(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-04
(45)【発行日】2022-08-15
(54)【発明の名称】加熱調理用油脂組成物の加熱臭抑制剤、加熱調理用油脂組成物の加熱臭抑制方法、及び加熱調理用油脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23D 9/00 20060101AFI20220805BHJP
【FI】
A23D9/00 518
A23D9/00 506
(21)【出願番号】P 2019535616
(86)(22)【出願日】2018-06-01
(86)【国際出願番号】 JP2018021195
(87)【国際公開番号】W WO2019031034
(87)【国際公開日】2019-02-14
【審査請求日】2021-04-27
(31)【優先権主張番号】P 2017153489
(32)【優先日】2017-08-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】302042678
【氏名又は名称】株式会社J-オイルミルズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】関口 竹彦
(72)【発明者】
【氏名】今義 潤
(72)【発明者】
【氏名】朝倉 杏奈
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼嵜 郁人
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 健市
【審査官】吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-080528(JP,A)
【文献】特開2007-236206(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D
A23L
A21D
C11C
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
AGRICOLA(STN)
FSTA(STN)
TOXCENTER(STN)
日経テレコン
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーン由来の焙煎油を有効成分として含有することを特徴とする、加熱調理用油脂組成物の加熱臭抑制剤。
【請求項2】
前記焙煎油を0.01質量%以上100質量%以下含有する、請求項1記載の加熱調理用油脂組成物の加熱臭抑制剤。
【請求項3】
前記焙煎油は、少なくとも脱ガムの処理が施されてなる精製油である、請求項1又は2記載の加熱調理用油脂組成物の加熱臭抑制剤。
【請求項4】
前記焙煎油は、130℃以上180℃以下で焙煎してなる原料に由来するものである、請求項1~3のいずれか1項に記載の加熱調理用油脂組成物の加熱臭抑制剤。
【請求項5】
前記焙煎油は、0分間超90分間以下で焙煎してなる原料に由来するものである、請求項4記載の加熱調理用油脂組成物の加熱臭抑制剤。
【請求項6】
揚げ物用である、請求項1~5のいずれか1項に記載の加熱調理用油脂組成物の加熱臭抑制剤。
【請求項7】
コーン由来の焙煎油を加熱調理用油脂組成物に含有せしめることを特徴とする、加熱調理用油脂組成物の加熱臭抑制方法。
【請求項8】
前記焙煎油を前記加熱調理用油脂組成物中に0.01質量%以上10質量%以下含有せしめる、請求項7記載の加熱調理用油脂組成物の加熱臭抑制方法。
【請求項9】
前記焙煎油は、少なくとも脱ガムの処理が施されてなる精製油である、請求項7又は8記載の加熱調理用油脂組成物の加熱臭抑制方法。
【請求項10】
前記焙煎油は、130℃以上180℃以下で焙煎してなる原料に由来するものである、請求項7~9のいずれか1項に記載の加熱調理用油脂組成物の加熱臭抑制方法。
【請求項11】
前記焙煎油は、0分間超90分間以下で焙煎してなる原料に由来するものである、請求項10記載の加熱調理用油脂組成物の加熱臭抑制方法。
【請求項12】
