供給し終えた後に殺菌剤が殺菌配管14に保持されたままであると、殺菌配管14内で殺菌剤が変質劣化することにより沈殿物が発生することがある。また例えば殺菌剤として塩素系薬剤を用いる場合には、塩素系薬剤の変質劣化により塩素系ガス等の有毒物質が発生することがある。この点、本実施形態のように殺菌配管14を短くすることができる構成によれば、殺菌配管14に保持される殺菌剤の残液量を減らすことができるので、バラスト水処理装置1の安全性を高めることができる。また殺菌剤を流す殺菌配管14は、高濃度の薬剤が流通するため、バラスト主配管11aおよびバイパス配管12よりも耐食性が高い材質で構成されている必要があるが、上記のように殺菌配管14の長さを短くできることにより、殺菌配管14の設置に必要なコストを低減することができる。
【0062】
上記実施形態では、バイパス配管12の少なくとも内面は、バラスト主配管11aを構成する材料よりも耐食性が優れた材料で構成されている。このため、バイパス配管12を流れるバラスト水中の薬剤の濃度に多少の濃淡が生じてもバイパス配管12に腐食が生じることを抑制することができる。バイパス配管12の腐食が抑制されることにより、より安全性の高いバラスト水処理装置1とすることができる。なお、バラスト主配管11aを流れるバラスト水は、従来よりも殺菌剤の濃度の濃淡が少なくなっているので、従来と同様の材料でバラスト主配管11aが構成されていたとしてもバラスト主配管11aに腐食が生じにくい。
【0063】
上記実施形態のバラスト水処理装置1は、殺菌剤を中和する性質を示す中和剤が収容された中和剤保持部40と、中和剤保持部40とバイパス配管12とを接続し、中和剤保持部40からバイパス配管12に中和剤を供給する中和配管15とを備えている。このため、バイパス配管12に殺菌剤を流すと同時にバイパス配管12に中和剤を流すことにより、殺菌剤を中和剤によって中和することができる。これにより、法的に許容される程度に殺菌剤を中和した上で殺菌剤を外部に排出することができる。
【0064】
しかも、中和配管15とバイパス配管12との接続部分は、殺菌配管14とバイパス配管12との接続部分よりもバイパス配管12の上流側に位置しているので、殺菌剤がバイパス配管12に供給されるよりも上流側で中和剤がバイパス配管12に供給される。このため、高濃度の殺菌剤が殺菌配管14からバイパス配管12に流れ込んだとしても、その殺菌剤が即座に中和剤によって中和される。これにより、バイパス配管12を流れる殺菌剤の濃度が過剰に高くなることを抑制することができる。
【0065】
上記実施形態のバラスト水処理装置1は、バイパス配管12に設けられ、バラスト主配管11aからバイパス配管12にバラスト水を取り込むためのバイパスポンプP1(バラスト水取込部の一例)をさらに有している。このため、バイパスポンプP1によってバイパス配管12にバラスト水を取り込むことにより、バイパス配管12に供給される殺菌剤を希釈することができる。これにより、バラスト主配管11aを流れるバラスト水中の殺菌剤の濃度が過剰に高くなることを抑制することができるので、バラスト主配管11aに腐食が生じることを抑制することができる。
【0066】
上記実施形態では、バラスト主配管11aとバイパス配管12との合流部分よりも下流側に接続され、バラスト主配管11aを流れるバラスト水中の殺菌剤および中和剤の濃度を測定するための濃度測定部60をさらに有している。このため、バラスト主配管11aを流れるバラスト水中の殺菌剤および中和剤の濃度を濃度測定部60によって測定することにより、バラストタンク10にバラスト水を供給する時には、バラストタンク10に供給されるバラスト水中の殺菌剤の濃度を把握することができる。またバラストタンク10に貯留されたバラスト水を船外に排出する時には、船外に排出されるバラスト水中の殺菌剤の濃度を把握することができる。
【0067】
