(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】型取り用シリコーンゴム組成物およびシリコーンゴム型
(51)【国際特許分類】
C08L 83/07 20060101AFI20220809BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20220809BHJP
C08K 5/05 20060101ALI20220809BHJP
【FI】
C08L83/07
C08K3/36
C08K5/05
(21)【出願番号】P 2019084875
(22)【出願日】2019-04-26
【審査請求日】2021-04-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】特許業務法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】横須賀 勇太
(72)【発明者】
【氏名】北澤 将利
(72)【発明者】
【氏名】柳沼 篤
【審査官】中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-252404(JP,A)
【文献】特開昭58-059260(JP,A)
【文献】特開平05-339505(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 83/07
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ケイ素原子と結合したアルケニル基を1分子中に少なくとも2個有するオルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)下記平均式(1)
(R
1
3SiO
1/2)
s[R
1
1(H)SiO
2/2]
t(R
1
2SiO
2/2)
u (1)
(式中、R
1は、それぞれ独立して、付加反応性炭素-炭素不飽和結合を有しない非置換または置換の1価炭化水素基を表し、sは、0または2であり、tおよびuは、2≦t、5≦t+u≦800、かつ、0.1≦t/(t+u)≦0.4を満たす数を表す。)
で表される直鎖状または環状のオルガノハイドロジェンポリシロキサン:(A)成分中のケイ素原子と結合したアルケニル基1個あたりの(B)成分中のケイ素原子と結合した水素原子の数が0.5~5.0個となる量
、
(C)ヒドロシリル化反応触媒
、
(D)シリカ:(A)成分100質量部に対して5~100質量部、および
(E)反応制御剤
のみを含有
し、
前記(A)成分が、下記式(3)で表されるオルガノポリシロキサンであり、
ViR
2
2
SiO(R
2
2
SiO)
e
SiR
2
2
Vi (3)
(式中、Viは、ビニル基を意味し、R
2
は、メチル基を表し、eは、50≦e≦2,000を満たす整数である。)
前記(E)成分が、1-エチニルシクロヘキサノール、エチニルメチルデシルカルビノール、および3-メチル-1-ブチン-3-オールから選ばれる1種または2種以上であることを特徴とする型取り用シリコーンゴム組成物。
【請求項2】
(D)シリカを、(A)成分100質量部に対して
20~50質量部含有する請求項1記載の型取り用シリコーンゴム組成物。
【請求項3】
請求項1または2記載の型取り用シリコーンゴム組成物からなるガラス用型取り剤。
【請求項4】
請求項1または2記載の型取り用シリコーンゴム組成物を硬化させてなるシリコーンゴム型。
【請求項5】
請求項4記載のシリコーンゴム型を用いることを特徴とするエポキシ樹脂製複製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、型取り用シリコーンゴム組成物およびシリコーンゴム型に関し、さらに詳述すると、付加硬化型の型取り用シリコーンゴム組成物およびこれが硬化してなるシリコーン型取り母型(いわゆるメス型)に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリコーンゴムは、その優れた耐熱性、耐寒性、電気特性などを生かして、様々な分野で広く利用されており、その離型性の良さから、シリコーンゴム型(母型)として用いられている。
特に、電子機器、事務機、家庭電器、自動車部品などの分野では、商品開発段階や商品見本作製などの際に用いるプロトタイプ成形において、費用や所要期間の改善に効果的であることや、作業性が良好であることなどの点から、シリコーンゴム組成物を用いた型取り材料として付加反応型の液状シリコーンゴム組成物が多用されるようになってきた。
