(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】複層ガラスの製造方法及び複層ガラス
(51)【国際特許分類】
C03C 27/06 20060101AFI20220809BHJP
E06B 3/663 20060101ALI20220809BHJP
C09J 5/06 20060101ALI20220809BHJP
C09J 175/04 20060101ALI20220809BHJP
B32B 17/06 20060101ALI20220809BHJP
B32B 3/26 20060101ALI20220809BHJP
【FI】
C03C27/06 101Z
E06B3/663 F
C09J5/06
C09J175/04
B32B17/06
B32B3/26 B
(21)【出願番号】P 2019514584
(86)(22)【出願日】2018-04-25
(86)【国際出願番号】 JP2018016849
(87)【国際公開番号】W WO2018199178
(87)【国際公開日】2018-11-01
【審査請求日】2021-02-09
(31)【優先権主張番号】P 2017090610
(32)【優先日】2017-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】藤井 友理
(72)【発明者】
【氏名】澁谷 崇
(72)【発明者】
【氏名】菊地 哲
(72)【発明者】
【氏名】長江 政志
【審査官】山本 佳
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第98/030649(WO,A1)
【文献】特開平10-114551(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 27/06
C09J 5/06
C09J 175/04
C09J 175/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数枚のガラス板がスペーサーを介して対向配置され、前記ガラス板間に中空層が形成されてなる複層ガラスの製造方法であって、
前記複数枚のガラス板の少なくとも1枚に接着剤を塗布する工程と、
前記スペーサーを50℃以上160℃以下の温度で前記ガラス板に接着させる工程と、を有し、
前記スペーサーは、ブチル系ゴムを含む熱可塑性樹脂材料から形成されてなり、
前記ブチル系ゴムは、高分子量ブチル系ゴムと低分子量ブチル系ゴムとを含み、
前記高分子量ブチル系ゴムの数平均分子量は55000以上150000以下であり、
前記低分子量ブチル系ゴムの数平均分子量は35000以上50000以下である、複層ガラスの製造方法。
【請求項2】
前記複数枚のガラス板の少なくとも1枚に前記接着剤を塗布する工程は、
第1のガラス板に前記接着剤を塗布する工程と、
第2のガラス板に前記接着剤を塗布する工程と、を含み、
前記スペーサーを前記ガラス板に接着させる工程は、
前記第1のガラス板に前記スペーサーを接着させる工程と、
前記第1のガラス板に接着した前記スペーサーに第2のガラス板を接着させる工程と、を含む請求項1に記載の複層ガラスの製造方法。
【請求項3】
前記第2のガラス板に前記接着剤を塗布する工程は、前記第1のガラス板に前記スペーサーを接着させる工程より前に行われる請求項2に記載の複層ガラスの製造方法。
【請求項4】
前記第2のガラス板に前記接着剤を塗布する工程は、前記第1のガラス板に前記スペーサーを接着させる工程の後に行われる請求項2に記載の複層ガラスの製造方法。
【請求項5】
前記第2のガラス板を接着させる工程は、前記第2のガラス板を加圧しながら行う請求項2乃至4のいずれか一項に記載の複層ガラスの製造方法。
【請求項6】
前記スペーサーを前記ガラス板に接着させる工程は、2枚のガラス板を対向させた状態で、対向する前記2枚のガラス板の間に前記スペーサーを供給する工程である請求項1に記載の複層ガラスの製造方法。
【請求項7】
前記スペーサーを供給する工程の後、前記2枚のガラス板を加圧する工程を更に有する請求項6に記載の複層ガラスの製造方法。
【請求項8】
前記2枚のガラス板を加圧する工程は、前記スペーサーを加熱しながら行う請求項7に記載の複層ガラスの製造方法。
【請求項9】
前記複数枚のガラス板の少なくとも1枚に前記接着剤を塗布する工程は、第1のガラス板のみに前記接着剤を塗布する工程であり、
前記スペーサーを前記ガラス板に接着させる工程は、第1のガラス板に前記スペーサーを接着させる工程であり、
前記スペーサーの前記第1のガラス板と反対面に前記接着剤を塗布する工程と、
前記スペーサーの前記接着剤を塗布した前記第1のガラス板と反対面に第2のガラス板を接着させる工程と、を更に有する請求項1に記載の複層ガラスの製造方法。
【請求項10】
前記複数枚のガラス板の少なくとも1枚に前記接着剤を塗布する工程の後、30秒~20分後に前記スペーサーを前記ガラス板に接着させる工程を行う請求項1乃至9いずれか一項に記載の複層ガラスの製造方法。