しかも、バイパスポンプP1(バラスト水取込部)によってバラスト主配管11aを流れるバラスト水をバイパス配管12に取り込むことにより、バイパス配管12に供給される薬剤をバイパス配管12内でバラスト水によって希釈することができる。このため、濃度測定部60によってバラスト水中の殺菌剤および中和剤の濃度を把握しながら、上記バイパスポンプP1(バラスト水取込部)によってバラスト主配管11aからバイパス配管12にバラスト水の一部を分流させることができる。これにより、バイパス配管12を流れるバラスト水中の殺菌剤および中和剤の濃度が過剰に高くなることを避けることができるので、バイパス配管12に腐食が生じることを抑制することができる。
【0068】
上記実施形態では、バラスト主配管11aに接続される両端を有し、バラスト主配管11aを流れるバラスト水の一部をバラスト主配管11aから分流させた後にバラスト主配管11aに合流させるための測定用バイパス配管13をさらに有し、濃度測定部60は、測定用バイパス配管13に設けられている。このため、バラスト主配管11aを流れるバラスト水の殺菌剤および中和剤の濃度を測定する時に、その測定対象となるバラスト水をバラスト主配管11aから直接採取せずに測定用バイパス配管13からバラスト水を採取することができる。これにより、バラスト主配管11aの近傍に濃度測定部60を設置することが必須となるわけではなく、濃度測定部60の設置したい位置まで測定用バイパス配管13を引き伸ばすことができ、濃度測定部60の設置位置の自由度を高めることができる。
【0069】
上記バラスト水処理装置1を用いたバラスト水処理方法は、バラストタンク10に接続されたバラスト主配管11aにバラスト水を流通させる工程と、バラスト主配管11aに両端が接続されたバイパス配管12に、バラスト主配管11aを流れるバラスト水の一部を、バラスト主配管11aから分流させた後にバラスト主配管11aに合流させる工程と、薬剤が収容された殺菌剤保持部30から殺菌配管14を通じてバイパス配管12に殺菌剤を供給する工程と、を含む。このため、殺菌剤保持部30に保持された薬剤が、バラスト主配管11aから分流してバイパス配管12を流れるバラスト水によって一旦希釈されてからバラスト主配管11aに供給される。このため、バイパス配管12を経由せずに殺菌剤がバラスト主配管11aに直接供給される場合と比べて、バラスト主配管11aを流れるバラスト水中の殺菌剤の濃度に濃淡が生じることを抑制することができる。
【0070】
しかも、上記水処理方法では、バラスト主配管11aを流れるバラスト水中の薬剤の濃度を測定する工程をさらに含むので、バラストタンクにバラスト水を供給する時には、バラストタンクに供給されるバラスト水中の薬剤の濃度を把握することができる。またバラストタンクに貯留されたバラスト水を船外に排出する時には、船外に排出されるバラスト水中の薬剤の濃度を把握することができる。
【0071】
<変形例>
上記実施形態においては、殺菌剤保持部30および中和剤保持部40の両方を設ける場合を説明したが、殺菌剤保持部30および中和剤保持部40のいずれか一方を省略することもできる。上記実施形態において殺菌剤保持部30が省略される場合、上記実施形態における中和剤保持部40、中和配管15および中和剤がそれぞれ、「薬剤保持部」、「薬剤配管」および「薬剤」に相当する。この場合のバラスト水処理装置は、バラストタンク10に貯留されたバラスト水を船外に排出する排出運転のみに用いられ、バラストタンク10にバラスト水を漲水する場合のバラスト水の取り込みは別の配管経路によって行われる。このように殺菌剤保持部30および殺菌配管14が省略される場合、バイパス配管12および測定用バイパス配管13は、バラスト主配管11aに必ずしも接続しなくてもよく、例えば、戻し配管11bに接続されていてもよいし、廃棄配管11cに接続することもできる。
【0072】
