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特許7118461共役ジエン系重合体の製造方法及びこれを含むグラフト共重合体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-05
(45)【発行日】2022-08-16
(54)【発明の名称】共役ジエン系重合体の製造方法及びこれを含むグラフト共重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 36/04 20060101AFI20220808BHJP
   C08F 279/04 20060101ALI20220808BHJP
【FI】
C08F36/04
C08F279/04
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020556905
(86)(22)【出願日】2019-09-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-07-29
(86)【国際出願番号】 KR2019011985
(87)【国際公開番号】W WO2020060147
(87)【国際公開日】2020-03-26
【審査請求日】2020-10-15
(31)【優先権主張番号】10-2018-0111802
(32)【優先日】2018-09-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2019-0113658
(32)【優先日】2019-09-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】ジン・ヒョン・イ
(72)【発明者】
【氏名】ヨン・ミン・キム
(72)【発明者】
【氏名】ス・ジョン・ハン
(72)【発明者】
【氏名】ユ・ヴィン・キム
(72)【発明者】
【氏名】ヨン・ファン・ジョン
(72)【発明者】
【氏名】ジェ・ミン・スク
(72)【発明者】
【氏名】チャン・ホン・パク
(72)【発明者】
【氏名】ジェ・ウォン・ホ
【審査官】西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第96/010587(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第03363819(EP,A1)
【文献】特開平10-067808(JP,A)
【文献】特開2011-042727(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 36/00- 36/22
C08F279/00-279/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応器に共役ジエン系単量体を連続投入しながら重合を開始及び遂行して共役ジエン系重合体を製造する段階を含み、
乳化剤を重合開始前及び重合転換率が31から80%の時点で分割投入し、
前記乳化剤が下記化学式1で表される化合物の塩を含むものである、共役ジエン系重合体の製造方法
【化1】
前記化学式1において、
Xは、C からC 20 であり、不飽和結合を含むか含まない4価以上の脂肪族炭化水素であり、
からR は、互いに同一であるか異なっており、それぞれ独立して、水素、C からC 20 の1価の脂肪族炭化水素又は*-L -COOHで表され、
からL は、互いに同一であるか異なっており、それぞれ独立して、直接結合又はC からC 20 の2価の脂肪族炭化水素であり、
l及びmは、互いに同一であるか異なっており、それぞれ独立して、0から6である
【請求項2】
前記乳化剤を重合開始前及び重合転換率が34から78%の時点で分割投入するものである、請求項1に記載の共役ジエン系重合体の製造方法。
【請求項3】
重合開始前に、前記乳化剤を前記共役ジエン系単量体100重量部に対して、0.1から2.5重量部で投入するものである、請求項1又は2に記載の共役ジエン系重合体の製造方法。
【請求項4】
重合転換率が31から80%の時点で、前記乳化剤を前記共役ジエン系単量体100重量部に対して、0.05から0.4重量部で投入するものである、請求項1又に記載の共役ジエン系重合体の製造方法。
【請求項5】
前記共役ジエン系単量体は、6から14時間連続投入されるものである、請求項1~のいずれか一項に記載の共役ジエン系重合体の製造方法。
【請求項6】
前記乳化剤が下記化学式2から化学式4で表される化合物からなる群から選択される1種以上の塩を含むものである、請求項のいずれか一項に記載の共役ジエン系重合体の製造方法:
【化2】
【化3】
【化4】
前記化学式2から化学式4において、
からL10は、互いに同一であるか異なっており、それぞれ独立して、直接結合、CからC15の直鎖状又は分枝状のアルキレン基、又はCからC15の直鎖状又は分枝状のアルケニレン基であるが、Lは、直接結合ではなく、
からR10は、互いに同一であるか異なっており、それぞれ独立して、CからC15の直鎖状又は分枝状のアルキル基、又はCからC15の直鎖状又は分枝状のアルケニル基である。
【請求項7】
前記乳化剤が下記化学式5から化学式10で表される化合物からなる群から選択される1種以上の塩を含むものである、請求項のいずれか一項に記載の共役ジエン系重合体の製造方法:
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
【化10】
【請求項8】
前記化学式1で表される化合物の塩は、前記化学式1で表される化合物のアルカリ金属塩である、請求項のいずれか一項に記載の共役ジエン系重合体の製造方法。
【請求項9】
前記化学式1で表される化合物の塩は、前記化学式1で表される化合物のナトリウム塩又はカリウム塩である、請求項のいずれか一項に記載の共役ジエン系重合体の製造方法。
【請求項10】
重合開始前に、前記反応器に共役ジエン系単量体を一括投入する段階をさらに含む、請求項1~のいずれか一項に記載の共役ジエン系重合体の製造方法。
【請求項11】
前記一括投入される共役ジエン系単量体と連続投入される共役ジエン系単量体の重量比は、1:99から35:65である、請求項1に記載の共役ジエン系重合体の製造方法。
【請求項12】
前記共役ジエン系重合体は、平均粒径が0.07から0.2μmである、請求項1~1のいずれか一項に記載の共役ジエン系重合体の製造方法。
【請求項13】
前記共役ジエン系重合体を肥大化する段階をさらに含む、請求項1~1のいずれか一項に記載の共役ジエン系重合体の製造方法。
【請求項14】
前記肥大化する段階で、酸を前記共役ジエン系単量体100重量部に対して、0.5から1.1重量部で投入する、請求項1に記載の共役ジエン系重合体の製造方法。
