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特許7118639変性セルロース繊維、分散液、多孔質膜、蓄電素子、及び多孔質膜の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-05
(45)【発行日】2022-08-16
(54)【発明の名称】変性セルロース繊維、分散液、多孔質膜、蓄電素子、及び多孔質膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D06M 13/188 20060101AFI20220808BHJP
   C08B 3/00 20060101ALI20220808BHJP
   C08B 15/05 20060101ALI20220808BHJP
   D06M 13/02 20060101ALI20220808BHJP
   D06M 13/513 20060101ALI20220808BHJP
   H01G 9/02 20060101ALI20220808BHJP
   H01G 11/06 20130101ALI20220808BHJP
   H01G 11/52 20130101ALI20220808BHJP
   H01M 4/04 20060101ALI20220808BHJP
   H01M 50/409 20210101ALI20220808BHJP
   D06M 101/08 20060101ALN20220808BHJP
【FI】
D06M13/188
C08B3/00
C08B15/05
D06M13/02
D06M13/513
H01G9/02
H01G11/06
H01G11/52
H01M4/04 A
H01M50/409
D06M101:08
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2017252360
(22)【出願日】2017-12-27
(65)【公開番号】P2019116705
(43)【公開日】2019-07-18
【審査請求日】2020-09-10
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000220239
【氏名又は名称】東京応化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(72)【発明者】
【氏名】植松 照博
(72)【発明者】
【氏名】引間 武
【審査官】伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-171698(JP,A)
【文献】特開2013-044076(JP,A)
【文献】特開2014-175232(JP,A)
【文献】特開2016-110777(JP,A)
【文献】国際公開第1996/018764(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 13/00-15/715
C08B 1/00-37/18
H01M 4/00- 4/62,
50/40-50/497
H01G 9/02- 9/035,
11/06-11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質膜の形成に用いられる変性セルロース繊維であって、
前記変性セルロース繊維は、未変性セルロース繊維が有する水酸基の一部における、前記水酸基中の水素原子が、前記水酸基に由来する酸素原子とO-C結合により結合する炭素原子数6以上の有機基で置換された繊維であり、
前記有機基が、下記式(1):
-(CO)-R・・・(1)
(式(1)中、nは0又は1であり、nが0である場合に、Rは、炭素原子数6以上の炭化水素基であり、nが1である場合に、Rは、炭素原子数5以上の炭化水素基である。)で表される基である、変性セルロース繊維。
【請求項2】
前記未変性セルロース繊維中の水酸基の数をNとし、前記変性セルロース繊維中の水酸基の数をNとする場合に、下記式:
置換度=(N-N)/N
で算出される置換度が0.4以下である、請求項1に記載の変性セルロース繊維。
【請求項3】
多孔質膜の形成に用いられる分散液であって、
前記分散液が、請求項1又は2に記載の前記変性セルロース繊維と、有機溶剤とを含む、分散液。
【請求項4】
前記有機溶剤の沸点が、70℃以上250℃以下である、請求項に記載の分散液。
【請求項5】
前記分散液が電極に対して塗布され、形成される前記多孔質膜がセパレータとして用いられる、請求項3又は4に記載の分散液。
【請求項6】
室温(20℃)における粘度が、5cp以上1500cp以下である、請求項3~5のいずれか1項に記載の分散液。
【請求項7】
前記分散液中の、前記変性セルロース繊維の体積平均粒子径が5μm以上100μm以下である、請求項3~6のいずれか1項に記載の分散液。
【請求項8】
請求項3~7のいずれか1項に記載の分散液からなる塗布膜を乾燥させてなる多孔質膜。
【請求項9】
空孔率が20体積%以上80体積%以下である、請求項に記載の多孔質膜。
【請求項10】
平均孔径が0.02μm以上0.5μm以下である、請求項8又は9に記載の多孔質膜。
【請求項11】
請求項8~10のいずれか1項に記載の多孔質膜を備える蓄電素子。
【請求項12】
基材上に請求項3~7のいずれか1項に記載の前記分散液を塗布して塗布膜を形成する工程と、
前記塗布膜を乾燥させて多孔質膜を形成する工程と、を備える、多孔質膜の製造方法。
【請求項13】
前記基材が電極である、請求項12に記載の多孔質膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質膜の形成に好適に用いられる変性セルロース繊維と、前述の変性セルロース繊維を含む分散液と、前述の分散液を用いて形成される多孔質膜と、前述の多孔質膜を備える蓄電素子と、前述の分散液を用いる多孔質膜の製造方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、種々の多孔質膜がフィルタ等の用途で使用されている。また、近年、多孔質膜は、リチウム電池等の二次電池用のセパレータ用途への応用も進んでいる。
【0003】
セパレータとして使用される多孔質膜としては、例えば、電極に固着するように形成された繊維集積体の形態で繊維材料を含む多孔質膜が提案されている(特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-191871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されるセパレータとしての機能を有する多孔質膜は、セルロース繊維を含むスラリーを用いて製造されている。しかし、セルロース繊維を含むスラリーからなる塗布膜を乾燥させる場合、セルロース繊維間で水素結合が形成されることに起因して、所望する開口径や空孔率を有する多孔質膜を形成しにくいことがある。また、セルロース繊維は、水や有機溶剤等の種々の分散媒に良好に分散しにくい場合が多い。セルロース繊維の分散状態が不均一であると、スラリーを用いて形成される多孔質膜の膜厚や開口径の均一性が十分でなかったりする場合が多い。多孔質膜の膜厚や開口径が不均一であると、電場の偏りにより、リチウムデンドライトの生成等の問題が生じやすく、高性能な電気化学素子を得にくい。
