(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】フィルムコーティング組成物、固形製剤及び固形製剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09D 129/04 20060101AFI20220809BHJP
C08L 29/04 20060101ALI20220809BHJP
C08L 71/02 20060101ALI20220809BHJP
C08K 5/053 20060101ALI20220809BHJP
A61K 9/32 20060101ALI20220809BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20220809BHJP
A61K 47/10 20060101ALI20220809BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20220809BHJP
C09D 7/65 20180101ALI20220809BHJP
【FI】
C09D129/04
C08L29/04 Z
C08L71/02
C08K5/053
A61K9/32
A61K47/32
A61K47/10
A61K47/34
C09D7/65
(21)【出願番号】P 2018205794
(22)【出願日】2018-10-31
【審査請求日】2021-06-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小林 文香
(72)【発明者】
【氏名】風呂 千津子
【審査官】山本 悦司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/041111(WO,A1)
【文献】特開2014-118473(JP,A)
【文献】特開平06-220287(JP,A)
【文献】特表2014-517100(JP,A)
【文献】特開2017-095679(JP,A)
【文献】特開2016-196439(JP,A)
【文献】特開平08-059512(JP,A)
【文献】特開2000-086992(JP,A)
【文献】国際公開第2015/118978(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-10/00、
101/00-201/10
C08L 29/04、71/02
C08K 5/053
A61K 9/32、47/32
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール系樹脂(A)及び可塑剤(B)を含有し、滑剤を含有しないフィルムコーティグ組成物であって、
可塑剤(B)として、重量平均分子量100~700であるポリエチレングリコール(b1-1)及び/又はグリセリン(b1-2)、
及び重量平均分子量2000~4000000であるポリエチレングリコール(b2)を含有し、
ポリエチレングリコール(b1-1)及び/又はグリセリン(b1-2)の合計量100重量部に対して、
ポリエチレングリコール(b2)を10~300重量部、含有することを特徴とするフィルムコーティング組成物
によってコーティングした固形製剤。
【請求項2】
可塑剤(B)の含有量が、ポリビニルアルコール系樹脂(A)100重量部に対して25重量部以上であることを特徴とする請求項1記載のフィルムコーティング組成物
によってコーティングした固形製剤。
【請求項3】
ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度が80~95モル%であることを特徴とする請求項1又は2記載のフィルムコーティング組成物
によってコーティングした固形製剤。
【請求項4】
薬物を含有する芯部と、該芯部を被覆する被覆部とを有し、該被覆部が請求項1~3のいずれか1項に記載のフィルムコーティング組成物を含有する固形製剤。
【請求項5】
薬物を含有する芯部に、請求項1~4のいずれか1項に記載のフィルムコーティグ組成物を塗布する工程を少なくとも含む固形製剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルムコーティング組成物並びにこれを用いた固形製剤及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
錠剤は、薬の成分を圧縮するなどして、一定量の薬を簡単に服用することができるように一定の形に作られる。ひと口に「錠剤」と言っても、その飲み方や使い方、作られ方によって、いろいろなタイプがある。腸溶錠や徐放錠、糖衣錠・フィルムコーティング錠、口腔内崩壊錠、チュアブル錠、付着錠など、目的や効果によって選択される。
【0003】
フィルムコーティング錠や糖衣錠は、経口固形製剤における、薬物の不快な味に対するマスキング、酸素の遮断、防湿又は製品としての美観の向上等の目的で広く用いられている。