【請求項15】
請求項1から1の何れか一項に記載の製造方法によって共役ジエン系重合体を製造する段階と、
前記共役ジエン系重合体に芳香族ビニル系単量体及びビニルシアン系単量体をグラフト重合する段階と、を含むグラフト共重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本発明は、2018年9月18日に出願された韓国特許出願第10-2018-0111802号及び2019年9月16日に出願された韓国特許出願第10-2019-0113658号に基づいた優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示された全ての内容は、本明細書の一部として含まれる。
【0002】
本発明は、共役ジエン系重合体の製造方法及びこれを含むグラフト共重合体の製造方法に関し、熱安定性及び外観品質が改善された共役ジエン系重合体の製造方法、及びこれを含むグラフト共重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
ブタジエン重合体に代表される共役ジエン系重合体は、優れたゴム特性によってABSグラフト共重合体及びMBSグラフト共重合体等、各種熱可塑性共重合体の衝撃補強剤として広く用いられている。
【0004】
共役ジエン系重合体で製造されるABSグラフト共重合体は、電気製品、電子製品、自動車部品、一般事務用品等の素材として幅広く用いられ、耐衝撃性等の物性以外にも色彩、光沢等の外観特性が重要な品質の問題として台頭されている。
【0005】
ABSグラフト共重合体は、ブタジエン重合体にスチレンとアクリロニトリルをグラフト重合させる乳化重合で製造した後、その用途によってSAN共重合体とともに押出され熱可塑性樹脂組成物として加工される。
【0006】
しかし、熱可塑性樹脂組成物は、ABSグラフト共重合体によって衝撃強度が高くなる一方、ABSグラフト共重合体に含まれたブタジエン重合体が乳化剤、開始剤、分子量調節剤等の多くの添加剤を含むため、成形品の製造時、添加剤がガスを発生させるようになり、これによって成形品の表面特性が低下するという問題が発生する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、重合時に乳化剤の投入量を低減できる共役ジエン系重合体の製造方法及びグラフト共重合体の製造方法を提供することにある。
【0008】
また、本発明の目的は、肥大時に酸の投入量を低減できる共役ジエン系重合体の製造方法及びグラフト共重合体の製造方法を提供することにある。
【0009】
また、本発明の目的は、グラフト共重合体を含む熱可塑性樹脂組成物の成形時に添加剤から由来するガスの発生量が著しく低減され、外観品質が改善され、熱安定性も改善された熱可塑性樹脂成形品を製造できる共役ジエン系重合体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明は、反応器に共役ジエン系単量体を連続投入しながら重合を開始及び遂行して共役ジエン系重合体を製造する段階を含み、乳化剤を重合開始前及び重合転換率が31から80%の時点で分割投入する共役ジエン系重合体の製造方法を提供する。
【0011】
また、本発明は、前述した製造方法によって共役ジエン系重合体製造する段階と、前記共役ジエン系重合体に芳香族ビニル系単量体及びビニルシアン系単量体をグラフト重合する段階とを含むグラフト共重合体の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の共役ジエン系重合体及びグラフト共重合体の製造方法によれば、重合時に乳化剤の投入量を低減できるため、共役ジエン系共重合体及びグラフト共重合体内に残留する乳化剤の量も低減される。また、重合時に乳化剤の投入量が著しく低減されるため、共役ジエン系重合体の肥大時に酸の投入量も低減できる。このため、本発明の共役ジエン系重合体で製造されたグラフト共重合体を含む熱可塑性樹脂組成物は、残留乳化剤及び酸の含量が著しく低減されたため、成形時に乳化剤及び酸から由来するガスの発生量が著しく低減する。これにより、外観品質及び熱安定性に優れた熱可塑性樹脂成形品を製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に対する理解を深めるために本発明をさらに詳しく説明する。
【0014】
本明細書及び特許請求の範囲において用いられた用語や単語は、通常的又は辞書的な意味に限定して解釈されてはならず、発明者は自身の発明を最善の方法によって説明するために、用語の概念を適宜定義することができるという原則に即し、本発明の技術的思想に適合する意味と概念として解釈されなければならない。
【0015】
本発明において、重合転換率は、単量体が重合して重合体を形成した程度を示すものであり、下記式で計算されてよい。
重合転換率(%)={(反応に参加した単量体の含量)/(最終段階まで反応に投入された全体単量体の含量)}×100
【0016】
本発明において、共役ジエン系重合体の平均粒径は、動的光散乱(dynamic light scattering)法を用いて測定してよく、詳しくはNicomp 370HPL装備(製品名、製造社:Nicomp)を用いて測定してよい。
【0017】
本明細書において平均粒径は、動的光散乱法によって測定される粒度分布における算術平均粒径、すなわち、散乱強度平均粒径を意味してよい。
【0018】
本発明において、アルキル基は、メチル基、エチル基、プロピル基、n-プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、sec-ブチル基、1-メチル-ブチル基、1-エチル-ブチル基、ペンチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert-ペンチル基、ヘキシル基、n-ヘキシル基、1-メチルペンチル基、2-メチルペンチル基、4-メチル-2-ペンチル基、3,3-ジメチルブチル基、2-エチルブチル基、ヘプチル基、n-ヘプチル基、1-メチルヘキシル基、シクロペンチルメチル基、シクロヘキシルメチル基、オクチル基、n-オクチル基、tert-オクチル基、1-メチルヘプチル基、2-エチルヘキシル基、2-プロピルペンチル基、n-ノニル基、2,2-ジメチルヘプチル基、1-エチル-プロピル基、1,1-ジメチル-プロピル基、イソヘキシル基、2-メチルペンチル基、4-メチルヘキシル基、5-メチルヘキシル基及び3-メチルオクタン-2-イル(3-methyloctan-2-yl)からなる群から選択される1種以上であってよい。
【0019】
