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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-05
(45)【発行日】2022-08-16
(54)【発明の名称】無機バインダー用組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 61/02 20060101AFI20220808BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20220808BHJP
   C04B 24/30 20060101ALI20220808BHJP
   C04B 24/32 20060101ALI20220808BHJP
   C04B 24/38 20060101ALI20220808BHJP
   C04B 24/08 20060101ALI20220808BHJP
   C04B 24/40 20060101ALI20220808BHJP
   C04B 24/26 20060101ALI20220808BHJP
   C08G 6/02 20060101ALI20220808BHJP
   C08L 3/08 20060101ALI20220808BHJP
   C08L 1/26 20060101ALI20220808BHJP
   C08L 33/24 20060101ALI20220808BHJP
   C08K 5/00 20060101ALI20220808BHJP
   C08K 5/54 20060101ALI20220808BHJP
【FI】
C08L61/02
C04B28/02
C04B24/30 Z
C04B24/32 A
C04B24/38 C
C04B24/08
C04B24/38 Z
C04B24/40
C04B24/26 D
C08G6/02
C08L3/08
C08L1/26
C08L33/24
C08K5/00
C08K5/54
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2019527241
(86)(22)【出願日】2017-11-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-12-19
(86)【国際出願番号】 EP2017079610
(87)【国際公開番号】W WO2018091659
(87)【国際公開日】2018-05-24
【審査請求日】2020-11-17
(31)【優先権主張番号】16199767.1
(32)【優先日】2016-11-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】Carl-Bosch-Strasse 38, 67056 Ludwigshafen am Rhein, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ヨアヒム デングラー
(72)【発明者】
【氏名】ゲオアク ダクセンベアガー
(72)【発明者】
【氏名】パヴロ イリーリン
(72)【発明者】
【氏名】ファビアン ニーダーマイア
(72)【発明者】
【氏名】ヨーゼフ ヘアマンスペアガー
(72)【発明者】
【氏名】マンフレート シューベック
【審査官】櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-532631(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L,C08K,C04B,C08G
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成物であって、
a)ホスホノ基、亜硫酸基、スルフィノ基、スルホ基、スルファミド基、スルホキシ基、スルホアルキルオキシ基、スルフィノアルキルオキシ基、およびホスホノオキシ基から選択される少なくとも1つの酸性基を有する、少なくとも1種のケトン-ホルムアルデヒド縮合生成物であって、前記ケトンは、式R-CO-Rで示され、その式中、RおよびRは一緒になって、アミノ、ヒドロキシル、C~CアルコキシまたはC~Cアルコキシカルボニル基から選択される1つ以上の置換基を含み得るC~Cアルキレン基であるケトンから選択される、少なくとも1種のケトン-ホルムアルデヒド縮合生成物;および
b)少なくとも1種のアニオン性または非イオン性界面活性剤および少なくとも1種の増粘剤
を含み、
成分(a)対成分(b)の重量比は、3:1~1:10の範囲にあり、
前記増粘剤が、多糖類誘導体、および500000g/モルを上回る重量平均分子量Mを有する(コ)ポリマーから選択される、組成物。
【請求項2】
前記ケトンが、式
【化1】
