(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-04
(45)【発行日】2022-08-15
(54)【発明の名称】クリームチーズ類
(51)【国際特許分類】
A23C 19/076 20060101AFI20220805BHJP
A23C 19/02 20060101ALI20220805BHJP
【FI】
A23C19/076
A23C19/02
(21)【出願番号】P 2018000925
(22)【出願日】2018-01-09
【審査請求日】2020-11-24
(73)【特許権者】
【識別番号】711002926
【氏名又は名称】雪印メグミルク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】特許業務法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久保内 愛
(72)【発明者】
【氏名】今井 宏
【審査官】村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-264980(JP,A)
【文献】特開2013-066432(JP,A)
【文献】特開2015-077108(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
安定剤不使用で、pHが5.35以上、離水が10g/50g・クリームチーズ類以下、硬度が700gw以上、耐熱保形性が80%以上の
であり、かつ、ホエイタンパク質を最終濃度で2.3重量%以上、カルシウムを最終濃度で0.4重量%以上含む、クリームチーズ類。
【請求項2】
カルシウムの最終濃度及びホエイタンパク質の最終濃度の重量比が、0.05:1~0.30:1である、
請求項1に記載のクリームチーズ類。
【請求項3】
ホエイタンパク質含量が最終濃度で2.3重量%以上となるように原料チーズカードにホエイタンパク質素材を添加する工程
、
カルシウム含量が最終濃度で0.4重量%以上となるように原料チーズカードにカルシウム素材を添加する工程、並びに
原料チーズカード、ホエイタンパク質素材、及びカルシウム素材の混合物のpHを5.35以上に調整する工程
、
を含む、
請求項1に記載のクリームチーズ類の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なクリームチーズ類に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、国内のナチュラルチーズおよびプロセスチーズの生産量および消費量は、直接消費用、原料用ともに増加傾向にあり、中でも、非熟成チーズであるフレッシュチーズの消費は拡大傾向にある。
【0003】
フレッシュチーズのひとつであるクリームチーズも、良好な風味を備えていることから、直食用、製菓・製パンなどの原料用いずれも消費拡大傾向である。一方、クリームチーズは、非熟成チーズであるため、保存中に風味や組織が劣化しやすく、長期間保存することができない。風味劣化は、製品中に残存するスターター乳酸菌による乳酸発酵が保存中に促進されて発酵臭の発生および酸度上昇による酸味増加が起こることに起因する(フレッシュ感の消失)。また組織劣化は水分値が高いことに起因し、酸度変化によりクリームチーズの組織構造が壊れ、形状が崩れてハンドリングが悪くなり(硬度が低い)、離水が発生する。
【0004】
クリームチーズの保存性を高める方法としては、一般的に保存料を使用して微生物の繁殖を抑制する方法等が行われているが、その効果は限定的であり、組織劣化の防止効果は不十分である。
一般にナチュラルチーズ製造時にカード形成前にホエイタンパク質素材やカルシウム素材を添加することは公知であるが、pH5.3以下のようにナチュラルクリームチーズで通常カード形成するpHにおいては添加したカルシウムはカード分離工程でホエイとともに排除され、効率が悪く効果は限定的であった。
【0005】
クリームチーズの保存中の風味・組織劣化を抑制する方法としては、チーズ製造で一般的に行われる加熱殺菌処理、すなわちプロセスチーズ等のチーズ類への加工が挙げられる。プロセスチーズ類へ加工することにより、チーズ内に残存していたスターター乳酸菌を加熱失活させ、保存中の酸度上昇を防止するものである。
【0006】
保存中の形状の崩れや離水を抑制する方法として、安定剤等を添加することが挙げられる。しかし、安定剤は、チーズ類に特有の粘りを生じさせる傾向があり、この安定剤特有の粘りは、チーズ類の口腔内での不快な歯への付着や、口どけの悪さ、開封時の剥離性の悪さ、チーズ類の指や調理器具への付着の原因となる。フレッシュな風味もクリームチーズ類特有の性質であるが、安定剤を過度に添加した場合、チーズ類はゲル様の食感となるうえ、安定剤自体の風味が発現するため、これらを損なうことになる。
