(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-05
(45)【発行日】2022-08-16
(54)【発明の名称】固体支持体の製造方法、固体支持体の表面にコーティングを形成する方法、及び固体支持体
(51)【国際特許分類】
C08J 7/04 20200101AFI20220808BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20220808BHJP
B32B 37/14 20060101ALI20220808BHJP
【FI】
C08J7/04 Z
B32B27/00 101
B32B37/14 Z
(21)【出願番号】P 2021502648
(86)(22)【出願日】2020-02-28
(86)【国際出願番号】 JP2020008349
(87)【国際公開番号】W WO2020175678
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2021-06-28
(31)【優先権主張番号】P 2019035623
(32)【優先日】2019-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度 国立研究開発法人 科学技術振興機構 革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)「超薄膜化・強靭化「しなやかなタフポリマー」の実現」委託研究、産業技術強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 耕三
(72)【発明者】
【氏名】前田 利菜
(72)【発明者】
【氏名】上沼 駿太郎
【審査官】河内 浩志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/127656(WO,A1)
【文献】特開2018-127561(JP,A)
【文献】特開2010-132559(JP,A)
【文献】特開2009-286968(JP,A)
【文献】特開2009-204725(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 7/04- 7/06
B32B 1/00- 43/00
A61L17/00- 33/18
C08G65/00- 67/04
C08G81/00- 85/00
C08L 1/00-101/14
C12M 1/00- 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の鎖状ポリマーにより表面修飾された固体支持体の製造方法であって、
第1結合部位を有する固体支持体を提供する工程、
環状分子の開口部を串刺し状に包接し、かつ前記第1結合部位に結合可能な第2結合部位を有する鎖状ポリマーを備えた擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンを複数有してなるシートを提供する工程、及び
前記固体支持体の第1結合部位と前記複数の鎖状ポリマーの第2結合部位とを結合させる工程
を含む固体支持体の製造方法。
【請求項2】
前記複数の鎖状ポリマーにより表面修飾された固体支持体の表面に対する鎖状ポリマーの密度が0.01本/nm
2以上である請求項1に記載の固体支持体の製造方法。
【請求項3】
前記隣接する鎖状ポリマー間の平均距離が0.5~3.5nmである請求項1に記載の固体支持体の製造方法。
【請求項4】
前記結合させる工程の後に、前記鎖状ポリマーが包接する前記環状分子の一部又は全部を除去する工程をさらに含む請求項1~3のいずれか一項に記載の固体支持体の製造方法。
【請求項5】
前記除去する工程の後の擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンに含まれる環状分子の包接率が0~100%である請求項4に記載の固体支持体の製造方法。
【請求項6】
固体支持体の表面上に複数の鎖状ポリマーを用いてコーティングを形成する方法であって、
第1結合部位を有する固体支持体を提供する工程、
環状分子の開口部を串刺し状に包接し、かつ前記第1結合可能な第2結合部位を有する鎖状ポリマーを備えた擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンを複数有してなるシートを固体支持体に適用し、前記固体支持体と前記鎖状ポリマーとを結合させる工程
を含むコーティングを形成する方法。
【請求項7】
複数の鎖状ポリマーにより表面修飾された固体支持体であって、
固体支持体と、
前記固体支持体の表面に結合された複数の鎖状ポリマーと
、
前記複数の鎖状ポリマーの一部又は全部により串刺し状に包接される環状分子とを備え、
固体支持体の表面に対する鎖状ポリマーの密度が0.05本/nm
2以上である固体支持体。
【請求項8】
複数の鎖状ポリマーにより表面修飾された固体支持体であって、
固体支持体と、
前記固体支持体の表面に結合された複数の鎖状ポリマーと
、
前記複数の鎖状ポリマーの一部又は全部により串刺し状に包接される環状分子とを備え、
前記シート中の隣接する鎖状ポリマー間の平均距離が0.5~3.5nmである固体支持体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の鎖状ポリマーにより表面修飾された固体支持体の製造方法、複数の鎖状ポリマーを用いて固体支持体の表面にコーティングを形成する方法、及び複数の鎖状ポリマーにより表面修飾された固体支持体に関する。
【背景技術】
【0002】
固体支持体の表面修飾は、様々な材料の撥水性、防汚性、生体適合性などを劇的に向上させる重要な技術である。通常、表面修飾は、材料の表面に薄いポリマー層を積層する場合が多いが、従来より、材料の表面に高分子鎖を固定することでコーティングするポリマーブラシの技術分野の研究が盛んになされている。
【0003】
ポリマーブラシとは高分子鎖の末端が物理的もしくは化学的に界面に高密度に固定され、隣接する高分子鎖同士の反発により、溶液中の高分子鎖の形態から十分引き伸ばされた系を指す(非特許文献1)。ポリマーブラシの形成により、たんぱく質等の非吸着特性(非特許文献2-4)、低摩擦性(非特許文献5,6)、粒子の分散性向上(非特許文献7,8)等の性質を物質界面に付与できるため、表面修飾の手法としての応用が期待されている。
【0004】
材料表面にポリマーブラシを形成するための表面グラフト法には、物理吸着もしくは固体表面の官能基と高分子鎖末端との反応による化学結合を用いて表面に高分子鎖を固定する方法でgrafting-to法と、固体表面の反応開始点から高分子を重合し、ポリマーブラシを作製する方法でgrafting-from法とがある(非特許文献9)。
【0005】
模式的には、grafting-to法では、材料(100)の表面の官能基(101)と相互作用する官能基(103)を末端に有する高分子(102)を、材料(100)の表面に結合する(
図1(A))。grafting-to法は簡便ではあるが、高分子の立体障害のために高密度のブラシを生やすことは困難であり、表面コーティングの効果も不十分である。
【0006】
grafting-from法では、材料表面に重合開始剤(104)を導入しておき、これを起点としてモノマー(105)を重合させることで高分子(106)を成長させる(
図1(B))。grafting-from法に関しては、以前に福田らは固体表面に触媒を表面に付着させてリビングラジカル重合法で高密度のブラシを合成することを報告している(非特許文献10,11、特許文献1,2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】WO2008/139980
【文献】WO2009/136510
【非特許文献】
【0008】
【文献】Science, 1991, 251, 905-914
【文献】J. Colloid Interf. Sci., 1991, 142, 149-158
【文献】Langmuir, 2005, 21, 1036-1041
【文献】Macromolecules, 1998, 31, 5059-5070
【文献】Soft Matter, 2007, 3, 740-746
【文献】Polymer, 2017, 116, 549-555
【文献】Langmuir, 2001, 17, 4479-4481
【文献】Adv. Colloid Interface Sci., 1974, 4, 193-277
【文献】Prog. Polym. Sci., 2000, 25, 677-710
【文献】Macromolecules, 2000, 33, 15, 5602-5607
【文献】Macromolecules, 2000, 33, 15, 5608-5612
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
grafting-from法は高密度ブラシを作成できるという点で画期的な発明ではあるが、触媒を表面に付着する必要があること、触媒の活性を保ちながらポリマーブラシを合成する必要があること、リビング重合においてポリマーの合成時の原料に極めて高い純度が必要とされること、リビング重合可能な高分子しかブラシとして利用できないことなどから、製造時の制約が多く、実用化はあまり進んでいない。
【0010】
本発明が解決すべき課題は、grafting-to法に基づく高密度の鎖状ポリマーにより表面修飾された固体支持体の製造方法、固体支持体の表面にコーティングを形成する方法、及び高密度の鎖状ポリマーにより表面修飾された固体支持体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく、鎖状ポリマーが高密度に配置されている擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンからなるシートを固体支持体に吸着させると、鎖状ポリマーが高密度に配置された状態で固体支持体に結合することを見出して、本発明を完成するに至った。
【0012】
本発明の一態様によれば、複数の鎖状ポリマーにより表面修飾された固体支持体の製造方法であって、第1結合部位を有する固体支持体を提供する工程、環状分子の開口部を串刺し状に包接し、かつ前記第1結合部位に結合可能な第2結合部位を有する鎖状ポリマーを備えた擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンを複数有してなるシートを提供する工程、及び記固体支持体の第1結合部位と前記複数の鎖状ポリマーの第2結合部位とを結合させる工程を含む固体支持体の製造方法が提供される。
【0013】
本発明の別の態様によれば、固体支持体の表面上に複数の鎖状ポリマーを用いてコーティングを形成する方法であって、第1結合部位を有する固体支持体を提供する工程、環状分子の開口部を串刺し状に包接し、かつ前記第1結合可能な第2結合部位を有する鎖状ポリマーを備えた擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンを複数有してなるシートを固体支持体に適用し、前記固体支持体と前記鎖状ポリマーとを結合させる工程を含むコーティングを形成する方法が提供される。
【0014】
本発明のまた別の態様によれば、複数の鎖状ポリマーにより表面修飾された固体支持体であって、固体支持体と、前記固体支持体の表面に結合された複数の鎖状ポリマーとを備え、固体支持体の表面に対する鎖状ポリマーの密度が0.05本/nm2以上である固体支持体が提供される。
【0015】
本発明のさらに別の態様によれば、複数の鎖状ポリマーにより表面修飾された固体支持体であって、固体支持体と、前記固体支持体の表面に結合された複数の鎖状ポリマーとを備え、前記シート中の隣接する鎖状ポリマー間の平均距離が0.5~3.5nmである固体支持体が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高密度の鎖状ポリマーにより表面修飾された固体支持体の製造方法を提供することができる。
【0017】
また、高密度の鎖状ポリマーにより固体支持体の表面にコーティングを形成する方法が提供される。
【0018】
さらに、高密度の鎖状ポリマーにより表面修飾された固体支持体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】(A)grafting-to法及び(B)grafting-from法を説明する模式図。
【
図2】(A)-(C)複数の鎖状ポリマーにより表面修飾された固体支持体の製造方法を示す模式図。
【
図4】(A)2つの固体支持体、(B)擬ポリロタキサン/ポリロタキサンシートを適用した2つの固体支持体の接着を示す模式図。
【
図5】合成例1の固体支持体を水洗処理した時のナノシートの状態を示す走査型電子顕微鏡(SEM)像。(A)水中への静置前、(B)水中への静置の2分経過後、(C)10分後、(D)30分後、(E)45分後、(F)12時間後さらに流水で洗浄。
【
図6】合成例1、比較例1、及び比較例2のSiO
2基板の接触角を示すグラフ。
【
図7】単離ナノシートのAPTES-Si基板への吸着を示す走査型電子顕微鏡(SEM)像。(A)2秒間浸漬後の基板、(B)10秒間浸漬後の基板、(C)1分間浸漬後の基板、(D)1分間浸漬後のUV/O
3 処理しない基板。
【
図8】COOH-NS水分散液に複数回浸漬させた後のAPTES-Si基板のSEM像。
【
図9】(A)シリコンオイルを載せた、COOH-NSを吸着させたSi基板の写真、(B)振とう後の