[式中、R~Rは、同一でも異なっていてもよく、HまたはC~Cアルキルであり、かつnは、0、1または2である]の環状ケトンである、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記ケトンが、シクロヘキサノン、4-メチルシクロヘキサノン、シクロペンタノン、シクロヘプタノン、およびそれらの混合物から選択される、請求項2記載の組成物。
【請求項4】
前記ケトンが、シクロヘキサノンである、請求項3記載の組成物。
【請求項5】
前記少なくとも1つの酸性基が、ホスホノ基、亜硫酸基、スルフィノ基、またはスルホ基である、請求項1から4までのいずれか1項記載の組成物。
【請求項6】
前記少なくとも1つの酸性基が、亜硫酸基である、請求項5記載の組成物。
【請求項7】
前記ケトン-ホルムアルデヒド縮合生成物が、シクロヘキサノン/ホルムアルデヒド/亜硫酸縮合生成物である、請求項1から6までのいずれか1項記載の組成物。
【請求項8】
前記界面活性剤が、C~C18アルキルサルフェート、C~C18アルキルエーテルサルフェート、C~C18アルキルスルホネート、C~C18アルキルベンゼンスルホネート、C~C18α-オレフィンスルホネート、C~C18スルホスクシネート、α-スルホ-C~C18脂肪酸二塩、C~C18脂肪酸塩、C~C18脂肪アルコールエトキシレート、エチレンオキシドとプロピレンオキシドとのブロックコポリマー、およびC~C18アルキルポリグリコシド、ならびにそれらの混合物から選択される、請求項1から7までのいずれか1項記載の組成物。
【請求項9】
前記増粘剤が、セルロースエーテル、デンプンエーテル、ならびに非イオン性(メタ)アクリルアミドモノマーおよび/またはスルホン酸モノマーの構造単位を含む(コ)ポリマーから選択される、請求項1からまでのいずれか1項記載の組成物。
【請求項10】
成分(a)対成分(b)の重量比が、3:1~1:5の範囲にある、請求項1からまでのいずれか1項記載の組成物。
【請求項11】
成分(a)対成分(b)の重量比が、1:2~1:5の範囲にある、請求項10記載の組成物。
【請求項12】
粉末および/または顆粒の形である、請求項1から11までのいずれか1項記載の組成物。
【請求項13】
成分(a)および成分(b)を含む混合物の共噴霧乾燥によって得られる、請求項12記載の粉末または顆粒。
【請求項14】
請求項1から12までのいずれか1項記載の組成物および無機バインダーを含む、建材混合物。
【請求項15】
前記無機バインダーが、水硬性または潜在水硬性バインダーまたはそれらの混合物である、請求項14記載の建材混合物
【請求項16】
建材配合物の、適用特性を改善するための、より具体的には気孔安定性および/またはレオロジー特性を改善するための、請求項1から12までのいずれか1項記載の組成物の使用。
【請求項17】
建材配合物の、適用特性を改善するための、より具体的には気孔安定性および/またはレオロジー特性を改善するための方法であって、請求項1から12までのいずれか1項記載の組成物を、無機バインダーを含む建材混合物に添加することを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機バインダー用組成物、この組成物を含む建材混合物、およびこの組成物の使用に関する。
【0002】
ケトン樹脂を、モルタル中の組成物の形で使用することが知られている。例えば、独国特許出願公開第2341923号明細書(DE 2 341 923 A1)には、モルタル用可塑剤としてのシクロアルカノンとホルムアルデヒドおよび亜硫酸ナトリウムとの水溶性縮合生成物が記載されている。これらのモルタルを、特に、スクリードやこて塗り用のコンパウンドに使用すると、強度が高くなり、空隙率が低くなり、したがって不浸透性が高くなる。L. LeiおよびJ. Planck(Cement and Concrete Research, 42, 118-123, 2012年)には、セメントモルタル中の高分子量のシクロヘキサノン樹脂(M>220.000g/モル)が、β-ナフタレンスルホン酸-ホルムアルデヒド縮合物(BNS)と同様に挙動し、かつ粘土の存在下でも安定化効果を有することが記載されている。欧州特許出願公開第78938号明細書(EP 78938A1)には、酸基を含み、かつ流動性コンクリートまたはセルフレベリングスクリードの製造および深井戸セメント混合物の可塑化のための分散剤として適した、アルデヒドおよびケトンの熱安定性縮合生成物が記載されている。国際公開第2015/039890号(WO2015/039890)には、粘土含有石膏ボードの安定性を改善するための分散剤として、発泡体およびケトン樹脂、例えばシクロヘキサノンまたはアセトン樹脂を含む石膏含有スラリーが記載されている。発泡体の調製には、界面活性剤が、発泡剤および整泡剤として、樹脂の量を基準として少量使用されている。
【0003】