一方、上記実施形態において中和剤保持部40が省略される場合、上記実施形態における殺菌剤保持部30、殺菌配管14および殺菌剤がそれぞれ「薬剤保持部」、「薬剤配管」および「薬剤」に相当する。この場合のバラスト水処理装置は、バラストタンク10にバラスト水を貯留する漲水運転のみに用いられ、バラストタンク10に貯留されたバラスト水を船外に排出する場合は別の配管経路によって行われる。
【0073】
上記実施形態においては、薬剤として殺菌剤および中和剤がバイパス配管12に供給される場合を説明したが、バイパス配管12に供給される薬剤は殺菌剤および中和剤のみに限定されず、各種の添加剤をバラスト水に供給する場合に用いることもできる。
【0074】
上記実施形態においては、バイパス配管12の内面が、バラスト主配管11aを構成する材料よりも耐食性が優れた材料で構成されている場合を説明したが、バイパス配管12そのものがバラスト主配管11aを構成する材料よりも耐食性が優れた材料で構成されていてもよい。またバイパス配管12の内面が、バラスト配管を構成する材質よりも耐食性が優れた材料でコーティングされていてもよい。
【0075】
上記実施形態においては、中和配管15とバイパス配管12との接続部分は、殺菌配管14とバイパス配管12との接続部分よりもバイパス配管12の上流側に位置している場合を説明したが、中和配管15とバイパス配管12との接続部分は、殺菌配管14とバイパス配管12との接続部分よりもバイパス配管12の下流側に位置していてもよい。
【0076】
上記実施形態においては、バイパスポンプP1が「バラスト水取込部」に相当するものとして用いられる場合を説明したが、バラスト水取込部は、バイパス配管12にバラスト水を取り込むことができるものである限り、上記バイパスポンプP1のみに限られない。バラスト水取込部として、例えばバラスト主配管11aとバイパス配管12との接続部分に取り付けられた分流弁を用いることもできる。バラスト主配管11aに分流弁を設ける場合、バラスト主配管11aにおける分流弁の向きを調整することによってバイパス配管12にバラスト水の一部を分流させることができる。
【0077】
また、バイパス配管12に流れるバラスト水の流量は、バラスト主配管11a内の水圧の影響を受けて変化する。そして、当該バラスト水の流量が規定の流量以下になると、薬剤の注入が不安定になる。これに対し、バイパス配管12にバイパスポンプP1を設けることにより、バイパス配管12に流れるバラスト水を所定の流量以上に保つことができるという利点がある。
【0078】
上記実施形態においては、バラスト主配管11aとバイパス配管12との合流部分よりも下流側に設けられた測定用バイパス配管13に濃度測定部60を設ける場合を説明したが、濃度測定部60を設ける位置はこのような位置に限定されない。例えば、濃度測定部60をバラストタンク10に設けてもよいし、バラスト主配管11aに設けてもよい。
【0079】
上記実施形態においては、濃度測定部60による測定結果に基づいて、バイパスポンプP1がバラスト主配管11aからバイパス配管12にバラスト水を取り込む場合を説明したが、バラスト水中の殺菌剤または中和剤の濃度を調整する必要がない場合には濃度測定部60を省略することができる。この場合、測定用バイパス配管13を省略することもできる。
【0080】
上記実施形態においては、制御部70が殺菌剤ポンプP2および中和剤ポンプP3の回転数を制御する場合を説明したが、制御部70による回転数の制御のみに限られず、作業者が手動で各ポンプの回転数を調整することもできる。同様に、制御部70がバルブV1~V4の開閉を制御する場合のみに限られず、作業者が手動で各バルブV1~V4の開閉を行ってもよい。上記実施形態においては、手動バルブVA~VCを手動で開閉する場合を説明したが、制御部70が手動バルブVA~VCの開閉を自動で制御することも可能である。
【0081】
上記実施形態においては、殺菌配管14に1つのバルブV1が設けられる場合を説明したが、殺菌配管14に2以上のバルブを設けてもよい。
