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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-05
(45)【発行日】2022-08-16
(54)【発明の名称】二次電池用正極及びこれを含む二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/131 20100101AFI20220808BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20220808BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20220808BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20220808BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20220808BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20220808BHJP
【FI】
H01M4/131
H01M4/525
H01M4/505
H01M10/052
H01M4/62 Z
C01G53/00 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021509712
(86)(22)【出願日】2019-05-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-08-12
(86)【国際出願番号】 KR2019006051
(87)【国際公開番号】W WO2019225939
(87)【国際公開日】2019-11-28
【審査請求日】2020-10-28
(31)【優先権主張番号】10-2018-0057962
(32)【優先日】2018-05-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】ウォン・シグ・ジュン
(72)【発明者】
【氏名】サン・スン・チェ
(72)【発明者】
【氏名】ヒョン・ア・パク
【審査官】小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-162602(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0118493(KR,A)
【文献】特表2018-503238(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2011-0079025(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0016129(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13-4/62
H01M 10/05-10/0587
C01G 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル、コバルト及びマンガンを含み、遷移金属全体のうちニッケルの原子比率が80atm%以上であるリチウム遷移金属酸化物を含む正極活物質と、
リチウムとの結合ポテンシャルが0.5から4Vである金属元素を含む金属酸化物と、
を含む正極活物質層を含み、
前記金属酸化物は、前記正極活物質層の全重量を基準に0.1から2重量%で含まれるものである、二次電池用正極。
【請求項2】
前記金属酸化物は、Mo、V、Ti、Zr、Fe、Nb、W、Cu、Ni、Mn、Co、Bi、Sb、Ga、及びGeでなる群から選択された1種以上の金属元素を含むものである、請求項1に記載の二次電池用正極。
【請求項3】
前記金属酸化物は、MoO、V、ZrO、TiO、WO、CuO、NiO、MnO、Co、Bi、Sb、Ga、及びGeOでなる群から選択された1種以上である、請求項1に記載の二次電池用正極。
【請求項4】
前記リチウム遷移金属酸化物は、平均組成が下記化学式1で表されるものである、請求項1からの何れか一項に記載の二次電池用正極。
[化学式1]
Li1+x[NiCoMn]O2-p
前記化学式1において、0≦x≦0.3、0.8≦y<1、0<z<0.2、0<w<0.2、0≦v≦0.1、0≦p≦0.1であり、Mは、W、Cu、Fe、V、Cr、Ti、Zr、Zn、Al、Ta、Y、In、La、Sr、Ga、Sc、Gd、Sm、Ca、Ce、Nb、Mg、B、及びMoでなる群から選択される1種以上の元素であり、前記Xは、F、Cl、Br、I、At及びSでなる群から選択された1種以上の元素である。
