(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-04
(45)【発行日】2022-08-15
(54)【発明の名称】眼装着用レンズの製造方法および眼装着用レンズ
(51)【国際特許分類】
G02C 7/04 20060101AFI20220805BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20220805BHJP
【FI】
G02C7/04
C08L101/00
(21)【出願番号】P 2020525807
(86)(22)【出願日】2019-06-20
(86)【国際出願番号】 JP2019024601
(87)【国際公開番号】W WO2019245002
(87)【国際公開日】2019-12-26
【審査請求日】2020-12-15
(31)【優先権主張番号】P 2018117454
(32)【優先日】2018-06-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100115255
【氏名又は名称】辻丸 光一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100154081
【氏名又は名称】伊佐治 創
(72)【発明者】
【氏名】西田 幸二
(72)【発明者】
【氏名】馬場 耕一
(72)【発明者】
【氏名】高 静花
(72)【発明者】
【氏名】大久保 敬
(72)【発明者】
【氏名】淺原 時泰
(72)【発明者】
【氏名】井上 豪
(72)【発明者】
【氏名】宇山 浩
(72)【発明者】
【氏名】麻生 隆彬
【審査官】吉川 陽吾
(56)【参考文献】
【文献】特表平07-504759(JP,A)
【文献】特開昭57-014821(JP,A)
【文献】特開昭48-085158(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 7/04
C08L 101/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化合物ラジカルを生成させる化合物ラジカル生成工程と、
ポリマー製レンズの表面を、前記化合物ラジカルと反応させて親水化処理する親水化処理工程とを含み、
前記化合物ラジカル生成工程
を、前記親水化処理工程の反応系と同
一の反応系中で、または前記親水化処理工程の反応系とは別の
反応系であるラジカル生成用反応系
中で行い、
前記ラジカル生成工程において、光照射
により前記化合物ラジカルを生成し、
前記化合物ラジカルが、15族元素および16族元素からなる群から選択された一つの元素と、17族元素とを含むラジカルである、眼装着用レンズの製造方法。
【請求項2】
前記親水化処理工程において、反応系に光照射する、請求項1記載の眼装着用レンズの製造方法。
【請求項3】
さらに、前記親水化処理工程後のレンズ表面に薬剤を担持させる薬剤担持工程を含む、請求項1または2記載の眼装着用レンズの製造方法。
【請求項4】
前記眼装着用レンズが、眼球表面に装着するレンズである、請求項1から3のいずれか一項に記載の眼装着用レンズの製造方法。
【請求項5】
前記ポリマーが、シリコーンハイドロゲルを含む、請求項4記載の眼装着用レンズの製造方法。
【請求項6】
前記眼装着用レンズが、眼内に装着するレンズである、請求項1から3のいずれか一項に記載の眼装着用レンズの製造方法。
【請求項7】
前記化合物ラジカルが、二酸化塩素ラジカルである、請求項1から6のいずれか一項に記載の眼装着用レンズの製造方法。
【請求項8】
前記化合物ラジカルが、二酸化塩素ラジカルであり、
さらに、前記二酸化塩素ラジカルを生成させる二酸化塩素ラジカル生成工程を含み、
前記二酸化塩素ラジカル生成工程において、
ラジカル生成用反応系を使用し、
前記ラジカル生成用反応系が、水相を含む反応系であり、
前記水相が、亜塩素酸イオン(ClO
2
-)を含み、前記亜塩素酸イオンにルイス酸およびブレーンステッド酸の少なくとも一方を作用させて前記二酸化塩素ラジカルを生成させる、請求項1から6のいずれか一項に記載の眼装着用レンズの製造方法。
【請求項9】
さらに、前記ポリマーの変化した部位に、官能基を導入する工程を含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の眼装着用レンズの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼装着用レンズの製造方法および眼装着用レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
眼科の分野において、目に装着するレンズとしては、例えば、眼球表面に装着するレンズ(以下、眼表面レンズともいう)、眼内に装着するレンズ(以下、眼内レンズ)等がある。眼表面レンズは、着脱可能なコンタクトレンズ(以下、着脱コンタクトレンズ)であり、例えば、ハードコンタクトレンズ(HCL)、ソフトコンタクトレンズ(SCL)等である。中でも、ソフトコンタクトレンズは、近年、その素材として、シリコーンハイドロゲルが主流となっている(特許文献1および2等)。眼内レンズは、例えば、白内障等によって機能が低下した水晶体を除去し、水晶体の代わりに眼内に挿入する人工水晶体レンズ(特許文献3等)や、水晶体を残して眼内に挿入する眼内コンタクトレンズである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-054970号公報
【文献】特開2017-227663号公報
【文献】特開2018-047324号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記着脱コンタクトレンズの素材には、酸素透過性が必要である。一般に、含水率の高い素材は、酸素透過性が高いが、反面、眼球表面の水分を奪いやすいことから、眼が乾燥しやすいという問題がある。この点、シリコーンハイドロゲルは、含水率が低いことから、眼球表面の水分を奪いにくく、眼が乾燥しにくく、さらに、酸素透過性も高いという利点がある。
【0005】
しかしながら、シリコーンハイドロゲルは、疎水性であるため、眼球表面に装着するコンタクトレンズとして使用するには、レンズ表面の親水化処理が必要である。ポリマー表面の親水化処理方法としては、例えば、プラズマ処理等があるが、操作の煩雑さ、処理コスト、反応コントロールの困難性等の問題がある。
【0006】
また、本発明者らは、前記着脱コンタクトレンズおよび眼内レンズ等を含む、眼に装着するレンズ(眼装着用レンズ)に、さらなる機能を付与することで、より高い有用性が得られるとの考えに至った。そして、そのような例は未だ存在していない。
【0007】
そこで、本発明は、簡便かつ低コストに行うことができる新たな眼装着用レンズの製造方法、および、簡便かつ低コストに製造できる眼装着用レンズを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明の眼装着用レンズの製造方法は、ポリマー製レンズの表面を、化合物ラジカルと反応させて親水化処理する親水化処理工程を含み、前記化合物ラジカルが、15族元素および16族元素からなる群から選択された一つの元素と、17族元素とを含むラジカルである。
【0009】
本発明における第1の眼装着用レンズは、ポリマーによって形成され、前記ポリマー表面が、酸化処理された表面であり、下記数式(1)で表される水の接触角の変化量Xが、0°より大きいことを特徴とする。
X=A0-A (1)
A0:前記ポリマーの、酸化処理されていない表面における水の接触角
A:前記ポリマーの、前記酸化処理された表面における水の接触角
X:水の接触角の変化量
【0010】
本発明における第2の眼装着用レンズは、ポリマーにより形成され、前記ポリマー表面が親水化され、さらに、前記親水化されたポリマー表面に薬剤が担持されている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、簡便かつ低コストに眼装着用レンズを製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の眼装着用レンズの製造方法における親水化処理工程の一例を模式的に示す図である。
【
図2】
図2は、参考例A1のIRの結果を示すグラフである。
【
図3】
図3は、参考例B1における親水化処理工程の状態を模式的に示す断面図である。
【
図4】
図4は、参考例B7の反応系の構成を示す斜視図である。
【
図5】
図5は、参考例B10における反応容器とプレートとの概略を示す図面である。
【
図6】
図6は、参考例B10における着色結果を示す写真である。
【
図7】
図7は、参考例B14のシリコーンハイドロゲルにおける水の接触角を示す写真である。
【
図8】
図8は、薬剤を担持した本発明の眼装着用レンズの製造方法を例示する工程斜視図である。
【
図9】
図9は、実施例において薬剤(セフォチアム)を担持した眼内レンズのXPSスペクトル図である。
【
図10】
図10は、参考例B15の反応系の構成を示す断面図である。
【
図11】
図11は、参考例B17におけるPBSの蛍光スペクトルを示すグラフである。
【
図12】
図12は、参考例B18におけるPBSの蛍光スペクトルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について、例を挙げてさらに具体的に説明する。ただし、本発明は、以下の説明により限定されない。
【0014】
本発明において、15族、16族、および17族は、周期律表の族である。
【0015】
また、本明細書においては、特に示さない限り、「本発明の眼装着用レンズ」とは、前記第1の眼装着用レンズ、および前記第2の眼装着用レンズを含む。また、以下において、前記第1の眼装着用レンズ、および前記第2の眼装着用レンズを、それぞれ、単に「第1の眼装着用レンズ」、「第2の眼装着用レンズ」ということがある。
【0016】
また、以下において、本発明の眼装着用レンズの製造方法を、単に「本発明の製造方法」ということがある。
【0017】
本発明において、「眼装着用レンズ」は、眼に装着して用いるレンズ全般をいう。本発明において、眼への「装着」は、眼球表面への設置の他、眼球内への挿入等を含む。前記眼装着用レンズは、特に制限されない。前記眼球表面に装着するレンズは、以下、眼表面レンズともいい、例えば、着脱可能なコンタクトレンズ(着脱コンタクトレンズ)があげられる、着脱コンタクトレンズは、例えば、ハードコンタクトレンズ、ソフトコンタクトレンズ及びオルソケラトロジーに用いるコンタクトレンズ等があげられる。また、前記眼内に装着するレンズ(眼内レンズ)は、例えば、水晶体を残して、角膜と水晶体との間に挿入する眼内コンタクトレンズ、水晶体を除去して、水晶体の代わりに挿入するレンズ(人工水晶体レンズ)等があげられる。
【0018】
本発明の製造方法によれば、例えば、前記着脱コンタクトレンズの製造において、以下のような効果がある。
【0019】
眼球の表面に装着する前記着脱コンタクトレンズは、近年、ソフトコンタクトレンズ(SCL)として前述のように、シリコーンハイドロゲル製が一般的になっており、高い酸素透過性と乾燥への耐性とを両立しうるという利点がある。そして、コンタクトレンズの表面には、前述のとおり、表面の親水化処理が必要である。親水化処理としては、前述のように、プラズマ処理が知られており、具体的には、例えば、レンズ表面をプラズマで活性化した後、親水性成分に浸漬することで、親水化処理が行われている。しかし、この方法は、例えば、紫外線照射、加熱、重合補助剤(開始剤)の添加等の工程が必要であり、非常に煩雑である。また、この方法では、レンズ表面に形成された親水層(極性基層)が経時的に減少し、表面の親水性が退行するおそれがある。これに対し、本発明によれば、前記化合物ラジカルを用いた前記親水化処理工程により、例えば、より簡便かつ低コストにレンズ表面に親水基を導入できる。また、本発明は、前記親水化処理工程により、例えば、後述するとおり、ポリマーの炭素を含む基を酸化して、ヒドロキシメチル基(-CH2OH)、ホルミル基(-CHO)、およびカルボキシル基(-COOH)等の親水基に変換できる。これらの親水基は、例えば、前記ポリマー表面に共有結合で固定されるため、経時的な減少が極めて起こりにくく、長期的に安定である。これらの説明は例示であり、本発明を限定しない。本発明の製造方法において、前記着脱コンタクトレンズの材質は、例えば、シリコーンハイドロゲルには限定されず、後述のような様々なポリマーが適用できる。
【0020】
なお、本発明において、「シリコーンハイドロゲル」は、親水性ゲルとシリコーンとの共重合体または混合物をいう。前記親水性ゲルと前記シリコーンとは、共有結合により結合されていてもよいし、イオン結合等の他の化学結合により結合されていてもよいし、単に混合されているのみでもよい。前記親水性ゲルとしては、特に制限されず、例えば、親水性ポリマーのゲルである。前記親水性ポリマーも、特に制限されず、例えば、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミドおよびその誘導体(例えば、ポリアクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド等)、及び、例えば、後述する表1記載のポリマー等があげられる。前記シリコーンハイドロゲルとしては、例えば、後述する表2記載のポリマー等もあげられる。
【0021】
本発明の製造方法によれば、例えば、前記眼内レンズの製造において、以下のような効果がある。
【0022】
前記眼内レンズに薬剤を担持させた例は、未だ存在しない。前記眼内レンズに薬剤を担持させれば、例えば、眼内への挿入後、眼内における前記薬剤の徐放により、前記薬剤の種類に応じた効果を得ることができる。より具体的には、例えば、前記眼内レンズに、前記薬剤として殺菌剤、抗菌剤等を担持させることで、眼内への挿入後における感染症を予防できる。一方、このように前記眼内レンズに薬剤を担持させるには、レンズ表面の親水化処理が必要である。これは、レンズ表面に導入した親水基等の官能基と薬剤の官能基とを化学反応させ化学結合等を形成させることで、前記薬剤を前記レンズ表面に担持させる効果が得られることが理由の一つである。これにより親水的な薬剤も疎水的な薬剤も担持可能である。しかし、前述のように、プラズマ処理を利用した親水化処理方法には、前述のとおり、操作の煩雑さ、処理コスト、反応コントロールの困難性等の問題がある。これに対し、本発明によれば、前記化合物ラジカルを用いた前記親水化処理工程により、例えば、より簡便かつ低コストにレンズ表面に親水基を導入できる。このため、親水化処理後のレンズであれば、例えば、より簡便かつ低コストに、前記レンズ表面に、前記親水基を介して、薬剤を担持することができる。これらの説明は例示であり、本発明を限定しない。前記薬剤を担持できる効果は、例えば、前記眼内レンズに限られず、例えば、前述した前記着脱コンタクトレンズ等の他の眼装着レンズについても同様である。本発明において、前記親水化処理工程後のレンズは、例えば、薬剤を担持させてもよいし、担持させなくてもよい。
