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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】交換レンズ及びカメラボディ
(51)【国際特許分類】
   G03B 5/00 20210101AFI20220809BHJP
   G03B 17/14 20210101ALI20220809BHJP
   H04N 5/232 20060101ALI20220809BHJP
   H04N 5/225 20060101ALI20220809BHJP
【FI】
G03B5/00 J
G03B17/14
H04N5/232 030
H04N5/232 480
H04N5/225 400
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2018133505
(22)【出願日】2018-07-13
(65)【公開番号】P2020012898
(43)【公開日】2020-01-23
【審査請求日】2020-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000004112
【氏名又は名称】株式会社ニコン
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(74)【代理人】
【識別番号】100142147
【弁理士】
【氏名又は名称】本木 久美子
(72)【発明者】
【氏名】三家本 英志
【審査官】登丸 久寿
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-102745(JP,A)
【文献】特開2016-114792(JP,A)
【文献】特開2016-145856(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03B 5/00
G03B 17/14
H04N 5/232
H04N 5/225
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カメラボディに装着可能な交換レンズであって、
被写体像を形成し、前記被写体像のブレを補正するブレ補正光学系を有する光学系と、
前記光学系により形成された前記被写体像を撮像して生成された画像から算出された動きベクトルと、前記カメラボディの前記動きベクトルの演算レベルを示す情報、周期的に行われる通信により前記カメラボディから受信する受信部と、
前記ブレ補正光学系の移動を制御する制御部と、を備え
前記受信部は、前記周期的に行われる通信において、前記動きベクトルを受信しない場合には、前記動きベクトルが演算中であることを示す情報を受信し、
前記演算レベルを示す情報は、予め設定された複数のレベルのうちのいずれのレベルに属するかを示す数値である交換レンズ。
【請求項2】
請求項1に記載の交換レンズにおいて、
前記演算レベルを示す情報は、前記動きベクトルの演算における前記カメラボディの性能のレベルを示し、前記カメラボディを構成する複数の要素に基づいて決定される数値である交換レンズ。
【請求項3】
請求項2に記載の交換レンズにおいて、
前記演算レベルを示す情報は、前記カメラボディのプロセッサ及び撮像素子の画素数に基づいて決定される数値である交換レンズ。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の交換レンズにおいて、
前記制御部は、前記演算レベルと前記光学系の焦点距離とに基づいて、前記ブレ補正光学系の制御に前記動きベクトルを用いるか否かを決定する交換レンズ。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の交換レンズにおいて、
前記動きベクトルを用いた前記ブレ補正光学系の制御において、前記ブレ補正光学系の移動量は、前記演算レベルを示す情報に依らない交換レンズ。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の交換レンズにおいて、
前記予め決定された複数のレベルのそれぞれに対して、前記動きベクトルを用いて前記ブレ補正光学系の制御を行う最小の焦点距離を記憶する記憶部を有する交換レンズ。
【請求項7】
請求項4から6のいずれか一項に記載の交換レンズにおいて、
前記制御部は、前記演算レベルが高いほど、短い焦点距離において前記動きベクトルを用いる制御を行う交換レンズ。
【請求項8】
請求項1から6のいずれか一項に記載の交換レンズにおいて、
前記制御部は、
ブレを検出するブレ検出部から出力されるブレ検出信号の基準値を算出する基準値演算部と、
前記基準値を前記動きベクトルに基づいて補正した補正基準値を算出する基準値補正部と、
を備える交換レンズ。
【請求項9】
請求項に記載の交換レンズにおいて、
前記制御部は、前記補正基準値と前記ブレ検出信号とから、前記ブレ補正光学系の駆動目標位置を算出する目標位置演算部を有し、
前記駆動目標位置に前記ブレ補正光学系を駆動する駆動部を有する交換レンズ。
【請求項10】
請求項に記載の交換レンズにおいて、
前記制御部は、前記駆動目標位置を前記光学系の光軸に近い位置に補正する目標位置補正部を有する交換レンズ。
【請求項11】
請求項10に記載の交換レンズにおいて、
前記制御部は、前記駆動目標位置を前記光学系の光軸に近い位置に補正する補正量に基づいて、前記動きベクトルを補正した補正動きベクトルを算出する動きベクトル補正部を有する交換レンズ。
【請求項12】
請求項1に記載の交換レンズにおいて、
前記基準値補正部は、前記動きベクトルとして前記補正動きベクトルを使用して、前記基準値を補正した前記補正基準値を算出する交換レンズ。
【請求項13】
請求項1に記載の交換レンズにおいて、
前記目標位置演算部は、前記動きベクトルとして前記補正動きベクトルを使用して、前記基準値を補正した前記補正基準値と前記ブレ検出信号とから、前記ブレ補正光学系の前記駆動目標位置を算出し、
前記駆動部は、前記駆動目標位置に前記ブレ補正光学系を駆動する交換レンズ。
【請求項14】
請求項から1の何れか一項に記載の交換レンズにおいて、
前記受信部は、前記動きベクトルを算出した前記画像が撮像された時刻と前記動きベクトルが前記カメラボディから前記交換レンズに送信された時刻の差である、動きベクトル検出遅れ時間を前記カメラボディから受信し、
前記基準値補正部は、前記動きベクトル検出遅れ時間前に算出した、前記基準値を、受信した前記動きベクトルに基づいて補正する交換レンズ。
