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特許7120213高純度エチレンカーボネート含有組成物の安定化方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】高純度エチレンカーボネート含有組成物の安定化方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 317/38 20060101AFI20220809BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALN20220809BHJP
   H01M 10/052 20100101ALN20220809BHJP
【FI】
C07D317/38
H01M10/0569
H01M10/052
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019506995
(86)(22)【出願日】2018-03-22
(86)【国際出願番号】 JP2018011520
(87)【国際公開番号】W WO2018174196
(87)【国際公開日】2018-09-27
【審査請求日】2021-03-15
(31)【優先権主張番号】P 2017056662
(32)【優先日】2017-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017056663
(32)【優先日】2017-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017056664
(32)【優先日】2017-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】峯元 紘毅
(72)【発明者】
【氏名】磯貝 隆行
【審査官】三木 寛
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/065528(WO,A1)
【文献】特開2000-297055(JP,A)
【文献】特開2014-051484(JP,A)
【文献】特開2002-201148(JP,A)
【文献】特開2007-022976(JP,A)
【文献】国際公開第2007/108213(WO,A1)
【文献】特開平07-089905(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 317/38
H01M 10/0569
H01M 10/052
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
90質量%以上のエチレンカーボネートを含有する高純度エチレンカーボネート含有組成物中の蟻酸及びその塩の含有量を合計で500質量ppm以下に調整する工程を含み、
前記調整する工程が、前記高純度エチレンカーボネート含有組成物中の蟻酸及びその塩の合計含有量を測定する工程、及び
500質量ppm以下のものを選択する工程を含む、
高純度エチレンカーボネート含有組成物の安定化方法。
【請求項2】
90質量%以上のエチレンカーボネートを含有する高純度エチレンカーボネート含有組成物中の2-クロロエタノールの含有量を500質量ppm以下に調整する工程を含み、
前記調整する工程が、前記高純度エチレンカーボネート含有組成物中の2-クロロエタノールの含有量を測定する工程、及び
500質量ppm以下のものを選択する工程を含む、
高純度エチレンカーボネート含有組成物の安定化方法。
【請求項3】
前記高純度エチレンカーボネート含有組成物中の酸化鉄の含有量を100質量ppm未満に調整する工程をさらに含む
請求項1又は2に記載の高純度エチレンカーボネート含有組成物の安定化方法。
【請求項4】
前記高純度エチレンカーボネート含有組成物の前記エチレンカーボネートの含有量が99.90質量%以上である
請求項1~のいずれか一項に記載の高純度エチレンカーボネート含有組成物の安定化方法。
【請求項5】
以下の工程を含む、90質量%以上のエチレンカーボネートを含有する高純度エチレンカーボネート含有組成物の製造方法。
(1)エチレンオキサイドと二酸化炭素とを反応させてエチレンカーボネート含有組成物を得る反応工程
(2)前記エチレンカーボネート含有組成物中の蟻酸及びその塩の合計含有量又は2-クロロエタノールの含有量を測定する工程
(3)前記蟻酸及びその塩の合計含有量又は2-クロロエタノールの含有量が500質量ppm以下のものを選択する工程

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高純度エチレンカーボネート含有組成物の安定化方法、並びに、安定化された高純度エチレンカーボネート含有組成物、その保存方法、及びリチウムイオン電池用電解液等に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレンカーボネートは、各種高分子化合物の溶媒、各種化学反応の反応溶媒、抽出溶媒、発泡剤、潤滑安定剤、界面活性剤、土壌改質材等として多岐にわたり使用されている。また近年では、レジスト剤やレジスト剥離剤、医薬品等の分野においても、その使用が拡大しつつある。特に、高純度のエチレンカーボネートは、その高誘電率特性のために、リチウムイオン二次電池の電解液原料として工業的に有用な有機化合物である。また、エチレンカーボネートを加水分解させることにより、ポリエステル原料や不凍液等に使用できるエチレングリコールを選択的に生産することもできる。
【0003】
エチレンカーボネートの製造方法としては、エチレンオキシドと二酸化炭素の反応により製造できることが知られている。この反応を行うと、反応後の生成物中には、主生成物であるエチレンカーボネートの他に、反応に用いた触媒、モノエチレングリコールやジエチレングリコール等のグリコール類等の反応副生物、さらに加水分解させる場合には、水や加水分解触媒が含まれている。そこで、上記のような不純物を除去するために、減圧蒸留法や冷却晶析法等によるエチレンカーボネートの精製が行われている(特許文献1~3等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平7-89905号公報
【文献】特開2014-51484号公報
【文献】国際公開2007/108213号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、エチレンカーボネートをリチウムイオン電池の電解液として長時間用いた場合には、電気化学反応によりエチレンカーボネートが変性し、電極表面の堆積物や分解ガスが発生してリチウムイオン電池の劣化が進行する。具体的には以下のような現象により、リチウムイオン電池の劣化が生じていると考えられる。1つ目は電解液に組成の変化による溶媒の不可逆な交換反応、2つ目は抵抗成分の増大による反応生成物等の電極表面への堆積、3つ目は炭化水素等のガス発生にともなう電池内圧の上昇である。しかも、電解液の組成の変化、それにより生じる粘性や密度等の変化等によって、かかる劣化が促進され得る。
【0006】
一方、近年においては、高純度、例えば純度が90質量%以上のエチレンカーボネートの提供が求められるようになってきている。ところが、高純度エチレンカーボネートに含まれる微量成分の具体的な挙動は、これまで何ら着目されてこなかった。しかしながら、本発明者らの検討により、未使用の高純度エチレンカーボネート(上記の例ではリチウムイオン電池の電解液として使用する前のエチレンカーボネート)において、意図せぬことに、経時的な変性や組成変化(以降において、単に「変性」と称する場合がある。)が生じることがわかってきた。
【0007】