【0004】
糖衣錠・フィルムコーティング錠は、錠剤の周りを糖やフィルムで覆うことで、薬の成分本来の苦みや臭みを隠し、飲みやすくした錠剤である。また、コーティングすることで薬を光や湿気から守って、安定性が増すなどの効果が出る場合もある。
【0005】
近年、フィルムコーティグ組成物として、ガスバリア性に優れたポリビニルアルコール系樹脂(以下、PVA系樹脂という。)を含有する組成物が検討されている。PVA系樹脂をコーティング組成物として用いる場合、PVA系樹脂単体では、コーティングした錠剤同士がくっつく、スティッキングが生じやすく、グリコール類を滑剤を含有させること(例えば、特許文献1)やタルクなどの滑剤を含有させること(たとえば、特許文献2)が提案されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開2015/122477号
【文献】特開2016-56208号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1のようにグリコール類を含有させるとスティッキングは解消されるが、PVA系樹脂とグリコール類との相溶性が悪く、経時でのグリコール類のブリードアウト(分離)が生じることが問題となっている。また、特許文献2のようにスティッキングの防止のためにタルクなどの滑剤を含有させることも提案されているが、コーティング剤組成物自体の透明性が低く、素錠に着色してもコーティングすることで見えなくなることが問題であった。
【0008】
そこで、本発明は、透明性が高く、フィルムコーティング組成物を含有する被覆層から可塑剤がブリードアウトしないフィルムコーティグ組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、分子量の異なる可塑剤、即ち低分子量の可塑剤と高分子量の可塑剤を併用することで上記目的が達成されることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
即ち、本発明の要旨は、ポリビニルアルコール系樹脂(A)及び可塑剤(B)を含有し、滑剤を含有しないフィルムコーティグ組成物であって、
可塑剤(B)として、重量平均分子量100~700であるポリエチレングリコール(b1-1)及び/又はグリセリン(b1-2)、及び重量平均分子量2000~4000000であるポリエチレングリコール(b2)を含有し、ポリエチレングリコール(b1-1)及び/又はグリセリン(b1-2)の合計量100重量部に対して、ポリエチレングリコール(b2)を10~300重量部、含有することを特徴とするフィルムコーティング組成物に関するものである。
【0011】
また、本発明では、前期フィルムコーティング組成物を含有する固形製剤、及びその製造方法も提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明のフィルムコーティグ組成物は、透明性が高く、フィルムコーティング組成物を含有する被覆層から可塑剤がブリードアウトしないフィルムコーティグ組成物を提供できる。本発明のフィルムコーティング組成物は、透明性が高いため、着色錠剤のフィルムコーティングとして好適に用いられる。
【0013】
本発明の効果は、分子量の異なる可塑剤を組み合わせて使用するため、低分子量の可塑剤が、PVA系樹脂と高分子量の可塑剤との相溶化剤となり、透明性とブリードアウトの抑制を両立できたものであると推測される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のフィルムコーティング用組成物は、PVA系樹脂(A)及び可塑剤(B)を含有し、滑剤を含有しないフィルムコーティグ組成物であって、
可塑剤(B)が、重量平均分子量100~700であるポリエチレングリコール(b1-1)及び/又はグリセリン(b1-2)、重量平均分子量2000~4000000であるポリエチレングリコール(b2)を含有する。
【0015】
まずは、PVA系樹脂(A)について説明する。
本発明で用いられるPVA系樹脂(A)は、ビニルエステル系モノマーを重合して得られるポリビニルエステル系樹脂をケン化して得られる、ビニルアルコール構造単位を主体とする樹脂であり、ケン化度相当のビニルアルコール構造単位とビニルエステル構造単位から構成される。
【0016】
PVA系樹脂(A)のケン化度は70~100モル%であり、好ましくは、75~95モル%、更に好ましくは80~94モル%、特に好ましくは85~93モル%である。PVA系樹脂(A)のケン化度が低すぎるとスティッキングを生じやすい傾向があり、高すぎると、溶液の安定性が低下する傾向がある。
なお、本発明において、PVA系樹脂(A)のケン化度は、JIS K 6726に準拠する方法で求める。
【0017】
また、本発明に使用されるPVA系樹脂(A)の平均重合度は、300~3300であり、400~3000が好ましく、500~2800が特に好ましい。
