(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】有機物含有水の処理方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/56 20060101AFI20220809BHJP
B01D 21/01 20060101ALI20220809BHJP
【FI】
C02F1/56 K
C02F1/56 E
B01D21/01 107A
(21)【出願番号】P 2018127688
(22)【出願日】2018-07-04
【審査請求日】2021-03-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】武川 将士
(72)【発明者】
【氏名】梅本 麻由
(72)【発明者】
【氏名】竹林 哲
【審査官】片山 真紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-137150(JP,A)
【文献】特開2017-131842(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/52-56
B01D 21/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子径0.022~0.45μmの微細径有機物の濃度が300~6,000mg/Lである有機物含有水に、カチオン性高分子凝集剤を添加して凝集反応させるカチオン凝集工程と、
カチオン凝集処理水を遠心脱水機により脱水する遠心脱水工程と、
遠心脱水工程の分離水を固液分離する固液分離工程と
を含む
有機物含有水の処理方法であって、
前記有機物含有水への前記カチオン性高分子凝集剤の添加量が、1.7~3.0重量%(対TS)であり、
前記遠心脱水機のスクリュー板が軸方向に水を連通可能にする連通孔を有することを特徴とする有機物含有水の処理方法。
【請求項2】
請求項1において、前記遠心脱水工程と固液分離工程の間で、凝結剤を添加して凝集反応させる凝集工程をさらに含む、有機物含有水の処理方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記遠心脱水工程と固液分離又は凝集工程との間で、遠心脱水工程の分離水を生物処理する生物処理工程をさらに含むことを特徴とする有機物含有水の処理方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項において、前記有機物含有水は無機炭素の濃度が1,000mg/L以上であることを特徴とする有機物含有水の処理方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項において、前記有機物含有水はSSの濃度が6,000~40,000mg/Lであることを特徴とする有機物含有水の処理方法。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか1項において、前記カチオン性高分子凝集剤が下記(I)~(III)から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする有機物含有水の処理方法。
(I) ジメチルアミノエチルアクリレートの3級塩又は4級塩
(II) ジメチルアミノエチルメタアクリレートの3級塩又は4級塩
(III) アミジン系水溶性高分子
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高濃度の微細径有機物を含む有機物含有水を効率よくかつ安定的に処理する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有機物含有水の各種の固液分離を含む排水処理においては、一般的に浮遊懸濁物質(SS)を考慮した条件で処理がなされている。
【0003】
ところが、SS濃度に適合する設備で排水処理を行ったにも拘わらず以下のような問題が生じる場合があった。
(1) 凝集プロセスの表面荷電中和によりSSとは別に微細有機物が凝集フロックとして析出し、凝集沈殿や凝集加圧浮上プロセスで許容できる負荷を超えてしまう(SSが越流してしまう)。
(2) 凝集プロセスで凝結剤を消費し、薬品費が高額になる。
(3) 重力沈降分離プロセスの場合は、おそらくは微細径の有機物が大粒径の固形物の沈降に干渉する結果、沈降速度が遅くなり、固液分離障害を引き起こす場合がある。この原因としては、微細径の有機物の存在により、被処理水の粘性が上がる結果、大粒径の固形物の沈降が阻害されることが推定される。
