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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】ボイラの化学洗浄方法
(51)【国際特許分類】
   F28G 9/00 20060101AFI20220809BHJP
   F22B 37/52 20060101ALI20220809BHJP
【FI】
F28G9/00 L
F22B37/52 A
F28G9/00 Z
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018201020
(22)【出願日】2018-10-25
(65)【公開番号】P2020067240
(43)【公開日】2020-04-30
【審査請求日】2021-08-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】田鹿 元昭
(72)【発明者】
【氏名】木田 昇
(72)【発明者】
【氏名】木村 隆信
(72)【発明者】
【氏名】清滝 一宏
【審査官】河野 俊二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/139837(WO,A1)
【文献】実開昭60-091906(JP,U)
【文献】特開2003-080192(JP,A)
【文献】特許第5721888(JP,B1)
【文献】特開2013-170762(JP,A)
【文献】特開平01-023096(JP,A)
【文献】特開2015-230150(JP,A)
【文献】特開昭62-116803(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28G 9/00
F22B 37/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
給水管によって給水が導入される節炭器と、該節炭器からの水が導入される壁管を有する火炉と、該壁管が連なる気水分離器と、気水分離器からの蒸気を過熱する過熱器と、気水分離器からの水を受け入れるドレンタンクと、該ドレンタンク内の水を前記給水管に循環させる配管とを有するボイラを化学洗浄する方法であって、該気水分離器及びそれよりも火炉側を化学洗浄する方法において、
過熱ラインには水を封入せずに気水分離器出口の連絡管に伸縮可能なバルーンを挿入して膨らませ、気水分離器と過熱ラインの気相を分離し、気水分離器及びそれよりも火炉側に洗浄薬液を循環させることを特徴とするボイラの化学洗浄方法。
【請求項2】
前記洗浄薬液の循環を開始するときの、主蒸気管および主蒸気管に設けられた主塞止弁の温度が100℃よりも高いことを特徴とする請求項1のボイラの化学洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はボイラの化学洗浄方法に係り、特に気水分離器やそれよりも火炉側を化学洗浄する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
火力発電ボイラの蒸気系の一例を図4に示す。バーナ151により火炉152で燃料を燃焼させることにより発生した蒸気は、蒸気ドラム153、飽和蒸気管154、過熱器155、主蒸気管156、主塞止弁156aを通って高圧タービン157に供給される。そして、高圧タービン157で仕事をした蒸気は、低温再熱蒸気管158を通って再熱器159に送られて加熱され、高温再熱蒸気管160を通って中圧タービン161及び低圧タービン162に供給されて仕事を行う。また、低圧タービン162で仕事をした蒸気は復水器163で復水された後、脱気管164、ボイラ給水ポンプ165を通って再び火炉152に戻される。
【0003】
なお、主蒸気管156にはドレン弁を有したドレン管156bが接続されている。
【0004】
このような火力発電ボイラの主蒸気管において、主蒸気管の切断部と主蒸気塞止弁で化学洗浄液を循環する仮設配管を取り付け、ポリアミノカルボン酸等を含んだ洗浄薬液を循環させて化学洗浄する方法が知られている(特許文献1)。
【0005】
