(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-05
(45)【発行日】2022-08-16
(54)【発明の名称】成膜装置、これを用いた成膜方法及び電子デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/50 20060101AFI20220808BHJP
H05B 33/10 20060101ALI20220808BHJP
H01L 51/50 20060101ALI20220808BHJP
【FI】
C23C14/50 E
C23C14/50 F
H05B33/10
H05B33/14 A
(21)【出願番号】P 2020172699
(22)【出願日】2020-10-13
【審査請求日】2020-10-13
(31)【優先権主張番号】10-2019-0147597
(32)【優先日】2019-11-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】591065413
【氏名又は名称】キヤノントッキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】特許業務法人大塚国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100076428
【氏名又は名称】大塚 康徳
(74)【代理人】
【識別番号】100115071
【氏名又は名称】大塚 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100112508
【氏名又は名称】高柳 司郎
(74)【代理人】
【識別番号】100116894
【氏名又は名称】木村 秀二
(74)【代理人】
【識別番号】100130409
【氏名又は名称】下山 治
(74)【代理人】
【識別番号】100134175
【氏名又は名称】永川 行光
(74)【代理人】
【識別番号】100188868
【氏名又は名称】小川 智丈
(74)【代理人】
【識別番号】100221327
【氏名又は名称】大川 亮
(72)【発明者】
【氏名】中津川 雅史
(72)【発明者】
【氏名】中島 隆介
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-099914(JP,A)
【文献】特開2014-098205(JP,A)
【文献】国際公開第2019/131010(WO,A1)
【文献】特開2018-182104(JP,A)
【文献】特開2012-117089(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/50
H05B 33/10
H01L 51/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部が真空に維持されるチャンバと、
前記チャンバの内部に配置され、基板を吸着して保持する基板吸着手段と、を有し、
前記チャンバの内部に配置される成膜源から放出される成膜材料を前記基板吸着手段によって保持された前記基板にマスクを介して成膜する成膜装置であって、
前記チャンバの内部に配置され、前記基板吸着手段を輻射冷却する基板吸着手段輻射冷却ジャケットと、
前記チャンバを構成する第1の壁と前記成膜源との間に配置される防着板と、
前記第1の壁と前記防着板との間に配置され前記防着板を輻射冷却する防着板輻射冷却ジャケットと、
前記成膜源と前記マスクとの間に配置されるシャッタと、
前記シャッタを輻射冷却するシャッタ冷却ジャケットと、
を備え
ることを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記基板吸着手段輻射冷却ジャケットは、前記基板吸着手段と離隔して対向する第1の面と、前記チャンバを構成する壁と離隔して対向する第2の面を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記第1の面の放射率が、前記第2の面の放射率よりも大きい
ことを特徴とする請求項2に記載の成膜装置。
【請求項4】
前記基板吸着手段輻射冷却ジャケットは、前記基板吸着手段と非接触である
ことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項5】
前記基板吸着手段は静電チャックである
ことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項6】
前記マスクを前記基板吸着手段に保持された基板に引き寄せる磁力印加手段と、
前記磁力印加手段を前記基板吸着手段に対して相対的に移動させる移動機構と、をさらに有し、
前記基板吸着手段輻射冷却ジャケットは、前記移動機構によって前記磁力印加手段とともに移動される
ことを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項7】
前記基板吸着手段輻射冷却ジャケットは、冷媒が流れる冷媒流路を有し、
前記チャンバの外部から前記冷媒流路に冷媒を供給する冷媒供給手段を有する
ことを特徴とする請求項2又は3に記載の成膜装置。
【請求項8】
内部が真空に維持されるチャンバと、
前記チャンバの内部に配置され、基板を吸着して保持する基板吸着手段と、を有し、
前記チャンバの内部に配置される成膜源から放出される成膜材料を前記基板吸着手段によって保持された前記基板にマスクを介して成膜する成膜装置であって、
前記チャンバの内部に配置され、前記基板吸着手段を輻射冷却する基板吸着手段輻射冷却ジャケット
と、
前記成膜源と前記マスクとの間に配置されるシャッタと、
前記シャッタを輻射冷却するシャッタ冷却ジャケットと、
を備え、