【請求項11】
前記接着剤の厚さが0.1μm以上50μm以下である請求項1乃至10のいずれか一項に記載の複層ガラスの製造方法。
【請求項12】
前記接着剤は、ウレタン系接着剤である請求項1乃至11のいずれか一項に記載された複層ガラスの製造方法。
【請求項13】
前記ウレタン系接着剤は、軟質ポリオレフィン系ポリオール、ポリエステルポリオール、ポリアクリルポリオール及び、ポリオールと無黄変イソシアネートとを反応させたウレタン樹脂の少なくとも1つを含むとともに、無黄変イソシアネート及び該無黄変イソシアネートの誘導体の少なくとも1つを含む、請求項12に記載の複層ガラスの製造方法。
【請求項14】
前記ウレタン系接着剤に含まれている前記ポリエステルポリオール又はポリアクリルポリオールは、ガラス転移点が20℃よりも大きい請求項13に記載の複層ガラスの製造方法。
【請求項15】
複数枚のガラス板がスペーサーを介して対向配置され、前記ガラス板間に中空層が形成されてなる複層ガラスであって、
前記スペーサーと前記ガラス板とは接着剤を介して接着されており、
前記接着剤の厚さは0.1μm以上50μm以下であり、
前記スペーサーは、ブチル系ゴムを含む熱可塑性樹脂材料から形成されてなり、
前記ブチル系ゴムは、高分子量ブチル系ゴムと低分子量ブチル系ゴムとを含み、
前記高分子量ブチル系ゴムの数平均分子量は55000以上150000以下であり、
前記低分子量ブチル系ゴムの数平均分子量は35000以上50000以下である、複層ガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複層ガラスの製造方法及び複層ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、複数枚のガラス板がスペーサーを介して対向配置され、ガラス板間に中空層が形成されてなる複層ガラスであって、スペーサーとガラス板とは接着剤を介して接着されており、接着剤の層の厚さがそれぞれ0.5mm以下である複層ガラスが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載の構成によれば、接着剤層の厚さを薄くすることにより、接着剤の内部の水分透過を抑制することができ、スペーサー及び接着剤から水分を速やかに除去し、スペーサーとガラス板を接着した後の乾燥時間を短縮することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されたレベルで接着剤層の厚さを薄くするだけでは、複層ガラスの製造工程の機械化及び自動化を実現するためには不十分な場合が多い。つまり、乾燥時間が十分にも短縮されないと、工程間で乾燥のための待ち時間が発生してしまい、自動化が困難となる。よって、複層ガラスの製造を自動化するためには、乾燥時間の更なる短縮が要求される。
【0006】
そこで、本発明は、ガラス板にスペーサーを接着した後の乾燥時間を大幅に短縮できる複層ガラスの製造方法及び複層ガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の一態様に係る複層ガラスの製造方法は、複数枚のガラス板がスペーサーを介して対向配置され、前記ガラス板間に中空層が形成されてなる複層ガラスの製造方法であって、
前記複数枚のガラス板の少なくとも1枚に接着剤を塗布する工程と、
前記スペーサーを50℃以上160℃以下の温度で前記ガラス板に接着させる工程と、を有し、
前記スペーサーは、ブチル系ゴムを含む熱可塑性樹脂材料から形成されてなり、
前記ブチル系ゴムは、高分子量ブチル系ゴムと低分子量ブチル系ゴムとを含み、
前記高分子量ブチル系ゴムの数平均分子量は55000以上150000以下であり、
前記低分子量ブチル系ゴムの数平均分子量は35000以上50000以下である、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、生産時間を短縮することができ、生産性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態に係る複層ガラスの基本的構成の一例を示す要部概略断面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る複層ガラスの別の例を示す要部概略断面図である。
【
図3】本発明の第1の実施形態に係る複層ガラス10の製造方法の一連の工程を示した図である。
【
図4】本発明の第2の実施形態に係る複層ガラスの製造方法の一連の工程を示した図である。
【
図5】本発明の第3の実施形態に係る複層ガラスの製造方法の一連の工程を示した図である。
【
図6】実施例1~12及び比較例1~3の接着性を評価するための接着性評価サンプルの構成を示した図である。
【
図7】実施例1~12の組み合わせ構成及び評価結果を示した表である。
【