前記加熱調理用油脂組成物は、揚げ物用である、請求項7~11のいずれか1項に記載の加熱調理用油脂組成物の加熱臭抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フライ、天ぷら等の揚げ物や、炒め物、焼き物等の食品の加熱調理に用いられる、加熱調理用油脂組成物の加熱臭抑制剤、加熱調理用油脂組成物の加熱臭抑制方法、及び加熱調理用油脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フライ、天ぷら等の揚げ物や、炒め物、焼き物等の食品の加熱調理には、菜種油、コーン油、大豆油、ゴマ油、パーム油等の食用油脂が利用されているが、これらの油脂は、場合によっては、加熱調理時に刺激のある加熱臭を発生させるため、その加熱臭が消費者に敬遠されるという問題があった。
【0003】
一方、焙煎油は、油糧原料を焙煎することによって香ばしい風味が付与されて、菜種油、コーン油、大豆油、ゴマ油、パーム油等の食用油脂と混合して、各種食品の風味付けに利用されたりしている。また、特許文献1や特許文献2には、焙煎油に、大豆油等に特有の青臭さや戻り臭(加熱による劣化臭)を低減する作用効果があることも報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-204266号公報
【文献】国際公開第2009/028483号
【発明の概要】
【0005】
しかしながら、特許文献1、2では、焙煎油は、大豆、ごま、菜種等を原料とするものであって、その加熱時の臭いの抑制効果は十分とはいい難かった。
【0006】
そこで、本発明の目的は、コーンを原料とする焙煎油を利用して、フライ等の加熱調理時に発生する油脂の加熱臭を抑制することができる、加熱調理用油脂組成物の加熱臭抑制剤及び加熱調理用油脂組成物の加熱臭抑制方法、並びにその加熱調理用油脂組成物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、コーン由来の焙煎油には、フライ等の加熱調理時に発生する油脂の加熱臭を抑制することができる作用効果があることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、コーン由来の焙煎油を有効成分として含有することを特徴とする、加熱調理用油脂組成物の加熱臭抑制剤を提供するものである。
【0009】
本発明による加熱調理用油脂組成物の加熱臭抑制剤によれば、フライ等の加熱調理時に発生する油脂の加熱臭を抑制することができる。
【0010】
本発明による加熱調理用油脂組成物の加熱臭抑制剤においては、前記焙煎油を0.01質量%以上100質量%以下含有することが好ましい。
【0011】
また、上記加熱臭抑制剤においては、前記焙煎油は、少なくとも脱ガムの処理が施されてなる精製油であることが好ましい。
【0012】
また、上記加熱臭抑制剤においては、前記焙煎油は、130℃以上180℃以下で焙煎してなる原料に由来するものであることが好ましく、0分間超90分間以下で焙煎してなる原料に由来するものであることがさらに好ましい。
【0013】
また、上記加熱臭抑制剤は、揚げ物用であることが好ましい。
【0014】
本発明は、他方、コーン由来の焙煎油を加熱調理用油脂組成物に含有せしめることを特徴とする、加熱調理用油脂組成物の加熱臭抑制方法を提供するものである。
【0015】
本発明による加熱調理用油脂組成物の加熱臭抑制方法によれば、フライ等の加熱調理時に発生する油脂の加熱臭を抑制することができる。
【0016】
本発明による加熱調理用油脂組成物の加熱臭抑制方法においては、前記焙煎油を前記加熱調理用油脂組成物中に0.01質量%以上10質量%以下含有せしめることが好ましい。
【0017】
また、上記加熱臭抑制方法においては、前記焙煎油は、少なくとも脱ガムの処理が施されてなる精製油であることが好ましい。
【0018】
また、上記加熱臭抑制方法においては、前記焙煎油は、130℃以上180℃以下で焙煎してなる原料に由来するものであることが好ましく、0分間超90分間以下で焙煎してなる原料に由来するものであることがさらに好ましい。
【0019】
また、上記加熱臭抑制方法においては、前記加熱調理用油脂組成物は、揚げ物用であることが好ましい。
【0020】
本発明は、更に、コーン由来の焙煎油と、前記焙煎油以外の食用油脂とを混合し、前記焙煎油を0.01質量%以上10質量%以下含有する油脂組成物を得ることを特徴とする、加熱調理用油脂組成物の製造方法を提供するものである。
