(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】光配向用液晶配向剤、液晶配向膜、および液晶表示素子
(51)【国際特許分類】
G02F 1/1337 20060101AFI20220809BHJP
C08G 73/10 20060101ALI20220809BHJP
【FI】
G02F1/1337 525
C08G73/10
(21)【出願番号】P 2019002669
(22)【出願日】2019-01-10
【審査請求日】2021-07-27
(73)【特許権者】
【識別番号】311002067
【氏名又は名称】JNC株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】596032100
【氏名又は名称】JNC石油化学株式会社
(72)【発明者】
【氏名】久田 梨香
【審査官】本田 博幸
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/024893(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第109207170(CN,A)
【文献】特開2020-060755(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/1337
C08G 73/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラカルボン酸二無水物、テトラカルボン酸ジエステル、およびテトラカルボン酸ジエステルジハロゲン化物から選ばれる少なくとも1つと、ジアミンおよびジヒドラジドから選ばれる少なくとも1つからの反応生成物である、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、およびこれらをイミド化して得られるポリイミドから選ばれる少なくとも1つのポリマーを含む光配向用液晶配向剤であって;
前記ポリマーの原料モノマーの少なくとも1つが光反応性構造を有し、かつ、前記テトラカルボン酸二無水物、テトラカルボン酸ジエステル、およびテトラカルボン酸ジエステルジハロゲン化物から選ばれる少なくとも1つが式(1)で表される構造を有する、光配向用液晶配向剤;
【化1】
式(1)において、Aは独立して、水素または150~300℃の加熱により水素に置き換わる熱脱離性基であり;
R
3は酸素原子または硫黄原子であり;そして、
*は結合手であることを示す。
【請求項2】
式(1)で表される構造を有するテトラカルボン酸二無水物が、式(1-1)で表されるテトラカルボン酸二無水物の少なくとも1つである、請求項1に記載の液晶配向剤;
【化2】
式(1-1)において、Aは独立して、水素または150~300℃の加熱により水素に置き換わる熱脱離性基であり;
R
1は、独立して、単結合、-O-、-S-、-COO-、または-OCO-であり;
R
2は、独立して、単結合または炭素数1~3のアルキレンであるが、R
2が単結合の場合、R
1は-O-、-S-、-COO-、または-OCO-であることはなく;そして、R
3は酸素原子または硫黄原子である。
【請求項3】
式(1-1)で表されるテトラカルボン酸二無水物が、式(1-1-1)~式(1-1-16)で表されるテトラカルボン酸二無水物の少なくとも1つである、請求項2に記載の液晶配向剤;
【化3】
【化4】
【化5】
上記式中、Bocはt-ブトキシカルボニルを表す。
【請求項4】
前記光反応性構造が光分解構造、光異性化構造、または光二量化構造である、請求項1~3のいずれか1項に記載の光配向用液晶配向剤。
【請求項5】
前記光異性化構造が、下記式(P-1)~式(P-3)のいずれかで表される構造である、請求項4に記載の光配向用液晶配向剤。
【化6】
【請求項6】
光異性化構造を有するテトラカルボン酸二無水物またはジアミンが、式(II)~式(VI)で表される化合物の少なくとも1つである、請求項5に記載の光配向用液晶配向剤;
【化7】
式(II)~式(V)において、R
2およびR
3は-NH
2を有する1価の有機基または-CO-O-CO-を有する1価の有機基であり;
式(IV)において、R
4は2価の有機基であり;そして、
式(VI)において、R
5は独立して-NH
2または-CO-O-CO-を有する芳香環である。
【請求項7】
前記光分解構造が、下記式(P-4)で表される構造の少なくとも1つである、請求項4に記載の光配向用液晶配向剤;
【化8】
式(P-4)において、R
61は独立して、水素原子、炭素数1~5のアルキル、またはフェニルである。
【請求項8】
光分解構造を有するテトラカルボン酸二無水物、テトラカルボン酸ジエステル、およびテトラカルボン酸ジエステルジハロゲン化物の少なくとも1つが、式(PA-1)~式(PA-7)で表される化合物から選ばれる少なくとも1つである、請求項7に記載の光配向用液晶配向剤;
【化9】
【化10】
式(PA-4)~式(PA-7)において、R
11は炭素数1~5のアルキルである。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の光配向用液晶配向剤によって形成される液晶配向膜。
【請求項10】
請求項9に記載の液晶配向膜を有する液晶表示素子。
【請求項11】
請求項9に記載の液晶配向膜を有する横電界駆動型液晶表示素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光配向用液晶配向剤、液晶配向膜および液晶表示素子に関する。
【背景技術】
【0002】
パソコンのモニター、液晶テレビ、ビデオカメラのビューファインダー、投写型ディスプレイ、車載モニター、タブレット、スマートフォン等の様々な表示装置、さらには、光プリンターヘッド、光フーリエ変換素子、ライトバルブ等のオプトエレクトロニクス関連素子等、今日製品化されて一般に流通している液晶表示素子は、ネマティック液晶を用いた表示素子が主流である。ネマティック液晶表示素子の表示方式は、TN(Twisted Nematic)モード、STN(Super Twisted Nematic)モードがよく知られている。近年、これらのモードの問題点の1つである視野角の狭さを改善するために、光学補償フィルムを用いたTN型液晶表示素子、垂直配向と突起構造物の技術を併用したMVA(Multi-domain Vertical Alignment)モード、または横電界方式のIPS(In-Plane Switching)モード、FFS(Fringe Field Switching)モード等が提案され、実用化されている。
【0003】
液晶表示素子の技術の発展は、単にこれらの駆動方式や素子構造の改良のみならず、素子に使用される構成部材の改良によっても達成されている。液晶表示素子に使用される構成部材のなかでも、特に液晶配向膜は表示品位に係わる重要な材料の1つであり、液晶表示素子の高品質化に伴い、液晶配向膜の性能を向上させる事が重要になってきている。
【0004】
液晶配向膜は、液晶配向剤より形成される。現在、主として用いられている液晶配向剤は、ポリアミック酸または可溶性のポリイミドを有機溶剤に溶解させた溶液(ワニス)である。この溶液を基板に塗布した後、加熱等の手段により成膜してポリイミド系液晶配向膜を形成する。製膜後、必要に応じ前述の表示モードに適する配向処理が施される。
【0005】
工業的には、簡便で大面積の高速処理が可能なラビング法が、配向処理法として広く用いられている。ラビング法は、ナイロン、レーヨン、ポリエステル等の繊維を植毛した布を用いて液晶配向膜の表面を一方向に擦る処理であり、これによって液晶分子の一様な配向を得ることが可能になる。しかし、ラビング法では、ラビング削れやラビング傷が生じ、表示品位を低下させるという問題がある。
【0006】
ラビング法に代わる配向処理法として注目されているのが、光を照射して配向処理を施す光配向処理法である。光配向処理法には光分解法、光異性化法、光二量化法、光架橋法等多くの配向機構が提案されている(例えば、非特許文献1、特許文献1および2を参照。)。光配向法はラビング法に比べて配向の均一性が高く、また非接触の配向処理法であるため膜に傷が付かず、発塵や静電気等の液晶表示素子の表示不良を発生させる原因を低減できる等の利点がある。
【0007】
これまで、ポリアミック酸構造中に光異性化や光二量化などを起こす光反応性基を有する光配向膜の検討が行われてきた(例えば、特許文献1~7を参照。)。中でも、特許文献3~5に記載されている光異性化の技術を応用することで、該光配向膜はアンカリングエネルギーが大きく、配向性が良好で、かつ電圧保持率など電気特性が良好な液晶表示素子を与えることが分かった。さらに、特定のテトラカルボン酸二無水物とジアミンを併用することによって、残留電圧(残留DC)が溜まりにくくなり、残像特性が良好な液晶表示素子を与えることが分かった(例えば、特許文献7を参照。)。しかしながら、パネル技術の進歩の伴い、さらに残留DCが溜まりにくく、緩和の速い液晶配向剤が求められている。ここで残留電圧(残留DC)とは、電圧印加して液晶を駆動させた後、電圧を0Vに戻したときに残存する電圧である。液晶表示素子に任意の画像を長時間表示させた後、別の画像に変えた時に前の画像が残像として残る現象が起こり、表示品位を劣化させることが知られているが、残留DCの溜まりを抑え、緩和時間を短くすることにより、この残像を抑えることができることが知られている。
【0008】
また、近年タブレット型液晶表示素子やスマートフォンの普及により、額縁が狭く表示画面の大きな液晶表示素子の開発が進めてられている。狭額縁にするために、液晶配向膜上にシール剤を塗布する必要が生じるため、シール剤との密着性が高い液晶配向剤が求められている(例えば、特許文献8および9を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平9-297313
【文献】特開平10-251646
【文献】特開2005-275364
【文献】特開2007-248637
【文献】特開2009-069493
【文献】特開2008-233713
【文献】国際公開2013/157463
【文献】特開2009-258665
【文献】国際公開2015/080186
【非特許文献】
【0010】
【文献】液晶、第3巻、第4号、262ページ、1999年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、液晶配向性に優れ、シール剤との密着性が高く、良好な残像特性を与える液晶配向膜を形成することができる光配向用液晶配向剤を提供することである。また、該液晶配向剤により形成される液晶配向膜、該液晶配向膜を有する液晶表示素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは鋭意検討の結果、本発明の式(1)の構造を有するテトラカルボン酸二無水物、テトラカルボン酸ジエステル、およびテトラカルボン酸ジエステルジハロゲン化物から選ばれる少なくとも1つを光配向用液晶配向剤の原料として使用することで、液晶配向性に優れ、シール剤との密着性が高く、良好な残像特性を与える液晶配向膜を形成することができ、表示品位の高い液晶表示素子を与えることを見出し、本発明を完成した。本発明は以下からなる。
