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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-05
(45)【発行日】2022-08-16
(54)【発明の名称】麺類の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/109 20160101AFI20220808BHJP
【FI】
A23L7/109 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018001059
(22)【出願日】2018-01-09
(65)【公開番号】P2019118318
(43)【公開日】2019-07-22
【審査請求日】2021-01-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000187079
【氏名又は名称】昭和産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154597
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 悟郎
(72)【発明者】
【氏名】笛田 秀人
(72)【発明者】
【氏名】堀 祥太
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/153033(WO,A1)
【文献】特開2017-201943(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 7/109-7/113
FSTA/CAplus/AGRICOLA/BIOSIS/
MEDLINE/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Google
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的に小麦粉及びグルテンを含まず、且つα化澱粉を含む原料粉、及び水を含む生地を調製し、ロール式製麺機を用いて製麺する工程を含む麺類を製造する方法であって、
前記α化澱粉の含有量が、原料粉の質量に基づいて、15~50質量%であり、
前記原料粉が、アセチル化澱粉を50質量%以上含み、
前記生地を調製し、ロール式製麺機を用いて製麺する工程が、生地をそぼろ状になるまでミキシングする工程、及び前記そぼろ状の生地をロール式製麺機に投入し、麺帯を製造する工程を含み、
前記生地を調製する工程が、前記原料粉の一部として、糊用澱粉を準備し、前記糊用澱粉に水を加えて加熱し、澱粉糊を調製する工程を含まず、
前記α化澱粉の、以下の測定方法で測定された溶液粘度が、50mPa・s以上であることを特徴とする製造方法。
(α化澱粉の溶液粘度の測定方法)
固形分として1.2gのα化澱粉に、2.4gのエタノールを添加して撹拌した後、合計30.0gになるように水を加え、さらに撹拌後、ラピッドビスコアナライザーを用いて、25℃で30分間保持した後の粘度を、160rpmで測定する。
【請求項2】
前記α化澱粉の溶液粘度が、50~430mPa・sである請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記麺類が、生麺を茹でて調理される麺類である請求項1又は2に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、麺類を製造する方法に関し、特に、小麦粉及びグルテンを含まない麺類を、ロール式製麺機を用いて良好に製造できる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、小麦粉及びグルテンを含まない麺類が、韓国冷麺等に使用されている。このような麺類は、一般に馬鈴薯澱粉等の澱粉類、そば粉等の穀粉類に湯を加えて混練した生地を、押出し式製麺機を用いて麺線を調製したものである。小麦粉及びグルテンを含まない麺類の製造は、ロール式製麺機では、生地及び麺線の形成が困難であるため、押出し式製麺機が用いられる。
【0003】
