(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】積層体の製造装置及び積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 38/18 20060101AFI20220809BHJP
B32B 37/00 20060101ALI20220809BHJP
B32B 27/16 20060101ALI20220809BHJP
B29C 64/268 20170101ALI20220809BHJP
B29C 64/20 20170101ALI20220809BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20220809BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20220809BHJP
【FI】
B32B38/18 Z
B32B37/00
B32B27/16 101
B29C64/268
B29C64/20
B33Y10/00
B33Y30/00
(21)【出願番号】P 2018009527
(22)【出願日】2018-01-24
【審査請求日】2020-10-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【氏名又は名称】廣田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】山口 竜輝
【審査官】石塚 寛和
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-049374(JP,A)
【文献】特開2015-115413(JP,A)
【文献】特開2016-102154(JP,A)
【文献】特開2005-131922(JP,A)
【文献】特開2007-062028(JP,A)
【文献】特開平09-076360(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B29C 64/00-64/40
B33Y 10/00、30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合開始剤の含有量が5質量%未満であり、かつ電子線の照射により硬化する硬化材料からなる硬化材料層に対し前記電子線を照射して硬化させる照射工程と、
硬化した硬化材料層をイオナイザーで除電する除電工程と、
を複数回繰り返して行うことを特徴とする積層体の製造方法。
【請求項2】
前記重合開始剤の含有量が0質量%である請求項1に記載の積層体の製造方法。
【請求項3】
前記イオナイザーが、コロナ放電法、軟X線法、及び紫外線法のいずれかである請求項1から2のいずれかに記載の積層体の製造方法。
【請求項4】
光重合開始剤の含有量が2質量%以上5質量%未満であり、かつ紫外線の照射により硬化する硬化材料からなる硬化材料層に対し前記紫外線を照射して硬化させる照射工程と、
硬化した硬化材料層を除電する除電工程と、
を複数回繰り返して行うことを特徴とする積層体の製造方法。
【請求項5】
前記除電工程がイオナイザーを用いて行われる請求項4に記載の積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体の製造装置及び積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
硬化材料をエネルギー線の照射により硬化させて積層体を形成する方法として、例えば、紫外線を用いて硬化させる紫外線硬化方式が提案されている(例えば、特許文献1及び2参照)。一方、エネルギー線として電子線を用いる場合には、上述した紫外線硬化方式では必要となる光重合開始剤のような触媒が不要であるため、硬化物の黄変が少ないという利点がある。
また、インク付与面に、プラズマ処理、コロナ処理、及びフレーム処理よりなる群から選択される濡れ性向上化処理を行う工程、該処理面にインクジェット方式により紫外線硬化型インクを付与する工程、及び付与された紫外線硬化型インクに紫外線を照射する工程を、繰り返して行う着色物の製造方法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、積層体を構成する硬化材料層間の密着強度に優れ、かつ黄変が少ない積層体が得られる積層体の製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記課題を解決するための手段としての本発明の積層体の製造装置は、重合開始剤の含有量が5質量%未満である、エネルギー線の照射により硬化する硬化材料からなる硬化材料層に対し前記エネルギー線を照射して硬化させる照射手段と、硬化した硬化材料層を積層してなる積層体を除電する除電手段と、を有する。
【発明の効果】
【0005】
本発明によると、積層体を構成する硬化材料層間の密着強度に優れ、かつ黄変が少ない積層体が得られる積層体の製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】
図1は、本発明の積層体の製造装置の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
(積層体の製造装置及び積層体の製造方法)
本発明の積層体の製造装置は、重合開始剤の含有量が5質量%未満である、エネルギー線の照射により硬化する硬化材料からなる硬化材料層に対し前記エネルギー線を照射して硬化させる照射手段と、硬化した硬化材料層を除電する除電手段と、を有し、更に必要に応じてその他の手段を有する。
本発明の積層体の製造方法は、重合開始剤の含有量が5質量%未満である、エネルギー線の照射により硬化する硬化材料からなる硬化材料層に対し前記エネルギー線を照射して硬化させる照射工程と、硬化した硬化材料層を除電する除電工程と、を含み、これらの工程を複数回繰り返して行い、更に必要に応じてその他の工程を含む。