【請求項15】
請求項から1のいずれか一項に記載の交換レンズにおいて、
前記動きベクトルの情報に基づいて前記基準値を補正することを示す情報を前記カメラボディに送信するレンズ側送信部を有する交換レンズ。
【請求項16】
ブレ補正光学系を有する交換レンズに装着可能なカメラボディであって、前記交換レンズにより形成された被写体像を撮像する撮像部と、
前記撮像部で撮像して生成された画像から動きベクトルを算出する動きベクトル算出部と、
前記カメラボディの前記動きベクトルの演算レベルを示す情報を記憶する記憶部と、
前記ブレ補正光学系の制御に使用される前記動きベクトルと前記演算レベルを示す情報とを、周期的に行われる通信により前記交換レンズに送信する送信部と、を備え、
前記送信部は、前記周期的に行われる通信において、前記動きベクトルを送信しない場合には、前記動きベクトルが演算中であることを示す情報を送信し、
前記演算レベルを示す情報は、予め設定された複数のレベルのうちのいずれのレベルに属するかを示す数値であるカメラボディ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交換レンズ及びカメラボディに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、撮影した画像から画像の動きベクトル情報を検出し、この動きベクトル情報を、ブレ補正レンズの目標駆動位置の演算にフィードバックすることにより、光学的ブレ補正の防振性能を高める技術が提案されている(特許文献1参照)。従来から、ブレ補正性能の向上が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平10-145662号公報
【発明の概要】
【0004】
本発明の交換レンズは、カメラボディに装着可能な交換レンズであって、被写体像を形成し、前記被写体像のブレを補正するブレ補正光学系を有する光学系と、前記光学系により形成された前記被写体像を撮像して生成された画像から算出された動きベクトルと、前記カメラボディの前記動きベクトルの演算レベルを示す情報、周期的に行われる通信により前記カメラボディから受信する受信部と、前記ブレ補正光学系の移動を制御する制御部と、を備え、前記受信部は、前記周期的に行われる通信において、前記動きベクトルを受信しない場合には、前記動きベクトルが演算中であることを示す情報を受信し、前記演算レベルを示す情報は、予め設定された複数のレベルのうちのいずれのレベルに属するかを示す数値である構成とした。
【0005】
さらに、本発明のカメラボディは、ブレ補正光学系を有する交換レンズに装着可能なカメラボディであって、前記交換レンズにより形成された被写体像を撮像する撮像部と、前記撮像部で撮像して生成された画像から動きベクトルを算出する動きベクトル算出部と、前記カメラボディの前記動きベクトルの演算レベルを示す情報を記憶する記憶部と、前記ブレ補正光学系の制御に使用される前記動きベクトルと前記演算レベルを示す情報とを、周期的に行われる通信により前記交換レンズに送信する送信部と、を備え、前記送信部は、前記周期的に行われる通信において、前記動きベクトルを送信しない場合には、前記動きベクトルが演算中であることを示す情報を送信し、前記演算レベルを示す情報は、予め設定された複数のレベルのうちのいずれのレベルに属するかを示す数値である構成とした。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】カメラシステムを模式的に示す断面図である。
図2】カメラシステムに含まれるブレ補正機構を示すブロック図である。
図3】動きベクトル演算部での動きベクトル情報の演算タイミングを説明する図である。
図4】ブレ補正機構の動作を示したフローチャートである。
図5図4の基準値補正ステップの詳細なフローチャートである。
図6】(a)は、Yaw方向の第2基準値を示したグラフであり、(b)はX方向の動きベクトルの符号を含む値を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、図面等を参照して、実施形態の交換レンズ、カメラボディ及びカメラシステムについて説明する。図1は、カメラシステム1を模式的に示す断面図である。図2は、カメラシステム1に含まれるブレ補正に関係する部材・回路等を示すブレ補正機構100を示すブロック図である。
本実施形態においては、図1に示すように、3次元直交座標系が設定される。具体的には、交換レンズ1Bの光軸に平行な軸をZ軸とし、Z軸に垂直な平面内でZ軸と交わり、撮像素子の長手方向をX軸(図1では紙面に対して垂直方向)とし、Z軸に垂直な平面内でZ軸とX軸とに垂直に交わる軸をY軸とする。Z軸を中心とする回転方向をRoll方向、Y軸を中心とする回転方向をYaw方向、X軸を中心とする回転方向をPitch方向とする。
【0008】
(カメラシステム1)
カメラシステム1は、カメラボディ1Aと、このカメラボディ1Aに対して着脱可能に装着される交換レンズ1Bとを備える。
【0009】
(カメラボディ1A)
カメラボディ1Aは、撮像素子3、記録媒体13、ボディ記憶部14、レリーズスイッチ17、表示部18、シャッタ20、及び交換レンズ1Bとの通信用のボディ側送受信部21及びボディCPU2Aを備える。なお、ボディ記憶部14、ボディ側送受信部21、撮像素子3、及びボディCPU2Aは、ブレ補正機構100の一部である。
【0010】
ズームレンズ4,フォーカスレンズ5,ブレ補正レンズ6、絞り10を有する交換レンズ1Bの撮影レンズ16により形成された被写体像は撮像素子3で撮像される。撮像素子3は、被写体からの光を光電変換する光電変換部を有する複数の画素で構成され、光電変換され出力された信号に基づいて画像信号を出力(以下撮像という)する。撮像素子3は例えばCCD、CMOSなどの受光素子により構成されている。ボディCPU2Aに含まれる後述の信号処理部40で、撮像素子3から出力された画像信号に各種画像処理が施され画像データが生成される。
また、撮像素子3による画像信号の出力、及び信号処理部40による画像データの生成を所定のタイミングで繰り返し行い、生成された画像データに基づく画像はライブビュー画像として表示部で連続的に表示される。
【0011】
記録媒体13は、撮像された画像データを記録するための媒体(メモリーカード)であり、SDカード、CFカード等が使用される。
【0012】
