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特許7117336半導体装置の製造方法、プログラム及び基板処理装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-03
(45)【発行日】2022-08-12
(54)【発明の名称】半導体装置の製造方法、プログラム及び基板処理装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/455 20060101AFI20220804BHJP
   H01L 21/31 20060101ALI20220804BHJP
【FI】
C23C16/455
H01L21/31 B
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020013676
(22)【出願日】2020-01-30
(65)【公開番号】P2021120472
(43)【公開日】2021-08-19
【審査請求日】2021-03-12
(73)【特許権者】
【識別番号】318009126
【氏名又は名称】株式会社KOKUSAI ELECTRIC
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110000039
【氏名又は名称】特許業務法人アイ・ピー・ウィン
(72)【発明者】
【氏名】栗林 幸永
(72)【発明者】
【氏名】小川 有人
(72)【発明者】
【氏名】清野 篤郎
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-044266(JP,A)
【文献】国際公開第2019/058608(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/142176(WO,A1)
【文献】特表2007-507613(JP,A)
【文献】特表2020-513065(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/455
H01L 21/31
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)処理室内の基板に対して、モリブデンと酸素とハロゲンを含むモリブデン含有ガスを供給する工程と、
(b)前記基板に対して、水素とシリコンを含む還元性の添加ガスを供給する工程と、
(c)前記基板に対して、水素を含み前記添加ガスとは化学的な組成が異なる還元ガスを供給する工程と、を有し、
前記添加ガスの供給流量は、前記モリブデン含有ガスの供給流量よりも多く、前記還元ガスの供給流量よりも少なくして、(a)、(b)、(c)を、同時又は順に、一回以上行い、前記基板上にモリブデン膜を形成する半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記モリブデン含有ガスは、ハロゲン元素を含む
請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記モリブデン含有ガスは、MoOClを含
請求項1又は2に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項4】
(a)処理室内の基板に対して、モリブデンと酸素とハロゲンを含むモリブデン含有ガスを供給する工程と、
(b)前記基板に対して、水素とシリコンを含むガス、アンモニア、水素と炭素を含むガスの少なくともいずれかを含む還元性の添加ガスを供給する工程と、
(c)前記基板に対して、水素を含み前記添加ガスとは化学的な組成が異なる還元ガスを供給する工程と、を有し、
(a)、(b)、(c)を、同時又は順に、一回以上行う際に、
(a)及び(b)では、前記基板に対して前記添加ガスを供給していない状態で前記モリブデン含有ガスの供給を開始し、前記基板に対して前記添加ガスを供給している状態で前記モリブデン含有ガスの供給を停止し、前記基板上にモリブデン膜を形成する半導体装置の製造方法。
【請求項5】
(c)の時間は、(a)と同時に(b)を実行しなかった場合と比較して短くする
請求項1乃至のいずれか一項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項6】
(a)処理室内の基板に対して、モリブデンと酸素とハロゲンを含むモリブデン含有ガスを供給する工程と、
(b)前記基板に対して、水素とシリコンを含む還元性の添加ガスを供給する工程と、
(c)前記基板に対して、水素を含み前記添加ガスとは化学的な組成が異なる還元ガスを供給する工程と、を有し、
(a)、(b)、(c)を、同時又は順に、一回以上行う際に、
(a)の後に前記処理室内をパージする第1パージ工程と、
(c)の後に前記処理室内をパージする第2パージ工程と、を有し、
前記第1パージ工程における時間は、前記第2パージ工程における時間以下として、前記基板上にモリブデン膜を形成する半導体装置の製造方法。
【請求項7】
(a)処理室内の基板に対して、モリブデンと酸素とハロゲンを含むモリブデン含有ガスを供給する工程と、
(b)前記基板に対して、水素とシリコンを含む還元性の添加ガスを供給する工程と、
(c)前記基板に対して、水素を含み前記添加ガスとは化学的な組成が異なる還元ガスを供給する工程と、を有し、
(a)、(b)、(c)を、同時又は順に、一回以上行う際に、
(a)と(b)と、を交互に行った後に、(c)を行い、前記基板上にモリブデン膜を形成する半導体装置の製造方法。
【請求項8】
(a)基板処理装置の処理室内の基板に対して、モリブデンと酸素とハロゲンを含むモリブデン含有ガスを供給する手順と、
(b)前記基板に対して、水素とシリコンを含む還元性の添加ガスを供給する手順と、
(c)前記基板に対して、水素を含み前記添加ガスとは化学的な組成が異なる還元ガスを供給する手順と、を有し、
前記添加ガスの供給流量は、前記モリブデン含有ガスの供給流量よりも多く、前記還元ガスの供給流量よりも少なくして、(a)、(b)、(c)を、同時又は順に、一回以上行い、前記基板上にモリブデン膜を形成する手順をコンピュータにより前記基板処理装置に実行させるプログラム。
【請求項9】
(a)基板処理装置の処理室内の基板に対して、モリブデンと酸素とハロゲンを含むモリブデン含有ガスを供給する手順と、
(b)前記基板に対して、水素とシリコンを含むガス、アンモニア、水素と炭素を含むガスの少なくともいずれかを含む還元性の添加ガスを供給する手順と、
(c)前記基板に対して、水素を含み前記添加ガスとは化学的な組成が異なる還元ガスを供給する手順と、を有し、
(a)、(b)、(c)を、同時又は順に、一回以上行う際に、
(a)及び(b)では、前記基板に対して前記添加ガスを供給していない状態で前記モリブデン含有ガスの供給を開始し、前記基板に対して前記添加ガスを供給している状態で前記モリブデン含有ガスの供給を停止し、前記基板上にモリブデン膜を形成する手順をコンピュータにより前記基板処理装置に実行させるプログラム
【請求項10】
(a)基板処理装置の処理室内の基板に対して、モリブデンと酸素とハロゲンを含むモリブデン含有ガスを供給する手順と、
(b)前記基板に対して、水素とシリコンを含む還元性の添加ガスを供給する手順と、