【0008】
本発明の積層体の製造方法は、本発明の積層体の製造装置により好適に実施することができ、照射工程は照射手段により行うことができ、除電工程は除電手段により行うことができ、その他の工程はその他の手段により行うことができる。
【0009】
本発明の積層体の製造装置及び積層体の製造方法は、従来技術では、エネルギー線としての電子線の照射により硬化材料を硬化させる場合、照射後の硬化材料層表面が帯電してしまい(チャージアップしてしまい)、次に積層する硬化材料層との密着性が低下してしまい、積層体を構成する硬化材料層間で十分な密着強度が得られないという知見に基づくものである。
また、本発明の積層体の製造装置及び積層体の製造方法は、特許文献3に記載の従来技術では、紫外線硬化時の表面濡れ性を向上させるため硬化材料層に対してコロナ帯電を施しており、照射後の硬化材料層表面の除電を目的としておらず、更に、紫外線硬化型インク中に光重合開始剤を5質量%以上の多く含有すると、その影響により積層体に黄変が生じ、透明性が低下してしまうおそれがあるという知見に基づくものである。
【0010】
本発明の積層体の製造装置及び積層体の製造方法によると、重合開始剤の含有量が5質量%未満である、エネルギー線の照射により硬化する硬化材料からなる硬化材料層に対し前記エネルギー線を照射する工程と、硬化した硬化材料層を除電する工程とを、複数回繰り返すことにより、積層体を構成する硬化材料層間の密着強度に優れ、かつ黄変が少ない積層体が得られる。
【0011】
<照射手段及び照射工程>
照射工程は、重合開始剤の含有量が5質量%未満である、エネルギー線の照射により硬化する硬化材料からなる硬化材料層に対しエネルギー線を照射して硬化させる工程であり、照射手段により行われる。
【0012】
<<エネルギー線>>
本発明に用いるエネルギー線としては、硬化材料中の重合性化合物の重合反応を進める上で必要なエネルギーを付与できるものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、電子線、紫外線、α線、β線、γ線、X線などが挙げられる。これらの中でも、電子線、紫外線が好ましく、硬化材料中に重合開始剤を含有しなくても重合反応を進めることができる点から、電子線が特に好ましい。
電子線の照射条件としては、例えば、公知の電子線加速器を用いて積算線量が10kGy~120kGyで照射するのが好ましく、10kGy~50kGyで照射するのがより好ましい。
紫外線の照射条件としては、例えば、公知の紫外線照射装置を用いて積算光量が100mJ/cm2~1,000mJ/cm2で照射するのが好ましく、100mJ/cm2~500mJ/cm2で照射するのがより好ましい。
【0013】
<<エネルギー線の照射により硬化する硬化材料>>
エネルギー線の照射により硬化する硬化材料は、エネルギー線の照射により重合反応を生起し、硬化する重合性化合物を含有し、更に必要に応じてその他成分を含有する。
【0014】
重合性化合物としては、例えば、単官能モノマー、多官能モノマー、重合性オリゴマー(プレポリマー)などが挙げられる。
【0015】
-単官能モノマー-
単官能モノマーとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリン、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、イソボルニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、2-メチル-2-アダマンチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、3,3,5-トリメチルシクロヘキサン(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、(2-メチル-2-エチル-1,3-ジオキソラン-4-イル)メチル(メタ)アクリレート、環状トリメチロールプロパンホルマール(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0016】
-多官能モノマー-
多官能モノマーとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)テトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド(PO)付加物ジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのエチレンオキサイド(EO)付加物ジ(メタ)アクリレート、EO変性ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、PO変性ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、EO変性ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、PO変性ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、EO変性ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、PO変性ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、EO変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、PO変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、EO変性テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、PO変性テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ビス(4-(メタ)アクリロキシポリエトキシフェニル)プロパン、ジアリルフタレート、トリアリルトリメリテート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、変性グリセリントリ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジグリシジルエーテル(メタ)アクリル酸付加物、変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0017】