ボディ記憶部14は、例えばEEPROM等のメモリであり、交換レンズ1Bから受信した交換レンズ1Bの情報等を記憶している。交換レンズ1Bの情報としては、交換レンズ1Bの焦点距離や撮影距離、開放F値などが含まれる。また、ボディ記憶部14は、カメラボディ1Aの演算レベルや演算した動きベクトルや動きベクトルの検出遅れ時間も記憶している。演算レベルは、後述するが、カメラボディ1Aの演算性能や演算精度などによってあらかじめ決められた値で、動きベクトルの算出性能を示す情報である。演算レベルはボディ記憶部14に記憶されている。演算レベルは、画像の動きベクトルを演算する演算性能や演算精度などよって定まるレベルである。演算レベルはカメラボディ1Aが動きベクトルを演算する演算性能や演算精度などから決められる算出性能を示す値である。演算レベルは高くなるほど、すなわち、演算性能や演算精度が高いほど算出する動きベクトルの精度や信頼度が高くなる(算出性能が高くなる)。ボディ記憶部14に記憶されている演算レベルと演算した動きベクトルや動きベクトルの検出遅れ時間は、ボディCPU2Aによって読み取られ、ボディ側送受信部21、レンズ側送受信部22を介してレンズCPU2Bに出力される。
ここで、動きベクトルのカメラボディ1Aの演算レベルは、例えば、動きベクトルを演算するボディCPU2Aの性能、撮像素子3の画素数等のカメラボディ1Aの性能によって決まってくる。演算レベルは、例えば演算レベル0(最低レベル),1,2,3,4,5,6,7(最高レベル)といった数値のいずれかで定められている。
【0013】
レリーズスイッチ17は、カメラシステム1の記録用の画像撮影の指示を行う部材である。レリーズスイッチ17の指示により撮影され、生成された画像データは、撮影画像として記録媒体13に記録される。
【0014】
表示部18は、カメラボディ1Aの背面に設けられ、画像(再生画像、ライブビュー画像)や操作に関連した情報(メニュー)などを表示する。液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどが使用される。また表示部18はタッチパネルを備え、ユーザの操作が入力される構成としても良い。
【0015】
シャッタ20は、撮像素子3の光の入射側(撮像面側)に配置されている。シャッタ20は、レリーズスイッチ17による撮影の指示に応じてシャッタ幕を走行させ、撮像素子3の露光時間を制御する。
【0016】
(ボディCPU2A)
ボディCPU2Aは、カメラシステム1の全体の制御を行う中央処理装置である。
前述したボディ記憶部14から情報の読み取りや焦点検出を行う。焦点検出は、交換レンズ1Bの撮影レンズ16が形成する被写体像の位置と撮像素子3の撮像面とが一致する(合焦する)フォーカスレンズ5の位置を検出することである。撮像素子3は、画像データを生成する画像信号を出力する画素、及び焦点検出に使用される焦点検出信号を出力する画素を有し、ボディCPU2Aは焦点検出信号を用いた周知の瞳分割式位相差方式による焦点検出、または画像信号を用いた周知のコントラスト方式による焦点検出を行う。また、図2に示すように、ボディCPU2Aは、信号処理部40と動きベクトル演算部41とを備える。
【0017】
(信号処理部40)
信号処理部40は、撮像素子3から出力された画像信号に対してA/D変換、ノイズ処理や各種画像処理を行い、画像データを生成する。
【0018】
(動きベクトル演算部41)
動きベクトル演算部41は、動きベクトルとその動きベクトルの検出遅れ時間からなる動きベクトル情報を算出する。動きベクトルは、信号処理部40により生成された画像データから算出され、時間の経過による被写体像のずれ(動き方向、動き量)を示し、X軸方向、Y軸方向及びRoll方向の向きを示す符号付きの大きさで表される。動きベクトルの検出遅れ時間は、詳しくは後述するが、動きベクトルを求めた画像データの基となる画像信号を撮像素子3が生成した時刻と、ボディ側送受信部21が動きベクトル情報を交換レンズ1Bへ送信する時刻との差の時間である。
具体的には、動きベクトル演算部41は、次に述べるようにして動きベクトルを求める。画像内に設定した輝点の位置を、異なる時刻に、撮像素子3で撮像された被写体像から生成される2つ画像で比較し、その輝点の位置変化から、その輝点の動き方向及び動き量を検出する。輝点の位置の比較以外にも、画像のパターンマッチングなどで動きベクトルを求めてもよい。
なお、動きベクトルは、1つの画像から検出してもよいし、3つ以上の画像から算出してもよい。
【0019】
(動きベクトルの検出遅れ時間演算方法)
図3は、動きベクトル演算部41での動きベクトルの算出のタイミングの一例を説明する図であり、撮像素子3が連続して撮像する様子を示している。図3は、撮像素子3としてCMOSでの撮像の様子を示しており、行ごとに画像信号を読み出しているので、最初の行の読出し時刻は早く、最後の行の読出し時刻は遅くなる。n-2、n-1、n、n+1、n+2は、撮像素子3で撮像して出力される複数の画像信号に対応する番号である。例えば、n番目の画像信号は、時刻t4に撮像を開始して時刻t7に撮像を終了して出力された画像信号である。
動きベクトル演算部41は、n-1番目の画像信号から生成される画像と、n-1番目の画像が撮像された時刻よりも後の時刻に撮像されたn番目の画像信号から生成される画像から動きベクトルを演算する。
【0020】
図中、時刻t1はn-1番目の画像信号の撮像が開始された時間である。
時刻t2はn-1番目の画像信号の撮像が開始された時刻と撮像が終了した時刻の中間の時刻であり、n―1番目の画像信号の生成の代表時刻である。
時刻t4はn番目の画像信号の撮像が開始された時間である。
時刻t5はn番目の画像信号の撮像が開始された時刻と撮像が終了した時刻の中間の時刻であり、n番目の画像信号の生成の代表時刻である。
図3の下に示すパルスは、カメラボディ1Aから交換レンズ1Bへの通信のタイミングを示す図である。時刻t6に、ボディ側送受信部21からレンズ側送受信部22へ送信される動きベクトル情報は、n-1の画像信号とnの画像信号を基に演算された動きベクトル情報であり、この動きベクトル情報の発生時刻を、t5(n番目画像の生成代表時刻)とt2(n-1番目の画像の生成代表時刻)との中間の時刻t3とする。動きベクトルが送信された時刻t6と、動きベクトルの発生時刻t3との間には、t6-t3の検出遅れ時間が生じていて、この時間を動きベクトルの検出遅れ時間とする。
そして、動きベクトル及び動きベクトルの検出遅れ時間は、図示する時刻t6において、ボディ側送受信部21からレンズ側送受信部22へ動きベクトル情報として送信される。