【0013】
[1] テトラカルボン酸二無水物、テトラカルボン酸ジエステル、およびテトラカルボン酸ジエステルジハロゲン化物から選ばれる少なくとも1つと、ジアミンおよびジヒドラジドから選ばれる少なくとも1つからの反応生成物である、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、およびこれらをイミド化して得られるポリイミドから選ばれる少なくとも1つのポリマーを含む光配向用液晶配向剤であって;
前記ポリマーの原料モノマーの少なくとも1つが光反応性構造を有し、かつ、前記テトラカルボン酸二無水物、テトラカルボン酸ジエステル、およびテトラカルボン酸ジエステルジハロゲン化物から選ばれる少なくとも1つが式(1)で表される構造を有する、光配向用液晶配向剤;
【化1】
式(1)において、Aは独立して、水素または150~300℃の加熱により水素に置き換わる熱脱離性基であり;
R
3は酸素原子または硫黄原子であり;そして、
*は結合手であることを示す。
【0014】
[2] 式(1)で表される構造を有するテトラカルボン酸二無水物が、式(1-1)で表されるテトラカルボン酸二無水物の少なくとも1つである、[1]項に記載の液晶配向剤;
【化2】
式(1-1)において、Aは独立して、水素または150~300℃の加熱により水素に置き換わる熱脱離性基であり;
R
1は、独立して、単結合、-O-、-S-、-COO-、または-OCO-であり;
R
2は、独立して、単結合または炭素数1~3のアルキレンであるが、R
2が単結合の場合、R
1は-O-、-S-、-COO-、または-OCO-であることはなく;そして、R
3は酸素原子または硫黄原子である。
【0015】
[3] 式(1-1)で表されるテトラカルボン酸二無水物が、式(1-1-1)~式(1-1-16)で表されるテトラカルボン酸二無水物の少なくとも1つである、[2]項に記載の液晶配向剤;
【化3】
【化4】
【化5】
上記式中、Bocはt-ブトキシカルボニルを表す。
【0016】
[4] 前記光反応性構造が光分解構造、光異性化構造、または光二量化構造である、[1]~[3]のいずれか1項に記載の光配向用液晶配向剤。
【0017】
[5] 前記光異性化構造が、下記式(P-1)~式(P-3)のいずれかで表される構造である、[4]項に記載の光配向用液晶配向剤。
【化6】
【0018】
[6] 光異性化構造を有するテトラカルボン酸二無水物またはジアミンが、式(II)~式(VI)で表される化合物の少なくとも1つである、[5]項に記載の光配向用液晶配向剤;
【化7】
式(II)~式(V)において、R
2およびR
3は-NH
2を有する1価の有機基または-CO-O-CO-を有する1価の有機基であり;
式(IV)において、R
4は2価の有機基であり;そして、
式(VI)において、R
5は独立して-NH
2または-CO-O-CO-を有する芳香環である。
【0019】
[7] 前記光分解構造が、下記式(P-4)で表される構造の少なくとも1つである、[4]項に記載の光配向用液晶配向剤;
【化8】
式(P-4)において、R
61は独立して、水素原子、炭素数1~5のアルキル、またはフェニルである。
【0020】
[8] 光分解構造を有するテトラカルボン酸二無水物、テトラカルボン酸ジエステル、およびテトラカルボン酸ジエステルジハロゲン化物の少なくとも1つが、式(PA-1)~式(PA-7)で表される化合物から選ばれる少なくとも1つである、[7]項に記載の光配向用液晶配向剤;
【化9】
【化10】
式(PA-4)~式(PA-7)において、R
11は炭素数1~5のアルキルである。
【0021】
[9] [1]~[8]のいずれか1項に記載の光配向用液晶配向剤によって形成される液晶配向膜。
【0022】
[10] [9]項に記載の液晶配向膜を有する液晶表示素子。
【0023】
[11] [9]項に記載の液晶配向膜を有する横電界駆動型液晶表示素子。
【発明の効果】
【0024】
本発明の光配向用液晶配向剤によって形成された液晶配向膜は、液晶配向性に優れる。また、シール剤との密着性が高く、残像特性が良好で表示品位の高い液晶表示素子を与える液晶配向膜を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本明細書において、テトラカルボン酸二無水物、テトラカルボン酸ジエステル、およびテトラカルボン酸ジエステルジハロゲン化物をテトラカルボン酸誘導体と称することがある。また、ポリアミック酸エステルおよびポリイミドをポリアミック酸誘導体と称することがある。
【0026】
<光配向用液晶配向剤>
本発明の光配向用液晶配向剤は、テトラカルボン酸二無水物、テトラカルボン酸ジエステル、およびテトラカルボン酸ジエステルジハロゲン化物から選ばれる少なくとも1つと、ジアミンおよびジヒドラジドから選ばれる少なくとも1つを反応させて得られる、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、およびこれらをイミド化して得られるポリイミドの少なくとも1つのポリマーを含み、前記テトラカルボン酸二無水物、テトラカルボン酸ジエステル、およびテトラカルボン酸ジエステルジハロゲン化物から選ばれる少なくとも1つが、下記式(1)で表される構造を有する、光配向用液晶配向剤である。
【化11】
式(1)において、Aはそれぞれ独立して、水素または150~300℃の加熱により水素に置き換わる熱脱離性基であり、R
3は酸素原子または硫黄原子であり、*は結合手であることを示す。本明細書中、「150~300℃の加熱により水素に置き換わる熱脱離性基」とは、加熱により水素原子に置き換わる基であれば特に制限はないが、好適には、Boc(t-ブトキシカルボニル基の略)、ベンジルオキシカルボニル基、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル基、アリルオキシカルボニル基等のカルバメート系保護基が挙げられる。
【0027】
式(1)で表される構造を有するテトラカルボン酸二無水物は、例えば下記式(1-1)で表すことができる。
【化12】
式(1-1)において、Aは独立して、水素または150~300℃の加熱により水素に置き換わる熱脱離性基である。R
1は、独立して、単結合、-O-、-S-、-COO-、または-OCO-である。R
2は、独立して、単結合または炭素数1~3のアルキレンであるが、R
2が単結合の場合、R
1は-O-、-S-、-COO-、または-OCO-であることはない。そして、R
3は酸素原子または硫黄原子である。
【0028】
式(1-1)で表されるテトラカルボン酸二無水物の具体例を以下に挙げる。
【化13】
【化14】
【化15】
上記式中、Bocはt-ブトキシカルボニルを表す。
【0029】
本発明の光配向用液晶配向剤は、式(1)で表される構造を有するテトラカルボン酸誘導体によってもたらされる(チオ)ウレア結合または加熱により(チオ)ウレア結合となる構造を有する。(チオ)ウレア結合は互いに強い相互作用(例えば、水素結合)を有するため、膜硬度が高く、さらにシール密着性にも優れた液晶配向膜を与えることができる。また、(チオ)ウレア結合は液晶配向膜中の電荷の移動を促進する基として作用し、蓄積された電荷を素早く緩和する働きを担うと考えられる。式(1-1-1)~式(1-1-16)のテトラカルボン酸二無水物のように、主鎖に長鎖のスペーサ基を有するテトラカルボン酸二無水物を使用すれば、さらに液晶配向性の優れた液晶配向膜を与えることができる。
【0030】
前記ポリアミック酸、ポリアミック酸エステルおよびこれらをイミド化して得られるポリイミドとは、溶剤を含有する後述する液晶配向剤としたときに溶剤に溶解する成分であり、その液晶配向剤を後述する液晶配向膜としたときに、ポリイミドを主成分とする液晶配向膜を形成することができる成分である。ポリアミック酸エステルは、前述のポリアミック酸と水酸基含有化合物、ハロゲン化物、エポキシ基含有化合物等とを反応させることにより合成する方法や、酸二無水物から誘導されるテトラカルボン酸ジエステルまたはテトラカルボン酸ジエステルジクロライドとジアミンとを反応させる方法により、合成することができる。酸二無水物から誘導されるテトラカルボン酸ジエステルは例えば、酸二無水物を2当量のアルコールと反応させ開環させて得ることができ、テトラカルボン酸ジエステルジクロライドは、テトラカルボン酸ジエステルを2当量の塩素化剤(例えば塩化チオニルなど)と反応させることで得ることができる。なお、ポリアミック酸エステルは、アミック酸エステル構造のみを有していてもよく、アミック酸構造とアミック酸エステル構造とが併存する部分エステル化物であってもよい。
【0031】
前記ポリイミドは、ポリアミック酸を溶媒中でイミドに転化させ、溶剤可溶性のポリイミドとして用いることができる。また、公知の脱水閉環触媒を使用して化学的に閉環する方法を用いることもできる。加熱による方法は、100~350℃、好ましくは120~300℃の任意の温度で行うことができる。化学的に閉環する方法は、例えば、ピリジンやトリエチルアミン等と、無水酢酸等との存在下で行うことができ、この際の温度は、-20~200℃の任意の温度を選択することができる。このようにして得られたポリイミド溶液は、そのまま使用することもでき、また、メタノール、エタノール及び水等の貧溶媒を加えてポリイミドを沈殿させ、これを単離してポリイミド粉末として、またはそのポリイミド粉末を適当な溶媒に再溶解させて使用することができる。
【0032】
前記ポリアミック酸は、式(DI)で表されるジアミンと式(AN)で表されるテトラカルボン酸二無水物との重合反応により合成されるポリマーであり、式(PAA)で表される繰り返し単位を有する。ポリアミック酸を脱水閉環することで、式(PI)で表される繰り返し単位を有するポリイミド液晶配向膜を形成することができる。テトラカルボン酸二無水物として、式(1)で表される構造の結合位置*にカルボン酸二無水物を有する基が連結した構造を有する化合物を用いることにより、式(1)で表される構造を容易に主鎖に導入することができる。また、ポリアミック酸エステルの繰り返し単位は式(PAE)で表され、例えば、式(DI)で表されるジアミンと式(TD)で表されるテトラカルボン酸ジエステルジクロライドとの重合反応により合成される。
【0033】
ポリアミック酸およびポリアミック酸エステルの合成において、ジアミンの代わりにジヒドラジドを用いることもできる。
【0034】
【0035】
【0036】
【0037】
式(AN)、式(TD)、式(PAA)、式(PI)、式(PAE)において、X1およびX3は4価の有機基であり、式(DI)、式(PAA)、式(PI)、および式(PAE)において、X2およびX4は2価の有機基であり、式(PAE)および式(TD)において、R1はアルキル基である。
【0038】