(4) 膜分離プロセスの場合は早期に閉塞に到る。
(5) 生物反応槽においては発泡が起こる。
【0004】
上記の問題は、いずれも有機物含有水に含まれるSSとして検出されない微細径の有機物が原因である場合が多いことから、この微細径の有機物による影響を防止するために、排水処理の前段で有機物含有水に無機系あるいは有機系の凝結剤を添加して凝集フロックを予め除去することが考えられる。しかし、この方法では、処理する有機物含有水にSSが高濃度で含まれる場合や、無機炭素濃度(IC)が高い場合には、凝結剤がそれらの物質によっても消費されるため、薬品費が高額になることや汚泥発生量が著しく増加することが考えられる。
微細径有機物を、排水処理の後段で凝集沈殿又は加圧浮上により除去しようとすると、その前段の排水処理工程例えば、各種生物処理プロセスなどにおける固液分離障害や、発泡、膜閉塞の問題を防止することができない。
【0005】
なお、本発明で用いるアミジン系水溶性高分子等のカチオン性高分子凝集剤は、主として汚泥脱水剤として用いられる(例えば、特許文献1,2)。また、通常、その他のカチオン性高分子凝集剤も、同様に汚泥脱水剤として用いられる。一部では、凝結剤による凝集処理水中の凝集フロックの粗大化にも使用されているが、特定の微細径有機物の凝集処理に用いることは知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平8-155500号公報
【文献】特開2017-205748号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記従来の問題点を解決し、高濃度の微細径有機物を含む有機物含有水に対して安定かつ効率的な排水処理を行うことができる有機物含有水の処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく検討を重ね、特定の粒子径範囲の微細径有機物を特定の濃度で含む有機物含有水に対して、カチオン性高分子凝集剤を添加して凝集反応させ、カチオン凝集処理水を遠心脱水機で脱水処理することで、排水処理を阻害する微細径有機物を効率的に除去することができ、その後の固液分離を含む排水処理において、前述の(1)~(5)等の問題を引き起こすことなく、安定かつ効率的な処理を行えることを見出した。
【0009】
即ち、本発明は以下を要旨とする。
【0010】
[1] 粒子径0.022~0.45μmの微細径有機物の濃度が300~6,000mg/Lである有機物含有水に、カチオン性高分子凝集剤を添加して凝集反応させるカチオン凝集工程と、カチオン凝集処理水を遠心脱水機により脱水する遠心脱水工程と、遠心脱水工程の分離水を固液分離する固液分離工程とを含むことを特徴とする有機物含有水の処理方法。
【0011】
[2] [1]において、前記遠心脱水工程と固液分離工程の間で、凝結剤を添加して凝集反応させる凝集工程をさらに含む、有機物含有水の処理方法。
【0012】
[3] [1]又は[2]において、前記遠心脱水工程と固液分離又は凝集工程との間で、遠心脱水工程の分離水を生物処理する生物処理工程をさらに含むことを特徴とする有機物含有水の処理方法。
【0013】
[4] [1]~[3]のいずれかにおいて、前記有機物含有水は無機炭素の濃度が1,000mg/L以上であることを特徴とする有機物含有水の処理方法。
【0014】
[5] [1]~[4]のいずれかにおいて、前記有機物含有水はSSの濃度が6,000~40,000mg/Lであることを特徴とする有機物含有水の処理方法。
【0015】
[6] [1]~[5]のいずれかにおいて、前記有機物含有水への前記カチオン性高分子凝集剤の添加量が1.7~3.0重量%(対TS)であることを特徴とする有機物含有水の処理方法。
【0016】
[7] [1]~[6]のいずれかにおいて、前記カチオン性高分子凝集剤が下記(I)~(III)から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする有機物含有水の処理方法。
(I) ジメチルアミノエチルアクリレートの3級塩又は4級塩
(II) ジメチルアミノエチルメタアクリレートの3級塩又は4級塩
(III) アミジン系水溶性高分子
【0017】