このように、クリームチーズ類において、酸度上昇抑制と、フレッシュな風味の保持と、離水抑制と、良好な硬度のすべてを具備させることは困難であった。
【0007】
例えば、特許文献1では、乳たんぱく質濃縮物を4重量%以上含有し、pH4.5~5.7に調整し、脂肪球平均径を1.8μm以下に設定することで硬度を付与し、調理適正や焼成適正を向上しているが、特許文献1には、酸味、フレッシュな風味、離水に関する記載はない。
【0008】
また、特許文献2では、食物繊維およびゼラチンを添加したことで、割れ性がよく、口どけがよく、離水がないクリームチーズについて記載されているが、pHの範囲は5.3以下に限られている。
【0009】
特許文献3でも、特定の安定剤配合によるカット適正、保形性、硬度について記載があるが、酸度、離水についての記載がない。また特許文献3に記載の方法では粘りの抑制が十分でなく、フレッシュな風味の付与には至らない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2013-66432
【文献】特開2012-187069
【文献】特開2009-112226
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、酸味が軽減されたフレッシュな風味を有し、かつ、適度な硬度と耐熱保形性を有し、保存中の離水が少ない、新規なクリームチーズ類を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、クリームチーズ類において、pH範囲を調整し、ホエイタンパク質とカルシウムを添加することで酸味が軽減されたフレッシュな風味を維持しつつ、硬度、耐熱保形性を付与し、さらに離水が抑制されることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は以下の態様を含むものである。
(1)安定剤不使用で、pHが5.35以上、離水が10g/50g・クリームチーズ類以下であるクリームチーズ類。
(2)硬度が700gw以上である、(1)に記載のクリームチーズ類。
(3)耐熱保形性が80%以上である、(1)又は(2)に記載のクリームチーズ類。
(4)安定剤不使用で、pHが5.35以上、硬度が700gw以上であるクリームチーズ類。
(5)耐熱保形性が80%以上である、(4)に記載のクリームチーズ類。
(6)安定剤不使用で、pHが5.35以上、耐熱保形性が80%以上であるクリームチーズ類。
(7)ホエイタンパク質を最終濃度で2.3重量%以上、カルシウムを最終濃度で0.4重量%以上含み、そしてpHが5.35以上であり、安定剤不使用であるクリームチーズ類。
(8)カルシウムの最終濃度及びホエイタンパク質の最終濃度の重量比が、0.05:1~0.30:1であるクリームチーズ類。
(9)ホエイタンパク質含量が最終濃度で2.3重量%以上となるように原料チーズカードにホエイタンパク質素材を添加する工程
カルシウム含量が最終濃度で0.4重量%以上となるように原料チーズカードにカルシウム素材を添加する工程、並びに
原料チーズカード、ホエイタンパク質素材、及びカルシウム素材の混合物のpHを5.35以上に調整する工程
を含む、クリームチーズ類の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、酸味が軽減されたフレッシュな風味を呈し、かつ十分な硬度と耐熱保形性を有し、保存中の離水を抑制したクリームチーズ類を提供するものである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(クリームチーズ類)
本発明においてクリームチーズ類とは、ナチュラルチーズ、プロセスチーズ、乳等を主原料とする食品、またはチーズフードであり、一般にクリームチーズあるいはクリームチーズ様食品とされるものを包含する。
【0015】
(ホエイタンパク質)
本発明においてホエイタンパク質は獣乳に含まれるホエイタンパク質であればどのようなものでも用いることができる。本発明では1種類のホエイタンパク質を用いても、2種類以上のホエイタンパク質を用いてもよい。2種類以上のホエイタンパク質を用いる場合、用いるホエイタンパク質の組み合わせやその比率に制限はない。
本発明で用いるホエイタンパク質の変性度は100%でもよいが、変性度が低くなるほど、クリームチーズ類の硬度付与効果は高くなる傾向があることから、ホエイタンパク質の変性度は80%以下が好ましく、50%以下がより好ましく、20%以下がさらに好ましい。
