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特許7118129リチウムイオン電池用正極活物質を作製する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-04
(45)【発行日】2022-08-15
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池用正極活物質を作製する方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20220805BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20220805BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20220805BHJP
   H01M 4/36 20060101ALN20220805BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
C01G53/00 A
H01M4/36 C
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020500160
(86)(22)【出願日】2018-06-22
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-08-27
(86)【国際出願番号】 EP2018066725
(87)【国際公開番号】W WO2019002116
(87)【国際公開日】2019-01-03
【審査請求日】2021-06-18
(31)【優先権主張番号】17178267.5
(32)【優先日】2017-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】18154214.3
(32)【優先日】2018-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】Carl-Bosch-Strasse 38, 67056 Ludwigshafen am Rhein, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】メッツガー,ミヒャエル
(72)【発明者】
【氏名】バイアー,ハンス
(72)【発明者】
【氏名】ジックリンガー,ヨハネス
(72)【発明者】
【氏名】プリッツル,ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】シュテーレ,ベンヤミン
(72)【発明者】
【氏名】ガスタイガー,フーベルト
(72)【発明者】
【氏名】シラー,ハダール
(72)【発明者】
【氏名】エリクソン,エヴァン
(72)【発明者】
【氏名】スサイ,フランシス アマルライ
(72)【発明者】
【氏名】グリンブラット,ユーディート
(72)【発明者】
【氏名】アウルバッハ,ドロン
(72)【発明者】
【氏名】マルコヴスキー,ボリス
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-003891(JP,A)
【文献】国際公開第2010/125729(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
C01G53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)一般式Li1+xTM1-xによる混合酸化物を、酸化性雰囲気中、750~1000℃の範囲内の温度で合成する工程(式中、TMは、Mn、Co、およびNiから選択される2種以上の遷移金属と、任意に、Ba、Al、Ti、Zr、W、Fe、Cr、K、Mo、Nb、Mg、Na、およびVから選択される少なくとももう1種の金属との組み合わせであり、xは、ゼロ~0.2の範囲内である)、
(b)工程(a)から得られた材料を100~400℃の範囲内の温度に冷却する工程、次に
(c)S、およびSOから選択される少なくとも1種の反応物質を100~400℃の温度で添加する工程、次に
(d)50℃以下の温度に冷却する工程
を含む、リチウムイオン電池用正極活物質を作製する方法。
【請求項2】
TMが、一般式(I)
NiCoMn (I)
[式中、
aは、0.3~0.9の範囲内であり、
bは、0.05~0.4の範囲内であり、
cは、0.05~0.6の範囲内であり、
dは、ゼロ~0.1の範囲内であり、
Mは、Ba、Al、Ti、Zr、W、Fe、Cr、K、Mo、Nb、Mg、Na、およびVから選択され、