図9AのSi基板の写真、(C)シリコンオイルを載せた、コントロールSi基板の写真、(D)振とう後の
図9CのSi基板の写真。
【
図10】(A)NH
2-NSをコーティングしたブルーレイディスク、(B)
図10Aの○―●に沿った断面におけるディスクの表面高さを示すグラフ、(C)ポリスチレン球に付着したNH
2-NS。
【
図11】実施例5の豚皮に対して付着させたNH
2-NSの顕微鏡写真。(A)付着前、(B)付着後。
【
図12】実施例5の髪の毛に対して付着させたNH
2-NSの顕微鏡写真。(A)付着前、(B)付着後。
【
図13】実施例5のコンタクトレンズに対して付着させたNH
2-NSの顕微鏡写真。(A)付着前、(B)付着後。
【
図14】実施例5の豚眼に対して付着させたNH
2-NSの顕微鏡写真。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0021】
本発明の第1実施形態によれば、複数の鎖状ポリマーにより表面修飾された固体支持体の製造方法であって、第1結合部位を有する固体支持体を提供する工程、環状分子の開口部を串刺し状に包接し、かつ前記第1結合部位に結合可能な第2結合部位を有する鎖状ポリマーを備えた擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンを複数有してなるシートを提供する工程、及び固体支持体の第1結合部位と鎖状ポリマーの第2結合部位とを結合させる工程を含む固体支持体の製造方法が提供される。
【0022】
本明細書において、ポリマーとは、単量体であるモノマーに由来する繰り返し構造を有する分子からなる化合物を指す。鎖状ポリマーは一本鎖ポリマーであることが好ましいが、環状分子が鎖状ポリマーの上を移動又は回転可能である場合、鎖状ポリマーは主鎖から分岐を有するポリマーであってもよい。
【0023】
固体支持体は非生物の固体支持体であってもよいし、生物体であってもよい。非生物の固体支持体の例としては、無機材料からなる固体支持体と有機材料からなる固体支持体が挙げられる。無機材料からなる固体支持体としてはガラス、金属、金属酸化物、シリコン、石英、ジルコニア等が挙げられるがこれらに限定されない。有機材料からなる固体支持体の例としては合成樹脂(例えばポリオレフィン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリエステル等)、生体高分子(例えば多糖類、タンパク質、核酸等)等が挙げられるがこれに限定されない。また、生物体である固体支持体の例としては細胞が挙げられる。
【0024】
細胞の例としては、HeLa細胞、HEK293細胞、CHO細胞、COS-1/7細胞、HL60細胞、K562細胞、Jurkat細胞、HepG2細胞、Saos-2細胞、F9細胞、C2C12細胞、PC12細胞、NIH/3T3細胞、U2OS細胞、Vero細胞、MDCK細胞、MEF細胞、U937細胞、C6細胞、Neuro2A細胞、SK-N-MC細胞、SK-N-SH細胞、HUVEC細胞、THP-1細胞、BW5147細胞、Ba/F3細胞、Y-1細胞、H295R細胞、MIN6細胞、NIT-1細胞及びMDA-MB435S細胞、幹細胞、上皮細胞、外分泌上皮細胞、ホルモン分泌細胞、神経細胞、代謝/貯蔵細胞、細胞外マトリックス細胞、バリア機能細胞、収縮性細胞、血液細胞、免疫細胞、肺細胞、ナース細胞、間質細胞等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0025】
固体支持体の形状としては、平板状、フィルム状、チューブ、粒子状、球状等の任意の形状を取ることができる。無機材料からなる固体支持体又は有機材料からなる固体支持体は、基板又は粒子の形を取ることが好ましい。
【0026】
固体支持体が有する第1結合部位は、分子(例えばタンパク質、ペプチド等)、分子の一部(例えば、核酸配列、アミノ酸配列、糖鎖等)、官能基、イオン等であることができるが、それらに限定されない。鎖状ポリマーが有する第2結合部位は、第1結合部位に結合可能な分子(例えばタンパク質、ペプチド等)、分子の一部(例えば、核酸配列、アミノ酸配列、糖鎖等)、官能基、イオン等等であることができるが、それらに限定されない。
【0027】
図2に模式的な例を示すと、複数の鎖状ポリマーにより表面修飾された固体支持体の製造方法の第1工程は、第1結合部位としての第1反応性官能基11を有する固体支持体10を提供する工程であり(
図2A)、第2工程は、環状分子22の開口部を串刺し状に包接し、かつ第1反応性官能基11に反応性の、第2結合部位としての第2反応性官能基25を有する鎖状ポリマー24を備えた擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサン21を複数有してなるシート20を提供する工程であり(
図2A)、第3工程は、固体支持体10の第1結合部位11と鎖状ポリマー24の第2反応性官能基25とを結合させる工程である(
図2B)。
【0028】
第1反応性官能基を有する固体支持体には、市販の固体支持体を含む公知の固体支持体を使用することができ、そのような例としては、シリカ(SiO2)又はシリコン(Si)(反応性官能基:シラノール基(-SiOH))、二酸化チタン(反応性官能基:チタノール基(-TiOH))、クロロメチル化ポリスチレン(反応性官能基:-Phe-CH2-Cl)、ポリエチレンイミン(反応性官能基:-CH2-NH-CH2-)、多糖類(反応性官能基:メチロール基(反応性官能基:-CH2OH)、カルボキシメチルセルロース(反応性官能基:-O-CH2-COOH)が挙げられるがこれらに限定されない。代わりに、固体支持体の表面に公知の表面修飾剤を施して、第1反応性官能基を設けてもよい。第1反応性官能基としては、ヒドロキシ基(-OH)、カルボキシ基(-COOH)、アミノ基(すなわちアンモニア、第一級アミン又は第二級アミンから水素を除去した1価の官能基)、クロロ基(-Cl)、ブロモ基(-Br)等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0029】
上記第2工程で提供されるシートは、環状分子の開口部を串刺し状に包接し、かつ第1反応性官能基に反応性の第2反応性官能基を有する鎖状ポリマーを備えた擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサン21を複数有するシート(以下、擬ポリロタキサン/ポリロタキサンシートと称する場合がある)である。
【0030】
シートが擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンを複数有するとは、擬ポリロタキサンを複数有するか、ポリロタキサンを複数有するか、擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンを少なくとも一つずつ有することを指す。
【0031】
以下、擬ポリロタキサン/ポリロタキサンシートの構成について説明する。
【0032】
本明細書において、「ポリロタキサン」とは、環状分子と、環状分子の開口部を串刺し状に包接する鎖状ポリマーとからなる分子集合体であって、鎖状ポリマーの両末端に環状分子が鎖状ポリマーから脱離するのを防止する封鎖基を有する分子集合体を指す。「擬ポリロタキサン」とは、環状分子と、環状分子の開口部を串刺し状に包接する鎖状ポリマーとからなる分子集合体であって、鎖状ポリマーの一方の末端だけに上記封鎖基を有するか、又は鎖状ポリマーのいずれの末端にも上記封鎖基を有しない分子集合体を指す。
【0033】
封鎖基としてジニトロフェニル基、シクロデキストリン、アダマンタン基、トリチル基、フルオレセイン、ピレン等が挙げられるがこれらに限定されない。封鎖基を鎖状ポリマーに導入する方法は公知であり、例えばHarada et al., Nature, 1992, 356, 325-327の記載の方法を参照することができる。
【0034】
上記擬ポリロタキサン/ポリロタキサンシートは、好ましくは単離シートである。本明細書において、「単離シート」の「単離」とは、溶液中で集合せずに単独に存在することが可能であることを意味する。なお、単離シートは、第1の環状分子の開口部が鎖状ポリマーによって串刺し状に包接されてなる擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンを複数有して成るシートが単独、即ち単層から成ってもいても、該シートが複数層から成っていてもよい。
【0035】
単離シート形成の確認は、小角X線散乱測定、位相差光学顕微鏡観察、原子間力顕微鏡観察、走査型電子顕微鏡観察により行うことができる。特に、小角X線散乱測定により、形状因子によりシート状であること、具体的には形状因子がシート構造に特徴的なフリンジを示し、低角側に凝集による散乱強度の増大が見られなかったときに単離シートである、と確認することができる(例えば、X線・光・中性子散乱の原理と応用(KS化学専門書)を参照のこと)。
【0036】
また、単離シートは好ましくは単離ナノシートである。本明細書において、「単離ナノシート」の「ナノ」とは、シートの厚みが100nm以下、具体的には0.5~100nm、好ましくは3~50nm、より好ましくは5~20nmであることをいう。なお、単離ナノシートが複層からなる場合には構成する単層のナノシートの厚さが100nm以下、具体的には0.5~100nm、好ましくは3~50nm、より好ましくは5~20nmであることをいう。
【0037】
本願の単離ナノシートにおいて、単層からなるナノシートの厚さ方向は、擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンの長手方向、換言すると、鎖状ポリマーの長手方向であるのがよい。擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンの長手方向、鎖状ポリマーの長手方向が、本願の単層からなる単離ナノシートの厚さ方向であるのがよい。
【0038】
なお、本願において、単離ナノシートの「単層」とは、小角X線散乱測定などによる見かけ上、一つの層からなることを意味する。
【0039】
擬ポリロタキサン/ポリロタキサンシートの厚さ方向は、擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンの長手方向、言い換えると鎖状ポリマーの長手方向に等しいことが好ましい。
【0040】
鎖状ポリマー及び環状分子は、環状分子の開口部を鎖状ポリマーが串刺し状に包接する形態をとり得る限り、特に限定されない。
【0041】
理論に束縛されることを望まないが、
図2Aに示される擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサン21において、その中央部分に存在する複数の環状分子22は棒状に凝集し、カラム化して疎水性になる。このため、複数の擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサン21が、疎水性のカラム化した環状分子22を介して互いに自己組織的に集合し、平面構造であるシート20を形成すると考えられる。このとき、一つの鎖状ポリマー24に対して複数の環状分子22が凝集しているため、鎖状ポリマー24は略直線状に引き伸ばされており、鎖状ポリマー24上に環状分子22が存在しない場合に比べて鎖状ポリマー24間の立体障害が少ない。このため、シート20内で鎖状ポリマー24はより高密度に並ぶことができる。
【0042】
鎖状ポリマーは、モノマーに由来する繰り返し構造を有し、かかる繰り返し構造を形成する骨格として、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ(メタ)アクリル酸;セルロース;カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等の改変セルロース;ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラヒドロフラン、ポリビニルアセタール、ポリビニルメチルエーテル、ポリアミン、ポリエチレンイミン、カゼイン、ゼラチン、でんぷん;ポリエチレン及びポリプロピレン等のポリオレフィン、エチレン又はプロピレン等のオレフィンとその他のオレフィンとの共重合体、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、アクリロニトリル-スチレン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、ポリメチルメタクリレート、(メタ)アクリル酸エステル共重合体、アクリルニトリル-メチルアクリレート共重合体、ポリカーボネート、ポリウレタン、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、ポリビニルブチラール、ポリイソブチレン、ポリアニリン、ナイロン等のポリアミド、ポリイミド;ポリイソプレン、ポリブタジエン等のポリジエン;ポリシロキサン、ポリスルホン、ポリイミン、ポリ無水酢酸、ポリ尿素、ポリスルフィド、ポリフォスファゼン、ポリケトン、ポリフェニレン、並びにこれらの誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種であることができる。ポリマーブラシ中の鎖状ポリマーは、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0043】