PVA系樹脂の平均重合度が低すぎると、連続したコーティング膜が形成しにくい傾向があり、平均重合度が高すぎると、コーティング粘度が高く生産性が低下する傾向がある。
なお、本発明において、PVA系樹脂の平均重合度は、JIS K 6726に準拠する方法で求める。
【0018】
またPVA系樹脂は、2種以上を併用することも有効である。併用する際には、ケン化度や平均重合度の異なるPVA系樹脂を併用することができる。
併用する場合は、ケン化度、平均重合度は、用いたPVA系樹脂全体の平均値が、上記の範囲内であることが好ましい。
【0019】
本発明で使用されるPVA系樹脂の製造方法を説明する。
PVA系樹脂は、例えば、ビニルエステル系モノマーを重合して得られたポリビニルエステル系重合体をケン化することにより得られる。
かかるビニルエステル系モノマーとしては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、バーサチック酸ビニル等が挙げられ、実用的に酢酸ビニルが好適である。
【0020】
また、本発明の効果を阻害しない程度に、上記ビニルエステル系モノマーと共重合性を有するモノマーを共重合させることもでき、このような共重合モノマーとしては、例えば、エチレンやプロピレン、イソブチレン、α-オクテン、α-ドデセン、α-オクタデセン等のオレフィン類、3-ブテン-1-オール、4-ペンテン-1-オール、5-ヘキセン-1-オール、3,4-ジヒドロキシ-1-ブテン等のヒドロキシ基含有α-オレフィン類及びそのアシル化物などの誘導体、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、ウンデシレン酸等の不飽和酸類、その塩、モノエステル、あるいはジアルキルエステル、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等のニトリル類、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類、エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸類あるいはその塩、アルキルビニルエーテル類、ジメチルアリルビニルケトン、N-ビニルピロリドン、塩化ビニル、ビニルエチレンカーボネート、2,2-ジアルキル-4-ビニル-1,3-ジオキソラン、グリセリンモノアリルエーテル、等のビニル化合物、酢酸イソプロペニル、1-メトキシビニルアセテート等の置換酢酸ビニル類、塩化ビニリデン、1,4-ジアセトキシ-2-ブテン、1,4-ジヒドロキシ-2-ブテン、ビニレンカーボネート、1,3-ジアセトキシ-2-メチレンプロパン、1,3-ジプロピオニルオキシ-2-メチレンプロパン、1,3-ジブチロニルオキシ-2-メチレンプロパン等のヒドロキシメチルビニリデンジアセテート等が挙げられる。かかる共重合モノマーの含有量は、重合体全量を基準として、通常10モル%以下、好ましくは5モル%以下、特に好ましくは1モル%以下である。本発明においては、付着性の点で、ビニルアルコール構造単位と未ケン化部分のビニルエステル構造単位のみからなる未変性PVAが好ましい。
【0021】
上記ビニルエステル系モノマー及び共重合モノマーを重合するにあたっては特に制限はなく、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、分散重合、又は乳化重合等の公知の方法を採用することができるが、通常は溶液重合が行われる。
【0022】
かかる重合で用いられる溶媒としては、通常、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n-プロパノール、ブタノール等の炭素数1~4の脂肪族アルコールやアセトン、メチルエチルケトン等のケトン類等が挙げられ、工業的にはメタノールが好適に使用される。
また、重合反応は、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、過酸化アセチル、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイルなどの公知のラジカル重合触媒や公知の各種低温活性触媒を用いて行われる。また、反応温度は35℃~沸点程度の範囲から選択される。
【0023】
得られたポリビニルエステル系重合体は、次いで連続式又はバッチ式にてケン化される。かかるケン化にあたっては、アルカリケン化又は酸ケン化のいずれも採用できるが、工業的には重合体をアルコールに溶解してアルカリ触媒の存在下に行われる。アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、ブタノール等が挙げられる。アルコール中の重合体の濃度は20~60質量%の範囲から選ばれる。また、必要に応じて、0.3~10質量%程度の水を加えてもよく、更には、酢酸メチル等の各種エステル類やベンゼン、ヘキサン、DMSO(ジメチルスルホキシド)等の各種溶剤類を添加してもよい。