図8】比較例1~3の組み合わせ構成及び評価結果を示した表である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための形態の説明を行う。
【0011】
図1は、本発明の複層ガラスの基本的構成の一例を示す要部概略断面図である。ガラス板11a、11bは、樹脂製スペーサー12によって所定間隔をあけて対向配置されており、両ガラス板11a、11b間に中空層15が形成されて、複層ガラス10が構成されている。
【0012】
複層ガラス10には、スペーサー12とガラス板11aとの間、スペーサー12とガラス板11bとの間に、それぞれ接着剤層14が形成されている。接着剤層14の厚さaは0.1μm以上50μm以下である。
【0013】
スペーサー12は、樹脂材料から形成されたものであり、吸湿剤を樹脂材料に含有する。この吸湿剤としては、ゼオライトやシリカゲル等が使用でき、低湿度領域での吸湿性能が高いことからゼオライトが好ましい。
【0014】
ゼオライトの形状には特に制限はなく、スペーサー用の樹脂材料における均一分散性の観点から、パウダー状のものが好ましい。また、孔径は水蒸気を吸湿するものであれば特に制限はなく、安価に入手可能な4Aゼオライトパウダーが望ましい。
【0015】
スペーサー用樹脂材料が有する吸湿性能は、温度、湿度等の環境条件により大きく左右されるため、規定が容易ではないが、少なくとも複層ガラスの使用温度領域である-20℃~+60℃の温度範囲で、シール材料の重量に対し0.1%以上の吸湿性能を有することが望ましい。
【0016】
スペーサー12を形成する樹脂材料としては、複層ガラス10の製造後の乾燥時間(養生時間)が短縮できる点に鑑みて、熱可塑性樹脂材料を用いる。また、複層ガラスのスペーサーとして充分な低透湿性が得られるように、ブチルゴム系材料を含む樹脂材料を用いる。さらに、複層ガラス10のスペーサー12として充分な形状保持性が得られるように、結晶性ポリオレフィン等の高硬度化に寄与する材料を加えることが好ましい。
【0017】
このように、本実施形態に係る複層ガラス10のスペーサー12の材料として用いられる熱可塑性樹脂材料は、ブチル系ゴムを含む。そして、熱可塑性樹脂材料に含有されるブチル系ゴムは、高分子量ブチル系ゴムを構成する高分子量側の材料と、低分子量ブチル系ゴムを構成する低分子量側の材料の2種類の材料を含む。
【0018】
ここで、高分子量ブチル系ゴムと低分子量ブチル系ゴムは、化学構造はほぼ同じであるが、分子量が異なる。化学構造が同じであるため、ガス透過性、耐薬品性等は同じであるが、分子量が異なることにより、溶融粘度や弾性率等の物性は異なっている。高分子量ブチル系ゴムはブロック状の固体で、エラストマーとしての特性を示す。一方、低分子量ブチル系ゴムは、粘稠な液体、粘着剤としての特性を示す。
【0019】
本実施形態に係る複層ガラス10においては、室温での弾性率を維持したまま、高温時の流動性を上げる(溶融粘度を低下させる)ために、ブチル系ゴムの分子量による物性の相違を活用する。以下、その内容を説明する。
【0020】
溶融粘度を低下させるためには、高分子量ブチル系ゴムの分子量の影響が大きいため、高分子量ブチル系ゴムの選択に当たっては、高分子量ブチル系ゴムの物性(エラストマー性、弾性が高い)を示す範囲で、より低分子量側の材料を用いることが好ましい。具体的には、高分子量ブチル系ゴムとしては、数平均分子量が55000以上150000以下の材料を用いることが好ましく、数平均分子量が60000以上120000以下の材料を用いることがより好ましく、数平均分子量が65000以上100000以下の材料を用いることがさらに好ましく、数平均分子量が70000以上80000以下の材料を用いることが特に好ましい。
【0021】
高分子量ブチル系ゴムの中でより低分子量側のブチル系ゴムを高分子量ブチル系ゴムとして選択した場合、室温での弾性率の低下が発生し、ペアガラスとしての形状保持性、例えば板ずれ等の問題が発生する場合がある。そこで、溶融粘度を低下させ、かつ室温での弾性率を維持するためには、低分子量ブチル系ゴムの選択において、低分子量ブチル系ゴムの物性(粘性が高い)を示す範囲内でより高分子量側にある材料を選択することが好ましい。具体的には、低分子量ブチル系ゴムとしては、数平均分子量が35000以上50000以下の材料を用いることが好ましく、数平均分子量が38000以上45000以下の材料を用いることがより好ましい。
【0022】
このようなブチル系ゴムの材料の選択をすることにより、高温時の溶融粘度を低下させつつ、室温の弾性率を維持し、生産性を高めつつ高品質のスペーサー12を有する複製ガラス10を製造及び構成することができる。
【0023】
スペーサー12は、1枚のガラス板に直接スペーサー形状で樹脂材料を押出した後に他のガラス板を押し付けて複数枚のガラス板間に設けることが複層ガラス10の製造工程の自動化の点で好ましい。他に、間隔をあけて保持した複数のガラス板11a、11b同士の間に、直接スペーサー形状で樹脂材料を押出して、複数枚のガラス板11a、11b同士の間に設けることや、別途樹脂材料によりスペーサー12を成形し複数枚のガラス板間に配置することもできる。これらの方法は、複層ガラス10の製造設備等に鑑みて、適宜決定される。
