(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-04
(45)【発行日】2022-08-15
(54)【発明の名称】潤滑油組成物
(51)【国際特許分類】
C10M 163/00 20060101AFI20220805BHJP
C10M 159/22 20060101ALN20220805BHJP
C10M 133/16 20060101ALN20220805BHJP
C10M 133/04 20060101ALN20220805BHJP
C10M 139/00 20060101ALN20220805BHJP
C10M 137/10 20060101ALN20220805BHJP
C10N 10/04 20060101ALN20220805BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20220805BHJP
C10N 40/12 20060101ALN20220805BHJP
【FI】
C10M163/00
C10M159/22
C10M133/16
C10M133/04
C10M139/00 A
C10M137/10 A
C10N10:04
C10N30:00 Z
C10N40:12
(21)【出願番号】P 2022532875
(86)(22)【出願日】2022-03-02
(86)【国際出願番号】 JP2022008757
【審査請求日】2022-06-01
(31)【優先権主張番号】P 2021057783
(32)【優先日】2021-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100114409
【氏名又は名称】古橋 伸茂
(74)【代理人】
【識別番号】100128761
【氏名又は名称】田村 恭子
(74)【代理人】
【識別番号】100194423
【氏名又は名称】植竹 友紀子
(72)【発明者】
【氏名】楠本 竜也
(72)【発明者】
【氏名】葛西 杜継
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/085228(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/203525(WO,A1)
【文献】特開2020-164747(JP,A)
【文献】国際公開第2015/151769(WO,A1)
【文献】特開2015-108144(JP,A)
【文献】特表2013-518936(JP,A)
【文献】特表2007-506840(JP,A)
【文献】特開2003-277783(JP,A)
【文献】特開平10-219266(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M101/00-177/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油(A)、カルシウムサリシレート(B1)及びカルシウムフェネート(B2)から選ばれる少なくとも1種の過塩基性カルシウム清浄剤(B)、アルケニルコハク酸イミド(C)、並びに、ヒンダードアミン系酸化防止剤(D)を含有する、ガスエンジン用の潤滑油組成物であって、
成分(B)に由来するカルシウム原子の含有量(X)が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.090質量%未満であり、
成分(B)に含まれる炭酸カルシウムの含有量(Y)が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.060質量%以上であり、
成分(C)に由来するホウ素原子の含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.020質量%未満であり、
成分(D)の含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.20質量%超であ
り、
硫酸灰分が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.50質量%未満である、
潤滑油組成物。
【請求項2】
成分(B)に由来するカルシウム原子の含有量(X)(単位:質量%)と成分(B)に含まれる炭酸カルシウムの含有量(Y)(単位:質量%)との比〔(X)/(Y)〕が、0.20~0.90である、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
成分(B)に由来するカルシウム原子の含有量(X)が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.080質量%未満である、請求項1又は2に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
成分(B)が、カルシウムサリシレート(B1)を少なくとも含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
金属スルホネートを実質的に含有しない、請求項1~4のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
成分(C)が、非ホウ素変性アルケニルコハク酸イミド(C1)及びホウ素変性アルケニルコハク酸イミド(C2)を共に含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
成分(C)に由来する窒素原子と、成分(B)に由来するカルシウム原子との含有量比〔N/Ca〕が、1.20以下である、請求項1~6のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項8】
さらにジチオリン酸亜鉛(E)を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項9】
請求項1~
8のいずれか一項に記載の潤滑油組成物を適用した、ガスエンジン。
【請求項10】
請求項1~
8のいずれか一項に記載の潤滑油組成物をガスエンジンに適用した、ガスエンジンの潤滑方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油組成物、当該潤滑油組成物を適用したガスエンジン、及び、当該潤滑油組成物の使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスエンジンヒートポンプシステムやガスエンジンコージェネレーションシステムは、家屋や建造物の空調用として実用化されている。これらのシステムにおいては、一般に天然ガスや液化石油ガス(LPG)等を燃料とするガスエンジンが使用される。
このようなガスエンジンに適用されるガスエンジン油も様々開発されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、過早着火を抑制することが可能なガスエンジン用潤滑油組成物の提供を目的として、潤滑油基油、構成元素としてリンを含み、かつ硫黄を含まない摩耗防止剤、有機モリブデン系摩擦調整剤、カルシウムサリシレート系清浄剤、及びマグネシウムサリシレート系清浄剤を含有し、マグネシウムとカルシウムの元素含有量の比を所定の範囲で調整し、硫酸灰分量を0.6質量%以下としたガスエンジン用潤滑油組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、ガスエンジンの高出力化及び高効率化が求められており、ガスエンジン内部の温度も非常に高くなる傾向にある。そのような環境下での使用に伴い、ガスエンジン内での過早着火(プレイグニッション)と呼ばれる異常燃焼が生じ易い。
過早着火が生じる要因として、潤滑油組成物の使用に伴い生じる「デポジット」と呼ばれる不完全燃焼物の堆積物が発熱することで引き起こされるとも考えられる。このようなデポジットは、カルシウム清浄剤のような金属系清浄剤に由来したものと考えられ、金属系清浄剤の含有量を低減することで、過早着火の抑制できるとも考えられる。しかしながら、金属系清浄剤の含有量を低減すると、ロングドレイン性の低下が引き起こされる懸念もある。