(c)前記基板に対して、水素を含み前記添加ガスとは化学的な組成が異なる還元ガスを供給する手順と、を有し、
(a)、(b)、(c)を、同時又は順に、一回以上行う際に、
(a)の後に前記処理室内をパージする第1パージ手順と、
(c)の後に前記処理室内をパージする第2パージ手順と、を有し、
前記第1パージ手順における時間は、前記第2パージ手順における時間以下として、前記基板上にモリブデン膜を形成する手順をコンピュータにより前記基板処理装置に実行させるプログラム
【請求項11】
(a)基板処理装置の処理室内の基板に対して、モリブデンと酸素とハロゲンを含むモリブデン含有ガスを供給する手順と、
(b)前記基板に対して、水素とシリコンを含む還元性の添加ガスを供給する手順と、
(c)前記基板に対して、水素を含み前記添加ガスとは化学的な組成が異なる還元ガスを供給する手順と、を有し、
(a)、(b)、(c)を、同時又は順に、一回以上行う際に、
(a)と(b)と、を交互に行った後に、(c)を行い、前記基板上にモリブデン膜を形成する手順をコンピュータにより前記基板処理装置に実行させるプログラム
【請求項12】
基板を収容する処理室と、
前記処理室内に、モリブデンと酸素とハロゲンを含むモリブデン含有ガスと、水素とシリコンを含む還元性の添加ガスと、水素を含み前記添加ガスとは化学的な組成が異なる還元ガスと、をそれぞれ供給するガス供給系と、
前記処理室内を排気する排気系と、
前記ガス供給系と前記排気系を制御して、前記処理室内に収容された基板に対して、
(a)前記モリブデン含有ガスを供給する処理と、
(b)前記添加ガスを供給する処理と、
(c)前記還元ガスを供給する処理と、
を前記添加ガスの供給流量は、前記モリブデン含有ガスの供給流量よりも多く、前記還元ガスの供給流量よりも少なくして、(a)、(b)、(c)を同時又は順に、一回以上行い、前記基板上にモリブデン膜を形成するよう前記ガス供給系と前記排気系とを制御することが可能な様に構成された制御部と、
を有する基板処理装置。
【請求項13】
基板を収容する処理室と、
前記処理室内に、モリブデンと酸素とハロゲンを含むモリブデン含有ガスと、水素とシリコンを含むガス、アンモニア、水素と炭素を含むガスの少なくともいずれかを含む還元性の添加ガスと、水素を含み前記添加ガスとは化学的な組成が異なる還元ガスと、をそれぞれ供給するガス供給系と、
前記処理室内を排気する排気系と、
前記処理室内に収容された基板に対して、
(a)前記モリブデン含有ガスを供給する処理と、
(b)前記添加ガスを供給する処理と、
(c)前記還元ガスを供給する処理と、
を(a)、(b)、(c)を同時又は順に、一回以上行い、(a)及び(b)では、前記基板に対して前記添加ガスを供給していない状態で前記モリブデン含有ガスの供給を開始し、前記基板に対して前記添加ガスを供給している状態で前記モリブデン含有ガスの供給を停止し、前記基板上にモリブデン膜を形成するよう前記ガス供給系と前記排気系とを制御することが可能な様に構成された制御部と、
を有する基板処理装置。
【請求項14】
基板を収容する処理室と、
前記処理室内に、モリブデンと酸素とハロゲンを含むモリブデン含有ガスと、水素とシリコンを含む還元性の添加ガスと、水素を含み前記添加ガスとは化学的な組成が異なる還元ガスと、をそれぞれ供給するガス供給系と、
前記処理室内を排気する排気系と、
前記ガス供給系と前記排気系を制御して、前記処理室内に収容された基板に対して、
(a)前記モリブデン含有ガスを供給する処理と、
(b)前記添加ガスを供給する処理と、
(c)前記還元ガスを供給する処理と、
を前記添加ガスの供給流量は、前記モリブデン含有ガスの供給流量よりも多く、前記還元ガスの供給流量よりも少なくして、(a)、(b)、(c)を同時又は順に、一回以上行い、
(a)の後に前記処理室内をパージする第1パージ処理と、
(c)の後に前記処理室内をパージする第2パージ処理と、を有し、
前記第1パージ処理における時間は、前記第2パージ処理における時間以下として、前記基板上にモリブデン膜を形成する前記基板上にモリブデン膜を形成するよう前記ガス供給系と前記排気系とを制御することが可能な様に構成された制御部と、
を有する基板処理装置。
【請求項15】
基板を収容する処理室と、
前記処理室内に、モリブデンと酸素とハロゲンを含むモリブデン含有ガスと、水素とシリコンを含む還元性の添加ガスと、水素を含み前記添加ガスとは化学的な組成が異なる還元ガスと、をそれぞれ供給するガス供給系と、
前記処理室内を排気する排気系と、
前記処理室内に収容された基板に対して、
(a)前記モリブデン含有ガスを供給する処理と、
(b)前記添加ガスを供給する処理と、
(c)前記還元ガスを供給する処理と、
を(a)、(b)、(c)を同時又は順に、一回以上行い、
(a)と(b)と、を交互に行った後に、(c)を行い、前記基板上にモリブデン膜を形成するよう前記ガス供給系と前記排気系とを制御することが可能な様に構成された制御部と、
を有する基板処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、半導体装置の製造方法、プログラム及び基板処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
3次元構造のNAND型フラッシュメモリのコントロールゲートには例えばタングステン(W)膜が用いられており、このW膜の成膜にはWを含む六フッ化タングステン(WF6)ガスが用いられている。また、このW膜と絶縁膜との間にバリア膜として窒化チタン(TiN)膜を設けることがある。このTiN膜は、W膜と絶縁膜の密着性を高める役割をすると共に、W膜中に含まれるフッ素(F)が絶縁膜へ拡散することを防止する役割を担い、成膜は四塩化チタン(TiCl4)ガスとアンモニア(NH3)ガスを用いて行われるのが一般的である(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-6783号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、3次元構造のNAND型フラッシュメモリの高層化に伴ってエッチングが困難となっているために、ワード線の薄膜化が課題となっている。
この課題を解決するために、上述したようなTiN膜とW膜を用いる代わりに、モリブデン(Mo)を含有したモリブデン(Mo)膜を用いて、薄膜化と低抵抗化を図っている。しかしながら、このMo膜を形成する際に、Mo原料ガスと例えば水素(H2)ガス等の還元ガスを用いた場合には、副生成物として成膜阻害要因となる塩素(Cl2)や塩酸(HCl)が生成される。
【0005】
本開示は、モリブデン膜の成膜阻害要因を低減することが可能な技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様によれば、
(a)処理室内の基板に対して、モリブデンと酸素を含むモリブデン含有ガスを供給する工程と、
(b)前記基板に対して、水素を含む添加ガスを供給する工程と、
(c)前記基板に対して、水素を含み前記添加ガスとは化学的な組成が異なる還元ガスを供給する工程と、を有し、