【0024】
ケン化触媒としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラート等のアルカリ金属の水酸化物やアルコラートの如きアルカリ触媒を具体的に挙げることができ、かかる触媒の使用量はモノマーに対して1~100ミリモル当量にすることが好ましい。
【0025】
ケン化後、得られたPVA系樹脂を、洗浄液で洗浄する。洗浄液としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等のアルコール類が挙げられ、洗浄効率と乾燥効率の観点からメタノールが好ましい。
【0026】
洗浄方法としては、連続式(回転円筒型、向流接触型、遠心分離ふりかけ洗浄など)でもよいが、通常はバッチ式が採用される。洗浄時の攪拌方式(装置)としては、スクリュー翼、リボンブレンダー、ニーダー等が挙げられる。浴比(洗浄液の質量/ポリビニルエステル系重合体粒子の質量)は、通常、1~30であり、特に2~20が好ましい。浴比が大きすぎると、大きな洗浄装置が必要となり、コスト増につながる傾向があり、浴比が小さすぎると、洗浄効果が低下し、洗浄回数を増加させる傾向がある。
【0027】
洗浄時の温度は、通常、10~80℃であり、特に20~70℃が好ましい。温度が高すぎると、洗浄液の揮発量が多くなり、還流設備を必要とする傾向がある。温度が低すぎると、洗浄効率が低下する傾向がある。洗浄時間は、通常、5分~12時間であり、特に30分~4時間が好ましい。洗浄時間が長すぎると、生産効率が低下する傾向があり、洗浄時間が短すぎると、洗浄が不十分となる傾向がある。また、洗浄回数は、通常、1~10回であり、特に1~5回が好ましい。洗浄回数が多すぎると、生産性が低下し、コストがかかる傾向がある。
【0028】
洗浄されたPVA系樹脂(A)を連続式又はバッチ式にて熱風などで乾燥し、本発明で用いられるPVA系樹脂を得る。乾燥温度は、通常、50~150℃であり、特に60~130℃、殊に70~110℃が好ましい。乾燥温度が高すぎると、PVA系樹脂が熱劣化する傾向があり、乾燥温度が低すぎると、乾燥に長時間を要する傾向がある。乾燥時間は、通常、1~48時間であり、特に2~36時間が好ましい。乾燥時間が長すぎると、PVA系樹脂が熱劣化する傾向があり、乾燥時間が短すぎると、乾燥が不十分となったり、高温乾燥を要したりする傾向がある。
【0029】
乾燥後のPVA系樹脂(A)中に含まれる溶媒の含有量は、通常、0~10質量%であり、特に0.01~5質量%、殊に0.1~1質量%とするのが好ましい。
【0030】
なお、PVA系樹脂(A)には、ケン化時に用いるアルカリ触媒に由来する酢酸のアルカリ金属塩が含まれている。アルカリ金属塩の含有量は、PVA系樹脂粉体に対して通常0.001~2質量%、好ましくは0.005~1質量%であり、更に好ましくは0.01~0.1質量%である。
アルカリ金属塩の含有量の調整方法としては、例えば、ケン化で用いる時のアルカリ触媒の量を調節したり、エタノールやメタノールなどのアルコールでPVA系樹脂を洗浄する方法が挙げられる。
本発明で用いるアルカリ金属塩の定量法としては、JIS K6726(1994) 3.6.1滴定法に準拠して測定する。
【0031】
次に可塑剤(B)について説明する。
本発明で用いられる可塑剤(B)は重量平均分子量100~700であるポリエチレングリコール(b1-1)及び/又はグリセリン(b1-2)、重量平均分子量2000~4000000であるポリエチレングリコール(b2)を含有するものである。
ポリエチレングリコールの重量平均分子量は、第十六改正日本薬局方に準拠した方法で求める。
【0032】
かかるポリエチレングリコール(b1-1)の重量平均分子量は、100~700、好ましくは150~680、更に好ましくは170~650である。大きすぎるとPVA系樹脂水溶液との相溶性が低下する傾向がある。
【0033】
ポリエチレングリコール(b2)の重量平均分子量は、2000~4000000、好ましくは2300~500000、更に好ましくは2500~20000である。かかる重量平均分子量が小さすぎるとスティッキングしやすくなる傾向があり、大きすぎるとPVA系樹脂水溶液との相溶性が低下する傾向がある。
【0034】
本発明のフィルムコーティグ組成物中におけるPVA系樹脂(A)と可塑剤(B)の含有量の質量比としては、90:10~60:40であり、好ましくは80:20~70:30である。PVA系樹脂(A)の比率が多いと粘着性の改善が完全ではなく生産性が悪く、一方で、可塑剤(B)の比率が多いと防湿性に劣る。
【0035】
