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  • 特許-樹脂成形品及び樹脂成形品の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】樹脂成形品及び樹脂成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/14 20060101AFI20220809BHJP
   B32B 5/18 20060101ALI20220809BHJP
   B29C 45/56 20060101ALI20220809BHJP
   B29C 33/42 20060101ALI20220809BHJP
   B29C 70/06 20060101ALI20220809BHJP
【FI】
B29C45/14
B32B5/18 101
B29C45/56
B29C33/42
B29C70/06
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019060079
(22)【出願日】2019-03-27
(65)【公開番号】P2020157622
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-06-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 倫之
(72)【発明者】
【氏名】舛澤 勇
(72)【発明者】
【氏名】津田 義博
【審査官】今井 拓也
(56)【参考文献】
【文献】独国特許出願公開第102014113227(DE,A1)
【文献】独国特許出願公開第102011120903(DE,A1)
【文献】独国特許出願公開第102015208945(DE,A1)
【文献】独国特許出願公開第102015208946(DE,A1)
【文献】特開2017-077637(JP,A)
【文献】特開2011-189731(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00 - 45/84
B29C 33/00 - 33/76
B29C 70/00 - 70/88
B32B 5/18
B32B 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の樹脂を含む本体と、前記本体の表面の少なくとも一部に配置され、繊維及び第1の樹脂と異なる第2の樹脂を含む機能層と、前記機能層の上に配置される突出部と、を備え、前記突出部は第1の樹脂と第2の樹脂とを含む、樹脂成形品。
【請求項2】
第1の樹脂及び第2の樹脂が熱可塑性樹脂である、請求項1に記載の樹脂成形品。
【請求項3】
第2の樹脂の溶融温度が第1の樹脂の溶融温度以下である、請求項1又は請求項2に記載の樹脂成形品。
【請求項4】
請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の樹脂成形品の製造方法であって、
樹脂成形品の突出部に対応する凹部を備える金型内に繊維及び第2の樹脂を含む機能層を配置する工程と、前記金型内に溶融した状態の第1の樹脂を供給する工程と、を備え、第2の樹脂の溶融温度は第1の樹脂の溶融温度以下である、樹脂成形品の製造方法。
【請求項5】
前記機能層に含まれる第2の樹脂の一部が前記金型に供給された第1の樹脂との接触により溶融する、請求項4に記載の樹脂成形品の製造方法。
【請求項6】
前記金型内に第1の樹脂を供給する工程の後に、第1の樹脂を加圧する工程をさらに備える、請求項4又は請求項5に記載の樹脂成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂成形品及び樹脂成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車、ハイブリッド自動車等の電気を動力とする車両には、車体の床面に複数のバッテリーが搭載されている。これらのバッテリーはケーブルで電気的に接続され、バッテリーケース内に収容された状態で車体に取り付けられている。バッテリーケースとしては、金属製のもののほか、バッテリーから発生する電磁波を遮蔽しながら車両の軽量化、燃費効率の向上、耐腐食性等を達成するために樹脂製のものが検討されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