このような状況において、過早着火の抑制効果がありながらも、ロングドレイン性も向上させたガスエンジン用の潤滑油組成物が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、基油、カルシウムサリシレート及びカルシウムフェネートから選ばれる少なくとも1種の過塩基性カルシウム清浄剤、ホウ素変性されていてもよいアルケニルコハク酸イミド、並びに、ヒンダードアミン系酸化防止剤を含む酸化防止剤を含有し、過塩基性カルシウム清浄剤に含まれる炭酸カルシウムの含有量、カルシウム原子及びホウ素原子の含有量、並びに、ヒンダードアミン系酸化防止剤の含有量を特定の範囲に調整した、ガスエンジン用の潤滑油組成物を提供する。
つまり、本発明の一態様としては、基油(A)、カルシウムサリシレート(B1)及びカルシウムフェネート(B2)から選ばれる少なくとも1種の過塩基性カルシウム清浄剤(B)、アルケニルコハク酸イミド(C)、並びに、ヒンダードアミン系酸化防止剤(D)を含有する、ガスエンジン用の潤滑油組成物であって、
成分(B)に由来するカルシウム原子の含有量(X)が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.090質量%未満であり、
成分(B)に含まれる炭酸カルシウムの含有量(Y)が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.060質量%以上であり、
成分(C)に由来するホウ素原子の含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.020質量%未満であり、
成分(D)の含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.20質量%超である、
潤滑油組成物を提供する。 本発明の別の一態様としては、前記潤滑油組成物を適用したガスエンジンを提供する。
本発明の別の一態様としては、前記潤滑油組成物をガスエンジンに適用したガスエンジンの潤滑方法を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の好適な一態様の潤滑油組成物は、ガスエンジンの潤滑に要求される各種特性の少なくとも一つに優れており、より好適な態様においては、過早着火の抑制効果がありながらも、ロングドレイン性も向上させることができるため、ガスエンジンの潤滑に好適に使用し得る。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本明細書に記載された数値範囲については、上限値及び下限値を任意に組み合わせることができる。例えば、数値範囲として「好ましくは30~100、より好ましくは40~80」と記載されている場合、「30~80」との範囲や「40~100」との範囲も、本明細書に記載された数値範囲に含まれる。
また、本明細書に記載された数値範囲として、例えば「60~100」との記載は、「60以上、100以下」という範囲であることを意味する。
さらに、本明細書に記載された上限値及び下限値の規定において、それぞれの選択肢の中から適宜選択して、任意に組み合わせて、下限値~上限値の数値範囲を規定することができる。
【0009】
本明細書において、動粘度及び粘度指数は、JIS K2283:2000に準拠して測定及び算出された値を意味する。
カルシウム原子(Ca)、マグネシウム原子(Mg)、リン原子(P)、亜鉛原子(Zn)、ホウ素原子(B)、及び、モリブデン原子(Mo)の含有量は、JPI-5S-38-92に準拠して測定された値を意味する。
窒素原子(N)の含有量は、JIS K2609:1998に準拠して測定された値を意味する。
【0010】
〔潤滑油組成物の構成〕
本発明の潤滑油組成物は、基油(A)、カルシウムサリシレート(B1)及びカルシウムフェネート(B2)から選ばれる少なくとも1種の過塩基性カルシウム清浄剤(B)、ホウ素変性されていてもよいアルケニルコハク酸イミド(C)、並びに、ヒンダードアミン系酸化防止剤(D)を含有する。
そして、本発明の潤滑油組成物は、成分(B)に由来するカルシウム原子及び炭酸カルシウムの含有量、成分(C)に由来するホウ素原子の含有量、並びに、成分(D)の含有量を特定の範囲とし、ガスエンジン用の潤滑油組成物として好適に適用できるように調整している。
【0011】
上述のとおり、ガスエンジン内での過早着火を抑制し得る、ガスエンジンに好適に使用し得る潤滑油組成物の開発が望まれている。過早着火が生じる要因である「デポジット」と呼ばれる不完全燃焼物の堆積物の生成量を抑制するために、カルシウム清浄剤のような金属系清浄剤の含有量を低減する方法が挙げられる。しかしながら、金属系清浄剤の含有量の低減は、潤滑油組成物のロングドレイン性の低下を引き起こす要因ともなる。
【0012】
このような問題に対して、本発明の潤滑油組成物は、成分(B)に由来するカルシウム原子の含有量及び成分(C)に由来するホウ素原子の含有量を所定の範囲になるように調整して、上記デポジットの堆積を抑制しつつ、さらに、成分(B)に含まれる炭酸カルシウムの含有量を所定の範囲とすることで、過早着火の抑制効果を向上させている。
また、成分(B)に由来するカルシウム原子の含有量及び成分(C)に由来するホウ素原子の含有量の低減に伴うロングドレイン性の低下は、成分(B)として、カルシウムサリシレート(B1)及びカルシウムフェネート(B2)から選ばれる少なくとも1種の過塩基性カルシウム清浄剤を含有すること、及び、成分(D)の含有量を所定の範囲とすることで、ロングドレイン性の向上を図っている。
その結果、本発明の潤滑油組成物は、過早着火の抑制効果を有しつつも、ロングドレイン性を向上させた潤滑油組成物となり得ると考えられる。
【0013】
なお、本発明の一態様の潤滑油組成物において、さらにジチオリン酸亜鉛(E)を含有することが好ましい。
また、本発明の一態様の潤滑油組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、上記成分(B)~(E)以外の潤滑油用添加剤をさらに含有してもよい。
【0014】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(A)、(B)、(C)及び(D)の合計含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは60質量%以上、より好ましくは65質量%以上、更に好ましくは70質量%以上、より更に好ましくは75質量%以上、特に好ましくは80質量%以上であり、さらに、85質量%以上、87質量%以上、90質量%以上、又は92質量%以上としてもよく、また、100質量%以下、99.99質量%以下、99.90質量%以下、99.50質量%以下、99.0質量%以下、98.0質量%以下、又は97.0質量%以下としてもよい。
【0015】
以下、本発明の一態様の潤滑油組成物に含まれる各成分の詳細について説明する。
【0016】
<成分(A):基油>
本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(A)として用いる基油は、鉱油及び合成油から選ばれる1種以上が挙げられる。
鉱油としては、例えば、パラフィン系原油、中間基系原油、ナフテン系原油等の原油を常圧蒸留して得られる常圧残油;これらの常圧残油を減圧蒸留して得られる留出油;当該留出油を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、及び水素化精製等の精製処理を1つ以上施して得られる精製油;等が挙げられる。
【0017】
合成油としては、例えば、α-オレフィン単独重合体、又はα-オレフィン共重合体(例えば、エチレン-α-オレフィン共重合体等の炭素数8~14のα-オレフィン共重合体)等のポリα-オレフィン;イソパラフィン;ポリアルキレングリコール;ポリオールエステル、二塩基酸エステル、リン酸エステル等のエステル系油;ポリフェニルエーテル等のエーテル系油;アルキルベンゼン;アルキルナフタレン;天然ガスからフィッシャー・トロプシュ法等により製造されるワックス(GTLワックス(Gas To Liquids WAX))を異性化することで得られる合成油(GTL)等が挙げられる。
【0018】
本発明の一態様で用いる成分(A)は、API(米国石油協会)基油カテゴリーのグループII及びグループIIIに分類される鉱油、並びに合成油から選ばれる1種以上であることが好ましい。
【0019】