a+b+c+d=1である]
による金属の組み合わせである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記混合酸化物が、少なくとも1種のリチウム塩と、TMの混合酸化物、水酸化物、炭酸塩、またはオキシ水酸化物との混合物から合成される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記リチウム塩が、水酸化リチウムおよび炭酸リチウムから選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
工程(a)における酸化性雰囲気が、空気、酸素、および酸素富化空気から選択される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
工程(c)において、前記反応物質が、酸素、酸素富化乾燥空気、乾燥空気、窒素、希ガス、または前述の少なくとも2種の組み合わせの流れに添加される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
工程(c)および(d)が、空気、酸素、窒素、希ガス、または前述の少なくとも2種の組み合わせの雰囲気中で行われる、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
反応物質の濃度が、工程(c)が実施される雰囲気を基準にして0.1~3体積%の範囲内である、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
工程(c)と(d)との間に、温度を100~400℃の範囲内に維持する工程(e)が追加される、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
工程(a)と、工程(b)~(d)または該当する場合(e)のうち少なくとも1つとがガス流下で行われる、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
工程(a)~(d)がローラーハースキルン、プッシャーキルン、またはロータリーキルン内で行われる、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、
(a)一般式Li1+xTM1-xによる混合酸化物を、酸化性雰囲気中、750~1000℃の範囲内の温度で合成する工程(式中、TMは、Mn、Co、およびNiから選択される2種以上の遷移金属と、任意に、Ba、Al、Ti、Zr、W、Fe、Cr、K、Mo、Nb、Mg、Na、およびVから選択される少なくとももう1種の金属との組み合わせであり、xは、ゼロ~0.2の範囲内である)、
(b)工程(a)から得られた材料を100~400℃の範囲内の温度に冷却する工程、
(c)BF、SO、およびSOから選択される少なくとも1種の反応物質を前記100~400℃で添加する工程、
(d)50℃以下の温度に冷却する工程
を含む、リチウムイオン電池用正極活物質を作製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エネルギーの貯蔵は、長い間関心が高まっている問題である。電気化学セル、例えば、キャパシタ、電池、または蓄電池は、電気エネルギーを貯蔵する役目を果たすことができる。最近では、リチウムイオン電池が特に関心を集めている。これは、幾つかの技術的側面で従来の電池より優れている。例えば、これを使用して、水系電解質をベースとする電池では得られない電圧を生成することができる。
【0003】
リチウムイオン電池では、電極を作製する材料、より詳細には正極を作製する材料が重要な役割を果たす。
【0004】
多くの場合、リチウムを含有する混合遷移金属酸化物、特に、リチウムを含有するニッケル-コバルト-マンガン酸化物が正極活物質として使用される。これらは一般に、前駆体、例えば、マンガン、ニッケル、およびコバルトの混合炭酸塩または混合水酸化物を最初に生成し、この前駆体を、リチウム化合物、例えばLiOHまたはLiCOと混合し、次いでそれを750~1000℃の範囲内の温度で熱的に処理することによって生成される。
【0005】