【0021】
本発明による加熱調理用油脂組成物の製造方法によれば、これによって得られた加熱調理用油脂組成物は、フライ等の加熱調理用に好適であり、その加熱調理時に発生する油脂の加熱臭を抑制することができる。
【0022】
本発明による加熱調理用油脂組成物の製造方法においては、前記焙煎油は、少なくとも脱ガムの処理が施されてなる精製油であることが好ましい。
【0023】
また、上記製造方法においては、前記焙煎油は、130℃以上180℃以下で焙煎してなる原料に由来するものであることが好ましく、0分間超90分間以下で焙煎してなる原料に由来するものであることがさらに好ましい。
【0024】
また、上記製造方法においては、前記加熱調理用油脂組成物は、揚げ物用であることが好ましい。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、コーン由来の焙煎油により、フライ等の加熱調理時に発生する油脂の加熱臭を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明に用いられるコーン由来の焙煎油としては、油糧原料としてコーンを焙煎したうえ圧搾・抽出等して得られる、食品に使用可能な一般的な焙煎油であればよく、特に制限はない。例えば、トウモロコシ粒の胚芽部であるコーンジャームを原料とすることが、より好ましい。ここで、コーンジャームは、トウモロコシ粒から胚芽部を乾式に分級・分別する、いわゆるドライミリングの手法で得られたものを用いてもよく、湿式に分級・分別する、いわゆるウエットミリングの手法で得られたものを用いてもよく、いずれであっても使用可能であるが、好ましくは、ウエットミリングの手法で得られたものを用いる。ドライミリングの手法で得られるコーンジャームとしては、トウモロコシ粒の製粉工程の産物として得られるコーンジャームが挙げられる。一方、ウエットミリングの工程の一例を挙げると、次のとおりである。すなわち、まず、希薄な亜硫酸溶液にトウモロコシ粒を、例えばおよそ48時間程度浸積させ、トウモロコシ粒を膨潤させる。このとき、一種の乳酸発酵により、胚乳部を包んでいる蛋白質膜が分解され、ひいては胚芽部の分離が容易となる。その後、胚芽部をできるだけ壊さないように粗砕すると、胚乳部は水分を含み下部に沈降し、油分を多く含む胚芽部は上部に集まるので、その比重差を利用して上部に集まった胚芽部を回収する。回収した胚芽部を乾燥させることでコーンジャームが得られる。コーン由来の焙煎油は、1種類を単品で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0027】
油糧原料としてコーンを焙煎する方法としては、通常の焙煎手段により行えばよく、例えば、電熱、熱風、バーナー、マイクロ波等の加熱手段を備えた焙煎装置により、適宜焙煎することができる。このとき、焙煎の原料となるコーン(例えば、コーンジャーム)は、粉砕の処理が施されていないものを用いることができる。焙煎条件としては、130℃以上180℃以下で焙煎することが好ましく、140℃以上180℃以下で焙煎することがより好ましく、145℃以上180℃以下で焙煎することがさらに好ましく、150℃以上180℃以下で焙煎することがさらにより好ましい。また、焙煎時の保持時間は、適宜設定すればよいが、前記温度に達した時点で焙煎を終了してもよく、好ましくは90分間以下であり、より好ましくは0分間超90分間以下であり、さらに好ましくは5分間以上90分間以下であり、さらにより好ましくは15分間以上90分間以下であり、特に好ましくは20分間以上90分間以下であり、さらに特に好ましくは30分間以上90分間以下である。焙煎条件が緩和に過ぎると、加熱臭の抑制効果が十分に得られない傾向があり、一方で、焙煎条件が過剰に過ぎると、焦げ臭の発生の原因になる傾向がある。
【0028】