そのため、未使用時のエチレンカーボネートの変性メカニズムを解明し、これを抑制することは、単に高品質のエチレンカーボネートを提供するという観点のみならず、各種用途で使用する際に高品質を長期間維持するという観点からも、喫緊の課題となっている。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、第一実施形態及び第二実施形態の目的は、高純度エチレンカーボネート含有組成物の経時的な変性を抑制するための、新規な安定化方法を提供することにある。また、第一実施形態及び第二実施形態に係る発明の別の目的は、経時的な変性が抑制された、安定化された高純度エチレンカーボネート含有組成物、及びその保存方法、並びにこれらを用いたリチウムイオン電池用電解液等を提供することにある。また、第三実施形態の目的は、安定化された高純度エチレンカーボネート含有組成物、その保存方法、及びこれらを用いたリチウムイオン電池用電解液等を提供することにある。また、第三実施形態に係る発明の別の目的は、そのような安定化された高純度エチレンカーボネート含有組成物を安定して製造可能な製造方法を提供することにある。
【0009】
なお、ここでいう目的に限らず、後述する発明を実施するための形態に示す各構成により導かれる作用効果であって、従来の技術によっては得られない作用効果を奏することも、本発明の他の目的として位置づけることができる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は上記課題を解決するため鋭意検討した結果、高純度エチレンカーボネート含有組成物における変性メカニズムを解明し、所定の組成に調整することで上記課題を解決し得ることを見出し、本発明に到った。
【0011】
すなわち、本発明の第一実施形態は、以下に示す種々の具体的態様を提供する。
〔A1〕90質量%以上のエチレンカーボネートを含有する高純度エチレンカーボネート含有組成物中の蟻酸及びその塩の含有量(含有割合)を合計で500質量ppm以下に調整する工程を含む、高純度エチレンカーボネート含有組成物の安定化方法。
〔A2〕前記高純度エチレンカーボネート含有組成物中の酸化鉄の含有量を100質量ppm未満に調整する工程をさらに含む〔A1〕に記載の高純度エチレンカーボネート含有組成物の安定化方法。
〔A3〕前記高純度エチレンカーボネート含有組成物中の水の含有量を100質量ppm未満に調整する工程をさらに含む〔A1〕又は〔A2〕に記載の高純度エチレンカーボネート含有組成物の安定化方法。
〔A4〕前記高純度エチレンカーボネート含有組成物の前記エチレンカーボネートの含有量が99.90質量%以上である〔A1〕~〔A3〕のいずれか一項に記載の高純度エチレンカーボネート含有組成物の安定化方法。
〔A5〕90質量%以上のエチレンカーボネートと、合計で500質量ppm以下の蟻酸及びその塩と、を含むことを特徴とする、安定化された高純度エチレンカーボネート含有組成物。
〔A6〕前記蟻酸及びその塩の含有量が、合計で100質量ppm以下である〔A5〕に記載の安定化された高純度エチレンカーボネート含有組成物。
〔A7〕前記蟻酸及びその塩の含有量が、合計で50質量ppm以下である〔A5〕又は〔A6〕に記載の安定化された高純度エチレンカーボネート含有組成物。
〔A8〕前記蟻酸及びその塩の含有量が、合計で10質量ppm以下である〔A5〕~〔A7〕のいずれか一項に記載の安定化された高純度エチレンカーボネート含有組成物。
〔A9〕酸化鉄をさらに含み、前記酸化鉄の含有量が、100質量ppm未満である〔A5〕~〔A8〕のいずれか一項に記載の安定化された高純度エチレンカーボネート含有組成物。
〔A10〕水をさらに含み、前記水の含有量が、100質量ppm未満である〔A5〕~〔A9〕のいずれか一項に記載の安定化された高純度エチレンカーボネート含有組成物。
〔A11〕〔A5〕~〔A10〕のいずれか一項に記載の高純度エチレンカーボネート含有組成物を、密閉容器又は密封容器中に保存することを特徴とする、高純度エチレンカーボネート含有組成物の保存方法。
〔A12〕〔A5〕~〔A10〕のいずれか一項に記載の高純度エチレンカーボネート含有組成物を含むことを特徴とする、リチウムイオン電池用電解液。
ここで、〔A1〕~〔A4〕において、前記調整する工程が、高純度エチレンカーボネート含有組成物中の蟻酸及びその塩の合計含有量を測定する工程、及び500質量ppm以下のものを選択する工程を含むことも好ましい。
【0012】
すなわち、本発明の第二実施形態は、以下に示す種々の具体的態様を提供する。
〔B1〕90質量%以上のエチレンカーボネートを含有する高純度エチレンカーボネート含有組成物中の2-クロロエタノールの含有量(含有割合)を500質量ppm以下に調整する工程を含むを特徴とする、高純度エチレンカーボネート含有組成物の安定化方法。
〔B2〕前記高純度エチレンカーボネート含有組成物中の酸化鉄の含有量を200質量ppm未満に調整する工程をさらに含む〔B1〕に記載の高純度エチレンカーボネート含有組成物の安定化方法。
〔B3〕前記高純度エチレンカーボネート含有組成物中の水の含有量を200質量ppm未満に調整する工程をさらに含む〔B1〕又は〔B2〕に記載の高純度エチレンカーボネート含有組成物の安定化方法。
〔B4〕前記高純度エチレンカーボネート含有組成物の前記エチレンカーボネートの含有量が99.90質量%以上である〔B1〕~〔B3〕のいずれか一項に記載の高純度エチレンカーボネート含有組成物の安定化方法。
〔B5〕90質量%以上のエチレンカーボネートと、500質量ppm以下の2-クロロエタノールと、を含むことを特徴とする、安定化された高純度エチレンカーボネート含有組成物。
〔B6〕前記2-クロロエタノールの含有量が、100質量ppm以下である〔B5〕に記載の安定化された高純度エチレンカーボネート含有組成物。
〔B7〕前記2-クロロエタノールの含有量が、50質量ppm以下である〔B5〕又は〔B6〕に記載の安定化された高純度エチレンカーボネート含有組成物。
〔B8〕前記2-クロロエタノールの含有量が、10質量ppm以下である〔B5〕~〔B7〕のいずれか一項に記載の安定化された高純度エチレンカーボネート含有組成物。
〔B9〕酸化鉄をさらに含み、前記酸化鉄の含有量が、200質量ppm未満である〔B5〕~〔B8〕のいずれか一項に記載の安定化された高純度エチレンカーボネート含有組成物。
〔B10〕水をさらに含み、前記水の含有量が、200質量ppm未満である〔B5〕~〔9〕のいずれか一項に記載の安定化された高純度エチレンカーボネート含有組成物。
〔B11〕〔B5〕~〔B10〕のいずれか一項に記載の高純度エチレンカーボネート含有組成物を、密閉容器又は密封容器中に保存することを特徴とする、高純度エチレンカーボネート含有組成物の保存方法。
〔B12〕〔B5〕~〔B10〕のいずれか一項に記載の高純度エチレンカーボネート含有組成物を含むことを特徴とする、リチウムイオン電池用電解液。
ここで、〔B1〕~〔B4〕において、前記調整する工程が、高純度エチレンカーボネート含有組成物の2-クロロエタノールの含有量を測定する工程、及び500質量ppm以下のものを選択する工程を含むことも好ましい。
【0013】
本発明の第三実施形態は、以下に示す種々の具体的態様を提供する。
〔C1〕90質量%以上のエチレンカーボネートと、モノエチレングリコール及び/又はモノエチレングリコール蟻酸エステルと、を含み、密閉容器又は密封容器中に50℃で125日間経過時における前記モノエチレングリコール及び前記モノエチレングリコール蟻酸エステルの合計含有量(合計含有割合)が、ガスクロマトグラフィー分析において3.0面積%以下であることを特徴とする、安定化された高純度エチレンカーボネート含有組成物。
〔C2〕90質量%以上のエチレンカーボネートと、モノエチレングリコール及び/又はモノエチレングリコール蟻酸エステルと、を含み、密閉容器又は密封容器中に50℃で100日間経過した時における前記モノエチレングリコール及び前記モノエチレングリコール蟻酸エステルの合計含有量が、ガスクロマトグラフィー分析において2.0面積%以下であることを特徴とする、安定化された高純度エチレンカーボネート含有組成物。
