IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社リコーの特許一覧

特許7119511液体を吐出する装置および液体を吐出する装置における異常検出方法
<>
  • 特許-液体を吐出する装置および液体を吐出する装置における異常検出方法 図1
  • 特許-液体を吐出する装置および液体を吐出する装置における異常検出方法 図2
  • 特許-液体を吐出する装置および液体を吐出する装置における異常検出方法 図3
  • 特許-液体を吐出する装置および液体を吐出する装置における異常検出方法 図4
  • 特許-液体を吐出する装置および液体を吐出する装置における異常検出方法 図5
  • 特許-液体を吐出する装置および液体を吐出する装置における異常検出方法 図6
  • 特許-液体を吐出する装置および液体を吐出する装置における異常検出方法 図7
  • 特許-液体を吐出する装置および液体を吐出する装置における異常検出方法 図8
  • 特許-液体を吐出する装置および液体を吐出する装置における異常検出方法 図9
  • 特許-液体を吐出する装置および液体を吐出する装置における異常検出方法 図10
  • 特許-液体を吐出する装置および液体を吐出する装置における異常検出方法 図11
  • 特許-液体を吐出する装置および液体を吐出する装置における異常検出方法 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】液体を吐出する装置および液体を吐出する装置における異常検出方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/19 20060101AFI20220809BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20220809BHJP
【FI】
B41J2/19
B41J2/01 403
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018070392
(22)【出願日】2018-03-30
(65)【公開番号】P2019177689
(43)【公開日】2019-10-17
【審査請求日】2021-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】中村 暦
【審査官】中村 博之
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-177708(JP,A)
【文献】特開2006-167506(JP,A)
【文献】特開平10-026518(JP,A)
【文献】特開2007-118293(JP,A)
【文献】特開2006-051700(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルと、
前記ノズルに連通し液体を収容する圧力室と、
前記圧力室内の液体に圧力を付与する圧力発生素子と、
前記圧力発生素子に単一周期の電圧を検知用波形として入力する駆動波形生成部と、
前記ノズル内の液体の液面に光を照射し、前記検知用波形に起因する前記ノズル内の液面の振動を検知する液面振動検知部と、
検知された前記液面の振動の波形と、前記単一周期の電圧と、に基づいて、前記圧力室若しくは前記ノズル内の異常を判断する判断部と、を備え、
前記判断部は、前記圧力発生素子へ入力した前記単一周期の電圧と、前記液面振動検知部によって検知された前記液面の振動の出力波形とを用いて、前記圧力室の伝達関数を導出し、
導出された前記伝達関数とその正常値との差異に依って、前記圧力室若しくは前記ノズル内の気泡混入等の異常発生を検出する
液体を吐出する装置。
【請求項2】
前記液面振動検知部は、レーザードップラー振動計である
請求項1に記載の液体を吐出する装置。
【請求項3】
前記伝達関数は周波数特性を含む
請求項1又は2に記載の液体を吐出する装置。
【請求項4】
前記判断部は、振幅に対する伝達関数の変化を、正常状態と比較して、異常発生か否かを判断する
請求項に記載の液体を吐出する装置。
【請求項5】
前記判断部は、位相に対する伝達関数の変化を、正常状態と比較して、異常発生か否かを判断する
請求項に記載の液体を吐出する装置。
【請求項6】
前記判断部が異常と判断した際に、前記ノズルの液面に対して異常状態回復動作を実施させる制御部、を備える
請求項1乃至のいずれか一項に記載の液体を吐出する装置。
【請求項7】
ノズルと、前記ノズルに連通し液体を収容する圧力室と、前記圧力室内の液体に圧力を付与する圧力発生素子と、液面振動検知部と、を備える液体を吐出装置の異常検出方法であって、
単一周期の電圧を入力して、前記圧力発生素子を伸縮させるステップと、
