(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】画像形成装置
(51)【国際特許分類】
G03G 21/00 20060101AFI20220809BHJP
G03G 15/08 20060101ALI20220809BHJP
G03G 9/097 20060101ALI20220809BHJP
【FI】
G03G21/00 318
G03G15/08 220
G03G9/097 374
(21)【出願番号】P 2018051137
(22)【出願日】2018-03-19
【審査請求日】2021-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【氏名又は名称】廣田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】紙 英利
(72)【発明者】
【氏名】折居 寛紀
(72)【発明者】
【氏名】高橋 亮大
【審査官】三橋 健二
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-134605(JP,A)
【文献】特開2012-063720(JP,A)
【文献】特開2006-201563(JP,A)
【文献】特開平09-090843(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0272460(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 21/00
G03G 15/08
G03G 9/097
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
潜像が形成され、トナー像を担持可能な像担持体と、
前記像担持体上に形成された潜像をトナーで現像する現像手段と、
前記像担持体の表面に当接するブレード形状の弾性体を有するクリーニング手段とを有し、
前記像担持体と前記弾性体との摩擦係数Ft/Fnが0.85以上1.1以下であり、
下記(i)~(v)の手順で求めた、前記弾性体のLMH帯域における剪断力の自励振動の大きさWRFt(LMH)が、1.5gf以上3.5gf以下であり、
前記像担持体が、導電性支持体と、該導電性支持体上に順に積層されてなる感光層、下地表面層を有し、
前記下地表面層が、フッ素樹脂微粒子、
及びフッ素系界面活性剤を含み、
前記ブレード形状の弾性体がポリウレタンゴムであることを特徴とする画像形成装置。
(i)前記像担持体との摩擦により前記弾性体に生じる剪断力の時間変化の波形データWFtを作成する。
(ii)前記波形データWFtを、多重解像度解析によってウェーブレット変換して高周波数成分から低周波数成分に至るまでの6個の周波数成分(HHH、HHL、HMH、HML、HLH、及びHLL)の剪断力の波形データに分離する。
(iii)次いで、得られた6個の周波数成分の中で最も低周波数成分の剪断力の波形データWFt(HLL)に対して、サンプリング数が1/40に減少するように間引きした剪断力の波形データを作成する。
(iv)更に、多重解像度解析によってウェーブレット変換して高周波数成分から低周波数成分に至るまでの、追加の6個の周波数成分(LHH、LHL、LMH、LML、LLH、及びLLL)の剪断力の波形データに分離する。
(v)上記で得たLMH帯域における剪断力の波形データWFt(LMH)から、下記式(1)により、前記弾性体のLMH帯域における剪断力の自励振動WRFt(LMH)を求める。
【数1】
(L;全測定時間長,x;時間,WFt[LMH](x);LMH帯域における剪断力の時間変化の波形データ)
ただし、各周波数帯域は次の関係を満たす。
【表1】
【請求項2】
前記像担持体の表面にワックス及び脂肪酸金属塩の少なくともいずれかの被膜を塗布形成する塗布手段を更に有する請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記像担持体の表面に形成される前記被膜が、循環型表面層である請求項1から2のいずれかに記載の画像形成装置。
【請求項4】
前記像担持体の表面におけるフッ素元素のXPS分析による含有量が、0.5原子%以上30原子%以下である請求項1から3のいずれかに記載の画像形成装置。
【請求項5】
下記(I)~(V)の手順で求めた、前記下地表面層のLML帯域における算術表面粗さWRa(LML)が、0.02μm以上である請求項1から4のいずれかに記載の画像形成装置。
(I)前記下地表面層の表面形状を表面粗さ・輪郭形状測定機により測定して一次元データ配列を作成する。
(II)前記一次元データ配列を、多重解像度解析によってウェーブレット変換して高周波数成分から低周波数成分に至るまでの6個の周波数成分(HHH、HHL、HMH、HML、HLH、及びHLL)に分離する。
(III)次いで、得られた6個の周波数成分の中で最も低周波数成分の一次元データ配列に対して、データ配列数が1/40に減少するように間引きした一次元データ配列を作成する。
(IV)更に、多重解像度解析によってウェーブレット変換して高周波数成分から低周波数成分に至るまでの、追加の6個の周波数成分(LHH、LHL、LMH、LML、LLH、及びLLL)に分離する。
(V)上記で得た12の各周波数成分について算術平均粗さ(WRa)を求める。ただし、前記得られた周波数成分は、下記のとおりである。
WRa(HHH):凹凸の一周期の長さが0.3μm~3μmの帯域におけるRa
WRa(HHL):凹凸の一周期の長さが1μm~6μmの帯域におけるRa
WRa(HMH):凹凸の一周期の長さが2μm~13μmの帯域におけるRa
WRa(HML):凹凸の一周期の長さが4μm~25μmの帯域におけるRa
WRa(HLH):凹凸の一周期の長さが10μm~50μmの帯域におけるRa
WRa(HLL):凹凸の一周期の長さが24μm~99μmの帯域におけるRa
WRa(LHH):凹凸の一周期の長さが26μm~106μmの帯域におけるRa
WRa(LHL):凹凸の一周期の長さが53μm~183μmの帯域におけるRa
WRa(LMH):凹凸の一周期の長さが106μm~318μmの帯域におけるRa
WRa(LML):凹凸の一周期の長さが214μm~551μmの帯域におけるRa
WRa(LLH):凹凸の一周期の長さが431μm~954μmの帯域におけるRa
WRa(LLL):凹凸の一周期の長さが867μm~1,654μmの帯域におけるRa
【請求項6】
前記現像手段が、0.1質量%以上0.3質量%以下の六方稠密構造を有するα-アルミナを含む現像剤を有する請求項1から5のいずれかに記載の画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、文書の殆どはコピー機で用いられる電子写真でプリントされ、電子写真はあらゆるシーンで活用されてきた。しかし、近年では、ペーパレスや経費削減の動向に乗じてオフィスでコピーする機会は年々縮小している。
【0003】
電子写真がこれまでの役割が縮小しようとする中、電子写真は事務用印刷から商用印刷への用途の拡大が模索されている。電子写真はオフセット印刷の様な製版工程が不要なため、極小ロットで多品種の原稿を大量に印刷するようなオンデマンド印刷ができる利点がある。しかし、電子写真の印刷物の品位と均質性は、オフセット印刷と比べると格段に劣っているのが実情である。
【0004】
商用印刷では、印刷物の画質が不均一では商品にならない。このため、電子写真を商用印刷として用いるには、画質の均質化が特に重要となる。また、オフィス用途と比べて、生産性と収益性がとりわけ重要になるため、感光体の交換頻度を抑える必要がある。現在、ハイエンドクラスの電子写真装置に用いられる感光体の交換寿命は、100万枚前後に設定されているものが多い。
【0005】
例えば、感光体の摩耗損傷による画像劣化を低減させるため、感光体のクリーニングブレードに対する静止摩擦係数、潤滑剤の供給量、像担持体の表面粗さなどを特定の数値とした画像形成方法が提案されている(例えば、特許文献1~4参照)。
しかしながら、これらの提案でも商用印刷としての耐久性は十分とは言えない。コピー機がオフセット印刷機に換わるようなことは今のところ起きていないことからも未だ電子写真の性能が商用印刷としての用途には不充分であることが教示される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、像担持体の耐摩耗性と画像ボケのトレードオフを解消し、電子写真プロセスで大量印刷を行っても画質の均質性が高い印刷を可能とする画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための手段としての本発明の画像形成装置は、潜像が形成され、トナー像を担持可能な像担持体と、前記像担持体上に形成された潜像をトナーで現像する現像手段と、前記像担持体の表面に当接するブレード形状の弾性体を有するクリーニング手段とを有し、前記像担持体と前記弾性体との摩擦係数Ft/Fnが0.85以上1.1以下であり、下記(i)~(v)の手順で求めた、前記弾性体のLMH帯域における剪断力の自励振動の大きさWRFt(LMH)が、1.5gf以上3.5gf以下である。
(i)前記像担持体との摩擦により前記弾性体に生じる剪断力の時間変化の波形データWFtを作成する。
(ii)前記波形データWFtを、多重解像度解析によってウェーブレット変換して高周波数成分から低周波数成分に至るまでの6個の周波数成分(HHH、HHL、HMH、HML、HLH、及びHLL)の剪断力の波形データに分離する。
(iii)次いで、得られた6個の周波数成分の中で最も低周波数成分の剪断力の波形データWFt(HLL)に対して、サンプリング数が1/40に減少するように間引きした剪断力の波形データ(A)を作成する。
(iv)更に、前記波形データ(A)を、多重解像度解析によってウェーブレット変換して高周波数成分から低周波数成分に至るまでの、追加の6個の周波数成分(LHH、LHL、LMH、LML、LLH、及びLLL)の剪断力の波形データに分離する。
(v)上記で得たLMH帯域における剪断力の波形データWFt(LMH)から、下記式(1)により、前記弾性体のLMH帯域における剪断力の自励振動の大きさWRFt(LMH)を求める。
【数1】
(L;全測定時間長,x;時間,WFt[LMH](x);LMH帯域における剪断力の時間変化の波形データ)
ただし、各周波数帯域は次の関係を満たす。
【表1】
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、像担持体の耐摩耗性と画像ボケのトレードオフを解消し、電子写真プロセスで大量印刷を行っても画質の均質性が高い印刷を可能とする画像形成装置を提供することができ、商用印刷に十分適応できる画像形成装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、弾性体の作用力を計測する試験器の一例を示す構成図である。
【
図2】
図2は、接線力と法線力の関係を表す概念図である。
【
図3】
図3は、弾性体の自励振動を解析した結果の一例を示す図である。
【
図4】
図4は、弾性体の自励振動を解析した結果の他の一例を示す図である。
【
図5】
図5は、表面粗さ・輪郭形状測定システムの構成図である。
【
図6】
図6は、ウェーブレット変換による多重解像度解析結果の一例を表す図である。
【
図7】
図7は、一回目の多重解像度解析における周波数帯域の分離の図である。
【
図8】
図8は、一回目の多重解像度解析での最低周波数データのグラフである。
【
図9】
図9は、二回目の多重解像度解析における周波数帯域の分離の図である。
【
図11】
図11は、本発明の一実施形態における感光体の層構成を示す断面図である。
【
図12】
図12は、本発明の他の実施形態における感光体の層構成を示す断面図である。
【
図13】
図13は、本発明の一実施形態における画像形成装置の模式断面図である。
【
図14】
図14は、本発明の更に別の実施形態における画像形成装置の模式断面図である。
【
図15】
図15は、本発明の更に別の実施形態における画像形成装置の模式断面図である。
【
図16】
図16は、本発明の更に別の実施形態における画像形成装置の模式断面図である。
【
図17】
図17は、本発明の更に別の実施形態における画像形成装置の模式断面図である。
【
図18】
図18は、本発明の一実施形態における画像形成装置の模式断面図である。
【
図19】
図19は、本発明の更に別の実施形態における画像形成装置の模式断面図である。
【
図20】
図20は、本発明の一実施形態における循環材の塗布手段を示す模式断面図である。
【
図21】
図21は、ダイヤモンドライクカーボン層を形成する際に用いるプラズマCVD装置の具体例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(画像形成装置)
本発明の画像形成装置は、潜像が形成され、トナー像を担持可能な像担持体と、前記像担持体上に形成された潜像をトナーで現像する現像手段と、前記像担持体の表面に当接するブレード形状の弾性体を有するクリーニング手段とを有し、前記像担持体と前記弾性体との摩擦係数Ft/Fnが0.85以上1.1以下であり、下記(i)~(v)の手順で求めた、前記弾性体のLMH帯域における剪断力の自励振動の大きさWRFt(LMH)が、1.5gf以上3.5gf以下であることを特徴とする。
(i)前記像担持体との摩擦により前記弾性体に生じる剪断力の時間変化の波形データWFtを作成する。
(ii)前記波形データWFtを、多重解像度解析によってウェーブレット変換して高周波数成分から低周波数成分に至るまでの6個の周波数成分(HHH、HHL、HMH、HML、HLH、及びHLL)の剪断力の波形データに分離する。
(iii)次いで、得られた6個の周波数成分の中で最も低周波数成分の剪断力の波形データWFt(HLL)に対して、サンプリング数が1/40に減少するように間引きした剪断力の波形データ(A)を作成する。
(iv)更に、前記波形データ(A)を、多重解像度解析によってウェーブレット変換して高周波数成分から低周波数成分に至るまでの、追加の6個の周波数成分(LHH、LHL、LMH、LML、LLH、及びLLL)の剪断力の波形データに分離する。
(v)上記で得たLMH帯域における剪断力の波形データWFt(LMH)から、下記式(1)により、前記弾性体のLMH帯域における剪断力の自励振動の大きさWRFt(LMH)を求める。
【数2】
(L;全測定時間長,x;時間,WFt[LMH](x);LMH帯域における剪断力の時間変化の波形データ)
ただし、各周波数帯域は次の関係を満たす。
【表2】
【0011】
本発明の画像形成装置は、以下の従来における問題点を見出し、本発明の画像形成装置が前記問題点を解決できることを見出し、完成に至ったものである。
感光体の寿命は、耐摩耗性と画像ボケの抑制とのトレードオフの関係から決定される。感光体をコンデンサーの一種と見なした場合、感光体は摩耗が進むと静電容量が増大して帯電性が劣化することが理解される。その結果、プリント画像はカブリが生じやすくなる。また、感光層が受ける電場が強くなる結果、電荷のブロッキング性が低下して地汚れも生じやすくなる。こうした帯電性の劣化を遅らせるために感光体の耐摩耗性を高めることは重要であるものの、耐摩耗性が高められると感光体表面の摩耗が遅れるために表面の汚れはリフレッシュされずに蓄積しやすくなる。汚れた感光体表面は表面抵抗が低くなりやすく、湿気の多い日は静電潜像が横流れして画像がボケてしまうことがある。こうしたトレードオフ関係があるため、感光体寿命は頭打ちされてきた。このため、電子写真の用途の拡大も制限されてきたと言える。
【0012】
半世紀近くに亘り感光体を開発してきた現在、各社がそれぞれに究極とも言える感光体の高耐久化を達成している。しかし、商用印刷向けに用いたとき、過去に経験しない画質と耐久性の要求を受けてその対応に追われているのが実情である。電子写真がオフセット印刷に換わるためには少なくとも感光体の高信頼化が必要である。
【0013】
本発明の画像形成装置は、前記像担持体と、前記現像手段と、クリーニング手段とを少なくとも有し、塗布手段と、帯電手段と、露光手段と、転写手段と、定着手段とを有することが好ましく、更に必要に応じて適宜選択したその他の手段を有する。なお、前記帯電手段と前記露光手段とを合わせて静電潜像形成手段と称することもある。
【0014】
本発明で用いられる画像形成方法は、現像工程と、クリーニング工程とを少なくとも含み、塗布手段と、帯電工程と、露光工程と、転写工程と、定着工程とを含むことが好ましく、更に必要に応じて適宜選択したその他の工程を含む。なお、前記帯電工程と前記露光工程を合わせて静電潜像形成工程と称することもある。
【0015】
本発明で用いられる画像形成方法は、本発明の前記画像形成装置により好適に実施することができ、前記帯電工程は前記帯電手段により行うことができ、前記露光工程は前記露光手段により行うことができ、前記現像工程は前記現像手段により行うことができ、前記転写工程は前記転写手段により行うことができ、前記定着工程は前記定着手段により行うことができ、前記クリーニング工程は前記クリーニング手段により行うことができ、前記その他の工程は前記その他の手段により行うことができる。
【0016】