【0003】
付加反応型のシリコーンゴム組成物は、型取り材料として好ましい成形特性を有するが、より複雑な形状や逆勾配で、とりわけ、ガラス製のマスタに対しては離型が困難になる場合がある。
このような問題を解決するために、シリコーンゴム組成物に離型成分を添加し、離型性を向上する手法について様々な検討がなされている。
例えば、非反応性シリコーンオイルを配合する方法(特許文献1)、ジメチルシリコーンオイルを油層とした油中水型エマルジョンを配合する方法(特許文献2)、フェニル基含有ジメチルシリコーンオイルブリード成分を配合する組成物、高級脂肪酸または高級脂肪酸金属塩、分子末端にアルコキシシラン基を有するジメチルシリコーンオイルを配合する方法(特許文献3~5)、水を配合する方法(特許文献6)、ワックスを配合する方法(特許文献7)などが報告されている。
しかし、これらの手法では、シリコーンゴムの架橋に関与しない離型剤を配合するため、シリコーンゴム型の透明性や機械的強度の低下を招き易く、添加した離型剤が滲出して複製品が汚損するため用途によっては適しておらず、また、繰り返し使用による離型剤の枯渇に伴って離型性が悪化するという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭58-225152号公報
【文献】特開2001-098153号公報
【文献】特開2002-188008号公報
【文献】特許第2686903号公報
【文献】特許第5319905号公報
【文献】特開平9-143372号公報
【文献】特開2004-107373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、ガラス製マスタに対する離型性に優れ、繰り返し使用可能なシリコーンゴム型を与える型取り用シリコーンゴム組成物、およびこのシリコーンゴム型を使用したエポキシ樹脂複製品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、液状付加硬化型シリコーンゴム組成物において、オルガノハイドロジェンポリシロキサンの構造がガラス製マスタからの離型性に大きく寄与していることを突き止め、その構造を適正に選択することで機械的強度、およびガラス製マスタからの離型性やエポキシ樹脂などの成形品からの離型性に優れ、複雑かつ逆勾配など、高度な離型性を要する型取り材に適したシリコーンゴム型取り材料となり得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は、
1. (A)ケイ素原子と結合したアルケニル基を1分子中に少なくとも2個有するオルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)下記平均式(1)
(R1
3SiO1/2)s[R1
1(H)SiO2/2]t(R1
2SiO2/2)u (1)
(式中、R1は、それぞれ独立して、付加反応性炭素-炭素不飽和結合を有しない非置換または置換の1価炭化水素基を表し、sは、0または2であり、tおよびuは、2≦t、5≦t+u≦800、かつ、0.1≦t/(t+u)≦0.4を満たす数を表す。)
で表される直鎖状または環状のオルガノハイドロジェンポリシロキサン:(A)成分中のケイ素原子と結合したアルケニル基1個あたりの(B)成分中のケイ素原子と結合した水素原子の数が0.5~5.0個となる量、および
(C)ヒドロシリル化反応触媒
を含有することを特徴とする型取り用シリコーンゴム組成物、
2. (D)シリカを、(A)成分100質量部に対して5~100質量部含有する1の型取り用シリコーンゴム組成物、
3. 1または2の型取り用シリコーンゴム組成物からなるガラス用型取り剤、
4. 1または2の型取り用シリコーンゴム組成物を硬化させなるシリコーンゴム型、
5. 4のシリコーンゴム型を用いることを特徴とするエポキシ樹脂製複製品の製造方法
を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の型取り用シリコーンゴム組成物を硬化して得られるシリコーンゴム型は、ガラス製マスタに対する離型性およびエポキシ樹脂などの成形品からの離型性に優れているため、生産性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例におけるシリコーンゴム型の離型性評価法を示す概略断面図である。