【0006】
本発明は、上記の課題に鑑みなされたものであって、分散液中に良好に分散させることが容易であり、多孔質膜を安定的に形成することのできる変性セルロース繊維と、当該変性セルロース繊維を含む分散液と、前述の分散液を用いて形成される多孔質膜と、前述の多孔質膜を備える蓄電素子と、前述の分散液を用いる多孔質膜の製造方法とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、塗布及び乾燥による多孔質膜の形成に用いられるセルロース繊維について、未変性セルロース繊維が有する水酸基の一部における、水酸基中の水素原子を特定の疎水性基で置換する変性処理を施すか、変性セルロース繊維0.1gを純水10mLに混合し、次いで30秒間振とうし、さらに30秒静置した場合に、変性セルロース繊維が純水に対して浮上するように変性処理を施すことによって、上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の第1の態様は、多孔質膜の形成に用いられる変性セルロース繊維であって、
変性セルロース繊維は、未変性セルロース繊維が有する水酸基の一部における、水酸基中の水素原子が、水酸基に由来する酸素原子とO-C結合により結合する炭素原子数3以上の有機基、及び/又はオルガノシリル基で置換された繊維である、
変性セルロース繊維である。
【0009】
本発明の第2の態様は、多孔質膜の形成に用いられる変性セルロース繊維であって、
変性セルロース繊維0.1gを純水10mLに混合し、次いで30秒間振とうし、さらに30秒静置した場合に、変性セルロース繊維が前記純水に対して浮上する、変性セルロース繊維である。
【0010】
本発明の第3の態様は、多孔質膜の形成に用いられる分散液であって、
分散液が、第1の態様、又は第2の態様にかかる変性セルロース繊維と、有機溶剤とを含む、分散液である。
【0011】
本発明の第4の態様は、第3の態様にかかる分散液からなる塗布膜を乾燥させてなる多孔質膜である。
【0012】
本発明の第5の態様は、第4の態様にかかる多孔質膜を備える蓄電素子である。
【0013】
本発明の第6の態様は、
基材上に第3の態様にかかる分散液を塗布して塗布膜を形成する工程と、
塗布膜を乾燥させて多孔質膜を形成する工程と、を備える、多孔質膜の製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、分散液中に良好に分散させることが容易であり、多孔質膜を安定的に形成することのできる変性セルロース繊維と、当該変性セルロース繊維を含む分散液と、前述の分散液を用いて形成される多孔質膜と、前述の多孔質膜を備える蓄電素子と、前述の分散液を用いる多孔質膜の製造方法とを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
≪変性セルロース繊維≫
変性セルロース繊維は、多孔質膜の形成に用いられる変性セルロース繊維である。多孔質膜の形成については、後述の分散液についての説明において詳細に記す。
【0016】
変性セルロース繊維の好ましい一態様は、未変性セルロース繊維が有する水酸基の一部における、水酸基中の水素原子が、水酸基に由来する酸素原子とO-C結合により結合する炭素原子数3以上の有機基、及び/又はオルガノシリル基で置換された繊維である、変性セルロース繊維である。以下、この変性セルロース繊維について、「第1の変性セルロース繊維」とも記す。
【0017】
また、変性セルロース繊維の他の好ましい一態様は、変性セルロース繊維0.1gを純水10mLに混合し、次いで30秒間振とうし、さらに30秒静置した場合に、変性セルロース繊維が前記純水に対して浮上する、変性セルロース繊維である。以下、この変性セルロース繊維について「第2の変性セルロース繊維」とも記す。
【0018】
上記の、好ましい態様にかかる変性セルロース繊維は、有機溶剤に対して容易に良好に分散される。このため、上記の変性セルロース繊維を含む分散液を用いる場合、膜厚や開口径が均一である多孔質膜の形成が容易である。
【0019】
<第1の変性セルロース繊維>
前述の通り、第1の変性セルロース繊維は、未変性セルロース繊維が有する水酸基の一部における、水酸基中の水素原子が、水酸基に由来する酸素原子とO-C結合により結合する炭素原子数3以上の有機基、及び/又はオルガノシリル基で置換された繊維である、
変性セルロース繊維である。
以下、未変性セルロース繊維が有する水酸基中の水素原子を置換する置換基を、「O-置換基」とも記す。
【0020】
第1の変性セルロース繊維におけるO-置換基が、水酸基に由来する酸素原子とO-C結合により結合する炭素原子数3以上の有機基である場合、当該有機基の種類は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。
【0021】
O-置換基としての有機基の炭素原子数は、3以上であり、4以上が好ましい。O-置換基としての有機基の炭素原子数は、例えば、6以上でもよく、8以上でもよく、10以上でもよく、15以上でもよい。
O-置換基としての有機基の炭素原子数は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。O-置換基としての有機基の炭素原子数は、例えば、50以下が好ましく、30以下がより好ましく、20以下が特に好ましい。
【0022】
O-置換基としての有機基は、炭化水素基でもよく、炭素原子、及び水素原子以外のヘテロ原子を含む基であってもよい。ヘテロ原子の例としては、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子、ハロゲン原子、ホウ素原子、及びケイ素原子等が挙げられる。
【0023】
O-置換基としての有機の構造は特に限定されず、直鎖状であっても、分岐鎖状であっても、環状であっても、これらの構造の組み合わせであってもよい。O-置換基は、脂肪族基であっても、芳香族基であってもよい。O-置換基は、1以上の不飽和結合を含んでいてもよい。
O-置換基同士の立体的な障害が少なく、変性セルロース繊維へのO-置換基の導入が容易であることから、O-置換基としては、環式構造を含まない、直鎖状又は分岐鎖状の有機基が好ましい。
【0024】
ヘテロ原子を含む有機基の例としては、アルコキシアルキル基、シクロアルキルオキシアルキル基、アリールオキシアルキル基、アラルキルオキシアルキル基、アルコキシアリール基、シクロアルコキシアリール基、アリールオキシアリール基、アラルキルオキシアリール基、アシル基、アルコキシカルボニル基、シクロアルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化シクロアルキル基、ハロゲン化アリール基、及びハロゲン化アラルキル基等が挙げられる。