【0023】
本発明の製造方法によれば、前記ポリマー製レンズの表面を親水化できることから、本明細書において、眼装着用レンズの製造方法は、「ポリマー製レンズの親水化方法」または「眼装着用レンズの親水化方法」と読み替え可能である。本発明において、前記親水化処理工程によれば、前記ポリマー製レンズの表面を改質できる。このため、本明細書において、前記親水化処理工程は、「改質処理工程」ともいう。また、前記親水化処理工程により前記ポリマーを酸化する場合、前記親水化処理工程は、前記ポリマーの酸化処理工程ともいう。
【0024】
本発明の眼装着用レンズは、例えば、水接触角の上限値が、100°以下、90°以下、90°未満、80°以下、70°以下、60°以下、50°以下、40°以下、30°以下、20°以下、または10°以下であってもよく、下限値は特に制限されず、例えば0°以上でもよい。前記水接触角は、例えば、本発明の眼装着用レンズに水滴を接触させた場合の接触角(水滴接触角)として測定可能である。前記水接触角が小さいほど、親水性が高いことの指標となる。眼装着用レンズの眼に対する馴染みやすさの観点からは、前記親水性が高いことが好ましい。眼装着レンズの目への癒着防止(眼からの取り外しやすさ)の観点からは、例えば、前記親水性が高すぎないことが好ましい。本発明によれば、例えば、前記親水化処理工程の条件を適切に制御することで、眼装着用レンズの親水性を制御することもできる。
【0025】
本発明において、鎖状化合物(例えば、アルカン、不飽和脂肪族炭化水素等)または鎖状化合物から誘導される鎖状置換基(例えば、アルキル基、不飽和脂肪族炭化水素基等の炭化水素基)は、例えば、直鎖状でも分枝状でもよく、その炭素数は、特に制限されず、例えば、1~40、1~32、1~24、1~18、1~12、1~6、または1~2でもよく、不飽和炭化水素基の場合、炭素数は、例えば、2~40、2~32、2~24、2~18、2~12、2~6でもよい。本発明において、環状の化合物(例えば、環状飽和炭化水素、非芳香族環状不飽和炭化水素、芳香族炭化水素、ヘテロ芳香族化合物等)または環状の化合物から誘導される環状の基(例えば、環状飽和炭化水素基、非芳香族環状不飽和炭化水素基、アリール基、ヘテロアリール基等)の環員数(環を構成する原子の数)は、特に制限されず、例えば、5~32、5~24、6~18、6~12、または6~10でもよい。置換基等に異性体が存在する場合、例えば、異性体の種類は、特に制限されず、具体例として、単に「ナフチル基」という場合は、例えば、1-ナフチル基でも2-ナフチル基でもよい。
【0026】
また、本発明において、異性体は、特に制限されず、例えば、互変異性体または立体異性体(例えば、幾何異性体、配座異性体および光学異性体等)等である。本発明において、塩とは、特に制限されず、例えば、酸付加塩でも、塩基付加塩でもよい。前記酸付加塩を形成する酸は、例えば、無機酸でも有機酸でもよく、前記塩基付加塩を形成する塩基は、例えば、無機塩基でも有機塩基でもよい。前記無機酸は、特に制限されず、例えば、硫酸、リン酸、フッ化水素酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、次亜フッ素酸、次亜塩素酸、次亜臭素酸、次亜ヨウ素酸、亜フッ素酸、亜塩素酸、亜臭素酸、亜ヨウ素酸、フッ素酸、塩素酸、臭素酸、ヨウ素酸、過フッ素酸、過塩素酸、過臭素酸、および過ヨウ素酸等があげられる。前記有機酸は、特に制限されず、例えば、p-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、シュウ酸、p-ブロモベンゼンスルホン酸、炭酸、コハク酸、クエン酸、安息香酸および酢酸等があげられる。前記無機塩基は、特に制限されず、例えば、水酸化アンモニウム、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、炭酸塩および炭酸水素塩等があげられ、より具体的には、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、水酸化カルシウムおよび炭酸カルシウム等があげられる。前記有機塩基は、特に制限されず、例えば、エタノールアミン、トリエチルアミンおよびトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン等があげられる。
【0027】
以下、本発明の実施形態について、例を挙げてさらに具体的に説明する。ただし、本発明は、以下の実施形態に限定されない。
【0028】
(1) ポリマー製レンズ
本発明の眼装着用レンズの製造方法は、前述のとおり、前記親水化処理工程において、前記ポリマー製レンズの表面を、化合物ラジカルと反応させて親水化処理する。前記ポリマー製レンズは、ポリマーを原料として形成されたレンズである。前記ポリマー製レンズは、例えば、前記ポリマーをレンズ形状に成形した成形体である。前記ポリマーの種類は、特に制限されず、例えば、レンズの種類に応じて適宜決定できる。前記ポリマーは、例えば、一種類でもよいし、二種類以上の混合物でもよい。前記ポリマーは、例えば、ポリマーアロイ、ポリマーコンパウンドでもよい。
【0029】
前記ポリマーは、例えば、室温以上の融点を有するポリマー、室温以上のガラス転移温度を有する重合体があげられる。また、前記ポリマーは、例えば、結晶化度が相対的に高いものでもよい。前記条件の融点であるポリマーの場合、その結晶化度は、例えば、20%以上、30%以上、35%以上である。前記ポリマー製レンズの成形方法は、特に制限されず、例えば、前記ポリマーを加熱による溶融後、形状を整え、冷却するという公知の成形方法があげられる。
【0030】
本発明における製造対象の前記眼装着用レンズは、前述のとおり、眼に装着するレンズ全般である。本発明において、前記眼装着用レンズの形成材料である前記ポリマーは、前述のように、前記眼装着用レンズの種類によって適宜決定できる。前記ポリマーは、特に制限されず、例えば、一般的な眼装着用レンズの形成材料であるポリマーと同様でもよい。本発明の眼装着用レンズが、前記着脱コンタクトレンズ等の前記眼表面レンズの場合、前記ポリマーは、例えば、シリコーンハイドロゲル等があげられ、いずれか一種類でもよいし、二種類以上を併用してもよい。前記シリコーンハイドロゲルは、例えば、ポリジメチルシロキサンゲル(PDMSゲル)等があげられ、いずれか一種類でもよいし、二種類以上を併用してもよい。本発明の眼装着用レンズが前記眼内レンズの場合、前記ポリマーは、例えば、アクリル樹脂、シリコーンハイドロゲル等があげられ、いずれか一種類でもよいし、二種類以上を併用してもよい。前記アクリル樹脂は、例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)等があげられ、いずれか一種類でもよいし、二種類以上を併用してもよい。
【0031】
具体例として、前記ポリマーは、例えば、Biomaterials Science An Introduction to Materials in Medicine(第三版)、著者:Buddy D. Ratner, Allan S. Hoffman, Frederick J. Schoen and Jack E. Lemons、発行所:Elsevier Inc.(2013年)に記載されたポリマー等があげられる。また、前記レンズがソフトハイドロゲルコンタクトレンズの場合、例えば、下記表1のポリマーが例示でき、前記レンズがシリコーンハイドロゲルレンズの場合、例えば、下記表2のポリマーが例示でき、前記レンズがガス透過性ハードレンズの場合、例えば、下記表3のポリマーが例示できる。下記表1~3において、「ポリマーの米国一般名」は、米国におけるポリマーの一般名を表し、「主要なモノマー」は、前記ポリマーの原料モノマーのうち主要な成分を表す。前記ポリマーは、例えば、表1~3のポリマーのうち一種類を用いても、二種類以上を併用してもよい。前記ポリマーは、例えば、表1~3に記載の原料モノマーのうち一種類を含む重合体もしくは二種類以上を含む共重合体でもよく、また、前記重合体もしくは共重合体を二種類以上併用してもよい。
【0032】
【0033】
【0034】
【0035】
前記レンズが眼内レンズ(Intraocular lens、IOL)の場合、その種類は、特に制限されず、例えば、単焦点IOL、単焦点折り畳み(foldable)IOL、トーリックIOL、フェイキックIOL、非球面レンズ、多焦点IOL、折り畳みデュアルオプティクスIOL等でもよい。前記眼内レンズは、例えば、前述のとおり、例えば、眼内コンタクトレンズでも人工水晶体レンズでもよい。前記レンズの形成材料であるポリマーも特に制限されず、例えば、PMMA、ポリシロキサン、疎水性アクリレートコポリマー、親水性アクリレートコポリマー、PMMA青色コアモノフィラメント、ポリアミド、フッ化ポリビニリデン(PVDF)、光重合性ポリシロキサンマクロマーの重合体、シリコーンハイドロゲル等があげられ、いずれか一種類でもよいし、二種類以上を併用してもよい。前記ポリマーは、例えば、添加剤を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。前記添加剤も特に制限されず、例えば、紫外線吸収剤、紫色光吸収剤、青色光吸収剤、青色光フィルター用黄色色素、橙色光吸収剤等があげられ、いずれか一種類でもよいし、二種類以上を併用してもよい。
【0036】
前記ポリマーとしては、他に、例えば、ポリオレフィン(例えば、低密度ポリエチレンおよび高密度ポリエチレン等のポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP))、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ乳酸、ポリヒドロキシ酪酸、シリコーン系ポリマー、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、非晶ポリアリレート等のポリアリレート、ポリエーテルスルホン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリチオフェン、ポリフルオレン、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリパラフェニレン(PPP)、PEDOT(ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン))とPSS(ポリスチレンスルホン酸)とからなる複合体(PEDOT/PSS)、ポリアニリン/ポリスチレンスルホン酸、ポリ(3-ヒドロキシアルカン酸)、ポリ塩化ビニリデン、スチレン共重合体(例えば、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)、アクリロニトリル-スチレン共重合樹脂(AS)、スチレンブタジエン共重合体等)、メタクリル樹脂、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリ(トランス-1,4-イソプレン)、尿素樹脂、ポリエステル(例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカプロラクトン等)、ポリアミド(例えばナイロン(商品名))、ポリエーテルエーテルケトン、環状シクロオレフィンポリマー、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリアセタール等があげられる。前記ポリオレフィンは、例えば、炭素数2~20のオレフィンの重合体でもよく、例えば、共重合体でもよい。
【0037】
前記ポリマーの重合形態は、特に制限されず、例えば、単独重合体(ホモポリマー)でも、共重合体でもよい。前記共重合体は、特に制限されず、例えば、ランダム共重合体でも、交互共重合体でも、ブロック共重合体でも、グラフト共重合体でもよい。前記共重合体の場合、例えば、繰り返し単位(モノマー)は、2種類以上である。前記ポリマーは、例えば、線状ポリマーでも、分岐状ポリマーでも、網目状ポリマーでもよい。
【0038】
本発明において、前記親水化処理工程は、例えば、前記液体反応系(液相)で行っても、前記気体反応系(気相)で行ってもよい。前記ポリマー製レンズが、液体媒体に溶解し易い性質である場合、例えば、前記気相反応系が好ましい。
【0039】
前記ポリマーを用いた前記ポリマー製レンズの成形方法は、前述のように、何ら制限されない。前記成形方法は、例えば、圧縮成形、トランスファ成形、押出成形、カレンダー成形、インフレーション成形、ブロー成形、真空成形、射出成形等、公知の方法があげられる。前記ポリマー製レンズの形状は、特に制限されず、例えば、目的とする前記眼装着用レンズの種類(例えば、前記眼表面レンズ、前記眼内コンタクトレンズ、前記人工水晶体レンズ等)に応じた形状である。
【0040】
本発明において、前記ポリマー製レンズに対する前記親水化処理工程は、後述するように、例えば、前記液体反応系(液相)で行っても、前記気体反応系(気相)で行ってもよい。前記ポリマーが、液体媒体に溶解し易い性質である場合、例えば、前記気相反応系で前記親水化処理工程を行うことが好ましい。
【0041】
(2) 化合物ラジカル
本発明において、前記化合物ラジカルは、前記親水化処理工程の反応系に含まれる。前記化合物ラジカルは、例えば、前記反応系において生成させることで、前記反応系に含ませてもよいし、別途生成させた前記化合物ラジカルを前記反応系に含ませてもよい。前記化合物ラジカルの発生方法は、特に制限されない。前記化合物ラジカルの発生に関しては、具体例を後述する。
【0042】
前記化合物ラジカルは、前述のように、15族元素および16族元素の少なくとも一方と、17族元素とを含むラジカルである。本発明において、前記化合物ラジカルは、例えば、いずれか一種類を使用してもよいし、二種類以上を併用してもよい。本発明において、前記化合物ラジカルは、例えば、改質する対象のポリマーの種類や、反応条件等に応じて、適宜選択することができる。
【0043】
前記15族元素は、例えば、N、またはPであり、前記16族元素は、例えば、O、S、Se、またはTeであり、前記17族元素は、例えば、F、Cl、Br、またはIである。前記15族元素と前記16族元素の中では、前記16族元素が好ましい。また、前記16族元素の中では、酸素、硫黄が好ましい例である。前記16族元素と前記17族元素とを含むラジカルは、例えば、F2O・(二フッ化酸素ラジカル)、F2O2
・(二フッ化二酸素ラジカル)、ClO2
・(二酸化塩素ラジカル)、BrO2
・(二酸化臭素ラジカル)、I2O5
