IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人埼玉大学の特許一覧 ▶ 国立大学法人東京工業大学の特許一覧 ▶ 国立大学法人 東京大学の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-04
(45)【発行日】2022-08-15
(54)【発明の名称】電流遮断装置及び電流遮断方法
(51)【国際特許分類】
   H01H 9/54 20060101AFI20220805BHJP
   H01H 33/59 20060101ALI20220805BHJP
   H01H 85/46 20060101ALI20220805BHJP
   H02H 3/08 20060101ALI20220805BHJP
【FI】
H01H9/54 E
H01H33/59 B
H01H85/46
H02H3/08 P
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021546922
(86)(22)【出願日】2020-09-15
(86)【国際出願番号】 JP2020034978
(87)【国際公開番号】W WO2021054338
(87)【国際公開日】2021-03-25
【審査請求日】2022-04-25
(31)【優先権主張番号】P 2019168601
(32)【優先日】2019-09-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504190548
【氏名又は名称】国立大学法人埼玉大学
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】特許業務法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】稲田 優貴
(72)【発明者】
【氏名】山納 康
(72)【発明者】
【氏名】前山 光明
(72)【発明者】
【氏名】全 俊豪
(72)【発明者】
【氏名】大西 亘
【審査官】内田 勝久
(56)【参考文献】
【文献】実開昭50-093569(JP,U)
【文献】特開2008-59967(JP,A)
【文献】特開2009-218054(JP,A)
【文献】特開2008-270171(JP,A)
【文献】特表2018-535629(JP,A)
【文献】国際公開第2017/221561(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01H 9/54 - 9/56
H01H 33/28 - 33/59
H01H 85/00 - 87/00
H02H 3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の電源から負荷装置への電力供給路に設けられ、該電力供給路を流れる電流が第1電流閾値を超えると限流作用を発揮する限流素子と、
前記電力供給路に並列に接続される転流路における導電のオン/オフを切り替え可能な転流路スイッチと、
前記転流路スイッチのオン/オフを制御する制御装置と、を備える電流遮断装置であって、
前記制御装置は、
前記限流素子に流れる電流が前記第1電流閾値を越えた後に第2電流閾値まで限流されたことを検出すると、前記転流路スイッチをオフからオンに切り替え、
前記転流路スイッチをオンにしてから所定のスイッチオン維持時間が経過すると前記転流路スイッチを再びオフに切り替えるように構成されることを特徴とする、
電流遮断装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電流遮断装置であって、
前記第2電流閾値は、前記転流路スイッチをオフからオンに切り替えた際に流れる電流が、該転流路スイッチの設計上の許容電流以下となるように定められる、
電流遮断装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電流遮断装置であって、
前記スイッチオン維持時間は、前記転流路スイッチを再びオフに切り替えるタイミングにおいて前記限流素子の電気抵抗が所定の抵抗閾値を越えるように設定される、
電流遮断装置。
【請求項4】
請求項1~3の何れか1項に記載の電流遮断装置であって、
さらに、
前記転流路スイッチに並列に配置された過電圧抑制素子を備え、
前記過電圧抑制素子は、該過電圧抑制素子の端子間電圧が所定の閾値電圧以下である場合には略絶縁素子として機能し、前記端子間電圧が前記閾値電圧を超える場合には導体として機能し、
前記過電圧抑制素子は、前記転流路スイッチが再びオフに切り替えられたときの電流変化により生じる誘起電圧よりも低い前記閾値電圧をとるように構成される、
電流遮断装置。
【請求項5】
請求項1~4の何れか1項に記載の電流遮断装置であって、
前記限流素子に直列に設けられた開閉器をさらに備え、
前記制御装置は、前記限流素子に流れる電流が前記第1電流閾値を越えた後であって前記転流路スイッチを再びオフに切り替える前の所定タイミングにおいて前記開閉器をオンからオフに切り替えるように構成される、
電流遮断装置。
【請求項6】
請求項1~5の何れか1項に記載の電流遮断装置であって、
前記転流路スイッチは、半導体パワーモジュールである、
電流遮断装置。
【請求項7】
請求項1~6の何れか1項に記載の電流遮断装置であって、
前記限流素子は、限流ヒューズである、
電流遮断装置。
【請求項8】
所定の電源から負荷装置への電力供給路に設けられ、該電力供給路を流れる電流が第1電流閾値を超えると限流作用を発揮する限流素子と、前記電力供給路に並列に接続される転流路における導電のオン/オフを切り替え可能な転流路スイッチと、を備える電流遮断装置において実行される電流遮断方法であって、
前記限流素子に流れる電流が前記第1電流閾値を越えた後に第2電流閾値まで限流されたことを検出すると、前記転流路スイッチをオフからオンに切り替え、
前記転流路スイッチをオンにしてから所定のスイッチオン維持時間が経過すると該転流路スイッチを再びオフに切り替えることを特徴とする、
電流遮断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電流遮断装置及び電流遮断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、送配電用の電力系統などの電気設備において、落雷などの事故的事象により発生する過大な異常電流から電気機器を保護すべく電力系統内の電路を遮断する遮断器(開閉器)が知られている。このような従来の遮断器として、磁気遮断器(アークシュート)、真空遮断器、及びガス遮断器などが挙げられる。
【0003】
さらに、上記従来の遮断器においては、内部の電路開極時にアーク放電が発生する。ここで、電力系統内の電流が0となるタイミング(電流零点)ではアークへの電力供給が一時的に0となる。このため、多くの場合、アークの消弧点(遮断点)と電流零点は一致する。したがって、上記従来の遮断器では、電流零点を受動的に待つか、電力系統内の電流を0に近づける積極的な操作(逆電流の注入及びアーク消弧などによる限流操作)を実行する必要がある。
