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特許7120208切削工具の異常検知装置、および異常検知方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】切削工具の異常検知装置、および異常検知方法
(51)【国際特許分類】
   B23Q 17/09 20060101AFI20220809BHJP
【FI】
B23Q17/09 D
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2019232483
(22)【出願日】2019-12-24
(65)【公開番号】P2020104257
(43)【公開日】2020-07-09
【審査請求日】2021-05-13
(31)【優先権主張番号】P 2018241349
(32)【優先日】2018-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】福岡 信彦
(72)【発明者】
【氏名】小宮 聖士
(72)【発明者】
【氏名】大橋 春樹
(72)【発明者】
【氏名】松崎 結
【審査官】荻野 豪治
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-174383(JP,A)
【文献】特開昭62-193749(JP,A)
【文献】特開昭59-175941(JP,A)
【文献】特開昭59-175945(JP,A)
【文献】特開2010-069540(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 17/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の刃を備える切削工具の欠損を検知する異常検知装置であって、
前記切削工具が装着された工作機械の主軸を回転させる主軸モータの電流値または電力値を測定する、測定部と、
前記測定部からの測定信号をフィルタ処理して記憶部に時系列に記憶する、信号処理部と、
異常検知処理部と、
前記異常検知処理部で工具欠損有りと判定した場合に、制御パラメータで指定された加工機制御の指令を前記工作機械に出力する加工機指令部と、
を備え、
前記異常検知処理部は、
前記記憶された測定信号から、同時作用刃数が1個と予測される加工領域の測定信号を抽出して周波数スペクトルを算出し、
前記周波数スペクトルにおいて、制御パラメータで指定された判定周波数(=回転周波数×n、ただし 1≦n<工具刃数、nは整数)の振幅と、制御パラメータで指定された閾値と、に基づいて前記工具欠損有りと判定する、
ことを特徴とする切削工具の異常検知装置。
【請求項2】
前記切削工具の刃数が4であり、
前記判定周波数は、前記切削工具の回転周波数の2倍である、
ことを特徴とする請求項1に記載の切削工具の異常検知装置。
【請求項3】
前記切削工具の刃数が8であり、
前記判定周波数は、回転周波数の2乃至5倍の少なくとも一つであること、
を特徴とする請求項1に記載の切削工具の異常検知装置。
【請求項4】
前記判定周波数は、前記切削工具が正常状態から1刃が欠損した状態に変化した時の、周波数スペクトルの変化が最大又は最大の次点の周波数を指定する値である、
ことを特徴とする請求項1に記載の切削工具の異常検知装置。
【請求項5】
前記異常検知処理部では、制御パラメータでデータ抽出開始時間を指定され、
前記データ抽出開始時間は、NC装置から発する加工開始信号を基準とする測定時間において、同時作用刃数が1個となる加工領域での測定信号を周波数解析するための制御パラメータである、
ことを特徴とする請求項1に記載の切削工具の異常検知装置。
【請求項6】
前記異常検知処理部は、
所定の加工のタイミングでの判定周波数の振幅を、レベル補正用基準値として記憶し、
その後に続く各加工で算出される前記振幅から、前記レベル補正用基準値を減算するレベル補正を実施してレベル補正値を得て、
前記レベル補正値と、前記閾値と、に基づいて、前記工具欠損有りと判定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の切削工具の異常検知装置。
【請求項7】
前記レベル補正用基準値は、前記切削工具の刃を交換後の初回の加工における前記判定周波数の前記振幅であり、
その後に続く各加工では、前記異常検知処理部は、
前記振幅に基づいて計算されたレベル補正値の過去の値との差分値を計算し、
前記計算した差分と、前記閾値と、に基づいて、前記工具欠損有りと判定する、
請求項6に記載の切削工具の異常検知装置。
【請求項8】
表示部に、累積加工数に従った前記レベル補正値の変化を、刃の交換毎のデータが判別可能となるように表示する、
ことを特徴とする請求項6に記載の切削工具の異常検知装置。
【請求項9】
表示部に、加工数に従った前記レベル補正値の変化と前記差分値の変化と、を刃の交換毎のデータが判別可能となるように表示する、
ことを特徴とする請求項7に記載の切削工具の異常検知装置。
【請求項10】
複数の刃を備える切削工具の欠損を検知する異常検知方法であって、
(A)前記切削工具が装着された工作機械の主軸を回転させる主軸モータの電流値または電力値の測定結果である測定信号を受信し、
(B)前記測定信号をフィルタ処理して記憶部に時系列に記憶し、
(C)異常検知し、
(D)(C)の異常検知にて工具欠損有りと判定した場合に、制御パラメータで指定された加工機制御の指令を前記工作機械に出力し、
(C)の異常検知は、
(C1)前記記憶された測定信号から、同時作用刃数が1個と予測される加工領域の周波数解析データ数の測定信号を抽出して周波数スペクトルを算出し、
(C2)前記周波数スペクトルにおける制御パラメータで指定された判定周波数(=回転周波数×n、ただし 1≦n<工具刃数、nは整数)の振幅と、制御パラメータで指定された閾値と、に基づいて前記工具欠損有りと判定する、
ことを特徴とする切削工具の異常検知方法。
【請求項11】
前記判定周波数は、前記切削工具が正常状態から1刃が欠損した状態に変化した時の、周波数スペクトルの変化が最大又は最大の次点の周波数を指定する値である、
ことを特徴とする請求項10に記載の切削工具の異常検知方法。
【請求項12】
(C)の異常検知は、制御パラメータでデータ抽出開始時間を指定され、
前記データ抽出開始時間は、NC装置から発する加工開始信号を基準とする測定時間において、同時作用刃数が1個となる加工領域での測定信号を周波数解析するための制御パラメータである、
ことを特徴とする請求項10に記載の切削工具の異常検知方法。
【請求項13】
(C2)の前記工具欠損有りとの判定は、
(C2a)所定の加工のタイミングでの判定周波数の振幅を、レベル補正用基準値として記憶し、
(C2b)その後に続く各加工で算出される前記振幅から、前記レベル補正用基準値を減算するレベル補正を実施してレベル補正値を得て、
(C2c)前記レベル補正値と、前記閾値と、に基づいて、前記工具欠損有りと判定する、
ことを特徴とする請求項10に記載の切削工具の異常検知方法。
【請求項14】
前記レベル補正用基準値は、前記切削工具の刃を交換後の初回の加工における前記判定周波数の前記振幅であり、
その後に続く各加工では、(C2c)の前記工具欠損有りとの判定は、
(C2c1)前記振幅に基づいて計算されたレベル補正値の過去の値との差分値を計算し、
(C2c2)前記計算した差分値と、前記閾値と、に基づいて、工具欠損有りと判定する、
請求項13に記載の切削工具の異常検知方法。
【請求項15】
(E)表示部に、累積加工数に従った前記レベル補正値の変化を、刃の交換毎のデータが判別可能となるように表示する、
ことを特徴とする請求項13に記載の切削工具の異常検知方法。
【請求項16】
(E)表示部に、加工数に従った前記レベル補正値の変化と前記差分値の変化と、を刃の交換毎のデータが判別可能となるように表示する、
ことを特徴とする請求項14に記載の切削工具の異常検知方法。
【請求項17】