なお、カメラボディ1Aと交換レンズ1Bとの通信が33ms毎に繰り返し行われていて、撮像素子3から30fpsつまり33ms毎に画像信号が出力され、33msごとに動きベクトルが演算される場合は、カメラボディ1Aと交換レンズ1Bとの通信毎に、動きベクトル及び動きベクトルの検出遅れ時間(動きベクトル情報)が送信される。
【0021】
なお、動きベクトルの演算において、交換レンズ1Bから定期的に受信する交換レンズ1Bの焦点距離に応じて、動きベクトル情報を演算する2枚の画像の元となる2つの画像信号の代表時刻の間隔を変えてもよい。すなわち、撮像の間隔(フレームレート)を変えても良いし、演算する2枚の画像を1つ飛びの画像(例えばn-1とn+1の2枚で動きベクトルと演算)にしても良い。交換レンズ1Bの焦点距離が短いほど、2つの画像信号の生成の代表時刻の間隔を長くするとよい。焦点距離が短いと画像内での被写体の動き量が小さくなる、すなわち動きベクトルが小さくなるためである。これにより、動きベクトル情報検出精度を向上させることができる。
【0022】
(ボディ側送受信部21)
ボディ側送受信部21は、カメラボディ1Aに交換レンズ1Bが装着されたときに、レンズ側送受信部22と接触する。これにより、カメラボディ1Aと交換レンズ1Bとの間で信号の送受信が可能となる。ボディ側送受信部21は、レンズ側送受信部22から、交換レンズ1Bの焦点距離情報を含むレンズ情報を受け取る。また、ボディ側送受信部21は、動きベクトル演算部41で演算された動きベクトル情報(動きベクトルと動きベクトルの検出遅れ時間)及び動きベクトルの演算レベル(または演算レベルを示す情報や算出性能)を含むカメラ情報を、レンズ側送受信部22に送信する。
【0023】
(交換レンズ1B)
次に、交換レンズ1Bについて、図1図2を用いて説明する。
交換レンズ1Bは、ズームレンズ4とフォーカスレンズ5とブレ補正レンズ6とを有する撮影レンズ16、ズームレンズ駆動機構7、フォーカスレンズ駆動機構8、ブレ補正レンズ駆動機構9、絞り10、絞り駆動機構11、角速度センサ12、ブレ補正レンズ位置検出部23(図2)、焦点距離検出部24(図2)、レンズCPU2B、レンズ記憶部45(図2)、及びレンズ側送受信部22を備える。
なお、ズームレンズ4、ブレ補正レンズ6、ズームレンズ駆動機構7、ブレ補正レンズ駆動機構9、角速度センサ12、ブレ補正レンズ位置検出部23、焦点距離検出部24、レンズCPU2B、レンズ記憶部45、及びレンズ側送受信部22は、図2に示すブレ補正機構100の一部である。
【0024】
ズームレンズ4は、例えば、ズームリングであるズームレンズ駆動機構7により駆動され、光軸方向に沿って移動することにより、交換レンズ1Bの焦点距離を連続的に変化させるレンズ群である。なお、ズームレンズ駆動機構7は、ズームリングの回転等を検出してレンズCPU2Bからの信号によりズームレンズを電動駆動するものであってもよい。また、ボタン操作によって電動ズーミングするものであってもよい。
焦点距離検出部24は、交換レンズ1Bのズームレンズ4の位置であるズームポジションを検出し、交換レンズ1Bの焦点距離を算出する。
【0025】
フォーカスレンズ5は、フォーカスレンズ駆動機構8により駆動され、光軸方向に移動して、焦点を合わせる(交換レンズ1Bの撮影レンズ16によって形成される被写体像を撮像素子3の撮像面に合焦させる)レンズ群である。
【0026】
ブレ補正レンズ6は、VCM(ヴォイスコイルモータ)等のブレ補正レンズ駆動機構9により光学的にブレ補正をするために駆動され、光軸と交差する面上で移動可能なレンズ群である。
【0027】
絞り10は、絞り駆動機構11に駆動され、撮影レンズ16を通過する光の光束を制限し、撮像素子3に入射する光量を制御する。
【0028】
角速度センサ12は、交換レンズ1Bに生じる振れの角速度を検出するセンサである。X軸回り(Pitch)、Y軸回り(Yaw)、の角速度を検出する振動ジャイロ等のセンサである。なお、角速度センサ12は、さらにZ軸回り(Roll)の角速度も検出してもよい。
【0029】
レンズCPU2Bは、フォーカスレンズ5、ブレ補正レンズ6等のレンズの駆動量演算を行う。そして、フォーカスレンズ駆動機構8、ブレ補正レンズ駆動機構9に駆動量を指示してフォーカスレンズ5、ブレ補正レンズ6を移動させる。
【0030】
また、レンズCPU2Bは、増幅部31、第1A/D変換部32、第2A/D変換部33、基準値演算部34、積分部を内部に含む目標位置演算部36、センタバイアス演算部37、基準値補正部50、駆動量演算部39及び減算部43を備える。
【0031】
増幅部31は、角速度センサ12の出力を増幅する。
【0032】
第1A/D変換部32は、増幅部31の出力をA/D変換する。
【0033】
基準値演算部34は、角速度センサ12から得られた角速度を増幅部31で増幅し、第1A/D変換部32でA/D変換された角速度から、角速度の基準値を演算する。角速度の基準値とは、カメラシステム1に振動が加わっていない状態(例えば静止しているとき)などで角速度センサ12から出力される角速度の基準となる値である。角速度の基準値は、温度特性や起動直後のドリフト特性等により変化するため、工場出荷時点で基準値を決定することはできない。そのためカメラシステム1を使用する際に、角速度センサを実際に駆動させて出力される信号から角速度の基準値を求める必要がある。
ここで、角速度の基準値を正確に求めることができないと、角速度信号から振動成分を抽出できないため、ブレ補正を有効に行うことができない。つまり、基準値が正確でないと、ブレ補正レンズ6を駆動しても有効にブレ補正をすることができない。たとえば、シャッタースピードが遅い時などに、ブレ補正レンズ6を駆動しても撮影画像にブレが生じることがある。
また、詳しくは後述するが、本実施形態では、角速度の基準値をより正確に算出するために、基準値をカメラボディ1Aから受信した動きベクトル情報を用いて補正を行う。
基準値演算部34は、周知のとおり、角速度センサ12の出力を所定の高周波成分を低減するローパスフィルタを通過させることにより初期の基準値(第1基準値、補正前の基準値)を求める。
【0034】
減算部43は、基準値演算部34において演算された第1基準値を、第1A/D変換部32の出力(角速度)から減算する。
【0035】
目標位置演算部36は、減算部43において基準値が減算された後の角速度センサ12の出力である角速度から、ブレ補正レンズ6の目標位置を演算する。
【0036】