環状分子との相互作用の点で、鎖状ポリマーの繰り返し構造は、例えばポリエチレングリコール、ポリイソプレン、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、ポリプロピレングリコール、ポリテトラヒドロフラン、ポリジメチルシロキサン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール、及びポリビニルメチルエーテルからなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、ポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコールからなる群から選ばれる少なくとも1種であることがより好ましい。
【0044】
鎖状ポリマーの重量平均分子量は500~500000であることが好ましく、1000~50000であることが好ましく、2000~16000であることがさらに好ましい。鎖状ポリマーの重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)で測定することができる。
【0045】
鎖状ポリマーは水溶性であることが好ましい。水溶性の点で、鎖状ポリマーはポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリエチレンイミン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリルアミド、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース誘導体、及びポリビニルピロリドンからなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、ポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコールからなる群から選ばれる少なくとも1種であることがより好ましい。
【0046】
水溶性の鎖状ポリマーの重量平均分子量は500~500000であることが好ましく、1000~50000であることが好ましく、2000~16000であることがさらに好ましい。
【0047】
鎖状ポリマーは1種類のモノマーの重合により形成された部位を有するか、かかる部位のみからなるポリマーでもよいし、2種類のモノマーの重合により形成されたコポリマーを有するか、かかるコポリマーの部位のみからなるポリマーでもよいし、3種類のモノマーの重合により形成されたターポリマーを有するか、かかるターポリマーの部位のみからなるポリマーでもよい。これらの部位の例としては繰り返し構造を形成する骨格として上述した例が挙げられる。特に、これらの部位の例として、ポリエチレングリコール、ポリイソプレン、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、ポリプロピレングリコール、ポリテトラヒドロフラン、ポリジメチルシロキサン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール、及びポリビニルメチルエーテルからなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられるが、これらに限定されない。
【0048】
鎖状ポリマーは、2つのブロックを備えるブロックコポリマーとすることができる。また、鎖状ポリマーは、3つのブロックを備えるブロックコポリマーとすることができる。
【0049】
鎖状ポリマーの好ましい例としては、ポリプロピレングリコール(PPG)からなる単一ブロックのポリマー、ポリエチレングリコール(PEG)からなるブロックと、ポリプロピレングリコール(PPG)からなるブロックと、ポリエチレングリコール(PEG)からなるブロックとをこの順に有するトリブロックコポリマー等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0050】
ブロックポリマーの各ブロックは、1つのモノマー由来の繰り返し単位のみからなることが好ましいが、ある繰り返しと単位と次の繰り返し単位との間に第1のスペーサ基を有してもよい。また、隣接するブロック間に、第1のスペーサ基と同じであっても異なっていてもよい第2のスペーサ基を有していてもよい。
【0051】
第1及び/又は第2のスペーサ基としては、例えば炭素数1~20の直鎖又は分岐鎖のアルキル基、炭素数1~20の直鎖又は分岐鎖のエーテル基、炭素数1~20の直鎖又は分岐鎖のエーテル、炭素数1~20の直鎖又は分岐鎖のエステル、炭素数6~24の芳香族基、例えばフェニル基等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0052】
環状分子は、環状分子の開口部が鎖状ポリマーに貫通された状態で保持されていれば、鎖状ポリマーのどの部位に包接されていてもよく、1種類のモノマーの重合により形成された鎖状ポリマーに包接されてもよいし、ブロックコポリマーの2つの部位のうちの1つの部位に包接されてもよいし、ブロックコポリマーの3つの部位のうちの1つの部位、特に3つの部位のうちの中間の部位に包接されてもよい。
【0053】
鎖状ポリマーがブロックコポリマーである場合、環状分子が鎖状ポリマーを包接する部位は、その鎖長が環状分子の厚さよりも長いことが好ましい。ここで、環状分子の厚さとは、
図3に模式的に示すと、環状分子22の厚さとは、環状分子22の中心軸Axに沿った厚さTを指す。符号23は環状分子22の開口部を示す。環状分子が鎖状ポリマーを包接する部位は、1種類のモノマーの重合体からなる部位、ブロックコポリマーの2部位のうちの1つの部位、ブロックコポリマーの3つの部位のうちの1つの部位である。
【0054】
擬ポリロタキサン/ポリロタキサンシートを構成する鎖状ポリマーのうちの一部又は全部は、固体支持体の第1反応性官能基に反応性の第2反応性官能基を有する。
【0055】
第2反応性官能基は、擬ポリロタキサン/ポリロタキサンシートの作製条件下で水又は水溶液中で電離する電離基であってもよいし、擬ポリロタキサン/ポリロタキサンシートの作製条件下で水又は水溶液中で電離しない非電離基であってもよい。
【0056】
鎖状ポリマーは、好ましくは少なくとも一方の末端又はその近傍に第2反応性官能基を有し、より好ましくは少なくとも一方の末端に第2反応性官能基を有し、さらに好ましくはその両端又はその近傍に第2反応性官能基を有し、最も好ましくはその両端に第2反応性官能基を有する。
【0057】
一つの鎖状ポリマーが2つの第2反応性官能基を有する場合、第2反応性官能基は同じであっても異なっていてもよい。第2反応性官能基は上記の封鎖基であってもよい。
【0058】
第2反応性官能基は、鎖状ポリマーのモノマー由来の繰り返し単位の部位に直接結合されてもよいし、スペーサを介して間接的に結合されてもよい。
【0059】
第2反応性官能基の例としては、カルボキシル基、アミノ基、スルホ基、リン酸基、塩化トリメチルアミノ基、塩化トリエチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、メチルアミノ基、エチルアミノ基、ピロリジン基、ピロール基、エチレンイミン基、ピぺリジン基、ピリジン基、ピリリウムイオン基、チオピリリウムイオン基、ヘキサメチレンイミン基、アザトロピリレン基、イミダゾール基、ピラゾール基、オキサゾール基、チアゾール基、イミダゾリン基、モルホリン基、チアジン基、トリアゾール基、テトラゾール基、ピリダジン基、ピリミジン基、ピラジン基、インドール基、ベンゾイミダゾール基、プリン基、ベンゾトリアゾール基、キノリン基、キナゾリン基、キノキサリン基、プテリジン基、カルバゾール基、ポルフィリン基、クロリン基、コリン基、アデニン基、グアニン基、シトシン基、チミン基、ウラシル基、チオール基、ヒドロキシ基、アジ基、ピリジン基、カルバミン酸、グアニジン、スルフェン、尿素、チオ尿素、過酸、イソプロピル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ネオペンチル基、イソペンチル基、sec-ペンチル基、3-ペンチル基、tert-ペンチル基、シクロペンチル基、ペンテン基、ヘキシル基、ヘキセン基、ヘプチル基、ヘプテン基、オクチル基、オクテン基、ノニル基、ノネン基、デシル基、デセン基、ウンデシル基、ウンデセン基、ドデシル基、ドデセン基、トリデシル基、トリデセン基、テトラデシル基、テトラデセン基、ペンタデシル基、ペンタデセン基、ヘキサデシル基、ヘキサデセン基、ヘプタデシル基、ヘプタデセン基、オクタデシル基、オクタデセン基、ノナデシル基、ノナデセン基、エイコシル基、エイコセン基、テトラコシル基、テトラコセン基、トリアコンチル基、トリアコンテン基、及びそれらの異性体;4-tert-ブチルベンゼンスルホニル基、2-メシチレンスルホニル基、メタンスルホニル基、2-ニトロベンゼンスルホニル基、4-ニトロベンゼンスルホニル基、ペンタフルオロベンゼンスルホニル基、2,4,6-トリイソプロピルベンゼンスルホニル基、p-トルエンスルホニル基、ヘプタフルオロブチロイル基、ピバロイル基、パーフルオロベンゾイル基、イソバレリル基、これらの誘導体、及びこれらの類似体から成る群から選ばれる少なくとも1種が挙げられるがこれらに限定されない。
【0060】
電離基の例としては、カルボキシル基(電離すると-COO-になる)、アミノ基(電離すると-NH3+になる)、スルホ基、リン酸基、塩化トリメチルアミノ基、塩化トリエチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、メチルアミノ基、エチルアミノ基、ピロリジン基、ピロール基、エチレンイミン基、ピぺリジン基、ピリジン基、ピリリウムイオン基、チオピリリウムイオン基、ヘキサメチレンイミン基、アザトロピリレン基、イミダゾール基、ピラゾール基、オキサゾール基、チアゾール基、イミダゾリン基、モルホリン基、チアジン基、トリアゾール基、テトラゾール基、ピリダジン基、ピリミジン基、ピラジン基、インドール基、ベンゾイミダゾール基、プリン基、ベンゾトリアゾール基、キノリン基、キナゾリン基、キノキサリン基、プテリジン基、カルバゾール基、ポルフィリン基、クロリン基、コリン基、アデニン基、グアニン基、シトシン基、チミン基、ウラシル基、解離したチオール基、解離したヒドロキシ基、アジ基、ピリジン基、カルバミン酸、グアニジン、スルフェン、尿素、チオ尿素、過酸、これらの誘導体、及びこれらの類似体から成る群から選ばれる少なくとも1種が挙げられるがこれらに限定されない。
【0061】
電離基は好ましくはカルボキシル基、アミノ基、スルホ基、リン酸基、塩化トリメチルアミノ基、及びジメチルアミノ基から成る群から選ばれる少なくとも1種であり、より好ましくはカルボキシル基、アミノ基、塩化トリメチルアミノ基、及びジメチルアミノ基から成る群から選ばれる少なくとも1種である。
【0062】
第2反応性官能基が電離基の場合、擬ポリロタキサン/ポリロタキサンシート同士が付着又は凝集しにくくなるため、単離擬ポリロタキサン/ポリロタキサンシートを作製し易くなり有利である。
【0063】
非電離基の例としては、イソプロピル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ネオペンチル基、イソペンチル基、sec-ペンチル基、3-ペンチル基、tert-ペンチル基、シクロペンチル基、ペンテン基、ヘキシル基、ヘキセン基、ヘプチル基、ヘプテン基、オクチル基、オクテン基、ノニル基、ノネン基、デシル基、デセン基、ウンデシル基、ウンデセン基、ドデシル基、ドデセン基、トリデシル基、トリデセン基、テトラデシル基、テトラデセン基、ペンタデシル基、ペンタデセン基、ヘキサデシル基、ヘキサデセン基、ヘプタデシル基、ヘプタデセン基、オクタデシル基、オクタデセン基、ノナデシル基、ノナデセン基、エイコシル基、エイコセン基、テトラコシル基、テトラコセン基、トリアコンチル基、トリアコンテン基、及びそれらの異性体;4-tert-ブチルベンゼンスルホニル基、2-メシチレンスルホニル基、メタンスルホニル基、2-ニトロベンゼンスルホニル基、4-ニトロベンゼンスルホニル基、ペンタフルオロベンゼンスルホニル基、2,4,6-トリイソプロピルベンゼンスルホニル基、p-トルエンスルホニル基、電離していないヒドロキシ基、ヘプタフルオロブチロイル基、ピバロイル基、パーフルオロベンゾイル基、電離していないアミノ基(-NH2)、電離していないカルボキシル基(-COOH)、及びイソバレリル基から成る群から選ばれる少なくとも1種が挙げられるがこれらに限定されない。
【0064】
非電離基は好ましくは電離していないヒドロキシ基、ヘプタフルオロブチロイル基、パーフルオロベンゾイル基、及びイソバレリル基から成る群から選ばれる少なくとも1種であり、より好ましくはパーフルオロベンゾイル基及びイソバレリル基から成る群から選ばれる少なくとも1種である。
【0065】
第2反応性官能基が非電離基の場合、鎖状ポリマーの末端が外へ露出して運動するため擬ポリロタキサン/ポリロタキサンシート同士の凝集が防止されると考えられる。
【0066】