樹脂製のバッテリーケースは一般に、補強のための突出部が本体に設けられている。また、バッテリーから発生する電磁波を遮蔽するために電磁波遮蔽シートが表面に設けられている。特許文献1には、電磁波遮蔽シートをバッテリーケース本体の板状部に沿うように配設し、電磁波遮蔽シートの端部を突出部の側面に沿うようにした構成が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-213602号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された構成では、電磁波遮蔽シートを突出部に沿うように確実に配設する為には突出部の内部に保持部材を埋め込んだり、突出部の形状に合わせた電磁波遮蔽シートの賦形、トリミング等を行う必要があり、成形自由度の点で制約が大きい。
本発明は上記事情に鑑み、成形自由度に優れる樹脂成形品及び樹脂成形品の製造方法を提供することを目的とする。
【0006】
上記課題を解決するための手段には、以下の実施態様が含まれる。
<1>第1の樹脂を含む本体と、前記本体の表面の少なくとも一部に配置され、繊維及び第2の樹脂を含む機能層と、前記機能層の上に配置される突出部と、を備え、前記突出部は第1の樹脂と第2の樹脂とを含む、樹脂成形品。
<2>第1の樹脂及び第2の樹脂が熱可塑性樹脂である、<1>に記載の樹脂成形品。
<3>第2の樹脂の溶融温度が第1の樹脂の溶融温度以下である、<1>又は<2>に記載の樹脂成形品。
<4>樹脂成形品の突出部に対応する凹部を備える金型内に繊維及び第2の樹脂を含む機能層を配置する工程と、前記金型内に溶融した状態の第1の樹脂を供給する工程と、を備え、第2の樹脂の溶融温度は第1の樹脂の溶融温度以下である、樹脂成形品の製造方法。
<5>前記機能層に含まれる第2の樹脂の一部が前記金型に供給された第1の樹脂との接触により溶融する、<4>に記載の樹脂成形品の製造方法。
<6>前記金型内に第1の樹脂を供給する工程の後に、第1の樹脂を加圧する工程をさらに備える、<4>又は<5>に記載の樹脂成形品の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様によれば、成形自由度に優れる樹脂成形品及び樹脂成形品の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】樹脂成形品の製造工程の一例を概略的に示す図である。
図2】樹脂成形品の製造工程の一例を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合を除き、必須ではない。数値及びその範囲についても同様であり、本発明を制限するものではない。
本明細書において「工程」との語には、他の工程から独立した工程に加え、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の目的が達成されれば、当該工程も含まれる。
本明細書において「~」を用いて示された数値範囲には、「~」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0010】
<樹脂成形品>
本開示の樹脂成形品は、第1の樹脂を含む本体と、前記本体の表面の少なくとも一部に配置され、繊維及び第2の樹脂を含む機能層と、前記機能層の上に配置される突出部と、を備え、前記突出部は第1の樹脂と第2の樹脂とを含む、樹脂成形品である。
【0011】
本開示の樹脂成形品は、成形自由度に優れている。その理由について、図面を参照しながら説明する。本開示の樹脂成形品は、図面に示す構成に限定されるものではない。
【0012】
図1及び図2は、樹脂成形品の製造工程の一例を概略的に示す断面図である。図1に示す金型10は、樹脂成形品の本体に対応し、溶融した状態の第1の樹脂1が供給される空間と、樹脂成形品の突出部に対応する形状の凹部とを有している。金型10の内部には、繊維及び第2の樹脂を含む機能層2が配置されている。
【0013】
図1に示すように、機能層2のうち突出部の基部に対応する基部領域3は、金型10の表面と接していない。このため、機能層2の基部領域3に含まれる第2の樹脂は金型10により冷却されにくく、第1の樹脂1と接触して溶融する。その結果、機能層2の基部領域3に含まれる繊維間を第1の樹脂1が通過可能な状態になる。
【0014】