次に、本発明に係る画像形成装置についてさらに詳細に説明する。
なお、以下に述べる実施の形態は、本発明の好適な実施の形態であるから技術的に好ましい種々の限定が付されているが、以下の説明において本発明を限定する旨の記載がない限り、本発明の範囲はこれらの態様に限られるものではない。
【0017】
<クリーニング工程及びクリーニング手段>
前記クリーニング工程は、前記像担持体の表面に当接するブレード形状の弾性体を有し、クリーニング手段前記像担持体の表面に残留する物質を除去する工程であり、前記クリーニング手段により行われる。
前記弾性体(以下、「クリーニングブレード」と称することがある)は、前記像担持体の表面に当接し、ブレード形状を有する。
前記クリーニング手段としては、前記弾性体を有するものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0018】
電子写真において、像担持体(以下、「感光体」、「電子写真感光体」と称することがある)の表面は物質が入出力する場と捉えることができる。入出力される物質として、トナー、現像剤、ワックス類、放電生成物、紙などが挙げられる。感光体一周期毎にこうした物質の入出力がリセットされる状態が理想と言えるが、物質の一部は感光体表面から排出されずに蓄積する。こうした感光体表面のリセットは感光体表面にブレード形状の弾性体が接触することによって生じる剪断力の作用によって行われるのが一般である。
【0019】
弾性体を感光体表面に接触させると、その状態に応じた剪断力、圧縮応力と自励振動が生じる。また、感光体とこの弾性体自体も接触状態に応じた摩耗や変質が生じる。よって、感光体を長寿命化させるには、これらの接触状態を最善にすることが重要である。
【0020】
ところが、こうした接触状態の解析は今尚不明瞭な状態のままであり、そのため、装置の設計も合理的であるかも解らない。
そこで、我々は、課題を達成するための第一のステップとして剪断力の解析方法を作り出した。はじめに解析装置について説明する。
【0021】
図1は、感光体との接触部材としてブレード形状の弾性体を用いた場合の、弾性体の作用力を計測する試験器の一例を示す構成図である。
【0022】
図1に示す弾性体(17)を固定した板を2個の三分力計(動ひずみ測定器)(51)に吊し、感光体(11)と当接させる。このとき感光体に対する弾性体の当接角や食い込み量を適宜変える。感光体はモーター等の動力源(非図示)と接続されており、これも適当な速度で回転駆動する。動力源にはトルク計を取り付けて回転力を計測することもできる。
三分力計から得られる荷重測定値はデータロガーで収集し、左右の三分力計から得られる荷重の和を作用力として算出する。
【0023】
[像担持体と弾性体との摩擦係数Ft/Fn]
弾性体の位置関係について、長さ、幅、厚みに注目すると、三分力計では幅方向(エア面)fxと厚み方向(カット面)fyの荷重が得られる(
図2参照)。弾性体(17)と感光体(11)との当接角をθとすると、感光体の回転駆動方向に対する弾性体の接線方向の作用力と垂直方向の力をそれぞれ接線力Ftと法線力Fnとして下記の式(2)及び式(3)から算出される。
Ft=fx・cosθ-fy・sinθ・・・(2)
Fn=fx・sinθ+fy・cosθ・・・(3)
【0024】
接線力Ftは感光体と弾性体との剪断力を反映し、法線力Fnはこれらの圧縮応力を反映する。これらの合力のベクトル方向は、下記式(4)から見積もられる。
合力のベクトルの方向=arctan(Ft/Fn)・・・(4)
【0025】
また、摩擦係数の定義は、垂直抗力に対する摩擦力の比であるから、本発明では次のように定義する。
像担持体と弾性体との摩擦係数=Ft/Fn・・・(5)
【0026】
前記像担持体と前記弾性体との摩擦係数Ft/Fnとしては、大きな剪断力の生成と初期状態からの変動を抑制する点から、0.85以上1.1以下であり、0.90以上1.00以下が好ましい。
感光体に当接する弾性体には、圧縮応力を伴う剪断力が生じる。圧縮応力と剪断力はそれぞれ感光体表面に対して法線方向に作用する力と感光体回転方向に作用する力として、弾性体の圧縮と感光体の摺動によって発生する。前記摩擦係数Ft/Fnが1.1以下であると、剪断力が強すぎて弾性体がめくれてしまうという不具合が起こらず、前記摩擦係数Ft/Fnが0.85以上であるとトナーや潤滑剤等の粒子の剪断力に弾性体の剪断力が抵抗できず、すり抜けが生じるという不具合が起こらず、物質の除去乃至排出を適正に行うことができる。
【0027】
[弾性体のLMH帯域における剪断力の自励振動の大きさWRFt(LMH)]
前記弾性体のLMH帯域における剪断力の自励振動の大きさWRFt(LMH)は、1.5gf以上3.5gf以下であり、1.6gf以上3.3gf以下がより好ましい。
前記WRFt(LMH)が、1.5gf以上であると、循環材の除去性を妨げることや画像濃度ムラを生じることなく、電子写真プロセスで大量印刷を行っても画質の均質性が高い印刷が可能となり、3.5gf以下であると、電子写真プロセスで大量印刷を行っても画質の均質性が高い印刷が可能となる。
【0028】
弾性体を感光体に接触させる条件として、弾性体が適度にストレスを緩和する自励振動を付与させることで、弾性体に強い剪断力を生じさせつつ、めくれを防ぐことができる。
この条件をもとに調べた結果、弾性体のLMH帯域における剪断力の自励振動の大きさWRFt(LMH)を、1.5gf以上3.5gf以下にすることにより大きな剪断力を安定に保てることを見出し、本発明を完成するに至った。
この下限値はブレード形状の剪断力のめくれを防ぐために必要な条件として決定される条件である。
弾性体はLMH帯域における剪断力の自励振動の大きさWRFt(LMH)が大きくなるとLLL帯域における実効的な剪断力の自励振動の大きさWRFt(LLL)が損失する性状を有する。上限値はこのロスが許容される条件として決定される。
【0029】
前記弾性体のLMH帯域における剪断力の自励振動の大きさWRFt(LMH)は、下記(i)~(v)の手順により求めることができる。
(i)前記像担持体との摩擦により前記弾性体に生じる剪断力の時間変化の波形データWFtを作成する。
(ii)前記波形データWFtを、多重解像度解析によってウェーブレット変換して高周波数成分から低周波数成分に至るまでの6個の周波数成分(HHH、HHL、HMH、HML、HLH、及びHLL)の剪断力の波形データに分離する。
(iii)次いで、得られた6個の周波数成分の中で最も低周波数成分の剪断力の波形データWFt(HLL)に対して、サンプリング数が1/40に減少するように間引きした剪断力の波形データ(A)を作成する。
(iv)更に、前記波形データ(A)を、多重解像度解析によってウェーブレット変換して高周波数成分から低周波数成分に至るまでの、追加の6個の周波数成分(LHH、LHL、LMH、LML、LLH、及びLLL)の剪断力の波形データに分離する。
(v)上記で得たLMH帯域における剪断力の波形データWFt(LMH)から、下記式(1)により、前記弾性体のLMH帯域における剪断力の自励振動の大きさWRFt(LMH)を求める。
【数3】
(L;全測定時間長,x;時間,WFt[LMH](x);LMH帯域における剪断力の時間変化の波形データ)
【0030】
前記弾性体の自励振動(「ビビリ」と称することがある)は、剪断力の経時変化に直接反映される。
図1に示す評価装置で得られる剪断力のサンプリングデータ(WFt)を、例えば、数値解析ソフトMATLABとWavelettoolbox(MathWorks社)を用いてウェーブレット変換をすることによって、各周波数帯域に分離した自励振動の大きさを評価することができる。
【0031】
生データである剪断力の時間変化の波形データ(WFt)に対してウェーブレット変換を行うと、6つの周波数帯域(HHH、HHL、HMH、HML、HLH、及びHLL)に分離された波形データが得られる。このうち、最も低周波数(HLL帯域と称する)の波形データを1/40のサンプリング数に間引いたデータを更にウェーブレット変換を行うことにより、低周波数寄りの追加の6つの周波数帯域(LHH、LHL、LMH、LML、LLH、及びLLL)に分離された波形データが得られる。なお、1/40の間引きとしては、分離に優れる経験値を選定した。
このウェーブレット変換によって剪断力の時間変化の波形は、表3に示す12の周波数帯域に分離される。
【0032】
【0033】
ウェーブレット変換によって得られる複数の周波数帯域に分離された剪断力の時間変化の波形データについて下記式(6)の値を算出し、各周波数帯域の自励振動の大きさを評価することができる。
【数4】
(L;全測定時間長,x;時間,WFt(x);各周波数帯域における剪断力の時間変化の波形データ)
【0034】
したがって、前記弾性体のLMH帯域における剪断力の自励振動WFt(LMH)の時間変化の関数であるWFt[LMH](x)に基づき、下記式(1)により、自励振動の大きさWRFt(LMH)を求めることができる。
【数5】
(L;全測定時間長,x;時間,WFt[LMH](x);LMH帯域における剪断力の時間変化の波形データ)
【0035】
前記式(1)及び式(6)は、表面粗さ測定における算術平均粗さの定義を利用した数式である。従来、感光体表面形状の分類に利用したウェーブレット解析と同じ処理を行っている。
HLL帯域の波形は、LHH帯域からLLL帯域の波形に分離した波形に変換されている。このとき、HLL帯域の波形そのものを残しても有意ではないため評価対象から除く。
また、感光体表面粗さに対して、剪断力の波形データをウェーブレット変換した場合、表面粗さではうねりの大きさを表すのに対して、剪断力ではLLL帯域のみ剪断力の総合的な大きさを表す違いがある(表面粗さは0を基準とする山谷の大きさとして正負の値の波形データであるのに対して、剪断力は負の値にはならず、剪断力の平均値を基準とするゆらぎの波形データとなる)。
なお、自励振動の周波数特性を視覚的に理解するには、各周波数帯域のWRFtをスペクトルにして表すとよい。
【0036】
以上の通り、感光体に接触することで生じるブレード形状の弾性体の剪断力の解析が可能になる。次のステップではこの解析手法を用いて、感光体とブレード形状の弾性体との接触状態のベストモードを次の通り考察した。
【0037】
感光体表面から物質を除去乃至排出する作用は、弾性体を感光体表面に接触させることで生じる剪断力により影響を受ける。剪断力がゼロであれば感光体表面の物質は滞留し、物質が大きな剪断力を受けると感光体表面から排出されやすくなる。
例えば、円筒形状の感光体が円筒の中心を軸にして回転する場合に、感光体表面が移動する状態に対して、弾性体を感光体表面に押し当てると、弾性体は圧縮応力と剪断力と自励振動を生じる。押し当てる深さや角度を変えると剪断力を大きくすることができるが、変化の度合いが多過ぎると弾性体はめくれてしまい、剪断力の大きさを保てなくなる。その結果、感光体表面から物質を排出する能力が損なわれてしまう。こうしためくれが生じない状態であっても、剪断力が不安定になると感光体表面から物質を排出する能力は損なわれることになる。
【0038】
こうした関係の解析結果の一例を
図3に示す。
図3は、ブレード形状の弾性体を感光体表面に接触させたときの剪断力をウェーブレット変換して各周波数帯域における自励振動の大きさをスペクトルにして表したものである。No.1の状態は円筒形状の感光体を2.0Hzの条件で回転させたとき、LMHの周波数帯域(2.5Hz~7.4Hz)の自励振動をできるだけ低くなるように弾性体を感光体表面に接触させた場合の解析結果であり、実施例における比較例1である。No.1の状態は、No.2の状態に変化してしまい、変化後すぐに弾性体はめくれを起こすことになる。
【0039】
図3とは別の関係の解析結果の一例を
図4に示す。
図4中、No.3の状態は、円筒形状の感光体を
図3と同じ条件で回転させたとき、LMHの周波数帯域(2.5Hz~7.4Hz)の自励振動を大きくなるようにブレード形状の弾性体を感光体表面に接触させた場合の解析結果であり、実施例における実施例1である。この状態はNo.3とNo.4の状態の間を変化しつつも、ほぼ変化の生じない安定した状態を保つ。
【0040】
<像担持体>
前記像担持体(「感光体」、「電子写真感光体」と称することがある)としては、その材質、形状、構造、大きさ等について特に制限はなく、公知のものの中から適宜選択することができる。
前記像担持体としては、導電性支持体と、前記導電性支持体上に順に積層されてなる感光層及び下地表面層とを有することが好ましい。
また、前記像担持体の表面に被膜が形成され、前記被膜が、循環型表面層であることが好ましい。なお、前記被膜は、前記塗布手段により塗布形成される。
また、前記像担持体の表面におけるフッ素元素のXPS分析による含有量が、0.5原子%以上30原子%以下であることが好ましい。
【0041】
[像担持体の表面におけるフッ素元素のXPS分析による含有量]
感光体の表面にフッ素元素を含ませると、感光体と弾性体との間で生じる剪断力は変化する。特にワックスや脂肪酸金属塩を感光体の下地表面層に塗布する画像形成装置に対して影響する。感光体の表面にフッ素元素を含ませると離型性が増大するためと考えられる。使用環境などの外乱の影響が小さくすることができる。この効果は感光体表面のXPS分析に対してフッ素元素が0.5原子%以上から効果が認められる。XPS分析で定量される感光体表面のフッ素元素の含有量が増大すると離型性は飽和する一方、耐摩耗性が劣化することがあるため30原子%を上限とするとよい。
【0042】
前記像担持体の表面におけるフッ素元素の含有量のXPS分析による定量方法としては、例えば、感光体長手方向に等間隔になるように15mm×15mmサイズの任意の数のサンプル(例えば10点)を切りだして、Quantera SXM(アルバック・ファイ株式会社製)を用い、10mm×10mmの任意の点のエリアについてXPS分析よりフッ素元素の含有量を求め、得られたフッ素原子(原子%)の平均値を算出する方法が挙げられる。
【0043】
[下地表面層のLML帯域における算術平均粗さWRa(LML)]
前記像担持体が、導電性支持体と、前記導電性支持体上に順に積層されてなる感光層及び下地表面層とを有する場合において、前記下地表面層のLML帯域における算術平均粗さWRa(LML)が0.02μm以上であることが好ましい。
ここで、前記WRa(LML)は、下記(I)~(V)の手順で求めることができる。
【0044】
(I)前記下地表面層の表面形状を表面粗さ・輪郭形状測定機により測定して一次元データ配列を作成する。
(II)前記一次元データ配列を、多重解像度解析によってウェーブレット変換して高周波数成分から低周波数成分に至るまでの6個の周波数成分(HHH、HHL、HMH、HML、HLH、及びHLL)に分離する。
(III)次いで、得られた6個の周波数成分の中で最も低周波数成分の一次元データ配列に対して、データ配列数が1/40に減少するように間引きした一次元データ配列(B)を作成する。
(IV)更に、前記一次元データ配列(B)を、多重解像度解析によってウェーブレット変換して高周波数成分から低周波数成分に至るまでの、追加の6個の周波数成分(LHH、LHL、LMH、LML、LLH、及びLLL)に分離する。
(V)上記で得た12の各周波数成分について算術平均粗さ(WRa)を求める。ただし、前記得られた周波数成分は、下記のとおりである。
WRa(HHH):凹凸の一周期の長さが0.3μm~3μmの帯域におけるRa
WRa(HHL):凹凸の一周期の長さが1μm~6μmの帯域におけるRa
WRa(HMH):凹凸の一周期の長さが2μm~13μmの帯域におけるRa
WRa(HML):凹凸の一周期の長さが4μm~25μmの帯域におけるRa
WRa(HLH):凹凸の一周期の長さが10μm~50μmの帯域におけるRa
WRa(HLL):凹凸の一周期の長さが24μm~99μmの帯域におけるRa
WRa(LHH):凹凸の一周期の長さが26μm~106μmの帯域におけるRa
WRa(LHL):凹凸の一周期の長さが53μm~183μmの帯域におけるRa
WRa(LMH):凹凸の一周期の長さが106μm~318μmの帯域におけるRa
WRa(LML):凹凸の一周期の長さが214μm~551μmの帯域におけるRa
WRa(LLH):凹凸の一周期の長さが431μm~954μmの帯域におけるRa
WRa(LLL):凹凸の一周期の長さが867μm~1,654μmの帯域におけるRa
【0045】
以上の感光体とブレード形状の弾性体の間で生じる剪断力は感光体表面形状に強く影響を受ける。
ここで、感光体表面形状を特定するために感光体の断面曲線について、上述したWavelet変換と同様にして解析を行う。
すなわち、感光体表面形状を前記(I)~(V)の手順で、合計12個の周波数成分について算術平均粗さ(WRa)を求める。
【0046】
表面形状の分類を簡単にするため、以上の周波数帯域を3つに集約して、下記表4により説明する。
【0047】
【0048】
以下に、感光体断面曲線の多重解像度解析について説明する。
はじめに画像形成装置用部品の表面の状態についてJISB0601に定める断面曲線を求め、その断面曲線である一次元データ配列を得る。
この断面曲線である一次元のデータ配列は、表面粗さ・輪郭形状測定機からデジタル信号として得てもよく、あるいは表面粗さ・輪郭形状測定機のアナログ出力をA/D変換して得てもよい。