本発明に用いられる焙煎油としては、油糧原料としてコーンを焙煎したうえ圧搾・抽出等の搾油で得られる原油のほか、その原油に精製の処理を施してなる精製油の形態の焙煎油を用いてもよい。精製の処理としては、例えば、脱ガム、脱酸、脱色、脱臭等の処理が挙げられ、そのうちの1種又は2種以上の精製処理が施されてなる精製油であることが好ましく、少なくとも脱ガムの処理が施されてなる精製油であることがより好ましい。すなわち、後述の実施例に示されるように、このような精製処理によれば、油糧原料を焙煎したことに起因する焦げ臭を低減することができる。また、焙煎した油糧原料の香りや風味、色素等が除かれて、そのような原料由来の性質が好まれない場合の需要に応えることができる。
【0029】
ここで、脱ガム処理は、油分中に含まれるリン脂質を主成分とするガム質を水和除去する工程である。脱酸処理は、アルカリ水等で処理することにより、油分中に含まれる遊離脂肪酸をセッケン分として除去する工程である。脱色処理は、油分中に含まれる色素を活性白土等に吸着させて除去する工程である。脱臭処理は、減圧下で水蒸気蒸留等することによって油分中に含まれる有臭成分を除去する工程である。
【0030】
本発明による加熱調理用油脂組成物の加熱臭抑制剤(以下、単に「加熱臭抑制剤」と称する場合がある。)は、有効成分として上記に説明したコーン由来の焙煎油を含有し、これを加熱調理用油脂組成物で加熱調理する際に適用して、発生する加熱臭を抑制させる、というものである。また、本発明による加熱調理用油脂組成物の加熱臭抑制方法(以下、単に「加熱臭抑制方法」と称する場合がある。)は、上記に説明したコーン由来の焙煎油を加熱調理用油脂組成物に含有せしめ、それにより加熱調理する際に発生する加熱臭を抑制させる、というものである。ここで、「加熱臭」とは、一般に消費者や当業者に理解される用語の意味と異なるところはなく、具体的には、つんとした刺激臭を意味している。
【0031】
本発明による加熱臭抑制剤においては、上記有効成分として、上記コーン由来の焙煎油を(2種以上のものを使用する場合、その合計の含有量で)0.01質量%以上100質量%以下含有することが好ましく、0.01質量%以上50質量%以下含有することがより好ましく、0.1質量%以上50質量%以下含有することがさらに好ましく、1質量%以上50質量%以下含有することがさらにより好ましい。このような形態により、加熱調理用油脂組成物に有効量で適用することが可能となる。
【0032】
本発明による加熱臭抑制剤においては、上記コーン由来の焙煎油以外の成分を含有してもよく、その場合、その成分としては、その焙煎油と相容性を有し、それをよく分散できる媒体の性質を有する成分であれば、フライ油等の油脂組成物に混合し易かったり、焙煎油の濃度を調節し易かったりするので、好ましい。あるいは場合によっては、そのままの形態で、加熱調理食品を加熱調理する油脂組成物として使用することができるようにしてもよい。上記焙煎油以外の成分としては、食用油脂が好ましい。
【0033】
本発明に用いられる食用油脂としては、上記コーン由来の焙煎油以外の食用のものを適宜利用することができ、例えば、大豆油、菜種油、パーム油、コーン油、オリーブ油、ゴマ油、紅花油、ひまわり油、綿実油、米油、落花生油、パーム核油、ヤシ油等の植物油脂、牛脂、豚脂、鶏脂等の動物油脂、中鎖脂肪酸トリグリセリド、あるいはこれら油脂に分別、水素添加、エステル交換等を施した加工油脂などが挙げられる。食用油脂は、1種類を単品で用いてもよく、あるいは2種類以上を用いてもよい。なかでも、加熱臭の発生しやすい点で、大豆油、菜種油、ひまわり油、パームオレイン、コーン油等のヨウ素価が50以上の油脂から選ばれる1種又は2種以上を60質量%以上配合した食用油脂が好ましく、80質量%以上配合した食用油脂がより好ましく、また、大豆油及び菜種油から選ばれる1種又は2種を60質量%以上配合した食用油脂が好ましく、80質量%以上配合した食用油脂がより好ましい。
【0034】
また、上記食用油脂は、油糧原料から圧搾、抽出等の搾油で得られた原油から、更に、脱ガム処理、脱酸処理、脱色処理、脱臭処理のうちの1種又は2種以上の精製処理が施されてなるものであることが好ましく、少なくとも脱臭処理の精製処理が施されてなるものがより好ましく、脱ガム処理、脱酸処理、脱色処理および脱臭処理のすべての精製処理を施されてなるものであることがさらに好ましい。このような精製処理によれば、原料の香りや風味、色素等が除かれて、そのような原料由来の性質が好まれない場合の需要に応えることができる。なお、脱ガム処理、脱酸処理、脱色処理、脱臭処理等の精製処理の意義については、焙煎油に関する説明において、上述したとおりである。
