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  • 特許-全固体二次電池及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-05
(45)【発行日】2022-08-16
(54)【発明の名称】全固体二次電池及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0585 20100101AFI20220808BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20220808BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20220808BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20220808BHJP
   H01M 4/1395 20100101ALI20220808BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M10/0562
H01M10/052
H01M4/38 Z
H01M4/1395
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021509098
(86)(22)【出願日】2020-03-16
(86)【国際出願番号】 JP2020011507
(87)【国際公開番号】W WO2020196042
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-02-10
(31)【優先権主張番号】P 2019060215
(32)【優先日】2019-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100118809
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 育男
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(72)【発明者】
【氏名】今井 真二
(72)【発明者】
【氏名】小澤 信
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 秀幸
【審査官】儀同 孝信
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-086222(JP,A)
【文献】特開2019-029110(JP,A)
【文献】特開2012-212632(JP,A)
【文献】特開2008-226666(JP,A)
【文献】特開2009-181807(JP,A)
【文献】特開平08-315860(JP,A)
【文献】特開2015-095281(JP,A)
【文献】特開2014-107163(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0585
H01M 10/0562
H01M 10/052
H01M 4/38
H01M 4/1395
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機固体電解質を含有する固体電解質層と、前記固体電解質層の一方の表面に正極活物質層とを有する全固体二次電池の製造方法であって、
正極活物質と負極活物質前駆体とを含有する正極用組成物を用いて、前記固体電解質層の一方の表面に正極活物質層を形成する工程と、
前記正極活物質層と固体電解質層とを含む積層体を充電する工程と、
前記充電する工程の後に、少なくとも前記正極活物質層を加圧して圧縮する工程と、
前記圧縮する工程の後に、少なくとも前記正極活物質層が圧縮された積層体を放電する工程と、
を有する、全固体二次電池の製造方法。
【請求項2】
前記圧縮する工程において、前記積層体を10~1000MPaの圧力で加圧する、請求項1に記載の全固体二次電池の製造方法。
【請求項3】
前記圧力が、80MPa以上である、請求項2に記載の全固体二次電池の製造方法。
【請求項4】
前記充電する工程を、前記積層体を積層方向に加圧拘束した状態で行う、請求項1~3のいずれか1項に記載の全固体二次電池の製造方法。
【請求項5】
前記圧縮する工程を、前記積層体に電圧を印加しないで行う、請求項1~4のいずれか1項に記載の全固体二次電池の製造方法。
【請求項6】
前記負極活物質前駆体が、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属の、炭酸塩、酸化物及び水酸化物から選択される少なくとも1種の化合物である、請求項1~5のいずれか1項に記載の全固体二次電池の製造方法。
【請求項7】
前記全固体二次電池が、前記固体電解質層の他方の表面に負極活物質層を有する、請求項1~6のいずれか1項に記載の全固体二次電池の製造方法。
【請求項8】
前記充電する工程の前に、ケイ素又はケイ素元素を含有する合金を含有する負極用組成物を用いて、前記負極活物質層を形成する工程を有する、請求項7に記載の全固体二次電池の製造方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の全固体二次電池の製造方法により得られる全固体二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体二次電池及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、負極と、正極と、負極と正極との間に挟まれた電解質とを有し、両極間にリチウムイオンを往復移動させることにより充電と放電を可能とした蓄電池である。リチウムイオン二次電池には従来から、電解質として有機電解液が用いられてきた。しかし、有機電解液は液漏れを生じやすく、また、過充電、過放電により電池内部で短絡が生じるおそれもあり、信頼性と安全性の更なる向上が求められている。
このような状況下、有機電解液に代えて、不燃性の無機固体電解質を用いた全固体二次電池の開発が進められている。全固体二次電池は負極、電解質及び正極の全てが固体からなり、有機電解液を用いた電池の課題とされる安全性若しくは信頼性を大きく改善することができ、また長寿命化も可能になるとされる。
【0003】
一般に、金属イオンを両極間に往復移動させる二次電池は、通常、不可逆容量を有しており、電池製造後に初めて充電すると、金属イオンの発生源となる金属の量(全固体リチウムイオン二次電池の場合、リチウム量)が目減りして(放電容量の損失に繋がり)、目的とする電池容量を発現しないことがある。
上述の初回充電による金属量の目減り対策の1つとして、負極活物質層又は正極活物質層を形成する活物質とは別に対応する金属イオンを補充する技術が挙げられる。例えば、特許文献1には、非水系電解液を用いたリチウムイオン二次電池において、正極活物質及び特定のリチウム化合物を含む正極前駆体と、負極と、セパレータとからなる積層体に対して、非水系電解液の存在下で、正極前駆体と負極との間に特定の条件で電圧を印加してリチウム化合物を分解することにより、負極にリチウムイオンをプレドープする方法が記載されている。この方法では、リチウムイオンのプレドープに加えて、リチウム化合物の分解により生じた空孔内に非水系電解液を保持させることにより、リチウムイオン二次電池の高負荷充放電サイクル特性を良化できると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6251452号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、全固体二次電池においては、電解質も固体であるため、特許文献1のように、固体電解質層を正極活物質層に生じる空孔に保持若しくは充填させることは難しい。半面、金属量の目減り(放電容量の損失量)を補償(カバー)するため金属イオンのプレドープ量を多くすればするほど、エネルギー密度の低下を招くことになる。
【0006】
本発明は、高い電池容量だけでなく、高いエネルギー密度をも実現する全固体二次電池及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、負極活物質前駆体を含有する正極活物質層と固体電解質層との積層体を作製し、この積層体を充電した後に正極活物質層を圧縮することにより、電池容量とエネルギー密度についてより高性能な全固体二次電池を製造できることを見出した。本発明はこれらの知見に基づき更に検討を重ね、完成されるに至ったものである。
【0008】
すなわち、上記の課題は以下の手段により解決された。
<1>無機固体電解質を含有する固体電解質層と、固体電解質層の一方の表面に正極活物質層とを有する全固体二次電池の製造方法であって、
正極活物質と負極活物質前駆体とを含有する正極用組成物を用いて、上記固体電解質層の一方の表面に正極活物質層を形成する工程と、
正極活物質層と固体電解質層とを含む積層体を充電する工程と、
充電する工程の後に、少なくとも正極活物質層を加圧して圧縮する工程と、
を有する、全固体二次電池の製造方法。
<2>圧縮する工程において、積層体を10~1000MPaの圧力で加圧する、<1>に記載の全固体二次電池の製造方法。
<3>圧力が、80MPa以上である、<2>に記載の全固体二次電池の製造方法。
<4>充電する工程を、積層体を積層方向に加圧拘束した状態で行う、<1>~<3>のいずれか1つに記載の全固体二次電池の製造方法。
<5>圧縮する工程を、積層体に電圧を印加しないで行う、<1>~<4>のいずれか1つに記載の全固体二次電池の製造方法。
<6>負極活物質前駆体が、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属の、炭酸塩、酸化物及び水酸化物から選択される少なくとも1種の化合物である、<1>~<5>のいずれか1つに記載の全固体二次電池の製造方法。
<7>全固体二次電池が、固体電解質層の他方の表面に負極活物質層を有する、<1>~<6>のいずれか1つに記載の全固体二次電池の製造方法。
<8>充電する工程の前に、ケイ素又はケイ素元素を含有する合金を含有する負極用組成物を用いて、負極活物質層を形成する工程を有する、<7>に記載の全固体二次電池の製造方法。
<9>上記<1>~<8>のいずれか1つに記載の全固体二次電池の製造方法により得られる全固体二次電池。
【発明の効果】
【0009】
本発明の全固体二次電池の製造方法によれば、高電池容量及び高エネルギー密度を示す全固体二次電池を製造できる。本発明の全固体二次電池は高電池容量及び高エネルギー密度を示す。
本発明の上記及び他の特徴及び利点は、適宜添付の図面を参照して、下記の記載からより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は本発明の全固体二次電池の好ましい実施形態を模式化して示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の説明において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0012】
[全固体二次電池]
まず、本発明の全固体二次電池の製造方法により製造される全固体二次電池(本発明の全固体二次電池ともいう。)について、説明する。
本発明の全固体二次電池は、正極活物質層と、この正極活物質層に対向する負極活物質層と、正極活物質層及び負極活物質層の間の固体電解質層とを有する。本発明の全固体二次電池は、好ましくは、正極活物質層、固体電解質層及び負極活物質層が互いに隣接している。
本発明において、負極活物質層は、特に断らない限り、予め形成した負極活物質層(負極活物質層を予め形成する形態における負極活物質層)に加えて、充電により析出する金属の層(負極活物質層を予め形成しない形態における負極活物質層)を包含する。