本発明のクリームチーズ類にホエイタンパク質を添加する場合は、ホエイタンパク質を含む素材(以下、ホエイタンパク質素材)を用いることができる。ホエイタンパク質素材は、原料はチーズ製造時に分離したもの由来、獣乳から分離するもの由来があるがいずれも使用可能である。原料からのホエイ分離は、セパレーター、膜濃縮機など従来使用されている方法を用いればよい。分離したホエイは、膜濃縮機、ビーガント濃縮機、ベッセル濃縮機など一般的に使用されている方法で濃縮すればよい。乾燥する場合は、噴霧乾燥、凍結乾燥など一般的な手法で乾燥すればよい。
ホエイタンパク質素材中のホエイタンパク質含量は、20重量%以下でもよいがこの場合例えば乳糖など他成分により風味への影響があることから、35重量%以上が好ましく、85重量%以上がより好ましく、99重量%以上がさらに好ましい。
使用可能なホエイタンパク質素材としては、WPI895(フォンテラ社製)、YO8075(アーラフーズ社製)、WPC550(フォンテラ社製)などを例示することができるが、これらに限定されるものではない。
【0016】
(ホエイタンパク質の濃度)
本発明におけるホエイタンパク質の最終濃度は、最終製品であるクリームチーズ類における、原料チーズカードに含まれるホエイタンパク質の量と原料チーズカード以外のホエイタンパク質素材などに由来するホエイタンパク質の量との合計による濃度である。
【0017】
ホエイタンパク質はクリームチーズ類中にホエイタンパク質が2.3重量%以上(最終製品総タンパク質に対しホエイタンパク質が0.25重量%/重量%以上)となるように添加すればよい。例えば、原料となるクリームチーズ中にホエイタンパク質が0.3~0.9重量%程度含まれる場合は、この量を勘案し1.4~2.0重量%以上のホエイタンパク質となるようホエイタンパク質素材を添加すればよい。原料クリームチーズ以外の原料にホエイタンパク質が含まれる場合も、上記と同様に添加するホエイタンパク質素材の量を調整のうえクリームチーズ類中のホエイタンパク質が2.3重量%以上(最終製品総タンパク質に対し、ホエイタンパク質が0.25重量%/重量%以上)となるようにすればよい。
【0018】
本発明のクリームチーズ類におけるホエイタンパク質の含量は、2.3重量%以上(最終製品総タンパク質に対しホエイタンパク質が0.25重量%/重量%以上)、好ましくは2.8重量%以上(最終製品総タンパク質に対し、ホエイタンパク質が0.29重量%/重量%以上)、より好ましくは3重量%以上(最終製品総タンパク質に対し、ホエイタンパク質が0.33重量%/重量%以上)、さらに好ましくは4重量%以上(最終製品総タンパク質に対し、ホエイタンパク質が0.4重量%/重量%以上)、最も好ましくは5重量%以上(最終製品総タンパク質に対し、ホエイタンパク質が0.45重量%/重量%以上)である。上限としては、最終製品において20重量%以下(最終製品総タンパク質中に対し、ホエイタンパク質が0.8重量%/重量%以下)、好ましくは18重量%以下(最終製品総タンパク質に対し、ホエイタンパク質が0.77重量%/重量%以下)、より好ましくは15重量%以下(最終製品総タンパク質に対し、ホエイタンパク質が0.73重量%/重量%以下)、さらに好ましくは12重量%以下(最終製品総タンパク質に対し、ホエイタンパク質が0.66重量%/重量%以下)、最も好ましくは10重量%以下(最終製品総タンパク質に対し、ホエイタンパク質が0.6重量%/重量%以下)である。
【0019】
(カルシウム)
本発明におけるカルシウムの最終濃度は、最終製品であるクリームチーズ類における、原料チーズカードに含まれるカルシウムの量と原料チーズカード以外のカルシウム素材などに由来するカルシウムの量との合計による濃度である。本発明で使用可能なカルシウム素材は、食品および食品添加物として一般的に使用されているものであれば、いずれも使用可能である。例えば、リン酸三カルシウム、塩化カルシウムなどが挙げられる。カルシウム素材はクリームチーズ類中にカルシウム量が0.4重量%以上(最終製品総ホエイタンパク質に対するカルシウム量が0.14重量%/重量%以上)となるように添加すればよい。例えば、原料となるクリームチーズ中にカルシウムが0.06~0.08重量%程度含まれる場合は、この量を勘案し0.32~0.34重量%以上のカルシウム素材を添加すればよい。原料クリームチーズ以外の原料にカルシウムが含まれる場合も、上記と同様に添加するカルシウム素材の量を調整のうえクリームチーズ類中のカルシウム量が0.4重量%以上(最終製品総ホエイタンパク質に対するカルシウム量が0.14重量%/重量%以上)となるようにすればよい。