環状分子としては、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン、クラウンエーテル、ピラーアレン、カリックスアレン、シクロファン、ククルビットウリル、及びこれらの誘導体等が挙げられるが、これらに限定されない。ポリマーブラシ中の環状分子は、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。誘導体としてはメチル化α-シクロデキストリン、メチル化β-シクロデキストリン、メチル化γ-シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル化α-シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル化β-シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル化γ-シクロデキストリン等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0067】
本明細書において、擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンに含まれる環状分子の割合を包接率という。
【0068】
規定包接率とは、擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンに含まれる鎖状ポリマー及び環状分子から算術的に規定される包接率を指し、具体的には鎖状ポリマーと環状分子の厚みから規定される。
【0069】
規定包接率の計算方法を、鎖状ポリマーとしてポリエチレングリコールを用い、環状分子としてα-シクロデキストリンを使用した場合で説明する。
【0070】
ポリエチレングリコールの繰り返し単位2つ分がα-シクロデキストリンの厚さと同じであることが分子モデル計算から知られている。従って、α-シクロデキストリンのモルと、ポリエチレングリコールの繰り返し単位との比を1:2にしたときの規定包接率を100%とする。
【0071】
擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンに含まれる環状分子の割合である包接率は、得られたシートの分散液の小角X線散乱(SAXS)測定により求めることができる。
【0072】
擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンの包接率は、規定包接率を100%とするとき、1~100%であることが好ましく、5~100%であることがより好ましく、10~100%であることがさらに好ましく、20~100%であることが最も好ましい。
【0073】
擬ポリロタキサン/ポリロタキサンシートは、本願発明に使用するためのシートを形成できる限り、擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサン以外の成分、すなわち上記環状分子及び該環状分子の開口部を串刺し状に包接する上記鎖状ポリマー以外の成分を有してもよい。そのような成分としては、蛍光物質、発色物質、薬剤、環状分子と包接しない高分子等が挙げられる。かかる成分は、鎖状シートに結合されるか、環状分子に結合されるか、又は擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンの間の空間に保持される。
【0074】
擬ポリロタキサン/ポリロタキサンシートは、シクロデキストリンのカラムの疎水相互作用により、シート構造を形成していると考えられる。この際、シート内では
図2Aに示すように鎖状ポリマー24が高密度に凝集している。また、擬ポリロタキサン/ポリロタキサンシートを基板等の固体支持体表面に吸着させると、シートが固体支持体表面に一層だけびっしりと吸着するという性質がある。この性質を利用して、固体支持体上に高密度ポリマーブラシを形成する。
【0075】
擬ポリロタキサン/ポリロタキサンシート中の隣接する鎖状ポリマー間の平均距離が短いほど、固体支持体上に高密度なポリマーブラシを形成することができる。擬ポリロタキサン/ポリロタキサンシート中の隣接する鎖状ポリマー間の平均距離は、特に限定されないが、例えば0.5~3.5nmである。この距離は環状分子の種類によって変わり得、環状分子としてα-シクロデキストリンを用いた場合、隣接する鎖状ポリマー間の平均距離は1~2nmであることが好ましく、β-シクロデキストリンを用いた場合、隣接する鎖状ポリマー間の平均距離は1.5~2.5nmであることが好ましく、γ-シクロデキストリンを用いた場合、隣接する鎖状ポリマー間の平均距離は2.5~3.5nmであることが好ましく、クラウンエーテルを用いた場合、隣接する鎖状ポリマー間の平均距離は0.5~3.5nmであることが好ましく、ピラーアレンを用いた場合、隣接する鎖状ポリマー間の平均距離は0.5~3.5nmであることが好ましく、カリックスアレンを用いた場合、隣接する鎖状ポリマー間の平均距離は0.5~3.5nmであることが好ましく、シクロファンを用いた場合、隣接する鎖状ポリマー間の平均距離は0.5~3.5nmであることが好ましく、ククルビットウリルを用いた場合、隣接する鎖状ポリマー間の平均距離は0.5~3.5nmであることが好ましい。
【0076】
鎖状ポリマー間の平均距離は、十分な数、通常10以上の鎖状ポリマー間の距離の平均を求めることにより測定可能であり、鎖状ポリマー間の距離は斜入射広角X線回折(GIWAXD)法により測定可能である。
【0077】
本発明に使用される擬ポリロタキサン/ポリロタキサンシートは、シクロデキストリンやポリエチレングリコールなど生体安全性や生体適合性の高い分子から構成できるため、生体内で利用するのに適している。
【0078】
本発明に使用される擬ポリロタキサン/ポリロタキサンシート及びかかる擬ポリロタキサン/ポリロタキサンシートと固体支持体とを結合させて得られる本発明の固体支持体は、例えば、ドラッグデリバリ用材料(例えば、ドラッグデリバリのビヒクル)、生体イメージング、表面改質剤、接着剤、創傷部位癒着防止剤、ヘアケア材、コーティング材料(例えば防汚性コーティング)、マウスウォッシュなどの口腔ケア材料、サプリメント用基剤、細胞や藻類などの凝集制御材料、酸素バリア性材料、保湿剤、紫外線防御性材料、臭気防止材料等として用いることができるが、これらに限定されない。
【0079】
次に擬ポリロタキサン/ポリロタキサンシートの製造方法について説明する。
【0080】
擬ポリロタキサン/ポリロタキサンシートの第1の製造方法は、(I)第2反応性官能基を有する鎖状ポリマーを準備する工程、(II)環状分子を準備する工程、及び(III)鎖状ポリマーと環状分子とを水又は水溶液中で混合させる工程を含み、これにより環状分子の開口部を串刺し状に包接し、かつ第2反応性官能基を有する鎖状ポリマーを備えた擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンを複数有してなるシートを得ることができる。
【0081】
「鎖状ポリマー」、「環状分子」、「第2反応性官能基」は上述した通りである。
【0082】
工程(I)に関し、鎖状ポリマーは市販品を用いてもよいし、合成してもよい。鎖状ポリマーは例えばHillmyer, M.A. et al., Macromolecules 1996, 29(22), 6994-7002; Ding, J. F. et al., Eur Polym J 1991, 27(9), 901-905; Allgaier, J. et al., Macromolecules 2007, 40(3), 518-525; Malik, M. I. et al., Eur Polym J 2009, 45(3), 899-910;等に記載の方法により製造することができる。
【0083】
第2反応性官能基である電離基又は非電離基は公知の方法により鎖状ポリマーに導入することができる。電離基の導入の非限定的な例としては、次亜塩素酸と、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン 1-オキシルを用いた酸化反応によりカルボン酸を導入することができる。1'-カルボニルジイミダゾールとエチレンジアミンを用いたカップリング反応によりアミノ基を導入することができる。1,3-プロパンスルトンを鎖状ポリマーに反応させることによりスルホ基を導入することができる。非電離基の導入の非限定的な例としては、DMT/MM(4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリド)、DCC(N,N'-ジシクロヘキシルカルボジイミド)、EDC(1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド)、BOP(ベンゾトリアゾール-1-イルオキシ-トリスジメチルアミノホスホニウム塩)、PyBOP((ベンゾトリアゾール-1-イルオキシ)トリピロリジノホスホニウムヘキサフルオロホスファート)、HATU(0-(7-ジベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N',N'-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスファート)等の縮合剤を用いたエステル化、アミド化等の縮合反応、求核置換反応、付加反応等が挙げられる。
【0084】
工程(II)に関し、環状分子は市販品を用いてもよいし、合成してもよい。誘導体を調製する場合、例えばKhan, A. R. et al. Chem Rev 1998, 98(5), 1977-1996等に記載の方法により調製することができる。
【0085】
工程(III)に関し、水又は水溶液は、鎖状ポリマー及び環状分子の少なくともいずれか一方が溶解する溶媒であれば特に限定されない。水の例としては純水が挙げられる。水溶液の例としてはアルコール水溶液、酸水溶液、アルカリ水溶液、緩衝液、培養液、血漿等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0086】
工程(I)及び工程(II)はそれぞれ工程(III)の前とし、工程(I)と工程(II)は別々に行い、いずれを先に行ってもよい。
【0087】
混合時の水又は水溶液の温度は限定されないが、例えば0~100℃であり、好ましくは5~45℃であり、より好ましくは15~30℃である。鎖状ポリマーと環状分子との混合時間は限定されないが、例えば1分以上であり、好ましくは24時間以上である。
【0088】
以上の工程(I)~(III)により擬ポリロタキサン/ポリロタキサンシートを得ることができる。
【0089】
なお、上記製造方法は、工程(I)又は工程(II)において、もしくは工程(III)の後で、擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサン以外の成分(蛍光物質、発色物質、薬剤、環状分子と包接しない高分子等)を擬ポリロタキサン/ポリロタキサンシートに導入するための工程をさらに含んでいてもよい。かかる成分は、鎖状シートに結合されるか、環状分子に結合されるか、又は擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンの間の空間に保持される。
【0090】
代わりに、擬ポリロタキサン/ポリロタキサンシートの第2の製造方法は、(I)鎖状ポリマーを準備する工程、(II)環状分子を準備する工程、及び(III)鎖状ポリマーと環状分子とを水又は水溶液中で混合させて、擬ポリロタキサン/ポリロタキサンを得る工程、(IV)鎖状ポリマーの少なくとも一方の末端又はその近傍に第2反応性官能基を導入する工程、(V)(IV)で得られた擬ポリロタキサン/ポリロタキサンを混合する工程を含み、これにより環状分子の開口部を串刺し状に包接し、かつ第2反応性官能基を有する鎖状ポリマーを備えた擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンを複数有してなるシートを得ることができる。
【0091】
工程(I)及び工程(II)は上記第1の製造方法の工程(I)及び工程(II)でそれぞれ説明した通りである。
【0092】
工程(III)において、混合時の水又は水溶液の温度は限定されないが、例えば0~100℃であり、好ましくは5~45℃であり、より好ましくは15~30℃である。鎖状ポリマーと環状分子との混合時間は限定されないが、例えば1分以上であり、好ましくは24時間以上である。
【0093】
工程(IV)の鎖状ポリマーへの第2反応性官能基の導入は、第1の製造方法の工程(I)に関して説明した通りである。
【0094】
工程(V)は上記第1の製造方法の工程(III)と同様である。混合時の水又は水溶液の温度は限定されないが、例えば0~100℃であり、好ましくは5~45℃であり、より好ましくは15~30℃である。鎖状ポリマーと環状分子との混合時間は限定されないが、例えば1分以上であり、好ましくは24時間以上である。
【0095】
以上の工程(I)~(V)により擬ポリロタキサン/ポリロタキサンシートを得ることができる。
【0096】
なお、上記製造方法は、工程(I)又は工程(II)において、もしくは工程(V)の後で、擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサン以外の成分(蛍光物質、発色物質、薬剤、環状分子と包接しない高分子等)を擬ポリロタキサン/ポリロタキサンシートに導入するための工程をさらに含んでいてもよい。かかる成分は、鎖状シートに結合されるか、環状分子に結合されるか、又は擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンの間の空間に保持される。
【0097】
上記第1の製造方法の工程(III)の混合工程又は第2の製造方法の工程(V)の混合工程により、擬ポリロタキサン/ポリロタキサンシートは自己組織的に形成することができる。
【0098】
なお、