本発明において、アルケニル基は、ビニル基、1-プロペニル基、イソプロフェニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基、1-ペンテニル基、2-ペンテニル基、3-ペンテニル基、3-メチル-1-ブテニル基、1,3-ブタジエニル基、アリル基、1-フェニルビニル-1-イル基、2-フェニルビニル-1-イル基、2,2-ジフェニルビニル-1-イル基、2-フェニル-2-(ナフチル-1-イル)ビニル-1-イル基、2,2-ビス(ジフェニル-1-イル)ビニル-1-イル基、スチルベニル基、スチレニル基、(E)-ノン-1-エン-1-イル((E)-non-1-en-1-yl)、(E)-ノン-3-エン-1-イリデン((E)-non-3-en-1-ylidene)、(E)-オクタ-2-エン-1-イル((E)-oct-2-en-1-yl)及び(E)-デカ-1-エン-1-イル((E)-dec-1-en-1-yl)からなる群から選択される1種以上であってよい。
【0020】
本発明において、アルキレン基は、アルキル基に結合位置が二つあるもの、すなわち、2価基を意味してよい。
【0021】
本発明において、アルケニレン基は、前記アルケニル基に結合位置が二つあるもの、すなわち、2価基を意味してよい。
【0022】
本発明において、開始剤、乳化剤、電解質及び分子量調節剤等の添加剤の含量は、本発明の共役ジエン系重合体の製造方法で投入される共役ジエン系単量体の和である100重量部を基準とする。
【0023】
1.共役ジエン系重合体の製造方法
本発明の一実施形態による共役ジエン系重合体の製造方法は、反応器に共役ジエン系単量体を連続投入しながら重合を開始及び遂行して共役ジエン系重合体を製造する段階を含み、乳化剤を重合開始前及び重合転換率が31から80%の時点で分割投入する。
【0024】
反応器に共役ジエン系単量体を連続投入すれば、共役ジエン系単量体を一括投入時に発生する問題点である反応の急激な進行を防止し、重合安定性及びラテックス安定性を改善できる。また、重合凝固物の生成を最小化できる。重合凝固物の生成による重合損失も最小化されるため、製造効率を改善できる。また、共役ジエン系重合体のラテックス安定性が改善されるため、グラフト共重合体の製造時にグラフト重合が円滑に進行される。
【0025】
前記重合開始は、60から80℃又は65から75℃で行われてよく、このうち65から75℃で行わるのが好ましい。前述した条件を満たせば、重合時に開始剤の活性化温度、反応速度及び反応安定性のバランスを合わせることができる。
【0026】
前記共役ジエン系単量体の連続投入開始時点は、重合開始時点と同一であってよい。
【0027】
前記共役ジエン系単量体の連続投入は、重合開始温度に対して5から20℃又は7から15℃以上昇温させながら行われてよく、このうち7から15℃以上昇温させながら行われるのが好ましい。前述した条件を満たせば、適切な反応速度を維持しながら、重合が安定的に行われ得る。
【0028】
前記反応器に、前記共役ジエン系単量体は6から14時間又は8から12時間連続投入されてよく、このうち8から12時間連続投入されるのが好ましい。前述した条件を満たせば、既存の量に対して乳化剤の含量を減少させた状態で重合を行っても、重合安定性の確保が容易である。
【0029】
前記共役ジエン系単量体は、重合安定性を改善させるために一定速度で連続投入されるのが好ましい。
【0030】
前記共役ジエン系単量体は、1,3-ブタジエン、イソプレン、クロロプレン及びピペリレンからなる群から選択された1種以上であってよく、このうち1,3-ブタジエンが好ましい。
【0031】
一方、乳化剤を重合開始前及び重合転換率が31から80%の時点で分割投入し、好ましくは、重合開始前及び34から78%の時点で分割投入してよく、より好ましくは、重合開始前及び重合転換率が40から75%の時点で分割投入してよい。前述した条件を満たせば、重合時に乳化剤の投入量を従来に対して著しく低減させながらも、乳化重合を容易に行うことができ、目的とする平均粒径を有する共役ジエン系重合体を製造できる。また、乳化剤の投入量が著しく低減されたため、共役ジエン系重合体内に残留する乳化剤の含量も低減される。そして、乳化剤の投入量の低減によって、共役ジエン系重合体の肥大時に酸の投入量も低減できる。これにより共役ジエン系重合体で製造されたグラフト共重合体を含む熱可塑性樹脂組成物は、成形時に乳化剤及び酸から由来するガスの発生量が著しく低減され、結果的に表面特性に著しく優れた成形品を製造できる。
【0032】
もし、前記乳化剤を前述した範囲で投入しなければ、共役ジエン系重合体の重合安定性及び肥大化過程における安定性を確保しにくい。また、前記乳化剤を重合開始前にのみ投入し、前述した時点で投入しなければ、共役ジエン系重合体の重合安定性及び肥大化過程における安定性を確保しにくい。
【0033】
一方、重合開始前に、前記乳化剤を共役ジエン系単量体100重量部に対して、0.1から2.5重量部又は0.3から2重量部で投入してよく、このうち0.3から2重量部で投入するのが好ましい。前述した範囲を満たせば、既存の乳化剤量に対して少量で乳化重合を容易に行うことができるため、グラフト共重合体を含む熱可塑性樹脂組成物の成形時、乳化剤から由来するガスの発生量が著しく低減され、成形品の外観品質を著しく改善させることができる。
【0034】
重合転換率が31から80%の時点で、前記乳化剤を共役ジエン系単量体100重量部に対して、0.05から0.4重量部又は0.08から0.35重量部で投入してよく、このうち0.08から0.35重量部で投入するのが好ましい。前述した範囲を満たせば、既存の量に対して少量で乳化重合を容易に行うことができるため、グラフト共重合体を含む熱可塑性樹脂組成物の成形時、乳化剤から由来するガスの発生量が著しく低減され、成形品の外観品質を著しく改善させることができる。
【0035】
前記重合転換率が31から80%の時点は、共役ジエン系単量体の連続投入中の時点であってもよく、共役ジエン系単量体の連続投入が終了された時点であってもよい。
【0036】
前記乳化剤は、下記化学式1で表される化合物の塩、脂肪酸石けん、オレイン酸カリウム、ジシクロヘキシルスルホコハク酸ナトリウム、ジヘキシルスルホコハク酸ナトリウム、ジ-2-エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム、ジ-2-エチルヘキシルスルホコハク酸カリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼン硫酸ナトリウム、オクタデシル硫酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム、、オクタデシル硫酸カリウム、ロジン酸カリウム及びロジン酸ナトリウムからなる群から選択される1種以上を含んでよく、このうち下記化学式1で表される化合物の塩、脂肪酸石けん及びオレイン酸カリウムからなる群から選択される1種以上が好ましい:
【化1】
【0037】
前記化学式1において、
Xは、CからC20であり、不飽和結合を含むか含まない4価以上の脂肪族炭化水素であり、
からRは、互いに同一であるか異なっており、それぞれ独立して、水素、CからC20の1価の脂肪族炭化水素又は*-L-COOHで表され、
からLは、互いに同一であるか異なっており、それぞれ独立して、直接結合又はCからC20の2価の脂肪族炭化水素であり、
l及びmは、互いに同一であるか異なっており、それぞれ独立して、0から6である。
【0038】
前記乳化剤が前記化学式1で表される化合物の塩を1種以上含むとすれば、乳化剤の気化温度が従来の乳化剤に比べて著しく高くなり得る。これにより、本発明の共役ジエン系重合体で製造されたグラフト共重合体を含む熱可塑性樹脂組成物は、成形時に乳化剤から由来するガスの発生量が著しく低減され、外観品質に優れた成形品を製造できる。また、前記化学式1で表される化合物の塩は、2以上のカルボキシレートを含むため、少量だけ投入しても乳化重合が容易に行われる。
【0039】
前記化学式1において、Xは、CからC10であり、不飽和結合を含むか含まない4価以上の脂肪族炭化水素であってよい。
【0040】
前記化学式1において、全体炭素数は、30から50又は35から45であり、このうち30から45が好ましい。前述した条件を満たせば、既存の乳化剤量に対して少量で乳化重合を容易に行うことができる。また、前記化学式1で表される化学物の塩は、高温で容易に分解されるかガス化されないため、グラフト共重合体を含む熱可塑性樹脂組成物の成形時、乳化剤から由来するガスの発生量が著しく低減され、成形品の外観品質を著しく改善させることができる。
【0041】
前記乳化剤は、下記化学式2から化学式4で表される化合物からなる群から選択される1種以上の塩を含んでよい:
【化2】
【化3】
【化4】
【0042】
前記化学式2から化学式4において、
前記LからL10は、互いに同一であるか異なっており、それぞれ独立して、直接結合、CからC15の直鎖状又は分枝状のアルキレン基、又はCからC15の直鎖状又は分枝状のアルケニレン基であるが、前記Lは、直接結合ではなく、
前記RからR10は、互いに同一であるか異なっており、それぞれ独立して、CからC15の直鎖状又は分枝状のアルキル基、又はCからC15の直鎖状又は分枝状のアルケニル基である。
【0043】
ここで、直接結合は、L、LからL10なしに結合されたものを意味する。
【0044】
前記乳化剤は、下記化学式5から化学式10で表される化合物からなる群から選択される1種以上の塩を含んでよい:
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
【化10】
【0045】
前記化学式1で表される化合物は、直鎖状又は分枝状の不飽和脂肪酸を多量化することで製造されてよい。前記化学式1で表される化合物は、不飽和脂肪酸単量体、前記化学式1で表される化合物の誘導体等を含む2種以上の混合物状態で製造されてよい。
【0046】
前記直鎖状又は分枝状の不飽和脂肪酸は、3-オクテン酸、10-ウンデセン酸、リノール酸、エライジン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、トール油脂肪酸、大豆油脂肪酸、パーム油脂肪酸、牛脂脂肪酸、豚脂脂肪酸、鴨脂脂肪酸、米ぬか油脂肪酸及び亜麻仁油脂肪酸からなる群から選択される1種以上であってよい。
【0047】
前記化学式1で表される化合物の塩は、前記化学式1で表される化合物のアルカリ金属塩であってよく、好ましくは、前記化学式1で表される化合物のナトリウム塩又はカリウム塩であってよい。
【0048】
前記化学式1で表される化合物にアルカリ金属を添加してカルボン酸の水素をアルカリ金属、具体的に、ナトリウム又はカリウムで置換して製造されてよい。前記化学式1で表される化合物が混合物形態で製造される場合、前記混合物にアルカリ金属を添加してカルボン酸の水素をアルカリ金属、具体的に、ナトリウム又はカリウムで置換して製造されてよい。
【0049】
前記乳化剤が前記化学式1で表される化合物の塩を含む場合、前記化学式1で表される化合物の塩だけでなく、前記化学式1で表される化合物の製造時に形成される副産物、未反応単量体及びこれらのアルカリ金属塩からなる群から1種以上を含んでよい。
【0050】
前記乳化剤は、市販の物質のうちFS200(商品名、製造社:LG生活健康)、FS300(商品名、製造社:LG生活健康)及びFS020(商品名、製造社:LG生活健康)からなる群から選択される1種以上を用いてよく、これらとオレイン酸及びステアリン酸からなる群から選択される1種以上の鹸化物を混合して用いてよい。
【0051】
一方、重合開始前に、前記反応器には前述した乳化剤以外に開始剤、酸化-還元系触媒、電解質、分子量調節剤及び水からなる群から選択される1種以上をさらに投入してよい。
【0052】
前記開始剤は、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、クメンヒドロペルオキシド、ジイソプロピルベンゼンヒドロペルオキシド、アゾビスイソブチロニトリル、t-ブチルヒドロペルオキシド、パラメンタンヒドロペルオキシド及びベンゾイルペルオキシドからなる群から選択される1種以上であってよく、このうち過硫酸カリウム及びt-ブチルヒドロペルオキシドからなる群から選択される1種以上が好ましい。
【0053】
前記開始剤は、前記共役ジエン系単量体100重量部に対して、0.01から1重量部、又は0.05から0.5重量部で投入されてよく、このうち0.05から0.5重量部で投入されるのが好ましい。前述した条件を満たせば、重合速度及び重合安定性のバランスを合わせることができる。
【0054】
前記酸化-還元系触媒は、ホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、硫酸第一鉄、デキストロース、ピロリン酸ナトリウム、無水ピロリン酸ナトリウム、硫酸ナトリウムからなる群から選択される1種以上であってよく、このうち硫酸第一鉄、デキストロース及びピロリン酸ナトリウムからなる群から選択される1種以上であるのが好ましい。
【0055】
前記酸化-還元系触媒は、前記共役ジエン系重合体、芳香族ビニル系単量体及びビニルシアン系単量体の和100重量部に対して、0.001から1重量部又は0.01から0.5重量部で投入されてよく、このうち0.01から0.5重量部で投入されるのが好ましい。前記酸化-還元系触媒として硫酸第一鉄、デキストロース及びピロリン酸ナトリウムが全て投入されれば、前記共役ジエン系重合体、芳香族ビニル系単量体及びビニルシアン系単量体の和100重量部に対して、硫酸第一鉄0.0001から0.002重量部、デキストロース0.01から0.3重量部、ピロリン酸ナトリウム0.01から0.3重量部が投入されるのが好ましい。前述した範囲を満たせば、重合転換率をより上げることができる。