液面振動検知部によって、前記ノズル内の液体の液面に光を照射し、検知用波形に起因する前記ノズル内の液面の振動を検知する振動検知ステップと、
検知された前記液面の振動の波形と、入力された前記単一周期の電圧と、に基づいて、前記圧力室若しくは前記ノズル内の異常を判断するステップと、を有し、
前記判断するステップでは、前記圧力発生素子へ入力した前記単一周期の電圧と、前記液面振動検知部によって検知された前記液面の振動の出力波形とを用いて、前記圧力室の伝達関数を導出し、
導出された前記伝達関数とその正常値との差異に依って、前記圧力室若しくは前記ノズル内の気泡混入等の異常発生を検出する
液体を吐出する装置の異常検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を吐出する装置および液体を吐出する装置における異常検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット方式の画像形成装置では、インク滴を吐出させるノズルの内部に気泡が発生し、インク滴が所望の速度と体積で吐出されずに異常画像となる場合がある。
【0003】
これに対して、圧電素子(ピエゾ素子)を用いてノズル内部の残留振動を測定し、気泡発生の有無を検知し回復動作に繋げる技術がある。例えば、特許文献1では、駆動時の圧電素子(ピエゾ素子)とは異なる検出用圧電素子を用いて、インクジェット記録ヘッド内のインクの圧力振動を検出し、その周波数特性から求めた周波数スペクトルに基づいて、ヘッド内部の異常状態を検出することが開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1では、圧電素子の変化の後の残留振動による圧力変動が、圧力室からノズルの液面(メニスカス)に伝播し、さらに液面から圧力室に伝播して戻ってくることによる、圧電素子での電圧変化を検出しているため、信号雑音比(SN比)が小さく、圧力室の気泡の有無を精度良く検出できなかった。また、SN比を上げるために、検出に用いる駆動電圧を上げると、インク滴が吐出してしまうため実施困難という問題があった。
【0005】
そこで、本発明は上記事情に鑑み、圧力室若しくはノズル内に発生した気泡等の異常発生を精度良く検知することができる、液体を吐出する装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明の一態様では、
ノズルと、
前記ノズルに連通し液体を収容する圧力室と、
前記圧力室内の液体に圧力を付与する圧力発生素子と、
前記圧力発生素子に単一周期の電圧を検知用波形として入力する駆動波形生成部と、
前記ノズル内の液体の液面に光を照射し、前記検知用波形に起因する前記ノズル内の液面の振動を検知する液面振動検知部と、
検知された前記液面の振動の波形と、前記単一周期の電圧と、に基づいて、前記圧力室若しくは前記ノズル内の異常を判断する判断部と、を備え、
前記判断部は、前記圧力発生素子へ入力した前記単一周期の電圧と、前記液面振動検知部によって検知された前記液面の振動の出力波形とを用いて、前記圧力室の伝達関数を導出し、
導出された前記伝達関数とその正常値との差異に依って、前記圧力室若しくは前記ノズル内の気泡混入等の異常発生を検出する
液体を吐出する装置、を提供する。
【発明の効果】
【0007】
一態様によれば、液体を吐出する装置において、圧力室若しくはノズル内に発生した気泡等の異常発生を精度良く検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施形態に係る画像形成装置の平面図。
図2図1の画像形成装置に搭載される記録ヘッドの1つの下面図。
図3】本発明の記録ヘッドの液室長手方向の断面図。
図4】本発明の実施形態に係る記録ヘッドと液面振動検知部による振動検知の概略模式図。
図5】本発明の液滴吐出及び振動検知に係るブロック図。
図6図5の伝達関数解析部における機能ブロック図。
図7図5のコントローラ、駆動制御基板、及び検知用基板のハードウェアブロック図。
図8】本発明の液面振動検知で用いる波形であって、(a)圧電素子へ入力する検知用波形を示す図、(b)レーザードップラー振動計によって検知された出力波形を示す図。
図9】比較例の液面振動検知での液室内の振動伝播を示す概略図。
図10】比較例の液面振動検知で用いる、(a)圧電素子へ入力する検知用波形を示す図と、(b)圧電素子によって検知された残留振動の出力波形を示す図。
図11】本発明によって算出される、液室又はノズル内に気泡を含む場合の伝達関数の出力例。
図12】本発明の検査・回復の制御を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明を実施するための形態について説明する。以下、各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
【0010】