図2A-Bの例では、擬ポリロタキサン/ポリロタキサンシート20を形成した後、擬ポリロタキサン/ポリロタキサンシート20上の第2反応性官能基25と固体支持体10上の第1反応性官能基11を介して、そのまま未修飾で固体支持体10と結合させているが、擬ポリロタキサン/ポリロタキサンシート20の固体支持体11との結合力を制御するために、擬ポリロタキサン/ポリロタキサンシート20の形成後に、鎖状ポリマー24の末端又はその近傍をさらに修飾することもできる。この場合、鎖状ポリマーの末端又はその近傍を、固体支持体10の第1結合部位に結合可能な第2結合部位を備えるように、第2反応性官能基とは異なる第2結合部位を有するように修飾し、擬ポリロタキサン/ポリロタキサンシート20上の第2結合部位と固体支持体10上の第1結合部位である第1反応性官能基とを介して結合させることができる。なお、鎖状ポリマーの近傍とは、通常、鎖状ポリマーの末端を除き、鎖状ポリマーの末端から1~10個のモノマー単位、より好ましくは1~5個のモノマー単位の範囲を指す。
【0099】
このような第1結合部位と第2結合部位の組み合わせには、分子認識する公知の分子(例えばタンパク質、ペプチド等)、分子の一部(例えば、核酸配列、アミノ酸配列、糖鎖等)、官能基、イオン等を挙げることができる。
【0100】
第2結合部位が官能基の場合、第2反応性官能基として上記に列挙した反応性官能基のいずれかであって、擬ポリロタキサン/ポリロタキサンシートを形成したときに鎖状ポリマーが有していた第2反応性官能基とは異なる反応性官能基であってもよい。
【0101】
第1結合部位と第2結合部位の組み合わせとしては、例えばマルトースとマルトース結合タンパク質、グアニンヌクレオチドとGタンパク質、ニッケルあるいはコバルト等の金属イオンとポリヒスチジン、グルタチオンとグルタチオン-S-トランスフェラーゼ、DNAとDNA結合タンパク質、抗原分子(エピトープ)と抗体、カルモジュリン結合ペプチドとカルモジュリン、ATPとATP結合タンパク質、各種リガンドとその受容体タンパク質等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0102】
固体支持体及び擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンシートを提供した後、結合反応は、固体支持体に、擬ポリロタキサン/ポリロタキサンシートを含む水又は水溶液を適用し、固体支持体の第1結合部位と鎖状ポリマーの第2結合部位とを結合させる。当該適用としては、浸漬、吹き付け、塗布等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0103】
第1結合部位及び第2結合部位について上述した通りであり、第1結合部位(又は第1反応性官能基)及び第2結合部位(又は第2反応性官能基)の結合様式は特に限定されないが、固体支持体に擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンシートを取り付けることができれば特に限定されず、そのような第1結合部位及び第2結合部位の結合の例としては、共有結合、イオン結合、配位結合、水素結合等が挙げられる。共有結合の例としては、アミド結合、エステル結合、チオ尿素結合、チオエーテル結合、エーテル結合、イミン結合、ジスルフィド結合、疎水性相互作用、ファンデルワールス力等が挙げられるが、これらに限定されない。結合の強度の点からは共有結合が好ましく、この場合、加熱による脱水縮合等により結合を促進することができるが、固体支持体が細胞や生体高分子である場合は、細胞が生存したり、生体高分子の活性を損なわない穏やかな条件で、共有結合以外に、イオン結合、配位結合、水素結合、疎水性相互作用、ファンデルワールス力等で結合させることが好ましい。
【0104】
第1結合部位(又は第1反応性官能基)及び第2結合部位(又は第2反応性官能基)の結合により、複数の鎖状ポリマーにより高密度に表面修飾された固体支持体を得ることができる。鎖状ポリマーの構造については擬ポリロタキサン/ポリロタキサンシートの構成の箇所で説明した通りである。
【0105】
上記複数の鎖状ポリマーにより表面修飾された固体支持体の表面に対する鎖状ポリマーの密度は特に限定されないが、0.01本/nm2以上であることが好ましく、0.05本/nm2以上であることがより好ましく、0.1本/nm2以上であることがより好ましく、0.2本/nm2以上であることがより好ましい。
【0106】
本発明において、「密度」とは、固体支持体表面の単位面積(nm2)当たりに存在する鎖状ポリマーの本数を意味する。この場合、計数される鎖状ポリマーには、固体支持体表面に結合している鎖状ポリマーと、存在する場合には、固体支持体表面に結合してはいないが環状分子の分子間相互作用により固体支持体表面に結合している鎖状ポリマーと共に自己凝集している鎖状ポリマーとが含まれる。鎖状ポリマーの密度は、斜入射広角X線回折(GIWAXD)を用いた構造解析、原子間力顕微鏡を用いた測定、又は中性子反射率や水晶振動子マイクロバランス法、表面プラズモン法などを用いた平均的な表面吸着量の測定等から算出される。
【0107】
また、上記複数の鎖状ポリマーにより表面修飾された固体支持体上の隣接する鎖状ポリマー間の平均距離は特に限定されないが、例えば0.5~3.5nmである。この距離は環状分子によって変わり得、環状分子としてα-シクロデキストリンを用いた場合、隣接する鎖状ポリマー間の平均距離は1~2nmであることが好ましく、β-シクロデキストリンを用いた場合、隣接する鎖状ポリマー間の平均距離は1.5~2.5nmであることが好ましく、γ-シクロデキストリンを用いた場合、隣接する鎖状ポリマー間の平均距離は2.5~3.5nmであることが好ましく、クラウンエーテルを用いた場合、隣接する鎖状ポリマー間の平均距離は0.5~3.5nmであることが好ましく、ピラーアレンを用いた場合、隣接する鎖状ポリマー間の平均距離は0.5~3.5nmであることが好ましく、カリックスアレンを用いた場合、隣接する鎖状ポリマー間の平均距離は0.5~3.5nmであることが好ましく、シクロファンを用いた場合、隣接する鎖状ポリマー間の平均距離は0.5~3.5nmであることが好ましく、ククルビットウリルを用いた場合、隣接する鎖状ポリマー間の平均距離は0.5~3.5nmであることが好ましい。
【0108】
固体支持体上の隣接する鎖状ポリマー間の平均距離は、擬ポリロタキサン/ポリロタキサンシート中の隣接する鎖状ポリマー間の平均距離と同様に斜入射広角X線回折(GIWAXD)法により測定可能である。
【0109】
上記複数の鎖状ポリマーにより表面修飾された固体支持体上の鎖状ポリマーの全長は特に限定されないが、5~200nmであることが好ましく、15~130nmであることがより好ましい。鎖状ポリマーの鎖長はゲル浸透クロマトグラフィ(GC)により測定することができる。
【0110】
本発明の第1実施形態の製造方法は、固体支持体の第1結合部位と鎖状ポリマーの第2結合部位とを結合させる工程の後に、鎖状ポリマーが包接する環状分子の一部又は全部を除去する工程をさらに含む。
【0111】
図2Cに、固体支持体10の第1反応性官能基11と鎖状ポリマー24の第2反応性官能基25とを結合させた後で、鎖状ポリマー24が包接する環状分子22の一部が除去された様子を模式的に示す。
【0112】
環状分子の鎖状ポリマーからの除去は、鎖状ポリマーが取り付けられた固体支持体表面を水、水溶液、エマルション、又は有機溶剤等の洗浄剤で洗浄することにより行うことができる。
【0113】
洗浄時の洗浄剤(特には水又は水溶液)の温度は限定されないが、例えば0~100℃であり、好ましくは5~45℃であり、より好ましくは15~30℃である。洗浄時間は限定されないが、例えば1分以上であり、好ましくは1時間以上である。洗浄時間を長くするほど、環状分子が鎖状ポリマーから脱離する。
【0114】
上記除去する工程の後の擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンに含まれる環状分子の包接率は例えば0~100%であり、0%は環状分子が鎖状ポリマーから完全に脱離した状態を指す。鎖状ポリマー上の環状分子を完全に除去してもよいが、代わりに環状分子を少なくとも一部残してもよい(包接率>0%)。鎖状ポリマー上の環状分子を少なくとも一部残すことにより、ポリマーブラシのブラシ部分である鎖状ポリマーの鎖長が長くても立体障害が起こり難く、ポリマーブラシがより良好に伸長され得る。
【0115】
鎖状ポリマーの固定支持体に結合した末端とは反対側の末端に封鎖基を導入すれば、環状分子をより確実に鎖状ポリマーに保持することができる。封鎖基の導入については擬ポリロタキサン/ポリロタキサンシートの構成で説明した通りである。
【0116】
環状分子が鎖状ポリマーから脱離した後、鎖状ポリマーの少なくとも一部が固体支持体に結合しているため、固体支持体上に残った鎖状ポリマーが高密度のポリマーブラシを形成する。
【0117】
このように、擬ポリロタキサン/ポリロタキサンシートを作成し、これを固体支持体に付着させ、洗浄させるという簡便なプロセスで、高密度ポリマーブラシを形成することができる。このような高密度ポリマーブラシは表面コーティング効果に優れている。
【0118】
本発明の第1実施形態によれば、高密度の鎖状ポリマーにより表面修飾された固体支持体が得られるため、所望の表面修飾を施した固体支持体を各種用途に使用することができる。
【0119】
本発明の第2実施形態によれば、固体支持体の表面上に複数の鎖状ポリマーを用いてコーティングを形成する方法であって、第1結合部位を有する固体支持体を提供する工程、各鎖状ポリマーが環状分子の開口部を串刺し状に包接し、かつ上記第1結合部位に結合可能な第2結合部位を有する鎖状ポリマーを備えた擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンを複数有してなるシートを固体支持体に適用し、固体支持体と鎖状ポリマーとを結合させる工程を含むコーティングを形成する方法が提供される。
【0120】
第1結合部位を有する固体支持体を提供する工程については第1実施形態の固体支持体の製造方法で説明した通りである。固体支持体と鎖状ポリマーとを結合させる工程としては、固体支持体に、擬ポリロタキサン/ポリロタキサンシートを含む水又は水溶液を適用して、固体支持体の第1結合部位と鎖状ポリマーの第2結合部位とを結合させることが挙げられる。当該適用としては、浸漬、吹き付け、塗布等が挙げられるがこれらに限定されない。固体支持体の第1結合部位と鎖状ポリマーの第2結合部位との結合については、第1実施形態の固体支持体の製造方法における固体支持体の第1結合部位と鎖状ポリマーの第2結合部位とを結合させる工程に関して説明した通りである。
【0121】
本発明の第2実施形態によれば、固体支持体上に高密度の鎖状ポリマーによるコーティングが形成されるため、このような技術及び得られたコーティングを各種用途に使用することができる。
【0122】
本発明の第3実施形態によれば、2つの固体支持体を接着する方法であって、第1結合部位を有する第1固体支持体を提供する工程、第3結合部位を有する第2固体支持体を提供する工程、各鎖状ポリマーが環状分子の開口部を串刺し状に包接し、かつ上記第1結合部位に結合可能な第2結合部位と、鎖状ポリマーにおける第2結合部位とは反対側の端部に上記第3結合部位と結合可能な第2結合部位と有する鎖状ポリマーを備えた擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンを複数有してなるシートを提供する工程、第1固体支持体と鎖状ポリマーとを結合させる工程、第2固体支持体と鎖状ポリマーとを結合させる工程、及び、任意選択で、第1固体支持体と鎖状ポリマーとを結合させる工程及び/又は第固体支持体と鎖状ポリマーとを結合させる工程の後に、鎖状ポリマーが包接する環状分子の一部又は全部を除去する工程、とを含む方法が提供される。
【0123】
6つのいずれの工程も第1実施形態の固体支持体の製造方法で説明した通りである。第1固体支持体と第2固体支持体は、同じ材料から形成されてもよいし、異なる材料から形成されてもよい。第3結合部位は第1結合部位と同じであってもよいし異なっていてもよい。第4結合部位は第2結合部位と同じであってもよいし異なっていてもよい。
【0124】
第1固体支持体と鎖状ポリマーとを結合させる工程は、第1固体支持体に、擬ポリロタキサン/ポリロタキサンシートを含む水又は水溶液を適用して、第1固体支持体の第1結合部位と鎖状ポリマーの第2結合部位とを結合させることが挙げられる。第2固体支持体と鎖状ポリマーと結合させる工程は、第2固体支持体に、擬ポリロタキサン/ポリロタキサンシートを含む水又は水溶液を適用して、第2固体支持体の第3結合部位と鎖状ポリマーの第4結合部位とを結合させることが挙げられる。当該適用としては、浸漬、吹き付け、塗布等が挙げられるがこれらに限定されない。第1固体支持体と鎖状ポリマーとを結合させる工程及び第2固体支持体と鎖状ポリマーと結合させる工程は同時に行ってもよいし、異なるタイミングで行ってもよいが、同時に行うことが好ましい。
【0125】
図4A及びBに、2つの固体支持体10(
図4A)の表面に擬ポリロタキサン/ポリロタキサンシート20を適用して、2つの固体支持体10を接着する模式図(
図4B)を示す。
【0126】
本発明の第3実施形態によれば、固体支持体に鎖状ポリマーが高密度に結合されるため、2つ以上の固体支持体を強固に接着することができる。
【0127】