<光反応性構造を有するモノマー>
本発明の光配向用液晶配向剤は、例えば偏光紫外線の照射によって液晶配向能を付与することができ、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、およびこれらをイミド化して得られるポリイミドの原料として光反応性構造を有するモノマーを好適に用いることができる。光反応性構造を有するモノマーを用いることによって、光反応性構造を有するポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、およびこれらをイミド化して得られるポリイミドを合成することができる。光反応性構造とは、例えば、紫外線照射によって異性化を起こす式(P-1)~式(P-3)で表される光異性化構造、分解を起こす下記式(P-4)で表される光分解構造、二量化を起こす式(P-5)~式(P-7)で表される光二量化構造などを挙げることができる。
【化19】
式(P-4)中、R
61は独立して、水素原子、炭素数1~5のアルキル、またはフェニルである。
【0039】
式(P-1)~式(P-3)で表される光異性化構造を有する化合物としては、感光性が良好な下記式(II)~式(VI)で表される化合物の群から選ばれる少なくとも1つであることが好ましく、式(V)で表される化合物がより好ましい。
【化20】
式(II)~式(V)において、R
2およびR
3は-NH
2を有する1価の有機基または-CO-O-CO-を有する1価の有機基であり、式(IV)においてR
4は2価の有機基であり、式(VI)においてR
5は独立して-NH
2または-CO-O-CO-を有する芳香環である。
【0040】
光異性化構造は、本発明におけるポリアミック酸またはその誘導体の主鎖または側鎖のどちらに組み込んでもよいが、主鎖に組み込むことにより、横電界方式の液晶表示素子に好適に用いることができる。
【0041】
前記光異性化構造を有する材料としては、下記式(II-1)、式(II-2)、式(III-1)、式(III-2)、式(IV-1)~(IV-3)、式(V-1)~式(V-3)、式(VI-1)、および式(VI-2)で表される化合物の群から選ばれる少なくとも1つを好適に用いることができる。
【化21】
【0042】
【0043】
上記各式において、環を構成するいずれかの炭素原子に結合位置が固定されていない基は、その環における結合位置が任意であることを示す。式(IV-3)において、rは1から10の整数である。式(V-2)において、R6は独立して-CH3、-OCH3、-CF3、-COOCH3、下記式(P1-1)で表される基、または下記式(P1-2)で表される基であり、aは独立して0~2の整数である。式(V-3)において、環Aおよび環Bはそれぞれ独立して、単環式炭化水素、縮合多環式炭化水素および複素環から選ばれる少なくとも1つであり、R11は、炭素数1~20の直鎖アルキレン、-COO-、-OCO-、-NHCO-、-CONH-、-N(CH3)CO-、または-CON(CH3)-であり、R12は、炭素数1~20の直鎖アルキレン、-COO-、-OCO-、-NHCO-、-CONH-、-N(CH3)CO-、または-CON(CH3)-であり、R11およびR12において、直鎖アルキレンの-CH2-の1つまたは2つは-O-で置換されてもよく、R7~R10は、独立して-F、-CH3、-OCH3、-CF3、または-OHであり、そして、b~eは、独立して0~4の整数である。
【0044】
【0045】
式(P1-1)および式(P1-2)において、R6a~R8aは、独立して、水素原子、置換または無置換のアルキル、置換または無置換のシクロアルキル、置換または無置換のアルカノイル、または置換または無置換のアリールカルボニルを表す。R6a~R8aは互いに同一であっても異なっていてもよい。*は、式(V-2)におけるベンゼン環への結合位置を表す。
【0046】
式(P1-1)において、R6aにおけるアルキルは、直鎖状、分枝状のいずれであってもよい。アルキルの好ましい炭素数は1~10であり、より好ましくは1~6であり、さらに好ましくは1~4であり、さらにより好ましくは1~3である。アルキルの具体例として、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、tert-ペンチル、1-メチルブチル、1-エチルプロピル、ヘキシル、イソヘキシル、1-メチルペンチル、1-エチルブチル等を例示することができる。
【0047】
R6aにおけるアルカノイルは、直鎖状、分枝状のいずれであってもよい。アルカノイルの好ましい炭素数は1~10であり、より好ましくは1~6であり、さらに好ましくは1~2であり、さらにより好ましくは1である。アルカノイルの具体例として、メタノイル、エタノイル、プロパノイル、イソプロパノイル、ブタノイル、イソブタノイル、sec-ブタノイル、tert-ブタノイル、ペンタノイル、イソペンタノイル、ネオペンタノイル、tert-ペンタノイル、1-メチルブタノイル、1-エチルプロパノイル、ヘキサノイル、イソヘキサノイル、1-メチルペンタノイル、1-エチルブタノイル等を例示することができる。
【0048】
R6aにおけるアリールカルボニルのアリールは、単環であっても縮合環であってもよい。アリールの好ましい炭素数は6~22であり、より好ましくは6~14であり、さらに好ましくは6~10である。アリールの具体例として、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル等を例示することができる。アリールカルボニルの具体例として、フェニルカルボニル、1-ナフチルカルボニル等を例示することができる。R6aにおけるアルキル、アルカノイルおよびアリールカルボニルは、それぞれ置換基で置換されていてもよい。置換基として、水酸基、アミノ基、ハロゲノ基等を挙げることができる。
【0049】
これらのうちで、最終的に製造される液晶配向膜の性能を良好にできる点から、R6aはメチル、エチル、プロピル、水素、メタノイル、フェニルであることが好ましい。
【0050】
式(P1-2)において、R7aおよびR8aにおけるアルキル、アルカノイル、アリールカルボニルおよびこれらの基に置換しうる置換基の説明と好ましい範囲、具体例については、上記の式(P1-1)のR6aにおけるアルキル、アルカノイル、アリールカルボニルおよびこれらの基に置換しうる置換基についての説明と好ましい範囲、具体例を参照することができる。
【0051】
上記式(V-1)、式(V-2)および式(VI-2)で表される化合物は、その感光性の点から特に好適に用いることができる。式(V-2)および式(VI-2)においては、2つのアミノ基の結合位置がいずれもパラ位である化合物が好ましい。さらに式(V-2)においては、a=0の化合物、および一方のベンゼン環上の置換基におけるaが0で、かつR6が式(p1-1)である化合物を、その配向性の点からより好適に用いることができる。また、式(IV-3)で表される化合物は、感光性を発現する以外の目的で使用することもできる。
【0052】
式(II-1)~式(VI-2)に示す紫外線照射で異性化を起こし得る構造を持つテトラカルボン酸二無水物またはジアミンは下記式(II-1-1)~式(VI-2-3)で具体的に表すことができる。
【化24】
【0053】
【0054】
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
【0059】
液晶分子をより一様に配向させることを重視する場合には、式(V-1-1)、式(V-2-1)、式(V-2-4)~式(V-2-13)、および式(V-3-1)~式(V-3-8)で表される化合物を用いるのが好ましい。透過率を向上させることを重視する場合には、式(V-2-4)~式(V-2-13)、式(V-3-1)~式(V-3-8)で表される化合物を用いるのが好ましい。中でも、液晶配向膜を形成した際により大きな異方性を発現することから、式(V-2-1)、式(V-2-12)および式(V-2-13)で表される化合物をより好適に用いることができる。
【0060】
式(P-4)で表される光分解構造を有する化合物としては、下記式(PA-1)~式(PA-7)で表される化合物が挙げられる。
【化31】
【化32】
式(PA-4)~式(PA-7)において、R
11は炭素数1~5のアルキルである。
【0061】
これらの化合物の中では、上記式(PA-1)、式(PA-2)および式(PA-6)で表される化合物が好適に用いられる。
【0062】
なお、式(PA-1)~式(PA-7)で表される化合物は、光異性化反応に基づく液晶配向能を利用した液晶配向剤、または光二量化に基づく液晶配向能を利用した液晶配向剤に用いる重合体の原料モノマーとして用いる場合は、光反応性構造を有さないテトラカルボン酸二無水物として扱われる。
【0063】
式(P-5)~式(P-7)で表される光反応性構造を有する化合物としては、下記式(PDI-9)~式(PDI-14)で表されるジアミン化合物が挙げられる。
【化33】
式(PDI-12)において、R
54は炭素数1~10のアルキルまたはアルコキシであり、アルキルまたはアルコキシの少なくとも1つの水素はフッ素に置き換えられていてもよい。
【0064】
上記式(PDI-9)、(PDI-11)、および式(PDI-14)を好適に用いることができる。
【0065】
光反応性構造を有さない(非感光性)テトラカルボン酸誘導体および光反応性構造を有する(感光性)テトラカルボン酸誘導体を併用する態様においては、液晶配向膜の光に対する感度の低下を防ぐために、本発明のポリアミック酸またはその誘導体を製造する際の原料として使用するテトラカルボン酸誘導体の全量に対して、感光性テトラカルボン酸誘導体は0~90モル%が好ましく、50~90モル%が特に好ましい。また、光に対する感度、電気特性、残像特性等、前述した諸般の特性を改善するために感光性テトラカルボン酸誘導体を2つ以上併用してもよい。
【0066】
光反応性構造を有さない(非感光性)のジアミンおよび光反応性構造を有する(感光性)ジアミンを併用する態様においては、液晶配向膜の光に対する感度の低下を防ぐために、本発明のポリアミック酸またはその誘導体を製造する際の原料として使用するジアミンの全量に対して、感光性ジアミンは20~100モル%が好ましく、50~100モル%が特に好ましい。また、光に対する感度、残像特性等、前述した諸般の特性を改善するために感光性ジアミンを2つ以上併用してもよい。前記のごとく、本発明の態様にはテトラカルボン酸二無水物の全量が非感光性テトラカルボン酸二無水物で占められる場合が含まれるが、その場合でもジアミンの全量の最低20モル%が感光性ジアミンであることが求められる。
【0067】
<その他のテトラカルボン酸二無水物>