・(酸化ヨウ素(V)ラジカル)等のハロゲンの酸化物ラジカル等があげられる。
【0044】
(3) 反応系
前記親水化処理工程における前記反応系は、前記ポリマーと前記化合物ラジカルとを含む反応系である。前記反応系は、前述のとおり、例えば、気体反応系でもよいし、液体反応系でもよい。前記親水化処理工程において、前記反応系に、例えば、光照射してもよいし、光照射しなくてもよい。すなわち、前記ポリマーに光照射をしなくても、前記ポリマーと前記化合物ラジカルとを反応させることができる。前記ポリマーに光照射をしなくてもよいことで、例えば、安全性の向上、コスト節減等の効果が得られる。例えば、前記親水化処理工程の反応系とは別のラジカル生成用反応系で光照射により化合物ラジカルを発生させ、前記親水化処理工程の反応系では光照射をしなくてもよい。前記化合物ラジカルの発生方法自体も、前述のとおり、特に制限されず、光照射してもしなくてもよい。
【0045】
(3A)気体反応系
前記反応系が気体反応系の場合、例えば、前記化合物ラジカルを含む前記気体反応系中に、前記ポリマー製レンズを配置し、光照射すればよい。ただし、本発明において、前記親水化処理工程は、これに限定されない。例えば、前記ポリマー製レンズ表面を前記化合物ラジカルと反応させることができれば、光照射せずに前記親水化処理工程を行ってもよい。前記気体反応系は、例えば、前記ラジカルを含んでいればよく、前記気体反応系における気相の種類は、特に制限されず、空気、窒素、希ガス、酸素等である。
【0046】
本発明は、例えば、前記親水化処理工程前または前記親水化処理工程と同時に、前記気体反応系に対して、前記化合物ラジカルを導入してもよいし、前記気体反応系に、前記化合物ラジカルを発生させてもよい。前者の場合、例えば、前記化合物ラジカルを含むガスを、気相に導入すればよい。後者の場合、例えば、後述するように、液相のラジカル生成用反応系で発生させた前記化合物ラジカルを、気相に移行させることで導入してもよい。
【0047】
具体例として、前記化合物ラジカルが前記二酸化塩素ラジカルの場合、例えば、前記気相に、二酸化塩素ガスを導入することによって、前記気相中に前記二酸化塩素ラジカルを存在させることができる。前記二酸化塩素ラジカルは、例えば、電気化学的方法により、前記気相中に発生させることもできる。
【0048】
(3B)液体反応系
前記反応系が液体反応系の場合、例えば、有機相を含む。前記液体反応系は、例えば、前記有機相のみを含む一相反応系でも、前記有機相と水相とを含む二相反応系でもよい。前記有機相のみを含む一相反応系の場合は、例えば、後述するように、前記化合物ラジカルの発生源を含む水相を別途準備し、前記水相で前記化合物ラジカルを生成させた後、前記水相に前記有機相を混合し、前記水相の前記化合物ラジカルを前記有機相に溶解(抽出)させてもよい。
【0049】
(3B-1)有機相
前記有機相には、前述のとおり、前記ポリマー製レンズが配置されており、例えば、前記化合物ラジカルを含み且つ前記ポリマー製レンズが配置された有機溶媒の相である。
【0050】
前記有機溶媒は、特に制限されない。前記有機溶媒は、例えば、1種類のみ用いてもよいし、複数種類を併用してもよい。本発明において、前記有機溶媒は、例えば、前述のとおり、ハロゲン化溶媒、フルオラス溶媒等があげられる。なお、例えば、前記有機溶媒がフルオラス溶媒である場合、前記有機相を「フルオラス相」ということがある。前記液体反応系が前記二相反応系の場合、前記有機溶媒は、例えば、前記二相系を形成し得る溶媒、すなわち、前記水相を構成する後述する水性溶媒と分離する溶媒、前記水性溶媒に難溶性または非溶性の溶媒が好ましい。
【0051】
「ハロゲン化溶媒」は、例えば、炭化水素の水素原子の全てまたは大部分が、ハロゲンに置換された溶媒をいう。前記ハロゲン化溶媒は、例えば、炭化水素の水素原子数の50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、または90%以上が、ハロゲンに置換された溶媒でもよい。前記ハロゲン化溶媒は、特に制限されず、例えば、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、四臭化炭素、および後述するフルオラス溶媒等があげられる。
【0052】
「フルオラス溶媒」は、前記ハロゲン化溶媒の1種であり、例えば、炭化水素の水素原子の全てまたは大部分がフッ素原子に置換された溶媒をいう。前記フルオラス溶媒は、例えば、炭化水素の水素原子数の50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、または90%以上がフッ素原子に置換された溶媒でもよい。本発明において、前記フルオラス溶媒を使用すると、例えば、前記溶媒自体の反応性が低いため、副反応を、より抑制または防止できるという利点がある。前記副反応は、例えば、前記溶媒の酸化反応、前記ラジカルによる前記溶媒の水素引き抜き反応またはハロゲン化反応(例えば、塩素化反応)、および、原料化合物由来のラジカルと前記溶媒との反応(例えば、前記ポリマーの側鎖または末端の炭化水素基がエチル基の場合において、エチルラジカルと前記溶媒との反応)等があげられる。前記フルオラス溶媒は、水と混和しにくいため、例えば、前記二相反応系の形成に適している。
【0053】
前記フルオラス溶媒の例は、例えば、下記化学式(F1)~(F6)で表される溶媒等があげられ、中でも、例えば、下記化学式(F1)におけるn=4のCF3(CF2)4CF3等が好ましい。
【0054】
【0055】
前記有機溶媒の沸点は、特に制限されない。前記有機溶媒は、例えば、前記親水化処理工程の温度条件によって、適宜選択可能である。前記親水化処理工程において、反応温度を高温に設定する場合、前記有機溶媒として、高沸点溶媒を選択できる。なお、本発明は、例えば、後述するように、加熱が必須ではなく、例えば、常温常圧で行なうことができる。そのような場合、前記有機溶媒は、例えば、高沸点溶媒である必要はなく、取扱い易さの観点から、沸点があまり高くない溶媒が使用できる。
【0056】
前記有機相は、例えば、前記ポリマー製レンズ、前記化合物ラジカルおよび前記有機溶媒のみを含んでもよいし、さらに、他の成分を含んでもよい。前記他の成分は、特に制限されず、例えば、ブレーンステッド酸、ルイス酸、および酸素(O2)等があげられる。前記有機相において、前記他の成分は、例えば、前記有機溶媒に溶解した状態でもよいし、溶解していない状態でもよい。後者の場合、前記他の成分は、例えば、前記有機溶媒に、分散された状態でもよいし、沈殿した状態でもよい。
【0057】
前記有機相は、前述のように、前記化合物ラジカルを含む。前記化合物ラジカルは、例えば、前記有機相以外で生成させ、前記有機相により抽出することによって、前記有機相に含ませることができる。すなわち、前記反応系が、有機相のみを含む一相反応系の場合、例えば、前記反応系である前記有機相以外で、別途、前記化合物ラジカルを生成させ、生成した前記化合物ラジカルを前記有機相により抽出し、抽出した前記化合物ラジカルを含む前記有機相を、前記反応系として、前記親水化処理工程に供することができる。前記化合物ラジカルの生成は、例えば、後述するように、別途準備した水相中で行うことができる。他方、前記液体反応系が、前記有機相と前記水相とを含む二相系反応系の場合、例えば、前記水相において、前記化合物ラジカルを生成させ、生成した化合物ラジカルを、前記有機相において前記水相から抽出し、前記水相と前記化合物ラジカルを含む有機相とを、前記二相反応系として、前記親水化処理工程に供することができる。
【0058】
前記ポリマー製レンズは、前記有機相中に配置される。前記ポリマー製レンズは、例えば、後述する反応処理の効率の点から、例えば、親水化処理しようとする部分が前記有機相中に浸漬され、前記有機相中から露出しないように、前記有機相中に固定することが好ましい。
【0059】
(3B-2)水相
前記水相は、例えば、水性溶媒の相である。前記水性溶媒は、例えば、前記有機相で使用する溶媒と分離する溶媒である。前記水性溶媒は、例えば、H2O、D2O等の水があげられる。
【0060】
前記水相は、例えば、後述するように、ルイス酸、ブレーンステッド酸、ラジカル発生源等の任意の成分を含んでもよい。前記水相において、これらの任意の成分は、例えば、前記水性溶媒に溶解した状態でもよいし、溶解していない状態でもよい。後者の場合、前記任意の成分は、例えば、前記水性溶媒に、分散された状態でもよいし、沈殿した状態でもよい。
【0061】
(4) 親水化処理工程
本発明において、前記親水化処理工程は、前述のとおり、前記ポリマー製レンズの表面を前記化合物ラジカルと反応させる工程である。前記親水化処理工程は、例えば、前記反応の反応系に光照射してもよいし、光照射しなくてもよい。以下、主に、前記反応系に光照射する方法を説明するが、本発明は、これに限定されない。前述のとおり、前記ポリマー表面を前記化合物ラジカルと反応させることができればよく、光照射せずに前記親水化処理工程を行ってもよい。その場合は、例えば、以下の説明において、光照射を省略して前記親水化処理工程を行えばよい。前述のとおり、前記ポリマー製レンズに光照射をしなくてもよいことで、例えば、安全性の向上、コスト節減等の効果が得られる。
【0062】
前記反応系には、前記ポリマー製レンズが配置されており、前記ポリマー製レンズを改質できる。具体的に、本発明によれば、前記化合物ラジカル存在下で、容易に、前記ポリマー製レンズを改質できる。本発明によれば、例えば、前記化合物ラジカルの量や、光照射の時間の長さ等の調整により、前記ポリマー製レンズの改質の程度(例えば、酸化等の改変の程度)も容易に調整できる。このため、例えば、過剰な酸化等が原因となる前記ポリマー製レンズの分解も、防止でき、例えば、前記ポリマー製レンズが本来有する特性を損なうことも回避できる。
【0063】
前記親水化処理工程において、前記ポリマーの側鎖がメチル基の場合、メチル基(-CH3)は、例えば、ヒドロキシメチル基(-CH2OH)、ホルミル基(-CHO)、およびカルボキシル基(-COOH)の少なくともいずれかに酸化される。これは、以下のメカニズムが推測される。すなわち、光照射によって、前記化合物ラジカル(例えば、二酸化塩素ラジカル)から、前記ハロゲンのラジカル(例えば、塩素ラジカル(Cl・))と、前記酸素の分子が発生する。そして、前記ポリマーのメチル基(-CH3)は、前記ハロゲンのラジカル(例えば、塩素ラジカル(Cl・))が水素引き抜き剤として働きカルボラジカル(-CH2
・)となり、つぎに、前記酸素の分子(例えば、O2)が酸化剤として働きヒドロキシメチル基(-CH2OH)となる。また、ヒドロキシメチル基(-CH2OH)は、さらなる酸化で、ホルミル基(-CHO)、またはカルボキシル基(-COOH)になる。前記ポリマーがポリプロピレン(PP)の場合、例えば、下記式のような酸化が可能である。
【0064】
【0065】
前記親水化処理工程において、前記ポリマーの側鎖がエチル基の場合、エチル基(-CH2CH3)は、例えば、ヒドロキシエチル基(-CH2CH2OH)、アセトアルデヒド基(-CH2CHO)、カルボキシメチル基(-CH2COOH)に酸化される。
【0066】
また、前記ポリマーがポリエチレン(PE)の場合、例えば、下記式のような酸化が可能である。具体的には、例えば、水素原子が結合している主鎖炭素原子が、下記式のように、ヒドロキシメチレン基(-CHOH-)、カルボニル基(-CO-)等に酸化される。また、例えば、前記ポリマーがポリプロピレン(PP)の場合も、前述の酸化に加え、またはそれに代えて、下記式のような酸化が起こってもよい。
【0067】
【0068】
前記親水化処理工程において、光照射の条件は、特に制限されない。照射光の波長は、特に制限されず、下限は、例えば、200nm以上であり、上限は、例えば、800nm以下であり、光照射時間は、特に制限されず、下限は、例えば、1秒以上であり、上限は、例えば、1000時間であり、反応温度は、特に制限されず、下限は、例えば、-20℃以上であり、上限は、例えば、100℃以下、40℃以下であり、範囲は、例えば、0~100℃、0~40℃である。反応時の雰囲気圧は、特に制限されず、下限は、例えば、0.1MPa以上であり、上限は、例えば、100MPa以下、10MPa以下、0.5MPa以下、であり、範囲は、例えば、0.1~100MPa、0.1~10MPa、0.1~0.5MPaである。前記親水化処理工程の反応条件としては、例えば、温度0~100℃または0~40℃、圧力0.1~0.5MPaが例示できる。また、前述のとおり、例えば、光照射を省略しても前記親水化処理工程を行うことができる。本発明によれば、例えば、加熱、加圧、減圧等を行うことなく、常温(室温)および常圧(大気圧)下で、前記親水化処理工程またはそれを含めた全ての工程を行なうこともできる。「室温」とは、特に制限されず、例えば、5~35℃である。このため、前記ポリマーが、例えば、耐熱性が低いポリマーを含んでいても、適用可能である。また、本発明によれば、例えば、不活性ガス置換等を行うことなく、大気中で、前記親水化処理工程またはそれを含めた全ての工程を行なうこともできる。
【0069】
前記光照射の光源は、特に制限されず、例えば、太陽光等の自然光に含まれる可視光が利用できる。自然光を利用すれば、例えば、励起を簡便に行うことができる。また、前記光源として、例えば、前記自然光に代えて、または前記自然光に加え、キセノンランプ、ハロゲンランプ、蛍光灯、水銀ランプ、LEDランプ等の光源を使用することもできる。前記光照射においては、例えば、さらに、必要波長以外の波長をカットするフィルターを適宜用いることもできる。
【0070】
前述のように、前記ポリマー製レンズは、その露出表面を親水化でき、光照射により、より効果的に親水化が可能である。このため、例えば、前記ポリマー製レンズの任意の領域のみに、前記化合物ラジカルを接触させる、または、前記化合物ラジカルの存在下、前記ポリマー製レンズの任意の領域のみに、前記光照射することによって、前記任意の領域のみを親水化することができる。前者の場合、例えば、前記ポリマー製レンズの任意の領域を除いた表面にシール等を貼り付け、前記化合物ラジカルが接触しないようにし、他方、前記任意の領域のみに前記化合物ラジカルが接触する状態にすることで、前記任意の領域のみを親水化処理できる。後者の場合は、例えば、前記化合物ラジカルの任意の領域を除いた表面をマスキングし、マスキングした領域への光照射を遮り、前記任意の領域のみに光照射することで、前記任意の領域のみを親水化処理できる。このように、前記ポリマー製レンズの任意の領域のみを選択的に親水化することで、例えば、前記任意の領域のみに選択的に薬剤を担持させることが可能である。具体的には、例えば、コンタクトレンズにおいて、角膜に対応するレンズ中心部、または結膜に対応するレンズ周縁部等に、選択的に薬剤を担持できる。
【0071】