【0035】
上記食用油脂の含有量(2種以上のものを使用する場合、その合計の含有量)としては、本発明による加熱臭抑制剤中に、0質量%超であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがさらに好ましく、80質量%以上であることがさらにより好ましい。上限は特にないが、上記コーン由来の焙煎油と食用油脂の合計が100質量%である。また、本発明の加熱臭抑制剤の水の含有量は、1質量%未満が好ましい。
【0036】
また、本発明による作用効果を害しない範囲であれば、抗酸化剤、乳化剤、香料、消泡剤などの添加素材を、更に配合していてもよい。具体的には、例えば、アスコルビン酸脂肪酸エステル、リグナン、コエンザイムQ、γ-オリザノール、トコフェロール、シリコーンなどが挙げられる。
【0037】
以下には、本発明における、加熱臭抑制のための有効成分たるコーン由来の焙煎油の好ましい使用の態様を説明する。ただし、本発明の範囲を、特にその使用態様に限定する趣旨ではない。すなわち、使用態様に関わらず、コーン由来の焙煎油の構成を備えており、上述したような特定の用途のための剤もしくは組成物であれば、本発明の範囲に包含され得る。あるいは、コーン由来の焙煎油の構成を備えており、上述したような特定の用途のために用いる方法であれば、本発明の範囲に包含され得る。
【0038】
本発明の好ましい態様においては、上記コーン由来の焙煎油を、例えば、フライ、天ぷら等の揚げ物や、炒め物、焼き物等の食品の加熱調理に用いられる加熱調理用油脂組成物に含有せしめて、これを加熱調理用材料に付与する等、加熱調理する際に適用して、発生する加熱臭を抑制することができる。この場合、加熱調理用油脂組成物のベース油として使用し得るのは、上述した食用油脂等である。また、上記コーン由来の焙煎油の含有量(2種以上のものを使用する場合、その合計の含有量)としては、その加熱調理用油脂組成物中に0.01質量%以上10質量%以下含有することが好ましく、0.03質量%以上10質量%以下含有することがより好ましく、0.03質量%以上5質量%以下含有することがさらに好ましく、0.1質量%以上5質量%以下含有することがさらにより好ましく、0.3質量%以上5質量%以下含有することが特に好ましい。このような形態により、その加熱調理用油脂組成物で加熱調理する際に上記コーン由来の焙煎油を有効量で適用することができ、なお且つ、焙煎油の香り、風味、色素等の性質が好まれない場合の需要に応えることができる。
【0039】
本発明は、例えば、天ぷら、フライドポテト、ハッシュドポテト、コロッケ、唐揚げ、とんかつ、魚フライ、アメリカンドッグ、チキンナゲット、揚げ豆腐、ドーナッツ、揚げパン、クルトン、揚げ米菓、スナック菓子、インスタントラーメン等の揚げ物からなる加熱調理食品に好ましく適用され得る。あるいは、野菜炒め、レバー炒め、ニラ炒め、もやし炒め等の炒め物からなる加熱調理食品や、ハンバーグ、餃子、目玉焼き等の焼き物からなる加熱調理食品にも好ましく適用され得る。
【0040】
特に、揚げ物用油は、家庭用のみならず業務用として長時間加熱調理に使用されるケースも多く、本発明がより好ましく適用され得る対象である。その加熱調理食品を調理する態様に特に制限はなく、本発明における、加熱臭抑制のための有効成分たるコーン由来の焙煎油を使用して、それぞれの加熱調理食品の種類に応じて、その加熱調理食品に適した方法にて、適宜所望の態様で加熱調理を行なえばよい。すなわち、上記コーン由来の焙煎油、あるいはそれを含有する加熱臭抑制剤もしくは加熱調理用油脂組成物を用いて、所定の加熱調理食品の調理用材料に、その温度を、典型的には140℃~200℃、より典型的には150℃~190℃とした状態で揚げる、炒める、焼く等の加熱調理を行なえばよい。
【実施例】
【0041】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、これらの実施例は本発明を何ら限定するものではない。
【0042】
(焙煎油)
表1に使用した焙煎油を示す。
【0043】
【0044】
焙煎は、ガスバーナーを加熱手段として備えた焙煎装置を用いて行った。
【0045】
また、焙煎油としては、油糧原料から圧搾・抽出した原油のほか、表2に示すとおりに任意に精製の処理を施したものを、更に調製した。