酸性電解液と接触したときのリチウムイオン電池における望ましくないガス発生は、正極活物質の高炭酸塩含有量に起因することが多い。加えて、正極活物質の表面上に炭酸塩があると、サイクリング時のセルの容量に有害作用を及ぼすと考えられている。酸は、リチウムイオン電池の非水電解質中で、分解によって、例えば、微量の水の存在下でのLiPFなどのフッ素含有錯体の分解によって、その場で形成され得る。出発物質が混合遷移金属炭酸塩であるか、または炭酸リチウムがリチウム源として選択されるとき、平均を上回る高い含有量の正極活物質の炭酸塩が見出されることが観察されている。水酸化物またはオキシ水酸化物が前駆物質として使用される場合では、工業的な運転操作中に空気から二酸化炭素を吸収することから、望ましくないことに炭酸塩濃度が高くなることがある。
【0006】
リチウムイオン電池の正極材料における炭酸塩を低減するために様々な方法が提案されてきた。提案された方法の1つは、電極を組み立てる直前に水で洗浄することである。例えば、US2012/0119167を参照されたい。しかし、全容量は、通常、改善されない。
【0007】
加えて、多くの正極活物質が保管時のCOおよび湿気に敏感である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】US2012/0119167
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、高容量保持、高いサイクル性、およびガス発生の低減などの改善された電気化学的挙動を示すリチウムイオン電池用正極活物質を作製する方法を提供することが目的であった。さらに、保管時の正極活物質の安定性を改善することが本発明の目的であった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
したがって、冒頭に定義した方法が見出され、これは以降で本発明の方法とも称する。本発明の方法を、以下により詳細に説明する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の方法は、4つの工程(a)、(b)、(c)、および(d)を含み、以降で工程(a)、工程(b)、工程(c)、および工程(d)とも称する。
【0012】
工程(a)は、一般式Li1+xTM1-xによる混合酸化物を、酸化性雰囲気中、750~1000℃の範囲内の温度で合成する工程(式中、TMは、Mn、Co、およびNiから選択される2種以上の遷移金属と、任意に、Ba、Al、Ti、Zr、W、Fe、Cr、K、Mo、Nb、およびVから選択される少なくとももう1種の金属との組み合わせであり、xは、ゼロ~0.2の範囲内であり、好ましくは0.01~0.05である)を指す。
【0013】
TMは、MnとCoと、またはMnとNiと、およびNiとCoと、ならびにNiとMnとCoと、任意に、各場合において、Ba、Al、Ti、Zr、W、Fe、Cr、K、Mo、Nb、Mg、Na、およびVから選択される少なくとももう1種の金属、好ましくは、Al、W、Ti、およびZrから選択される少なくとも1種の金属との組み合わせから選択されてもよい。NiとCoと、およびNiとCoとMnと、任意に、各場合において、Al、W、Ti、およびZrから選択される少なくとももう1種の金属との組み合わせが好ましい。
【0014】
好ましい実施形態では、TMは、一般式(I)
NiCoMn (I)
[式中、
aは、0.3~0.9、好ましくは0.33~0.8の範囲内であり、
bは、0.05~0.4、好ましくは0.1~0.33の範囲内であり、
cは、0.05~0.6、好ましくは0.1~0.33の範囲内であり、
dは、ゼロ~0.1、好ましくは0.001~0.005の範囲内であり、
Mは、Ba、Al、Ti、Zr、W、Fe、Cr、K、Mo、Nb、Mg、Na、およびVから、前述の少なくとも2種の組み合わせを含めて選択され、好ましくは、Mは、Al、W、Ti、およびZr、ならびに前述の少なくとも2種の組み合わせから選択され、
a+b+c+d=1である]
による金属の組み合わせである。
【0015】
特に好ましい実施形態では、TMは、Ni0.33Co0.33Mn0.33、Ni0.5Co0.2Mn0.3、Ni0.6Co0.2Mn0.2、Ni0.8Co0.1Mn0.1、Ni0.85Co0.1Mn0.05、およびNi0.7Co0.2Mn0.1から選択される。別の実施形態では、TMは、Ni0.4Co0.2Mn0.4から選択される。
【0016】
なおさらなる実施形態では、Li1+xTM1-xは、0.35LiMnO3,・0.65LiNi0.35Mn0.45Co0.20、0.33LiMnO・0.67Li(Ni0.4Co0.2Mn0.4)O、0.42LiMnO・0.58Li(Ni0.4Co0.2Mn0.4)O、0.50LiMnO・0.50Li(Ni0.4Co0.2Mn0.4)O、0.40LiMnO・0.60Li(Ni0.8Co0.1Mn0.1)O、および0.42LiMnO・0.58Li(Ni0.6Mn0.4)Oから選択される。