前記(a)、(b)、(c)工程を、同時又は順に、一回以上行い、前記基板にモリブデン膜を形成する技術が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、モリブデン膜の成膜阻害要因を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本開示の一実施形態における基板処理装置の縦型処理炉の概略を示す縦断面図である。
図2図1におけるA-A線概略横断面図である。
図3】本開示の一実施形態における基板処理装置のコントローラの概略構成図であり、コントローラの制御系をブロック図で示す図である。
図4】本開示の一実施形態におけるガス供給のタイミングを示す図である。
図5】本開示の一実施形態におけるガス供給のタイミングの変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<本開示の一実施形態>
以下、図1~4を参照しながら説明する。
【0010】
(1)基板処理装置の構成
基板処理装置10は、加熱手段(加熱機構、加熱系)としてのヒータ207が設けられた処理炉202を備える。ヒータ207は円筒形状であり、保持板としてのヒータベース(図示せず)に支持されることにより垂直に据え付けられている。
【0011】
ヒータ207の内側には、ヒータ207と同心円状に反応容器(処理容器)を構成するアウタチューブ203が配設されている。アウタチューブ203は、例えば石英(SiO2)、炭化シリコン(SiC)などの耐熱性材料で構成され、上端が閉塞し下端が開口した円筒形状に形成されている。アウタチューブ203の下方には、アウタチューブ203と同心円状に、マニホールド(インレットフランジ)209が配設されている。マニホールド209は、例えばステンレス(SUS)などの金属材料で構成され、上端及び下端が開口した円筒形状に形成されている。マニホールド209の上端部と、アウタチューブ203との間には、シール部材としてのOリング220aが設けられている。マニホールド209がヒータベースに支持されることにより、アウタチューブ203は垂直に据え付けられた状態となる。
【0012】
アウタチューブ203の内側には、反応容器を構成するインナチューブ204が配設されている。インナチューブ204は、例えば石英(SiO2)、炭化シリコン(SiC)などの耐熱性材料で構成され、上端が閉塞し下端が開口した円筒形状に形成されている。主に、アウタチューブ203と、インナチューブ204と、マニホールド209とにより処理容器(反応容器)が構成されている。処理容器の筒中空部(インナチューブ204の内側)には処理室201が形成されている。
【0013】
処理室201は、基板としてのウエハ200を後述するボート217によって水平姿勢で鉛直方向に多段に配列した状態で収容可能に構成されている。
【0014】
処理室201内には、ノズル410,420,430がマニホールド209の側壁及びインナチューブ204を貫通するように設けられている。ノズル410,420,430には、ガス供給管310,320,330が、それぞれ接続されている。ただし、本実施形態の処理炉202は上述の形態に限定されない。
【0015】
ガス供給管310,320,330には上流側から順に流量制御器(流量制御部)であるマスフローコントローラ(MFC)312,322,332がそれぞれ設けられている。また、ガス供給管310,320,330には、開閉弁であるバルブ314,324,334がそれぞれ設けられている。ガス供給管310,320,330のバルブ314,324,334の下流側には、不活性ガスを供給するガス供給管510,520,530がそれぞれ接続されている。ガス供給管510,520,530には、上流側から順に、流量制御器(流量制御部)であるMFC512,522,532及び開閉弁であるバルブ514,524,534がそれぞれ設けられている。
【0016】
ガス供給管310,320,330の先端部にはノズル410,420,430がそれぞれ連結接続されている。ノズル410,420,430は、L字型のノズルとして構成されており、その水平部はマニホールド209の側壁及びインナチューブ204を貫通するように設けられている。ノズル410,420,430の垂直部は、インナチューブ204の径方向外向きに突出し、かつ鉛直方向に延在するように形成されているチャンネル形状(溝形状)の予備室201aの内部に設けられており、予備室201a内にてインナチューブ204の内壁に沿って上方(ウエハ200の配列方向上方)に向かって設けられている。
【0017】
ノズル410,420,430は、処理室201の下部領域から処理室201の上部領域まで延在するように設けられており、ウエハ200と対向する位置にそれぞれ複数のガス供給孔410a,420a,430aが設けられている。これにより、ノズル410,420,430のガス供給孔410a,420a,430aからそれぞれウエハ200に処理ガスを供給する。このガス供給孔410a,420a,430aは、インナチューブ204の下部から上部にわたって複数設けられ、それぞれ同一の開口面積を有し、さらに同一の開口ピッチで設けられている。ただし、ガス供給孔410a,420a,430aは上述の形態に限定されない。例えば、インナチューブ204の下部から上部に向かって開口面積を徐々に大きくしてもよい。これにより、ガス供給孔410a,420a,430aから供給される処理ガスの流量をより均一化することが可能となる。
【0018】
ノズル410,420,430のガス供給孔410a,420a,430aは、後述するボート217の下部から上部までの高さの位置に複数設けられている。そのため、ノズル410,420,430のガス供給孔410a,420a,430aから処理室201内に供給された処理ガスは、ボート217の下部から上部までに収容されたウエハ200の全域に供給される。ノズル410,420,430は、処理室201の下部領域から上部領域まで延在するように設けられていればよいが、ボート217の天井付近まで延在するように設けられていることが好ましい。
【0019】
ガス供給管310からは、原料ガスとして、モリブデン(Mo)を含むモリブデン含有ガスが、MFC312、バルブ314、ノズル410を介して処理室201内に供給される。モリブデン含有ガスとしては、モリブデン(Mo)と、酸素(O)と、ハロゲン元素である塩素(Cl)を含む例えばモリブデンジクロリドジオキシド(MoO2Cl2)が用いられる。
【0020】
ガス供給管320からは、原料ガスに添加する添加ガスが、MFC322、バルブ324、ノズル420を介して処理室201内に供給される。添加ガスとしては、水素(H)を含むモノシラン(SiH4)ガスを用いることができる。SiH4ガスは還元剤として作用する。
【0021】
ガス供給管330からは、原料ガスを還元する還元ガスが、MFC332、バルブ334、ノズル430を介して処理室201内に供給される。還元ガスとしては、水素(H)を含み添加ガスとは化学的な組成が異なる例えば水素(H2)ガスを用いることができる。
【0022】
ガス供給管510,520,530からは、不活性ガスとして、例えば窒素(N2)ガスが、それぞれMFC512,522,532、バルブ514,524,534、ノズル410,420,430を介して処理室201内に供給される。以下、不活性ガスとしてN2ガスを用いる例について説明するが、不活性ガスとしては、N2ガス以外に、例えば、アルゴン(Ar)ガス、ヘリウム(He)ガス、ネオン(Ne)ガス、キセノン(Xe)ガス等の希ガスを用いてもよい。