【0049】
一次元データ配列を得るための断面曲線の測定長さはJIS規格に定める測定長さであることが好ましく、8mm以上、25mm以下が好ましい。
また、サンプリング間隔は、1μm以下がよく、好ましくは0.2μm以上、0.5μm以下がよい。例えば、測定長12mmをサンプリング点数30720点で測定する場合、サンプリング間隔は0.390625μmとなり、本発明を実施するのに好適である。
【0050】
前記のように、この一次元データ配列を、ウェーブレット変換して高周波数成分(HHH)から低周波数成分(HLL)に至る複数の周波数成分(例えば(HHH)、(HHL)、(HMH)、(HML)、(HLH)、(HLL)の6成分)に分離する多重解像度解析(multi-resolution analysis、MRA;第1のMRAを「MRA-1」と称する)を行う。更に、ここで得た最低周波数成分(HLL)を間引きした一次元データ配列を作り、この間引きされた一次元データ配列に対して更にウェーブレット変換を行って、高周波数成分から低周波数成分に至る複数の周波数成分(例えば(LHH)、(LHL)、(LMH)、(LML)、(LLH)、(LLL)の6成分)に分離する第2の多重解像度解析(「MRA-2」と称する)を行う。これによって得た各周波数成分(12成分)に対して、算術平均粗さ(WRa)を求めたが、一般のRaと区別するために、本明細書ではこの粗さをWRaと称することとする。
【0051】
本発明においては、実際のウェーブレット変換はソフトウエアMATLABを使用している。帯域幅の定義はソフトウエア上の制約であって、この定義する範囲に格別の意味はない。また、WRaは上記の理由(帯域幅の定義の理由)に因るため、帯域幅が変わればそれに応じて係数は変化する。
【0052】
そして、HML成分とHLH成分、LHL成分とLMH成分、LMH成分とLML成分、LML成分とLLH成分、LLH成分とLLL成分の個々の帯域は、周波数帯域がオーバーラップしているが、オーバーラップの理由は、次のとおりである。
【0053】
すなわち、ウェーブレット変換では、元の信号を一回目のウェーブレット変換(Level1)でL(Low-passComponents)とH(High-passComponents)に分解し、更に、このLに関して、ウェーブレット変換を施すことでLLとHLに分解する。ここで、元の信号に含まれる周波数成分fが、分離する周波数Fと一致した場合は、fは丁度分離の境界になるので、分離後は、LとHの両方の、それぞれに分離される。この現象は、多重解像度解析では不可避な現象である。そこで、観察したい周波数帯域がこのようにウェーブレット変換の際に分離されてしまわないように、元の信号に含まれる周波数を設定することも重要である。
【0054】
[ウェーブレット変換(多重解像度解析)、各周波数波の記号]
本発明では2回の多重解像度解析を行うが、最初の多重解像度解析を第一回目の多重解像度解析(便宜上、MRA-1と記すことがある)、その後の多重解像度解析を第二回目の多重解像度解析(便宜上、MRA-2と記すことがある)と呼ぶことにする。一回目と二回目のウェーブレット変換を区別するため、便宜上、各周波数帯域の略号に接頭語として、H(一回目)とL(二回目)を付ける。
【0055】
ここで、第一回目、及び第二回目のウェーブレット変換に使用するマザーウェーブレット関数としては各種のウェーブレット関数が使用可能である。本発明ではハール関数を用いているが、必ずしもこれに制約される必要はない。
【0056】
本発明において、第一回目のウェーブレット変換を行って、複数の周波数成分に分離し、ここで得た最低周波数成分を間引きしつつ取り出(サンプリング)して最低周波数成分データを反映した一次元データ配列を作り、この一次元データ配列に対して第二回目のウェーブレット変換を行って、高周波数成分から低周波数成分に至る複数の周波数成分に分離する多重解像度解析を行う。
【0057】
ここで、第一回目のウェーブレット変換結果で得た最低周波数成分(HLL)に対して行う間引きは、データ配列数を、1/40にすることが特徴である。
ここで、データ間引きは、データの周波数を上げる(横軸の対数目盛幅を拡げる)効果があり、第一回目のウェーブレット変換結果で得た一次元配列の配列数が30000であった場合、1/40の間引きを行うと、配列数が750になる。
この場合、間引きが小さいと、例えば、1/5であると、データの周波数を上げる効果が少なく、第2回のウェーブレット変換を行い、多重解像度解析を行ってもデータはよく分離されない。
【0058】
間引きの仕方は、40個のデータの平均値を求め、その平均値を代表の1点としている。
【0059】
図5は本発明に適用した、感光体の表面粗さ評価装置の一構成例を模式的に示す構成図である。
【0060】
図5中(41)は感光体であり、(42)は表面粗さを測定するプローブを取り付けた治具、(43)は上記治具(42)を測定対象に沿って移動させる機構、(44)は表面粗さ・輪郭形状測定機、(45)は信号解析を行うパーソナルコンピューターである。
図5において、パーソナルコンピューター(45)によって上記の多重解像度解析の計算が行われる。感光体がシリンダー形状の場合、感光体の表面粗さ測定は周方向でも長手方向でも適当な方向について計測することができる。
図5は、一例として示したものであり、構成は他の構成によってもかまわない。
【0061】
次に、感光体表面形状の多重解像度解析の手順について具体例によって説明する。
感光体の表面形状を、表面粗さ・輪郭形状測定機はSurfcom1800G(ピックアップ:E-DT-S01A、株式会社東京精密製)を使用して測定した。
ここで、一回の測定長は10mmとして、サンプリング点数30720をデータ処理に用いた。一度の測定では、これを四カ所測定した。測定した結果はパーソナルコンピューターに取り込み、これを本発明者等の作成したプログラムにより第一回目のウェーブレット変換と、そこで得た最低周波数成分に対する1/40の間引き処理、そして、第二回目のウェーブレット変換を行った。
【0062】
このようにして得た第一回目、及び第二回目の多重解像度解析結果に対し、算術平均粗さWRa、最大高さRmax、十点平均粗さRzを求めた。演算結果の一例を
図6に示す。
【0063】
図6において、
図6(a)のグラフはSurfcom1800Gで測定して得た元のデータであり、粗さ曲線、あるいは断面曲線と呼ぶ場合もある。
【0064】
図6には14個のグラフがあるが、縦軸は表面形状の変位であり単位はμmである。また横軸は長さであり、目盛は付けていないが測定長は12mmである。
【0065】
また、
図6(b)の6個のグラフは第一回目の多重解像度解析(MRA-1)結果であり、最も上にあるのが最高周波成分(HHH)のグラフ、最も下にあるのが、最低周波数成分(HLL)のグラフである。
【0066】
ここで、
図6(b)において最も上にあるグラフ(101)は一回目の多重解像度解析結果の最高周波数成分であり、本発明ではこれをHHHと呼ぶ。
・グラフ(102)は、一回目の多重解像度解析結果の最高周波数成分より1つ低い周波数成分であり、本発明ではこれをHHLと呼ぶ。
・グラフ(103)は、一回目の多重解像度解析結果の最高周波数成分より2つ低い周波数成分であり、本発明ではこれをHMHと呼ぶ。
・グラフ(104)は、一回目の多重解像度解析結果の最高周波数成分より3つ低い周波数成分であり、本発明ではこれをHMLと呼ぶ。
・グラフ(105)は、一回目の多重解像度解析結果の最高周波数成分より4つ低い周波数成分であり、本発明ではこれをHLHと呼ぶ。
・グラフ(106)は、一回目の多重解像度解析結果の最低周波数成分であり、本発明ではこれをHLLと呼ぶ。
【0067】
本発明において、
図6(a)のグラフはその周波数によって、
図6(b)の6個のグラフに分離するが、その周波数分離の状態を
図7に示す。
【0068】
図7において、横軸は凹凸の形状が正弦波とした場合の、長さ1mm当たりに出現する凹凸数である。また、縦軸は、各帯域に分離された場合の割合を示すものである。
【0069】
図7において、(121)は一回目の多重解像度解析(MRA-1)における最高周波成分(HHH)の帯域、(122)は一回目の多重解像度解析における最高周波成分より1つ低い周波数成分(HHL)の帯域、(123)は一回目の多重解像度解析における最高周波成分より2つ低い周波数成分(HMH)の帯域、(124)は一回目の多重解像度解析における最高周波成分より3つ低い周波数成分(HML)の帯域、(125)は一回目の多重解像度解析における最高周波成分より4つ低い周波数成分(HLH)の帯域、(126)は一回目の多重解像度解析における最低周波数成分(HLL)の帯域である。
【0070】
図7をより詳細に説明すると、1mm当たりの凹凸数が20個以下の場合は、すべてグラフ(126)に出現することを示す。例えば、凹凸数が1mm当たり110個の場合、グラフ(124)に最も強く出現し、これは
図6(b)においてはHMLに出現する。また、凹凸数が1mm当たり220個の場合、グラフ(123)に最も強く出現し、これは
図6(b)においては、HMHに出現することを示している。また、凹凸数が1mm当たり310個の場合、グラフ(122)と(123)に出現し、これは
図6(b)においては、HHLとHMHの両方に出現することを示している。したがって、表面粗さの周波数によって、
図6(b)の6本のグラフでどこに現われるか決まってくる。言い換えると、表面粗さにおいて、細かなザラツキは
図6(b)において上の方のグラフに出現し、大きな表面うねりは
図6(b)において下の方のグラフに出現する。
【0071】
本発明ではこのように、表面粗さをその周波数によって分解する。これをグラフとしたものが
図6(b)であるが、この周波数帯域ごとグラフからそれぞれの周波数帯域での表面粗さを求める。ここで、表面粗さとしては、算術平均粗さ、最大高さ、十点平均粗さを計算することが可能である。
このようにして、
図6(b)では、それぞれのグラフに、算術平均粗さWRa、最大高さWRmax、十点平均粗さWRzを数値で示している。
ウェーブレット変換によって得られた粗さ曲線の算術平均粗さRa、最大高さRmax、及び十点平均粗さRzの語頭に一般的な表記と区別するためWを付加している。
【0072】
本発明ではこのように表面粗さ・輪郭形状測定機で測定したデータその周波数によって複数のデータに分離するので、各周波数帯域における凹凸変化量を測定できる。
さらに本発明では、このように周波数によって
図6(b)のように分離したデータから、最も低い周波数、すなわちHLLのデータを間引きする。
【0073】
本発明においては間引きをどのようにするか、すなわち何個のデータから取り出すかは実験によって決めればよい。間引き数を最適にすることによって
図7に示す多重解像度解析における周波数帯域分離を最適化することが可能となり、目的とする周波数をその帯域の中心にとることが可能になる。
【0074】
図6では40個から1個のデータを取る間引きを行った。
間引きした結果を
図8に示す。
図8では縦軸は表面凹凸であり、単位はμmである。また横軸に目盛は付けていないが、長さ12mmである。
本発明では
図8のデータを更に多重解像度解析する。すなわち二回目の多重解像度解析(MRA-2)を行う。
【0075】
図6(c)の6個のグラフは第二回目の多重解像度解析(MRA-2)結果であり、最も上にあるグラフ(107)は、二回目の多重解像度解析結果の最高周波数成分であり、これをLHHと呼ぶ。
・グラフ(108)は、二回目の多重解像度解析結果の最高周波数成分より1つ低い周波数成分であり、これをLHLと呼ぶ。
・グラフ(109)は、二回目の多重解像度解析結果の最高周波数成分より2つ低い周波数成分であり、これをLMHと呼ぶ。
・グラフ(110)は、二回目の多重解像度解析結果の最高周波数成分より3つ低い周波数成分であり、これをLMLと呼ぶ。
・グラフ(111)は、二回目の多重解像度解析結果の最高周波数成分より4つ低い周波数成分であり、これをLLHと呼ぶ。
・グラフ(112)は、二回目の多重解像度解析結果の最低周波数成分であり、これをLLLと呼ぶ。
【0076】
本発明において、
図6(c)では、その周波数によって、6個のグラフに分離しているが、その周波数分離の状態を
図9に示す。
【0077】
図9において、横軸は凹凸の形状が正弦波とした場合の、長さ1mm当たりに出現する凹凸数である。また、縦軸は、各帯域に分離された場合の割合を示すものである。
図9において、(127)は二回目の多重解像度解析における最高周波成分(LHH)の帯域、(128)は二回目の多重解像度解析における最高周波成分より1つ低い周波数成分(LHL)の帯域、(129)は二回目の多重解像度解析における最高周波成分より2つ低い周波数成分(LMH)の帯域、(130)は二回目の多重解像度解析における最高周波成分より3つ低い周波数成分(LML)の帯域、(131)は二回目の多重解像度解析における最高周波成分より4つ低い周波数成分(LLH)の帯域、(132)は二回目の多重解像度解析における最低周波数成分(LLL)の帯域である。
【0078】
図9をより詳細に説明すると、1mm当たりの凹凸数が0.2個以下の場合は、すべてグラフ(132)に出現することを示す。
例えば、凹凸数が1mm当たり11個の場合、グラフ(128)が最も高くなっているが、これは、二回目の多重解像度解析における最高周波成分より1つ低い周波数成分の帯域に最も強く出現することを示しており、
図6(c)においては、LMLに出現することを示している。
したがって、表面粗さの周波数によって、
図6(c)の6本のグラフでどこに現われるか決まってくる。
言い換えると、表面粗さにおいて、細かなザラツキは
図6(c)において上の方のグラフに出現し、大きな表面うねりは
図6(c)において下の方のグラフに出現する。
【0079】
本発明ではこのように、表面粗さをその周波数によって分解する。これをグラフとしたものが
図6(c)であるが、この周波数帯域ごとグラフからそれぞれの周波数帯域での表面粗さを求める。ここで、表面粗さとしては、算術平均粗さRa(WRa)、最大高さRmax(WRmax)、十点平均粗さRz(WRz)を計算することが可能である。
【0080】
このようにして感光体表面の凹凸形状を表面粗さ・輪郭形状測定機により測定して得た一次元データ配列を、ウェーブレット変換して高周波数成分から低周波数成分に至る複数の周波数成分に分離する多重解像度解析を行い、更に、ここで得た最低周波数成分を間引きした一次元データ配列を作り、この一次元データ配列に対して更にウェーブレット変換を行って、高周波数成分から低周波数成分に至る複数の周波数成分に分離する多重解像度解析を行い、得た各周波数成分に対して、算術平均粗さRa(WRa)、最大高さRmax(WRmax)、十点平均粗さRz(WRz)を求めた結果を表5に示す。
【0081】
【0082】
先の
図6の断面曲線について、本発明の多重解像度解析結果から求めた算術平均粗さ(WRa)を各信号順にプロットして線で結ぶと、
図10のプロファイルを得る。
ここで、HLL成分は算術上、突出した値になるため、この帯域の多重解像度解析結果から求めた表面粗さを省略している。本発明ではこのプロファイルを表面粗さスペクトル又は粗さスペクトルと称する。なお、省略するHLLの粗さ曲線を対象にウェーブレット変換したものがLHH成分かLLL成分になるため、HLLに関する情報がLHH成分かLLL成分に反映されるため、HLL成分を省略しても問題にはならない。
【0083】
感光体と接触する弾性体の剪断力と自励振動は、上述した感光体の表面形状(うねり、粗さ、微細凹凸の大きさなど)に応じて大きく変化する。感光体がOPCである場合、感光体表面の造形は、塗料の処方とコーティング条件によって制御できる。一例を挙げると、うねりは塗料処方の溶媒沸点、粗さは塗料処方のフィラー粒径、微細凹凸はラッピングフィルムによる研磨処理条件やナノ粒子径のフィラー分散液の吹きつけ処理条件をそれぞれ制御因子とすることにより制御することができる。
なお、本発明では感光体にワックスや脂肪酸金属塩を塗布する画像形成プロセスの場合、感光体表面はこれらの被膜を表面とみなすため、この被膜がないときの感光体表面を下地表面層と称することにする。下地表面層は、保護層、電荷輸送層、又は電荷発生と電荷輸送の2つを担う感光層である場合がある。
【0084】
前記方法などにより感光体の下地表面層を複数の形状に造形し、個々の形状と弾性体の自励振動の大きさを評価する。感光体の表面形状と特にブレード形状の弾性体のLMH帯域の自励振動の大きさWRFt(LMH)との関係を多変量解析から算定し、WRFt(LMH)の値が1.5gf以上3.5gf以下である場合の満足度関数を最大化する表面形状を特定することができる。本発明では多変量解析にバックプロパゲーションアルゴリズムに則したニューラルネット解析を用いられる。多変量解析と満足度関数の最大化は、SASInstitute社統計解析ソフトウエアJMPを用いて算定できる。
【0085】
前述の感光体の下地表面層の新規な表面形状により、循環材の塗布性を飛躍的に向上させる効果を享受することができる。この効果を永続するには下地表面形状の強度を高めることが有利である。電子写真プロセスによる画像形成で感光体が摩耗する場合、表面形状が変化する。その様子は表面粗さの変化からみることができ、本発明者は実験的に感光体の摩耗の進行とともに表面粗さが増加する傾向を確認している。