【請求項5】
前記リチウム遷移金属酸化物は、ニッケル、コバルト及びマンガンのうち少なくとも一つの元素が濃度勾配を有するものである、請求項1からの何れか一項に記載の二次電池用正極。
【請求項6】
請求項1からの何れか一項に記載の正極;負極;分離膜;及び電解質を含む二次電池。
【請求項7】
前記二次電池は、加速速度熱量測定法(Accelerating rate calorimetry)を用いて測定した205℃に到達するまでの自己発熱時間が、同一組成のリチウム遷移金属酸化物を含み金属酸化物を含まない正極を含む二次電池の自己発熱時間に比べて30%以上増加したものである、請求項に記載の二次電池。
【請求項8】
前記二次電池は、加速速度熱量測定法(Accelerating rate calorimetry)を用いて測定された自己発熱区間における二次電池の温度を、時間によって1次微分した値の瞬間発熱量が0.3以下である、請求項に記載の二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2018年5月21日に出願された韓国特許出願第10-2018-0057962号に基づいた優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願文献に開示された全ての内容は本明細書の一部として含まれる。
【0002】
本発明は、二次電池用正極及びこれを含む二次電池に関する。より詳しくは、熱安定性に優れた二次電池用正極及びこれを含む二次電池に関する。
【背景技術】
【0003】
最近環境問題が台頭しており、原子力発電、化石燃料を代替できる再生可能エネルギーに対する関心が増大するにつれ、再生可能エネルギーのうち充電・放電が可能であるため、繰り返し用いることができる半永久的な特性を有する二次電池に対する需要が急増している。
【0004】
この中でもリチウム二次電池は、優れたサイクル寿命特性及び高いエネルギー密度によって最も注目されている二次電池である。リチウム二次電池用正極活物質としては、LiCoO、LiNiO、LiMnO、LiMn、LiFePO、Li(NiCoMn)O(このとき、a、b、cは、それぞれ独立的な元素の原子分率であって、0<a<1、0<b<1、0<c<1、a+b+c=1である。以下、NCM系リチウム酸化物とする)等の多様なリチウム遷移金属酸化物が開発された。この中でも最近では高容量特性を満たすためにニッケル含有量を増加させた高Ni系列のNCM系リチウム酸化物の開発が活発に行われている。
【0005】
高Ni系列のNCM系リチウム酸化物を正極活物質として用いた正極の場合、容量具現側面では優れた効果があるが、ニッケル含量増加によって活物質の構造的安定性と化学的安定性が下がり、熱安定性が急激に低下するという問題点がある。特に、ニッケル含有量が遷移金属全体の80atm%以上の正極活物質を用いる場合、このような問題点が目立つ。
【0006】
前記のような問題点を解決するために、正極活物質に金属元素をドーピングするかコーティングすることで、高Ni系列の正極活物質の構造的安定性を改善する研究が試みられているが、このような方法では、十分な熱安定性を確保しにくい。
【0007】
したがって、高容量化に符合しながらも熱安定性に優れた正極の開発が要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】韓国公開特許第10-2014-0084567号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前記のような問題点を解決するためのもので、正極活物質層にリチウムとの結合ポテンシャルが正極活物質より低い金属酸化物を含み、充電・放電時に正極の発熱の発生が遅延され瞬間発熱量が低いため、優れた熱安定性を有する正極及びこれを含む二次電池を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
一側面において、本発明は、ニッケル、コバルト及びマンガンを含み、遷移金属全体のうちニッケルの原子の比率が80atm%以上であるリチウム遷移金属酸化物を含む正極活物質、及びリチウムとの結合ポテンシャルが0.5から4Vである金属元素を含む金属酸化物を含む正極活物質層を含む二次電池用正極を提供する。
【0011】
このとき、前記金属酸化物は、Mo、V、Ti、Zr、Fe、Nb、W、Cu、Ni、Mn、Co、Bi、Sb、Ga、及びGeでなる群から選択された1種以上の金属元素を含むものであってよく、具体的には、MoO、V、ZrO、TiO、WO、CuO、NiO、MnO、Co、Bi、Sb、Ga、及びGeOでなる群から選択された1種以上であってよい。