【0023】
主に、ガス供給管310,320,330、MFC312,322,332、バルブ314,324,334、ノズル410,420,430により処理ガス供給系が構成されるが、ノズル410,420,430のみを処理ガス供給系と考えてもよい。ガス供給管310から原料ガスを流す場合、主に、ガス供給管310、MFC312、バルブ314により原料ガス供給系が構成されるが、ノズル410を原料ガス供給系に含めて考えてもよい。また、ガス供給管320から添加ガスを流す場合、主に、ガス供給管320、MFC322、バルブ324により添加ガス供給系が構成されるが、ノズル420を添加ガス供給系に含めて考えてもよい。また、ガス供給管330から還元ガスを流す場合、主に、ガス供給管330、MFC332、バルブ334により還元ガス供給系が構成されるが、ノズル430を還元ガス供給系に含めて考えてもよい。また、主に、ガス供給管510,520,530、MFC512,522,532、バルブ514,524,534により不活性ガス供給系が構成される。
【0024】
本実施形態におけるガス供給の方法は、インナチューブ204の内壁と、複数枚のウエハ200の端部とで定義される円環状の縦長の空間内の予備室201a内に配置したノズル410,420,430を経由してガスを搬送している。そして、ノズル410,420,430のウエハと対向する位置に設けられた複数のガス供給孔410a,420a,430aからインナチューブ204内にガスを噴出させている。より詳細には、ノズル410のガス供給孔410a、ノズル420のガス供給孔420a及びノズル430のガス供給孔430aにより、ウエハ200の表面と平行方向に向かって処理ガス等を噴出させている。
【0025】
排気孔(排気口)204aは、インナチューブ204の側壁であってノズル410,420,430に対向した位置に形成された貫通孔であり、例えば、鉛直方向に細長く開設されたスリット状の貫通孔である。ノズル410,420,430のガス供給孔410a,420a,430aから処理室201内に供給され、ウエハ200の表面上を流れたガスは、排気孔204aを介してインナチューブ204とアウタチューブ203との間に形成された隙間からなる排気路206内に流れる。そして、排気路206内へと流れたガスは、排気管231内に流れ、処理炉202外へと排出される。
【0026】
排気孔204aは、複数のウエハ200と対向する位置に設けられており、ガス供給孔410a、420a、430aから処理室201内のウエハ200の近傍に供給されたガスは、水平方向に向かって流れた後、排気孔204aを介して排気路206内へと流れる。排気孔204aはスリット状の貫通孔として構成される場合に限らず、複数個の孔により構成されていてもよい。
【0027】
マニホールド209には、処理室201内の雰囲気を排気する排気管231が設けられている。排気管231には、上流側から順に、処理室201内の圧力を検出する圧力検出器(圧力検出部)としての圧力センサ245,APC(Auto Pressure Controller)バルブ243,真空排気装置としての真空ポンプ246が接続されている。APCバルブ243は、真空ポンプ246を作動させた状態で弁を開閉することで、処理室201内の真空排気及び真空排気停止を行うことができ、更に、真空ポンプ246を作動させた状態で弁開度を調節することで、処理室201内の圧力を調整することができる。主に、排気孔204a、排気路206、排気管231、APCバルブ243及び圧力センサ245により、排気系が構成される。真空ポンプ246を排気系に含めて考えてもよい。
【0028】
マニホールド209の下方には、マニホールド209の下端開口を気密に閉塞可能な炉口蓋体としてのシールキャップ219が設けられている。シールキャップ219は、マニホールド209の下端に鉛直方向下側から当接されるように構成されている。シールキャップ219は、例えばSUS等の金属材料で構成され、円盤状に形成されている。シールキャップ219の上面には、マニホールド209の下端と当接するシール部材としてのOリング220bが設けられている。シールキャップ219における処理室201の反対側には、ウエハ200を収容するボート217を回転させる回転機構267が設置されている。回転機構267の回転軸255は、シールキャップ219を貫通してボート217に接続されている。回転機構267は、ボート217を回転させることでウエハ200を回転させるように構成されている。シールキャップ219は、アウタチューブ203の外部に垂直に設置された昇降機構としてのボートエレベータ115によって鉛直方向に昇降されるように構成されている。ボートエレベータ115は、シールキャップ219を昇降させることで、ボート217を処理室201内外に搬入及び搬出することが可能なように構成されている。ボートエレベータ115は、ボート217及びボート217に収容されたウエハ200を、処理室201内外に搬送する搬送装置(搬送機構)として構成されている。
【0029】
基板支持具としてのボート217は、複数枚、例えば25~200枚のウエハ200を、水平姿勢で、かつ、互いに中心を揃えた状態で鉛直方向に間隔を空けて配列させるように構成されている。ボート217は、例えば石英やSiC等の耐熱性材料からなる。ボート217の下部には、例えば石英やSiC等の耐熱性材料からなる断熱板218が水平姿勢で多段(図示せず)に支持されている。この構成により、ヒータ207からの熱がシールキャップ219側に伝わりにくくなっている。ただし、本実施形態は上述の形態に限定されない。例えば、ボート217の下部に断熱板218を設けずに、石英やSiC等の耐熱性材料からなる筒状の部材として構成された断熱筒を設けてもよい。
【0030】
図2に示すように、インナチューブ204内には温度検出器としての温度センサ263が設置されており、温度センサ263により検出された温度情報に基づきヒータ207への通電量を調整することで、処理室201内の温度が所望の温度分布となるように構成されている。温度センサ263は、ノズル410,420及び430と同様にL字型に構成されており、インナチューブ204の内壁に沿って設けられている。
【0031】
図3に示すように、制御部(制御手段)であるコントローラ121は、CPU(Central Processing Unit)121a、RAM(Random Access Memory)121b、記憶装置121c、I/Oポート121dを備えたコンピュータとして構成されている。RAM121b、記憶装置121c、I/Oポート121dは、内部バスを介して、CPU121aとデータ交換可能なように構成されている。コントローラ121には、例えばタッチパネル等として構成された入出力装置122が接続されている。
【0032】