【0017】
前記TMは、微量の他の金属イオン、例えば微量のありふれた金属、例えばナトリウム、Ca、またはZnを含有してもよいが、そのような微量のものは、本発明の説明では考慮しないものとする。この文脈において微量とは、TMの全金属含有量を基準にして0.05mol%以下の量を意味するものとする。
【0018】
工程(a)を実施する通常の方法では、最初に、遷移金属を炭酸塩、酸化物、または好ましくは水酸化物(塩基性であってもなくてもよい)として共沈殿させることによって、いわゆる前駆体が形成される。次いで前駆体を乾燥し、リチウム塩、例えば、これらに限定されないが、LiO、LiNO、または、特にLiCOもしくはLiOHと混合し、続いてか焼する。か焼は、750~1000℃の範囲内の温度で、1つまたは複数の工程、例えば3種の異なる温度での3つの工程で、好ましくは800~900℃で行われてもよい。
【0019】
本発明の方法の工程(a)に適した反応窯は、例えば、流動層反応炉、トンネルキルン、ローラーハースキルン、ロータリーキルン、およびペンデュラムキルン(pendulum kiln)である。ローラーハースキルンおよびロータリーキルンが好ましい。
【0020】
本発明の一実施形態では、本発明の方法の工程(a)は、1時間~24時間、好ましくは90分間~8時間にわたって行われる。工程(a)は、連続的に実施されても、バッチ式に実施されてもよい。工程(a)が連続的に実施される実施形態では、時間は平均滞留時間を指す。
【0021】
本発明の一実施形態では、工程(a)の間の温度変化は、ゆっくりと、または急速に行われる。したがって、1~3℃/分などの遅い加熱速度を選択することが可能である。他の実施形態では、5~25℃/分などの速い加熱速度が選択される。冷却も同様に異なる速度で行うことができる。
【0022】
好ましい実施形態では、工程(a)における酸化性雰囲気は、空気、酸素、および酸素富化空気から選択される。酸素富化空気は、例えば、体積で50:50の空気と酸素との混合物であってもよい。他の選択肢は、体積で1:2の空気と酸素との混合物、体積で1:3の空気と酸素との混合物、体積で2:1の空気と酸素との混合物、および体積で3:1の空気と酸素との混合物である。
【0023】
本発明の一実施形態では、本発明の工程(a)は、ガス流下、例えば、空気、酸素、および酸素富化空気流下で行われる。そのようなガスの流れは、強制ガス流と呼ぶことができる。そのようなガスの流れは、一般式Li1+xTM1-xによる材料1kg当たり2~20m/時の範囲内の速度を有してもよい。体積は、通常の条件下、すなわち周囲温度および1気圧で決定される。前記ガスの流れは、水および二酸化炭素などのガスの開裂生成物の除去に有用である。
【0024】
工程(a)で得られた一般式Li1+xTM1-xによる混合酸化物は、通常、粒子状の形態である。「粒子状」という用語は、一般式(I)の材料の文脈において、前記材料が32μmを超えない最大粒径を有する粒子の形態でもたらされることを意味するものとする。前記最大粒径は、例えば、ふるい分けによって決定することができる。
【0025】
本発明の一実施形態では、一般式Li1+xTM1-xによる混合酸化物は、球状の形状を有する粒子である球状粒子から構成される。球状粒子は、厳密に球状である粒子だけでなく、代表的な試料の少なくとも90%(数平均)の最大直径と最小直径とが10%より多く異ならない粒子も含むものとする。
【0026】
本発明の一実施形態では、一般式Li1+xTM1-xによる混合酸化物は、一次粒子の凝集体である二次粒子から構成される。好ましくは、一般式Li1+xTM1-xによる混合酸化物は、一次粒子の凝集体である球状の二次粒子から構成される。さらにより好ましくは、一般式Li1+xTM1-xによる混合酸化物は、球状の一次粒子または小板の凝集体である球状の二次粒子から構成される。
【0027】
本発明の一実施形態では、一般式Li1+xTM1-xによる混合酸化物の二次粒子の平均粒径(D50)は、6~12μm、好ましくは7~10μmの範囲内である。本発明の文脈において平均粒径(D50)は、例えば、光散乱によって決定することができる、体積基準の粒径の中央値を指す。
【0028】
本発明の一実施形態では、一般式Li1+xTM1-xによる混合酸化物の一次粒子は、1~2000nm、好ましくは10~1000nm、特に好ましくは50~500nmの範囲内の平均径を有する。平均一次粒径は、例えば、SEMまたはTEMによって決定することができる。SEMは走査型電子顕微鏡の略語であり、TEMは透過型電子顕微鏡の略語である。
【0029】