-重合性オリゴマー(プレポリマー)-
重合性オリゴマー(プレポリマー)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートトリレンジイソシアネートウレタンプレポリマー、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートヘキサメチレンジイソシアネートウレタンプレポリマー、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートヘキサメチレンジイソシアネートウレタンプレポリマー、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、エポキシ(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリエステル(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリエーテル(メタ)アクリレートオリゴマー、シリコーン(メタ)アクリレートオリゴマーなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0018】
-重合開始剤-
本発明においては、エネルギー線として電子線を用いる場合には、重合開始剤を含有しなくてもよい(重合開始剤の含有量が0質量%)が、エネルギー線として紫外線を用いる場合は、重合開始剤として光重合開始剤を含有することが好ましい。
前記光重合開始剤としては、エネルギー線としての紫外線の照射によって、ラジカルやカチオンなどの活性種を生成し、重合性化合物(モノマーやオリゴマー)の重合を開始させることが可能なものであればよい。
光重合開始剤としては、例えば、ラジカル重合開始剤、カチオン重合開始剤、塩基発生剤などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、ラジカル重合開始剤が好ましい。
ラジカル重合開始剤としては、例えば、芳香族ケトン類、アシルフォスフィンオキサイド化合物、芳香族オニウム塩化合物、有機過酸化物、チオ化合物(チオキサントン化合物、チオフェニル基含有化合物等)、ヘキサアリールビイミダゾール化合物、ケトオキシムエステル化合物、ボレート化合物、アジニウム化合物、メタロセン化合物、活性エステル化合物、炭素ハロゲン結合を有する化合物、アルキルアミン化合物などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
エネルギー線として紫外線を用いる場合、重合開始剤としての光重合開始剤の含有量は、十分な硬化速度を得るためには、硬化材料の総質量に対して、2質量%以上20質量%以下が好ましく、本発明のように光重合開始剤の添加による黄変を低減したい場合には、光重合開始剤の含有量は2質量%以上5質量%未満がより好ましい。
【0019】
-その他の成分-
その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリマー、フィラー、着色剤、界面活性剤、溶剤、重合禁止剤などが挙げられる。
【0020】
本発明においては、例えば、基材上に硬化材料を付与して硬化材料層を形成し、この硬化材料層に対してエネルギー線を照射し、硬化させる。
硬化材料の付与方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ブレードコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ディップコート法、カーテンコート法、スライドコート法、ダイコート法、スプレーコート法、インクジェット法などが挙げられる。
【0021】
<除電手段及び除電工程>
除電工程は、硬化した硬化材料層を除電する工程であり、除電手段により行われる。
特に、エネルギー線として電子線を用いる場合、電子線の照射により被照射体が大きく負に帯電し、次に積層する硬化材料層との密着性が低下するおそれがあるため、除電手段を具備する必要がある。
【0022】
除電手段としては、イオンにより帯電した被照射体(硬化材料層)の電荷を中和させることができるものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、イオナイザーなどが挙げられる。
イオナイザーとしては、例えば、コロナ放電法、軟X線法、紫外線法などが挙げられる。
【0023】
コロナ放電法は、市販のコロナ放電方式のイオナイザー、例えば、シシド静電気株式会社製のピエゾナイザZapp2などを用いて、エア圧力:0.5MPa、除電時間:0.2秒間~1.0秒間の条件で行うことができる。
紫外線法は、市販の紫外線法のイオナイザー、例えば、浜松ホトニクス株式会社製のVUVイオナイザなどを用いて、被照射体との距離:200mm~1,000mm、除電時間:0.2秒間~1.0秒間の条件で行うことができる。
軟X線法は、市販の軟X線法のイオナイザー、例えば、浜松ホトニクス株式会社製のフォトイオンバーなどを用いて、被照射体との距離:100mm~300mm、除電時間:1.0秒間~4.0秒間の条件で行うことができる。
【0024】