請求項10乃至16のいずれか1つに記載の方法を計算機に実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削加工における切削工具の異常検知装置および異常検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本技術分野の背景技術として、国際公開第00/073018号(特許文献1)がある。この公報には、「マシニングセンタの切削加工に伴って発生する振動を検出する振動検出センサと、該センサによって検出される振動に所定値を超えるピークが発生する回数を周期的にカウントするピーク検出部と、該ピーク検出部によって検出されたピーク発生回数を所定の閾値と比較して、ピーク発生回数が所定の閾値を越えたときに比較信号を出力する比較部と、該比較部からの比較信号にしたがってマシニングセンタの制御装置に停止信号を出力する作業停止部と、作業者に切削工具交換の旨を報知するための無線呼出し部とを具えている。」と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第00/073018号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述した特許文献1の構成では、切削工具の刃先が被削材との衝突により徐々に欠けて不規則に発生する振動を、所定時間内のピークの発生回数にて判定し、切削工具を有効使用するものである。しかし、突発的に刃先が大きく欠けた場合には、ピークの発生回数は増加しないため異常検知ができない。
【0005】
被削材が鋳物の場合、鋳物には異物や巣が内在するため、切削加工時にこれらが起因して突発的に刃先の欠けが発生することがある。切削加工機に対して製品となる被削材を自動搬入搬出する自動生産ラインでは、刃先の欠けに気付かずに生産を継続してしまうことが起こる。これにより、工具は損傷が拡大して破損に至り、また、被削材には傷や削り残しなどの加工不良が連続的に発生する課題がある。
【0006】
そこで、本発明の目的は、工具損傷の拡大を抑制し、かつ、連続的な加工不良の発生を抑制することが可能な切削工具の異常検知装置、および異常検知方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の、複数の刃を備える切削工具の欠損を検知する異常検知方法又は装置は、(A)前記切削工具が装着された工作機械の主軸を回転させる主軸モータの電流値または電力値の測定結果である測定信号を受信し、(B)前記測定信号をフィルタ処理して記憶部に時系列に記憶し、(C)異常検知し、(D)(C)の異常検知にて工具欠損有りと判定した場合に、制御パラメータで指定された加工機制御の指令を前記工作機械に出力する。ここで(C)の異常検知は、(C1)前記記憶された測定信号から、同時作用刃数が1個と予測される加工領域の周波数解析データ数の測定信号を抽出して周波数スペクトルを算出し、(C2)前記周波数スペクトルにおける制御パラメータで指定された判定周波数(=回転周波数×n、ただし 1≦n<工具刃数、nは整数)の振幅と、制御パラメータで指定された閾値と、に基づいて前記工具欠損有りと判定する。
【0008】
本願発明の他の特徴は実施例にて説明する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、工具の損傷拡大と、連続的な加工不良の発生を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】加工機に接続された実施例1に係る切削工具の異常検知装置を示すブロック図である。
図2】切削工具の概観を示す斜視図である。
図3】刃先が欠損した切削工具の概観を示す斜視図である。
図4】刃先と工具ボディが損傷した切削工具の概観を示す斜視図である。
図5】測定信号の電流値を示すグラフである。
図6】正常時の測定信号の電流値を示すグラフである。
図7】異常時の測定信号の電流値を示すグラフである。
図8】正常時の測定信号の周波数スペクトル分布を示すグラフである。
図9】異常時の測定信号の周波数スペクトル分布を示すグラフである。
図10】加工時間全範囲を分轄した周波数解析結果において、回転周波数のn倍成分の変化を示すグラフである。
図11】4枚刃工具において欠損が無い正常時の切削シミュレーション結果である。
図12】4枚刃工具において欠損が無い正常時の切削シミュレーション結果の周波数スペクトル分布を示すグラフである。
図13】4枚刃工具においてインサートが1個欠損した状態を想定した切削シミュレーション結果である。
図14】4枚刃工具においてインサートが1個欠損した状態を想定した切削シミュレーション結果の周波数スペクトル分布を示すグラフである。
図15】4枚刃工具においてインサートが1個欠損した状態と正常状態の切削シミュレーションの差分の波形である。
図16】4枚刃工具において工具のインサートが1個欠損した状態と正常状態の切削シミュレーションの差分の波形の周波数スペクトル分布を示すグラフである。
図17】3枚刃から10枚刃の工具において、正常状態とインサート1個が欠損した状態の周波数スペクトル分布の比較により、振幅の変化量が大きい周波数を回転周波数に対する倍率で示した結果である。
図18】異常検知装置の表示部で、制御パラメータを入力する画面の一例である。
図19】異常検知装置の異常検知処理部が実行する異常検知処理のフローチャートの例である。
図20】加工機に接続された実施例2に係る切削工具の異常検知装置を示すブロック図である。
図21】3枚刃工具の加工における主軸サーボモータ電流の周波数スペクトル分布を示すグラフである。
図22】3枚刃工具の判定周波数の振幅の変化を累積加工数に対して示すグラフである。
図23】1つ目の加工の判定周波数の振幅を基準にレベル補正した3枚刃工具の判定周波数の振幅のレベル補正値の変化を累積加工数に対して示すグラフである。
図24】1つ目の加工の判定周波数の振幅を基準にレベル補正した3枚刃工具の判定周波数の振幅のレベル補正値の変化を加工数に対して示すグラフである。
図25】3枚刃工具の1つ目の加工の判定周波数の振幅でレベル補正した各加工の判定周波数の振幅のレベル補正値と、1つ前の加工のレベル補正値との差分を加工数に対して示すグラフである。
図26】1つ目の加工の判定周波数の振幅を基準にレベル補正した各加工の判定周波数の振幅のレベル補正値を用いて異常判定する手法における1つ目の表示例である。
図27】1つ目の加工の判定周波数の振幅を基準にレベル補正した各加工の判定周波数の振幅のレベル補正値を用いて異常判定する手法における2つ目の表示例である。
図28】1つ目の加工の判定周波数の振幅を基準にレベル補正した各加工の判定周波数の振幅のレベル補正値を用いて異常判定する手法における3つ目の表示例である。
図29】1つ目の加工の判定周波数の振幅を基準にレベル補正した各加工の判定周波数の振幅のレベル補正値を用いて異常判定する手法における4つ目の表示例である。
図30】1つ目の加工の判定周波数の振幅を基準にレベル補正した各加工の判定周波数の振幅のレベル補正値を用いて異常判定する手法の4つ目の表示例において、累積加工数が増えた例である。
図31】1つ目の加工の判定周波数の振幅を基準にレベル補正した各加工の判定周波数の振幅のレベル補正値を用いて異常判定する手法における5つ目の表示例である。
図32】実施例2に係る異常検知装置の表示部で、制御パラメータを入力する画面の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、加工機において切削工具を駆動するモータ(主軸モータ)の電流値もしくは電力値を測定し、それらの周波数スペクトル分布において、特定の周波数成分の増加により切削工具の欠損である工具刃先の欠損を検知し、加工機の動作を制御するようにしたものである。
【0012】
以下、実施例を図面を用いて説明する。本実施の形態を説明するための全図において同一機能を有するものは同一の符号を付するようにし、その繰り返しの説明は原則として省略する。ただし、本発明は以下に示す実施形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。本発明の思想ないし趣旨から逸脱しない範囲で、その具体的構成を変更しえることは当業者であれば容易に理解される。
【実施例1】
【0013】
本実施例では、工具の異常を電流値もしくは電力値の周波数解析結果を基に検知する異常検知装置の例を説明する。
【0014】