本発明の一実施形態では、ブルナウアー-エメット-テラー法によって測定され、以降で表面(BET)と略される、一般式Li1+xTM1-xによる混合酸化物の比表面積は、0.1~10m/g、好ましくは0.25~0.5m/gの範囲内である。表面(BET)は、例えばDIN66131による窒素吸収によって決定することができる。MnがTM部分全体を基準にして少なくとも50mol%である、一般式Li1+xTM1-xによる混合酸化物の表面(BET)は、好ましくは3~8m/g、例えば5~6m/gの範囲内である。
【0030】
工程(a)では、一般式Li1+xTM1-xによる混合酸化物が得られる。
【0031】
本発明の方法の工程(b)では、前記材料は、100~400℃、好ましくは100~300℃、さらにより好ましくは120~240℃の範囲内の温度に冷却される。
【0032】
工程(b)には、20分間~16時間の範囲内の時間がかかってもよい。工程(b)は、連続的に実施されても、バッチ式に実施されてもよい。工程(b)が連続的に実施される実施形態では、時間は平均滞留時間を指す。
【0033】
工程(b)は、単純に反応窯から加熱物を取り出し、それによって指数関数的な冷却速度を適用することによって実施することが可能である。加熱物を、例えば周囲温度の空気で急冷するか、または温度が100~400℃、好ましくは100~300℃の範囲内に制御された部屋で保管することが可能である。
【0034】
工程(b)は、工程(a)と同じ装置内で、好ましくは異なる部分で、例えば、プッシャーキルン、ロータリーキルン、またはローラーハースキルンの異なるゾーンで実施されてもよい。他の実施形態では、工程(b)は別の装置内で実施される。
【0035】
本発明の一実施形態では、工程(b)は大気圧で実施される。他の実施形態では、工程(b)を減圧で、例えば1mbar~950mbarで実施することが可能である。
【0036】
本発明の一実施形態では、工程(b)は、5分間~4時間、好ましくは30分間~2時間の間行われる。
【0037】
工程(c)では、BF、SO、およびSOから選択される少なくとも1種の反応物質が前記100~400℃で添加され、これは、温度が「100~400℃の範囲内の枠」に達したときに前記反応物質が添加されることを意味する。このように、一般式Li1+xTM1-xによる混合酸化物が周囲温度に冷却され、次いで反応物質で処理されることが回避される。
【0038】
前記工程(c)による処理は、様々な方式で遂行されてもよい。例えば、前記反応物質を、酸素、酸素富化乾燥空気、乾燥空気、窒素、希ガス、または前述の少なくとも2種の組み合わせの流れに添加することが可能である。他の実施形態では、反応物質を一般式Li1+xTM1-xによる混合酸化物に直接添加することが可能である。他の実施形態では、例えば、BF、SO、またはSOを生成させる物質を100~400℃で添加することによって、例えば、SOをSOに酸化することによって、BF、SO、またはSOをその場で生成することが可能である。
【0039】
SOは、純粋な形態で添加されても、または0.01~30mol%のSOなどの不純物と共に添加されてもよい。例えば、一般式Li1+xTM1-xによる混合酸化物を硫酸アンモニウムの存在下で250℃以上の温度に加熱することによって、SOをその場で生成させることも可能である。
【0040】
SOは、純粋な形態で添加されても、または0.01~30mol%のSOなどの不純物と共に添加されてもよい。SOをSOに酸化することによってSOがその場で作製される実施形態では、生成するSOは、通常、幾らかのSOを含有する。好ましくは、SOの分率は0.1~5mol%である。
【0041】
本発明の一実施形態では、反応物質の濃度は、工程(c)が実施される雰囲気を基準にして、0.1~3体積%の範囲内である。このときの百分率は、工程(c)の開始時を基準にしている。特別な実施形態では、反応物質の濃度は、工程(c)に使用されるガスの流れを基準にして0.1~3体積%の範囲内である。
【0042】
多くの実施形態では、前記反応物質は完全には変換されない。いかなる理論にも拘束されることを望むものではないが、反応物質は、一般式Li1+xTM1-xによる混合酸化物の最も活性な部位のみと反応すると考えられる。いかなる理論にも拘束されることを望むものではないが、亜硫酸塩、ホウ酸塩、または硫酸塩の非連続的な単層が形成されると考えられる。対イオンは、例えば、Ni2+および/またはLiであり得る。
【0043】
本発明の一実施形態では、工程(c)は15分間~6時間の間行われる。
【0044】