中国特許出願公開第101549973号明細書(CN 101549973 A)には、減水剤としてナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、スルホン化アルデヒドケトン縮合物またはスルファミン酸ホルムアルデヒド縮合物を含む流動化剤組成物が記載されている。該組成物は、セルロースエーテルなどの粘度調整剤、およびドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどの空気連行剤をさらに含有し得る。欧州特許第816300号明細書(EP 816300)、欧州特許出願公開第163459号明細書(EP 163 459 A1)、および国際公開第99/37594号(WO 99/37594)には、ウェルセメント組成物におけるアセトンホルムアルデヒド亜硫酸縮合物の使用が開示されている。国際公開第2008/040726号(WO2008/040726)、独国特許出願公開第3825530号明細書(DE 38 25 530 A1)および欧州特許出願公開第078938号明細書(EP 078 938 A1)には、建材組成物中の保水剤としてのアセトンホルムアルデヒド亜硫酸縮合物の使用が開示されている。
【0004】
しかしながら、無機バインダーを含む建材混合物にケトン樹脂を使用すると、その用途特性、特にそれらの気孔品質、したがってその表面品質の点で不十分な建材配合物となる。気孔の量および大きさ、ならびにそれらの経時安定性は、レンダリングやこて塗り用のコンパウンドなどの建材配合物の滑らかさ、粘着性、および保持力にとって非常に重要である。
【0005】
したがって、本発明の課題は、改良された適用特性、特に改良された気孔品質をもたらす無機バインダー用組成物を提供することである。
【0006】
この課題は、無機バインダー用組成物であって、
a)ホスホノ基、亜硫酸基、スルフィノ基、スルホ基、スルファミド基、スルホキシ基、スルホアルキルオキシ基、スルフィノアルキルオキシ基、およびホスホノオキシ基から選択される少なくとも1つの酸性基を有する、少なくとも1種のケトン-ホルムアルデヒド縮合生成物であって、該ケトンは、式R-CO-Rで示され、その式中、RおよびRは一緒になって、アミノ、ヒドロキシル、C~CアルコキシまたはC~Cアルコキシカルボニル基から選択される1つ以上の置換基を含み得るC~Cアルキレン基であるケトンから選択される、少なくとも1種のケトン-ホルムアルデヒド縮合生成物;および
b)少なくとも1種のアニオン性または非イオン性界面活性剤および/または少なくとも1種の増粘剤
を含み、
成分(a)対成分(b)の重量比は、3:1~1:10の範囲にある、無機バインダー用組成物によって達成される。
【0007】
酸性基を有するケトン-ホルムアルデヒド縮合生成物およびそれらの製造方法は、例えば、欧州特許出願公開第78938号明細書(EP 78 938 A1)および国際公開第2015/039890号(WO2015/039890)から知られている。これらの刊行物のケトン-ホルムアルデヒド縮合生成物に関する内容は、本明細書に完全に参照されている。
【0008】
本発明に従って使用されるケトン-ホルムアルデヒド縮合生成物は、一般に、2500~100000g/モル、好ましくは10000~50000g/モルの範囲の分子量Mを有する。分子量は、以下の方法を用いてゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により決定された:カラムの組み合わせ:Shodex OH-Pak SB 804 HQおよびOH-Pak SB 802.5 HQ、昭和電工製、日本;溶離液:80体積%のHCONH水溶液(0.05モル/l)および20体積%のMeOH;注入量100μl;流量0.5ml/分)。分子量の較正は、PSS Polymer Standard Service(独国)による標準を用いて行われた。ポリ(スチレンスルホネート)標準は、UV検出器に使用され、ポリ(エチレンオキシド)標準は、RI検出器に使用された。RI検出器の結果は、分子量の測定に使用された。
【0009】
一実施形態では、ケトンは、式R-CO-Rを有する化合物であり、ここで、RおよびRは一緒になって、アミノ、ヒドロキシル、C~CアルコキシまたはC~Cアルコキシカルボニル基から選択される1つ以上の置換基を含み得るC~Cアルキレン基である。好ましい脂肪族ケトンは、上記式のものであり、ここで、RおよびRは、同一でも異なっていてもよく、かつC~Cアルキル、または

【化1】
の環状ケトンであり、
ここで、R~Rは、同一でも異なっていてもよく、HまたはC~Cアルキルであり、かつnは、0、1または2である。
【0010】
ケトンの例は、シクロヘキサノン、4-メチルシクロヘキサノン、シクロペンタノン、シクロヘプタノン、好ましくはシクロヘキサノンである。
【0011】
一実施形態では、酸性基は、ホスホノ基、亜硫酸基、スルフィノ基、およびスルホ基から選択される。亜硫酸基が好ましい。