これらの中では、アルコキシアルキル基、シクロアルキルオキシアルキル基、アリールオキシアルキル基、アラルキルオキシアルキル基、アルコキシアリール基、アリールオキシアリール基、アラルキルオキシアリール基、アシル基、及びハロゲン化アルキル基が好ましい。
【0025】
アルコキシアルキル基の好適な例としては、2-メトキシエチル基、3-メトキシ-n-プロピル基、4-メトキシ-n-ブチル基、5-メトキシ-n-ペンチル基、6-メトキシ-n-ヘキシル基、7-メトキシ-n-へプチル基、8-メトキシ-n-オクチル基、9-メトキシ-n-ノニル基、10-メトキシ-n-デシル基、2-エトキシエチル基、3-エトキシ-n-プロピル基、4-エトキシ-n-ブチル基、5-エトキシ-n-ペンチル基、6-エトキシ-n-ヘキシル基、7-エトキシ-n-へプチル基、8-エトキシ-n-オクチル基、9-エトキシ-n-ノニル基、及び10-エトキシ-n-デシル基が挙げられる。
【0026】
シクロアルキルオキシアルキル基の好適な例としては、2-シクロペンチルオキシエチル基、3-シクロペンチルオキシ-n-プロピル基、4-シクロペンチルオキシ-n-ブチル基、5-シクロペンチルオキシ-n-ペンチル基、6-シクロペンチルオキシ-n-ヘキシル基、7-シクロペンチルオキシ-n-へプチル基、8-シクロペンチルオキシ-n-オクチル基、9-シクロペンチルオキシ-n-ノニル基、10-シクロペンチルオキシ-n-デシル基、2-シクロヘキシルオキシエチル基、3-シクロヘキシルオキシ-n-プロピル基、4-シクロヘキシルオキシ-n-ブチル基、5-シクロヘキシルオキシ-n-ペンチル基、6-シクロヘキシルオキシ-n-ヘキシル基、7-シクロヘキシルオキシ-n-へプチル基、8-シクロヘキシルオキシ-n-オクチル基、9-シクロヘキシルオキシ-n-ノニル基、及び10-シクロヘキシルオキシ-n-デシル基が挙げられる。
【0027】
アリールオキシアルキル基の好適な例としては、2-フェノキシエチル基、3-フェノキシ-n-プロピル基、4-フェノキシ-n-ブチル基、5-フェノキシ-n-ペンチル基、6-フェノキシ-n-ヘキシル基、7-フェノキシ-n-へプチル基、8-フェノキシ-n-オクチル基、9-フェノキシ-n-ノニル基、及び10-フェノキシ-n-デシル基が挙げられる。
【0028】
アラルキルオキシアルキル基の好適な例としては、2-ベンジルオキシエチル基、3-ベンジルオキシ-n-プロピル基、4-ベンジルオキシ-n-ブチル基、5-ベンジルオキシ-n-ペンチル基、6-ベンジルオキシ-n-ヘキシル基、7-ベンジルオキシ-n-へプチル基、8-ベンジルオキシ-n-オクチル基、9-ベンジルオキシ-n-ノニル基、及び10-ベンジルオキシ-n-デシル基が挙げられる。
【0029】
アルコキシアリール基の好適な例としては、p-メトキシフェニル基、m-メトキシフェニル基、o-メトキシフェニル基、p-エトキシフェニル基、m-エトキシフェニル基、o-エトキシフェニル器、p-n-プロピルオキシフェニル基、m-n-プロピルオキシフェニル基、o-n-プロピルオキシフェニル基、p-n-ブチルオキシフェニル基、m-n-ブチルオキシフェニル基、及びo-n-ブチルオキシフェニル基が挙げられる。
【0030】
アリールオキシアリール基の好適な例としては、p-フェノキシフェニル基、m-フェノキシフェニル基、及びo-フェノキシフェニル基が挙げられる。
【0031】
アラルキルオキシアリール基の好適な例としては、p-ベンジルオキシフェニル基、m-ベンジルオキシフェニル基、及びo-ベンジルオキシフェニル基が挙げられる。
【0032】
ハロゲン化アルキル基に含まれるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、及びヨウ素原子が好ましく、フッ素原子がより好ましい。
ハロゲン化アルキル基において、アルキル基が有する水素原子の少なくとも一部がハロゲン原子で置換されていればよく、アルキル基が有する水素原子の全ての水素原子がハロゲン原子で置換されていてもよい。
【0033】
ハロゲン化アルキル基の好適な例としては、-(CFCF、-(CFCF、-(CFCF、-(CFCF、-(CFCF、-(CFCF、-(CFCF、-(CFCF、-CHCFCF、-CH(CFCF、-CH(CFCF、-CH(CFCF、-CH(CFCF、-CH(CFCF、-CH(CFCF、-CH(CFCF、-CHCHCF、-CHCHCFCF、-CHCH(CFCF、-CHCH(CFCF、-CHCH(CFCF、-CHCH(CFCF、-CHCH(CFCF、-CHCH(CFCF、及び-CH(CFが挙げられる。
【0034】
アシル基の好適な例については、後述する。
【0035】
O-置換基としての有機基が炭化水素基である場合、炭化水素基の構造は特に限定されない。炭化水素基の好適な例としては、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基等が挙げられる。
炭化水素基の好適な例については、後述する。
【0036】
オルガノシリル基の好適な例としては、下記式(A1):
-SiRa1a2-(-O-SiRa1a2-)-Ra3・・・(A1)
で表される基が挙げられる。
a1、Ra2、及びRa3は、それぞれ独立に炭素原子数1以上6以下の炭化水素基であり、pは0以上の整数である。
【0037】
a1、Ra2、及びRa3は、それぞれ独立に、炭素原子数1以上4以下のアルキル基、又はフェニル基であるのが好ましい。Ra1、Ra2、及びRa3が全てメチル基であるのがより好ましい。
式(A1)中、pの上限は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。pは、0以上35以下の整数であるのが好ましく、0以上10以下の整数であるのがより好ましい。
【0038】
オルガノシリル基の好適な具体例としては、例えば、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリプロピルシリル基、トリイソプロピルシリル基、tert-ブチルジメチルシリル基、及びトリフェニルシリル基等が挙げられる。
また、上記式(A1)で表され、Ra1、Ra2、及びRa3が全てメチル基であり、pが1以上35以下の整数である基も、オルガノシリル基として好ましい。
【0039】
O-置換基としての有機基は、変性セルロース繊維の合成及び入手が容易であり、分散液調製時の変性セルロース繊維の分散性が特に良好である点から、下記式(1):
-(CO)-R・・・(1)
(式(1)中、nは0又は1であり、nが0である場合に、Rは、炭素原子数3以上の炭化水素基であり、nが1である場合に、Rは、炭素原子数2以上の炭化水素基である。)
で表される基が好ましい。式(1)で表される基は、nが0である場合に炭化水素基であり、nが1である場合にアシル基である。
つまり、O-置換基としての有機基は、炭化水素基、又はアシル基であるのが好ましい。
【0040】
としては、所定の数の炭素原子を有する炭化水素基であれば特に限定されない。Rの好適な例としては、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基等が挙げられる。
【0041】
