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特許7119801エポキシ樹脂、エポキシ樹脂組成物、エポキシ樹脂硬化物及び複合材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】エポキシ樹脂、エポキシ樹脂組成物、エポキシ樹脂硬化物及び複合材料
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/24 20060101AFI20220809BHJP
   C08G 59/14 20060101ALI20220809BHJP
【FI】
C08G59/24
C08G59/14
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018169033
(22)【出願日】2018-09-10
(65)【公開番号】P2020041050
(43)【公開日】2020-03-19
【審査請求日】2021-07-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】東内 智子
(72)【発明者】
【氏名】丸山 直樹
(72)【発明者】
【氏名】福田 和真
(72)【発明者】
【氏名】竹澤 由高
(72)【発明者】
【氏名】片木 秀行
(72)【発明者】
【氏名】中村 優希
(72)【発明者】
【氏名】田 林
【審査官】牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/110424(WO,A1)
【文献】特開2013-151655(JP,A)
【文献】国際公開第2018/173953(WO,A1)
【文献】特開2018-162451(JP,A)
【文献】国際公開第2019/208242(WO,A1)
【文献】特開2019-210335(JP,A)
【文献】特開2011-74366(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G59/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メソゲン構造及びエポキシ基を有する化合物と、エポキシ基を有し、エポキシ当量が160g/eq以下である化合物と、エポキシ基と反応しうる官能基を有する芳香族化合物とが反応してなる化合物を含み、
前記メソゲン構造は、下記一般式(3)で表される構造を含み、
前記エポキシ基を有し、エポキシ当量が160g/eq以下である化合物は、下記一般式(1-a)で表されるエポキシ化合物及び下記一般式(1-b)で表されるエポキシ化合物の少なくとも一方であるエポキシ樹脂。
【化1】

【化2】

[一般式(3)中、R ~R はそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を示す。*は隣接する原子との結合部位を表す。一般式(1-a)中、Zはそれぞれ独立に、炭素数1~8の脂肪族炭化水素基、炭素数1~7のアルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、シアノ基、ニトロ基、又はアセチル基を示す。pは0~4の整数を示す。一般式(1-b)中、Zはそれぞれ独立に、炭素数1~3の脂肪族炭化水素基、炭素数1~2のアルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、シアノ基、ニトロ基、又はアセチル基を示す。qは0~3の整数を示す。]
【請求項2】
前記反応してなる化合物は、下記一般式(a)で表される化合物及び下記一般式(b)で表される化合物の少なくとも一方を含む請求項1に記載のエポキシ樹脂。
【化3】

[一般式(a)及び一般式(b)中、R、R及びRはそれぞれ独立に1価の基を表し、Zはそれぞれ独立に、-O-又は-NH-を表す。一般式(a)では、R、R及びRの少なくとも1つはエポキシ基を有し、一般式(b)では、R及びRの少なくとも1つはエポキシ基を有する。一般式(a)では、R、R及びRの少なくとも1つは前記メソゲン構造及びエポキシ基を有する化合物に由来する構造を有し、一般式(b)では、R及びRの少なくとも1つは前記メソゲン構造及びエポキシ基を有する化合物に由来する構造を有する。一般式(a)では、R、R及びRの少なくとも1つは前記エポキシ基を有し、エポキシ当量が160g/eq以下である化合物に由来する構造を有し、一般式(b)では、R及びRの少なくとも1つは前記エポキシ基を有し、エポキシ当量が160g/eq以下である化合物に由来する構造を有する。]
【請求項3】
メソゲン構造を有する第一のエポキシ化合物と、エポキシ当量が160g/eq以下である第二のエポキシ化合物とを含み、
前記メソゲン構造は、下記一般式(3)で表される構造を含み、
前記第二のエポキシ化合物は、下記一般式(1-a)で表されるエポキシ化合物及び下記一般式(1-b)で表されるエポキシ化合物の少なくとも一方であるエポキシ樹脂。
【化4】

【化5】

[一般式(3)中、R ~R はそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を示す。*は隣接する原子との結合部位を表す。一般式(1-a)中、Zはそれぞれ独立に、炭素数1~8の脂肪族炭化水素基、炭素数1~7のアルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、シアノ基、ニトロ基、又はアセチル基を示す。pは0~4の整数を示す。一般式(1-b)中、Zはそれぞれ独立に、炭素数1~3の脂肪族炭化水素基、炭素数1~2のアルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、シアノ基、ニトロ基、又はアセチル基を示す。qは0~3の整数を示す。]
【請求項4】
前記第一のエポキシ化合物は、メソゲン構造及びエポキシ基を有する化合物と、エポキシ基と反応しうる官能基を有する芳香族化合物とが反応してなる化合物を含む請求項3に記載のエポキシ樹脂。
【請求項5】
前記第一のエポキシ化合物は、メソゲン構造及びエポキシ基を有する化合物と、エポキシ基を有し、エポキシ当量が160g/eq以下である化合物と、エポキシ基と反応しうる官能基を有する芳香族化合物とが反応してなる化合物を含む請求項3又は請求項4に記載のエポキシ樹脂。
【請求項6】
前記反応してなる化合物は、下記一般式(3-A)、(3-B)、(4-A)、(4-B)、(5-A)及び(5-B)からなる群より選択される少なくとも一つの構造を有する請求項1、請求項2、請求項4及び請求項5のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂。
【化6】

〔一般式(3-A)、(3-B)、(4-A)、(4-B)、(5-A)及び(5-B)において、R及びRはそれぞれ独立に、炭素数1~8のアルキル基を表す。mはそれぞれ独立に、0~4の整数を表し、nはそれぞれ独立に、0~6の整数を表す。R~Rはそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を示す。Zはそれぞれ独立に、-O-又は-NH-を表す。*は隣接する原子との結合部位を表す。〕
【請求項7】
請求項1~請求項のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂と、硬化剤をさらに含むエポキシ樹脂組成物。
【請求項8】
硬化物としたときにスメクチック構造又はネマチック構造を形成可能である請求項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項9】
請求項又は請求項に記載のエポキシ樹脂組成物の硬化物であるエポキシ樹脂硬化物。
【請求項10】