【0012】
前記金属酸化物は、前記正極活物質層の全重量を基準に0.1から2重量%で含まれてよい。
【0013】
一方、前記リチウム遷移金属酸化物は、下記化学式1で表されるものであってよい。
【0014】
[化学式1]
Li1+x[NiCoMn]O2-p
前記化学式1において、0≦x≦0.3、0.8≦y<1、0<z<0.2、0<w<0.2、0≦v≦0.1、0≦p≦0.1であり、Mは、W、Cu、Fe、V、Cr、Ti、Zr、Zn、Al、Ta、Y、In、La、Sr、Ga、Sc、Gd、Sm、Ca、Ce、Nb、Mg、B、及びMoでなる群から選択される1種以上の元素であり、前記は、F、Cl、Br、I、At及びSでなる群から選択された1種以上の元素である。
【0015】
一具体例によれば、前記リチウム遷移金属酸化物は、ニッケル、コバルト及びマンガンのうち少なくとも一つの元素が濃度勾配を有するものであってよい。
【0016】
他の側面において、本発明は、前記本発明による正極、負極、分離膜及び電解質を含む二次電池を提供する。
【0017】
このとき、前記二次電池は、加速速度熱量測定法(Accelerating rate calorimetry)を用いて測定した205℃に到達するまでの自己発熱時間が、同一組成のリチウム遷移金属酸化物を含み金属酸化物を含まない正極を含む二次電池の自己発熱時間に比べて30%以上増加したものであってよい。また、前記二次電池は、加速速度熱量測定法(Accelerating rate calorimetry)を用いて測定された自己発熱区間における二次電池の温度を時間によって1次微分した値の瞬間発熱量が0.3以下であってよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明による正極は、リチウムとの結合ポテンシャルが正極活物質より低い金属元素を含む金属酸化物を正極活物質層に含み、過放電(overdischarge)状態のように過リチウム状態でリチウムイオンが金属酸化物と反応することで、発熱及びガス発生を最小化した。これにより、本発明による正極を適用した二次電池は、発熱量が少なく優れた熱安定性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】加速速度熱量測定法によって測定した本発明の実施例1~4、及び比較例1~2によって製造された正極を含むモノセルの自己発熱時間を示すグラフである。
図2】本発明の実施例1~4及び比較例1~2によって製造された正極を含むモノセルの瞬間発熱量を示すグラフである。
図3】加速速度熱量測定法による温度測定試料を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明を具体的に説明する。
【0021】
本明細書及び特許請求の範囲において用いられた用語や単語は、通常的又は辞書的な意味に限定して解釈されてはならず、発明者は自身の発明を最善の方法によって説明するために、用語の概念を適宜定義することができるという原則に即し、本発明の技術的思想に適合する意味と概念として解釈されなければならない。
【0022】
本明細書で用いられる用語は、単に例示的な実施形態等を説明するために用いられたものであり、本発明を限定しようとする意図ではない。単数の表現は、文脈上明白に異なるように意味しない限り、複数の表現を含む。
【0023】
本明細書において、『含む』、『備える』又は『有する』等の用語は、実施された特徴、数字、段階、構成要素又はこれらを組み合わせたものが存在することを指定しようとするものであって、一つ又はそれ以上の他の特徴や数字、段階、構成要素、又はこれらを組み合わせたものの存在又は付加の可能性を予め排除しないものとして理解されなければならない。
【0024】
本明細書において、『%』は、明示的な他の表示がない限り重量%を意味する。
【0025】
本発明者は、ニッケル含量が80atm%以上の高Ni系列のNCM系リチウム酸化物を正極活物質として用いた正極の熱安定性を改善するために研究を繰り返した結果、正極活物質層にニッケル含量が80atm%以上の高Ni系列のNCM系リチウム酸化物とリチウムとの結合ポテンシャルが正極活物質より低い金属元素を含む金属酸化物を共に用いることで、熱安定性を画期的に改善できることが分かり、本発明を完成した。
【0026】
以下、本発明による二次電池用正極に対して説明する。
【0027】
正極
本発明の正極は、正極活物質及び金属酸化物を含む正極活物質層を含む。
【0028】