センタバイアス演算部37は、目標位置演算部36によって算出されたブレ補正レンズ6の目標位置に基づいて算出される、ブレ補正レンズの位置の補正量(バイアス量という)を、ブレ補正レンズ6の目標位置から減算して交換レンズ1Bの光軸に近づけるセンタリングバイアス処理を行い、バイアス量を補正したブレ補正レンズ6の目標位置を算出して、目標位置を補正する。つまり、ブレ補正レンズ6の実際の移動位置は、角速度センサ12の出力を基に演算された目標位置よりも、バイアス量だけ交換レンズ1Bの光軸に近い位置になる。
このようにセンタリングバイアス処理を行うことで、ブレ補正レンズ6がブレ補正レンズの保持枠などの物理的な移動限界(ハードリミット)に衝突することを有効に防止することができる。
【0037】
駆動量演算部39は、センタバイアス演算部37で算出したバイアス量を補正したブレ補正レンズ6の目標位置と、ブレ補正レンズ位置検出部23により検出された信号を第2A/D変換部33でA/D変換した値から求められたブレ補正レンズ6の現在位置から、ブレ補正レンズ駆動機構9でブレ補正レンズ6を駆動させる駆動量を演算する。
【0038】
(レンズ側送受信部22)
レンズ側送受信部22は、上述したようにカメラボディ1Aに交換レンズ1Bが装着されると、ボディ側送受信部21と接触し、カメラボディ1Aと交換レンズ1Bとの送受信が可能なる。
レンズ側送受信部22は、ボディ側送受信部21に焦点距離検出部24により検出された焦点距離情報を送信する。
レンズ側送受信部22は、ボディ側送受信部21から、動きベクトル演算部41で演算された動きベクトル情報(動きベクトルの量・方向と動きベクトルの検出遅れ時間)と、ボディごとに決められている動きベクトルの演算レベル(または演算レベルを示す情報や算出性能)とを受信する。
なお、動きベクトル情報は上述したように常時送られてくるわけではなく、動きベクトルの演算部41による動きベクトルの演算間隔よりも、カメラボディ1Aと交換レンズ1Bとの通信間隔の方が小さい場合は、動きベクトルの量や動きベクトルの検出遅れ時間ではなく、動きベクトルが演算中である、という情報が送られる場合もある。
【0039】
(レンズ記憶部45)
レンズ記憶部45は、レンズ側送受信部22において受信した演算レベルごとに、動きベクトルを用いて基準値補正を行う最も短い焦点距離である最小焦点距離を記憶している。以下、記憶している内容の一例を表1に示す。
表1は、最も高性能である演算レベルが7の場合、撮影レンズの焦点距離が10mmより長いすべての焦点距離で、動きベクトルを用いた基準値の補正を行い、演算レベルが0の場合、撮影レンズの焦点距離が135mmより長い場合だけ、動きベクトルを用いた基準値の補正を行うことを表している。
【表1】
【0040】
このように演算レベルによって、基準値を補正する焦点距離の下限値(最小焦点距離)が変化するのは、動きベクトル情報の信頼度がカメラボディ1Aの演算レベルに依存するからである。
一般に、交換レンズ1Bに振れが生じた場合、像面に現れる像の変化量(振れによる移動量)は撮影レンズの焦点距離に依存する。ある量の振れが生じた場合、撮影レンズの焦点距離が短いほど、像面の像の変化量は小さく、撮影レンズの焦点距離が長いほど、画像に現れる像の変化量は大きくなる。すなわち、撮影レンズの焦点距離が短くなればなるほど、動きベクトルの検出が難しくなる。従って演算レベルが低いカメラボディで算出された動きベクトルは、撮影レンズの焦点距離が短い場合には、動きベクトルの信頼性が低いといえる。
演算レベルが高い(高性能)のときは、焦点距離が短い場合でも動きベクトルの信頼性が高いので、焦点距離が短い場合も、動きベクトルを用いて基準値を補正することができる。一方、演算レベルが低くなると(性能が悪い)、焦点距離が短い場合に動きベクトルの信頼性が低くなるので、焦点距離が短い場合に動きベクトルを用いて基準値を補正すると、防振性能を逆に劣化させる可能性がある。
【0041】
(基準値補正部50)
基準値補正部50は、基準値演算部で算出した初期の基準値(第1基準値)を、動きベクトル情報を用いて随時補正し、判断部44、センタバイアス除去部38、基準値補正量演算部35、減加算部42を備える。
【0042】
(判断部44)
判断部44は、交換レンズ1Bの焦点距離と、カメラボディ1Aから受信した演算レベルに対応した最小焦点距離とを比較する。
そして、演算レベルに対応した最小焦点距離よりも、撮影レンズの焦点距離が短い(ワイド側)場合、基準値を補正しない(基準値補正量を演算しない)と判断する。この場合、センタバイアス除去部38へ動きベクトル情報を送らない。
演算レベルに対応した最小焦点距離よりも、交換レンズ1Bの焦点距離が長い(テレ側)場合、初期の基準値を随時補正する(基準値補正量を演算する)と判断する。この場合、センタバイアス除去部38への動きベクトル情報を送る。
なお、判断部44は、動きベクトルの検出遅れ時間を用いて、動きベクトルを算出した画像を撮像したときの焦点距離を求めるとなお良い。すなわちカメラボディ1Aから受信した検出遅れ時間を用いて、動きベクトル算出の基となる撮像を行ったときの撮影レンズの焦点距離を求め、その焦点距離と、カメラボディ1Aから受信した演算レベルに対応した最小焦点距離とを比較すると良い。このようにするとより正確な制御ができる。
【0043】
また、交換レンズ1Bの焦点距離が演算レベルに対応した最小焦点距離より短い場合であっても、動きベクトルの値が所定値よりも大きい場合は、基準値を補正してもよい。
【0044】
なお、本実施形態では、判断部44を、レンズ側送受信部22とセンタバイアス除去部38との間に配置したが、これに限らず、減加算部42と、レンズ側送受信部22の間のいずれの場所に設けてもよい。
【0045】
以下の説明では、X方向の基準値の補正について説明する。動きベクトルのX方向の値を、動きベクトル量Xとする。Y方向の基準値の補正についても、X方向と同様である。本実施例では、動きベクトル情報のRoll方向の情報は受信しない。
【0046】
(センタバイアス除去部38)
センタバイアス除去部38は、センタバイアス演算部37においてセンタリングバイアス処理を行わなかった場合に検出される動きベクトル量Xを求める。