[8] [1]~[7]のいずれかにおいて、前記遠心脱水機のスクリュー板が軸方向に水を連通可能にする連通孔を有することを特徴とする有機物含有水の処理方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、固液分離を含む排水処理の阻害要因である微細径有機物を予め高度に除去することで、高濃度の微細径有機物を含む有機物含有水を安定かつ効率的に処理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の有機物含有水の処理方法による排水処理の実施の形態を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明の有機物含有水の処理方法の実施の形態について説明する。
【0021】
<有機物含有水>
本発明で処理対象水とする有機物含有水は、粒子径0.022~0.45μmの微細径有機物の濃度が300~6,000mg/Lのものであり、下記分析試験で定義される。
【0022】
<分析試験>
有機物含有水を、孔径0.45μm、0.022μmのろ過フィルタでそれぞれろ過して得た各ろ液に、poly-DADMAC(ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド)溶液を添加して混合した試料液の液量(ただし、添加したpoly-DADMAC溶液の量は含めない)に対するVSSを測定し、それぞれVSS1、VSS2とし、VSSの差分ΔVSS(=VSS1-VSS2)を粒子径0.022~0.45μmの微細径有機物の濃度とする。
本発明で除去対象とする微細径有機物は、一般的なSS分析では測定できないが、上記の分析試験であれば分析することができる。
【0023】
上記分析試験は、具体的には以下の手順で実施される。
<VSS1の測定>
(1) 排水を0.45μmフィルターでろ過し、ろ液を回収する
(2) 流動電位の滴定により荷電中和に必要なpoly-DADMACの量を測定する。
(3) (2)で求めたpoly-DADMAC量を添加し凝集により析出した固形物のVSSをJIS K0102に規定する方法に従い測定し、VSS1とする(ただし、添加したpoly-DADMAC溶液の量は含めない)。
<VSS2の測定>
(4) 0.022μmフィルターを用い、上記(1)~(3)と同様の操作を行いVSS2を測定する。
上記で測定したVSS1とVSS2の差分ΔVSSを指標とし、この値が300~6,000mg/Lの範囲にある有機物含有水に対して本発明が適用される。即ち、本発明における処理対象水は、0.45μmフィルターを通過し、0.022μmフィルターで捕捉される範囲にあるアニオン性の微細径有機物を一定量含む排水である。
【0024】
なお、ここで、ΔVSSが300mg/L未満の有機物含有水であれば、前述の排水処理における問題を引き起こすことはなく、本発明を適用するには及ばない。ΔVSSが6,000mg/Lを超えるような高濃度有機物含有水では、本発明の方法を実施してもなお高い濃度で微細径有機物が残存してしまうため、脱水の前段にて凝結剤を添加するなどの対応が必要となる。本発明は特に、ΔVSSが1,000~4,000mg/Lの有機物含有水に有効である。
【0025】
また、本発明で処理対象水となる有機物含有水は、高濃度にSSや無機炭素(IC)を含んでいる場合のほうが、従来法に従って、単に凝結剤を添加して凝集させたフロックを脱水処理する場合と比較して、コスト的に有利であるため有効である。よって、本発明の処理対象水は、SS濃度が6,000~50,000mg/L、特に10,000~40,000mg/Lで、IC濃度が1,000mg/L以上、例えば1,200~4,000mg/Lの有機物含有水であることが好ましい。
【0026】
本発明の実施に当っては、予備試験で事前に、或いは通常運転中に定期的に被処理水の微細径有機物の濃度と後述の全蒸発残留物(TS)濃度を測定して、カチオン性高分子凝集剤の添加量等の処理条件を調整することが好ましい。
【0027】
<排水処理工程>
本発明で対象となる固液分離を含む排水処理としては、カチオン性高分子凝集剤を添加して凝集反応させるカチオン凝集工程と、カチオン凝集処理水を遠心脱水機により脱水する遠心脱水工程と、遠心脱水工程の分離水を固液分離する固液分離工程とを含むものであればよく、特に制限はないが、例えば
図1(a)~(i)に示すような処理プロセスが挙げられる。
【0028】
図1(a)は、原水(有機物含有水)にカチオン性高分子凝集剤を添加して凝集処理した後、カチオン凝集処理水を遠心脱水機で遠心脱水し、脱水分離水に凝結剤を添加し、次いでアニオン性高分子凝集剤を添加して凝集処理し、凝集処理水を沈殿槽で固液分離するものである。