【0012】
別の実施形態では、ケトン-ホルムアルデヒド縮合生成物は、シクロヘキサノン/ホルムアルデヒド/亜硫酸縮合生成物である。
【0013】
ケトン-ホルムアルデヒド縮合生成物は、例えば欧州特許第78938号明細書(EP78938)または国際公開第2015/039890号(WO2015/039890)に記載されているように、対応するケトンと、ホルムアルデヒドおよび酸性基に対応する親酸の塩との縮合によって製造される。ケトン:ホルムアルデヒド:酸塩のモル比は、一般に1:2~3:0.33~1の範囲にある。
【0014】
別の実施形態では、増粘剤は、無機またはポリマー増粘剤から選択される。無機増粘剤の例は、層状珪酸塩(ベントナイトまたはヘクトライト)または水和SiO粒子である。
【0015】
別の実施形態では、増粘剤は、多糖類誘導体、および500000g/モルを上回る、より具体的には1000000g/モルを上回る重量平均分子量Mを有する(コ)ポリマーから選択される。
【0016】
別の実施形態では、増粘剤は、セルロースエーテル、デンプンエーテル、ならびに非イオン性(メタ)アクリルアミドモノマーおよび/またはスルホン酸モノマー、および任意でさらなるモノマーの構造単位を含む(コ)ポリマーから選択される。セルロースエーテルおよびデンプンエーテルが好ましい。
【0017】
適切なセルロースエーテルは、アルキルセルロース、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、プロピルセルロース、およびメチルエチルセルロース;ヒドロキシアルキルセルロース、例えば、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、およびヒドロキシエチルヒドロキシプロピルセルロース;アルキルヒドロキシアルキルセルロース、例えば、メチルヒドロキシエチルセルロース(MHEC)、メチルヒドロキシプロピルセルロース(MHPC)、およびプロピルヒドロキシプロピルセルロース;およびカルボキシル化セルロースエーテル、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)である。非イオン性セルロースエーテル誘導体、特にメチルセルロース(MC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)およびエチルヒドロキシエチルセルロース(EHEC)が好ましく、メチルヒドロキシエチルセルロース(MHEC)およびメチルヒドロキシプロピルセルロース(MHPC)が特に好ましい。セルロースエーテル誘導体は、それぞれ、対応するセルロースのアルキル化およびアルコキシル化により得られ、かつ市販されている。
【0018】
適したデンプンエーテルは、ヒドロキシプロピルデンプン、ヒドロキシエチルデンプン、およびメチルヒドロキシプロピルデンプンなどの非イオン性またはカチオン性デンプンエーテルである。ヒドロキシプロピルデンプンが好ましい。他の適切な増粘剤は、微生物産生多糖類、例えば、ウェランガムおよび/またはキサンタン、天然多糖類、例えば、アルギン酸塩、カラギーナン、およびガラクトマンナンである。これらは、対応する天然物から、例えば、アルギン酸塩およびカラギーナンの場合は藻類から、ガラクトマンナンの場合はイナゴマメ核から抽出法によって得ることができる。
【0019】
500000g/モルを上回る、より好ましくは1000000g/モルを上回る重量平均分子量Mを有する(コ)ポリマーは、非イオン性(メタ)アクリルアミドモノマーおよび/またはスルホン酸モノマーから(好ましくはラジカル重合により)製造され得る。一実施形態では、モノマーは、アクリルアミド、メタクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、N-メチルメタクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、N-シクロヘキシルアクリルアミド、N-ベンジルアクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、N,N-ジメチルアミノエチルアクリルアミドおよび/またはN-tert-ブチルアクリルアミドおよび/またはスチレンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-メタクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-アクリルアミドブタンスルホン酸および/または2-アクリルアミド-2,4,4-トリメチルペンタンスルホン酸または前記酸の塩から選択される。(コ)ポリマーは、好ましくは、非イオン性(メタ)アクリルアミドモノマーおよび/またはスルホン酸モノマーに由来する構造単位を、50モル%を超えて、より好ましくは70モル%を超えて含有する。コポリマー中に存在し得る他の構造単位は、例えば、モノマーの(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸と分枝鎖状または非分枝鎖状のC~C10アルコールとのエステル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルおよび/またはスチレンから誘導される。