ボイラの気水分離器及びそれよりも火炉側のみを化学洗浄する場合、洗浄時の液温が80~98℃程度と高温であり、過熱器側へ洗浄薬液成分を含んだベーパーや飛沫が流入することを防止するために、後述の図2に示すように、過熱器(非洗浄部)及び主蒸気管にヒドラジンやアンモニアを添加した純水(イオン交換水)を水張りし、その後、気水分離器及び火炉側を薬液洗浄することが行われている。
【0006】
過熱器(非洗浄部)への水張り方法は、非洗浄部の末端部である主蒸気管ドレン管等を切断して仮設配管を取り付け、仮設ポンプ等により主蒸気管→最終過熱器→2次過熱器→1次過熱器を通り、洗浄部との境界線である気水分離器まで水張りを行う。
【0007】
過熱器及び主蒸気管に水張りを行う場合、主蒸気管の管材温度や主塞止弁の温度が200℃以下、特に100℃以下となるまで降温させてから水張りを行う理由は、管材温度が200℃超のときに水張りを行うと、管材と水蒸気酸化スケールの熱収縮率の違いにより水蒸気酸化スケールが剥離し、後日のボイラ立上げ以降に蒸気系下流にあるタービンを摩耗させたり、高温の主塞止弁が急冷され材料に悪影響が生じる恐れがあるからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開昭64-23096号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のように、気水分離器及びそれよりも火炉側を化学洗浄するに際し、過熱器及び主蒸気管に水張りを行う場合、主蒸気管や主塞止弁の温度が200℃以下、特に100℃以下に冷却するまで待機する必要があるため、洗浄工期が長くなっていた。
【0010】
本発明は、ボイラの気水分離器及びそれよりも火炉側を化学洗浄する場合の工期を従来よりも短縮することができるボイラの化学洗浄方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のボイラの化学洗浄方法は、給水管によって給水が導入される節炭器と、該節炭器からの水が導入される壁管を有する火炉と、該壁管が連なる気水分離器と、気水分離器からの蒸気を過熱する過熱器と、気水分離器からの水を受け入れるドレンタンクと、該ドレンタンク内の水を前記給水管に循環させる配管とを有するボイラを化学洗浄する方法であって、該気水分離器及びそれよりも火炉側を化学洗浄する方法において、過熱ラインには水を封入せずに気水分離器出口の連絡管に伸縮可能なバルーンを挿入して膨らませ、気水分離器と過熱ラインの気相を分離し、気水分離器及びそれよりも火炉側に洗浄薬液を循環させることを特徴とするものである。
【0012】
本発明の一態様では、前記過熱ラインの最上流部の連絡管に伸縮可能なバルーンを挿入し、空気または不活性ガスで膨らませて連絡管を封止し、連絡管を経由して過熱ラインに化学洗浄中の高温の薬品蒸発分(ベーパー)が流入するのを防止する。
【0013】
本発明の一態様では、前記過熱ラインの最上流部には複数の連絡管を備えており、前記バルーンを各連絡管に挿入して封止する。
【0014】
本発明では、前記洗浄薬液の循環を開始するときに、前記主蒸気管および前記主蒸気管に設けられた主塞止弁の温度が100℃よりも高いことが望ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明のボイラの化学洗浄方法では、過熱ラインの最上流部に空気又は不活性ガスを供給しながら、気水分離器及びそれよりも火炉側を化学洗浄するので、主蒸気管や主塞止弁の温度が200℃以下、特に100℃以下に降温するまで待機することなく化学洗浄を開始することができ、洗浄工期を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施の形態に係るボイラの化学洗浄方法を説明するブロック図である。
図2】従来例に係るボイラの化学洗浄方法を説明するブロック図である。
図3】ボイラの断面図である。
図4】ボイラ装置の系統図である。
図5】連絡管及びバルーンを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施の形態に係る洗浄方法を適用可能なボイラの一例を図3に示す。また、該ボイラの給水系統図を図1に示す。
【0018】
このボイラは、火炉9と、下流側排ガス流路(後部煙道)と、火炉9の上部と下流側排ガス流路とを接続する上流側排ガス流路を備えている。
【0019】