本発明の第4実施形態によれば、複数の鎖状ポリマーにより表面修飾された固体支持体であって、固体支持体と、上記固体支持体の表面に結合された複数の鎖状ポリマーとを備え、固体支持体の表面に対する鎖状ポリマーの密度が0.01本/nm2以上である固体支持体が提供される。
【0128】
固体支持体、複数の鎖状ポリマー、及び上記の固体支持体の製造方法については第1実施形態の固体支持体の製造方法で説明した通りである。
【0129】
第4実施形態の固体支持体は、上記複数の鎖状ポリマーの一部又は全部により串刺し状に包接される環状分子を備えていなくてもよいし、備えてもよい。
【0130】
上記擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンに含まれる環状分子の包接率は例えば0~100%である。
【0131】
また、第4実施形態の固体支持体は、擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサン以外の成分、すなわち上記環状分子及び該環状分子の開口部を串刺し状に包接する上記鎖状ポリマー以外の成分を有してもよい。そのような成分としては、蛍光物質、発色物質、薬剤、環状分子と包接しない高分子等が挙げられる。かかる成分は、鎖状シートに結合されるか、環状分子に結合されるか、又は擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンの間の空間に保持される。
【0132】
上記複数の鎖状ポリマーにより表面修飾された固体支持体の表面に対する鎖状ポリマーの密度は特に限定されないが、0.01本/nm2以上であることが好ましく、0.05本/nm2以上であることがより好ましく、0.1本/nm2以上であることがより好ましく、0.2本/nm2以上であることがより好ましい。
【0133】
本発明の第4実施形態によれば、高密度の鎖状ポリマーにより表面修飾された固体支持体が得られるため、所望の表面修飾を施した固体支持体を各種用途に使用することができる。
【0134】
本発明の第5実施形態によれば、複数の鎖状ポリマーにより表面修飾された固体支持体であって、固体支持体と、上記固体支持体の表面に結合された複数の鎖状ポリマーとを備え、上記シート中の隣接する鎖状ポリマー間の平均距離が0.5~3.5nmである固体支持体が提供される。
【0135】
固体支持体、複数の鎖状ポリマー及び、上記の固体支持体の製造方法については第1実施形態の固体支持体の製造方法で説明した通りである。
【0136】
第5実施形態の固体支持体は、上記複数の鎖状ポリマーの一部又は全部により串刺し状に包接される環状分子を備えていなくてもよいし、備えてもよい。
【0137】
上記擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンに含まれる環状分子の包接率は例えば0~100%である。
【0138】
また、第5実施形態の固体支持体は、擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサン以外の成分、すなわち上記環状分子及び該環状分子の開口部を串刺し状に包接する上記鎖状ポリマー以外の成分を有してもよい。そのような成分としては、蛍光物質、発色物質、薬剤、環状分子と包接しない高分子等が挙げられる。かかる成分は、鎖状シートに結合されるか、環状分子に結合されるか、又は擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンの間の空間に保持される。
【0139】
上記複数の鎖状ポリマーにより表面修飾された固体支持体上の隣接する鎖状ポリマー間の平均距離は特に限定されないが、例えば例えば0.5~3.5nmである。この距離は環状分子によって変わり得、環状分子としてα-シクロデキストリンを用いた場合、隣接する鎖状ポリマー間の平均距離は1~2nmであることが好ましく、β-シクロデキストリンを用いた場合、隣接する鎖状ポリマー間の平均距離は1.5~2.5nmであることが好ましく、γ-シクロデキストリンを用いた場合、隣接する鎖状ポリマー間の平均距離は2.5~3.5nmであることが好ましく、クラウンエーテルを用いた場合、隣接する鎖状ポリマー間の平均距離は0.5~3.5nmであることが好ましく、ピラーアレンを用いた場合、隣接する鎖状ポリマー間の平均距離は0.5~3.5nmであることが好ましく、カリックスアレンを用いた場合、隣接する鎖状ポリマー間の平均距離は0.5~3.5nmであることが好ましく、シクロファンを用いた場合、隣接する鎖状ポリマー間の平均距離は0.5~3.5nmであることが好ましく、ククルビットウリルを用いた場合、隣接する鎖状ポリマー間の平均距離は0.5~3.5nmであることが好ましい。
【0140】
本発明の第5実施形態によれば、高密度の鎖状ポリマーにより表面修飾された固体支持体が得られるため、所望の表面修飾を施した固体支持体を各種用途に使用することができる。
【0141】
本発明の第1実施形態~第5実施形態は、各種用途に使用可能である。例えば、構造材料、人工生体代替材料、パッケージ材料、ゴム、ヘアケア材料、コーティング、塗料、マウスウォッシュなどの口腔ケア材料、接着剤、表面改質剤、潤滑剤、分散剤、安定剤、薬剤、化粧料、分析試薬、サプリメント用基剤、高機能飲料、細胞や藻類などの凝集制御材料、酸素バリア性材料、保湿剤、紫外線防御性材料、臭気防止材料等の製造に使用可能である。
【0142】
固体支持体が非生物の固体支持体に、上記に挙げた用途に使用できるのに加えて、固体支持体が例えば生体高分子又は細胞である場合、細胞表面を鎖状ポリマーで修飾し、他の分子又は細胞による特異性、親和性又は結合能を高めたりすることもできる。
【0143】
また、本発明は以下の構成を採用することもできる。
【0144】
<1>複数の鎖状ポリマーにより表面修飾された固体支持体の製造方法であって、
第1結合部位を有する固体支持体を提供する工程、環状分子の開口部を串刺し状に包接し、かつ前記第1結合部位に結合可能な第2結合部位を有する鎖状ポリマーを備えた擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンを複数有してなるシートを提供する工程、及び 記固体支持体の第1結合部位と前記複数の鎖状ポリマーの第2結合部位とを結合させる工程を含む固体支持体の製造方法。
【0145】
<2>前記複数の鎖状ポリマーにより表面修飾された固体支持体の表面に対する鎖状ポリマーの密度が0.01本/nm2以上である<1>に記載の固体支持体の製造方法。
【0146】
<3>前記複数の鎖状ポリマーにより表面修飾された固体支持体の表面に対する鎖状ポリマーの密度が0.05本/nm2以上である<1>に記載の固体支持体の製造方法。
【0147】
<4>前記複数の鎖状ポリマーにより表面修飾された固体支持体の表面に対する鎖状ポリマーの密度が0.1本/nm2以上である<1>に記載の固体支持体の製造方法。
【0148】
<5>前記隣接する鎖状ポリマー間の平均距離が0.5~3.5nmである<1>に記載の固体支持体の製造方法。
【0149】
<6>前記結合させる工程の後に、前記鎖状ポリマーが包接する前記環状分子の一部又は全部を除去する工程をさらに含む<1>~<5>のいずれか一項に記載の固体支持体の製造方法。
【0150】
<7>前記除去する工程の後の擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンに含まれる環状分子の包接率が0~100%である<6>に記載の固体支持体の製造方法。
【0151】
<8>前記除去する工程の後に擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンに含まれる環状分子が一部残る<6>に記載の固体支持体の製造方法。
【0152】
<9>前記環状分子が、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン、クラウンエーテル、ピラーアレン、カリックスアレン、シクロファン、ククルビットウリル、又はこれらの誘導体である<1>~<8>のいずれか一項に記載の固体支持体の製造方法。
【0153】
<10>前記誘導体がメチル化α-シクロデキストリン、メチル化β-シクロデキストリン、メチル化γ-シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル化α-シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル化β-シクロデキストリン、又はヒドロキシプロピル化γ-シクロデキストリンである<9>に記載の固体支持体の製造方法。
【0154】
<11>前記鎖状ポリマーが、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ(メタ)アクリル酸;セルロース;カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等の改変セルロース;ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラヒドロフラン、ポリビニルアセタール、ポリビニルメチルエーテル、ポリアミン、ポリエチレンイミン、カゼイン、ゼラチン、でんぷん;ポリエチレン及びポリプロピレン等のポリオレフィン、エチレン又はプロピレン等のオレフィンとその他のオレフィンとの共重合体、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、アクリロニトリル-スチレン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、ポリメチルメタクリレート、(メタ)アクリル酸エステル共重合体、アクリルニトリル-メチルアクリレート共重合体、ポリカーボネート、ポリウレタン、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、ポリビニルブチラール、ポリイソブチレン、ポリアニリン、ナイロン等のポリアミド、ポリイミド;ポリイソプレン、ポリブタジエン等のポリジエン;ポリシロキサン、ポリスルホン、ポリイミン、ポリ無水酢酸、ポリ尿素、ポリスルフィド、ポリフォスファゼン、ポリケトン、ポリフェニレン、並びにこれらの誘導体からなる群から選ばれる1つ又は複数である<1>~<10>のいずれか一項に記載の固体支持体の製造方法。
【0155】
<12>前記鎖状ポリマーが、ポリエチレングリコール、ポリイソプレン、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、ポリプロピレングリコール、ポリテトラヒドロフラン、ポリジメチルシロキサン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール、及びポリビニルメチルエーテルからなる群から選ばれる少なくとも1種である<1>~<10>のいずれか一項に記載の固体支持体の製造方法。
【0156】
<13>前記固体支持体が無機材料からなる<1>~<12>のいずれか一項に記載の固体支持体の製造方法。
【0157】
<14>前記無機材料が金属、金属酸化物、シリコン、石英、又はジルコニアである<13>に記載の固体支持体の製造方法。
【0158】
<15>前記固体支持体が有機材料からなる<1>~<12>のいずれか一項に記載の固体支持体の製造方法。
【0159】
<16>前記有機材料が合成樹脂、生体高分子、又は生物体である<15>に記載の固体支持体の製造方法。
【0160】
<17>前記第1結合部位は、分子、分子の一部、官能基、又はイオンである<1>~<16>のいずれか一項に記載の固体支持体の製造方法。
【0161】
<18>前記第1結合部位は官能基であり、該官能基はヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基、クロロ基、又はブロモ基である<17>に記載の固体支持体の製造方法。
【0162】
<19>前記第2結合部位は、前記第1結合部位に結合可能な分子、分子の一部、官能基、又はイオンである<1>~<18>のいずれか一項に記載の固体支持体の製造方法。
【0163】
<20>前記第2結合部位は官能基であり、該官能基はカルボキシル基(電離すると-COO-になる)、アミノ基(電離すると-NH3+になる)、スルホ基、リン酸基、塩化トリメチルアミノ基、塩化トリエチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、メチルアミノ基、エチルアミノ基、ピロリジン基、ピロール基、エチレンイミン基、ピぺリジン基、ピリジン基、ピリリウムイオン基、チオピリリウムイオン基、ヘキサメチレンイミン基、アザトロピリレン基、イミダゾール基、ピラゾール基、オキサゾール基、チアゾール基、イミダゾリン基、モルホリン基、チアジン基、トリアゾール基、テトラゾール基、ピリダジン基、ピリミジン基、ピラジン基、インドール基、ベンゾイミダゾール基、プリン基、ベンゾトリアゾール基、キノリン基、キナゾリン基、キノキサリン基、プテリジン基、カルバゾール基、ポルフィリン基、クロリン基、コリン基、アデニン基、グアニン基、シトシン基、チミン基、ウラシル基、解離したチオール基、解離したヒドロキシ基、アジ基、ピリジン基、カルバミン酸、グアニジン、スルフェン、尿素、チオ尿素、過酸、これらの誘導体、及びこれらの類似体から成る群から選ばれる少なくとも1種の電離基である<19>に記載の固体支持体の製造方法。
【0164】