本発明において、全固体二次電池を構成する各層は、特定の機能を奏する限り、単層構造であっても複層構造であってもよい。
本発明の全固体二次電池は、上記構成(正極活物質層及び負極活物質層の間に固体電解質層)を有するものであれば、それ以外の構成は特に限定されず、例えば全固体二次電池に関する公知の構成を採用できる。
【0013】
図1は、全固体二次電池の一実施形態について、電池を構成する各構成層の積層状態を模式化して示す断面図である。本実施形態の全固体二次電池10は、負極側からみて、負極集電体1、負極活物質層2、固体電解質層3、正極活物質層4及び正極集電体5を、この順に積層してなる構造を有しており、隣接する層同士は直に接触している。
このような構造を有する本発明の全固体二次電池の充放電は、金属イオンのプレドープ以外は、通常の全固体二次電池と同様であるが、以下に簡単に説明する。
すなわち、充電時には、負極側に電子(e)が供給され、同時に正極活物質を構成するアルカリ金属又はアルカリ土類金属がイオン化して、固体電解質層3を通過(伝導)して負極側に移動し、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属のイオンが(還元されて)蓄積される。例えばリチウムイオン二次電池であれば、負極にリチウムイオン(Li)が蓄積されることになる。
また、詳細は後述するが、全固体二次電池の製造後に初めて充電すると、正極活物質層中の負極活物質前駆体が(酸化)分解されて、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属のイオン(全固体リチウムイオン二次電池の場合、リチウムイオン)が生成し、このイオンが固体電解質層を通過して負極側に移動し、補充(ドープ)される。このイオンの補充は、全固体二次電池の使用前に行われるので、使用時のイオンの補充と区別して、プレドープともいう。
一方、放電時には、負極に蓄積された金属イオンが正極側に戻され(移動し)、負極で発生した電子が作動部位6に供給され、正極に到達する。図示した全固体二次電池の例では、作動部位6に電球を採用しており、放電によりこれが点灯するようにされている。
【0014】
本発明の全固体二次電池において、負極活物質層は種々の形態をとることができる。
負極活物質層として採りうる形態としては、例えば、後述する負極活物質を含有する負極活物質層、中でも高い電池容量を示すケイ素材料又はケイ素含有合金を含有する負極活物質層(Si負極ともいう。)、リチウム金属層、更には負極活物質層を有さずに、固体電解質層と負極集電体とが積層される形態(負極活物質層を予め形成しない形態)等が挙げられる。本発明の全固体二次電池は、求められる特性、製造条件等に応じて、負極活物質層の形態を適宜に選択できる。
【0015】
負極活物質層を予め形成しない形態の全固体二次電池では、充電時に負極集電体に蓄積した、周期律表第一族に属する金属のイオン(アルカリ金属イオン)又は周期律表第二族に属する金属のイオン(アルカリ土類金属イオン)の一部が電子と結合し、負極活物質(例えば金属)として負極集電体上(固体電解質層との界面、又は固体電解質層中の空隙を含む。)に析出する現象を利用して、負極活物質層を形成する。すなわち、この形態の全固体二次電池は、負極集電体上に析出した金属を負極活物質層として機能させるものである。例えばリチウム金属は、負極活物質として汎用されている黒鉛に比べて10倍以上の理論容量を有するとされている。したがって、負極集電体上にリチウム金属を析出させることによりリチウム金属の層を形成することができ、しかも、負極活物質層を予め形成(積層)しない分だけ厚みをより薄くでき、エネルギー密度が更に向上した全固体二次電池を実現することが可能になる。
このように、負極活物質層を予め形成しない形態の全固体二次電池は、未充電の態様(負極活物質が析出していない態様)と、既充電の態様(負極活物質が析出している態様)との両態様を包含する。なお、本発明において、負極活物質層を予め形成しない形態の全固体二次電池とは、あくまで電池製造における層形成工程において負極活物質層を形成しないことを意味し、上記の通り、負極活物質層は、充電により負極用集電体上に形成されるものである。
【0016】
<固体電解質層>
固体電解質層3は、周期律表第一族若しくは第二族に属する金属のイオンの伝導性を有する無機固体電解質(粒子状である場合、無機固体電解質粒子ともいう。)と、本発明の効果を損なわない範囲で後述する成分とを含有し、通常、正極活物質及び/又は負極活物質を含有しない。
この固体電解質層は、上記イオンの伝導性を示す一方、電子絶縁性を示すセパレータとして機能する層であって、従来の全固体二次電池が備える固体電解質層を特に制限されることなく適用できる。この固体電解質層は、上記無機固体電解質の粒子で形成される。
固体電解質層中の、無機固体電解質等の含有量は、後述する固体電解質組成物の固形分100質量%中の含有量と同じである。
【0017】
<正極活物質層>
正極活物質層は、周期律表第一族若しくは第二族に属する金属のイオンの伝導性を有する無機固体電解質と、正極活物質と、本発明の効果を損なわない範囲で後述する成分とを含有する。また、全固体二次電池の初回の未充電状態においては、後述する負極活物質前駆体を含有していることが好ましい態様の1つである。無機固体電解質、正極活物質、負極活物質前駆体等については後述する。
正極活物質層中の、正極活物質、無機固体電解質、負極活物質前駆体等の含有量は、後述する正極用組成物における固形分100質量%中の含有量と同じである。
【0018】
正極活物質層に負極活物質前駆体を含有させると、全固体二次電池の製造時に活性の高い材料(例えばリチウム金属)を用いることなく、金属元素のイオンを補充(ドープ)することができ、電池容量を向上させることができる。更に、分解反応後の正極活物質層を圧縮する(分解により生じた空隙を圧潰する)ことにより、正極活物質層を薄層化して、全固体二次電池の(体積)エネルギー密度を高めることができる。
負極活物質前駆体を含有する正極活物質層は、上述の、Si負極又は負極活物質層を予め形成しない形態に適用することが好ましい。負極活物質層としてSi負極を採用する場合、ケイ素材料又はケイ素含有合金は不可逆容量が大きく、初回の充電による容量(可動リチウムイオン量)の目減りが大きくなる。また、負極活物質層を予め形成しない形態においても、Si負極と同様に初回の充電による容量の目減りが大きくなる。しかし、Si負極を備えた全固体二次電池及び負極活物質層を予め形成しない形態における全固体二次電池において、正極活物質層に負極活物質前駆体を含有させ、初回の充電時に分解反応させることにより、目減りした金属イオンを補充する(Si負極内に金属イオンを吸蔵させる)ことができる。また、正極活物質層に負極活物質前駆体を含有させると、充電時における金属イオン吸蔵による膨張、若しくは金属析出による膨張(負極活物質層の体積膨張)を、正極活物質層で負極活物質の前駆体の分解反応で発生した空隙によりキャンセルできるため、固体電解質層の破壊を防止でき、デンドライトの正極への到達(短絡の発生)を抑制できる。しかも、空隙を圧潰することにより、エネルギー密度を向上できる。
【0019】
<負極活物質層>
負極活物質層は、上述のように、負極活物質、所望により周期律表第一族若しくは第二族に属する金属のイオンの伝導性を有する無機固体電解質、更には後述する成分を含有する層、リチウム金属層等が採用される。無機固体電解質、負極活物質等については後述する。
負極活物質層を構成しうるリチウム金属層とは、リチウム金属の層を意味し、具体的には、リチウム粉末を堆積又は成形してなる層、リチウム箔及びリチウム蒸着膜等を包含する。
本発明において、負極活物質層は、充放電による体積膨張及び体積収縮が小さい点で、炭素質材料を含む負極活物質層が好ましい。一方、電池容量の点では、負極活物質層を予め形成しない形態が好ましく、高い電池容量を達成できる上、短絡の発生を効果的に防止できる点では、Si負極が好ましい。負極活物質層がSi負極又は負極活物質層を予め形成しない形態であると、初回充電により金属イオンを補充することがき、Si負極及び上記形態の利点を活かしつつも、電池容量及びエネルギー密度の向上を図ることができる。
負極活物質層中の、負極活物質、無機固体電解質等の含有量は、後述する負極用組成物における固形分100質量%中の含有量と同じである。
【0020】
<負極活物質層、固体電解質層及び正極活物質層の厚さ>
負極活物質層、固体電解質層及び正極活物質層の厚さは、それぞれ、特に限定されない。各層の厚さは、それぞれ、10~1,000μmが好ましく、20μm以上500μm未満がより好ましい。負極活物質層を予め形成しない形態における負極活物質層の厚さは、充電により析出する金属量により変動するので、一義的に決定されない。全固体二次電池においては、正極活物質層、固体電解質層及び負極活物質層の少なくとも1層の厚さが、50μm以上500μm未満であることが更に好ましい。負極活物質層としてリチウム金属層を採用する場合、このリチウム金属層の厚さは、負極活物質層の上記厚さにかかわらず、例えば、0.01~100μmとすることができる。
【0021】
<集電体>
正極集電体5及び負極集電体1は、電子伝導体が好ましい。
本発明において、正極集電体及び負極集電体のいずれか、又は、両方を合わせて、単に、集電体と称することがある。
正極集電体を形成する材料としては、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス鋼、ニッケル及びチタンなどの他に、アルミニウム又はステンレス鋼の表面にカーボン、ニッケル、チタンあるいは銀を処理させたもの(薄膜を形成したもの)が好ましく、その中でも、アルミニウム及びアルミニウム合金がより好ましい。
負極集電体を形成する材料としては、アルミニウム、銅、銅合金、ステンレス鋼、ニッケル及びチタンなどの他に、アルミニウム、銅、銅合金又はステンレス鋼の表面にカーボン、ニッケル、チタンあるいは銀を処理させたものが好ましく、アルミニウム、銅、銅合金及びステンレス鋼がより好ましい。
【0022】
集電体の形状は、通常フィルムシート状のものが使用されるが、ネット、パンチされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の成形体なども用いることができる。
集電体の厚みは、特に限定されないが、1~500μmが好ましい。
集電体表面は、表面処理により凹凸を付けることも好ましい。
【0023】
本発明において、負極集電体、負極活物質層、固体電解質層、正極活物質層及び正極集電体の各層の間又はその外側には、機能性の層若しくは部材等を適宜介在若しくは配設してもよい。また、各層は単層で構成されていても、複層で構成されていてもよい。
【0024】
<筐体>
本発明の全固体二次電池の製造方法により製造される全固体二次電池は、用途によっては、上記構造のまま全固体二次電池として使用してもよいが、乾電池等の形態とするためには更に適当な筐体に封入して用いることも好ましい。筐体は、金属性のものであっても、樹脂(プラスチック)製のものであってもよい。金属性のものを用いる場合には、例えば、アルミニウム合金及びステンレス鋼製のものを挙げることができる。金属性の筐体は、正極側の筐体と負極側の筐体に分けて、それぞれ正極集電体及び負極集電体と電気的に接続させることが好ましい。正極側の筐体と負極側の筐体とは、短絡防止用のガスケットを介して接合され、一体化されることが好ましい。
【0025】
本発明の製造方法により製造される全固体二次電池は、高い電池溶量と、高い(体積)エネルギー密度を発揮する。すなわち、本発明の全固体二次電池は、初回の充電により負極活物質層に金属イオンがプレドープされており、負極活物質として不可逆容量が大きなケイ素材料又はケイ素含有合金を用いて形成した負極活物質層を備えていても、また負極活物質層を予め形成しない形態においても、十分な電池特性を発揮する。また、初回の充電により形成された空隙が圧潰された正極活物質層を備え、初回の充電前よりも小さな体積となるので、高いエネルギー密度を示す。