【0004】
しかしながら、電流零点を待って遮断を行う場合、当該遮断のタイミングまでに一定以上の時間を要することがあり、電力系統内の電気設備が過大な異常電流に晒されて損傷を受ける恐れがあった。
【0005】
また、異常電流の発生時に限流操作を経て遮断を行う場合、遮断機能に加えて当該限流操作のための逆電流注入回路などを別途設ける必要がある。そのため、遮断装置全体が大型化する傾向にあった。
【0006】
一方、電力系統において限流ヒューズを用いて限流及び遮断を行う遮断装置も知られている。例えば、JP2008/59967Aでは、限流ヒューズを備えた遮断装置が提案されている。このJP2008/59967Aにおける遮断装置では、異常電流が生じると通常時の送電経路として機能する電路を電路遮断器により遮断して、当該異常電流を限流ヒューズに転流する。そして、限流ヒューズにおいてアーク放電を消弧することで、異常電流が0となる実質的な遮断完了に至るまで限流を行う。
【0007】
また、JP6456575Bにおいても、ヒューズを用いて大電流を遮断する直流遮断器が提案されている。この直流遮断器では、相互に並列に配置されたヒューズ遮断部と高速断路器を有し、事故電流を検出すると、高速断路器が開極して大電流をヒューズに転流させて遮断を行う。
【0008】
JP2008/59967A及びJP6456575Bにおける遮断装置は、何れも上述のアークシュート、真空遮断器、及びガス遮断器と比べて構成が簡素であり、装置全体の小型化も可能である。
【発明の概要】
【0009】
しかしながら、限流ヒューズの限流能力には限界がある。このため、限流ヒューズを用いて遮断を実行する場合には、異常電流の大きさなどによってはある程度の限流を行うことはできるものの、異常電流が0となるまで限流される前に限流作用の限界点(遮断容量の上限)に達してしまう状況が想定される。この場合、電力系統内における異常電流を0とすることができないか、或いは0となるまでに長い時間がかかることとなる。
【0010】
これに対し、上記特許文献1の遮断装置では、限流ヒューズに限流用抵抗を並列に配置して、当該限流用抵抗によって限流ヒューズの限流性能を補う回路構成をとっている。しかしながら、限流ヒューズに加えて限流用抵抗を設ける必要があるため、部品点数の増加及びこれに起因した装置構成の複雑化や製造コストの増大が懸念される。特に、遮断装置が適用すべき電力系統の種類や異常電流の大きさなどによっては、限流用抵抗に求められる限流性能に対する要求がより高くなることで、さらなる装置の大型化及び製造コストの増大がもたらされる恐れがある。
【0011】
また、たとえ、限流ヒューズの限流能力の範囲内で異常電流が0となるまで限流させて遮断に至ることができた場合であっても、当該限流に比較的長い時間がかかり、速やかに限流及び遮断の完了させることができない場合がある。
【0012】
このような事情に鑑み、本発明の目的は、装置の大型化及び製造コストの増大を抑制しつつ、異常電流の限流及び遮断を好適に実行することのできる電流遮断装置及び電流遮断方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のある態様によれば、所定の電源から負荷装置への電力供給路に設けられ、該電力供給路を流れる電流が第1電流閾値を超えると限流作用を発揮する限流素子と、電力供給路に並列に接続される転流路における導電のオン/オフを切り替え可能な転流路スイッチと、転流路スイッチのオン/オフを制御する制御装置と、を備える電流遮断装置が提供される。そして、制御装置は、限流素子に流れる電流が第1電流閾値を越えた後に第2電流閾値まで限流されたことを検出すると、転流路スイッチをオフからオンに切り替え、転流路スイッチをオンにしてから所定のスイッチオン維持時間が経過すると転流路スイッチを再びオフに切り替えるように構成される。
【0014】
また、本発明の他の態様によれば、所定の電源から負荷装置への電力供給路に設けられ、該電力供給路を流れる電流が第1電流閾値を超えると限流作用を発揮する限流素子と、電力供給路に並列に接続される転流路における導電のオン/オフを切り替え可能な転流路スイッチと、を備える電流遮断装置において実行される電流遮断方法が提供される。そして、この電流遮断方法では、限流素子に流れる電流が第1電流閾値を越えた後に第2電流閾値まで限流されたことを検出すると、転流路スイッチをオフからオンに切り替え、転流路スイッチをオンにしてから所定のスイッチオン維持時間が経過すると該転流路スイッチを再びオフに切り替える。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の第1実施形態の電流遮断装置の構成を説明する図である。
図2A】異常電流が発生した直後の電流遮断装置の状態を説明する図である。
図2B】転流時(半導体パワーモジュールをオンに切り替えたとき)の電流遮断装置の状態を説明する図である。
図2C】遮断時(半導体パワーモジュールを再びオフに切り替えたとき)の電流遮断装置の状態を説明する図である。
図3】異常電流の発生、限流、及び遮断に至るまでの電圧・電流の経時変化を説明するグラフである。
図4】本実施形態の電流遮断装置による効果を説明する図である。
図5】従来技術を説明する図である。
図6】第2実施形態に係る電流遮断装置の構成を説明する図である。
図7A】異常電流の遮断完了時に回復電圧が発生した状態を説明する図である。
図7B】回復電圧Vindが解消された状態を説明する図である。
図8】異常電流の発生、限流、遮断、及び回復電圧の解消に至るまでの電圧・電流の経時変化を説明するグラフである。
図9】第3実施形態に係る電流遮断装置の構成を説明する図である。
図10】第4実施形態に係るヒューズ交換機構の構成を説明する図である。
図11A】ヒューズ交換機構の動作を説明する図である。
図11B】ヒューズ交換機構の動作を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
【0017】
なお、本明細書において、「異常電流」とは、短絡及び地絡などの事故的な要因により生じ、電力系統の通常(定常)動作時において想定される電流(定常電流)を超えて生じる電流(過電流)を意味する。
【0018】
また、本明細書で用いる「電気抵抗」という用語には、直流抵抗に加えて交流抵抗(インピーダンス)も含まれるものとする。
【0019】
さらに、本明細書において、「限流」とは、異常電流の電流値を経時的に減少させる現象又は動作を意味する。
【0020】
さらに、「遮断」とは、対象となる電力系統において、電源側と負荷側の間における任意の電流経路に流れる電流を略0にする操作を意味する。特に、遮断とは、電源と負荷の間の電位差の内、異常電流に起因した過渡電圧を解消しつつ、電源と負荷の間の電気的接続を断つ操作である。