本発明のポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、およびこれらをイミド化して得られるポリイミドから選択される少なくとも1つを含有する液晶配向剤を製造する為に使用する、式(1)で表される構造を有するテトラカルボン酸二無水物および光反応性構造を有する(感光性)テトラカルボン酸誘導体以外のテトラカルボン酸二無水物について説明する。本発明に使用されるテトラカルボン酸二無水物は、公知のテトラカルボン酸二無水物から制限されることなく選択することができる。このようなテトラカルボン酸二無水物は、芳香環に直接ジカルボン酸無水物が結合した芳香族系(複素芳香環系を含む)、および芳香環に直接ジカルボン酸無水物が結合していない脂肪族系(複素環系を含む)の何れの群に属するものであってもよい。
【0068】
このようなテトラカルボン酸二無水物の例として、特開2016-029447や国際公開2016/104514などに記載のテトラカルボン酸二無水物を挙げることができる。例えば、以下に示す脂肪族系テトラカルボン酸二無水物を挙げることができる。
【化34】
式(a-1-2)において、mは1~12の整数である。
【0069】
また、以下に示す芳香族系テトラカルボン酸二無水物を挙げることができる。
【化35】
式(a-2-6)において、mは1~12の整数である。
【0070】
上記テトラカルボン酸二無水物において、各特性を向上させる好適な材料について述べる。
【0071】
液晶の配向性を向上させることを重視する場合には、式(a-1-2)、(a-1-13)、(a-2-1)、(a-2-3)、(a-2-6)および(a-2-7)で表される化合物がより好ましい。式(a-1-2)においては、m=4または8が好ましい。式(a-2-6)においては、m=4または8が好ましく、m=8がより好ましい。
【0072】
液晶表示素子の透過率を向上させるまたは電圧保持率(VHR)を向上させることを重視する場合には、上記の酸二無水物のうち、式(a-1-1)、(a-1-2)、(a-1-5)、(a-1-6)、(a-1-7)、(a-1-8)、(a-1-9)、(a-1-10)、(a-1-11)、(a-1-12)、および(a-1-14)で表される化合物が好ましい。式(a-1-2)においては、m=4または8が好ましい。
【0073】
液晶配向膜の体積抵抗値を低下させることにより、液晶配向膜中の残留電荷(残留DC)の緩和速度を向上させることが、焼き付きを防ぐ方法の1つとして有効である。この目的を重視する場合には、上記の酸二無水物のうち、式(a-1-12)、(a-2-1)、(a-2-2)、(a-2-4)、および(a-2-7)で表される化合物が好ましい。
【0074】
<ジアミンおよびジヒドラジド>
本発明の光配向用液晶配向剤を製造する為に使用する、ジアミンおよびジヒドラジドについて説明する。本発明の光配向用液晶配向剤を製造するにあたっては、公知のジアミンおよびジヒドラジドから制限されることなく選択することができる。
【0075】
ジアミンはその構造によって2種類に分けることができる。即ち、2つのアミノ基を結ぶ骨格を主鎖として見たときに、主鎖から分岐する基、即ち側鎖基を有するジアミンと側鎖基を持たないジアミンである。この側鎖基はプレチルト角を大きくする効果を有する基である。このような効果を有する側鎖基は炭素数3以上の基である必要があり、具体的な例として炭素数3以上のアルキル、炭素数3以上のアルコキシ、炭素数3以上のアルコキシアルキル、およびステロイド骨格を有する基を挙げることができる。1つ以上の環を有する基であって、その末端の環が置換基として炭素数1以上のアルキル、炭素数1以上のアルコキシおよび炭素数2以上のアルコキシアルキルのいずれか1つを有する基も側鎖基としての効果を有する。以下の説明では、このような側鎖基を有するジアミンを側鎖型ジアミンと称することがある。そして、このような側鎖基を持たないジアミンを非側鎖型ジアミンと称することがある。
【0076】
非側鎖型ジアミンと側鎖型ジアミンを適切に使い分けることにより、それぞれに必要なプレチルト角に対応することができる。側鎖型ジアミンは、本発明の特性を損なわない程度に併用するのが好ましい。また側鎖型ジアミンおよび非側鎖型ジアミンについて、液晶に対する垂直配向性、電圧保持率、焼き付き特性および配向性を向上させる目的で取捨選択して使用することが好ましい。
【0077】
このようなジアミンおよびジヒドラジドの例として、特開2016-029447や国際公開2016/104514などに記載のジアミンおよびジヒドラジドを挙げることができる。例を以下に示す。
【化36】
式(b-1-3)および式(b-1-5)において、mは1~12の整数であり、式(b-1-8)において、kは1~5の整数であり、式(b-1-10)において、mは1~12の整数であり、nは独立して1または2である。
【0078】
【化37】
式(b-1-19)において、nは1~6の整数である。
【0079】
【化38】
式(b-1-21)~式(b-1-24)において、eは独立して2~10の整数であり、式(b-1-24)中、R
11は独立して水素、-NHBocまたは-N(Boc)
2であり、R
43の少なくとも1つは-NHBocまたは-N(Boc)
2であり、式(b-1-25)において、R
12は-NHBocまたは-N(Boc)
2であり、そして、mは1~12の整数である。ここでBocはt-ブトキシカルボニル基である。
【0080】
【化39】
式(b-2-3)において、R
12は炭素数4~30のアルキルであり、好ましくは炭素数6~25のアルキルである。
【0081】
【0082】
【化41】
式(b-2-8)~式(b-2-13)において、R
13は独立して炭素数1~30のアルキルまたは炭素数1~30のアルコキシであり、好ましくは炭素数5~25のアルキルまたは炭素数5~25のアルコキシである。
【0083】
【化42】
式(b-2-14)~式(b-2-17)において、R
14は独立して炭素数1~30のアルキルまたは炭素数1~30のアルコキシであり、好ましくは炭素数5~25のアルキルまたは炭素数5~25のアルコキシである。
【0084】
上記ジアミンおよびジヒドラジドにおいて、各特性を向上させる好適な材料について述べる。
【0085】
液晶の配向性をさらに向上させることを重視する場合には、上記のジアミンおよびジヒドラジドのうち、式(b-1-3)、式(b-1-5)、式(b-1-8)、式(b-1-10)、式(b-1-18)、式(b-1-21)、式(b-1-22)、式(b-1-23)、式(b-1-26)、式(b-2-3)、式(b-2-6)、式(b-2-7)、式(b-2-8)、および式(b-2-9)で表されるジアミンを用いるのが好ましい。式(b-1-3)においては、m=2、4または6が好ましく、m=4がより好ましい。式(b-1-5)においては、m=2~6が好ましく、m=5がより好ましい。式(b-1-8)においては、k=2が好ましい。式(b-1-10)においては、m=2、3または4、n=1または2が好ましく、m=3、n=1がより好ましい。
【0086】
透過率を向上させることを重視する場合には、上記のジアミンおよびジヒドラジドのうち、式(b-1-1)、式(b-1-3)、式(b-1-7)、および式(b-1-10)で表されるジアミンを用いるのが好ましく、(b-1-1)で表されるジアミンがより好ましい。式(b-1-3)においては、m=2、4または6が好ましく、m=4がより好ましい。式(b-1-10)においては、m=2または3、n=1または2が好ましく、m=3、n=1がより好ましい。
【0087】
液晶表示素子のVHRを向上させることを重視する場合には、上記のジアミンおよびジヒドラジドのうち、式(b-1-1)、式(b-1-2)、式(b-1-3)、式(b-1-6)、式(b-1-8)、式(b-1-9)、式(b-1-11)、式(b-2-1)、および式(b-2-2)で表されるジアミンを用いるのが好ましく、式(b-1-1)、式(b-1-3)、および式(b-1-9)で表されるジアミンがより好ましい。式(b-1-3)においては、m=1が好ましい。式(b-1-8)においては、k=2が好ましい。
【0088】
液晶配向膜の体積抵抗値を低下させることにより、液晶配向膜中の残留電荷(残留DC)の緩和速度を向上させることが、焼き付きを防ぐ方法の1つとして有効である。この目的を重視する場合には、上記のジアミンおよびジヒドラジドのうち、式(b-1-2)、式(b-1-3)、式(b-1-5)、式(b-1-6)、式(b-1-11)、および式(b-2-2)で表されるジアミンを用いるのが好ましく、式(b-1-2)、および式(b-1-3)で表されるジアミンがより好ましい。式(b-1-3)においては、m=2、4または6が好ましく、m=4がより好ましい。式(b-1-5)においては、m=2~6が好ましく、m=5がより好ましい。
【0089】
液晶配向膜のシール密着性を重視する場合は、式(1)で表される構造を有するテトラカルボン酸二無水物によってもたらされるウレア結合と相互作用する基を有するジアミンを用いるのが好ましい。例えば、水素結合を形成する基である、2級アミン残基、3級アミン残基、水酸基、カルボキシ基、アミド基、イミド基、ウレア基等を有するジアミンが挙げられる。上記ジアミンおよびジヒドラジドのうち、式(b-1-6)、式(b-1-8)、式(b-1-9)、式(b-1-11)、式(b-1-13)、式(b-1-17)~式(b-1-20)、式(b-1-26)、式(b-2-1)、式(b-2-2)、および式(b-2-4)で表されるジアミンを用いるのが好ましく、式(b-1-6)、式(b-1-8)、式(b-1-9)、式(b-1-11)、式(b-1-17)、式(b-1-18)、式(b-1-26)、式(b-2-1)、式(b-2-2)、および式(b-2-4)で表されるジアミンを用いるのがより好ましい。
【0090】
各ジアミンにおいて、ジアミンに対するモノアミンの比率が40モル%以下の範囲で、ジアミンの一部がモノアミンに置き換えられていてもよい。このような置き換えは、ポリアミック酸を生成する際の重合反応のターミネーションを起こすことができ、それ以上の重合反応の進行を抑えることができる。このため、このような置き換えによって、得られるポリマー(ポリアミック酸、ポリアミック酸エステルまたはポリイミド)の分子量を容易に制御することができ、例えば本発明の効果が損なわれることなく液晶配向剤の塗布特性を改善することができる。ジアミンを置き換えるモノアミンは、本発明の効果が損なわれなければ、1種でも2種以上でもよい。前記モノアミンとしては、例えばアニリン、4-ヒドロキシアニリン、シクロヘキシルアミン、n-ブチルアミン、n-ペンチルアミン、n-ヘキシルアミン、n-ヘプチルアミン、n-オクチルアミン、n-ノニルアミン、n-デシルアミン、n-ウンデシルアミン、n-ドデシルアミン、n-トリデシルアミン、n-テトラデシルアミン、n-ペンタデシルアミン、n-ヘキサデシルアミン、n-ヘプタデシルアミン、n-オクタデシルアミン、およびn-エイコシルアミンが挙げられる。
【0091】