【0046】
【0047】
(評価)
業務用として長時間加熱される状況を模して、試験油700gを180℃で5時間加熱した後、その試験油の加熱臭と焦げ臭を評価した。評価は専門パネラー2人で行い、下記の評価基準に従って、焙煎油を添加しないベース油と比較し、両パネラーの合意のうえ、点数付けを行った。
【0048】
<加熱臭の評価>
5:加熱臭を強く抑制している
4:加熱臭を抑制している
3:加熱臭をやや抑制している
2:加熱臭をわずかに抑制している
1:同等か強く感じる
<焦げ臭の評価>
5:焦げ臭が非常に弱い、もしくは感じない
4:焦げ臭が弱い
3:焦げ臭がやや弱い
2:焦げ臭を強く感じる
1:焦げ臭を非常に強く感じる
【0049】
[試験例1]
ベース油としてキャノーラ油(株式会社J-オイルミルズ製;脱ガム処理、脱酸処理、脱色処理および脱臭処理の施されてなるもの、以下同様)に消泡剤としてシリコーンを3ppm含有させたものを使用し、そのベース油に、濃度0.3質量%となるよう、上述した各焙煎油を添加して試験油とし、加熱臭と焦げ臭を評価した。
【0050】
その結果を、表3に示す。
【0051】
【0052】
その結果、キャノーラ油に焙煎コーン油を配合した実施例1~5においては、加熱臭が顕著に抑制された。これに対して、焙煎大豆油を配合した試験油(比較例1~5)や、焙煎菜種油を配合した試験油(比較例6,7)や、焙煎ごま油を配合した試験油(比較例8,9)や、焙煎綿実油を配合した試験油(比較例10,11)では、加熱臭の抑制効果は限定的であるか、ほとんどみられなかった。
【0053】
また、実施例2~5の結果にみられるように、焙煎コーン油は、少なくとも脱ガムの処理が施されてなる精製油の形態であると、圧搾しただけの搾油の形態(実施例1)に比べて、加熱臭の抑制の効果はそのままに、焦げ臭がより低減されることが明らかとなった。
【0054】
[試験例2]
ベース油としてキャノーラ油に消泡剤としてシリコーンを3ppm含有させたものを使用し、そのベース油に濃度0.03質量%、0.3質量%、0.5質量%、1質量%、3質量%、又は5質量%となるよう濃度を変えて、上述した焙煎コーン油(W)(コーンジャーム(ウエット))(精製形態:脱臭)を添加して試験油とし、加熱臭と焦げ臭を評価した。評価は、上述のとおり行った。
【0055】
その結果を、表4に示す。
【0056】
【0057】
その結果、実施例6~11の結果にみられるように、焙煎コーン油は0.03質量%以上の配合量で、加熱臭の抑制効果がみられ、0.3質量%以上5質量%以下で、その効果が顕著であった。
【0058】
[試験例3]
ベース油としてキャノーラ油を使用し、そのベース油に、濃度0.3質量%となるよう、上述した焙煎コーン油(W)(精製形態:脱臭)を添加して試験油とし、加熱臭と焦げ臭を評価した。評価は、上述のとおり行った。
【0059】
その結果を、表5に示す。
【0060】
【0061】
その結果、試験例1,2でシリコーン含有のキャノーラ油をベース油とした場合と同様に、シリコーン非含有のキャノーラ油をベース油として使用した場合でも、焙煎コーン油による加熱臭の抑制効果がみられた。
【0062】
[試験例4]
ベース油としてキャノーラ油の50質量部と大豆油(株式会社J-オイルミルズ製;脱ガム処理、脱酸処理、脱色処理および脱臭処理の施されてなるもの)の50質量部とを混合してなる混合油を使用し、そのベース油に、濃度0.3質量%となるよう、上述した焙煎コーン油(W)(精製形態:脱臭)を添加して試験油とし、加熱臭と焦げ臭を評価した。評価は、上述のとおり行った。
【0063】
その結果を、表6に示す。
【0064】
【0065】
その結果、試験例1~3でキャノーラ油をベース油とした場合と同様に、キャノーラ油と大豆油との混合油をベース油として使用した場合でも、焙煎コーン油による加熱臭の抑制効果がみられた。
【0066】
[試験例5]
焙煎油として、上述した焙煎コーン油(W)(精製形態:脱臭)の80質量部と焙煎コーン油(D)(精製形態:脱臭)の20質量部とを混合して、焙煎コーン油の混合油を調製した。
【0067】