本発明のフィルムコーティング組成物は、必要に応じて、通常製剤学的に認められる公知の添加剤を含んでいてもよいが、滑剤は含有しない。このような公知の添加剤としては、例えば、可塑剤(B)以外の可塑剤(例えば、ソルビトール、プロピレングリコールなど)、界面活性剤、着色剤、甘味料、コーティング剤、消泡剤等が挙げられる。これらを添加する場合の含有量は、本発明の効果を妨げない限り、特に限定されないが、PVA系樹脂(A)に対して、好ましくは200質量%以下、更に好ましくは100質量%以下である。
【0036】
また本発明のフィルムコーティング組成物は、滑剤を含有しないものであるが、滑剤とは、例えば、タルク、酸化チタン、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄、法定色素、軽質無水ケイ酸、含水二酸化ケイ素等の粉体が挙げられる。
【0037】
次に、本発明の経口固形製剤について、説明する。
本発明の経口固形製剤は、薬物を少なくとも含有する芯部と、該芯部を被覆する被覆部を有し、該被覆部が前記フィルムコーティグ組成物を少なくとも含む。前記薬物は、経口投与可能な薬効成分であれば特に限定されるものではない。
【0038】
前記芯部には、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑択剤(凝集防止剤)、流動化剤、着色剤、医薬化合物の溶解補助剤等、通常この分野で常用され得る種々の添加剤を配合してもよい。
【0039】
賦形剤としては、特に限定されないが、例えば、白糖、乳糖、マンニトール、グルコース等の糖類、でんぷん、結晶セルロース、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム等が挙げられる。
【0040】
結合剤としては、特に限定されないが、例えば、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリビニルピロリドン、グルコース、白糖、乳糖、麦芽糖、デキストリン、ソルビトール、マンニトール、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、マクロゴール類(例えば、マクロゴール4000、マクロゴール6000、マクロゴール20000等)、アラビアゴム、ゼラチン、寒天、でんぷん(コーンスターチ等)等が挙げられる。
【0041】
崩壊剤としては、特に限定されないが、例えば、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロース又はその塩、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、クロスポリビニルピロリドン、結晶セルロース及び結晶セルロース・カルメロースナトリウム等が挙げられる。
【0042】
滑択剤としては、特に限定されないが、例えば、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、コロイダルシリカ、ステアリン酸、ワックス類、硬化油、ポリエチレングリコール類、安息香酸ナトリウム等が挙げられる。
【0043】
流動化剤としては、特に限定されないが、例えば、含水二酸化ケイ素、軽質無水ケイ酸、酸化チタン等が挙げられる。
【0044】
着色剤としては、特に限定されないが、例えば、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄、食用青色1号、食用青色2号、食用黄色4号、食用黄色5号、食用緑色3号、食用赤色2号、食用赤色3号、食用赤色102号、食用赤色104号、食用赤色105号、食用赤色106号等が挙げられる。
【0045】
更に、医薬化合物の溶解補助剤としては、例えば、フマル酸、コハク酸、リンゴ酸、アジピン酸等の有機酸等が挙げられる。これら添加剤の含有量は、薬剤の種類等に応じて適宜決定することができる。
【0046】
前記被覆部は、本発明のフィルムコーティグ組成物を少なくとも含むものであればよく、本発明のフィルムコーティグ組成物のみを被覆部(被覆層)としてもよく、フィルムコーティグ組成物からなる被覆層の下に、コーティング基剤を用いてアンダーコーティングを行っていてもよい。前記コーティング基剤としては、HPMC等の通常この分野で常用され得る種々のコーティング基剤を使用することができる。被覆部の形態は、限定されず、層状、フィルム状等であってもよい。
【0047】
本発明のフィルムコーティグ組成物によりコーティングされる経口固形製剤としては、特に限定されず、錠剤、散剤、顆粒剤、細粒剤、丸剤、トローチ剤、カプセル剤等が挙げられるが、その中でも特に錠剤が好ましい。錠剤としては、糖衣錠、ゼラチン被包錠、フィルムコーティング錠(多層フィルムコーティング錠を含む)、腸溶性コーティング錠、有核錠(圧縮被包錠)等の形態を有するものであってもよく、フィルムコーティング錠(多層フィルムコーティング錠を含む)、腸溶性コーティング錠が好ましい。
【0048】
次に、経口固形製剤の製造方法について説明する。
本発明の経口固形製剤は、前記フィルムコーティグ組成物を溶媒に溶解又は分散させたフィルムコーティグ組成物溶液を調製し、該溶液を芯部に塗布することで製造できる。
