(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】ポリシラザン化合物を用いた撥水処理剤および撥水処理方法
(51)【国際特許分類】
C09K 3/18 20060101AFI20220809BHJP
C08G 77/54 20060101ALI20220809BHJP
【FI】
C09K3/18 104
C08G77/54
(21)【出願番号】P 2017201841
(22)【出願日】2017-10-18
【審査請求日】2019-11-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】特許業務法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川上 雅人
(72)【発明者】
【氏名】青木 翔太郎
(72)【発明者】
【氏名】清森 歩
(72)【発明者】
【氏名】久保田 透
【審査官】前田 孝泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-012859(JP,A)
【文献】特開2003-176152(JP,A)
【文献】特表2016-529354(JP,A)
【文献】特開平11-116809(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 77/00- 77/62
C08L 1/00-101/16
C09D 1/00-201/10
C09K 3/00- 3/32
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示される繰り返し単位を有し、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるポリスチレン換算の数平均分子量が1,000~200,000であるポリシラザン化合物からなる撥水処理剤。
【化1】
[式(1)中、R
1、R
3およびR
5は、互いに独立してエーテル基またはチオエーテル基が介在していてもよい非置換の炭素数1~20の1価炭化水素基を表し、R
2は、エーテル基またはチオエーテル基が介在していてもよい非置換の炭素数2~20の2価炭化水素基を表し、R
4は、下記一般式(2)で示されるオルガノシロキサン含有基を表し、
【化2】
(式(2)中、R
6は、互いに独立して炭素数1~10の1価炭化水素基を表し、xは、0、1、2または3を表し、xが0または1の場合には、複数のOSiR
6
3基が脱シロキサン縮合して環状シロキサンを形成していてもよく、yは、0~30の整数を表す。)
pは、0または1を表し、qは、1、2または3を表し、rは、0、1、2または3を表し、
aおよびbは、0<a≦1、
0≦b<1、a+b=1を満たす数である。]
【請求項2】
ポリシラザン化合物を含む撥水処理剤であって、
前記ポリシラザン化合物が、下記一般式(1)で示される繰り返し単位を有し、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるポリスチレン換算の数平均分子量が1,000~200,000のポリシラザン化合物のみからなる撥水処理剤。
【化3】
[式(1)中、R
1、R
3およびR
5は、互いに独立してエーテル基またはチオエーテル基が介在していてもよい非置換の炭素数1~20の1価炭化水素基を表し、R
2は、エーテル基またはチオエーテル基が介在していてもよい非置換の炭素数2~20の2価炭化水素基を表し、R
4は、下記一般式(2)で示されるオルガノシロキサン含有基を表し、
【化4】
(式(2)中、R
6は、互いに独立して炭素数1~10の1価炭化水素基を表し、xは、0、1、2または3を表し、xが0または1の場合には、複数のOSiR
6
3基が脱シロキサン縮合して環状シロキサンを形成していてもよく、yは、0~30の整数を表す。)
pは、0または1を表し、qは、1、2または3を表し、rは、0、1、2または3を表し、
aおよびbは、0<a≦1、
0≦b<1、a+b=1を満たす数である。]
【請求項3】
溶媒を含む請求項2記載の撥水処理剤。
【請求項4】