図1は、実施例1に係わる切削工具の異常検知装置1を備えた加工機4を示すブロック図である。加工機4に切削工具の異常検知装置1が取り付けられた構成である。
【0015】
加工機4は、工具ホルダ110に把持された複数の刃を備える切削工具5を主軸7に装着し、前記主軸と共に前記切削工具を回転させて被削材6に平面や溝などの加工を行うフライス加工工作機械の例である。
加工機4では、切削工具5を主軸7に固定し、主軸モータ8で主軸7を回転させることで被削材6を所望の形状に加工する。このとき、NCプログラムが記憶されたNC装置10からの指令により、サーボアンプ9が主軸モータ8に入力する電圧値と電流値を制御する。これにより指令通りの回転数にて主軸モータ8を回転させる。
【0016】
異常検知装置本体15は、汎用の計算機上に構成することができて、そのハードウェア構成は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)などにより構成される演算部2、ROM(Read Only Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、フラッシュメモリなどを用いたSSD(Solid State Drive)などにより構成される記憶部3、キーボードやマウス等の入力デバイスより構成される入力部11、LCD(Liquid Crystal Display)、有機ELディスプレイなどの表示装置、各種出力装置などにより構成される表示部12、NIC(Network Interface Card)、入出力インターフェース機器などにより構成される通信部13などを備える。
【0017】
通信部13は、有線ネットワーク若しくは無線ネットワーク、または個別の専用ケーブルを介して、加工機4のサーボアンプ9と主軸モータ8の間より電圧値と電流値を測定する測定部14と、NC装置10と接続されている。
【0018】
測定部14は、電圧センサ、電流センサ、AD変換器、通信部などから構成される。異常検知装置1は、異常検知装置本体15と測定部14から構成される。
【0019】
演算部2は、記憶部3に記憶されている切削工具異常検知プログラム31をRAMへロードしてCPUで実行することにより以下の各機能部を実現する。演算部2は、異常検知処理部21、信号処理部22、解析判定部23、加工機指令部24、制御パラメータ設定部25を有する。
【0020】
記憶部3は、切削工具異常検知プログラム31、制御パラメータ32、測定信号33の各情報を記憶する記憶領域を有する。
【0021】
異常検知処理部21は、NC装置10が加工を開始する信号を受けて起動され、切削工具の異常検知処理を制御パラメータで指定された加工領域の加工終了まで、または切削工具の異常が検知された場合は事前に設定された加工機4の制御の指示を発行し終えるまで実行する。
【0022】
信号処理部22は、異常検知処理部21により加工開始時に起動され、測定部14が測定して出力するサーボアンプ9と主軸モータ8の間より得られた電流値または電力値の測定信号(デジタル信号)を、事前信号処理して、記憶部3の測定信号33記憶領域に記録する。事前信号処理方法としては、ローパスフィルタ、ハイパスフィルタ、バンドパスフィルタや、移動平均フィルタなどのノイズ除去フィルタを用いる。本処理は加工終了時まで継続する。
【0023】
解析判定部23は、異常検知処理部21により起動され、予め制御パラメータ32として記憶された加工継続時間中の所定の開始時間より所定の時間範囲の測定信号33に対して、切削工具が異常と認められる変化が有るかどうかを解析する。異常と認められる変化が有ると判定した場合には、異常検知処理部21が加工機指令部24を起動する。
【0024】
加工機指令部24は、切削工具が異常と認められる変化が有ると判定された場合に、予め制御パラメータ32として記憶された加工機4の動作を実施する指令を、加工機4のNC装置10に出力する。このときの指令は、工具交換や工具退避等である。
【0025】
制御パラメータ設定部25は、ユーザの指示により起動され、加工作業前に、加工条件、測定条件、加工機制御方法、信号処理方法等に係わる制御パラメータのユーザ入力を受付けて、記憶部3の制御パラメータ32に登録する。
【0026】
図2に切削工具5の例を示す。切削工具5は工具ボディ43に工具の刃先となるインサート41を固定ネジ44により固定した構成の刃先交換式工具である。切削工具5では、インサート41のコーナ部42の近傍で被削材6を加工する。コーナ部42が切れ刃となる。この切削工具5は4個のインサート41を有する4枚刃工具で、また、インサート41は、切れ刃となるコーナ部42を4個有する4コーナの例である。
【0027】
図3に刃先が欠損した切削工具5の例を示す。4個のインサート41の中で、1個のインサート41bのコーナ部42bが欠けた例である。工具ボディ43には損傷が無いため、インサート41bのみ、または、4個のインサート41の全てを交換することで工具を正常な状態に戻すことができる。
【0028】
なお、設定工具寿命に到達した際のインサートの交換は、未使用の切れ刃となるコーナ部がある場合は、それが切れ刃と作用するようにインサートを回転して付け替える。一方、全ての切れ刃を使い切った場合は、インサート自体を取り換える。複数刃の工具では、通常、同じタイミングで全てのインサートを交換する。
【0029】
図3のようにインサートに欠けが発生した場合、欠けが小さい場合にはインサートを回転して未使用の切れ刃が作用するように付け替え、欠けが大きい場合にはインサート自体を交換する。
【0030】
図4に刃先と工具ボディが損傷した切削工具5の例を示す。4個のインサート41のコーナ部42が全て欠損し、工具ボディ43にも損傷46を生じた例である。これは、図3で示した刃先が1個欠けたことに気付かずに切削加工を継続したため、他のインサートと工具ボディに損傷が拡大したものである。この状態の工具で加工した被削材には、傷や削り残しなどを生じるため、工具破損に気付くまでの間、継続して多数の加工不良が発生する。
【0031】
前述したように被削材が鋳物の場合、鋳物に内在する異物や巣が工具の刃先欠損の要因となるため、工具欠損を完全に防止することは難しい。インサートが1個欠損した段階で加工を停止してインサートを交換できれば、工具ボディの損傷と、また、連続して発生する加工不良の抑制が可能となる。
【0032】
図5は、測定部14で測定される電流値を例とする測定信号50のグラフである。切削速度45m/min、1刃送り量0.1mm/toothの条件で、幅6mm、深さ5mmの肩削り加工した例である。横軸は時間[s]を示し、縦軸は主軸モータ8とサーボアンプ9の間から測定された加工機の主軸7における電流値[A]である。
【0033】
図5に示した信号波形では、すでに主軸7が回転している状態から測定しているため、0から2秒あたりまで空転している状態での電流値が発生しており、2秒あたりから切削工具5が被削材6と接触し加工が開始される。加工が開始すると、主軸7に負荷が発生するため、主軸モータ8を一定回転数で回転させる制御がサーボアンプ9から働いて測定部14で検出される電流値が増大する。
【0034】
図5は加工中に4個のインサート41のうち1個が欠損したときの電流値の測定信号50の例である。加工時間が約12秒あたりでスパイク状の波形51が見られ、瞬間的に負荷が増加している。この時、インサート41の1個に大きな負荷がかかって欠損が発生している。
【0035】
図6は、工具に大きな負荷がかかる前の測定信号50のグラフである。これは図5のグラフにおいて、範囲52の加工時間10~12秒の測定信号50を抜き出したものである。同時作用刃数(ある時点の被削材の加工に作用している切削工具の刃数)が1個の条件で加工したため、波形の各振幅が各インサート41の加工に対応する。工具5は4枚刃工具であるため、4個の振幅で工具が1回転したことになる。図6では、振幅にばらつきはあるが極端に小さいものはなく、工具5の各インサート41がそれぞれ作用していることがわかる。
【0036】