【0049】
前記溶媒としては、特に限定されず、例えば、水又はエタノール等の有機溶媒を用いることができ、これらは一種単独で使用してもよく、2種以上を混合して混合溶媒として使用することもできる。前記フィルムコーティグ組成物を溶媒に溶解又は分散させる際の温度は、特に限定されないが、加熱していてもよく、5~70℃程度であってもよい。
【0050】
前記塗布方法としては、例えば、上記のように調製したフィルムコーティグ組成物溶液を、薬物を含有する芯部に、従来公知のコーティング装置を用いて噴霧等により塗布する方法が挙げられる。
【0051】
また、本発明の経口固形製剤が多層フィルムコーティング錠である場合、フィルムコーティグ組成物からなるフィルム層の下に、前記塗布方法の塗布を行う前に、HPMC等の通常この分野で常用され得る種々のコーティング基剤を用いてアンダーコーティングを行う工程を加えて、複数のフィルムを形成させる方法も挙げられる。
【0052】
前記コーティング装置としては、特に限定されず、従来公知の手段を用いることができる。コーティング方法として、一般的に行われているのはスプレーコーティングであるが、その場合は、パンコーティング装置、ドラムタイプコーティング装置、流動層コーティング装置、撹拌流動コーティング装置を用いて行えばよく、これらの装置に付帯するスプレー装置には、エアースプレー、エアレススプレー、3流体スプレー等のいずれをも用いることができる。
【0053】
芯部(素錠)の表面にコーティングされるフィルムコーティグ組成物の被覆量は、固形製剤の種類、形、大きさ、表面状態、更に固形製剤中に含まれる薬物及び添加剤の性質等によって異なるが、例えば、素錠に対して、好ましくは1~10質量%であり、更に好ましくは1~7質量%であり、特に好ましくは2~6質量%である。被覆量が少なすぎると、完全な皮膜が得られず、他方多すぎるとコーティングに要する時間が必要となる場合がある。
【実施例】
【0054】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。また、単に「部」「%」とあるのは、重量基準である。
【0055】
実施例1
PVA系樹脂(A)(未変性、ケン化度88モル%、重合度500、4%水溶液粘度5mPa・s)100部、可塑剤(B)として重量平均分子量400のポリエチレングリコール(b1-1)(PEG400)を14部と重量平均分子量4000のポリエチレングリコール(b2)(PEG4000)を29部、水567部を配合し、85℃に昇温させ溶解し、フィルムコーティング液を得た。
得られたフィルムコーティング液をPETフィルム上に塗工し、60℃で2時間乾燥して、膜厚30μmのフィルムとして、23℃50%RHで1週間調湿した。
【0056】
〔フィルムの透明性〕
上記で得られたフィルムをHaze Meter NDH2000(日本電色社製)で内部ヘイズをn=5で測定した。平均値を表1に示す。
【0057】
〔ブリードアウトの有無〕
上記で得られたフィルムを素手で触り、べたつきがあったものは、ブリードアウト「あり」とし、べたつきがなかったものは「無し」とした。
【0058】
実施例2
実施例1において、可塑剤としてPEG400を21部、PEG4000を21部とした以外は、実施例1と同様にフィルムコーティング組成物を作製し、同様に評価した。
【0059】
実施例3
実施例1において、可塑剤としてグリセリンを29部、PEG4000を14部とした以外は、実施例1と同様にフィルムコーティング組成物を作製し、同様に評価した。
【0060】
比較例1
実施例1において、可塑剤としてPEG400を43部のみとした以外は、実施例1と同様にフィルムコーティング組成物を作製し、同様に評価した。
【0061】
比較例2
実施例1において、可塑剤としてPEG4000を43部のみとした以外は、実施例1と同様にフィルムコーティング組成物を作製し、同様に評価した。
【0062】
比較例3
実施例1において、可塑剤としてPEG4000を25部とした以外は、実施例1と同様にフィルムコーティング組成物を作製し、同様に評価した。
【0063】
【0064】
本発明のフィルムコーティング組成物を用いた実施例1~3は、透明性が高く、ブリードアウトもなかった。
一方、高分子量の可塑剤を配合していないフィルムコーティング組成物を用いた比較例1は、透明性は高かったが、可塑剤のブリードアウトが生じ、フィルムが白濁し、べたつきがあった。
また、低分子量の可塑剤を配合していないフィルムコーティング組成物を用た比較例2及び3は透明性が低くかった。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明のフィルムコーティング組成物は、透明性が高く、着色錠剤のフィルムコーティングとして有用であり、更にブリードアウトが起こらないため、フィルムコーティング錠剤の安定性に優れる。