触媒を含む請求項3記載の撥水処理剤。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項記載の撥水処理剤を、表面処理対象物に塗布、接触または混合する撥水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥水処理剤等として有用なポリシラザン化合物およびその製造方法、並びにこれを用いた撥水処理剤および撥水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリシラザン化合物は、分子内に2つ以上の塩素を有するクロロシラン化合物をアンモノリシス重合することによって得られる化合物群である。広く使用されているポリシラザン化合物としては、ジクロロシラン(H2SiCl2)から得られる無機ポリシラザンが挙げられる(特許文献1,2)。
このようなポリシラザン化合物を用いて表面処理を行うと、無機ポリシラザンに由来する被膜が形成され、その被膜はガラスに類似した性質、すなわち、親水性を有する。
【0003】
ポリシラザン化合物は、反応性の高いSi-N結合によって形成されている。このため、空気中の水分やアルコールによってより安定なSi-O結合へと変換され、その後縮合を繰り返すことによって被膜を構築する。反応性の高いポリシラザン化合物を利用すると、塗布するだけで簡便に表面処理を行うことができる。特に、ガラスや金属などの反応性OH基を含む基材には有効である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-155834号公報
【文献】国際公開第2002/088269号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1,2記載の無機ポリシラザン化合物は、処理表面の親水化には効果的である一方で、得られる塗膜がガラスに似た性質を有することから、処理表面を疎水化して撥水性を付与することはできない。
このように、無機ポリシラザンでは撥水処理は達成できないことから、一般的にガラス表面の撥水処理剤としては、デシルトリメトキシシラン等のアルキルアルコキシシラン化合物が利用される。ガラス表面をこの化合物で処理することでアルキル基に由来する撥水性を付与できる。
一方で、アルキルアルコキシシラン化合物を撥水処理剤として用いる場合、アルコキシシリル基を加水分解させて反応性の高いシラノールを生じさせる必要がある。このため、処理の都度アルキルアルコキシシラン化合物の加水分解溶液を調製しなければならず、ポリシラザン化合物を用いる場合と比較して工程数を増やす必要があるという課題があった。
【0006】
また、アルキルアルコキシシラン化合物を用いて撥水処理した場合、水接触角は高い値を示すものの、水滴が転落を始める角度(水転落角)が大きいという課題が見られていた。水転落角の改善には、アルキルアルコキシシラン化合物のアルキル基がより長いものを利用することで改善することもあるが、一般にアルキル基が長くなればなるほど加水分解工程に時間を必要とし、さらに効率が低下する。しかも、長いアルキル基に由来する不溶性のゲルが生じて、満足に処理できないことが多い。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであり、無機ポリシラザンと同様に簡便な処理が可能で、アルキルアルコキシシラン化合物と同等以上の撥水性を有していながら、水滑落性にも優れるポリシラザン化合物、その製造方法、それを用いた撥水処理剤、および撥水処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、シロキシシリル構造を含有するポリシラザン化合物が、簡便な処理方法で高い水接触角と良好な水滑落性を発揮できることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、
1. 下記一般式(1)で示される繰り返し単位を有し、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるポリスチレン換算の数平均分子量が1,000~200,000であるポリシラザン化合物、
【化1】
[式(1)中、R
1、R
3およびR
5は、互いに独立してヘテロ原子を含んでいてもよい置換または非置換の炭素数1~20の1価炭化水素基を表し、R
2は、ヘテロ原子を含んでいてもよい置換または非置換の炭素数2~20の2価炭化水素基を表し、R
4は、下記一般式(2)で示されるオルガノシロキサン含有基を表し、
【化2】
(式(2)中、R
6は、互いに独立してハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~10の1価炭化水素基を表し、xは、0、1、2または3を表し、xが0または1の場合には、複数のOSiR
6
3基が脱シロキサン縮合して環状シロキサンを形成していてもよく、yは、0~30の整数を表す。)