更に、全固体二次電池の構成層を固体粒子で形成しても、また全固体二次電池の(急速)充放電を繰り返しても、短絡の発生を抑制できる。このような短絡発生の抑制は、負極活物質層としてグラファイトからなる層及びリチウム金属層を採用しても、実現できる。
上記優れた特性を示す本発明の全固体二次電池は、構成層の積層方向(構成層の重ね方向、通常、構成層の厚さ方向)に加圧拘束された状態で、使用されることが好ましい。これにより、放電時に負極活物質量が減少しても、固体電界質層と負極活物質との接触が維持され、とりわけ負極活物質層として負極集電体上に析出した金属を機能させる形態においては充放電による金属の失活量(孤立金属量)を低減できるので、充放電による電池容量の低下が抑えられ、優れたサイクル特性をも示す。
【0026】
<全固体二次電池の用途>
本発明の全固体二次電池は種々の用途に適用することができる。適用態様には特に限定はないが、例えば、電子機器に搭載する場合、ノートパソコン、ペン入力パソコン、モバイルパソコン、電子ブックプレーヤー、携帯電話、コードレスフォン子機、ページャー、ハンディーターミナル、携帯ファックス、携帯コピー、携帯プリンター、ヘッドフォンステレオ、ビデオムービー、液晶テレビ、ハンディークリーナー、ポータブルCD、ミニディスク、電気シェーバー、トランシーバー、電子手帳、電卓、携帯テープレコーダー、ラジオ、バックアップ電源、メモリーカードなどが挙げられる。その他民生用として、自動車(電気自動車等)、電動車両、モーター、照明器具、玩具、ゲーム機器、ロードコンディショナー、時計、ストロボ、カメラ、医療機器(ペースメーカー、補聴器、肩もみ機など)などが挙げられる。更に、各種軍需用、宇宙用として用いることができる。また、太陽電池と組み合わせることもできる。
【0027】
[本発明の全固体二次電池の製造方法]
次に、本発明の全固体二次電池の製造方法(本発明の製造方法ともいう。)について、説明する。
本発明の製造方法は、下記工程を順に行う。
(正極活物質層を)形成する工程:正極活物質と負極活物質前駆体とを含有する正極用組成物を用いて、固体電解質層の一方の表面に正極活物質層を(積層)形成する工程
(積層体を)充電する工程:正極活物質層と固体電解質層とを含む積層体を充電する工程
(正極活物質層を)圧縮する工程:充電する工程の後に、少なくとも正極活物質層を加圧して圧縮する工程
【0028】
本発明の製造方法は、下記形成する工程を有することも好ましい。
(固体電解質層)を形成する工程:固体電解質層を、固体電解質を含有する固体電解質組成物を用いて、形成する工程
この形成する工程は、上記正極活物質層を形成する工程及び下記負極活物質層を形成する工程に対して前又は後に行うことができ、各形成する工程は、形成する各層の形態及び形成方法に応じて、適宜に実施順を決定できる。
【0029】
本発明の製造方法は、下記放電する工程を有していてもよい。
(積層体を)放電する工程:積層体を放電する工程
本発明の製造方法においては、上記放電する工程を圧縮する工程の後に有していてもいなくてもよく、圧縮する工程の前に上記放電する工程を有していないことが好ましい。
【0030】
全固体二次電池が負極活物質層を予め形成する形態である場合、本発明の製造方法は、下記形成する工程を有することも好ましい。
(負極活物質層を)形成する工程:負極活物質、好ましくは、負極活物質としての炭素質材料、又は、ケイ素若しくはケイ素元素を含有する合金を含有する負極用組成物を用いて、負極活物質層を形成する工程
この形成する工程は、充電する工程の前に行うことが好ましい。
【0031】
本発明において、「工程を順に行う」とは、ある工程と他の工程とを行う時間的先後を意味するものであって、ある工程と他の工程との間に別の工程(休止工程を含む。)を行う態様も包含する。また、ある工程と他の工程とを順に行う態様には、時間、場所又は実施者を適宜に変更して行う態様も包含する。
【0032】
本発明の製造方法においては、固体電解質層、正極活物質層及び負極活物質層をそれぞれ形成する。各層を単独で形成してもよく、積層体として、2種以上の層を一括して若しくは順次形成してもよい。各層は、通常、シート状、板状に成形され、基材、他の層等を備えていてもよい。
基材としては、固体電解質層を支持できるものであれば特に限定されず、上述の集電体で説明した材料、有機材料、無機材料等のシート体(板状体)等が挙げられる。有機材料としては、各種ポリマー等が挙げられ、具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン、セルロース等が挙げられる。無機材料としては、例えば、ガラス及びセラミック等が挙げられる。
他の層としては、例えば、保護層(剥離シート)、集電体、コート層等が挙げられる。負極活物質層を予め形成しない形態に用いる固体電解質層は、その表面に負極集電体を有していることが好ましい。
本発明において、固体電解質層を含み、正極活物質層及び負極活物質層を有さないシートを固体電解質シート、負極活物質層を含むシートを負極シート、正極活物質層を含むシートを正極シートと称する。
各層の層厚は、本発明の全固体二次電池において説明する各層の層厚と同じである。
【0033】
全固体二次電池を製造するに際して、固体電解質層と、正極活物質層と、全固体二次電池が負極活物質層を予め有する形態である場合、負極活物質層とを形成(準備)する。
【0034】
<固体電解質層を形成する工程>
本工程を実施するに際して、固体電解質組成物を調製する。
固体電解質組成物は、無機固体電解質を含有し、更には、適宜、バインダー、分散媒、後述する導電助剤、その他の成分を含有する。
固体電解質組成物は、非水系組成物であることが好ましい。本発明において、非水系組成物とは、水分を含有しない態様に加えて、含水率(水分含有量ともいう。)が200ppm以下である形態をも包含する。固体電解質層の含水率は、150ppm以下であることが好ましく、100ppm以下であることがより好ましく、50ppm以下であることが更に好ましい。含水量は、固体電解質組成物中に含有している水の量(固体電解質組成物に対する質量割合)を示す。含水量は、固体電解質組成物を0.45μmのメンブレンフィルターでろ過し、カールフィッシャー滴定により求めることができる。
【0035】
以下、固体電解質組成物が含有する成分及び含有しうる成分について説明する。
【0036】
- 無機固体電解質 -
本発明において、無機固体電解質とは、無機の固体電解質のことであり、固体電解質とは、その内部においてイオンを移動させることができる固体状の電解質のことである。主たるイオン伝導性材料として有機物を含むものではないことから、有機固体電解質(ポリエチレンオキシド(PEO)などに代表される高分子電解質、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)などに代表される有機電解質塩)とは明確に区別される。また、無機固体電解質は定常状態では固体であるため、通常カチオン及びアニオンに解離又は遊離していない。この点で、電解液、又は、ポリマー中でカチオン及びアニオンが解離若しくは遊離している無機電解質塩(LiPF、LiBF、LiFSI、LiClなど)とも明確に区別される。無機固体電解質は周期律表第一族若しくは第二族に属する金属のイオンの伝導性を有するものであれば特に制限されず電子伝導性を有さないものが一般的である。
【0037】
無機固体電解質は、周期律表第一族若しくは第二族に属する金属のイオン伝導性を有する。無機固体電解質は、この種の製品に適用される固体電解質材料を適宜選定して用いることができる。無機固体電解質としては、(i)硫化物系無機固体電解質、(ii)酸化物系無機固体電解質、(iii)ハロゲン化物系無機固体電解質、及び、(iV)水素化物系固体電解質が挙げられ、高いイオン伝導度と粒子間界面接合の容易さの点で、硫化物系無機固体電解質が好ましい。本発明において、無機固体電解質は、この種の製品に適用される無機固体電解質材料を適宜選定して用いることができる。
本発明の全固体二次電池が全固体リチウムイオン二次電池である場合、無機固体電解質はリチウムイオンのイオン伝導度を有することが好ましい。
【0038】
(i)硫化物系無機固体電解質
硫化物系無機固体電解質は、硫黄原子を含有し、かつ、周期律表第一族若しくは第二族に属する金属のイオン伝導性を有し、かつ、電子絶縁性を有する化合物が好ましい。硫化物系無機固体電解質は、元素として少なくともLi、S及びPを含有し、リチウムイオン伝導性を有しているものが好ましいが、目的又は場合に応じて、Li、S及びP以外の他の元素を含んでもよい。
【0039】
硫化物系無機固体電解質としては、例えば、下記式(1)で示される組成を満たすリチウムイオン伝導性硫化物系無機固体電解質が挙げられる。

a1b1c1d1e1 式(I)

式中、LはLi、Na及びKから選択される元素を示し、Liが好ましい。Mは、B、Zn、Sn、Si、Cu、Ga、Sb、Al及びGeから選択される元素を示す。Aは、I、Br、Cl及びFから選択される元素を示す。a1~e1は各元素の組成比を示し、a1:b1:c1:d1:e1は1~12:0~5:1:2~12:0~10を満たす。a1は1~9が好ましく、1.5~7.5がより好ましい。b1は0~3が好ましく、0~1がより好ましい。d1は2.5~10が好ましく、3.0~8.5がより好ましい。e1は0~5が好ましく、0~3がより好ましい。
【0040】
各元素の組成比は、下記のように、硫化物系無機固体電解質を製造する際の原料化合物の配合比を調整することにより制御できる。
【0041】
硫化物系無機固体電解質は、非結晶(ガラス)であっても結晶化(ガラスセラミックス化)していてもよく、一部のみが結晶化していてもよい。例えば、Li、P及びSを含有するLi-P-S系ガラス、又はLi、P及びSを含有するLi-P-S系ガラスセラミックスを用いることができる。
硫化物系無機固体電解質は、例えば硫化リチウム(LiS)、硫化リン(例えば五硫化二燐(P))、単体燐、単体硫黄、硫化ナトリウム、硫化水素、ハロゲン化リチウム(例えばLiI、LiBr、LiCl)及び上記Mで表される元素の硫化物(例えばSiS、SnS、GeS)の中の少なくとも2つ以上の原料の反応により製造することができる。
【0042】
Li-P-S系ガラス及びLi-P-S系ガラスセラミックスにおける、LiSとPとの比率は、LiS:Pのモル比で、好ましくは60:40~90:10、より好ましくは68:32~78:22である。LiSとPとの比率をこの範囲にすることにより、リチウムイオン伝導度を高いものとすることができる。具体的には、リチウムイオン伝導度を好ましくは1×10-4S/cm以上、より好ましくは1×10-3S/cm以上とすることができる。上限は特にないが、1×10-1S/cm以下であることが実際的である。
【0043】
具体的な硫化物系無機固体電解質の例として、原料の組み合わせ例を下記に示す。例えば、LiS-P、LiS-P-LiCl、LiS-P-HS、LiS-P-HS-LiCl、LiS-LiI-P、LiS-LiI-LiO-P、LiS-LiBr-P、LiS-LiO-P、LiS-LiPO-P、LiS-P-P、LiS-P-SiS、LiS-P-SiS-LiCl、LiS-P-SnS、LiS-P-Al、LiS-GeS、LiS-GeS-ZnS、LiS-Ga、LiS-GeS-Ga、LiS-GeS-P、LiS-GeS-Sb、LiS-GeS-Al、LiS-SiS、LiS-Al、LiS-SiS-Al、LiS-SiS-P、LiS-SiS-P-LiI、LiS-SiS-LiI、LiS-SiS-LiSiO、LiS-SiS-LiPO、Li10GeP12などが挙げられる。ただし、各原料の混合比は問わない。このような原料組成物を用いて硫化物系無機固体電解質材料を合成する方法としては、例えば非晶質化法を挙げることができる。非晶質化法としては、例えば、メカニカルミリング法、溶液法及び溶融急冷法を挙げられる。常温での処理が可能になり、製造工程の簡略化を図ることができるからである。