【0086】
下地表面層の表面形状の造形にはウエットプロセスによる製膜が有利である。これはミクロンからミリスケールにわたる表面形状を制御するもので機械的な加工よりも技術面とコスト面で有利であるためである。ウエットプロセスによる製膜では、塗料の粘度は、低粘度の方が形状制御の範囲を広くすることができる点で、0.9mPa・s以上10mPa・s以下が好ましい。塗料の粘度の下限は溶媒粘度に漸近する値から決定しており、上限は形状制御がしにくくなる理由から決めている。塗料の粘度が低く、かつ、製膜後の下地表面層が実用上十分な強度を得るには、塗料に三次元架橋構造をとる反応タイプの樹脂モノマーを主成分に選ぶことが好ましい。
【0087】
感光体の下地表面層に三次元架橋構造をもつ樹脂を用いることにより耐摩耗性に優れる下地表面層を得ることができる。この理由は、耐久劣化により、樹脂膜を形成する化学結合の一部が破断しても別の部位の化学結合が残存していれば直接摩耗に至らないためと考えられる。優れた耐摩耗性は表面形状の安定化に直接寄与する。その結果、下地表面層に三次元架橋構造をもつ樹脂を用いると、循環材の塗布性を安定化することができる。
【0088】
三次元架橋構造をもつ樹脂の中でもアクリル樹脂は、ポリカーボネートと電荷輸送物質との固溶体と比較して誘電率が大きいため、静電特性面の凹凸形状の影響が小さいメリットを有する。
【0089】
以上の通り、下地表面層に三次元架橋構造をもつ樹脂を用いることにより、循環型表面層の下地表面層の造形を容易にする効果があり、循環材の塗布性を容易に改良できる。また、下地表面層の特別な表面形状の変化を抑え、循環材の塗布性を安定化させる効果を享受することができる。
【0090】
下地表面層の造形に対して、比較的低粘度の塗料を基に、フィラーを添加すると凹凸形状を付与することができる。フィラーの凝集状態を制御することで多様な凹凸形状が得られる。感光体の最表層に三次元架橋構造をもつ樹脂を利用し、更にフィラーを配合する技術は過去にも知られていたが、ねらいが機械的強度に主眼を置くものが多く、意外にもフィラーの分散剤を併用する技術は多く見ることがなかった。更に分散剤によるフィラーの凝集状態を変えることで感光体の表面形状を制御しようとする概念は新規な概念であると思われる。
フィラーの中でも、配合するフィラーは金属酸化物フィラーで平均1次粒子径がナノオーダーのものが好ましく、α-アルミナ、酸化スズ、チタニア、シリカ、セリアなどの金属酸化物のフィラーが有用である。
【0091】
有機微粒子、無機微粒子などのフィラーの一部には、分散が困難で、表面粗さがミクロンオーダー以上のものしか得られないものやトゲ状の突起が多く、塗布ブレードやブレードの刃こぼれを生じるものがある。これに対し、金属酸化物フィラーはこのような不具合を抱えないものが多い点で好ましい。同じ理由から金属酸化物の含有量は下地表面層の1質量%以上20質量%以下が好ましい。金属酸化物含有量の下限と上限は下地表面層の形状制御が困難になる理由から規定している。
また、金属酸化物の併用により、機械的な強度が向上する効果は本発明においても同様に享受することができる。
【0092】
循環材のコーティングが万一、不十分な事態に陥った場合、感光体の下地表面層に紙粉やトナー成分がフィルミングしたり、メダカ形状のフィルミングが生じたりするケースが想定される。このとき、下地表面層の濡れ性が変質して循環材の所期の循環プロセスが破綻してしまいかねない。これに対し、感光体の下地表面層へ六方稠密構造のα-アルミナ微粒子を添加すると、以上のフィルミングを大幅に低減できることが実験的に得られており、有効である。
【0093】
この理由は今のところ明らかになっていないが、その理由としては、α-アルミナの高い硬度が下地表面層への創傷予防に効果があり、この効果がフィルミングの機会を与えにくくしていることが考えられる。また、他の理由としては、循環材が不足してもα-アルミナの凹凸が感光体と塗布ブレード乃至ブレード形状の弾性体との摺擦状態をある程度安定に保つ効果をもつためであることが考えられる。
【0094】
六方稠密構造のα-アルミナのフィラーの体積平均粒径は多くの場合、0.01μm以上2.0μm以下、より好ましくは0.03μm以上1.5μm以下の場合、製膜時にトゲの様な極端な凹凸形成が抑制できるため、本発明における、WRa(LLH)が0.04μm未満であり、かつ、WRa(HLH)が0.005μm未満であるという要件を満たす形状を形成し易く有利である。
【0095】
以上の通り、0.01μm以上2.0μm以下のα-アルミナを含有することで、感光体表面の変質を予防する効果を享受することができる。このため、循環型表面層を最表面にする感光体の安定化を獲得できる。なお、後述するようにα-アルミナの平均一次粒子径は特に好ましくは0.2μm以上0.5μm以下である。
【0096】
<塗布工程及び塗布手段>
前記塗布工程は、前記像担持体の表面に循環材の被膜を塗布形成する工程であり、前記塗布手段により行われる。
前記塗布手段は、前記像担持体の表面に循環材の被膜を塗布形成する手段であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、支持体に保持されるように成形した循環材を所定の消費量となるようなバネ定数の加圧スプリングで塗布ブラシに加圧し、塗布ブラシが回転することより循環材の被膜を感光体上に塗布形成する塗布手段;クリーニング手段における弾性体とは別に、ワックス乃至脂肪酸金属塩をコーティングする目的でこれらの循環材の供給手段の一部として感光体表面に塗布する目的のブレード形状の弾性体(以下、「塗布ブレード」と称することがある。)を有する塗布手段などが挙げられる。
前記塗布ブレードは、物質の入出力の平衡状態を持続しやすい点で、剪断力Ftが1.15kgf以上1.35kgf以下であり、かつ、摩擦係数Ft/Fnが0.90以上0.96以下であることが好ましい。
【0097】
前記循環材(「潤滑剤」と称することもある。)としては、ワックス及び脂肪酸金属塩の少なくともいずれかであることが好ましい。
前記ワックスとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ハゼろう、ウルシろう、パームろう、カルナウバろう等の植物系ワックス;蜜ろう、鯨ろう、イボタろう、羊毛ろう等の動物系ワックス;モンタンワックス、パラフィンワックス等の鉱物系ワックスなどが挙げられる。
前記脂肪酸金属塩としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ラメラ構造をとり得る脂肪酸金属塩として、ステアリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸又はオレイン酸の亜鉛塩、アルミニウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、リチウム塩;これらの金属塩の混合物などが挙げられる。これらの中でも、工業的規模で生産され、かつ多方面での使用実績があり、コスト、品質、安定性、及び信頼性の観点から、ステアリン酸亜鉛が好ましい。また、ステアリン酸亜鉛は、従来、潤滑剤の効率的な塗布方法として蓄積してきた豊富な塗布技術を応用しやすい有利性をもつ。
【0098】
なお、一般に工業的に使われる高級脂肪酸金属塩は、その名称の化合物単体組成ではなく、多かれ少なかれ類似の他の脂肪酸金属塩、金属酸化物、及び遊離脂肪酸を含むものであり、本発明における脂肪酸金属塩もこの慣例に従う。
【0099】
前記循環材を用いることにより、循環型表面層の形成に対して高信頼性と低コスト化を享受することができる。また、潤滑剤の塗布技術として蓄積のある塗布技術を応用しやすい装置開発の利便性を得ることができる。
【0100】
感光体表面にワックスや脂肪酸金属塩を塗布することにより、感光体と弾性体の間で生じる剪断力は変化する。これらの物質は潤滑性があり、弾性体の自励振動に作用する。
また、これらの物質が感光体表面に被膜をつくることにより、下地表面層の変質を防いで弾性体の自励振動の変動を抑えることができる。
【0101】
被膜性に優れるステアリン酸亜鉛などの循環材は、ラメラ構造(分子が規則的に折りたたまれて成す層が積み重なって配列する構造)を有し、分子が剪断によって塗り広げられる作用を持ち、少量の循環材によって感光体表面を効果的に覆うことができる。こうした循環材を適正に除去するには特定の剪断力が必要になる。感光体表面に供給しては除去する物質の入出力を平衡状態に保ちながら循環させるには、上述した物質を感光体から除去する弾性体に生じる剪断力のみならず供給側の条件をつくりこむ必要がある。
【0102】
前記被膜としては、循環型表面層であることが好ましい。
ここで、「循環型表面層」とは、前記被膜の欠陥が10質量%以下であり、前記被膜の増加が0質量%以下である場合(すなわち、後述する被膜循環性が、-0.10以上0以下である場合)と規定する。
【0103】
種々の外乱を含む画像形成プロセスに並行して循環材をコーティングする場合、この付着効率は、プロセスに起因する損失とコーティングする下地表面層の汚染具合に起因する損失分を補償する必要がある。外乱の有無による循環材の付着効率差から損失分、及び被膜循環性が算出される。
ただし、循環型表面層が成立する画像形成装置の場合は、単純に循環材の消費量を増減させて循環材の皮膜欠陥と感光体表面のフィルミングの度合いを評価し、循環型表面層の成立点を特定することができる。
被膜循環性は、耐久使用による循環材からなる表面層の質量膜厚の変動から判断することができる。
感光体の下地表面層に供給される循環材の供給量が循環材の除去量を超えない限り、循環型表面層の膜厚は蓄積することがないため増大しない。新品の感光体における被膜循環性は、比較的初期の段階における表面層の質量膜厚と、ある程度使用したときの表面層の質量膜厚を求めることにより判断が可能である。
【0104】
被膜循環性を測定する方法として、例えば、感光体回転数を塗布回数と同義と捉え、プリント試験による感光体回転数(ドラム形状の場合はドラム回転数)が2,500回転及び25,000回転し、循環材を塗布したときの質量膜厚をICP分析やXRF分析から算定し、質量膜厚の塗布回数依存性を評価する方法が挙げられる。ドラム回転数は便宜上、感光体の総走行距離を感光体の周長で割った値として算定することができる。前記ドラム回転数の2,500回転は、極端に小さい回転数では非定常状態における循環材の質量膜厚を求める不合理を回避するために決定したものであり、25,000回転は、質量膜厚の変動を評価するのに十分な条件として決定したものである。よって、これらの回転数は多少前後しても、本発明を逸脱するものではない。
【0105】
被膜循環性を示す比例係数fとしては、感光体表面への循環材の供給量が除去量を超えない点で、塗布回数に対する質量膜厚の変化がゼロ以下であることが好ましく、安定な表面の維持に有利であり、表面の安定性を堅牢化する点で、下記式(7)の関係を満たすことがより好ましい。
τ=fα+β・・・(7)
(-0.1≦f≦0)
τ;循環材の質量膜厚(nm)
α;塗布回数(ドラムの場合、ドラム回転数(単位:千回転))
β;任意定数
【0106】
循環型表面層の形成のためには、循環材は感光体下地表面層から除去しやすく、かつコーティングしやすい材料であることが好ましい。循環型表面層を永続させるために一サイクルでコーティングする物質量と清掃によって除去する物質量とが等価であることが特に好ましい。
また、循環材の消費量が過剰でないことも必要となる。循環材の消費量は画像形成プロセスで生じる感光体の走行距離に対する循環材投入量(mg/km)として定義する。
【0107】
循環材の塗布状態を制御する方法としては、例えば、固形循環材と塗布ブラシとの接触圧力を高める方法;塗布ブラシの回転速度を制御する方法;画像形成情報に応じて、塗布ブラシの回転数を制御する方法などが挙げられる。循環材はワックスや高級脂肪酸金属塩を単独で用いてもよく、循環材をバインダーとして、電荷輸送物質や酸化防止剤など他の機能材料と混合して利用してもよい。
【0108】
このような循環材を用い、画像形成装置内で皮膜形成と除去がしやすい材料を特定することにより、循環材の除去とコーティングの繰り返し工程に際して物質量の等価性を得やすい効果を享受することができる。このため、循環材の塗布と除去を担うモジュールを簡単にすることができる。また、循環型表面層を永きにわたって形成可能にすることができる。更に、下地表面層の形状との組み合わせにより、一サイクル当たりの被覆能力を格別に高めることが実現でき、循環材の消費量の減量化を享受することができる。
【0109】
<帯電工程及び帯電手段>
前記帯電工程は、前記像担持体の表面を帯電させる工程であり、前記帯電手段により行われる。
前記帯電手段としては、前記像担持体の表面を帯電させることができるものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、導電性又は半導電性のローラ、ブラシ、フィルム、ゴムブレード等を備えたそれ自体公知の接触帯電器、コロトロン、スコロトロン等のコロナ放電を利用した非接触帯電器などが挙げられる。
【0110】
<露光工程及び露光手段>
前記露光工程は、帯電された前記像担持体の表面を露光して潜像を形成するする工程であり、前記露光手段により行われる。前記露光は、例えば、前記露光手段を用いて前記像担持体の表面を像様に露光することにより行うことができる。
前記露光手段としては、帯電された前記像担持体を露光して静電潜像を形成することができる限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、複写光学系、ロッドレンズアレイ系、レーザ光学系、液晶シャッタ光学系、LED光学系などの各種露光器が挙げられる。
なお、本発明においては、前記像担持体の裏面側から像様に露光を行う光背面方式を採用してもよい。
【0111】
<現像工程及び現像手段>
前記現像工程は、前記像担持体上に形成された潜像をトナーで現像する工程であり、前記現像手段により行われる。
前記現像手段としては、前記像担持体上に形成された潜像をトナーで現像することができれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記トナーを収容し、前記静電潜像に前記トナーを接触又は非接触的に付与可能な現像器を少なくとも有するものが好適に挙げられる。
【0112】
前記現像手段が、六方稠密構造を有するα-アルミナを0.1質量%以上0.3質量%以下含有する現像剤を有することが好ましい。
感光体と弾性体との間で生じる剪断力は、現像剤に六方稠密構造のα-アルミナを加えることにより影響を受ける。現像剤から感光体表面に六方稠密構造のα-アルミナが供給されると感光体表面の研磨や感光体と弾性体との接触部分に滞留し、弾性体の摺動性に変化を与えるためと考えられる。
六方稠密構造のα-アルミナの場合、含有量に応じて剪断力を増大することができることや弾性体の自励振動が増減されることが、実験的に確かめられている。
【0113】
<転写工程及び転写手段>
前記転写工程は、前記トナー像を記録媒体に転写する工程であり、前記転写手段により行われる。
前記転写工程としては、例えば、中間転写体を用い、前記トナー像を前記中間転写体の表面に転写して複合転写像を形成する1次転写工程と、前記複合転写像を記録媒体に転写する2次転写工程とを含む態様が好ましい。
前記転写手段としては、前記トナー像を記録媒体に転写できれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、前記トナー像を前記中間転写体の表面に転写して複合転写像を形成する1次転写手段と、前記複合転写像を記録媒体に転写する2次転写手段とを有する態様が好ましい。
【0114】
<定着工程及び定着手段>
前記定着工程は、前記記録媒体に転写された前記トナー像を定着させる工程であり、前記定着手段により行われる。なお、2色以上のトナーを用いる場合は、各色のトナーが記録媒体に転写される毎に定着させてもよいし、全色のトナーが記録媒体に転写されて積層された状態で定着させてもよい。
前記定着手段としては、前記記録媒体に転写された前記トナー像を定着させることができれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、公知の加熱加圧手段を用いた熱定着方式を採用することができる。
【0115】
<その他の工程及びその他の手段>
前記その他の工程としては、例えば、除電工程、リサイクル工程、制御工程などが挙げられる。
【0116】
以下、
図11、
図12を参照しつつ本発明の感光体について詳細に説明する。
図11は本発明の層構成を有する感光体の一例を模式的に示す断面図であり、導電性支持体(21)上に電荷発生層(25)と電荷輸送層(26)と下地表面層(28)が設けられている。
図12は本発明の更に別の層構成を有する感光体の一例を模式的に示す断面図であり、導電性支持体(21)と電荷発生層(25)の間に下引き層(24)が設けられ、電荷発生層(25)の上に電荷輸送層(26)と下地表面層(28)が設けられている。
【0117】
-導電性支持体-