【0020】
別の実施形態では、増粘剤は、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルデンプン、ヒドロキシエチルデンプン、メチルヒドロキシプロピルデンプン、およびアクリルアミド、メタクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸に由来する構造単位を含む(コ)ポリマー、ならびに任意に、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸と分枝鎖状または非分枝鎖状のC~C10アルコールとのエステル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルおよび/またはスチレンから選択される。
【0021】
別の実施形態では、組成物は、成分(b)として少なくとも1種の界面活性剤を含む。
【0022】
別の実施形態では、組成物は、成分(b)として少なくとも1種の増粘剤および少なくとも1種の界面活性剤を含む。
【0023】
界面活性剤は、より具体的にはアニオン性または非イオン性界面活性剤を含み、好ましくはアニオン性界面活性剤を含む。一実施形態では、アニオン性界面活性剤は、C~C18アルキルサルフェート、C~C18アルキルエーテルサルフェート、C~C18アルキルスルホネート、C~C18アルキルベンゼンスルホネート、C~C18α-オレフィンスルホネート、C~C18スルホスクシネート、α-スルホ-C~C18脂肪酸二塩、およびC~C18脂肪酸塩から選択される。アニオン性界面活性剤は、一般に、アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩の形、より具体的にはナトリウム塩の形である。アニオン性界面活性剤の例は、ラウリル硫酸ナトリウム、ミリスチル硫酸ナトリウム、セチル硫酸ナトリウム、エトキシル化度2~10のエトキシル化ラウリルアルコールまたはミリスチルアルコールの硫酸ナトリウム、ラウリルまたはセチルスルホン酸ナトリウム塩、ヘキサデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム塩、C14/C16α-オレフィンスルホン酸ナトリウム塩、ラウリル-またはセチルスルホコハク酸ナトリウム塩、2-スルホラウリン酸二ナトリウム、またはステアリン酸ナトリウム、およびそれらの混合物である。
【0024】
一実施形態では、非イオン性界面活性剤は、C~C18脂肪アルコールエトキシレート、エチレンオキシドとプロピレンオキシドとのブロックコポリマー、およびC~C18アルキルポリグリコシド、およびそれらの混合物から選択される。それらの例は、Pluronics(登録商標)(ポロキサマー)などの市販のブロックコポリマーである。
【0025】
別の実施形態では、組成物は、成分(a)としてシクロヘキサノン/ホルムアルデヒド/亜硫酸縮合生成物、および成分(b)としてα-スルホ-C~C18脂肪酸二塩を含む。
【0026】
別の実施形態では、組成物は、成分(a)としてシクロヘキサノン/ホルムアルデヒド/亜硫酸縮合生成物、および成分(b)としてα-スルホ-C~C18脂肪酸二塩とC~C18アルキルエーテルサルフェートとの混合物を含む。
【0027】
別の実施形態では、組成物は、成分(a)としてシクロヘキサノン/ホルムアルデヒド/亜硫酸縮合生成物、および成分(b)としてα-スルホ-C~C18脂肪酸二塩およびエチレンオキシドとプロピレンオキシドとのブロックコポリマーの混合物を含む。
【0028】
成分(a)は、一般に、水溶液の形をとる。この溶液には、成分(b)が、同様に水溶液の形で、または固体(成分(b)が増粘剤である場合)として、より具体的には粉末の形で添加され得る。代替的に、成分(a)が、粉末の形で成分(b)の水溶液に添加されてもよい。
【0029】
一実施形態では、成分(a)対成分(b)の重量比は、以下の範囲のうちの1つから選択される:
2:1~1:10、
1:1~1:6、
1:1~1:4、
1:2~1:6および
1:2~1:4。
【0030】
成分(a)および(b)を含む水溶液は、噴霧乾燥などの慣用の方法で乾燥されて、粉末の形で組成物を製造し得る。一実施形態では、乾燥は、共噴霧乾燥によって達成される-換言すれば、成分(a)の溶液および成分(b)の溶液は、別々に、しかしながら同時に噴霧乾燥機に導入される。成分(b)が、増粘剤および界面活性剤を含む場合、それらは1つの溶液として一緒に導入され得るか、または別の溶液として噴霧乾燥機に導入され得る。