pは、0または1を表し、qは、1、2または3を表し、rは、0、1、2または3を表し、
aおよびbは、0<a≦1、0≦b≦1、a+b=1を満たす数である。]
2. 下記一般式(3)
【化3】
(式中、R
1~R
4、pおよびqは、前記と同じ意味を表す。)
で示されるクロロシラン化合物を単独でアンモノリシス重合を行う工程、または前記一般式(3)で示されるクロロシラン化合物と、下記一般式(4)
【化4】
(R
5およびrは、前記と同じ意味を表す。)
で示されるクロロシラン化合物とを混合し、アンモノリシス重合を行う工程を含む1のポリシラザン化合物の製造方法、
3. 前記アンモノリシス重合の後に、アルカリ水溶液を添加して分液する工程を含む2のポリシラザン化合物の製造方法、
4. 1のポリシラザン化合物を含む撥水処理剤、
5. 溶媒を含む4の撥水処理剤、
6. 触媒を含む4または5の撥水処理剤、
7. 4~6のいずれかの撥水処理剤を、表面処理対象物に塗布、接触または混合する撥水処理方法
を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明で得られるポリシラザン化合物を用いて撥水処理を行う場合、ポリシラザン部位が高反応性であることから、アルキルアルコキシシラン化合物のように、加水分解溶液を調製する必要がなく、簡便な操作で撥水処理を行うことができる。また、撥水性を付与できるだけでなく、末端シロキサン構造の効果で水滑落性が顕著に改善される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明に係るポリシラザン化合物は、下記一般式(1)で示される繰り返し単位を有し、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、GPCと記す。)によるポリスチレン換算の数平均分子量が1,000~200,000であることを特徴とする。
【0012】
【0013】
上記一般式(1)において、R1、R3およびR5は、互いに独立してヘテロ原子を含んでいてもよい置換または非置換の炭素数1~20、好ましくは炭素数1~10の1価炭化水素基を表す。
上記炭素数1~20の1価炭化水素基としては、直鎖状、分岐鎖状または環状のいずれでもよく、その具体例としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、デシル、ドデシル、テトラデシル、ヘキサデシル、オクタデシル、イコシル基等の直鎖状のアルキル基;イソプロピル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ネオペンチル、テキシル、2-エチルヘキシル基等の分岐鎖状のアルキル基;シクロペンチル、シクロヘキシル基等の環状のアルキル基;アリル、プロペニル、ブテニル、ペンテニル基等のアルケニル基;フェニル、トリル基等のアリール基;ベンジル、フェネチル基等のアラルキル基等が挙げられる。
【0014】
また、上記1価炭化水素基は、分子鎖中に、エーテル基(-O-)、チオエーテル基(-S-)等のヘテロ原子の1種または2種以上が介在していてもよい。
さらに、上記1価炭化水素基は、水素原子の一部または全部がその他の置換基で置換されていてもよく、この置換基の具体例としては、メトキシ、エトキシ、(イソ)プロポキシ基等の炭素数1~6のアルコキシ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;フェニル、トリル基等の炭素数6~10のアリール基;ベンジル、フェネチル基等の炭素数7~10のアラルキル基;それぞれ各アルキル基、各アルコキシ基が炭素数1~6である、トリアルキルシリル基、トリアルコキシシリル基、ジアルキルモノアルコキシシリル基、モノアルキルジアルコキシシリル基等が挙げられる。
【0015】
R2は、ヘテロ原子を含んでいてもよい置換または非置換の炭素数2~20の2価炭化水素基を表す。
上記炭素数2~20の2価炭化水素基の具体例としては、エチレン、トリメチレン、テトラメチレン、ヘキサメチレン、オクタメチレン、デシレン基等の直鎖状アルキレン基;プロピレン(メチルエチレン)基、メチルトリメチレン基等の分岐状アルキレン基;シクロヘキシレン基等の環状アルキレン基;プロペニレン基等のアルケニレン基;フェニレン基等のアリーレン基;メチレンフェニレン基、メチレンフェニレンメチレン基等のアラルキレン基等が挙げられる。
また、ヘテロ原子を含む2価炭化水素基の具体例としては、アルキレンオキシアルキレン基、アルキレンチオアルキレン基等が挙げられ、これらのアルキレン基としては、互いに独立して、上記直鎖状、分岐状、環状アルキレン基で例示した基と同様の基が挙げられる。