本発明のポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、およびこれらをイミド化して得られるポリイミドは、そのモノマーにモノイソシアネート化合物をさらに含んでいてもよい。モノイソシアネート化合物をモノマーに含むことによって、得られるポリアミック酸またはその誘導体の末端が修飾され、分子量が調節される。この末端修飾型のポリアミック酸またはその誘導体を用いることにより、例えば本発明の効果が損なわれることなく液晶配向剤の塗布特性を改善することができる。モノマー中のモノイソシアネート化合物の含有量は、モノマー中のジアミンおよびテトラカルボン酸二無水物の総量に対して1~10モル%であることが、前記の観点から好ましい。前記モノイソシアネート化合物としては、例えばフェニルイソシアネート、およびナフチルイソシアネートが挙げられる。
【0092】
本発明のポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、およびこれらをイミド化して得られるポリイミドは、上記のテトラカルボン酸二無水物誘導体の混合物とジアミンを溶剤中で反応させることによって得られる。この合成反応においては、原料の選択以外に特別な条件は必要でなく、通常のポリアミック酸合成における条件をそのまま適用することができる。使用する溶剤については後述する。ジアミンの代わりにジヒドラジドを用いてもよい。
【0093】
本発明の液晶配向剤は、本発明のポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、およびこれらをイミド化して得られるポリイミド以外の他の成分をさらに含有していてもよい。他の成分は、1種であっても2種以上であってもよい。他の成分として、例えば後述するその他のポリマーや化合物などが挙げられる。
【0094】
その他のポリマーとしては、式(1)で表される構造を有するテトラカルボン酸二無水物を含まない原料モノマーを反応させて得られるポリアミック酸またはその誘導体(以下、“その他のポリアミック酸またはその誘導体”という。)、ポリエステル、ポリアミド、ポリシロキサン、セルロース誘導体、ポリアセタール、ポリスチレン誘導体、ポリ(スチレン-フェニルマレイミド)誘導体、ポリ(メタ)アクリレートなどを挙げる事ができる。1種であっても2種以上であってもよい。これらのうち、その他のポリアミック酸またはその誘導体およびポリシロキサンが好ましく、その他のポリアミック酸またはその誘導体がより好ましい。
【0095】
その他のポリアミック酸またはその誘導体を合成するために用いられるテトラカルボン酸二無水物としては、本発明の液晶配向剤の必須成分であるポリアミック酸またはその誘導体を合成するために用いられるテトラカルボン酸二無水物として公知のテトラカルボン酸二無水物から制限されることなく選択することができ、上記に例示したものと同じものを挙げることができる。
【0096】
好ましいテトラカルボン酸二無水物としては、上述の各特性を向上させることができる好適な材料が挙げられる。
【0097】
その他のポリアミック酸またはその誘導体を合成するために用いられるテトラカルボン酸二無水物は、芳香族テトラカルボン酸二無水物を、全テトラカルボン酸二無水物に対して、10モル%以上含むものである事が好ましく、30モル%以上含むものであることがより好ましい。
【0098】
その他のポリアミック酸またはその誘導体を合成するために用いられるジアミンおよびジヒドラジドとしては、本発明の液晶配向剤の必須成分であるポリアミック酸またはその誘導体を合成するために用いることのできるその他のジアミンとして上記に例示したものと同じものを挙げることができる。
【0099】
好ましいジアミンおよびジヒドラジドとしては、上述の各特性を向上させることができる好適な材料が挙げられる。
【0100】
その他のポリアミック酸またはその誘導体を合成するために用いられるジアミンは、芳香族ジアミンを、全ジアミンに対して、30モル%以上含むものである事が好ましく、50モル%以上含むものであることがより好ましい。
【0101】
その他のポリアミック酸またはその誘導体は、それぞれ、本発明の液晶配向剤の必須成分であるポリアミック酸またはその誘導体の合成方法として下記に記載したところに準じて合成することができる。
【0102】
前記ポリシロキサンとしては、特開2009-036966、特開2010-185001、特開2011-102963、特開2011-253175、特開2012-159825、国際公開2008/044644、国際公開2009/148099、国際公開2010/074261、国際公開2010/074264、国際公開2010/126108、国際公開2011/068123、国際公開2011/068127、国際公開2011/068128、国際公開2012/115157、国際公開2012/165354等に開示されているポリシロキサンをさらに含有することができる。
【0103】
<アルケニル置換ナジイミド化合物>
例えば、本発明の液晶配向剤は、液晶表示素子の電気特性を長期に安定させる目的から、アルケニル置換ナジイミド化合物をさらに含有していてもよい。アルケニル置換ナジイミド化合物は1種で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。アルケニル置換ナジイミド化合物の含有量は、上記の目的から、ポリアミック酸またはその誘導体に対して1~100重量%であることが好ましく、1~70重量%であることがより好ましく、1~50重量%であることがさらに好ましい。
【0104】
アルケニル置換ナジイミド化合物は、本発明で用いられるポリアミック酸またはその誘導体を溶解する溶剤に溶解させることができる化合物であることが好ましい。このようなアルケニル置換ナジイミド化合物として、例えば、特開2013-242526等に開示されているアルケニル置換ナジイミド化合物を挙げることができる。好ましいアルケニル置換ナジイミド化合物としては、ビス{4-(アリルビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボキシイミド)フェニル}メタン、N,N’-m-キシリレン-ビス(アリルビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボキシイミド)、N,N’-ヘキサメチレン-ビス(アリルビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボキシイミド)が挙げられる。
【0105】
<ラジカル重合性二重結合を有する化合物>
例えば、本発明の液晶配向剤は、液晶表示素子の電気特性を長期に安定させる目的から、ラジカル重合性二重結合を有する化合物をさらに含有していてもよい。ラジカル重合性二重結合を有する化合物は1種の化合物であってもよいし、2種以上の化合物であってもよい。なお、ラジカル重合性二重結合を有する化合物にはアルケニル置換ナジイミド化合物は含まれない。ラジカル重合性二重結合を有する化合物の含有量は、上記の目的から、ポリアミック酸またはその誘導体に対して1~100重量%であることが好ましく、1~70重量%であることがより好ましく、1~50重量%であることがさらに好ましい。
【0106】
なお、アルケニル置換ナジイミド化合物に対するラジカル重合性二重結合を有する化合物の比率は、液晶表示素子のイオン密度を低減し、イオン密度の経時的な増加を抑制し、さらに残像の発生を抑制するために、ラジカル重合性二重結合を有する化合物/アルケニル置換ナジイミド化合物が重量比で0.1~10であることが好ましく、0.5~5であることがより好ましい。
【0107】
好ましいラジカル重合性二重結合を有する化合物としては、例えば、特開2013-242526等に開示されているラジカル重合性二重結合を有する化合物を挙げることができる。
【0108】
<オキサジン化合物>
例えば、本発明の液晶配向剤は、液晶表示素子における電気特性を長期に安定させる目的から、オキサジン化合物をさらに含有していてもよい。オキサジン化合物は1種の化合物であってもよいし、2種以上の化合物であってもよい。オキサジン化合物の含有量は、上記の目的から、ポリアミック酸またはその誘導体に対して0.1~50重量%であることが好ましく、1~40重量%であることがより好ましく、1~20重量%であることがさらに好ましい。
【0109】
オキサジン化合物は、ポリアミック酸またはその誘導体を溶解させる溶媒に可溶であり、加えて、開環重合性を有するオキサジン化合物が好ましい。好ましいオキサジン化合物としては、例えば、式(OX-3-1)、式(OX-3-9)で表されるオキサジン化合物や、特開2013-242526等に開示されているオキサジン化合物を挙げることができる。
【化43】
【0110】
<オキサゾリン化合物>
例えば、本発明の液晶配向剤は、液晶表示素子における電気特性を長期に安定させる目的から、オキサゾリン化合物をさらに含有していてもよい。オキサゾリン化合物はオキサゾリン構造を有する化合物である。オキサゾリン化合物は1種の化合物であってもよいし、2種以上の化合物であってもよい。オキサゾリン化合物の含有量は、上記の目的から、ポリアミック酸またはその誘導体に対して0.1~50重量%であることが好ましく、1~40重量%であることがより好ましく、1~20重量%であることが好ましい。または、オキサゾリン化合物の含有量は、オキサゾリン化合物中のオキサゾリン構造をオキサゾリンに換算したときに、ポリアミック酸またはその誘導体に対して0.1~40重量%であることが、上記の目的から好ましい。
【0111】
オキサゾリン化合物としては、例えば、特開2013-242526等に開示されているオキサゾリン化合物を挙げることできる。好ましいオキサゾリン化合物としては、1,3-ビス(4,5-ジヒドロ-2-オキサゾリル)ベンゼンが挙げられる。
【0112】
<エポキシ化合物>
例えば、本発明の液晶配向剤は、液晶表示素子における電気特性を長期に安定させる目的から、エポキシ化合物をさらに含有していてもよい。エポキシ化合物は1種の化合物であってもよいし、2種以上の化合物であってもよい。エポキシ化合物の含有量は、上記の目的から、ポリアミック酸またはその誘導体に対して0.1~50重量%であることが好ましく、1~40重量%であることがより好ましく、1~20重量%であることがさらに好ましい。
【0113】
エポキシ化合物としては、例えば、特開2013-242526等に開示されているエポキシ化合物を挙げることができる。好ましいエポキシ化合物としては、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、(3,3’,4,4’-ジエポキシ)ビシクロヘキシルが挙げられる。
【0114】
また例えば、本発明の液晶配向剤は各種添加剤をさらに含有していてもよい。各種添加剤としては、例えばポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、およびこれらをイミド化して得られるポリイミド以外の高分子化合物、および低分子化合物が挙げられ、それぞれの目的に応じて選択して使用することができる。
【0115】