がアルキル基である場合、アルキル基の好適な例としては、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、2-エチルヘキシル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、n-オクタデシル基、n-ノナデシル基、及びイコシル基が挙げられる。
がシクロアルキル基である場合、シクロアルキル基の好適な例としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロへプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、及びシクロデシル基が挙げられる。
がアリール基である場合、アリール基の好適な例としては、フェニル基、トリル基、ナフチル基、及びビフェニリル基が挙げられる。
がアラルキル基である場合、アラルキル基の好適な例としては、ベンジル基、フェネチル基、ナフタレン-1-イルメチル基、及びナフタレン-2-イルメチル基等が挙げられる。
【0042】
未変性のセルロース繊維に、以上説明したO-置換基を導入する方法は特に限定されない。O-置換基は、公知の種々の方法に従い、未変性のセルロース繊維に導入される。
【0043】
O-置換基と、酸素原子との結合がエーテル結合である場合、ウィリアムソンのエーテル合成法等の周知のエーテル合成法により、O-置換基が未変性セルロース繊維に導入される。
O-置換基と、酸素原子との結合がエステル結合である場合、有機酸の酸ハライド(好ましくは酸塩化物)や、有機酸の酸無水物等を用いる周知のアシル化方法により、O-置換基が未変性セルロース繊維に導入される。
O-置換基がオルガノシリル基である場合、例えば、ハロシランやアルコシキシシラン等を用いる周知のシリル化反応により、未変性のセルロース繊維にオルガノシリル基が導入される。
【0044】
未変性のセルロース繊維は、天然物から単離された天然セルロースであっても、化学的に合成された合成セルロースであってもよいが、安価且つ大量に入手可能であることから天然セルロースが好ましい。天然セルロースは、例えば、植物、動物、バクテリアの賛成するゲル等から単離される。天然セルロースの具体例としては、針葉樹系パルプ、広葉樹系パルプ、非木材系パルプ、バクテリアセルロース(BC)、ホヤから単離されるセルロース、海草から単離されるセルロース等が挙げられる。非木材系パルプとしては、綿系パルプ(例えば、コットンリンター,コットンリント等)、麦わらパルプ、及びバガスパルプ等が挙げられる。これらは、2種以上を組み合わせて使用されてもよい。
これらのなかでは、針葉樹系パルプと、広葉樹系パルプと、コットンリンター、コットンリント、麦わらパルプ、及びバガスパルプ等の非木材系パルプとが好ましい。
【0045】
天然セルロース繊維は、変性を行う際の反応効率を高める目的で、叩解等の表面積を高める処理を施されてもよい。
また、天然物からの単離、精製の後に、乾燥されずに湿潤状態で保存されていた天然セルロース繊維を用いるのも好ましい。使用すると、ミクロフィブリルの集束体が膨潤しやすい状態であるため、変性における反応効率が良好であり、分散液の調製時に微細化されやすい。
さらに、天然セルロース繊維は、周知の方法により、リグニン、ヘミセルロース等を低減させる精製を施された溶解パルプであってもよい。また、JIS規格(JIS P 3801:1995、ろ紙(化学分析用))に適合するろ紙の製造に使用される程度に、高度に精製されたセルロースを、変性に供される未変性のセルロース繊維として用いるのも好ましい。
【0046】
第1の変性セルロース繊維に置いて、前述の未変性セルロース繊維中の水酸基の数をNとし、変性セルロース繊維中の水酸基の数をNとする場合に、下記式:
置換度=(N-N)/N
で算出される置換度が0.4以下であるのが好ましい。置換度は、0.3以下が好ましく、0.2以下がより好ましい。
置換度の下限は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。置換度の下限は例えば、0.01以上が好ましく、0.03以上がより好ましく、0.05以上が特に好ましい。
【0047】
このように置換度の範囲を設定することにより、分散性の向上と、多孔質膜を得た際の、良好な形状の孔を得ることとのバランスを図ることができる。
【0048】
置換度は、O-置換基がアシル基である場合、第1の変性セルロース繊維のFT-IRスペクトルから算出することができる。より具体的には、FT-IRスペクトルに基づき、特開2014-148629号に記載の方法に準じ、適宜、検量線を作成しながらその置換度を求めることができる。
また、O-置換基がアシル基でない場合であっても、H-NMRスペクトルを測定することで、置換基の含まれる量を算出することができる。
【0049】
第1の変性セルロース繊維における置換度を調整する方法は特に限定されない。典型的には、置換度は、O-置換基を導入するために使用される試薬の使用量を調整することにより調整される。
また、未変性セルロース繊維の微細化や解砕の程度によっても、置換度を調整することができる。未変性セルロース繊維が高度に微細化されるほど、未変性セルロース繊維の表面に露出する水酸基量が増加するためである。
【0050】
以上説明した第1の変性セルロース繊維は、後述する分散液の調製に用いられる。
【0051】
<第2の変性セルロース繊維>
前述の通り、第2の変性セルロース繊維は、多孔質膜の形成に用いられる変性セルロース繊維であって、
変性セルロース繊維0.1gを純水10mLに混合し、次いで30秒間振とうし、さらに30秒静置した場合に、変性セルロース繊維が純水に対して浮上する、変性セルロース繊維である。
【0052】
第2の変性セルロース繊維についての変性とは、第1の変性セルロース繊維におけるような化学的な変性には限定されない。化学的な変性以外の変性方法としては、例えば、未変性のセルロース繊維の表面を、親水性部位と疎水性部位とを有する両親媒性物質で被覆する物理的な変性処理が挙げられる。
この場合、未変性セルロース繊維の表面が通常親水性であるため、両親媒性物質の親水性部位がセルロース繊維の表面側に向いた状態で、セルロース繊維の表面に両親媒性物質が付着する。その結果、処理後の変性セルロース繊維の表面には、両親媒性物質の疎水性部位が露出する。
このような、両親媒性物質としては、例えば、国際公開公報第2007/088974号パンフレットに記載される、高圧噴射流の衝突により解砕されたセルロースナノ繊維が挙げられる。
【0053】
第2の変性セルロース繊維としては、疎水化の程度の調整が容易であること等から、第1の変性セルロール繊維について説明した、化学的変性を施された変性セルロース繊維が好ましい。
【0054】
上記の条件を満たす第2の変性セルロース繊維は、有機溶剤に対して容易に良好に分散される。このため、第2の変性セルロース繊維を含む分散液を用いる場合、膜厚や開口径が均一である多孔質膜の形成が容易である。
【0055】
≪多孔質膜の形成に用いられる分散液≫
本実施形態の多孔質膜の形成に用いられる分散液は、前述の変性セルロース繊維を含む多孔質膜を形成するために用いられる。