前記反応系が前記液体反応系の場合、前記親水化処理工程において、例えば、少なくとも前記有機相に光照射してもよい。前記有機相のみからなる一相反応系の場合、例えば、前記一相反応系に光照射することで、前記親水化処理工程を実施できる。前記有機相と前記水相とを含む二相反応系の場合、例えば、有機相のみに光照射してもよいし、前記二相反応系に光照射してもよい。前記液体反応系の場合、例えば、前記液体反応系を空気に接触させながら、前記液体反応系に光照射してもよく、前記二相反応系の場合、前記水相に酸素が溶解した状態で光照射してもよい。
【0072】
本発明によれば、前記親水化処理工程において、前記化合物ラジカルの存在下で光照射するのみの極めて簡便な方法で、前記17族元素のラジカル(例えば、塩素原子ラジカルCl・)および前記15族元素または前記16族元素の分子(例えば、酸素分子O2)を発生させ、前記ポリマー製レンズ表面に対する反応(例えば、酸化反応)を行い、前記ポリマー製レンズ表面の改質を行うことができる。そして、例えば、常温および常圧等の極めて温和な条件下でも、そのような簡便な方法で、前記ポリマー製レンズ表面を効率よく変化させて、改質を行うことができる。
【0073】
本発明によれば、例えば、有毒な重金属触媒等を用いずに、前記ポリマーが改質された眼装着用レンズを得ることが出来る。このため、前述のように、例えば、極めて温和な条件下で反応が行えることと併せ、環境への負荷がきわめて小さい方法で、前記ポリマーの改質を効率よく得ることもできる。
【0074】
ポリマーの酸化方法として、パーオキサイドを用いて、PEやPP等のポリマーに対して、マレイン酸またはアクリル酸等の化合物を付加する方法がある。しかしながら、これらの化合物は、PE、PPの架橋反応や分解反応等を伴うため、数重量%程度での導入にとどまり、実用化においては導入率が低い。これに対して、本発明によれば、前記従来の方法よりも、相対的に、前記ポリマーに対する酸化される部位の含有率を、相対的に向上することもできる。
【0075】
また、ポリマーの酸化方法として、例えば、コロナ放電処理、プラズマ放電処理、グラフト化処理等の物理的な処理方法もあげられる。しかし、これらの方法は、操作の煩雑さ、処理コスト、反応コントロールの困難性等の問題がある。これに対して、本発明によれば、簡便かつ低コストに前記ポリマーの表面を改質できる。
【0076】
(5) 化合物ラジカル生成工程
本発明は、例えば、さらに、前記化合物ラジカルを生成させる化合物ラジカル生成工程を含んでもよい。本発明において、前記化合物ラジカル生成工程は、例えば、前記親水化処理工程の前または前記親水化処理工程と同時に行うことができる。前記化合物ラジカルの生成方法は、特に制限されない。
【0077】
前記化合物ラジカル生成工程は、例えば、ラジカル生成用反応系を使用して、前記化合物ラジカルを発生させてもよい。前記親水化処理工程における反応系は、例えば、前記気体反応系(気相)でもよいし、前記液体反応系(液相)でもよい。前記ラジカル生成用反応系は、例えば、前記化合物ラジカルを生成させた後、そのまま、前記親水化処理工程における前記液体反応系として使用してもよい。
【0078】
前記親水化処理工程の反応系が前記気体反応系の場合、例えば、前記親水化処理工程の反応系とは別に、前記ラジカル生成用反応系を用意してもよい。前記ラジカル生成用反応系は、例えば、前記化合物ラジカルの発生源を含む水相でもよい。前記水相は、例えば、前記化合物ラジカルの発生源を含み、前記化合物ラジカル生成工程において、前記化合物ラジカルの発生源から前記化合物ラジカルを生成させる。前記水相は、例えば、水性溶媒の相であり、前記水性溶媒は、前述と同様である。前記水相で発生した前記化合物ラジカルが疎水性の場合、例えば、前記有機相と前記水相とを含む二相反応系とすることで、前記化合物ラジカルを前記有機相に移行できる。前述のように、前記親水化処理工程を前記気体反応系で行う場合、前記化合物ラジカルの生成用反応系は、例えば、水相のみでもよいし、水相と有機相との二相反応系でもよい。前記化合物ラジカルが疎水性の場合、例えば、前記水相でラジカルが発生した直接、前記気相に移行できることから、前記ラジカル生成用反応系は、前記水相のみでもよい。
【0079】
前記親水化処理工程の反応系が前記液体反応系であり、前記水相を含む場合、例えば、前記水相が前記ラジカル生成用反応系でもよい。前記水相は、例えば、前記親水化処理工程の反応系が前記気体反応系である場合の前記ラジカル生成用反応系と同様でもよい。前記水相で発生した前記化合物ラジカルが疎水性の場合、例えば、前記有機相と前記水相とを含む二相反応系とすることで、前記化合物ラジカルを前記有機相に移行できる。
【0080】
前記化合物ラジカルの発生源(ラジカル生成源)は、特に制限されず、例えば、前記化合物ラジカルの種類によって、適宜選択できる。前記化合物ラジカルの発生源は、例えば、1種類のみを用いてもよく、複数種類を併用してもよい。前記発生源は、例えば、前記15族元素および16族元素からなる群から選択された一つの元素と、前記17族元素とを含む化合物イオンである。前記化合物イオンは、例えば、ハロゲン酸化物イオンである。前記ハロゲン酸化物イオンは、例えば、亜塩素酸イオン(ClO2
-)である。
【0081】
前記化合物ラジカルが前記16族元素と前記17族元素とを含むラジカルの場合、前記化合物ラジカルとしては、例えば、前記ハロゲンの酸化物ラジカルがあげられる。この場合、前記発生源は、例えば、前記化合物ラジカルに対応する、前記16族元素と前記17族元素とを含む化合物があげられる。具体例として、例えば、亜ハロゲン酸(HXO2)またはその塩があげられる。前記亜ハロゲン酸の塩は、特に制限されず、例えば、金属塩があげられる。前記金属塩は、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、希土類塩等があげられる。前記化合物ラジカルが前記二酸化塩素ラジカルの場合、その発生源は、特に制限されず、例えば、亜塩素酸(HClO2)またはその塩であり、具体的には、例えば、亜塩素酸ナトリウム(NaClO2)、亜塩素酸リチウム(LiClO2)、亜塩素酸カリウム(KClO2)、亜塩素酸マグネシウム(Mg(ClO2)2)、亜塩素酸カルシウム(Ca(ClO2)2)等があげられる。これらの中でも、コスト、取扱い易さ等の観点から、亜塩素酸ナトリウム(NaClO2)が好ましい。なお、例えば、他の化合物ラジカルの発生源についても、同様の方法が採用できる。具体的な他の発生源としては、例えば、亜臭素酸ナトリウム等の臭素酸塩類、亜要素酸ナトリウム等の亜ヨウ素酸塩類等があげられる。
【0082】
前記水相において、前記発生源の濃度は、特に制限されない。前記発生源が前記化合物の場合、その濃度は、前記化合物イオン濃度に換算した場合、例えば、下限が0.0001mol/L以上であり、上限が、1mol/L以下であり、また、その濃度は、前記化合物イオンのモル数に換算した場合、例えば、下限が、前記原料のモル数の1/100000倍以上であり、上限が、1000倍以下である。前記発生源が亜ハロゲン酸または亜ハロゲン酸塩(例えば、亜塩素酸または亜塩素酸塩)の場合、その濃度は、亜ハロゲン酸イオン(例えば、亜塩素酸イオン(ClO2
-))濃度に換算した場合、例えば、下限が0.0001mol/L以上であり、上限が、1mol/L以下である。また、前記発生源の濃度は、亜ハロゲン酸イオン(例えば、亜塩素酸イオン(ClO2
-))のモル数に換算した場合、例えば、下限が、前記原料のモル数の1/100000倍以上であり、上限が、1000倍以下である。他の発生源についても、例えば、前記濃度が援用できる。
【0083】
前記水相は、例えば、さらに、ルイス酸およびブレーンステッド酸の少なくとも一方を含み、これを前記発生源(ラジカル生成源)に作用させて前記化合物ラジカルを生成させてもよい。前記ルイス酸およびブレーンステッド酸の少なくとも一方は、例えば、1族元素を含むルイス酸およびブレーンステッド酸の少なくとも一方である。前記1族元素は、例えば、H、Li、Na、K、Rb、およびCsからなる群から選択された少なくとも一つである。前記水相は、例えば、前記ルイス酸および前記ブレーンステッド酸の一方のみを含んでも、両方を含んでも、1つの物質が、前記ルイス酸および前記ブレーンステッド酸の両方を兼ねてもよい。前記ルイス酸または前記ブレーンステッド酸は、それぞれ1種類のみを用いてもよいし、複数種類を併用してもよい。本発明において、「ルイス酸」は、例えば、前記化合物ラジカルの発生源に対してルイス酸として働く物質をいう。
【0084】
前記水相において、前記ルイス酸および前記ブレーンステッド酸の少なくとも一方の濃度は、特に制限されず、例えば、前記改質対象のポリマーの種類等に応じて、適宜設定できる。前記濃度は、例えば、下限が0.0001mol/L以上であり、上限が1mol/L以下である。
【0085】
前記ブレーンステッド酸は、特に制限されず、例えば、無機酸でもよいし、有機酸でもよく、具体例として、例えば、トリフルオロメタンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、酢酸、フッ化水素酸、塩化水素酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、亜硫酸、硝酸、亜硝酸、リン酸、亜リン酸等があげられる。前記ブレーンステッド酸の酸解離定数pKaは、例えば、10以下である。前記pKaの下限値は、特に制限されず、例えば、-10以上である。
【0086】
前記水相は、例えば、前記化合物イオンと前記ブレーンステッド酸とを含み、例えば、前記化合物とブレーンステッド酸(例えば塩酸)とが水性溶媒に溶解した水相であることが好ましい。具体例として、前記化合物ラジカルが二酸化塩素ラジカルの場合、前記水相は、例えば、亜塩素酸イオン(ClO2
-)とブレーンステッド酸とを含み、例えば、前記亜塩素酸ナトリウム(NaClO2)と前記ブレーンステッド酸(例えば塩酸)とが水性溶媒に溶解した水相であることが好ましい。
【0087】
前記水相において、例えば、前記ルイス酸、前記ブレーンステッド酸、前記ラジカル発生源等は、前記水性溶媒に溶解した状態でもよいし、溶解していない状態でもよい。後者の場合、これらは、例えば、水性溶媒に、分散した状態でもよいし、沈殿した状態でもよい。
【0088】
前記化合物ラジカル生成工程は、特に制限されず、例えば、前記水性溶媒に前記化合物ラジカルの発生源を含有させることによって、前記発生源(例えば、前記化合物イオンであり、例えば、亜塩素酸イオン)から前記化合物ラジカル(例えば、二酸化塩素ラジカル)を自然発生させることができる。前記水相は、例えば、前記発生源が前記水性溶媒に溶解していることが好ましく、また、静置させることが好ましい。前記化合物ラジカル生成工程において、前記水相は、例えば、さらに、前記ルイス酸およびブレーンステッド酸の少なくとも一方を共存させることによって、前記化合物ラジカルの発生を、さらに促進できる。前記化合物ラジカル生成工程は、例えば、前記水相に光照射を施すことで、前記化合物ラジカルを発生させることもできるが、光照射せずに、例えば、単に静置するのみでも、前記化合物ラジカルを発生させることができる。前記反応系における前記水相中の前記発生源から発生した前記化合物ラジカルは、水に難溶であるため、前記反応系における前記有機相中に溶解する。
【0089】
前記水相において、前記化合物イオンから前記化合物ラジカルが発生するメカニズムは、例えば、後述する
図1(液相反応系で、有機相と水相との二相系の場合)と同様であると推測される。ただし、この説明は例示であって、本発明をなんら限定しない。
【0090】
前記反応系が前記液体反応系であり、前記有機相と前記水相とを含む二相反応系である場合、前述のようにして、前記化合物ラジカルを発生させた後、前記液体反応系を、そのまま前述の親水化処理工程に供すればよい。前記反応系における前記水相中の前記発生源から発生した前記化合物ラジカルは、水に難溶であるため、前記反応系における前記有機相中に溶解する。例えば、前記化合物ラジカルを発生させた前記液体反応系について、さらに、光照射を行うことによって、前記ポリマーを改質する前記親水化処理工程を行うこともできる。この場合、例えば、前記液体反応系に光照射を行うことで、前記化合物ラジカル生成工程と前記親水化処理工程とを連続的に行える。本発明において、前記二相反応系で、前記化合物ラジカル生成工程と前記親水化処理工程とを行うことにより、例えば、より良い反応効率が得られる。
【0091】
他方、前述の親水化処理工程における前記反応系が、前記液体反応系であり、前記有機相のみを含む一相反応系である場合、例えば、前記方法により前記水相で前記化合物ラジカルを発生させ、発生した前記化合物ラジカルを前記有機相に溶解(抽出)させた後、前記水相を除去し、前記化合物ラジカルを含む前記有機相を、前記一相反応系として、前記親水化処理工程に供すればよい。
【0092】
図1に、前記二相反応系を用いた、前記化合物ラジカル生成工程および前記親水化処理工程の一例を模式的に示す。
図1において、前記化合物ラジカルとして前記二酸化塩素ラジカルを、具体例として示すが、本発明は、この例には、何ら制限されない。
図1に示すとおり、前記反応系は、反応容器中において、水層(前記水相)と有機層(前記有機相)との二層が分離し、互いに界面のみで接触している。上層が、水層(前記水相)2であり、下層が、有機層(前記有機相)1である。有機相1は、例えば、フルオラス相であってもよい。
図1は、断面図であるが、見やすさのために、水層2および有機層1のハッチは、省略している。
図1に示すとおり、水層(水相)2中の亜塩素酸イオン(ClO
2
-)が酸と反応して、二酸化塩素ラジカル(ClO
2
・)が発生する。二酸化塩素ラジカル(ClO
2
・)は、水に難溶であるため、有機層1に溶解する。つぎに、二酸化塩素ラジカル(ClO
2
・)を含む有機層1に光照射し、光エネルギーを与えることで、有機層1中の二酸化塩素ラジカル(ClO
2
・)が分解して、塩素ラジカル(Cl
・)および酸素分子(O
2)が発生する。これにより、有機層(有機相)1中のポリマー製レンズが酸化され、表面が改質される。
図1は例示であって、本発明をなんら限定しない。
【0093】
図1では、水層2が上層で、有機層1が下層であるが、例えば、有機層1の方が、密度(比重)が低い場合は、有機層1が上層になる。例えば、上層の有機層中に前記ポリマー製レンズが配置されるように、前記反応容器中において固定化してもよい。この場合、前記ポリマー製レンズを固定する固定部は、例えば、前記反応容器中に設けてもよいし、前記反応容器の外部に設けてもよい。後者の場合、例えば、外部から前記ポリマー製レンズを吊るし、前記有機層中に浸漬させる形態等があげられる。
【0094】