導電性支持体(21)としては、体積抵抗1010Ω・cm以下の導電性を示すもの、例えば、アルミニウム、ニッケル、クロム、ニクロム、銅、銀、金、白金、鉄等の金属、酸化スズ、酸化インジウム等の酸化物を、蒸着又はスパッタリングによりフィルム状又は円筒状のプラスチック、紙等に被覆したもの、あるいはアルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、ステンレス等の板、及び、それらを、DrawingIroning法、ImpactIroning法、ExtrudedIroning法、ExtrudedDrawing法、切削法等の工法により素管化後、切削、超仕上げ、研磨等により表面処理した管等を使用することができる。
【0118】
-下引き層(24)-
本発明に用いられる感光体には、導電性支持体と感光層(前記電荷発生層25と前記電荷輸送層26とが積層したもの)との間に下引き層(24)を設けることができる。下引き層は、接着性の向上、モアレの防止、上層の塗工性の改良、導電性支持体からの電荷注入の防止等の目的で設けられる。
【0119】
下引き層は通常、樹脂を主成分とする。通常、下引き層の上に感光層を塗布するため、下引き層に用いる樹脂は有機溶剤に難溶である熱硬化性樹脂が好ましい。特に、ポリウレタン、メラミン樹脂、アルキッド-メラミン樹脂は以上の目的を十分に満たすものが多く、特に好ましい材料である。樹脂はテトラヒドロフラン、シクロヘキサノン、ジオキサン、ジクロロエタン、ブタノン等の溶媒を用いて適度に希釈したものを塗料とすることができる。
【0120】
また、下引き層には、伝導度の調節やモアレを防止するために、金属、又は金属酸化物等の微粒子を加えてもよく、特に酸化チタンが好ましく用いられる。
微粒子はテトラヒドロフラン、シクロヘキサノン、ジオキサン、ジクロロエタン、ブタノン等の溶媒を用いてボールミル、アトライター、サンドミル等により分散し、分散液と樹脂成分を混合した塗料とする。
【0121】
下引き層は以上の塗料を浸漬塗工法、スプレーコート法、ビードコート法等で導電性支持体上に成膜する。必要な場合、加熱硬化することで形成される。
下引き層の膜厚は2~5μm程度が適当になるケースが多い。感光体の残留電位の蓄積が大きくなる場合、3μm未満にするとよい。
【0122】
本発明における感光層は、電荷発生層と電荷輸送層を順次積層させた積層型感光層が好適である。ただし、本発明における感光層は、電荷発生能と電荷輸送能とを兼ね備えた単層型感光層であってもよい。
【0123】
-電荷発生層(25)-
積層型感光体における各層のうち、電荷発生層(25)について説明する。
電荷発生層は、積層型感光層の一部を指し、露光によって電荷を発生する機能(電荷発生能)をもつ。この層は含有される化合物のうち、電荷発生物質を主成分とする。電荷発生層は必要に応じてバインダー樹脂を用いることもある。電荷発生物質としては、無機系材料と有機系材料を用いることができる。
【0124】
無機系材料としては、例えば、結晶セレン、アモルファス・セレン、セレン-テルル、セレン-テルル-ハロゲン、セレン-ヒ素化合物や、アモルファスシリコンなどが挙げられる。アモルファスシリコンにおいては、ダングリングボンドを水素原子又はハロゲン原子でターミネートしたものや、ホウ素原子、リン原子等をドープしたものが好ましく用いられる。
【0125】
有機系材料としては、公知の材料を用いることができ、例えば、チタニルフタロシアニン、クロロガリウムフタロシアニン等の金属フタロシアニン、無金属フタロシアニン、アズレニウム塩顔料、スクエアリック酸メチン顔料、カルバゾール骨格を有する対称型もしくは非対称型のアゾ顔料、トリフェニルアミン骨格を有する対称型もしくは非対称型のアゾ顔料、フルオレノン骨格を有する対称型もしくは非対称型のアゾ顔料、ペリレン系顔料などが挙げられる。これらの中でも、金属フタロシアニン、フルオレノン骨格を有する対称型もしくは非対称型のアゾ顔料、トリフェニルアミン骨格を有する対称型もしくは非対称型のアゾ顔料及びペリレン系顔料は、電荷発生の量子効率が軒並み高く、本発明に用いる材料として好適である。これらの電荷発生物質は、単独でも二種以上の混合物として用いてもよい。
【0126】
電荷発生層に必要に応じて用いられるバインダー樹脂としては、ポリアミド、ポリウレタン、エポキシ樹脂、ポリケトン、ポリカーボネート、ポリアリレート、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルブチラール、ポリビニルホルマール、ポリビニルケトン、ポリスチレン、ポリ-N-ビニルカルバゾール、ポリアクリルアミド等が挙げられる。また、後述する高分子電荷輸送物質を用いることもできる。このうちポリビニルブチラールが使用されることが多く、有用である。これらのバインダー樹脂は、単独でも二種以上の混合物として用いてもよい。
【0127】
電荷発生層を形成する方法としては、大きく分けて真空薄膜作製法と溶液分散系からのキャスティング法がある。
前者の方法には、真空蒸着法、グロー放電分解法、イオンプレーティング法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、CVD(化学気相成長)法等があり、上述した無機系材料や有機系材料からなる層が良好に形成できる。
【0128】
また、キャスティング法によって電荷発生層を設けるには、上述した無機系又は有機系電荷発生物質を、必要ならばバインダー樹脂と共にテトラヒドロフラン、シクロヘキサノン、ジオキサン、ジクロロエタン、ブタノン等の溶媒を用いてボールミル、アトライター、サンドミル等により分散し、分散液を適度に希釈して塗布すればよい。このうちの溶媒として、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、シクロヘキサノンは、クロロベンゼンやジクロロメタン、トルエン及びキシレンと比較して環境負荷の程度が低いため好ましい。塗布は、浸漬塗工法、スプレーコート法、ビードコート法等により行うことができる。
【0129】
以上のようにして設けられる電荷発生層の膜厚は通常、0.01μm~5μmが好ましい。
残留電位の低減や高感度化が必要となる場合、電荷発生層は厚膜化するとこれらの特性が改良されることが多い。反面、帯電電荷の保持性や空間電荷の形成等帯電性の劣化を来すことも多い。これらのバランスから電荷発生層の膜厚は0.05μm~2μmがより好ましい。
【0130】
また、必要により、電荷発生層中に従来において周知慣用の酸化防止剤、可塑剤、滑剤、紫外線吸収剤等の低分子化合物及びレベリング剤を添加することもできる。これらの化合物は単独又は二種以上の混合物として用いることができる。低分子化合物及びレベリング剤を併用すると感度劣化を来すケースが多い。このため、これらの使用量は概して、0.1phr~20phrが好ましく、0.1phr~10phrがより好ましく、レベリング剤の使用量は、0.001phr~0.1phrが好ましい。
【0131】
-電荷輸送層(26)-
電荷輸送層は電荷発生層で生成した電荷を注入、輸送し、帯電によって設けられた感光体の表面電荷を中和する機能(電荷輸送能)を担う積層型感光層の一部を指す。電荷輸送層の主成分は電荷輸送成分とこれを結着するバインダー成分ということができる。
電荷輸送物質に用いることのできる材料としては、低分子型の電子輸送物質、正孔輸送物質及び高分子電荷輸送物質が挙げられる。
【0132】
電子輸送物質としては、例えば、非対称ジフェノキノン誘導体、フルオレン誘導体、ナフタルイミド誘導体等の電子受容性物質が挙げられる。これらの電子輸送物質は、単独でも二種以上の混合物として用いてもよい。
【0133】
正孔輸送物質としては、電子供与性物質が好ましく用いられる。その例としては、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、トリフェニルアミン誘導体、ブタジエン誘導体、9-(p-ジエチルアミノスチリルアントラセン)、1,1-ビス-(4-ジベンジルアミノフェニル)プロパン、スチリルアントラセン、スチリルピラゾリン、フェニルヒドラゾン類、α-フェニルスチルベン誘導体、チアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、フェナジン誘導体、アクリジン誘導体、ベンゾフラン誘導体、ベンズイミダゾール誘導体、チオフェン誘導体などが挙げられる。これらの正孔輸送物質は、単独でも二種以上の混合物として用いてもよい。
【0134】
また、以下に表される高分子電荷輸送物質を用いることができる。例えば、ポリ-N-ビニルカルバゾール等のカルバゾ-ル環を有する重合体、ヒドラゾン構造を有する重合体、ポリシリレン重合体、芳香族ポリカーボネートなどが挙げられる。これらの高分子電荷輸送物質は、単独又は二種以上の混合物として用いることができる。
【0135】
高分子電荷輸送物質は下地表面層を積層する際、低分子型の電荷輸送物質と比べて、下地表面層へ電荷輸送層を構成する成分の滲みだしが少なく、下地表面層の硬化不良を防止するのに適当な材料である。また、電荷輸送物質の高分子量化により耐熱性にも優れる性状から下地表面層を成膜する際の硬化熱による劣化が少なく有利である。
【0136】
電荷輸送層のバインダー成分として用いることのできる高分子化合物としては、例えば、ポリスチレン、ポリエステル、ポリビニル、ポリアリレート、ポリカーボネート、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、アルキド樹脂等の熱可塑性又は熱硬化性樹脂などが挙げられる。このうち、ポリスチレン、ポリエステル、ポリアリレート、ポリカーボネートは電荷輸送成分のバインダー成分として用いる場合、電荷移動特性が良好な性能を示すものが多く、有用である。
【0137】
また、電荷輸送層はこの上層に下地表面層が積層されるため、電荷輸送層は従来型の電荷輸送層に対する機械強度の必要性が要求されない。このため、ポリスチレン等、透明性が高いものの機械強度が多少低い材料で従来技術では適用が難しいとされた材料も、電荷輸送層のバインダー成分として有効に利用することができる。
これらの高分子化合物は単独又は二種以上の混合物として、あるいはそれらの原料モノマー二種以上からなる共重合体として、更には、電荷輸送物質と共重合化して用いることができる。
【0138】
電荷輸送層の改質に際して電気的に不活性な高分子化合物を用いる場合には、フルオレン等の嵩高い骨格をもつカルドポリマー型のポリエステル、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のポリエステル;C型ポリカーボネートのようなビスフェノール型のポリカーボネートに対してフェノール成分の3,3’部位がアルキル置換されたポリカーボネート、ビスフェノールAのジェミナルメチル基が炭素数2以上の長鎖のアルキル基で置換されたポリカーボネート、ビフェニル又はビフェニルエーテル骨格をもつポリカーボネート、ポリカプローラクトン、ポリカプローラクトンの様な長鎖アルキル骨格を有するポリカーボネート;アクリル樹脂、ポリスチレン、水素化ブタジエンなどが有効である。
【0139】
ここで電気的に不活性な高分子化合物とは、トリアリールアミン構造のような光導電性を示す化学構造を含まない高分子化合物を指す。これらの樹脂を添加剤としてバインダー樹脂と併用する場合、光減衰感度の制約から、その添加量は、電荷輸送層の全固形分に対して50質量%以下とすることが好ましい。
【0140】
低分子型の電荷輸送物質を用いる場合、その使用量は40phr~200phr、好ましくは70phr~100phr程度が適当である。また、高分子電荷輸送物質を用いる場合、電荷輸送成分100部に対して樹脂成分が0部~200部、好ましくは80部~150部程度の割合で共重合された材料が好ましく用いられる。
【0141】
電荷輸送層塗料を調製する際に使用できる分散溶媒としては、例えば、メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;ジオキサン、テトラヒドロフラン、エチルセロソルブ等のエーテル類;トルエン、キシレン等の芳香族類;クロロベンゼン、ジクロロメタン等のハロゲン類;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類などを挙げることができる。このうち、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、シクロヘキサノンは、クロロベンゼンやジクロロメタン、トルエン及びキシレンと比較して環境負荷の程度が低いため好ましい。これらの溶媒は単独として又は混合して用いることができる。
【0142】
電荷輸送層は、電荷輸送成分とバインダー成分を主成分とする混合物乃至共重合体を適当な溶剤に溶解乃至分散し、これを塗布、乾燥することにより形成できる。塗工方法としては浸漬法、スプレー塗工法、リングコート法、ロールコータ法、グラビア塗工法、ノズルコート法、スクリーン印刷法等が採用される。
【0143】
電荷輸送層の上層には、下地表面層が積層されているため、この構成における電荷輸送層の膜厚は、実使用上の膜削れを考慮した電荷輸送層の厚膜化の設計が不要である。電荷輸送層の膜厚は、実用上、必要とされる感度と帯電能を確保する都合、10μm~40μmが好ましく、15μm~30μmがより好ましい。
【0144】
また、必要により、電荷輸送層中に従来において周知慣用の酸化防止剤、可塑剤、滑剤、紫外線吸収剤等の低分子化合物及びレベリング剤を添加することもできる。これらの化合物は単独又は二種以上の混合物として用いることができる。低分子化合物及びレベリング剤を併用すると感度劣化を来すケースが多い。このため、これらの使用量は概して、0.1phr~20phrが好ましく、0.1phr~10phrがより好ましく、レベリング剤の使用量は、0.001phr~0.1phrが好ましい。
【0145】
-下地表面層(28)-
下地表面層は感光体表面に製膜される保護層を指す。この保護層は樹脂(モノマー)成分を含有する塗料がコーティングされた後、重縮合反応又は付加重合反応によって架橋構造の樹脂が製膜される。樹脂膜が架橋構造をもつため感光体各層のなかで最も耐摩耗性が強靱である。また、架橋の電荷輸送性の構造単位が含まれるため電荷輸送層と類似の電荷輸送性を示す。
【0146】
[感光体の表面の粗面化]
前記下地表面層のLML帯域における算術表面粗さWRa(LML)としては、0.02μm以上であることが好ましい。このための感光体表面の特別な粗面化が必要となる。この具体的な方策として、下地表面層の塗料にフィラーを加え、フィラーの凝集状態の違いを利用する方法は表面形状を制御できる自由度が高いため、特に有効である。
フィラーの凝集状態は、併用する分散剤の官能基、分岐量、分子量、及び分子骨格の種類の違いにより大きく変化する。また、分散剤の添加量や分散時間によってもフィラーの凝集状態が変わるため、これらの性状と得られる表面形状を対比して条件を調整すると形状が制御可能になる。
また、硬化膜を製膜した後、フィラーと僅かな結着成分を含む希薄溶液を再塗布して硬化させることも表面形状を制御する方法として有効である。本発明ではこのような希薄液をフィラー液と称することにする。
【0147】
架橋型樹脂表面層は電荷輸送性構造を有しない3官能以上のラジカル重合性モノマーのバインダー成分を硬化することにより形成され、この架橋型樹脂膜は感光体の感度特性と高耐久性のバランスと上記のリサイクルが容易であるため良好である。
3官能以上のバインダー成分としては、カプローラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート乃至ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートが好ましい。これにより架橋膜自体の耐摩耗性が向上したり、強靱性が増大したりすることが多い。
【0148】
電荷輸送性構造を有しない3官能以上のラジカル重合性モノマーとしては、トリメチロールプロパントリアクリレート、カプローラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートが好ましい。
これらは東京化成社等の試薬メーカー、日本化薬社KAYARDDPCAシリーズ、同DPHAシリーズ等を入手することができる。
また、硬化を促進させたり、安定化させたりするためにチバ・スペシャリティ・ケミカルズ社イルガキュア184等の開始剤を全固形分に対して5質量%~10質量%程度加えてもよい。
【0149】
架橋性の電荷輸送材料としては、アクリロイルオキシ基やスチレン基を有する連鎖重合系の化合物、水酸基やアルコキシシリル基、イソシアネート基を有する逐次重合系の化合物が挙げられ、電荷輸送構造を含み(メタ)アクリロイルオキシ基を一つ以上有する化合物が利用できる。また、電荷輸送構造を含まない(メタ)アクリロイルオキシ基を1つ以上有するモノマーやオリゴマーと併用した組成の構成にしても良い。少なくとも塗工液中にこのような化合物を含有させて表面層を形成し、熱、光、或いは電子線、γ線等の放射線によるエネルギーを与えて架橋し硬化させることで下地表面層を形成できる。架橋性の電荷輸送材料としては、例えば、以下の一般式1で表される電荷輸送性化合物が挙げられる。
【0150】
【化1】