【0021】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態に係る電流遮断装置10の構成を説明する図である。図示のように、本実施形態の電流遮断装置10は、所定の電源100から負荷装置200への送電のための電力系統に設けられる。
【0022】
なお、本実施形態の電流遮断装置10が適用される電力系統としては、既存の鉄道電気システム、並びに電力送配電需要者に電力を供給するための送電系統及び配電系統に加え、いわゆるスマートグリッド及びスーパーグリッドなどの次世代送配電システムが想定される。
【0023】
また、以下では、説明及び図面の簡略化のため電流遮断装置10が直流電力系統に適用されることを前提とする。しかしながら、以下で説明する電流遮断装置10の構成は、適宜若干の修正を加えることで交流電力系統に適用することも可能である。
【0024】
図1に示すように、電流遮断装置10は、限流ヒューズ12と、半導体パワーモジュール14と、制御装置としてのコントローラ20と、を備える。
【0025】
限流ヒューズ12は、電源100から負荷装置200への送電ための電路となる主電力供給路C1に設けられ、限流素子として機能する。より詳細には、限流ヒューズ12は、ケース体12aと、ケース体12aの内部に収容された導電性の可溶エレメント12bと、可溶エレメント12bの周囲を充填する消弧砂12cと、を含む。なお、限流ヒューズ12の両接点には可溶エレメント12bに結合した図示しない導電板が設けられている。そして、この両接点のそれぞれの導電板を介して可溶エレメント12bが主電力供給路C1と電気的に接続されている。
【0026】
可溶エレメント12bは、限流ヒューズ12に流れる電流(以下、単に「ヒューズ電流if」とも称する)が所定の溶融電流Ith1(第1電流閾値)以下である場合に電気抵抗が実質的に0となる導体として機能する一方で、ヒューズ電流ifが当該溶融電流Ith1を超えると溶融する金属材料により構成されている。
【0027】
すなわち、可溶エレメント12bは、その溶融電流Ith1が通常時に想定されるヒューズ電流ifである定常電流Isよりも大きく、且つ異常電流の発生時に想定されるヒューズ電流ifよりも小さくなるように構成される。
【0028】
したがって、異常電流が生じてヒューズ電流ifが溶融電流Ith1を超えると、可溶エレメント12bが溶融しはじめて当該限流ヒューズ12の実質的な電気抵抗が増大する。そして、さらに、可溶エレメント12bの溶融が進行して溶断した状態に至ると、限流ヒューズ12内の導電経路は、高い電気抵抗を有する消弧砂12cとなる。
【0029】
消弧砂12cは、可溶エレメント12bが溶断することで生じるアークのエネルギーを吸収する。すなわち、異常電流アークのエネルギーがこの消弧砂12cへと散逸することによって、アーク抵抗が漸次増大して(ヒューズ電流ifが減少し続けて)、限流作用が得られる。そして、消弧砂12cによる限流作用が得られる限界まで消弧が進行すると、それ以上電流低下が進行せずに、ヒューズ電流ifがほぼ減少しない状態となる。すなわち、この状態が、限流ヒューズ12の限流作用の限界点となる。なお、限流ヒューズ12は、限流作用の限界点を越えても消弧砂12cによる消弧(異常電流アークのエネルギー吸収効果)を一定程度継続的に発揮する。そして、限流ヒューズ12は、限流作用の限界点を越えた以降の消弧の進行に応じても電気抵抗が漸次増大して実質的な絶縁物に近づいていく。
【0030】
半導体パワーモジュール14は、主電力供給路C1と並列に接続される転流路C2に設けられる。半導体パワーモジュール14は、コントローラ20からの指令信号に基づき、転流路C2の導通のオンとオフを切り替える転流路スイッチとして機能する。特に、半導体パワーモジュール14は、IGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)モジュール、又はMOSFET(metal-oxide-semiconductor field-effect transistor)などの数ミリ秒オーダーで転流路C2のオン/オフを切り替え可能な半導体素子により構成することできる。
【0031】
半導体パワーモジュール14は、設計上定まる許容電流以下の電流(以下、単に「モジュール電流ipm」とも称する)の導通を許容する。また、本実施形態の半導体パワーモジュール14は、通常時における電源100と負荷装置200の間の電位差(以下、単に「定常電圧V0」とも称する)に基づいて定まる電流(以下、単に「定常電流Is」とも称する)と後述の残留する異常電流の和を超える値の許容電流を持つように構成される。
【0032】
コントローラ20は、半導体パワーモジュール14のオン/オフを制御する制御装置として機能する。特に、コントローラ20は、主電力供給路C1に設けられる電流センサ18により検出される電流検出値(すなわち、ヒューズ電流ifの検出値)を取得し、取得したヒューズ電流ifに基づいて、半導体パワーモジュール14を適宜、オン又はオフに設定する。
【0033】
より詳細に、コントローラ20は、電流センサ18から取得したヒューズ電流ifが所定の転流閾値ith2以下に維持されている場合には、半導体パワーモジュール14をオフに維持する。これにより、異常電流が発生していない通常時には、転流路C2の導通が遮断される状態となる。
【0034】
一方、コントローラ20は、電流センサ18から取得したヒューズ電流ifが転流閾値ith2を下回ったと判断すると、半導体パワーモジュール14をオフからオンに切り替える。さらに、コントローラ20は、半導体パワーモジュール14をオンに切り替えた後に後述するスイッチオン維持時間Δtが経過したか否かを判定する。そして、コントローラ20は、当該スイッチオン維持時間Δtが経過したことを検出すると、半導体パワーモジュール14を再びオフに切り替える。
【0035】
なお、このコントローラ20による半導体パワーモジュール14のオン/オフ制御については、後にさらに詳細に説明する。
【0036】
上述した各処理を実行するコントローラ20は、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えたコンピュータ、特にマイクロコンピュータで構成される。そして、コントローラ20は、上述した各処理を実行するようにプログラムされている。なお、コントローラ20は一つの装置として構成されていても良いし、複数の装置に分けられ、本実施形態の各処理を当該複数の装置で分散処理するように構成されていても良い。
【0037】
以上説明した構成を備える電流遮断装置10の動作について特に図2A図2C、及び図3を参照して説明する。なお、以下の説明では、電源100と電流遮断装置10の間で異常電流の原因となる雷過電圧などの事故的要因が発生したことを仮定して説明を行う。すなわち、電流遮断装置10に対して電源100側が異常電流をもたらし得る電圧の高電位側であり、負荷装置200側が低電位側であって、電源100から負荷装置200に向かって異常電流が流れるシーンを想定する。
【0038】
しかしながら、以下の説明は、電流遮断装置10と負荷装置200の間で事故的要因が発生することにより、異常電流が電流遮断装置10から電源100に向かって流れる場合に対しても、若干の修正を加えることで同様に適用することができる。