前記基板吸着手段輻射冷却ジャケットに温度センサが設置されている
ことを特徴とする成膜装置。
【請求項9】
前記基板吸着手段輻射冷却ジャケットは、前記基板吸着手段と離隔して対向する第1の面と、前記チャンバを構成する壁と離隔して対向する第2の面を有し、
前記温度センサは、前記第1の面に設けられていることを特徴とする請求項8に記載の成膜装置。
【請求項10】
前記チャンバの外部から前記基板吸着手段輻射冷却ジャケットの冷媒流路に冷媒を供給する冷媒供給手段と、
前記温度センサによる温度測定結果に基づいて、前記冷媒の温度および流量の少なくとも一方を制御する制御部と、
を備えることを特徴とする請求項8または9に記載の成膜装置。
【請求項11】
内部が真空に維持されるチャンバと、
前記チャンバの内部に配置され、基板を吸着して保持する基板吸着手段と、を有し、
前記チャンバの内部に配置される成膜源から放出される成膜材料を前記基板吸着手段によって保持された前記基板にマスクを介して成膜する成膜装置であって、
前記チャンバを構成する第1の壁と前記成膜源との間に配置される防着板と、
前記第1の壁と前記防着板との間に配置され前記防着板を輻射冷却する防着板輻射冷却ジャケットと、
を備え
、
前記防着板輻射冷却ジャケットは、前記防着板と離隔して対向する第3の面と、前記第1の壁と離隔して対向する第4の面と、を有し、
前記第3の面の放射率が、前記第4の面の放射率よりも大きい
ことを特徴とする成膜装置。
【請求項12】
内部が真空に維持されるチャンバと、
前記チャンバの内部に配置され、基板を吸着して保持する基板吸着手段と、を有し、
前記チャンバの内部に配置される成膜源から放出される成膜材料を前記基板吸着手段によって保持された前記基板にマスクを介して成膜する成膜装置であって、
前記チャンバの内部に配置され、前記基板吸着手段を輻射冷却する基板吸着手段輻射冷却ジャケットと、
前記成膜源と前記マスクとの間に配置されるシャッタと、
前記シャッタを輻射冷却するシャッタ冷却ジャケットと、
を備えることを特徴とす
る成膜装置。
【請求項13】
内部が真空に維持されるチャンバと、
前記チャンバの内部に配置され、基板を吸着して保持する基板吸着手段と、を有し、
前記チャンバの内部に配置される成膜源から放出される成膜材料を前記基板吸着手段によって保持された前記基板にマスクを介して成膜する成膜装置であって、
前記チャンバの内部に配置され、前記基板吸着手段を輻射冷却する基板吸着手段輻射冷却ジャケットと、
前記チャンバを構成する第1の壁と前記成膜源との間に配置される防着板と、
前記第1の壁と前記防着板との間に配置され前記防着板を輻射冷却する防着板輻射冷却ジャケットと、
前記成膜源と前記マスクとの間に配置されるシャッタと、
前記シャッタを輻射冷却するシャッタ冷却ジャケットと、
を備えることを特徴とする成膜装置。
【請求項14】
内部が真空に維持されるチャンバと、
前記チャンバの内部に配置され、基板を吸着して保持する基板吸着手段と、を有し、
前記チャンバの内部に配置される成膜源から放出される成膜材料を前記基板吸着手段によって保持された前記基板にマスクを介して成膜する成膜装置であって、
前記チャンバを構成する第1の壁と前記成膜源との間に配置される防着板と、
前記第1の壁と前記防着板との間に配置され前記防着板を輻射冷却する防着板輻射冷却ジャケットと、
前記成膜源と前記マスクとの間に配置されるシャッタと、
前記シャッタを輻射冷却するシャッタ冷却ジャケットと、
を備えることを特徴とする成膜装置。
【請求項15】
前記シャッタ冷却ジャケットは、前記マスクに対向する第5の面と、前記シャッタに対向する第6の面を有する
ことを特徴とする請求項
12ないし14
のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項16】
前記第5の面の放射率が、前記第6の面の放射率よりも大きい
ことを特徴とする請求項15に記載の成膜装置。
【請求項17】
内部が真空に維持されるチャンバと、
前記チャンバの内部に配置され、基板を吸着して保持する基板吸着手段と、を有し、
前記チャンバの内部に配置される成膜源から放出される成膜材料を前記基板吸着手段によって保持された前記基板にマスクを介して成膜する成膜装置であって、
前記チャンバの内部に配置され、前記基板吸着手段を輻射冷却する基板吸着手段輻射冷却ジャケットと、
前記基板吸着手段を搭載した状態で移動可能な微動ステージプレート部と、
前記微動ステージプレート部を磁気浮上させる基準プレート部と、
前記基準プレート部に設置され前記微動ステージプレート部を輻射冷却する構造体輻射冷却ジャケットと、
を備えることを特徴とす
る成膜装置。
【請求項18】
請求項1~10のいずれか一項に記載の成膜装置を用いて、前記成膜装置のチャンバの内部でマスクを介して基板に成膜材料を成膜する方法であって、
前記チャンバの内部に配置された基板吸着手段に前記基板の成膜面と反対側の裏面を吸着させる工程と、
成膜源から放出される成膜材料を前記マスクを介して前記基板の成膜面に成膜する工程と、
前記チャンバの内部に配置された前記基板吸着手段輻射冷却ジャケットにより前記基板吸着手段を輻射冷却する工程と、を含む
ことを特徴とする成膜方法。
【請求項19】
請求項18に記載の成膜方法を用いて、電子デバイスを製造することを特徴とする電子デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜装置、これを用いた成膜方法及び電子デバイスの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機EL表示装置(有機ELディスプレイ)は、スマートフォン、テレビ、自動車用ディスプレイだけでなく、VR HMD(Virtual Reality Head Mount Display)などにその応用分野が広がっている。特に、VR HMDに用いられるディスプレイは、ユーザーのめまいを低減するなどのために画素パターンを高精細に形成することが求められる。すなわち、さらなる高解像度化が求められている。