【0044】
(ii) 酸化物系無機固体電解質
酸化物系無機固体電解質は、酸素原子を含有し、かつ、周期律表第一族若しくは第二族に属する金属のイオン伝導性を有し、かつ、電子絶縁性を有する化合物が好ましい。
酸化物系無機固体電解質は、イオン伝導度として、1×10-6S/cm以上であることが好ましく、5×10-6S/cm以上であることがより好ましく、1×10-5S/cm以上であることが特に好ましい。上限は特に限定されないが、1×10-1S/cm以下であることが実際的である。
【0045】
具体的な化合物例としては、例えばLixaLayaTiO〔xa=0.3~0.7、ya=0.3~0.7〕(LLT)、LixbLaybZrzbbb mbnb(MbbはAl、Mg、Ca、Sr、V、Nb、Ta、Ti、Ge、In、Snの少なくとも1種以上の元素でありxbは5≦xb≦10を満たし、ybは1≦yb≦4を満たし、zbは1≦zb≦4を満たし、mbは0≦mb≦2を満たし、nbは5≦nb≦20を満たす。)、Lixcyccc zcnc(MccはC、S、Al、Si、Ga、Ge、In、Snの少なくとも1種以上の元素でありxcは0<xc≦5を満たし、ycは0<yc≦1を満たし、zcは0<zc≦1を満たし、ncは0<nc≦6を満たす。)、Lixd(Al,Ga)yd(Ti,Ge)zdSiadmdnd(ただし、1≦xd≦3、0≦yd≦1、0≦zd≦2、0≦ad≦1、1≦md≦7、3≦nd≦13)、Li(3-2xe)ee xeeeO(xeは0以上0.1以下の数を表し、Meeは2価の金属原子を表す。Deeはハロゲン原子又は2種以上のハロゲン原子の組み合わせを表す。)、LixfSiyfzf(1≦xf≦5、0<yf≦3、1≦zf≦10)、Lixgygzg(1≦xg≦3、0<yg≦2、1≦zg≦10)、LiBO-LiSO、LiO-B-P、LiO-SiO、LiBaLaTa12、LiPO(4-3/2w)(wはw<1)、LISICON(Lithium super ionic conductor)型結晶構造を有するLi3.5Zn0.25GeO、ペロブスカイト型結晶構造を有するLa0.55Li0.35TiO、NASICON(Natrium super ionic conductor)型結晶構造を有するLiTi12、Li1+xh+yh(Al,Ga)xh(Ti,Ge)2-xhSiyh3-yh12(ただし、0≦xh≦1、0≦yh≦1)、ガーネット型結晶構造を有するLiLaZr12(LLZ)等が挙げられる。またLi、P及びOを含むリン化合物も望ましい。例えばリン酸リチウム(LiPO)、リン酸リチウムの酸素の一部を窒素で置換したLiPON、LiPOD(Dは、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zr、Nb、Mo、Ru、Ag、Ta、W、Pt、Au等から選ばれた少なくとも1種)等が挙げられる。また、LiAON(Aは、Si、B、Ge、Al、C、Ga等から選ばれた少なくとも1種)等も好ましく用いることができる。
【0046】
(iii)ハロゲン化物系無機固体電解質
ハロゲン化物系無機固体電解質は、ハロゲン原子を含有し、かつ、周期律表第一族若しくは第二族に属する金属のイオン伝導性を有し、かつ、電子絶縁性を有する化合物が好ましい。
ハロゲン化物系無機固体電解質としては、特に制限されないが、例えば、LiCl、LiBr、LiI、ADVANCED MATERIALS,2018,30,1803075に記載のLiYBr、LiYCl等の化合物が挙げられる。中でも、LiYBr、LiYClを好ましい。
【0047】
(iV)水素化物系無機固体電解質
水素化物系無機固体電解質は、水素原子を含有し、かつ、周期律表第一族若しくは第二族に属する金属のイオン伝導性を有し、かつ、電子絶縁性を有する化合物が好ましい。
水素化物系無機固体電解質としては、特に制限されないが、例えば、LiBH、Li(BHI、3LiBH-LiCl等が挙げられる。
【0048】
無機固体電解質は粒子であることが好ましい。この場合、無機固体電解質の粒子径(体積平均粒子径)は特に限定されないが、0.01μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましい。上限としては、100μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましい。無機固体電解質の粒子径の測定は、以下の手順で行う。無機固体電解質粒子を、水(水に不安定な物質の場合はヘプタン)を用いて20mLサンプル瓶中で1質量%の分散液を希釈調製する。希釈後の分散液試料は、1kHzの超音波を10分間照射し、その直後に試験に使用する。この分散液試料を用い、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置LA-920(商品名、HORIBA社製)を用いて、温度25℃で測定用石英セルを使用してデータ取り込みを50回行い、体積平均粒子径を得る。その他の詳細な条件等は必要によりJIS Z 8828:2013「粒子径解析-動的光散乱法」の記載を参照する。1水準につき5つの試料を作製しその平均値を採用する。
無機固体電解質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
無機固体電解質の、固体電解質組成物中の含有量は、特に制限されないが、分散性、界面抵抗の低減及び結着性の点で、固形分100質量%において、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが特に好ましい。上限としては、特に制限されず、100質量%とすることもできるが、同様の観点では、99.99質量%以下であることが好ましく、99.95質量%以下であることがより好ましく、99.9質量%以下であることが特に好ましい。
本発明において、固形分(固形成分)とは、固体電解質組成物を、1mmHgの気圧及び窒素雰囲気下、130℃で6時間乾燥処理を行ったときに、揮発若しくは蒸発して消失しない成分をいう。典型的には、後述の分散媒以外の成分を指す。
【0049】
- バインダー -
固体電解質組成物は、無機固体電解質等の固体粒子を結着させるバインダーを含有していてもよい。
バインダーとしては有機ポリマーが挙げられ、全固体二次電池の製造に用いられる公知の有機ポリマーを特に制限されることなく用いることができる。このような有機ポリマーとしては、例えば、含フッ素樹脂、炭化水素系熱可塑性樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリウレア樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリカーボネート樹脂、セルロース誘導体樹脂等が挙げられる。バインダーは粒子であることが好ましい。バインダーは1種を単独で用いても、2種以上を用いてもよい。固体電解質組成物がバインダーを含む場合、固体電解質組成物の固形分中のバインダーの含有量は、特に制限されないが、例えば、0.1~10質量%が好ましく、1~10質量%がより好ましく、2~5質量%が更に好ましい。
【0050】
- 分散媒 -
本発明の固体電解質組成物は、分散媒を含有することも好ましい。
分散媒は、固体電解質組成物に含まれる各成分を分散させるものであればよい。本発明において、分散媒は、水を含まない非水系分散媒が好ましく、通常、有機溶媒から選択される。本発明において、分散媒が水を含まないとは、水の含有率が0質量%である態様に加えて、0.1質量%以下である態様を包含する。ただし、固体電解質組成物中の水含有量は、好ましくは上記範囲内(非水系組成物)とする。
有機溶媒としては、特に制限されないが、アルコール化合物、エーテル化合物、アミド化合物、アミン化合物、ケトン化合物、芳香族化合物、脂肪族化合物、ニトリル化合物、エステル化合物等の各有機溶媒が挙げられる。
固体電解質組成物に含有される分散媒は、1種であっても、2種以上であってもよい。
分散媒の、固体電解質組成物中の含有量は、特に限定されず、20~80質量%が好ましく、30~70質量%がより好ましく、40~60質量%が特に好ましい。
【0051】
- 他の成分 -
固体電解質組成物は、他の成分を含有していてもよい。
他の成分としては、特に制限されないが、各種添加剤等が挙げられる。
上記添加剤としては、例えば、増粘剤、架橋剤(ラジカル重合、縮合重合又は開環重合により架橋反応するもの等)、重合開始剤(酸又はラジカルを熱又は光によって発生させるものなど)、消泡剤、レベリング剤、脱水剤、酸化防止剤等を含有することができる。
他の成分の、固体電解質組成物中の含有量は、特に制限されず、適宜設定される。
【0052】
- 固体電解質組成物の調製 -
固体電解質組成物は、無機固体電解質、更に適宜の、バインダー、分散媒、他の成分等を、例えば通常用いる各種の混合機で混合することにより、例えば固体混合物若しくはスラリーとして、調製することができる。
混合方法は、特に制限されず、ボールミル、ビーズミル、ディスクミル等の公知の混合機を用いて行うことができる。また、混合条件も、特に制限されない。混合雰囲気としては、大気下、乾燥空気下(露点-20℃以下)及び不活性ガス中(例えばアルゴンガス中、ヘリウムガス中、窒素ガス中)等のいずれでもよい。無機固体電解質は水分と反応するため、混合は、乾燥空気下又は不活性ガス中で行うことが好ましい。
【0053】
- 固体電解質層の形成 -
固体電解質層は、特に制限されないが、固体電解質組成物を加圧成形する成形法、又は、分散媒を含有する固体電解質組成物(スラリー)を塗布乾燥し、次いで好ましくは加圧する塗布乾燥法等により、作製できる。
固体電解質組成物の成形方法は、固体電解質組成物を層状又は膜状に成形できる方法であればよく、公知の各種成形方法を適用することができ、プレス成形(例えば油圧シリンダープレス機を用いたプレス成形)が好ましい。成形時の圧力は、特に限定されないが、通常、50~1500MPaの範囲に設定されることが好ましく、150~600MPaの範囲に設定されることがより好ましく、100~300MPaの範囲に設定されることが更に好ましい。成形(プレス)時間は、短時間(例えば数時間以内)でも、長時間(1日以上)でもよい。
固体電解質組成物の加圧と同時に加熱してもよいが、本発明においては、非加熱で予備成形することが好ましく、例えば、10~50℃の環境温度で成形することが好ましい。成形中の雰囲気としては、乾燥空気下又は不活性ガス中で行うことが好ましい。
【0054】
固体電解質組成物(スラリー)の塗布方法としては、例えば、スピンコート塗布、ディップコート、スリット塗布、ストライプ塗布及びバーコート塗布等の湿式塗布法が挙げられる。乾燥温度は、特に限定されないが、例えば、30~300℃が好ましく、60~250℃がより好ましい。
固体電解質組成物の塗布乾燥層を加圧することが好ましい。加圧方法及び圧力としては、特に制限されず、例えば、上記固体電解質組成物の成形方法及び圧力と同様の方法及び圧力を適宜に採用できる。この加圧は、例えば、活物質層等を積層した後に行うこともできる。
【0055】
<負極活物質層を形成する工程>
全固体二次電池が負極活物質層を予め形成する形態である場合、本発明の製造方法において、負極活物質層を形成する工程を行う。
本工程を実施するに際して、負極用組成物を調製する。
負極用組成物は、負極活物質、好ましくは、無機固体電解質、導電助剤を含有し、更に適宜に、バインダー、分散媒、リチウム塩、その他の成分を含有する。この負極用組成物は、負極活物質そのものであってもよく、非水系組成物であることが好ましい。