【0016】
なお、上記2価炭化水素基の水素原子の一部または全部は、その他の置換基で置換されていてもよく、この置換基の具体例としては、メトキシ、エトキシ、(イソ)プロポキシ基等の炭素数1~6のアルコキシ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;フェニル、トリル基等の炭素数6~10のアリール基;ベンジル、フェネチル基等の炭素数7~10のアラルキル基;それぞれ各アルキル基、各アルコキシ基が炭素数1~6である、トリアルキルシリル基、トリアルコキシシリル基、ジアルキルモノアルコキシシリル基、モノアルキルジアルコキシシリル基等が挙げられる。
【0017】
R4は、下記一般式(2)で示されるオルガノシロキサン含有基を表す。
【0018】
【0019】
式(2)中、R6は、互いに独立して炭素数1~10、好ましくは炭素数1~6の1価炭化水素基を表し、この1価炭化水素基の水素原子の一部または全部がハロゲン原子で置換されていてもよい。
xは、0、1、2または3を表し、xが0または1の場合には、複数のOSiR6
3基が脱シロキサン縮合して環状シロキサンを形成していてもよく、yは、0~30、好ましくは0~20、より好ましくは5~15の整数を表す。
【0020】
上記炭素数1~10の1価炭化水素基としては、直鎖状、分岐鎖状または環状のいずれでもよく、その具体例としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、デシル基等の直鎖状アルキル基;イソプロピル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ネオペンチル、テキシル、2-エチルヘキシル基等の分岐鎖状アルキル基;シクロペンチル、シクロヘキシル基等の環状アルキル基;アリル、プロペニル、ブテニル、ペンテニル基等のアルケニル基;フェニル、トリル基等のアリール基;ベンジル、フェネチル基等のアラルキル基等が挙げられる。
【0021】
上記一般式(2)において、R6、x、yの組み合わせは任意であり、制限はない。
このようなR6、x、yで定義される一般式(2)で示されるオルガノシロキサン含有基の具体例としては、トリメチルシロキシ、トリエチルシロキシ、tert-ブチルジメチルシロキシ、トリイソプロピルシロキシ、tert-ブチルジフェニルシロキシ基等のトリアルキルシロキシ基;1,1,1,3,3-ペンタメチルジシロキシ、1,1,1,3,3,5,5-ヘプタメチルトリシロキシ、1,1,1,3,3,5,5,7,7-ノナメチルテトラシロキシ基等のポリアルキルポリシロキサン基;1,1,3,3,5-ペンタメチルシクロトリシロキサン、1,1,3,3,5,5,7-ヘプタメチルシクロテトラシロキサン、1,1,3,3,5,5,7,7,9-ノナメチルシクロペンタシロキサン基等のポリアルキルシクロポリシロキサン基;3,5-ジフェニル-1,1,1,3,5-ペンタメチルトリシロキシ、1,1,1,3,5,7-ヘキサメチル-3,5,7-トリフェニルテトラシロキサン、1,1,1,3,5,7,9-ヘプタメチル-3,5,7,9-テトラフェニルペンタシロキサン、3,3,5,5-テトラフェニル-1,1,1-トリメチルトリシロキシ、3,3,5,5,7,7-ヘキサフェニル-1,1,1-トリメチルテトラシロキサン、3,3,5,5,7,7,9,9-オクタフェニル-1,1,1-トリメチルペンタシロキサン基等のポリフェニルポリシロキサン基等が挙げられる。
【0022】
上記一般式(1)において、pは、0または1を表し、qは、1、2または3を表し、rは、0、1、2または3を表す。また、aおよびbは、0<a≦1、0≦b≦1、a+b=1を満たす数である。
【0023】
本発明のポリシラザン化合物の数平均分子量は1,000~200,000であるが、好ましくは2,000~50,000である。
上記数平均分子量の値は、GPCにより求めた値(ポリスチレン換算)とする。GPC条件は以下のとおりである。
(GPC条件)
装置:LC-20AD((株)島津製作所製)
カラム:LF-404(4.6mm×250mm)(Shodex社製)
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
流速:0.35ml/min
検出器:RI
カラム恒温槽温度:40℃
標準物質:ポリスチレン
【0024】
次に、本発明のポリシラザン化合物の製造方法について説明する。