有機EL表示装置の製造においては、有機EL表示装置を構成する有機発光素子(有機EL素子;OLED)を形成する際に、成膜装置の成膜源から放出された成膜材料を、画素パターンが形成されたマスクを介して、基板に成膜することで、有機物層や金属層を形成する。
【0003】
このような成膜工程においては、成膜精度を高めるために、基板とマスクの相対位置を可能な限り一定に保つ必要がある。ところが、成膜工程においては成膜源を加熱した際に生じる輻射熱により、基板とマスクの温度が上昇する。基板とマスクが異なる材料で製作される場合、基板とマスクの熱膨張率が異なることにより、基板とマスクの相対位置にずれが生じることになる。
【0004】
従来、真空処理装置における基板とマスクの温度上昇を抑制する方法として、特許文献1に挙げられるようなものが知られている。特許文献1では、真空蒸着装置内に設置された冷却ジャケットに冷媒を流すことで、前記冷却ジャケットと所定の距離をあけて締結される基板吸着手段を輻射冷却している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、真空蒸着装置においては、真空チャンバ内で基板やマスク、成膜源などを囲うことにより、基板以外の場所に付着した成膜材料の除去を容易にする防着板を設置することが一般的である。あるいは、成膜源とマスクとの間に可動式のシャッタを設けて成膜をコントロールする場合もある。このような場合には、防着板やシャッタが成膜源からの輻射熱を受けることで温度上昇し、温度上昇した防着板やシャッタから生じる輻射熱によっても、基板やマスクが加熱され、基板とマスクの相対位置にズレが生じうる。あるいは、チャンバの壁やチャンバ内に配置されるそのほかの構成部材からも輻射熱が生じ、基板やマスクが加熱されることがある。そのため、特許文献1に記載されているように基板吸着手段を冷却するのみでは、基板とマスクの温度上昇を十分に抑えられないという課題があった。
【0007】
そこで、本発明は、上記の従来技術の有する課題に鑑み、基板とマスクの温度上昇をより効果的に抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施形態による成膜装置は 内部が真空に維持されるチャンバと、前記チャンバの内部に配置され、基板を吸着して保持する基板吸着手段と、を有し、前記チャンバの内部に配置される成膜源から放出される成膜材料を前記基板吸着手段によって保持された前記基板にマスクを介して成膜する成膜装置であって、前記チャンバの内部に配置され、前記基板吸着手段を輻射冷却する基板吸着手段輻射冷却ジャケットと、前記チャンバを構成する第1の壁と前記成膜源との間に配置される防着板と、前記第1の壁と前記防着板との間に配置され前記防着板を輻射冷却する防着板輻射冷却ジャケットと、前記成膜源と前記マスクとの間に配置されるシャッタと、前記シャッタを輻射冷却するシャッタ冷却ジャケットと、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、基板とマスクの温度上昇を抑えつつ、成膜源および外気からの熱外乱を排熱および断熱することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、一実施形態の成膜装置の断面の模式図である。
【
図2】
図2は、一実施形態に係る静電チャック輻射冷却ジャケットの断面の模式図である。
【
図3】
図3は、一実施形態に係るシャッタ冷却ジャケットの断面の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態および実施例を説明する。ただし、以下の実施形態および実施例は、本発明の構成を例示的に表すものであり、本発明の範囲は、これらの構成に限定されない。また、以下の説明における、装置のハードウェア構成およびソフトウェア構成、処理フロー、製造条件、寸法、材質、形状などは、限定的な記載がない限り、本発明の範囲をこれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0012】
本発明は、基板の表面に各種材料を堆積させて成膜を行う装置に適用することができ、真空蒸着によって所望のパターンの薄膜(材料層)を形成する装置に好適に適用することができる。
【0013】
基板の材料としては、半導体(例えば、シリコン)、ガラス、高分子材料のフィルム、金属などの任意の材料を選ぶことができ、基板は、例えば、シリコンウエハ、又はガラス基板上にポリイミドなどのフィルムが積層された基板であってもよい。また、成膜材料としても、有機材料、金属性材料(金属、金属酸化物)などの任意の材料を選ぶことができる。
【0014】
なお、本発明は、加熱蒸発による真空蒸着装置以外にも、スパッタ装置やCVD(Chemical Vapor Deposition)装置を含む成膜装置にも、適用することができる。本発明の技術は、具体的には、半導体デバイス、磁気デバイス、電子部品などの各種電子デバイスや、光学部品などの製造装置に適用可能である。電子デバイスの具体例としては、発光素子や光電変換素子、タッチパネルなどが挙げられる。本発明は、中でも、OLEDなどの有機発光素子や、有機薄膜太陽電池などの有機光電変換素子の製造装置に好ましく適用可能である。なお、本発明における電子デバイスは、発光素子を備えた表示装置(例えば有機EL表示装置)や照明装置(例えば有機EL照明装置)、光電変換素子を備えたセンサ(例えば有機CMOSイメージセンサ)も含むものである。
【0015】
<成膜装置>