クリームチーズ類におけるカルシウムの含量は、0.4重量%以上(最終製品総ホエイタンパク質に対するカルシウム量が0.14重量%/重量%以上)、好ましくは0.5重量%以上(最終製品総ホエイタンパク質に対するカルシウム量が0.17重量%/重量%以上)、より好ましくは0.7重量%以上(最終製品総ホエイタンパク質に対するカルシウム量が0.25重量%/重量%以上)である。上限としては、最終製品において5重量%以下(最終製品総ホエイタンパク質に対するカルシウム量が1重量%/重量%以下)、好ましくは4重量%以下(最終製品総ホエイタンパク質に対するカルシウム量が0.8重量%/重量%以下)、より好ましくは3重量%以下(最終製品総ホエイタンパク質に対するカルシウム量が0.6重量%/重量%以下)、さらに好ましくは2重量%以下(最終製品総ホエイタンパク質に対するカルシウム量が0.4重量%/重量%以下)、最も好ましくは1.5重量%以下(最終製品総ホエイタンパク質に対するカルシウム量が0.3重量%/重量%以下)である。
【0020】
カルシウムの最終濃度及びホエイタンパク質の最終濃度の重量比は、0.05:1~0.30:1、好ましくは0.1:1~0.28:1、より好ましくは0.15:1~0.26:1である。
【0021】
(pH)
本発明では、pHを5.35以上に調整する。pHは、好ましくは5.60以上、より好ましくは5.65以上、さらに好ましくは5.71以上であり、最も好ましくは5.75以上である。
pHを調整する場合は、一般的に食品の製造で使用されているpH調整剤を使用すればよく、例えば、重曹、乳酸、クエン酸、果汁などがある。また乳酸菌などの微生物を用いたpH調整も可能である。
pH調整剤を添加するタイミングは、最終製品におけるpHが5.35以上になれば特に限定されず、原料チーズカードに添加してもよく、他の原料を混ぜた後に添加してもよい。他の種類のチーズに比べて水分値の高いクリームチーズ類においては、pHを高くすることは保水性増強と滑らかさの向上に効果がある。またpHを高くすることで、酸味の軽減が期待される。酸味が軽減されれば、フレッシュな風味が引き立つ。また原料としては料理やフィリングへの使用範囲が広がる。このことからpHは5.35以上が好ましい。ただし、pHが高すぎる場合には、静電的相互作用によりタンパク質同士の結合が緩み、組織が柔らかく粘るため、十分な硬度を付与するためにはpHは6.5以下が良好であり、さらにpH5.75からpH6.2がより好ましい。
【0022】
(安定剤不使用)
安定剤不使用とは、安定剤を全く使用しないことのみならず、安定剤をその効果すなわちクリームチーズ類の物性を安定させる効果を実現しない態様で使用すること、及び食品の原材料の製造・加工で使用されたもので、その食品の製造には使用されない食品添加物で、最終食品まで持ち越された場合に、最終食品中では微量となって、食品 添加物そのものの効果を示さない場合である所謂キャリーオーバーを含む。クリームチーズ類の物性を安定させる効果を実現しない態様には、例えばクリームチーズ類1000gに対して、安定剤をごく微量、例えば0.1g以下、0.5g以下、又は1g以下添加することが含まれる。安定剤は、寒天、ゼラチン、ローカストビーンガム、グアガム、カラギーナン、メチルセルロース、デキストリン、加工デンプン、食物繊維等の一般的に食品に用いられるものを例示できる。
【0023】
(その他原材料)
本発明において、フレッシュな風味の他に、求められる食感や風味がある場合、それらの付与に効果的なフレーバー・果実等を添加することも可能である。ただし、過度に果実等を添加すると組織が悪化するため、フレーバー・果実等の添加量は適宜調整するものとする。なお、水分値の高いシロップや果汁を添加した場合には、固形分の調整を目的としてバター、乳たんぱく質、規格に応じてでんぷん等を用いる事も可能である。また、一般にチーズ類は水分値が高いと組織が劣化しやすい傾向を示す。本発明においては特に水分値の制限はないが、特に十分な硬度を期待する場合には、40~65重量%の範囲に水分値を調整することが好ましい。
【0024】
また、本発明では適宜乳化剤を用いることも可能である。本発明のクリームチーズ類の製造で使用できる乳化剤は、一般にプロセスチーズ類製造で使用されている乳化剤であればよく、ジリン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム等が挙げられる。また、レモン果汁などクエン酸を含むもの、清涼飲料などのリン酸を含むものも使用可能である。
【0025】
(製造方法)