一方、冷麺用の麺類を大量生産する技術も開発されている。例えば、特許文献1では、大量生産が容易で且つ本来の韓国冷麺に近似した食感を有する冷麺を提供することを目的として、サゴ澱粉及び/又は加工サゴ澱粉を10質量%以上含有する原料粉を使用してなる冷麺が開示されている。特許文献1においては、上記の原料粉を使用して、押出機を備える製麺機、及びロール式製麺機を用いる製造方法が開示されている。しかしながら、これらの原料粉は、麺線の形成性が良好で、得られた麺線同士の付着が少ないという観点から、小麦粉を40~80質量%含有することが好ましいとされ、小麦粉を含有しない原料粉を用いる例は開示されていない。また、特許文献2では、押出麺から発生しうる麺線の肌荒れ、重量偏差、麺線の団塊化を防止し、連続的な製造方式で生産性を向上させるうえ、細くてコシのある生冷麺特有の風味を持つ冷麺を製造する方法を提供することを目的として、配合原料に練水を加えて水分含量が30~45%となるように混練する混練段階と、前記混練段階で得られた麺生地にせん断力を与え、押出時に内部摩擦力によって押し出される麺生地を糊化温度に上昇させ、低温のダイスにより麺線分離の形で押し出して麺線にする押出段階と、押出機から押し出された麺線を所定の長さに切り揃えて包装する段階とを含むことを特徴とする、冷麺製造方法が開示されている。特許文献2においては、原料粉として、小麦粉、蕎麦粉、サツマイモ澱粉、黒米粉、どんぐり粉が好ましいとされており、必ずしも原料粉に小麦粉が必要であるとはされていないが、上記のような特殊な押出機を備える製麺装置を用いることが必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-233318号公報
【文献】特開2007-75112号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ロール式製麺機は、広く普及している製麺機であり、一般に、ロール式製麺機を用いて良好に製造することができる麺類であれば、低コストで大量生産が可能である。しかしながら、上述の通り、従来技術では、小麦粉及びグルテンを含まない麺類を、ロール式製麺機を用いて良好に製造する方法は確立されていない。
【0006】
したがって、本発明の目的は、小麦粉及びグルテンを含まない麺類を、ロール式製麺機を用いて良好に製造できる麺類の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的は、実質的に小麦粉及びグルテンを含まず、且つα化澱粉を含む原料粉、及び水を含む生地を調製し、ロール式製麺機を用いて製麺する工程を含む麺類を製造する方法であって、前記α化澱粉の含有量が、原料粉の質量に基づいて、15~50質量%であり、前記原料粉が、アセチル化澱粉を50質量%以上含み、前記生地を調製し、ロール式製麺機を用いて製麺する工程が、生地をそぼろ状になるまでミキシングする工程、及び前記そぼろ状の生地をロール式製麺機に投入する工程を含み、前記生地を調製する工程が、前記原料粉の一部として、糊用澱粉を準備し、前記糊用澱粉に水を加えて加熱し、澱粉糊を調製する工程を含まず、前記α化澱粉の、以下の測定方法で測定された溶液粘度が、50mPa・s以上であることを特徴とする製造方法によって達成される。
(α化澱粉の溶液粘度の測定方法)
固形分として1.2gのα化澱粉に、2.4gのエタノールを添加して撹拌した後、合計30.0gになるように水を加え、さらに撹拌後、ラピッドビスコアナライザーを用いて、25℃で30分間保持した後の粘度を、160rpmで測定する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の麺類の製造方法により、小麦粉及びグルテンを含まない麺類を、ロール式製麺機を用いて良好に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の麺類の製造方法は、実質的に小麦粉及びグルテンを含まず、且つα化澱粉を含む原料粉、及び水を含む生地を調製し、ロール式製麺機を用いて製麺する工程を含む方法であって、前記α化澱粉の、上記測定方法で測定された溶液粘度が、50mPa・s以上であることを特徴とする。一般に、ロール式製麺機による製麺工程は、(1)原料粉等の材料をピンミキサー等の混合機に入れ、撹拌しながら所定の水を添加して、生地がそぼろ状になるまでミキシングし、(2)そぼろ状の生地を圧延装置の複数の(又は複数回)圧延ロールに通して、荒延、圧延して所望の厚さの麺帯を形成し、(3)得られた麺帯を、麺の種類に応じた幅に細断等して生麺を調製する工程である。原料粉が小麦粉及び/又はグルテンを含む場合、上記(1)において、グルテンが水分を保持して、つなぎの役目を果たし、生地がそぼろ状になり、上記(2)において、良好な麺帯が形成される。一方、原料粉が小麦粉及びグルテンを含まない場合は、上記(1)において、つなぎの役目を果たすものがなく、そぼろ状の生地が形成され難いため、麺帯の形成が困難であった。本発明においては、上記(1)において、原料粉に含まれる所定の溶液粘度を有するα化澱粉が適度に水分を保持することにより、つなぎの役目を果たすため、生地が良好なそぼろ状になり、上記(2)において、良好な麺帯を形成することができる。