本発明のポリシラザン化合物は、下記一般式(3)で示されるクロロシラン化合物を単独でアンモノリシス重合する、または下記一般式(3)で示されるクロロシラン化合物と、下記一般式(4)で示されるクロロシラン化合物とを混合してアンモノリシス重合することで得ることができる。
【0025】
【化7】
(式中、R
1~R
5、p、q、およびrは、上記と同じ。)
【0026】
一般式(3)で示されるクロロシラン化合物の具体例としては、1-トリス(トリメチルシロキシ)シリル-2-トリクロロシリルエタン、1-ビス(トリメチルシロキシ)メチルシリル-2-トリクロロシリルエタン、1-トリメチルシロキシジメチルシリル-2-トリクロロシリルエタン、1-トリス(トリメチルシロキシ)シリル-6-トリクロロシリルヘキサン、1-ビス(トリメチルシロキシ)メチルシリル-6-トリクロロシリルヘキサン、1-トリメチルシロキシジメチルシリル-6-トリクロロシリルヘキサン、1-トリス(トリメチルシロキシ)シリル-8-トリクロロシリルオクタン、1-ビス(トリメチルシロキシ)メチルシリル-8-トリクロロシリルオクタン、1-トリメチルシロキシジメチルシリル-8-トリクロロシリルオクタン、1-トリス(トリメチルシロキシ)シリル-2-メチルジクロロシリルエタン、1-ビス(トリメチルシロキシ)メチルシリル-2-メチルジクロロシリルエタン、1-トリメチルシロキシジメチルシリル-2-メチルジクロロシリルエタン、1-トリス(トリメチルシロキシ)シリル-6-メチルジクロロシリルヘキサン、1-ビス(トリメチルシロキシ)メチルシリル-6-メチルジクロロシリルヘキサン、1-トリメチルシロキシジメチルシリル-6-メチルジクロロシリルヘキサン、1-トリス(トリメチルシロキシ)シリル-8-メチルジクロロシリルオクタン、1-ビス(トリメチルシロキシ)メチルシリル-8-メチルジクロロシリルオクタン、1-トリメチルシロキシジメチルシリル-8-メチルジクロロシリルオクタン、1-トリス(1,1,1,3,3,5,5,7,7-ノナメチルテトラシロキシ)シリル-2-トリクロロシリルエタン、1-ビス(1,1,1,3,3,5,5,7,7-ノナメチルテトラシロキシ)メチルシリル-2-トリクロロシリルエタン、1-(1,1,1,3,3,5,5,7,7-ノナメチルテトラシロキシ)ジメチルシリル-2-トリクロロシリルエタン、1-トリス(1,1,1,3,3,5,5,7,7-ノナメチルテトラシロキシ)シリル-6-トリクロロシリルヘキサン、1-ビス(1,1,1,3,3,5,5,7,7-ノナメチルテトラシロキシ)メチルシリル-6-トリクロロシリルヘキサン、1-(1,1,1,3,3,5,5,7,7-ノナメチルテトラシロキシ)ジメチルシリル-6-トリクロロシリルヘキサン、1-トリス(1,1,1,3,3,5,5,7,7-ノナメチルテトラシロキシ)シリル-8-トリクロロシリルオクタン、1-ビス(1,1,1,3,3,5,5,7,7-ノナメチルテトラシロキシ)メチルシリル-8-トリクロロシリルオクタン、1-(1,1,1,3,3,5,5,7,7-ノナメチルテトラシロキシ)ジメチルシリル-8-トリクロロシリルオクタン、1-(ポリジメチルポリシロキシ)ジメチルシリル-2-トリクロロシリルエタン等が挙げられる。
【0027】
一般式(4)で示されるクロロシラン化合物の具体例としては、テトラクロロシラン、メチルトリクロロシラン、エチルトリクロロシラン、プロピルトリクロロシラン、ヘキシルトリクロロシラン、シクロヘキシルトリクロロシラン、オクチルトリクロロシラン、デシルトリクロロシラン、ドデシルトリクロロシラン、ヘキサデシルトリクロロシラン、オクタデシルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、エチルメチルジクロロシラン、ヘキシルメチルジクロロシラン、シクロヘキシルメチルジクロロシラン、オクチルメチルジクロロシラン、デシルメチルジクロロシラン、ドデシルメチルジクロロシラン、ヘキサデシルメチルジクロロシラン、オクタデシルメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、エチルジメチルクロロシラン、ヘキシルジメチルクロロシラン、シクロヘキシルジメチルクロロシラン、オクチルジメチルクロロシラン、デシルジメチルクロロシラン、ドデシルジメチルクロロシラン、ヘキサデシルジメチルクロロシラン、オクタデシルジメチルクロロシラン、ジエチルジクロロシラン、ジブチルジクロロシラン、ジイソプロピルジクロロシラン、ジシクロペンチルジクロロシラン、トリエチルクロロシラン、tert-ブチルジメチルクロロシラン、トリイソプロピルクロロシラン、tert-ブチルジフェニルクロロシラン等が挙げられる。