負極用組成物に用いうる、無機固体電解質、バインダー、分散媒及びその他の成分は、上述の通りである。リチウム塩は、全固体二次電池に用いられるものを特に制限されることなく用いることができる。
【0056】
- 負極活物質 -
本発明に用いる負極活物質は、周期律表第一族若しくは第二族に属する金属元素のイオンの挿入放出が可能な物質である。負極活物質は、可逆的にリチウムイオンを挿入及び放出できるものが好ましい。その材料は、上記特性を有するものであれば、特に制限はなく、炭素質材料、金属若しくは半金属元素の酸化物(複合酸化物を含む。)、リチウム単体、リチウム合金、又は、リチウムと合金化(リチウムとの合金を形成)可能な負極活物質等が挙げられる。中でも、信頼性の点では、炭素質材料、半金属元素の酸化物、金属複合酸化物又はリチウム単体が好ましい。全固体二次電池の大容量化が可能となる点では、リチウムと合金化可能な負極活物質が好ましい。
【0057】
負極活物質として用いられる炭素質材料とは、実質的に炭素からなる材料である。例えば、石油ピッチ、アセチレンブラック(AB)等のカーボンブラック、黒鉛(天然黒鉛、気相成長黒鉛等の人造黒鉛等)、及びPAN(ポリアクリロニトリル)系の樹脂若しくはフルフリルアルコール樹脂等の各種の合成樹脂を焼成した炭素質材料を挙げることができる。更に、PAN系炭素繊維、セルロース系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、気相成長炭素繊維、脱水PVA(ポリビニルアルコール)系炭素繊維、リグニン炭素繊維、ガラス状炭素繊維及び活性炭素繊維等の各種炭素繊維類、メソフェーズ微小球体、グラファイトウィスカー並びに平板状の黒鉛等を挙げることもできる。
これらの炭素質材料は、黒鉛化の程度により難黒鉛化炭素質材料(ハードカーボンともいう。)と黒鉛系炭素質材料に分けることもできる。また炭素質材料は、特開昭62-22066号公報、特開平2-6856号公報、同3-45473号公報に記載される面間隔又は密度、結晶子の大きさを有することが好ましい。炭素質材料は、単一の材料でなくてもよく、特開平5-90844号公報記載の天然黒鉛と人造黒鉛の混合物、特開平6-4516号公報記載の被覆層を有する黒鉛等を用いることもできる。
炭素質材料としては、ハードカーボン又は黒鉛が好ましく用いられ、黒鉛がより好ましく用いられる。
【0058】
負極活物質として適用される金属若しくは半金属元素の酸化物としては、リチウムを吸蔵及び放出可能な酸化物であれば特に制限されず、金属元素の酸化物(金属酸化物)、金属元素の複合酸化物若しくは金属元素と半金属元素との複合酸化物(纏めて金属複合酸化物という。)、半金属元素の酸化物(半金属酸化物)が挙げられる。これらの酸化物としては、非晶質酸化物が好ましく、更に金属元素と周期律表第16族の元素との反応生成物であるカルコゲナイトも好ましく挙げられる。本発明において、半金属元素とは、金属元素と非半金属元素との中間の性質を示す元素をいい、通常、ホウ素、ケイ素、ゲルマニウム、ヒ素、アンチモン及びテルルの6元素を含み、更にはセレン、ポロニウム及びアスタチンの3元素を含む。また、非晶質とは、CuKα線を用いたX線回折法で、2θ値で20°~40°の領域に頂点を有するブロードな散乱帯を有するものを意味し、結晶性の回折線を有してもよい。2θ値で40°~70°に見られる結晶性の回折線の内最も強い強度が、2θ値で20°~40°に見られるブロードな散乱帯の頂点の回折線強度の100倍以下であるのが好ましく、5倍以下であるのがより好ましく、結晶性の回折線を有さないことが特に好ましい。
【0059】
上記非晶質酸化物及びカルコゲナイドからなる化合物群の中でも、半金属元素の非晶質酸化物又は上記カルコゲナイドがより好ましく、周期律表第13(IIIB)族~15(VB)族の元素(例えば、Al、Ga、Si、Sn、Ge、Pb、Sb及びBi)から選択される1種単独若しくはそれらの2種以上の組み合わせからなる(複合)酸化物、又はカルコゲナイドが特に好ましい。好ましい非晶質酸化物及びカルコゲナイドの具体例としては、例えば、Ga、GeO、PbO、PbO、Pb、Pb、Pb、Sb、Sb、SbBi、SbSi、Sb、Bi、Bi、GeS、PbS、PbS、Sb又はSbが好ましく挙げられる。
Sn、Si、Geを中心とする非晶質酸化物に併せて用いることができる負極活物質としては、リチウムイオン又はリチウム金属を吸蔵及び/又は放出できる炭素質材料、リチウム単体、リチウム合金、リチウムと合金化可能な負極活物質が好適に挙げられる。
【0060】
金属若しくは半金属元素の酸化物、とりわけ金属(複合)酸化物及び上記カルコゲナイドは、構成成分として、チタン及びリチウムの少なくとも一方を含有していることが、高電流密度充放電特性の観点で好ましい。リチウムを含有する金属複合酸化物(リチウム複合金属酸化物)としては、例えば、酸化リチウムと上記金属(複合)酸化物若しくは上記カルコゲナイドとの複合酸化物、より具体的には、LiSnOが挙げられる。
負極活物質、例えば金属酸化物は、チタン元素を含有すること(チタン酸化物)も好ましく挙げられる。具体的には、LiTi12(チタン酸リチウム[LTO])がリチウムイオンの吸蔵放出時の体積変動が小さいことから急速充放電特性に優れ、電極の劣化が抑制されリチウムイオン二次電池の寿命向上が可能となる点で好ましい。
【0061】
負極活物質としてのリチウム合金としては、二次電池の負極活物質として通常用いられる合金であれば特に制限されず、例えば、リチウムアルミニウム合金が挙げられる。
【0062】
リチウムと合金形成可能な負極活物質は、二次電池の負極活物質として通常用いられるものであれば特に制限されない。このような活物質は、全固体二次電池の充放電による膨張収縮が大きくなる。上記活物質として、ケイ素元素若しくはスズ元素を有する負極活物質(合金)、Al及びIn等の各金属が挙げられ、より高い電池容量を可能とするケイ素元素を有する負極活物質(ケイ素元素含有活物質)が好ましく、ケイ素元素の含有量が全構成元素の50mol%以上のケイ素元素含有活物質がより好ましい。
一般的に、これらの負極活物質を含有する負極(ケイ素元素含有活物質を含有するSi負極、スズ元素を有する活物質を含有するSn負極等)は、炭素負極(黒鉛及びアセチレンブラックなど)に比べて、より多くのLiイオンを吸蔵できる。すなわち、単位質量あたりのLiイオンの吸蔵量が増加する。そのため、電池容量を大きくすることができる。その結果、バッテリー駆動時間を長くすることができるという利点がある。
ケイ素元素含有活物質としては、例えば、Si、SiOx(0<x≦1)等のケイ素材料、更には、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、ニッケル、銅、ランタン等を含むケイ素含有合金(例えば、LaSi、VSi、La-Si、Gd-Si、Ni-Si)、又は組織化した活物質(例えば、LaSi/Si)、他にも、SnSiO、SnSiS等のケイ素元素及びスズ元素を含有する活物質等が挙げられる。なお、SiOxは、それ自体を負極活物質(半金属酸化物)として用いることができ、また、全固体二次電池の稼働によりSiを生成するため、リチウムと合金化可能な負極活物質(その前駆体物質)として用いることができる。
スズ元素を有する負極活物質としては、例えば、Sn、SnO、SnO、SnS、SnS、更には上記ケイ素元素及びスズ元素を含有する活物質等が挙げられる。また、酸化リチウムとの複合酸化物、例えば、LiSnOを挙げることもできる。
【0063】
本発明においては、上述の負極活物質を特に制限されることなく用いることができるが、電池容量の点では、負極活物質として、リチウムと合金化可能な負極活物質が好ましい態様であり、中でも、上記ケイ素材料又はケイ素含有合金(ケイ素元素を含有する合金)がより好ましく、ケイ素(Si)又はケイ素含有合金を含むことが更に好ましい。
【0064】
負極活物質の形状は特に制限されないが粒子状が好ましい。負極活物質の粒子径(体積平均粒子径)は、0.1~60μmが好ましい。所定の粒子径にするには、通常の粉砕機若しくは分級機が用いられる。例えば、乳鉢、ボールミル、サンドミル、振動ボールミル、衛星ボールミル、遊星ボールミル、旋回気流型ジェットミル、篩等が好適に用いられる。粉砕時には水、あるいはメタノール等の有機溶媒を共存させた湿式粉砕も行うことができる。所望の粒子径とするためには分級を行うことが好ましい。分級方法としては特に限定はなく、篩、風力分級機などを用いることができる。分級は乾式及び湿式ともに用いることができる。負極活物質粒子の平均粒子径は、上述の無機固体電解質の体積平均粒子径の測定方法と同様の方法により測定することができる。
【0065】
本発明において、焼成法により得られた化合物の化学式は、測定方法として誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法、簡便法として、焼成前後の粉体の質量差から算出できる。
【0066】
負極活物質の表面は別の金属酸化物で表面被覆されていてもよい。表面被覆剤としてはTi、Nb、Ta、W、Zr、Al、Si又はLiを含有する金属酸化物等が挙げられる。具体的には、チタン酸スピネル、タンタル系酸化物、ニオブ系酸化物、ニオブ酸リチウム系化合物等が挙げられ、具体的には、LiTi12、LiTi、LiTaO、LiNbO、LiAlO、LiZrO、LiWO、LiTiO、Li、LiPO、LiMoO、LiBO、LiBO、LiCO、LiSiO、SiO、TiO、ZrO、Al、B等が挙げられる。
また、負極活物質を含む電極表面は硫黄又はリンで表面処理されていてもよい。
更に、負極活物質の粒子表面は、上記表面被覆の前後において活性光線又は活性気体(プラズマ等)により表面処理を施されていてもよい。
【0067】
上記負極活物質は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
負極活物質層を形成する場合、負極活物質層の単位面積(cm)当たりの負極活物質の質量(mg)(目付量)は特に限定されるものではない。設計された電池容量に応じて、適宜に決めることができる。
【0068】
- 導電助剤 -
負極用組成物は、導電助剤を含有することも好ましく、特に負極活物質としてのケイ素元素含有活物質は導電助剤と併用されることが好ましい。
導電助剤としては、特に制限はなく、一般的な導電助剤として知られているものを用いることができる。例えば、電子伝導性材料である、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛類、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラックなどのカーボンブラック類、ニードルコークスなどの無定形炭素、気相成長炭素繊維若しくはカーボンナノチューブなどの炭素繊維類、グラフェン若しくはフラーレンなどの炭素質材料であってもよいし、銅、ニッケルなどの金属粉、金属繊維でもよく、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリフェニレン誘導体など導電性高分子を用いてもよい。
本発明において、活物質と導電助剤とを併用する場合、上記の導電助剤のうち、電池を充放電した際にLiの挿入と放出が起きず、活物質として機能しないものを導電助剤とする。したがって、導電助剤の中でも、電池を充放電した際に活物質層中において活物質として機能しうるものは、導電助剤ではなく活物質に分類する。電池を充放電した際に活物質として機能するか否かは、一義的ではなく、活物質との組み合わせにより決定される。
導電助剤の形状は、特に制限されないが、粒子状が好ましい。
導電助剤は、1種を用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0069】