図7は、工具に大きな負荷がかかった後の測定信号50のグラフである。これは図5のグラフにおいて、範囲53の加工時間13~15秒の測定信号50を抜き出したものである。図7は、振幅のばらつきが大きく、振幅の小さい波形54のすぐ後に振幅の大きい波形55が見られる。これは、インサートの1個が欠損して切り込み量が減少したため負荷が小さくなり、その次のインサートに前のインサートで削り残した分の切り込み量が加わり負荷が大きくなったことを表している。また、振幅の小さい波形54は完全に振幅がゼロになっていないため、インサートの欠損の大きさが切り込み量に比べて、まだ小さい状態と推定できる。
【0037】
図8は、工具に大きな負荷がかかる前の加工時間10~12秒の測定信号50の周波数スペクトル分布である。この図では、主軸7の回転数の周波数(以後、回転周波数と呼ぶ)を工具5の刃数倍した周波数(以後、基本周波数と呼ぶ)を基準に、その振幅を1に正規化している(以後、回転周波数の振幅を回転周波数成分、n倍の回転周波数の振幅を回転周波数のn倍成分、基本周波数の振幅を基本周波数成分と呼ぶ)。
【0038】
回転周波数成分61と、回転周波数の2倍成分62と、回転周波数の3倍成分63に山が見られるが、基本周波数成分60に比べて小さい。これが工具5のインサート41が欠損していない正常状態の周波数スペクトル分布である。
【0039】
図9は、工具に大きな負荷がかかった後の加工時間13~15秒の測定信号50の周波数スペクトル分布である。図8と同様に基本周波数成分65を1に正規化している。回転周波数成分66と、回転周波数の2倍成分67と、回転周波数の3倍成分68の振幅は、図8に比べて大きい。特に回転周波数の2倍成分67は、正常時の回転周波数の2倍成分62に比べて増加量が大きい。この回転周波数の2倍成分67が超えるように閾値64を設定することにより、工具5のインサート41が1個欠損した異常を検知可能となる。なお、図8に閾値64を示しているが、工具が正常状態では、回転周波数の1から3倍成分のいずれも閾値以下である。
【0040】
図10は、加工時間全範囲における周波数解析結果の各周波数成分の変化を示している。加工時間1秒から約30秒において、約2秒間毎に周波数解析を行い、基本周波数成分70を1に正規化して、各周波数成分を時間毎に示したものである。なお、プロット時間は周波数解析時間の中央値であり、例えば1~3秒の解析結果は2秒に示している。
【0041】
また、周波数解析には、高速フーリエ変換(Fast Fourier Transform, FFT)と離散フーリエ変換があるが、短時間で解析ができるため高速フーリエ変換を用いるのが好ましい。高速フーリエ変換の場合は、データ数(FFTのひとまとめの入力サンプル数)は2のべき乗値でなければならない。図5に示す電流値はサンプリング周期0.001秒で測定しているため、約2秒間隔で周波数解析を行う場合は、2048(2^11)データを抽出し、抽出間隔は2.048秒となる。
【0042】
図10では、基本周波数成分が70、回転周波数成分が71、回転周波数の2倍成分が72、回転周波数の3倍成分が73であり、一点鎖線75は図5に示すスパイク状の波形51発生時間である。したがって一点鎖線75より前は工具が正常状態であり、一点鎖線75より後は、工具のインサートが1個欠損した状態である。
【0043】
一点鎖線75の前後で、回転周波数成分71と回転周波数の3倍成分73の変化量に比べて、回転周波数の2倍成分は増加量が大きい。このため、回転周波数の2倍成分72に着目して、閾値74設定することで、インサートが1個欠損した状態を判定することができる。特に、周波数解析結果において、正常時に比べて欠損発生後に増加量が大きい周波数成分の選定により、正常時に異常と判定する誤判定を防止できる。
【0044】
なお、周波数解析のデータ数としては、1024(2^10)個以上が周波数スペクトル分布において、回転周波数のn倍成分が判別し易くなるため好適である。また、加工時間全データで周波数解析を行うと、欠損発生のタイミングが加工終了間際の場合に周波数解析結果の変化が極めて小さくなるため欠損判定が困難となる。数秒間毎に信号を分轄して周波数解析をした方が、欠損判定には異常発生時に周波数解析結果の変化が大きくなるため好ましい。
【0045】
図11は、工具に欠損が無い正常状態の切削シミュレーション結果で、図12はその結果の周波数スペクトル分布である。加工条件は図5と同じであり、図11では切削力の最大値を1に正規化している。図11は切削力のシミュレーション結果であるが、図6の主軸サーボモータ電流値の結果と1刃毎に作用する傾向は同じである。また、図11では4枚刃の工具の各刃が均等に作用するため、切削力の振幅にばらつきがない。このため、図12の周波数スペクトル分布には基本周波数成分80のみ振幅が見られ、回転周波数成分や、そのn倍成分には振幅が見られない。
【0046】
図13は、工具のインサートが1個欠損した状態を想定した切削シミュレーション結果で、図14はその結果の周波数スペクトル分布である。なお、図13では図11と同じ大きさの切削力を1に正規化している。図13において、インサートの欠損に対応する波形が81、欠損したインサートの次に作用して負荷が増加したインサートの波形が82である。インサートが完全に欠損して作用しないため波形81はゼロであり、次のインサートは2倍の負荷が作用するため、振幅は2倍となっている。
【0047】
また、図14の周波数スペクトル分布では、回転周波数の2倍成分85が最も大きい。インサートが1個欠損した状態の測定信号の周波数スペクトル分布である図9と振幅の大きさは異なるが、各周波数成分の増加傾向が類似する。
【0048】
図15はインサートが1個欠損した状態と正常時との切削シミュレーション結果の波形の差分である。この波形が図11の正常状態の波形に加わると、インサートが1個欠損した状態の波形である図13と同じとなる。図16は差分波形の周波数スペクトル分布である。基本周波数に振幅が見られず、回転周波数の2倍成分が大きい。したがって、インサートが1個欠損した場合に、周波数スペクトル分布では基本周波数成分は変化せず、回転周波数のn倍成分が増加するため、基本周波数成分を基準として、回転周波数のn倍成分の増加を監視することにより、インサートの欠損が判定可能となることがわかる。
【0049】
図17は、3枚刃から10枚刃の工具において、切削シミュレーションにより切削力を算出し、正常状態とインサート1個欠損状態の周波数スペクトル分布の比較により、振幅の変化量が大きい周波数を回転周波数に対する倍率で示したものである。なお、同時作用刃数は1刃である。ここで示す回転周波数のn倍成分を欠損検知の対象に選定することで、特に同時作用刃数が1刃の場合に、精度良く欠損検知が可能となる。なお、図17の表には変化量が最大の倍率を「変化量1st」、変化量1stに次いで変化量が最大の倍率を「変化量2nd」として示している。刃数が4刃の場合は図14に示した通り、2倍(n=2)が好適だが、例えば刃数が8刃の場合は、2乃至5倍(n=2から5)がほぼ同程度の特徴を示し、次点として6倍が好適であることがシミュレーションにより算出できている。
【0050】
ただし、実加工において、複数刃を有する工具ではインサートの取り付け誤差(ずれ)や、インサートの寸法公差、あるいは主軸の回転振れ等により、各インサートが完全に均等には加工には作用しない。このため、インサートが欠損していない正常時でも図6のように各刃の振幅がばらつき、図8のように周波数スペクトル分布には回転周波数成分61および、そのn倍成分62、63に振幅が見られるようになる。
【0051】
このため、実加工にてインサートを1個外した状態と正常状態の主軸サーボモータ電流を測定し、実加工における正常時と1個外した状態の周波数スペクトル分布を比較して、最も変化が大きい周波数成分を選定した方が欠損判定の精度を上げることができる。特に、加工形状が一定でない場合は、加工領域によって(加工する面積の変化によって、加工する場所によって)周波数成分の変化の程度も異なるため、判定に用いる信号は選定した周波数成分の変化の大きい範囲に限定した方が好適である。
【0052】
これは、同時作用刃数が多い場合、複数の刃(インサート)の合力が測定信号に表れるため、欠損した刃(インサート)の影響が小さくなるためである。欠損の判定は同時作用刃数が少なく、望ましくは1刃のみが作用する加工条件を選定した方が、測定信号の各波形が各インサートの加工状態を反映するため、最も欠損を判定しやすく好ましい。
【0053】