請求項に記載のエポキシ樹脂硬化物と、強化材と、を含む複合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂、エポキシ樹脂組成物、エポキシ樹脂硬化物及び複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂は、繊維強化プラスチック(FRP)のマトリックス樹脂として広く利用されている。最近では、破壊靱性、弾性、耐熱性等の諸物性に高い水準が要求される航空宇宙用途で使用するFRPのマトリックス樹脂としてもエポキシ樹脂が使用されている。しかしながら、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂は、熱可塑性樹脂に比べて耐熱性に優れる一方、破壊靱性に劣る傾向にある。
【0003】
エポキシ樹脂の破壊靱性を向上させる手法としては、例えば、分子中にメソゲン構造を導入して硬化物中における分子の配向性を高めることが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-122337号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されたメソゲン含有エポキシ樹脂を用いて硬化物を形成した場合、高い靱性は得られる一方、高い弾性を得ることは困難である。
【0006】
本発明は上記状況に鑑み、高弾性と高靱性とを両立したエポキシ樹脂硬化物が得られるエポキシ樹脂及びエポキシ樹脂組成物を提供することを目的とする。
また、本発明は、高弾性と高靱性とを両立したエポキシ樹脂硬化物及びこれを含む複合材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための手段には、以下の実施態様が含まれる。
<1> メソゲン構造及びエポキシ基を有する化合物と、エポキシ基を有し、エポキシ当量が160g/eq以下である化合物と、エポキシ基と反応しうる官能基を有する芳香族化合物とが反応してなる化合物を含むエポキシ樹脂。
<2> 前記反応してなる化合物は、下記一般式(a)で表される化合物及び下記一般式(b)で表される化合物の少なくとも一方を含む<1>に記載のエポキシ樹脂。
【0008】
【化1】
【0009】
[一般式(a)及び一般式(b)中、R、R及びRはそれぞれ独立に1価の基を表し、Zはそれぞれ独立に、-O-又は-NH-を表す。一般式(a)では、R、R及びRの少なくとも1つはエポキシ基を有し、一般式(b)では、R及びRの少なくとも1つはエポキシ基を有する。一般式(a)では、R、R及びRの少なくとも1つは前記メソゲン構造及びエポキシ基を有する化合物に由来する構造を有し、一般式(b)では、R及びRの少なくとも1つは前記メソゲン構造及びエポキシ基を有する化合物に由来する構造を有する。一般式(a)では、R、R及びRの少なくとも1つは前記エポキシ基を有し、エポキシ当量が160g/eq以下である化合物に由来する構造を有し、一般式(b)では、R及びRの少なくとも1つは前記エポキシ基を有し、エポキシ当量が160g/eq以下である化合物に由来する構造を有する。]
<3> メソゲン構造を有する第一のエポキシ化合物と、エポキシ当量が160g/eq以下である第二のエポキシ化合物とを含むエポキシ樹脂。
<4> 前記第一のエポキシ化合物は、メソゲン構造及びエポキシ基を有する化合物と、エポキシ基と反応しうる官能基を有する芳香族化合物とが反応してなる化合物を含む<3>に記載のエポキシ樹脂。
<5> 前記第一のエポキシ化合物は、メソゲン構造及びエポキシ基を有する化合物と、エポキシ基を有し、エポキシ当量が160g/eq以下である化合物と、エポキシ基と反応しうる官能基を有する芳香族化合物とが反応してなる化合物を含む<3>又は<4>に記載のエポキシ樹脂。
<6> 前記メソゲン構造は、下記一般式(3)で表される構造を含む<1>~<5>のいずれか1つに記載のエポキシ樹脂。
【0010】
【化2】
【0011】
[一般式(3)中、R~Rはそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を示す。*は隣接する原子との結合部位を表す。]
<7> 前記反応してなる化合物は、下記一般式(3-A)、(3-B)、(4-A)、(4-B)、(5-A)及び(5-B)からなる群より選択される少なくとも一つの構造を有する<1>、<2>、<4>及び<5>のいずれか1つに記載のエポキシ樹脂。
【0012】
【化3】
【0013】
〔一般式(3-A)、(3-B)、(4-A)、(4-B)、(5-A)及び(5-B)において、R及びRはそれぞれ独立に、炭素数1~8のアルキル基を表す。mはそれぞれ独立に、0~4の整数を表し、nはそれぞれ独立に、0~6の整数を表す。R~Rはそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を示す。Zはそれぞれ独立に、-O-又は-NH-を表す。*は隣接する原子との結合部位を表す。〕
【0014】
<8> <1>~<7>のいずれか1つに記載のエポキシ樹脂と、硬化剤をさらに含むエポキシ樹脂組成物。
<9> 硬化物としたときにスメクチック構造又はネマチック構造を形成可能である<8>に記載のエポキシ樹脂組成物。
<10> <8>又は<9>に記載のエポキシ樹脂組成物の硬化物であるエポキシ樹脂硬化物。
<11> <10>に記載のエポキシ樹脂硬化物と、強化材と、を含む複合材料。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高弾性と高靱性とを両立したエポキシ樹脂硬化物が得られるエポキシ樹脂及びエポキシ樹脂組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、高弾性と高靱性とを両立したエポキシ樹脂硬化物及びこれを含む複合材料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合を除き、必須ではない。数値及びその範囲についても同様であり、本発明を制限するものではない。
【0017】
本開示において「工程」との語には、他の工程から独立した工程に加え、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の目的が達成されれば、当該工程も含まれる。
本開示において「~」を用いて示された数値範囲には、「~」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において各成分は該当する物質を複数種含んでいてもよい。組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、各成分の含有率又は含有量は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計の含有率又は含有量を意味する。
本開示において「エポキシ化合物」とは、分子中にエポキシ基を有する化合物を意味する。「エポキシ樹脂」とは、複数のエポキシ化合物を集合体として捉える概念であって硬化していない状態のものを意味する。
【0018】
〔第一実施形態〕
<エポキシ樹脂>
まず、第一実施形態のエポキシ樹脂について説明する。本開示のエポキシ樹脂は、メソゲン構造及びエポキシ基を有する化合物と、エポキシ基を有し、エポキシ当量が160g/eq以下である化合物と、エポキシ基と反応しうる官能基を有する芳香族化合物とが反応してなる化合物(以下、「特定エポキシ化合物(A)」とも称する)を含む。本開示のエポキシ樹脂を用いることで高弾性と高靱性とを両立したエポキシ樹脂硬化物が得られる。この理由としては、メソゲン構造及びエポキシ基を有する化合物が分子配向性に優れることにより、硬化物にて優れた靱性が得られ、エポキシ当量の比較的小さい化合物を併用することにより、硬化物の架橋密度が向上して硬化物の高弾性化を図ることができるためと推測される。
【0019】