<画像形成装置>
まず、本発明の液体吐出装置をシリアル型の画像形成装置に適用する構成について説明する。図1は画像形成装置100の平面説明図である。
【0011】
図1において、装置本体フレーム部材を構成するメイン側板121A,121Bに横架された主ガイド部材であるガイドロッド122と図示しない従ガイド部材(ガイドロッド、ガイドステーなど)とで、キャリッジ6を主走査方向(ガイドロッド長手方向)に摺動自在に保持している。このキャリッジ6は、主走査モータ、駆動プーリ、従動プーリ及びタイミングベルトで構成され、キャリッジ駆動部7に近傍に配置されて、該キャリッジ駆動部7を駆動させる主走査機構によって主走査方向に移動走査される。キャリッジ6は、記録ヘッド2と共に移動する移動部として機能する。
【0012】
このキャリッジ6には、例えば、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の各色のインク滴を吐出する画像形成手段としての液体吐出ヘッドからなるサブタンク一体型の4個の記録ヘッド2が搭載されている。記録ヘッド2は複数のノズルからなるノズル列を主走査方向に対して直交する副走査方向に配列し、滴吐出方向を下方に向けて装着している。
【0013】
一方、キャリッジ6の下側には、給紙カセットから給紙される用紙1を副走査方向に搬送する搬送手段としての搬送ベルト141が配置されている。この搬送ベルト141は、無端状ベルトであり、サブ側板間で回転自在に保持された搬送ローラ142とテンションローラ143との間に掛け渡されて、副走査モータによって搬送ローラ142が回転駆動されることによって矢示方向(ベルト搬送方向)に周回移動される。この構成により、キャリッジ6は搬送ベルト移動方向、即ち、記録媒体搬送方向に対して垂直方向に移動可能である。
【0014】
また、キャリッジ6の主走査方向の印字領域外の一方の端部に維持回復手段8が配置されている。
【0015】
維持回復手段8は、キャリッジ6の移動範囲において、搬送される用紙1とは異なる部分に設けられる。維持回復手段8は、用紙1にインクを吐出していないときに、空吐出として吐出されたインクを回収する、空吐出受け又は/及びキャップであり、これらの下部に、下方から吸引する吸引手段を備えていてもよい。
【0016】
キャリッジ6の主走査方向の印字領域外の他方の端部には、鏡10とレーザードップラー振動計(LDV:Laser Doppler Vibrometer)9が設けられている(下記、レーザードップラー振動計をLDVと省略して説明する場合もある)。
【0017】
本発明では、記録ヘッド2のノズル内のインク状態を調べるために、ノズル表面であるメニスカスを振動させ、鏡10によって屈折されたレーザー光を照射して、LDV9で測定することで、メニスカスの振動が検出される。
【0018】
図2は記録ヘッド2Kを拡大した下面図を示している。図2に示すように、各記録ヘッド2には、複数のノズル(ノズル孔)104が形成され、図1で示したベルト搬送方向に沿って、2列のノズル列LA,LBが形成されている。
【0019】
ノズル列LA,LBには、間隔p毎に複数のノズル104が配列されており、ノズル列LAのノズルと、ノズル列LBのノズルは互いに2/1・pずれた位置に配置されているため、画像の高解像度化が可能である。
【0020】
<ヘッド>
次に、液体吐出ヘッドとして機能する記録ヘッド2(31)の一例について図3を参照して説明する。図3は記録ヘッド2の液室長手方向(ノズル配列方向と直交する方向)に沿う断面説明図である。
【0021】
この記録ヘッド2は、流路板101と、振動板部材102と、ノズル板103とを接合している。これにより、液滴を吐出するノズル104が貫通孔105を介して通じる個別液室106、個別液室106に液体を供給する流体抵抗部107、液体導入部108がそれぞれ形成される。
【0022】
そして、フレーム部材117に形成した共通液室110から振動板部材102に形成されたフィルタ部109を介してインクが液体導入部108に導入され、液体導入部108から流体抵抗部107を介して個別液室106にインクが供給される。なお、「個別液室」は、液室、加圧室、加圧液室、圧力室、個別流路、圧力発生室などと称されるものを含む意味である。
【0023】
流路板101は、SUSなどの金属板を積層して、貫通孔105、個別液室106、流体抵抗部107、液体導入部108などの開口部や溝部をそれぞれ形成している。振動板部材102は各液室106、流体抵抗部107、液体導入部108などの壁面を形成する壁面部材であるとともに、フィルタ部109を形成する部材である。なお、流路板101は、SUSなどの金属板に限らず、シリコン基板を異方性エッチングして形成することもできる。
【0024】