図1(b)は、原水(有機物含有水)にカチオン性高分子凝集剤を添加して凝集処理した後、カチオン凝集処理水を遠心脱水機で遠心脱水し、脱水分離水を沈殿槽で固液分離するものである。
図1(c)は、原水(有機物含有水)にカチオン性高分子凝集剤を添加して凝集処理した後、カチオン凝集処理水を遠心脱水機で遠心脱水し、脱水分離水を生物処理し、生物処理水に凝結剤を添加し、次いでアニオン性高分子凝集剤を添加して凝集処理し、凝集処理水を沈殿槽で固液分離するものである。
図1(d)は、原水(有機物含有水)にカチオン性高分子凝集剤を添加して凝集処理した後、カチオン凝集処理水を遠心脱水機で遠心脱水し、脱水分離水に凝結剤を添加し、次いでアニオン性高分子凝集剤を添加して凝集処理し、凝集処理水を加圧浮上槽で固液分離するものである。
図1(e)は、原水(有機物含有水)にカチオン性高分子凝集剤を添加して凝集処理した後、カチオン凝集処理水を遠心脱水機で遠心脱水し、脱水分離水を生物処理し、生物処理水に凝結剤を添加し、次いでアニオン性高分子凝集剤を添加して凝集処理し、凝集処理水を加圧浮上槽で固液分離するものである。
図1(f)は、原水(有機物含有水)にカチオン性高分子凝集剤を添加して凝集処理した後、カチオン凝集処理水を遠心脱水機で遠心脱水し、脱水分離水に凝結剤を添加し、次いでアニオン性高分子凝集剤を添加して凝集処理し、凝集処理水を膜ろ過装置で固液分離するものである。
図1(g)は、原水(有機物含有水)にカチオン性高分子凝集剤を添加して凝集処理した後、カチオン凝集処理水を遠心脱水機で遠心脱水し、脱水分離水を生物処理し、生物処理水を槽外型膜ろ過装置(槽外MBR)で固液分離するものである。
図1(h)は、原水(有機物含有水)にカチオン性高分子凝集剤を添加して凝集処理した後、カチオン凝集処理水を遠心脱水機で遠心脱水し、脱水分離水を槽内型膜ろ過式生物処理槽(槽内MBR)で生物処理と生物処理水の固液分離を行うものである。
図1(i)は、原水(有機物含有水)にカチオン性高分子凝集剤を添加して凝集処理した後、カチオン凝集処理水を遠心脱水機で遠心脱水し、脱水分離水をGSSなどの槽内分離機構を有する生物処理槽で生物処理と固液分離を行うものである。
【0029】
<カチオン性高分子凝集剤>
本発明で用いるカチオン性高分子凝集剤としては、微細径有機物の凝集効果に優れることから、特に以下の(I)~(III)のようなカチオン性高分子凝集剤を用いることが好ましい。
(I) ジメチルアミノエチルアクリレートの3級塩又は4級塩(DAA系)
(II) ジメチルアミノエチルメタアクリレートの3級塩又は4級塩(DAM系)
(III) アミジン系水溶性高分子
上記アミジン系水溶性高分子としては、アクリロニトリル・N-ビニルホルムアミド共重合物の部分加水分解物が好ましいものとして挙げられる。
【0030】
上記のカチオン性高分子凝集剤は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0031】
カチオン性高分子凝集剤の添加量は、処理対象水の有機物含有水の全蒸発残留物(TS)に対して1.7~3.0重量%、特に2.0~2.5重量%とすることが好ましい。カチオン性高分子凝集剤の添加量が上記下限よりも少ないと、微細径有機物を十分に除去した脱水分離水を得ることができない場合がある。カチオン性高分子凝集剤の添加量が上記上限よりも多いと余剰のカチオン性高分子凝集剤が脱水分離液に残り粘性が増して固液分離障害を起こしたり、脱水ケーキの粘性が上がる等のトラブルを起こす。
【0032】
本発明では、上記のカチオン性高分子凝集剤をこのような添加量で遠心脱水機への汚泥供給管に添加した後、汚泥供給管内、または遠心脱水機内で汚泥とカチオン性高分子凝集剤とが混合することにより、凝集反応させることができる。
カチオン性高分子凝集剤は汚泥供給管の遠心脱水機の手前10~1mの位置に注入することが好ましい。
【0033】
なお、ここで有機物含有水の全蒸発残留物(TS)はJIS K1020に規定された測定方法により測定することができる。
【0034】
<遠心脱水>
カチオン凝集処理水は、比重差で汚泥と水を分離する遠心脱水機により遠心脱水する。ここで、遠心脱水機ではなく、スクリュープレス脱水機を用いた場合は、微細径の有機物で形成する凝集フロックのフロック強度を高めるためにカチオン性高分子凝集剤添加量を多く必要とする問題がある。また、ベルトプレス脱水機を用いると、微細径の有機物に由来する凝集フロックによる閉塞の恐れがあり、洗浄の問題が大きい。
これに対して、遠心脱水機であれば、このような問題もなく、効率的に分離水を得ることができる。