<21>前記第2結合部位は官能基であり、該官能基はイソプロピル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ネオペンチル基、イソペンチル基、sec-ペンチル基、3-ペンチル基、tert-ペンチル基、シクロペンチル基、ペンテン基、ヘキシル基、ヘキセン基、ヘプチル基、ヘプテン基、オクチル基、オクテン基、ノニル基、ノネン基、デシル基、デセン基、ウンデシル基、ウンデセン基、ドデシル基、ドデセン基、トリデシル基、トリデセン基、テトラデシル基、テトラデセン基、ペンタデシル基、ペンタデセン基、ヘキサデシル基、ヘキサデセン基、ヘプタデシル基、ヘプタデセン基、オクタデシル基、オクタデセン基、ノナデシル基、ノナデセン基、エイコシル基、エイコセン基、テトラコシル基、テトラコセン基、トリアコンチル基、トリアコンテン基、及びそれらの異性体;4-tert-ブチルベンゼンスルホニル基、2-メシチレンスルホニル基、メタンスルホニル基、2-ニトロベンゼンスルホニル基、4-ニトロベンゼンスルホニル基、ペンタフルオロベンゼンスルホニル基、2,4,6-トリイソプロピルベンゼンスルホニル基、p-トルエンスルホニル基、電離していないヒドロキシ基、ヘプタフルオロブチロイル基、ピバロイル基、パーフルオロベンゾイル基、電離していないアミノ基(-NH2)、電離していないカルボキシル基(-COOH)、及びイソバレリル基から成る群から選ばれる少なくとも1種の非電離基である<19>に記載の固体支持体の製造方法。
【0165】
<22>固体支持体の表面上に複数の鎖状ポリマーを用いてコーティングを形成する方法であって、第1結合部位を有する固体支持体を提供する工程、環状分子の開口部を串刺し状に包接し、かつ前記第1結合可能な第2結合部位を有する鎖状ポリマーを備えた擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンを複数有してなるシートを固体支持体に適用し、前記固体支持体と前記鎖状ポリマーとを結合させる工程を含むコーティングを形成する方法。
【0166】
<23>前記複数の鎖状ポリマーにより表面修飾された固体支持体の表面に対する鎖状ポリマーの密度が0.01本/nm2以上である<22>に記載の方法。
【0167】
<24>前記複数の鎖状ポリマーにより表面修飾された固体支持体の表面に対する鎖状ポリマーの密度が0.05本/nm2以上である<22>に記載の方法。
【0168】
<25>前記複数の鎖状ポリマーにより表面修飾された固体支持体の表面に対する鎖状ポリマーの密度が0.1本/nm2以上である<22>に記載の方法。
【0169】
<26>前記隣接する鎖状ポリマー間の平均距離が0.5~3.5nmである<22>に記載の方法。
【0170】
<27>前記結合させる工程の後に、前記鎖状ポリマーが包接する前記環状分子の一部又は全部を除去する工程をさらに含む<22>~<26>のいずれか一項に記載の方法。
【0171】
<28>前記除去する工程の後の擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンに含まれる環状分子の包接率が0~100%である<27>に記載の方法。
【0172】
<29>前記除去する工程の後に擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンに含まれる環状分子が一部残る<27>に記載の方法。
【0173】
<30>前記環状分子が、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン、クラウンエーテル、ピラーアレン、カリックスアレン、シクロファン、ククルビットウリル、又はこれらの誘導体である<22>~<29>のいずれか一項に記載の方法。
【0174】
<31>前記誘導体がメチル化α-シクロデキストリン、メチル化β-シクロデキストリン、メチル化γ-シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル化α-シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル化β-シクロデキストリン、又はヒドロキシプロピル化γ-シクロデキストリンである<30>に記載の方法。
【0175】
<32>前記鎖状ポリマーが、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ(メタ)アクリル酸;セルロース;カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等の改変セルロース;ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラヒドロフラン、ポリビニルアセタール、ポリビニルメチルエーテル、ポリアミン、ポリエチレンイミン、カゼイン、ゼラチン、でんぷん;ポリエチレン及びポリプロピレン等のポリオレフィン、エチレン又はプロピレン等のオレフィンとその他のオレフィンとの共重合体、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、アクリロニトリル-スチレン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、ポリメチルメタクリレート、(メタ)アクリル酸エステル共重合体、アクリルニトリル-メチルアクリレート共重合体、ポリカーボネート、ポリウレタン、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、ポリビニルブチラール、ポリイソブチレン、ポリアニリン、ナイロン等のポリアミド、ポリイミド;ポリイソプレン、ポリブタジエン等のポリジエン;ポリシロキサン、ポリスルホン、ポリイミン、ポリ無水酢酸、ポリ尿素、ポリスルフィド、ポリフォスファゼン、ポリケトン、ポリフェニレン、並びにこれらの誘導体からなる群から選ばれる1つ又は複数である<22>~<31>のいずれか一項に記載の方法。
【0176】
<33>前記鎖状ポリマーが、ポリエチレングリコール、ポリイソプレン、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、ポリプロピレングリコール、ポリテトラヒドロフラン、ポリジメチルシロキサン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール、及びポリビニルメチルエーテルからなる群から選ばれる少なくとも1種である<22>~<31>のいずれか一項に記載の方法。
【0177】
<34>前記固体支持体が無機材料からなる<22>~<33>のいずれか一項に記載の方法。
【0178】
<35>前記無機材料が金属、金属酸化物、シリコン、石英、又はジルコニアである<34>に記載の方法。
【0179】
<36>前記固体支持体が有機材料からなる<22>~<33>のいずれか一項に記載の方法。
【0180】
<37>前記有機材料が合成樹脂、生体高分子、又は生物体である<36>に記載の方法。
【0181】
<38>前記第1結合部位は、分子、分子の一部、官能基、又はイオンである<22>~<37>のいずれか一項に記載の方法。
【0182】
<39>前記第1結合部位は官能基であり、該官能基はヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基、クロロ基、又はブロモ基である<38>に記載の方法。
【0183】
<40>前記第2結合部位は、前記第1結合部位に結合可能な分子、分子の一部、官能基、又はイオンである<22>~<38>のいずれか一項に記載の方法。
【0184】
<41>前記第2結合部位は官能基であり、該官能基はカルボキシル基(電離すると-COO-になる)、アミノ基(電離すると-NH3+になる)、スルホ基、リン酸基、塩化トリメチルアミノ基、塩化トリエチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、メチルアミノ基、エチルアミノ基、ピロリジン基、ピロール基、エチレンイミン基、ピぺリジン基、ピリジン基、ピリリウムイオン基、チオピリリウムイオン基、ヘキサメチレンイミン基、アザトロピリレン基、イミダゾール基、ピラゾール基、オキサゾール基、チアゾール基、イミダゾリン基、モルホリン基、チアジン基、トリアゾール基、テトラゾール基、ピリダジン基、ピリミジン基、ピラジン基、インドール基、ベンゾイミダゾール基、プリン基、ベンゾトリアゾール基、キノリン基、キナゾリン基、キノキサリン基、プテリジン基、カルバゾール基、ポルフィリン基、クロリン基、コリン基、アデニン基、グアニン基、シトシン基、チミン基、ウラシル基、解離したチオール基、解離したヒドロキシ基、アジ基、ピリジン基、カルバミン酸、グアニジン、スルフェン、尿素、チオ尿素、過酸、これらの誘導体、及びこれらの類似体から成る群から選ばれる少なくとも1種の電離基である<40>に記載の方法。
【0185】
<42>前記第2結合部位は官能基であり、該官能基はイソプロピル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ネオペンチル基、イソペンチル基、sec-ペンチル基、3-ペンチル基、tert-ペンチル基、シクロペンチル基、ペンテン基、ヘキシル基、ヘキセン基、ヘプチル基、ヘプテン基、オクチル基、オクテン基、ノニル基、ノネン基、デシル基、デセン基、ウンデシル基、ウンデセン基、ドデシル基、ドデセン基、トリデシル基、トリデセン基、テトラデシル基、テトラデセン基、ペンタデシル基、ペンタデセン基、ヘキサデシル基、ヘキサデセン基、ヘプタデシル基、ヘプタデセン基、オクタデシル基、オクタデセン基、ノナデシル基、ノナデセン基、エイコシル基、エイコセン基、テトラコシル基、テトラコセン基、トリアコンチル基、トリアコンテン基、及びそれらの異性体;4-tert-ブチルベンゼンスルホニル基、2-メシチレンスルホニル基、メタンスルホニル基、2-ニトロベンゼンスルホニル基、4-ニトロベンゼンスルホニル基、ペンタフルオロベンゼンスルホニル基、2,4,6-トリイソプロピルベンゼンスルホニル基、p-トルエンスルホニル基、電離していないヒドロキシ基、ヘプタフルオロブチロイル基、ピバロイル基、パーフルオロベンゾイル基、電離していないアミノ基(-NH2)、電離していないカルボキシル基(-COOH)、及びイソバレリル基から成る群から選ばれる少なくとも1種の非電離基である<40>に記載の方法。
【0186】
<43>複数の鎖状ポリマーにより表面修飾された固体支持体であって、固体支持体と、前記固体支持体の表面に結合された複数の鎖状ポリマーとを備え、固体支持体の表面に対する鎖状ポリマーの密度が0.05本/nm2以上である固体支持体。
【0187】
<44>複数の鎖状ポリマーにより表面修飾された固体支持体であって、固体支持体と、前記固体支持体の表面に結合された複数の鎖状ポリマーとを備え、前記シート中の隣接する鎖状ポリマー間の平均距離が0.5~3.5nmである固体支持体。
【0188】
<45>前記鎖状ポリマーが、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ(メタ)アクリル酸;セルロース;カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等の改変セルロース;ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラヒドロフラン、ポリビニルアセタール、ポリビニルメチルエーテル、ポリアミン、ポリエチレンイミン、カゼイン、ゼラチン、でんぷん;ポリエチレン及びポリプロピレン等のポリオレフィン、エチレン又はプロピレン等のオレフィンとその他のオレフィンとの共重合体、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、アクリロニトリル-スチレン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、ポリメチルメタクリレート、(メタ)アクリル酸エステル共重合体、アクリルニトリル-メチルアクリレート共重合体、ポリカーボネート、ポリウレタン、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、ポリビニルブチラール、ポリイソブチレン、ポリアニリン、ナイロン等のポリアミド、ポリイミド;ポリイソプレン、ポリブタジエン等のポリジエン;ポリシロキサン、ポリスルホン、ポリイミン、ポリ無水酢酸、ポリ尿素、ポリスルフィド、ポリフォスファゼン、ポリケトン、ポリフェニレン、並びにこれらの誘導体からなる群から選ばれる1つ又は複数である<43>又は<44>に記載の固体支持体。
【0189】
<46>前記鎖状ポリマーが、ポリエチレングリコール、ポリイソプレン、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、ポリプロピレングリコール、ポリテトラヒドロフラン、ポリジメチルシロキサン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール、及びポリビニルメチルエーテルからなる群から選ばれる少なくとも1種である<43>又は<44>に記載の固体支持体。
【0190】
<47>前記固体支持体が無機材料からなる<43>~<46>のいずれか一項に記載の固体支持体。
【0191】
<48>前記無機材料が金属、金属酸化物、シリコン、石英、又はジルコニアである<47>に記載の固体支持体。
【0192】
<49>前記固体支持体が有機材料からなる<43>~<46>のいずれか一項に記載の固体支持体。
【0193】
<50>前記有機材料が合成樹脂、生体高分子、又は生物体である<49>に記載の固体支持体。
【0194】