本発明の一態様で用いる成分(A)の40℃における動粘度は、好ましくは10~130mm2/s、より好ましくは20~120mm2/s、更に好ましくは30~110mm2/s、より更に好ましくは40~100mm2/sである。
【0020】
本発明の一態様で用いる成分(A)の粘度指数は、好ましくは70以上、より好ましくは80以上、更に好ましくは90以上、より更に好ましくは100以上、特に好ましくは105以上である。
なお、本発明の一態様において、成分(A)として、2種以上の基油を組み合わせた混合油を用いる場合、当該混合油の動粘度及び粘度指数が上記範囲であることが好ましい。
【0021】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(A)の含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは65質量%以上、より更に好ましくは70質量%以上、特に好ましくは75質量%以上であり、さらに、80質量%以上、82質量%以上、85質量%以上、87質量%以上、又は89質量%以上としてもよく、また、好ましくは99.5質量%以下、より好ましくは99.0質量%以下、更に好ましくは98.0質量%以下、より更に好ましくは97.0質量%以下、特に好ましくは96.0質量%以下である。
【0022】
<成分(B):過塩基性カルシウム清浄剤>
本発明の一態様の潤滑油組成物は、成分(B)として、カルシウムサリシレート(B1)及びカルシウムフェネート(B2)から選ばれる少なくとも1種の過塩基性カルシウム清浄剤を含有する。
成分(B)は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0023】
本発明の潤滑油組成物は、成分(B)の含有量について、下記要件(I)及び(II)を満たす必要がある。
・要件(I):成分(B)に由来するカルシウム原子の含有量(X)が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.090質量%未満である。
・要件(II):成分(B)に含まれる炭酸カルシウムの含有量(Y)が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.060質量%以上である。
【0024】
要件(I)を満たすように成分(B)に由来するカルシウム原子の含有量(X)を調整することで、潤滑油組成物の使用に伴い生じ得るデポジットの堆積を抑制し、過早着火の抑制効果を向上させた潤滑油組成物とすることができる。また、ガスエンジンに適用した際には、エンジン効率が良好な潤滑油組成物ともなり得る。つまり、要件(I)を満たずに、成分(B)に由来するカルシウム原子の含有量(X)が0.090質量%以上である潤滑油組成物は、過早着火の抑制効果が不十分となり易い。
上記観点から、成分(B)に由来するカルシウム原子の含有量(X)は、前記潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、0.090質量%未満であるが、好ましくは0.085質量%未満、より好ましくは0.080質量%未満、より好ましくは0.075質量%未満、更に好ましくは0.070質量%未満、より更に好ましくは0.065質量%未満、特に好ましくは0.060質量%未満である。
また、ロングドレイン性をより向上させた潤滑油組成物とする観点から、成分(B)に由来するカルシウム原子の含有量(X)は、前記潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.0010質量%以上、より好ましくは0.0030質量%以上、より好ましくは0.0050質量%以上、更に好ましくは0.0070質量%以上、より更に好ましくは0.010質量%以上、特に好ましくは0.015質量%以上であり、さらに、0.017質量%以上、0.020質量%以上、0.022質量%以上、0.025質量%以上、0.030質量%以上、0.032質量%以上、0.035質量%以上、0.037質量%以上、又は0.040質量%以上としてもよい。
【0025】
また、本発明で用いる成分(B)は、過塩基性カルシウム清浄剤であるため、石鹸分と炭酸カルシウムから構成される。上記要件(II)は、成分(B)に含まれる炭酸カルシウムの含有量(Y)を規定したものである。
成分(B)に含まれる炭酸カルシウムは、過早着火の抑制効果の更なる向上に寄与する。そのため、要件(II)で規定のとおり、成分(B)に含まれる炭酸カルシウムの含有量(Y)を0.060質量%以上とすることで、過早着火の抑制効果をさらに向上させた潤滑油組成物とすることができる。つまり、要件(II)を満たずに、成分(B)に含まれるカルシウム原子の含有量(Y)が0.060質量%未満である潤滑油組成物は、過早着火の抑制効果が不十分となり易い。
【0026】
上記観点から、成分(B)に含まれる炭酸カルシウムの含有量(Y)は、前記潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、0.060質量%以上であるが、好ましくは0.065質量%以上、より好ましくは0.070質量%以上、より好ましくは0.075質量%以上、更に好ましくは0.080質量%以上、更に好ましくは0.085質量%以上、より更に好ましくは0.090質量%以上、特に好ましくは0.095質量%以上であり、さらに、0.10質量%以上、0.11質量%以上、0.12質量%以上、又は0.13質量%以上としてもよい。
また、過早着火発生に影響するデポジットの堆積量を抑制する観点から、成分(B)に含まれる炭酸カルシウムの含有量(Y)は、前記潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは2.00質量%以下、より好ましくは1.80質量%以下、より好ましくは1.50質量%以下、更に好ましくは1.20質量%以下、更に好ましくは1.00質量%以下、より更に好ましくは0.80質量%以下、特に好ましくは0.60質量%以下であり、さらに、0.50質量%以下、0.45質量%以下、0.40質量%以下、0.35質量%以下、0.30質量%以下、0.25質量%以下、0.20質量%以下、0.18質量%以下、0.17質量%以下、0.16質量%以下、又は0.15質量%以下としてもよい。
【0027】
また、本発明の一態様の潤滑油組成物において、過早着火の抑制効果をより向上させた潤滑油組成物とする観点から、成分(B)に由来するカルシウム原子の含有量(X)(単位:質量%)と成分(B)に含まれる炭酸カルシウムの含有量(Y)(単位:質量%)との比〔(X)/(Y)〕が、好ましくは0.20以上、より好ましくは0.25以上、より好ましくは0.30以上、更に好ましくは0.35以上、より更に好ましくは0.38以上、特に好ましくは0.40以上であり、また、好ましくは0.90以下、より好ましくは0.80以下、より好ましくは0.70以下、更に好ましくは0.60以下、更に好ましくは0.55以下、より更に好ましくは0.52以下、特に好ましくは0.50以下である。
【0028】
本発明の一態様で用いる成分(B)に含まれる石鹸分の含有量は、前記潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.050質量%以上、より好ましくは0.060質量%以上、より好ましくは0.070質量%以上、更に好ましくは0.080質量%以上、更に好ましくは0.090質量%以上、より更に好ましくは0.100質量%以上、特に好ましくは0.110質量%以上であり、また、好ましくは3.00質量%以下、より好ましくは2.00質量%以下、より好ましくは1.50質量%以下、更に好ましくは1.20質量%以下、更に好ましくは1.00質量%以下、より更に好ましくは0.80質量%以下、特に好ましくは0.60質量%以下であり、さらに、0.50質量%以下、0.45質量%以下、0.40質量%以下、0.35質量%以下、0.30質量%以下、0.25質量%以下、又は0.20質量%以下としてもよい。
【0029】
本発明で用いる成分(B)は、カルシウムサリシレート(B1)及びカルシウムフェネート(B2)から選ばれる少なくとも1種の過塩基性カルシウム清浄剤である。
過塩基性カルシウム清浄剤として、成分(B1)及び(B2)から選ばれる少なくとも1種を含有することで、過早着火の抑制効果がありながらも、ロングドレイン性を向上させた潤滑油組成物とすることができる。