記憶装置121cは、例えばフラッシュメモリ、HDD(Hard Disk Drive)等で構成されている。記憶装置121c内には、基板処理装置の動作を制御する制御プログラム、後述する半導体装置の製造方法の手順や条件などが記載されたプロセスレシピなどが、読み出し可能に格納されている。プロセスレシピは、後述する半導体装置の製造方法における各工程(各ステップ)をコントローラ121に実行させ、所定の結果を得ることができるように組み合わされたものであり、プログラムとして機能する。以下、このプロセスレシピ、制御プログラム等を総称して、単に、プログラムともいう。本明細書においてプログラムという言葉を用いた場合は、プロセスレシピ単体のみを含む場合、制御プログラム単体のみを含む場合、または、プロセスレシピ及び制御プログラムの組み合わせを含む場合がある。RAM121bは、CPU121aによって読み出されたプログラムやデータ等が一時的に保持されるメモリ領域(ワークエリア)として構成されている。
【0033】
I/Oポート121dは、上述のMFC312,322,332,512,522,532、バルブ314,324,334,514,524,534、圧力センサ245、APCバルブ243、真空ポンプ246、ヒータ207、温度センサ263、回転機構267、ボートエレベータ115等に接続されている。
【0034】
CPU121aは、記憶装置121cから制御プログラムを読み出して実行すると共に、入出力装置122からの操作コマンドの入力等に応じて記憶装置121cからレシピ等を読み出すように構成されている。CPU121aは、読み出したレシピの内容に沿うように、MFC312,322,332,512,522,532による各種ガスの流量調整動作、バルブ314,324,334,514,524,534の開閉動作、APCバルブ243の開閉動作及びAPCバルブ243による圧力センサ245に基づく圧力調整動作、温度センサ263に基づくヒータ207の温度調整動作、真空ポンプ246の起動及び停止、回転機構267によるボート217の回転及び回転速度調節動作、ボートエレベータ115によるボート217の昇降動作、ボート217へのウエハ200の収容動作等を制御するように構成されている。
【0035】
コントローラ121は、外部記憶装置(例えば、磁気テープ、フレキシブルディスクやハードディスク等の磁気ディスク、CDやDVD等の光ディスク、MO等の光磁気ディスク、USBメモリやメモリカード等の半導体メモリ)123に格納された上述のプログラムを、コンピュータにインストールすることにより構成することができる。記憶装置121cや外部記憶装置123は、コンピュータ読み取り可能な記録媒体として構成されている。以下、これらを総称して、単に、記録媒体ともいう。本明細書において記録媒体は、記憶装置121c単体のみを含む場合、外部記憶装置123単体のみを含む場合、または、その両方を含む場合がある。コンピュータへのプログラムの提供は、外部記憶装置123を用いず、インターネットや専用回線等の通信手段を用いて行ってもよい。
【0036】
(2)基板処理工程(成膜工程)
半導体装置(デバイス)の製造工程の一工程として、ウエハ200上に、例えばゲート電極を構成する金属膜の一例であるモリブデン(Mo)膜を形成する工程の一例について、図4を用いて説明する。Mo膜を形成する工程は、上述した基板処理装置10の処理炉202を用いて実行される。以下の説明において、基板処理装置10を構成する各部の動作はコントローラ121により制御される。
【0037】
本実施形態による基板処理工程(半導体装置の製造工程)では、
(a)処理室201内のウエハ200に対して、MoとOを含むMo含有ガスを供給する工程と、
(b)ウエハ200に対して、Hを含む添加ガスであるSiH4ガスを供給する工程と、
(c)ウエハ200に対して、Hを含み添加ガスとは化学的な組成が異なる還元ガスであるH2ガスを供給する工程と、を有し、
(a)、(b)、(c)工程を、同時又は順に、かつ交互に行い、ウエハ上にMo膜を形成する。
【0038】
本明細書において「ウエハ」という言葉を用いた場合は、「ウエハそのもの」を意味する場合や、「ウエハとその表面に形成された所定の層や膜等との積層体」を意味する場合がある。本明細書において「ウエハの表面」という言葉を用いた場合は、「ウエハそのものの表面」を意味する場合や、「ウエハ上に形成された所定の層や膜等の表面」を意味する場合がある。本明細書において「基板」という言葉を用いた場合も、「ウエハ」という言葉を用いた場合と同義である。
【0039】
(ウエハ搬入)
複数枚のウエハ200がボート217に装填(ウエハチャージ)されると、図1に示されているように、複数枚のウエハ200を支持したボート217は、ボートエレベータ115によって持ち上げられて処理室201内に搬入(ボートロード)される。この状態で、シールキャップ219はOリング220を介してアウタチューブ203の下端開口を閉塞した状態となる。
【0040】
(圧力調整および温度調整)
処理室201内が所望の圧力(真空度)となるように真空ポンプ246によって真空排気される。この際、処理室201内の圧力は、圧力センサ245で測定され、この測定された圧力情報に基づき、APCバルブ243がフィードバック制御される(圧力調整)。真空ポンプ246は、少なくともウエハ200に対する処理が完了するまでの間は常時作動させた状態を維持する。また、処理室201内が所望の温度となるようにヒータ207によって加熱される。この際、処理室201内が所望の温度分布となるように、温度センサ263が検出した温度情報に基づきヒータ207への通電量がフィードバック制御される(温度調整)。ヒータ207による処理室201内の加熱は、少なくともウエハ200に対する処理が完了するまでの間は継続して行われる。
【0041】
[第1の工程]
(MoO2Cl2ガス供給)
バルブ314を開き、ガス供給管310内に原料ガスでありMoとOを含むMo含有ガスであるMoO2Cl2ガスを流す。MoO2Cl2ガスは、MFC312により流量調整され、ノズル410のガス供給孔410aから処理室201内に供給され、排気管231から排気される。このとき、ウエハ200に対してMoO2Cl2ガスが供給される。このとき同時にバルブ514を開き、ガス供給管510内にN2ガス等の不活性ガスを流す。ガス供給管510内を流れたN2ガスは、MFC512により流量調整され、MoO2Cl2ガスと一緒に処理室201内に供給され、排気管231から排気される。このとき、ノズル420,430内へのMoO2Cl2ガスの侵入を防止するために、バルブ524,534を開き、ガス供給管520,530内にN2ガスを流す。N2ガスは、ガス供給管320,330、ノズル420,430を介して処理室201内に供給され、排気管231から排気される。
【0042】
このときAPCバルブ243を調整して、処理室201内の圧力を、例えば1~3990Paの範囲内の圧力であって、例えば1000Paとする。MFC312で制御するMoO2Cl2ガスの供給流量は、例えば0.1~1.0slm、好ましくは0.1~0.3slmの範囲内の流量とする。MFC512,522,532で制御するN2ガスの供給流量は、それぞれ例えば0.1~20slmの範囲内の流量とする。このときヒータ207の温度は、ウエハ200の温度が、例えば300~600℃の範囲内の温度となるような温度に設定する。
【0043】