前記金属酸化物は、リチウムとの結合ポテンシャル(potential)が0.5から4Vである金属元素を含む金属酸化物であり、具体的には、Mo、V、Ti、Zr、Fe、Nb、W、Cu、Ni、Mn、Co、Bi、Sb、Ga、及びGeでなる群から選択された1種以上の金属元素を含むものであってよい。好ましくは、前記金属酸化物は、Mo、V、Ti、Zr、Fe、Nb、及びWでなる群から選択された1種以上の金属元素を含むものであってよい。
【0029】
本発明者の研究によれば、前記のようにリチウムとの結合ポテンシャルが低い金属元素を含む金属酸化物が正極活物質層に含まれる場合、発熱が抑制される効果がある。金属酸化物によって発熱が抑制されるメカニズムは明確ではないが、過放電(overdischarge)状態のように正極活物質層内にリチウムが過量に含まれた状態でリチウムとの結合ポテンシャルが低い金属を含む金属酸化物がリチウムと反応し、正極活物質表面にリチウムが過量に存在することで発生する発熱及びガス発生を抑制するためであると推定される。
【0030】
より具体的には、前記金属酸化物は、MoO、V、ZrO、TiO、WO、CuO、NiO、MnO、Co、Bi、Sb、Ga、及びGeOでなる群から選択された1種以上であってよいが、これに限定されるものではない。好ましくは、前記金属酸化物は、MoO、V、ZrO、TiO、及びWOでなる群から選択された1種以上であってよい。
【0031】
一方、前記金属酸化物は、前記正極活物質層の全重量を基準に0.1から2重量%、好ましくは、0.1から1重量%、より好ましくは、0.1から0.5重量%で含まれてよい。金属酸化物の含量が前記範囲を満たす時、発熱抑制効果に優れ、正極容量の低下が最小化される。
【0032】
一方、前記正極活物質は、遷移金属全体のうちニッケルの含有量が80atm%以上であるリチウム遷移金属酸化物を含む。具体的には、前記リチウム遷移金属酸化物は、下記化学式1で表されるものであってよい。
【0033】
[化学式1]
Li1+x[NiCoMn]O2-p
前記化学式1において、Mは、遷移金属(Ni、Co、Mn)サイト(site)で置換されたドーピング元素であり、W、Cu、Fe、V、Cr、Ti、Zr、Zn、Al、Ta、Y、In、La、Sr、Ga、Sc、Gd、Sm、Ca、Ce、Nb、Mg、B及びMoでなる群から選択される1種以上の元素であってよい。好ましくは、前記Mは、Al、Zr、W、Ti、Nb及びBでなる群から選択される1種以上であってよい。
【0034】
前記は、リチウム遷移金属酸化物内の酸素サイト(site)置換された元素であり、F、Cl、Br、I、At及びSでなる群から選択された1種以上の元素であってよい。
【0035】
一方、前記1+xは、リチウム遷移金属酸化物内のリチウム原子分率を示すもので、0≦x≦0.3、好ましくは、0≦x≦0.2、より好ましくは、0≦x≦0.1であってよい。
【0036】
前記yは、リチウム遷移金属酸化物内のニッケルの原子分率を示すもので、0.8≦y<1であってよい。
【0037】
前記zは、リチウム遷移金属酸化物内のコバルトの原子分率を示すもので、0<z<0.2であってよい。
【0038】
前記wは、リチウム遷移金属酸化物内のマンガン原子分率を示すもので、0<w<0.2であってよい。
【0039】
リチウム遷移金属酸化物内の遷移金属モル比y、z、wが前記範囲を満たす時、エネルギー密度に優れた正極活物質を得ることができる。
【0040】
前記vは、リチウム遷移金属酸化物内のドーピング元素Mのモル比を示すもので、0≦v≦0.1、好ましくは、0.0005≦v≦0.08、より好ましくは、0.001≦v≦0.02、さらに好ましくは、0.002≦v≦0.01であってよい。
【0041】
前記pは、リチウム遷移金属酸化物内の元素のモル比を示すもので、0≦p≦0.1、好ましくは、0≦p≦0.05であってよい。
【0042】
より具体的には、前記[化学式1]で表されるリチウム遷移金属酸化物は、Li1+x[NiCoMn]O、Li1+x[NiCoMnAl]O等であってよいが、これに限定されるものではない。
【0043】
一方、前記リチウム遷移金属酸化物は、Al、Ti、W、B、F、P、Mg、Ni、Co、Fe、Cr、V、Cu、Ca、Zn、Zr、Nb、Mo、Sr、Sb、Bi、Si、及びSでなる群から選択された1種以上の元素でなる群から選択される少なくとも一つ以上のコーティング元素を含むコーティング層をさらに含んでよい。例えば、前記コーティング層によって前記正極活物質とリチウム二次電池に含まれる電解液との接触が遮断され副反応発生が抑制されるため、電池に適用時の寿命特性を向上させることができ、さらに正極活物質の充填密度を増加させることができる。
【0044】