【0024】
スペーサー12として低透湿性のものを用いても、接着剤層14が厚いと、接着剤層14から水分が浸透する。すなわち、接着剤層14の厚さが50μmを超えると、接着剤層14の内部の水分透過を抑制できず、初期においても中空層15の露点が降下しにくい。そこで、本発明の実施形態では、接着剤層14の厚さを50μm以下としている。特に効果的に接着剤層14の内部の水分透過を抑制できる点に鑑みて、接着剤層14の厚さは30μm以下が好ましく、20μm以下がより好ましく、10μm以下がさらに好ましく、3μm以下が特に好ましく、2μm以下が最も好ましい。接着剤層14の厚さの下限は、接着剤がかすれてガラス板11a、11bとスペーサー12との接着力が複層ガラス10の性能として不充分にならない程度であり、0.1μmとしている。接着剤層14は、薄ければ薄い程好ましいが、接着力が著しく低下して接着剤としての機能を果たすことができないようでは問題となる。よって、本実施形態においては、接着剤層14の厚みの下限を0.1μm以上としている。接着剤層14の厚さが0.1μm以上あれば、スペーサー12とガラス板11a、11bとを接着するという接着剤の機能を問題無く果たすことができる。接着剤層14の厚さは、0.2μm以上であってもよく0.3μm以上であってもよい。
【0025】
スペーサー12自身にある程度のガラス板11a、11bへの粘着性や接着性があれば、この粘着性や接着性を補強する意味合いで、本発明の実施形態における接着剤層14は複層ガラス10の全周のうちの一部に設けられるものでもよい。スペーサー12とガラス板11a、11bとの接着耐久性が充分に得られる点に鑑みて、複層ガラス10の全周に接着剤層14が設けられることが好ましい。この場合、複層ガラス10における接着剤層14を有するすべての辺において、接着剤層14の厚みが50μm以下とすることが好ましい。一部でも50μmを超える接着剤層14があると、そこからは水分が浸透しやすくなる。
【0026】
接着剤層14の厚さは、その幅方向(例えば
図1における左右方向)において多少の不均一性があってもよいが、均一な厚さを有することが好ましい。厚さが不均一であると、スペーサー12とガラス板11a、11bとの剥離の原因になりやすい。厚さが均一でない場合において、幅方向で一部に50μmを超える部分がある場合、50μmを超えている部分がきわめて小さく、それ以外の部分が幅方向のほとんどの領域を占める場合、実質的に水分の透過を防止できていれば、その幅方向のほとんどの領域が50μm以下であることをもって、接着剤層の厚さが50μm以下であるとしてよい。
【0027】
スペーサー12との界面において接着剤がスペーサー12の材料と混じりあうため、接着剤のみの場合の厚さよりもガラス板11a、11bとスペーサー12との間に介在した場合の方が、接着剤層14の厚さは若干小さくなる。本発明の実施形態において、この厚さの減少分程度の厚みの違いは誤差の範囲である。そこで、幅方向における不均一性についても、上記の減少分程度の不均一性は、実質的に均一な厚さと考えてよい。
【0028】
本発明の実施形態に係る接着剤は、従来から種々提案されているガラス/樹脂用接着剤であれば特に限定されない。ウレタン系接着剤、ポリエステル系接着剤、エポキシ系接着剤、α-シアノアクリレート系接着剤、アクリル系接着剤等に加水分解性シリル基を有する化合物を含有せしめたもの等が例示される。
【0029】
図2は、本発明の複層ガラスの別の例を示す要部概略断面図であり、スペーサーの形状が
図1のスペーサー12の形状と異なる例を示す。複層ガラス10’は、ガラス板11a、11bが樹脂製スペーサー12’によって所定間隔をあけて対向配置され、両ガラス板11a、11b間に中空層15が形成される。
【0030】
スペーサー12’は、中空層15側が幅広に、複層ガラス10’の端面側が中空層15側に比べて幅狭に成形されている。そして、その幅の差が両側(ガラス板11a側とガラス板11b側)で接着剤層14の厚さの2倍以下(接着剤の厚さが0.5mm以下なので、全体で1mm以下)であって、この差のために生じるスペーサー12’とガラス板11a、11bとの0.5mm以下の隙間に、接着剤層14が設けられる。
【0031】
このように、接着剤層14は、スペーサー12’のガラス板11a、11bに対向する全面ではなく、図示の左右方向における一部のみで、ガラス板11a、11bとスペーサー12’との間に介在される形態であってもよい。
【0032】
但し、より高い接着性を得る観点からは、接着剤層14は、スペーサー12のガラス板11a、11bに対向する全面で、スペーサー12とガラス板11a、11bとの間に介在されることが好ましい。
【0033】
特に、