〔C3〕90質量%以上のエチレンカーボネートと、モノエチレングリコール及び/又はモノエチレングリコール蟻酸エステルと、を含み、密閉容器又は密封容器中に50℃で50日間経過した時における前記モノエチレングリコール及び前記モノエチレングリコール蟻酸エステルの合計含有量が、ガスクロマトグラフィー分析において1.0面積%以下であることを特徴とする、安定化された高純度エチレンカーボネート含有組成物。
〔C4〕蟻酸及びその塩をさらに含み、該蟻酸及びその塩の含有量が、合計で500質量ppm以下である〔C1〕~〔C3〕のいずれか一項に記載の安定化された高純度エチレンカーボネート含有組成物。
〔C5〕2-クロロエタノールをさらに含み、該2-クロロエタノールの含有量が、500質量ppm以下である〔C1〕~〔C4〕のいずれか一項に記載の安定化された高純度エチレンカーボネート含有組成物。
〔C6〕酸化鉄をさらに含み、該酸化鉄の含有量が、200質量ppm未満である〔C1〕~〔C5〕のいずれか一項に記載の安定化された高純度エチレンカーボネート含有組成物。
〔C7〕水をさらに含み、該水の含有量が、200質量ppm未満である〔C1〕~〔C6〕のいずれか一項に記載の安定化された高純度エチレンカーボネート含有組成物。
〔C8〕前記エチレンカーボネートは、2-クロロエタノール濃度並びに蟻酸及びその塩の含有量がそれぞれ0.1質量ppm未満のカーボネート化法エチレンカーボネートである〔C1〕~〔C7〕のいずれか一項に記載の安定化された高純度エチレンカーボネート含有組成物。
〔C9〕〔C1〕~〔C8〕のいずれか一項に記載の高純度エチレンカーボネート含有組成物を、密閉容器又は密封容器中に保存することを特徴とする、高純度エチレンカーボネート含有組成物の保存方法。
〔C10〕〔C1〕~〔C8〕のいずれか一項に記載の高純度エチレンカーボネート含有組成物を含むことを特徴とする、リチウムイオン電池用電解液。
〔C11〕エチレンオキシドと二酸化炭素とを反応させてエチレンカーボネートを得る反応工程、及び得られたエチレンカーボネート中の2-クロロエタノール濃度並びに蟻酸及びその塩の含有量をそれぞれ0.1質量ppm未満に調整する工程を有することを特徴とする、高純度エチレンカーボネート含有組成物の製造方法。
〔C12〕90質量%以上のエチレンカーボネートとモノエチレングリコール及び/又はモノエチレングリコール蟻酸エステルとを含み、密閉容器又は密封容器中に50℃で125日間経過時における前記モノエチレングリコール及び前記モノエチレングリコール蟻酸エステルの合計含有量が、ガスクロマトグラフィー分析において3.0面積%以下である安定化された高純度エチレンカーボネート含有組成物を得ることを特徴とする〔C11〕に記載の高純度エチレンカーボネート含有組成物の製造方法。
〔C13〕90質量%以上のエチレンカーボネートとモノエチレングリコール及び/又はモノエチレングリコール蟻酸エステルとを含み、密閉容器又は密封容器中に50℃で100日間経過した時における前記モノエチレングリコール及び前記モノエチレングリコール蟻酸エステルの合計含有量が、ガスクロマトグラフィー分析において2.0面積%以下である安定化された高純度エチレンカーボネート含有組成物を得ることを特徴とする〔C11〕又は〔C12〕に記載の高純度エチレンカーボネート含有組成物の製造方法。
〔C14〕90質量%以上のエチレンカーボネートとモノエチレングリコール及び/又はモノエチレングリコール蟻酸エステルとを含み、密閉容器又は密封容器中に50℃で50日間経過した時における前記モノエチレングリコール及び前記モノエチレングリコール蟻酸エステルの合計含有量が、ガスクロマトグラフィー分析において1.0面積%以下である安定化された高純度エチレンカーボネート含有組成物を得ることを特徴とする〔C11〕~〔C13〕のいずれか一項に記載の高純度エチレンカーボネート含有組成物の製造方法。
ここで、〔C11〕~〔C14〕においては、上記〔C4〕~〔C8〕のいずれか1以上、好ましくは複数以上の特徴を有する高純度エチレンカーボネート含有組成物を得ることが好ましい。
【0014】
〔D〕以下の工程を含む、90質量%以上のエチレンカーボネートを含有する高純度エチレンカーボネート含有組成物の製造方法。
(1)エチレンオキサイドと二酸化炭素とを反応させてエチレンカーボネート含有組成物を得る反応工程
(2)前記エチレンカーボネート含有組成物中の蟻酸及びその塩の合計含有量(合計含有割合)又は2-クロロエタノールの含有量(含有割合)を測定する工程
(3)前記蟻酸及びその塩の合計含有量又は2-クロロエタノールの含有量が500質量ppm以下のものを選択する工程
【発明の効果】
【0015】
本発明の第一の実施形態又は第二の実施形態によれば、高純度エチレンカーボネート含有組成物の経時的な変性を抑制するための、新規な安定化方法を実現することができる。また、本発明の第一の実施形態又は第二の実施形態によれば、経時的な変性が抑制された、安定化された高純度エチレンカーボネート含有組成物、及びその保存方法、並びにこれらを用いたリチウムイオン電池用電解液等も実現することができる。
本発明の第三の実施形態によれば、経時的な変性が抑制された、安定化された高純度エチレンカーボネート含有組成物、及びその保存方法、並びにこれらを用いたリチウムイオン電池用電解液等を実現することができる。また、そのような安定化された高純度エチレンカーボネート含有組成物を安定して製造可能な製造方法を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実験例1~2の分析結果を示すグラフである。
図2】実験例3~5の分析結果を示すグラフである。
図3】実験例6~9の分析結果を示すグラフである。
図4】実験例10~11の分析結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。以下の実施の形態は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はこれらに限定されるものではない。また、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲内で任意に変更して実施することができる。なお、本明細書において、「~」を用いてその前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いる。例えば「1~100」との数値範囲の表記は、その下限値「1」及び上限値「100」の双方を包含するものとする。また、他の数値範囲の表記も同様である。本明細書において、「モノエチレングリコール」は「エチレングリコール」ということがあり、「モノエチレングリコール蟻酸エステル」は「エチレングリコール蟻酸エステル」ということがある。
【0018】
〔高純度エチレンカーボネート含有組成物の安定化方法、及び安定化された高純度エチレンカーボネート含有組成物〕
第一実施形態の高純度エチレンカーボネート含有組成物の安定化方法は、90質量%以上のエチレンカーボネートを含有する高純度エチレンカーボネート含有組成物中の蟻酸及びその塩の含有量を合計で500質量ppm以下に調整することを特徴とする。また、本実施形態の安定化された高純度エチレンカーボネート含有組成物は、90質量%以上のエチレンカーボネートと合計で500質量ppm以下の蟻酸及びその塩とを含むことを特徴とする。
【0019】
また、第二実施形態の高純度エチレンカーボネート含有組成物の安定化方法は、90質量%以上のエチレンカーボネートを含有する高純度エチレンカーボネート含有組成物中の2-クロロエタノールの含有量を500質量ppm以下に調整することを特徴とする。また、本実施形態の安定化された高純度エチレンカーボネート含有組成物は、90質量%以上のエチレンカーボネートと500質量ppm以下の2-クロロエタノールとを含むことを特徴とする。
【0020】
また、第三実施形態の安定化された高純度エチレンカーボネート含有組成物は、90質量%以上のエチレンカーボネートとモノエチレングリコール及び/又はモノエチレングリコール蟻酸エステルと、を含み、密閉容器又は密封容器中に50℃で125日間経過した時における前記モノエチレングリコール及び前記モノエチレングリコール蟻酸エステルの合計含有量が、ガスクロマトグラフィー分析において3.0面積%以下となることを特徴とする。