前記のように、コーティング元素をさらに含む場合、前記コーティング層内のコーティング元素の含量は、リチウム遷移金属酸化物の全重量に対して、100ppmから10,000ppm、好ましくは、200ppmから5,000ppmであってよい。前記範囲でコーティング元素を含む場合、電解液との副反応発生がより効果的に抑制され、電池に適用時の寿命特性がより向上され得る。
【0045】
一方、前記リチウム遷移金属酸化物は、粒子内で遷移金属元素の含量が位置によらず一定であってよく、粒子内部の位置によって一つ以上の金属元素の含量が変化されるものであってもよい。例えば、前記リチウム遷移金属酸化物は、Ni、Mn、及びCoのうち少なくとも一つ以上の成分が漸進的に変化する濃度勾配を有してよく、前記「漸進的に変化する濃度勾配」は、前記成分の濃度が粒子全体又は特定領域で連続して段階的に変化する濃度分布で存在することを意味する。
【0046】
前記正極活物質は、正極活物質層の全重量を基準に70重量%から99.5重量%、好ましくは、80重量%から99重量%、より好ましくは、85重量%から95重量%で含まれてよい。前記含量範囲で優れたエネルギー密度を得ることができる。
【0047】
一方、前記正極活物質層は、前記の正極活物質及び金属酸化物以外に、導電材、バインダー等のような成分をさらに含んでよい。
【0048】
前記バインダーは、活物質と導電材等の結合と集電体に対する結合を助ける成分であって、通常正極活物質層の全重量を基準に0.5から20重量%で添加される。このようなバインダーの例としては、ポリビニリデンフルオリド、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース(CMC)、澱粉、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン-ジエンターポリマー(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレン-ブタジエンゴム、フッ素ゴム多様な共重合体等が挙げられる。
【0049】
また、前記導電材は、当該電池に化学的変化を誘発することなく導電性を有するものであれば、特別に制限されるのではなく、例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック又はサーマルブラック等の炭素粉末と、結晶構造が非常に発達した天然黒鉛、人造黒鉛、又はグラファイト等の黒鉛粉末と、炭素繊維や金属繊維等の導電性繊維と、フッ化カーボン、アルミニウム、ニッケル粉末等の金属粉末と、酸化亜鉛、チタン酸カリウム等の導電性ウィスカーと、酸化チタン等の導電性金属酸化物と、ポリフェニレン誘導体等の導電性素材等が用いられてよい。前記導電材は、通常正極活物質層の全重量を基準に0.5から20重量%で添加される。
【0050】
前記のような正極活物質層を含む本発明の正極は、当該技術分野に知られた一般的な正極形成方法を介して製造されてよい。例えば、前記正極は、正極集電体上に正極活物質層の成分を有機溶媒中に分散させた正極合剤を塗布した後、乾燥して圧延する方法で製造されるか、正極合剤を別途の指示体上にキャスティングした後、この支持体から剥離して得たフィルムを正極集電体上にラミネーションすることで製造されてもよい。
【0051】
このとき、前記正極集電体は、電池に化学的変化を誘発することなく導電性を有するものであれば、特に制限されるのではなく、例えば、ステンレススチール、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素又はアルミニウムやステンレススチールの表面に炭素、ニッケル、チタン、銀等で表面処理したもの等が用いられてよい。また、前記正極集電体は、通常3μmから500μmの厚さを有してよく、前記正極集電体表面上に微細な凹凸を形成し正極活物質の接着力を高めてもよい。例えば、フィルム、シート、ホイル、ネット、多孔質体、発泡体、不織布体等、多様な形態で用いられてよい。
【0052】
一方、前記正極合剤の溶媒は、当該技術分野で一般的に用いられる溶媒であってよい。例えば、前記溶媒としては、ジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide、DMSO)、イソプロピルアルコール(isopropyl alcohol)、N-メチルピロリドン(NMP)、アセトン(acetone)、水又はこれらの混合物が用いられてよい。前記溶媒の使用量は、正極合剤のコーティング工程性、製造収率、最終製品の物性等を考慮して適切に調節されてよい。
【0053】
二次電池
次に、本発明による二次電池に対して説明する。
【0054】