火炉9の下部に設けられた複数のバーナ80から発生した高温の燃焼ガスは、火炉9内を上昇する。燃焼ガスは上流側排ガス流路および下流側排ガス流路を通って、流路出口93から排ガスとしてボイラ外部に排出される。火炉9内には水冷壁下部周壁管10と上部水冷壁管12とノーズ壁管105が設けられている。水冷壁下部周壁管10は、本実施形態においては、炉9内を螺旋状に火炉9下部から上方に伸びている。複数の管からなっている上部水冷壁管12は、それぞれが火炉9内を垂直に火炉9上部に向かって伸びている。ノーズ管105も複数の管からなっている。
【0020】
後部煙道は複数の管からなる後部伝熱壁33などによって画定されている。後部煙道は排ガスの流れに沿って伸びる分割壁120によって、2つのガス流路に分割されている。分割壁120も複数の管よりなる。
【0021】
後部煙道の一方の分割ガス流路には再熱器71が配設されていて、他方の分割ガス流路には一次過熱器40と節炭器2とが配設されている。また、必要に応じて分割ガス流路に蒸発器を設けても良い。
【0022】
後部煙道は複数の管からなる天井壁30と側壁などによって画定されている。上流側排ガス流路には二次過熱器50および三次過熱器60が配設されている。さらに四次過熱器が設置されてもよい。
【0023】
次に、このボイラの給水系について説明する。ボイラへの給水は、まず、高圧給水加熱器1h(図1)及び給水弁1aを有した給水管1から節炭器2に供給される。節炭器2では節炭器入口管寄せ100から供給された水が、節炭器2内を通る間に排ガス流から熱吸収を行った後、節炭器出口管寄せ101から水冷壁下降管3に供給される。水冷壁下降管3を経た水は、水冷壁下部管寄せ103に分配され、火炉9を螺旋状に囲む水冷壁下部周壁管10を火炉9内の熱を吸収しながら上昇する。水は飽和温度近くまで加熱される。
【0024】
水冷壁下部周壁管10を昇り詰めた高温水は、火炉9中間流体混合管寄せ11に流入して、ここで、その温度が均一化された後、火炉9の上部に設けられた上部水冷壁管12またはノーズ壁管105を上昇する間に火炉9内の熱を吸収し、液相の高温水と気相の蒸気の混合流体となる。この混合流体は、水冷壁上部管寄せ104またはノーズ壁管寄せ106から火炉9上部流体混合管寄せ13に流入して、流体温度の均一化が行われ、さらに、ボイラの缶前部上方に設けた気水分離器20に流入し、蒸気と水に分離される。このうち分離された水は、ドレンタンク21からボイラ循環ポンプ24及び弁23,25を有した循環配管22を介して、再度、給水管1に循環される。また、気水分離器20で分離された蒸気は、天井壁入口管寄せ107に供給される。
【0025】
前記天井壁入口管寄せ107に供給された蒸気は、火炉9の上部から下流側排ガス流路上部に亙って設けられた天井壁30を構成する天井壁管を経て、天井壁出口管寄せ108に至る間に、熱吸収により加熱されて飽和蒸気になる。
【0026】
天井壁出口管寄せ108に集まった飽和蒸気は、後部伝熱壁下降管31、後部伝熱壁入口連絡管109を経て、後部伝熱壁入口管寄せ110に分配され、さらに後部伝熱壁33で加熱された後、後部伝熱壁出口管寄せ111および後部伝熱壁出口連絡管112を介して、または後部伝熱壁33から後部伝熱壁後壁出口管寄せ34に集まる。
【0027】
後部伝熱壁後壁出口管寄せ34に集まった飽和蒸気は、一次過熱器連絡管35を介して、後部煙道内に設置された一次過熱器40に流入し、その後、火炉9上部に設けた二次過熱器50及び三次過熱器(この実施の形態では最終過熱器)60を順に経て過熱された後、主蒸気管61及び主塞止弁62を介して高圧タービンに送られる。
【0028】
高圧蒸気タービンで仕事をした排気蒸気は、図示していない低温再熱蒸気管により、後部煙道に設置された再熱器71に導かれ、所定の温度の再熱蒸気温度に加熱された後、中圧タービンに送られる。後部煙道の出口にはガス分配ダンパ90が設けられ、通過するガス流量を調整することにより、再熱器71での全熱吸収量が調整され、所定の再熱蒸気温度に制御できる。
【0029】
このボイラの気水分離器20及びそれよりも上流側を化学洗浄するに際しての一態様では、ボイラの運転を停止した後、図1にも示すように、循環配管22のうち循環ポンプ24及び弁23、25を迂回するように仮設配管26を設け、仮設配管26に仮設循環ポンプ27を設ける。仮設配管26は、給水配管1のうち給水弁1aよりも節炭器2側に接続されている。化学洗浄時に再循環ポンプ24が起動可能な場合は、仮設再循環ポンプ27を設けずに再循環ポンプ24だけで化学洗浄することもできる。