【0030】
本発明の一態様で成分(B)として用いる「過塩基性」カルシウム清浄剤とは、塩基価が100mgKOH/g以上のカルシウム清浄剤を意味する。
本発明の一態様で用いる成分(B)の塩基価は、100mgKOH/g以上、120mgKOH/g以上、150mgKOH/g以上、170mgKOH/g以上、又は200mgKOH/g以上としてもよく、また、600mgKOH/g以下、550mgKOH/g以下、500mgKOH/g以下、450mgKOH/g以下、又は400mgKOH/g以下としてもよい。
また、成分(B1)及び(B2)の塩基価も、上記範囲と同様である。
なお、本明細書において、成分(B)の「塩基価」とは、JIS K2501「石油製品および潤滑油-中和価試験方法」の7.に準拠して測定される塩酸法による塩基価を意味する。
【0031】
本発明の一態様で用いる成分(B)は、塩基価が100mgKOH/g以上のカルシウム清浄剤と、塩基価が100mgKOH/g未満のカルシウム清浄剤とを混合し、塩基価を100mgKOH/g以上としたカルシウム清浄剤混合物を用いてもよい。
ただし、過早着火の抑制効果とロングドレイン性を共に向上させた潤滑油組成物とする観点から、本発明の一態様で用いる成分(B)が2種以上のカルシウム清浄剤混合物であっても、塩基価が100mgKOH/g以上のカルシウム清浄剤を2種以上混合してなるカルシウム清浄剤混合物であることが好ましい。
【0032】
過早着火の抑制効果がありながらも、ロングドレイン性を向上させた潤滑油組成物とする観点から、本発明の一態様で用いる成分(B)は、カルシウムサリシレート(B1)を少なくとも含むことが好ましい。
本発明の一態様の潤滑油組成物において、上記観点から、成分(B)中の成分(B1)の含有割合は、当該潤滑油組成物に含まれる成分(B)の全量(100質量%)に対して、好ましくは30~100質量%、より好ましくは50~100質量%、更に好ましくは70~100質量%、より更に好ましくは80~100質量%、特に好ましくは90~100質量%である。
【0033】
本発明の一態様で用いる成分(B1)としては、下記一般式(b-1)で表される化合物が好ましい。また、本発明の一態様で用いる成分(B2)としては、下記一般式(b-2)で表される化合物が好ましい。
【0034】
【0035】
上記一般式(b-1)及び(b-2)中、Rは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~18の炭化水素基である。
Rとして選択し得る炭化水素基としては、例えば、炭素数1~18のアルキル基、炭素数1~18のアルケニル基、環形成炭素数3~18のシクロアルキル基、環形成炭素数6~18のアリール基、炭素数7~18のアルキルアリール基、炭素数7~18のアリールアルキル基等が挙げられる。
また、上記一般式(b-2)中、yは、0以上の整数であり、好ましくは0~3の整数である。
【0036】
<成分(B)以外の金属系清浄剤>
本発明の一態様の潤滑油組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、成分(B)以外の金属系清浄剤を含有していてもよい。
成分(B)以外の金属系清浄剤としては、アルカリ金属原子、又は、カルシウム原子以外のアルカリ土類金属原子を含有する、金属サリシレート、金属フェネート、及び金属スルホネートから選ばれる1種以上が挙げられる。
本発明の一態様の潤滑油組成物において、過早着火の抑制効果とロングドレイン性とを共にバランス良くより向上させた潤滑油組成物とする観点から、成分(B)以外の金属系清浄剤の含有量は、当該潤滑油組成物に含まれる成分(B)の全量100質量部に対して、0~50質量部、0~40質量部、0~30質量部、0~20質量部、0~10質量部、0~5.0質量部、0~2.0質量部、0~1.0質量部、0~0.1質量部、0~0.01質量部、又は0~0.001質量部としてもよい。
【0037】
ただし、過早着火の抑制効果とロングドレイン性とを共にバランス良くより向上させた潤滑油組成物とする観点から、本発明の一態様の潤滑油組成物において、下記要件(i)及び(ii)の少なくとも一方を満たす潤滑油組成物であることが好ましく、下記要件(i)及び(ii)の双方を満たす潤滑油組成物であることがより好ましい。
・要件(i):金属スルホネートを実質的に含有しない。
・要件(ii):マグネシウム清浄剤を実質的に含有しない。
上記要件(i)に記載の金属スルホネートを構成する金属としては、アルカリ金属又はアルカリ土類金属が挙げられる。なお、本発明の一態様において、要件(i)で規定する金属スルホネートは、カルシウムスルホネートであることがより好ましく、つまり、カルシウムスルホネートを実質的に含有しないことがより好ましい。
また、上記要件(i)に記載のマグネシウム清浄剤としては、マグネシウムサリシレート、マグネシウムフェネート、及びマグネシウムスルホネートが挙げられる。
【0038】
なお、例えば、上記(i)の「金属スルホネートを実質的に含有しない」との規定は、所定の目的をもって、金属スルホネートを配合して含有させる態様を否定する規定であって、意図せずにもしくは不可避的に、金属スルホネートが混入又は存在してしまうような態様までを否定する規定ではない。
ただし、本発明の一態様の潤滑油組成物において、金属スルホネートが意図せずにもしくは不可避的に混入又は存在してしまう態様を考慮しても、その場合の金属スルホネートの含有量は、前記潤滑油組成物に含まれる成分(B)の全量100質量部に対して、通常20質量部未満であるが、10質量部未満、5質量部未満、1質量部未満、0.1質量部未満、0.01質量部未満、0.001質量部未満、又は0.0001質量部未満としてもよい。
上記(ii)の規定についても、同様であり、上記説明中の「金属スルホネート」を「マグネシウム清浄剤」に置き換えて解釈される。
【0039】
<成分(C):アルケニルコハク酸イミド>
本発明の潤滑油組成物は、成分(C)として、アルケニルコハク酸イミド(C)を含有する。
成分(C)は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なお、成分(C)は、ホウ素変性されたホウ素変性アルケニルコハク酸イミドであってもよく、ホウ素変性がされていない非ホウ素変性アルケニルコハク酸イミドであってもよい。
【0040】
本発明の一態様で用いる成分(C)は、非ホウ素変性アルケニルコハク酸イミド(C1)及びホウ素変性アルケニルコハク酸イミド(C2)から選ばれる1種以上であればよいが、成分(C1)及び成分(C2)を共に含むことが好ましい。
しかしながら、成分(C2)は、長時間の使用に伴い、デポジットの生成要因となり易く、延いては過早着火の発生の要因となり易い。そのため、過早着火の抑制効果を向上させた潤滑油組成物とする観点から、本発明の潤滑油組成物は、下記要件(III)を満たす必要がある。
・要件(III):成分(C)に由来するホウ素原子の含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.020質量%未満である。
【0041】
要件(III)を満たすように成分(C)に由来するホウ素原子の含有量を調整することで、潤滑油組成物の使用に伴い生じ得るデポジットの堆積量を低減させ、過早着火を抑制し得る潤滑油組成物とすることができる。つまり、要件(III)を満たずに、成分(C)に由来するホウ素原子の含有量が0.020質量%以上である潤滑油組成物は、過早着火の抑制効果が不十分となり易い。
上記観点から、成分(C)に由来するホウ素原子の含有量は、前記潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、0.020質量%未満であるが、好ましくは0.018質量%以下、より好ましくは0.016質量%以下、より好ましくは0.015質量%以下、更に好ましくは0.014質量%以下、更に好ましくは0.013質量%以下、より更に好ましくは0.012質量%以下、特に好ましくは0.011質量%以下であり、さらに、0.010質量%以下、0.0080質量%以下、0.0070質量%以下、0.0060質量%以下、0.0050質量%以下、又は0.0040質量%以下としてもよく、また、0.0001質量%以上、0.0005質量%以上、0.0010質量%以上、0.0015質量%以上、又は0.0020質量%以上としてもよい。