本発明のクリームチーズ類は、一般的なクリームチーズ類の製造方法により得ることができる。例えば、原料乳として、生乳や全乳、あるいは調整乳などが挙げられ、これらを加熱濃縮、遠心濃縮、ろ過膜濃縮、真空濃縮等によって濃縮した濃縮乳も使用可能である。また、原料乳、濃縮乳に必要に応じて生クリーム、バターや脱脂乳等を加えてもよい。これらの原料乳または濃縮乳を加熱殺菌工程として、例えば、約60℃で30分または約75℃で15秒加熱殺菌する。加熱殺菌工程後は、プレート式熱交換器で冷却し、均質処理工程として5MPa~25MPa、好ましくは15MPa~20MPaの均質圧で均質処理する。均質処理工程後、凝乳酵素及び/又は有機酸及び/又は乳酸菌を添加し、反応させてカードを生成させるカード生成工程に移行する。なお、カード生成工程で使用可能な凝乳酵素や、有機酸、乳酸菌としては通常のチーズ製造に用いられているものであれば、特に制限無く使用することができる。カード生成工程の後、必要に応じて加熱殺菌を行なった後、ホエイを排除し、カードを得る。ホエイ排除は、カッティング、圧搾、膜、セパレーターなど、チーズ製造で用いられる手法で行えばよい。こうして得たカードを原料チーズカードとする、または、カードを一旦冷却し、原料ナチュラルクリームチーズとする。
原料チーズカードまたは原料ナチュラルチーズに、ホエイタンパク質、カルシウム素材、pH調整剤、その他適宜副原料を混合した後、必要に応じて加熱殺菌および/または乳化を行う。副原料の混合および/または加熱殺菌および/または乳化までの工程は、連続式、バッチ式、連続式とバッチ式の組み合わせのいずれでもかまわない。混合機、加熱殺菌機、乳化機は、攪拌シェアの違い、直接加熱または間接加熱の違い等で様々存在するが、いずれでもかまわない。加熱混合することで、保存性がよく、均一な組織となる。さらにシェアを加える工程を含んでもよい。シェアを加える機械は特に限定はなく、例えばインラインホモミキサー、均質機、TKホモミキサーなどが使用できる。
【0026】
このようにして得たクリームチーズ類は、酸味が軽減され、フレッシュな風味を有し、十分な硬度を有し、保存時の離水が少ないという特徴を有している。安定剤不使用で、このような物性を付与することができることは、安定剤フリーという表示上のメリットもある。
【0027】
(ホエイ含量および未変性ホエイ含量)
本発明のクリームチーズ類、及びホエイタンパク質原料のホエイタンパク質含量の定量は、Identification and quantification of major bovine milk proteins by liquid chromatography.(Bordin et al 2001 J. Chromatography )に記載の方法で測定できる。
本発明のクリームチーズ類のホエイタンパク質原料の未変性ホエイタンパク質含量は、A Papid Method for the Determination of Whey Protein Denaturation(N.Parris 1991 J.D.S)に記載の方法で分析できる。
(酸味、フレッシュな風味の官能評価)
本発明のクリームチーズ類の酸味、フレッシュな風味は官能評価により評価できる。官能評価は訓練をつんだ専門パネラー5人による円卓法で、酸味を、「強い:×」または「良好:○」、フレッシュな風味を、「なし:×」または「あり:○」の項目とする方法により評価することができる。
(カルシウム量)
本発明のクリームチーズ類、及びカルシウム原料のカルシウム含量は、ICP発光分光分析法で分析できる。
(pH)
本発明のクリームチーズ類のpHは、試料12gにイオン交換水40gを加え、ホモブレンダー(AM-11、日本精機製等)で10000rpm、1分間粉砕した後、室温(23℃)で、pHメーター(F-52、堀場製作所製等)で測定できる。
【0028】
(硬度)
本発明のクリームチーズ類の硬度はテクスチャーアナライザを用いた圧縮試験により測定することができる。
硬度測定の一態様を以下に示す。1辺10mmの立方体に切り出し10℃に冷却した本発明のクリームチーズ類を、治具(75mm Compression Plate:平板プレート)で上面から0.5mm/sの速さでサンプル高さの80%まで圧縮したときの応力データを、Texture Analyzer(TA‐XT2i:Stable Micro System社製)及び、これに装置付属のソフト(Texture Expert V1.20: Stable Micro System社製)で収集し、硬度とする。
なお、本発明において、「十分な硬度」とは、テクスチャーアナライザを用いた圧縮試験により求めた硬度が700gw以上であるものを指す。
【0029】
(耐熱保形性)