【0035】
本発明においては、比重が小さい微細径有機物を遠心脱水機で分離する必要があることから、遠心脱水機内の流速が局所的に速くなることを避けるために、遠心脱水機のスクリュー板に、軸方向に水を連通可能にする連通孔を設けることが好ましい。
さらには、スクリュー板の回転軸中心側に連通孔を設け、脱水機本体内壁側は連通孔を設けず汚泥を掻き出せるような構造とすることが好ましい。
【0036】
<凝集処理>
脱水分離水は、これをそのまま固液分離してもよいが、固液分離に先立ち凝集処理を行ってもよい(
図1(a),(c)~(f))。
凝集処理は通常の方法を用いることができ、例えば凝結剤を添加して凝集反応させて凝集フロックを形成した後にアニオン性高分子凝集剤により凝集フロックを粗大化するという一般的な手法を採用することができる。
ただし、やや小粒径のSSのリークが許容される系では、無凝集で固液分離することもできる。
また、後述のように生物処理を組み合わせて固液分離を行う場合には、凝集処理を行わなくてもよい場合もある。
【0037】
<生物処理>
脱水分離水は、固液分離に先立ち生物処理を行ってもよい(
図1(c),
図1(e),
図1(g)~(i))。
ただし、本発明で処理する有機物含有水中の微細径の有機物は特に生物処理由来の原水である場合が想定され、この場合は生物代謝物や生物処理残留部であるから生物難分解性であって、一般的には生物処理を行っても微細径の有機物は除去されずに残留するものと推定される。
【0038】
生物処理を行う場合、その処理形態は好気性生物処理、嫌気性生物処理のいずれでもよいし、浮上法、グラニュール法、担体法のいずれでもよい。また、後段の固液分離も沈殿槽、加圧浮上、槽内/外膜MBR、槽内GSSなど特に限定されない。
【0039】
<固液分離>
脱水分離水の固液分離、脱水分離水の凝集処理水の固液分離、脱水分離水の生物処理水の固液分離、脱水分離水を生物処理した後凝集処理した水の固液分離は、
図1(a)~(c)のように沈殿槽を用いる沈降分離でもよく、
図1(d),(e)のように浮上分離でもよく、
図1(f)~(h)のように膜分離(膜ろ過)でもよく、浮遊汚泥、グラニュール、担体といったSSを槽内で分離するGSSなどの分離機構で行ってもよい。
図1(g),(h),(i)のフローでは、固液分離手段を別途設けず、生物処理槽内または槽外膜との間で循環しながら固液分離を行える。
【0040】
<推定される作用効果>
本発明によれば、固液分離を含む排水処理の阻害要因である微細径有機物を予め高度に除去することで、以下のような作用効果のもとに、高濃度の微細径有機物を含む有機物含有水を安定かつ効率的に処理することができると推定される。
【0041】
・後段の排水処理に凝集プロセスがある場合(例えば
図1(a)、(c)~(f))
排水処理設備に凝集沈殿や凝集加圧浮上といった凝集処理が存在すると、凝結剤の添加によって凝集フロックを形成する。すなわち、これらの凝集沈殿プロセスなどで微細径の有機物が凝集して粒径1μm以上の固形有機物(いわゆるSS)となってSSが過剰量となり固液分離への負荷が過大となってしまう、微細径の有機物が凝結剤を消費するため薬品使用量が過剰量となってしまうといった課題があった。
しかし、本発明により、事前に微細径の有機物を除去することによって、凝集処理で生成される凝集フロックの量が減少し、SS負荷が低減され、上記課題が解決される。
【0042】
・後段に重力沈降分離プロセスがある場合(例えば
図1(a)~(c)、(i))
凝集プロセスの有無を問わず、沈殿槽や気固液分離装置(GSS)などの沈降分離プロセスの場合でも、微細径の有機物が沈降性の高い固形物の沈降に干渉して沈降を阻害し、微細径の有機物を含まない被処理水の場合と比較して沈降速度が遅くなってしまい、固液分離障害を引き起こすという課題があった。
しかし、本発明により、事前に微細径の有機物を除去することによって、固形物との干渉によって起こる沈降速度低下が抑制され、固液分離障害の課題が解決される。
【0043】
・後段に膜分離プロセスがある場合(例えば
図1(f)~(h))
微細径の有機物が、膜閉塞の原因となる懸念があった。
しかし、本発明により、事前に微細径の有機物を除去することによって、膜フラックスの低下速度は緩やかになり、膜洗浄の頻度を低減でき、課題が解決される。
【0044】
・後段に生物処理プロセスがある場合(例えば
図1(c)、(e)、(g)~(i))
微細径有機物は、曝気槽などにおける発泡の原因になるという課題があった。