そして、振動板部材102の液室106と反対側の面に個別液室106のインクを加圧してノズル104から液滴を吐出させるエネルギーを発生するアクチュエータ手段(圧力発生手段)としての柱状の積層型の圧電素子112が接合されている。この圧電素子112の一端部はベース部材113に接合され、また、圧電素子112には駆動波形を伝達するFPC115が接続されている。これらによって、圧電アクチュエータ111を構成している。
【0025】
なお、この例では、圧電素子112は積層方向に伸縮させるd33モードで使用しているが、積層方向と直交する方向に伸縮させるd31モードでもよい。
【0026】
このように構成した記録ヘッド2においては、例えば、圧電素子112に印加する電圧を基準電位から下げることによって、図3(a)に示すように、圧電素子112が収縮し、振動板部材102が変形して個別液室106の容積が膨張する。これにより、個別液室106内にインクが流入する。
【0027】
その後、圧電素子112に印加する電圧を上げることによって、図3(b)に示すように、圧電素子112を積層方向に伸長させ、振動板部材102をノズル104方向に変形させて個別液室106の容積を収縮させる。これにより、個別液室106内のインクが加圧され、ノズル104から液滴Lが吐出される。
【0028】
そして、圧電素子112に印加する電圧を基準電位に戻すことによって振動板部材102が初期位置に復元し、液室106が膨張して負圧が発生するので、このとき、共通液室110から液室106内にインクが充填される。そこで、ノズル104のメニスカス面の振動が減衰して安定した後、次の液滴吐出のための動作に移行する。
【0029】
<液面振動検知>
図4は、本発明の実施形態に係る記録ヘッドと液面振動検知部による振動検知の概略模式図である。
【0030】
本発明の一実施形態では、圧電素子112に印加した検知用波形に起因するノズル内の液面の振動を測定する液面振動検知部として、レーザードップラー振動計(LDV)9を用いる。レーザードップラー振動計は、レーザーを2分割して対象物に照射し、その反射後のドップラー遷移によって周波数変調された位相のずれを検出し振動の速度を数値化するものである。
【0031】
図4に示すように、記録ヘッド2のノズル104と対向可能な位置に、鏡10が設けられている。記録ヘッド2のノズル内のインク状態を調べるために、ノズル表面であるメニスカス(液面)を振動させ、鏡10によって屈折されたレーザー光を照射して、LDV9で測定することで、メニスカスの振動が出力波形Voutとして検出される。なお、本例では、レーザー光を反射させ、屈曲させる部材として鏡を例としているが、レーザー光を屈曲させ、反射できる光学部材であれば他の部材であってもよい。
【0032】
本発明では、検知用波形として単一周期波形Vinが印加されることによって圧電素子が周期的に変異し(収縮し又は膨張し)、それによって液室106内のインクには周期的な圧力が発生する。その圧力は、図4の記録ヘッド2のも模式図で示すように、液室106及びノズル104内を伝播し(P)、ノズル104表面のインクのメニスカス(液面)に振動が発生する。
【0033】
そして、レーザードップラー振動計(LDV)9から発光されたレーザー光をノズル104のインクのメニスカス(液面)に照射し、前記液面の振動状態を検出した出力波形(応答出力信号)Voutとして測定する。即ち、印加された単一周期信号Vinに応じて伸縮を続けている圧電素子112から振動が伝播して、振動しているノズルのインクのメニスカスを、レーザードップラー振動計9で測定する。
【0034】
レーザードップラー振動計は、電気信号に変換し増幅できること、及び、非接触測定であることでノイズが少ないため、SN比が高いという特徴がある。そのため、本発明において、レーザードップラー振動計9を用いて検出を行うことで、液室及びノズル内のインクのメニスカス振動(液面振動)を出力波形Voutにより高精度に測定することができる。
【0035】
そして、伝達関数解析部(判断部)12で、入力に用いた単一周期信号Vinと、検知された出力波形Voutから液室106の伝達関数H(s)(=Vout/Vin)を求めて、液室106又はノズル104に気泡等の異常が発生していないかどうか判断する。
【0036】
下記、図4に示す液面振動検知を実現する、制御構成について説明する。
【0037】
<液体吐出・液面振動検知制御>
図5は、本発明の実施形態の画像形成制御に係る全体ブロック図である。
【0038】
画像形成装置100において、画像形成制御に係る構成として、コントローラ4と、駆動制御基板3Kと、記録ヘッド2Kと、LDV9と、検知用基板11と、を有する。図5では、ブラック用ヘッド2Kのノズル列L1用の制御に係る構成について示しているが、ノズル列L2や、他の色のヘッド2M,2C,2Yについても同様の制御構成を有しているものとする。
【0039】