上記の分散液を用いる多孔質膜の形成は、典型的には、基材上に分散液を塗布して塗布膜を形成する工程と、塗布膜を乾燥させる工程と、を含む。
以下、本願明細書において、特段説明がない限り、「分散液」は、「多孔質膜の形成に用いられる分散液」である。
【0056】
分散液は、変性セルロース繊維と、有機溶剤とを含む。分散液が前述の変性セルロース繊維を含むことにより、分散液において変性セルロース繊維が有機溶剤中に良好且つ安定に分散される。このため、分散液を用いて空孔率が高い多孔質膜を形成しやすい。
【0057】
分散液の粘度は、室温(20℃)において、5cp以上500cp以下が好ましく、10cp以上400cp以下がより好ましく、30cp以上300cp以下がさらにより好ましく、50cp以上200cp以下が特に好ましい。
分散液の粘度は、E型粘度計を用いて測定することができる。
分散液の粘度が上記の範囲内である場合、分散液の塗布性が良好であり、また、変性セルロース繊維が分散液中で良好に分散されており、且つ、変性セルロース繊維の分散安定性が良好である。
分散液の粘度は、分散液の固形分濃度を調整したり、有機溶剤の種類を変更したり、分散液中での変性セルロース繊維の分散径を調整したりすることにより調整できる。また、分散液を用いて形成される多孔質膜の特性に著しい悪影響が出ない限りにおいて、分散液に周知の粘度調整剤を加えて分散液の粘度を調整してもよい。
【0058】
以下、分散液の使用方法である多孔質膜の形成と、分散液に含まれる、必須、又は任意の成分と、分散液の調製方法とについて説明する。
【0059】
<多孔質膜の形成>
前述の通り、典型的には、上記の分散液を用いる多孔質膜の形成は、基材上に分散液を塗布して塗布膜を形成する工程と、塗布膜を乾燥させて多孔質膜を形成する工程と、を含む。
【0060】
基材は、分散液を塗布可能である限り特に限定されない。基材の例としては、ガラス、金属、ポリエチレンテレフタレートやポリカーボネート等の樹脂等からなる、フィルム、シート、基板等が挙げられる。
後述するように、分散液を用いて形成される多孔質膜は、蓄電素子におけるセパレータとして好ましく使用される。この場合、基材は、電極、より詳細には蓄電素子用の電極である。このように電極表面に分散液を塗布して多孔質膜を形成する場合、多孔質膜として電極表面に密着したセパレータが形成され、電極とセパレータとからなる電極複合体が得られる。
電極は、正極であっても負極であってもよい。
【0061】
分散液の塗布に用いられる装置は特に限定されない。塗布装置としては、例えば、ロールコータ、リバースコータ、バーコータ等の接触転写型塗布装置や、カーテンフローコータ、ダイコーター、スリットコーター、スプレー等の非接触型塗布装置を用いてもよい。
電極等の基材の表面に凹凸が存在する場合であっても本実施形態の分散液を適用することができる。このように基材表面に凹凸が存在している場合は、膜厚の均一な塗布膜を形成しやすいことから、塗布方法としてはスプレー、例えば回転霧化方式の塗布装置を用いる方法が好ましい。回転霧化方式の塗布装置としては、例えば、特開2013-115181号公報に記載される装置を使用することができる。
【0062】
塗布膜の膜厚は特に限定されず、最終的に得られる多孔質膜の膜厚を勘案して適宜調整される。多孔質膜の好ましい膜厚については後述する。
【0063】
次いで、上記の方法により形成された塗布膜を乾燥させ、塗布膜から有機溶剤等を除去する。乾燥方法は特に限定されないが、電極等の基材上の塗布膜を加熱する方法が好ましい。塗布膜の加熱は、大気圧下に行われても、減圧下に行われてもよい。加熱温度は特に限定されず、有機溶剤の沸点を考慮したうえで、多孔質膜の熱劣化等が生じない温度範囲内で適宜設定される。
【0064】
<繊維材料>
分散液は、繊維材料として、前述の変性セルロース繊維を含む。前述の変性セルロース繊維は、分散液中において有機溶剤に良好に分散され、分散液の分散安定性が良好である。このため、分散液を用いて、好ましい小さな孔径の開口を有する多孔質膜を形成することができる。
【0065】
分散液は、本発明の目的を阻害しない範囲で、上述の変性セルロース繊維以外の繊維材料を含んでいてもよい。変性セルロース繊維以外の繊維材料としては、無機繊維であっても、有機繊維であってもよい。
【0066】
無機繊維の好適な例としては、マイクロガラス(細径のガラス繊維)やロックウール等が挙げられる。有機繊維の好適な例としては、未変性のセルロース繊維、カルボキシメチルセルロース、セルロースアセテート等のセルロースエステル、及びリグノセルロース等のセルロース系繊維材料や、キチン、キトサン等の中性ムコ多糖系の繊維材料や、脂肪族ナイロンや芳香族ナイロン(アラミド)等のポリアミド、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン、ビニロン、ポリエステル、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリフッ化ビニリデン等の樹脂からなる合成樹脂系の繊維材料が挙げられる。合成樹脂系の繊維材料について、例えば、電界紡糸(エレクトロスピニング)等の方法により、微細な繊維を得ることができる。
【0067】
分散液に含まれる繊維材料における、上述の変性セルロース繊維の含有量は、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらにより好ましく、95質量%以上が特に好ましく、100質量%が最も好ましい。
【0068】
分散液中の、変性セルロース繊維の体積平均粒子径は特に限定されないが、分散液中で変性セルロース繊維が良好に分散しやすい点や、所望する空孔率、及び/又は所望する平均孔径を有する多孔質膜を形成しやすい点から、5μm以上100μm以下が好ましく、5μm以上80μm以下がより好ましく、5μm以上75μm以下がさらにより好ましく、5μm以上75μm以下が特に好ましく、5μm以上60μm以下が最も好ましい。
【0069】
分散液中の変性セルロース繊維の数平均繊維径は、2nm以上500nm以下が好ましく、2nm以上100nm以下がより好ましく、3nm以上80nm以下が特に好ましい。変性セルロース繊維の数平均繊維径が、上記範囲内であると、変性セルロース繊維が分散液中で安定して良好に分散しやすく、分散液を用いて所望する空孔率、及び/又は所望する平均孔径を有する多孔質膜を形成しやすい。
分散液中の変性セルロース繊維の最大繊維径は、1000nm以下が好ましく、500nm以下がより好ましい。変性セルロース繊維の最大繊維径が上記の範囲内である場合、分散液中で変性セルロース繊維が沈降しにくく、分散液中で変性セルロース繊維が安定して分散される。
【0070】
分散液中の変性セルロース繊維の数平均繊維径及び最大繊維径は、例えば、以下の方法で測定できる。まず、必要に応じて希釈又は濃縮を行い、分散液の固形分濃度を0.05質量%以上0.1質量%に調整する。固形分濃度を調整された分散液を、親水化処理済みのカーボン膜被覆グリッド上にキャストして、透過型電子顕微鏡(TEM)の観察用試料とする。