工程(d)は、工程(c)で得られた生成物を50℃以下の温度に冷却することを含む。工程(d)は、好ましくは、BFまたはSOまたはSOから選択されるさらなる反応物質を添加することなく実施される。
【0045】
本発明の一実施形態では、工程(c)および(d)は、空気、酸素、窒素、希ガス、または前述の少なくとも2種の組み合わせの雰囲気中で行われる。工程(c)の場合、「空気、酸素、窒素、希ガス、または前述の少なくとも2種の組み合わせの雰囲気」という用語は、BF、SO、またはSOなどの反応物質の存在を含む。
【0046】
SOが反応物質である実施形態では、工程(c)は、好ましくは、窒素または希ガスの雰囲気中で行われる。
【0047】
本発明の一実施形態では、工程(c)と(d)との間に、温度を100~400℃、好ましくは100~300℃の範囲内に維持する工程(e)が追加される。前記工程(e)では、反応物質SO、BF、またはSOが何も添加されない。
【0048】
本発明の一実施形態では、工程(a)と、工程(b)~(d)または該当する場合(e)のうち少なくとも1つとが、空気、酸素、窒素、希ガス、または前述の少なくとも2種の組み合わせなどのガス流下で行われる。
【0049】
工程(b)~(d)で使用される空気および酸素は、好ましくは、それぞれ乾燥空気または乾燥酸素である。これに関して乾燥とは、含水率が0.1ppm~0.1%の範囲内であり、CO含有量が0.1~500ppmの範囲内であることを意味しており、%およびppmは各場合において体積を基準にしている。
【0050】
窒素および/または希ガスが工程(b)~(d)で使用されるならば、それらはそれぞれ、好ましくは乾燥窒素または乾燥希ガスである。乾燥とは、これに関して、含水率が0.1ppm~0.1%の範囲内であり、CO含有量が0.1~500ppmの範囲内であることを意味しており、%およびppmは各場合において体積の百万分率を基準にしている。
【0051】
本発明の一実施形態では、工程(a)~(d)は、ローラーハースキルン、プッシャーキルン、もしくはロータリーキルン内、または前述の少なくとも2種の組み合わせで行われる。別の実施形態では、ペンデュラムキルンが実現可能である。ロータリーキルンには、その中で作製される材料が非常に良好に均質化されるという利点がある。ローラーハースキルンおよびプッシャーキルン内では、異なる工程に対して異なる反応条件を極めて簡単に設定することができる。
【0052】
工程(c)がガスの強制流下で行われるが反応物質の転換が不完全である本発明の実施形態では、例えば熱処理または排ガス洗浄を用いて、排ガスを清浄にすることが有利である。
【0053】
本発明の一実施形態では、本発明の方法を実施するために追加の工程が行われてもよい。例えば、工程(b)の後に得られた材料を周囲温度に冷却し、再び500~700℃にし、続いて100~400℃、好ましくは100~300℃に冷却し、その後で工程(c)を行うことが可能である。そのような中間の工程は、工程(b)および(c)が工程(a)および(b)とは異なる場所で実施される実施形態において有用であり得る。しかし、工程(c)を工程(b)の直後に実施することが好ましい。
【0054】
本発明によって得られる正極活物質は、処理されていない正極活物質と比較して改善されたサイクル性および容量保持を示す。加えて、改善された初期容量および低減したガス発生を観察することができる。加えて、保管時の増大した堅牢性を観察することができる。
【0055】
本発明の別の態様は、正極活物質に言及し、これは、以降で本発明の正極活物質とも称する。本発明の正極活物質は、一般式Li1+xTM1-x(式中、TMは、Mn、Co、およびNiから選択される2種以上の遷移金属と、任意に、Ba、Al、Ti、Zr、W、Fe、Cr、K、Mo、Nb、Mg、Na、およびVから選択される少なくとももう1種の金属との組み合わせであり、xは、ゼロ~0.2の範囲内である)を有し、それらは、追加的に、LiもしくはTM(例えば、Ni、Co、もしくはMn、または前述の少なくとも2種の組み合わせ)またはLiとTMの少なくとも1種との組み合わせの、亜硫酸塩および硫酸塩の組み合わせを含む。好ましくは、本発明の正極活物質は、亜硫酸塩および硫酸塩の形態の合計の量の硫黄を含有する。本発明の正極活物質の表面上の硫黄の量およびその酸化状態は、X線電子分光法、簡潔には「XPS」によって決定されてもよい。
【0056】
いかなる理論にも拘束されることを望むものではないが、硫黄含有種は本発明の正極活物質上に位置するが、構造および表面研究による均質な被膜としてではないと考えられる。
【0057】
TMは、上でより詳細に定義されている。
【0058】