図1は、本発明の一実施形態による成膜装置10の構成を示す模式図である。
【0016】
成膜装置10は、成膜源の成膜材料を加熱することで蒸発または昇華させ、マスクMを介して基板Wに成膜する。基板WとマスクMの相対位置の調整(アライメント)は、ステージ駆動により位置合わせを行うことで実施される。アライメントから成膜に至る一連の成膜プロセスは、成膜装置内において行われる。
【0017】
成膜装置10は、真空雰囲気または窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気に維持される真空チャンバ15より成る。基板Wの位置を調整する微動ステージ機構12と、基板Wを吸着保持する基板吸着手段14と、マスクMを支持するマスク置台13と、マスクMの位置を調整する粗動ステージ131と、成膜材料を加熱放出する成膜源11を含む。
【0018】
一実施形態による成膜装置10は、磁気力によって金属製のマスクMを基板W側に密着させるための磁力印加手段16をさらに含むことができる。
【0019】
一実施形態による成膜装置10の真空チャンバ15は、図示しない真空ポンプを接続することにより、真空チャンバ15全体の内部空間を高真空状態に維持することができる。
【0020】
微動ステージ機構12は、基板Wまたは基板吸着手段14の位置を調整するためのステージ機構であって、基板WのマスクMに対する相対位置をしきい値以下にすることを可能とする。微動ステージ機構12は、支持構造体として機能する基準プレート部121(第1プレート部)と、可動台として機能する微動ステージプレート部122(第2プレート部)とを含む。
【0021】
微動ステージ機構12は、基板Wまたは基板吸着手段14の位置を高精度で調整することを可能にするため、磁気浮上リニアモータによって駆動される磁気浮上ステージ機構として構成することができる。即ち、例えば、基準プレート部121に電流が流れるコイルを固定子として設置するとともに、これに対応する微動ステージプレート部122の領域には可動子として永久磁石を設置し、基準プレート部121に対して微動ステージプレート部122を磁気浮上させた状態で移動させることで、微動ステージプレート部122の一主面(例えば、下面)に搭載される基板吸着手段14及びこれに吸着された基板Wの位置を高精度で調整することができる。微動ステージ機構12は、微動ステージプレート部122の位置を測定するための位置測定手段と、微動ステージプレート部122にかかる重力を補償するための自重補償手段と、微動ステージプレート部122の原点位置を決めるための原点位置決め手段などを更に含むことができる。
【0022】
マスク置台13は、マスクMを設置および固定する支持構造体であり、粗動ステージ131上に設置されている。これにより、マスクMの基板Wに対する相対位置および鉛直方向の間隔を調整することができる。
【0023】
マスクMは、基板W上に形成される薄膜パターンに対応する開口パターンを有し、マスク置台13によって支持される。例えば、VR‐HMD用の有機EL表示パネルを製造するのに使われるマスクMは、有機EL素子の発光層のRGB画素パターンに対応する微細な開口パターンが形成された金属製マスクであるファインメタルマスク(Fine Metal Mask)と、有機EL素子の共通層(正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層、電子注入層など)を形成するのに使われるオープンマスク(Open Mask)とを含む。マスクMの開口パターンは、成膜材料の粒子を通過させない遮断パターンによって定義される。また、マスクMはシリコンを材料として製作されることもある。
【0024】
基板吸着手段14は、装置内に搬入された被成膜体としての基板Wを吸着して保持する手段である。基板吸着手段14は、微動ステージ機構12の可動台である微動ステージプレート部122に設置される。基板吸着手段14は、例えば、誘電体又は絶縁体(例えば、セラミック材質)マトリックス内に金属電極などの電気回路が埋設された構造を有する静電チャックである。基板吸着手段14としての静電チャックは、電極と吸着面との間に相対的に抵抗が高い誘電体が介在して、電極と被吸着体との間のクーロン力によって吸着が行われるクーロン力タイプの静電チャックであってもよいし、電極と吸着面との間に相対的に抵抗が低い誘電体が介在して、誘電体の吸着面と被吸着体との間に発生するジョンソン・ラーベック力によって吸着が行われるジョンソン・ラーベック力タイプの静電チャックであってもよいし、不均一電界によって被吸着体を吸着するグラジエント力タイプの静電チャックであってもよい。被吸着体が導体または半導体(シリコンウエハ)である場合には、クーロン力タイプの静電チャックまたはジョンソン・ラーベック力タイプの静電チャックを用いることが好ましく、被吸着体がガラスのような絶縁体である場合には、グラジエント力タイプの静電チャックを用いることが好ましい。
【0025】
成膜源11は、基板Wに成膜される成膜材料が収納されるるつぼ(不図示)、るつぼを加熱するためのヒータ(不図示)などを含む。成膜源11は、点(point)成膜源や線状(linear)成膜源など、用途に従って多様な構成を有することができる。基板の搬入および搬出時や、アライメント時には成膜材料が基板に飛散することを阻む必要が有るため、シャッタ18を設置するのが一般的である。
【0026】
磁力印加手段16は、成膜時に磁力によって金属製のマスクMを基板W側に引き寄せて密着させるための手段であって、鉛直方向に昇降可能に設置される。例えば、磁力印加手段16は、電磁石や永久磁石で構成される。真空チャンバ15の上部外側(大気側)には、磁力印加手段16を昇降させるための昇降機構17(移動機構)が設置される。基板WとマスクMが接触する蒸着位置に達すると、磁力印加手段16を下降させ、静電チャック14および基板W越しにマスクMを引き寄せることで、基板WとマスクMを密着させる。