図1では、前記二相反応系を例示したが、本発明の製造方法において、前記親水化処理工程は、有機相のみの一相反応系で行ってもよい。この場合、例えば、前記化合物ラジカルの発生源を含む水相を別途準備し、前記水相で前記化合物ラジカルを生成させた後、前記水相に前記有機相を混合し、前記水相の前記化合物ラジカルを前記有機相に溶解(抽出)させる。そして、前記水相と前記有機相とを分離し、前記有機相を回収し、前記ポリマーを配置し、これを一相反応系として、単独で、前記化合物ラジカルの存在下、前記光照射による前記親水化処理工程を行なう。また、前記親水化処理工程における反応系が気体反応系である場合は、前述のとおり、前記水相で前記化合物ラジカルを生成させた後、前記気体反応系で前記親水化処理工程を行ってもよい。
【0095】
(6) 官能基を導入する工程
本発明の眼装着用レンズの製造方法は、例えば、さらに、前記ポリマー製レンズを形成するポリマーにおける変化した部位に、官能基を導入する工程を含んでもよい。前記ポリマーにおける変化した部位(改変部位)は、例えば、前述のような元素が導入された部位、具体例として、酸化された部位等があげられる。
【0096】
本発明の眼装着用レンズの製造方法によれば、前述のように、前記親水化処理工程により、前記ポリマー製レンズを形成するポリマーを改変させたり、さらに、官能基化することによって、前記ポリマーの物性を変えることができる。
【0097】
本発明の眼装着用レンズの製造方法によれば、例えば、さらに官能基を導入することによって、様々な機能を、前記ポリマーに付与することができる。
【0098】
本発明の眼装着用レンズの製造方法によれば、例えば、前記官能基化によって、物性を変化させることができる。前記官能基化として、例えば、薬剤を前記ポリマー製レンズに付与する形態があげられる。このように、前記ポリマー製レンズの物性を変化させることによって、例えば、デリバリー材料、除放材料等への利用の用途を広げることができる。
【0099】
(7) 薬剤担持工程
本発明の眼装着用レンズの製造方法は、前述のとおり、さらに、前記親水化処理工程後のレンズ表面に薬剤を担持させる薬剤担持工程を含んでいてもよい。
図8(a)~(c)の工程斜視図に、前記薬剤担持工程を含む本発明の眼装着用レンズの製造方法の一例を、模式的に示す。まず、
図8(a)に示すとおり、ポリマー製レンズ11を準備する。つぎに、
図8(b)に示すとおり、前記親水化処理工程を行い、ポリマー製レンズ11表面を改質して改質面12とする。さらに、
図8(c)に示すとおり、前記薬剤担持工程を行い、改質面12に薬剤13を担持させる。なお、
図8において、製造される眼装着用レンズは、特に制限されず、例えば、前記眼表面レンズでもよいし、前記眼内レンズでもよい。また、例えば、前記親水化処理工程後、前記薬剤担持工程に先立ち、さらに、前記官能基を導入する工程等の他の工程を行ってもよいし、行わなくてもよい。前記官能基を導入する工程においては、例えば、親水性の官能基を導入してもよい。レンズ表面に親水性の官能基を導入することは、前記レンズ表面の親水化ということもできる。
【0100】
本発明において、例えば、前記眼装着用レンズの表面が親水化されていることで、薬剤とイオン結合、水素結合、共有結合(例えばペプチド結合)等を形成しやすくなる。これにより、前記眼装着用レンズの表面に前記薬剤を担持させやすくなる。例えば、前記薬剤がアミノ基を有し、前記眼装着用レンズの表面とペプチド結合を形成してもよい。ただし、これらの説明は例示であり、本発明を限定しない。
【0101】
前記薬剤は、特に制限されず、例えば、眼球に使用される一般的な薬剤と同様でもよいし、それ以外の任意の薬剤でもよい。前記薬剤の機能、用途等については、例えば、殺菌薬、抗菌薬、抗ウイルス薬、抗アレルギー薬、抗真菌薬、抗炎症薬、抗生薬、副腎皮質ステロイド薬、角膜治療薬、結膜治療薬、緑内障治療薬、散瞳薬、調節麻痺薬、局所麻酔薬、抗白内障薬、ビタミン剤等があげられる。また、前記薬剤の物質名については、例えば、セフォチアム、セフメノキシム、セフォチアム塩酸塩、セフメノキシム塩酸塩、オフロキサシン、レボフロキサシン、アシクロビル、ヨウ素・ポリビニルアルコール、ピマリシン、アズレンスルホン酸ナトリウム水和物、リゾチーム塩酸塩、グリチルリチン酸二カリウム、アンレキサノクス、クロモグリク酸ナトリウム、ヒドロコルチゾン酢酸エステル、プレドニゾロン酢酸エステル、デキサメタゾン、フルオロメトロン、コンドロイチン硫酸エステルナトリウム、ホウ酸・無機塩類配合剤、フラビンアデニンジヌクレオチドナトリウム・コンドロイチン硫酸エステルナトリウム、カルテオロール塩酸塩、シクロペントラート塩酸塩、フェニレフリン塩酸塩、トロピカミド、トロピカミド・フェニレフリン塩酸塩、オキシブプロカイン塩酸塩、ピレノキシン、グルタチオン、シアノコバラミン、フラビンアデニンジヌクレオチドナトリウム、ブドウ糖・無機塩類配合剤、精製ヒアルロン酸ナトリウム等があげられる。また、前記薬剤は、例えば、その異性体、塩、水和物等でもよい。なお、本発明において、化学物質の異性体および塩については、特に制限されず、例えば、前述のとおりである。また、前記薬剤は、一種類のみ用いても二種類以上併用してもよい。具体的には、例えば、一つの眼装着用レンズにおいて、部位によって異なる二種類以上の薬剤を担持させてもよく、この場合において、前記眼装着用レンズは、前記眼表面レンズでも前記眼内レンズでもよい。例えば、前記眼装着用レンズが眼表面用コンタクトレンズである場合において、レンズ中心部に角膜治療薬を、レンズ周縁部に結膜治療薬を、それぞれ担持させてもよい。
【0102】
前記薬剤担持工程の具体的な方法は、特に制限されず、例えば、固体表面への薬剤の担持方法として一般的な方法と同様またはそれに準じてもよいし、それらの方法を参考にして適宜条件設定してもよい。なお、固体表面への薬剤の担持方法は、例えば、WO2016/158707A1、特開2014-001159号公報等に記載されている。前記薬剤担持工程は、例えば、前記親水化処理工程後のレンズ表面に前記薬剤またはその溶液を塗付してもよいし、前記親水化処理工程後のレンズを、前記薬剤またはその溶液に浸漬させてもよい。前記浸漬中に、例えば、前記薬剤またはその溶液に対し、超音波処理、加熱、加圧、pH調整等を行ってもよいし、行わなくてもよい。また、前記塗布または浸漬後に、前記レンズに対し、必要に応じ、洗浄、乾燥等の処理を行ってもよいし、行わなくてもよい。塗布、浸漬、乾燥等における温度、時間等も、特に制限されず、適宜設定可能である。また、前記薬剤担持工程において、前述のとおり、前記レンズ表面と前記薬剤とがイオン結合、水素結合等を形成してもよいし、前記レンズ表面と前記薬剤とが化学反応して共有結合を形成してもよい。
【0103】
本発明において、眼装着用レンズ表面に薬剤を担持させることで、例えば、前記眼装着用レンズから、前記薬剤を徐放させることができる。
【0104】
また、本発明において、眼装着用レンズ表面に薬剤を担持させることで、前記薬剤の種類に応じた効果を得ることができる。例えば、眼内レンズは、眼内に挿入するため、場合によっては感染症等のおそれがある。そこで、前記眼内レンズ表面に抗菌剤、殺菌剤等を担持させれば、前記感染症の予防等の効果を得ることができる。
【0105】
(8) 眼装着用レンズ
本発明の眼装着用レンズは、前述のとおり、X=A0-Aで表される水の接触角の変化量Xが、0°より大きい。前述のとおり、A0は、前記ポリマーの、酸化処理されていない表面における水の接触角であり、Aは、前記ポリマーの、前記酸化処理された表面における水の接触角である。前記水の接触角の変化量Xは、例えば、1°以上、2°以上、5°以上、10°以上、20°以上、または30°以上であり、上限値はA0以下であり、特に制限されず、例えば60°以下である。なお、前記水の接触角の測定方法および測定機器は、特に制限されず、例えば、後述の実施例に記載のとおりである。
【0106】
本発明の眼装着用レンズの製造方法は、特に制限されず、例えば、前記ポリマー製レンズを、前記親水化処理工程により改質して製造できる。前記処理対象となるポリマー製レンズは、例えば前述のとおりである。
【0107】
また、本発明の眼装着用レンズは、例えば、前記ポリマーが、ポリプロピレンであり、前記酸化処理された表面の赤外線吸収スペクトルにおいて、2800~3000cm-1のC-H伸縮に由来するピークの面積と、1700~1800cm-1のC=O伸縮に由来するピークの面積との比C=O/C-Hが、0より大きくてもよい。前記C=O/C-Hは、例えば、0.0001以上、0.001以上、0.02以上、または0.03以上であり、例えば、1.0以下、0.4以下、0.3以下、または0.2以下である。なお、赤外線吸収スペクトル(赤外スペクトル、IRスペクトル、または単にIRともいう。)の測定方法および測定機器は、特に制限されず、例えば、後述の実施例に記載のとおりである。また、本発明の眼装着用レンズは、例えば、前記ポリマーがポリプロピレン以外であっても、表面の親水化を赤外線吸収スペクトルで確認できる。具体的には、例えば、本発明の眼装着用レンズ表面の赤外線吸収スペクトルを測定し、親水化処理されていないポリマー表面の赤外線吸収スペクトルと比較すればよい。これにより、例えば、本発明の眼装着用レンズ表面に親水基等が導入されていることが確認できる。前記ポリマーは、特に制限されず、例えば、前述のとおりであり、例えば、シリコーンハイドロゲル等でもよい。
【0108】
本発明の眼装着用レンズは、例えば、15族元素および16族元素からなる群から選択された一つの元素(α)と17族元素(β)とを含むが、これには限定されない。例えば、本発明の眼装着用レンズは、前記17族元素(β)を含まなくてもよい。なお、前記15族元素は、例えば、NおよびPの少なくとも一方である。前記16族元素は、例えば、O、S、Se、およびTeからなる群から選択された少なくとも一つである。前記17族元素は、例えばハロゲンであり、例えば、F、Cl、Br、およびIからなる群から選択された少なくとも一つである。
【0109】
従来、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリマーの改質方法としては、例えば、無水マレイン酸を、ラジカル反応を用いて導入する方法が知られている。しかし、このような従来の方法は、例えば、事業的に好適な条件では、前記ポリマーにおける架橋反応や分解反応が併発することが有り、眼装着用レンズにおける無水マレイン酸の導入率は、数重量%程度に留まる例が多い。本発明のポリマーの官能基の導入率は、この様な例と同等かそれ以上であることが好ましい。
【0110】
本発明の眼装着用レンズにおいて、前記元素(α)および前記17族元素(β)は、それぞれ、例えば、官能基として含まれてもよい。前記元素(α)を含む官能基は、例えば、水酸基、カルボニル基、アミド基等が例示でき、前記17族元素(β)を含む官能基は、例えば、塩素基、臭素基、ヨウ素基、塩化アルキル基、臭化アルキル基、ヨウ化アルキル基等が例示できる。
【0111】
本発明の眼装着用レンズにおいて、前記元素(α)および前記17族元素(β)が含まれるポリマー(ポリマー骨格ともいう)は、例えば、炭素と水素とを含み、且つ、炭素-水素結合を有するポリマーである。前記ポリマーは、例えば、前記親水化処理工程における記載が援用でき、前述のような、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリカーボネート等があげられ、前記ポリオレフィンは、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等が、前記ポリエステルは、例えば、ポリ乳酸があげられる。
【0112】
本発明の眼装着用レンズの形態は、例えば、前記親水化処理工程における記載を援用できる。
【0113】
本発明の眼装着用レンズは、前述のように、例えば、前記親水化処理工程によって、またはさらに他の工程(例えば、前記官能基を導入する工程、前記薬剤担持工程等)を含む方法によって製造できる。
【0114】
なお、本発明の眼装着用レンズの種類は特に制限されず、前述のとおり、例えば、前記眼表面レンズでも前記眼内レンズでもよい。前記眼表面レンズは、例えば、前記着脱コンタクトレンズでもよい。また、前記眼内レンズは、例えば、前記眼内コンタクトレンズでも前記人工水晶体レンズでもよい。
【0115】
例えば、本発明の眼装着用レンズが前記着脱コンタクトレンズである場合、その使用方法は特に制限されず、例えば、一般的な前記着脱コンタクトレンズと同様の使用方法でもよい。本発明のコンタクトレンズは、シリコーンハイドロゲル製コンタクトレンズである場合、例えば、前述のとおり、従来のシリコーンハイドロゲル製コンタクトレンズの利点をそのまま有し、かつ長期的に安定で劣化しにくい。このように、本発明の前記着脱コンタクトレンズは、一般的な前記着脱コンタクトレンズよりも高い利便性を有することも可能である。また、本発明の前記着脱コンタクトレンズは、例えば、前述のとおり、薬剤を担持させてもよいし、させなくてもよい。本発明の前記着脱コンタクトレンズに薬剤を担持させた場合は、例えば、前記薬剤の徐放により、前記薬剤の種類に応じた効果を得ることができる。
【0116】
本発明の眼装着用レンズが前記眼内レンズである場合、例えば、前述のとおり、薬剤を担持させることができる。これによれば、例えば、前記薬剤の徐放により、前記薬剤の種類に応じた効果を得ることができる。より具体的には、例えば、前述のとおり、殺菌剤、抗菌剤等を担持させることで、前記眼内レンズ移植後の感染症を予防することができる。ただし、この説明は例示であり、本発明の前記眼内レンズは、これに限定されない。例えば、本発明の前記眼内レンズは、薬剤を担持させてもよいし、担持させなくてもよい。本発明の前記眼内レンズの使用方法も特に制限されず、例えば、一般的な前記眼内レンズと同様の使用方法でもよい。
【実施例】
【0117】
以下、本発明の実施例について説明する。ただし、本発明は、以下の実施例には限定されない。
【0118】
[参考例A]
参考例Aとして、液体反応系を用いた改質処理(親水化処理工程)を行った。
【0119】
[参考例A1]
有機相として、フルオラス溶媒(CF3(CF2)4CF3)を使用した。一方、前記二酸化ラジカルの発生源である亜塩素酸ナトリウム(NaClO2)と、酸であるHClを、水性溶媒(H2O)に溶かし、水相を調製した。前記水相において、亜塩素酸ナトリウムの終濃度は、500mmol/Lとし、HClの終濃度は、500mmol/Lとした。前記水相2mLと前記有機相5mLとを、同一の反応容器中に入れ、接触させて二相反応系とした。前記二相反応系において、前記フルオラス溶媒の有機相は、下層であり、前記水相は、上層となった。そして、前記反応容器中に、ポリプロピレンフィルムを投入した。前記フィルムは、前記下層の有機相に沈んだ状態となった。前記フィルムの大きさは、長さ50mm×幅20mm×厚み0.2mmであった。なお、前記フィルムは、ポリプロピレンペレット(製品名:プライムポリプロ(登録商標)、プライムポリマー株式会社製)3gを、160℃、20MPaの条件で、10分間ヒートプレスして成形したものである。そして、大気中、前記二相反応系に、加圧および減圧を行なわず、室温(約25℃)条件下、波長λ=360nmのLEDランプ(パイフォトニクス社製 60W)で、30分、光照射した。光照射は、前記有機相の側面から、前記有機相中の前記フィルムの全表面に行った。このとき、前記有機相の色が黄色に変色したことから、前記水相で発生した二酸化塩素ラジカルが前記有機相に溶解したことが確認できた。そして、光照射開始から30分後に、前記有機相の黄色の着色が消失したことをもって、反応終了とした。