【0039】
図2Aは、電流遮断装置10において、異常電流が発生した直後の状態を説明する図である。図2Bは、異常電流が発生して半導体パワーモジュール14がオンとなった状態(転流時)を説明する図である。図2Cは、異常電流の遮断完了時の状態を説明する図である。
【0040】
さらに、図3は、図2A図2Cに示す異常電流の発生、限流、及び遮断に至るまでの電流遮断装置10における電圧・電流の経時変化を説明するグラフである。なお、図3に示す異常電流の発生から遮断に至るまでの時間は、一般的には、電流遮断装置10の各構成部品の仕様及びこれが適用される電力系統の態様によって異なるが例えば、数十ms~数百msの範囲に収められる。
【0041】
先ず、電源100と電流遮断装置10の間で生じた過電圧により異常電流が発生すると(図3の時刻t1)、電源100から負荷装置200である主電力供給路C1において定常電流Isを超える大電流が流れる(図2A参照)。このため、ヒューズ電流ifが短時間の間に増大する(図3の時刻t1~時刻t2)。
【0042】
そして、ヒューズ電流ifが増大して溶融電流Ith1を超えると、限流ヒューズ12の可溶エレメント12bが溶融から溶断に至る。これにより、溶断と略同時に発弧するアークのエネルギーが消弧砂12cへと散逸することで限流ヒューズ12の電気抵抗が漸次増大する。そして、このように電気抵抗が漸次増大することで、ヒューズ電流ifが徐々に減少する(図3の時刻t2以降)。すなわち、この時刻t2以降において、限流ヒューズ12による限流作用が発揮されている状態である。
【0043】
次に、ヒューズ電流ifが転流閾値ith2まで低下すると、コントローラ20により半導体パワーモジュール14からオフからオンに切り替える(図3の時刻t3)。
【0044】
ここで、転流閾値ith2は、後に半導体パワーモジュール14を再びオフに切り替えることによる遮断を好適に実行するために、限流ヒューズ12による限流をどの程度まで継続すべきであるかという観点から適宜定めることができる。
【0045】
特に、電流遮断装置10による遮断をできるだけ速やかに完了させることを重視する場合には、後の遮断時においてモジュール電流ipmが半導体パワーモジュール14の許容電流を超えないようにしつつ、できるだけ速やかに遮断に移行するように転流閾値ith2を比較的高い値に設定することができる。
【0046】
一方で、限流ヒューズ12による限流作用をできるだけ発揮させることを重視する場合には、遮断に移行するタイミングが大幅に遅れない範囲で限流によりヒューズ電流ifを十分に低下させるように転流閾値ith2を比較的低い値に設定することができる。
【0047】
そして、ヒューズ電流ifが転流閾値ith2に到達すると、コントローラ20により半導体パワーモジュール14がオフからオンに切り替えられる(図3の時刻t3)。半導体パワーモジュール14がオンに切り替えられると、主電力供給路C1から転流路C2への転流が行われる。すなわち、限流が一定程度まで進行することで高い電気抵抗を示す限流ヒューズ12が配置された主電力供給路C1に対し、半導体パワーモジュール14がオンに切り替わった転流路C2の電気抵抗は著しく低くなるため、電流経路が主電力供給路C1から転流路C2に変更されることとなる(図2B参照)。したがって、ヒューズ電流ifが略0付近まで減少する一方で、モジュール電流ipmが増加する。
【0048】
さらに、半導体パワーモジュール14がオンに切り替わってからスイッチオン維持時間Δtが経過すると、コントローラ20により半導体パワーモジュール14から再びオフに切り替えられる(図3の時刻t4)。半導体パワーモジュール14が再びオフに切り替えられることで遮断が完了する(図2C参照)。
【0049】
ここで、半導体パワーモジュール14をオン状態としている時刻t3~時刻t4の間においては、ヒューズ電流ifが略0となるが、限流ヒューズ12における消弧が継続する。そして、この消弧の進行に応じて限流ヒューズ12内の状態は、非絶縁状態(アークが残留している状態)から略絶縁状態(アークが完全に消弧し、ヒューズ内部の電気導通が消弧砂で完全に断たれた状態)へと漸次推移する。なお、このプロセスは、限流ヒューズ12による限流作用の実質的な限界点に達するタイミングよりも前に、転流(図3の時刻t3)が実行された場合であっても同様に進行する。
【0050】
そのため、本実施形態のスイッチオン維持時間Δtは、半導体パワーモジュール14を再びオフにするタイミングにおいて、限流ヒューズ12の電気抵抗が所定の抵抗閾値を越えるように設定される。なお、この抵抗閾値は限流ヒューズ12の電気抵抗が略絶縁物とみなすことができる程度まで増大したか否かを判断する観点から定められる。
【0051】
特に、この抵抗閾値は、半導体パワーモジュール14を再びオフに切り替える(遮断を完了させる)観点から、電流遮断装置10の回路構成、又は当該電流遮断装置10が適用される電力系統の態様に応じて限流ヒューズ12に要求される適切な絶縁性を考慮して、実験等により予め定められる。
【0052】
したがって、本実施形態では、限流ヒューズ12が略絶縁物となるタイミング(少なくとも限流作用の限界点を越えるタイミング)まで、半導体パワーモジュール14がオンに維持されるようにスイッチオン維持時間Δtの大きさを設定する。
【0053】
これにより、半導体パワーモジュール14を再びオフにした際に、転流路C2を通電していた異常電流が限流ヒューズ12に流れる事態の発生を防止することができる。すなわち、半導体パワーモジュール14をオフにすることにより好適な遮断が実現される。
【0054】
次に、本実施形態の電流遮断装置10による効果を従来技術と対比しつつ、説明する。
【0055】
図4は、本実施形態の電流遮断装置10による効果を説明する図である。特に、図4(a)は、交流電力系統において発生する異常電流を遮断する場合を想定している。一方、図4(b)は、直流電力系統において発生する異常電流を遮断する場合を想定している。
【0056】
図5は、従来技術を説明する図である。特に、図5(a)は、交流電力系統において発生する異常電流を遮断する場合を想定している。一方、図5(b)は、直流電力系統において発生する異常電流を遮断する場合を想定している。
【0057】
先ず、従来の交流電力系統において異常電流の発生時に電力系統における遮断を行う遮断器として、ガス遮断器及び真空遮断器などが用いられている。一般的に、これらの遮断器は、限流機能を備えていない。このため、異常電流を検出した際には、交流電力系統内の交流電流が0となるタイミング(電流零点)を待って遮断を行う必要がある。しかしながら、図5(a)に示すように、異常電流の検出タイミングによっては、当該異常電流に起因した電流のピークを経た後の電流零点において遮断が行われることとなる。この場合、交流電力系統内に大電流が流れた後に遮断が行われることとなるため、系統内の電気設備の損傷が懸念される。
【0058】