【0027】
<成膜プロセス>
以下、本実施形態による成膜装置を使用した成膜方法について説明する。
【0028】
真空チャンバ15内のマスク置台13にマスクMが支持された状態で、基板Wが真空チャンバ15内に搬入される。搬入された基板Wが基板吸着手段14に十分に近接あるいは接触した後に、基板吸着手段14に基板吸着電圧を印加し、基板Wの成膜面と反対側の裏面を吸着させる。基板WとマスクMのアライメントは、微動ステージ機構12および粗動ステージ131を駆動させることで行う。基板WとマスクMとの相対位置のずれ量が所定のしきい値より小さくなると、磁力印加手段16を下降させ、基板WとマスクMを密着させた後、シャッタ18を開放して、成膜材料を基板Wに成膜する。所望の厚さに成膜した後、磁力印加手段16を上昇させて基板WとマスクMを分離し、基板Wを搬出する。
【0029】
上述の説明では、成膜装置10は、基板Wの成膜面が鉛直方向下方を向いた状態で成膜が行われる、いわゆる上向き蒸着方式(デポアップ)の構成としたが、これに限定されない。基板Wが真空チャンバ15の側面側に垂直に立てられた状態で配置され、基板Wの成膜面が重力方向と平行な状態で成膜が行われる構成であってもよい。
【0030】
<静電チャック輻射冷却ジャケット>
図1において、真空チャンバ15の底面には成膜源11が設けられている。成膜源11には成膜材料の放出孔があり、その放出孔の指向する先に、基板WおよびマスクMが成膜面を放出孔に向けて配置されている。マスクMには、成膜材料を所望の箇所において通過させるパターン孔が設けられており、成膜源11から放出された成膜材料が、マスクMを介して基板Wに所望のパターンで付着する。
【0031】
成膜源11は成膜材料を放出するためにるつぼ内部を500℃近い高温に加熱するため、成膜源11からの輻射熱によって基板WおよびマスクMの温度が上昇する。また、基板Wを吸着して保持する基板吸着手段14である静電チャックは、通電時に発熱するため、これも基板WおよびマスクMの温度を上昇させる要因となる。
【0032】
このような成膜源11からの輻射熱又は基板吸着手段14である静電チャックの発熱による基板WおよびマスクMの温度上昇を抑制するめに、基板Wを吸着する基板吸着手段14である静電チャック、又はこの基板吸着手段14を搭載する微動ステージプレート部122に排熱用の冷媒配管を接続することが考えられる。しかしながら、この方式は、基板WとマスクMのアライメント精度に影響を与えうる。つまり、基板吸着手段14を搭載する微動ステージプレート部122は、基板Wを吸着した状態で微細に駆動されることによって基板WとマスクMを高精度にアライメントすることを可能としている。よって、このように基板駆動に関与する微動ステージプレート部122に排熱用の冷媒配管を直接接続することは、振動の伝達と冷媒の脈動伝達の経路を形成することとなり、アライメント精度を向上させる上で望ましくない。
【0033】
そこで、一実施形態では、基板吸着手段14である静電チャックに近接して輻射冷却ジャケットを設置し、この輻射冷却ジャケットからの輻射冷却により、静電チャック14、および、それに近接する基板WとマスクMを共に冷却するようにしている。輻射冷却を用いることにより、冷却対象物に対し非接触で常時排熱することが可能となるため、基板WとマスクMの温度上昇を抑えつつ、装置の振動や冷媒の脈動が基板WとマスクMの相対位置のずれを悪化させる要因になることも排除できる。
【0034】
図2は、静電チャック14に近接して設置される静電チャック輻射冷却ジャケット21を表す断面図である。静電チャック輻射冷却ジャケット21は、輻射冷却を用いることにより、非接触で静電チャック14、そこに近接した基板WおよびマスクMを冷却することを目的としている。静電チャック輻射冷却ジャケット21は、成膜時に磁力によってマスクMを基板W側に引き寄せて密着させる磁力印加手段16に設置しても良いし、別途、静電チャック14に近接する構造体により支持しても良い。磁力印加手段16に設置する場合、基板WおよびマスクMが成膜源11からの輻射熱を受け、静電チャック14が発熱する成膜時に、静電チャック14に近接するため、輻射冷却を行う上で都合が良い。また、磁力印加手段16を昇降させる昇降機構17により静電チャック14との間隔も調整可能であるため、輻射冷却量を調整する上でも有効となる。
【0035】
静電チャック輻射冷却ジャケット21には冷媒配管211(冷媒供給)が接続されており、静電チャック輻射冷却ジャケット21の温度制御に必要な冷媒を真空チャンバ15の外部から供給する。この静電チャック輻射冷却ジャケット21は真鍮などの金属製の板材によって製作されており、その内部に冷媒配管211より供給された冷媒が循環する流路が設けられている。また、静電チャック輻射冷却ジャケット21の真空チャンバ壁面と離隔して対向する外側表面21aは、鏡面加工することで放射率の低減を図っている。これにより、真空チャンバ壁面を通した外気の熱流入を断熱すると共に、排熱に必要となる冷媒流量を削減することができる。他方、静電チャック輻射冷却ジャケット21の静電チャック14と離隔して対向する内側表面21bには、DLC(ダイヤモンドライクカーボン:diamond-like carbon)膜を施工することで放射率の向上を図っている。内側表面21bの放射率を外側表面21aより高くする方法としては、前述したDLC膜施工の他にも、外側表面21aより表面を粗くする処理または黒色面にする処理などを適用することができる。このような表面処理としては、例えは、ブラスト加工処理、黒色メッキ処理、酸化被膜形成処理、溶射(thermal spraying)処理などが挙げられる。