このとき処理室201内に流しているガスはMoO2Cl2ガスとN2ガスのみである。MoO2Cl2ガスの供給により、ウエハ200(表面の下地膜)上にMo含有層が形成される。Mo含有層は、ClやOを含むMo層であってもよいし、MoO2Cl2の吸着層であってもよいし、それらの両方を含んでいてもよい。
【0044】
(SiH4ガス供給)
MoO2Cl2ガスの供給開始から所定時間経過後であって例えば0.01~5秒後に、バルブ324を開き、ガス供給管320内にHを含む添加ガスであるSiH4ガスを流す。SiH4ガスは、MFC322により流量調整され、ノズル420のガス供給孔420aから処理室201内に供給され、排気管231から排気される。このとき、同時にバルブ524を開き、ガス供給管520内にN2ガス等の不活性ガスを流す。ガス供給管520内を流れたN2ガスは、MFC522により流量調整され、SiH4ガスと一緒に処理室201内に供給され、排気管231から排気される。このとき、ノズル430内へのMoO2Cl2ガスとSiH4ガスの侵入を防止するために、バルブ534を開き、ガス供給管530内にN2ガスを流す。N2ガスは、ガス供給管330、ノズル430を介して処理室201内に供給され、排気管231から排気される。このとき、ウエハ200に対してMoO2Cl2ガスとSiH4ガスとN2ガスが同時に供給されることとなる。すなわち少なくともMoO2Cl2ガスとSiH4ガスとは同時に並行して供給されるタイミングを有し、少なくともMoO2Cl2ガスとSiH4ガスとは一部が重なるように供給されるタイミングを有する。並行して供給するタイミングを有することにより、Moの吸着を阻害するClを除去しつつMoを吸着させることができる。
【0045】
このときAPCバルブ243を調整して、処理室201内の圧力を、例えば130~3990Paの範囲内の圧力であって、例えば1000Paとする。MFC322で制御するSiH4ガスの供給流量は、例えば0.1~10slm、好ましくは0.5~2slmの範囲内の流量とする。MFC512,522,532で制御するN2ガスの供給流量は、それぞれ例えば0.01~20slm、好ましくは0.1~10slm、より好ましくは0.1~1slmの範囲内の流量とする。このときヒータ207の温度は、例えば475℃とする。処理室201内の温度が550℃以上となると、SiH4ガスの供給により成膜されるMo膜に含まれるSi含有率が高くなってMoSi膜となってしまう可能性がある。また、Cl、HClを除去しきれずに、成膜レートが低くなってしまう可能性がある。処理室201内の温度を550℃より低くすることで、Siを含有させないようにしてMo含有層中からCl、HClを除去することができる。
【0046】
MoO2Cl2ガスの供給を開始してから所定時間経過後であって例えば0.01~10秒後に、ガス供給管310のバルブ314を閉じて、MoO2Cl2ガスの供給を停止する。つまり、MoO2Cl2ガスをウエハ200に対して供給する時間は、例えば0.01~10秒の範囲内の時間とする。このとき、ノズル410,430内へのSiH4ガスの侵入を防止するために、バルブ514,534を開き、ガス供給管510,530内にN2ガスを流す。N2ガスは、ガス供給管310,330、ノズル410,430を介して処理室201内に供給され、排気管231から排気される。このとき、ウエハ200に対してSiH4ガスとN2ガスが供給されることとなる。
【0047】
[第2の工程(第1パージ工程)]
(残留ガス除去)
SiH4ガスの供給を開始してから所定時間経過後であって例えば0.01~60秒後、好ましくは0.1~30秒後、より好ましくは1~20秒後にバルブ324を閉じて、SiH4ガスの供給を停止する。つまり、SiH4ガスをウエハ200に対して供給する時間は、例えば0.01~60秒、好ましくは0.1~30秒、より好ましくは1~20秒の範囲内の時間とする。すなわち、ウエハ200に対してSiH4ガスを供給していない状態でMoO2Cl2ガスの供給を開始し、ウエハ200に対してSiH4ガスを供給している状態でMoO2Cl2ガスの供給を停止する。このとき排気管231のAPCバルブ243は開いたままとして、真空ポンプ246により処理室201内を真空排気し、処理室201内に残留する未反応もしくはMo含有層形成に寄与した後のMoO2Cl2ガスとSiH4ガスを処理室201内から排除する。すなわち、処理室201内をパージする。このときバルブ514,524,534は開いたままとして、N2ガスの処理室201内への供給を維持する。N2ガスはパージガスとして作用し、処理室201内に残留する未反応もしくはMo含有層形成に寄与した後のMoO2Cl2ガスとSiH4ガスを処理室201内から排除する効果を高めることができる。ここで、成長阻害要因であるCl、HClが、SiH4と反応し、Mo含有層から脱離して、四塩化ケイ素(SiCl4)と水素(H2)として処理室201内から排出される。Cl、HClは、Moの吸着を阻害し、成膜レートを低下させる要因となってしまう。添加ガスであるSiH4ガスの供給により、後述する還元ガスであるH2ガスの供給前に、Cl、HClをMo含有層から脱離し除去しておくことで、1サイクル中でのMoの吸着サイトを増やすことができる。なお、ここでは、第1パージ工程をSiH4ガスの供給を停止後に開始させる例を示したが、これに限らず、MoO2Cl2ガスの供給停止後に行わせても良い。
【0048】
[第3の工程]
(H2ガス供給)
処理室201内の残留ガスを除去した後、バルブ334を開き、ガス供給管330内に、Hを含み、添加ガスとは化学的な組成が異なる還元ガスであるH2ガスを流す。H2ガスは、MFC332により流量調整され、ノズル430のガス供給孔430aから処理室201内に供給され、排気管231から排気される。このときウエハ200に対して、H2ガスが供給される。このとき同時にバルブ534を開き、ガス供給管530内にN2ガスを流す。ガス供給管530内を流れたN2ガスは、MFC532により流量調整される。N2ガスはH2ガスと一緒に処理室201内に供給され、排気管231から排気される。このとき、ノズル410,420内へのH2ガスの侵入を防止するために、バルブ514,524を開き、ガス供給管510,520内にN2ガスを流す。N2ガスは、ガス供給管310,320、ノズル410,420を介して処理室201内に供給され、排気管231から排気される。
【0049】
このときAPCバルブ243を調整して、処理室201内の圧力を、例えば1~3990Paの範囲内の圧力であって、例えば2000Paとする。MFC332で制御するH2ガスの供給流量は、例えば1~50slm、好ましくは15~30slmの範囲内の流量とする。MFC512,522,532で制御するN2ガスの供給流量は、それぞれ例えば0.1~30slmの範囲内の流量とする。H2ガスをウエハ200に対して供給する時間は、例えば0.01~30秒の範囲内の時間とする。このときのヒータ207の温度は、SiH4ガス供給ステップと同様の温度に設定する。
【0050】