【0042】
本発明の一態様で用いる成分(C1)としては、例えば、下記一般式(c-1)で表されるアルケニルコハク酸ビスイミド、下記一般式(c-2)で表されるアルケニルコハク酸モノイミドが挙げられる。
【0043】
【0044】
上記一般式(c-1)及び(c-2)中、RA1、RA2及びRA3は、それぞれ独立に、重量平均分子量(Mw)が500~3000(好ましくは900~2500)のアルケニル基である。
RA1、RA2及びRA3として選択し得る、前記アルケニル基としては、例えば、ポリブテニル基、ポリイソブテニル基、エチレン-プロピレン共重合体等が挙げられ、これらの中でも、ポリブテニル基又はポリイソブテニル基が好ましい。
RB1、RB2及びRB3は、それぞれ独立に、炭素数2~5のアルキレン基である。
x1は0~10の整数であり、好ましくは1~4の整数、より好ましくは2又は3である。
x2は1~10の整数であり、好ましくは2~5の整数、より好ましくは3又は4である。
【0045】
本発明の一態様で用いる成分(C2)としては、例えば、前記一般式(c-1)で表されるアルケニルコハク酸ビスイミのホウ素変性体、及び、下記一般式(c-2)で表されるアルケニルコハク酸モノイミドのホウ素変性体等が挙げられるが、下記一般式(c-2)で表されるアルケニルコハク酸モノイミドのホウ素変性体が好ましい。
【0046】
本発明の一態様において、成分(C2)を構成するホウ素原子と窒素原子の比率〔B/N〕としては、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.2以上、更に好ましくは0.3以上、より更に好ましくは0.5以上、特に好ましくは0.7以上である。
【0047】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(C)に由来する窒素原子と、成分(B)に由来するカルシウム原子との含有量比〔N/Ca〕は、成分(B)の分散性を向上させ、長時間使用した場合においても、過早着火の抑制効果をより向上させた潤滑油組成物とする観点から、質量比で、好ましくは1.20以下、より好ましくは1.17以下、より好ましくは1.15以下、更に好ましくは1.10以下、より更に好ましくは1.00以下、特に好ましくは0.90以下であり、また、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.05以上、より好ましくは0.10以上、より好ましくは0.15以上、更に好ましくは0.20以上、更に好ましくは0.25以上、更に好ましくは0.30以上、より更に好ましくは0.35以上、特に好ましくは0.40以上である。
【0048】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(C2)に由来するホウ素原子と、成分(C)に由来する窒素原子との含有量比〔B/N〕が、質量比で、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.02以上、更に好ましくは0.03以上、より更に好ましくは0.04以上、特に好ましくは0.05以上であり、また、好ましくは0.90以下、より好ましくは0.60以下、より好ましくは0.30未満、更に好ましくは0.28以下、更に好ましくは0.25以下、より更に好ましくは0.23以下、特に好ましくは0.20以下である。
【0049】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(C)の窒素原子換算での含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.005~0.15質量%、より好ましくは0.010~0.10質量%、更に好ましくは0.020~0.090質量%、より更に好ましくは0.025~0.070質量%、特に好ましくは0.030~0.060である。
【0050】
また、成分(C)の配合量(含有量)は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.10~15.0質量%、より好ましくは0.50~12.0質量%、より好ましくは0.7~10.0質量%、更に好ましくは1.0~8.0質量%、更に好ましくは1.5~7.0質量%、より更に好ましくは2.0~6.0質量%、特に好ましくは2.5~5.0質量%である。
【0051】
本発明の一態様の潤滑油組成物が成分(C)として成分(C2)を含有する場合、成分(C2)の配合量(含有量)は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、潤滑油組成物の使用に伴い生じ得るデポジットの堆積量を低減させ、過早着火を抑制し得る潤滑油組成物とする観点から、好ましくは1.05質量%未満、より好ましくは1.00質量%以下、より好ましくは0.90質量%以下、更に好ましくは0.80質量%以下、更に好ましくは0.70質量%以下、より更に好ましくは0.60質量%以下、特に好ましくは0.50質量%以下であり、また、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.03質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上、更に好ましくは0.07質量%以上、より更に好ましくは0.10質量%以上、特に好ましくは0.12質量%以上である。
【0052】
<成分(D):ヒンダードアミン系酸化防止剤>
本発明の潤滑油組成物は、成分(D)として、ヒンダードアミン系酸化防止剤を含有する。そして、本発明の潤滑油組成物は、成分(D)の含有量について、下記要件(IV)を満たす必要がある。
・要件(IV):成分(D)の含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.20質量%超である。
【0053】
ヒンダードアミン系酸化防止剤(D)は、金属原子を含まないため、潤滑油組成物の硫酸灰分や成分(B)のカルシウム原子の含有量を上昇させずに、酸化防止性能の向上に寄与し、使用に伴う潤滑油組成物の酸化劣化を抑制し得る。
本発明の潤滑油組成物では、上記要件(I)のように成分(B)に由来するカルシウム原子の含有量を低減して、過早着火の抑制効果を向上させているが、ロングドレイン性の低下が問題となる。そこで、本発明の潤滑油組成物は、成分(B1)及び成分(B2)から選ばれる少なくとも1種の過塩基性カルシウム清浄剤(B)を含有すると共に、上記要件(IV)を満たすように成分(D)の含有量を調整することで、過早着火の抑制効果がありながらも、ロングドレイン性を向上させた潤滑油組成物としている。なお、要件(IV)を満たずに、成分(D)の含有量が0.20質量%以下である潤滑油組成物は、成分(B)の低減に伴うロングドレイン性の低下を抑制することが困難となる。
【0054】
ロングドレイン性を向上させた潤滑油組成物とする観点から、本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(D)の含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、0.20質量%超だが、好ましくは0.25質量%以上、より好ましくは0.30質量%以上、更に好ましくは0.32質量%以上、より更に好ましくは0.35質量%以上、より更に好ましくは0.37質量%以上、特に好ましくは0.40質量%以上であり、また、上限の制限は特にないが、5.0質量%以下、4.0質量%以下、3.0質量%以下、2.0質量%以下、1.5質量%以下、又は1.0質量%以下としてもよい。
【0055】
本発明の一態様において、成分(D)として用いるヒンダードアミン系酸化防止剤としては、下記式(d)で表される構造を含む酸化防止剤であればよい。なお、成分(D)は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【化3】
上記式中、*1及び*2は、他の原子との結合位置を示す。
【0056】
より具体的な、成分(D)としては、下記一般式(d-1)~(d-4)のいずれかで表される化合物が挙げられる。
【化4】
【0057】
上記一般式(d-1)~(d-4)中、RD1は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~10のアルキル基であり、水素原子又は炭素数1~3のアルキル基であることが好ましい。