図1に示すように殺菌配管14に1つのバルブV1を設けただけの場合には、バルブV1が破損してしまうと、殺菌剤保持部30に保持された殺菌剤がサイフォン効果でバイパス配管12に取り込まれてしまう。これに対し、2以上のバルブを殺菌配管14に設けることで、仮に1つのバルブが破損した場合でも、他のバルブによって殺菌剤が殺菌配管14に流れることを防止することができる。これにより、殺菌剤保持部30に保持された殺菌剤がバイパス配管12に供給されることを防止することができる。このことは中和配管15においても同様のことが言える。すなわち、上記実施形態においては、中和配管15に1つのバルブV2が設けられる場合を説明したが、中和配管15に2以上のバルブを設けてもよい。
【0082】
上記実施形態においては、制御部70がバラストポンプP5の回転数を制御しない場合を説明したが、制御部70は、上記殺菌剤ポンプP2および中和剤ポンプP3の回転数の制御に加えてバラストポンプP5の回転数を制御してもよい。
【0083】
上記実施形態においては、ミキサー50を通過した後のバラスト水中の薬剤の濃度を濃度測定部60によって測定する場合を説明したが、
図8に示すように、バイパス配管12に分流した後のバラスト水中の薬剤の濃度を濃度測定部60によって測定できるようにしてもよい。
図8は、上記実施形態のバラスト水処理装置の変形例を示す模式図である。
図8に示す変形例では、バイパス配管12におけるバイパスポンプP1よりも上流側の部分と濃度測定部60とを繋ぐ測定流路19が設けられている。この位置に測定流路19を設けることにより、バイパス配管12に取り込まれた直後のバラスト水中の薬剤の濃度を測定することができる。これにより、例えばバラストタンク10に貯留されたバラスト水を排水するときに、バラストタンク10に貯留されたバラスト水中の薬剤(殺菌剤)の濃度を濃度測定部60によって測定することができる。この濃度測定部60によって得られた結果を制御部70にフィードバックすることにより、バラスト水中の殺菌剤をちょうど中和できる分量の中和剤を中和剤保持部40からバイパス配管12に供給することができる。これにより、排水する予定のバラスト水を完全に中和した上で船外に排出することができる。
【0084】
なお、上記実施形態を概説すると、以下の通りである。
【0085】
本実施形態に係るバラスト水処理装置は、バラストタンクに接続されてバラスト水を流通させるバラスト配管に接続される両端を有し、前記バラスト配管を流れるバラスト水の一部を、前記バラスト配管から分流させた後に前記バラスト配管に合流させるためのバイパス配管と、薬剤が収容された薬剤保持部と、前記薬剤保持部と前記バイパス配管とを接続し、前記薬剤保持部から前記バイパス配管に前記薬剤を供給する薬剤配管とを備える。
【0086】
本実施形態によれば、薬剤保持部に保持された薬剤が、バラスト配管から分流してバイパス配管を流れるバラスト水によって一旦希釈されてからバラスト配管に供給される。このため、バイパス配管を経由せずに薬剤保持部に保持された薬剤がバラスト配管に直接供給される場合(特許文献1の場合)と比べて、バラスト配管を流れるバラスト水中の薬剤の濃度に濃淡が生じることを抑制することができる。例えば、本実施形態によれば、10000ppmの濃度の薬剤をバラスト配管に供給する場合に、当該薬剤がバイパス配管で100ppmに100倍希釈されてからバラスト配管に供給される。このため、10000ppmの薬剤がバラスト配管に直接供給される場合と比べて、バラスト配管を流れるバラスト水中の薬剤の濃度に濃淡が生じることを抑制することができる。このように薬剤の濃度に濃淡が生じることが抑制されることで、バラスト配管に大規模なミキサーを設置することが必須ではなくなる。またミキサーとしてスタティックミキサーを使用する場合には、ミキシングの距離を短くすることが可能となる。
【0087】