このとき処理室201内に流しているガスは、H2ガスとN2ガスのみである。H2ガスは、第1の工程でウエハ200上に形成されたMo含有層の少なくとも一部と置換反応する。すなわち、Mo含有層中のOが、H2と反応し、Mo含有層から脱離して、水蒸気(H2O)として処理室201内から排出される。なお、この第3の工程における時間は、上述した第1の工程において添加ガスであるSiH4ガス供給を実行しなかった場合と比較して短くすることができる。また、添加ガスであるSiH4ガスの供給時間と還元ガスであるH2ガスの供給時間の合計は所定時間となるよう設定される。すなわち、添加ガスの供給時間を短くした場合には、還元ガスの供給時間を長くし、添加ガスの供給時間を長くした場合には、還元ガスの供給時間を短くすることができる。そして、ウエハ200上にMoを含みClとOを実質的に含まないMo層が形成される。
【0051】
[第4の工程(第2パージ工程)]
(残留ガス除去)
Mo層を形成した後、バルブ334を閉じて、H2ガスの供給を停止する。
そして、上述した第2の工程と同様の処理手順により、処理室201内に残留する未反応もしくはMo層の形成に寄与した後のH2ガスや反応副生成物を処理室201内から排除する。すなわち、処理室201内をパージする。
【0052】
ここで、第1の工程における添加ガスであるSiH4ガスの供給流量は、第1の工程における原料ガスであるMoO2Cl2ガスの供給流量よりも多くし、第3の工程における還元ガスであるH2ガスの供給流量よりも少なくする。添加ガスであるSiH4ガスの供給流量を、原料ガスであるMoO2Cl2ガスの供給流量よりも多くするのは、Mo含有層中のClをSiH4と反応させて脱離し除去したい為である。しかし、SiH4ガスの供給流量を多くし過ぎると、SiH4ガスに含まれるSiがMo含有層中に進入し、成膜されるMo膜にSiが含有してMoSi膜となってしまう可能性がある。したがって、添加ガスであるSiH4ガスの供給流量を、還元ガスであるH2ガスよりも少ない供給流量とする。すなわち、Clを除去しつつSi非含有のMo膜を形成することができる。言い換えれば、添加ガスであるSiH4ガスを、Mo含有層からHClやClが脱離し除去されるまでであってOが脱離する前まで供給し、還元ガスであるH2ガスを、Mo含有層からOが脱離し除去されるまで供給する。
【0053】
また、上述の第1の工程における添加ガスであるSiH4ガス供給時の処理室201内の圧力は、第1の工程における原料ガスであるMoO2Cl2ガス供給時の処理室201内の圧力と同等とし、第3の工程における還元ガスであるH2ガス供給時の処理室201内の圧力よりも低くする。
【0054】
また、上述の第2の工程である第1パージ工程おけるパージ時間は、上述の第4の工程である第2パージ工程におけるパージ時間以下に設定される。すなわち、第2パージ工程におけるパージ時間を、第1パージ工程におけるパージ時間よりも長く設定する。第1パージ工程では、吸着していないMo含有ガスの除去が行われ、第2パージ工程では、生成された反応副生成物であるH2O等の除去が行われるためである。
【0055】
また、Mo含有層にMoOxCly *が吸着すると、OとClの分子の大きさが大きい為にMoの吸着が阻害されてしまう。言い換えると、MoOxCly *の様な構造は、立体障害として作用し、Moが吸着可能な吸着サイトが減ってしまう。ここで、xとyは例えば自然数である。SiH4ガスの供給によりMo含有層からCl、HClを脱離し除去してから、H2ガスの供給によりMo含有層からOを脱離し除去して、2段階で還元することで、Moの吸着サイトを増やしつつ、成膜阻害要因となるCl、HClが低減されたMo膜を形成することができる。
【0056】
(所定回数実施)
上記した第1の工程~第4の工程を順に行うサイクルを1回以上(所定回数(n回))行うことにより、ウエハ200上に、所定の厚さ(例えば0.5~5.0nm)のMo膜を形成する。上述のサイクルは、複数回繰り返すのが好ましい。すなわち、原料ガスであるMoO2Cl2ガスの供給と、添加ガスであるSiH4ガスの供給と、還元ガスであるH2ガスの供給と、をパルス状にサイクリックに行うことにより、ウエハ200上に、所定の厚さのMo膜を形成する。
【0057】
(アフターパージおよび大気圧復帰)
ガス供給管510,520,530のそれぞれからN2ガスを処理室201内へ供給し、排気管231から排気する。N2ガスはパージガスとして作用し、これにより処理室201内が不活性ガスでパージされ、処理室201内に残留するガスや反応副生成物が処理室201内から除去される(アフターパージ)。その後、処理室201内の雰囲気が不活性ガスに置換され(不活性ガス置換)、処理室201内の圧力が常圧に復帰される(大気圧復帰)。
【0058】
(ウエハ搬出)
その後、ボートエレベータ115によりシールキャップ219が下降されて、アウタチューブ203の下端が開口される。そして、処理済ウエハ200がボート217に支持された状態でアウタチューブ203の下端からアウタチューブ203の外部に搬出(ボートアンロード)される。その後、処理済のウエハ200は、ボート217より取り出される(ウエハディスチャージ)。
【0059】
(3)本実施形態による効果
本実施形態によれば、以下に示す1つまたは複数の効果を得ることができる。
(a)成膜阻害要因となるCl、HClを低減したMo膜を形成することができる。
(b)成膜阻害要因となるCl、HClを除去して、1サイクル中でのMoの吸着サイトを増やすことができる。
(c)添加ガスを用いない場合と比較して、還元ガスの供給時間を短くすることができ、スループットを向上させることができる。
(d)Mo膜の膜特性を向上させることができる。すなわち、添加ガスを用いない場合と比較して、Mo膜中のCl含有量(Cl濃度)を低減し、抵抗率を低くし、段差被覆性(カバレッジ)の良好なMo膜を形成することができる。
【0060】
<変形例>
上述した本実施形態の変形例では、図5に示すように、上述した第1の工程と第2の工程を1回以上(所定回数(n回))、交互に繰り返し行った後に、上述の第3の工程と第4の工程を行う。すなわち、原料ガスであるMoO2Cl2ガス供給と添加ガスであるSiH4ガス供給を一部が重なるように交互に複数回行った後、還元ガスであるH2ガス供給を行う。すなわち、原料ガスであるMoO2Cl2ガスの供給と、添加ガスであるSiH4ガスの供給と、をパルス状にサイクリックに行った後に、還元ガスであるH2ガスの供給を行う。このような場合であっても、ウエハ200上に、成膜阻害要因となるCl、HClが低減されたMo膜を形成することができ、上述の図4に示す成膜シーケンスと同様の効果が得られる。
【0061】
なお、上記実施形態及び変形例では、原料ガスであるMoO2Cl2ガス供給と添加ガスであるSiH4ガス供給の一部が重なるように供給されるタイミングを有する構成について説明したが、これに限らず、原料ガスであるMoO2Cl2ガス供給と添加ガスであるSiH4ガス供給を同時に並行して行ってもよい。すなわちMoO2Cl2ガス供給とSiH4ガス供給とが同時に並行して開始され、同時に停止されるようにしてもよい。すなわち、原料ガスであるMoO2Cl2ガスの供給と添加ガスであるSiH4ガスの供給を同時に行った後に、還元ガスであるH2ガスの供給を行ってもよい。それぞれパルス状にサイクリックに行うことにより、Moの吸着を阻害するCl、HClをMo含有層から脱離して除去しつつMoを吸着させることができ、ウエハ200上に、成膜阻害要因となるCl、HClが低減されたMo膜を形成することができる。すなわち、このような場合であっても、上述の図4に示す成膜シーケンスと同様の効果が得られる。