上記一般式(d-1)中、RD2は、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、環形成炭素数6~18のシクロアルキル基、環形成炭素数6~18のアリール基、水酸基、アミノ基、又は-O-CO-RD3で表される基(RD3は、水素原子又は炭素数1~20のアルキル基)である。
上記一般式(d-2)中、Zは、炭素数1~20のアルキレン基、環形成炭素数6~18のシクロアルキレン基、環形成炭素数6~18のアリーレン基、酸素原子、硫黄原子、又は-O-CO-(CH2)n-CO-O-で表される基(nは1~20の整数)である。
上記一般式(d-3)中、RD3は、水素原子又は炭素数1~20のアルキル基である。
上記一般式(d-4)中、nは、1~20の整数である。
【0058】
<ヒンダードアミン系酸化防止剤(D)以外の酸化防止剤>
本発明の一態様の潤滑油組成物は、他の添加剤として、成分(D)以外の酸化防止剤を含有してもよい。
成分(D)以外の酸化防止剤としては、例えば、成分(D)以外のアミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、リン系酸化防止剤等が挙げられる。
これらの他の酸化防止剤は、単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。
【0059】
成分(D)以外のアミン系酸化防止剤としては、例えば、ジフェニルアミン、炭素数3~20のアルキル基を有するアルキル化ジフェニルアミン等のジフェニルアミン系酸化防止剤;α-ナフチルアミン、フェニル-α-ナフチルアミン、炭素数3~20のアルキル基を有する置換フェニル-α-ナフチルアミン等のナフチルアミン系酸化防止剤;等が挙げられる。
【0060】
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、2,6-ジ-t-ブチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチル-4-エチルフェノール、イソオクチル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート等のモノフェノール系酸化防止剤;4,4’-メチレンビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-t-ブチルフェノール)等のジフェノール系酸化防止剤;等が挙げられる。
【0061】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(D)以外の他の酸化防止剤の含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、0.01質量%以上、0.05質量%以上、0.10質量%以上、0.30質量%以上、0.50質量%以上、0.70質量%以上、又は1.00質量%以上としてもよく、また、10.0質量%以下、8.0質量%以下、7.0質量%以下、6.0質量%以下、5.0質量%以下、4.5質量%以下、又は4.0質量%以下としてもよい。
また、本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(D)以外の他の酸化防止剤の含有量は、当該潤滑油組成物に含まれる成分(D)の全量100質量部に対して、0~1000質量部、0~950質量部、0~900質量部、0~850質量部、0~800質量部、0~750質量部としてもよい。
【0062】
<成分(E):ジチオリン酸亜鉛>
本発明の一態様の潤滑油組成物は、成分(E)として、ジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)(E)を含有することが好ましい。成分(E)は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。成分(E)は、耐摩耗剤としての機能を有する。
本発明の一態様で用いる成分(E)は、下記一般式(e-1)で表される化合物が好ましい。
【化5】
【0063】
上記式(e-1)中、R1~R4は、それぞれ独立に、炭化水素基を示し、互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。
R1~R4として選択し得る炭化水素基の炭素数は、好ましくは1~20、より好ましくは1~16、更に好ましくは3~12、より更に好ましくは3~10である。
【0064】
R1~R4として選択し得る、具体的な当該炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基等のアルキル基;オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基等のアルケニル基;シクロヘキシル基、ジメチルシクロヘキシル基、エチルシクロヘキシル基、メチルシクロヘキシルメチル基、シクロヘキシルエチル基、プロピルシクロヘキシル基、ブチルシクロヘキシル基、ヘプチルシクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、ビフェニル基、ターフェニル基等のアリール基;トリル基、ジメチルフェニル基、ブチルフェニル基、ノニルフェニル基、メチルベンジル基、ジメチルナフチル基等のアルキルアリール基;フェニルメチル基、フェニルエチル基、ジフェニルメチル基等のアリールアルキル基等が挙げられる。
これらの中でも、R1~R4として選択し得る、当該炭化水素基としては、アルキル基が好ましく、第1級又は第2級のアルキル基がより好ましく、第2級のアルキル基が更に好ましい。
【0065】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(E)の亜鉛原子換算での含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.001~1.0質量%、より好ましくは0.005~0.80質量%、更に好ましくは0.01~0.60質量%、より更に好ましくは0.02~0.50質量%、特に好ましくは0.03~0.40質量%である。
【0066】
また、成分(E)の含有量(配合量)としては、亜鉛原子換算での含有量が上記範囲に属するように調整されればよいが、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.01~10.0質量%、より好ましくは0.05~5.0質量%、更に好ましくは0.10~2.0質量%、より更に好ましくは0.20~1.0質量%である。
【0067】
<潤滑油用添加剤>
本発明の一態様の潤滑油組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、更に成分(B)~(E)以外の潤滑油用添加剤を含有してもよい。
このような潤滑油用添加剤としては、例えば、流動点降下剤、粘度指数向上剤、抗乳化剤、摩擦調整剤、腐食防止剤、金属不活性化剤、帯電防止剤、消泡剤等が挙げられる。
これらの潤滑油用添加剤は、それぞれ、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0068】
これらの潤滑油用添加剤のそれぞれの含有量は、本発明の効果を損なわない範囲内で、適宜調整することができるが、潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、それぞれの添加剤ごとに独立して、通常0.001~15質量%、好ましくは0.005~10質量%、より好ましくは0.01~5質量%である。
【0069】
<潤滑油組成物の製造方法>
本発明の一態様の潤滑油組成物の製造方法としては、特に制限はないが、生産性の観点から、基油(A)に、上述の成分(B)~(D)と共に、必要に応じて、成分(E)及び他の潤滑油用添加剤を配合する工程を有する、方法であることが好ましい。
【0070】
〔潤滑油組成物の性状〕
本発明の一態様の潤滑油組成物の40℃における動粘度は、好ましくは10~200mm2/s、より好ましくは30~170mm2/s、更に好ましくは50~150mm2/s、より更に好ましくは60~130mm2/s、特に好ましくは80~120mm2/sである。