本発明による二次電池は、前記本発明の正極、負極、分離膜及び電解質を含む。具体的には、本発明の二次電池は、正極、前記正極と対向して位置する負極、前記正極及び負極の間に介在される分離膜及び電解質を含み、このとき、前記正極は、上述した本発明の正極、すなわち、正極活物質層に正極活物質及びリチウムとの結合ポテンシャル(potential)が0.5から4Vである金属元素を含む金属酸化物を含む正極である。正極に関連する内容は上述した通りであるため、具体的な説明は省略する。
【0055】
前記負極は、リチウム二次電池分野で使用可能な負極が用いられてよく、その種類が特別に限定されるのではない。例えば、前記負極は、負極集電体及び前記負極集電体の少なくとも一面に位置する負極活物質を含むものであってよい。
【0056】
前記負極集電体は、電池に化学的変化を誘発することなく高い導電性を有するものであれば、特に制限されるものではなく、例えば、銅、ステンレススチール、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素、銅やステンレススチールの表面に炭素、ニッケル、チタン、銀等で表面処理したもの、アルミニウム-カドミウム合金等が用いられてよい。また、前記負極集電体は、通常3μmから500μmの厚さを有してよく、正極集電体と同様に、前記集電体表面に微細な凹凸を形成し負極活物質の結合力を強化させてもよい。例えば、フィルム、シート、ホイル、ネット、多孔質体、発泡体、不織布体等、多様な形態で用いられてよい。
【0057】
前記負極活物質層は、負極活物質を含み、また、必要に応じてバインダー及び導電材のうち少なくとも1種を選択的にさらに含んでよい。
【0058】
前記負極活物質としては、リチウムの可逆的なインターカレーション及びデインターカレーションの可能な化合物が用いられてよい。具体的な例としては、人造黒鉛、天然黒鉛、黒鉛化炭素繊維、非晶質炭素等の炭素質材料と、Si、Al、Sn、Pb、Zn、Bi、In、Mg、Ga、Cd、Si合金、Sn合金又はAl合金等リチウムと合金化が可能な金属質化合物と、SiO(0<v<2)、SnO、バナジウム酸化物、リチウムバナジウム酸化物のようにリチウムをドープ及び脱ドープできる金属酸化物と、又はSi-C複合体又はSn-C複合体のように、前記金属質化合物と炭素質材料を含む複合物等が挙げられ、これらのうち何れか一つ又は二つ以上の混合物が用いられてよい。また、前記負極活物質として、金属リチウム薄膜が用いられてもよい。
【0059】
前記バインダー及び導電材は、先立って正極で説明した通りのものであってよい。
【0060】
前記負極は、負極活物質、バインダー及び導電材等を溶媒中に分散させた負極合剤を負極集電体上に塗布し乾燥するか、又は前記負極合剤を別途の支持体上にキャスティングした後、この支持体から剥離して得たフィルムを負極集電体上にラミネーションすることで製造されてよい。
【0061】
次に、前記分離膜は、負極と正極を分離し、リチウムイオンの移動通路を提供するもので、通常リチウム二次電池において分離膜に用いられるものであれば、特別な制限なく使用可能であり、特に電解質のイオン移動に対して低抵抗、且つ、電解液の含湿能力に優れたものが好ましい。
【0062】
具体的に、前記分離膜としては、多孔性高分子フィルム、例えば、エチレン単独重合体、プロピレン単独重合体、エチレン/ブテン共重合体、エチレン/ヘキセン共重合体、及びエチレン/メタクリレート共重合体等のようなポリオレフィン系高分子で製造した多孔性高分子フィルム、又はこれらの2層以上の積層構造体が用いられてよい。また、通常の多孔性不織布、例えば、高融点の硝子繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維等でなった不織布が用いられてもよい。また、耐熱性又は機械的強度確保のためにセラミック成分又は高分子物質が含まれたコーティングされた分離膜が用いられてもよく、選択的に単層又は多層構造で用いられてよい。
【0063】
一方、前記電解質としては、リチウム二次電池製造時に使用可能な有機系液体電解質、無機系液体電解質、固体高分子電解質、ゲル型高分子電解質、固体無機電解質、溶融型無機電解質等が用いられてよいが、これらに限定されるものではない。
【0064】
具体的に、前記電解質は、有機溶媒及びリチウム塩を含んでよい。
【0065】