メソゲン構造及びエポキシ基を有する化合物を含むエポキシ樹脂は、この樹脂を含むエポキシ樹脂組成物の硬化物中に高次構造を形成する。ここで、高次構造とは、その構成要素が配列してミクロな秩序構造を形成した高次構造体を含む構造を意味し、例えば結晶相及び液晶相が相当する。このような高次構造体の存在の有無は、偏光顕微鏡によって判断することができる。すなわち、クロスニコル状態での観察において、偏光解消による干渉縞が見られることで判別可能である。この高次構造体は、通常はエポキシ樹脂組成物の硬化物中に島状に存在してドメイン構造を形成しており、その島の一つが一つの高次構造体に対応する。この高次構造体の構成要素自体は、一般には共有結合により形成されている。
【0020】
硬化した状態で形成される高次構造としては、ネマチック構造とスメクチック構造とが挙げられる。ネマチック構造とスメクチック構造は、それぞれ液晶構造の一種である。ネマチック構造は分子長軸が一様な方向を向いており、配向秩序のみをもつ液晶構造である。これに対し、スメクチック構造は配向秩序に加えて一次元の位置の秩序を持ち、層構造を有する液晶構造である。秩序性はネマチック構造よりもスメクチック構造の方が高い。従って、硬化物の熱伝導性及び破壊靱性の観点からは、スメクチック構造の高次構造を形成することがより好ましい。
【0021】
硬化物中にスメクチック構造が形成されているか否かは、硬化物のX線回折測定により判断できる。X線回折測定は、例えば、株式会社リガクのX線回折装置を用いて行うことができる。本開示では、CuKα1線を用い、管電圧40kV、管電流20mA、2θ=1°~30°の範囲でX線回折測定を行ったとき、2θ=2°~10°の範囲に回折ピークが現れる場合に、硬化物中にスメクチック構造が形成されていると判断する。
【0022】
メソゲン構造及びエポキシ基を有する化合物におけるメソゲン構造とは、これを有するエポキシ化合物を含むエポキシ樹脂が液晶性を発現する可能性のある構造を意味する。具体的には、ビフェニル構造、フェニルベンゾエート構造、シクロヘキシルベンゾエート構造、アゾベンゼン構造、スチルベン構造、ターフェニル構造、アントラセン構造、これらの誘導体、これらのメソゲン構造の2つ以上が結合基を介して結合した構造等が挙げられる。
【0023】
特定エポキシ化合物(A)としては、下記一般式(a)で表される化合物及び下記一般式(b)で表される化合物の少なくとも一方を含むことが好ましい。
【0024】
【化4】
【0025】
一般式(a)及び一般式(b)中、R、R及びRはそれぞれ独立に1価の基を表し、Zはそれぞれ独立に、-O-又は-NH-を表す。一般式(a)では、R、R及びRの少なくとも1つはエポキシ基を有し、一般式(b)では、R及びRの少なくとも1つはエポキシ基を有する。一般式(a)では、R、R及びRの少なくとも1つはメソゲン構造及びエポキシ基を有する化合物に由来する構造(以下、構造(A)とも称する)を有し、一般式(b)では、R及びRの少なくとも1つはメソゲン構造及びエポキシ基を有する化合物に由来する構造(構造(A))を有する。一般式(a)では、R、R及びRの少なくとも1つはエポキシ基を有し、エポキシ当量が160g/eq以下である化合物に由来する構造(以下、構造(B)とも称する)を有し、一般式(b)では、R及びRの少なくとも1つはエポキシ基を有し、エポキシ当量が160g/eq以下である化合物に由来する構造(構造B)を有する。
【0026】
一般式(a)では、R、R及びRはそれぞれ、構造(A)及び構造(B)の少なくとも一方を有することが好ましい。また、一般式(b)では、R及びRはそれぞれ、構造(A)及び構造(B)の少なくとも一方を有することが好ましい。
【0027】
メソゲン構造及びエポキシ基を有する化合物におけるメソゲン構造は、下記一般式(1)で表される構造であってもよい。
【0028】
【化5】
【0029】
一般式(1)中、Xは下記2価の基からなる群(I)より選択される少なくとも1種の連結基を示す。Yはそれぞれ独立に、炭素数1~8の脂肪族炭化水素基、炭素数1~8のアルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、シアノ基、ニトロ基、又はアセチル基を示す。nは各々独立に0~4の整数を示す。*は隣接する原子との結合部位を表す。
【0030】
【化6】
【0031】
群(I)中、Yはそれぞれ独立に、炭素数1~8の脂肪族炭化水素基、炭素数1~8のアルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、シアノ基、ニトロ基、又はアセチル基を示す。nは各々独立に0~4の整数を示し、kは0~7の整数を示し、mは0~8の整数を示し、lは0~12の整数を示す。
【0032】
一般式(1)で表されるメソゲン構造において、Xは、下記2価の基からなる群(Ia)より選択される少なくとも1種の連結基であることが好ましく、群(Ia)より選択される少なくとも1種の連結基であって少なくとも1つの環状構造を含む連結基であることがより好ましい。
【0033】
【化7】
【0034】
群(Ia)中、Yはそれぞれ独立に、炭素数1~8の脂肪族炭化水素基、炭素数1~8のアルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、シアノ基、ニトロ基、又はアセチル基を示す。nは各々独立に0~4の整数を示し、kは0~7の整数を示し、mは0~8の整数を示し、lは0~12の整数を示す。
【0035】
メソゲン構造及びエポキシ基を有する化合物におけるメソゲン構造は、下記一般式(2)で表されるメソゲン構造であることが好ましい。
【0036】
【化8】
【0037】
一般式(2)において、X、Y、nの定義及び好ましい例は、一般式(1)のX、Y、nの定義及び好ましい例と同様である。*は隣接する原子との結合部位を表す。
【0038】
さらに、メソゲン構造及びエポキシ基を有する化合物におけるメソゲン構造は、下記一般式(3)で表されるメソゲン構造又は下記一般式(4)で表されるメソゲン構造であってもよい。中でも、下記一般式(3)で表されるメソゲン構造が好ましい。
【0039】
【化9】
【0040】
一般式(3)及び一般式(4)中、R~Rはそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を示す。*は隣接する原子との結合部位を表す。
【0041】
~Rはそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~2のアルキル基であることが好ましく、水素原子又はメチル基であることがより好ましく、水素原子であることがさらに好ましい。また、R~Rのうちの2個~4個が水素原子であることが好ましく、3個又は4個が水素原子であることがより好ましく、4個すべてが水素原子であることがさらに好ましい。R~Rのいずれかが炭素数1~3のアルキル基である場合、R及びRの少なくとも一方が炭素数1~3のアルキル基であることが好ましい。
【0042】
メソゲン構造及びエポキシ基を有する化合物は、メソゲン構造を有するエポキシ化合物の単量体を含んでいてもよく、例えば、下記一般式(1-m)で表されるエポキシ化合物を含んでいてもよい。
【0043】
【化10】
【0044】
一般式(1-m)において、X、Y、nの定義及び好ましい例は、一般式(1)のX、Y、nの定義及び好ましい例と同様である。
【0045】
高次構造形成の観点からは、一般式(1-m)で表されるエポキシ化合物は、下記一般式(2-m)で表されるエポキシ化合物であることが好ましい。
【0046】
【化11】
【0047】
一般式(2-m)において、X、Y及びnの定義及び好ましい例は、一般式(1-m)におけるX、Y及びnの定義及び好ましい例と同様である。
【0048】
一般式(1-m)で表されるエポキシ化合物は、下記一般式(3-m)で表されるエポキシ化合物であることがより好ましい。
【0049】
【化12】
【0050】
一般式(3-m)において、R~Rの定義及び好ましい例は、一般式(3)のR~Rの定義及び好ましい例と同様である。
【0051】
また、メソゲン構造及びエポキシ基を有する化合物は、下記一般式(4-m)で表されるエポキシ化合物を含んでいてもよい。