負極活物質の、負極用組成物中における含有量は、特に限定されず、固形分100質量%において、100質量%以下であることが好ましく、10~80質量%であることがより好ましく、20~80質量%であることが更に好ましい。
負極用組成物が無機固体電解質を含有する場合、負極用組成物中における無機固体電解質と負極活物質との合計含有量として、固形分100質量%において、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、15質量%以上であることが特に好ましく、50質量%以上であることがより一層好ましく、70質量%以上であることが特に好ましく、90質量%以上であることが最も好ましい。上限としては、99.9質量%以下であることが好ましく、99.5質量%以下であることがより好ましく、99質量%以下であることが特に好ましい。
導電助剤の、負極用組成物中の含有量は、固形分100質量部に対して、0.1~20質量%が好ましく、0.5~10質量%がより好ましい。
バインダー及び分散媒の、負極用組成物中の含有量は、それぞれ、特に制限されず、例えば、上記固体電解質組成物における上記含有量とすることができる。
また、リチウム塩及び他の成分の、負極用組成物中の含有量は、それぞれ、特に制限されず、適宜設定され、例えば固体電解質組成物における上記含有量とすることができる。
【0070】
- 負極用組成物の調製 -
負極用組成物は、上記固体電解質組成物の調製と同様の方法及び条件で、調製することができる。
【0071】
- 負極活物質層の形成 -
負極活物質層は、特に制限されないが、上記固体電解質層の形成と同様の方法及び条件で、調製することができる。負極活物質層の形成においては、塗布乾燥した負極用組成物を加圧と同時に加熱してもよい。加熱温度としては、特に制限されないが、一般的には30~300℃の範囲である。
負極活物質層を、固体電解質層の正極活物質層とは反対側(他方)の表面に形成する方法としては、特に制限されず、通常の方法を適用できる。例えば、固体電解質層と負極活物質層とをそれぞれ形成して両層を積層する方法、固体電解質層又は負極活物質層の表面に負極活物質層又は固体電解質層を形成する方法が挙げられる。
両層を積層する方法としては、特に制限されず、圧着積層する方法、負極活物質を固体電解質層の表面に載置して加圧する方法、貼りあわせる方法等が挙げられる。
圧着積層する方法は、特に限定されないが、例えば、固体電解質層の表面に負極活物質層を載置(配置)した後にプレスする方法が挙げられる。圧着積層する方法及び固体電解質層の表面で負極活物質を加圧する方法において、圧着積層又は加圧する方法及び条件は、両層を圧着できる限り特に制限されない。圧力は、負極活物質層を圧着可能な圧力であればよく、例えば、1MPa以上に設定することができ、1~150MPaが好ましく、5~60MPaがより好ましい。圧着積層又は加圧は加熱下で行ってもよいが、本発明においては、非加熱下で行うことが好ましく、例えば、0~50℃の環境温度で行うことがより好ましい。圧着積層又は加圧を行う雰囲気は、固体電解質組成物の調製時の雰囲気と同様である。
貼りあわせる方法は、特に制限されず、例えば、固体電解質層の表面に電解液を塗布した後に負極活物質層を載置(配置)する方法が挙げられる。用いる電解液としては、特に制限されない。
【0072】
固体電解質層又は負極活物質層の表面に負極活物質層又は固体電解質層を直接形成する方法としては、特に制限されないが、例えば、固体電解質層又は負極活物質層の表面上で負極用組成物又は固体電解質組成物を塗布乾燥する方法が挙げられる。塗布乾燥の方法及び条件としては、特に制限されず、例えば、固体電解質組成物の塗布乾燥方法及び条件を適用できる。
【0073】
全固体二次電池が負極活物質層を予め形成しない形態である場合、負極活物質層は、後述する充電する工程により形成する。この場合、上記負極活物質に代えて、周期律表第一族若しくは第二族に属する金属のイオンを発生する化合物(例えば正極活物質等)を用いる。この化合物から発生するイオンを負極集電体又はその近傍で電子と結合させて金属として析出させることで、負極活物質層を形成できる。
【0074】
<正極活物質層を形成する工程>
正極活物質層を形成する工程を実施するに際して、正極用組成物を調製する。
正極用組成物は、正極活物質、負極活物質前駆体、好ましくは、無機固体電解質、導電助剤を含有し、更に適宜に、バインダー、分散媒、リチウム塩、その他の成分を含有する。この正極用組成物は非水系組成物であることが好ましい。
正極用組成物に用いうる、無機固体電解質、導電助剤、バインダー、分散媒、リチウム塩及びその他の成分は、上述の通りである。
【0075】
- 正極活物質 -
本発明に用いる正極活物質は、周期律表第一族若しくは第二族に属する金属元素のイオンの挿入放出が可能な物質である。正極活物質としては、金属酸化物(好ましくは遷移金属酸化物)が好ましい。
【0076】
正極活物質は、可逆的にリチウムイオンを挿入及び放出できるものが好ましい。その材料は、上記特性を有するものであれば、特に制限はなく、遷移金属酸化物、又は、有機物、硫黄などのLiと複合化できる元素や硫黄と金属の複合物などでもよい。
中でも、正極活物質としては、遷移金属酸化物を用いることが好ましく、遷移金属元素M(Co、Ni、Fe、Mn、Cu及びVから選択される1種以上の元素)を有する遷移金属酸化物がより好ましい。また、この遷移金属酸化物に元素M(リチウム以外の金属周期律表の第1(Ia)族の元素、第2(IIa)族の元素、Al、Ga、In、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Si、P又はBなどの元素)を混合してもよい。混合量としては、遷移金属元素Mの量(100mol%)に対して0~30mol%が好ましい。Li/Mのモル比が0.3~2.2になるように混合して合成されたものが、より好ましい。
遷移金属酸化物の具体例としては、(MA)層状岩塩型構造を有する遷移金属酸化物、(MB)スピネル型構造を有する遷移金属酸化物、(MC)リチウム含有遷移金属リン酸化合物、(MD)リチウム含有遷移金属ハロゲン化リン酸化合物及び(ME)リチウム含有遷移金属ケイ酸化合物等が挙げられる。
【0077】
(MA)層状岩塩型構造を有する遷移金属酸化物の具体例として、LiCoO(コバルト酸リチウム[LCO])、LiNi(ニッケル酸リチウム)、LiNi0.85Co0.10Al0.05(ニッケルコバルトアルミニウム酸リチウム[NCA])、LiNi1/3Co1/3Mn1/3(ニッケルマンガンコバルト酸リチウム[NMC])及びLiNi0.5Mn0.5(マンガンニッケル酸リチウム)が挙げられる。
(MB)スピネル型構造を有する遷移金属酸化物の具体例として、LiMn(LMO)、LiCoMnO、LiFeMn、LiCuMn、LiCrMn及びLiNiMnが挙げられる。
(MC)リチウム含有遷移金属リン酸化合物としては、例えば、LiFePO及びLiFe(PO等のオリビン型リン酸鉄塩、LiFeP等のピロリン酸鉄類、LiCoPO等のリン酸コバルト類並びにLi(PO(リン酸バナジウムリチウム)等の単斜晶ナシコン型リン酸バナジウム塩が挙げられる。
(MD)リチウム含有遷移金属ハロゲン化リン酸化合物としては、例えば、LiFePOF等のフッ化リン酸鉄塩、LiMnPOF等のフッ化リン酸マンガン塩及びLiCoPOF等のフッ化リン酸コバルト類が挙げられる。
(ME)リチウム含有遷移金属ケイ酸化合物としては、例えば、LiFeSiO、LiMnSiO及びLiCoSiO等が挙げられる。
本発明では、(MA)層状岩塩型構造を有する遷移金属酸化物が好ましく、LCO又はNMCがより好ましい。
【0078】
正極活物質の形状は特に制限されないが粒子状が好ましい。正極活物質の体積平均粒子径(球換算平均粒子径)は特に限定されない。例えば、0.1~50μmとすることができる。正極活物質を所定の粒子径にするには、通常の粉砕機や分級機を用いればよい。焼成法によって得られた正極活物質は、水、酸性水溶液、アルカリ性水溶液、有機溶剤にて洗浄した後使用してもよい。正極活物質粒子の平均粒子径は、上述の無機固体電解質の体積平均粒子径の測定方法と同様の方法により測定することができる。
【0079】
上記正極活物質の表面は、負極活物質と同様に、別の金属酸化物で表面被覆されていてもよい。
上記正極活物質は、1種を単独で用いても、2種以上を用いてもよい。
正極活物質層を形成する場合、正極活物質層の単位面積(cm)当たりの正極活物質の質量(mg)(目付量)は特に限定されるものではない。設計された電池容量に応じて、適宜に決めることができる。
【0080】
- 負極活物質前駆体 -
負極活物質前駆体は、後述する充電する工程により、正極活物質層中において、周期律表第一族若しくは第二族に属する金属元素のイオン(金属イオン)を発生(放出)させる化合物である。発生する金属イオンが全固体二次電池の充電により負極活物質層等に到達して負極活物質層をプレドープする。全固体二次電池が負極活物質層を予め形成しない形態である場合、金属イオンが負極集電体に到達して電子と結合することにより金属として析出して、負極活物質層をプレドープする。
負極活物質前駆体は、このような特性若しくは機能を有するものであれば特に制限されず、上記金属元素を含む化合物が挙げられるが、全固体二次電池の材料として用いられる支持電解質としてのリチウム塩とは、初回充電時にリチウムイオンを放出して分解し、次回充電時にはリチウムイオンの放出に寄与しない点で、異なる。このように、負極活物質前駆体は、充放電によるリチウムイオンの可逆的な挿入及び放出ができない点で、上記正極活物質とも異なる化合物である。
【0081】
負極活物質前駆体は、上記金属元素を含む無機化合物が好ましく、上記金属イオンと陰イオンとを発生させる無機塩がより好ましく、上記金属元素(アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属)の炭酸塩、酸化物又は水酸化物が更に好ましく、炭酸塩から選択される化合物が特に好ましい。無機塩は、特に制限されないが、分解により、常温常圧、好ましくは充電環境において気体を発生させるものが好ましい。例えば、炭酸塩は、酸化分解により、金属元素のイオンと炭酸イオンを発生する。発生した金属元素のイオンは負極活物質層の構成材料となり、炭酸イオンは炭酸ガスに変化して正極活物質層中から外部に放出され(消失)する。そのため、炭酸塩は、分解物を含めて正極活物質層中に残存せず、炭酸塩の含有による電池特性(エネルギー密度)の低下を避けることができる。
全固体二次電池が全固体リチウムイオン二次電池である場合、負極活物質前駆体を形成する金属元素はリチウムが好ましい。
負極活物質前駆体としては、例えば、上記金属元素の、炭酸塩、酸化物、水酸化物、ハロゲン化物等の無機塩、上記金属元素のカルボン酸塩(例えばシュウ酸塩)等の有機塩が挙げられる。負極活物質前駆体としてのリチウム元素含む化合物(リチウム塩)としては、具体的には、例えば、炭酸リチウム、酸化リチウム、水酸化リチウム、フッ化リチウム、塩化リチウム、シュウ化リチウム、ヨウ化リチウム、窒化リチウム、硫化リチウム、リン化リチウム、硝酸リチウム、硫酸リチウム、リン酸リチウム、シュウ酸リチウム、ギ酸リチウム、酢酸リチウム等が挙げられ、炭酸リチウム、酸化リチウム又は水酸化リチウムが好ましく、空気中での安全に取り扱うことができる(吸湿性が低い)点で、炭酸リチウムがより好ましい。
【0082】
正極用組成物は、負極活物質前駆体を1種含有していても、2種以上を含有していてもよい。
負極活物質前駆体の平均粒子径は、特に限定されないが、0.01~10μmであることが好ましく、0.1~1μmであることがより好ましい。平均粒子径は、上述の無機固体電解質粒子の平均粒子径と同様にして測定した値である。
【0083】