前記有機溶媒としては、電池の電気化学的反応に関与するイオンが移動できる媒質の役割をできるものであれば、特別な制限なく用いられてよい。具体的に、前記有機溶媒としては、メチルアセテート(methyl acetate)、エチルアセテート(ethyl acetate)、γ-ブチロラクトン(γ-butyrolactone)、ε-カプロラクトン(ε-caprolactone)等のエステル系溶媒と、ジブチルエーテル(dibutyl ether)又はテトラヒドロフラン(tetrahydrofuran)等のエーテル系溶媒と、シクロヘキサノン(cyclohexanone)等のケトン系溶媒と、ベンゼン(benzene)、フルオロベンゼン(fluorobenzene)等の芳香族炭化水素系溶媒と、ジメチルカーボネート(dimethylcarbonate、DMC)、ジエチルカーボネート(diethylcarbonate、DEC)、メチルエチルカーボネート(methylethylcarbonate、MEC)、エチルメチルカーボネート(ethylmethylcarbonate、EMC)、エチレンカーボネート(ethylene carbonate、EC)、プロピレンカーボネート(propylene carbonate、PC)等のカーボネート系溶媒と、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等のアルコール系溶媒と、Ra-CN(Raは炭素数2から20の直鎖状、分岐状又は環状構造の炭化水素基であり、二重結合芳香環又はエーテル結合を含んでよい)等のニトリル類と、ジメチルホルムアミド等のアミド類と、1,3-ジオキソラン等のジオキソラン類と、又はスルホラン(sulfolane)類等が用いられてよい。
【0066】
前記リチウム塩は、リチウム二次電池で用いられるリチウムイオンを提供できる化合物であれば、特別な制限なく用いられてよい。具体的に、前記リチウム塩は、LiPF、LiClO、LiAsF、LiBF、LiSbF、LiAlO、LiAlCl、LiCFSO、LiCSO、LiN(CSO、LiN(CSO、LiN(CFSO、LiCl、LiI、又はLiB(C 等が用いられてよい。前記リチウム塩の濃度は、0.1Mから2.0Mの範囲内で用いた方がよい。リチウム塩の濃度が前記範囲に含まれれば、電解質が適切な伝導度及び粘度を有するため、優れた電解質性能を示すことができ、リチウムイオンが効果的に移動できる。
【0067】
前記電解質には、前記電解質の構成成分の他にも電池の寿命特性向上、電池の容量減少抑制、電池の放電容量向上等を目的とし、例えば、ジフルオロエチレンカーボネート等のようなハロアルキレンカーボネート系化合物、又はピリジン、トリエチルホスファイト、トリエタノールアミン、環状エーテル、エチレンジアミン、n-グリム(glyme)、ヘキサリン酸トリアミド、ニトロベンゼン誘導体、硫黄、キノンイミン染料、N-置換オキサゾリジノン、N,N-置換イミダゾリジン、エチレングリコールジアルキルエーテル、アンモニウム塩、ピロール、2-メトキシエタノール又は三塩化アルミニウム等の添加剤が1種以上さらに含まれてもよい。このとき、前記添加剤は、電解質の全重量に対して、0.1重量%から5重量%で含まれてよい。
【0068】
前記のような本発明の正極を適用した二次電池は、正極活物質層に金属酸化物を含まない従来の二次電池に比べて優れた熱安定性を有する。
【0069】
本発明者は、加速速度熱量測定法(Accelerating rate calorimetry)を用いて本発明の二次電池の自己発熱時間及び瞬間発熱量を測定した。具体的な測定方法は次の通りである。
【0070】
先ず、本発明の正極/分離膜/負極でなる電極組立体をパウチに入れて電解質を注入した後密封し、モノセル2個を製造する。その後、図3に示された通り、前記モノセル10の間に温度測定装置(温度計)30を挿入した後、アルミニウムバンド20で結束して試料を製作する。前記のように製作された試料を、加熱装置が備えられたチャンバに入れて一定の昇温速度で設定温度まで昇温した後、一定時間チャンバ温度を維持させる段階を2回以上繰り返し実施する。このとき、前記温度維持区間で電池セルの温度をモニタリングして、電池セルの昇温速度が一定水準以上の場合には自己発熱が発生したものと評価し、自己発熱が発生したものと判断されれば、チャンバの温度を電池セル温度と同一になるように昇温し、熱伝達による電池セルの自己発熱量の損失を防止する。
【0071】
本発明において、前記昇温は、チャンバ温度が200℃以上、例えば、205℃になるまで行われてよく、昇温速度は1~5℃/min程度であってよいが、これに限定されるのではない。
【0072】
前記自己発熱時間は、前記方法を介して測定された電池セルの自己発熱が発生した時間の合計を意味し、瞬間発熱量は、前記のような方法を介して測定された電池セルの温度を、時間によって1次微分した値を意味する。
【0073】
前記のような方法により、本発明による二次電池の自己発熱時間及び瞬間発熱量を測定してみた結果、本発明の二次電池は、同一の組成のリチウム遷移金属酸化物を含み金属酸化物を含まない正極を含む二次電池に比べて、205℃に到達するまでの自己発熱時間が30%以上長く、瞬間発熱量は全区間において0.3以下に低く示された。