本発明のクリームチーズ類の耐熱保形性は、本発明のクリームチーズ類を1辺15mmの立方体に切り出し、大型シャーレにろ紙を敷いた上に、クリームチーズ類同士が接触しないように並べ、沸騰させた蒸し器にクリームチーズ類を並べたシャーレを入れ、蒸し器の蓋をして10分間蒸した後、シャーレごと取出し、室温で15分間放冷したあとに、クリームチーズ類の高さをノギスで測り、加熱前の15mmに対する加熱後の高さの割合を算出することで耐熱保形性を評価できる。
なお、本発明では、80%以上を耐熱保形性があるものとする。
【0030】
(離水)
本発明のクリームチーズ類の離水量は、クリームチーズ類50gを遠心分離機(Avanti HP-25I、BECKMANCOULTER製)により、14000rpm(28977G)で20℃、20分間遠心し、分離した水分重量を測定することで評価できる。
なお、本発明では、10g/50g・クリームチーズ類以下のものを離水が少ない、とする。
【0031】
以下に本発明の実施例を示して詳細に説明し、本発明の効果をより明瞭にする。ただし、実施例は本発明の態様の一つであり、本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0032】
〔実施例1〕
生乳とクリームを原料とし、82℃5分間殺菌、50℃15MPaで均質処理後、乳酸菌スターターとレンネットを用いて凝固させ、80℃でセパレーターにより分離し、10℃に冷却して調製した原料ナチュラルクリームチーズ3kgに、ホエイタンパク質及びカルシウムが最終重量でそれぞれ2.8重量%及び0.46重量%となるように、WPI895(フォンテラ製)3重量%、リン酸三カルシウム1重量%(カルシウム含量40重量%程度)を添加した。ポリリン酸ナトリウム1.2重量%、pH5.75となるように重曹を添加し、最終水分量が53重量%、脂肪量が32重量%となるように、バターおよび水を加えた後、ステファン釜にて1500rpmで、85℃まで加温した後1分間クリーミングして加熱乳化し、約3.5kgのクリームチーズ類を得た。三方無地袋(レトルト用、京阪セロファン社製)に充填し、氷水で急冷して実施例品1とした。(実施例品1)。
【0033】
〔実施例2〕
生乳とクリームを原料とし、75℃15秒間殺菌、55℃17MPaで均質処理後、乳酸菌スターターとレンネットを用いて凝固させ、75℃でセパレーターにより分離し、12℃に冷却して調製した原料ナチュラルクリームチーズ3kgに、ホエイタンパク質及びカルシウムが最終重量で、それぞれ2.8重量%及び0.76重量%となるように、WPI895(フォンテラ製)を3重量%、リン酸三カルシウム2重量%を添加した。ポリリン酸ナトリウム1.2重量%、pH6.5となるように重曹を添加し、最終水分量が53重量%、脂肪量が32重量%となるように、バターおよび水を加えた後、ステファン釜にて1500rpmで、85℃まで加温した後1分間クリーミングして加熱乳化し、約3.5kgのクリームチーズ類を得た。三方無地袋(レトルト用、京阪セロファン社製)に充填し、氷水で急冷して実施例品2とした。(実施例品2)。
【0034】
〔実施例3〕
生乳とクリームを原料とし、75℃15秒間殺菌、50℃15Mpaで均質処理後、乳酸菌スターターとレンネットを用いて凝固させ、80℃でセパレーターにより分離して調製した原料チーズカード3kgに、ホエイタンパク質及びカルシウムが最終重量で、それぞれ5.3重量%及び0.56重量%となるように、WPI895(フォンテラ製)を5重量%、リン酸三カルシウム1.3重量%を添加した。pH5.71となるように重曹を添加し、最終水分量が53重量%、脂肪量が32重量%となるように、バターおよび水を加えた後、ケトル釜にて150rpmで、85℃まで加熱混合し、約3.5kgのクリームチーズ類を得た。三方無地袋(レトルト用、京阪セロファン社製)に充填し、室温で徐冷して実施例品3とした。(実施例品3)。
【0035】
〔実施例4〕
生乳とクリームを原料とし、60℃30分間殺菌、50℃15MPaで均質処理後、乳酸菌スターターとレンネットを用いて凝固させ、80℃でセパレーターにより分離し、75℃で30分間ミキシングした後、10℃に冷却して調製した原料ナチュラルクリームチーズ3kgに、ホエイタンパク質及びカルシウムが最終重量で、それぞれ3.5重量%及び0.56重量%となるように、WPI895(フォンテラ製)を2重量%、最終重量で2重量%分のWPI895を20重量%溶液にしてあらかじめ90℃30分間加熱したもの、リン酸三カルシウム1.3重量%を添加した。ポリリン酸ナトリウム1.2重量%、pH6.2となるように重曹を添加し、最終水分量が53重量%、脂肪量が32重量%となるように、バターおよび水を加えた後、ケトル釜にて150rpmで、85℃まで加熱混合し、その後10MPaで均質処理を行い、約3.5kgのクリームチーズ類を得た。三方無地袋(レトルト用、京阪セロファン社製)に充填し、10℃庫で急冷して実施例品4とした。(実施例品4)。