正極活物質の、正極用組成物中における含有量は、特に限定されず、固形分100質量%において、10~95質量%が好ましく、30~90質量%がより好ましく、50~85質量が更に好ましく、55~80質量%が特に好ましい。
正極用組成物が無機固体電解質を含有する場合、正極用組成物中における無機固体電解質と正極活物質との合計含有量として、固形分100質量%において、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、15質量%以上であることが特に好ましく、50質量%以上であることがより一層好ましく、70質量%以上であることが特に好ましく、90質量%以上であることが最も好ましい。上限としては、99.9質量%以下であることが好ましく、99.5質量%以下であることがより好ましく、99質量%以下であることが特に好ましい。
負極活物質前駆体の、正極用組成物中の含有量は、補充する金属元素のイオン量等により変動するので、一義的に決定されないが、例えば、固形分100質量%において、50質量%以下であることが好ましく、5~30質量%であることがより好ましく、7~20質量%であることが更に好ましい。正極用組成物中の、正極活物質と負極活物質前駆体との合計含有量は、特に制限されず、好ましくは70~90質量%である。
導電助剤の、正極用組成物中の含有量は、固形分100質量部に対して、0.1~20質量%が好ましく、0.5~10質量%がより好ましい。
バインダー及び分散媒の、正極用組成物中の含有量は、それぞれ、特に制限されず、例えば、上記固体電解質組成物における上記含有量とすることができる。
他の成分の、正極用組成物中の含有量は、特に制限されず、適宜設定され、例えば固体電解質組成物で説明した上記含有量とすることができる。
【0084】
- 正極用組成物の調製 -
正極用組成物は、上記固体電解質組成物の調製と同様の方法及び条件で、調製することができる。
【0085】
- 正極活物質層の形成 -
正極活物質層は、特に制限されないが、上記固体電解質層の形成と同様の方法及び条件で、調製することができる。正極活物質層の形成においては、塗布乾燥した正極用組成物を加圧と同時に加熱することが好ましい。加熱温度としては、特に制限されないが、一般的には30~300℃の範囲である。
正極活物質層を、固体電解質層の負極活物質層とは反対側(一方)の表面に形成する方法としては、特に制限されず、通常の方法を適用できる。例えば、固体電解質層と正極活物質層とをそれぞれ形成して両層を積層する方法、固体電解質層又は正極活物質層の表面に正極活物質層又は固体電解質層を形成する方法が挙げられる。
正極活物質層を固体電解質層の一方の表面に形成する方法としては、負極活物質、負極活物質層又は負極用組成物に代えて正極活物質、正極活物質層又は正極用組成物を用いること以外は負極活物質層を固体電解質層の他方の表面に形成する方法と同様の方法が挙げられる。
【0086】
上記のようにして、固体電解質層及び正極活物質層を形成する工程を行い、正極活物質層と固体電解質層とを含む積層体を作製する。また、全固体二次電池が負極活物質層を予め形成する態様である場合、更に負極活物質層を形成する工程を行い、正極活物質層と固体電解質層と負極活物質層とを含む積層体を作製する。
こうして得られる積層体は、初期充電及び圧縮を行う前の全固体二次電池であって、全固体二次電池前駆体ともいう。
【0087】
<積層体を充電する工程>
本発明の製造方法においては、次いで、得られた積層体を充電する工程を行う。
充電条件は、正極活物質層中の負極活物質前駆体を酸化分解可能な条件であればよく、例えば、下記条件が挙げられる。
電流:0.05~1mA/cm
電圧:4.2~4.5V
充電時間:1~20時間
温度:25~60℃
充電する工程は、負極活物質前駆体の陰イオン(から発生する化合物)を積層体の外部に放出するため、積層体を密閉して行うのではなく、開放下で行うことが好ましい。このときの雰囲気は、固体電解質組成物の調製時と同様である。
充電する工程は、積層体を積層方向に加圧拘束して、行うことが好ましい。これにより、負極活物質層の体積変動による問題(例えば固体電解質層の損傷)を抑えることができる。このときの圧力は、特に限定されないが、0.05MPa以上が好ましく、1MPaがより好ましい。上限は、正極活物質層を圧縮しない圧力であればよく、例えば、10MPa未満が好ましく、8MPa以下がより好ましい。
本工程において、充電は1回行ってもよく、複数回行ってもよい。
【0088】
この充電する工程により、正極活物質層中の負極活物質前駆体は、酸化分解されて、金属イオンと陰イオンとを発生させる。発生した金属イオンは負極活物質層又はその近傍まで移動して、負極活物質層をドープする。一方、陰イオンは、正極活物質層中に留まることもあるが、好ましくは気体に変化して積層体の外部に放出される。このように、本発明の製造方法においては、リチウム金属等を用いることなく、安全かつ簡潔にプレドープすることができる。
こうして、充電が完了すると、正極活物質層中には、酸化分解された負極活物質前駆体に由来する空隙が生じる。
充電後の正極活物質層における空隙率(負極活物質前駆体に由来する空隙を含む全空隙の空隙率)は、正極活物質の種類若しくは粒径、正極活物質層の形成条件、負極活物質前駆体の種類、粒径若しくは含有量等によって変動するので、一義的に決定されないが、例えば、5~30%とすることができ、15~25%であることが好ましい。
正極活物質層の空隙率は、次の方法で測定する。すなわち、正極活物質層の任意の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察し、得られたSEM写真を倍率3万倍で撮影し、視野3μm×2.5μm中の空隙の面積を求め、この面積を視野面積(7.5μm)で除した値(百分率)として算出する。
【0089】
負極活物質層を予め形成しない形態の全固体二次電池では、周期律表第一族若しくは第二族に属する金属のイオンを析出させる足場となりうる負極集電体等を適宜に用いることができる。この充電する工程により、上記負極活物質前駆体の分解によるドープだけでなく、負極活物質層が形成される。
【0090】
<積層体を放電する工程>
本発明の製造方法においては、積層体を放電する工程を行うこともできる。
放電条件は、特に制限されず、例えば、下記条件が挙げられる。
電流:0.05~1mA/cm
電圧:2.5~3.0V
充電時間:1~20時間
温度:25~60℃
放電する工程は、負極活物質前駆体の陰イオンを積層体の外部に放出可能な点で、積層体を開放下で行うことが好ましい。このときの雰囲気は、固体電解質組成物の調製時と同様である。
放電する工程は、積層体を積層方向に加圧拘束して、行うことが好ましい。これにより、集電体と電極層の密着を維持することができる。このときの圧力は、特に限定されず、充電する工程における上記圧力範囲に設定することができ、充電する工程における圧力と同じでも異なってもよい。
本工程において、放電は1回行ってもよく、複数回行ってもよい。
【0091】
この放電する工程により、負極活物質層又はその近傍から金属イオンが発生して、正極活物質層に到達する。しかし、金属イオン、更に金属イオンを取り込んだ正極活物質は負極活物質前駆体に由来する空隙を完全に埋めることはなく、正極活物質層は後述する圧縮する工程において圧潰される空隙を有している(残存している)。
放電後の正極活物質層の空隙率は、特に制限されないが、例えば、10%以上とすることができ、20%以上が好ましい。
負極活物質層を予め形成しない形態の全固体二次電池では、放電する工程により、充電する工程の実施により析出した金属がイオン化して正極活物質層に移動する(負極活物質層が減容若しくは消失する)。
本発明において、上記充電する工程による充電を初期充電といい、上記放電する工程による放電を初期放電という。また、初期充電と初期放電とを併せて初期化といい、初期化は、1回の初期充電と1回の初期放電を1サイクルとして、1サイクル行ってもよく、複数サイクル行ってもよい。
【0092】
<正極活物質層を圧縮する工程>
本発明の製造方法においては、次いで、正極活物質層を加圧して圧縮する工程を行う。
この工程により、充電後の正極活物質層に形成された空隙、又は放電後の正極活物質層に残存する空隙が圧潰され(押潰され)、正極活物質層が薄層化(緻密化)する。これにより、全固体二次電池の全厚(体積)が減少して、エネルギー密度が向上する。
圧縮する工程は、少なくとも正極活物質層を圧縮できればよいが、充電後の正極活物質層を圧縮することを考慮すると、全固体二次電池前駆体としての上記積層体を加圧することにより正極活物質層を圧縮することが好ましい。
【0093】
正極活物質層を加圧圧縮する方法は、特に制限されず、公知の各種加圧方法を適用することができ、プレス加圧(例えば油圧シリンダープレス機を用いたプレス加圧)が好ましい。本工程における圧力は、空隙を圧潰できる圧力であれば特に限定されず、上記充電する工程における加圧拘束よりも高いことが好ましい。圧力は、正極活物質の種類若しくは含有量、空隙量等に応じて適宜に決定されるが、例えば、10~1000MPaの範囲に設定されることが好ましい。圧力の下限としては、40MPa以上がより好ましく、50MPa以上が更に好ましく、60MPa以上が特に好ましく、80MPa以上が最も好ましく、上限としては、1000MPa以下がより好ましく、750MPa以下が更に好ましい。プレス時間は、特に制限されず、短時間(例えば数時間以内)でも、長時間(1日以上)でもよい。
正極活物質層の加圧圧縮と同時に加熱してもよいが、本発明においては、非加熱で加圧圧縮することが好ましく、例えば、10~50℃の環境温度で加圧圧縮することが好ましい。加圧圧縮中の雰囲気としては、特に限定されず、固体電解質組成物の混合雰囲気が挙げられる。
【0094】
圧縮する工程は、少なくとも正極活物質層、通常全固体二次電池前駆体に、電圧を印加しない(充放電しない)で行うことが好ましい。本発明において、電圧を印加しないとは、正極活物質層等に電圧をまったく印加しない態様に加えて、初期放電の終止電圧に相当する2.5~3.0Vの電圧を印加する態様を包含する。
【0095】
正極活物質層の圧縮は、圧縮後の正極活物質層の空隙率が充電後の正極活物質層の空隙率よりも小さくなるまで、行う。この圧縮は、理想的には、負極活物質前駆体に由来する空隙が完全に圧潰するまで(充電前の正極活物質層の空隙率に到達するまで)行うが、現実的には、充電前の正極活物質層の空隙率の近傍まで行う。例えば、充電前の正極活物質層の空隙率よりも1.5%、好ましくは1%、より好ましくは0.5%高い空隙率まで圧縮する。
この圧縮する工程は、正極活物質層を圧縮(空隙を圧潰)する点で、全固体二次電池の使用時に好ましく適用する加圧拘束とは異なる。
【0096】
一般に、全固体二次電池を製造するに際して、正極活物質層及び固体電解質層、全固体二次電池の形態によって更に負極活物質層を有する積層体(全固体二次電池前駆体)を、いずれかの層が圧縮されるような圧力で加圧することはない。負極活物質層及び正極活物質層に空隙が存在すると、両層の間に存在する固体電解質層に割れ若しくはヒビが発生して、二次電池として十分に機能しなくなるからである。
しかし、本発明の製造方法においては、正極活物質層を圧縮する工程は充電する工程の後に行われるため、圧縮する積層体の正極活物質層には負極活物質前駆体に由来する空隙が形成されており、負極活物質層の空隙は負極活物質層形成後からほとんど増加していない。このように正極活物質層及び負極活物質層について空隙量を設定して上記積層体を加圧する本発明の製造方法は、固体電解質層に割れ若しくはヒビを発生させることなく、正極活物質層を圧縮できる。固体電解質層の割れ等の発生は、圧縮する工程の直前に放電する工程を行わない(充電する工程と圧縮する工程とを放電する工程を介在せずに行う)と、より効果的に抑制できる。
【0097】