特に、上記薬剤として高濃度の塩素系薬剤を用いる場合には、塩素系薬剤がバラスト水に溶解できずに析出してバラスト配管内で固化し、バラスト配管の腐食、閉塞、圧損増加、その他の流通障害の原因となる。このような問題に対して、本実施形態の構成によれば、高濃度の塩素系薬剤がバイパス配管を経由してバラスト配管に供給されるので、バラスト配管が高濃度の塩素系薬剤に触れることがない。このため、バラスト配管の腐食、閉塞等の不具合を防止することができる。なお、ここでの薬剤は、塩素系薬剤等の殺菌剤に限定されず、殺菌剤を中和する中和剤の場合もある。
【0088】
しかも、上記バイパス配管がバラスト配管よりも薬液保持部側に位置するようにバラスト配管に取り付けられる場合には、バラスト配管よりも近い位置にあるバイパス配管に薬剤配管を接続することができるので、従来のようにバラスト配管に薬剤配管を直接接続する場合と比べて、薬剤保持部から薬剤配管までの長さを短くすることができる。これにより、バラスト配管への殺菌成分の注入を終えた後に、薬剤配管に残る薬剤の残液を従来の薬剤配管よりも減らすことができるので、ランニングコストを削減することができる。
【0089】
さらに、薬剤をバラスト配管に供給し終えた後に薬剤が薬剤配管に保持されたままであると、薬剤配管内で薬剤が変質劣化することにより沈殿物が発生することがある。また薬剤として塩素系薬剤を用いる場合には、塩素系薬剤の変質劣化により塩素系ガス等の有毒物質が発生することがある。この点、上記のように薬剤配管の長さを短くできることで、薬剤配管に保持される薬剤の残液量を減らすことができるので、薬剤の析出や有毒物質の発生を抑えることができ、バラスト水処理装置の安全性を高めることができる。また薬剤を流す薬剤配管は、高濃度の薬剤が流通するため、バラスト配管およびバイパス配管よりも耐食性が高い材質で構成されている必要がある。この点、上記のように薬剤保持部側にバイパス配管を設ける場合には薬剤配管の長さを短くできるので、薬剤配管の作製に必要な費用を削減することができる。
【0090】
上記構成において、好ましくは、バイパス配管の少なくとも内面は、バラスト配管を構成する材料よりも耐食性が優れた材料で構成されている。
【0091】
上記構成によれば、バイパス配管を流れるバラスト水中の薬剤の濃度に多少の濃淡が生じてもバイパス配管に腐食が生じることを抑制することができる。バイパス配管の腐食が抑制されることで、より安全性の高いバラスト水処理装置とすることができる。なお、バラスト配管を流れるバラスト水は、従来よりも薬剤の濃度の濃淡が少なくなっているので、従来と同様の材料でバラスト配管が構成されていたとしてもバラスト配管に腐食が生じにくい。
【0092】
ところで、薬剤保持部からバラスト配管に薬剤を供給し終えた後に、バラスト配管に供給されなかった余分な薬剤は、薬剤保持部に保持されるよりも外部に排出されることが好ましい。しかし、薬剤が例えば塩素系薬剤である場合には高濃度の薬剤をそのまま外部に排出することが法的に認められていない場合もある。
【0093】
そこで、法的に許容される程度に薬剤の濃度を調整するための構成として、上記バラスト水処理装置における前記薬剤保持部は、殺菌剤が収容された殺菌剤保持部であり、前記薬剤配管は、前記殺菌剤保持部と前記バイパス配管とを接続し、前記殺菌剤保持部から前記バイパス配管に前記殺菌剤を供給する殺菌配管であり、前記バラスト水処理装置は、前記殺菌剤を中和する性質を示す中和剤が収容された中和剤保持部と、前記中和剤保持部と前記バイパス配管とを接続し、前記中和剤保持部から前記バイパス配管に前記中和剤を供給する中和配管とを備え、前記中和配管と前記バイパス配管との接続部分は、前記殺菌配管と前記バイパス配管との接続部分よりも前記バイパス配管の上流側に位置していることが好ましい。
【0094】
上記構成によれば、バイパス配管に殺菌剤を流すと同時にバイパス配管に中和剤を流すことで、殺菌剤を中和剤によって中和することができる。これにより、法的に許容される程度に殺菌剤を中和した上で殺菌剤を外部に排出することができる。しかも、殺菌剤がバイパス配管に供給されるよりも上流側で中和剤がバイパス配管に供給されるので、高濃度の殺菌剤が殺菌配管からバイパス配管に流れ込んだとしても、その殺菌剤が即座に中和剤によって中和される。これにより、バイパス配管を流れる殺菌剤の濃度が過剰に高くなることを抑制することができる。