これに対して、本実施形態の電流遮断装置10であれば、ヒューズ電流ifが異常電流のピークよりも小さい溶融電流Ith1を超えると、速やかに限流が開始されて、その後遮断が実行されることとなる(図4(a)参照)。したがって、交流電力系統内に大電流が流れることによる電気設備の損傷を防止することができる。
【0059】
次に、従来の直流電力系統において異常電流発生時の遮断を行う遮断器としては、アークシュート(磁気遮断器)、真空遮断器、半導体遮断器、及び真空遮断器と半導体遮断器を組み合わせた複合型遮断器が用いられる。しかしながら、これら装置は何れも大型であり、適用されるべき直流電力系統によっては設置が困難であるという問題がある。
【0060】
また、上記アークシュート、真空遮断器、及び複合型遮断器は、これら自体が限流機能を備えていないため、直流電力系統における遮断の際には、当該異常電流を打ち消す逆電流を注入するための電流注入回路を設ける場合もある。
【0061】
しかしながら、電流注入回路は、異常電流の大きさを検出した後に当該異常電流を打ち消す逆電流を発生させる必要がある。すなわち、図5(b)に示すように、電流注入回路による逆電流の注入は、系統内において打ち消すべき大電流が生じた後に行われることとなる。その結果、上述した交流電力系統の場合と同様に、大電流が流れることによる系統内の電気設備の損傷が懸念される。
【0062】
これに対して、本実施形態の電流遮断装置10であれば、ヒューズ電流ifが異常電流のピークよりも小さい溶融電流Ith1を超えると、速やかに限流が開始されて、その後遮断が実行されることとなる(図4(b)参照)。このため、直流電力系統内に大電流が流れた後の遮断に起因した系統内の電気設備の損傷を防止することができる。
【0063】
したがって、本実施形態の電流遮断装置10であれば、交流電力系統及び直流電力系統の何れにおいても、異常電流の発生時における限流及び遮断を一つの装置により、好適に実行することができる。特に、電流遮断装置10は、主として、限流素子としての限流ヒューズ12と半導体パワーモジュール14を相互に並列に配置してなる簡素な回路構成で実現されるので、装置全体をシンプル且つ小型に構成することができる。すなわち、本実施形態では、電流の遮断機能を有するものの限流機能を備えていない半導体パワーモジュール14と、限流機能を有するものの遮断機能が十分ではない限流ヒューズ12と、を並列に配置しつつ、適切な半導体パワーモジュール14のオン/オフ操作を実行するようにした電流遮断装置10によって、交流電力系統及び直流電力系統の何れにも適用可能で、小型且つ低コストに限流及び遮断を実行することが可能となる。
【0064】
なお、本実施形態の電流遮断装置10の構成は、異常電流の発生時以外に、保守、点検、及び修復作業などの定常電流Isを遮断することが要求されるシーンにおいて、当該遮断を実行する観点からも好適である。
【0065】
以上説明したように、本実施形態の電流遮断装置10は以下の構成を備え、それによる作用効果を奏する。
【0066】
先ず、本実施形態の電流遮断装置10は、所定の電源100から負荷装置200への電力供給路である主電力供給路C1に設けられ、該主電力供給路C1を流れる電流(ヒューズ電流if)が第1電流閾値(溶融電流Ith1)を超えると限流作用を発揮する限流素子としての限流ヒューズ12と、主電力供給路C1に並列に接続される転流路C2における導電のオン/オフを切り替え可能な転流路スイッチとしての半導体パワーモジュール14と、半導体パワーモジュール14のオン/オフを制御する制御装置としてのコントローラ20を備える。
【0067】
そして、コントローラ20は、限流ヒューズ12に流れる電流(ヒューズ電流if)が溶融電流Ith1を越えた後に第2電流閾値(転流閾値ith2)まで限流されたことを検出すると、半導体パワーモジュール14をオフからオンに切り替えるように構成される(図3の時刻t3)。さらに、半導体パワーモジュール14をオンにしてから所定のスイッチオン維持時間Δtが経過すると半導体パワーモジュール14を再びオフに切り替えるように構成される(時刻t4)。
【0068】
これにより、ヒューズ電流ifが溶融電流Ith1を超えると、半導体パワーモジュール14がオフに維持された状態で限流ヒューズ12により一定程度の限流(ヒューズ電流ifが転流閾値ith2に到達するまでの限流)が行われた後に、半導体パワーモジュール14がオンに切り替えられる(図3の時刻t2~時刻t3)。そして、所定のスイッチオン維持時間Δtの経過後に、半導体パワーモジュール14が再びオフに切り替わる(図3の時刻t4)。すなわち、異常電流の発生に起因したヒューズ電流ifが溶融電流Ith1を超えると、限流素子による限流を経て半導体パワーモジュール14によって遮断が実行されることとなる。
【0069】
したがって、主として限流ヒューズ12及び半導体パワーモジュール14の組み合わせにより実現可能な簡素な回路構成の下、半導体パワーモジュール14のオン及びオフを適切なタイミングで切り替えるというシンプルな制御により、任意の電力系統における異常電流の発生時の限流及び遮断の双方を実現可能な装置が提供されることとなる。
【0070】
また、本実施形態の電流遮断装置10の構成であれば、異常電流の発生時において限流ヒューズ12において限流を行いつつも、遮断は限流ヒューズ12ではなく半導体パワーモジュール14のオンからオフへの切り替えにより実現されることとなる。このため、限流ヒューズ12の限流作用の限界による制限を受けることなく、異常電流の限流及び遮断を好適に実行することができる。
【0071】
さらに、本実施形態の電流遮断装置10においては、転流閾値ith2は、半導体パワーモジュール14をオフからオンに切り替えた際に流れる電流(限流ヒューズ12からの転流分)が、半導体パワーモジュール14の設計上の許容電流以下となるように定められる。
【0072】
これにより、半導体パワーモジュール14をオンにした直後(転流直後)のモジュール電流ipmが当該半導体パワーモジュール14の設計上の許容電流以下となるタイミングで、半導体パワーモジュール14がオンに切り替えられることとなる。このため、半導体パワーモジュール14を過大な電流から保護しつつ転流を実行することができる。
【0073】
また、逆に、モジュール電流ipmが半導体パワーモジュール14の許容電流以下となる範囲内なら、当該半導体パワーモジュール14をオフからオンに切り替えるタイミングを任意に設定することができる。すなわち、モジュール電流ipmが許容電流以下となる範囲においてできるだけ早いタイミングで転流に移行するか、或いは限流ヒューズ12における限流をできるだけ進行させた後に転流に移行するかという要求に応じた適切な転流に移行することができる。
【0074】
さらに、上記スイッチオン維持時間Δtは、半導体パワーモジュール14を再びオフに切り替えるタイミング(時刻t4)において、限流ヒューズ12の電気抵抗が所定の抵抗閾値を越えるように設定される。
【0075】