【0071】
本発明の一態様の潤滑油組成物の100℃における動粘度は、好ましくは2.5~20.0mm2/s、より好ましくは4.0~18.0mm2/s、更に好ましくは5.5~16.0mm2/s、より更に好ましくは7.0~15.0mm2/s、特に好ましくは8.0~14.0mm2/sである。
【0072】
本発明の一態様の潤滑油組成物の粘度指数は、好ましくは80以上、より好ましくは85以上、更に好ましくは90以上、より更に好ましくは95以上、特に好ましくは100以上である。
【0073】
本発明の一態様の潤滑油組成物の酸価は、好ましくは0.10~2.00mgKOH/g、より好ましくは0.15~1.50mgKOH/g、更に好ましくは0.20~1.20mgKOH/g、より更に好ましくは0.25~1.00mgKOH/g、特に好ましくは0.30~0.80mgKOH/gである。
なお、本明細書において、潤滑油組成物の酸価は、JIS K2501:2003(電位差法)に準拠して測定された値を意味する。
【0074】
本発明の一態様の潤滑油組成物の塩基価は、好ましくは1.0~10.0mgKOH/g、より好ましくは1.5~8.0mgKOH/g、更に好ましくは2.0~6.5mgKOH/g、より更に好ましくは2.3~5.0mgKOH/g、特に好ましくは2.5~4.0mgKOH/gである。
なお、本明細書において、潤滑油組成物の塩基価は、JIS K2501:2003(塩酸法)に準拠して測定された値を意味する。
【0075】
本発明の一態様の潤滑油組成物の硫酸灰分は、好ましくは0.50質量%未満、より好ましくは0.40質量%未満、更に好ましくは0.30質量%未満、より更に好ましくは0.27質量%未満である。
なお、本明細書において、硫酸灰分は、JIS K2272:1998に準拠して測定された値を意味する。
【0076】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、リン原子の含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.01~0.15質量%、より好ましくは0.015~0.12質量%、更に好ましくは0.02~0.10質量%、より更に好ましくは0.025~0.08質量%である。
【0077】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、窒素原子の含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.01~1.00質量%、より好ましくは0.02~0.80質量%、更に好ましくは0.03~0.50質量%、より更に好ましくは0.05~0.30質量%、特に好ましくは0.07~0.20質量%である。
【0078】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、デポジットの原因物質を低減し、過早着火の抑制効果をより向上させた潤滑油組成物とする観点から、マグネシウム原子の含有量は、前記潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは0.04質量%未満、より好ましくは0.02質量%未満、更に好ましくは0.01質量%未満、より更に好ましくは0.001質量%未満、特に好ましくは0.0005質量%未満である。
【0079】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、長時間使用した場合においても、過早着火の抑制効果をより向上させた潤滑油組成物とする観点から、モリブデン原子の含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.01質量%未満、より好ましくは0.005質量%未満、更に好ましくは0.001質量%未満、より更に好ましくは0.0005質量%未満である。
【0080】
本発明の一態様の潤滑油組成物に対して、後述の実施例に記載の方法に基づき、示差走査熱量計(METTLER社製、高圧DSC)を用いて、3MPaの高圧酸素雰囲気下で、50℃から600℃まで、昇温速度10℃/分にて昇温して測定した発熱量の最大値(最大発熱量)は、好ましくは25.0mW以下、より好ましくは20.0mW以下、より好ましくは18.0mW以下、更に好ましくは16.0mW以下、より更に好ましくは12.0mW以下、特に好ましくは8.0mW以下である。
また、上記の昇温過程において、発熱量が0.5mWに達した際の温度である発熱開始温度は、好ましくは220℃以上、より好ましくは255℃以上、より好ましくは270℃以上、更に好ましくは280℃以上、より更に好ましくは300℃以上、特に好ましくは320℃以上である。
最大発熱量が低いほど、及び、発熱開始温度が高いほど、早着火の抑制効果が高い潤滑油組成物であるといえる。
【0081】
本発明の一態様の潤滑油組成物に対して、後述の実施例に記載の方法に基づき、空気(流量:150mL/分)と、一酸化窒素(NO)を窒素で希釈したガス(NO濃度:2,000体積ppm、流量50mL/分)とを混合した混合ガスを導入して、NOxによる劣化の過程において、当該潤滑油組成物の塩基価(塩酸法)を測定し、塩基価が1.0mgKOH/gまで低下するまでの時間である「NOx-ISOT寿命時間」が、好ましくは100時間以上、より好ましくは105時間以上、更に好ましくは110時間以上、より更に好ましくは115時間以上である。NOx-ISOT寿命時間が長いほど、ロングドレイン性に優れた潤滑油組成物であるといえる。
【0082】
〔潤滑油組成物の用途〕
本発明の一態様の潤滑油組成物は、過早着火の抑制効果やロングドレイン性等の特性に優れている。
そのため、本発明の一態様の潤滑油組成物は、上記特性を発揮し得る各種装置に適用することができるが、ガスエンジンの潤滑に適用されることが好ましい。
【0083】
また、本発明の一態様の潤滑油組成物の上述の特性を考慮すると、本発明は、以下の[I]及び[II]も提供し得る。
[I]上述の本発明の一態様の潤滑油組成物を適用した、ガスエンジン。
[II]上述の本発明の一態様の潤滑油組成物をガスエンジンに適用した、ガスエンジンの潤滑方法。
【0084】
なお、本発明は、以下の態様[1]~[11]を提供する。
[1]基油(A)、カルシウムサリシレート(B1)及びカルシウムフェネート(B2)から選ばれる少なくとも1種の過塩基性カルシウム清浄剤(B)、アルケニルコハク酸イミド(C)、並びに、ヒンダードアミン系酸化防止剤(D)を含有する、ガスエンジン用の潤滑油組成物であって、
成分(B)に由来するカルシウム原子の含有量(X)が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.090質量%未満であり、
成分(B)に含まれる炭酸カルシウムの含有量(Y)が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.060質量%以上であり、
成分(C)に由来するホウ素原子の含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.020質量%未満であり、
成分(D)の含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.20質量%超である、
潤滑油組成物。
[2]成分(B)に由来するカルシウム原子の含有量(X)(単位:質量%)と成分(B)に含まれる炭酸カルシウムの含有量(Y)(単位:質量%)との比〔(X)/(Y)〕が、0.20~0.90である、上記[1]に記載の潤滑油組成物。
[3]成分(B)に由来するカルシウム原子の含有量(X)が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.080質量%未満である、上記[1]又は[2]に記載の潤滑油組成物。
[4]成分(B)が、カルシウムサリシレート(B1)を少なくとも含む、上記[1]~[3]のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
[5]金属スルホネートを実質的に含有しない、上記[1]~[4]のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