次に、図2に示すように、金型10を操作して第1の樹脂1が供給された空間を圧縮する。これにより、加圧された第1の樹脂1の一部が基部領域3の繊維間を通過して金型10の凹部に向けて流動する。また、機能層2の基部領域3に含まれていた第2の樹脂も金型10の凹部に向けて流動する。その結果、金型10の凹部が第1の樹脂及び第2の樹脂で充填されて突出部4が形成される。以上の工程を経て、本開示の樹脂成形品が製造される。
【0015】
本開示の樹脂成形品は、本体を形成する第1の樹脂の溶融物の一部が機能層に含まれる繊維の間を通過して突出部を形成する。このため、機能層の突出部に対応する位置に穴あけ等の加工を施す必要がなく、成形自由度に優れている。また、本開示の樹脂成形品は、本体と突出部とが機能層を介して一体的に形成されている。このため、別工程で作製した突出部を本体に取り付ける方法等に比べ、突出部の強度に優れている。
【0016】
(本体)
樹脂成形品の本体は、第1の樹脂を含む。第1の樹脂の種類は特に制限されない。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリカーボネート等のポリエステル、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、アクリル樹脂などの熱可塑性樹脂が挙げられ、樹脂成形品の用途に応じて選択できる。第1の樹脂は1種の樹脂のみからなっても、2種以上の樹脂の組み合わせであってもよい。
【0017】
第1の樹脂の溶融温度は特に制限されず、樹脂成形品の作製方法等に応じて選択できる。例えば、100℃~300℃の範囲から選択してもよい。
【0018】
必要に応じ、本体は第1の樹脂以外の成分を含んでもよい。第1の樹脂以外の成分としては、無機フィラー、離型剤、難燃剤、着色剤等が挙げられる。
【0019】
樹脂成形体の強度向上、熱膨張率の調整等の観点からは、本体は無機フィラーを含むことが好ましい。無機フィラーとして具体的には、シリカ、アルミナ、タルク、クレー、マイカ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム等が挙げられる。無機フィラーの形状は特に制限されず、繊維状、粉末状、ビーズ状等であってもよい。
【0020】
本体が無機フィラーを含む場合、その量は特に制限されない。無機フィラーの添加による効果と金型内での流動性の観点からは、第1の樹脂100質量部に対して1質量部~50質量部であってもよい。
【0021】
本体の形状は特に制限されず、用途等に応じて選択できる。例えば、板状であってもその他の所望の立体形状であってもよい。
本体は、最も厚みの小さい部分の厚みが1mm以上であってもよく、3mm以上であってもよく、5mm以上であってもよい。
【0022】
(機能層)
機能層は、繊維及び第2の樹脂を含む。第2の樹脂の種類は特に制限されない。例えば、第1の樹脂として例示した樹脂から選択してもよい。第1の樹脂と第2の樹脂とは同じであっても異なっていてもよい。第2の樹脂が第1の樹脂と異なる場合、第1の樹脂と相溶性を持つ樹脂から選択することが好ましい。また、第2の樹脂は1種の樹脂のみからなっても、2種以上の樹脂の組み合わせであってもよい。
【0023】
必要に応じ、機能層は、繊維及び第2の樹脂以外の成分を含んでもよい。繊維及び第2の樹脂以外の成分としては、無機フィラー、離型剤、難燃剤、着色剤等が挙げられる。
【0024】
第2の樹脂の溶融温度は特に制限されず、樹脂成形品の作製方法等に応じて選択できる。例えば、第1の樹脂と同じ範囲から選択してもよい。ただし、第2の樹脂は第1の樹脂との接触により溶融する必要があるため、第2の樹脂の溶融温度は第1の樹脂の溶融温度以下となるように選択される。
【0025】
機能層に含まれる繊維は無機繊維であっても有機繊維であってもよく、用途に応じて選択できる。無機繊維としてはカーボン、ガラス、セラミックス等の繊維が挙げられる。有機繊維としてはアラミド、セルロース等の繊維が挙げられる。機能層に含まれる繊維は、1種のみでも2種以上の組み合わせであってもよい。また、機能層に含まれる繊維は、単繊維(フィラメント)の状態であって繊維束(ストランド)の状態であってもよい。
【0026】
機能層に含まれる繊維の割合は、特に制限されない。例えば、機能層全体に占める繊維の割合が50質量%~85質量%であってもよい。
【0027】
機能層に含まれる繊維の配置の状態は、第1の樹脂の溶融物が通過可能な状態であれば特に制限されない。繊維の配置の状態としては、1方向に配向した状態、直交する2方向に配向した状態(クロス)、特定の方向に配向せずランダムに配置された状態等が挙げられる。例えば、機能層に含まれる繊維間の領域(樹脂で含浸されている領域)の大きさを調節することで、機能層を第1の樹脂の溶融物が通過可能な状態にすることができる。