本発明の正極活物質は、処理されていない正極活物質と比較して改善されたサイクル性および容量保持を示す。加えて、改善された初期容量および低減したガス発生およびより良いサイクリング挙動を観察することができる。加えて、保管時の増大した堅牢性を観察することができる。
【実施例
【0059】
本発明を、実施例によってさらに説明する。
【0060】
一般的説明
以下の前駆物質を使用した:
前駆体は、硫酸ニッケル/硫酸コバルト/硫酸マンガンを23:12:65のモル比で含有する溶液から混合Ni-Co-Mn炭酸塩を沈殿させ、続いて空気下200℃で乾燥することによって作製した。沈殿剤は、アンモニア水溶液中の炭酸ナトリウム水溶液であった。平均粒径(D50):10.2μm。
【0061】
Nl:「通常の条件」でのリットル数:20℃/1気圧。
【0062】
I.正極活物質の製造
I.1:酸化物MO.1の製造
工程(a.1):以下の装置を使用する:ローラーハースキルン内での、リチウム対遷移金属の合計のモル比が1.42:1になるように、前駆体とLiCOとの均質混合物を充填した匣鉢。前記混合物を空気の強制流れの中で800℃に加熱する。800℃の温度に達したときに、800℃での加熱を4時間にわたって継続する。式0.42LiMnO・0.58Li(Ni0.4Co0.2Mn0.4)Oの金属酸化物(MO.1)の形成が観察される。これは、Li1.17TM0.83の式に相当する。
【0063】
工程(b.1):同じローラーハースキルン内で、匣鉢を移し、Ar中乾燥酸素(30体積%)中で、2時間以内で120℃に冷却する。
【0064】
工程(c.1):給気を停止し、体積比で30:70:0.5のO/Ar/SO混合物に置きかえる。30分間にわたって、金属酸化物(MO.1)をO/Ar/SOのガス流れに曝露する。SOはV触媒での一段階のSO酸化によって並行して作製されているために、SOは幾らかのSOを含有する(最大30モル%)。
【0065】
前記工程(c.1)による処理の後、そのように得られた材料を周囲温度に冷却した(工程(d.1))。MO.1が得られた。
【0066】
I.2:酸化物MO.2の製造
工程(a.1)を上の通りに繰り返す。
【0067】
工程(b.2):同じローラーハースキルン内で、匣鉢を移し、Ar中乾燥酸素(30体積%)中で、2時間以内で200℃に冷却する。
【0068】
工程(c.2):給気を停止し、体積比で30:70:0.5のO/Ar/SO混合物に置きかえる。1時間にわたって、金属酸化物(MO.1)をO/Ar/SOのガス流れに曝露する。SOはV触媒での一段階のSO酸化によって並行して作製されているために、SOは約5体積%のSOを含有する。
【0069】
工程(c.2)による前記処理の後、そのように得られた材料を周囲温度に冷却する(工程(d.2))。MO.2が得られる。MO.2は、燃焼分析(「CHNS」)で決定すると0.9質量%の硫黄含有量を有する。C-MO.3と比較すると、その差は0.6質量%である。
【0070】
I.3:比較用酸化物C-MO.3(SO非処理)の製造
工程(a.1):以下の装置を使用する:ローラーハースキルン内での、リチウム対遷移金属の合計のモル比が1.42:1になるように、前駆体とLiCOとの均質混合物を充填した匣鉢。前記混合物を空気の強制流れの中で800℃に加熱する。式0.42LiMnO・0.58Li(Ni0.4Co0.2Mn0.4)Oの金属酸化物(MO.1)の形成が観察される。
【0071】
次いで、そのように得られた材料を周囲温度に冷却する(工程(d.3))。C-MO.3が得られた。残留硫黄含有量は、CHNSで決定すると0.3質量%であった。硫酸塩は、沈殿プロセス中に吸着された硫酸塩に由来する可能性が最も高い。
【0072】
I.4:MO.4の製造:
工程(a.1)を上の通りに繰り返した。
【0073】
工程(b.4):同じローラーハースキルン内で、匣鉢を移し、純粋な窒素中で、2時間以内で400℃に冷却した。
【0074】
工程(c.4-1):Nの供給を停止し、体積比で98:2のN/SO混合物に置きかえた。2時間にわたって、金属酸化物(MO.1)を6cm/分のN/SO流に曝露した。SOの不純物は検出されなかった。
【0075】
前記工程(c.4-1)による処理の後、そのように得られた材料を周囲温度に冷却した(工程(d.4))。MO.4-1が得られた。MO.4-1において、得られた、硫黄対遷移金属の合計の比率、S/(Ni+Mn+Co)は、誘導結合プラズマ(「ICP」)で決定すると0.47質量%であった。XPSスペクトルのSの2pピークから、硫酸塩の量を次のように推定した:16%の遷移金属の硫酸塩[すなわち、MnSO、NiSO、およびCoSO]、および84%のLiSO
【0076】