【
図2】実施例におけるシリコーンゴム型を用いたエポキシ樹脂複製回数の評価法を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について具体的に説明する。
なお、本発明において、型取り用シリコーンゴム組成物とは、未硬化状態で流動性を有し、原型の全表面または一部の表面に、注型または塗布のような方法で接触させ、その状態で硬化させて樹脂などによる複製に供する型(型取り用の母型)を形成する未硬化状態の(液状)の組成物をいう。
また、本発明において、離型性とは、硬化した型(母型)の原型からの離型性のみでなく、得られた型(母型)からの複製品の離型性を含める用語として用いる。
【0011】
本発明に係る型取り用シリコーンゴム組成物は、下記(A)~(C)成分を含有するものである。
(A)ケイ素原子と結合したアルケニル基を1分子中に少なくとも2個有するオルガノポリシロキサン
(B)下記平均単位式(1)
(R1
3SiO1/2)s[R1
1(H)SiO2/2]t(R1
2SiO2/2)u (1)
(式中、R1は、それぞれ独立して、付加反応性炭素-炭素不飽和結合を有しない非置換または置換の1価炭化水素基を表し、sは、0または2であり、tおよびuは、2≦t、5≦t+u≦800、かつ、0.1≦t/(t+u)≦0.4を満たす数を表す。)
で表される直鎖状または環状のオルガノハイドロジェンポリシロキサン
(C)ヒドロシリル化反応触媒
【0012】
[1](A)成分
(A)成分は、ケイ素原子と結合したアルケニル基を1分子中に少なくとも2個、好ましくは2~10個、より好ましくは2~5個有するオルガノポリシロキサンである。2個未満では組成物の硬化が不十分になる。また、上限は特に制限されないが、硬化物が脆くなることを防ぐという点から、10個以下が好ましい。
ケイ素原子に結合したアルケニル基としては、特に限定されるものではなく、直鎖、分岐、環状のいずれでもよいが、ビニル、アリル、ブテニル、ペンテニル、ヘキセニル、ヘプテニル、オクテニル基等の炭素原子数2~8のものが好ましく、炭素原子数2~4のものがより好ましく、ビニル基がより一層好ましい。
このアルケニル基は、分子鎖末端および分子鎖非末端(即ち、分子鎖側鎖)のいずれかまたは両方に存在してもよいが、少なくとも分子鎖両末端に存在することが好ましい。
【0013】
(A)成分のオルガノポリシロキサンにおいて、アルケニル基以外のケイ素原子に結合した有機基は、付加反応性炭素-炭素不飽和結合を有しないものであれば特に限定はなく、直鎖、分岐、環状のいずれでもよいが、炭素原子数1~20の1価炭化水素基が好ましく、炭素原子数1~10の1価炭化水素基がより好ましく、炭素原子数1~5の1価炭化水素基がより一層好ましい。
その具体例としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、tert-ブチル、n-ヘキシル基等の直鎖または分岐のアルキル基;シクロヘキシル基等の環状アルキル基;フェニル、トリル基等のアリール基;ベンジル、フェニルエチル基等のアラルキル基などが挙げられる。
また、これらの1価炭化水素基の水素原子の一部または全部は、F、Cl、Br等のハロゲン原子、シアノ基等で置換されていてもよく、そのような基の具体例としては、3,3,3-トリフルオロプロピル基等のハロゲン置換炭化水素基;2-シアノエチル基等のシアノ置換炭化水素基等が挙げられる。
これらの中でもメチル基が好ましい。
【0014】
(A)成分としては、例えば、下記平均組成式(1)で表されるオルガノポリシロキサンが挙げられる。
R2
cR3
dSiO(4-c-d)/2 (1)
(式中、R2は、それぞれ独立して、付加反応性炭素-炭素不飽和結合を有しない非置換または置換の1価炭化水素基を表し、R3は、それぞれ独立してアルケニル基を表し、cは1.9~2.1、dは0.005~1.0、かつ、c+dは1.95~3.0を満たす数である。)
【0015】
R2の1価炭化水素基としては、アルケニル基以外のケイ素原子に結合した有機基として上で例示した基と同様のものが挙げられるが、メチル基が好ましい。
R3のアルケニル基としては、ケイ素原子に結合したアルケニル基として上で例示した基と同様のものが挙げられるが、ビニル基が好ましい。
cは1.95~2.0の数が好ましく、dは0.01~0.5の数が好ましく、c+dは1.96~2.5を満たすことが好ましい。
【0016】