【0120】
そして、光照射後、前記フィルムにおける光照射した表面について、IRを行った。また、比較例として、光照射前に、前記フィルムについて、予め、同様にIRを行った。この結果を、
図2に示す。
図2において、(A)は光照射前の結果であり、(B)は光照射後の結果である。なお、本参考例と、以下の全ての参考例および実施例とにおいて、IRは、製品名:FT/IR-4700(日本分光株式会社製)に、付属品である製品名:ATR PRO ONE(日本分光株式会社製)およびダイヤモンドプリズムを取り付けたものを使用した。
【0121】
図2(B)に示すように、光照射によって、光照射前の
図2(A)には見られなかった水酸基(-OH)、およびカルボキシル基(-COOH)に含まれるカルボニル基(-C(=O)-)を示すピークが確認できた。この結果から、ポリプロピレンフィルムにおいて、ポリマーの側鎖のメチル基がヒドロキシメチル基(-CH
2OH)およびカルボキシ基(-COOH)に酸化され、前記フィルムの表面が改質されていることが確認された。
【0122】
[参考例B]
参考例Bとして、気相反応系を用いた改質処理(親水化処理工程)を行った。
【0123】
[参考例B1]
フルオラス溶媒(CF3(CF2)4CF3)4mLと、水(H2O)2mLと、亜塩素酸ナトリウム(NaClO2)90mgと、35%塩酸(HCl)20μLとを、同一の反応容器に入れ、5分間撹拌した。前記反応容器を静置し、下から、フルオラス溶媒の有機相、水相、気相に分離させた。そして、前記有機相が黄色になったこと、さらに、前記気相に白色ガスが発生したことを確認した。二酸化塩素ラジカルは、前記水相で発生し、より安定な前記有機相(フルオラス溶媒)に溶解する。つまり、前記有機相の黄色変化は、二酸化塩素ラジカルの発生を意味することから、本参考例において、二酸化塩素ラジカルの発生が確認できた。そして、二酸化塩素ラジカルは、前記有機相への溶解が限界量を超えると、前記気相へと、白色ガスとして流出する。つまり、前記気相における白色ガスの発生は、前記気相における二酸化塩素ラジカルの存在を意味することから、本参考例において、前記気相において二酸化塩素ラジカルが存在することを確認できた。
【0124】
つぎに、前記反応容器中に、ポリエチレンプレート(品番:2-9217-01、アズワン社)を投入した。前記ポリエチレンプレートの大きさは、長さ50mm×幅15mm×厚み1mmとした。前記反応容器に、前記ポリエチレンプレートを投入した状態の概略図を、
図3に示す。
図3に示すように、反応容器4内において、有機相(フルオラス相)1、水相2、気相3は、この順序で分離され、ポリエチレンプレート(PEプレート)5は、下部が有機相1に浸漬し、上部が気相3に暴露された状態とした。そして、前記反応容器は、その上部に蓋をすることなく、開放系とし、大気中、前記反応容器内に加圧および減圧を行なわず、室温(約25℃)条件下、波長λ>290nmのキセノンランプ(ウシオ社製 500W、パイレックス(登録商標)ガラスフィルター装着)で、光照射した。前記光照射の間、気相3には、たえず白色ガスが発生し、二酸化塩素ラジカルが、水相2にて発生し、有機相1への溶解の限界量を超え、気相3に流出していることが確認された。前記ポリエチレンプレートへの光照射は、反応容器4の前記気相に暴露された前記ポリエチレンプレートの表面に対して行った。具体的には、ポリエチレンプレート5の表面に対して、25cmの距離から、前記表面に垂直となるように平行光を照射した。そして、光照射開始から30分後に、前記有機相の黄色の着色が消失したことをもって、反応終了とした。
【0125】
そして、前記光照射後、前記ポリエチレンプレートにおける光照射した表面について、赤外分光法(Infrared Spectroscopy:IR)を行った。また、比較例として、光照射前に、前記ポリエチレンプレートについて、予め、同様にIRを行った。この結果、光照射によって、光照射前には見られなかったカルボキシ基(-COOH)を示すピーク(1700cm-1付近)が確認できた。この結果から、前記ポリエチレンプレートにおいて、ポリエチレンのC-H結合(2900cm-1付近)が、カルボキシ基(1700cm-1付近)に酸化され、前記ポリエチレンプレートの表面が改質されていることが確認された。
【0126】
[参考例B2]
前記ポリエチレンに代えて、ポリプロピレンを使用した以外は、前記参考例B1と同様にして、気相反応系を用いた改質処理(親水化処理工程)を行った。
【0127】
(1)ポリプロピレンフィルム
前記ポリエチレンプレートに代えて、ポリプロピレンフィルムを使用した。前記ポリプロピレンフィルムは、ポリプロピレンペレット(製品名:プライムポリプロ(登録商標)、プライムポリマー株式会社製)3gを、160℃、20MPaの条件で、10分間ヒートプレスして成形した。前記ポリプロピレンフィルムは、長さ50mm×幅15mm×厚み0.3mmの大きさに裁断して使用した。そして、前記光照射後、前記ポリプロピレンフィルムにおける光照射した表面について、参考例B1と同様にしてIRを行った。また、比較例として、光照射前に、前記ポリプロピレンフィルムについて、予め、同様にIRを行った。この結果、光照射によって、光照射前には見られなかったカルボキシ基(-COOH)を示すピーク(1700cm-1付近)が確認できた。この結果から、前記ポリプロピレンフィルムにおいて、ポリプロピレンの側鎖のメチル基(-CH3)(2900cm-1付近)、およびポリプロピレンの主鎖に含まれるC-H結合(2900cm-1付近)が、カルボキシ基(-COOH)(1700cm-1付近)に酸化され、前記ポリプロピレンフィルムの表面が改質されていることが確認された。
【0128】
[参考例B3]
前記ポリエチレンプレートに代えて、ポリメチルメタクリレート(PMMA)プレートを使用した以外は、前記参考例B1と同様にして、気相反応系を用いた改質処理(親水化処理工程)を行った。
【0129】
前記PMMAプレート(品番:2-9208-01、アズワン社)は、長さ50mm×幅15mm×厚み1mmのものを使用した。そして、前記光照射後、前記PMMAプレートにおける光照射した表面について、参考例B1と同様にしてIRを行った。また、比較例として、光照射前に、前記PMMAプレートについて、予め、同様にIRを行った。この結果、光照射前と比較して、光照射後では、1700cm-1付近が幅広くせり上がっており、肩ピークのブロード化が確認できた。前記ピークは、エステル基(-COOR)、カルボキシ基(-COOH)等に含まれるカルボニル基(-C(=O)-)に対応する。この結果から、前記PMMAプレートにおいて、PMMAの側鎖のメチル基(-CH3)等に含まれるC-H結合が、カルボキシ基(-COOH)に酸化され、前記PMMAプレートの表面が改質されていることが確認された。
【0130】
[参考例B4]
前記ポリエチレンプレートに代えて、ポリジメチルシロキサン(PDMS)フィルムを使用した以外は、前記参考例B1と同様にして、気相反応系を用いた改質処理(親水化処理工程)を行った。
【0131】
前記PDMSフィルム(製品名:Sylgard 184、東レ・ダウコーニング社製)は、長さ40mm×幅15mm×厚み1mmのものを使用した。前記光照射後、前記PDMSフィルムにおける光照射した表面について、前記参考例B1と同様にしてIRを行った。また、比較例として、光照射前に、前記PDMSフィルムについて、予め、同様にIRを行った。この結果、光照射前では、1700cm-1付近のピークが見られなかったのに対して、光照射後では、1700cm-1付近のピークが確認できた。前記ピークは、カルボキシ基(-COOH)に対応する。この結果から、前記PDMSフィルムにおいて、PDMSの側鎖のメチル基(-CH3)(2900cm-1付近のピーク)およびPDMSの主鎖のC-H結合(2900cm-1付近のピーク)が、カルボキシ基(-COOH)(1700cm-1付近のピーク)に酸化され、前記PDMSフィルムの表面が改質されていることが確認された。
【0132】
[参考例B5]
前記ポリエチレンプレートに代えて、ポリカーボネート(PC)プレートを使用した以外は、前記参考例B1と同様にして、気相反応系を用いた改質処理(親水化処理工程)を行った。
【0133】
前記ポリカーボネート(PC)プレート(品番:2-9226-01、アズワン社)は、長さ50mm×幅15mm×厚み1mmのものを使用した。前記光照射後、前記PCプレートにおける光照射した表面について、前記参考例B1と同様にしてIRを行った。また、比較例として、光照射前に、前記PCプレートについて、予め、同様にIRを行った。この結果、光照射前と比較して、光照射後では、1700cm-1付近が幅広くせり上がっており、肩ピークのブロード化が確認できた。前記ピークは、カーボネート基(-O-(C=O)-O-)、カルボキシ基(-COOH)等に含まれるカルボニル基(-C(=O)-)に対応する。この結果から、前記PCプレートにおいて、PCの側鎖のメチル基(-CH3)等に含まれるC-H結合が、カルボキシ基(-COOH)に酸化され、前記PCプレートの表面が改質されていることが確認された。
【0134】
[参考例B6]
前記ポリエチレンプレートに代えて、液晶ポリマー(LCP)プレート(液晶性ポリエステル)を使用した以外は、前記参考例B1と同様にして、気相反応系を用いた改質処理(親水化処理工程)を行った。
【0135】
前記LCPプレート(製品名:6030g-mf、上野製薬株式会社製)は、長さ50mm×幅15mm×厚み1mmのものを使用した。前記光照射後、前記LCPプレートにおける光照射した表面について、参考例B1と同様にしてIRを行った。また、比較例として、光照射前に、前記LCPプレートについて、予め、同様にIRを行った。この結果、光照射前と比較して、光照射後では、1700cm-1付近が幅広くせり上がっており、肩ピークのブロード化が確認できた。前記ピークは、エステル基(-COOR)、カルボキシ基(-COOH)等に含まれるカルボニル基(-C(=O)-)に対応する。この結果から、前記LCPプレートにおいて、LCPに含まれるC-H結合が、カルボキシ基(-COOH)に酸化され、前記LCPプレートの表面が改質されていることが確認された。
【0136】
[参考例B7]
図4の斜視図に示す反応系を用い、ポリプロピレン(PP)フィルムを使用して気相反応系を用いた改質処理(親水化処理工程)を行った。
【0137】
(参考例B7-1)
図示のとおり、反応容器22として、2つの円筒形状容器が通路で連結されたH字型の容器を用いた。反応容器22はガラス製で、2つの円筒形状容器は、それぞれ、内径10mm、深さ70mmであった。通路は、内径8mm、長さ15mmであり、通路内底部から円筒形状容器内底部までの深さは50mmであった。
【0138】
図示のとおり、反応容器22の一方の円筒形状容器の底部に塩酸酸性NaClO2水溶液21を入れ、他方の円筒形状容器にPPフィルム(ポリマー)11Aを入れた。塩酸酸性NaClO2水溶液21は、H2O(7mL)、NaClO2(50mg)、および35%HClaq.(50μL)を混合した水溶液を用いた。PPフィルム11Aは、参考例B2で用いたPPフィルムと同じものを、長さ50mm×幅10mm×厚み0.2mmの大きさに裁断したフィルムを使用した。その状態で、反応容器22を蓋23で密閉し、塩酸酸性NaClO2水溶液21に、反応容器22の側面から、出力60Wで5分間光照射した。光源は波長365nmのLEDランプを使用した。また、光源と反応容器22との距離は20cmとした。その光照射により発生した二酸化塩素ラジカルを、PPフィルム11Aの表面と反応させて親水化処理した。反応は、大気中、加圧および減圧を行なわず、室温下で行った。NaClO2溶液のClO2ラジカル由来の黄色の着色が消失したことをもって、反応終了とした。反応終了後、PPフィルム11Aを精製水で洗浄し、減圧下で一晩乾燥した。以上のようにして、PPフィルム11Aの改質処理(親水化処理工程)を行った。
【0139】
(参考例B7-2)
また、反応容器22におけるPPフィルム11A側の円筒形状容器をアルミニウムで被覆して遮光し、PPフィルム11Aに光が当たらない状態としたこと以外は参考例B7-1と同様にしてPPフィルム11Aの改質処理(親水化処理工程)を行った。すなわち、本例では、前記親水化処理工程における反応系(反応容器22におけるPPフィルム11A側の円筒形状容器)には光照射せず、前記ラジカル生成用反応系(反応容器22における塩酸酸性NaClO2水溶液21側の円筒形状容器)にのみ光照射した状態で前記親水化処理工程を行った。
【0140】
(IRスペクトル測定)
参考例B7-1および参考例B7-2の反応前(親水化処理工程前)および反応後(親水化処理工程後)のPPフィルム11Aについて、それぞれ、IRスペクトル(赤外線吸収スペクトル)を測定した。IR測定の条件は、前記と同様である。その結果、参考例B7-1および参考例B7-2のいずれも、反応後は、反応前と比較して、2900cm-1付近のピーク強度が減少するとともに、1700cm-1付近のピーク強度が増大した。このことから、PPフィルム11A表面のメチル基が酸化されてカルボキシ基に変換されたと推測できる。また、参考例B7-2により、前記親水化処理工程は、前記親水化処理工程の反応系に光照射しなくても反応が進行することを確認できた。
【0141】
なお、前記参考例B7-1のIRスペクトルの測定結果を、下記表4に示す。同表には、前記親水化処理工程の反応時間を、10分間および60分間に変化させた結果とともに、対照として反応前のPPフィルム11Aの測定結果も示す。下記表4に示すとおり、反応時間10分間および60分間のいずれも、2800~3000cm-1のC-H伸縮に由来するピークの面積と、1700~1800cm-1のC=O伸縮に由来するピークの面積との比C=O/C-Hが、反応前と比較して大幅に増大していた。
【0142】
【0143】
(水の接触角測定)
前記参考例B7-1およびB7-2のPPフィルムに対し、製品名:Drop Master DM300(協和界面科学株式会社製)を用いて水の接触角の測定を行った。前記測定は、1マイクロリットルの純水を測定対象物の表面に滴下し、2秒後の接触角を解析ソフトウェアとして製品名:FAMAS(協和界面科学株式会社製)を用い静的接触角法により算出した。なお、以下の全ての参考例および実施例において、水の接触角の測定は、本参考例と同じ機器を用いて同じ方法で行った。