【0056】
前記電解質は、KCl、NaCl、KOH、KHCO、NaHCO、KCO、NaCO、KHSO、NaHSO、K、Na、KPO、NaPO、KHPO、及びNaHPOからなる群から選択される1種以上であってよく、このうちKOH及びKCOからなる群から選択される1種以上が好ましい。
【0057】
前記電解質は、前記共役ジエン系単量体100重量部に対して、0.01から1重量部、又は0.05から0.5重量部で投入されてよく、このうち0.05から0.5重量部で投入されるのが好ましい。前述した条件を満たせば、目的とする平均粒径を有する共役ジエン系重合体を製造できる。
【0058】
前記分子量調節剤は、α-メチルスチレンダイマー、t-ドデシルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、オクチルメルカプタン、四塩化炭素、塩化メチレン、臭化メチレン、テトラエチルチウラムジスルフィド、ジペンタメチレンチウラムジスルフィド、ジイソプロピルキサントゲンジスルフィドからなる群から選択される1種以上であってよく、このうちt-ドデシルメルカプタンが好ましい。
【0059】
前記分子量調節剤は、前記共役ジエン系単量体100重量部に対して、0.01から1重量部、又は0.05から0.8重量部で投入されてよく、このうち0.05から0.8重量部で投入されるのが好ましい。前述した条件を満たせば、耐衝撃性がより改善されるという利点がある。
【0060】
前記分子量調節剤は、重合転換率が20から40%の時点又は25から35%の時点で追加投入されてよく、このうち25から35%の時点で分子量調節剤が追加投入されるのが好ましい。前述した条件を満たせば、重合速度と共役ジエン系重合体のゲル含量も容易に調節できる。
【0061】
前記分子量調節剤は、前記共役ジエン系単量体100重量部に対して、0.5重量部以下又は0.01から0.5重量部で投入されてよく、このうち0.01から0.5重量部で投入されるのが好ましい。前述した条件を満たせば、重合速度を適切に維持できる。
【0062】
前記水は、イオン交換水であってよい。
【0063】
一方、本発明の一実施形態による共役ジエン系重合体の製造方法は、重合開始前に、前記反応器に共役ジエン系単量体を一括投入する段階をさらに含んでよい。
【0064】
前記一括投入される共役ジエン系単量体は、共役ジエン系重合体の製造方法で投入される共役ジエン系単量体の全体重量に対して、35%以下で投入されてよい。
【0065】
また、前記一括投入される共役ジエン系単量体と連続投入される共役ジエン系単量体の重量比は、1:99から35:65又は5:95から30:70であってよく、このうち5:95から30:70であるのが好ましい。前述した条件を満たせば、共役ジエン系重合体の製造時に優れた重合安定性を維持しながら、乳化剤の使用量をより著しく減らすことができ、グラフト共重合体の品質が向上する。また、重合開始前に投入される共役ジエン系単量体の量が比較的少ないため、重合初期から重合が急激に進行されることを防止できる。このため、既存より乳化剤の投入量を低減しても重合が安定的に行われる。
【0066】
前記共役ジエン系重合体は、平均粒径は0.07から0.2μm又は0.08から0.15μmであってよく、このうち0.08から0.15μmが好ましい。前述した条件を満たせば、重合反応の効率及び安定性に優れながらも後述の肥大化する段階が容易に行わるという利点がある。
【0067】
一方、本発明の一実施形態による共役ジエン系重合体の製造方法は、前記共役ジエン系重合体を肥大化する段階をさらに含んでよい。
【0068】
前記肥大化する段階は、酢酸又はリン酸等の酸を用いて行われてよく、前記共役ジエン系重合体に酸を投入することで、粒子が互いに融着して大粒径の共役ジエン系重合体が製造される。前記共役ジエン系重合体を肥大化すると、重合により共役ジエン系重合体の平均粒径を増加させることよりも重合時間が短くなるため、製造の効率が増大する。
【0069】
前記酸は、前記共役ジエン系単量体100重量部に対して、0.5から1.1重量部又は0.6から1重量部で投入されてよく、このうち0.6から1重量部で投入されるのが好ましい。前述した条件を満たせば、大粒径の共役ジエン系重合体を容易に製造でき、ラテックスの安定性もより改善できる。また、共役ジエン系重合体で製造されたグラフト共重合体を含む熱可塑性樹脂組成物の成形時、酸から由来するガスの発生量を著しく減少させ、表面特性に優れた熱可塑性樹脂成形品を製造できる。
【0070】
前記肥大化された共役ジエン系重合体の平均粒径は、0.25から0.4μm又は0.28から0.35μmであってよく、このうち0.28から0.35μmが好ましい。前述した範囲を満たせば、グラフト共重合体の耐衝撃性をより改善できる。
【0071】
2.グラフト共重合体の製造方法
本発明の他の一実施形態によるグラフト共重合体は、本発明の一実施形態による製造方法で共役ジエン系重合体を製造する段階と、前記共役ジエン系重合体に芳香族ビニル系単量体及びビニルシアン系単量体をグラフト重合する段階とを含む。
【0072】
前記共役ジエン系重合体は、コロイド状態で水に分散したラテックス形態であってよい。
【0073】
前記共役ジエン系重合体は、前記共役ジエン系重合体、芳香族ビニル系単量体及びビニルシアン系単量体の全体重量に対して、45から75重量%又は50から70重量%で投入されてよく、このうち50から70重量%で投入されるのが好ましい。前述した範囲を満たせば、グラフト共重合体の耐衝撃性及び加工性をより改善できる。
【0074】
前記芳香族ビニル系単量体は、スチレン、α-メチルスチレン、α-エチルスチレン及びp-メチルスチレンからなる群から選択される1種以上であってよく、このうちスチレンが好ましい。
【0075】
前記芳香族ビニル系単量体は、前記共役ジエン系重合体、芳香族ビニル系単量体及びビニルシアン系単量体の全体重量に対して、15から45重量%又は20から40重量%で投入されてよく、このうち20から40重量%で投入されるのが好ましい。前述した範囲を満たせば、熱可塑性樹脂組成物の耐化学性、剛性、耐衝撃性、加工性及び表面光沢をより改善できる。
【0076】
前記ビニルシアン系単量体は、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、フェニルアクリロニトリル及びα-クロロアクリロニトリルからなる群から選択される1種以上であってよく、このうちアクリロニトリルが好ましい。