<その他の手段及びその他の工程>
その他の手段としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、制御手段、表示手段などが挙げられる。
その他の工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、制御工程、表示工程などが挙げられる。
【0025】
本発明の積層体の製造方法においては、前記各工程を複数回繰り返すものである。前記繰り返し回数としては、作製する積層体の大きさ、形状、構造などに応じて異なり一概には規定できないが、一層あたりの厚みが10μm以上50μm以下の範囲であれば、精度よく、剥離することもなく積層することが可能であるため、作製する積層体の高さ分だけ繰り返して積層することが必要である。
【0026】
-用途-
本発明の積層体の製造装置及び積層体に製造方法により製造された積層体の用途としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、2次元の文字や画像上へのコーティングや各種基材への意匠塗膜を形成するだけでなく、3次元の立体像(立体造形物)を形成するための立体造形用材料としても用いることができる。
なお、本発明の積層体の製造装置及び積層体に製造方法で用いる硬化材料は、
図1に示すような積層体の製造装置における造形物材料(モデル材)や支持部材料(サポート材)として用いることもできる。
【0027】
ここで、
図1は、エネルギー線の照射により硬化する硬化材料を所定領域にインクジェット方式で吐出し、エネルギー線を照射して硬化させ、除電したものを順次積層して積層体を製造する方法に用いる積層体の製造装置を示す図である。
図1の積層体の製造装置39は、インクジェットヘッドを配列したヘッドユニット(ABの矢印方向に移動可能)を用いて、造形物用吐出ヘッドユニット30からエネルギー線の照射により硬化する硬化材料を、支持体用吐出ヘッドユニット31、32からエネルギー線の照射により硬化する硬化材料とは組成が異なる硬化材料を吐出し、エネルギー線で硬化させて積層し、除電する。具体的には、造形物支持基板37上に、エネルギー線の照射により硬化する硬化材料とは組成が異なる硬化材料を支持体用吐出ヘッドユニット31、32から吐出し、エネルギー線を照射して固化させて溜部を有する第一の支持体層を形成した後、当該溜部にエネルギー線の照射により硬化する硬化材料を造形物用吐出ヘッドユニット30から吐出し、エネルギー線を照射して硬化させ、除電して第一の造形物層を形成する工程を、積層回数に合わせて、上下方向に可動なステージ38を下げながら複数回繰り返すことで、支持体層と造形物層を積層して立体造形物35を製作する。その後、必要に応じて支持体積層部36は除去される。
なお、
図1の積層体の製造装置では、造形物用吐出ヘッドユニット30は1つしか設けていないが、2つ以上設けることもできる。また、エネルギー線照射手段、及び除電手段の記載については省略しているが、ヘッドユニットに一体又は別体に設けることができる。
【実施例】
【0028】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0029】
(実施例1)
下記組成の硬化材料Aを用い、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)基材(スミペックスE000、住友化学株式会社製)上にバーコーターで厚みが15μmとなるように塗布した。塗布したサンプルに対して、下記条件にて電子線照射を行い、硬化させた。
次に、コロナ放電方式のイオナイザー(ピエゾナイザZapp2、シシド静電気株式会社製)を用いて、エア圧力:0.5MPa、除電時間:1.0秒間の条件でサンプルの硬化した面を除電した。
次に、除電したサンプル表面に、上記と同様にしてバーコーターで厚みが15μmの層を形成した。
以下同様にして、電子線照射による硬化、コロナ放電方式のイオナイザーによる除電を10回繰り返し、合計10層からなる積層体を得た。
【0030】
[硬化材料Aの組成]
・アクリロイルモルホリン(KJケミカルズ株式会社製):65質量%
・ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(日本化薬株式会社製):35質量%
【0031】
[電子線照射条件]
・照射源:コンパクトEBラボ機(EC90/10/50L、岩崎電気株式会社製)
・加速電圧:90kV
・積算線量:120kGy
・コンベア速度:10m/分
・照射雰囲気:酸素濃度200ppm(窒素置換)
【0032】
次に、得られた積層体について、以下のようにして、「積層間密着性」、及び「黄色味」を評価した。結果を表1に示した。
【0033】
<積層間密着性>
作製した積層体について、JIS K5400の碁盤目試験(旧規格)に準じて、下記の基準により積層間密着性を評価した。なお、密着性は100個にカットした碁盤目部分のうち、テープで剥がれなかったマス数で評価した。
-評価基準-
○:剥がれなかったマス数が95以上100以下
△:剥がれなかったマス数が70以上94以下
×:剥がれなかったマス数が70未満
【0034】
<黄色味>
作製した積層体の色相を、分光測色計(X-Rite939、エックスライト株式会社製)を用いて測定し、下記の基準により、黄色味をb*値で評価した。
-評価基準-
○:b*値が2未満
△:b*値が2以上5未満
×:b*値が5以上
【0035】
(実施例2)
実施例1において、コロナ放電方式のイオナイザーを、紫外線法のイオナイザー(VUVイオナイザ、浜松ホトニクス株式会社製)に変え、被照射体との距離:200mm、除電時間:1.0秒間の条件とした以外は、実施例1と同様にして、積層体を製造し、同様に評価を実施した。結果を表1に示した。
【0036】
(実施例3)