工程(c.4-1)を(b.4)からの新たな試料で繰り返したが、N/SOでの処理の継続時間はそれぞれ60分間または30分間であった。MO.4-2およびMO.4-3が得られた。
【0077】
【表1】
【0078】
I.5:MO.5-1およびMO.5-2の製造
前駆体は、硫酸ニッケル/硫酸コバルト/硫酸マンガンを85:10:05のモル比で含有する溶液から混合Ni-Co-Mn炭酸塩を沈殿させ、続いて空気下120℃で乾燥し、ふるい分けすることによって作製した。沈殿剤は、アンモニア水溶液中の水酸化ナトリウム水溶液であった。平均粒径(D50):11.0μm。
【0079】
工程(a.5):以下の装置を使用する:ローラーハースキルン内で、リチウム対遷移金属の合計のモル比が1.03:1になるように、上の前駆体とLiOH一水和物との均質混合物で匣鉢を充填した。前記混合物を、体積%で40:60のN:Oの混合物の強制流れの中で760℃に加熱した。760℃の温度に達したとき、加熱を760℃で10時間にわたって継続する。式Li1.02(Ni0.85Co0.10Mn0.05)O2.02の金属酸化物(MO.5)の形成が観察された。
【0080】
工程(b.5):同じローラーハースキルン内で、匣鉢を移し、純粋な窒素中で、2時間以内で400℃に冷却した。
【0081】
工程(c.5-1):Nの供給を停止し、体積比で98:2のN/SO混合物で置きかえた。5分間にわたって、金属酸化物(MO.5-1)を6cm/分のN/SO流に曝露した。SOの不純物は検出されなかった。
【0082】
工程(c.5-2):Nの供給を停止し、体積比で98:2のN/SO混合物で置きかえた。20分間にわたって、金属酸化物(MO.5-2)を6cm/分のN/SO流に曝露した。SOの不純物は検出されなかった。
【0083】
前記工程(c.5-1)または(c.5-2)による処理の後、そのように得られた材料を周囲温度に冷却した(工程(d.5))。MO.5-1および(MO.5-2)が得られた。
【0084】
II.正極活物質の試験
正極を生成するために、以下の原材料を不活性条件下で撹拌しながら互いにブレンドする:
46.25gの活性材料、1.75gのポリフッ化ビニリデン(「PVdF」)(Arkema GroupからKynar Flex(登録商標)2801として市販されている)、2gのカーボンブラック(BET比表面積62m/g、Timcalから「Super C 65L」として市販されている)。
【0085】
撹拌しながら、十分な量のN-メチルピロリドン(NMP)を幾つかの工程で添加し、堅い、塊のないペーストが得られるまで、混合物を遊星型(planetary orbital)ミキサー(Thinky)で混合する。
【0086】
正極は、以下のように製造する:18μm厚のアルミニウム箔上に、上のペーストを100μmの4枚刃ブレードで塗布する。乾燥後の塗布量は1.5mA・h/cmである。直径14mmの円盤状の正極を箔から打ち抜き、2.5tで20秒間圧縮する。次いで正極の円盤を計量し、120℃の真空オーブン内で14時間乾燥し、周囲空気に曝露させずにアルゴングローブボックスに投入する。次いで、正極を有するセルを組み立てる。
【0087】
電気化学的試験を「CR2032」コイン型セルで行った。使用した電解液は、炭酸フルオロエチレン/炭酸ジエチル/フッ素化エーテルK2(体積比64:12:24)中1MのLiPF溶液80μlであった。
【0088】
代替的に、電気化学的試験を、金属Li対電極、2個のCelgard 2500ポリプロピレンセパレータ、ならびに炭酸エチレン-炭酸エチルメチル(3:7)および1M LiPFを含む電解質溶液(LP57、BASF)で製作された2325型のコインセルで行った。
【0089】
負極:それぞれ0.025mmの厚さの2個のガラス繊維セパレータによって正極から分離された、厚さ0.45mmのリチウム箔。
【0090】
【表2】
【0091】
【表3】
【0092】
【表4】
【0093】
【表5】
【0094】
MO.5をベースにするコインセルでの本発明のセルおよび比較用セルの代替サイクリング条件:
【0095】
最初の2回のサイクルは、C/10レートで行い、4.3Vに充電し、4.3Vでの30分間の定電圧工程を含み、3Vに放電した。Cレートは185mAh/gと定める。その後のすべてのサイクルは、C/2レートで充電し、異なるレート、すなわち2サイクル毎に0.2C、0.5C、1C、2C、3C、5C、および0.2Cレートで放電し、1Cレートで125サイクルまでサイクリングを継続した。初回ならびに様々なレートおよびサイクリングで得られた比容量を表5~7に示す。
【0096】
【表6】