【0028】
一般式(3)で示されるクロロシラン化合物と一般式(4)で示されるクロロシラン化合物との配合比は特に限定されないが、一般式(3)で示される化合物に対し、一般式(4)で示される化合物が、好ましくは0~10モル、より好ましくは0~3モルである。
【0029】
アンモノリシス重合は、上記一般式(3)のクロロシラン化合物に、または上記一般式(3)および一般式(4)で示されるクロロシラン化合物の混合物にアンモニアを導入して行われる。
アンモノリシス重合は無溶媒でも進行するが、反応の進行と同時に塩化アンモニウムが副生して撹拌が困難になる場合があるため、溶媒を使用することが好ましい。
溶媒の具体例としては、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、イソオクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、4-メチルテトラヒドロピラン、シクロペンチルメチルエーテル、ジオキサン等のエーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒;アセトニトリル、N,N-ジメチルホルムアミド等の非プロトン性極性溶媒;ジクロロメタン、クロロホルム等の塩素化炭化水素系溶媒;ヘキサメチルジシロキサン、トリス(トリメチルシロキシ)メチルシラン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン等のシロキサン系溶媒等が挙げられ、これらの溶媒は、1種単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
【0030】
アンモノリシス重合は無触媒でも進行するが、触媒を添加することで反応時間を短縮することもできる。この触媒としては、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、酢酸、プロピオン酸、安息香酸、トリフルオロ酢酸等のブレンステッド酸が挙げられる。
触媒の添加量は特に限定されないが、一般式(3)で示される化合物1モルに対し、好ましくは0.001~0.1モル、より好ましくは0.005~0.1モルである。
【0031】
反応温度は特に限定されないが、好ましくは0~200℃、より好ましくは10~100℃、より一層好ましくは10~50℃である。
反応時間は、好ましくは30分~24時間、より好ましくは3時間~15時間である。
また、反応雰囲気は特に限定されないが、安全上、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気が好ましい。
【0032】
反応終了後の反応液を、ろ過あるいは分液することで塩化アンモニウムを溶解、除去し、目的のポリシラザン化合物を回収することができる。
特に、収率向上の点からアルカリ性の水溶液を用いて塩を溶解、分液する方法が好ましい。この時使用するアルカリ成分としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物;水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属の水酸化物等が挙げられる。
アルカリ金属の水酸化物等のアルカリ成分の使用量は、生じた塩化アンモニウム1モルに対し、好ましくは1~2モル、より好ましくは1~1.5モルである。
【0033】
次に、本発明の撥水処理剤について説明する。
本発明の撥水処理剤は、上述したポリシラザン化合物を含むものである。
本発明の撥水処理剤は、ポリシラザン化合物そのままで用いてもよいが、溶媒を含んでいてもよい。この溶媒としては、上述した反応時に使用可能な溶媒と同様のものが挙げられる。
溶媒の使用量は特に限定されないが、ポリシラザン化合物の濃度が、好ましくは0.01~50質量%、より好ましくは0.1~10質量%、より一層好ましくは1~5質量%となる量である。
【0034】
また、本発明の撥水処理剤は触媒を含んでいてもよい。
この触媒としては、オルトチタン酸テトラブチル、オルトチタン酸テトラメチル、オルトチタン酸テトラエチル、オルトチタン酸テトラプロピル等のオルトチタン酸テトラアルキル、それらの部分加水分解物等のチタン系触媒;三水酸化アルミニウム、アルミニウムアルコラート、アルミニウムアシレート、アルミニウムアシレートの塩、アルミノシロキシ化合物、アルミニウム金属キレート化合物等のアルミニウム系触媒;ジオクチルチンジオクテート、ジオクチルチンジラウレート等のスズ系触媒;オクチル酸亜鉛、2-エチルヘキサン酸亜鉛等の亜鉛系触媒等が挙げられる。