(一般式1中、d、e、fはそれぞれ0又は1の整数、g、hはそれぞれ0~3の整数を表す。R13は水素原子又はメチル基を表し、R14、R15はそれぞれ炭素数1~6のアルキル基を表し、複数の場合は異なってもよい。Zは単結合、メチレン基、エチレン基、又は下記式(2)~(4)に示す2価基のいずれかを表す。)
【0151】
【0152】
【0153】
【0154】
具体的な化合物として以下に示す構造式No.1乃至No.26を有する化合物が挙げられる。
【0155】
【0156】
【0157】
【0158】
下地表面層の耐摩耗性を高めるために硬度の高いフィラーを含有することができる。代表的なフィラーとしてシリカ、アルミナ、セリアなどを挙げられる。特に比較的低コストで高い表面硬度が付与できるものとして気相重合により得られる六方稠密構造のα-アルミナが良い。このフィラーは略球形で感光体表面を棘状にさせないため感光体と摺動する部材に与えるダメージを低減できる。フィラーの含有量は下地表面層の全固形分質量に対して1質量%から30質量%が適当である。
【0159】
フィラーを含有すると露光部電位が上昇することがあるがこれに対し酸化スズを混合すると露光部電位の上昇が解消されるため有効である。α-アルミナと比較して酸化スズは硬度が小さいため、上記のフィラーを酸化スズに変えていくと機械的強度の低下が認められる。これから、酸化スズの混合比率は混合フィラーの全質量に対して5質量%から50質量%が機械的強度と露光部電位の両立に有利な条件となる。他にクエン酸やマレイン酸などの有機酸を加えることも露光部電位の低減化に有効となる。
【0160】
下地表面層塗料を調製する際に使用する分散溶媒はモノマーを十分に溶解するものが好ましく、上述のエーテル類、芳香族類、ハロゲン類、エステル類の他、エトキシエタノールのようなセロソルブ類、1-メトキシ-2-プロパノールのようなプロピレングリコール類を挙げることができる。このうち、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、シクロヘキサノン、1-メトキシ-2-プロパノールは、クロロベンゼンやジクロロメタン、トルエン及びキシレンと比較して環境負荷の程度が低いため好ましい。これらの溶媒は単独として又は混合して用いることができる。
【0161】
下地表面層塗料のコーティングとして、浸漬法、スプレー塗工法、リングコート法、ロールコータ法、グラビア塗工法、ノズルコート法、スクリーン印刷法等が挙げられる。多くの場合、塗料はポットライフが長くないため、少量の塗料で必要な分量のコーティングができる手段が環境への配慮とコスト面で有利となる。このうちスプレー塗工法とリングコート法が好適である。更に本発明の特別な形状を付与するためにインクジェット方式を用いることもできる。
【0162】
下地表面層を製膜する際、主に紫外光に発光波長をもつ高圧水銀灯やメタルハライドランプ等のUV照射光源が利用できる。また、ラジカル重合性含有物や光重合開始剤の吸収波長に合わせ可視光光源の選択も可能である。照射光量は50mW/cm2以上、1,000mW/cm2以下が好ましく、50mW/cm2未満では硬化反応に時間を要する。1,000mW/cm2より強いと反応の進行が不均一となり、架橋型電荷輸送層表面に局部的な皺が発生したり、多数の未反応残基、反応停止末端が生じたりする。また、急激な架橋により内部応力が大きくなり、クラックや膜剥がれの原因となる。
【0163】
必要により、下地表面層中に従来において周知慣用の酸化防止剤、可塑剤、滑剤、紫外線吸収剤等の低分子化合物及びレベリング剤、また電荷輸送層で記載した高分子化合物を添加することもできる。これらの化合物は単独又は二種以上の混合物として用いることができる。低分子化合物及びレベリング剤を併用すると感度劣化を来すケースが多い。このため、これらの使用量としては、塗料総固形分中の0.1質量%~20質量%が好ましく、0.1質量%~10質量%がより好ましい。レベリング剤の使用量としては0.1質量%~5質量%が好ましい。
【0164】
下地表面層の膜厚は3μm~15μmが好ましい。下限は製膜コストに対する効果度合いから算定される値であり、上限は帯電安定性や光減衰感度等の静電特性と膜質の均質性から設定される。
【0165】
(画像形成装置の実施形態)
以下、図面に沿って本発明で用いられる画像形成装置を説明する。本発明の画像形成装置には後述する循環材を感光体表面に入力する手段が取り付けられる。簡単のため、この手段は画像形成装置の説明の後に別に説明する。
【0166】
図13は、本発明の画像形成装置を説明するための概略図であり、後述するような変形例も本発明の範疇に属するものである。
図13において、感光体(11)は、下地表面層を積層する感光体である。感光体(11)はドラム状の形状を示しているが、シート状、エンドレスベルト状のものであってもよい。
【0167】
帯電装置(12)は、感光体(11)の表面を一様に帯電させる手段であり、コロトロン、スコロトロン、固体帯電器(ソリッド・ステート・チャージャー)、帯電ローラをはじめとする公知の手段が用いられる。帯電装置は、消費電力の低減の観点から、感光体に対し接触もしくは近接配置したものが良好に用いられる。なかでも、帯電装置への汚染を防止するため、感光体と帯電装置表面の間に適度な空隙を有する感光体近傍に近接配置された帯電機構が望ましい。転写装置(16)には、一般に上記の帯電器を使用できるが、転写チャージャーと分離チャージャーを併用したものが効果的である。
【0168】
露光装置(13)、また他の形態で示す除電装置(1A)等に用いられる光源には、蛍光灯、タングステンランプ、ハロゲンランプ、水銀灯、ナトリウム灯、発光ダイオード(LED)、半導体レーザー(LD)、エレクトロルミネッセンス(EL)等の発光物全般を挙げることができる。そして、所望の波長域の光のみを照射するために、シャープカットフィルター、バンドパスフィルター、近赤外カットフィルター、ダイクロイックフィルター、干渉フィルター、色温度変換フィルター等の各種フィルターを用いることもできる。
【0169】
現像装置(14)により感光体上に現像されたトナー(15)は、印刷用紙やOHP用スライド等の印刷メディア(18)に転写されるが、全部が転写されるわけではなく、感光体上に残存するトナーも生ずる。このようなトナーは、クリーニング装置(17)により、感光体より除去される。クリーニング装置は、ゴム製のブレード形状の弾性体やファーブラシ、マグファーブラシ等のブラシ等を用いることができる。
【0170】
感光体に帯電装置(12)によって正(負)帯電を施し、露光装置(13)によって画像露光を行うと、感光体表面上には正(負)の静電潜像が形成される。これを現像装置(14)によって負(正)極性のトナー(検電微粒子)で現像すれば、ポジ画像が得られるし、また正(負)極性のトナーで現像すれば、ネガ画像が得られる。かかる現像装置には、公知の方法が適用され、また、除電装置にも公知の方法が用いられる。印刷メディア(18)上に現像されたトナー画像は、感光体(11)と転写装置(16)との対向位置から定着装置(19)に搬送され、この定着装置(19)により印刷メディア(18)に定着される。
【0171】
循環材(3A)及び循環材を塗布する塗布ブレード(3C)は感光体移動方向に対して図に示される通りクリーニング装置(17)と帯電装置(12)の間に配置される。
即ち、循環材(3A)及び塗布ブレード(3C)は、感光体(11)の移動方向において、クリーニング装置(17)の下流、且つ、帯電装置(12)の上流に配置されてなる。これらの配置関係については以下に示す他の実施の形態においても同様である。
【0172】
また、以上に示すような画像形成手段は、複写機、ファクシミリ、プリンター内に固定して組み込まれていてもよいが、プロセスカートリッジの形でそれら装置内に組み込まれてもよい。プロセスカートリッジの形状は多く挙げられるが、一般的な例として、
図14に示すものが挙げられる。感光体(11)はドラム状の形状を示しているが、シート状、エンドレスベルト状のものであってもよい。
【0173】
図15には本発明による画像形成装置の別の例を示す。
この画像形成装置では、感光体(11)の周囲に帯電装置(12)、露光装置(13)、ブラック(Bk)、シアン(C)、マゼンタ(M)、及びイエロー(Y)の色ごとの現像装置(14Bk、14C、14M、14Y)、中間転写体である中間転写ベルト(1F)、クリーニング装置(17)が順に配置されている。ここで、
図15中に示す(Bk、C、M、Y)の添字は上記のトナーの色に対応し、必要に応じて添字を付けたり適宜省略する。感光体(11)は、下地表面層を積層する感光体である。各色の現像装置(14Bk、14C、14M、14Y)は各々独立に制御可能となっており、画像形成を行う色の現像装置のみが駆動される。感光体(11)上に形成されたトナー像は中間転写ベルト(1F)の内側に配置された第1の転写装置(1D)により、中間転写ベルト(1F)上に転写される。第1の転写装置(1D)は感光体(11)に対して接離可能に配置されており、転写動作時のみ中間転写ベルト(1F)を感光体(11)に当接させる。各色の画像形成を順次行い、中間転写ベルト(1F)上で重ね合わされたトナー像は第2の転写装置(1E)により、印刷メディア(18)に一括転写された後、定着装置(19)により定着されて画像が形成される。第2の転写装置(1E)も中間転写ベルト(1F)に対して接離可能に配置され、転写動作時のみ中間転写ベルト(1F)に当接する。
【0174】
転写ドラム方式の画像形成装置では、転写ドラムに静電吸着させた印刷メディアに各色のトナー像を順次転写するため、厚紙にはプリントできないという印刷メディアの制限があるのに対し、
図15に示すような中間転写方式の画像形成装置では中間転写体(1F)上で各色のトナー像を重ね合わせるため、印刷メディアの制限を受けないという特長がある。このような中間転写方式は
図15に示す装置に限らず前述の
図13、
図14及び後述する
図16(具体例を
図17に記す。)に記すような画像形成装置に適用することができる。
【0175】
循環材(3A)及び循環材を塗布する塗布ブレード(3C)は感光体移動方向に対して図に示される通りクリーニング装置(11)と帯電装置(12)の間に配置される。
【0176】
図16には本発明による画像形成装置の別の例を示す。
この画像形成装置は、トナーとしてイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(Bk)の4色を用いるタイプとされ、色ごとに画像形成部が配設されている。また、各色の感光体(11Y、11M、11C、11Bk)が設けられている。この画像形成装置に用いられる感光体11は、下地表面層を積層する感光体である。各感光体(11Y、11M、11C、11Bk)の周りには、帯電装置(12Y、12M、12C、12Bk)、露光装置(13Y、13M、13C、13Bk)、現像装置(14Y、14M、14C、14Bk)、クリーニング装置(17Y、17M、17C、17Bk)等が配設されている。また、直線上に配設された各感光体(11Y、11M、11C、11Bk)の各転写位置に接離する転写材担持体としての搬送転写ベルト(1G)が駆動手段(1C)にて掛け渡されている。この搬送転写ベルト(1G)を挟んで各感光体(11Y、11M、11C、11Bk)に対向する転写位置には転写装置(16Y、16M、16C、16Bk)が配設されている。循環材(3A)及び循環材を塗布する塗布ブレード(3C)は感光体移動方向に対してクリーニング装置(17)と帯電装置(12)の間に配置される(図示せず)。
【0177】
図16の形態のようなタンデム方式の画像形成装置は、色ごとに感光体(11Y、11M、11C、11Bk)をもち、各色のトナー像を搬送転写ベルト(1G)に保持された印刷メディア(18)に順次転写するため、感光体を一つしかもたないフルカラー画像形成装置に比べ、はるかに高速のフルカラー画像の出力が可能となる。転写材としての印刷メディア(18)上に現像されたトナー画像は、感光体(11Bk)と転写装置(16Bk)との対向位置から定着装置(19)に搬送され、この定着装置(19)により印刷メディア(18)に定着される。
【0178】
なお、本発明は
図16に示される実施の形態における構成に限らず、例えば
図17に示されるような実施の形態における構成であってもよい。
即ち、
図16に示される搬送転写ベルト(1G)を用いた直接転写方式にかえて、
図17に示される中間転写ベルト(1F)を用いる構成とすることができる。
図17に示す例では、色ごとに感光体(11Y、11M、11C、11Bk)をもち、これらに形成された各色のトナー像を、ローラ(1C)により駆動張架されてなる中間転写ベルト(1F)上に1次転写手段(1D)により順次転写して積層し、フルカラー画像を形成する。次いで、中間転写ベルト(1F)はさらに駆動され、これに担持されてなるフルカラー画像は、2次転写手段(1E)と2次転写手段(1E)に対向して配置されてなるローラ(1C)との対向位置まで搬送される。そして、2次転写手段(1E)により転写材(18)に2次転写され、転写材上に所望の画像が形成される。
【0179】
循環材を用いる画像形成装置の一例として、
図18を用いて説明する。
図18の装置では、循環材(3A)は塗布ブラシ(3B)で感光体表面に供給され、次いで塗布ブレード(3C)で均され、次にブレード形状の弾性体(17)で除去され、再び塗布ブラシ(3B)へ戻るサイクルを経る。感光体(11)表面には循環材(3A)の他にトナーの供給及び除去があるため、循環材(3A)はトナーと混合される状態で存在する。
なお、帯電装置(12)には帯電装置(12)をクリーニングする帯電装置クリーナ(12c)が当接して設けられてなる。
【0180】
また本発明は、
図19に示すように、中間転写体は用いずに、感光体(11)の表面から、転写装置(16)により直接、転写材(18)に転写する画像形成方式であってもよい。
【0181】
また、本発明は循環材の循環効率を高めるため、循環材が感光体表面に入力されるときの付着性、循環材がスプレッドされる均し性、そして適時循環材が感光体から系外へ排出される除去性の個々の性状を高めることを想定している。循環材の均しは循環材をスプレッドする塗布ブレードを用いる場合が多い。
【0182】
耐摩耗性に優れる架橋構造の樹脂を下地表面層の材料として用いると、耐摩耗性に優れる下地表面層が提供される。これに応じて表面形状の持続性が享受される。これは耐久劣化により、樹脂膜を形成する化学結合の一部が破断しても別の部位の化学結合が残存していれば摩耗を止められるためである。
【0183】
架橋構造の樹脂の中でもアクリル樹脂は、ポリカーボネートと電荷輸送物質との固溶体と比較して誘電率が大きいため、静電特性面の凹凸形状の影響が小さいという効果を奏する。
【0184】
循環材を感光体表面に塗布する画像形成装置について、循環材をブラシで掻き取り、そのブラシで掻き取った循環材を感光体表面に入力する機構を設けると、循環材の消費量を簡単に制御できるのみならず、感光体全体に亘って循環材を供給できるため有利である。更に、ブレード形状の弾性体とは別に、上記のブラシよりも下流で且つ、ブレード形状の弾性体よりも上流に感光体と摺擦する塗布ブレードを設けることで感光体表面に供給された循環材の量を規制したり、均しを促したりすることが可能となる。これらのブラシと塗布ブレードは循環材の循環を調整する上で有効な手段となる。
【0185】
(循環材の塗布手段)
本発明では、
図20に示すように循環材(3A)を感光体表面に供給するための循環材の塗布手段として、循環材塗布装置(3)を上記の画像形成装置の全てについて設けている。この循環材塗布装置(3)は、塗布部材としてのファーブラシ(3B)、循環材(3A)、循環材をファーブラシ方向に押圧するための加圧バネ(不図示)、及び循環材(3A)を規制あるいは均すための塗布ブレード(3C)を有している。このときの循環材(3A)はバー状に成型された循環材である。ファーブラシ(3B)は感光体(11)表面にブラシ先端が当接しており、軸を中心に回転することによって循環材(3A)をいったんブラシに汲み上げ、感光体表面との当接位置までブラシ上に担持搬送して感光体表面に塗布する。なお、符号17は、クリーニングブレードとしてのブレード形状の弾性体を示す。
【0186】
また、経時で循環材(3A)がファーブラシ(3B)に掻き削られて減少してもファーブラシ(3B)に接触しなくならないように、加圧バネ(不図示)によって所定の圧力で循環材(3A)がファーブラシ(3B)側に押圧されている。これによって、微量の循環材(3A)でも常に均一にファーブラシ(3B)に汲み上げられる。
【0187】
また、感光体(11)表面に循環材をコーティングする循環材の塗布手段を設けてもよい。この手段はブレード形状の弾性体のような板をトレーリング方式又はカウンター方式で感光体に押し合てる手段がある。
【0188】
循環材(3A)は、例えば、オレイン酸鉛、オレイン酸亜鉛、オレイン酸銅、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸コバルト、ステアリン酸鉄、ステアリン酸銅、パルミチン酸亜鉛、パルミチン酸銅、リノレン酸亜鉛等の脂肪酸金属塩類や、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリトリフルオロクロルエチレン、ジクロロジフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体、テトラフルオロエチレン-オキサフルオロプロピレン共重合体等のフッ素系樹脂が挙げられる、特にラメラ構造をとる材料は循環効率が高く、更にステアリン酸亜鉛がコスト面で有利である。