また、工具を取り付ける主軸の回転振れが大きい場合には、工具が正常状態であっても回転周波数成分が大きく、かつ、ばらつきも大きくなることを確認している。回転周波数成分は欠損以外の要因でも増加するため、欠損の判定周波数は回転周波数成分ではなく、それ以外の周波数成分(例えば、回転周波数の2倍成分~(刃数-1)倍成分の中で最も変化量の大きい周波数成分)を用いた方が好適である。
【0054】
なお、回転周波数成分を判定に用いることも可能であり、その場合には、正常時に異常と判定するリスクを低減するために、主軸の回転振れや工具へのインサートの取り付けばらつきなどを抑えて正常時に回転周波数成分が小さくなる施策をすることが必要である。
【0055】
≪制御パラメータ設定処理≫
図18は、異常検知装置1による切削工具の異常検知処理を実行する前にユーザが制御パラメータを入力する画面例を示す。ユーザにより起動された制御パラメータ設定部25は、表示部12に制御パラメータ入力画面100を表示して、ガイドに従ってユーザが入力した制御パラメータを受付けて、記憶部3の制御パラメータ32に登録する。
【0056】
制御パラメータ入力画面100の加工条件入力欄101には、回転数[min-1]:主軸7の回転数、工具刃数:切削工具5の刃数、を入力する。
【0057】
測定条件入力欄102には、測定時間[s]:加工を開始してから終了するまでの信号測定時間(常時入力する)、サンプリング時間[s]:測定部14による電流値、電圧値のサンプリング周期、を入力する。
【0058】
加工機制御方法入力欄103には、加工機制御105:切削工具5の異常判定時に加工機指令部24が加工機4へ出力する指令内容(加工機動作)、をプルダウン108を押下して表示されるメニュー(工具交換、工具退避、など)から選択して入力する。
【0059】
測定信号処理方法入力欄104には、事前処理方法106:信号処理部22が実行する電圧値、電流値などの測定信号への事前信号処理、をプルダウン109を押下して表示されるメニュー(ローパスフィルタ、ハイパスフィルタ、バンドパスフィルタ、移動平均フィルタ、など)から選択して入力する。
また、データ抽出開始時間[s]:加工中の測定信号を信号処理部22が記憶部3の測定信号33に記録し、その測定信号33から異常検知処理を実行する対象として、同時作用刃数がなるべく1個の加工状態となると予測される加工経路上の加工領域の測定信号を読み出すためのデータ抽出開始時間(測定時間の開始時間からの経過時間で指定される)、を入力する。
周波数解析データ数[個]:周波数解析の高速フーリエ変換を行う場合に、サンプリング時間毎のデジタル信号(測定信号)を2のべき乗の数でひとまとめにしてスペクトル解析をする。そのひとまとめのデータ数、を入力する。
周波数解析回数[回数]:1回でひとまとめに周波数解析データ数の測定信号を高速フーリエ変換する処理を連続して繰り返す回数、を入力する。
判定周波数(回転周波数n倍)107:切削工具の欠損を判定するために採用する周波数スペクトル分布における判定周波数(回転周波数のn倍の「n」値を指定) 、を入力する。なお、実際の周波数を入力することでもよい。
閾値:切削工具の欠損を判定するために採用する判定周波数の振幅(正規化値)が、工具の欠損後に超えると予測される適正な閾値(加工機で該当切削工具のインサートを1個外して予め実測して決めるのが望ましいが、過去の同様の加工条件における経験値を参考として決めても良い)、を入力する。なお、本実施例では、周波数スペクトル分布を算出する際に、基本周波数の振幅を1に正規化して各周波数の振幅を正規化しているため、閾値は正規化された振幅に対応する値を指定することになるが、周波数スペクトル分布を算出する際に、基本周波数の振幅を1に正規化しない運用の場合には、閾値は正規化されていない振幅に対応する値を指定することになる。
【0060】
≪異常検知処理≫
図19は、異常検知装置1の異常検知処理部21が実行する異常検知処理のフローチャートの例である。本処理に先立ち、制御パラメータ設定部25により制御パラメータ32が登録されている。
【0061】
ステップS10において、加工機4のNC装置10が被削材6の加工開始時に、加工開始信号を発して、該信号を受けて異常検知処理部21が起動される。測定部14も、加工開始時に測定を開始して、加工機4のサーボアンプ9と主軸モータ8の間より得られた電流値あるいは電力値の測定信号(デジタル信号)を出力する。
なお、測定部14の測定開始は、加工機4の動作を基に行う。対象となる工具の保持具などにセンサを取り付けて工具の回転の検知や、NCプログラムの情報を監視して特定の文字列の読み込みなどを測定開始のトリガとしてもよい。
【0062】
ステップS11において、信号処理部22を起動する。信号処理部22は、以後継続して測定部14から測定信号を入力して、事前処理方法106で指定した事前信号処理を施して、測定信号を記憶部3の測定信号33記憶領域に時系列に記録する。
【0063】
ステップS12において、切削加工がなるべく同時作用刃数が1個の加工状態となる加工経路の測定信号だけを周波数解析するように、該当加工経路に達する時間を制御パラメータとして予め設定しておいたデータ抽出開始時間を読み出す。そのデータ抽出開始時間の測定信号から、周波数解析データ数の測定信号が記憶部3の測定信号33記憶領域に格納されるまで待機する。既に、周波数解析データ数の測定信号が格納されていれば待機は不要である。
【0064】
ステップS13において、解析判定部23を起動して、解析判定部23が記憶部3の測定信号33記憶領域から、1回の高速フーリエ変換を行うのに使用するデータ数(周波数解析データ数)の測定信号を抽出して、周波数スペクトルを算出する。基本周波数成分を1に正規化する基準で、各周波数成分を正規化する。
【0065】
ステップS14において、解析判定部23が、周波数スペクトルの判定周波数の振幅が閾値を超えたか否かを判定する。超えていればS16へ移行する。超えていなければS15へ移行する。
【0066】
ステップS15において、制御パラメータの周波数解析回数で指定した連続で実施する周波数解析の回数が複数であり、未だ実施すべき周波数解析が残っていればS12へ移行する。連続で実施する周波数解析を全て終了したならばS17へ移行する。ただし、残りの加工経路上で再び周波数解析を実施することを意図して、制御パラメータ設定処理において、データ抽出開始時間を複数入力して、それに対応させて周波数解析回数も複数入力したならば、残りの加工経路上で次の周波数解析が在れば、S12へ移行する。
【0067】
ステップS12において、連続で実施する周波数解析における次の周波数解析が在る場合には、先に実施した周波数解析で使用した測定信号データに続いて、次の周波数解析で使用する周波数解析データ数の測定信号が記憶部3の測定信号33記憶領域に格納されるまで待機する。既に、周波数解析データ数の測定信号が格納されていれば待機は不要である。
【0068】
ステップS16において、加工機指令部24を起動して、加工機指令部24が制御パラメータの加工機制御105により指定された加工機4へ出力する指令を作成して、NC装置10へ出力する。
加工機の制御の具体的な例としては、別の切削工具5に交換すること、または切削工具5を退避して加工を停止することなどである。なお、自動工具交換機を備えた加工機の場合、複数の切削工具5を自動工具交換機に搭載しておき、異常検知後に、別の切削工具5に交換する制御をすることで、自動生産ラインの稼動を継続することができる。
【0069】
ステップS17において、信号処理部22を停止する。
ステップS18において、異常検知処理部21を停止する。
【0070】
異常検知処理は、切削工具が欠損したと判定した場合には、加工機4へ切削工具交換などの指令を出力して処理を終了する。加工機4側で、切削工具を交換などした後、加工を再開する場合には、NC装置10から加工再開の信号が送られて、異常検知装置1の異常検知処理部21が再起動されることになる。その場合には、測定時間は前回の加工中断時点から再開されるようにする。
【0071】
以上では、測定信号は電流値を用いた例を説明したが、電力値も同様の処理を行えばよい。パラメータの単位が電流値[A]から電力値[W]に変わり、それ以外は同様である。
【0072】