別言すれば、本実施形態の安定化された高純度エチレンカーボネート含有組成物は、90質量%以上のエチレンカーボネートと、モノエチレングリコール及び/又はモノエチレングリコール蟻酸エステルと、を含み、密閉容器又は密封容器中に50℃で100日間経過した時における前記モノエチレングリコール及び前記モノエチレングリコール蟻酸エステルの合計含有量が、ガスクロマトグラフィー分析において2.0面積%以下であることを特徴とする。
さらに別言すれば、本実施形態の安定化された高純度エチレンカーボネート含有組成物は、90質量%以上のエチレンカーボネートと、モノエチレングリコール及び/又はモノエチレングリコール蟻酸エステルと、を含み、密閉容器又は密封容器中に50℃で50日間経過した時における前記モノエチレングリコール及び前記モノエチレングリコール蟻酸エステルの合計含有量が、ガスクロマトグラフィー分析において1.0面積%以下であることを特徴とする。
【0021】
先に述べたとおり、エチレンカーボネートの製造方法としては、エチレンオキシドと二酸化炭素とを反応させる方法が知られており、その実用化が進展している。そして、エチレンオキシドには、その生成工程において不純物として蟻酸や2-クロロエタノールが含まれ得ることが知られており、このエチレンオキシドに含まれる不純物としての蟻酸が、高純度エチレンカーボネート含有組成物に混入し得る。しかしながら、高純度エチレンカーボネート含有組成物中に含まれる蟻酸や2-クロロエタノールが引き起こす具体的な挙動は、これまで何ら着目されていない。
【0022】
これに対し、本発明者らは、高純度エチレンカーボネート含有組成物に含有される蟻酸及びその塩が、予期せぬことに、モノエチレングリコール(MEG)やエチレングリコールモノ蟻酸エステル等の蟻酸エステル等(これらを総称して「副生不純物」と称することがある。)を経時的に増加させるトリガー物質として機能し、かかる副生不純物の増加により、高純度エチレンカーボネート含有組成物の品質が経時的に低下することを見出した。それと同時に、高純度エチレンカーボネート含有組成物を所定期間の高品質に維持する観点から、組成物中の蟻酸及びその塩の許容量があることを新たに見出した。
また、本発明者らは、高純度エチレンカーボネート含有組成物に含有される2-クロロエタノールが、予期せぬことに、モノエチレングリコール(MEG)やエチレングリコールモノ蟻酸エステル等の蟻酸エステル等の副生不純物を経時的に増加させるトリガー物質として機能し、かかる副生不純物の増加により、高純度エチレンカーボネート含有組成物の品質が経時的に低下することを見出した。それと同時に、高純度エチレンカーボネート含有組成物を所定期間の高品質に維持する観点から、組成物中の2-クロロエタノールの許容量があることを新たに見出した。
さらに、本発明者らは、高純度エチレンカーボネート含有組成物に含有される蟻酸及びその塩や2-クロロエタノールが、予期せぬことに、モノエチレングリコール(MEG)やエチレングリコールモノ蟻酸エステル等の蟻酸エステル等の副生不純物を経時的に増加させるトリガー物質として機能し、かかる副生不純物の増加により、高純度エチレンカーボネート含有組成物の品質が経時的に低下することを見出した。それと同時に、高純度エチレンカーボネート含有組成物を所定期間の高品質に維持する観点から、組成物中の副生不純物の増加には許容できる増加レートがあることを新たに見出した。
以下、さらに詳述する。
【0023】
(エチレンカーボネート)
第一実施形態及び第二実施形態の高純度エチレンカーボネート含有組成物中のエチレンカーボネートの含有量は、特に限定されないが、高純度エチレンカーボネート含有組成物の総量に対して、通常90.00質量%以上であり、95.00質量%以上が好ましく、より好ましくは99.00質量%以上、さらに好ましくは99.50質量%以上、特に好ましくは99.90質量%以上、最も好ましくは99.95質量%以上、さらに最も好ましくは99.99質量%以上である。エチレンカーボネートの含有量が上記の好ましい下限値以上であることにより、他の不純物に起因する不安定化現象が相対的に減少され、本発明の安定化効果が相対的に顕在化される傾向にある。
【0024】
ここで用いるエチレンカーボネートとしては、新規合成品、市販品の区別なく用いることができ、特に限定されないが、エチレンオキシドと二酸化炭素とを反応させてエチレンカーボネート含有組成物を得る反応工程(以下、「カーボネート化反応工程」と称する場合がある。)、及びこのエチレンカーボネート含有組成物を精製する精製工程を経て得られるエチレンカーボネート(以下、「カーボネート化法エチレンカーボネート」と称する場合がある。)であることが好ましい。かかる製法により得られるカーボネート化法エチレンカーボネートには、不純物として比較的に多量の蟻酸及び/又は2-クロロエタノールが含まれ得ることから、これを用いた場合に、本発明の安定化効果が相対的に顕在化される傾向にある。また、前記カーボネート化反応に際し、後述するカーボネート化触媒を使用して、エチレンカーボネート含有組成物を得ることがさらに好ましい。
【0025】
エチレンオキシドは、工業的には、通常、銀触媒存在下でエチレンと酸素とを反応させることにより製造される。エチレンのエチレンオキシドへの選択率は、通常80%程度であり、残りの20%程度は完全酸化され、二酸化炭素と水になる。そこで、工業的に製造されるエチレンカーボネートの原料に用いるエチレンオキシドには、通常、水が40%程度含まれる。また、エチレンカーボネートの一部が加水分解して、モノエチレングリコール及びジエチレングリコール等のジオール類が含まれる場合がある。
【0026】
原料として使用するエチレンオキシドの純度は、特に限定されないが、通常50質量%以上であり、好ましくは55質量%以上であり、より好ましくは60質量%以上である。また、その上限は、特に限定されないが、経済性や入手の容易性等の観点から、好ましくは95質量%以下であり、より好ましくは90質量%以下であり、さらに好ましくは85質量%以下である。
【0027】
カーボネート化反応工程における、原料の供給モル比(二酸化炭素/エチレンオキシド)は、特に限定されないが、通常0.5以上が目安とされる。また、供給モル比の上限も、特に限定されないが、通常5以下、好ましくは3.0以下である。
【0028】
エチレンオキシドのカーボネート化反応工程は、通常、触媒存在下で行う。カーボネート化触媒は、公知のものの中から適宜選択して用いればよく、その種類は特に限定されない。具体的には、アルカリ金属のハロゲン化物;アルカリ土類金属のハロゲン化物;アルキルアミン;第四級アンモニウム塩;有機スズ;ゲルマニウム;テルル化合物;ハロゲン化有機ホスホニウム塩及びアルカリ金属炭酸塩等が挙げられるが、これらに特に限定されない。これらの中でも、アルカリ金属のハロゲン化物、ハロゲン化有機ホスホニウム塩が好ましい。また、アルカリ金属炭酸塩は、副生物の生成を抑制しやすい点で好ましい。
【0029】
アルカリ金属のハロゲン化物の具体例としては、ヨウ化カリウム等のアルカリ金属のヨウ化物及び臭化カリウム等のアルカリ金属の臭化物等が挙げられる。ここで、アルカリ金属としては、溶解度の大きいカリウムが好ましい。アルカリ土類金属のハロゲン化物の具体例としては、アルカリ土類金属のヨウ化物及びアルカリ土類金属の臭化物等が挙げられる。
【0030】
ハロゲン化有機ホスホニウム塩の具体例としては、トリフェニルメチルホスホニウムヨーダイド、トリフェニルプロピルホスホニウムヨーダイド、トリフェニルベンジルホスホニウムヨーダイド、トリブチルメチルホスホニウムヨーダイド等の4級ホスホニウムヨーダイド及びトリフェニルメチルホスホニウムブロマイド、トリフェニルプロピルホスホニウムブロマイド、トリフェニルベンジルホスホニウムブロマイド、トリブチルメチルホスホニウムブロマイド等の4級ホスホニウムブロマイド等が挙げられる。また、アルカリ金属炭酸塩の具体例としては、炭酸カリウム等が挙げられる。
【0031】