平均組成式(1)で表される(A)成分としては、例えば、下記式(3)~(9)で表されるオルガノポリシロキサン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
ViR2
2SiO(R2
2SiO)eSiR2
2Vi (3)
ViR2
2SiO(R2ViSiO)f(R2
2SiO)gSiR2
2Vi (4)
Vi2R2SiO(R2
2SiO)eSiR2Vi2 (5)
Vi3SiO(R2
2SiO)eSiVi3 (6)
Vi2R2SiO(R2ViSiO)f(R2
2SiO)gSiR2Vi2 (7)
Vi3SiO(R2ViSiO)f(R2
2SiO)gSiVi3 (8)
R2
3SiO(R2ViSiO)h(R2
2SiO)gSiR2
3 (9)
(式中、Viは、ビニル基を意味する(以下同様)。R2は、上記と同じ意味を表す。)
【0017】
上記各式において、e、f、gは0以上の整数である。
特に、eは、10≦e≦10,000を満たす整数が好ましく、50≦e≦2,000を満たす整数がより好ましい。
また、fおよびgは、10≦f+g≦10,000、かつ、0≦f/(f+g)≦0.2を満たす整数が好ましく、50≦f+g≦2,000を満たす整数がより好ましい。
hは2以上の整数である。)
hは、2以上の整数であるが、2≦h、10≦f+g≦10,000、かつ、0≦h/(g+h)≦0.2を満たす整数が好ましく、50≦g+h≦2,000を満たす整数がより好ましい。
【0018】
(A)成分の25℃における粘度は1~100,000mPa・sが好ましく、5~10,000mPa・sがより好ましい。粘度がこの範囲であれば、流動性が高く作業性に優れる。本発明における粘度は回転粘度計を用いた測定値である。
なお、(A)成分は、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0019】
[2](B)成分
(B)成分は、下記平均単位式(1)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンであり、(A)成分中のアルケニル基とヒドロシリル化反応することにより架橋剤として作用する。
(R1
3SiO1/2)s[R1
1(H)SiO2/2]t(R1
2SiO2/2)u (1)
(式中、R1は、それぞれ独立して、付加反応性炭素-炭素不飽和結合を有しない非置換または置換の1価炭化水素基を表し、sは、0または2であり、tおよびuは、2≦t、5≦t+u≦800、かつ、0.1≦t/(t+u)≦0.4を満たす数を表す。)
【0020】
R1の1価炭化水素基は、(A)成分のR2で例示した基と同様のものが挙げられるが、好ましくはメチル基である。
sは、0または2であり、即ち、(B)成分は直鎖状または環状のオルガノハイドロジェンポリシロキサンであって、sは好ましくは2、即ち、直鎖状の構造である。
tおよびuは、2≦t、5≦t+u≦800、かつ、0.1≦t/(t+u)≦0.4を満たす数であるが、tは、好ましくは2~300の数であり、より好ましくは3~200の数である。また、t/(t+u)は0.14~0.25の範囲が好ましい。
【0021】
(B)成分の25℃での粘度は、特に限定されるものではないが、組成物の作業性や硬化物の力学特性がより優れたものとなるため、1~3,000mPa・sが好ましく、5~200mPa・sがより好ましい。
【0022】
(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・メチルフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン環状共重合体等、これらのオルガノポリシロキサンの2種以上からなる混合物等が挙げられる。
より具体的には、下記式で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン等が挙げられる。なお、式中、Meは、メチル基を意味する(以下同様)。
【0023】
【化1】
(式中、シロキサン単位の配列順は任意である。)
【0024】
(B)成分の配合量は、(A)成分中のケイ素原子と結合したアルケニル基1個あたりの(B)成分中のケイ素原子と結合した水素原子の数が0.5~5.0個となる量であり、好ましくは0.7~3.0個となる量である。0.5個未満の場合は架橋が不十分なものとなる結果、組成物を硬化して得られるシリコーンゴム型が粘着性を帯び、マスタおよび複製品に対する離型性が低下する。5.0個を超える場合、硬化の際に水素ガスの発生による発泡が起こりやすく、シリコーンゴム型の表面の凹凸により複製精度が低下し、硬化物内部の空隙の発生によりゴム強度が低下する。