触媒の使用量は特に限定されないが、好ましくは0.01~10質量%、より好ましくは0.1~5質量%である。
【0035】
なお、本発明の撥水処理剤は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、顔料、消泡剤、潤滑剤、防腐剤、pH調製剤、フィルム形成剤、帯電防止剤、抗菌剤、染料等から選択されるその他の添加剤の1種以上を含有していてもよい。
【0036】
次に、撥水処理剤を用いた撥水処理方法について説明する。
撥水処理対象物は、無機材料と有機材料のどちらでもよい。
無機材料としては、金属板、ガラス板、金属繊維、ガラス繊維、粉末シリカ、粉末アルミナ、粉末タルク、粉末炭酸カルシウム等が挙げられる。
ガラスとしては、Eガラス、Cガラス、石英ガラス等の一般的に用いられる種類のガラスを用いることができる。石英ガラスは、ナノインプリント等モールド材にも使用が可能である。
ガラス繊維は、その集合物でもよく、例えば、繊維径が3~30μmのガラス糸(フィラメント)の繊維束、撚糸、織物等でもよい。
有機材料としては、ゴム、紙、セルロース等の天然繊維等が挙げられる。
【0037】
本発明の撥水処理剤を用いた撥水処理方法としては、一般的に用いられる方法が採用できる。
具体的には、撥水処理剤をそのままで、または溶媒で希釈して、撥水処理対象物の表面に塗布した後、乾燥処理を施す方法が挙げられる。
この場合、塗布方法は特に限定されるものではなく、公知の各種コーティング法、例えば、ハケ塗り法、スプレーコーティング法、ワイヤーバー法、ブレード法、ロールコーティング法、ディッピング法等が採用できる。
また、撥水処理剤を不活性ガスに同伴させ、この同伴ガスに撥水処理対象物を接触させる方法や、撥水処理対象物と共に撥水処理剤を直接ミキサーやミルで混合する方法等を採用してもよい。
撥水処理後の乾燥条件も任意であり、常温から加熱下が採用できるが、加熱下で乾燥させることが好ましい。この際の温度は、基材に悪影響を与えない限り特に制限はないが、通常、50~150℃程度である。
【実施例】
【0038】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0039】
[1]ポリシラザンの合成
[実施例1-1]
【化8】
(式中、TMSはトリメチルシリル基を表す。以下同様。)
【0040】
撹拌機、還流器、挿入管および温度計を備えたフラスコに、クロロシラン化合物である1-トリス(トリメチルシロキシ)シリル-8-トリクロロシリルオクタン108.6g、トルエン100.8gを仕込んだ。この反応液に60℃以下を維持しながらアンモニアを吹き込んだ。還流器の上部からアンモニアの留出を確認した後、さらに1時間室温で撹拌した。得られた反応液に25質量%水酸化ナトリウム100.9gと水60.0gの混合物を加えて2時間撹拌した。この時点で反応液は2層に分離していた。下層を除去した後、上層を濃縮し、反応物89.9g得た。
IR分析により、NHに由来する3,387cm-1、Si-N-Siに由来する941cm-1のピークが確認された。また、GPC分析の結果、重量平均分子量(Mw)が6,947、数平均分子量(Mn)が6,208、多分散度(Mw/Mn)が1.119であった。これらの結果から、ポリシラザン1の生成が確認された。
【0041】
[実施例1-2]
【化9】
(式中、Meはメチル基を表す。以下同様。)
【0042】
撹拌機、還流器、挿入管および温度計を備えたフラスコに、クロロシラン化合物である1-ビス(トリメチルシロキシ)メチルシリル-2-トリクロロシリルエタン38.3g(0.0997モル)、トルエン52.0gを仕込んだ。この反応液に60℃以下を維持しながらアンモニアを吹き込んだ。還流器の上部からアンモニアの留出を確認した後、さらに1時間室温で撹拌した。得られた反応液をろ過して生成した塩化アンモニウムを分離した。ろ液を濃縮し、反応物26.1gを得た。
IR分析により、NHに由来する3,393cm-1、Si-N-Siに由来する1,033cm-1のピークを確認した。GPC分析の結果、重量平均分子量(Mw)が2,394、数平均分子量(Mn)が2,245、多分散度(Mw/Mn)が1.07であった。これらの結果から、ポリシラザン2の生成が確認された。
【0043】
【0044】