カーボネート化反応工程における触媒の使用量は、特に限定されないが、エチレンオキシドに対して、モル比で、1/1000以上が好ましく、より好ましくは1/200以上である。一方、その上限は、特に限定されないが、1/20以下が好ましく、より好ましくは1/50以下である。なお、カーボネート化触媒は、1種を単独で用いることができ、また2種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いることもできる。複数種のカーボネート化触媒を用いる場合における使用量は、その合計量が上記範囲であることが好ましい。
【0032】
エチレンオキシドのカーボネート化反応工程を行う温度は、特に限定されないが、通常70℃以上であり、好ましくは100℃以上である。一方、その上限は、通常200℃以下であり、好ましくは170℃以下である。反応圧力も、特に限定されないが、通常0.6MPa以上であり、好ましくは1.0MPa以上である。また、一方、その上限は、通常5.0MPa以下であり、好ましくは3.0MPa以下である。
【0033】
エチレンオキシドのカーボネート化反応工程は、任意の装置を用いて行うことができる。カーボネート化反応工程は、バッチ式及び連続供給式のいずれの方式でも行うことができるが、工業的には、連続供給式が好ましい。具体的には、例えば、熱交換器と循環ポンプを備えた液循環導管を有する気泡塔を用いて、塔内の反応液を、液循環導管を経て循環させることにより反応温度を制御し、塔底より原料のエチレンオキシド、二酸化炭素及び触媒を連続的に供給し、反応を行わせることができる。また、エジェクター型ノズルを備えた反応器を用いるのも好ましい。気泡塔を用いて反応を行う場合、反応効率の点から、気泡塔の後に、管型反応器を配し、未反応のエチレンオキシドをさらに反応させることが好ましい。
【0034】
かかる製法により得られるカーボネート化法エチレンカーボネートには、不純物として蟻酸及びその塩や2-クロロエタノール等が比較的に多量に含まれ得る。これらの蟻酸及びその塩や2-クロロエタノールは、モノエチレングリコールやその蟻酸エステル等の副生不純物を経時的に増加させるトリガー物質として機能し、かかる副生不純物の増加により、高純度エチレンカーボネート含有組成物の品質を経時的に低下させる。そのため、カーボネート化法エチレンカーボネート中の2-クロロエタノール並びに蟻酸及びその塩の含有量を低減する工程をさらに行うことが好ましい。このとき、カーボネート化法エチレンカーボネート中の2-クロロエタノール並びに蟻酸及びその塩の含有量は、特に限定されないが、それぞれ0.1質量ppm未満に調整することが望ましい。ここで、カーボネート化法エチレンカーボネート中の2-クロロエタノール並びに蟻酸及びその塩の含有量は、少なければ少ないほどよく、本発明による作用効果を鑑みれば0ppmとすることが好ましい。しかしながら、例えば蟻酸及びその塩を検出するための測定装置には技術上の制限(検出限界、定量下限)があるため、カーボネート化法エチレンカーボネート中の2-クロロエタノール並びに蟻酸及びその塩の含有量は、これらの測定装置における検出限界未満にすることが好ましい。
【0035】
2-クロロエタノール並びに蟻酸及びその塩の含有量の低減は、常法にしたがって行うことができ、その方法は特に限定されない。該低減方法として、例えば再結晶、晶析、懸洗抽出、濃縮、水洗、脱水、ろ過、蒸留、留去、精留、クロマトグラフィー、陽イオン交換樹脂、アルコール吸着剤等による分離方法が挙げられる。また、後述する精製工程において、2-クロロエタノール並びに蟻酸及びその塩の含有量の低減を行ってもよい。
【0036】
精製工程では、カーボネート化反応工程で得られたエチレンカーボネートを精製する。精製は、晶析法や蒸留法等により行うことができる。エネルギー効率に優れる点から、晶析法により精製を行うことが好ましく、向流接触型晶析法により精製を行うことがより好ましい。晶析法で精製を行う場合、通常、反応液を冷却することにより、エチレンカーボネート結晶を作製する。例えば、壁面降下型晶析法では、冷却された壁面に結晶を析出させた後、加温して融解させて流下させることにより高純度なエチレンカーボネートを得る。向流接触型晶析法では、反応液を冷却する等してエチレンカーボネートの粗結晶を生じさせた後、この粗結晶を加熱した結晶溶融液と、溶融していない結晶とを向流接触させることにより、高純度なエチレンカーボネートを得る。
【0037】
エチレンカーボネートの粗結晶は、カーボネート化反応を行った反応液に貧溶媒を加える、カーボネート化反応を行った反応液を冷却する等の方法により、析出させることができる。ここで、工業的には、反応液を冷却することにより、エチレンカーボネートの粗結晶を析出させることが好ましい。そして、このエチレンカーボネートの粗結晶を、未反応エチレンオキシドや触媒を含む液と固液分離することにより、取り出すことができる。
【0038】
向流接触型晶析法においては、工業的には、具体的には、塔の上部からエチレンカーボネート粗結晶を降下させ、該塔の底部において該エチレンカーボネート粗結晶を溶融させ、得られた溶融液の一部を塔から抜き出し、該溶融液の残部を還流液として上昇させて、該降下するエチレンカーボネート粗結晶と向流接触させることが好ましい。
【0039】
エチレンカーボネートの加水分解反応を行う場合、アルカリ金属化合物等の公知の加水分解触媒の存在下で加水分解反応を行なうことが好ましい。加水分解触媒としては、具体的には、ナトリウムやカリウム等のアルカリ金属化合物等が挙げられる。アルカリ金属化合物に含まれるアルカリ金属は、カリウムが好ましい。また、アルカリ金属化合物としては、アルカリ金属の水酸化物;炭酸塩及び重炭酸塩等が挙げられる。これらの内、加水分解触媒としては、アルカリ金属化合物が好ましく、アルカリ金属の炭酸塩がさらに好ましい。加水分解触媒の使用量は、カーボネート化反応と加水分解反応を同時に行う場合は、カーボネート化触媒に対して、モル比で0.01~1.0となるように存在させることが好ましい。なお、加水分解触媒は、1種を単独で用いることができ、また2種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いることもできる。複数種の加水分解触媒を用いる場合における使用量は、その合計量が上記範囲であることが好ましい。
【0040】
(蟻酸又はその塩)
第一実施形態において、トリガー物質として機能する蟻酸は塩の状態で存在していてもよい。トリガー物質として機能する蟻酸の塩としては、アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩等の金属塩が挙げられる。
本実施形態の高純度エチレンカーボネート含有組成物中の蟻酸及びその塩の含有量は、高純度エチレンカーボネート含有組成物の総量に対して、合計で500質量ppm以下であり、好ましくは合計で100質量ppm以下であり、より好ましくは合計で50質量ppm以下であり、さらに好ましくは合計で10質量ppm以下である。一方、蟻酸及びその塩の合計含有量の下限値は、特に制限されず、本発明による作用効果を鑑みれば0ppmが目安とされる。ただし実際には、蟻酸及びその塩を検出するための測定装置に、技術上の制限(検出限界、検出可能)があるため、測定装置の検出限界未満における挙動の裏づけには解析技術の向上が待たれる。そのため、蟻酸及びその塩を検出するための測定装置としてガスクロマトグラフを用いる場合、その測定装置の検出限界以上とすることが好ましく、より好ましくは合計で0.1質量ppm以上であり、さらに好ましくは合計で0.5質量ppm以上、特に好ましくは合計で1.0質量ppm以上である。
【0041】
蟻酸及びその塩の合計含有量が上記の上限値以下であることにより、モノエチレングリコールやその蟻酸エステル(モノエチレングリコールモノ蟻酸エステル等)の経時的な増加を抑制できる。なお、蟻酸及びその塩の含有量は、ガスクロマトグラフィーにより測定することができる。また、蟻酸及びその塩の合計含有量の調整手段は、特に制限されないが、例えば、高純度エチレンカーボネート含有組成物中に含まれる蟻酸又はその塩の除去、高純度エチレンカーボネート含有組成物に対する蟻酸又はその塩の添加、蟻酸及びその塩量の基準値を設定し蟻酸及びその塩量を測定してスペックアウトしたものは出荷しない等によって、行うことができる。調整は、蟻酸及びその塩の合計含有量を測定する工程、及び該合計含有量が特定の量以下のものを選択する工程を含んでもよい。