【0074】
特定温度に到達するまでの自己発熱時間が長いというのは、高温条件で発熱が遅れることを意味するもので、本発明の二次電池が従来の二次電池に比べて優れた熱安定性を有することを示すものである。また、本発明の二次電池は、従来の電池に比べて瞬間発熱量が低いため、瞬間発熱による爆発等の危険性が非常に低い。
【実施例
【0075】
以下、具体的な実施例を介して本発明をより詳しく説明する。
【0076】
実施例1
正極活物質として濃度勾配を有するLi[Ni0.83Co0.075Mn0.075Al0.02]O、金属酸化物MoO、カーボンブラック導電材及びPVdFバインダーをN-メチルピロリドン溶媒中に97.2:0.3:1:1.5の重量比で混合して正極合剤を製造し、これをアルミニウム集電体に塗布してから130℃で乾燥後、圧延して正極を製造した。
【0077】
負極活物質、カーボンブラック導電材及びPVdFバインダーを、N-メチルピロリドン溶媒中に97:1.5:1.5の重量比で混合して負極合剤を製造し、これを銅集電体の一面に塗布してから130℃で乾燥後、圧延して負極を製造した。
【0078】
前記のように製造された正極と負極の間に多孔性ポリエチレン分離膜を介在して電極組立体を製造し、前記電極組立体をパウチ部に位置させた後、パウチ内部に電解液を注入してモノセル二次電池を製造した。このとき、電解液としては、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)を3:4:3の重量比で混合した非水溶媒に1M濃度のLiPFを溶解させて用いた。
【0079】
実施例2
金属酸化物としてMoOの代わりにVを用いた点を除いては、実施例1と同一の方法で正極及び二次電池を製造した。
【0080】
実施例3
金属酸化物としてMoOの代わりにZrOを用いた点を除いては、実施例1と同一の方法で正極及び二次電池を製造した。
【0081】
実施例4
金属酸化物としてMoOの代わりにTiOを用いた点を除いては、実施例1と同一の方法で正極及び二次電池を製造した。
【0082】
比較例1
金属酸化物を用いず、濃度勾配を有するLi[Ni0.83Co0.075Mn0.075Al0.02]O、カーボンブラック導電材及びPVdFバインダーをN-メチルピロリドン溶媒中に97.5:1:1.5の重量比で混合して正極合剤を製造した点を除いては、実施例1と同一の方法で正極及び二次電池を製造した。
【0083】
比較例2
金属酸化物を用いず、均一な組成を有するLi[Ni0.83Co0.075Mn0.075Al0.02]O、カーボンブラック導電材及びPVdFバインダーをN-メチルピロリドン溶媒中に97.5:1:1.5の重量比で混合して正極合剤を製造した点を除いては、実施例1と同一の方法で正極及び二次電池を製造した。
【0084】
実験例
実施例1~4及び比較例1~2によって製造されたそれぞれの二次電池を2個ずつ準備し、前記2個の二次電池の間に温度計を挿入した後、アルミニウムバンドを用いて結束し、試料を製作した。その後、前記試料を加熱装置が備えられたチャンバに入れ、昇温速度2℃/minで120℃まで昇温した後、温度を2時間維持し、前記維持時間が完了すると再び昇温速度2℃/minで150℃まで昇温してから温度を2時間維持し、再び昇温速度2℃/minで205℃まで昇温した後、温度を30分間維持するようにチャンバ温度を設定した。その後、試料の温度をモニタリングし、自己発熱発生の有無、自己発熱発生区間における二次電池の温度及び自己発熱発生時間を測定しており、これに基づいて瞬間発熱量を測定した。
【0085】
このとき、試料温度の昇温速度が0.02℃/min以上の場合に自己発熱が発生したものと評価し、自己発熱が発生したものと判断されれば、既存の設定温度を無視してチャンバの温度を電池セル温度と同一になるように昇温し、熱伝達による電池セルの自己発熱量の損失を防止した。また、自己発熱区間における二次電池の温度を自己発熱時間に対して1次微分し、瞬間発熱量を計算した。
【0086】
図1には、前記方法で測定された自己発熱時間vs二次電池の温度グラフが示されており、図2には、前記図1のグラフを1次微分した値を温度によって示したグラフが示されている。また、前記図1及び図2のグラフを介して計算された自己発熱時間及び瞬間発熱量の最大値を下記表1に示した。括弧内に記載された数値は、比較例1対比自己発熱量増加率と瞬間発熱量最大値の減少率である。
【0087】
【表1】
【0088】
前記表1、図1及び図2を介して正極活物質層に金属酸化物を含む実施例1~4の二次電池が、比較例1~2の二次電池に比べて熱安定性に著しく優れることが確認できる。
図1
図2
図3