一方、ベース油としては、キャノーラ油に消泡剤としてシリコーンを3ppm含有させたものを使用し、そのベース油に濃度1質量%、3質量%、又は5質量%となるよう、上述した焙煎コーン油の混合油(精製形態:脱臭)を添加して試験油とし、加熱臭と焦げ臭を評価した。評価は、上述のとおり行った。
【0068】
その結果を、表7に示す。
【0069】
【0070】
その結果、実施例14~16の結果にみられるように、ウエットミリングで得られたコーンジャームに由来する焙煎油を単独で使用した場合と同様に、ドライミリングで得られたコーンジャームに由来する焙煎油を併用した場合でも、加熱臭の抑制効果がみられた。
【0071】
[試験例6]
焙煎油として、上述した焙煎コーン油(W)、すなわちウエットミリング由来のコーンジャームを150℃で30分間焙煎し、これを圧搾して得られた焙煎油(精製形態:搾油)に代えて、下記表8に示すとおりに任意に焙煎条件を変えて得られた焙煎コーン油(W)(精製形態:搾油)を使用した。
【0072】
一方、ベース油としては、キャノーラ油に消泡剤としてシリコーンを3ppm含有させたものを使用し、そのベース油に濃度0.3質量%となるよう、上述した焙煎コーン油(W)(精製形態:搾油)を添加して試験油とし、その他は、試験例1と同様にして、加熱臭と焦げ臭を評価した。評価は、上述のとおり行った。また、比較のため、ウエットミリング由来のコーンジャームから、焙煎の処理を施さずに、圧搾して得られたコーン油(精製形態:搾油)についても、同様に試験を行った。
【0073】
その結果を、表8に示す。
【0074】
【0075】
その結果、比較例12の結果に示されるように、油糧原料を焙煎しないと、加熱臭の抑制効果は得られなかった。一方、実施例17~23の結果にみられるように、焙煎条件としては、少なくとも150℃で15分間の焙煎により、加熱臭の抑制効果が十分に得られた。
【0076】
[試験例7]
実施例5に記載の試験油を用いて、以下のとおり、揚げ物を調理した。
【0077】
(1)天かす:天ぷら粉(商品名「コツのいらない天ぷら粉」日清フーズ株式会社製)を用いてバッターを調製し、170℃で3分間揚げた。
(2)白身フライ:冷凍白身フライ(株式会社八千代商事社製)を、170℃で3分間揚げた。
(3)コロッケ:冷凍コロッケ(商品名「NEW ポテトコロッケ」味の素冷凍食品株式会社製)を、170℃で3分間揚げた。
(4)クルトン:サンドイッチ用パン(商品名「超熟サンドイッチ用」敷島製パン株式会社製)を、1辺2cmほどのサイコロ状にカットし、170℃で20秒間揚げた。
【0078】
[試験例8]
ベース油としてキャノーラ油に消泡剤としてシリコーンを3ppm含有させたものを使用し、そのベース油に上述した焙煎コーン油(W)(コーンジャーム(ウエット))(精製形態:脱臭)を濃度0.4質量%となるように添加して試験油とした。対照油として、キャノーラ油に消泡剤としてシリコーンを3ppm含有させたものを使用した。
【0079】
試験油および対照油それぞれ700gを、180℃に加熱し、加熱臭を評価した。評価は、180℃に加熱した直後、及び、32時間後で、表9に記載の人数の専門パネラーで行い、下記の評価基準に従って、6段階で点数付けした。付けられた点数の平均点及び標準偏差の算出を行い、さらにWilcoxon検定により有意差検定を行った。なお、評価を行なう際には、180℃に加熱した直後、及び、32時間後の試験群で、それぞれ別個に試験油および対照油を用意して、評価を行なった。また、180℃で32時間加熱した評価を行なう際には、別途180℃に加熱した直後の対照油を用意して、比較評価を行なった。
【0080】
(評価基準)
5:対照油を180℃に加熱した直後の加熱臭よりも加熱臭を非常に強く感じる
4:対照油を180℃に加熱した直後の加熱臭よりも加熱臭を強く感じる
3:対照油を180℃に加熱した直後の加熱臭と同等に感じる
2:対照油を180℃に加熱した直後の加熱臭よりも加熱臭をやや弱く感じる
1:対照油を180℃に加熱した直後の加熱臭よりも加熱臭を弱く感じる
0:加熱臭を感じない
【0081】
その結果を、表9に示す。
【0082】
【0083】
その結果、同じ評価時期に評価した場合、焙煎コーン油を添加すると加熱臭が抑制された。また、有意差検定の結果、実施例24と比較例13とでは、危険率5%で有意差があった。実施例25と比較例14とについても、危険率5%で有意差があった。