【0036】
磁力印加手段16に静電チャック輻射冷却ジャケット21を設置する際には、磁力印加手段16の下面が内側表面21bとなる。これにより、静電チャック輻射冷却ジャケット21と静電チャック14との熱交換量を増加させ、静電チャック14および基板W、マスクMの温度上昇を抑える。
【0037】
内側表面21bには、温度センサ193が設置されている。この温度センサ193は図示しないアンプと計算機に接続されており、内側表面21bの温度を測定することで、静電チャックを冷却する輻射冷却量を算出することができる。この輻射冷却量が所望の値となるように、図示しない前記の計算機に接続されたチラーに指令を与えることで冷媒温度を制御する。この時、温度センサ193の温度測定結果に基づいて、冷媒の温度を直接制御するようにしてもよく、供給される冷媒の流量を制御するようにしてもいい。以上のように、温度センサ193を用いることで静電チャックの温度を間接的に制御し、基板WとマスクMの温度も併せて抑えることを可能にしている。
【0038】
なお、静電チャック輻射冷却ジャケット21の材料には、真空蒸着装置の真空度の要件が許すのであれば、アルミニウムを用いても良い。また、より厳しい真空度要件を満たす必要がある場合には、ステンレスを用いても良い。この場合、ステンレスの熱伝導率は真鍮やアルミニウムに比べて低いので、一様な温度を達成するためにはより複雑な冷媒流路を構成する必要がある。
【0039】
本実施形態は、磁気力によって金属製のマスクMを基板W側に密着させるための磁力印加手段16を含むが、これらの構成に限定されない。例えば、マスクMがシリコンにより制作される場合、磁力印加手段16は不要となる。この場合は、静電チャック輻射冷却ジャケット21の下面が
図2の内側表面21bとなる。また、この場合の静電チャック輻射冷却ジャケット21は、上記実施形態において磁力印加手段16昇降用として使われていた昇降機構17によって支持しても良いし、静電チャック14に近接して位置する別途の構造体により支持しても良い。
【0040】
<防着板輻射冷却ジャケット>
図1において、真空チャンバ15の内部には、防着板191が成膜源11、基板WおよびマスクMを囲うように設置されており、成膜源11から放出された成膜材料のうちマスクM以外の方向へ飛散する成膜材料が付着する。この防着板191は、ステンレスやアルミニウムなどの金属製の板材によって製作されており、成膜を繰り返す度に余計な成膜材料が付着するので、洗浄のために定期的に着脱して真空チャンバ15外に搬出できるような構造となっている。
【0041】
前述したように、防着板191も成膜時に成膜源11からの輻射熱を受け温度上昇し、基板WとマスクMへ影響する二次輻射熱源となる。一実施形態では、この防着板191からの二次輻射熱を冷却するために、真空チャンバ15内の真空チャンバ壁面と防着板191との間に防着板輻射冷却ジャケット192を設置している。
【0042】
防着板輻射冷却ジャケット192には図示しない冷媒配管が接続されており、防着板輻射冷却ジャケット192の温度制御に必要な冷媒を真空チャンバ15外から供給する。この防着板輻射冷却ジャケット192は真鍮などの金属製の板材によって製作されており、その内部に冷媒配管より供給された冷媒が循環する流路が設けられている。また、防着板輻射冷却ジャケット192の真空チャンバ壁面と対向する外側表面192aは、鏡面加工することで放射率の低減を図っている。これにより、真空チャンバ壁面を通した外気の熱流入を断熱すると共に、排熱に必要となる冷媒流量を削減することができる。他方、防着板輻射冷却ジャケット192の防着板191と対向する内側表面192bには、DLC膜を施工することで放射率の向上を図っている。内側表面192bの放射率を外側表面192aより高くする方法としては、前述したDLC膜施工の他にも、外側表面192aより表面を粗くする処理または黒色面にする処理などを適用できる。このような表面処理としては、例えは、ブラスト加工処理、黒色メッキ処理、酸化被膜形成処理、溶射処理などが挙げられる。これにより、防着板輻射冷却ジャケット192と防着板191との熱交換量を増加させ、防着板191の温度上昇を抑える。
【0043】
このように、防着板191と真空チャンバ壁面との間に防着板輻射冷却ジャケット192を設置することによって、防着板から基板とマスクへの二次輻射熱の影響を抑えるとともに、真空チャンバ壁面からの外気温度変化による輻射熱の影響を抑えることができる。また、この外気からの入熱を、別体に設置された輻射冷却ジャケット192の表面の放射率を調整することで断熱しているので、真空チャンバ壁面に直接排熱手段を設ける構成に比べ、冷却ジャケット192に流す冷媒の流量を削減することができ、その分、防着板の温度応答性を高める際にも有利となる。また、防着板191は付着した成膜材料の除去洗浄のために頻繁に着脱が行われるが、本実施形態では、輻射冷却を利用し冷却ジャケット192をこの防着板191と別体に設けているので、装置のメンテナンス性も大幅に向上させることができる。また、防着板輻射冷却ジャケット192への成膜材料の付着および付着した成膜材料の除去によって生じる放射率の変化を防ぐことも可能となる。
【0044】
防着板輻射冷却ジャケット192の内側表面192bには温度センサ193が設置されている。この温度センサ193は図示しないアンプと計算機(制御部)に接続されており、内側表面192bの温度を測定することで、防着板191を冷却する輻射冷却量を算出できる。この輻射冷却量が所望の値となるように、計算機に接続された図示しないチラーに指令を与えることで冷媒温度を制御する。この時、冷媒の温度を直接制御するようにしてもよく、供給される冷媒の流量を制御するようにしてもいい。以上のように、温度センサ193を用いることで防着板191の温度を制御し、防着板191から基板WとマスクMに向かう二次輻射熱を抑えることを可能にしている。