[6]成分(C)が、非ホウ素変性アルケニルコハク酸イミド(C1)及びホウ素変性アルケニルコハク酸イミド(C2)を共に含む、上記[1]~[5]のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
[7]成分(C)に由来する窒素原子と、成分(B)に由来するカルシウム原子との含有量比〔N/Ca〕が、1.20以下である、上記[1]~[6]のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
[8]さらにジチオリン酸亜鉛(E)を含む、上記[1]~[7]のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
[9]硫酸灰分が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.50質量%未満である、上記[1]~[7]のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
[10]上記[1]~[9]のいずれか一項に記載の潤滑油組成物を適用した、ガスエンジン。
[11]上記[1]~[9]のいずれか一項に記載の潤滑油組成物をガスエンジンに適用した、ガスエンジンの潤滑方法。
【実施例】
【0085】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。なお、各種物性の測定法は、下記のとおりである。
【0086】
(1)動粘度、粘度指数
JIS K2283:2000に準拠して測定及び算出した。
(2)Ca、Mg、Mo、P、Zn、Bの含有量
JPI-5S-38-92に準拠して測定した。
(3)窒素原子(N)の含有量
JIS K2609:1998に準拠して測定した。
(4)酸価
JIS K2501:2003(電位差法)に準拠して測定した。
(5)塩基価(塩酸法)
JIS K2501:2003(塩酸法)に準拠して測定した。
(6)硫酸灰分
JIS K2272:1998に準拠して測定した。
【0087】
(7)重量平均分子量(Mw)
ゲル浸透クロマトグラフ装置(アジレント社製、「1260型HPLC」)を用いて、下記の条件下で測定し、標準ポリスチレン換算にて測定した値を用いた。
(測定条件)
・カラム:「Shodex LF404」を2本、順次連結したもの。
・カラム温度:35℃
・展開溶媒:クロロホルム
・流速:0.3mL/min
【0088】
実施例1~7、比較例1~8
基油及び各種添加剤を、表1及び表2に示す配合量にて添加して混合し、潤滑油組成物をそれぞれ調製した。なお、表1及び表2に示されたカルシウム系清浄剤及び添加剤混合物の配合量は希釈油も含めた配合量である。
なお、当該潤滑油組成物の調製に使用した、各成分の詳細は以下のとおりである。
【0089】
<基油>
・「パラフィン系鉱油」:グループIIに分類されるパラフィン系鉱油、40℃動粘度=90.51mm2/s、粘度指数=107、成分(A)に該当。
【0090】
<カルシウム清浄剤>
・「Caサリシレート(b1-i)」:塩基価=316mgKOH/g(塩酸法)、Ca原子含有量=12.1質量%のカルシウムサリシレート、成分(B)に該当。
・「Caサリシレート(b1-ii)」:塩基価=219mgKOH/g(塩酸法)、Ca原子含有量=8.0質量%のカルシウムサリシレート、成分(B)に該当。
・「Caサリシレート(b1-iii)」:塩基価=223mgKOH/g(塩酸法)、Ca原子含有量=7.94質量%のカルシウムサリシレート、成分(B)に該当。
・「Caサリシレート(b1-iv)」:塩基価=59.8mgKOH/g(塩酸法)、Ca原子含有量=2.3質量%のカルシウムサリシレート、成分(B)に該当。
・「Caフェネート(b2-i)」:塩基価=218mgKOH/g(塩酸法)、Ca原子含有量=9.25質量%のカルシウムフェネート、成分(B)に該当。
・「Caスルホネート(1)」:塩基価=304mgKOH/g(塩酸法)、Ca原子含有量=11.6質量%のカルシウムスルホネート。
・「Caスルホネート(2)」:塩基価=11.3mgKOH/g(塩酸法)、Ca原子含有量=2.15質量%のカルシウムスルホネート。
【0091】
<アルケニルコハク酸イミド>
・「非ホウ素変性コハク酸イミド」:Mw=2200のポリブテニル基を有するポリブテニルコハク酸ビスイミド、窒素原子(N)の含有量=1.2質量%、成分(C)に該当。
・「ホウ素変性コハク酸イミド」:Mw=950のポリブテニル基を有するポリブテニルコハク酸モノイミドのホウ素変性物、ホウ素原子(B)の含有量=1.9質量%、窒素原子(N)の含有量=2.3質量%、B/N=0.83、成分(C)に該当。
【0092】
<ヒンダードアミン系酸化防止剤>
・「ヒンダードアミン系AO」:前記一般式(d-3)中のRD1が水素原子、RD3が-C11H23であるヒンダードアミン系酸化防止剤、窒素含有量=4.2質量%、成分(D)に該当。
【0093】
<ジチオリン酸亜鉛>
・「ZnDTP」:第1級ジアルキルジチオリン酸亜鉛、リン原子含有量=7.4質量%、亜鉛原子含有量=8.9質量%、成分(E)に該当。
【0094】
<他の添加剤>
・添加剤混合物:ヒンダードアミンではないアミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、流動点降下剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、及び消泡剤の添加剤混合物。
【0095】
調製した潤滑油組成物について、動粘度、粘度指数、酸価、塩基価、硫酸灰分、及び各原子含有量を測定もしくは算出すると共に、以下の過早着火の抑制効果試験及びロングドレイン性の評価試験を行った。これらの結果を表1及び表2に示す。
【0096】
(1)過早着火の抑制効果試験
調製した潤滑油組成物について、示差走査熱量計(METTLER社製、高圧DSC)を用いて、3MPaの高圧酸素雰囲気下で、50℃から600℃まで、昇温速度10℃/分にて昇温し、潤滑油組成物の発熱量を測定した。そして、発熱量の最大値(単位:mW)を「最大発熱量」とし、発熱量が0.5mWに達した際の温度を「発熱開始温度」とした。なお、「最大発熱量」が小さいほど、及び、「発熱開始温度」が高いほど、過早着火の抑制効果が高い潤滑油組成物であるといえる。
【0097】
(2)ロングドレイン性の評価試験
調製した潤滑油組成物250gを油温150℃まで昇温し、空気(流量:150mL/分)と、一酸化窒素(NO)を窒素で希釈したガス(NO濃度:2,000体積ppm、流量50mL/分)とを混合した混合ガスを導入して、NOxにより劣化させた。潤滑油組成物の劣化の過程において、当該潤滑油組成物の塩基価(塩酸法)を測定し、塩基価が1.0mgKOH/gまで低下するまでの時間を「NOx-ISOT寿命時間」(単位:時間)として測定した。この「NOx-ISOT寿命時間」が長いほど、ロングドレイン性に優れた潤滑油組成物であるといえる。
【0098】
【0099】
【0100】
表1より、実施例1~7で調製した潤滑油組成物は、最大発熱量が低く、且つ、発熱開始温度が高いため、過早着火の抑制効果が高く、さらにロングドレイン性にも優れている結果となった。一方で、比較例1~8で調製した潤滑油組成物は、過早着火の抑制効果及びロングドレイン性の少なくとも一方が劣る結果となった。
【要約】
基油(A)、カルシウムサリシレート(B1)及びカルシウムフェネート(B2)から選ばれる少なくとも1種の過塩基性カルシウム清浄剤(B)、アルケニルコハク酸イミド(C)、並びに、ヒンダードアミン系酸化防止剤(D)を含有する、ガスエンジン用の潤滑油組成物であって、成分(B)に由来するカルシウム原子の含有量(X)が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.090質量%未満であり、成分(B)に含まれる炭酸カルシウムの含有量(Y)が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.060質量%以上であり、成分(C)に由来するホウ素原子の含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.020質量%未満であり、成分(D)の含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.20質量%超である、潤滑油組成物を提供する。