【実施例】
【0189】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に制限されるものではない。なお、以下の記載において「部」は、質量部を意味する。
【0190】
<画像形成装置の作製>
(実施例1)
-感光体の作製-
外径100mmのアルミニウムドラムに、下記組成の下引き層用塗料、電荷発生層用塗料、電荷輸送層用塗料を順次、塗布乾燥することにより、3.5μmの下引き層、0.2μmの電荷発生層、22μmの電荷輸送層を形成した。2μm~3μmの膜厚の下地表面層が形成された感光体を得た。
【0191】
なお、下地表面層用塗料の調製を次のようにして行った。予め50mL用マヨネーズびん(UMサンプル瓶)に直径5mmのアルミナボール60gを仕込み、平均一次粒径0.3μmのα-アルミナ9gと分散剤(BYK-P105、ビックケミー社製)0.18gと溶媒(シクロペンタノン)10gとを加え、150rpmの回転強度で24時間ボールミル分散してミルベースを得た。得られたミルベースにビヒクル(下地表面層塗料のうちミルベース成分を除く液状成分)を加えて塗料を得た。
【0192】
下記材料を混合し、直径0.5mmのジルコニアビーズと振動ミルを用いて1,500rpmにて24時間攪拌し、下引き層塗料を調製した。
〔下引き層塗料〕
・ 酸化亜鉛粒子:(MZ-300、テイカ株式会社製、平均粒子径35μm)、350部
・ サリチル酸誘導体:3,5-ジ-t-ブチルサリチル酸(東京化成工業株式会社製)、1.5部
・ 結着樹脂:ブロック化イソシアネート(固形分75質量%、スミジュールBL3175、住化バイエルウレタン株式会社製)、60部
・ 結着樹脂:(BM-S、積水化学工業株式会社製)を2-ブタノンで溶解させた20質量%希釈液、225部
・ 溶媒:2-ブタノン、105部
【0193】
下引き層上に、下記電荷発生層塗料を使用して浸漬塗工し、95℃で20分加熱乾燥させ、膜厚0.2μmの電荷発生層を形成した。
下記材料を混合し、直径1mmのガラスビーズとビーズミルを用いて8時間攪拌し、電荷発生層塗料を調製した。
〔電荷発生層塗料〕
・ 電荷発生物質:Y型チタニルフタロシアニン(株式会社リコー製)、8部
・ 結着樹脂:ポリビニルブチラール(BX-1、積水化学工業株式会社製)、5部
・ 溶媒:2-ブタノン、400部
【0194】
電荷発生層上に、下記電荷輸送層塗料を使用して浸漬塗工し、120℃で20分間加熱乾燥させ、膜厚22μmの電荷輸送層を形成した。
(電荷輸送層用塗工液)
・ 電荷輸送物質:下記構造の化合物(株式会社リコー製)、10部
【化8】
・ 結着樹脂:Z型ポリカーボネート(パンライトTS-5050、帝人化成帝人化成製)、10部
・ 溶媒:テトラヒドロフラン、80部
・ レベリング剤:シリコーンオイル(KF50-100CS、信越化学工業帝人化成製)の1%テトラヒドロフラン溶液、1部
【0195】
下記組成の下地表面層塗料をスプレーで塗工した。スプレー塗工はスプレーガンにPC-WIDE308(株式会社オリンポス製)を使用し、2.5kgf/cm2の霧化圧力でスプレーガンのノズル先端と感光体間の距離が50mmとなる位置で行った。吐出量は約25mLであった。
スプレー塗工後、酸素濃度が2%以下となるようにブース内を窒素ガスで置換したUV照射ブースにて、光照射を行た。その後、135℃で20分間加熱乾燥した。
(光照射条件)
・メタルハライドランプ:160W/cm
・照射距離:120mm
・照射強度:700mW/cm2
・照射時間:60秒間
【0196】
〔下地表面層塗料〕
・ 架橋性電荷輸送物質:下記構造の化合物(株式会社リコー製)、43部
【化9】
・ 架橋性樹脂モノマー:トリメチロールプロパントリアクリレート(KAYARADTMPTA、日本化薬株式会社製)、43部
・ レベリング剤:シリコーンオイル(KF50-100CS、信越化学工業株式会社製)の1%テトラヒドロフラン溶液、1部
・ 重合開始剤:1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(イルガキュア184、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製)、4部
・ 金属酸化物フィラー:α-アルミナ(スミコランダムAA-03、住友化学工業株式会社製)、10部
・ 分散剤:(BYK-P105、ビックケミー社製)、0.35部
・ 溶媒:テトラヒドロフラン、566部
【0197】
-循環材塗布装置-
循環材塗布装置としては、循環材を感光体に供給する手段と感光体に供給された循環材をコーティングする手段を併せて画像形成装置に取り付けた。
循環材の供給手段としては、支持体に保持されるように角柱状に成形した固形状の循環材を所定の消費量となるようなバネ定数の加圧スプリングで塗布ブラシに加圧し、塗布ブラシが回転することより循環材を削って感光体上に削り粉を設ける装置を取り付けた。加圧バネとしてはバネ定数と循環材の消費量との関係から適当なものを選んだ。ここでは循環材の消費量(感光体への塗布量に加えて、塗布ブラシからの飛散及び落下による損失分などを含み、循環材の減少する量を意味する。)が200mg/kmとなる条件として、ばね定数が10Nの引張ばねを使用した。支持体の両サイドに一点支持の可動式のフィンを取り付け、引張ばねをまわすことにより、ばねの引っ張り応力によって塗布ブラシと循環材との接触圧を調整した。循環材として、ステアリン酸亜鉛とパルチミン酸亜鉛の混合物を用いた。
【0198】
塗布ブラシとしては金属シャフトにファーブラシを貼り合わせた純正品をそのまま用いた。この塗布ブラシは感光体面移動方向に対してカウンター方向に回転するようにした。
塗布ブレードとしては鋼板のブレードホルダーに前記感光体に:19°で当接する方向に支持されたポリウレタンゴム(ShoreA硬さ;84、反発弾性;52%、厚み;1.3mm)を用いた。
ブレード形状の弾性体としては鋼板のブレードホルダーに前記感光体に:23°で当接する方向に支持されたポリウレタンゴム(ShoreA硬さ;72、反発弾性;17%、厚み;1.8mm)を用いた。
後述する測定方法により求めた、感光体とブレード形状の弾性体との摩擦係数(Ft/Fn)は、0.90であった。
【0199】
以上のように作製した実施例1の感光体を実装用にした後、画像形成装置(Ricoh Pro C901、株式会社リコー製)のブラック現像ステーションに搭載して30℃、相対湿度90%の環境下で10万枚の連続プリント試験を行った。この時の感光体の走距離に対する循環材の消費量は200mg/kmであった。試験終了後、電源スイッチを落とし16時間放置した後、評価画像として1ドット毎に白と黒のドットを書き込む中間調の画像パターンと全面白色(ブラック吐出なし)のパターンをプリントした。画像評価は評価画像のボケ画像を5段階のランクに分類して評価した。
【0200】
(比較例1)
実施例1において、スティック状の循環材を塗布ブラシに押し付けるバネを、ばね定数が10Nのものから11Nのものに変えることによって、循環材の消費量を220mg/kmに調整した以外は、実施例1と同様にして試験を行った。
【0201】
(比較例2)
実施例1において、感光体とブレード形状の弾性体との摩擦係数(Ft/Fn)を0.90から0.80に変更した以外は、実施例1と同様に試験を行った。
なお、摩擦係数の変更は、画像形成装置に搭載されるクリーニングブレードの取り付け部分に挟んだニッケルシートを、厚みの異なるニッケルシートに代え、感光体とクリーニングブレードの当接角を変えることにより行った。
【0202】
(実施例2)
実施例1において、感光体とブレード形状の弾性体との摩擦係数(Ft/Fn)を0.90から0.85に変更した以外は、実施例1と同様に試験を行った。
【0203】
(実施例3)
実施例1において、感光体とブレード形状の弾性体との摩擦係数(Ft/Fn)を0.90から1.10に変更した以外は、実施例1と同様に試験を行った。
【0204】
(比較例3)
実施例1において、感光体とブレード形状の弾性体との摩擦係数(Ft/Fn)を0.90から1.20に変更した以外は、実施例1と同様に試験を行った。
【0205】
(実施例4)
実施例1で用いた画像形成装置に対して、以下の手順によりブレード形状の弾性体の鏡面に平均厚み0.3μmのダイヤモンドライクカーボン(DLC)をコートしたものを用いた以外は、実施例1と同様にして試験を行った。
【0206】
<ダイヤモンドライクカーボン層の形成>
ブレード形状の弾性体を
図21に示すプラズマCVD装置にセットし、以下の条件で、ダイヤモンドライクカーボン層を形成した。
<<条件>>
C
2H
4流量:200mL/min
Air流量:50mL/min
反応圧力:0.2Pa
第一の交番電圧出力:200W(10MHz)
バイアス電圧(直流分):0V
ダイヤモンドライクカーボンの平均厚み:0.3μm
【0207】
ここで、
図21中、207はプラズマCVD装置の真空槽であり、ゲート弁209によりロード/アンロード用予備室217と仕切られている。真空槽207内は排気系220(圧力調整バルブ221、ターボ分子ポンプ222、ロータリーポンプ223よりなる)により真空排気され、また一定圧力に保たれるようになっている。真空槽207内には反応槽が設けられている。230は反応槽250内へ導入するガスラインを示しており、各種材料ガス容器が接続されている。それぞれ、流量計229を経てガス導入ノズル225より反応槽250の中へ導入される。枠状構造体202中には、前記感光層を形成したブレード形状の弾性体211(211-1、211-2、・・・、211-n、・・・)を配置した。
【0208】
なお、このそれぞれのブレード形状の弾性体に付帯する支持体201(201-1、201-2、・・・、201-n、・・・)は、後述するように第三の電極として配置される。電極203、213には、それぞれ第一の交番電圧を印加するための一対の電源215(215-1、215-2)が用意されている。第一の交番電圧の周波数は10MHzである。これらの電源はそれぞれマッチングトランス216-1、216-2とつながる。このマッチングトランスでの位相は位相調整器226により調整し、互いに180°又は0°ずれて供給できる。マッチンズトランスの一端204及び他端214はそれぞれ第一及び第二の電極203、213に連結されている。また、トランスの出力側中点205は接地レベルに保持されている。
なお、
図21中、符号208、218はフード、符号219は電源、符号240は交番電源系を示す。
【0209】
(比較例4)
実施例4のDLCの平均厚みを0.6μmに変えた以外は、実施例4と同様にして試験を行った。
【0210】
(実施例5)
実施例1において、スティック状の循環材を塗布ブラシに押し付けるバネを、バネ定数が10Nのものから13Nのものに変えて、循環材の消費量を250mg/kmに調整した以外は、実施例1と同様にして試験を行った。
【0211】
(実施例6)
実施例1において、スティック状の循環材を塗布ブラシに押し付けるバネを、バネ定数が10Nのものから8Nのものに変えて、循環材の消費量を150mg/kmに調整した以外は、実施例1と同様にして試験を行った。
【0212】
(比較例5)
実施例1において、スティック状の循環材を塗布ブラシに押し付けるバネを、バネ定数が10Nのものから5Nのものに変えて、循環材の消費量を100mg/kmに調整した以外は実施例1と同様にして試験を行った。
【0213】
(実施例7)
実施例1において、感光体の下地表面層を次の下地表面層塗料に変えた以外は、実施例1と同様に試験を行った。
〔下地表面層塗料〕
・ 架橋性電荷輸送物質:下記構造の化合物(株式会社リコー製)、43部
【化10】
・ 架橋性樹脂モノマー:トリメチロールプロパントリアクリレート(KAYARADTMPTA、日本化薬株式会社製)、42部
・ レベリング剤:シリコーンオイル(KF50-100CS、信越化学工業株式会社製)の1%テトラヒドロフラン溶液、1部
・ 重合開始剤:1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(イルガキュア184、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製)、4部
・ 金属酸化物フィラー:α-アルミナ(スミコランダムAA-03、住友化学工業株式会社製)、10部
・ 分散剤(BYK-P105、ビックケミー社製)0.35部
・ フッ素樹脂微粒子:PTFE(ルブロンL-2、ダイキン工業株式会社製)、1部
・ フッ素系界面活性剤(モディパーF210、日油株式会社製)、0.5部
・ 溶媒:テトラヒドロフラン、560部
・ 溶媒:フッ素溶媒(ゼオローラH、日本ゼオン株式会社製)、6部
【0214】
(実施例8)
実施例1において、感光体の下地表面層を次の下地表面層塗料に変えた以外は、実施例1と同様に試験を行った。
〔下地表面層塗料〕
・ 架橋性電荷輸送物質:下記構造の化合物(株式会社リコー製)、38部
【化11】
・ 架橋性樹脂モノマー:トリメチロールプロパントリアクリレート(KAYARADTMPTA、日本化薬株式会社製)、38部
・ レベリング剤:シリコーンオイル(KF50-100CS、信越化学工業株式会社製)の1%テトラヒドロフラン溶液、1部
・ 重合開始剤:1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(イルガキュア184、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製)、4部
・ 金属酸化物フィラー:α-アルミナ(スミコランダムAA-03、住友化学工業株式会社製)、10部
・ 分散剤(BYK-P105、ビックケミー社製)0.35部
・ フッ素樹脂微粒子:PTFE(ルブロンL-2、ダイキン工業株式会社製)、10部
・ フッ素系界面活性剤(モディパーF210、日油株式会社製)、10部
・ 溶媒:テトラヒドロフラン、509部
・ 溶媒:フッ素溶媒(ゼオローラH、日本ゼオン株式会社製)、57部
【0215】
(実施例9)
実施例1において、下地表面層塗料を塗工した感光体に下記組成のフィラー液を膜厚増加量が0.4μmとなるように吹き付けた後、酸素濃度が2%以下となるようにブース内を窒素ガスで置換したUV照射ブースにて、光照射を行た。その後、135℃で20分間加熱乾燥した。
(光照射条件)
・メタルハライドランプ:160W/cm
・照射距離:120mm
・照射強度:700mW/cm2
・照射時間:60秒間
【0216】
(フィラー液)
・ 架橋性電荷輸送物質:下記構造の化合物(株式会社リコー製)、4.3部
【化12】
・ 架橋性樹脂モノマー:トリメチロールプロパントリアクリレート(KAYARADTMPTA、日本化薬株式会社製)、4.3部
・ レベリング剤:シリコーンオイル(KF50-100CS、信越化学工業株式会社製)の1%テトラヒドロフラン溶液、0.1部
・ 重合開始剤:1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(イルガキュア184、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製)、0.4部
・ 金属酸化物フィラー:α-アルミナ(スミコランダムAA-03、住友化学工業株式会社製)、150部
・ 分散剤(BYK-P105、ビックケミー社製)、5.25部
・ 溶媒:テトラヒドロフラン、500433部
【0217】
(実施例10)
実施例9において、フィラー液を下記組成のものに変えた以外は、実施例9と同様にして試験を行った。
(フィラー液)
・ 架橋性電荷輸送物質:下記構造の化合物(株式会社リコー製)、1部
【化13】
・ 架橋性樹脂モノマー:トリメチロールプロパントリアクリレート(KAYARADTMPTA、日本化薬株式会社製)、1部
・ レベリング剤:シリコーンオイル(KF50-100CS、信越化学工業株式会社製)の1%テトラヒドロフラン溶液、0.025部
・ 重合開始剤:1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(イルガキュア184、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製)、0.01部
・ 金属酸化物フィラー:α-アルミナ(スミコランダムAA-03、住友化学工業株式会社製)、30部
・ 分散剤(BYK-P105、ビックケミー社製)、3部
・ 溶媒:テトラヒドロフラン、450233部
【0218】
(実施例11)
実施例1において、画像形成装置に用いられる純正品の現像剤中に六方稠密構造のα-アルミナ微粒子(スミコランダムAA-03、住友化学株式会社製)を総重量の0.1質量%の割合で混合させた以外は、実施例1と同様にして試験を行った。
【0219】
(実施例12)
実施例11において、現像剤に対するα-アルミナ微粒子の含有量を0.2質量%に変えた以外は、実施例11と同様にして試験を行った。
【0220】
(実施例13)