【0031】
本発明はまた、本発明の組成物および1種以上の無機バインダー、より具体的には水硬性および/または潜在水硬性バインダー、例えばセメント、好ましくはポルトランドセメント、スラグ、好ましくは粒状高炉スラグ、フライアッシュ、微粉砕シリカ、メタカオリン、天然ポゾラン、焼成オイルシェール、カルシウムスルホアルミネートセメントおよび/またはアルミン酸カルシウムセメントを含む建材混合物に関する。しかしながら、無機バインダーは、非水硬性バインダー、例えば、石膏、α-およびβ-半水和物、無水硫酸カルシウム、石灰水和物または酸化カルシウムであってもよい。水硬性および/または潜在水硬性バインダー、例えば、セメント、好ましくはポルトランドセメントが好ましい。建材混合物は、特に、建材配合物、例えば、モルタル、レンダリングやこて塗り用のコンパウンドなどに使用される。組成物の成分(a)および(b)は、建材混合物または建材配合物に同時にまたは任意の順序で順次添加され得る。これらの成分(a)および(b)は、水溶液および/または固体の形で、特に粉末の形で添加され得る。
【0032】
一実施形態では、組成物は、疎水化剤を含む。無機建材に適した疎水化剤は、例えば、ポリビニルアルコールまたはスチレン-(メタ)アクリル酸コポリマーを含むワックスエマルションである。また、脂肪酸(オレイン酸ナトリウムおよびステアリン酸カルシウムまたはステアリン酸亜鉛)も有用である。金属石鹸の他に、シリコーン樹脂系疎水化剤も使用される。レンダーとモルタルとの混合物の場合、粉末の形の微粉化メチルシルセスキオキサンが主に使用される。疎水化剤は、好ましくは、粉末としてバインダーを基準として0.1~1%の量でモルタルに添加される。
【0033】
別の実施形態では、組成物は、超吸収剤を含む。本明細書では、塩に対して強い超吸収剤が好ましい。それらは、独国特許出願公開第102007027470号明細書(DE102007027470 A1)に記載されている。
【0034】
本発明の組成物または建材混合物の効果は、建材配合物中の気孔の数、特に小さい気孔の数およびこれらの気孔の経時安定性を増すことによって、気孔品質を改善することである。その結果、建材配合物は、より滑らかになり、より容易にコンシステンシーになり、よりふわふわし、粘着性が少なくなり、改善された増粘後挙動を有し、より効果的に(比較的長い期間を含む)加工することができ、かつ比較的長期間にわたり改善された保持力を有する。したがって、本発明の組成物は、改良された適用特性をもたらす。
【0035】
したがって、本発明はまた、建材混合物用の添加剤としての組成物の使用、および適用特性を改善するための、特に気孔安定性およびレオロジー特性を改善するための、建材配合物の組成物および/または建材混合物の使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】CHRなしの標準のレオロジー特性を視覚化する。
図2】CHRありの改良されたモルタルのレオロジー特性を視覚化する。
【0037】
以下の実施例は、本発明を限定することなく説明するものである。
【0038】
以下のように製造したシクロヘキサノン樹脂(CHR)を使用した(国際公開第2015/039890号(WO2015/039890)の表1のポリマー5に対応する):
40gの水を反応容器に入れ、pHを10に調整した。この初期装入物に0.25モルの亜硫酸ナトリウムを添加し、そして最後に0.51モルのシクロヘキサノンを撹拌しながら滴加すると、温度は30~32℃に上昇した。これに続いて約60℃に加熱した。1.5モルのホルムアルデヒドを、温度が70℃を超えないような速度でゆっくり滴加した。添加終了後、温度を90℃に上げ、分子量Mが18000に達するまでさらに3時間加熱した。分子量を、GPCおよび粘度測定により測定した。残存ホルムアルデヒド含有量は、10ppm未満であった。
【0039】
増粘剤:メチルヒドロキシエチルセルロース(MC)Tylose FL 15002
【0040】
界面活性剤:
界面活性剤1:C14/C16α-オレフィンスルホン酸ナトリウム塩(Hostapur OSB)
界面活性剤2:ラウリル硫酸ナトリウム(Texapon K12P)
界面活性剤3:α-スルホ-C12/14脂肪酸二ナトリウム(Texapon SFA)
界面活性剤4:エチレン/プロピレンコポリマー(Pluronic PE 9400)
界面活性剤5:アルキルエーテルスレート(Vinapor Gyp 2620)
【0041】
第1表に列記された組成物を、対応する成分の水溶液を混合することにより製造した。この溶液を、GEA Niro製のMobile Minor MM-Iスプレードライヤーを使用して乾燥させた。乾燥は、二流体ノズルによって塔の頂部で行った。乾燥は、80kg/Hの乾燥ガスを用いて、乾燥用の材料と同方向に上から下に吹き付ける窒素で行った。塔入口の乾燥ガス温度は、220℃であった。塔出口での乾燥ガスの排出温度が100℃になるように、被乾燥物の供給速度を調整した。乾燥ガスとともに乾燥塔から排出された粉末を、サイクロンによって乾燥ガスから分離した。