【0036】
〔実施例5〕
生乳とクリームを原料とし、95℃に到達させて殺菌、50℃15Mpaで均質処理後、乳酸菌スターターを用いて凝固させ、80℃でUF膜により分離し、10℃に冷却して調製した原料ナチュラルクリームチーズ3kgに、ホエイタンパク質及びカルシウムが最終重量で、それぞれ2.3重量%及び0.42重量%となるように、WPI895(フォンテラ製)を2.5重量%、リン酸三カルシウム0.9重量%を添加し、pH5.6となるように重曹を添加した以外は実施例品1と同様にして、実施例品5を得た。(実施例品5)。
【0037】
〔実施例6〕
生乳とクリームを原料とし、75℃15秒間殺菌、50℃15Mpaで均質処理後、乳酸菌スターターとレンネットを用いて凝固させ、80℃でセパレーターにより分離し、70℃でホットパックした後、10℃に冷却した原料ナチュラルクリームチーズ3kgに、ホエイタンパク質及びカルシウムが最終重量で、それぞれ2.5重量%及び0.4重量%となるように、WPI895(フォンテラ製)を2.7重量%、リン酸三カルシウム0.9重量%を添加し、pH5.35となるように重曹を添加した以外は実施例品1と同様にして、実施例品6を得た。(実施例品6)。
【0038】
〔比較例1〕
生乳とクリームを原料とし、82℃5分間殺菌、50℃15Mpaで均質処理後、乳酸菌スターターを用いて凝固させ、80℃でセパレーターにより分離し、10℃に冷却して調製した原料ナチュラルクリームチーズ3.3kgに、最終重量で、ポリリン酸ナトリウム1.2重量%、pH4.7となるように重曹を添加し、最終水分量が53重量%、脂肪量が32重量%となるように、バターおよび水を加えた後、ステファン釜にて1500rpmで、85℃まで加温した後1分間クリーミングして加熱乳化し、約3.7kgのクリームチーズ類を得た。三方無地袋(レトルト用、京阪セロファン社製)に充填し、氷水で急冷して比較例品1とした。(比較例品1)。
【0039】
〔比較例2〕
pH5.35となるように重曹を添加した点以外は比較例1と同様にして、約3.7kgのクリームチーズ類を得た。(比較例品2)。
【0040】
〔比較例3〕
pH5.9となるように重曹を添加した点以外は比較例1と同様にして、約3.7kgのクリームチーズ類を得た。(比較例品3)。
【0041】
〔比較例4〕
生乳とクリームを原料とし、75℃15秒間殺菌、50℃15Mpaで均質処理後、乳酸菌スターターとレンネットを用いて凝固させ、80℃でセパレーターにより分離し、10℃に冷却して調製した原料ナチュラルクリームチーズ3.1kgに、ホエイタンパク質及びカルシウムが最終重量で、それぞれ1.5重量%及び0.46重量%となるように、WPI895(フォンテラ製)を1.5重量%、リン酸三カルシウム1重量%を添加した。ポリリン酸ナトリウム1.2重量%、pH5.77となるように重曹を添加し、最終水分量が53重量%、脂肪量が32重量%となるように、バターおよび水を加えた後、ステファン釜にて1500rpmで、85℃まで加温した後1分間クリーミングして加熱乳化し、約4kgのクリームチーズ類を得た。三方無地袋(レトルト用、京阪セロファン社製)に充填し、10℃庫で急冷して比較例品4とした。(比較例品4)。
【0042】
〔比較例5〕
生乳とクリームを原料とし、75℃15秒間殺菌、50℃15Mpaで均質処理後、乳酸菌スターターとレンネットを用いて凝固させ、80℃でセパレーターにより分離し、10℃に冷却して調製した原料ナチュラルクリームチーズ3kgに、ホエイタンパク質及びカルシウムが最終重量で、それぞれ2.8重量%及び0.36重量%となるように、WPI895(フォンテラ製)を3重量%、リン酸三カルシウム0.8重量%を添加した。ポリリン酸ナトリウム1.2重量%、pH5.71となるように重曹を添加し、最終水分量が53重量%、脂肪量が32重量%となるように、バターおよび水を加えた後、ステファン釜にて1500rpmで、85℃まで加温した後1分間クリーミングして加熱乳化し、約4.5kgのクリームチーズ類を得た。三方無地袋(レトルト用、京阪セロファン社製)に充填し、10℃庫で急冷して比較例品5とした。(比較例品5)。
【0043】
〔比較例6〕