なお、分散液が繊維径の大きい繊維を含む場合には、ガラス上へキャストした表面の走査型電子顕微鏡(SEM)像を観察してもよい。
そして、構成する繊維の大きさに応じて5000倍、10000倍、又は50000倍の倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。電子顕微鏡による観察で得られた画像内に縦横任意の画像幅の軸を想定し、その軸に対し、20本以上の繊維が交差するよう、試料及び観察条件(倍率等)を調節する。そして、この条件を満たす観察画像を得た後、この画像に対し、1枚の画像当たり縦横2本ずつの無作為な軸を引き、軸に交錯する繊維の繊維径を目視で読み取る。このようにして、最低3枚の重複しない表面部分の画像を、電子顕微鏡で撮影し、各々2つの軸に交錯する繊維の繊維径の値を読み取る(したがって、最低20本×2×3=120本の繊維径の情報が得られる)。このようにして得られた繊維径のデータにより、最大繊維径及び数平均繊維径を算出する。
【0071】
<有機溶剤>
分散液は有機溶剤を含む。有機溶剤の種類は、所望する状態に分散された変性セルロース繊維を含む分散液を調製可能である限り、特に限定されない。分散液は、有機溶剤として、2種以上の有機溶剤を組み合わせて含んでいてもよい。
【0072】
有機溶剤の沸点は70℃以上250℃以下が好ましく、90℃以上200℃以下がより好ましく、110℃以上150℃以下が特に好ましい。
かかる範囲内の沸点を示す有機溶剤を用いる場合、有機溶剤の揮発による分散液の過度の組成変化が起こりにくく、それにより分散液中での変性セルロース繊維の分散状態も安定し、また、多孔質膜を形成する際の塗布膜からの有機溶剤の除去が容易である。
なお、有機溶剤の沸点は、大気圧下での沸点である。
【0073】
ここで、有機溶剤について、ハンセン溶解度パラメータに関する、双極子相互作用によるエネルギーの項δp[単位:(MPa)0.5]が、11.0以下であるのが好ましく,10.0以下であるのがより好ましく、9.0以下であるのが特に好ましい。
変性セルロース繊維は、分極しやすいO-H結合や、C-O結合を含む。このため、変性セルロース繊維を良好に分散させるためには、双極子相互作用が重要である。
このため、有機溶剤の双極子相互作用によるエネルギーの項δpが上記の所定の範囲内である場合に、変性セルロース繊維の分散が容易であると考えられる。
【0074】
有機溶剤としては、例えば、グリコール、グリコールモノアルキルエーテル、グリコールアルキルエーテルアセテート、ラクトン、鎖状又は環状ケトン、アルカンモノオール、及び非プロトン性極性溶剤を好ましく用いることができる。
【0075】
上記した種類の有機溶剤の好適な具体例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール(DPG)、トリエチレングリコール、及びトリプロピレングリコール等のグリコール;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノn-プロピルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノn-プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノn-プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(MFDG)、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノn-プロピルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノn-プロピルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル(MFTG)、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル、及びトリプロピレングリコールモノn-プロピルエーテル等のグリコールモノアルキルエーテル;3-メトキシブチルアセテート(MA)、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノn-プロピルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノn-プロピルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノn-プロピルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(DPMA)、ジプロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノn-プロピルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノn-プロピルエーテルアセテート、トリプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、トリプロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、及びトリプロピレングリコールモノn-プロピルエーテルアセテート等のグリコールアルキルエーテルアセテート;γ-ブチロラクトン(GBL)、α-メチル-γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、γ-カプロラクトン、γ-ラウロラクトン、δ-バレロラクトン、及びヘキサノラクトン等のラクトン;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ-n-ブチルカーボネート、エチレンカーボネート、1,2-プロピレンカーボネート、及び1,3-プロピレンカーボネート等のカーボネート類;2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸エチル、3-メトキシプロピオン酸メチル、3-メトキシプロピオン酸エチル、3-エトキシプロピオン酸メチル、3-エトキシプロピオン酸エチル、エトキシ酢酸エチル、ヒドロキシ酢酸エチル、2-ヒドロキシ-3-メチルブタン酸メチル、酢酸エチル、酢酸n-プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n-ブチル、酢酸イソブチル、蟻酸n-ペンチル、酢酸イソペンチル、プロピオン酸n-ブチル、酪酸エチル、酪酸n-プロピル、酪酸イソプロピル、酪酸n-ブチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、ピルビン酸n-プロピル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、及び2-オキソブタン酸エチル等の他のエステル類;メチルエチルケトン、ジエチルケトン、2-ペンタノン、2-ヘキサノン、3-ヘキサノン、メチルイソブチルケトン、アセチルアセトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、及びシクロヘプタノン等の鎖状又は環状ケトン;メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、n-ペンチルアルコール、n-ヘキシルアルコール、シクロヘキシルアルコール、及びn-ヘプチルアルコール等のアルカンモノオール;N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジエチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N-ジエチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、N,N,N’,N’-テトラメチルウレア(TMU)、N,N,N’,N’-テトラエチルウレア、N-メチルカプロラクタム、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(DMI)、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホリックトリアミド、及びアセトニトリル等の非プロトン性極性溶剤;トルエン、キシレン、及びメシチレン等の芳香族炭化水素が挙げられる。
【0076】
上記の好ましい具体例の中でも、特に好ましい有機溶剤を下表に、δpの値とともに示す。
【表1】
【0077】
有機溶剤の使用量は、特に限定されず、分散液の粘度、分散液の塗布性、分散液中の水の量等を勘案して、適宜定められる。
典型的には、有機溶剤の使用量は、分散液の固形分濃度が0.1質量%以上10質量%以下、好ましくは0.5質量%以上5質量%以下となるように用いられる。
【0078】
<水>
分散液は、本発明の目的を阻害しない範囲で水を含んでいてもよい。しかし、前述の変性セルロース繊維の分散性の観点から分散液中の有機溶剤の量は、少ないほど好ましい。分散液中の水の量は、典型的には、分散液全量に対して5質量%以下が好ましい。分散液中の水分量が5質量%以下であることにより、分散液を用いて形成される多孔質膜における、所望する空孔率と、所望する平均孔径とを両立しやすい。
分散液中の水分量は、分散液全量に対して3質量%以下がより好ましく、1質量%以下がさらにより好ましく、0.5質量%以下が特に好ましく、0.1質量%以下が最も好ましい。
分散液中の水分量を調整することにより、所望する空孔率と、所望する平均孔径とを有する多孔質膜を形成するに際して、温度条件の管理が緩やかなものとなる。
この水分量は、例えばカールフィッシャー法等公知の方法により測定することができる。
【0079】
<その他の成分>
分散液は、本発明の目的を阻害しない範囲において、以上説明した、変性セルロース繊維、及び有機溶剤以外のその他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、界面活性剤、消泡剤、レベリング剤等が挙げられる。
【0080】
<分散液の調製方法>
分散液は、変性セルロース繊維と、有機溶剤と、必要に応じて水や、その他の成分とを混合して調製される。
変性セルロース繊維は、固体状で用いられてもよく、分散媒に分散された状態で用いられてもよい。得られる分散液中で、変性セルロース繊維を良好に分散させやすいことから、変性セルロース繊維は分散媒に分散された状態で用いられるのが好ましい。
【0081】
変性セルロース繊維が固体状である場合、固体状の変性セルロース繊維と、所望する量の有機材料とを混合することで分散液を調製出来る。分散液中で、変性セルロース繊維を所望する程度に微分散させるために、通常は、変性セルロース繊維と、有機材料とを混合した後に、分散処理が行われる。
変性セルロース繊維が、水を含む媒体に分散されている場合、分散液中の水分量が5質量%以下となるまで、水を含む媒体を有機溶剤に置換してもよい。
水を含む媒体を有機溶剤に置換する方法としては、水を含む媒体の一部、又は全部を留去した後に、有機溶剤を加える方法や、遠心分離装置により変性セルロース繊維を容器内に沈降させた後、水を含む上澄みを廃棄し、次いで、有機溶剤中に沈降した変性セルロース繊維を分散させる方法、変性セルロース繊維についてフィルタでろ過し、有機溶剤で洗浄し、再度分散させる方法等が挙げられる。
【0082】
上記の方法等により、変性セルロース繊維と、有機溶剤とを混合した後、好ましくは、分散処理が行われる。
分散処理に用いられる分散装置の好適な例としては、ボールミル、ビーズミル、サンドミル、二本ロール、三本ロール、ロールミル、コロイドミル、ジェットミル、ニーダー、及びホモジナイザー等が挙げられる。
なお、分散条件を調整することにより、分散液中での変性セルロース繊維の粒子径(分散径、体積平均粒子径)や、粒子径分布を調整することができる。
【0083】
≪多孔質膜≫
多孔質膜は、前述の分散液からなる塗布膜を乾燥させてなる膜である。多孔質膜を形成するための材料である分散液については前述の通りであり、多孔質膜の形成方法については、分散液について説明した通りである。
【0084】
多孔質膜の空孔率は、特に限定されず、多孔質膜の用途を勘案して適宜定められる。蓄電素子のセパレータとして多孔質膜を用いる場合に、多孔質膜内で、例えばリチウムイオン等のイオンを良好に移動させやすく、且つ多孔質膜の機械的強度が良好であることとから、多孔質膜の空孔率は、5体積%以上80体積%以下が好ましく、8体積%以上70%体積%以下がより好ましく、12体積%以上60体積%以下が特に好ましい。
空孔率は、分散液中の変性セルロース繊維の分散径、分散液の固形分濃度、多孔質膜を形成する際の塗布膜の乾燥条件等を調整することにより調整出来る。
なお、多孔質膜の空孔率は、水銀ポロシメーターにより測定できる。
【0085】
多孔質膜の平均孔径は、特に限定されず、多孔質膜の用途を勘案して適宜定められる。イオン透過性と短絡リスクのバランスの観点から、多孔質膜の平均孔径は0.02μm以上0.5μm以下が好ましく、0.02μm以上0.45μm以下がより好ましく、0.02μm以上0.4μm以下がさらにより好ましく、0.02μm以上0.35μm以下が特に好ましい。
多孔質膜の平均孔径は、分散液中の変性セルロース繊維の分散径、分散液の固形分濃度、多孔質膜を形成する際の塗布膜の乾燥条件等を調整することにより調整出来る。
多孔質膜の平均孔径は、水銀ポロシメーターにより測定できる。
【0086】
多孔質膜の膜厚は、特に限定されず、多孔質膜の用途を勘案して適宜定められる。蓄電素子のセパレータとして多孔質膜を用いる場合に、高速充電可能であり、高容量の蓄電素子を製造しやすいことから、多孔質膜は薄いほど好ましい。具体的には、多孔質膜の膜厚は1μm以上100μm以下が好ましく、2μm以上50μm以下がより好ましい。
【0087】
多孔質膜の形状は特に限定されない。前述の通り、分散液を塗布した後、塗布膜を乾燥して多孔質膜が形成されるため、塗布対象の面の形状に沿った任意の形状の多孔質膜を製造できる。
【0088】
前述の通り、以上説明した多孔質膜は、蓄電素子のセパレータとして特に好ましく使用される。
【0089】