コントローラ4は、画像形成装置100の主制御部であり、システム全体の制御を司る。コントローラ4は、駆動制御基板3Kの上位制御部である。
【0040】
駆動制御基板3及び記録ヘッド2は図1に示す記録ヘッド2又はキャリッジ6内に設けられている。駆動制御基板3Kと記録ヘッド2Kとは、ケーブル29によって、電気的に接続されている。
【0041】
駆動制御基板3は、記録ヘッド2K内の圧電素子112を駆動するための駆動波形、及び、画像データ信号を生成するための回路を搭載したリジッド基板である。
【0042】
記録ヘッド2Kは、圧電素子112を内蔵し、駆動制御基板3Kから送信される駆動波形、及び、画像データ信号に応じて圧電素子を駆動することで、用紙1にインク滴を吐出する。
【0043】
駆動制御基板3は、制御部31と、駆動波形生成部32とを有する。
【0044】
制御部31は、画像データを元にタイミング制御信号と駆動波形データを生成する。
【0045】
駆動波形生成部32は、生成された駆動波形データをDA変換し、電圧増幅、電流増幅する。
【0046】
記録ヘッド2Kは、ヘッド基板21と、圧電素子支持基板23と、圧電素子112とを有する。ヘッド基板21には制御部22が設けられ、圧電素子支持基板23には圧電素子駆動IC24が設けられている。
【0047】
駆動制御基板3の制御部31で生成されたタイミング制御信号等のデジタル信号は、ケーブル29を介して、シリアル通信で、記録ヘッド2に伝送される。そして、ヘッド基板21上の制御部22によってデシリアライズされ、圧電素子支持基板23の圧電素子駆動IC24に入力される。
【0048】
駆動波形生成部32によって生成された駆動波形は、ケーブル29を介して、タイミング制御信号を応じた圧電素子駆動IC24のON/OFFによって圧電素子112に入力される。
【0049】
駆動制御基板3の制御部31は、画像処理部33を有している。画像処理部33は、コントローラ4から受け取った画像データや、印字の基準となるライン同期信号LSを基に、画像処理を行い、補正をする。
【0050】
なお画像処理部33は、図5では、駆動制御基板3の制御部31が有する機能として説明したが、画像処理部33の機能は、制御部31の外であって、例えば、コントローラ4の内部に設けてもよい。
【0051】
また、本発明では、キャリッジ6とは別に、レーザードップラー振動計(LDV)9と検知用基板11とが設けられている。LDV9はレーザー光源91、受光部92、及び処理部93を備えている。検知用基板11は伝達関数解析部12を備えている。
【0052】
LDV9では、基本周波数で振幅変調したレーザー光を物体に照射し、その物体から戻ってきた反射光との位相差を測定することから時間を求め、その時間に光速をかけることで、測定物までの距離を求める。
【0053】
処理部93には、例えば、発光、受光の指示をするCPU94や、レーザー光源91を駆動させるドライバ95や、受光部92で受光した光を増幅する増幅部96が設けられている。
【0054】
検知用基板11の伝達関数解析部12は、LDV9によって検知された出力波形Voutを解析して、液室106又はノズル104で、異常が発生しているか否かを判定する。
【0055】
伝達関数解析部12によって回復動作が必要であると判断された場合に、コントローラ4を介して、キャリッジ6又は維持回復手段8に維持回復動作を行うように指示する。例えば、フラッシングによる回復を行う場合は、記録ヘッド2Kのノズル104からインクを空吐出させる。また、吸引回復を行う場合は、キャリッジ6により、維持回復手段8に対向する位置に記録ヘッド2Kを移動させ、維持回復手段8のキャップを記録ヘッド2Kに嵌めた状態で、下方から吸引することでノズル104に負圧をかけてノズル104内及び液室106のインクを吸い出す。
【0056】
図6は、本発明の伝達関数解析部12における機能ブロック図を示す。
【0057】
伝達関数解析部12は、伝達関数演算部201と、伝達関数変化演算部202と、正常状態記憶部203と、比較判断部204とを実行可能に有している。
【0058】
伝達関数演算部201と、伝達関数変化演算部202と、比較判断部204は、図7のFPGA71によって実現される。正常状態記憶部203はROM72によって実現される。
【0059】
伝達関数演算部201は、圧電素子112に入力した検知用波形Vinと、検知された出力波形Voutからインク液室の伝達関数H(s)を求める。詳しくは、伝達関数H(s)は、出力波形Voutを、印加した検知用波形Vinで割ることで求められる(H(s)=Vout/Vin))。
【0060】
伝達関数変化演算部202は、伝達関数H(s)を、ノズルの周波数特性に基づいて、振幅に対する伝達関数の変化である[H(s)_振幅]と、位相に対する伝達関数の変化である[H(s)_位相]とを演算する。ノズルの周波数特性とは、ノズルの固有振動周波数に相当し、製造段階で決定されるものである。