【0045】
なお、防着板輻射冷却ジャケット192の材料には、真空蒸着装置の真空度の要件が許すのであれば、アルミニウムを用いても良い。また、より厳しい真空度要件を満たす必要がある場合には、ステンレスを用いても良い。この場合、ステンレスの熱伝導率は真鍮やアルミニウムに比べて低いので、一様な温度を達成するためにはより複雑な冷媒流路を構成する必要がある。
【0046】
<シャッタ冷却ジャケット>
図3はシャッタ冷却ジャケット183を有するシャッタ18を表す断面図である。成膜源11には、基板の搬入および搬出時やアライメント時に成膜材料が基板に飛散することを阻むシャッタ18を設けることが一般的である。ただし、シャッタ18内で成膜材料が付着するシャッタ防着板181は、成膜材料の飛散を阻害することはできるが、成膜源11からの輻射熱を受けるため温度上昇し、それによって基板WおよびマスクMの温度を上昇させるおそれがある。
【0047】
そこで、シャッタ冷却ジャケット183を設けることにより、シャッタ防着板181の温度上昇を抑える。シャッタ冷却ジャケット183は、シャッタ防着板181との一体構造とすると、成膜源11から受ける輻射熱を直接排熱する必要が生じるため、シャッタ冷却ジャケット183に流す冷媒流量が増大する。そこで、
図3に示すように、シャッタ冷却ジャケット183をシャッタ防着板181と別体の構成とすることにより、シャッタ防着板181からシャッタ冷却ジャケット183への入熱量を削減できるため、冷媒流量を削減できる。シャッタ防着板181の支持部品182には伝熱抵抗の高い断熱材料を用いることで、シャッタ防着板181からの構造体伝熱(heat transfer)を抑える。
図3のシャッタ18はゲートバルブを想定した機構で、支持アーム184を
図3の左右方向に動かすことでシャッタ18を開閉するが、シャッタ18の開閉はバタフライ方式でも良く、シャッタの開閉方向に制約される趣旨のものではない。
【0048】
シャッタ冷却ジャケット183には冷媒配管185が接続されており、シャッタ冷却ジャケット183の温度制御に必要な冷媒を真空チャンバ15外から供給する。このシャッタ冷却ジャケット183は真鍮などの金属製の板材によって製作されており、その内部に冷媒配管185より供給された冷媒が循環する流路が施工されている。また、シャッタ冷却ジャケット183の基板WおよびマスクMと対向する外側表面183aは、DLC膜を施工することで放射率の向上を図っている。これにより、シャッタ冷却ジャケット183と基板WおよびマスクMとの熱交換量が増加し、シャッタ閉鎖持に基板WとマスクMを冷却することが可能となる。外側表面183aの放射率を内側表面183bより高くする方法としては、前述したDLC膜施工の他にも、内側表面183bより表面を粗くする処理または黒色面にする処理などを適用することができる。このような表面処理としては、例えは、ブラスト加工処理、黒色メッキ処理、酸化被膜形成処理、溶射処理などが挙げられる。また、シャッタ冷却ジャケット183のシャッタ防着板181と対向する内側表面183bは、鏡面加工することで放射率の低減を図っている。これにより、シャッタ冷却ジャケット183とシャッタ防着板181との熱交換量を削減し、シャッタ冷却ジャケット183に流す冷媒流量を削減する。
【0049】
このように、シャッタ冷却ジャケット183は、ジャケット183の表面の放射率を調整(増減)することによって、成膜源11からの輻射熱を断熱するだけでなく、閉鎖時に基板WやマスクMを冷却する効果も期待することができる。
【0050】
シャッタ冷却ジャケット183の外側表面183aには温度センサ193が設置されている。この温度センサ193は図示しないアンプと計算機に接続されており、外側表面183aの温度を測定することで、シャッタ閉鎖時に基板WおよびマスクMを冷却する輻射冷却量を算出できる。この輻射冷却量が所望の値となるように、計算機に接続された図示しないチラーに指令を与えることで冷媒温度を制御する。この時、冷媒の温度を直接制御するようにしてもよく、供給される冷媒の流量を制御するようにしてもいい。以上のように、温度センサ193を用いることでシャッタが輻射熱源となることを抑え、基板WとマスクMの温度を抑えることが可能となる。
【0051】
なお、シャッタ冷却ジャケット183の材料には、真空蒸着装置の真空度の要件が許すのであれば、アルミニウムを用いても良い。また、より厳しい真空度要件を満たす必要がある場合には、ステンレスを用いても良い。この場合、ステンレスの熱伝導率は真鍮やアルミニウムに比べて低いので、一様な温度を達成するためにはより複雑な冷媒流路を構成する必要がある。
【0052】
<構造体冷却ジャケット>
冷却対象物である基板WとマスクMを支持するために、外気と接する構造体に冷却ジャケットを設置することもできる。
【0053】
微動ステージプレート部122の基準プレート部121は、装置構造体を通じて外気と接している。そのため、外気温の影響を受ける。基準プレート部121の温度変化は、輻射熱および伝熱として微動ステージプレート部122に影響を及ぼすため、基準プレート部121を冷却することで外気の影響を断熱する。この構造体冷却ジャケットは基準プレート部121に接触させる形で、別体で設けても良いし、基準プレート部121に冷媒流路を設けても良い。
【0054】
マスクMを設置および固定するマスク置台13も、外気と接する部分が有るため、外気温の影響を受ける。マスク置台13の温度変化は、輻射熱および伝熱としてマスクMに影響を及ぼすため、マスク置台13を冷却することで外気の影響を断熱する。この構造体冷却ジャケットはマスク置台13に接触させる形で、別体で設けても良いし、マスク置台13に冷媒流路を設けても良い。