しかし、本発明により、事前に微細径の有機物を除去することによって、発泡が抑えられ、課題が解決される。
【実施例】
【0045】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0046】
なお、以下の実施例においては、嫌気性消化液のうち微細径の有機物を高濃度で含み、粒子径0.022~0.45μmの微細径有機物濃度ΔVSSが3,170mg/Lで、全蒸発残留分(TS)が35,000mg/Lのものを原水(有機物含有水)として用いた。ここで、微細径の有機物は生分解性が低いため生物処理では除去されず残留し、凝集プロセスでフロックを形成して析出し、SS負荷を高くする原因となっていた。なお、この有機物含有水のIC濃度は1,180mg/L、SS濃度は10,500mg/Lと高く、排水処理の前段で凝結剤を添加し、脱水機を用いて微細径の有機物を除去するには薬品要求量が高かった。
【0047】
また、カチオン性高分子凝集剤としては、以下のものを用いた。
DAA系カチオン性高分子凝集剤:DAA(80モル%)/AAm(20モル%)共重合体
DAM系カチオン性高分子凝集剤:DAM(80モル%)/AAm(20モル%)共重合体
(DAA:ジメチルアミノエチルアクリレートのメチルクロリド四級化物、
DAM:ジメチルアミノエチルアクリレートのメチルクロリド四級化物、
AAm:アクリルアミド)
アミジン系カチオン性高分子凝集剤:アミジン単位67モル%、ビニルアミン単位11モル%、N-ビニルホルムアミド単位5モル%及びアクリロニトリル単位17モル%を有する合成ポリマー
【0048】
[実施例1-1~1-6]
被処理水である上記の有機物含有水にDAA系カチオン性高分子凝集剤を表1に示す添加量で、脱水機前の汚泥供給配管にライン注入して凝集反応させた後、得られたカチオン凝集処理水について、スクリューコンベア形状として回転軸中心部のスクリュー板が連通構造となっている遠心脱水機を用いて遠心脱水を行った。処理流量は4m3/hとした。
【0049】
遠心脱水機で得られた脱水分離水について、前述の分析試験により粒子径0.022~0.45μmの微細径有機物の濃度ΔVSSを測定し、結果を表1に示した。
また、遠心脱水機に供給するカチオン凝集処理水中のSS濃度、および遠心脱水機から得られた分離液(脱水分離水)中のSS濃度を測定することによりSS回収率を算出し、結果を表1に示した。
【0050】
なお、以下の表1~3における評価の項目の評価基準は以下の通りである。
<評価基準>
△:1,500<ΔVSS≦2,500
○:1,000<ΔVSS≦1,500
◎:ΔVSS≦1,000
【0051】
【0052】
表1から次のことが分かる。
カチオン性高分子凝集剤を添加したところ、いずれの場合でも脱水分離水の微細径有機物の濃度を低減でき、特にTSあたりの添加量(重量%)が1.7重量%(対TS)以上では、脱水分離水の微細径有機物濃度を著しく低減できることが確認され、2.0重量%(対TS)以上でさらによい効果が得られることが確認された。
【0053】
[実施例2-1~2-3]
カチオン性高分子凝集剤の種類をアミジン系カチオン性高分子凝集剤に替えたこと以外は、実施例1-3、1-5、1-6と同様に遠心脱水機による遠心脱水を行い、結果を表2に示した。
【0054】
[実施例3-1~3-3]
カチオン性高分子凝集剤の種類をDAM系カチオン性高分子凝集剤に替えたこと以外は、実施例1-3、1-5、1-6と同様に遠心脱水機による遠心脱水を行い、結果を表2に示した。
【0055】
【0056】
表2から次のことが分かる。
いずれの場合もカチオン性高分子凝集剤の種類によらず脱水分離水の微細径有機物の濃度を低減でき、またDAA系と同様に、TSあたりの添加量(重量%)が1.7重量%(対TS)以上では、脱水分離水の微細径有機物濃度を著しく低減できることが確認され、2.0重量%(対TS)以上でさらによい効果が得られることが確認された。
【0057】
[実施例4-1、4-2]
スクリューコンベア形状として回転軸中心部のスクリュー板に連通孔を有しない脱水機を用いたこと以外は、実施例1-3、1-4と同様に遠心脱水機による遠心脱水を行い、結果を実施例1-3、1-4の結果と共に表3に示した。
【0058】
【0059】
表3から次のことが分かる。
スクリュー板に連通孔がないスクリューコンベア形状を用いた一般的な遠心脱水機によっても脱水分離水の微細径有機物の濃度を低減できるが、連通孔を有するスクリューコンベア形状を用いた方が飛躍的に脱水分離水の微細径有機物の濃度を低減できることが確認された。