【表1】
【0042】
Melment F10は、スルホン化メラミンホルムアルデヒド樹脂(独国特許出願公開第1671017号明細書(DE1671017A1))である。
【0043】
組成物を試験混合物において使用し、その配合は以下の通りであった:
ミルクセメントCEM I 52.5 N 20%
ストロボ溶融シリカBCS 319 80%
水 20%
【0044】
混合物を、DIN EN 998-1に従って撹拌することによって調製した:セメント、シリカ、増粘剤、および第1表に列記した混合物を、DIN EN 196-1に従ってモルタル混合物(Rilemミキサー)に装入し、記載された量の水と混合した。次に、低い設定(140rpm)で90秒間撹拌し、続いて90秒間休止し、次いで、高い設定(285rpm)で60秒間さらに撹拌した。
【0045】
得られたモルタルを、気孔量(DIN EN 998-1による)、流動特性(DIN EN 998-1による)、およびふわふわ度について試験した。ふわふわ度とは、ゆったりとした、やさしい、柔らかい、そして絹のような触感のモルタルの品質を指す。ふわふわ度は、特にモルタルの広がりやすさにも現れている。ふわふわ度を、従来技術との並列的かつ直接的な比較によって評価した。ここで、2つの混合物を、同時に製造し、木製の板の上にこてで広げた。これを適用する人は、材料のふわふわ度に基づいて、-3~+3の範囲でその品質を評価する。ここでの評価0は、比較試験片と同一の特性に相当する。+3までの評価は、改善に相当し;-3までの評価は、劣化に相当する。図1(CHRなしの標準)および図2(CHRありの改良されたモルタル)は、レオロジー特性を視覚化する。比較的高いふわふわ度では、表面の質感は、より魅力的で均一である。図2では、こてでの分解が大幅に低減される。その結果、モルタルを広げることがはるかに容易になる。
【0046】
評価を、撹拌直後および30分後に行う。30分後の値の差を、経時安定性として表に記載する。比較例および従来技術の樹脂として、Melment F10を使用する。
【表2】
【0047】
本発明の組成物が、より高い空気含有率およびより低いモルタル密度をもたらすことは明らかである。さらに、モルタルのふわふわ度および安定性が改善される。概して、全体的な印象が改善される。
【0048】
次の例は、ケトン樹脂と2つの異なる界面活性剤との配合物の利点を示す。
【0049】
モルタルの組成および混合手順は、上記と同じであった。添加剤ミックスを第3表にまとめる。第4表にまとめたこの一連の実験における触覚測定値は、実験19を基準にしている。
【表3】
【0050】
さらなる適用適合性をTICS強化モルタルで試験し、その組成は以下の通りであった:
ミルクセメントCEM I 52.5 N 25%
溶融シリカBCS 319 75%
MHEC15 000 0.08%
Baerophob ECO 0.35%
Starvis SE 35 F 0.050%
Starvis S 5514 F 0.34%
水 20%
【0051】
Starvis SE 35 Fは、BASF SEから市販されているデンプンエーテルである。Starvis S 5514 Fは、水膨潤性の高分子量ポリマー(超吸収剤)であり、同様にBASF SEから入手可能である。Baerophob ECOは、疎水化用の複合金属石鹸であり、Baerlocher GmbHから入手可能である。強化モルタルを、乾式モルタルとして混合し、PFT-G4レンダリング機で適用し;適用適合性を、視覚的にも触覚的にも評価した。結果を第3表に報告する(上記のように+3~-3の評価、基準=0)。
【表4】
【0052】
第5表は、シクロヘキサノン-ホルムアルデヒド樹脂および増粘剤(MHEC)から構成される本発明の組成物が適用適合性の顕著な改善をもたらすことを示す。
【0053】
さらなる適用適合性を、手塗り石膏レンダーを使用して示す。選択した組成は、以下の通りであった:
FGDβ半水和物Schwarze Pumpe 750g
砕いた石灰岩砂0~3mm(Heck Wallsystems) 210g
Bachl PZ1パーライト(0~1mm) 10g
石灰水和物 30g
BCZ酒石酸 2g
Texapon K12P 0.15g
Culminal C4053 1.9g
Starvis SE35F 0.2g
水 490g
【0054】
石膏レンダー乾式モルタルを、台所用洗剤中で水と共に撹拌することによって調製し、適用適合性を視覚的に評価した。結果を第6表に示す。
【表5】
【0055】
第6表も同様に、シクロヘキサノン-ホルムアルデヒド樹脂および増粘剤(MHEC)から構成される本発明の組成物が、適用適合性の顕著な改善をもたらすことを示す。
図1
図2