【0052】
【化13】
【0053】
一般式(4-m)において、R~Rの定義及び好ましい例は、一般式(3)のR~Rの定義及び好ましい例と同様である。
【0054】
また、メソゲン構造及びエポキシ基を有する化合物としては、1種を単独であってもよく、2種以上の混合物であってもよい。
【0055】
エポキシ基を有し、エポキシ当量が160g/eq以下である化合物としては、芳香環を有する化合物であることが好ましく、芳香環にグリシジルエーテル基が1つ以上結合している化合物であることがより好ましく、芳香環にグリシジルエーテル基が2つ結合している化合物であることがさらに好ましい。
芳香環としては、ベンゼン環及びナフタレン環が挙げられる。
エポキシ基を有し、エポキシ当量が160g/eq以下である化合物としては、1種を単独であってもよく、2種以上の混合物であってもよい。
【0056】
エポキシ基を有し、エポキシ当量が160g/eq以下である化合物は、2つのエポキシ基を有することが好ましい。エポキシ基の数が2つであることにより、エポキシ樹脂のゲル化を抑制しつつ、好適に硬化物を形成できる傾向にある。
【0057】
エポキシ基を有し、エポキシ当量が160g/eq以下である化合物は、下記一般式(1-a)で表されるエポキシ化合物及び下記一般式(1-b)で表されるエポキシ化合物であることが好ましい。
【0058】
【化14】
【0059】
一般式(1-a)中、Zはそれぞれ独立に、炭素数1~8の脂肪族炭化水素基、炭素数1~7のアルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、シアノ基、ニトロ基、又はアセチル基を示す。pは0~4の整数を示す。
一般式(1-b)中、Zはそれぞれ独立に、炭素数1~3の脂肪族炭化水素基、炭素数1~2のアルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、シアノ基、ニトロ基、又はアセチル基を示す。qは0~3の整数を示す。
また、pは、0~2であることが好ましく、0であることがより好ましい。
qは、0又は1であることが好ましく、0であることがより好ましい。
【0060】
エポキシ基を有し、エポキシ当量が160g/eq以下である化合物は、下記一般式(1-c)~一般式(1-e)で表されるエポキシ化合物の少なくともいずれかであることがより好ましい。
【0061】
【化15】
【0062】
一般式(1-c)~一般式(1-e)において、Z、p、qの定義及び好ましい例は、一般式(1-a)及び一般式(1-b)のZ、p、qの定義及び好ましい例と同様である。
【0063】
エポキシ基と反応しうる官能基を有する芳香族化合物の種類は、特に制限されない。硬化物中にスメクチック構造を形成する観点からは、1つのベンゼン環に2つの水酸基が結合した構造を有するジヒドロキシベンゼン化合物、1つのベンゼン環に2つのアミノ基が結合した構造を有するジアミノベンゼン化合物、ビフェニル構造を形成する2つのベンゼン環にそれぞれ1つの水酸基が結合した構造を有するジヒドロキシビフェニル化合物、ビフェニル構造を形成する2つのベンゼン環にそれぞれ1つのアミノ基が結合した構造を有するジアミノビフェニル化合物、1つのナフタレン環に2つの水酸基が結合した構造を有するジヒドロキシナフタレン化合物及び1つのナフタレン環に2つのアミノ基が結合した構造を有するジアミノナフタレン化合物からなる群より選択される少なくとも1種(以下、特定芳香族化合物とも称する)であることが好ましい。
【0064】
ジヒドロキシベンゼン化合物としては、カテコール、レゾルシノール、ヒドロキノン、これらの誘導体等が挙げられる。
ジアミノベンゼン化合物としては、1,2-ジアミノベンゼン、1,3-ジアミノベンゼン、1,4-ジアミノベンゼン、これらの誘導体等が挙げられる。
【0065】
ジヒドロキシビフェニル化合物としては、2,2’-ジヒドロキシビフェニル、2,3’-ジヒドロキシビフェニル、2,4’-ジヒドロキシビフェニル、3,3’-ジヒドロキシビフェニル、3,4’-ジヒドロキシビフェニル、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、これらの誘導体等が挙げられる。
ジアミノビフェニル化合物としては、2,2’-ジアミノビフェニル、2,3’-ジアミノビフェニル、2,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジアミノビフェニル、3,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノビフェニル、これらの誘導体等が挙げられる。
【0066】
ジヒドロキシナフタレン化合物としては、1,2-ジヒドロキシナフタレン、1,3-ジヒドロキシナフタレン、1,4-ジヒドロキシナフタレン、1,5-ジヒドロキシナフタレン、1,6-ジヒドロキシナフタレン、1,7-ジヒドロキシナフタレン、1,8-ジヒドロキシナフタレン、2,3-ジヒドロキシナフタレン、2,6-ジヒドロキシナフタレン、2,7-ジヒドロキシナフタレン、これらの誘導体等が挙げられる。
ジアミノナフタレン化合物としては、1,2-ジアミノナフタレン、1,3-ジアミノナフタレン、1,4-ジアミノナフタレン、1,5-ジアミノナフタレン、1,6-ジアミノナフタレン、1,7-ジアミノナフタレン、1,8-ジアミノナフタレン、2,3-ジアミノナフタレン、2,6-ジアミノナフタレン、2,7-ジアミノナフタレン、これらの誘導体等が挙げられる。
【0067】
特定芳香族化合物の誘導体としては、特定芳香族化合物のベンゼン環又はナフタレン環に炭素数1~8のアルキル基等の置換基が結合した化合物が挙げられる。特定芳香族化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0068】
メソゲン構造及びエポキシ基を有する化合物と、エポキシ基を有し、エポキシ当量が160g/eq以下である化合物と、エポキシ基と反応しうる官能基を有する芳香族化合物とを反応させる方法は、特に制限されない。具体的には、例えば、これらの化合物と、必要に応じて用いる反応触媒とを溶媒中に溶解し、加熱しながら撹拌して反応させてもよい。
あるいは、例えば、これらの化合物を、反応触媒と溶媒を用いずに混合し、加熱しながら撹拌して反応させてもよい。
【0069】
溶媒は、メソゲン構造及びエポキシ基を有する化合物と、エポキシ基を有し、エポキシ当量が160g/eq以下である化合物と、エポキシ基と反応しうる官能基を有する芳香族化合物とを溶解でき、かつこれらの化合物が反応するのに必要な温度にまで加温できる溶媒であれば、特に制限されない。具体的には、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、乳酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、N-メチルピロリドン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、プロピレングリコールモノプロピルエーテル等が挙げられる。
【0070】
溶媒の量は、メソゲン構造及びエポキシ基を有する化合物と、エポキシ基を有し、エポキシ当量が160g/eq以下である化合物と、エポキシ基と反応しうる官能基を有する芳香族化合物と、必要に応じて用いる反応触媒とを反応温度において溶解できる量であれば特に制限されない。反応前の原料の種類、溶媒の種類等によって溶解性が異なるものの、例えば、仕込み固形分濃度が20質量%~60質量%となる量であれば、反応後の溶液の粘度が好ましい範囲となる傾向にある。
【0071】
反応触媒の種類は特に限定されず、反応速度、反応温度、貯蔵安定性等の観点から適切なものを選択できる。具体的には、イミダゾール化合物、有機リン化合物、第3級アミン、第4級アンモニウム塩等が挙げられる。反応触媒は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0072】