【0144】
下記表5に、参考例B7-1における前記水の接触角の測定結果を示す。同表には、前記親水化処理工程の反応時間を、10分間および60分間に変化させた結果とともに、対照として反応前のPPフィルム11Aの測定結果も示す。下記表5に示すとおり、反応時間が10分間および60分間のいずれでも、反応前と比較して接触角が約20°以上小さくなっていたことから、前記親水化処理工程によりPPフィルム11Aの親水性が高くなったことが確認された。
【0145】
【0146】
さらに、下記表6および表7に、前記参考例B7-1(PPフィルム11Aへの光照射あり)およびB7-2(PPフィルム11Aへの光照射なし)のPPフィルムの、前記IR測定および前記水の接触角測定の結果を示す。なお、下記表6および表7において、前記親水化処理工程の反応時間は、10分間である。下記表6および表7に示すとおり、参考例B7-1も、参考例B7-2も、C=O/C-Hおよび水の接触角は、ほとんど変わらなかった。このことから、前記親水化処理工程において、PPフィルム11Aへの光照射をしてもしなくても、同様にC=O結合数が増加し、親水性が高くなったことが確認された。
【0147】
【0148】
【0149】
[参考例B8]
以下のとおり、ポリ乳酸(PLA)フィルムを使用して気相反応系を用いた改質処理(親水化処理工程)を行った。
【0150】
まず、反応容器として、小シャーレ(直径30mm×深さ10mm)を用い、その中に、塩酸酸性NaClO2水溶液を入れた。塩酸酸性NaClO2水溶液は、H2O(7mL)、NaClO2(1000mg)、および35%HClaq.(1000μL)を混合した水溶液を用いた。この小シャーレおよびポリ乳酸(PLA)フィルムを、大シャーレ(直径700mm×深さ180mm)の中に入れた。前記ポリ乳酸(PLA)フィルムは、ポリ乳酸ペレット(製品名:2003D(登録商標)、Nature Works社製)3gを、170℃、10MPaの条件で、10分間ヒートプレスして成形した。そのPLAフィルムを、長さ50mm×幅10mm×厚み0.3mmの大きさに裁断して使用した。その後、前記大シャーレに蓋をしてヒータにより70℃で5分間予備加熱した。その後、加熱を継続しながら、前記蓋の上方から、出力60Wで5分間光照射した。光源は波長365nmのLEDランプを使用した。また、前記光源と前記大シャーレとの距離は20cmとした。その光照射により発生した二酸化塩素ラジカルを、前記PLAフィルムの表面と反応させて親水化処理した。反応は、大気中、加圧および減圧を行なわず、室温下で行った。NaClO2溶液のClO2ラジカル由来の黄色の着色が消失したことをもって、反応終了とした。反応終了後、前記PLAフィルムを精製水で洗浄し、減圧下で一晩乾燥した。以上のようにして、前記PLAフィルムの改質処理(親水化処理工程)を行った。
【0151】
前記親水化処理工程の反応条件で、反応時間を0分間(すなわち未反応)、10分間および30分間に変化させて、反応後に、それぞれIR測定をした。IR測定の条件は、前記と同様である。その結果、前記親水化処理工程により、前記PLAフィルム表面において、アルコール性水酸基(C-OH)、カルボキシ基(COOH)等の親水性官能基が増加したことが確認された。
【0152】
[参考例B9]
ポリ乳酸(PLA)フィルムに代えてABS樹脂フィルムを用いた以外は参考例B8と同様にして気相反応系を用いた改質処理(親水化処理工程)を行った。さらに、参考例B8と同様の方法で、表面が改質処理(酸化処理)されて親水性官能基が増加していることを確認した。
【0153】
[参考例B10]
ポリプロピレン(PP)プレートの表面を、選択的にハロゲン酸化物ラジカルと反応させて改質処理(親水化処理工程)を行った。前記PPプレート表面が選択的に酸化(改質処理)されたことは、前記表面にトルイジンブルーを結合させて確認した。
【0154】
反応容器である透明のシャーレに、フルオラス溶媒(CF
3(CF
2)
4CF
3)10mLと、水(H
2O)20mLと、亜塩素酸ナトリウム(NaClO
2)200mgと、35%塩酸(HCl)200μLとを入れ、5分間撹拌した。前記反応容器を静置し、下から、前記フルオラス溶媒の有機相、水相、気相に分離させた。前記有機相が黄色に着色することをもって、前記水相で発生したClO
2ラジカルが前記有機相に移動したことを確認した。つぎに、前記反応容器中に、PPプレート(アズワン社、品番2-9221-01)を投入した。前記PPプレートの大きさは、長さ50mm×幅30mm×厚み1mmとした。前記反応容器に、前記PPプレートを投入した状態の概略図を、
図5(A)に示す。反応容器4内において、有機相1、水相2、気相3は、この順序で分離され、PPプレート5は、有機相1に浸漬している状態とした。
【0155】
そして、前記反応容器の上部に蓋をした。透明台の下に、上方向に向くように光源を配置し、前記透明台の上に、マスキング部材として3枚の黒い長方形の紙を、一定間隔をあけて配置した。そして、前記マスキング部材の上に、前記反応容器を配置した。
図5(B)に、反応容器4と、PPプレート5と、マスキング部材6との位置関係を示す。
図5(B)は、反応容器4を上から見た平面図である。そして、前記透明台の下の光源から、前記透明台の上の前記反応容器に向かって、光照射を行った。前記反応容器の下には、前記マスキング部材が配置されているため、前記反応容器中のPPプレートの下面には、前記マスキング部材が配置されていない箇所にのみ、光が照射される。前記光源と前記PPプレートとの距離は、20cmとした。前記光源は、波長365nmのLEDランプ(バイオフォトニクス社)を使用した。前記光照射は、大気中、前記反応容器内に加圧および減圧を行なわず、室温(約25℃)条件下で行った。そして、光照射開始から30分後に、前記反応容器中の前記有機相において、ClO
2ラジカル由来の黄色の着色が消失したことをもって、反応終了とした。
【0156】
つぎに、青色染料の0.05%トルイジンブルー水溶液(50mL)を調製し、そこで、ClO2ラジカルによって酸化処理したPPプレートを投入した。室温で1分間、超音波処理を行った後、前記PPプレートを取り出し、水で洗浄した。
【0157】
得られた前記PPプレートの写真を、
図6に示す。
図6に示すように、PPプレート5は、マスキング部材6を配置していない箇所7にのみ、トルイジンブルーが結合されたことが確認できた。PPプレート5の全表面に前記トルイジンブルー水溶液を接触させたにも関わらず、マスキング部材6が配置されなかった領域のみに、トルイジンブルーの結合が確認できた。このことから、ClO
2ラジカルの存在下、マスキングによって選択的に光照射することで、前記マスキング部材が配置されなかった領域のみが酸化(親水化)されたことがわかる。
【0158】
なお、PPプレートに代えて、ポリプロピレン(PP)粒子、ポリプロピレン(PP)フィルム、高密度ポリエチレン(PE)ペレットの略円柱体、およびPS(ポリスチレン)プレートを用いて本参考例と同様の処理を行い、同様に選択的な親水化処理が可能であることを確認した。
【0159】
[参考例B11]
PLAフィルムに代えて、参考例B7-1のPPフィルム11Aと同じPPフィルムを用いたことと、前記PPフィルムを加熱して反応温度を60℃または90℃に保ちながら前記親水化処理工程を行ったこと以外は、前記参考例B8と同様にして前記PPフィルムの改質処理(親水化処理工程)を行った。前記親水化処理工程後の前記PPフィルムのIR測定結果および水の接触角の測定結果を、参考例B7-1と併せて下記表8および表9に示す。「25℃」は、参考例B7-1(加熱なし)の測定結果である。下記表8および表9に示すとおり、PPフィルム11Aを加熱しながら前記親水化処理工程を行った本参考例でも、加熱しなかった参考例B7-1と同様にC=O結合数が増加し、親水性が高くなったことが確認された。
【0160】
【0161】
【0162】
[参考例B12]
前記親水化処理工程の反応温度を25℃(室温)、60℃、70℃または80℃に変化させたことと、前記親水化処理工程の反応時間を10分間で固定したこと以外は前記参考例8と同様にしてポリ乳酸(PLA)フィルムの改質処理(親水化処理工程)を行った。それぞれについてIR測定をした結果、前記親水化処理工程により、前記PLAフィルム表面において、アルコール性水酸基(C-OH)、カルボキシ基(COOH)等の親水性官能基が増加したことが確認された。
【0163】
また、前記それぞれの改質処理(親水化処理工程)後のPLAフィルムについて、水の接触角の測定をした。その結果を、下記表10に示す。また、対照として、反応前(前記親水化処理工程前)の測定結果も併せて示す。同表に示すとおり、どの反応温度でも、反応前と比較して水の接触角が大幅に低下していたことから、PLAフィルム表面の親水化が確認できた。
【0164】
【0165】
[参考例B13]
PPフィルム11Aに代えて、ポリカーボネート、ABS樹脂、ポリエチレンナフタレート、またはポリエチレンのプレートを用いたこと以外は実施例B7-1と同様にして気相反応系を用いた改質処理(親水化処理工程)を行った。各プレートの大きさは、長さ50mm×幅15mm×厚み1mmとした。そして、反応前(前記親水化処理工程前)および反応後(前記親水化処理工程後)における前記プレートの水の接触角を、それぞれ測定した。下記表11に、使用した前記プレートと、前記水の接触角の測定値とを、併せて示す。下記表11に示すとおり、いずれも、前記親水化処理工程後は、水の接触角が小さくなったことから、前記プレート(ポリマー)表面の親水化が確認できた。
【0166】
【0167】
[参考例B14]
ポリ乳酸(PLA)フィルムに代えてシリコーンハイドロゲルを用いた以外は参考例B8と同様にして気相反応系を用いた改質処理(親水化処理工程)を行った。さらに、参考例B8と同様の方法で、表面が改質処理(酸化処理)されて親水性官能基が増加していることを確認した。
【0168】
なお、シリコーンハイドロゲルについては、下記化学反応式(化3)に基づいて合成した。すなわち、まず、N,N-ジメチルアクリルアミド(N,N-dimethylacrylamide、DMAAm)を準備した。これを、トルエン溶媒中で、架橋剤であるポリジメチルポリシロキサンジメタクリレート(Polydimethylpolysiloxane dimethacrylate、PDMSDMA)およびラジカル開始剤であるアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)とともに65℃で4時間反応させた。これにより、シリコーンハイドロゲルの一種であるポリジメチルシロキサンゲル(PDMSゲル、またはPDMS gel)を得た。得られたPDMSゲルは、まずテトラヒドロフラン(THF)で、つぎに水で洗浄して内部溶媒を置換し、静置して乾燥させた後に、改質処理(親水化処理工程)を行った。なお、前記架橋剤(PDMSDMA)の量を、0.5mol%、1.0mol%および2.0mol%に変化させてPDMSゲルを合成することで、乾燥後のPDMSゲルの含水量(含水率)をコントロールすることが可能であった。乾燥後のPDMSゲルの含水量(含水率)は、下記(化3)に示すとおり、前記架橋剤(PDMSDMA)が0.5mol%の場合は含水量(含水率)82.5±0.3%、前記架橋剤(PDMSDMA)が1.0mol%の場合は含水量(含水率)61.2±0.3%、前記架橋剤(PDMSDMA)が2.0mol%の場合は含水量(含水率)38.5±0.4%であった。なお、含水量(含水率)は、水膨潤時のゲルの重量測定及び凍結乾燥後のゲルの重量測定から算出した。
【0169】
【0170】
図7(a)および(b)に、前記架橋剤(PDMSDMA)が2.0mol%のPDMSゲルを用いた水滴の接触角の測定結果を示す。
図7(a)(反応前)は、前記親水化処理工程による改質処理(酸化処理)を行う前の測定結果である。
図7(b)(酸化処理後)は、前記親水化処理工程による改質処理(酸化処理)を行った後の測定結果である。図示のとおり、前記親水化処理工程前は水滴との接触角が115度であったのに対し、前記親水化処理工程後は水滴との接触角が63度となり、親水性が高くなったことが確認された。
【0171】
なお、本参考例(参考例B14)では、
図7(a)および(b)の写真に示したとおり、水滴の接触角測定の観点から、プレート(板)形状のシリコーンハイドロゲルを用いた。この結果から、実際のシリコーンハイドロゲル製コンタクトレンズに対しても、同様に前記親水化処理工程を行い、親水化できることが実証された。
【0172】
[参考例B15]
図10の断面図に示す反応系を用い、ポリプロピレン(PP)フィルムを使用して気相反応系を用いた改質処理(親水化処理工程)を行った。
【0173】
図示のとおり、二酸化塩素ClO2発生用の反応容器102として、円筒形状容器を用いた。反応容器102はガラス製で、内径100mm、深さ200mmであった。また、ポリマーの改質処理(表面処理工程)を行うための反応容器104として、密閉された円筒形状容器を用いた。反応容器104はガラス製で、内径200mm、深さ30mmであった。また、反応容器102と104とをつなぐ通路105は、テフロン(ポリテトラフルオロエチレンの商品名)製で、内径5mm、長さ100mmであった。
【0174】
図示のとおり、反応容器102の底部に塩酸酸性NaClO2水溶液101を入れ、他方の反応容器104にPPフィルム(ポリマー)111を入れた。塩酸酸性NaClO2水溶液101は、H2O(50mL)、NaClO2(200mg)、および35%HClaq.(100μL)を混合した水溶液を用いた。PPフィルム111は、参考例B2で用いたPPフィルムと同じものを、長さ50mm×幅10mm×厚み0.2mmの大きさに裁断したフィルムを使用した。その状態で、反応容器102を蓋103で密閉した。塩酸酸性NaClO2水溶液101は、NaClO2(200mg)とHClとが反応してClO2が発生し、そのClO2が塩酸酸性NaClO2水溶液101中に溶け込んでいる。その状態で、図示のとおり、空気ポンプを用い、空気106を、塩酸酸性NaClO2水溶液101中に0.2L/分の流量で吹き込んだ。これにより、ClO2107が塩酸酸性NaClO2水溶液101中から追い出されて通路105内に流れ込む。この状態で、通路105に、出力60Wで光照射し続けた。光源は波長365nmのLEDランプを使用した。また、光源と通路105との距離は20cmとした。この光照射により、ClO2が活性化されてClO2ラジカル(二酸化塩素ラジカル)となった。この二酸化塩素ラジカルが反応容器104内に流れ込むことにより、二酸化塩素ラジカルを、PPフィルム111の表面と反応させて表面処理した。反応は、大気中、加圧および減圧を行なわず、室温下で行った。NaClO2溶液のClO2ラジカル由来の黄色の着色が消失したことをもって、反応終了とした。反応終了後、PPフィルム111を精製水で洗浄し、減圧下で一晩乾燥した。以上のようにして、PPフィルム111の改質処理(親水化処理工程)を行った。