本実施例によれば、工具のインサートが1個損傷した状態を検出できるため、工具ボディまでの破損拡大と、連続的な加工不良の発生を抑制できるため、破損抑制による工具費低減および加工不良に係わる対策費用の低減などの効果が得られる。例えば工具径40mm、刃数4枚の切削工具で、幅6mm、深さ5mm、長さ200mmの肩削り加工をステンレス系鋳物材で繰返し行う場合、本実施例の適用により工具費を約50%削減し、工具破損後の段取り時間の低減により、生産数を10%向上することができる。
【0073】
本実施例では、切削工具5が複数の刃先(インサート)を交換することが可能なスローアウェイエンドミルと呼ばれるタイプの切削工具で説明した。同様のことが、複数の切れ刃とシャンク(エンドミルの柄部)が一体型のソリッドエンドミルと呼ばれるタイプの切削工具でも説明が可能である。このソリッドエンドミルを使用して、異常検知処理を実施して、1個の切れ刃が損傷した状態を検出した場合には、直ちに取り外して再研磨、再コーティングして使用可能とすることができる。
【実施例2】
【0074】
本実施例では、加工を始めてから所定のタイミングにおける特定の周波数の振幅を基準値としてレベル補正し、そのレベル補正後の各加工の判定周波数の振幅のレベル補正値の増加により工具の異常を検知する異常検知装置の例を示す。
【0075】
図20は、実施例2に係る切削工具の異常検知装置111を備えた加工機4を示すブロック図である。加工機4に切削工具の異常検知装置111が取り付けられた構成である。
【0076】
異常検知装置111は、実施例1で示した異常検知装置1に対して、工具情報記憶部を備えた工具ホルダ160と、工具情報取得センサ112と、インサート交換検知部113と、所定タイミングの判定振幅の記憶部114と、1つ前の加工の判定振幅のレベル補正値の記憶部115を追加した構成となる。
【0077】
工具情報取得センサ112は、切削工具5を把持した工具情報記憶部を備えた工具ホルダ160から工具の情報を取得する。工具情報記憶部を備えた工具ホルダ160には工具情報を格納したICコードチップ等が備えられている。インサート交換検知部113では、工具情報取得センサ112で取得した情報からインサートの交換を検知する。
【0078】
工具情報記憶部を備えた工具ホルダ160のICコードチップにおいて、数字などで構成する特定のコードをインサート交換時に書き換えることで、それをインサート交換検知部113で検知して、インサートの交換を判断することができる。
【0079】
記憶部3に備えた所定タイミングの判定振幅の記憶部114では、インサート交換の信号を元に、インサート交換直後の加工における判定周波数の振幅を記憶する。解析判定部23では、次のインサート交換までに継続して実施される各加工において算出される判定周波数の振幅に対して、記憶したインサート交換直後の加工における判定周波数の振幅を基準値としてレベル補正する。その後、レベル補正後の判定周波数の振幅のレベル補正値の増加により切削工具5の異常を判定する。このレベル補正の処理により、判定周波数の振幅に生じるインサート交換時の取り付けばらつきの影響が抑制される。
【0080】
なお、インサート交換後にテスト加工等を行う場合には、判定周波数の振幅を記憶するタイミングは、インサート交換直後ではなく、実際に対象製品の加工を開始する時など、所定のタイミングに設定してもよい。
【0081】
記憶部3に備えた1つ前の加工の判定振幅のレベル補正値の記憶部115では、1つ前の加工におけるレベル補正後の判定周波数の振幅のレベル補正値を記憶する。解析判定部23では、その次の加工におけるレベル補正後の判定周波数の振幅のレベル補正値と、記憶されたデータとの差分を算出し、その差分の増加により切削工具5の異常を判定する。
【0082】
図21は、3枚刃工具の加工における主軸サーボモータ電流の周波数スペクトル分布である。切削速度100m/min、1刃送り量0.15mm/toothの条件で、幅6mm、深さ3mmの肩削りをした例である。121が回転周波数成分で、122が基本周波数成分であり、基本周波数成分122を1に正規化している。この結果は、インサート交換直後のものであるが、インサートの取り付けばらつきや、主軸の回転振れ等の影響により、3枚刃工具の判定周波数(図17の表より、判定周波数は回転周波数)である回転周波数の振幅はインサートの使い始めから大きい場合が多い。
【0083】
図22は、3枚刃工具の判定周波数の振幅の変化を累積加工数に対して示すグラフである。被削材にはステンレス系鋳物材を用い、直径20mmの3枚刃の刃先交換式エンドミルで加工した例である。幅6mm、深さ3mm、長さ200mmの肩削り加工を加工数1個とカウントしている。また、工具寿命を30個に設定し、30個の加工毎にインサートを交換した(詳しくは切れ刃となるコーナ部の交換(切り替え)であるが、以後、インサート交換と呼ぶ)。
【0084】
図中の矢印で示す範囲がインサートの同じコーナ部での加工を表す(以後、矢印で示す各範囲を、インサート123、インサート124、インサート125の加工と呼ぶ)。図中の“○”はインサート交換直後の1つ目の加工を示す。
【0085】
インサート124の加工では、インサート交換直後の1つ目(124a)から他のインサートに比べて判定周波数の振幅が大きい。この図の結果では、いずれのインサートにも欠損が発生していないが、インサート124を工具異常と検知しないようにするには、閾値126をインサート124の振幅より大きく設定する必要がある。それゆえ、インサート123や125のように判定周波数の振幅が小さい場合には欠損が発生しても、閾値を超えずに異常を検知できない恐れがある。
【0086】
図23は、その縦軸が図22の縦軸が表す判定周波数の振幅の単位と同じ単位を持ち、かつ値域が負の領域まで拡張した座標軸を表し、各インサートの1つ目の加工の判定周波数の振幅を縦軸の0に合わせるようにレベル補正した3枚刃工具の判定周波数の振幅のレベル補正値の変化を累積加工数に対して示すグラフである。これは、図22に示す各インサートの各加工の判定周波数の振幅に対して、各インサートにおいて1つ目の加工の判定周波数の振幅がゼロになるようにレベル補正した補正量を、続く2つ目以降の各加工の判定周波数の振幅にも同じ量のレベル補正(前記補正量を減算)を施したものである。判定周波数の振幅のレベル補正値はゼロ近傍に集まっており、図22の閾値126に比べて閾値127(以後、レベル補正後の閾値と呼ぶ)をインサート123とインサート125のデータに近づけて設定することができる。
【0087】
これにより、インサートの欠損発生時に判定周波数の振幅の増加が小さい場合であっても検知が可能となる。この工具異常の判定手法は、回転周波数を判定周波数とする場合に特に有効である。なお、レベル補正は、インサートの1つ目の加工の判定周波数の振幅をレベル補正用の基準値として記憶し、その後の振幅からレベル補正用の基準値を減算することでレベル補正値を得ることが一例である。さらに、なお、「一つ目」は初回の加工の一例である。加工者が定めた作業において、インサート交換後の初回と考えられる加工であれば「二つ目」の加工でも初回の加工でもよい。例えば「一つ目」の加工は工具の状態を確認するための試し加工で、「二つ目」の加工が実際の対象製品を加工する場合である。なお、基準値はほかの時点の振幅を用いてもよい。
【0088】
図24は、加工数に対して1つ目の加工の判定周波数の振幅を縦軸の0に合わせる基準にレベル補正した3枚刃工具の判定周波数の振幅のレベル補正値の変化を示すグラフである。これは図23で示したインサートとは別のインサート(詳しくは別のコーナ部)の結果である。レベル補正後の閾値127を超えるデータは見られないが、10個目の加工(128)後に加工面に傷が発生していることに気付き、切削工具の欠損が確認された例である。加工面の傷は6個目の加工(129)から発生しており、ここで切削工具に欠損が発生した可能性が高いと推定される。
【0089】
図24の事例において、5個目の加工に対して6個目の加工では、判定周波数の振幅のレベル補正値の増加が大きいが、レベル補正後の閾値127を超えていない。これは、1個目の加工から5個目の加工までは、加工数の増加に対して判定周波数の振幅のレベル補正値が減少する傾向となっているのが要因と推定される。