図1に示すように接着剤層14が中空層15まで延在し、接着剤層14の一部が中空層15に露出するように、スペーサー12の図示の左右方向の幅bに比べて接着剤層14の幅cが大きいことは、さらに高い接着力が得られるので好ましい。この場合、高い接着力だけでなく、スペーサー12の大きさ精度やガラス板11a、11bの間における介在位置精度に厳密性が要求されず、複層ガラス10の生産性の向上が図れるので、より好ましい。そして、スペーサー12の大きさや位置精度の高い厳密性が要求されないことから、スペーサーの幅bに比べて接着剤層の幅cが大きいのは、必ずしも複層ガラス10の全周ではなく、少なくとも一部でもよい。
【0034】
上述の例では、ガラス板11a、11bが2枚用いられた複層ガラス10、10’が挙げられているが、本発明の実施形態に係る複層ガラス10、10’は、3枚以上のガラス板を用いるものでもよい。用いるガラス板も、通常の単板のガラス板に限られず、いわゆる樹脂ガラスと呼ばれる有機透明樹脂板、表面に機能コーティングが施されたガラス板、強化処理が施された強化ガラス等、種々のものを使用できる。これらのガラス板が複数枚、接着性中間膜を介して接合された合わせガラスや、表面に樹脂フィルムが積層された積層ガラス等も使用できる。
【0035】
次に、本発明の実施形態に係る複層ガラス10の製造方法について説明する。なお、以下の実施形態では、
図1に示す複層ガラス10を製造する方法を例に挙げて説明する。
【0036】
図3は、本発明の第1の実施形態に係る複層ガラス10の製造方法の一連の工程を示した図である。
【0037】
図3(a)は、接着剤塗布工程の一例を示した図である。接着剤塗布工程では、ガラス板1aの外縁部の所定領域に接着剤14が塗布される。なお、以下の説明では、接着剤14が接着剤層14を形成するので、接着剤14と接着剤層14とを区別せずに同一符号を用いることとする。
【0038】
接着剤14の塗布の方法は特に限定されず、刷毛による塗布、布による塗布、フェルトのような固体形状を有する材料による塗布、スプレーによる塗布、滴下による塗布等、種々の塗布方法により行われてよい。刷毛、布、フォルト等の含浸材料を用いた塗布では、接着剤14を含浸した含浸部材でガラス板11aの所定の塗布領域を描画するように塗布することが可能である。一方、スプレーや滴下による塗布では、ガラス板11aの上方から接着剤14を直接的に噴霧又は滴下して塗布することが可能である。また、スプレーを用いる場合は、必ずしもガラス板11aの上方からスプレー噴霧を行う必要は無く、ガラス板11aを垂直に立てた状態や斜めに配置した状態で塗布することも可能である。このように、用途に応じて、種々の方法及び手段により、接着剤14をガラス板11aの表面上に塗布することができる。
【0039】
なお、塗布領域は、本実施形態では、
図1の複層ガラス10を製造する例を挙げて説明するので、スペーサー12を形成する領域よりも広い領域となる。しかしながら、塗布領域も、用途に応じて適宜変更可能であり、例えば、
図2に示す複層ガラス10’を製造する場合には、スペーサー12’を形成する領域よりも狭い領域に接着剤14を塗布すればよい。また、図示していないが、スペーサー12と同一の領域に接着剤14を塗布することも当然に可能である。このように、接着剤14の塗布領域も、用途に応じて種々変更可能である。
【0040】
図3(b)は、スペーサー接着工程の一例を示した図である。スペーサー接着工程においては、ガラス板11aに塗布された接着剤14の上にスペーサー12が接着される。スペーサー12は、上述のように、ブチル系ゴムを含む熱可塑性樹脂材料から形成されてなる。また、スペーサー12は、例えば上述のように、樹脂材料によりスペーサー12を予め成形し、成形したスペーサー12を接着剤14の上に押し付けて接着することができる。この時、スペーサー12の温度は50℃以上160℃以下となるように設定する。つまり、一旦成形されたスペーサー12が溶融する状態でガラス板11aに接着される。
【0041】
従来、スペーサー12は180℃といった高温に加熱していたが、本実施形態においては、スペーサー12を160℃以下に加熱する。スペーサー12を160℃以下とすることにより、接着後の冷却時間を短くすることができ、生産性を高めることができる。また、スペーサー12が成形し易い粘度を有する状態となり、容易に所定の形状に成形することができる。
【0042】
また、スペーサー12を50℃以上で塗布することにより、スペーサー12が変形し易く、成形し易い状態となる。このように、スペーサー12を50℃以上160℃以下として接着剤14を用いて接着することにより、スペーサー12を成形し易い状態で接着できるとともに、接着後の冷却時間を短縮し、生産性を高めることができる。
【0043】