【0061】
正常状態記憶部203は、正常状態での、振幅に対する伝達関数の変化であるH(s)_振幅、及び/又は、位相に対する伝達関数の変化であるH(s)_位相を、予め記憶しておく。
【0062】
比較判断部204は、検出された振幅に対する伝達関数の変化H(s)_振幅、及び/又は位相に対する伝達関数の変化H(s)_位相と、正常状態記憶部203に記憶された、正常状態のH(s)_振幅、及び/又は正常値のH(s)_位相を比較して、液室又はノズルの状態が、異常がないかどうか判断する。そして比較判断部204は、異常の有無を示す信号を、コントローラ4に入力する。
【0063】
伝達関数解析部12で、異常ありと判断する信号を送信した場合は、コントローラ4が指示することで、維持回復手段8又は記録ヘッド2に、維持回復動作を実施させる。
【0064】
図6では、コントローラ4とは異なる検知用基板11に伝達関数解析部12を設ける例を示しているが、コントローラ4の内部に伝達関数解析部12の機能を設けてもよい。
【0065】
次に、図7を用いて、コントローラ4、駆動制御基板3、及び検知用基板11のハードウェア構成について説明する。図7は、画像形成装置100のコントローラ4、駆動制御基板3、及び検知用基板11のハードウェアブロック図である。
【0066】
図7に示すように、コントローラ4では、CPU(Central Processing Unit)61と、ROM(Read Only Memory)62と、RAM(Random Access Memory)63と、NV(Non Volatile:不揮発性)RAM64と、インターフェース(I/F)65と、IOインターフェース66とが、メモリバス67を介して接続されている。なお、メモリバス67は、複数のバスに分離されていても良い。
【0067】
また、駆動制御基板3では、FPGA51と、ROM52と、RAM53と、NVRAM54と、IOインターフェース55とが、バス56を介して接続されている。
【0068】
コントローラ4において、CPU61は、画像形成装置100全体の制御を司る。ROM62には、各種情報や制御プログラム等が格納される。RAM63は、各種処理が実行されるときに作業領域として使用される。
【0069】
例えば、CPU61は、RAM63を作業領域として利用して、ROM62に格納された各種の制御プログラムを実行し、画像形成装置100における各種動作を制御するための制御指令を出力する。この際CPU61は、FPGA51と通信しながら、FPGA51と協働して画像形成装置1における各種の動作制御を行う。
【0070】
NVRAM64には、装置固有の情報や、更新可能な情報等が格納される。
【0071】
インターフェース65は、ホストコンピュータ等の外部装置との情報のやり取りを仲介する。IOインターフェース66は、装置内の各部との情報のやり取りを仲介する。IOインターフェース66には、駆動制御基板3のIOインターフェース55や、検知用基板11のIOインターフェース75や、操作パネル等の入出力装置、各種センサ等も接続される。各種センサとは、例えば、キャリッジ6のホームポジションセンサや、用紙1の位置を検出する紙位置検出センサ、温度や湿度等の機器内環境を検出するセンサ等である。なお、NVRAM64は、挿抜可能な形態としても良い。
【0072】
また、駆動制御基板3のFPGA51は、画像形成に係る画像データ処理やタイミング制御等を行う。例えば、FPGA51は、RAM63を作業領域として利用して、ROM62に格納された駆動波形を選択し、個別液室106内のインクのメニスカス搖動を指示するための制御指令を出力する。この際FPGA51は、コントローラ4のCPU61と通信しながら、CPU61と協働して画像形成装置1における各種の動作制御を行う。
【0073】
駆動制御基板3のROM52には、共通駆動波形や、検知用波形である単一周期の波形Vinを予め記憶しておく。
【0074】
また、検知用基板11では、FPGA71と、ROM72と、RAM73と、NVRAM74と、IOインターフェース75とが、バス76を介して接続されている。
【0075】
検知用基板11のFPGA71は、図6に示す、伝達関数に関する演算や異常有無の判断を、RAM73を作業領域として利用して、ROM72又はNVRAM74によって実行される正常状態記憶部203を参照して、実行する。
【0076】
なお、図6図7では、コントローラ4を画像形成装置100に設ける例を説明したが、コントローラ4の機能の一部又は全部を、画像形成装置100と接続される上位装置が有していてもよい。
【0077】
<検出波形>
図8は、本発明の振動検知で用いる、印加する入力波形と検出された出力波形を示す。図8において(a)は、圧電素子112へ入力される検知用波形を示し、(b)はドップラー装置9によって検出された出力波形である。図8において、横軸は時刻[μs]、縦軸は、電位[V]を示す。