【0090】
この事象としては、インサート交換時に3枚のインサートの中で特に飛び出して固定されたものがあり、加工数の増加に伴い、その飛び出したインサートの損耗が進行して、加工に対する3枚のインサートの作用が均等化されていき回転周波数成分(判定周波数の振幅のレベル補正値)が減少したと考えられる。そして、6個目の加工で損耗が大きくなって、そのインサートに欠損が発生したと推定される。
【0091】
図25は、図24に示す3枚刃工具の1つ目の加工の判定周波数の振幅のレベル補正値を、さらに今回と前回の値の差分値を計算し、差分値を縦軸の座標として各加工ごとにプロットしたグラフである。ここで、1つ目の加工のレベル補正値は自身のレベル補正値との差分を取って縦軸の座標は0とする。なお、差分値を計算するにあたり、「前回の」レベル補正値以外の過去のレベル補正値を用いてもよい。異常値の排除や、数値計算の精度上等何かしらの理由で前回のレベル補正値を用いることが好適でない場合も考えられるためである。
【0092】
図25の事例において、インサートの欠損発生を推定した6個目(130)の加工で差分値が大きく増加している。これを閾値131(以後、差分の閾値と呼ぶ)に対する超過によって異常を検知することで、加工の進行に伴って回転周波数の振幅が減少した後に、異常発生した場合でも工具の異常を検知することが可能となる。なお、ここでは1つ前の加工のレベル補正値との差分は、負の値を含む実数で示したが、絶対値での評価も有効である。
【0093】
これまで説明した工具異常の各判定手法は、単独での使用だけでなく、組み合わせて使用することも可能である。各判定手法の使用例および特徴を示す。
【0094】
実施例1で示した判定周波数の振幅を直接閾値判定にて工具の異常を判定する手法(以後、判定周波数の振幅で直接的に工具異常を判定する手法と呼ぶ)は、回転周波数を判定周波数に用いない4枚刃以上の切削工具に有用である。また、データの取得や処理(記憶や演算)が、他の判定手法に比べて簡便なことが特徴である。この手法は単独で使用する。
【0095】
実施例2で先に示した、1つ目の加工の判定周波数の振幅がゼロになるようにレベル補正した補正量を、続く2つ目以降の各加工の判定周波数の振幅にも同じ量のレベル補正を施したレベル補正値を用いて、閾値超過にて工具の異常を判定する手法(以後、レベル補正したデータによる工具の異常判定手法と呼ぶ)は、回転周波数を判定周波数に用いる3枚刃以下の切削工具に特に有効であり、また、4枚刃以上の切削工具への適用も問題はない。また、この手法は、加工の進行に伴って工具の異常が徐々に進行して最終的に大きくなるケースの工具の異常検知に有効である。例えば、インサートの損耗が少しずつ進行して最終的に欠けが大きくなる場合や、また、インサートを固定するネジが徐々に緩み、緩みが大きくなった場合等も検知することができる。
【0096】
実施例2で後に示した、1つ目の加工の判定周波数の振幅を基準にレベル補正した各加工の判定周波数の振幅のレベル補正値と、1つ前の加工のレベル補正値との差分を算出して、その差分を用いて閾値超過にて工具の異常を判定する手法(以後、差分データによる判定手法と呼ぶ)は、刃先の変化が最も反映され易く、比較的小さい欠損も検知が可能である。そのため、回転周波数を判定周波数に用いる工具を含めて、全ての工具に有効である。
【0097】
なお、刃先が徐々に損耗(変化)して、その蓄積が大きくなって異常となるケースは、差分データによる判定手法に比べてレベル補正したデータによる工具の異常判定手法の方が好適である。このため、この2つの判定手法を併用することで、より多様なケースの工具異常の検知が可能となる。
【0098】
≪判定結果表示≫
図26は、表示部12におけるレベル補正後の判定周波数の振幅のレベル補正値の1つ目の表示例である。表示部12に設けたレベル補正後の判定周波数の振幅のレベル補正値表示領域139に、1つ目の加工の判定周波数の振幅を基準にレベル補正した各加工の判定周波数の振幅のレベル補正値141と、レベル補正後の閾値140を累積加工に対して表示した例である。インサート交換直後の1つ目の加工の判定周波数の振幅のレベル補正値142a、142b、142cを他のデータと区別して白丸“〇”で表示している。現状加工中のインサート(142c)と、その2つ前までに交換したインサート(142a、142b)の判定周波数の振幅のレベル補正値の推移を確認することができる。
【0099】
図27は、表示部12におけるレベル補正後の判定周波数の振幅のレベル補正値の2つ目の表示例である。インサート交換直後の1つ目の加工の累積加工数を矢印143a、143b、143cにて表示した例である。
【0100】
図28は、表示部12におけるレベル補正後の判定周波数の振幅のレベル補正値の3つ目の表示例である。インサート交換直後の1つ目の加工の累積加工数を一点鎖線144a、144b、144cにて表示した例である。
【0101】
図29は、表示部12におけるレベル補正後の判定周波数の振幅のレベル補正値の4つ目の表示例である。インサート交換毎にマーカを切り替えて表示する例である。145、146、147は異なるインサートの結果であり、マーカの種類によりインサートを判別することができる。
【0102】
図30は、表示部12におけるレベル補正後の判定周波数の振幅のレベル補正値の4つ目の表示例において、累積加工数が増えた例である。設定工具寿命30個の3回分のデータを1度に表示する設定とし、3回分のデータを超えた場合に、横軸の累積加工数を設定工具寿命分(30個)ずらして表示する例である。図29で中央に表示されていたインサート146のデータが図30では左端にずれて、インサート148のデータがインサート146と同じマーカで表示されている。
【0103】
図31は、表示部12におけるレベル補正後の判定周波数の振幅のレベル補正値の5つ目の表示例である。横軸は加工数を示し、インサート毎(詳しくは切れ刃となるコーナ部毎)に表示する。この例では、図29のインサート145と同じデータを表示している。
【0104】
図26図31は、いずれもインサート交換毎に1つ目の加工の判定周波数の振幅を縦軸の0に合わせるようにレベル補正した時のレベル補正用の基準値を、続く2つ目以降の各加工の判定周波数の振幅にも適用して計算したレベル補正値の推移を確認できるものである。ここでは図示しないが、差分データによる判定手法の結果も、同様にインサート交換毎に確認できるように表示する。
【0105】
なお、ここで示した表示例は、あくまでも一例であり、表示するマーカや破線等、また、一度に表示するデータ数には限定はない。また、本実施例は、加工の単位を加工数(個)で示したが、加工の進行によって増加するものであれば、切削体積や切削距離等に置き換えても支障はない。
【0106】
≪制御パラメータ設定処理≫
図32は、実施例2の異常検知装置111による切削工具の異常検知処理を実行する前にユーザが制御パラメータを入力する画面例を示す。図18で示した実施例1の制御パラメータ入力画面100の中の測定信号処理方法入力欄104を、実施例2用に拡張した測定信号処理方法入力欄150を図32に示す。
【0107】
測定信号処理方法入力欄150には、実施例1の判定周波数の振幅で直接的に工具異常を判定する手法の閾値入力欄151に加えて、実施例2のレベル補正後の閾値入力欄152と、差分の閾値入力欄153が追加されている。レベル補正したデータによる工具の異常判定手法の閾値は、レベル補正後の閾値入力欄152に入力する。また、差分データによる判定手法の閾値は、差分の閾値入力欄153に入力する。
【0108】
なお、各閾値の入力欄は、使用する判定手法の閾値に限定した方がよいが、使用しない閾値の入力欄を設けた場合でも、特定の数値が入力されている場合に、その閾値で判定する手法は使用しない設定等とすれば、入力欄があっても支障はない。
【0109】
図32に示す測定信号処理方法入力欄150の閾値入力欄に0.0が入力された場合に、その閾値で判定する手法は使用しない設定の例である。閾値入力欄151は、判定周波数の振幅で直接的に工具異常を判定する手法の閾値であり、0.0が入力されているため、この手法は使用しない設定となる。
【実施例3】
【0110】