なお、(B)成分は、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0025】
[3](C)成分
(C)成分は、(A)成分中のアルケニル基と(B)成分中のSiH基とのヒドロシリル化反応を促進するためのヒドロシリル化反応触媒である。
その具体例としては、白金(白金黒を含む)、ロジウム、パラジウム等の白金族金属単体;H2PtCl4・nH2O、H2PtCl6・nH2O、NaHPtCl6・nH2O、KHPtCl6・nH2O、Na2PtCl6・nH2O、K2PtCl4・nH2O、PtCl4・nH2O、PtCl2、Na2HPtCl4・nH2O(但し、式中、nは0~6の整数であり、好ましくは0または6である。)等の塩化白金、塩化白金酸および塩化白金酸塩;アルコール変性塩化白金酸(米国特許第3,220,972号明細書参照);塩化白金酸とオレフィンとの錯体(米国特許第3,159,601号明細書、同第3,159,662号明細書、同第3,775,452号明細書参照);白金黒、パラジウム等の白金族金属をアルミナ、シリカ、カーボン等の担体に担持させたもの;ロジウム-オレフィン錯体;クロロトリス(トリフェニルフォスフィン)ロジウム(ウィルキンソン触媒);塩化白金、塩化白金酸または塩化白金酸塩とビニル基含有シロキサンとの錯体などの白金族金属系触媒が挙げられる。
なお、(C)成分は、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
(C)成分の配合量は、組成物の硬化(ヒドロシリル化反応)を促進する量であれば限定されず、本組成物の各成分の質量の合計に対して、本成分中の金属原子が質量換算で0.1~1,000ppmの範囲となる量が好ましく、1~500ppmの範囲がより好ましく、3~100ppmの範囲がより一層好ましい。この範囲であれば、付加反応の反応速度が適切なものとなり、高い強度を有する硬化物を得ることができる。
【0027】
[4](D)成分
本発明の型取り用シリコーンゴム組成物には、硬度および引張り強さなどの物理的強度の向上のため、(D)成分としてシリカを添加してもよい。
シリカとしては、例えば、ヒュームドシリカ、結晶性シリカ(石英粉)、沈降性シリカ、これらの表面を疎水化処理したシリカ等が挙げられ、これらは1種単独でも2種以上を組み合わせてもよい。
【0028】
このようなシリカとしては、親水性のシリカとして、Aerosil 130、200、300(日本アエロジル社製)、Cabosil MS-5,MS-7(Cabot社製),Rheorosil QS-102,103((株)トクヤマ製)等のヒュームドシリカ;トクシールUS-F((株)トクヤマ製)、Nipsil LP(日本シリカ工業(株)製)等の沈降性シリカ等が挙げられ、疎水性のシリカとして、Aerosil R-812,R-812S,R-972,R-974(日本アエロジル(株)製)、Rheorosil MT-10((株)トクヤマ製)等のヒュームドシリカ;Nipsil SSシリーズ(日本シリカ工業(株)製)等の沈降性シリカ;クリスタライト((株)龍森製)、MIN-U-SIL(U.S.Silica Company社製)、Imisil(Illinois Mineral社製)等の結晶性シリカ等が挙げられる。
【0029】
これらのシリカはそのまま用いても構わないが、表面処理剤で予め表面疎水化処理したものを使用したり、(A)成分の混練時に表面処理剤を添加してシリカ表面を疎水化処理して使用したりすることが好ましい。表面処理剤としては、アルキルアルコキシシラン、アルキルヒドロキシシラン、アルキルクロロシラン、アルキルシラザン、シランカップリング剤、低分子ポリシロキサン、チタネート系処理剤、脂肪酸エステル等が挙げられ、好ましくはアルキルジシラザン、より好ましくはヘキサメチルジシラザンである。これらの表面処理剤は1種単独で用いても、2種以上を同時にまたは異なるタイミングで用いても構わない。
表面処理剤の使用量は、シリカ100質量部に対して、好ましくは0.5~50質量部、より好ましくは1~40質量部、より一層好ましくは2~30質量部である。表面処理剤の使用量が上記範囲内であると、組成物中に表面処理剤またはその分解物が残らず、流動性が得られ、経時で粘度が上昇することを抑制できる。
【0030】