【0095】
上記構成において、バイパス配管がバラスト配管よりも上下方向の上側に配置されている場合には、バラスト配管を流れるバラスト水をバイパス配管に流入させにくい。よって、この場合には、前記バイパス配管に設けられ、前記バラスト配管から前記バイパス配管にバラスト水を取り込むためのバラスト水取込部をさらに有することが好ましい。
【0096】
上記構成によれば、バイパス配管に流すバラスト水をバラスト水取込部によって取り込むことができるので、バイパス配管に供給される薬剤をバイパス配管内でバラスト水によって希釈することができる。これにより、バイパス配管を流れるバラスト水中の薬剤の濃度が過剰に高くなることを抑制することができるので、バイパス配管に腐食が生じることを抑制することができる。またバイパス配管にバラスト水取込部を設けることによってバイパス配管を流れるバラスト水の流量を一定にできるという利点もある。
【0097】
上記構成において、前記バラスト配管と前記バイパス配管との合流部分よりも下流側に接続され、前記バラスト配管を流れるバラスト水中の薬剤の濃度を測定するための濃度測定部をさらに有することが好ましい。
【0098】
上記構成によれば、バイパス配管を流れるバラスト水と合流した後のバラスト配管を流れるバラスト水中の薬剤の濃度を濃度測定部によって測定することができるので、バラストタンクにバラスト水を供給する時には、バラストタンクに供給されるバラスト水中の薬剤の濃度を把握することができる。またバラストタンクに貯留されたバラスト水を船外に排出する時には、船外に排出されるバラスト水中の薬剤の濃度を把握することができる。
【0099】
上記構成において、前記バラスト配管に接続される両端を有し、前記バラスト配管を流れるバラスト水の一部を前記バラスト配管から分流させた後に前記バラスト配管に合流させるための測定用バイパス配管をさらに有し、前記濃度測定部は、前記測定用バイパス配管に設けられていることが好ましい。
上記構成によれば、バラスト配管を流れるバラスト水の薬剤の濃度を測定する時に、その測定対象となるバラスト水をバラスト配管から直接採取せずに測定用バイパス配管からバラスト水を採取することができる。これにより、バラスト配管の近傍に濃度測定部を設置することが必須となるわけではなく、濃度測定部の設置したい位置まで測定用バイパス配管を引き伸ばすことができ、濃度測定部の設置位置の自由度を高めることができる。
【0100】
本実施形態のバラスト水処理方法は、バラストタンクに接続されたバラスト配管にバラスト水を流通させる工程と、前記バラスト配管に両端が接続されたバイパス配管に、前記バラスト配管を流れるバラスト水の一部を、前記バラスト配管から分流させた後に前記バラスト配管に合流させる工程と、薬剤が収容された薬剤保持部から薬剤配管を通じて前記バイパス配管に前記薬剤を供給する工程とを含む。
【0101】
上記水処理方法によれば、薬剤保持部に保持された薬剤が、バラスト配管から分流してバイパス配管を流れるバラスト水によって一旦希釈されてからバラスト配管に供給されるので、バイパス配管を経由せずに薬剤がバラスト配管に直接供給される場合と比べて、バラスト配管を流れるバラスト水中の薬剤の濃度に濃淡が生じることを抑制することができる。
【0102】
上記方法において、前記バラスト配管を流れるバラスト水中の薬剤の濃度を測定する工程をさらに含むことが好ましい。
【0103】
上記方法によれば、バラストタンクにバラスト水を供給する時には、バラストタンクに供給されるバラスト水中の薬剤の濃度を把握することができる。またバラストタンクに貯留されたバラスト水を船外に排出する時には、船外に排出されるバラスト水中の薬剤の濃度を把握することができる。