クロロシラン化合物を1-ビス(トリメチルシロキシ)メチルシリル-8-トリクロロシリルオクタン37.5gに、トルエンの使用量を62.2gに変更し、25質量%水酸化ナトリウム40.0gと水23.8gの混合物を使用した以外は、実施例1-1と同様にして反応を行い、反応物29.7gを得た。
IR分析により、NHに由来する3,388cm-1、Si-N-Siに由来する940cm-1のピークを確認した。GPC分析の結果、重量平均分子量(Mw)が4,268、数平均分子量(Mn)が3,622、多分散度(Mw/Mn)が1.178であった。これらの結果から、ポリシラザン3の生成が確認された。
【0045】
【0046】
クロロシラン化合物を1-(1,1,1,3,3,5,5,7,7-ノナメチルテトラシロキシ)ジメチルシリル-2-トリクロロシリルエタン26.7gに、トルエンの使用量を36.4gに変更し、25質量%水酸化ナトリウム25.3gと水15.2gの混合物を使用した以外は、実施例1-1と同様にして反応を行い、反応物21.1gを得た。
IR分析により、NHに由来する3,393cm-1、Si-N-Siに由来する943cm-1のピークを確認した。GPC分析の結果、重量平均分子量(Mw)が2,150、数平均分子量(Mn)が2,043、多分散度(Mw/Mn)が1.052であった。これらの結果から、ポリシラザン4の生成が確認された。
【0047】
【0048】
クロロシラン化合物を1-(1,1,1,3,3,5,5,7,7-ノナメチルテトラシロキシ)ジメチルシリル-8-トリクロロシリルオクタン44.8gに、トルエンの使用量を58.4gに変更し、25質量%水酸化ナトリウム36.3gと水21.5gの混合物を使用した以外は、実施例1-1と同様にして反応を行い、反応物38.1gを得た。
IR分析により、NHに由来する3,388cm-1、Si-N-Siに由来する957cm-1のピークを確認した。GPC分析の結果、重量平均分子量(Mw)が8,309、数平均分子量(Mn)が7,382、多分散度(Mw/Mn)が1.126であった。これらの結果から、ポリシラザン5の生成が確認された。
【0049】
【0050】
クロロシラン化合物を上記化合物A30.2gに、トルエンの使用量を24.0gに変更した以外は、実施例1-2と同様にして反応を行い、反応物25.1gを得た。
IR分析により、NHに由来する3,390cm-1、Si-N-Siに由来する1,013cm-1のピークを確認した。GPC分析の結果、重量平均分子量(Mw)が8,674、数平均分子量(Mn)が6,531、多分散度(Mw/Mn)が1.328であった。これらの結果から、ポリシラザン6の生成が確認された。
【0051】
[2]ガラス表面処理
[実施例2-1~2-6]
実施例1-1~1-6で得られたポリシラザン化合物それぞれを3質量%含有するトルエン溶液を調製した。この溶液に、10分間UVオゾン照射したスライドガラス(松浪硝子工業(株)製、76mm×26mm)を1日浸漬してポリシラザン化合物での処理を行った。次いで、このスライドガラスをトルエンに浸して30分間超音波洗浄し、余分に付着したポリシラザン化合物を除去した。さらに、水に浸して15分間超音波洗浄を行って、ポリシラザン化合物を加水分解した。その後、150℃のオーブンで1時間乾燥した後、1時間室温で静置して試験片を作製した。
【0052】
[比較例1]
ポリシラザン化合物を3質量%含有するトルエン溶液の代わりに、デシルトリメトキシシラン/エタノール/80ppm硝酸水=1.71g/44g/13gの比率で混合し、2時間撹拌して調製したデシルトリメトキシシランを3質量%含有する組成物を用いた以外は、実施例2-1と同様に処理を行い、試験片を作製した。
【0053】
上記実施例2-1~2-6および比較例1で得られた試験片について、水1μLに対する接触角および水20μLに対する転落角を接触角計(協和界面科学(株)製)で測定した。結果を表1に示す。
【0054】
【0055】
表1に示されるように、本発明で得られたポリシラザン化合物で処理したスライドガラスは、比較例1に示されたデシルトリメトキシシランの加水分解物で処理したスライドガラスよりも接触角が大きくなっていることから高い撥水性を発現していることがわかる。
また、実施例2-2と比較例1を比較すると、接触角の差は僅かであるが、実施例2-2の転落角が非常に小さくなっており、シロキサン構造を導入した効果を確認できる。
さらに、比較例1では、デシルトリメトキシシランを用いる際に加水分解溶液を調製してから処理を行ったが、本発明で得られたポリシラザン化合物は希釈溶液を調製したのみであり、簡便な操作で撥水処理することができることがわかる。