また、(D)成分は、BET法による比表面積が50~400m2/g、特に100~350m2/gのものが好ましい。このような範囲であれば十分なゴム強度が得られる。
【0031】
(D)成分を用いる場合、その添加量は、組成物の取り扱い性および硬化物の機械的強度の点から、(A)成分100質量部に対して5~100質量部が好ましく、20~50質量部がより好ましい。
【0032】
[5](E)成分
本発明の型取り用シリコーンゴム組成物には、組成物を調製する際や、型取りの際などの加熱硬化前に、増粘やゲル化を起こさないようにヒドロシリル化反応触媒の反応性を制御する目的で、必要に応じて(E)反応制御剤を添加してもよい。
反応制御剤の具体例としては、3-メチル-1-ブチン-3-オール、3-メチル-1-ペンチン-3-オール、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール、1-エチニルシクロヘキサノール、エチニルメチルデシルカルビノール、3-メチル-3-トリメチルシロキシ-1-ブチン、3-メチル-3-トリメチルシロキシ-1-ペンチン、3,5-ジメチル-3-トリメチルシロキシ-1-ヘキシン、1-エチニル-1-トリメチルシロキシシクロヘキサン、ビス(2,2-ジメチル-3-ブチノキシ)ジメチルシラン、1,3,5,7-テトラメチル-1,3,5,7-テトラビニルシクロテトラシロキサン、1,1,3,3-テトラメチル-1,3-ジビニルジシロキサン等が挙げられ、これらは1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの中でも、1-エチニルシクロヘキサノール、エチニルメチルデシルカルビノール、3-メチル-1-ブチン-3-オールが好ましい。
【0033】
(E)成分を用いる場合、その添加量は、(A)成分および(B)成分の合計100質量部に対して0.01~2.0質量部が好ましく、0.01~0.1質量部がより好ましい。このような範囲であれば反応制御の効果が十分発揮される。
【0034】
[6]その他の成分
本発明の型取り用シリコーンゴム組成物には、上記(A)~(E)成分以外にも、本発明の目的を損なわない限り、以下に例示するその他の成分を配合してもよい。
その他の成分としては、酸化鉄、カーボンブラック、導電性亜鉛華、金属粉等の導電剤;酸化チタン、酸化セリウム等の耐熱剤;ジメチルシリコーンオイル等の内部離型剤;接着性付与剤;チクソ性付与剤等が挙げられる。
【0035】
本発明の型取り用シリコーンゴム組成物は、上記の(A)~(C)成分、必要に応じて用いられる(D)および(E)成分、並びにその他の成分をニーダー、プラネタリーミキサー等を用いた公知の方法で混合して調製することができる。
本発明の型取り用シリコーンゴム組成物は、(A)成分、(C)成分および必要に応じてその他の成分からなる第一剤と、(A)成分、(B)成分および必要に応じてその他の成分からなる第二剤を別々に調製し、使用前に第一剤と第二剤を混合する二剤型の組成物としてもよい。なお、第一剤および第二剤で共通に使用される成分があってもよい。組成物をこのような二剤型とすることにより、さらに保存安定性が確保できる。
【0036】
また、本発明の型取り用シリコーンゴム組成物の硬化条件としては、例えば常温(5~35℃)でも硬化が進行するが、加熱により硬化促進させることもでき、量産性を向上させたい場合には、この手法が有効である。
加熱硬化させる場合、70~200℃で30秒~60分間、特に90~120℃で1分~30分間の条件で硬化させることが好ましい。
【実施例】
【0037】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0038】
[実施例1~4,比較例1~3]
下記成分を表1に示される配合比(質量部)で混合し、シリコーンゴム組成物を調製した。具体的には、まず(A)成分85質量部、(D)成分30質量部、ヘキサメチルジシラザン5質量部、水2質量部を25℃でニーダーを用いて30分混合後、150℃に昇温し、4時間撹拌を続け、25℃に冷却した後に(A)成分15質量部を混合して得られたシリコーンゴムベースに、(C)成分を添加し、プラネタリーミキサーを用いて25℃で15分間撹拌混合後、(B)成分を添加し、プラネタリーミキサーを用いて25℃で15分間撹拌混合を行い、さらに25℃で30分間減圧脱泡し、シリコーンゴム組成物を得た。
【0039】
(A)成分:
(A-1)両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖され、25℃における粘度が5,000mPa・sであるジメチルポリシロキサン(ビニル基含有量0.006mol/100g)