上述のように、スペーサー12の材料としては、ブチル系ゴムを用いる。ブチル系ゴムは、高分子量ブチル系ゴムを構成する高分子量側の材料と、低分子量ブチル系ゴムを構成する低分子量側の材料の2種類の材料を含み、高分子量ブチル系ゴムとしては、数平均分子量が55000以上150000以下の材料、低分子量ブチル系ゴムとしては、数平均分子量が35000以上50000以下の材料を用いることが好ましい。これにより、ブチル系ゴムの粘度を低くすることができ、50℃以上160℃以下でスペーサー12を成形することができる。また、ブチル系ゴムの粘度が低いため、50℃以上160℃以下でも接着剤14との混じり合いが速く進み、生産時間を短縮することができる。従来は、180℃前後まで加熱しないと、スペーサー12が溶融せず、ガラス板11a上にスペーサー12を形成できなかった。そのため、スペーサー12の冷却に時間を要し、その分生産時間が必要であったが、本実施形態に係る複層ガラスの製造方法では、50℃以上160℃以下という比較的低い温度でスペーサー12をガラス板11aに接着することができる。
【0044】
なお、スペーサー12の温度は、50℃以上160℃以下であれば何℃でもよいが、150℃以下が好ましく、130℃以下がより好ましく、120℃以下が更に好ましく、110℃以下が特に好ましい。より温度が低い方が、スペーサー12の劣化も少なくなり、かつスペーサー12の冷却時間も短縮できるからである。また、スペーサー12の温度は、60℃以上が好ましく、70℃以上がより好ましい。スペーサー12が変形し易く、成形し易いためである。
【0045】
なお、ガラス板11aに接着剤14を塗布した後、30秒~20分後にスペーサー12をガラス板11aに接着させることが好ましい。即ち、上述のような高分子量ブチル系ゴムと低分子量ブチル系ゴムとを含むブチル系ゴムをスペーサー12として用いることにより、接着剤14とスペーサー12とが良く混ざり合うため、塗布する接着剤14が薄くても、接着性を良好に保つことができる。塗布する接着剤14を薄くすることにより、接着剤14が20分以内に乾き、スペーサー12をガラス板11aに早く接着させることができる。これにより、生産時間を短縮することができる。従来は、接着剤の塗布厚みが50μmより厚かったことから、塗布してから乾燥させるまでに30分以上必要であり、ここで大きな待ち時間が発生し、自動化が困難であった。
【0046】
一方、本実施形態に係る複層ガラスの製造方法によれば、ガラス板11aに接着剤14を塗布した後、30秒~20分後にスペーサー12をガラス板11aに接着させることができる。ガラス板11aに接着剤14を塗布した後の待ち時間が30秒~1分程度であれば、工程を自動化することが可能となり、複層ガラス10の自動製造が可能となる。
【0047】
なお、上述のように、接着剤14の厚さは0.1μm以上50μmとすることが好ましい。上述のように、粘度の低いブチル系ゴムをスペーサー12として用いることにより、接着剤14とスペーサー12が良く混ざり合うため、接着剤14の厚さを薄くすることが可能となる。これにより、接着剤14が30秒~20分という短時間で乾き、生産性を高めることができる。
【0048】
このように、本実施形態に係る複層ガラスの製造方法では、
図3(a)の接着剤塗布工程から
図3(b)のスペーサー接着工程を実施する時間を従来よりも大幅に短縮することができ、生産性を高めることができる。
【0049】
図3(c)は、ガラス板接着工程の一例を示した図である。ガラス板接着工程においては、もう1枚のガラス板11bがスペーサー12に接着される。ガラス板11bの外縁部の所定領域には接着剤14が既に塗布された状態で、スペーサー12にガラス板11bが接着される。ここで、接着剤14はガラス板11aに塗布した接着剤14と同一の接着剤14が用いられてよく、また、接着剤14を塗布する塗布領域も、ガラス板11aの塗布領域と同一であってよい。
【0050】
また、ガラス板11bに接着剤14を塗布するタイミングは、ガラス板11aに接着剤14を塗布するタイミングと同一であってもよいし、異なっていてもよい。例えば、ガラス板11aに先に接着剤14を塗布し、スペーサー接着工程を実施している間にガラス板11bに接着剤14を塗布してもよい。また一方で、ガラス板11a、11bを並べて配置し、ガラス板11a、11bにほぼ同時に接着剤14を塗布してもよい。また逆に、ガラス板11bに先に接着剤14を塗布し、その後にガラス板11aに接着剤14を塗布することも可能である。このように、ガラス板11bに接着剤14を塗布するタイミングは、用途や塗布設備に応じて適切なタイミングとすることができる。
【0051】
また、接着剤14のガラス板11bへの塗布方法及び塗布手段は、
図3(a)で説明したのと同様に、用途に応じて種々の塗布方法及び塗布手段を選択できる。その内容は、
図3(a)で説明した通りであるので、ここでの説明は省略する。
【0052】
ガラス接着工程においては、必要に応じてガラス板11bを加圧してもよい。加圧は、ガラス板11bの上から圧力を加えてもよいし、ガラス板11a、11bの両側から圧力を加えてもよい。加圧により、ガラス板11a、11bとスペーサー12との接着を確実にすることができるとともに、ガラス板11a、11b及びスペーサー12の位置を固定することができる。
【0053】