硬化物の耐熱性の観点からは、反応触媒としては有機リン化合物が好ましい。
有機リン化合物の好ましい例としては、有機ホスフィン化合物、有機ホスフィン化合物に無水マレイン酸、キノン化合物、ジアゾフェニルメタン、フェノール樹脂等のπ結合をもつ化合物を付加してなる分子内分極を有する化合物、有機ホスフィン化合物と有機ボロン化合物との錯体などが挙げられる。
【0073】
有機ホスフィン化合物として具体的には、トリフェニルホスフィン、ジフェニル(p-トリル)ホスフィン、トリス(アルキルフェニル)ホスフィン、トリス(アルコキシフェニル)ホスフィン、トリス(アルキルアルコキシフェニル)ホスフィン、トリス(ジアルキルフェニル)ホスフィン、トリス(トリアルキルフェニル)ホスフィン、トリス(テトラアルキルフェニル)ホスフィン、トリス(ジアルコキシフェニル)ホスフィン、トリス(トリアルコキシフェニル)ホスフィン、トリス(テトラアルコキシフェニル)ホスフィン、トリアルキルホスフィン、ジアルキルアリールホスフィン、アルキルジアリールホスフィン等が挙げられる。
【0074】
キノン化合物として具体的には、1,4-ベンゾキノン、2,5-トルキノン、1,4-ナフトキノン、2,3-ジメチルベンゾキノン、2,6-ジメチルベンゾキノン、2,3-ジメトキシ-5-メチル-1,4-ベンゾキノン、2,3-ジメトキシ-1,4-ベンゾキノン、フェニル-1,4-ベンゾキノン等が挙げられる。
【0075】
有機ボロン化合物として具体的には、テトラフェニルボレート、テトラ-p-トリルボレート、テトラ-n-ブチルボレート等が挙げられる。
【0076】
反応触媒の量は、特に制限されない。反応速度及び貯蔵安定性の観点からは、メソゲン構造及びエポキシ基を有する化合物と、この化合物のエポキシ基と反応しうる官能基を有する芳香族化合物との合計質量100質量部に対し、0.1質量部~1.5質量部であることが好ましく、0.2質量部~1質量部であることがより好ましい。
【0077】
これらの化合物を反応させる場合、メソゲン構造及びエポキシ基を有する化合物が全て反応していてもよく、その一部が反応せずに残存していてもよい。また、エポキシ基を有し、エポキシ当量が160g/eq以下である化合物が全て反応していてもよく、その一部が反応せずに残存していてもよい。
【0078】
弾性及び靱性のバランスをとる観点から、これらの化合物を反応させる前において、メソゲン構造及びエポキシ基を有する化合物のエポキシ基の当量数(Ep1)と、エポキシ基を有し、エポキシ当量が160g/eq以下である化合物のエポキシ基の当量数(Ep2)との比(Ep1:Ep2)が90:10~10:90であることが好ましく、75:25~25:75であることがより好ましく、60:40~40:60であることがさらに好ましい。
【0079】
これらの化合物を反応させる場合、少量スケールであればフラスコ、大量スケールであれば合成釜等の反応容器を使用して行うことができる。具体的な合成方法は、例えば以下の通りである。
まず、メソゲン構造及びエポキシ基を有する化合物及びエポキシ基を有し、エポキシ当量が160g/eq以下である化合物を反応容器に投入し、必要に応じて溶媒を入れ、オイルバス又は熱媒により反応温度まで加温し、これらのエポキシ化合物を溶解する。そこにエポキシ基と反応しうる官能基を有する芳香族化合物を投入し、次いで必要に応じて反応触媒を投入し、反応を開始させる。次いで、必要に応じて減圧下で溶媒を留去することで、本開示のエポキシ樹脂が得られる。
【0080】
反応温度は、これらの化合物の反応が進行する温度であれば特に制限されず、例えば100℃~180℃の範囲であることが好ましく、100℃~150℃の範囲であることがより好ましい。反応温度を100℃以上とすることで、反応が完結するまでの時間をより短くできる傾向にある。一方、反応温度を180℃以下とすることで、ゲル化する可能性を低減できる傾向にある。
【0081】
これらの化合物を反応させる場合、メソゲン構造及びエポキシ基を有する化合物、並びにエポキシ基を有し、エポキシ当量が160g/eq以下である化合物の合計と、エポキシ基と反応しうる官能基を有する芳香族化合物との配合比は、特に制限されない。例えば、エポキシ基の合計当量数(A)と、エポキシ基と反応しうる官能基の当量数(B)との比(A:B)が10:10~10:0.01の範囲となる配合比としてもよい。硬化物の破壊靱性及び耐熱性の観点からは、A:Bが10:5~10:0.1の範囲となる配合比が好ましい。
エポキシ樹脂の取り扱い性の観点からは、エポキシ基の合計当量数(A)と、エポキシ基と反応しうる官能基の当量数(B)との比(A:B)が10:1.6~10:3.0の範囲となる配合比が好ましく、10:1.8~10:2.9の範囲となる配合比がより好ましく、10:2.0~10:2.8の範囲となる配合比がさらに好ましい。
【0082】
特定エポキシ化合物(A)の構造は、例えば、反応により得られると推定される化合物の分子量と、UV及びマススペクトル検出器を備える液体クロマトグラフを用いて実施される液体クロマトグラフィーにより求めた目的化合物の分子量とを照合させることで決定することができる。
【0083】
液体クロマトグラフィーは、例えば、株式会社日立製作所の「LaChrom II C18」を分析用カラムとして使用し、グラジエント法を用いて、溶離液の混合比(体積基準)をアセトニトリル/テトラヒドロフラン/10mmol/l酢酸アンモニウム水溶液=20/5/75からアセトニトリル/テトラヒドロフラン=80/20(開始から20分)を経てアセトニトリル/テトラヒドロフラン=50/50(開始から35分)と連続的に変化させて測定を行う。また、流速を1.0ml/minとして行う。UVスペクトル検出器では280nmの波長における吸光度を検出し、マススペクトル検出器ではイオン化電圧を2700Vとして検出する。
【0084】
特定エポキシ化合物(A)は、下記一般式(3-A)、(3-B)、(4-A)、(4-B)、(5-A)及び(5-B)からなる群より選択される少なくとも一つの構造を有することが好ましい。
【化16】
【0085】
一般式(3-A)、(3-B)、(4-A)、(4-B)、(5-A)及び(5-B)において、R及びRはそれぞれ独立に、炭素数1~8のアルキル基を表す。mはそれぞれ独立に、0~4の整数を表し、nはそれぞれ独立に、0~6の整数を表す。R~Rはそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を示す。Zはそれぞれ独立に、-O-又は-NH-を表す。*は隣接する原子との結合部位を表す。
【0086】
また、特定エポキシ化合物(A)は、下記一般式(6-A)、(6-B)、(7-A)、(7-B)、(8-A)及び(8-B)からなる群より選択される少なくとも一つの構造を有していてもよい。
【0087】
【化17】
【0088】
一般式(6-A)、(6-B)、(7-A)、(7-B)、(8-A)及び(8-B)において、R及びRはそれぞれ独立に、炭素数1~8のアルキル基を表す。mはそれぞれ独立に、0~4の整数を表し、nはそれぞれ独立に、0~6の整数を表す。R~Rはそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を示す。Zはそれぞれ独立に、-O-又は-NH-を表す。*は隣接する原子との結合部位を表す。
【0089】
また、特定エポキシ化合物(A)は、下記一般式(1-a’)及び(1-b’)からなる群より選択される少なくとも一つの構造を有することが好ましい。
【0090】
【化18】
【0091】
一般式(1-a’)及び一般式(1-b’)において、Z、p、qの定義及び好ましい例は、一般式(1-a)及び一般式(1-b)のZ、p、qの定義及び好ましい例と同様である。*は隣接する原子との結合部位を表す。
【0092】
特定エポキシ化合物(A)は、下記一般式(1-c’)、(1-d’)及び(1-e’)からなる群より選択される少なくとも一つの構造を有することが好ましい。