【0030】
また、連絡管44に伸縮性のバルーン45を検査穴等を利用して挿入し、空気または不活性ガスで膨らませる。バルーン材質としては繊維補強材入りのゴム製などが例示される。
【0031】
気水分離器20に仮設の洗浄薬液供給管を介して薬液タンク(図示略)から薬液を供給可能とする。
【0032】
また、主塞止弁62よりも上流側の主蒸気管61のドレン管に、弁63を有した洗浄水(純水などの清水)の仮設供給管64を接続する。さらに、仮設配管26又は給水弁1aよりも下流側の給水管1に弁1bを有した仮設排水管1cを接続する。
【0033】
ボイラの運転停止後、気水分離器出口の連絡管44の温度が200℃以下、特に100℃以下程度まで降温した後、図5のように連絡管44に伸縮性バルーン45を挿入して膨らませる。この時、主蒸気管61または主塞止弁62は200℃よりも高温となっている。
【0034】
次いで、弁1a,23,25及び排水管1cの弁1bを閉とし、気水分離器20に洗浄薬液を添加した後、仮設循環ポンプ27を作動させる。そうすると、図1の通り、気水分離器20内の洗浄液は、ドレンタンク21、仮設配管26、給水管1、節炭器2、火炉9の周壁管10及び上部水冷管壁12又はノーズ壁管105、管寄せ104又は106、管寄せ13を介して気水分離器20に循環され、この間の気水分離器20、ドレンタンク21、節炭器2、壁管10,12,105及び各管寄せが化学洗浄される。
【0035】
所定時間この化学洗浄を継続する間に、主蒸気管61や主塞止弁62の温度が200℃以下、特に100℃以下となる。そこで、仮設循環ポンプ27を停止し、主塞止弁62を閉とし、気水分離器出口連絡管44内のバルーン45を取り外した後、主蒸気管61に供給管64から洗浄水(清水)を供給し、過熱器管60、50、40、壁管33、天井壁30を介して洗浄水を気水分離器20に逆流させて蒸気系統を水洗しても良い。気水分離器20に逆流してきた洗浄水の一部は、気水分離器20からドレンタンク21を経て排水管1cへ流出する。また、気水分離器20に逆流した洗浄水の残部は、火炉9の壁管12、10、ノーズ壁管105、管寄せ103、下降管3、節炭器2、給水管1を介して排水管1cから流出する。
【0036】
系内に残留していた洗浄薬液の押出しが終了した後は、防錆及びブローを行った後、仮設配管を撤去し、通常の水洗及び起動操作を行ってボイラの運転を再開する。
【0037】
この洗浄方法によると、主蒸気管61や主塞止弁62が100℃以下となる前に、気水分離器20、ドレンタンク21、火炉9の壁管、節炭器2などの化学洗浄を開始することができ、その分だけ工期短縮が可能である。
【0038】
以上、本発明のボイラの化学洗浄方法について図1に示す実施形態に基づいて、説明してきたが、本発明は前記実施形態に限定されず、種々の形態のボイラに適用可能であることはいうまでもない。例えば、ノーズ壁管105はなくてもよいし、水冷壁下部周壁管10は炉9内を略垂直状に火炉9下部から上方に伸びる形態であってもよい。
【0039】
[比較例]
図2は、図1のボイラに従来例の洗浄方法を適用した場合を示している。この従来方法では、主蒸気管61や主塞止弁62が100℃以下まで降温した後、過熱器40,50,60(非洗浄部)及び主蒸気管61にヒドラジンやアンモニアを添加した純水(イオン交換水)を水張りし、その後、気水分離器20、火炉9の蒸発管、節炭器2等を薬液洗浄する。
【0040】
過熱器40,50,60(非洗浄部)への水張り方法は、仮設ポンプ64a及び仮設供給管64により主蒸気管61→最終過熱器60→2次過熱器50→1次過熱器40を通り、洗浄部との境界線である気水分離器20まで水張りを行う。
【0041】
この場合には、主蒸気管61や主塞止弁62が200℃以下、特に100℃以下まで降温するまで水張りができず、従って化学洗浄もそれ以降にならなければ行うことができない。
【符号の説明】
【0042】
1 給水管
2 節炭器
9 火炉
20 気水分離器
20a 気水分離器空気抜き
21 ドレンタンク
24 再循環ポンプ
27 仮設再循環ポンプ
40,50,60 過熱器
42 仮設水位計
44 連絡管
45 バルーン
61 主蒸気管
62 主塞止弁
図1
図2
図3
図4
図5