これにより、半導体パワーモジュール14がオンに維持されている状態で、転流路C2における電流の流れによって残留した異常電流の電気エネルギーを消費させる効果に加えて、限流ヒューズ12による限流作用をできるだけ発揮させることによってもこの残留した異常電流の電気エネルギーを可能な限り消費させることができる。このため、半導体パワーモジュール14を再びオフにした際に残留した異常電流の電気エネルギーに起因して再び限流ヒューズ12に電流が流れる事態の発生を防止することができる。すなわち、半導体パワーモジュール14を再びオフにすることによる好適な遮断が実現される。
【0076】
さらに、本実施形態の電流遮断装置10は、転流路スイッチとして半導体パワーモジュール14を採用したことにより、高速なスイッチング動作が可能となっている。このため、半導体パワーモジュール14に対する制御により実現される転流(図3の時刻t3)及び遮断(図3の時刻t4)を、高い制御応答性をもって実行することができる。したがて、異常電流の発生から限流、転流、及び遮断を完了するまでの処理時間をより短縮することができる。このため、各処理の実行が遅れることによって異常電流に起因する大電流が電力系統内に実際に流れてしまうことによる電気設備の損傷の発生をより確実に防止することができる。
【0077】
なお、従来の半導体遮断器(例えば、特許第6497488号)では、基本的に、半導体スイッチがオンに維持されて定常運転時の導通路として機能する。したがって、この半導体スイッチに対する通電に起因して、当該半導体スイッチの抵抗損失及び熱損失が発生していた。
【0078】
これに対して、本実施形態の電流遮断装置10の構成であれば、異常電流の遮断タイミング(時刻t4)直前の比較的短時間以外は、半導体パワーモジュール14がオフに維持されている。このため、従来の半導体遮断器における上述の抵抗損失及び熱損失の問題の発生も抑制される。
【0079】
また、本実施形態では、限流素子として限流ヒューズ12を採用している。すなわち、汎用の限流ヒューズ12を用いて、半導体パワーモジュール14における遮断を実行するために要求される限流作用を実現することが可能である。特に、本実施形態の電流遮断装置10では、遮断が半導体パワーモジュール14に対する操作で行われる。このため、限流素子そのものの機能で実質的な遮断までが求められていた既存の装置とは異なり、必ずしも限流ヒューズ12に遮断に至るまでの限流能力が要求されない。すなわち、限流ヒューズ12に求められる限流機能は、少なくとも半導体パワーモジュール14における遮断の実行に支障が出ない程度にとどまる。このため、電流遮断装置10に用いられる限流ヒューズ12としては、高い限流能力を有する特殊な部品ではなく、標準的な限流機能を備える部品を用いることができる。したがって、限流素子として採用することのできる部品の汎用性を高めることができる。結果として、設計の自由度を向上させることができるとともに、製造コストの抑制も図ることができる。
【0080】
さらに、本実施形態では、所定の電源100から負荷装置200への主電力供給路C1に設けられ、該主電力供給路C1を流れる電流(ヒューズ電流if)が第1電流閾値(溶融電流Ith1)を超えると限流作用を発揮する限流素子としての限流ヒューズ12と、主電力供給路C1に並列に接続される転流路C2における導電のオン/オフを切り替え可能な転流路スイッチとしての半導体パワーモジュール14と、を備える電流遮断装置10において実行される電流遮断方法が提供される。
【0081】
この電流遮断方法では、限流ヒューズ12に流れる電流(ヒューズ電流if)が溶融電流Ith1を越えた後に第2電流閾値(転流閾値ith2)まで限流されたことを検出すると、半導体パワーモジュール14をオフからオンに切り替える(図3の時刻t3)。さらに、半導体パワーモジュール14をオンにしてから所定のスイッチオン維持時間Δtが経過すると半導体パワーモジュール14を再びオフに切り替える(時刻t4)。
【0082】
これにより、電流遮断装置10を用いた電流遮断方法であって、異常電流の限流及び遮断の双方を好適に実現することのできる電流遮断方法を提供することができる。
【0083】
[第2実施形態]
以下、第2実施形態について説明する。なお、第1実施形態と同様の要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0084】
図6は、第2実施形態に係る電流遮断装置10の構成を説明する図である。図示のように、本実施形態の電流遮断装置10は、第1実施形態の電流遮断装置10の構成に加えて、主電力供給路C1及び転流路C2に対して並列に過渡電流電路C3が接続されるとともに、この過渡電流電路C3に過電圧抑制素子としてのバリスタ16が設けられている。
【0085】
バリスタ16は、電源100と負荷装置200の間の端子間電圧vが当該バリスタ16の設計に応じて予め定まるバリスタ電圧Vth以下である場合には、実質的に絶縁体とみなすことができる程度に高い電気抵抗を示す。その一方で、端子間電圧vがバリスタ電圧Vthを越える場合には、端子間電圧vの大きさに応じて当該端子間電圧vを減少させる電流を流す特性を有する。特に、バリスタ電圧Vthは、少なくとも定常電圧V0を超える値に設定される。以下、バリスタ16を備えた電流遮断装置10の機能について説明する。
【0086】
先ず、異常電流の発生、限流、及び遮断に至るまでのプロセスにおける端子間電圧v(≒定常電圧V0)はバリスタ電圧Vth未満であるため、バリスタ16が設けられている過渡電流電路C3の導通も実質的に遮断されている状態となる。このため、本実施形態の電流遮断装置10において、通常時から異常電流の遮断に至るまでのプロセスまでにおける挙動は第1実施形態で説明した電流遮断装置10の場合と同様である。
【0087】
一方、本実施形態の電流遮断装置10において、バリスタ16は異常電流の遮断時(半導体パワーモジュール14を再びオフに切り替えたとき)において生じる回復電圧Vindを打ち消すように機能する。
【0088】
図7Aは、電流遮断装置10において、異常電流の遮断完了時に回復電圧Vindが発生した状態を示している。また、図7Bは、回復電圧Vindが解消された状態を示している。さらに、図8は、異常電流の発生、限流、遮断、及び回復電圧Vindの解消に至るまでの電流遮断装置10における電圧・電流の経時変化を説明するグラフである。
【0089】
図7Aに示すように、本実施形態の電流遮断装置10においては、遮断のために半導体パワーモジュール14を再びオフに切り替えたことで、モジュール電流ipmが転流中の値から略0に変化することに起因し、当該変化を打ち消すように誘起される回復電圧Vindが生じる(図8の時刻t4以降)。
【0090】
これに対して、本実施形態の電流遮断装置10はバリスタ16を備えるので、回復電圧Vindが漸次増加してバリスタ電圧Vthに達すると、バリスタ16の導電状態がオフからオンに切り替わり、回復電圧Vindを減少させる方向に電流(バリスタ電流iba)が流れる(図7B参照)。このため、回復電圧Vindの発生に起因して、電流遮断装置10を構成する電気部品(特に半導体パワーモジュール14)に設計上の許容値を超える電圧が印加されることが抑制される。