【0042】
(2-クロロエタノール)
第二実施形態の高純度エチレンカーボネート含有組成物中の2-クロロエタノールの含有量は、高純度エチレンカーボネート含有組成物の総量に対して、500質量ppm以下であり、好ましくは100質量ppm以下であり、より好ましくは50質量ppm以下であり、さらに好ましくは10質量ppm以下である。一方、2-クロロエタノールの含有量の下限値は、特に制限されず、本発明による作用効果を鑑みれば0ppmが目安とされる。ただし実際には、2-クロロエタノールを検出するための測定装置に、技術上の制限(検出限界、検出可能)があるため、測定装置の検出限界未満における挙動の裏づけには解析技術の向上が待たれる。そのため、2-クロロエタノールを検出するための測定装置としてガスクロマトグラフを用いる場合、その測定装置の検出限界以上とすることが好ましく、より好ましくは0.1質量ppm以上であり、さらに好ましくは0.5質量ppm以上、特に好ましくは1.0質量ppm以上である。
【0043】
2-クロロエタノールの含有量が上記の上限値以下であることにより、モノエチレングリコールやその蟻酸エステル(モノエチレングリコールモノ蟻酸エステル等)の経時的な増加を抑制できる。なお、2-クロロエタノールの含有量は、ガスクロマトグラフィーにより測定することができる。また、2-クロロエタノールの含有量の調整は、特に制限されないが、例えば、高純度エチレンカーボネート含有組成物中に含まれる2-クロロエタノールの除去、高純度エチレンカーボネート含有組成物に対する2-クロロエタノールの添加、2-クロロエタノールの基準値を設定し2-クロロエタノール量を測定してスペックアウトしたものは出荷しない等によって、行うことができる。トリガー物質の除去には、例えば、陽イオン交換樹脂、アルコール吸着剤、又は蒸留等による分離方法が挙げられる。調整は、2-クロロエタノールの含有量を測定する工程、及び該合計含有量が特定の量以下のものを選択する工程を含んでもよい。
【0044】
(モノエチレングリコール及びモノエチレングリコール蟻酸エステル)
第三実施形態の高純度エチレンカーボネート含有組成物において、モノエチレングリコール及びモノエチレングリコール蟻酸エステルの含有量は、トリガー物質により経時的に増加し、その増加量は、保管期間や保管温度によって変動する。そのため本実施形態では、所定の条件、すなわち密閉容器又は密封容器中に50℃で一定期間経過した時におけるモノエチレングリコール及びモノエチレングリコール蟻酸エステルの合計含有量で規定する。
【0045】
具体的には、密閉容器又は密封容器中に50℃で125日間経過した時におけるモノエチレングリコール及びモノエチレングリコール蟻酸エステルの合計含有量は、ガスクロマトグラフィー分析において、3.0面積%以下であり、2.5面積%以下が好ましく、より好ましくは2.0面積%以下であり、さらに好ましくは1.75面積%以下であり、特に好ましくは1.5面積%以下である。経過日数を100日間とした時におけるモノエチレングリコール及びモノエチレングリコール蟻酸エステルの合計含有量は、ガスクロマトグラフィー分析において2.0面積%以下が好ましく、より好ましくは1.75面積%以下であり、さらに好ましくは1.5面積%以下であり、特に好ましくは1.25面積%以下である。さらに、経過日数を50日間とした時におけるモノエチレングリコール及びモノエチレングリコール蟻酸エステルの合計含有量は、ガスクロマトグラフィー分析において1.0面積%以下が好ましく、より好ましくは0.75面積%以下であり、さらに好ましくは0.5面積%以下であり、特に好ましくは0.25面積%以下である。
【0046】
50℃で一定期間経過した時におけるモノエチレングリコール及びモノエチレングリコール蟻酸エステルの合計含有量が上記の好ましい上限値以下であることにより、製造されてから流通に乗り使用されるまで種々の環境下に曝される高純度エチレンカーボネート含有組成物の品質信頼性がより担保される傾向にある。
【0047】
一方、密閉容器又は密封容器中に50℃で一定期間経過した時におけるモノエチレングリコール及びモノエチレングリコール蟻酸エステルの合計含有量の下限値は、特に制限されず、本発明による作用効果を鑑みれば0面積%が目安とされる。ただし実際には、ガスクロマトグラフィー分析に、技術上の制限(検出限界、定量下限)があるため、測定装置の検出限界未満における挙動の裏づけには解析技術の向上が待たれる。そのため、ガスクロマトグラフィー分析装置の検出限界以上とすることが好ましく、より好ましくは0.001面積%以上であり、さらに好ましくは0.01面積%以上、特に好ましくは0.1面積%以上である。
【0048】
なお、モノエチレングリコール及びモノエチレングリコール蟻酸エステルの合計含有量の調整は、特に制限されないが、例えば、高純度エチレンカーボネート含有組成物中に含まれる蟻酸又はその塩、2-クロロエタノール、水、又は酸化鉄の除去、高純度エチレンカーボネート含有組成物に対するこれらの添加等によって、行うことができる。また、経過日数の始期は、通常は高純度エチレンカーボネートを製造した時とするが、モノエチレングリコール及びモノエチレングリコール蟻酸エステルの含有量は時間とともに増加する傾向にあるため、厳密に製造時から経過日数をカウントしなくとも、少なくとも所定の経過日数を経た後のモノエチレングリコール及びモノエチレングリコール蟻酸エステルの合計含有量が上述した所定値以下であれば、本実施形態に該当すると判断できる。
【0049】
(その他の成分)
第一実施形態乃至第三実施形態の高純度エチレンカーボネート含有組成物は、不純物として酸化鉄をさらに含んでいてもよい。その場合、酸化鉄の含有量は、高純度エチレンカーボネート含有組成物の総量に対して、200質量ppm以下であることが好ましく、より好ましくは150質量ppm以下であり、より好ましくは100質量ppm未満であり、より好ましくは50質量ppm以下であり、より好ましくは25質量ppm以下であり、より好ましくは10質量ppm以下であり、より好ましくは5質量ppm以下である。なお、本明細書において、酸化鉄は、誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP/OES)により測定した値を意味する。エチレンカーボネート中の酸化鉄の含有量を測定するには、例えばエチレンカーボネートを硝酸や硫酸等の酸を用いて分解した後、ICP/OESにより酸化鉄を定量することができる。また、酸化鉄の含有量の下限値は、特に制限されず、本発明による作用効果を鑑みれば0ppmが目安とされる。ただし実際には、上述した蟻酸及びその塩や2-クロロエタノールと同様に測定装置の検出限界があるとの理由から、誘導結合プラズマ発光分光分析法の検出限界以上とすることが好ましく、より好ましくは0.1質量ppm以上であり、さらに好ましくは0.5質量ppm以上、特に好ましくは1.0質量ppm以上である。
【0050】
なお、ここで対象とする酸化鉄は、FeO、Fe、及びFeの3成分である。蟻酸又はその塩や2-クロロエタノールと酸化鉄との双方を含む場合、モノエチレングリコールやその蟻酸エステル(モノエチレングリコールモノ蟻酸エステル等)の経時的な増加が顕著化する場合があるが、上述した蟻酸及びその塩や2-クロロエタノールの含有量の調整に加えて、酸化鉄の含有量を上記の好ましい上限値未満に調整することにより、モノエチレングリコールやその蟻酸エステルの経時的な増加が安定して抑制される傾向にある。また、酸化鉄の含有量の調整は、特に制限されないが、例えば、高純度エチレンカーボネート含有組成物中に含まれる酸化鉄の除去、高純度エチレンカーボネート含有組成物に対する酸化鉄の添加等によって、行うことができる。