【0175】
このように、本参考例(参考例B15)では、ClO2ガスを光照射により活性化させて二酸化塩素ラジカルとしたが、二酸化塩素ラジカル(ハロゲン酸化物ラジカル)およびPPフィルム111(ポリマー)を含む反応系には光照射しなかった。また、通路105の長さを1000mm(1m)まで長くしても、PPフィルム111の改質処理(親水化処理工程)を行い、その表面を改質することができた。
【0176】
[参考例B16]
参考例B1のポリエチレンプレートに代えて、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)、ポリアセタール(POM)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、延伸ポリプロピレン、環状オレフィンポリマー(COP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ塩化ビニル(PVC)、軟質PVC、液晶ポリマー(LCP)、ポリカーボネート(PC)、ポリ乳酸(PLA)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、テトラフルオロエチレン/エチレン共重合体(ETFE)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、3-ヒドロキシブタン酸/3-ヒドロキシヘキサン酸共重合体(PHBH)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリエーテルスルホン(PESU)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、炭素繊維強化プラスチック(炭素材料/エポキシ樹脂複合材料)、高密度ポリエチレン(HDPE)、熱可塑性エラストマー、エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)、熱可塑性ポリウレタンエラストマー(TPU)、ポリアミド(PA)、またはエチレンプロピレンゴム(EPDM)のいずれかのポリマーを用いたこと以外は、参考例B1と同様にして前記各ポリマー表面の改質処理(親水化処理工程)を行った。また、前記各ポリマー表面の改質処理(親水化処理工程)を、前記参考例B1の方法に代えて前記参考例B15と同様にして行ったこと以外は同様にして、前記各ポリマー表面の改質処理(親水化処理工程)を行った。前記各参考例と同様にIR測定または水の接触角の測定等により確認したところ、前記各ポリマーのいずれにおいても、表面が親水化されていることが確認された。すなわち、本参考例によれば、ポリマー表面に光照射する方法(前記参考例B1の方法)、および、ポリマー表面に光照射しない方法(前記参考例B15の方法)のいずれにおいても、前記各ポリマーの表面を親水化できたことが確認された。
【0177】
[実施例1]
図8(a)および(b)の模式図に示すように、前記眼内レンズの表面を親水化し、表面が親水化された前記眼内レンズを製造した。すなわち、まず、
図8(a)に示すとおり、ポリマー製レンズ11として、市販の前記眼内レンズ(アクリル樹脂製)を準備した。これに対し、
図8(b)に示すとおり、前記親水化処理工程によりポリマー製レンズ11表面を改質して改質面12とし、さらに精製水で洗浄し、表面が親水化された前記眼内レンズを製造した。
【0178】
なお、前記親水化処理工程は、前記参考例B8と同様の反応系を用いた。ポリ乳酸(PLA)フィルムに代えて眼内レンズを用いたことと、ヒータによる予備加熱を行わず室温で前記親水化処理工程を行ったことと、光照射時間を5分間としたこと以外は、前記参考例B8と同様にして前記親水化処理工程を行った。さらに、参考例B8と同様の方法で、表面が改質処理(酸化処理)されて親水性官能基が増加していることを確認した。
【0179】
[実施例2]
図8(b)および(c)の模式図に示すように、実施例1で製造した眼内レンズの表面に薬剤を担持させて、薬剤が担持された前記眼内レンズを製造した。具体的には、実施例1で製造した前記眼内レンズ(
図8(b))を、セフォチアム塩酸塩(薬剤)の10mM水溶液に浸漬し、10分間超音波処理することで、前記薬剤担持工程を行った。これにより、
図8(c)に示すとおり、薬剤13(セフォチアム)が担持された前記眼内レンズを製造した。なお、その後、さらに、前記眼内レンズを精製水に浸漬し、20分間超音波処理して洗浄することで、余分な薬剤等を除去した。また、本実施例で用いた薬剤(セフォチアム塩酸塩)の化学構造式は、下記(化4)に示すとおりである。
【0180】
【0181】
本実施例で製造した前記眼内レンズ(
図8(c))に対しては、XPSスペクトル測定により、薬剤(セフォチアム)が担持されていることを確認した。前記XPS法は、市販装置(製品名AXIS-NOVA、KmtoS社製)を使用し、測定条件は、X線源として、単色化 AIKa (1486.6ev)を使用し、分析領域は、300μm×700μm(設定値)の測定条件で行った。
図9に、そのXPSスペクトル図(Narrowスペクトル)を示す。同図において、横軸は、結合エネルギー(eV)であり、縦軸は、ピーク強度の相対値(cps)である。図示のとおり、160~164eVの範囲内に、硫黄原子由来のピーク(S1s)が検出されたことから、前記眼内レンズ表面に薬剤(セフォチアム)が担持されていることが確認できた。
【0182】
なお、前記ポリマー製レンズ(
図8(a)、前記市販の前記眼内レンズ)および前記実施例1の眼内レンズ(
図8(b)、前記親水化処理工程のみで前記薬剤担持工程を行っていない)について、同様にXPSスペクトルを測定したところ、硫黄原子由来のピーク(S1s)は検出されなかった。このことから、
図9の硫黄原子由来のピーク(S1s)は、セフォチアム由来であることが確認された。
【0183】
[実施例3]
セフォチアム塩酸塩に代えてセフメノキシム塩酸塩を用いたこと以外は実施例2と同様にして、薬剤が担持された前記眼内レンズを製造した。前記薬剤担持工程における薬剤(セフメノキシム塩酸塩)の水溶液の濃度も、実施例2と同じく10mMとした。さらに、実施例2と同じく、XPSスペクトルで硫黄原子由来のピーク(S1s)を検出したことにより、眼内レンズ表面に薬剤(セフメノキシム)が担持されていることを確認した。なお、本実施例で用いた薬剤(セフメノキシム塩酸塩)の化学構造式は、下記(化5)に示すとおりである。
【0184】
【0185】
[参考例B17]
以下のようにして、PMMAプレート表面を改質(親水化処理)し、さらに、薬剤を担持させた。さらに、薬剤を担持させた前記PMMAプレートについて、薬剤の徐放を確認した。本参考例(参考例B17)および後述する参考例B18において、薬剤としては、レボフロキサシンを用いた。
【0186】
(親水化処理工程)
まず、前記PMMAプレートとして、参考例B3で用いたPMMAプレートと同じものを準備した(品番:2-9208-01、アズワン社、長さ50mm×幅15mm×厚み1mm)。一方、反応容器として、小シャーレ(直径30mm×深さ10mm)を準備し、その中に、塩酸酸性NaClO2水溶液を入れた。塩酸酸性NaClO2水溶液は、H2O(7mL)、NaClO2(1000mg)、および35%HClaq.(1000μL)を混合した水溶液を用いた。この小シャーレおよび前記PMMAプレートを、大シャーレ(直径700mm×深さ180mm)の中に入れた。その後、前記大シャーレに蓋をしてヒータにより90℃で5分間予備加熱した。その後、加熱を継続しながら、前記蓋の上方から、出力60Wで5分間光照射した。光源は波長365nmのLEDランプを使用した。また、前記光源と前記大シャーレとの距離は20cmとした。その光照射により発生した二酸化塩素ラジカルを、前記PMMAプレートの表面と反応させて表面処理した。反応は、大気中、加圧および減圧を行なわず、室温下で行った。NaClO2溶液のClO2ラジカル由来の黄色の着色が消失したことをもって、反応終了とした。反応終了後、前記PMMAプレートを精製水で洗浄し、減圧下で一晩乾燥した。以上のようにして、前記PMMAプレート表面の改質処理(親水化処理工程)を行った。
【0187】
(薬剤担持工程)
前記親水化処理工程後のPMMAプレートの表面に薬剤を担持させて、薬剤が担持された樹脂板を製造した。具体的には、5mLのレボフロキサシン(薬剤)10mM水溶液に、活性化剤として1.1当量の1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド塩酸塩(EDC)とトリエチルアミンを加え、前記親水化処理工程後のPMMAプレートを浸漬させて室温で静置し、4時間反応を行った。このようにして、エステル結合(共有結合)により、レボフロキサシンを前記PMMAプレート表面に担持させた。以上のようにして、前記薬剤担持工程を行った。その後、さらに、前記薬剤を担持させたPMMAプレートを精製水に10分間浸漬し、余分な薬剤等を除去した。
【0188】
(薬剤の徐放)
前記薬剤担持工程によってレボフロキサシンを担持したPMMAプレート(アクリル樹脂基盤)を、牛胎児血清を溶解したリン酸緩衝生理食塩水(PBS、血清10%濃度)に所定の時間浸漬した後に取り出した。その後、前記PBS中に遊離したレボフロキサシンの蛍光スペクトルを測定した。このようにして、前記PMMAプレートからのレボフロキサシンの徐放における経時変化を検証した。
図11のグラフに、前記蛍光スペクトルの測定結果を示す。
図11a)は、前記PMMAプレートの浸漬時間0分(浸漬前)および15分における前記PBSの蛍光スペクトルを示すグラフである。
図11a)のグラフにおいて、横軸は波長(nm)を表し、縦軸は蛍光強度の相対値を表す。
図11b)のグラフにおいて、横軸は、前記PBS中への前記PMMAプレートの浸漬時間(経過時間、分)を表し、縦軸は、波長450nmにおける蛍光強度の相対値を表す。
図11a)b)に示すとおり、レボフロキサシンを担持したPMMAプレートから、経時と共にレボフロキサシンが徐放されていることが確認された。レボフロキサシンと前記PMMAプレート表面とのエステル結合が血清中の酵素と反応して開裂し、レボフロキサシンが前記PMMAプレート表面から徐放されたと考えられる。また、
図11a)b)から分かるとおり、本参考例では、血清を含む前記PBS中への浸漬時間15分の間で、レボフロキサシンの徐放がほぼ終了した。
【0189】
[参考例B18]
レボフロキサシンを、共有結合に代えてイオン結合でPMMAプレート表面に担持させたこと、および、血清を含むPBSに代えて血清を含まないPBSを用いたこと以外は参考例B17と同様にして、薬剤の担持および徐放を確認した。
【0190】
(親水化処理工程)
前記参考例B17と同じPMMAプレートを用い、前記参考例B17と同じ方法で前記PMMAプレート表面の改質処理(親水化処理工程)を行った。
【0191】
(薬剤担持工程)
前記親水化処理工程後のPMMAプレートの表面に薬剤を担持させて、薬剤が担持された樹脂板を製造した。具体的には、前記親水化処理工程後のPMMAプレートを、レボフロキサシン(薬剤)の10mM水溶液に室温で浸漬し、4時間静置することで、前記薬剤担持工程を行った。その後、さらに、前記PMMAプレートを精製水に10分間浸漬し、余分な薬剤等を除去した。このPMMAプレート表面には、レボフロキサシン(薬剤)が、イオン結合により担持されていた。
【0192】
(薬剤の徐放)
前記薬剤担持工程によってレボフロキサシンを担持したPMMAプレート(アクリル樹脂基盤)を、血清を含まないPBS(リン酸緩衝生理食塩水)に所定の時間浸漬した後に取り出した。その後、前記PBS中に遊離したレボフロキサシンの蛍光スペクトルを測定した。このようにして、前記PMMAプレートからのレボフロキサシンの徐放における経時変化を検証した。
図12のグラフに、前記蛍光スペクトルの測定結果を示す。
図12a)は、前記PMMAプレートの浸漬時間0分(浸漬前)および20分における前記PBSの蛍光スペクトルを示すグラフである。
図12a)のグラフにおいて、横軸は波長(nm)を表し、縦軸は蛍光強度の相対値を表す。
図12b)のグラフにおいて、横軸は、前記PBS中への前記PMMAプレートの浸漬時間(経過時間、分)を表し、縦軸は、波長450nmにおける蛍光強度の相対値を表す。
図12に示すとおり、レボフロキサシンを担持したPMMAプレートから、経時と共にレボフロキサシンが徐放されていることが確認された。また、
図12a)b)から分かるとおり、本参考例では、前記PBS中への浸漬時間20分の間で、レボフロキサシンの徐放がほぼ終了した。
【0193】
参考例B17およびB18に示すとおり、表面を親水化処理したPMMAプレートに対し、共有結合およびイオン結合のいずれによっても、薬剤を担持させることができた。さらに、いずれにおいても、担持した薬剤を、血清を含むまたは血清を含まないPBS中で徐放させることができた。
【0194】
PMMA等のアクリル樹脂は、眼装着用レンズ(例えば、眼内レンズおよびコンタクトレンズ)に主だって使用される素材である。したがって、参考例B17およびB18に基づけば、本発明により薬剤を担持した眼装着用レンズ(例えば、眼内レンズまたはコンタクトレンズ)から生体に対し薬剤の徐放が可能であると推認される。なお、薬剤としては、参考例B17およびB18ではレボフロキサシンを使用したが、これに限定されず、任意の薬剤が使用可能である。
【0195】
以上、実施形態を参照して本発明を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明のスコープ内で当業者が理解しうる様々な変更をできる。
【産業上の利用可能性】
【0196】
以上のように、本発明によれば、簡便かつ低コストに行うことができる新たな眼装着用レンズの製造方法、および、簡便かつ低コストに製造できる眼装着用レンズを提供することができる。また、本発明の眼装着用レンズは、例えば、前述のような種々の優れた効果を持たせることが可能であることから、その産業上利用価値は多大である。
【0197】
この出願は、2018年6月20日に出願された日本出願特願2018-117454を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【符号の説明】
【0198】
1 有機層(有機相またはフルオラス相)
2 水層(水相)
3 気相
4 反応容器
5 プレート
11 ポリマー製レンズ
12 改質面(ポリマー製レンズ11の改質された表面)
13 薬剤
101 塩酸酸性NaClO2水溶液
102、104 反応容器
103 蓋
105 通路
106 空気
107 ClO2ガス
111 ポリマー