【0091】
そのため、本実施形態においては、バリスタ16による回復電圧Vindの抑制効果により、異常電流の限流及び遮断を完了した後において、電流遮断装置10の電流及び電圧の過渡状態が速やかに解消されることとなる。したがって、異常電流の遮断後において、当該電力供給を復帰させるまでの時間を短縮することができる。
【0092】
なお、本実施形態の電流遮断装置10のさらなる変形例として、異常電流が解消されて電流遮断装置10の端子間電圧vが定常電圧V0に近い付近の所定の最終電圧V1に戻ったと判断される場合に、半導体パワーモジュール14を再びオンにして転流路C2を利用して電力供給を一時的に復帰させる処理(仮復帰処理)を採用しても良い。このような仮復帰処理であれば、処理に要する時間を通常の復帰処理(限流ヒューズ12の交換などを含む)に要する時間に比べて短縮することができる(例えば、数百ms程度から数ms以下程度にすることができる)。
【0093】
また、このように、異常電流の限流及び遮断後に一時的にでも電源100から負荷装置200への電力供給を復帰させることができるため、異常電流の発生から限流ヒューズ12の交換などの電流遮断装置10の本格的な修復作業に至るまでの間中ずっと電源100から負荷装置200への電力供給機能が失われることによる不具合の発生(負荷装置200として想定される電力需要設備における長時間の停電など)を抑制することができる。なお、上述の半導体パワーモジュール14を再びオンにすることによって一時的に電力供給を再開した後に、限流ヒューズ12を交換して、その後、半導体パワーモジュール14をオフにすることによって、主電力供給路C1を介した定常的な電力供給状態を復帰させることができる。
【0094】
さらに、上述の電流遮断装置10の本格的な修復作業を実行する際には、限流ヒューズ12が機能していない状態であっても、定常電流Isを遮断可能な半導体パワーモジュール14をオフにするだけで、電源100から負荷装置200への電力供給を完全に遮断することができるので、当該修復作業に容易且つ安全に着手することができる。
【0095】
具体的に、このようなシーンにおいて、定常状態でオフ状態の半導体パワーモジュール14をオンに切り替えつつ限流ヒューズ12を一時的に取り外せば、転流路C2が定常電流Isの導電路として機能することとなる。したがって、この状態で半導体パワーモジュール14をオフにすることで定常電流Isを好適に遮断することができる。
【0096】
以上説明したように、本実施形態の電流遮断装置10は以下の構成を備え、それによる作用効果を奏する。
【0097】
本実施形態の電流遮断装置10は、さらに、半導体パワーモジュール14に並列に配置された過電圧抑制素子としてのバリスタ16を備える。バリスタ16は、該バリスタ16の端子間電圧(端子間電圧v)が所定の閾値電圧(バリスタ電圧Vth)以下である場合には略絶縁素子として機能し、Vthがバリスタ電圧Vthを超える場合には導体として機能する。そして、バリスタ16は、半導体パワーモジュール14が再びオフに切り替えられたときの電流変化により生じる誘起電圧(回復電圧Vind)よりも低いバリスタ電圧Vthをとるように構成される。
【0098】
上記限流ヒューズ12及び半導体パワーモジュール14に加えて、このような特性のバリスタ16を設けることで、遮断のために半導体パワーモジュール14を再びオフに切り替えたことに起因して発生する回復電圧Vindを速やかに解消することができる。したがって、電流遮断装置10が適用される電力系統の状態を、より速やかに定常状態に復帰させることができる。
【0099】
[第3実施形態]
以下、第3実施形態について説明する。なお、第1又は第2実施形態と同様の要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0100】
図9は、第3実施形態に係る電流遮断装置10の構成を説明する図である。図示のように、本実施形態の電流遮断装置10は、第2実施形態の電流遮断装置10の構成に加えて、限流ヒューズ12に対して直列に機械式開閉器30が設けられている。
【0101】
機械式開閉器30は、主電力供給路C1における導通状態のオン/オフを切り替えるためのメカニカルリレーなどにより構成される。そして、機械式開閉器30のオン/オフはコントローラ20により制御される。特に、本実施形態の機械式開閉器30は、通常時はオン状態(閉極状態)をとるノーマルクローズリレーにより構成される。
【0102】
そして、コントローラ20は、ヒューズ電流ifが溶融電流Ith1に到達したとき以降(すなわち、図8における時刻t2~時刻t4)の規定のタイミングにおいて、機械式開閉器30をオンからオフに切り替える。
【0103】
以上説明したように、本実施形態の電流遮断装置10は以下の構成を備え、それによる作用効果を奏する。
【0104】
本実施形態の電流遮断装置10は、限流ヒューズ12に直列に設けられた開閉器としての機械式開閉器30をさらに備える。そして、コントローラ20は、ヒューズ電流ifが溶融電流Ith1を越えた後であって半導体パワーモジュール14をオンからオフに切り替える前の所定タイミングにおいて機械式開閉器30をオンからオフに切り替えるように構成される。
【0105】
これにより、少なくとも半導体パワーモジュール14が再びオフとされるタイミング(図8の時刻t4)においては、限流ヒューズ12に対して直列に配置された機械式開閉器30が相対的に高い抵抗要素として機能することとなる。このため、回復電圧Vindの発生時において、当該機械式開閉器30に対して直列に接続された限流ヒューズ12に印加される電圧を小さくすることができる(図9の「V´ind」)。したがって、回復電圧Vindに起因した限流ヒューズ12における絶縁破壊を抑制してその絶縁回復機能をより好適に維持することができ、異常電流の再発をより確実に防ぐことができる。
【0106】
特に、機械式開閉器30をオンからオフに切り替えるタイミングは、ヒューズ電流ifが溶融電流Ith1に到達したとき(時刻t2で異常電流が検知されたとき)以降であって、半導体パワーモジュール14を再びオフに切り替える前(時刻t4よりも前)の任意の期間で設定することが可能である。このため、限流及び遮断のための半導体パワーモジュール14のオン/オフ操作が機械式開閉器30をオフに切り替えるタイミングとの兼ね合いで制約されることなく、限流ヒューズ12に対する印加電圧の抑制効果を実現することができる。
【0107】
さらに、本実施形態では、機械式開閉器30は限流ヒューズ12による限流開始以降にオンからオフに切り替えられるため、当該切り替えによる限流から遮断までのプロセスにおける回路動作(電流経路など)に対して実質的な影響を与え無い。したがって、当該機械式開閉器30を設けない場合(第1実施形態又は第2実施形態の場合)と同様に異常電流の限流及び遮断機能を実現しつつ、回復電圧Vindが生じた際の限流ヒューズ12に対する印加電圧の抑制効果をより好適に発揮させることができる。
【0108】