【0051】
第一実施形態乃至第三実施形態の高純度エチレンカーボネート含有組成物は、不純物として水をさらに含んでいてもよいが、その場合、第一実施形態では、水の含有量は、高純度エチレンカーボネート含有組成物の総量に対して、100質量ppm未満であることが好ましく、より好ましくは50質量ppm以下であり、さらに好ましくは25質量ppm以下であり、特に好ましくは10質量ppm以下である。第二実施形態乃至第三実施形態では、水の含有量は、高純度エチレンカーボネート含有組成物の総量に対して、200質量ppm未満であることが好ましく、より好ましくは100質量ppm以下であり、さらに好ましくは50質量ppm以下であり、特に好ましくは25質量ppm以下であり、最も好ましくは10質量ppm以下である。なお、本明細書において、水の含有量は、カールフィッシャー水分計を用いて測定した値を意味する。また、水の含有量の下限値は、特に制限されず、本発明による作用効果を鑑みれば0ppmが目安とされる。ただし実際には、上述した蟻酸又はその塩、2-クロロエタノールや酸化鉄と同様に測定装置の検出限界があるとの理由から、カールフィッシャー水分計の検出限界以上とすることが好ましく、より好ましくは0.1質量ppm以上であり、さらに好ましくは0.5質量ppm以上、特に好ましくは1.0質量ppm以上である。
【0052】
蟻酸又はその塩や2-クロロエタノールと水の双方を含む場合、モノエチレングリコールやその蟻酸エステル(モノエチレングリコールモノ蟻酸エステル等)の経時的な増加が顕著化する場合があるが、上述した蟻酸及びその塩や2-クロロエタノールの含有量の調整に加えて、水の含有量を上記の好ましい上限値未満に調整することにより、モノエチレングリコールやその蟻酸エステルの経時的な増加が安定して抑制される傾向にある。また、水の含有量の調整は、特に制限されないが、例えば、高純度エチレンカーボネート含有組成物中に含まれる水の除去、高純度エチレンカーボネート含有組成物に対する水の添加等によって、行うことができる。
【0053】
第一実施形態乃至第三実施形態の高純度エチレンカーボネート含有組成物は、各成分を混合することにより調製してもよいし、各成分が混合されたものから各成分の含有量が所定範囲となるよう適宜成分を分離乃至除去することにより調製してもよい。成分の分離方法は、特に制限されず、成分種ごとに選択することができる。このとき、蟻酸及びその塩や2-クロロエタノールの含有量を500質量ppm以下に、さらに必要に応じて酸化鉄や水の含有量を、第一実施形態では100質量ppm未満、第二実施形態及び第三実施形態では200質量ppm以下に調整すればよい。
【0054】
このように蟻酸及びその塩の含有量及び必要に応じて酸化鉄や水の含有量が所定割合に調整されてなる第一実施形態の高純度エチレンカーボネート含有組成物は、時間が経ってもモノエチレングリコール(MEG)やその蟻酸エステル等の副生不純物が増加し難く、保存安定性に優れ、高純度且つ高品質なものである。
また、このように2-クロロエタノールの含有量及び必要に応じて酸化鉄や水の含有量が所定割合に調整されてなる第二実施形態の高純度エチレンカーボネート含有組成物は、時間が経ってもモノエチレングリコール(MEG)やその蟻酸エステル等の副生不純物が増加し難く、保存安定性に優れ、高純度且つ高品質なものである。
また、このような含有組成を有する第三実施形態の高純度エチレンカーボネート含有組成物は、時間が経ってもモノエチレングリコール(MEG)やその蟻酸エステル等の副生不純物が増加し難く、保存安定性に優れ、高純度且つ高品質なものである。
【0055】
〔高純度エチレンカーボネート含有組成物の保存方法〕
大気中の水分の混入による副生不純物の増加を抑制する観点から、第一実施形態乃至第三実施形態のエチレンカーボネート含有組成物は、空気及び水に接触させない状態で保存することが好ましく、具体的には密閉容器又は密封容器中に保存することが好ましい。また、真空又は不活性ガス(窒素、アルゴン、ヘリウム)雰囲気等の、低酸素分圧雰囲気下及び/又は低水蒸気分圧雰囲気下で保存することがより好ましい。
【0056】
保存温度としては、特に限定されないが、好ましくは10~70℃であり、より好ましくは10~60℃であり、さらに好ましくは10~55℃である。保存温度を上記範囲内とすることにより、モノエチレングリコール(MEG)やその蟻酸エステル等の副生不純物の経時的な増加抑制効果が良好に発揮される傾向にある。
第一実施形態乃至第三実施形態のエチレンカーボネート含有組成物を含む密閉容器又は密封容器も本発明の実施形態の一つである。
【0057】
〔高純度エチレンカーボネート含有組成物の製造方法〕
第一実施形態乃至第三実施形態の90質量%以上のエチレンカーボネートを含有する高純度エチレンカーボネート含有組成物は、以下の工程を含む方法で製造することができる。
(1)エチレンオキサイドと二酸化炭素とを反応させてエチレンカーボネート含有組成物を得る反応工程
(2)前記エチレンカーボネート含有組成物中の蟻酸及びその塩の合計含有量又は2-クロロエタノールの含有量を測定する工程
(3)前記蟻酸及びその塩の合計含有量又は2-クロロエタノールの含有量が500質量ppm以下のものを選択する工程
〔高純度エチレンカーボネート含有組成物の品質管理方法〕
第一実施形態乃至第三実施形態の90質量%以上のエチレンカーボネートを含有する高純度エチレンカーボネート含有組成物は、以下の工程を含む方法で品質管理することができる。
(1)エチレンオキサイドと二酸化炭素とを反応させ、エチレンカーボネート含有組成物を製造する工程
(2)前記エチレンカーボネート含有組成物の蟻酸及びその塩の合計含有量又は2-クロロエタノールの含有量を測定する工程
(3)前記蟻酸及びその塩の合計含有量又は2-クロロエタノールの含有量が500質量ppm以下のものを選択する工程
【0058】
〔リチウムイオン電池用電解液〕
第一実施形態乃至第三実施形態のリチウムイオン電池用電解液は、上記の高純度エチレンカーボネート含有組成物を含む。本実施形態の高純度エチレンカーボネート含有組成物は、モノエチレングリコール(MEG)やその蟻酸エステル等の副生不純物が少なく、またその経時的な増加が抑制されたものなので、これをリチウムイオン電池用電解液に用いた場合には、かかる副生不純物が引き起こすリチウムイオン電池の意図せぬ性能劣化が抑制され、これにより、電池容量や電池性能をより長期間維持でき、長期間使用時の信頼性が高められたリチウムイオン電池を実現することができる。
【0059】
そして、リチウムイオン電池は、用途として今後小型用だけでなく大型用、さらには産業用電池としての需要が見込まれ、ますますの成長が望める分野である。そのため、長期間使用時の信頼性を高め得る本実施形態の高純度エチレンカーボネート含有組成物は、今後より高性能なリチウムイオン電池の必要性が見込まれている点からも、電解液の溶媒として殊に有用なものと言える。
【0060】
リチウムイオン電池用電解液は、当業界で公知の成分から構成すればよく、その配合組成は特に限定されない。例えばLiPFやLiBOB等のリチウム塩、飽和環状カーボネート、鎖状カーボネート、鎖状カルボン酸エステル、環状カルボン酸エステル、エーテル系化合物、スルホン系化合物等の非水溶媒、及び当業界で公知の各種添加剤を含有するリチウムイオン電池用電解液が市販されている。とりわけ、上記の高純度エチレンカーボネート含有組成物は、リチウムイオン電池用電解液の添加剤或いは非水溶媒として特に好ましく用いられる。
【実施例
【0061】
以下、実験例を挙げて本発明の内容をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実験例により何ら限定されるものではない。なお、以下の実験例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限又は下限の好ましい値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は前記した上限又は下限の値と、下記実験例の値又は実験例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