【0040】
(B)成分:
(B-1)下記平均構造式で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン(ケイ素原子結合水素原子の含有量=0.0018mol/g)
【化2】
(式中、シロキサン単位の配列はランダムまたはブロックである。)
【0041】
(B-2)下記平均構造式で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン(ケイ素原子結合水素原子の含有量=0.0034mol/g)
【化3】
(式中、シロキサン単位の配列はランダムまたはブロックである。)
【0042】
(B-3)下記平均構造式で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン(ケイ素原子結合水素原子の含有量=0.0021mol/g)
【化4】
(式中、シロキサン単位の配列はランダムまたはブロックである。)
【0043】
(B-4)下記平均構造式で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン(比較成分)
【化5】
(式中、シロキサン単位の配列はランダムまたはブロックである。)
【0044】
(B-5)下記平均構造式で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン(比較成分:ケイ素原子結合水素原子の含有量=0.0042mol/g)
【化6】
(式中、シロキサン単位の配列はランダムまたはブロックである。)
【0045】
(B-6)下記平均構造式で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン(比較成分:ケイ素原子結合水素原子の含有量=0.00088mol/g)
【化7】
(式中、シロキサン単位の配列はランダムまたはブロックである。)
【0046】
(C)成分:
(C-1)白金1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体のジメチルシロキサン溶液(白金含有量1.0質量%)
【0047】
(D)成分:
(D-1)フュームドシリカ(日本アエロジル(株)製、アエロジル300、BET比表面積300m2/g)
【0048】
(E)成分:
(E-1)エチニルシクロヘキサノール
【0049】
【0050】
得られた組成物を用い、下記の各特性を評価した。結果を表2に示す。
[離型性]
図1(A)~(C)に示されるように、実施例1~3および比較例1~3で調製した型取り用シリコーンゴム組成物3を、逆勾配のガラス製マスタ1を置いた枠2の内部に流し込み、100℃、50分の硬化条件にて硬化してシリコーンゴム型4を作製した。シリコーンゴム型4がガラス製マスタ1から手で容易に剥離できるか否か、および剥離したシリコーンゴム型4の表面を目視にて観察することにより、シリコーンゴム型4の離型性を評価した。
シリコーンゴム型4がガラス製マスタから容易に剥離することができ、かつ、シリコーンゴム型4の表面が平滑であって表面の状態が良好であるものを○と表示し、シリコーンゴム型4の一部が凝集破壊してガラス製マスタ1に付着しているものを×と表示した。
[エポキシ樹脂複製回数]
図2(A)~(C)に示されるように、上記と同様の手順で作製し、ガラス製マスタ1から剥離したシリコーン型4の空隙部4Aに、熱硬化性エポキシ樹脂5(商品名:NM102A/B、ペルノックス社製)を流し込み100℃×60分で硬化させてエポキシ樹脂複製品6を作製した。作製したエポキシ樹脂複製品6をシリコーン型4から取り出す作業を繰り返し、シリコーン型4への樹脂の付着が無く容易に取り出し可能な回数を確認した。
【0051】
【0052】
表2に示されるように、実施例1~3で調製した本発明の型取り用シリコーン組成物から得られた硬化物は、ガラス性マスタおよびエポキシ樹脂に対する離型性に優れ、エポキシ樹脂の複製回数が良好であることがわかる。
一方、本発明の(B)成分を用いていない比較例1~3では、ガラスおよびエポキシ樹脂から剥離し難くなり、エポキシ樹脂の複製回数も少なく、型取りに適したものではないことがわかる。
【符号の説明】
【0053】
1 ガラス製マスタ
2 枠
3 型取り用シリコーンゴム組成物
4 シリコーンゴム型
4A 空隙部
5 エポキシ樹脂
6 エポキシ樹脂製複製品