例えば、前記高分子化合物としては、有機溶媒に可溶性の高分子化合物が挙げられる。このような高分子化合物を本発明の液晶配向剤に添加することは、形成される液晶配向膜の電気特性や配向性を制御する観点から好ましい。該高分子化合物としては、例えばポリアミド、ポリウレタン、ポリウレア、ポリエステル、ポリエポキサイド、ポリエステルポリオール、シリコーン変性ポリウレタン、およびシリコーン変性ポリエステルが挙げられる。
【0116】
また、前記低分子化合物としては、例えば1)塗布性の向上を望むときにはかかる目的に沿った界面活性剤、2)帯電防止の向上を必要とするときは帯電防止剤、3)基板との密着性の向上を望むときにはシランカップリング剤やチタン系のカップリング剤、また、4)低温でイミド化を進行させる場合はイミド化触媒、が挙げられる。
【0117】
シランカップリング剤としては、例えば、特開2013-242526等に開示されているシランカップリング剤を挙げることができる。好ましいシランカップリング剤としては、3-アミノプロピルトリエトキシシランが挙げられる。また、イミド化触媒としては、特開2013-242526等に開示されているイミド化触媒を挙げることができる。
【0118】
シランカップリング剤の添加量は、通常、ポリアミック酸またはその誘導体の総重量の0~20重量%であり、0.1~10重量%であることが好ましい。
【0119】
イミド化触媒の添加量は、通常、ポリアミック酸またはその誘導体のカルボニル基に対して0.01~5当量であり、0.05~3当量であることが好ましい。
【0120】
その他の添加剤の添加量は、その用途に応じて異なるが、通常、ポリアミック酸またはその誘導体の総重量の0~100重量%であり、0.1~50重量%であることが好ましい。
【0121】
また例えば、本発明の光液晶配向剤は、液晶配向剤の塗布性や前記ポリアミック酸またはその誘導体の濃度の調整の観点から、溶剤をさらに含有していてもよい。前記溶剤は、高分子成分を溶解する能力を持った溶剤であれば格別制限なく適用可能である。前記溶剤は、ポリアミック酸、可溶性ポリイミド等の高分子成分の製造工程や用途面で通常使用されている溶剤を広く含み、使用目的に応じて、適宜選択できる。前記溶剤は1種でも2種以上の混合溶剤であってもよい。
【0122】
溶剤としては、前記ポリアミック酸またはその誘導体の親溶剤や、塗布性改善を目的とした他の溶剤が挙げられる。
【0123】
ポリアミック酸またはその誘導体に対し親溶剤である非プロトン性極性有機溶剤としては、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、ジメチルイミダゾリジノン、N-メチルカプロラクタム、N-メチルプロピオンアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、ジエチルアセトアミド、γ-ブチロラクトン等のラクトンが挙げられる。
【0124】
塗布性改善等を目的とした他の溶剤の例としては、乳酸アルキル、3-メチル-3-メトキシブタノール、テトラリン、イソホロン、フェニルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテル等のエチレングリコールモノアルキルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のジエチレングリコールモノアルキルエーテル、トリエチレングリコールモノアルキルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル等のプロピレングリコールモノアルキルエーテル、マロン酸ジエチル等のマロン酸ジアルキル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等のジプロピレングリコールモノアルキルエーテル、これらのアセテート類等のエステル化合物、ジイソブチルケトンなどのケトン化合物が挙げられる。
【0125】
これらの中で、前記溶剤は、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルイミダゾリジノン、γ-ブチロラクトン、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、およびジイソブチルケトンが特に好ましい。
【0126】
本発明の液晶配向剤中のポリアミック酸の濃度は0.1~40重量%であることが好ましい。この配向剤を基板に塗布するときには、膜厚の調整のために、含有されているポリアミック酸を予め溶剤により希釈する操作が必要とされることがある。
【0127】
本発明の液晶配向剤における固形分濃度は特に限定されるものではなく、下記の種々の塗布法に合わせ最適な値を選べばよい。通常、塗布時のムラやピンホール等を抑えるため、ワニス重量に対し、好ましくは0.1~30重量%、より好ましくは1~10重量%である。
【0128】
本発明の液晶配向剤の粘度は、塗布する方法、ポリアミック酸またはその誘導体の濃度、使用するポリアミック酸またはその誘導体の種類、溶剤の種類と割合によって好ましい範囲が異なる。例えば、印刷機による塗布の場合、5~100mPa・sの範囲であると、十分な膜厚が得られ、印刷ムラが大きくなることを防ぐことができるため好ましく、10~80mPa・sであることがより好ましい。スピンコートによる塗布の場合は5~200mPa・s(より好ましくは10~100mPa・s)が適している。インクジェット塗布装置を用いて塗布する場合は5~50mPa・s(より好ましくは5~20mPa・s)が適している。液晶配向剤の粘度は回転粘度測定法により測定され、例えば回転粘度計(東機産業製TVE-20L型)を用いて測定(測定温度:25℃)される。
【0129】
<液晶配向膜>
本発明の液晶配向膜について詳細に説明する。本発明の液晶配向膜は、前述した本発明の液晶配向剤の塗膜を加熱することによって形成される膜である。
【0130】
塗膜は、通常の液晶配向膜の作製と同様に、液晶表示素子における基板に本発明の液晶配向剤を塗布することによって形成することができる。基板には、ITO(IndiumTinOxide)、IZO(In2O3-ZnO)、IGZO(In-Ga-ZnO4)電極等の電極やカラーフィルタ等が設けられていてもよいガラス製、窒化ケイ素製、アクリル製、ポリカーボネート製、ポリイミド製等の基板が挙げられる。
【0131】
液晶配向剤を基板に塗布する方法としてはスピンナー法、印刷法、ディッピング法、滴下法、インクジェット法等が一般に知られている。これらの方法は本発明においても同様に適用可能である。
【0132】
前記加熱乾燥工程は、オーブンまたは赤外炉の中で加熱処理する方法、ホットプレート上で加熱処理する方法等が一般に知られている。加熱乾燥工程は溶剤の蒸発が可能な範囲内の温度で実施することが好ましく、加熱焼成工程における温度に対して比較的低い温度で実施することがより好ましい。具体的には加熱乾燥温度は30℃~150℃の範囲であること、さらには50℃~120℃の範囲であることが好ましい。
【0133】
前記加熱焼成工程は、前記ポリアミック酸またはその誘導体が脱水・閉環反応を呈するのに必要な条件で行うことができる。前記塗膜の焼成は、オーブンまたは赤外炉の中で加熱処理する方法、ホットプレート上で加熱処理する方法等が一般に知られている。これらの方法も本発明において同様に適用可能である。一般に100~300℃程度の温度で1分間~3時間行うことが好ましく、120~280℃がより好ましく、150~250℃がさらに好ましい。また、異なる温度で複数回加熱焼成することができる。異なる温度に設定された複数の加熱装置を用いてもよいし、1台の加熱装置を用いて、異なる温度に順次変化させながら行ってもよい。異なる温度で2回加熱焼成を行う場合、1回目は90~180℃、2回目は185℃以上の温度で行うのが好ましい。また、低温度から高温へと温度を変化させて焼成することができる。温度を変化させて焼成を行なう場合、初期温度は90~180℃が好ましい。最終温度は185~300℃が好ましく、190~230℃がより好ましい。
【0134】
本発明の液晶配向膜の形成方法において、液晶を水平および/または垂直方向に対して一方向に配向させるために、液晶配向膜へ異方性を付与する手段として、光配向法など公知の形成方法を好適に用いることができる。
【0135】
光配向法による本発明の液晶配向膜の形成方法について、詳細に説明する。光配向法を用いた本発明の液晶配向膜は、塗膜を加熱乾燥した後、放射線の直線偏光または無偏光を照射することにより、塗膜に異方性を付与し、その膜を加熱焼成することにより形成することができる。または、塗膜を加熱乾燥し、加熱焼成した後に、放射線の直線偏光または無偏光を照射することにより形成する事ができる。
【0136】
さらに、液晶配向膜の液晶配向能を上げるために、塗膜を加熱しながら放射線の直線偏光または無偏光を照射することもできる。放射線の照射は、塗膜を加熱乾燥する工程、または加熱焼成する工程で行ってもよく、加熱乾燥工程と加熱焼成工程の間に行ってもよい。該工程における加熱乾燥温度は、30℃~150℃の範囲であること、さらには50℃~120℃の範囲であることが好ましい。また該工程における加熱焼成温度は、30℃~300℃の範囲であること、さらには50℃~250℃の範囲であることが好ましい。
【0137】
放射線としては、例えば150~800nmの波長の光を含む紫外線または可視光を用いることができるが、250~400nmの光を含む紫外線が好ましい。また、直線偏光または無偏光を用いることができる。これらの光は、前記塗膜に液晶配向能を付与することができる光であれば特に限定されないが、液晶に対して強い配向規制力を発現させたい場合、直線偏光が好ましい。
【0138】
本発明の液晶配向膜は、低エネルギーの光照射でも高い液晶配向能を示すことができる。前記放射線照射工程における直線偏光の照射量は0.05~20J/cm2であることが好ましく、0.5~10J/cm2がより好ましい。また直線偏光の波長は200~400nmであることが好ましく、250~400nmであることがより好ましい。直線偏光の膜表面に対する照射角度は特に限定されないが、液晶に対する強い配向規制力を発現させたい場合、膜表面に対してなるべく垂直であることが配向処理時間短縮の観点から好ましい。また、本発明の液晶配向膜は、直線偏光を照射することにより、直線偏光の偏光方向に対して垂直な方向に液晶を配向させることができる。
【0139】
放射線の直線偏光または無偏光を照射する工程に使用する光源には、超高圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、Deep UVランプ、ハロゲンランプ、メタルハライドランプ、ハイパワーメタルハライドランプ、キセノンランプ、水銀キセノンランプ、エキシマランプ、KrFエキシマレーザー、蛍光ランプ、LEDランプ、ナトリウムランプ、マイクロウェーブ励起無電極ランプ、などを制限なく用いることができる。
【0140】
本発明の液晶配向膜は、前述した工程以外の他の工程をさらに含む方法によって好適に得られる。例えば、本発明の液晶配向膜は焼成後の膜を洗浄液で洗浄する工程は必須としないが、他の工程の都合で洗浄工程を設けることができる。
【0141】