【0062】
〔実験例1〕
まず、二酸化炭素、エチレンオキシド、水、トリブチルメチルホスホニウムヨーダイド、炭酸カリウムを反応器に連続供給し、得られた反応液を向流接触型晶析法により精製した後、固液分離を行うことで、蟻酸及びその塩、2クロロエタノール、並びに酸化鉄はそれぞれ検出限界未満であり、水を5質量ppm程度含む、純度が99.999%の高純度エチレンカーボネートを得た。
次に、得られた高純度エチレンカーボネート100質量部に対し、0.01質量部の蟻酸(組成物の総量に対して100質量ppm)を添加して、実験例1の高純度エチレンカーボネート含有組成物を調製した。
その後、得られた高純度エチレンカーボネート含有組成物を20mLのガラス製バイアルに入れて密封し、さらにオープンドラムに入れたうえで50℃に設定したTABAI製オーブンSPH-100中に保管した。
【0063】
そして保管開始から所定の期間経過後に、ガラス製バイアルから0.8mLの高純度エチレンカーボネート含有組成物をサンプリングし、0.2mLのアセトニトリルを加えてガスクロマトグラフィー用試料溶液をそれぞれ調製した。なお、サンプリングの際、固形分が認められる場合は必要に応じて0.2μmPTFEディスクフィルターでろ過した。調製した試料溶液を用いて、以下の条件にてガスクロマトグラフィー分析を実施し、エチレングリコールとエチレングリコールモノ蟻酸エステルに該当するピークの面積%を算出した。
〔分析条件〕
装置 :島津製作所製 GC-2010plus
注入口温度 :130℃
注入量 :1.0μL
カラム :Agilent DB-WAXetr 123-7364
カラム温度 :60℃で2分間保持した後、昇温速度20℃/分で200℃に昇温し16分間保持した後、昇温速度20℃/分で230℃に昇温し5分間保持
キャリアーガス:ヘリウム、流量50cm/sec
注入方法 :スプリットレス(注入から1分後に1:20スプリット)
検出器 :水素炎イオン化検出器(FID)250℃
後処理 :1測定ごとにINJ230℃、COL230℃として5分間追い出しを行う
洗浄溶媒 :アセトニトリル
面積算出方法 :アセトニトリルピークを除く面積百分率法
検出限界 :7質量ppm
【0064】
〔実験例2〕
蟻酸の配合量を0.001質量部(組成物の総量に対して10質量ppm)に変更する以外は、実験例1と同様に行い、実験例2の高純度エチレンカーボネート含有組成物を調製した。
また、実験例1の高純度エチレンカーボネート含有組成物に代えて、実験例2の高純度エチレンカーボネート含有組成物を用いる以外は、実験例1と同様にして、ガスクロマトグラフィー分析を実施した。
【0065】
〔実験例3〕
高純度エチレンカーボネート100質量部に対し、水0.0001質量部(組成物の総量に対して1質量ppm)をさらに添加する以外は、実験例1と同様に行い、実験例3の高純度エチレンカーボネート含有組成物を調製した。
また、実験例1の高純度エチレンカーボネート含有組成物に代えて、実験例3の高純度エチレンカーボネート含有組成物を用いる以外は、実験例1と同様にして、ガスクロマトグラフィー分析を実施した。
【0066】
〔実験例4〕
蟻酸の配合量を0.001質量部(組成物の総量に対して10質量ppm)に変更する以外は、実験例3と同様に行い、実験例4の高純度エチレンカーボネート含有組成物を調製した。
また、実験例1の高純度エチレンカーボネート含有組成物に代えて、実験例4の高純度エチレンカーボネート含有組成物を用いる以外は、実験例1と同様にして、ガスクロマトグラフィー分析を実施した。
【0067】
〔実験例5〕
蟻酸の配合量を0.0001質量部(組成物の総量に対して1質量ppm)に変更する以外は、実験例3と同様に行い、実験例5の高純度エチレンカーボネート含有組成物を調製した。
また、実験例1の高純度エチレンカーボネート含有組成物に代えて、実験例5の高純度エチレンカーボネート含有組成物を用いる以外は、実験例1と同様にして、ガスクロマトグラフィー分析を実施した。
【0068】
〔実験例6〕
蟻酸に代えて、0.01質量部の2-クロロエタノール(組成物の総量に対して100質量ppm)を添加する以外は、実験例1と同様に行い、実験例6の高純度エチレンカーボネート含有組成物を調製した。
また、実験例1の高純度エチレンカーボネート含有組成物に代えて、実験例6の高純度エチレンカーボネート含有組成物を用いる以外は、実験例1と同様にして、ガスクロマトグラフィー分析を実施した。
【0069】
〔実験例7〕
高純度エチレンカーボネート100質量部に対し、水0.001質量部(組成物の総量に対して10質量ppm)と、酸化鉄(Fe)0.01質量部(組成物の総量に対して100質量ppm)をさらに添加する以外は、実験例6と同様に行い、実験例7の高純度エチレンカーボネート含有組成物を調製した。
また、実験例1の高純度エチレンカーボネート含有組成物に代えて、実験例7の高純度エチレンカーボネート含有組成物を用いる以外は、実験例1と同様にして、ガスクロマトグラフィー分析を実施した。
【0070】
〔実験例8〕
水の配合量を0.01質量部(組成物の総量に対して100質量ppm)に変更する以外は、実験例7と同様に行い、実験例8の高純度エチレンカーボネート含有組成物を調製した。
また、実験例1の高純度エチレンカーボネート含有組成物に代えて、実験例8の高純度エチレンカーボネート含有組成物を用いる以外は、実験例1と同様にして、ガスクロマトグラフィー分析を実施した。
【0071】
〔実験例9〕
2-クロロエタノールの配合量を0.001質量部(組成物の総量に対して10質量ppm)に変更する以外は、実験例7と同様に行い、実験例9の高純度エチレンカーボネート含有組成物を調製した。
また、実験例1の高純度エチレンカーボネート含有組成物に代えて、実験例9の高純度エチレンカーボネート含有組成物を用いる以外は、実験例1と同様にして、ガスクロマトグラフィー分析を実施した。
【0072】
〔実験例10〕
2-クロロエタノールの配合量を0.1質量部(組成物の総量に対して1000質量ppm)に変更する以外は、実験例7と同様に行い、実験例10の高純度エチレンカーボネート含有組成物を調製した。
また、実験例1の高純度エチレンカーボネート含有組成物に代えて、実験例10の高純度エチレンカーボネート含有組成物を用いる以外は、実験例6と同様にして、ガスクロマトグラフィー分析を実施した。
【0073】
〔実験例11〕
2-クロロエタノールの配合量を0.1質量部(組成物の総量に対して1000質量ppm)に変更する以外は、実験例8と同様に行い、実験例11の高純度エチレンカーボネート含有組成物を調製した。
また、実験例1の高純度エチレンカーボネート含有組成物に代えて、実験例11の高純度エチレンカーボネート含有組成物を用いる以外は、実験例6と同様にして、ガスクロマトグラフィー分析を実施した。
【0074】
各実験例の結果を、表1~3及び図1~4に示す。
尚、表1~3の、蟻酸、2-クロロエタノール、水分、酸化鉄は、各実験例の高純度エチレンカーボネートに保管前に添加した量を示す。
【0075】
【表1】
MEG :エチレングリコール
MEGモノ蟻酸エステル:エチレングリコールモノ蟻酸エステル
【0076】
【表2】
MEG :エチレングリコール
MEGモノ蟻酸エステル:エチレングリコールモノ蟻酸エステル
【0077】
【表3】
MEG :エチレングリコール
MEGモノ蟻酸エステル:エチレングリコールモノ蟻酸エステル
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の高純度エチレンカーボネート含有組成物及びその安定化方法等は、例えば各種高分子化合物の溶媒、各種化学反応の反応溶媒、抽出溶媒、発泡剤、潤滑安定剤、界面活性剤、土壌改質材、レジスト剤、レジスト剥離剤、医薬品、ポリエステル原料、不凍液等の種々の用途において広く且つ有効に利用可能であり、とりわけリチウムイオン電池用電解液において殊に有効に利用可能である。
図1
図2
図3
図4