上述のようにして、圧縮する工程を実施して、初期充電、好ましくは初期化された全固体二次電池が製造される。この全固体二次電池は、上述のように、高電池容量及び高エネルギー密度を示す。
【実施例
【0098】
以下に、実施例に基づき本発明について更に詳細に説明する。なお、本発明がこれにより限定して解釈されるものではない。以下の実施例において組成を表す「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0099】
<合成例1:硫化物系無機固体電解質Li-P-S系ガラスの合成>
硫化物系無機固体電解質として、T.Ohtomo,A.Hayashi,M.Tatsumisago,Y.Tsuchida,S.Hama,K.Kawamoto,Journal of Power Sources,233,(2013),pp231-235及びA.Hayashi,S.Hama,H.Morimoto,M.Tatsumisago,T.Minami,Chem.Lett.,(2001),pp872-873の非特許文献を参考にして、Li-P-S系ガラスを合成した。
【0100】
具体的には、アルゴンガス雰囲気下(露点-70℃)のグローブボックス内で、硫化リチウム(LiS、Aldrich社製、純度>99.98%)2.42g、五硫化二リン(P、Aldrich社製、純度>99%)3.90gをそれぞれ秤量し、メノウ製乳鉢に投入し、メノウ製乳棒を用いて、5分間混合した。なお、LiS及びPの混合比は、モル比でLiS:P=75:25とした。
ジルコニア製45mL容器(フリッチュ社製)に、直径5mmのジルコニアビーズを66個投入し、更に上記硫化リチウムと五硫化二リンの混合物全量を投入して、アルゴンガス雰囲気下で容器を密閉した。フリッチュ社製の遊星ボールミルP-7(商品名)にこの容器をセットし、温度25℃、回転数510rpmで20時間メカニカルミリングを行い、黄色粉体の硫化物系無機固体電解質(Li-P-S系ガラス)6.20gを得た。イオン伝導度は0.28mS/cmであった。Li-P-S系ガラスの上記測定方法による粒子径は1μmであった。
【0101】
実施例1
本例では、負極活物質前駆体を含有する正極活物質層と、Si負極(負極活物質層)とを有する全固体二次電池を製造した。
<固体電解質シートの作製>
合成した硫化物系無機固体電解質100mgを、マコール(登録商標)製の内径10mmのシリンダ中に入れて、アルゴンガス雰囲気下、25℃で、圧力を180MPaに設定して、1分間プレスした。こうして、硫化物系無機固体電解質(厚さ600μm)からなる固体電解質シートを得た。
【0102】
<負極シートの作製>
- 負極用組成物の調製 -
ジルコニア製45mL容器(フリッチュ社製)に、直径5mmのジルコニアビーズを66個投入し、上記合成例1で合成したLi-P-S系ガラス9.0g、バインダーとして変性ポリフッ化ビニリデン樹脂(PVDF)(4500-20(商品名)、アルケマ社製)の粒子1.3g、分散媒としてジイソブチルケトン12gを添加した後、この容器を遊星ボールミルP-7(商品名、フリッチュ社製)にセットし、温度25℃、回転数300rpmで2時間攪拌を続けた。
更にSi粉末(Silicon Powder、上記測定方法による平均粒径1~5μm、Alfa Aesar社製)9.0g及び導電助剤としてアセチレンブラック0.9gを加え、更にジイソブチルケトン5gを添加した後、この容器を遊星ボールミルP-7(商品名、フリッチュ社製)にセットし、温度25℃、回転数150rpmで5分攪拌を続けた。こうして負極用組成物(スラリー)を調製した。
- 負極活物質層の成膜 -
調製した負極用組成物を、厚さ8μmの銅箔上に、2mg/直径10mmの目付量で湿式塗布し、100℃で乾燥し、180MPaで仮プレスして、Si負極活物質層を形成した。
こうして、銅箔とSi負極活物質層(厚さ30μm)とを有する負極シートを作製した。
【0103】
<固体電解質シートと負極シートとの積層>
作製した負極シートから直径10mmの円盤状に打ち抜いた円盤状負極シートのSi負極活物質層と、固体電解質シートから直径10mmの円盤状に打ち抜いた円盤状固体電解質シートの表面とが接するように、固体電解質シートに負極シートを積層して、アルゴンガス雰囲気下、25℃で、圧力を24MPaに設定して、1分間圧着した。こうして、固体電解質層が積層された負極シートを作製した。
【0104】
<正極シートの作製>
次いで、正極集電体と正極活物質層とからなる正極シートを作製した。
- 正極用組成物の調製 -
ジルコニア製45mL容器(フリッチュ社製)に、直径5mmのジルコニアビーズを66個投入し、上記合成例1で合成したLi-P-S系ガラス2.0gと、スチレンブタジエンゴム(商品コード182907、アルドリッチ社製)0.1gと、分散媒としてオクタン22gとを投入した。その後に、この容器をフリッチュ社製遊星ボールミルP-7にセットし、温度25℃で、回転数300rpmで2時間攪拌した。その後、正極活物質LiNi0.85Co0.10Al0.05(ニッケルコバルトアルミニウム酸リチウム)7.11gと、負極活物質前駆体としてLiCO(炭酸リチウム、平均粒子径1μm)0.79gを容器に投入し、再びこの容器を遊星ボールミルP-7にセットし、温度25℃、回転数100rpmで15分間混合を続けた。このようにして、負極活物質前駆体を含有する正極用組成物(スラリー)を得た。
次に、集電体となる厚み20μmのアルミニウム箔上に、上記で得られた正極用組成物を15mg/直径10mmの目付量でベーカー式アプリケーターにより塗布し、80℃2時間加熱して、正極用組成物を乾燥させた。その後、ヒートプレス機を用いて、所定の密度になるように乾燥させた正極層用組成物を加熱(120℃)しながら加圧(600MPa、1分)した。こうして、アルミニウム箔と正極活物質層(厚さ110μm)とを有する正極シートを作製した。
【0105】
<全固体二次電池の製造>
- 積層体の作製 -
作製した正極シートから直径10mmの円盤状に打ち抜いた円盤状正極シートの正極活物質層を、固体電解質層が積層された円盤状負極シートの固体電解質層の表面に、リチウムイオン電池用電解液をポリエチレンオキシド(PEO)に混合した液を塗布することにより、貼り付けた。こうして、Si負極集電体と、Si負極活物質層と、固体電解質層と、正極活物質層と、正極集電体とからなる円盤状積層体(全固体二次電池前駆体)を得た。
- 充電する工程(初期充電) -
得られた円盤状積層体全体を積層方向に8MPaの拘束圧で拘束して、電流0.09mA/cm、電圧4.2V、充電時間20時間及び温度25℃の条件で、初期充電した。この初期充電により、炭酸リチウムから発生したリチウムイオンがSi負極活物質層にリチウム合金としてドープされ、炭酸ガスが電池外に放出された。初期充電後の正極活物質層を観測したところ、初期充電前の正極活物質層に対して空隙率(上記測定方法による)が7%増大し、15%となった。
- 圧縮する工程 -
初期充電後、円盤状積層体の拘束を外して、正極集電体とSi負極集電体との間に100MPaの圧力をかけて、初期充電後の円盤状積層体を積層方向に加圧して、正極活物質層を圧縮した。この圧縮は、ヒートプレス機を用いて、室温下(25℃)で、円盤状積層体に電圧を印加(充電及び放電)せずに、1時間かけて、行った。
この正極活物質層を観察したところ、初期充電前の正極活物質層に対して空隙率が1%増加した状態(初期充電前の正極活物質層における空隙率6%分の空隙を圧潰した状態)に圧縮(薄層化)されていた。
こうして、図1に示す層構成の全固体二次電池を製造した。
【0106】
比較例1
圧縮する工程における圧力を8MPaに設定したこと以外は、実施例1と同様にして、全固体二次電池を製造した。この全固体二次電池における正極活物質層は、空隙率が7%であり、圧縮する工程の前後において圧縮(薄層化)されていなかった。
【0107】
比較例2
本例では、負極活物質前駆体を含有しない正極活物質層と、Si負極(Si負極活物質層)とを有する全固体二次電池を製造した。
実施例1の全固体二次電池の製造方法において、下記の正極用組成物を用い(正極シートの作製は実施例1と同じである)、かつ圧縮する工程を行わなかったこと以外は、実施例1の全固体二次電池の製造と同様にして、負極活物質前駆体を含有しない正極活物質層を備えた全固体二次電池を製造した。
- 正極用組成物の調製 -
ジルコニア製45mL容器(フリッチュ社製)に、直径5mmのジルコニアビーズを66個投入し、上記合成例1で合成したLi-P-S系ガラス2.0gと、スチレンブタジエンゴム(商品コード182907、アルドリッチ社製)0.1gと、分散媒としてオクタン22gとを投入した。その後に、この容器をフリッチュ社製遊星ボールミルP-7にセットし、温度25℃で、回転数300rpmで2時間攪拌した。その後、正極活物質LiNi0.85Co0.10Al0.05(ニッケルコバルトアルミニウム酸リチウム)7.9gを容器に投入し、再びこの容器を遊星ボールミルP-7にセットし、温度25℃、回転数100rpmで15分間混合を続けた。このようにして、正極用組成物を得た。
【0108】
<評価:充放電サイクル特性試験>
充放電サイクル特性試験を行う前に、上記で作製した各全固体二次電池を積層方向に8MPaの拘束圧で拘束して、0.09mA/cm、終止電圧2.5V、充電時間18時間及び温度25℃の条件で、初期放電して、初期化した。
次いで、各全固体二次電池を用いて、下記条件により(急速)充放電を行い、充放電サイクル特性試験(過酷促進条件)を実施した。
(条件)
電流密度2.2mA/cmで4.25Vまで充電し、電流密度2.2mA/cmで2.5Vまで放電する充放電サイクルを1サイクルとして7サイクル繰り返して行った。
【0109】
充放電サイクル特性は、1サイクル毎に、充電容量及び放電容量を測定し、下記式から充放電効率を求めて、評価した。

式:充放電効率(%)=[放電容量/充電容量]×100
【0110】
充放電サイクル特性試験の結果を下記に示す。
実施例1
実施例1の全固体二次電池は、7サイクルの放電容量が正極活物質NCAを7.9g用いた比較例2(正極活物質の目付量同一)と同等であった。これにより、この全固体二次電池は、比較例2と同等の放電容量を示すうえ、正極活物質層の薄層化により電池体積が減少しており、体積エネルギー密度が向上したことを確認した。
また、7サイクルの充放電効率が全て99%で安定していた。これにより、短絡の発生を抑制できることが分かる。しかも、負極活物質層の体積膨張収縮に起因する、負極活物質層と固体電解質層との界面剥離を防止でき、高い放電容量を維持している。
固体電解質層の断面部分をイオンビームミリング実施後、SEMにより観察したところ、割れ及びヒビの発生を確認できなかった。
【0111】
比較例1
比較例1の全固体二次電池は、正極活物質層が圧縮されていないため、体積エネルギー密度の向上は確認できなかった。
比較例2
比較例2の全固体二次電池は、正極活物質層が負極活物質前駆体を含有していないので、Si負極活物質層のリチウム金属量の目減りを補償することができず、放電容量が十分ではない。また、正極活物質層の厚さは一定(不変)であるので、体積エネルギー密度の向上は確認できなかった。
【0112】
本発明をその実施態様とともに説明したが、我々は特に指定しない限り我々の発明を説明のどの細部においても限定しようとするものではなく、添付の請求の範囲に示した発明の精神と範囲に反することなく幅広く解釈されるべきであると考える。
【0113】
本願は、2019年3月27日に日本国で特許出願された特願2019-060215に基づく優先権を主張するものであり、これはここに参照してその内容を本明細書の記載の一部として取り込む。
【符号の説明】
【0114】
1 負極集電体
2 負極活物質層
3 固体電解質層
4 正極活物質層
5 正極集電体
6 作動部位
10 全固体二次電池
図1