【0078】
図8(a)に示すように、本発明では、検知用波形として、単一周期信号Vinを圧電素子112に印加する。また、この単一周期信号Vinは、伝達関数解析部12にも印加する。単一周期信号とは例えば正弦波信号であり、図8(a)は正弦波信号での例を示すが、単一周期の波形であれば、三角波や矩形波であってもよい。
【0079】
この単一周期波形Vinが印加されることによって圧電素子112が周期的に変異し(収縮し又は膨張し)、それによってインク液室106内のインクには周期的な圧力が発生する。
【0080】
図8(b)は、レーザードップラー振動計9で測定された出力波形を示す。図8では、位相差検出方式を用いたレーザードップラー装置での波形を示しているため、図8(b)に示す、検出された出力波形Voutは、図8(a)の入力した単一周期の電圧Vinに対して、位相差が発生して、周期的な波形をしている。
【0081】
図8(b)では、出力波形Voutは周期的な波形を示しているため、ノイズ等は発生していない正常状態の検出結果に相当する。
【0082】
<比較例>
ここで、図9及び図10を用いて、振動の検出方法が異なる、比較例に係るメニスカス振動の測定方法について説明する。図9は、比較例の液面振動検知での液室内の振動伝播を示す概略図である。
【0083】
比較例では、ピエゾ駆動電圧Vinに対するインク液室内の応答を、同一若しくは別設置のピエゾ素子を用いて測定する。そのため、測定の際は、圧電素子112で発生した振動を、インクのメニスカスまで伝播させ(P1)、さらに、インクのメニスカスから圧電素子112に伝播してきた振動(P2)を測定していることになる。
【0084】
図10は、比較例の液面振動検知で用いる波形を示すものであって、(a)は圧電素子へ入力する検知用波形を示す図であり、(b)は圧電素子によって検知された残留振動の出力波形を示す図である。
【0085】
比較例では、図10(a)に示すように周期的ではない単発のパルスを圧電素子112へ入力させ、その後、その単発のパルスによる一回の圧電素子の伸縮に起因して発生するインクの残留振動波形を測定している。また、図9に示すように、伝播して圧電素子に起電力として変換された量を測定するため、メニスカスの状態を、戻ってきた伝播によって検出しているため、比較例による出力波形は、図10(b)に示すようにノイズが多く、ノイズSN比が小さい。
【0086】
また、SN比を大きくするため駆動電圧を大きくすると吐出してしまい、印刷動作中では実施困難であった。
【0087】
これに対して、本発明では、レーザードップラー振動計9を用いて、インクのメニスカスを直接測定しているため、圧電素子112で発生した振動に連動しているインクのメニスカスの振動を、液室内部のインクに伝播を戻すことなく、直接測定することができる。
【0088】
<本発明の伝達関数による異常検出>
図11は、本発明のドップラー振動計9で検出した、気泡を含む場合の伝達関数の出力例である。
【0089】
詳しくは、図11では、図8で測定された、入力の単一周期波形Vinと、出力の検出波形Voutに対して、周波数を振った数値を示している。
【0090】
図11において、振幅に対する伝達関数の変化が「H(s)_振幅」であり、位相に対する伝達関数の変化が「H(s)_位相」である。
【0091】
図4に示したように、インク液室若しくはノズル内部に気泡Bが発生すると、検出された出力波形Voutの振幅・位相が変化する。その結果、図11に示すように、他の部分の変化量に対して突出して、伝達関数H(s)が変化している部分が「気泡発生に依る変化」に相当している。
【0092】
この演算結果と、予め気泡の発生の無い正常状態での伝達関数H(s)を測定しておき、この正常なH(s)と比較検証することに依って、気泡が発生しているか否かを判定する。図11を、図10(b)と比較すると、ノイズの発生位置が明確であることがわかる。
【0093】
したがって、インク液室やノズル内に発生する気泡はそのサイズ・位置が変化し気泡を精度良く検知できる周波数が変化する。そのため、図11のように値が推移する場合、気泡が発生していると判定する。
【0094】
このように、本発明では伝達関数H(s)を周波数特性として導出しているため、気泡のサイズ・位置に依らずに精度良く気泡の発生を検知することができる。
【0095】
また、気泡が含まれている、と判定された場合は、フラッシングと呼ばれる回復動作や維持回復手段を用いた吸引動作等のメンテナンスを行うことによって気泡を排除し、気泡による異常画像の発生を回避することが出来る。
【0096】
<検査・回復フロー>
次に、図12を用いて、本発明の検査及び回復のフローについて説明する。図12は、本発明の画像形成装置における記録ヘッドの検査及び回復の制御フローである。
【0097】