【0093】
【化19】
【0094】
一般式(1-c’)~一般式(1-e’)において、Z、p、qの定義及び好ましい例は、一般式(1-c)~一般式(1-e)のZ、p、qの定義及び好ましい例と同様である。*は隣接する原子との結合部位を表す。
【0095】
本開示のエポキシ樹脂に含まれ得る、特定エポキシ化合物(A)の重量平均分子量は、
特に制限されない。低粘度化の観点からは、特定エポキシ化合物(A)の重量平均分子量(Mw)は、500~5000の範囲から選択されることが好ましく、700~3000の範囲から選択されることがより好ましく、800~1300の範囲から選択されることがさらに好ましい。
【0096】
本開示において、数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)は液体クロマトグラフィーにより得られる値とする。
液体クロマトグラフィーは、試料濃度を0.5質量%とし、移動相にテトラヒドロフランを用い、流速を1.0ml/minとして行う。検量線はポリスチレン標準サンプルを用いて作成し、それを用いてポリスチレン換算値でMn及びMwを測定する。
測定は、例えば、株式会社日立製作所の高速液体クロマトグラフ「L6000」と、株式会社島津製作所のデータ解析装置「C-R4A」を用いて行うことができる。カラムとしては、例えば、東ソー株式会社のGPCカラムである「G2000HXL」及び「G3000HXL」を用いることができる。
【0097】
エポキシ樹脂は、メソゲン構造及びエポキシ基を有する化合物と、エポキシ基と反応しうる官能基を有する芳香族化合物とを反応してなる化合物である後述の特定のエポキシ化合物(B)を含んでいてもよい。
【0098】
(エポキシ樹脂の物性)
以下、本開示のエポキシ樹脂の物性について説明する。
【0099】
[重量平均分子量]
本開示のエポキシ樹脂の重量平均分子量(Mw)は、特に制限されない。低粘度化の観点からは、エポキシ樹脂の重量平均分子量(Mw)は500~5000の範囲から選択されることが好ましく、700~3000の範囲から選択されることがより好ましい。
【0100】
[エポキシ当量]
本開示のエポキシ樹脂のエポキシ当量は、特に制限されない。エポキシ樹脂の流動性と硬化物の熱伝導性を両立する観点からは、245g/eq~360g/eqであることが好ましく、250g/eq~355g/eqであることがより好ましく、260g/eq~350g/eqであることがさらに好ましい。エポキシ樹脂のエポキシ当量が245g/eq以上であれば、エポキシ樹脂の結晶性が高くなりすぎないためエポキシ樹脂の流動性が低下しにくい傾向にある。一方、エポキシ樹脂のエポキシ当量が360g/eq以下であれば、エポキシ樹脂の架橋密度が低下しにくいため、硬化物の熱伝導率が高くなる傾向にある。
【0101】
[粘度]
本開示のエポキシ樹脂の粘度は、特に制限されず、エポキシ樹脂の用途に応じて選択できる。取り扱い性の観点から、エポキシ樹脂の60℃における粘度が200Pa・s未満であることが好ましい。
エポキシ樹脂の60℃における粘度は、動的粘弾性測定装置(例えば、アントンパール社のレオメータMCR301)を用い、エポキシ樹脂の温度を150℃から30℃まで降下させる降温過程と、エポキシ樹脂混合物の温度を30℃から150℃まで上昇させる昇温過程をこの順に実施し、昇温過程での60℃における粘度をエポキシ樹脂の60℃における粘度(Pa・s)とすればよい。測定条件は、振動数:1Hz、プレート:φ12mm、ギャップ:0.2mm、降温過程における降温速度:2℃/min、昇温過程における昇温速度:2℃/minとする。
【0102】
[GPCピーク面積比]
本開示のエポキシ樹脂において、液体クロマトグラフィーにより得られる特定エポキシ化合物(A)及び後述の特定エポキシ化合物(B)の合計割合(以下、「GPCピーク面積比」とも称する)は、メソゲン構造を有するエポキシ化合物全体の50%以上であってもよい。これにより、昇温時に粘度が下がりやすく、エポキシ樹脂の取り扱い性に優れる傾向にある。
GPCピーク面積比は、液体クロマトグラフにより得られるチャートにおける、メソゲン構造を有するエポキシ化合物に由来するピークの合計面積に占める特定エポキシ化合物(A)及び特定エポキシ化合物(B)に由来するピークの合計面積の割合(%)である。具体的には、測定対象のエポキシ樹脂の280nmの波長における吸光度を検出し、メソゲン構造を有するエポキシ化合物に相当するピークの合計面積と、特定エポキシ化合物(A)及び特定エポキシ化合物(B)に相当するピークの合計面積とから、下記式により算出する。
特定エポキシ化合物(A)及び特定エポキシ化合物(B)に由来するピークの合計面積の割合(%)=(特定エポキシ化合物(A)及び特定エポキシ化合物(B)に由来するピークの合計面積/メソゲン構造を有するエポキシ化合物に由来するピークの合計面積)×100
【0103】
液体クロマトグラフィーは、試料濃度を0.5質量%とし、移動相にテトラヒドロフランを用い、流速を1.0ml/minとして行う。測定は、例えば、株式会社日立製作所の高速液体クロマトグラフ「L6000」と、株式会社島津製作所のデータ解析装置「C-R4A」を用いて行うことができる。カラムとしては、例えば、東ソー株式会社のGPCカラムである「G2000HXL」及び「G3000HXL」を用いることができる。
【0104】
取り扱い性向上の観点からは、GPCピーク面積比は、メソゲン構造を有するエポキシ化合物全体の51%以上であってもよく、52%以上であってもよい。
【0105】
本開示のエポキシ樹脂において、液体クロマトグラフィーにより得られるメソゲン構造を有するエポキシ化合物の単量体の割合は、メソゲン構造を有するエポキシ化合物全体の50%以下であってもよく、49%以下であってもよく、48%以下であってもよい。この割合は、前述のGPCピーク面積比と同様の方法で求めることができる。
【0106】
〔第二実施形態〕
次に、第二実施形態のエポキシ樹脂について説明する。本開示のエポキシ樹脂は、メソゲン構造を有する第一のエポキシ化合物と、エポキシ当量が160g/eq以下である第二のエポキシ化合物とを含む。本開示のエポキシ樹脂を用いることで高弾性と高靱性とを両立したエポキシ樹脂硬化物が得られる。なお、前述の第一実施形態と共通する事項については、その説明を省略する。
【0107】
第二実施形態にて用いる第一のエポキシ化合物は、前述したメソゲン構造及びエポキシ基を有する化合物であってもよく、前述した特定エポキシ化合物(A)であってもよく、後述する特定エポキシ化合物(B)であってもよい。第一のエポキシ化合物は、1つのメソゲン構造を有する化合物と2つ以上のメソゲン構造を有する化合物との混合物であってもよい。なお、2つ以上のメソゲン構造を有する化合物における2つ以上のメソゲン構造は、異なっていても同じであってもよい。
【0108】
第二実施形態にて用いる第二のエポキシ化合物は、前述したエポキシ基を有し、エポキシ当量が160g/eq以下である化合物であってもよい。
【0109】
第一のエポキシ化合物は、メソゲン構造及びエポキシ基を有する化合物と、エポキシ基と反応しうる官能基を有する芳香族化合物とを反応してなる化合物(以下、「特定エポキシ化合物(B)」とも称する)を含んでいてもよい。これにより、エポキシ樹脂の流動性が向上する傾向にある。
なお、特定エポキシ化合物(B)の合成に用いる、メソゲン構造及びエポキシ基を有する化合物並びに前述の芳香族化合物は、前述の特定エポキシ化合物(A)の合成に用いる、メソゲン構造及びエポキシ基を有する化合物並びに前述の芳香族化合物と同様であるため、その説明を省略する。また、特定エポキシ化合物(B)の好ましい合成条件は、特定エポキシ化合物(A)の好ましい合成条件と同様であるため、その説明を省略する。
また、特定エポキシ化合物(B)の重量平均分子量は、特に制限されない。低粘度化の観点からは、特定エポキシ化合物(B)の重量平均分子量(Mw)は、500~5000の範囲から選択されることが好ましく、700~3000の範囲から選択されることがより好ましく、800~1300の範囲から選択されることがさらに好ましい。