≪多孔質膜の製造方法≫
多孔質膜の製造方法は、典型的には、
基材上に分散液を塗布して塗布膜を形成する工程と、
塗布膜を乾燥させて多孔質膜を形成する工程と、を備える。
上記の各工程の詳細については、それぞれ前述した通りである。また、分散液、及び変性セルロース繊維の詳細な構成については前述の通りである。
分散液が塗布される基材としては、前述の通り、電極、特に蓄電素子用の電極が好適に用いられる。
【0090】
≪蓄電素子≫
蓄電素子は、前述の多孔質膜からなるセパレータを備えることの他は、蓄電素子に関する従来知られる周知の構成を備えていてよい。
前述の多孔質膜からなるセパレータは、例えば、電極と複合化された電極複合体として、蓄電素子の一要素を構成する。
【0091】
蓄電素子としては、例えば、リチウムイオン二次電池、ポリマーリチウム電池、アルミニウム電解コンデンサ(キャパシタ)、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ等の電池又はキャパシタが挙げられる。
多孔質膜からなるセパレータは、二次電池に使用されるのが好ましく、リチウムイオン二次電池に使用されるがより好ましい。
以上説明した蓄電素子としては、リチウム電池又はリチウムイオン電池が好ましい。
【0092】
蓄電素子の構成は、セパレータと電極とを、好ましくは両者が複合化された電極複合体を単位電池層として用いること以外は、従来の電池と全く同様の構成とすることができる。なお、蓄電素子の構造は特に限定するものではなく、積層型、円筒型、角型、コイン型等が挙げられる。
例えば、蓄電素子としてのリチウムイオン二次電池は、電極複合体中の多孔質膜(セパレータ)に電解液が含浸された単位電池層を備えることができる。
【0093】
また、蓄電素子としてのキャパシタ、例えば電気二重層キャパシタも、電極複合体中の多孔質膜(セパレータ)に電解液が含浸された単位セルを備えることができる。
【0094】
リチウムイオン二次電池又は電気二重層キャパシタは、例えば、複数の単位電池層又は単位セルを積層又は巻回して素子を構成し、次いで、その素子を外装材に収納し、集電体を外部電極に接続して、従来公知の電解液を含浸した後、外装材を封止することによって製造することができる。
【実施例
【0095】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲は以下に示す実施例に限定されるものではない。
【0096】
〔実施例1〕
アドバンテック社製のろ紙(5C)1.00g(6.17mmol)を、繊維を解しつつピリジン15mLに分散させた。ピリジン中に、ヘキサン酸無水物5.29g(24.68mmol)を加えた後、120℃2時間還流を行い、セルロース繊維を変性した。反応液中の変性セルロース繊維を、水、0.5M塩酸、水酸化ナトリウム水溶液、水の順で洗浄した後、変性セルロース繊維に付着する水を、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)で置換した。
【0097】
二度目の水洗後のスラリーから、変性セルロース繊維0.1gに相当する量のスラリーを分取した。分取したスラリーを、変性セルロース繊維0.1gに対して純水10mLとなるように、純水で希釈した。希釈されたスラリーを30秒間、振とうした後に、30秒間静置した。静置後、変性セルロース繊維は水面付近に浮いていた。
【0098】
得られた、プロピレングリコールモノメチルエーテル中の変性セルロース繊維のスラリーに、プロピレングリコールモノメチルエーテルを加えて、固形分濃度を2.0質量%に調整した後、変性セルロース繊維を含む液に対して、ニッカトー製の径0.5(mm)のビーズを用いるビーズミルによって、周速9m/sec、ビーズ充填率80%の条件にて20分間、分散処理を行い分散液を得た。
【0099】
得られた分散液を、ガラス基板上にスプレーを用いて塗布した後、80℃、3分乾燥して塗布膜を乾燥させて、膜厚6μmの多孔質膜を得た。
得られた多孔質膜について、水銀ポロシメーターにて、空孔率(体積%)と、平均孔径(μm)とを測定した。多孔質膜の空孔率と平均孔径とを表2に記す。
【0100】
〔実施例2~4〕
有機溶剤を表2に記載の種類の有機溶剤に変えることとの他は、実施例1と同様にして分散液を得た。
実施例2~4で得た分散液中の変性セルロース繊維の体積平均粒子径を表2に記す。
得られた分散液を用いて、スプレーを用いて塗布を行い、実施例1と同様にして多孔質膜を得た。
得られた多孔質膜について、水銀ポロシメーターにて、空孔率(体積%)と、平均孔径(μm)とを測定した。多孔質膜の空孔率と平均孔径とを表2に記す。
【0101】
〔実施例5〕
実施例5では、ヘキサン酸無水物を、安息香酸無水物7.25g(30.08mmol)に変えることの他は、実施例1と同様にして分散液を得た。
実施例5で得た分散液中の変性セルロース繊維の体積平均粒子径を表2に記す。
得られた分散液を用いて、スプレーを用いて塗布を行い、実施例1と同様にして多孔質膜を得た。
得られた多孔質膜について、水銀ポロシメーターにて、空孔率(体積%)と、平均孔径(μm)とを測定した。多孔質膜の空孔率と平均孔径とを表2に記す。
実施例5において、分散液を得る際に、実施例1と同様に、変性セルロース繊維の水スラリーを分取し、実施例1と同様にして、変性セルロース繊維を純水中で振とうする試験を行った。実施例5で得た変性セルロース繊維は、振とう、及び静置後、水面付近に浮いていた。
【0102】
〔実施例6~7〕
実施例6では、ヘキサン酸無水物を、酪酸無水物3.90g(24.68mmol)に変え、分散液の固形分濃度を1.5質量%とすることの他は、実施例1と同様にして分散液を得た。
実施例7では、ヘキサン酸無水物を、イソ酪酸無水物3.90g(24.68mmol)に変え、分散液の固形分濃度を1.5質量%とすることの他は、実施例1と同様にして分散液を得た。
ここで、実施例6で得た分散液中の変性セルロース繊維の体積平均粒子径は、33.5μm、実施例7で得た分散液中の変性セルロース繊維の体積平均粒子径は、32.1μmであった。
実施例6~7において、分散液を得る際に、実施例1と同様に、変性セルロース繊維の水スラリーを分取し、実施例1と同様にして、変性セルロース繊維を純水中で振とうする試験を行った。実施例6~7で得た変性セルロース繊維は、いずれも、振とう、及び静置後、水面付近に浮いていた。
また、実施例6~7で得られた分散液を用いて、実施例1と同様に膜を形成した。これらの膜においても、適度な空孔率を有することが確認できた。
【0103】
【表2】
なお、表2中の有機溶剤の名称について以下の通りである。
PGME:プロピレングリコールモノメチルエーテル
PMA-P:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート
MA:3-メトキシブチルアセテート
BA:酢酸ブチル
【0104】
本実施例によれば、分散液中に良好に分散させることが容易である変性セルロース繊維を与える。また、このようにセルロース繊維を分散液中に良好に分散できることにより、膜を形成した際に、安定的に空孔を形成することができる。