【0077】
前記ビニルシアン系単量体は、前記共役ジエン系重合体、芳香族ビニル系単量体及びビニルシアン系単量体の全体重量に対して、1から20重量%又は3から17重量%で投入されてよく、このうち3から17重量%で投入されるのが好ましい。前述した範囲を満たせば、熱可塑性樹脂組成物の耐化学性、剛性、耐衝撃性、加工性及び表面光沢をより改善できる。
【0078】
前記重合は、乳化剤、開始剤、酸化-還元系触媒、分子量調節剤及びイオン交換水からなる群から選択される1種以上の存在下で行われてよい。
【0079】
前記乳化剤は、前記化学式1で表される化合物の塩を含んでよい。
【0080】
前記乳化剤は、前記共役ジエン系重合体、芳香族ビニル系単量体及びビニルシアン系単量体の和100重量部に対して、0.01から1.0重量部又は0.1から0.6重量部で投入されてよく、このうち0.1から0.6重量部で投入されるのが好ましい。前述した範囲を満たせば、乳化重合が容易になるとともに、グラフト共重合体内の残留量を最小化できる。
【0081】
前記開始剤の種類は前述した通りであり、このうちt-ブチルヒドロペルオキシドが好ましい。
【0082】
前記開始剤は、前記共役ジエン系重合体、芳香族ビニル系単量体及びビニルシアン系単量体の和100重量部に対して、0.01から1重量部又は0.1から0.5重量部で投入されてよく、このうち0.1から0.5重量部で投入されるのが好ましい。前述した範囲を満たせば、乳化重合が容易になるとともに、グラフト共重合体内の残留量を最小化できる。
【0083】
前記酸化-還元系触媒の種類は前述した通りであり、このうち硫酸第一鉄、デキストロース及びピロリン酸ナトリウムからなる群から選択される1種以上のものが好ましい。
【0084】
前記酸化-還元系触媒は、前記共役ジエン系重合体、芳香族ビニル系単量体及びビニルシアン系単量体の和100重量部に対して、0.01から0.5重量部又は0.05から0.3重量部で投入されてよく、このうち0.05から0.3重量部で投入されるのが好ましい。前述した範囲を満たせば、重合転換率をより上げることができる。
【0085】
前記分子量調節剤の種類は、前述した通りである。
【0086】
前記分子量調節剤は、前記共役ジエン系重合体、芳香族ビニル系単量体及びビニルシアン系単量体の和100重量部に対して、0.01から1.0重量部又は0.05から0.5重量部で投入されてよく、このうち0.05から0.5重量部で投入されるのが好ましい。前述した範囲を満たせば、シェルの重量平均分子量を適切に調節できる。
【0087】
3.熱可塑性樹脂組成物
本発明のまた他の一実施形態による熱可塑性樹脂組成物は、本発明の他の一実施形態によって製造されたグラフト共重合体と芳香族ビニル系単量体単位及びビニルシアン系単量体単位を含むマトリックス共重合体を含む。
【0088】
前記マトリックス共重合体は、熱可塑性樹脂組成物に耐熱性、剛性、加工性を与えることができる。
【0089】
前記芳香族ビニル系単量体単位は、スチレン、α-メチルスチレン、α-エチルスチレン及びp-メチルスチレンからなる群から選択される1種以上から由来する単位であってよく、このうちスチレンから由来する単位が好ましい。
【0090】
前記ビニルシアン系単量体単位は、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、フェニルアクリロニトリル及びα-クロロアクリロニトリルからなる群から選択される1種以上から由来する単位であってよく、このうちアクリロニトリルから由来する単位が好ましい。
【0091】
前記マトリックス共重合体は、前記芳香族ビニル系単量体単位とビニルシアン系単量体単位を85:15から60:40又は80:20から65:35の重量比で含んでよく、このうち80:20から65:35の重量比で含むのが好ましい。前述した範囲を満たせば、熱可塑性樹脂組成物が耐熱性、耐衝撃性及び加工性のバランスをより良く具現できる。
【0092】
前記グラフト共重合体と前記マトリックス共重合体の重量比は、15:85から35:65又は20:80から30:70であってよく、このうち20:80から30:70が好ましい。前述した範囲を満たせば、熱可塑性樹脂組成物で製造された成形品の耐化学性、耐衝撃性、熱安定性、着色性、耐疲労性、剛性及び加工性をより改善できる。
【0093】
本発明のまた他の一実施形態による熱可塑性樹脂組成物で製造された成形品は、射出成形時にガス発生量が2,000ppm以下、反射ヘイズが1.3以下であってよく、ガス発生量が1,500ppm以下、反射ヘイズが1.2以下であるのが好ましい。前述した条件を満たせば、表面特性に優れた熱可塑性樹脂成形品を製造できる。
【0094】
以下、本発明の属する技術分野において、通常の知識を有する者が容易に実施できるよう、本発明の実施例に対して詳しく説明する。しかし、本発明は、色々と異なる形態に具現されてよく、ここで説明する実施例に限定されない。
【実施例
【0095】
実施例1
<共役ジエン系重合体の製造>
窒素置換された重合反応器にイオン交換水90重量部、1,3-ブタジエン10重量部、乳化剤としてFS300(商品名、製造社:LG生活健康)1重量部、電解質として炭酸カリウム(KCO)0.35重量部、分子量調節剤としてt-ドデシルメルカプタン0.1重量部、重合開始剤として過硫酸カリウム0.1重量部を一括投入した。前記反応器を69℃に昇温させた後、重合を開始した。
【0096】
重合開始と同時に1,3-ブタジエン90重量部を一定の速度で10時間連続投入しながら重合を行った。前記連続投入は、78℃で一定の速度で昇温させながら行われた。
【0097】
一方、重合転換率が30%の時点でt-ドデシルメルカプタン0.1重量部を一括投入した。
【0098】
1,3-ブタジエンの連続投入が終了された後(重合転換率が74%の時点)、乳化剤としてFS300(商品名、製造社:LG生活健康)0.1重量部を一括投入し、15時間重合してから重合を終了し、小粒径の共役ジエン系重合体を製造した。
【0099】
小粒径の共役ジエン系重合体に酢酸0.8重量部を含む水溶液を投入し、肥大化させ、大粒径の共役ジエン系重合体を製造した。
【0100】
<グラフト共重合体の製造>
窒素置換された重合反応器に、大粒径の共役ジエン系重合体60重量部(固形分基準)及びイオン交換水1000重量部を投入した。その後、前記重合反応器に別途の混合装置で混合されたアクリロニトリル12重量部、スチレン28重量部、イオン交換水20重量部、乳化剤としてFS300(商品名、製造社:LG生活健康)0.4重量部、分子量調節剤としてt-ドデシルメルカプタン0.35重量部でなる第1混合物と、t-ブチルヒドロペルオキシド0.12重量部、デキストロース0.054重量部、ピロリン酸ナトリウム0.004重量部及び硫酸第一鉄0.002重量部を含む第2混合物を、70℃でそれぞれ3時間一定の速度で連続投入しながら重合を行った。