後述する実施例に示す通り、α化澱粉の溶液粘度が、上記数値未満の場合、つなぎの役目を果たさず、良好な麺帯を形成することができない。前記α化澱粉の溶液粘度は、50mPa・s以上であれば、特に制限はない。ただし、前記α化澱粉の溶液粘度が高過ぎると、水分を保持し過ぎて、生地が圧延ロールに通り難くなり、薄い麺帯を形成し難くなったり、麺の表面が荒れ、得られる麺の外観が悪くなったりする場合がある。したがって、前記α化澱粉の溶液粘度は、50~430mPa・sであることが好ましく、50~410mPa・sであることがより好ましい。なお、本発明において、「実質的に小麦粉及びグルテンを含まない」とは、原料粉として小麦粉、その他の材料としてグルテンを配合しないことを意味し、他の原料に由来して、わずかに混入する程度は許容されることを意味する。例えば、小麦粉及びグルテンの含有量は、原料粉の質量に基づいて、それぞれ3質量%未満、好ましくは1質量%未満であることを意味する。
【0010】
本発明において、前記α化澱粉は、上記の所定の溶液粘度を有していれば、どのような澱粉に由来するものであってもよい。本発明において、澱粉は、植物から分離した澱粉、及びこれらに物理的又は化学的加工を施した加工澱粉を意味し、例えば、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、小麦澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、甘藷澱粉、サゴ澱粉、米澱粉等の澱粉、及びそれらの澱粉を原料として、物理的又は化学的に加工を施した加工澱粉が挙げられる。したがって、前記α化澱粉は、上記の未加工の澱粉をα化したα化澱粉だけでなく、他の加工を組み合わされたα化澱粉も含む。他の加工としては、酸化;酸処理;アセチル化等のエステル化;リン酸化;ヒドロキシプロピル化等のエーテル化;リン酸架橋、アジピン酸架橋等の架橋、及びそれらを組み合わせた加工等が挙げられる。これらのα化澱粉の中から、上記の所定の溶液粘度を有するα化澱粉を適宜選択することができる。
【0011】
本発明において、原料粉として含まれるα化澱粉以外の材料は、小麦粉及びグルテン以外であれば特に制限はない。例えば、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、小麦澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、甘藷澱粉、サゴ澱粉、米澱粉等の澱粉、及びそれらの澱粉を原料として、α化以外の物理的又は化学的に加工、例えば、酸化;酸処理;アセチル化等のエステル化;リン酸化;ヒドロキシプロピル化等のエーテル化;リン酸架橋、アジピン酸架橋等の架橋、及びそれらを組み合わせた加工等を施した加工澱粉等のα化澱粉以外の澱粉;米粉、そば粉、大麦粉、大豆粉、緑豆粉、アマランサス粉、キビ粉、アワ粉、ヒエ粉等の小麦粉以外の穀粉等が挙げられる。
【0012】
原料粉における前記α化澱粉の含有量は、本発明の効果が得られれば、特に制限はない。前記α化澱粉の含有量は、少な過ぎると上記効果が得難く、多過ぎると生地が圧延ロールに通り難くなる場合があるため、原料粉の質量に基づいて、15~50質量%が好ましく、15~40質量%がより好ましく、20~40質量%がさらに好ましい。
【0013】
本発明において、麺類の製造に用いる生地は、本発明の効果を損なわない限り、上述の原料粉の材料以外に、一般に製麺用の生地に使用される材料を適宜含んでいてもよい。そのような材料として、食用油脂;卵白粉、卵黄粉、大豆たん白粉等のグルテン以外のたん白素材;糖類;色素;グアーガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、キサンタンガム等の増粘剤;アラニン、グリシン、リジン等のアミノ酸;グルタミン酸ナトリウム、食塩等の調味料;香料;かんすい;有機酸;アルコール製剤等が挙げられる。
【0014】
本発明において、生地を調製し、ロール式製麺機を用いて製麺する工程は、常法に従って実施することができる。例えば、まず、原料粉、及び必要に応じて上述のその他の材料をピンミキサー等の混合機に入れ、撹拌しながら所定量の水を添加して、生地がそぼろ状になるまでミキシングすることで生地を調製する。液状の材料(食用油脂等)や、水溶性の材料(食塩等)は、予め水に溶解又は分散させて、水の添加の際に混合してもよい。加水量は、ロール式製麺機の圧延ロールに掛けることができれば、特に制限はない。加水量が多いとそぼろ状の生地の塊が大きくなり過ぎ、圧延ロールに掛け難くなる場合があり、加水量が少ないとそぼろ状の生地にならないため、そぼろ状の生地の状態に応じて、加水量を適宜調節することができる。加水量は原料粉100質量部に対して、28~60質量部が好ましい。次いで、そぼろ状の生地をロール式製麺機に投入し、荒延、圧延して麺帯を製造し、得られた麺帯を、所望の麺の幅に細断等して生麺を調製する。得られた生麺は、そのまま生麺として流通させてもよく、乾燥室等で乾燥し、乾麺を製造してもよい。