上述したように、センタバイアス演算部37でセンタリングバイアス処理を行ったために、ブレ補正レンズ6の実際の移動位置は、角速度センサ12の出力を基に演算された目標位置よりも、バイアス量だけ撮影レンズの光軸に近い位置になる。そのため、センタバイアス処理をしなかった場合に比べて、動きベクトル値Xは大きい値が検出されている。換言すると目標とする補正位置までブレ補正レンズ6を駆動していないので、駆動が不足している分、振れ成分が残るので、この不足分に対応して動きベクトル値Xが大きくなる。このため、センタバイアス除去部38は、センタバイアス処理をしなかった場合に比べて余分に検出される動きベクトル量を、センタバイアス量を基に算出する。この算出した余分に検出された動きベクトルを動きベクトル補正量と称する。そして、カメラボディ1Aから受信した動きベクトルXから動きベクトル補正量を減算する。また、動きベクトル補正量を算出するバイアス量は、カメラボディ1Aから受信した動きベクトルの検出遅れ時間から求められる、動きベクトルの検出時刻のバイアス量を使用する。
【0047】
(基準値補正量演算部35)
基準値補正量演算部35は、センタバイアス除去部38において動きベクトル補正量が除去された動きベクトル量Xをもとに、基準値演算部34で算出された基準値を補正する基準値補正量を演算する。
本実施形態では、処理を簡便にするために、動きベクトル量Xの正負のみ判断し、動きベクトル量Xがマイナス方向ではプラスの一定量を基準値補正量とし、動きベクトル情報がプラス方向ではマイナスの一定量を基準値補正量とする。
【0048】
これに限らず演算レベルに対応する最小焦点距離と、交換レンズ1Bの焦点距離と、動きベクトルの大きさに応じて、基準値補正量を変更してもよい。
交換レンズ1Bの焦点距離が演算レベルに対応する最小焦点距離以上(テレ)の場合は、基準値補正量として、交換レンズ1Bの焦点距離に反比例するような値としてもよい。検出される動きベクトルの大きさは、交換レンズ1Bの焦点距離が長いほど大きくなるのからである。
【0049】
減加算部42は、基準値演算部34により演算された基準値補正量で基準値(第1基準値)を補正して補正後の基準値(第2基準値)を求める。
【0050】
(ブレ補正機構100の動作)
次に、ブレ補正機構100の動作について説明する。図4は、ブレ補正機構100の動作を示したブレ補正処理のフローチャートである。
【0051】
以下の説明で、説明を容易にするため、ブレ補正機構100の一部として交換レンズ1BのレンズCPU2Bが行う動作を交換レンズ1Bが行う動作として説明(図4の左側のフロー)し、ブレ補正機構100の一部としてカメラボディ1AのボディCPUが行う動作をカメラボディ1Aが行う動作(図4の右側のフロー)として説明する。
【0052】
(交換レンズ1B側)
ステップ101:交換レンズ1Bは、ブレ補正機能を有している場合(ステップ101,YES)ステップ102へ進む。
交換レンズ1Bは、ブレ補正機能を有していない場合(ステップ101,NO)レンズ側のブレ補正処理を終了する。
【0053】
ステップ102:交換レンズ1Bは、交換レンズ1Bがブレ補正機能を有しているという信号を、レンズ側送受信部22からカメラボディ1Aに送信し、ステップ103へ進む。
【0054】
ステップ103:交換レンズ1Bは、基準値補正機能を有している場合、(ステップ103、YES)ステップ104へ進む。
交換レンズ1Bは、基準値補正機能を有していない場合(ステップ103、NO)、ステップ115へ進む。
【0055】
ステップ104:交換レンズ1Bは、基準値補正機能を有していることを示す信号をカメラボディ1Aに送信し、ステップ105へ進む。
【0056】
ステップ105:交換レンズ1Bは、角速度センサ12の出力を、増幅部31で増幅し、第1A/D変換部32によりA/D変換し、ステップ106へ進む。
【0057】
ステップ106:交換レンズ1Bは、基準値演算部34において、角速度センサ12の出力のA/D変換後の信号を基に、角速度の初期の基準値(第1基準値)を演算し、ステップ107へ進む。
【0058】
上述のとおり、角速度の基準値は、温度特性や起動直後のドリフト特性等により変化するため、例えば、工場出荷時における静止時出力を基準値に用いることはできない。このため、このようにブレ補正処理が行われている最中に、基準値演算部34において角速度の基準値を演算する。
【0059】
本実施形態では、ローパスフィルタ処理(LPF処理)による基準値演算を用いる。LPF処理のカットオフ周波数fcは、0.1[Hz]程度の低い周波数に設定するのが一般的である。これは、手ブレは1~10[Hz]程度の周波数が支配的であることに起因する。0.1[Hz]のカットオフ周波数fcであれば、手ブレ成分に与える影響は少なく、良好なブレ補正を行うことができる。
【0060】
しかしながら、実際の撮影時には、極微小な手振れや、構図の微調整(パンニング検出できないレベルの)等、低周波の動きが加わるため、基準値演算結果に誤差を持ってしまうこともある。また、カットオフ周波数fcが低い(時定数が大きい)為に、一旦誤差が大きくなってしまった場合、真値に収束するまでに時間を要してしまうという課題がある。基準値補正は、基準値の変動・誤差を補正するものである。
【0061】
(カメラボディ1A側)
ステップ201:カメラボディ1Aは、ボディ側送受信部21において、交換レンズ1Bがブレ補正機能を有しているという信号を受信すると(ステップ201,YES)ステップ202へ進む。
カメラボディ1Aは、ボディ側送受信部21において、交換レンズ1Bがブレ補正機能を有しているという信号を受信しない場合、ボディ側のブレ補正処理を終了する。
【0062】
ステップ202:カメラボディ1Aは、ボディ側送受信部21において、交換レンズ1Bが基準値補正機能を有しているという信号を受信すると(ステップ202、YES)、ステップ203へ進む。
カメラボディ1Aは、ボディ側送受信部21において、交換レンズ1Bが基準値補正機能を有しているという信号を受信しない場合、ボディ側のブレ補正処理を終了する。
【0063】
ステップ203:カメラボディ1Aは、動きベクトルが演算可能である場合、ステップ204へ進む。
カメラボディ1Aは、動きベクトルが演算可能でない場合、ボディ側のブレ補正処理を終了する。
【0064】
ステップ204:カメラボディ1Aは、上述したように動きベクトル情報を演算する。
【0065】
ステップ205:カメラボディ1Aは、ボディ側送受信部21から、動きベクトル情報(動きベクトル及び動きベクトルの検出遅れ時間)及び演算レベルを、交換レンズ1Bに送信する。
【0066】
(交換レンズ1B側)
ステップ107:交換レンズ1Bは、レンズ側送受信部22において、動きベクトル情報及び演算レベルを受信すると(ステップ107でYES判定)、ステップ108へ進む。
【0067】
なお、カメラボディ1Aから交換レンズ1Bへの通信のタイミングは例えば33msごとであるが、動きベクトル情報が得られるタイミングが、上述したように66msに1回の場合もある。そうすると、動きベクトル情報は2回に1回は含まれず、動きベクトル情報が演算中であることを示す信号がカメラボディ1Aから交換レンズ1Bへ送信される。