なお、スペーサー12は、スペーサー接着工程で50℃以上160℃以下に設定したら、その後は特に加熱することなくガラス板接着工程を実施することができる。スペーサー接着工程の段階でスペーサー12の温度を50℃以上160℃以下にすれば、その後にスペーサー12の温度が低下しても、ガラス板11bをスペーサー12に接着することは可能であるため、製造工程上、何ら問題は無い。
【0054】
また、
図3においては、2枚のガラス板11a、11bからなる複層ガラス10を製造する例を挙げて説明したが、更に3枚、4枚と多くのガラス板11a、11bからなる複層ガラス10を製造するには、ガラス板11bの上に接着剤14を塗布し、新たなスペーサー12を接着させ、スペーサー12上に更にガラス板を接着する、という工程を追加すればよい。つまり、
図3(a)~(c)の工程を複層ガラス10の枚数に応じて繰り返せばよい。
【0055】
このように、第1の実施形態に係る複製ガラスの製造方法によれば、接着剤14を短時間で乾燥させることができ、生産性を向上させることができる。
【0056】
図4は、本発明の第2の実施形態に係る複層ガラスの製造方法の一連の工程を示した図である。
【0057】
図4(a)は、ガラス板配置工程の一例を示した図である。ガラス板配置工程においては、接着剤14が塗布された2枚のガラス板11a、11bが対向して配置される。当然に、接着剤14が塗布された接着剤塗布領域同士が対向するように配置される。
【0058】
なお、ガラス板配置工程の前に、
図3(a)で説明した接着剤塗布工程が各々のガラス板11a、11bに対して実行される。そして、接着剤14が既に塗布されたガラス板11a、11b同士が対向して配置される。
【0059】
図4(b)は、スペーサー接着工程の一例を示した図である。この場合、スペーサー12は、溶融したブチル系ゴムの熱可塑性樹脂材料を押出成形により押し出して対向する2枚のガラス板11a、11b同士の間に充填し、成形する。例えば、上述のような高分子量ブチル系ゴムと低分子量ブチル系ゴムを含有するブチル系ゴムをスペーサー用の材料とすることにより、100~150℃程度の低温で押出成形を行うことができ、容易にスペーサー接着工程を実施することができる。
【0060】
スペーサー接着工程では、必要に応じて、ガラス板11b又はガラス板11a、11bを加圧してよい。加圧の方法は、
図3(c)で説明したのと同様でありそのまま適用することができるので、その説明を省略する。
【0061】
なお、
図4(b)のスペーサー接着工程は、成形されたスペーサーを接着させるのではなく、接着剤14が塗布されたガラス板11a、11bの間にスペーサー12を充填して成形する工程であるので、スペーサー充填工程又はスペーサー成形工程と呼んでもよい。
【0062】
また、第2の実施形態に係る複層ガラスの製造方法においても、
図4(a)、(b)の工程を繰り返すことにより、3枚、4枚といった更に多くのガラス板11a、11bを有する複層ガラス10の製造が可能である。この点は、第1の実施形態で説明した内容と同様であるので、説明を省略する。
【0063】
第2の実施形態に係る複層ガラスの製造方法においても、接着剤14を短時間で乾燥させることができるので、生産性を高めることができる。
【0064】
なお、第1及び第2の実施形態のいずれにおいても、接着剤14の塗布領域とスペーサー12の接着領域は、用途に応じて適切な組み合わせとすることができる。
【0065】
図5は、本発明の第3の実施形態に係る複層ガラスの製造方法の一連の工程を示した図である。なお、第3の実施形態において、第1及び第2の実施形態と同様の構成要素については、同一の参照符号を付してその説明を省略する。
【0066】
図5(a)は、ガラス板接着剤塗布工程の一例を示した図である。ガラス板接着剤塗布工程では、ガラス板11aの外縁部の所定領域に接着剤14が塗布される。接着剤塗布工程は、第1の実施形態に係る複層ガラスの製造方法の
図3(a)と同様であるので、
図3(a)で説明した内容をそのまま適用することができる。よって、接着剤塗布工程の詳細な説明は省略する。
【0067】
図5(b)は、スペーサー接着工程の一例を示した図である。スペーサー接着工程においては、ガラス板11aに塗布された接着剤14の上にスペーサー12が接着される。スペーサー接着工程は、第1の実施形態に係る複層ガラスの製造方法の
図3(b)と同様であるので、
図3(b)で説明した内容をそのまま適用することができる。よって、スペーサー接着工程の詳細な説明は省略する。
【0068】
図5(c)は、スペーサー接着剤塗布工程の一例を示した図である。スペーサー接着剤塗布工程では、スペーサー12の上面、つまりスペーサー12のガラス板11aと接着剤14を介して接着されている面との反対面に接着剤14が塗布される。即ち、スペーサー12のガラス板11aが接着されていない面であって、ガラス板11aと平行な面に接着剤14が塗布される。
【0069】