洗浄液による洗浄方法としては、ブラッシング、ジェットスプレー、蒸気洗浄または超音波洗浄等が挙げられる。これらの方法は単独で行ってもよいし、併用してもよい。洗浄液としては純水または、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等の各種アルコール類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、塩化メチレン等のハロゲン系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類を用いることができるが、これらに限定されるものではない。もちろん、これらの洗浄液は十分に精製された不純物の少ないものが用いられる。このような洗浄方法は、本発明の液晶配向膜の形成における前記洗浄工程にも適用することができる。
【0142】
本発明の液晶配向膜の液晶配向能を高めるために、加熱焼成工程の前後に、熱や光によるアニール処理を用いることができる。該アニール処理において、アニール温度が30~180℃、好ましくは50~150℃であり、時間は1分~2時間が好ましい。また、アニール処理に使用するアニール光には、UVランプ、蛍光ランプ、LEDランプなどが挙げられる。光の照射量は0.3~10J/cm2であることが好ましい。
【0143】
本発明の液晶配向膜の膜厚は、特に限定されないが、10~300nmであることが好ましく、30~150nmであることがより好ましい。本発明の液晶配向膜の膜厚は、段差計やエリプソメータ等の公知の膜厚測定装置によって測定することができる。
【0144】
本発明の液晶配向膜は特に大きな配向の異方性を持つことを特徴とする。このような異方性の大きさは特開2005-275364等に記載の偏光IRを用いた方法で評価する事ができる。また以下に示すようにエリプソメトリーを用いた方法によっても評価することができる。詳しくは、分光エリプソメータによって液晶配向膜のリタデーション値を測定することができる。膜のリタデーション値はポリマー主鎖の配向度に比例して大きくなる。すなわち、大きなリタデーション値を持つものは、大きな配向度を持ち、液晶配向膜として使用した場合、より大きな異方性を持つ配向膜が液晶組成物に対し大きな配向規制力を持つと考えられる。
【0145】
本発明の液晶配向膜は横電界方式の液晶表示素子に好適に用いることができる。横電界方式の液晶表示素子に用いる場合、Pt角が小さいほど、また液晶配向能が高いほど暗状態での黒表示レベルは高くなり、コントラストが向上する。Pt角は1.5°以下が好ましく、1.2°以下がよりより好ましく、0°がさらに好ましい。
【0146】
本発明の液晶配向膜は、スマートフォン、タブレット、車載モニター、テレビ等、液晶ディスプレイ用の液晶組成物の配向制御に用いることができる。液晶ディスプレイ用の液晶組成物の配向用途以外に、光学補償材やその他すべての液晶材料の配向制御に用いることができる。また本発明の配向膜は大きな異方性を有するので、単独で光学補償材用途に使用することができる。
【0147】
<液晶表示素子>
本発明の液晶表示素子について詳細に説明する。本発明は、対向配置されている一対の基板と、前記一対の基板それぞれの対向している面の一方または両方に形成されている電極と、前記一対の基板それぞれの対向している面に形成された液晶配向膜と、前記一対の基板間に形成された液晶層とを有する液晶表示素子において、前記液晶配向膜が本発明の液晶配向膜である液晶表示素子を提供する。
【0148】
前記電極は、基板の一面に形成される電極であれば特に限定されない。このような電極には、例えばITOや金属の蒸着膜等が挙げられる。また電極は、基板の一方の面の全面に形成されていてもよいし、例えばパターン化されている所望の形状に形成されていてもよい。電極の前記所望の形状には、例えば櫛型またはジグザグ構造等が挙げられる。電極は、一対の基板のうちの一方の基板に形成されていてもよいし、両方の基板に形成されていてもよい。電極の形成の形態は液晶表示素子の種類に応じて異なり、例えばIPS型液晶表示素子の場合は前記一対の基板の一方に電極が配置され、その他の液晶表示素子の場合は前記一対の基板の双方に電極が配置される。前記基板または電極の上に前記液晶配向膜が形成される。
【0149】
前記液晶層は、液晶配向膜が形成された面が対向している前記一対の基板によって液晶組成物が挟持される形で形成される。液晶層の形成では、微粒子や樹脂シート等の、前記一対の基板の間に介在して適当な間隔を形成するスペーサを必要に応じて用いることができる。
【0150】
液晶層の形成方法としては、例えば、真空注入法やODF(One Drop Fill)法を用いることができる。基板の張り合わせに用いられるシール剤としては、例えば、UV硬化型や熱硬化型のシール剤を用いることができる。シール剤の印刷には、例えば、スクリーン印刷法を用いることができる。
【0151】
液晶組成物には、特に制限はなく、誘電率異方性が正または負の各種の液晶組成物を用いることができる。誘電率異方性が正の好ましい液晶組成物には、特許3086228、特許2635435、特表平5-501735、特開平8-157826、特開平8-231960、特開平9-241644(EP885272A1)、特開平9-302346(EP806466A1)、特開平8-199168(EP722998A1)、特開平9-235552、特開平9-255956、特開平9-241643(EP885271A1)、特開平10-204016(EP844229A1)、特開平10-204436、特開平10-231482、特開2000-087040、特開2001-48822等に開示されている液晶組成物が挙げられる。
【0152】
前記負の誘電率異方性を有する液晶組成物の好ましい例として、特開昭57-114532、特開平2-4725、特開平4-224885、特開平8-40953、特開平8-104869、特開平10-168076、特開平10-168453、特開平10-236989、特開平10-236990、特開平10-236992、特開平10-236993、特開平10-236994、特開平10-237000、特開平10-237004、特開平10-237024、特開平10-237035、特開平10-237075、特開平10-237076、特開平10-237448(EP967261A1)、特開平10-287874、特開平10-287875、特開平10-291945、特開平11-029581、特開平11-080049、特開2000-256307、特開2001-019965、特開2001-072626、特開2001-192657、特開2010-037428、国際公開2011/024666、国際公開2010/072370、特表2010-537010、特開2012-077201、特開2009-084362等に開示されている液晶組成物が挙げられる。誘電率異方性が正または負の液晶組成物に1種以上の光学活性化合物を添加して使用することも、何ら差し支えない。
【0153】
また例えば、本発明の液晶表示素子に用いる液晶組成物は、例えば配向性を向上させる観点から、添加物をさらに添加してもよい。このような添加物は、光重合性モノマー、光学活性な化合物、酸化防止剤、紫外線吸収剤、色素、消泡剤、重合開始剤、重合禁止剤などである。好ましい光重合性モノマー、光学活性な化合物、酸化防止剤、紫外線吸収剤、色素、消泡剤、重合開始剤、重合禁止剤には、国際公開2015/146330等に開示されている化合物が挙げられる。
【0154】
PSA(polymer sustained alignment)モードの液晶表示素子に適合させるために重合可能な化合物を液晶組成物に混合することができる。重合可能な化合物の好ましい例はアクリレート、メタクリレート、ビニル化合物、ビニルオキシ化合物、プロペニルエーテル、エポキシ化合物(オキシラン、オキセタン)、ビニルケトンなどの重合可能な基を有する化合物である。好ましい化合物には、国際公開2015/146330等に開示されている化合物が挙げられる。
【実施例】
【0155】
以下、本発明を実施例により説明する。なお、実施例において用いる評価法および化合物は次の通りである。
【0156】
1.重量平均分子量(Mw)
ポリアミック酸の重量平均分子量は、2695セパレーションモジュール・2414示差屈折計(Waters製)を用いてGPC法により測定し、ポリスチレン換算することにより求めた。得られたポリアミック酸をリン酸-DMF混合溶液(リン酸/DMF=0.6/100:重量比)で、ポリアミック酸濃度が約2重量%になるように希釈した。カラムはHSPgel RT MB-M(Waters製)を使用し、前記混合溶液を展開剤として、カラム温度50℃、流速0.40mL/minの条件で測定を行った。標準ポリスチレンは東ソー(株)製TSK標準ポリスチレンを用いた。
2.液晶配向性(流動配向の有無を目視)
液晶セルに液晶組成物を注入した直後、クロスニコルに配置した2枚の偏光板に挟んで目視により観察した際、液晶が注入口から流動した方向に沿って並ぶ現象を流動配向と呼ぶ。流動配向は液晶配向膜の液晶配向性の指標であり、流動配向が発生しない液晶配向膜は良好な液晶配向性を持つ。
3.シール密着性
後述するシール密着性測定用サンプルを島津製作所製の卓上形精密万能試験機AGS-X 500Nに上下基板の端を固定し、基板中央の上部から押し込みを行い、剥離する際の圧力(N)を測定した。そして、計測したシール剤の直径より見積もった面積(cm2)で圧力(N)を規格化した値を用いてシール密着性を評価した。70N/cm2以上だとシール密着性良好といえる。
4.DC残像評価
30Hz、3Vの矩形波を10分間印加した後、0.3Vの直流電圧を20分間重畳した。直流電圧を0Vにした後、再び3Vの矩形波を20分間印加した。直流電圧重畳時の電荷の吸収が早いほど、非対称なAC駆動となった場合の残留DCが小さく、DC残像が発生しにくいことから、直流電圧を重畳してから20分経過するまでにフリッカー消去電圧が0.15V以下となった場合はDC残像が「○」、0.1V以下となった場合はDC残像が「◎」と定義して評価した。直流電圧を重畳してから20分経過するまでにフリッカー消去電圧が0.15V以下とならなかった場合は、DC残像が「×」と定義して評価した。
【0157】
<テトラカルボン酸二無水物>
【化44】
上記式中、Bocはt-ブトキシカルボニルを表す。
【0158】
【0159】
【0160】
【0161】
【化49】
上記式中、Bocはt-ブトキシカルボニルを表す。
【0162】
【0163】
<溶剤>
NMP: N-メチル-2-ピロリドン
BC: ブチルセロソルブ(エチレングリコールモノブチルエーテル)
GBL: γ-ブチロラクトン
【0164】
<添加剤>
添加剤(Ad1): N,N,N’,N’-テトラグリシジル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン
添加剤(Ad2): 1,3-ビス(4,5-ジヒドロ-2-オキサゾリル)ベンゼン
添加剤(Ad3): 2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン
【0165】
[ワニスの調製]
本実施例で使用したワニスは、下記の手順で調製した。ここで、ワニスの調製例1~9で調製したワニスは、式(1)の構造を有するテトラカルボン酸二無水物を原料の1つに用いて反応させて得られたポリアミック酸の溶液(液晶配向剤)である。ブレンド用ワニスの調製例1~4で調製したブレンド用ワニスは、式(1)の構造を有するテトラカルボン酸二無水物を原料に用いないで得られたポリアミック酸の溶液(液晶配向剤)であり、ワニス1~11にブレンドして使用するものである。
【0166】
[ワニスの調製例1] ワニス1の調製
攪拌翼、窒素導入管を装着した100mL3つ口フラスコに、式(V-2-1)で表される化合物0.431g、式(b-1-3)(m=4)で表される化合物1.221g、および式(b-1-2)で表される化合物0.329gを入れ、N-メチル-2-ピロリドンを34.0g加えた。その溶液を氷浴で5℃まで冷却した後、式(1-1-1)で表される化合物0.716gおよび式(a-2-6)(m=8)で表される化合物3.302gを加え、12時間室温で攪拌させた。そこにγ-ブチロラクトン30.0gおよびブチルセロソルブ30.0gを加え、溶質のポリマーの重量平均分子量が所望する重量平均分子量になるまで、その溶液を60℃で加熱攪拌して、溶質の重量平均分子量がおよそ45,000であり、樹脂分濃度が6重量%であるワニス1を得た。
【0167】
[ワニスの調製例6] ワニス6の調製
攪拌翼、窒素導入管を装着した100mL3つ口フラスコに、式(b-1-5)(m=2)で表される化合物2.300gを入れ、塩基としてピリジン1.6ml、溶媒としてN-メチル-2-ピロリドン22.4mlを加えて溶解させた。この溶液を氷浴で5℃まで冷却した後、式(1-1-6)で表される化合物0.260gおよび式(PA-6)(R11=CH3)で表される化合物2.715gを加え、水冷しながら12時間攪拌した。この溶液を60gの水に注いでポリマーを析出させ、吸引ろ過によりポリマーをろ取し、再度水60gで洗浄した後メタノール60gにて3回洗浄し、40℃で減圧乾燥することで、ポリアミック酸エステル粉末4.200g得た。このポリマーの重量平均分子量は60,000であった。得られたポリマーをNMP/GBL/BC=34/30/30(重量比)の混合溶剤に溶解させ、樹脂分濃度が6重量%であるワニス6を得た。
【0168】
[ワニスの調製例2~5、7~11] ワニス2~5、7~11の調製
ジアミンおよびテトラカルボン酸二無水物として用いる化合物を、表1に示すように変更したこと以外は、調製例1と同様にして樹脂分濃度が6重量%のワニス2~5、7、8、および10を調製した。また、調製例6と同様にして、樹脂分濃度が6重量%のワニス9および11を調製した。このとき、ポリマーの合成条件は、重量平均分子量が35,000から60,000の範囲になるように調整した。生成したポリマーの重量平均分子量を表1に示す。なお、表1において、ジアミンとして2以上の化合物が掲載されている調製例では、その全ての化合物を合わせてジアミンとして使用したことを意味し、テトラカルボン酸二無水物として2以上の化合物が掲載されている調製例では、その全ての化合物を合わせてテトラカルボン酸二無水物として使用したことを意味する。角括弧内の数値は、配合比(モル%)を表し、「-」はその欄に対応する化合物を使用していないことを意味する。表2においても、同様である。
【0169】
[ブレンド用ワニスの調製例1~4] ブレンド用ワニス1~4の調製
ジアミンおよびテトラカルボン酸二無水物として用いる化合物と配合比を、表2に示すように変更したこと以外は、調製例1と同様にして樹脂分濃度が6重量%であるブレンド用ワニス1~4を調製した。生成したポリマー成分の重量平均分子量を表2に示す。
【0170】
【0171】
【0172】
[液晶配向膜の製造]
各調製例で調製したワニス1~11、ブレンド用ワニス1~4を使用して、下記の手順で液晶配向剤(液晶配向剤1~9、比較配向剤1および2)を調製し、その液晶配向剤を用いて液晶配向膜を製造した。
【0173】
[実施例1] 液晶配向剤1の調製、液晶配向膜1の製造、残留DC測定用セルの作製、残留DC測定、およびセルの観察(流動配向の有無の確認)
攪拌翼、窒素導入管を装着した50mLのナスフラスコに、ワニス1(10.0g)を秤取って投入し、そこにN-メチル-2-ピロリドン(7.0g)、ブチルセロソルブ(3.0g)を加え、室温で1時間攪拌して樹脂分濃度3重量%の液晶配向剤1を得た。この液晶配向剤1をIPS電極付きガラス基板およびカラムスペーサー付きガラス基板にスピンナー法により塗布した(2,000rpm、15秒)。塗布後、基板を80℃で3分間加熱し、溶剤を蒸発させた後、ウシオ電機(株)製マルチライトML-501C/Bを用い、基板に対して鉛直方向から、偏光板を介して紫外線の直線偏光を照射した。この時の露光エネルギーは、ウシオ電機(株)製紫外線積算光量計UIT-150(受光器:UVD-S365)を用いて光量を測定し、波長365nmで0.8±0.1J/cm2になるよう、露光時間を調整した。230℃にて20分間焼成処理を行い、膜厚およそ100nmの膜を形成した。次いで、これらの液晶配向膜が形成された基板2枚を、液晶配向膜が形成されている面を対向させ、かつ、対向する液晶配向膜の間に液晶組成物を注入するための空隙を設けて貼り合わせた。この時、それぞれの液晶配向膜に照射された直線偏光の偏光方向が平行になるようにした。これらのセルにネガ型液晶組成物Aを注入し、セル厚7μmの液晶セル(液晶表示素子)を作製した。
【0174】
<ネガ型液晶組成物A>
【化51】
物性値:NI 75.7℃; Δε -4.1; Δn 0.101; η 14.5mPa・s.
【0175】
この液晶セルの流動配向を確認したところ、観察されなかった。また、DC残像特性は○であった。
【0176】
[実施例2]
攪拌翼、窒素導入管を装着した50mLのナスフラスコに、ワニス2(3.0g)と、ブレンド用ワニス1(7.0g)をそれぞれ秤取って投入し、そこにN-メチル-2-ピロリドン(7.0g)およびブチルセロソルブ(3.0g)を加え、室温で1時間攪拌して樹脂分濃度3重量%の液晶配向剤2を得た。この液晶配向剤2を液晶配向剤1の代わりに用い、実施例1と同様にして液晶セルを作製し、流動配向の観察およびDC残像の測定を行った。
【0177】
[実施例3][比較例1]
実施例3においては、ワニス2の代わりにワニス3、ブレンド用ワニス1の代わりにブレンド用ワニス2を用いて、実施例2と同様にして液晶配向剤3を得た。実施例1と同様にして液晶セルを作製し、流動配向の観察およびDC残像の測定を行った。また、比較例1においては、ワニス2の代わりにワニス10、ブレンド用ワニス1の代わりにブレンド用ワニス2を用いて、実施例2と同様にして比較配向剤1を得た。実施例1と同様にして液晶セルを作製し、流動配向の観察およびDC残像の測定を行った。
【0178】
[実施例4]
攪拌翼、窒素導入管を装着した50mLのナスフラスコに、ワニス4(10.0g)を秤取って投入し、そこにN-メチル-2-ピロリドン(7.0g)、ブチルセロソルブ(3.0g)を加え、室温で1時間攪拌して樹脂分濃度3重量%の液晶配向剤1を得た。この液晶配向剤1をIPS電極付きガラス基板およびカラムスペーサー付きガラス基板にスピンナー法により塗布した(2,000rpm、15秒)。塗布後、基板を80℃で3分間加熱し、溶剤を蒸発させた後、230℃にて20分間焼成処理を行い、膜厚およそ100nmの膜を形成した。次いで、ウシオ電機(株)製マルチライトML-501C/Bを用い、基板に対して鉛直方向から、偏光板を介して紫外線の直線偏光を照射した。この時の露光エネルギーは、ウシオ電機(株)製紫外線積算光量計UIT-150(受光器:UVD-S365)を用いて光量を測定し、波長254nmで0.8±0.1J/cm2になるよう、露光時間を調整した。次いで、これらの液晶配向膜が形成された基板2枚を、液晶配向膜が形成されている面を対向させ、かつ、対向する液晶配向膜の間に液晶組成物を注入するための空隙を設けて貼り合わせた。この時、それぞれの液晶配向膜に照射された直線偏光の偏光方向が平行になるようにした。これらのセルにネガ型液晶組成物Aを注入し、セル厚7μmの液晶セル(液晶表示素子)を作製した。
【0179】
[実施例5]
攪拌翼、窒素導入管を装着した50mLのナスフラスコに、ワニス5(3.0g)と、ブレンド用ワニス2(7.0g)をそれぞれ秤取って投入し、そこにN-メチル-2-ピロリドン(7.0g)およびブチルセロソルブ(3.0g)を加え、室温で1時間攪拌して樹脂分濃度3重量%の液晶配向剤5を得た。この液晶配向剤5を液晶配向剤4の代わりに用い、実施例4と同様にして液晶セルを作製し、流動配向の観察およびDC残像の測定を行った。
【0180】
[実施例6~9][比較例2]
用いるワニスを変更した以外は、実施例5と同様にして液晶配向剤を製造し、液晶セルを作製し、流動配向の観察およびDC残像の測定を行った。用いたワニスおよび測定結果を実施例1~5と併せて表4に示す。
【表3】
【0181】
実施例1~9において、流動配向は確認されず液晶配向性は良好であった。また、DC残像も○または◎であり、良好であった。一方、比較例1および比較例2において、流動配向は確認されなかったが、DC残像は×であり、残像特性は良好とはいえなかった。
【0182】
[実施例10] シール密着性評価セルの作製および評価
実施例1において液晶配向剤1を用いて作製した基板を2枚用意し、一方の基板の液晶配向膜面上に4μmビーズスペーサーを散布した後、シール剤(協立化学製XN-1500T)を滴下した。次いで、他方の基板の液晶配向膜面を内側にし、基板の重なり幅が1cmになるように、貼り合わせを行った。その際、貼り合わせ後のシール剤の直径が約3mmとなるようにシール剤滴下量を調整した。貼り合わせた2枚の基板をクリップにて固定した後、120℃で1時間熱硬化させて、シール密着性評価用のサンプルを作製した。上述の測定法を用いて、シール密着性の評価を行った。
【0183】
[実施例11~18][比較例3および4]
実施例2~9、比較例1および2において用いた液晶配向剤で作製した基板に変更した以外は、実施例10に準拠して、シール密着性評価用サンプルを作製し、シール密着性の評価を行った。測定結果を実施例10と併せて表4に示す。
【0184】
【0185】
実施例10~18において、シール密着性は70N/cm2以上を示し、液晶配向剤1~9は高いシール密着性を有することが分かった。一方、比較例3および4においては、シール密着性は70N/cm2を達成できず、比較配向剤1および2はシール密着性が弱いことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0186】
本発明の液晶配向剤を使用すれば、シールとの密着性が高く、液晶配向性が高い液晶配向膜を形成することができ、残像特性が良好な液晶表示素子を与えることができる。本発明の液晶配向剤は横電界型液晶表示素子に好適に適用することができる。