実施例1において、コロナ放電方式のイオナイザーを、軟X線法のイオナイザー(フォトイオンバー、浜松ホトニクス株式会社製)に変え、被照射体との距離:100mm、除電時間:1.0秒間の条件とした以外は、実施例1と同様にして、積層体を製造し、同様に評価を実施した。結果を表1に示した。
【0037】
(実施例4)
実施例1において、硬化材料Aを下記組成の硬化材料Bに変えた以外は、実施例1と同様にして、積層体を製造し、同様に評価を実施した。結果を表1に示した。
[硬化材料Bの組成]
・アクリロイルモルホリン(KJケミカルズ株式会社製):62.40質量%
・ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(日本化薬株式会社製):33.60質量%
・Irgacure2959(BASF社製):4.00質量%
【0038】
(実施例5)
実施例1において、硬化材料Aを前記硬化材料Bに、照射するエネルギー線を下記の照射条件の紫外線に変えた以外は、実施例1と同様にして、積層体を製造し、同様に評価を実施した。結果を表1に示した。
[紫外線照射条件]
・照射源:LightHammer6 Dバルブ(ヘレウス社製)
・積算光量:1,000mJ/cm2(UVA領域)
・コンベア速度:10m/分
・照射雰囲気:大気中
【0039】
(比較例1)
実施例1において、コロナ放電方式のイオナイザーによる除電を行わなかった以外は、実施例1と同様にして、積層体を製造し、同様に評価を実施した。結果を表2に示した。
【0040】
(比較例2)
比較例1において、硬化材料Aを上記硬化材料Bに変えた以外は、比較例1と同様にして、積層体を製造し、同様に評価を実施した。結果を表2に示した。
【0041】
(比較例3)
実施例5において、硬化材料Bを下記組成の硬化材料Cに変え、コロナ放電方式のイオナイザーによる除電を行わなかった以外は、実施例5と同様にして、積層体を製造し、同様に評価を実施した。結果を表2に示した。
[硬化材料Cの組成]
・アクリロイルモルホリン(KJケミカルズ株式会社製):55.25質量%
・ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(日本化薬株式会社製):29.75質量%
・Irgacure2959(BASF社製):15.00質量%
【0042】
(比較例4)
比較例3において、コロナ放電方式のイオナイザーによる除電を行った以外は、比較例3と同様にして、積層体を製造し、同様に評価を実施した。結果を表2に示した。
【0043】
(比較例5)
比較例3において、実施例1と同じ電子線照射を行い、エネルギー線をコロナ放電方式のイオナイザーによる除電を行った以外は、比較例3と同様にして、積層体を製造し、同様に評価を実施した。結果を表2に示した。
【0044】
(比較例6)
比較例2において、実施例5と同じ紫外線照射を行った以外は、比較例2と同様にして、積層体を製造し、同様に評価を実施した。結果を表3に示した。
【0045】
(比較例7)
比較例6において、硬化材料Bを下記組成の硬化材料Dに変えた以外は、比較例6と同様にして、積層体を製造し、同様に評価を実施した。結果を表3に示した。
[硬化材料Dの組成]
・アクリロイルモルホリン(KJケミカルズ株式会社製):58.50質量%
・ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(日本化薬株式会社製):31.50質量%
・Irgacure2959(BASF社製):10.00質量%
【0046】
【0047】
【0048】
【0049】
本発明の態様としては、例えば、以下のとおりである。
<1> 重合開始剤の含有量が5質量%未満である、エネルギー線の照射により硬化する硬化材料からなる硬化材料層に対し前記エネルギー線を照射して硬化させる照射手段と、
硬化した硬化材料層を除電する除電手段と、
を有することを特徴とする積層体の製造装置である。
<2> 前記エネルギー線が電子線である前記<1>に記載の積層体の製造装置である。
<3> 前記除電手段がイオナイザーを含む前記<1>又は<2>に記載の積層体の製造装置である。
<4> 前記重合開始剤の含有量が0質量%である前記<2>から<3>のいずれかに記載の積層体の製造装置である。
<5> 前記エネルギー線が紫外線でありかつ前記重合開始剤が光重合開始剤であり、該光重合開始剤の含有量が2質量%以上5質量%未満である請求項1に記載の積層体の製造装置。
<6> 重合開始剤の含有量が5質量%未満である、エネルギー線の照射により硬化する硬化材料からなる硬化材料層に対し前記エネルギー線を照射して硬化させる照射工程と、
硬化した硬化材料層を除電する除電工程と、
を複数回繰り返して行うことを特徴とする積層体の製造方法である。
<7> 前記エネルギー線が電子線である前記<6>に記載の積層体の製造方法である。
<8> 前記除電手段がイオナイザーを含む前記<6>又は<7>に記載の積層体の製造方法である。
<9> 前記重合開始剤の含有量が0質量%である前記<7>から<8>のいずれかに記載の積層体の製造装置である。
<10> 前記エネルギー線が紫外線でありかつ前記重合開始剤が光重合開始剤であり、該光重合開始剤の含有量が2質量%以上5質量%未満である前記<6>に記載の積層体の製造方法である。
【0050】
前述の<1>から<5>のいずれかに記載の積層体の製造装置、及び前述の<6>から<10>のいずれかに記載の積層体の製造方法によると、従来における諸問題を解決し、本発明の目的を達成することができる。
【符号の説明】
【0051】
30 造形物用吐出ヘッドユニット
31、32 支持体用吐出ヘッドユニット
35 立体造形物
36 支持体積層部
37 造形物支持基板
38 ステージ
39 積層体の製造装置
【先行技術文献】
【特許文献】
【0052】
【文献】特開2013-023574号公報
【文献】特開2017-131865号公報
【文献】特開2008-207528号公報