S1(ステップ1)において、駆動波形生成部32は、検知用波形としての単一周期波形Vinを、圧電素子112に印加する。この印加により、圧電素子112が伸縮し、これが伝播して、インクのメニスカスが振動する。
【0098】
S2で、レーザードップラー振動計9で、インクのメニスカス振動を検知する。
【0099】
S3で、伝達関数解析部12で、検知されたメニスカス振動の出力波形Voutと、入力した、単一周期波形Vinとを基に、伝達関数H(s)を演算する。
【0100】
S4で、伝達関数H(s)に対して周波数特性を用いて、振幅に対する伝達関数の変化であるH(s)_振幅と、位相に対する伝達関数の変化であるH(s)_位相を算出する。
【0101】
S5で、H(s)_振幅、H(s)_位相が、正常状態と比較したときの変化のズレ量が閾値より小さい場合(NO)、正常吐出状態であると判定する(S6)。
【0102】
S5で、H(s)_振幅、H(s)_位相が、正常状態と比較したときの変化のズレ量が閾値以上の場合(Yes)、気泡混入状態であると判定する(S7)。
【0103】
そして、S8で適宜、回復動作を実施して、フローを終了する。
【0104】
上述のように、本発明では、インク液室若しくはノズル内部に発生した気泡等の異常発生を精度良く検知することができる。そして高精度に検知した検知結果に用いて、適切に維持回復動作を実行することができる。
【0105】
以上、好ましい実施の形態について詳説したが、上述した実施の形態に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施の形態に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0106】
上記例では、本発明の液滴を吐出する装置をシリアル型の画像形成装置する例について説明したが、本発明の構成を、ライン型の画像形成装置に適用してもよい。
【0107】
例えば、上記実施の形態では、本発明に係る記録ヘッドを備えた画像形成装置について説明したが、本発明に係る記録ヘッド及びその制御は、画像形成装置を含めた液体を吐出する装置に広く適用することができる。
【0108】
本願において、「液体を吐出する装置」は、液体吐出ヘッド又は液体吐出ユニットを備え、液体吐出ヘッドを駆動させて、液体を吐出させる装置である。液体を吐出する装置には、液体が付着可能なものに対して液体を吐出することが可能な装置だけでなく、液体を気中や液中に向けて吐出する装置も含まれる。
【0109】
この「液体を吐出する装置」は、液体が付着可能なものの給送、搬送、排紙に係わる手段、その他、前処理装置、後処理装置なども含むことができる。
【0110】
例えば、「液体を吐出する装置」として、インクを吐出させて用紙に画像を形成する装置である画像形成装置、立体造形物(三次元造形物)を造形するために、粉体を層状に形成した粉体層に造形液を吐出させる立体造形装置(三次元造形装置)がある。
【0111】
また、「液体を吐出する装置」は、吐出された液体によって文字、図形等の有意な画像が可視化されるものに限定されるものではない。例えば、それ自体意味を持たないパターン等を形成するもの、三次元像を造形するものも含まれる。
【0112】
上記「液体が付着可能なもの」とは、液体が少なくとも一時的に付着可能なものであって、付着して固着するもの、付着して浸透するものなどを意味する。具体例としては、用紙、記録紙、記録用紙、フィルム、布などの被記録媒体、電子基板、圧電素子などの電子部品、粉体層(粉末層)、臓器モデル、検査用セルなどの媒体であり、特に限定しない限り、液体が付着するすべてのものが含まれる。
【0113】
上記「液体が付着可能なもの」の材質は、紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックスなど液体が一時的でも付着可能であればよい。
【0114】
又、「液体吐出ヘッド」は、使用する圧力発生手段が限定されるものではない。例えば、圧電アクチュエータ(積層型圧電素子を使用するものでもよい。)、発熱抵抗体等の電気熱変換素子を用いるサーマルアクチュエータ、振動板と対向電極からなる静電アクチュエータ等を使用することができる。
【0115】
又、本願の用語における、画像形成、記録、印字、印写、印刷、造形等は何れも同義語とする。
【符号の説明】
【0116】
1 用紙(記録媒体)
2 記録ヘッド(液滴吐出ヘッド)
9 ドップラー振動計(液面振動検知部)
11 検知用基板
12 伝達関数解析部(判断部)
104 ノズル
106 液室(圧力室)
112 圧電素子(圧力発生素子)
B 気泡
【先行技術文献】
【特許文献】
【0117】
【文献】特開2006‐051700号公報
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12