生乳とクリームを原料とし、75℃15秒間殺菌、50℃で15Mpaで均質処理後、乳酸菌スターターを用いて凝固させ、80℃でセパレーターにより分離し、10℃に冷却して調製した原料ナチュラルクリームチーズ3kgに、ホエイタンパク質及びカルシウムが最終重量で、それぞれ2.8重量%及び0.4重量%となるように、WPI895(フォンテラ製)を3重量%、リン酸三カルシウム0.8重量%を添加し、ポリリン酸ナトリウム1.2重量%、pH5.27となるように重曹を添加した以外は、比較例品5と同様にして比較例品6を得た。(比較例品6)。
【0044】
〔試験例1〕
得られたクリームチーズ類について、以下に示す方法で、(1)未変性ホエイ量、(2)離水量、(3)硬度、(4)耐熱保形性、(5)酸味、フレッシュ感の官能評価を実施した。
【0045】
(1)ホエイ含量および未変性ホエイ含量
チーズ中のホエイタンパク質含量の定量は、Identification and quantification of major bovine milk proteins by liquid chromatography.(Bordin et al 2001 J. Chromatography )に記載の方法で測定した。
未変性ホエイタンパク質含量として、A Papid Method for the Determination of Whey Protein Denaturation(N.Parris 1991 J.D.S)に記載の方法で分離されたホエイタンパク質量の割合を分析した。
【0046】
(2)離水量
離水量は、試料50gを遠心分離機(Avanti HP-25I、BECKMAN COULTER製)により、14000rpm(28977G)で20℃、20分間遠心し、分離した水分重量を測定した。10g/50g・クリームチーズ類以下を離水が少ないとした。
【0047】
(3)硬度
硬度は、Texture Analyzer(TA-XT2i:StableMicroSystem社製)により測定した。1辺10mmの立方体に切り出し10℃に冷却したサンプルを治具(75mm Compression Plate:平板プレート)で、上面から0.5mm/sの速さでサンプル高さの80%まで圧縮したときの、応力データを、装置付属のソフト(Texture Expert V1.20: StableMicroSystem社製)で収集し、硬度とした。硬度が700gw以上であるものを「十分な硬度」とした。
【0048】
(4)耐熱保形性
耐熱保形性は、試料を1辺15mmの立方体に切り出し、大型シャーレにろ紙を敷いた上に、試料同士が接触しないように並べる。沸騰させた蒸し器にシャーレを入れ、蒸し器の蓋をして10分間蒸す。シャーレごと取出し、室温で15分間放冷したあとに、試料の高さをノギスで測り、15mmに対する割合を耐熱保形性とした。80%以上を耐熱保形性有りとした。
【0049】
(5)酸味、フレッシュな風味の官能評価
官能評価により、酸味、フレッシュな風味を評価した。評価は訓練をつんだ専門パネラー5人により、円卓法によって行った。酸味は、「強い:×」または「良好:○」、フレッシュな風味は、「なし:×」または「あり:○」の項目で評価した。
【0050】
(6)カルシウム量
ICP発光分光分析法にて分析した。
【0051】
(結果)
表より、種々の方法で調製したクリームチーズ類の実施例品1~6について、ホエイタンパク質を2.3重量%以上、カルシウムを0.4重量%以上含有するクリームチーズ類は、pHが5.35以上において、離水が8.9g以下であり少なく、硬度は772gw以上と十分であり、耐熱保形性は83%以上と高い結果であった。また、いずれの実施例品も酸味が良好であり、フレッシュ感を有する結果であった。
【0052】
pH4.7、pH5.35に調整した比較例品1、2では、硬度は十分であるが、離水が多く、酸味が強い結果だった。pH5.9に調整した比較例品3では離水は抑制され、酸味が軽減されたが、硬度が十分でない結果だった。pH5.71以上でホエイタンパク質を1.5重量%、カルシウムを0.46重量%含有する比較例4では、硬度が不十分であったことから、ホエイタンパク質を2.3重量%以上含有することが好ましいと考えられる。またpH5.71以上でホエイタンパク質を2.8重量%、カルシウム0.36重量%を含有する比較例5でも、硬度が不十分であったことから、カルシウムは0.4重量%以上含有することが好ましいと考えられる。またpH5.27でホエイタンパク質を2.8重量%、カルシウム0.4重量%を含有する比較例6では離水が生じ、酸味が生じ、フレッシュ感が感じられなかったことから、pHは5.35以上とすることが好ましいと考えられる。
【0053】
以上より、十分な硬度、耐熱保形性を有し、酸味が軽減され、フレッシュな風味を有するクリームチーズ類を得るには、ホエイタンパク質2.3重量%以上、カルシウム0.4重量%以上を含有し、pH5.35以上であることが良い。
【0054】