【0062】
また、上記実施形態及び変形例では、原料ガスであるMoO2Cl2ガスと同時又は一部が重なるように、添加ガスであるSiH4ガスを供給し、その後に還元ガスであるH2ガスを供給する構成について説明したが、これに限らず、MoO2Cl2ガス供給と、SiH4ガス供給と、H2ガス供給と、を順に行ってもよく、MoO2Cl2ガス供給とSiH4ガス供給と、を交互に繰り返した後に、還元ガスであるH2ガスを供給する構成についても適用することができる。
【0063】
また、上記実施形態及び変形例では、原料ガスとしてMoとOを含むMo含有ガスであるMoO2Cl2ガスを用いる例について説明したが、これに限らず、酸化四塩化モリブデン(MoOCl4)や、MoとClを含むMo含有ガスである五塩化モリブデン(MoCl5)等のガスを適用することができる。
【0064】
また、上記実施形態及び変形例では、添加ガスとしてHとSiを含むSiH4ガスを用いる例について説明したが、これに限らず、ジシラン(Si26)等のガスを適用することができる。また、添加ガスとしてHを含むアンモニア(NH3)や、HとCを含むピリジン(C55N)等のガスを用いた場合であっても、ClはHClとして除去され、上述の図4に示す成膜シーケンスと同様の効果が得られる。
【0065】
また、上記実施形態及び変形例では、還元ガスとしてH2ガスを用いる例について説明したが、これに限らず、Hを含むH含有ガスであればよい。
【0066】
また、上記実施形態及び変形例では、一度に複数枚の基板を処理するバッチ式の基板処理装置を用いて成膜を行う構成について説明したが、本開示はこれに限定されず、一度に1枚または数枚の基板を処理する枚葉式の基板処理装置を用いて成膜を行う場合にも、好適に適用できる。
【0067】
以上、本開示の種々の典型的な実施形態を説明してきたが、本開示はそれらの実施形態に限定されず、適宜組み合わせて用いることもできる。
【0068】
以下に実施例を説明するが、本開示はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0069】
<実施例>
本実施例では、上述した実施形態における図4に示すガス供給のタイミングを用いてウエハ上に200Åの膜厚のMo膜を形成した。すなわち、原料ガス(MoO2Cl2ガス)に一部が重なるように添加ガス(SiH4ガス)を供給し、その後に還元ガス(H2ガス)を供給した。比較例では、図4に示すガス供給のうち添加ガス(SiH4ガス)の供給を行なっていない。具体的には、比較例では、MoO2Cl2ガス供給、残留ガス除去、H2ガス供給、残留ガス除去を繰り返し行ってウエハ上に200Åの膜厚のMo膜を形成した。
【0070】
比較例では、1サイクル中の第1の工程の処理時間が12秒、第2の工程の処理時間が6秒、第3の工程の処理時間が24秒、第4の工程の処理時間が18秒で、200Åの膜厚のMo膜を形成するのに400サイクル行ってかかった時間は400分だった。また、1時間当たりのウエハの処理枚数は10.91枚だった。
【0071】
これに対して、本実施例では、1サイクル中の第1の工程の処理時間が12秒、第2の工程の処理時間が6秒、第3の工程の処理時間が12秒、第4の工程の処理時間が18秒で、200Åの膜厚のMo膜を形成するのに400サイクル行ってかかった時間は320分だった。また、1時間当たりのウエハの処理枚数は12.77枚だった。
【0072】
すなわち、本実施例では、比較例と比べて1サイクル中の第3の工程の処理時間である還元ガスであるH2ガスの供給時間を短くすることができた。すなわち、本実施例では、1サイクル中の還元ガスの供給時間を、添加ガスを供給することにより、比較例における1サイクル中の還元ガスの供給時間の半分程度に短くすることができた。よって、Mo膜の成膜時間を短くすることができ、1時間当たりのウエハの処理枚数を増加させることができた。すなわち、スループットを向上させることができた。これは、還元ガスであるH2ガス供給時にHCl、Clが除去されたために、Moがより吸着しやすくなっていたためと考えられる。
【0073】
<本開示の好ましい態様>
以下に、本開示の好ましい態様について付記する。
(付記1)
(a)処理室内の基板に対して、モリブデンと酸素を含むモリブデン含有ガスを供給する工程と、
(b)前記基板に対して、水素を含む添加ガスを供給する工程と、
(c)前記基板に対して、水素を含み前記添加ガスとは化学的な組成が異なる還元ガスを供給する工程と、を有し、
前記(a)、(b)、(c)工程を、同時又は順に、一回以上行い、前記基板上にモリブデン膜を形成する半導体装置の製造方法。
(付記2)
前記モリブデン含有ガスは、ハロゲン元素を含む。
(付記3)
前記モリブデン含有ガスは、MoO2Cl2(モリブデンジクロリドジオキシド)を含み、前記添加ガスは、SiH4(モノシラン)、NH3(アンモニア)、C55N(ピリジン)からなる群から選択される少なくとも一つを含む。
(付記4)
前記添加ガスの供給流量は、前記モリブデン含有ガスの供給流量よりも多く、前記還元ガスの供給流量よりも少ない。
(付記5)
前記(a)工程及び前記(b)工程では、前記基板に対して前記添加ガスを供給していない状態で前記モリブデン含有ガスの供給を開始し、前記基板に対して前記添加ガスを供給している状態で前記モリブデン含有ガスの供給を停止する。
(付記6)
前記(c)工程における時間は、前記(a)工程と同時に前記(b)工程を実行しなかった場合と比較して短くする。
(付記7)
前記添加ガスの供給時間と前記還元ガスの供給時間の合計は所定時間となるよう設定される。
(付記8)
前記(a)工程の後に前記処理室内をパージする第1パージ工程と、
前記(c)工程の後に前記処理室内をパージする第2パージ工程と、を有し、
前記第1パージ工程における時間は、前記第2パージ工程における時間以下である。
(付記9)
前記(a)工程と前記(b)工程と、を交互に行った後に、前記(c)工程を行う。
(付記10)
(a)基板処理装置の処理室内の基板に対して、モリブデンと酸素を含むモリブデン含有ガスを供給する手順と、
(b)前記基板に対して、水素を含む添加ガスを供給する手順と、
(c)前記基板に対して、水素を含み前記添加ガスとは化学的な組成が異なる還元ガスを供給する手順と、を有し、
前記(a)、(b)、(c)の手順を、同時又は順に、一回以上行い、前記基板上にモリブデン膜を形成する手順をコンピュータにより前記基板処理装置に実行させるプログラム。
(付記11)
基板を収容する処理室と、
前記処理室内に、モリブデンと酸素を含むモリブデン含有ガスと、水素を含む添加ガスと、水素を含み前記添加ガスとは化学的な組成が異なる還元ガスと、をそれぞれ供給するガス供給系と、
前記処理室内を排気する排気系と、
前記ガス供給系と前記排気系を制御して、前記処理室内に収容された基板に対して、(a)前記モリブデン含有ガスを供給する処理と、(b)前記添加ガスを供給する処理と、(c)前記還元ガスを供給する処理と、を同時又は順に、一回以上行い、前記基板上にモリブデン膜を形成するよう制御するように構成される制御部と、
を有する基板処理装置。
【符号の説明】
【0074】
10 基板処理装置
121 コントローラ
200 ウエハ(基板)
201 処理室
図1
図2
図3
図4
図5