実施例1では、測定部14によるサーボモータ電流あるいは電力を測定する例を示したが、加工機によっては、イーサネット(登録商標)回線にてPC(パーソナルコンピュータ)を接続して計測用アプリケーションによりサーボモータ電流が取得できる。
【0111】
すなわち、図1の測定部14を、異常検知装置本体15の演算部2の中に測定部を有する構成とする。この測定結果を測定信号に用いても問題ない。また、計測用アプリケーションにフィルタ等の信号処理機能が備わっている場合には、その機能を用いても問題は無い。
【0112】
また、実施例2では、インサート交換のタイミングを工具情報取得センサ112と、インサート交換検知部113により検出する例を示したが、加工機によっては、これもイーサネット回線にてPC(パーソナルコンピュータ)を接続して加工機から直接的に工具の加工数を取得して、その情報からインサート交換を判断できる。
【0113】
すなわち、図20のインサート交換検知部113を、異常検知装置本体15の演算部2の中にインサート交換検知部を有する構成とする。取得した加工数によるインサート交換の判断結果をインサート交換信号に用いても問題ない。
【0114】
また、実施例1および実施例2では、周波数スペクトル分布において基本周波数成分を1に正規化して、制御パラメータで指定した回転周波数のn倍の成分を閾値判定しているが、必ずしも1に正規化する必要は無く、比率等で判定しても構わず、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
【0115】
以上、実施例1乃至3では、下記を説明した。
【0116】
複数の刃を備える切削工具の欠損を検知する異常検知方法は、
(A)前記切削工具が装着された工作機械の主軸を回転させる主軸モータの電流値または電力値の測定結果である測定信号を受信し、
(B)前記測定信号をフィルタ処理して記憶部に時系列に記憶し、
(C)異常検知し、
(D)(C)の異常検知にて工具欠損有りと判定した場合に、制御パラメータで指定された加工機制御の指令を前記工作機械に出力し、
(C)の異常検知は、
(C1)前記記憶された測定信号から、同時作用刃数が1個と予測される加工領域の周波数解析データ数の測定信号を抽出して周波数スペクトルを算出し、
(C2)前記周波数スペクトルにおける制御パラメータで指定された判定周波数(=回転周波数×n、ただし 1≦n<工具刃数、nは整数)の振幅と、制御パラメータで指定された閾値と、に基づいて前記工具欠損有りと判定する。
【0117】
なお、前記判定周波数は、前記切削工具が正常状態から1刃が欠損した状態に変化した時の、周波数スペクトルの変化が最大又は最大の次点の周波数を指定する値としてもよい。
【0118】
なお、(C)の異常検知は、制御パラメータでデータ抽出開始時間を指定され、
前記データ抽出開始時間は、NC装置から発する加工開始信号を基準とする測定時間において、同時作用刃数が1個となる加工領域での測定信号を周波数解析するための制御パラメータとしてもよい。
【0119】
なお、(C2)の前記工具欠損有りとの判定は、
(C2a)所定の加工のタイミングでの判定周波数の振幅を、レベル補正用基準値として記憶し、
(C2b)その後に続く各加工で算出される前記振幅から、前記レベル補正用基準値を減算するレベル補正を実施してレベル補正値を得て、
(C2c)前記レベル補正値と、前記閾値と、に基づいて、前記工具欠損有りと判定してもよい。
【0120】
なお、前記レベル補正用基準値は、前記切削工具の刃を交換後の初回の加工における前記判定周波数の前記振幅であり、
その後に続く各加工では、(C2c)の前記工具欠損有りとの判定は、
(C2c1)前記振幅に基づいて計算されたレベル補正値の過去の値との差分値を計算し、
(C2c2)前記計算した差分値と、前記閾値と、に基づいて、工具欠損有りと判定してもよい。
【0121】
なお、(E)表示部に、累積加工数に従った前記レベル補正値の変化を、刃の交換毎のデータが判別可能となるように表示したり、あるいは、(E)表示部に、加工数に従った前記レベル補正値の変化と前記差分値の変化と、を刃の交換毎のデータが判別可能となるように表示してもよい。
【0122】
なお、以上の説明では、前述の異常検知方法をハードウェア(例えば異常検知装置、又は計算機)で実現する形態や、異常検知方法を計算機で実行させるためのプログラムや、当該ハードウェアと工作機械とを含むシステム形態についても説明した。なお、当該プログラムはコンピュータが読み取り可能な記憶媒体(記憶部3と同種の媒体を用いてもよい)に格納されて配布されてもよい。なお、当該プログラムはプログラム配布計算機により配布されてもよい。プログラム配布計算機は、当該プログラムを記憶した記憶媒体(記憶部3と同種の媒体を用いてもよい)と、当該記憶媒体からプログラムを読み出し、ネットワークインターフェースを介して他の計算機にプログラムを配信する演算部(演算部2と同種でもよい)と、ネットワークインターフェースと、を有してもよい。
【符号の説明】
【0123】
1…異常検知装置、2…演算部、3…記憶部、4…加工機、5…切削工具、6…被削材、7…主軸、8…主軸モータ、9…サーボアンプ、10…NC装置、11…入力部、12…表示部、13…通信部、14…測定部、15…異常検知装置本体、21…異常検知処理部、22…信号処理部、23…解析判定部、24…加工機指令部、25…制御パラメータ設定部、31…切削工具異常検知プログラム、32…制御パラメータ、33…測定信号、
41…インサート、42…コーナ部、43…工具ボディ、44…固定ネジ、46…損傷、50…測定信号、51…スパイク状の波形、52…工具破損前の範囲、53…工具破損後の範囲、54…振幅の小さい波形、55…振幅の大きい波形、60…基本周波数成分、61…回転周波数成分、62…回転周波数の2倍成分、63…回転周波数の3倍成分、64…閾値、65…基本周波数成分、66…回転周波数成分、67…回転周波数の2倍成分、68…回転周波数の3倍成分、70…基本周波数成分、71…回転周波数成分、72…回転周波数の2倍成分、73…回転周波数の3倍成分、74…閾値、75…一点鎖線、80…基本周波数成分、81…インサートの欠損に対応する波形、82…欠損したインサートの加工を負担したインサートの波形、83…基本周波数成分、84…回転周波数成分、85…回転周波数の2倍成分、86…回転周波数の3倍成分、91…回転周波数成分、92…回転周波数の2倍成分、93…回転周波数の3倍成分、100…制御パラメータ入力画面、101…加工条件入力欄、102…測定条件入力欄、103…加工機制御方法入力欄、104…測定信号処理方法入力欄、105…加工機制御(制御パラメータ)、106…事前処理方法(制御パラメータ)、107…判定周波数(回転周波数n倍)(制御パラメータ)、108…加工機制御方法の項目選定プルダウン、109…事前処理方法の項目選定プルダウン、110…工具ホルダ、111…異常検知装置、112…工具情報取得センサ、113…インサート交換検知部、114…所定タイミングの判定振幅の記憶部、115…1つ前の加工の判定振幅のレベル補正値の記憶部、121…回転周波数成分、122…基本周波数成分、123…1つめインサートコーナ部の加工範囲、124…2つめインサートコーナ部の加工範囲、125…3つめインサートコーナ部の加工範囲、126…閾値、127…レベル補正後の閾値、128…10個目の加工のレベル補正値、129…6個目の加工のレベル補正値、130…6個目の加工の1つ前加工データとの差分、131…差分の閾値、139…レベル補正後の判定周波数の振幅表示領域、140…レベル補正後の閾値、142…インサート交換直後の1つ目の加工データ、143…インサート交換直後の1つ目の加工を示す矢印、144…インサート交換直後の1つ目の加工を示す一点鎖線、145…1つ目インサートの加工範囲、146…2つ目インサートの加工範囲、147…3つ目インサートの加工範囲、148…4つ目インサートの加工範囲、150…測定信号処理方法入力欄、151…判定周波数の振幅の直接判定用閾値入力欄、152…レベル補正後の閾値入力欄、153…差分の閾値入力欄、160…工具情報記憶部を備えた工具ホルダ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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