【0028】
機能層の厚さは、第1の樹脂の溶融物が通過可能な厚さであれば特に制限されない。例えば、2000μm以下であってもよく、1000μm以下であってもよく、500μm以下であってもよい。機能層を配置することによる効果を充分に得る観点からは、機能層の厚さは10μm以上であってもよい。機能層の厚さは一定であっても一定でなくてもよい。機能層の厚さが一定でない場合、少なくとも突出部に対応する領域における厚さを第1の樹脂の溶融物が通過可能な厚さから選択する。
【0029】
機能層が樹脂成形品に付与する機能は、特に制限されない。例えば、補強、電磁波遮蔽、断熱、帯電防止、装飾等の機能であってもよい。
【0030】
(突出部)
突出部は、第1の樹脂と第2の樹脂とを含む。すなわち、図1を参照して説明したように、樹脂成形品の作製工程において金型に供給される第1の樹脂のうち突出部に対応する凹部を充填するものと、機能層に含まれる第2の樹脂のうち第1の樹脂との接触により溶融し、突出部に対応する凹部を充填するものと、を含む。
なお、第1の樹脂及び第2の樹脂と同じ樹脂を用いて別工程で作製した後に機能層の上に取り付けられる突出部は、本開示における突出部には該当しないものとする。
【0031】
突出部が第1の樹脂と第2の樹脂とを含むか否かは、公知の手法により確認することができる。例えば、樹脂成形品の本体、機能層及び突出部に含まれる成分を分析した結果、突出部に本体(第1の樹脂)及び機能層(第2の樹脂)と共通する成分がそれぞれ含まれている場合、突出部が第1の樹脂と第2の樹脂とを含むと判断することができる。
【0032】
必要に応じ、突出部は第1の樹脂及び第2の樹脂以外の成分を含んでもよい。第1の樹脂及び第2の樹脂以外の成分としては、無機フィラー、離型剤、難燃剤、着色剤等が挙げられる。
【0033】
突出部の高さ(機能層からの立ち上がり部分の高さ)は特に制限されず、所望の機能等に応じて選択できる。例えば、機能層からの高さは0.5mm以上であってもよく、100mm以下であってもよい。
突出部の厚み(機能層からの立ち上がり部分の厚み)は特に制限されず、所望の機能等に応じて選択できる。例えば、機能層の厚みは0.5mm以上であってもよく、100mm以下であってもよい。
突出部の形状は特に制限されず、所望の機能等に応じて選択できる。例えば、板状、円筒状、円柱状その他の所望の立体形状であってもよい。突出部は、樹脂成形品に設けられるいわゆるリブ、ボス、クリップ等であってもよい。
突出部の形状は、厚みと高さの比(厚み/高さ)が1.0以下となる条件を満たす形状であってもよい。
【0034】
<樹脂成形品の製造方法>
本開示の樹脂成形品の製造方法は、樹脂成形品の突出部に対応する凹部を備える金型内に繊維及び第2の樹脂を含む機能層を配置する工程と、前記金型内に溶融した状態の第1の樹脂を供給する工程と、を備え、第2の樹脂の溶融温度は第1の樹脂の溶融温度以下である、樹脂成形品の製造方法である。
【0035】
上記方法では、機能層に含まれる第2の樹脂の溶融温度が第1の樹脂の溶融温度以下である。このため、機能層に含まれる第2の樹脂の一部(図1に示す基部領域に含まれる第2の樹脂)が第1の樹脂の溶融物と接触して溶融する。これにより、第1の樹脂の溶融物が機能層の繊維の間を通過可能な状態になり、第1の樹脂の溶融物が金型の突出部に対応する凹部に向けて流動する。第2の樹脂の溶融物もまた、第1の樹脂の溶融物とともに突出部に対応する凹部に向けて流動する。
【0036】
第1の樹脂(及び第1の樹脂に接触して溶融した第2の樹脂)を金型の突出部に対応する凹部に効率よく流動させる観点からは、上記方法は、金型内に第1の樹脂を供給した後に、第1の樹脂を加圧する工程をさらに備えてもよい。第1の樹脂を加圧する方法は特に制限されない。例えば、第1の樹脂を供給した後に金型を操作して金型内の空間を圧縮する方法(射出圧縮成形法)により行ってもよい。
【0037】
上記方法で製造される樹脂成形品は、上述した樹脂成形品の条件を満たすものであってもよい。上記方法で製造される樹脂成形品及び材料の詳細及び好ましい態様については、上述した樹脂成形品及び材料の詳細及び好ましい態様を参照することができる。
【符号の説明】
【0038】
1:第1の樹脂、2:機能層、3:基部領域、4:突出部、10:金型
図1
図2