<51>前記複数の鎖状ポリマーの一部又は全部により串刺し状に包接される環状分子をさらに備える<43>~<50>のいずれか一項に記載の固体支持体。
【0195】
<52>前記複数の鎖状ポリマーの一部又は全部により串刺し状に包接される環状分子を備えない<43>~<50>のいずれか一項に記載の固体支持体。
【0196】
<53>前記環状分子が、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン、クラウンエーテル、ピラーアレン、カリックスアレン、シクロファン、ククルビットウリル、又はこれらの誘導体である<51>又は<53>に記載の固体支持体。
【0197】
<54> <43>~<53>のいずれか一項に記載の固体支持体を備えたドラッグデリバリ用材料(例えば、ドラッグデリバリのビヒクル)、生体イメージング、表面改質剤、接着剤、創傷部位癒着防止剤、ヘアケア材、コーティング材料、マウスウォッシュなどの口腔ケア材料、サプリメント用基剤、細胞や藻類などの凝集制御材料、酸素バリア性材料、保湿剤、紫外線防御性材料、臭気防止材料。
【0198】
<55> <43>~<53>のいずれか一項に記載の固体支持体を備えた構造材料、人工生体代替材料、パッケージ材料、ゴム材料、ヘアケア材料、コーティング材料、塗料、マウスウォッシュなどの口腔ケア材料、接着剤、サプリメント用基剤、高機能飲料、凝集制御材料、酸素バリア性材料、保湿剤、紫外線防御性材料、又は臭気防止材料。
【0199】
<56> 人工生体代替材料、パッケージ材料、ゴム材料、ヘアケア材料、コーティング材料、塗料、マウスウォッシュなどの口腔ケア材料、接着剤、サプリメント用基剤、高機能飲料、凝集制御材料、酸素バリア性材料、保湿剤、紫外線防御性材料、又は臭気防止材料における上記<43>~<53>のいずれか一項に記載の固体支持体の使用。
【0200】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【実施例】
【0201】
実施例1 高密度のポリマーブラシの製造
1.固体支持体の製造
合成例1 電離擬ポリロタキサンナノシート水分散液を用いた固体支持体の製造
α,ω-ビス-ポリエチレングリコール-block-ポリプロピレングリコール-block-ポリエチレングリコール(Pluronic(登録商標)F68; PEO75PPO30PEO75)2.50g、0.30mmol、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン 1-オキシル(TEMPO)203mg、1.30mmol、臭化ナトリウム 202mg、1.96mmolを水28mLに溶解させた。その後、撹拌しながら5wt%次亜塩素酸ナトリウム水溶液をpHの値が変化しなくなるまで徐々に滴下した。得られた水溶液を室温にてさらに10分間撹拌した。その後、反応を止めるためにエタノール2.5mLを投入した。さらに6M塩酸水溶液をpHが2になるまで投入し、塩化メチレン40mLにて目的物を抽出した。さらに得られた塩化メチレン溶液を0.01M塩酸水溶液を用いて2回洗浄した後、塩化メチレンを留去することにより目的物であるα,ω-ビス-カルボン酸ポリエチレングリコール-block-ポリプロピレングリコール-block-ポリエチレングリコールを得た(2.41g、96.4%、Mn=8400g/mol(polyethylene glycol standard in CHCl3), PDI(polydispersity)=1.07)。
【0202】
β-シクロデキストリン0.45gを水25mLに溶解させた。
【0203】
次に、上記で得られたα,ω-ビス-カルボン酸ポリエチレングリコール-block-ポリプロピレングリコール-block-ポリエチレングリコール0.1gを、β-シクロデキストリン水溶液に投入し、室温にて一週間撹拌することにより単離ナノシートを得た。
【0204】
この単離ナノシートを含有する分散液を、未処理SiO2基板上にスピンキャストにより塗布して室温・大気圧下で乾燥させ、単離ナノシートを基板に付着させた。
【0205】
その後、真空下80℃で72時間アニールし、SiO2基板表面上のシラノール基とナノシート中の鎖状ポリマーの末端のカルボキシル基とを脱水縮合させ、合成例1の固体支持体を得た。
【0206】
合成例2 非電離擬ポリロタキサンナノシート水分散液を用いた固体支持体の製造
合成例1で用いたα,ω-ビス-ポリエチレングリコール-block-ポリプロピレングリコール-block-ポリエチレングリコールは末端にヒドロキシ基を有するため、合成例2ではこれをそのまま使用した。
【0207】
γ-シクロデキストリン4.00gを水33.5mLに溶解させた。
【0208】
次に、α,ω-ビス-ポリエチレングリコール-block-ポリプロピレングリコール-block-ポリエチレングリコール1.00gを、γ-シクロデキストリン水溶液に投入し、室温にて一週間撹拌することにより単離ナノシートを得た。
【0209】
この単離ナノシートを含有する分散液を、SiO2基板上に滴下して室温・大気圧下で乾燥させ、単離ナノシートを基板に付着させた。
【0210】
その後、真空下80℃で72時間アニールし、SiO2基板表面上のシラノール基とナノシート中の鎖状ポリマーの末端のヒドロキシ基とを脱水縮合させ、合成例2の固体支持体を得た。
【0211】
比較合成例1
合成例1に従ってα,ω-ビス-カルボン酸ポリエチレングリコール-block-ポリプロピレングリコール-block-ポリエチレングリコールを得た後、β-シクロデキストリンは用いず、α,ω-ビス-カルボン酸ポリエチレングリコール-block-ポリプロピレングリコール-block-ポリエチレングリコールを6.25mg/mlとなるようジクロロメタンに溶解させた溶液を作製した。
【0212】
この鎖状ポリマーを含有する溶液を、未処理SiO2基板上にスピンキャストにより塗布して室温・大気圧下で乾燥させ、真空下80℃で72時間乾燥させ、比較合成例1の固体支持体を得た。
【0213】
比較合成例2
イオン交換水を未処理SiO2基板上にスピンキャストにより塗布して室温・大気圧下で乾燥させ、真空下80℃で72時間乾燥させ、比較合成例2の固体支持体を得た。
【0214】
2.ポリマーブラシの形成及び接触角の測定
合成例1で得た固体支持体をイオン交換水中に静置すると、時間が経過するにつれて構成成分であるシクロデキストリンが徐々に崩壊していく様子がSEMにて観察された(
図5A-F)。水中での12時間の静置後、固体支持体の表面を流水で洗うと、擬ポリロタキサンナノシートが完全に分解したことを確認することができた(
図5F)。
【0215】
合成例1、比較合成例1、及び比較合成例2の固体支持体を水中で12時間静置した後、流水で洗浄した試料を実施例1、比較例1、及び比較例2とした。実施例1、比較例1、及び比較例2の基板表面の静止接触角を接触角計により測定した。接触角は3回測定した値の平均値とした。
【0216】
図6に示すように、実施例1、比較例1、及び比較例2のSiO
2基板の接触角はそれぞれ38.9°、52.1°、93.7°であった。
【0217】
実施例1の接触角が最も高く、親水性の鎖状ポリマーが基板に結合していることを示唆している。X線光電子分光測定を行うと、SiO2基板には無いC-C結合が見られ、鎖状ポリマーがSiO2基板に結合していることが分かった。鎖状ポリマーの密度[本/nm2]を計算すると0.47 [本/nm2]であった。シクロデキストリンの直径から求まる面積は1.83nm2であり、この面積内に1本の鎖状ポリマーが存在するときの密度は0.54[本/nm2]である。この値に極めて近い値が得られたことから、シクロデキストリンの柱状格子をテンプレートとしたgrafting to法により、高密度のポリマーブラシが作成できた。
【0218】
これに対し、実施例1と同様の方法で比較例1の鎖ポリマーの密度[本/nm2]を計算したところ、0.02 [本/nm2]であり、極めて低密度であった。
【0219】
実施例2 ナノシートの急速、高密度吸着
β-シクロデキストリン0.45gを水25mLに溶解させた。次に、上記合成例1で得られたα,ω-ビス-カルボン酸ポリエチレングリコール-block-ポリプロピレングリコール-block-ポリエチレングリコール0.1gを、β-シクロデキストリン水溶液に投入し、室温にて一週間撹拌することにより、末端に負電荷を有する単離ナノシート(COOH-NS)を得た。
【0220】
正電荷を有する基板の準備は次の通りである。3-Aminopropyltriethoxysilane(APTES)は東京化成工業株式会社のものを用いた。トルエン、メタノールは富士フィルム和光純薬株式会社より購入した。
【0221】
メタノールでSi基板及びガラス基板表面を洗浄したのち、30分間 UV/O3 処理した。この基板をOH-Si基板と呼ぶ。OH化処理をしたあと、トルエンで洗浄してから、APTES 2 vol%トルエン溶液に浸した。撹拌しながら15 min反応させたあと、トルエンで洗浄した。さらにメタノールで洗浄したのち、水で洗浄し、水中で保管した。この基板をAPTES-Si基板と呼ぶ。基板を反応後2時間以内に使用した。
【0222】
COOH-NSを用いて、APTES-Si基板への吸着量の時間依存性を評価した。実験手順は次のとおりである。APTES-Si基板をCOOH-NS水分散液に2秒間、10秒間、1分間、8分間浸漬したあと、基板を引き上げ液滴を取り除き、その後SEM観察を行った。浸漬時間が2秒間でも大量のナノシートが付着していた(
図7A)。10秒間浸漬するとさらに付着量は増加し(
図7B)、1分間浸漬すると、COOH-NSが基板のほぼ全体を覆い尽くすことがわかった(
図7C)。比較的暗く観察されている部分は二層に重なっている。基板が正電荷を帯びていない場合は、1分間浸漬させてもあまり付着しないことを確認した(
図7D)。すなわち、静電相互作用を導入することで、極めて迅速に表面修飾を行うことができることが見出された。
【0223】
実施例3 自発性裁断化(フラグメンテーション)
実施例2ではAPTES-Si基板をCOOH-NS水分散液に浸漬して試料を作成したが、その浸漬回数は一回であった。複数回浸漬して構造を解析すると、異なる挙動が観察された。
図8にAPTES-Si基板をCOOH-NS水分散液に1分間浸漬させて乾燥させたのち、さらに10秒の浸漬と乾燥を三回繰り返した試料のSEM像を示す。すると、二層目がほとんど無くなっていた。拡大してみると(
図8のinset)、COOH-NSが互いに重なった領域で分解が生じていることがわかった。フラグメンテーションが生じることによって、積極的に単層被覆が生じることが分かった。
【0224】
実施例4 防汚性
実施例2で製造したCOOH-NSが高密度に吸着したSi基板にシリコンオイル(信越シリコーンKF-54)を載せ、その後COOH-NSの液体に浸した。接触角をdataphysics製 OCA15+を用いて測定した。非常に大きな接触角であることがわかり(
図9A)、基板を振とうさせるとシリコンオイルがはじかれ脱着した(
図9B)。一方、COOH-NSを吸着させないコントロールSi基板ではシリコンオイルの接触角は比較的小さく(
図9C)、振とうしても基板に吸着したまま剥がれなかった(
図9D)。
【0225】
以上の結果から、COOH-NSが水中で油性成分をはじく、すなわち防汚性を有することが明らかになった。これはβ-シクロデキストリン層表面に高密度に集積したPEO鎖の水和膨潤によって疎水性成分が排斥されたためと考えられる。鎖状ポリマーが高密度に配置されている擬ポリロタキサンシートの一種であるCOOH-NSは、固体支持体に高密度で付着した。そして表面物性を劇的に改質することができた。表面物性は、濡れ性や摩擦特性、接着性、汚染物質・微生物吸着などに影響するが、本実施例では特に、防汚性について実証することに成功した。
【0226】
実施例5 材料への高付着性
β-シクロデキストリン0.45gを水25mLに溶解させた。次に、α,ω-ビス-アミノポリエチレングリコール-block-ポリプロピレングリコール-block-ポリエチレングリコール0.1gを、β-シクロデキストリン水溶液に投入し、室温にて四週間撹拌することにより、末端に正電荷を有する単離ナノシート(NH2-NS)を得た。
【0227】
深さ25nm、周期200nmで繰り返された凹凸を有するブルーレイディスクに対してNH
2-NS分散液をドロップして液滴を除去し、NH
2-NSをコーティングしたところ、NH
2-NSの層は凹凸に完全に追従した(
図10A、B)。この結果は、NH
2-NSが一次元曲率を生じる曲げに対して柔軟に振る舞うことができることを示している。さらに、ポリスチレン球(半径1.43μm)に対しても同様に、NH
2-NSは屈曲して付着した(
図10C)。すなわち、二次元曲率を生じる曲げに対してもNH
2-NSが柔軟に振る舞うことが分かった。鎖状ポリマーが高密度に配置されている擬ポリロタキサンシートの一種であるNH
2-NSは、一次元曲率及び二次元曲率を有する固体支持体にも密接し高付着性を示すことがわかった。
【0228】
次に、NH
2-NSを豚皮、髪の毛、コンタクトレンズに滴下し、水分をろ紙で拭きとってからSEM観察を行った。それぞれ
図11A、11B、11Cに示す。また、NH
2-NSを豚眼に付着させた後、光学顕微鏡観察を行った。
図11Dに示す。いずれの場合もシート状ナノ構造体が付着している様子を確認することができた。鎖状ポリマーが高密度に配置されている擬ポリロタキサンシートの一種であるNH
2-NSは、複雑な表面組成と凹凸形状を有する生体材料系の固体支持体にも密接し高付着性を示すことがわかった。