なお、本実施形態では、限流ヒューズ12に直列に設けられる開閉器として機械式開閉器30を採用する例を説明した。しかしながら、これに限られず、定常状態においては電力供給を妨げないように主電力供給路C1を導通状態(低抵抗状態)としつつ、且つ異常電流の発生後であって回復電圧Vindの発生前には主電力供給路C1を非導通状態(高抵抗状態)とできるものであるならば、半導体リレー等の他のタイプの開閉器を採用しても良い。
【0109】
[第4実施形態]
以下、第4実施形態について説明する。なお、第1~第3実施形態の何れかと同様の要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。本実施形態では、異常電流が解消されて電流遮断装置10の端子間電圧vが定常電圧V0付近の最終電圧V1に戻った後(図8の時刻t5以降)において、使用済みの限流ヒューズ12を交換するための機構の一態様が提供される。
【0110】
図10は、本実施形態のヒューズ交換機構50の要部斜視図である。図示のように、ヒューズ交換機構50は、円周方向に沿って並んで複数の限流ヒューズ12が保持されるレボルバ54を備えている。限流ヒューズ12は、その一端が絶縁板52を介してレボルバ54に保持されている。また、限流ヒューズ12の他端には、主電力供給路C1との電気的接続を確保するためのコネクタ12dが露出するように絶縁板53が取り付けられている。このヒューズ交換機構50は、レボルバ54を回転させることで、異常電流の限流に使用された限流ヒューズ12と新たな限流ヒューズ12の自動的に交換する機能を実現する。以下、その詳細を説明する。
【0111】
図11A及び図11Bは、ヒューズ交換機構50の動作について説明する図である。なお、以下では、使用済みの限流ヒューズ12に符号「12-1」を付し、使用済みの限流ヒューズ12´に代えて新たに装着される限流ヒューズ12に符号「12-2」を付して説明を行う。また、図11A及び図11Bにおいて使用済みの限流ヒューズ12-1は一点鎖線で示している。
【0112】
図示のように、限流ヒューズ12は、レボルバ54の回転にともない当該限流ヒューズ12の通過を許容するように紙面手前側及び奥側に図示しない開口部を有するヒューズホルダ56に装着された状態で電流遮断装置10にセットされている。そして、レボルバ54の回転によって、異常電流の限流に使用された限流ヒューズ12-1がヒューズホルダ56から脱離するとともに、新たな限流ヒューズ12-2がヒューズホルダ56内にスライド移動して装着される。
【0113】
このように、レボルバ54の回転により限流ヒューズ12を交換するヒューズ交換機構50を用いることで、限流ヒューズ12の交換に要する時間を短縮することができる。特に、レボルバ54の回転動作に要する時間を考慮しても、交換時間を数百ms程度のオーダーとすることができる。特に、使用済みの限流ヒューズ12-1の自動交換が速やかに開始する観点から、異常電流の解消を検知するコントローラ20の指令に基づいてレボルバ54の回転を開始する構成を採用することが好ましい。特に、コントローラ20は、半導体パワーモジュール14を再びオフに切り替えたタイミング(図8の時刻t4)以降において端子間電圧vが定常電圧V0付近の最終電圧V1に戻ったと判断すると、レボルバ54の回転動作を開始するようにプログラムされることが好ましい。
【0114】
なお、本実施形態の構成において、第2実施形態で説明した電力供給の仮復帰処理を併用しても良い。より具体的には、コントローラ20は、端子間電圧vが最終電圧に戻ったと判断すると、レボルバ54の回転動作を開始するとともに半導体パワーモジュール14を再びオンにし(転流路C2を用いた一時的な電力供給を開始し)、限流ヒューズ12の交換が完了すると半導体パワーモジュール14をオフにする(一時的な電力供給が終了して主電力供給路C1を介した定常的な電力供給状態を復帰させる)ようにプログラムされても良い。
【0115】
これにより、上記ヒューズ交換機構50による限流ヒューズ12の交換中においても、半導体パワーモジュール14がオンとされている転流路C2を利用して電力供給を実行することができる。特に、本実施形態のヒューズ交換機構50であれば限流ヒューズ12の交換に要する時間が短縮されるため、転流路C2を用いた一時的な電力供給の実行時間もより短くすることができるので、さらなる装置の冗長化の改善及び安全性の向上に資することとなる。なお、本実施形態におけるヒューズ交換機構50の構成は例示であり、これに限られず限流ヒューズ12の交換を自動的に実行可能な任意の形態の装置を採用することができる。
【0116】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0117】
例えば、上記実施形態の電流遮断装置10では、限流素子として限流ヒューズ12を採用する例を説明した。しかしながら、電流遮断装置10に、限流ヒューズ12以外の限流素子を採用しても良い。例えば、限流ヒューズ12に代えて超伝導素子を用いた超伝導限流器(国際公開第2012/161277号公報)、又は限流リアクトルなどを採用しても良い。すなわち、限流素子としては、所定の電流閾値以下の電流に対しては低電気抵抗体(好ましくは実質的な導体)として機能する一方で、電流が当該電流閾値を越えると当該電流の増加に応じて電気抵抗が増加する限流特性を持つ任意の素子を適宜用いることができる。
【0118】
また、上記実施形態の電流遮断装置10では、転流路スイッチとして半導体パワーモジュール14を採用する例を説明した。しかしながら、コントローラ20の指令信号により適宜オン/オフ(閉/開)可能であって、スイッチオン時におけるヒューズ電流ifの転流(図3の時刻t3)及び若干の電流が流れている状態における遮断(スイッチオフ)を許容する機能を持つものであれば、半導体パワーモジュール14以外の転流路スイッチを採用しても良い。
【0119】
例えば、半導体パワーモジュール14に代えて、真空遮断器、又は遮断機能を備えたメカニカルリレー等のスイッチ類を採用しても良い。一方で、限流及び遮断の高速化という観点から、転流路スイッチとして、数msオーダーでオン/オフ操作が可能な半導体パワーモジュール14を用いることが好ましい。
【0120】
また、限流ヒューズ12以外の限流素子及び半導体パワーモジュール14以外の転流路スイッチを採用する場合であっても、環境適合性を考慮してこれらを汎用の回路素子で構成することが好ましい。特に、上記実施形態の電流遮断装置10では、このような汎用の回路素子で構成することができることで、低コスト化及び設計の柔軟性の向上にも資することとなる。
【0121】
また、上記各実施形態は、相互に矛盾しない範囲で適宜組み合わせることが可能である。
【0122】
本願は、2019年9月17日に日本国特許庁に出願された特願2019-168601号に基づく優先権を主張し、この出願の全ての内容は参照により本明細書に組み込まれる。
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9
図10
図11A
図11B