【0110】
特定エポキシ化合物(B)を合成する場合、メソゲン構造及びエポキシ基を有する化合物と、エポキシ基と反応しうる官能基を有する芳香族化合物の配合比は、特に制限されない。例えば、エポキシ基の当量数(A’)と、エポキシ基と反応しうる官能基の当量数(B)との比(A’:B)が10:10~10:0.01の範囲となる配合比としてもよい。硬化物の破壊靱性及び耐熱性の観点からは、A’:Bが10:5~10:0.1の範囲となる配合比が好ましい。
エポキシ樹脂の取り扱い性の観点からは、エポキシ基の当量数(A’)と、エポキシ基と反応しうる官能基の当量数(B)との比(A’:B)が10:1.6~10:3.0の範囲となる配合比が好ましく、10:1.8~10:2.9の範囲となる配合比がより好ましく、10:2.0~10:2.8の範囲となる配合比がさらに好ましい。
【0111】
弾性及び靱性のバランスをとる観点から、第一のエポキシ化合物のエポキシ基の当量数(Ep3)と、第二のエポキシ化合物のエポキシ基の当量数(Ep2)との比(Ep3:Ep2)が90:10~10:90であることが好ましく、75:25~25:75であることがより好ましく、60:40~40:60であることがさらに好ましい。
【0112】
エポキシ樹脂が第一のエポキシ化合物及び第二のエポキシ化合物以外のエポキシ化合物を含む場合、第一のエポキシ化合物と第二のエポキシ化合物の合計含有率は、特に制限されない。例えば、エポキシ樹脂全体の70質量%~99質量%であることが好ましく、80質量%~99質量%であることがより好ましく、90質量%~99質量%であることがさらに好ましい。
【0113】
<エポキシ樹脂組成物>
本開示のエポキシ樹脂組成物は、上述したエポキシ樹脂と、硬化剤と、を含む。エポキシ樹脂組成物は、破壊靱性の観点から、硬化物としたときにスメクチック構造又はネマチック構造を形成可能であることが好ましい。
【0114】
(硬化剤)
硬化剤は、エポキシ樹脂と硬化反応を生じることができる化合物であれば、特に制限されない。硬化剤の具体例としては、アミン硬化剤、フェノール硬化剤、酸無水物硬化剤、ポリメルカプタン硬化剤、ポリアミノアミド硬化剤、イソシアネート硬化剤、ブロックイソシアネート硬化剤等が挙げられる。硬化剤は、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0115】
エポキシ樹脂組成物の硬化物中に高次構造を形成する観点からは、硬化剤としては、アミン硬化剤又はフェノール硬化剤が好ましく、アミン硬化剤がより好ましい。アミン硬化剤としては、芳香環及びアミノ基を有するアミン硬化剤が好ましく、アミノ基が芳香環に直接結合しているアミン硬化剤がより好ましく、2つ以上のアミノ基が芳香環に直接結合しているアミン硬化剤がさらに好ましい。芳香環としては、ベンゼン環及びナフタレン環が挙げられる。
【0116】
アミン硬化剤として具体的には、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノ-3,3’-ジメトキシビフェニル、4,4’-ジアミノフェニルベンゾエート、1,5-ジアミノナフタレン、1,3-ジアミノナフタレン、1,4-ジアミノナフタレン、1,8-ジアミノナフタレン、1,3-ジアミノベンゼン、1,4-ジアミノベンゼン、4,4’-ジアミノベンズアニリド、トリメチレン-ビス-4-アミノベンゾアート等が挙げられる。
【0117】
エポキシ樹脂組成物の硬化物中にスメクチック構造を形成する観点からは3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、1,3-ジアミノベンゼン、1,4-ジアミノベンゼン、4,4’-ジアミノベンズアニリド、1,5-ジアミノナフタレン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン及びトリメチレン-ビス-4-アミノベンゾアートが好ましく、低吸水率及び高破壊靱性の硬化物を得る観点からは3,3’-ジアミノジフェニルスルホンがより好ましい。
【0118】
フェノール硬化剤としては、低分子フェノール化合物、及び低分子フェノール化合物をメチレン鎖等で連結してノボラック化したフェノールノボラック樹脂が挙げられる。低分子フェノール化合物としては、フェノール、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール等の単官能フェノール化合物、カテコール、レゾルシノール、ヒドロキノン等の2官能フェノール化合物、1,2,3-トリヒドロキシベンゼン、1,2,4-トリヒドロキシベンゼン、1,3,5-トリヒドロキシベンゼン等の3官能フェノール化合物などが挙げられる。
【0119】
エポキシ樹脂組成物における硬化剤の含有量は特に制限されない。硬化反応の効率性の観点からは、エポキシ樹脂組成物に含まれる硬化剤の官能基の当量数(アミン硬化剤の場合は活性水素の当量数)と、エポキシ樹脂のエポキシ基の当量数との比(官能基の当量数/エポキシ基の当量数)が0.3~3.0となる量であることが好ましく、0.5~2.0となる量であることがより好ましい。
【0120】
(その他の成分)
エポキシ樹脂組成物は、必要に応じてエポキシ樹脂と硬化剤以外のその他の成分を含んでもよい。例えば、硬化触媒、フィラー等を含んでもよい。硬化触媒の具体例としては、多量体の合成に使用しうる反応触媒として例示した化合物が挙げられる。
【0121】
エポキシ樹脂組成物は、硬化物としたときの破壊靱性値が0.8MPa・m1/2以上であることが好ましく、0.9MPa・m1/2以上であることがより好ましく、1.0MPa・m1/2以上であることがさらに好ましい。
硬化物の破壊靱性値は、後述する実施例に記載された方法で測定される。
【0122】
エポキシ樹脂組成物は、硬化物としたときの曲げ弾性率が2.8GPa以上であることが好ましく、2.9GPa以上であることがより好ましく、3.0GPa以上であることがさらに好ましい。
硬化物の曲げ弾性率は、後述する実施例に記載された方法で測定される。
【0123】
エポキシ樹脂組成物は、硬化物としたときのガラス転移温度が145℃以上であることが好ましく、150℃以上であることがより好ましく、155℃以上であることがさらに好ましい。
硬化物のガラス転移温度は、例えば、以下のように測定することができる。具体的には硬化物を短冊状に切り出して試験片を作製し、引張りモードによる動的粘弾性測定を行って算出する。測定条件は、周波数10Hz、昇温速度5℃/分、ひずみ0.1%とし、得られた温度‐tanδ関係図において、tanδが最大となる温度を、ガラス転移温度とみなせばよい。評価装置には、例えば、RSA-G2(ティー・エイ・インスツルメント社)を用いることができる。
【0124】
(用途)
エポキシ樹脂組成物の用途は特に制限されず、粘度が低く、流動性に優れていることが要求される加工方法にも好適に用いることができる。例えば、繊維間の空隙にエポキシ樹脂組成物を加温しながら含浸する工程を伴うFRPの製造、エポキシ樹脂組成物を加温しながらスキージ等で広げる工程を伴うシート状物の製造などにも好適に用いることができる。
【0125】
本開示のエポキシ樹脂組成物は、硬化物中のボイドの発生を抑制する観点から粘度低下のための溶剤の添加を省略又は低減することが望まれる加工方法(例えば、航空機、宇宙船等に用いるFRPの製造)にも好適に用いることができる。
【0126】
<エポキシ樹脂硬化物及び複合材料>
本開示のエポキシ樹脂硬化物は、本開示のエポキシ樹脂組成物を硬化して得られる硬化物である。本開示の複合材料は、本開示のエポキシ樹脂硬化物と、強化材と、を含む。
【0127】