【0055】
<電子デバイスの製造方法>
次に、本実施形態の成膜装置を用いた電子デバイスの製造方法の一例を説明する。以下、電子デバイスの例として有機EL表示装置の構成及び製造方法を例示する。
【0056】
まず、製造する有機EL表示装置について説明する。
図4aは有機EL表示装置60の全体図、
図4bは1画素の断面構造を表している。
【0057】
図4aに示すように、有機EL表示装置60の表示領域61には、発光素子を複数備える画素62がマトリクス状に複数配置されている。詳細は後で説明するが、発光素子のそれぞれは、一対の電極に挟まれた有機層を備えた構造を有している。なお、ここでいう画素とは、表示領域61において所望の色の表示を可能とする最小単位を指している。本実施例にかかる有機EL表示装置の場合、互いに異なる発光を示す第1発光素子62R、第2発光素子62G、第3発光素子62Bの組合せにより画素62が構成されている。画素62は、赤色発光素子と緑色発光素子と青色発光素子の組合せで構成されることが多いが、黄色発光素子とシアン発光素子と白色発光素子の組み合わせでもよく、少なくとも1色以上であれば特に制限されるものではない。
【0058】
図4bは、
図4aのA-B線における部分断面模式図である。画素62は、基板63上に、陽極64と、正孔輸送層65と、発光層66R、66G、66Bのいずれかと、電子輸送層67と、陰極68と、を備える有機EL素子を有している。これらのうち、正孔輸送層65、発光層66R、66G、66B、電子輸送層67が有機層に当たる。また、本実施形態では、発光層66Rは赤色を発する有機EL層、発光層66Gは緑色を発する有機EL層、発光層66Bは青色を発する有機EL層である。発光層66R、66G、66Bは、それぞれ赤色、緑色、青色を発する発光素子(有機EL素子と記述する場合もある)に対応するパターンに形成されている。また、陽極64は、発光素子ごとに分離して形成されている。正孔輸送層65と電子輸送層67と陰極68は、複数の発光素子62R、62G、62Bと共通で形成されていてもよいし、発光素子毎に形成されていてもよい。なお、陽極64と陰極68とが異物によってショートするのを防ぐために、陽極64間に絶縁層69が設けられている。さらに、有機EL層は水分や酸素によって劣化するため、水分や酸素から有機EL素子を保護するための保護層70が設けられている。
【0059】
図4bでは正孔輸送層65や電子輸送層67が一つの層で示されているが、有機EL表示素子の構造によって、正孔ブロック層や電子ブロック層を含む複数の層で形成されてもよい。また、陽極64と正孔輸送層65との間には陽極64から正孔輸送層65への正孔の注入が円滑に行われるようにすることのできるエネルギーバンド構造を有する正孔注入層を形成することもできる。同様に、陰極68と電子輸送層67の間にも電子注入層を形成することができる。
【0060】
次に、有機EL表示装置の製造方法の例について具体的に説明する。
【0061】
まず、有機EL表示装置を駆動するための回路(不図示)および陽極64が形成された基板63を準備する。
【0062】
陽極64が形成された基板63の上にアクリル樹脂をスピンコートで形成し、アクリル樹脂をリソグラフィ法により、陽極64が形成された部分に開口が形成されるようにパターニングし絶縁層69を形成する。この開口部が、発光素子が実際に発光する発光領域に相当する。
【0063】
絶縁層69がパターニングされた基板63を第1の有機材料成膜装置に搬入し、静電チャックにて基板を保持し、正孔輸送層65を、表示領域の陽極64の上に共通する層として成膜する。正孔輸送層65は真空蒸着により成膜される。実際には正孔輸送層65は表示領域61よりも大きなサイズに形成されるため、高精細なマスクは不要である。
【0064】
次に、正孔輸送層65までが形成された基板63を第2の有機材料成膜装置に搬入し、静電チャックにて保持する。基板とマスクとのアライメントを行い、マグネット板でマスクを吸引して基板に密着させた後、基板63の赤色を発する素子を配置する部分に、赤色を発する発光層66Rを成膜する。
【0065】
発光層66Rの成膜と同様に、第3の有機材料成膜装置により緑色を発する発光層66Gを成膜し、さらに第4の有機材料成膜装置により青色を発する発光層66Bを成膜する。発光層66R、66G、66Bの成膜が完了した後、第5の成膜装置により表示領域61の全体に電子輸送層67を成膜する。電子輸送層67は、3色の発光層66R、66G、66Bに共通の層として形成される。
【0066】
電子輸送層67まで形成された基板を金属性蒸着材料成膜装置で移動させて陰極68を成膜する。
【0067】
その後プラズマCVD装置に移動して保護層70を成膜して、有機EL表示装置60が完成する。
【0068】
絶縁層69がパターニングされた基板63を成膜装置に搬入してから保護層70の成膜が完了するまでは、水分や酸素を含む雰囲気にさらしてしまうと、有機EL材料からなる発光層が水分や酸素によって劣化してしまうおそれがある。従って、本例において、成膜装置間の基板の搬入搬出は、真空雰囲気または不活性ガス雰囲気の下で行われる。
【0069】
上記実施形態は本発明の一例を示すものでしかなく、本発明は上記実施形態の構成に限定されないし、その技術思想の範囲内で適宜に変形しても良い。
【符号の説明】
【0070】
10:真空蒸着装置、11:成膜源、12:微動ステージ機構、121:基準プレート部、122:微動ステージプレート部、13:マスク置台、14:基板吸着手段(静電チャック)、15:真空チャンバ、18:シャッタ、181:シャッタ防着板、183:シャッタ冷却ジャケット、21:静電チャック輻射冷却ジャケット、191:防着板、192:防着板輻射冷却ジャケット、193:温度センサ、185、211:冷媒配管