実施例11において、現像剤に対するα-アルミナ微粒子の含有量を0.3質量%に変えた以外は、実施例11と同様にして試験を行った。
【0221】
(比較例6)
実施例11において、現像剤に対するα-アルミナ微粒子の含有量を0.4質量%に変えた以外は、実施例11と同様にして試験を行った。
【0222】
<測定>
以上の実施例1~13、及び比較例1~6の感光体と画像形成装置について、下記(1)~(3)の測定を行った。結果を表6に示す。
【0223】
(1)ブレード作用力測定
感光体と主にクリーニングブレードと呼ばれるブレード形状の弾性体と感光体との接触によって生じる剪断力Ft、圧縮応力Fn、摩擦係数Ft/Fn、及び弾性体のLMH帯域における自励振動の大きさWRFt(LMH)を、
図1に示す装置によって計測した。
【0224】
具体的には、
図1に示す装置において、ブレード形状の弾性体を固定した板を2個の三分力計(動ひずみ測定器、装置名:TYPE LSM-B-50NSA1-P、株式会社共和電業製)(51)に吊し、感光体(11)と当接させた。このとき感光体に対するブレード形状の弾性体の当接角、食い込み量、及び感光体表面の線速を、各実施例、及び画像形成装置と同じ条件となるよう調節して測定を行った。感光体はモーター(非図示)と接続されており、モーターを速度(122rpm)で回転駆動した。
三分力計から得られる荷重測定値を、データロガー(装置名:NR-ST04、株式会社キーエンス製)で収集し、左右の三分力計から得られる荷重の和を作用力として算出した。
【0225】
剪断力Ft、及び圧縮応力Fnは、
図2及び以下に示す方法により測定した。
ブレード形状の弾性体のゴム板の位置関係について、三分力計により、幅方向(エア面)fxと厚み方向(カット面)fyの荷重を得た。ブレード形状の弾性体と感光体との当接角をθとして、感光体の回転駆動方向に対するブレード形状の弾性体の接線方向の作用力(剪断力Ft)と垂直方向の力(圧縮応力Fn)を、下記の式(2)及び式(3)から算出した。
Ft=fx・cosθ-fy・sinθ・・・(2)
Fn=fx・sinθ+fy・cosθ・・・(3)
【0226】
また、下記式(5)から、感光体とブレード形状の弾性体との摩擦係数Ft/Fnを求めた。
感光体とブレード形状の弾性体との摩擦係数=Ft/Fn・・・(5)
【0227】
弾性体のLMH帯域における剪断力の自励振動WRFt(LMH)を、下記(i)~(v)の手順で求めた。
(i)前記像担持体との摩擦により前記弾性体に生じる剪断力の時間変化の波形データWFtを、2個の三分力計(動ひずみ測定器、装置名:TYPE LSM-B-50NSA1-P、株式会社共和電業製)、及びデータロガー(装置名:NR-ST04、株式会社キーエンス製)を用いて、サンプルリングレートが2,000S/secの条件で測定した。
(ii)前記波形データWFtを、多重解像度解析によってウェーブレット変換して高周波数成分から低周波数成分に至るまでの6個の周波数成分(HHH、HHL、HMH、HML、HLH、及びHLL)の剪断力の波形データに分離した。
(iii)次いで、得られた6個の周波数成分の中で最も低周波数成分の剪断力の波形データWFt(HLL)に対して、サンプリング数が1/40に減少するように間引きした剪断力の波形データ(A)を作成した。
(iv)更に、前記波形データ(A)を、多重解像度解析によってウェーブレット変換して高周波数成分から低周波数成分に至るまでの、追加の6個の周波数成分(LHH、LHL、LMH、LML、LLH、及びLLL)の剪断力の波形データに分離した。
(v)上記で得たLMH帯域における剪断力の波形データWFt(LMH)から、下記式(1)により、前記弾性体のLMH帯域における剪断力の自励振動WRFt(LMH)を求めた。
【数6】
(L;全測定時間長,x;時間,WFt[LMH](x);LMH帯域における剪断力の時間変化の波形データ)
なお、ウェーブレット変換には、MATLAB(TheMathWorks社製)のWaveletToolboxをそのまま利用した。上述の通り、本実施例では2度に分けてウェーブレット変換を行った。
【0228】
(2)感光体表面のワックス乃至脂肪酸金属塩の被膜循環性評価試験
以上の感光体と画像形成装置を用いて、感光体ドラムが2,500回転、及び25,000回転相当の全面白色(ブラック吐出なし)のパターンでプリント試験を行った後、感光体を画像形成装置から取り出した。
循環材付着量を求めるため、試験停止時に感光体表面を4MPaの圧縮エアーでエアーブローしたのち、感光体ドラム周方向について試験停止時における循環材塗布部から僅かに離れた下流側部分を34mm×34mmのサイズで長手方向に等間隔に3カ所から電荷輸送層から最表面層に至る感光層の一部を剥離した。
【0229】
剥離したフィルムについて、後述の方法によりATR法によるIR分析のピーク面積から質量膜厚を算定した。
感光体ドラム回転数が2,500回転の場合と25,000回転の場合における付着量差を下記式から算定し、感光体表面の循環材付着量の変動量(被膜循環性)を評価した。回転数に対し、循環材付着量の変動量がプラスに増加するときは循環材の除去性に問題があると判断した。反対に、変動量がマイナスに変動するときも変動量が大きな場合(-0.10未満)は感光体の表面安定性に支障をきたすものとして不良と判断した。
【0230】
τ=fα+β・・・(7)
τ;循環材の質量膜厚(単位;nm)
α;塗布回数(単位;×1,000回)
β;任意定数
【0231】
係数fとβは次のようにして算定した。
横軸に回転数(単位;千回転)、縦軸に付着量として2.5(千回転)と25(千回転)時の付着量をプロットした。2点のプロットを結ぶ線形近似直線の傾きをf、切片をβとして算定した。線形近似直線は表計算ソフトを用いて算出でき、Microsoft Excelを用いて散布図を描き、近似直線の追加コマンドでfとβを求めた。
【0232】
ATR法によるIR分析は、予めICP-AES分析で得られる亜鉛分析値とATR法によるIR分析値との検量線データを用意し、ATR法によるIR分析で得られる強度をICP-AES分析値に対比して付着量を求めることにより行った。被膜欠陥が多い場合、見かけ上の層厚が薄くなり被膜部分の厚みが推定できない。そこで、XRFから算出される質量膜厚をXPSから算出される被覆率で割った値を平均的な層厚として(被膜部分の厚み=質量膜厚/被覆率)算出した。ATR法によるIR分析における被膜部分の厚みもXRFと同じように算出した。
ICP-AES分析では、硫酸と硝酸で分解した検液に対して島津製作所製ICPS-7500を用いて分析した。ATR法によるIR分析では、日本分光社製FT/IR-6100を用い、Geクリスタルを用いて1540cm-1のピーク面積の大きさを評価した。
【0233】
(3)感光体表面のフッ素元素分析
感光体表面のフッ素元素の定量は、試験終了後に感光体長手方向に等間隔になるように15mm×15mmサイズのサンプル10点を切りだして、Quantera SXM(アルバック・ファイ株式会社製)を用い、10mm×10mmの任意10点のエリアについてXPS分析よりフッ素元素の含有量(原子%)を求めた。得られたフッ素原子(原子%)の10点の平均値を算出した。
【0234】
(4)感光体表面形状の測定
感光体の表面形状の測定は、表面粗さ・輪郭形状測定機(Surfcom1800G、株式会社東京精密製)を用い、ピックアップ:E-DT-S01Aを取り付け、測定長さ;10mm、サンプリング点数;30,720、測定速度;0.06mm/sの条件で行った。
測定により取得した感光体の表面形状の一次元データ配列をウェーブレット変換して、HHH、HHL、HMH、HML、HLH、及びHLLの6個の周波数成分に分離する第1の多重解像度解析(multiresolution analysis,MRA)を行った。更に、ここで得たHLLの一次元データ配列に対してデータ配列数が1/40に減少するように間引きした一次元データ配列(B)を作成し、間引きした前記一次元データ配列(B)に対して更にウェーブレット変換を行って、LHH、LHL、LMH、LML、LLH、及びLLLの6個の周波数成分に分離する第2の多重解像度解析を行った。そして、得られた合計12個の各周波数成分について算術平均粗さ(WRa)を計算した。得られた周波数成分は、下記のとおりである。
WRa(HHH):凹凸の一周期の長さが0.3μm~3μmの帯域におけるRa
WRa(HHL):凹凸の一周期の長さが1μm~6μmの帯域におけるRa
WRa(HMH):凹凸の一周期の長さが2μm~13μmの帯域におけるRa
WRa(HML):凹凸の一周期の長さが4μm~25μmの帯域におけるRa
WRa(HLH):凹凸の一周期の長さが10μm~50μmの帯域におけるRa
WRa(HLL):凹凸の一周期の長さが24μm~99μmの帯域におけるRa
WRa(LHH):凹凸の一周期の長さが26μm~106μmの帯域におけるRa
WRa(LHL):凹凸の一周期の長さが53μm~183μmの帯域におけるRa
WRa(LMH):凹凸の一周期の長さが106μm~318μmの帯域におけるRa
WRa(LML):凹凸の一周期の長さが214μm~551μmの帯域におけるRa
WRa(LLH):凹凸の一周期の長さが431μm~954μmの帯域におけるRa
WRa(LLL):凹凸の一周期の長さが867μm~1,654μmの帯域におけるRa
【0235】
前記表面形状の測定を一つの感光体につき70mm間隔で4箇所行い、それぞれの箇所に対して前記各周波数成分についての算術平均粗さの計算を行った。
なお、ウェーブレット変換には、MATLAB(TheMathWorks社製)のWaveletToolboxをそのまま利用した。上述の通り、本実施例では2度に分けてウェーブレット変換を行った。
各周波数成分の4箇所の算術平均粗さの平均値を、測定結果の各周波数成分の算術平均粗さ(WRa)とし、下地表面層のLML帯域における算術表面粗さWRa(LML)を求めた。
【0236】
【0237】
実施例1に対して比較例1は循環材の供給量が多い。弾性体のLMH帯域における剪断力の自励振動WRFt(LMH)が小さいことが潤滑剤の除去性を妨げていると考えられる。加速評価試験を行ったプリント画像は、比較例1の場合、局部に画像濃度ムラが生じていた。
【0238】
実施例1に対して、比較例2、実施例2、実施例3、比較例3を比較すると、弾性体と感光体との摩擦係数Ft/Fnが異なる。これらの実施例と比較例は弾性体のLMH帯域における剪断力の自励振動WRFt(LMH)が同じ条件であるにも関わらず、加速評価試験を行ったプリント画像に違いが見られる。よって、実施例の範囲内の摩擦係数であることが重要であることが分かった。
【0239】
実施例1に対して、実施例4と比較例4は、弾性体のLMH帯域における剪断力の自励振動WRFt(LMH)の影響を理解する実験結果である。特定の自励振動の大きさがプリント画像の品質を確保するために重要であることが分かった。
【0240】
実施例1に対して、実施例5、実施例6、比較例5は、脂肪酸金属塩の被膜の循環性の影響を理解する実験結果である。脂肪酸金属塩の被膜の循環性が良好なものほどプリント画像の品質が高いことが分かった。
【0241】
実施例1に対して、実施例7、実施例8は、感光体の表面のフッ素元素の影響を理解する実験結果である。感光体の表面にフッ素元素が含まれることにより品質が高いプリント画像を得られることが分かった。
【0242】
実施例1に対して、実施例9、実施例10は、感光体表面形状の影響を理解する実験結果である。本発明で特定される表面形状はプリント画像の品質を高める効果があることが分かった。
【0243】
実施例1に対して、実施例11から実施例13と比較例6は、現像剤に含有される特定のα-アルミナの影響を理解する実験結果である。現像剤が特定のα-アルミナを含めると、弾性体のLMH帯域における剪断力の自励振動WRFt(LMH)と感光体との摩擦係数を変える効果があることが分かった。現像剤にα-アルミナを適量含めることが好ましい。
【0244】
本発明の態様としては、例えば、以下のとおりである。
<1> 潜像が形成され、トナー像を担持可能な像担持体と、
前記像担持体上に形成された潜像をトナーで現像する現像手段と、
前記像担持体の表面に当接するブレード形状の弾性体を有するクリーニング手段とを有し、
前記像担持体と前記弾性体との摩擦係数Ft/Fnが0.85以上1.1以下であり、
下記(i)~(v)の手順で求めた、前記弾性体のLMH帯域における剪断力の自励振動の大きさWRFt(LMH)が、1.5gf以上3.5gf以下であることを特徴とする画像形成装置である。
(i)前記像担持体との摩擦により前記弾性体に生じる剪断力の時間変化の波形データWFtを作成する。
(ii)前記波形データWFtを、多重解像度解析によってウェーブレット変換して高周波数成分から低周波数成分に至るまでの6個の周波数成分(HHH、HHL、HMH、HML、HLH、及びHLL)の剪断力の波形データに分離する。
(iii)次いで、得られた6個の周波数成分の中で最も低周波数成分の剪断力の波形データWFt(HLL)に対して、サンプリング数が1/40に減少するように間引きした剪断力の波形データを作成する。
(iv)更に、多重解像度解析によってウェーブレット変換して高周波数成分から低周波数成分に至るまでの、追加の6個の周波数成分(LHH、LHL、LMH、LML、LLH、及びLLL)の剪断力の波形データに分離する。
(v)上記で得たLMH帯域における剪断力の波形データWFt(LMH)から、下記式(1)により、前記弾性体のLMH帯域における剪断力の自励振動WRFt(LMH)を求める。
【数7】
(L;全測定時間長,x;時間,WFt[LMH](x);LMH帯域における剪断力の時間変化の波形データ)
ただし、各周波数帯域は次の関係を満たす。
【表7】
<2> 前記像担持体の表面にワックス及び脂肪酸金属塩の少なくともいずれかの被膜を塗布形成する塗布手段を更に有する前記<1>に記載の画像形成装置である。
<3> 前記像担持体の表面に形成される前記被膜が、循環型表面層である前記<1>から<2>のいずれかに記載の画像形成装置である。
<4> 前記像担持体の表面におけるフッ素元素のXPS分析による含有量が、0.5原子%以上30原子%以下である前記<1>から<3>のいずれかに記載の画像形成装置である。
<5> 前記像担持体が、導電性支持体と、該導電性支持体上に順に積層されてなる感光層、下地表面層を有し、
下記(I)~(V)の手順で求めた、前記下地表面層のLML帯域における算術表面粗さWRa(LML)が、0.02μm以上である前記<1>から<4>のいずれかに記載の画像形成装置である。
(I)前記下地表面層の表面形状を表面粗さ・輪郭形状測定機により測定して一次元データ配列を作成する。
(II)前記一次元データ配列を、多重解像度解析によってウェーブレット変換して高周波数成分から低周波数成分に至るまでの6個の周波数成分(HHH、HHL、HMH、HML、HLH、及びHLL)に分離する。
(III)次いで、得られた6個の周波数成分の中で最も低周波数成分の一次元データ配列に対して、データ配列数が1/40に減少するように間引きした一次元データ配列を作成する。
(IV)更に、多重解像度解析によってウェーブレット変換して高周波数成分から低周波数成分に至るまでの、追加の6個の周波数成分(LHH、LHL、LMH、LML、LLH、及びLLL)に分離する。
(V)上記で得た12の各周波数成分について算術平均粗さ(WRa)を求める。ただし、前記得られた周波数成分は、下記のとおりである。
WRa(HHH):凹凸の一周期の長さが0.3μm~3μmの帯域におけるRa
WRa(HHL):凹凸の一周期の長さが1μm~6μmの帯域におけるRa
WRa(HMH):凹凸の一周期の長さが2μm~13μmの帯域におけるRa
WRa(HML):凹凸の一周期の長さが4μm~25μmの帯域におけるRa
WRa(HLH):凹凸の一周期の長さが10μm~50μmの帯域におけるRa
WRa(HLL):凹凸の一周期の長さが24μm~99μmの帯域におけるRa
WRa(LHH):凹凸の一周期の長さが26μm~106μmの帯域におけるRa
WRa(LHL):凹凸の一周期の長さが53μm~183μmの帯域におけるRa
WRa(LMH):凹凸の一周期の長さが106μm~318μmの帯域におけるRa
WRa(LML):凹凸の一周期の長さが214μm~551μmの帯域におけるRa
WRa(LLH):凹凸の一周期の長さが431μm~954μmの帯域におけるRa
WRa(LLL):凹凸の一周期の長さが867μm~1,654μmの帯域におけるRa
<6> 前記現像手段が、0.1質量%以上0.3質量%以下の六方稠密構造を有するα-アルミナを含む現像剤を有する前記<1>から<5>のいずれかに記載の画像形成装置である。
【0245】
前記<1>から<6>のいずれかに記載の画像形成装置は、従来における前記諸問題を解決し、前記本発明の目的を達成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0246】
【文献】特開平9-90843号公報
【文献】特開2014-134605号公報
【文献】特開2010-266811号公報
【文献】特開2005-189509号公報
【符号の説明】
【0247】
11 感光体(電子写真感光体)
14 現像装置(現像手段)
17 クリーニング装置(クリーニング手段)