【実施例
【0015】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。
1.α化澱粉の溶液粘度の測定
各α化澱粉の水分を、水分計(FD-610(株式会社ケット科学研究所))を用いて、各α化澱粉約5gを試料皿にのせ、乾燥温度135℃、乾燥時間15分間に設定し、測定した。得られた水分に基づいて、固形分として1.2gの各α化澱粉を容器に入れ、2.4gのエタノールを添加して薬さじで5回撹拌して溶解した後、合計30.0gになるように水を加えた。さらに薬さじで5回撹拌後、ラピッドビスコアナライザー(RVA4500(Perten Instruments))を用いて、25℃で30分間保持した後の粘度を、160rpmで測定した。実施例、比較例に用いた各α化澱粉の測定結果を表1に示す。
【0016】
【表1】
【0017】
2.麺の調製
(1)生地の調製
表2及び表3に示した配合で、各実施例、及び各比較例の生地を調製した。すなわち、水以外の各材料を真空ピンミキサーに入れ、撹拌しながら、原料粉100質量部に対し、水35~55質量部を添加して、生地がそぼろ状になるまでミキシングして生地を調製した。加水量は各生地の状態を見て適宜調節した。
(2)製麺
(1)において各実施例、及び各比較例の内、そぼろ状の生地が調製できたものについて、ロール式製麺機を使用し、荒延1回、複合1回、圧延5回を経て、厚さ2mmの麺帯を調製し、切刃;丸15番で麺線を切り出して生麺を調製した。
(3)茹で麺の調製
(2)で得られた各実施例、及び各比較例の生麺100gを、沸騰水中で3分間茹で調理した後、水で冷却し、茹で麺を調製した。
3.評価
各実施例、各比較例において、麺の調製時の製麺性、得られた生麺の外観、及び茹で麺の食感について、以下の評価基準で評価した。生麺の外観、及び茹で麺の食感については、10名のパネラーの評価点の平均値を評価結果とした。結果を表2及び表3に示す。
(1)製麺性
○:良好に製麺できる
△:やや製麺し難いが、許容範囲である
×:製麺できない
(2)生麺の外観
3:非常に滑らかな表面で、極めて良好である
2:やや滑らかな表面で、許容範囲である
1:表面が荒れていて、悪い
(3)茹で麺の食感
5:しっかりとした弾力があり、極めて良好である
4:弾力があり、良好である
3:やや弾力があり、許容範囲である
2:弾力が弱く、悪い
1:弾力がなく、非常に悪い
【0018】
【表2】
【0019】
表2に示す通り、小麦粉及びグルテンを含まず、前記溶液粘度が50~422mPa・sのα化澱粉A~Jを含む原料粉を含む実施例1~10は、ロール式製麺機を用いて製麺でき、得られた生麺の外観が良好であり、茹で麺の食感も良好であった。一方、前記溶液粘度が46mPa・sのα化澱粉Kを含む比較例1、及び前記溶液粘度が30mPa・sのα化澱粉Lを含む原料粉を含む比較例2、並びにα化澱粉を含まない比較例3では、そぼろ状の生地が形成できず、ロール式製麺機では製麺できなかった。したがって、前記溶液粘度が50mPa・s以上のα化澱粉を含む原料粉を含む生地を調製することで、小麦粉及びグルテンを含まない麺類を、ロール式製麺機を用いて良好に製造することができることが示唆された。
【0020】
【表3】
【0021】
表3においては、原料粉におけるα化澱粉の含有量の影響について調べた。表3に示す通り、原料粉の質量に基づいて、α化澱粉Aを15~50質量%含む実施例11~13、及びα化澱粉Hを15~50質量%含む実施例14~15は、ロール式製麺機を用いて良好に製麺でき、得られた生麺の外観が良好であり、茹で麺の食感も良好であった。したがって、α化澱粉の含有量は、原料粉の質量に基づいて、15~50質量%が好ましいことが示唆された。
【0022】
なお、本発明は上記の実施の形態の構成及び実施例に限定されるものではなく、発明の要旨の範囲内で種々変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明の麺類の製造方法により、小麦粉及びグルテンを含まない麺類を、ロール式製麺機を用いて良好に製造することができるので、そのような麺類を、低コストで大量生産することができる。