【0101】
前記連続投入が終了された後、前記重合反応器にデキストロース0.05重量部、ピロリン酸ナトリウム0.03重量部、硫酸第一鉄0.001重量部、t-ブチルヒドロペルオキシド0.05重量部を一括投入し、重合反応器の温度を80℃まで1時間にかけて一定の速度で昇温してから重合を終了し、グラフト共重合体を製造した。
【0102】
前記製造されたグラフト共重合体ラテックスにMgSO1重量部を投入して凝集を行った後、洗浄、脱水及び乾燥を行ってグラフト共重合体粉末を製造した。
【0103】
<熱可塑性樹脂組成物の製造>
前記グラフト共重合体粉末27重量部とSAN共重合体(商品名:92HR、製造社:LG化学)73重量部を混合し、熱可塑性樹脂組成物を製造した。
【0104】
実施例2
共役ジエン系重合体の製造において、重合転換率が59%の時点で乳化剤としてFS300(商品名、製造社:LG生活健康)0.1重量部を一括投入し、15時間重合してから重合を終了したことを除いては、実施例1と同一の方法で共役ジエン系重合体、グラフト共重合体及び熱可塑性樹脂組成物を製造した。
【0105】
実施例3
共役ジエン系重合体の製造において、重合転換率が41%の時点で乳化剤としてFS300(商品名、製造社:LG生活健康)0.1重量部を一括投入し、15時間重合してから重合を終了したことを除いては、実施例1と同一の方法で共役ジエン系重合体、グラフト共重合体及び熱可塑性樹脂組成物を製造した。
【0106】
実施例4
共役ジエン系重合体の製造において、重合転換率が34%の時点で乳化剤としてFS300(商品名、製造社:LG生活健康)0.1重量部を一括投入し、15時間重合してから重合を終了したことを除いては、実施例1と同一の方法で共役ジエン系重合体、グラフト共重合体及び熱可塑性樹脂組成物を製造した。
【0107】
実施例5
共役ジエン系重合体の製造において、重合転換率が78%の時点で乳化剤としてFS300(商品名、製造社:LG生活健康)0.08重量部を一括投入し、15時間重合してから重合を終了したことを除いては、実施例1と同一の方法で共役ジエン系重合体、グラフト共重合体及び熱可塑性樹脂組成物を製造した。
【0108】
実施例6
共役ジエン系重合体の製造において、重合開始前に1,3-ブタジエン35重量部を一括投入し、重合開始と同時に1,3-ブタジエン65重量部を一定の速度で10時間連続投入することと、重合転換率が58%の時点で乳化剤としてFS300(商品名、製造社:LG生活健康)0.1重量部を一括投入し、15時間重合してから重合を終了したことを除いては、実施例1と同一の方法で共役ジエン系重合体、グラフト共重合体及び熱可塑性樹脂組成物を製造した。
【0109】
実施例7
乳化剤としてFS020(商品名、製造社:LG生活健康、構成成分:脂肪酸石けん)を用いたことを除いては、実施例1と同一の方法で共役ジエン系重合体、グラフト共重合体及び熱可塑性樹脂組成物を製造した。
【0110】
比較例1
<共役ジエン系重合体の製造>
窒素置換された重合反応器に、イオン交換水75重量部、1,3-ブタジエン90重量部、乳化剤としてFS300(商品名、製造社:LG生活健康)3重量部、電解質として炭酸カリウム(KCO)0.1重量部、分子量調節剤としてt-ドデシルメルカプタン0.1重量部、重合開始剤としてt-ブチルヒドロペルオキシド0.15重量部、デキストロース0.06重量部、ピロリン酸ナトリウム0.005重量部及び硫酸第一鉄0.0025重量部を一括投入した。前記反応器を55℃に昇温してから重合を開始した。
【0111】
次いで、重合転換率が32%の時点まで重合した後、過硫酸カリウム0.3重量部を一括投入し、72℃まで昇温させ、重合転換率が68%の時点まで重合した後、1,3-ブタジエン10重量部を一括投入し、15時間重合してから重合を終了し、小粒径の共役ジエン系重合体を製造した。
【0112】
小粒径の共役ジエン系重合体に酢酸1.5重量部を含む水溶液を投入し、肥大化させて、大粒径の共役ジエン系重合体を製造した。
【0113】
<グラフト共重合体の製造>
製造されたグラフト共重合体ラテックスにMgSO2重量部を投入し、凝集を行ったことを除いては、実施例1と同一の方法でグラフト共重合体を製造した。
【0114】
<熱可塑性樹脂組成物の製造>
実施例1と同一の方法で熱可塑性樹脂組成物を製造した。
【0115】
比較例2
共役ジエン系重合体の製造において、重合開始前に乳化剤としてFS300(商品名、製造社:LG生活健康)1.5重量部を一括投入したことを除いては、比較例1と同一の方法で共役ジエン系重合体、グラフト共重合体及び熱可塑性樹脂組成物を製造した。
【0116】
比較例3
共役ジエン系重合体の製造において、重合転換率が27%の時点で乳化剤としてFS300(商品名、製造社:LG生活健康)0.1重量部を一括投入し、15時間重合してから重合を終了したことを除いては、実施例1と同一の方法で共役ジエン系重合体、グラフト共重合体及び熱可塑性樹脂組成物を製造した。
【0117】
比較例4
共役ジエン系重合体の製造において、重合転換率が84%の時点で乳化剤としてFS300(商品名、製造社:LG生活健康)0.1重量部を一括投入し、15時間重合してから重合を終了したことを除いては、実施例1と同一の方法で共役ジエン系重合体、グラフト共重合体及び熱可塑性樹脂組成物を製造した。
【0118】
比較例5
<共役ジエン系重合体の製造>
窒素置換された重合反応器に、イオン交換水90重量部、1,3-ブタジエン35重量部、乳化剤としてFS300(商品名、製造社:LG生活健康)1重量部、電解質として炭酸カリウム(KCO)0.35重量部、分子量調節剤としてt-ドデシルメルカプタン0.1重量部、重合開始剤として過硫酸カリウム0.1重量部を一括投入した。前記反応器を69℃に昇温してから重合を開始した。重合転換率が20%の時点で、前記反応器に1,3-ブタジエン65重量部を一括投入して重合を行った。重合転換率が30%の時点でt-ドデシルメルカプタン0.1重量部を一括投入して重合を行った。重合転換率が60%の時点で乳化剤としてFS300(商品名、製造社:LG生活健康)0.1重量部を一括投入し、15時間重合してから重合を終了し、小粒径の共役ジエン系重合体を製造した。
【0119】
小粒径の共役ジエン系重合体に酢酸0.8重量部を含む水溶液を投入し、肥大化させ、大粒径の共役ジエン系重合体を製造した。
【0120】
<グラフト共重合体の製造>
収得された大粒径の共役ジエン系重合体を用いたことを除いては、実施例1と同一の方法でグラフト共重合体を製造した。
【0121】
<熱可塑性樹脂組成物の製造>
収得されたグラフト共重合体粉末27重量部と、SAN共重合体(商品名:92HR、製造社:LG化学)73重量部を混合し、熱可塑性樹脂組成物を製造した。