【0068】
交換レンズ1Bは、ボディ側送受信部21から、演算した動きベクトル情報と演算レベルとが送信されず、このような演算中であることを示す信号が送信された場合(ステップ107でNO判定)、基準値の補正を行わずにステップ110へ進む。
また、光学ブレ補正の制御周期は例えば1msで、動きベクトルの更新周期に対して短いため、動きベクトルを受信しない場合もある(ステップ107でNO判定)。この場合も、基準値の補正を行わずにステップ110へ進む。
【0069】
ステップ108:交換レンズ1Bは、判断部44において、レンズ記憶部45に記憶されているデータを基に、交換レンズ1Bの現在の焦点距離が、それぞれの演算レベルに対応している最小焦点距離よりも長い(テレ側)焦点距離か否かを判断する。
交換レンズ1Bの焦点距離が、受信した演算レベルに対応する最小焦点距離以上の場合(ステップ108でYES)、ステップ109へ進む。
交換レンズ1Bの焦点距離が、受信した演算レベルに対応する最小焦点距離より小さい場合(ステップ108でNO判定)、基準値補正を行わずにステップ110へ進む。
【0070】
ステップ109:交換レンズ1Bの焦点距離が、受信した演算レベルに対応する最小焦点距離以上(焦点距離が長い)の場合(ステップ108、YES)、基準値補正を行う。実際には、基準値補正は、受信した遅れ時間分前に算出された第1基準値を、受信した動きベクトルに基づく基準値補正量で補正して第2基準値を算出する。この基準値補正ステップ109については、図5に基づいて後述する。
交換レンズ1Bの焦点距離が、受信した演算レベルに対応する最小焦点距離より小さい場合(ステップ108,NO)、基準値補正を行わずにステップ110へ進む。
【0071】
ステップ110:交換レンズ1Bは、基準値減算後の角速度センサ12の出力を積算し、焦点距離、被写体距離、ブレ補正レンズの単位シフト量に対する被写体像のズレ量の比等の情報を基に、ブレ補正レンズ6の目標位置を演算し、ステップ111へ進む。
【0072】
ステップ111:交換レンズ1Bは、ブレ補正レンズ6が可動端へ到達することを防ぐため、ステップ110で算出したブレ補正レンズ6の目標位置に対してセンタバイアス処理を行い、ステップ112へ進む。
センタバイアス処理の方法については、目標位置情報に応じてバイアス量を設定する方法や、ハイパスフィルター処理(HPF処理)、不完全積分処理(ステップ110にて)等、種々あるが、ここでは方法は問わない。
【0073】
ステップ112:交換レンズ1Bは、センタバイアス成分を加味した目標位置情報と、ブレ補正レンズ位置情報から、駆動量演算部39においてレンズ駆動量を演算し、ステップ113ヘ進む。
【0074】
ステップ113:交換レンズ1Bは、ブレ補正レンズ駆動機構9によりブレ補正レンズ6をセンタバイアス処理後の目標位置まで駆動させ、S114へ進む。
【0075】
ステップ114:交換レンズ1Bは、ブレ補正機能がOFFにならない場合(ステップ114、NO)、ステップ103へ進む。
交換レンズ1Bは、ブレ補正機能がOFFの場合(ステップ114、YES)、レンズ側ブレ補正処理を終了する。
【0076】
ステップ115:基準値補正機能を持たない交換レンズ1Bは、ステップ105と同様に、角速度センサ12の出力を、増幅部31で増幅し、第1A/D変換部32によりA/D変換し、ステップ116へ進む。
【0077】
ステップ116:交換レンズ1Bは、ステップ106と同様に、基準値演算部34において、角速度センサ12の出力のA/D変換後の信号を基に、演算上の角速度の基準値を演算し、ステップ110へ進み、ステップ110以降のブレ補正処理を行う。
【0078】
(カメラボディ1A側)
ステップ206:カメラボディ1Aは、ブレ補正機能がOFFにならない場合(ステップ206、NO)、ステップ204へ戻り、ステップ204以降の動作を繰り返す。
カメラボディ1Aは、ブレ補正機能がOFFの場合(ステップ206、YES)、ボディ側ブレ補正処理を終了する。
【0079】
図5図4の基準値補正ステップ109の詳細なフローチャートである。
ステップ301:交換レンズ1Bは、ブレ補正レンズ6のバイアス量を像面での大きさに換算し、撮像素子3の画素数で示される動きベクトル補正量を算出する。すなわち、ブレ補正レンズのセンタバイアス処理によって余分に生じる動きベクトルの大きさを算出する。像面での大きさの換算は、焦点距離、撮影倍率、動きベクトルの分解能情報、バイアス量を基に以下の式で演算される。

Bias_MV=Bias_θ*f*(1+β)/MV_pitch
Bias_MV:動きベクトル補正量
Bias_θ:バイアス量(微分値)
f:焦点距離
β:撮影倍率
MV_pitch:動きベクトルピッチサイズ
(画素間隔:動きベクトルの分解能情報)
【0080】
また、動きベクトルの発生時刻と動きベクトル情報の交換レンズ1Bでの受信の時刻とでは、ずれが発生するため、動きベクトル補正量の算出に使用するバイアス量は動きベクトルの発生時刻のバイアス量を使用することが好ましい。カメラボディ1Aから受信した検出遅れ時間分だけ、前の時間に撮影した画像データから検出した動きベクトルから算出したバイアス量を用いることで、より正確に動きベクトル補正量が演算できる。
【0081】
ステップ302:交換レンズ1Bは、センタバイアス除去部38においてステップ301で演算した動きベクトル補正量をカメラボディ1Aから受信した動きベクトルから減算した補正後動きベクトル(MV)を算出し、ステップ303へ進む。
【0082】
ステップ303:交換レンズ1Bは、基準値補正量演算部35において、補正後動きベクトル(MV)を基に、動きベクトルによる基準値の補正量(基準値補正量)を設定してステップ304へ進む。基準値補正量は、以下の考えにより設定される。
すなわち、補正後動きベクトル(MV)が正の場合は、負の定数である基準値補正量が設定される。補正後動きベクトル(MV)が負の場合は、正の定数である基準値補正量が設定される。補正後動きベクトル(MV)が0の場合は、基準値補正が0となる。

MV>0:ω0_comp=-(ω0_comp_def)
MV<0:ω0_comp=+(ω0_comp_def)
MV=0:ω0_comp=0

ω0_comp:基準値補正量
ω0_comp_def:基準値補正定数
基準値補正定数は撮影レンズの焦点距離で決定される定数である。焦点距離を考慮するのは、焦点距離と角速度の乗算によって像面の移動量が変化するからである。