複合材料に含まれる強化材の材質は特に制限されず、複合材料の用途等に応じて選択できる。強化材として具体的には、炭素材料、ガラス、芳香族ポリアミド系樹脂(例えば、ケブラー(登録商標))、超高分子量ポリエチレン、アルミナ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、マイカ、シリコン等が挙げられる。強化材の形状は特に制限されず、繊維状、粒子状(フィラー)等が挙げられる。複合材料の強度の観点からは、強化材は炭素材料であることが好ましく、炭素繊維であることがより好ましい。複合材料に含まれる強化材は、1種でも2種以上であってもよい。
【0128】
複合材料の形態は、特に制限されない。例えば、エポキシ樹脂硬化物を含む少なくとも1つの硬化物含有層と、強化材を含む少なくとも1つの強化材含有層とが積層された構造を有するものであってもよい。
【実施例
【0129】
以下、実施例にもとづいて上記実施形態をさらに具体的に説明するが、上記実施形態はこれらに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」及び「%」は質量基準である。
【0130】
〔実施例1〕
(エポキシ樹脂1の合成)
500mlの三口フラスコに、(4-{4-(2,3-エポキシプロポキシ)フェニル}シクロヘキシル=4-(2,3-エポキシプロポキシ)ベンゾエート、下記構造式(1)の化合物)を50質量部加え、かつEX201(レゾルシン型ジグリシジルエーテル、ナガセケムテックス株式会社、エポキシ当量117g/eq)を26質量部加えた。さらに、三口フラスコに合成溶媒(プロピレングリコールモノメチルエーテル)を80質量部添加した。三口フラスコに冷却管及び窒素導入管を設置し、溶媒に漬かるように撹拌羽を取り付けた。この三口フラスコを120℃のオイルバスに浸漬し、撹拌を開始した。エポキシ化合物が溶解し、透明な溶液になったことを確認した後、1,5-ジヒドロキシナフタレンを8質量部、反応触媒を0.5質量部添加し、120℃のオイルバスで加熱を継続した。3時間加熱を継続した後に、反応溶液からプロピレングリコールモノメチルエーテルを減圧留去し、残渣を室温(25℃)まで冷却することにより、エポキシ樹脂1を得た。
【0131】
【化20】
【0132】
次いで、得られたエポキシ樹脂1を100質量部、硬化剤として3,3’-ジアミノジフェニルスルホンを26質量部、ステンレスシャーレにそれぞれ量り取り、ホットプレートで180℃に加熱し、ステンレスシャーレ内のエポキシ樹脂組成物が溶融した後に、スパチュラで撹拌した。180℃で1時間加熱し、次いで常温(25℃)まで冷却した後にステンレスシャーレからエポキシ樹脂組成物を取り出し、恒温槽にて230℃で1時間加熱して硬化を完了させて、エポキシ樹脂硬化物を得た。このエポキシ樹脂硬化物を3.75mm×7.5mm×33mmの直方体に切り出し、破壊靱性評価用の試験片を作製した。さらに、エポキシ樹脂硬化物を2mm×5mm×50mmの短冊状に切り出し、曲げ弾性率評価用の試験片を作製した。
【0133】
〔実施例2〕
26質量部のEX201の代わりに32質量部のHP4032(ナフタレン構造を有するエポキシ樹脂、DIC株式会社、エポキシ当量147g/eq)を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてエポキシ樹脂2を得た。そして、エポキシ樹脂1の代わりにエポキシ樹脂2を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてエポキシ樹脂硬化物を得て、各試験片を作製した。
【0134】
〔実施例3〕
8質量部の1,5-ジヒドロキシナフタレンの代わりに10質量部の4,4-ビフェノールを用いたこと以外は、実施例1と同様にしてエポキシ樹脂3を得た。そして、得られたエポキシ樹脂3を100質量部、EX201を20質量部、硬化剤として3,3’-ジアミノジフェニルスルホンを34質量部、ステンレスシャーレにそれぞれ量り取った。その後、実施例1と同様にしてエポキシ樹脂硬化物を得て、各試験片を作製した。
【0135】
〔実施例4〕
実施例3にて得られたエポキシ樹脂3を100質量部、EX201を40質量部、硬化剤として3,3’-ジアミノジフェニルスルホンを45質量部、ステンレスシャーレにそれぞれ量り取った。その後、実施例1と同様にしてエポキシ樹脂硬化物を得て、各試験片を作製した。
【0136】
〔実施例5〕
8質量部の1,5-ジヒドロキシナフタレンの代わりに8質量部の4,4-ビフェノールを用いたこと以外は、実施例2と同様にしてエポキシ樹脂4を得た。そして、得られたエポキシ樹脂4を100質量部、硬化剤として3,3’-ジアミノジフェニルスルホンを24質量部、ステンレスシャーレにそれぞれ量り取った。その後、実施例1と同様にしてエポキシ樹脂硬化物を得て、各試験片を作製した。
【0137】
〔実施例6〕
実施例5にて得られたエポキシ樹脂4を100質量部、HP4032を20質量部、硬化剤として3,3’-ジアミノジフェニルスルホンを33質量部、ステンレスシャーレにそれぞれ量り取った。その後、実施例1と同様にしてエポキシ樹脂硬化物を得て、各試験片を作製した。
【0138】
〔比較例1〕
500mlの三口フラスコに、上記構造式(1)の化合物を50質量部加え、そこに合成溶媒(プロピレングリコールモノメチルエーテル)を80質量部添加した。三口フラスコに冷却管及び窒素導入管を設置し、溶媒に漬かるように撹拌羽を取り付けた。この三口フラスコを120℃のオイルバスに浸漬し、撹拌を開始した。エポキシ化合物が溶解し、透明な溶液になったことを確認した後、4,4-ビフェノールを5質量部、反応触媒を0.5質量部添加し、120℃のオイルバスで加熱を継続した。3時間加熱を継続した後に、反応溶液からプロピレングリコールモノメチルエーテルを減圧留去し、残渣を室温(25℃)まで冷却することにより、エポキシ樹脂5を得た。
【0139】
次いで、得られたエポキシ樹脂5を100質量部、硬化剤として3,3’-ジアミノジフェニルスルホンを19質量部、ステンレスシャーレにそれぞれ量り取った。その後、実施例1と同様にしてエポキシ樹脂硬化物を得て、各試験片を作製した。
【0140】
〔比較例2〕
市販のエポキシ樹脂(ELM434、住友化学株式会社、エポキシ当量106g/eq)を100質量部、硬化剤として3,3’-ジアミノジフェニルスルホンを59質量部、ステンレスシャーレにそれぞれ量り取った。その後、実施例1と同様にしてエポキシ樹脂硬化物を得て、各試験片を作製した。
【0141】
以下、実施例1~6並びに比較例1、及び2にて調製したエポキシ樹脂の組成を表1に示す。なお、表1中の反応触媒として、「TBPLA」はテトラ(n-ブチル)ホスホニウムラウリン酸塩を意味し、「TBP2」はトリ-n-ブチルホスフィンとp-ベンゾキノンとの付加物を意味する。
【0142】
【表1】
【0143】
[破壊靱性値の測定]
エポキシ樹脂硬化物の破壊靱性の指標として、破壊靱性値(MPa・m1/2)を用いた。試験片の破壊靱性値は、ASTM D5045に基づいて3点曲げ測定を行って算出した。評価装置には、インストロン5948(インストロン社)を用いた。
【0144】
[曲げ弾性率の測定]
エポキシ樹脂硬化物の弾性の指標として、25℃での曲げ弾性率(GPa)を求めた。試験片の曲げ弾性率は、JIS K 7171(2016)に基づいて3点曲げ測定を行って算出した。評価装置には、テンシロン(株式会社エー・アンド・デイ)を用いた。
【0145】
[高次構造体の有無]
実施例1~6並びに比較例1及び2で作製した試験片について、高次構造体の存在の有無を、偏光顕微鏡によって判断した。すなわち、クロスニコル状態での観察において、偏光解消による干渉縞が見られるか否かで高次構造体の存在の有無を判断した。
【0146】
実施例1~6並びに比較例1及び2のエポキシ樹脂硬化物の曲げ弾性率、破壊靱性値及び高次構造体の有無を表2に示す。なお、比較例2では、試験片が脆く、破壊靱性値を測定することができなかった。
【0147】
【表2】
【0148】
表2に示すように、実施例1~6のエポキシ樹脂硬化物は曲げ弾性率及び破壊靱性値が共に高く、高弾性及び高靱性を両立していた。