【0122】
実験例1
実施例及び比較例の共役ジエン系重合体の物性を下記のような方法で測定し、その結果を下記の表に記載した。
【0123】
(1)重合転換率(%)=共役ジエン系重合体ラテックス2gを150℃の熱風乾燥器内で15分間乾燥した後、重さを測定して全体固形分含量(TSC)を求め、下記式によって重合転換率を算出した。
重合転換率(%)=(最初に投入された単量体の全体含量-未反応単量体の全体含量)/(最初に投入された単量体の全体含量)×100
【0124】
(2)平均粒径(μm):Nicomp 370HPL装備(製品名、製造社:Nicomp)を用いて動的光散乱法で測定した。
【0125】
(3)小粒径の共役ジエン系重合体の重合凝固物(%):重合完了後の反応槽内に生成された重合凝固物及び投入された全体単量体の重量を測定し、下記式によって凝固物含量を算出した。
重合凝固物(%)=(反応器内に生成された重合凝固物の重量/投入された全体単量体の重さ)×100
【0126】
(4)大粒径の共役ジエン系重合体の重合凝固物(%):肥大化完了後の反応槽内に生成された重合凝固物及び投入された全体単量体の重量を測定し、下記式によって凝固物含量を算出した。
重合凝固物(%)=(反応器内に生成された重合凝固物の重量/投入された全体単量体の重量)×100
【0127】
実験例2
実施例及び比較例のグラフト共重合体粉末の物性を下記のような方法で測定し、その結果を下記の表に記載した。
【0128】
(4)バルク密度:100mlの容器(材質:ステンレススチール)をスケールに載せた後0に合わせて、容器にグラフト共重合体粉末を入れ、容器の高さに合わせてグラフト共重合体粉末を平らにすり落とし、その重さを介して密度を測定した。
バルク密度=グラフト共重合体粉末の重量(単位:g)/グラフト共重合体粉末の体積(単位:ml)
【0129】
(5)グラフト共重合体粉末内のマグネシウムの含量(ppm):グラフト共重合体粉末0.1gを硫酸、窒酸、過酸化水素で湿式分解した後、超純水で20gになるように希釈してからICPでMg含量を分析した。
【0130】
実験例3
実施例及び比較例の熱可塑性樹脂組成物を押出してペレットを製造し、ペレットの物性を下記のような方法で測定し、その結果を下記の表に示した。
【0131】
(6)ガス発生量(ppm):HS-GC/MSDを用いて、ペレット1gに対して250℃で1時間発生する揮発性有機化合物(VOC)の全体含量を測定した。
【0132】
実験例4
実験例3で製造したペレットを射出して試料を製造し、試料の物性を下記のような方法で測定し、その結果を下記の表に示した。
【0133】
(7)反射ヘイズ(reflection haze):試料を用いて、標準測定ASTM E430によって17から19°及び21から23°の間の光沢数値を加え、反射ヘイズ(reclection haze)を測定した。
【0134】
【表1】
【0135】
【表2】
【0136】
表を参照すれば、実施例1から実施例7は、小粒径共役ジエン系重合体及び大粒径共役ジエン系重合体の何れも重合凝固物が少なく生成された。これにより、実施例1から実施例7の小粒径共役ジエン系重合体及び大粒径共役ジエン系重合体がラテックス安定性に優れ、重合損失が少なく、別途の重合凝固物除去工程が必要ではないため、製造効率に優れることが確認できる。また、実施例1から実施例7は、グラフト共重合体のバルク密度が0.37以上であるため、凝集特性に優れ、同一重量に対して相対的に体積が大きくないため取り扱いが容易なことを予測できる。また、凝集剤であるMgSOを同量で用いてもグラフト共重合体に残留するマグネシウム含量が少ないため、熱安定性に優れることが確認できる。また、熱可塑性樹脂組成物は、ガス発生量が少なく、反射ヘイズ値が低いため、外観品質に優れることが確認できる。しかし、乳化剤を重合開始前にのみ3重量部投入した比較例1は、グラフト共重合体の製造時に実施例と同量で凝集剤を用いてもグラフト共重合体内に残留するマグネシウム含量が高いことが確認できる。また、熱可塑性樹脂組成物は、ガス発生量及び反射ヘイズが高いため、外観特性が低下することを予測できる。
【0137】
また、乳化剤を重合開始前にのみ1.5重量部投入した比較例2は、小粒径及び大粒径共役ジエン系重合体に重合凝固物が過量生成された。このような結果から、比較例2は、小粒径共役ジエン系重合体及び大粒径共役ジエン系重合体が、ラテックス安定性が低下し、重合損失が多くなり、別途の重合凝固物除去工程を行わなければならないため、製造効率が低下したことが確認できる。また、グラフト共重合体は、バルク密度が低いため凝集特性が低下し、同一重量に対して相対的に体積が大きいため取り扱いが容易ではないことを予測できる。また、凝集剤であるMgSOを同量で用いてもグラフト共重合体に残留するマグネシウム含量が高いため熱安定性が低下し、反射ヘイズが高いため外観品質も低下したことが確認できる。
【0138】
また、乳化剤を重合転換率が27%の時点で2次投入した比較例3は、小粒径共役ジエン系重合体に重合凝固物が過量発生していないが、小粒径共役ジエン系重合体のラテックス安定性に優れた状態ではなかった。これにより、肥大化過程で小粒径共役ジエン系重合体のラテックス安定性が維持されず、大粒径共役ジエン系重合体に重合凝固物が過量発生したため、別途の重合凝固物除去工程が必要となる。また、熱可塑性樹脂組成物は、反射ヘイズが高いため外観品質が低下したことが確認できる。
【0139】
また、乳化剤を重合転換率が84%の時点で2次投入した比較例4は、重合過程で重合安定性が低下する時点で乳化剤が投入されていないため、小粒径共役ジエン系重合体に過量の重合凝固物が発生した。これによって、ラテックス安定性が低下し、重合損失が多くなり、別途の重合凝固物除去工程を行わなければならないため、製造効率が低下したことが確認できる。また、衝撃強度に影響を与える大粒径共役ジエン系重合体の平均粒径が小幅減少したことも確認できる。また、熱可塑性樹脂組成物は、反射ヘイズが高いため外観品質が低下したことが確認できる。
【0140】
また、1,3-ブタジエンを2次投入時に一括投入した比較例5は、小粒径共役ジエン系重合体に重合凝固物が過量生成されたため、ラテックス安定性が低下し、重合損失が増加し、製造効率が低下したことが確認できる。また、小粒径共役ジエン系重合体を肥大化する前に別途の重合凝固物除去工程を行ったにもかかわらず、大粒径共役ジエン系重合体には重合凝固物が過量発生した。また、グラフト共重合体は、バルク密度が低いため凝集特性が低下し、同一重量に対して相対的に体積が大きいため取り扱いが容易ではないことを予測できる。また、熱可塑性樹脂組成物は、反射ヘイズが高いため外観品質が低下したことが確認できる。