【0083】
ステップ304:交換レンズ1Bは、減加算部42において、ステップ303にて演算したω0_compをステップ106で演算した第1基準値から加算あるいは減算して補正後の第2基準値を求める。
なお補正後の第2基準値はその後のステップ(図4参照)において、ステップ114からステップ103へと戻った際に、ステップ106で算出される第1基準値として使用される。すなわち、ステップ106で第1基準値を求め、ステップ109で第1基準値を補正して算出した第2基準値は、ステップ114からステップ103へ戻って再度ステップ106の処理の際に新たな第1基準値として扱われる。
【0084】
図6(a)は、Yaw方向の第2基準値を示したグラフである。図中点線は本実施形態による基準値の補正をしなかった場合の第1基準値(ローパスフィルタ処理をした基準値)を示し、図中実線は、本実施形態により第1基準値を定期的に繰り返し補正した第2基準値を示す。
【0085】
図6(b)はX方向の動きベクトルが検出された時刻と、動きベクトルMVの方向と示したグラフである。
例えば、図6(b)の時刻T1のように、MVがプラス方向の場合、(a)に示すように第1基準値を基準値補正量定数分マイナスに補正し、第2基準値を算出する。その後、時刻T3まで第2基準値は、基準値演算部34で演算される値に従い変化する。
時刻T3において算出したMVがプラス方向の場合、時刻T1で算出された基準値(第2基準値)が時刻T3までの間に変化した基準値を基準値補正量定数分マイナスに補正する。
その後も、MVが算出される時刻と次にMV算出される時刻との間では、一度算出された第2基準値は基準値演算部34で演算された値に従い変化する。
MVがプラス方向に算出されると、第1基準値(または一度算出された第2基準値が時間とともに変化した基準値)を基準値補正量定数分マイナスに補正するが、図中の時刻T22やT25のようにMVがマイナス方向に算出されると、第1基準値を基準値補正量定数分プラスに補正する。
【0086】
なお、交換レンズ1Bの焦点距離に応じて、基準値補正量または基準値補正定数を変更してもよい。
このように、動きベクトルが適切に基準値の補正し使用されると、基準値は真値に近づきブレ補正の精度が向上する。
【0087】
以上、本実施形態の交換レンズでは、カメラボディ1A側から動きベクトルと動きベクトルの演算レベルを示す情報を受信するので、ブレ補正の精度を向上させることができる。
また角速度センサ12の第1基準値を、カメラボディ1A側から得られた動きベクトルと演算レベルを示す情報に基づいて補正することができるので、図6(a)に示すように、真値に近い基準値を得ることができる。
交換レンズは様々な種類のカメラボディに装着することができる。装着されたカメラボディから演算レベルを示す情報を受信することにより、装着されたカメラボディに応じたブレ補正制御を行うことができる。
【0088】
また、動きベクトル情報はボディ側送受信部21からレンズ側送受信部22に送信される。したがって、カメラボディ1Aと交換レンズ1Bとが別体な場合であっても、交換レンズ1Bはカメラボディ1Aから動きベクトル情報を受信することができる。
【0089】
交換レンズ1Bは、演算レベルごとに設定された最低焦点距離情報を記憶するレンズ記憶部45を備え、基準値補正部50は、受信した演算レベルに対応した最低焦点距離よりも焦点距離が小さい場合、動きベクトル情報による第1基準値の補正を行わない。
交換レンズ1Bの焦点距離が短い(ワイド)の場合に、演算レベルが低い動きベクトル情報を用いてブレ補正制御をすると、動きベクトル情報を使用しない場合よりもブレ補正性能が劣化する可能性がある。
しかし、本実施形態によれば、交換レンズ1Bは、演算レベルごとにレンズ記憶部45に記憶された最低焦点距離情報よりも焦点距離が小さい場合に、動きベクトル情報を用いた第1基準値の補正を行わないので、動きブレ補正性能を劣化させることなく、好適なブレ補正を行うことができる。
【0090】
レンズ側送受信部22は、カメラボディ1Aに焦点距離の情報を送信可能である。
したがって、交換レンズ1Bの焦点距離がワイド側の場合、動きベクトル情報の演算タイミングを長くすることができ、動きベクトル情報検出精度を向上させることができる。
なお、上述の実施形態では、目標位置演算部によって算出されたブレ補正レンズの目標位置に基づいて、ブレ補正レンズを、その可動範囲の中心に向かって移動させるための向心力であるセンタバイアスを用いた制御を行ったが、センタバイアスを用いない制御を行ってもよい。その場合は、センタバイアス演算部とセンタバイアス除去部を持たない。
【0091】
以上、説明した実施形態に限定されることなく、以下に示すような種々の変形や変更が可能であり、それらも本発明の範囲内である。
(1)上述の実施形態では、カメラボディ1A内にクイックリターンミラーがない形態について説明したが、これに限定されず、クイックリターンミラーおよび光学ファインダを有する構造のカメラボディ、いわゆる一眼レフであってもよい。
(2)本実施形態は角速度センサ12を交換レンズ1Bが備える構造であったが、これに限らず、角速度センサ12はカメラボディ1A内に備えられていてもよい。
また、角速度センサではなく、加速度センサをカメラボディ1A又は交換レンズ1B内に備えるものであってもよい。
(3)本実施例は、交換レンズ1Bのブレ補正レンズ6を駆動させ検出される振れを補正したが、撮像素子3を駆動させて検出される振れを補正するものであってもよい。
【符号の説明】
【0092】
1:カメラシステム、1A:カメラボディ、1B:交換レンズ、2A:ボディCPU、2B:レンズCPU、2B:交換レンズ、3:撮像素子、4:ズームレンズ、5:フォーカスレンズ、6:ブレ補正レンズ、7:ズームレンズ駆動機構、8:フォーカスレンズ駆動機構、9:ブレ補正レンズ駆動機構、10:絞り、11:駆動機構、12:角速度センサ、13:記録媒体、14:ボディ記憶部、16:撮影レンズ、21:ボディ側送受信部、22:レンズ側送受信部、23:ブレ補正レンズ位置検出部、24:焦点距離検出部、31:増幅部、32:第1A/D変換部、33:第2A/D変換部、34:基準値演算部、35:基準値補正量演算部、36:目標位置演算部、37:センタバイアス演算部、38:センタバイアス除去部、39:駆動量演算部、40:信号処理部、41:ベクトル演算部、42:基準値減加算部、43:減算部、44:判断部、45:レンズ記憶部、50:基準値補正部、100:ブレ補正機構
図1
図2
図3
図4
図5
図6