第1及び第2の実施形態に係る複層ガラスの製造方法においては、スペーサー12を挟み込むガラス板11bに接着剤14が塗布されていたが、第3の実施形態に係る複層ガラスの製造方法においては、ガラス板11bではなく、スペーサー12に接着剤14が塗布される点で、第1及び第2の実施形態に係る複層ガラスの製造方法と異なる。
図5(c)に示されるように、スペーサー12の面積は当然にガラス板11aよりも小さいので、スペーサー12の面積に合わせて、接着剤14がスペーサー12の側面に溢れて流出しない程度に塗布される。
【0070】
ここで、接着剤14の厚さは、0.1μm以上50μmとすることができるが、例えば、20~30μmの範囲に設定することが好ましい。スペーサー12の表面は、ガラス板11bの表面よりも表面粗さが大きいので、やや厚く接着剤14を塗布することにより、表面粗さの緩衝材としての役割を果たすことができ、スペーサー12の表面状態を良好にすることができる。これにより、次工程で行うガラス板11bの接着を良好な状態で行うことができる。
【0071】
図5(d)は、ガラス板接着工程の一例を示した図である。ガラス板接着工程においては、もう1枚のガラス板11bが、接着剤14が塗布されたスペーサー12に接着される。この場合、ガラス板11bには、接着剤14は塗布されておらず、スペーサー12のみに接着剤14が塗布された状態でガラス板11bがスペーサー12に接着される。
【0072】
このように、ガラス板11bではなく、スペーサー12に接着剤14を塗布して2枚目のガラス板11bの接着を行うようにしてもよい。これにより、一方から(
図5においては下方)から順次積み上げるように複層ガラス10を製造することができ、作業性を向上させることができる。また、ガラス板11bに個別に接着剤14を塗布するスペースが不要となるので、複層ガラス製造時における省スペース化を図ることができる。また、2枚目のガラス板11bとスペーサー12とを接着する接着剤14の面積を必要最小限とすることができ、接着剤14の使用量を低減させることができる。また、不要部分に接着剤14が飛び出させないようにすることができ、中空層15の内側の面ではあるが、複層ガラスの美観も向上させることができる。
【0073】
なお、接着剤14は、
図5(a)のガラス板接着剤塗布工程と、
図5(c)のスペーサー接着剤塗布工程において、同一の接着剤14を使用することができる。いずれの場合も、接着対象はガラス板11a、11bとスペーサー12であり、同一種類の対象物同士の接着に用いられるからである。
【0074】
また、接着剤14のガラス板11a及びスペーサー12への塗布方法及び塗布手段は、
図3(a)で説明したのと同様に、用途に応じて種々の塗布方法及び塗布手段を選択できる。その内容は、
図3(a)で説明した通りであるので、ここでの説明は省略する。
【0075】
なお、第1の実施形態と同様に、ガラス板接着工程においては、必要に応じてガラス板11bを加圧してもよい。加圧は、ガラス板11bの上から圧力を加えてもよいし、ガラス板11a、11bの両側から圧力を加えてもよい。加圧により、ガラス板11a、11bとスペーサー12との接着を確実にすることができるとともに、ガラス板11a、11b及びスペーサー12の位置を固定することができる。
【0076】
また、
図5においては、2枚のガラス板11a、11bからなる複層ガラス10を製造する例を挙げて説明したが、更に3枚、4枚と多くのガラス板からなる複層ガラス10を製造するには、ガラス板11bの上に接着剤14を塗布し、新たなスペーサー12を接着させ、スペーサー12上に接着剤14を塗布し、更にガラス板を接着する、という工程を追加すればよい。つまり、
図5(a)~(d)の工程を複層ガラス10の枚数に応じて繰り返せばよい。
【0077】
このように、第3の実施形態に係る複製ガラスの製造方法によれば、ガラス板接着剤塗布工程、スペーサー接着工程、スペーサー接着剤塗布工程及びガラス板接着工程からなる一連の工程を、塗布をベースとする類似した動作で行うことができ、作業性及び生産性を向上させることができる。
【0078】
次に、接着剤14の組成例について説明する。
【0079】
スペーサー材料を構成する熱可塑性樹脂組成物は疎水性であり、ガラス板1a、1bは親水性であるため、両者の接着性を確保できることが要求されるが、両者の接着性を確保できれば、種々の接着剤を用いることが可能である。例えば、耐候性及び接着性の観点から、軟質ポレオレフィン系ポリオールと、無黄変イソシアネートと、無黄変イソシアネートの誘導体から作られるウレタン系接着剤を用いるようにしてもよい。ウレタン系接着剤は、少なくともポリオールとイソシアネートとを含んでいればよく、その他、必要に応じて、ガラス板との密着性を確保するため、シランカップリング剤を含んでもよい。ポリオールは、上述の軟質ポリオレフィン系ポリオールの他、ポリエステルポリオール又はポリアクリルポリオールであってもよく、さらにポリオールとイソシアネートとを反応させて得られるウレタン樹脂であってもよい。イソシアネートは、無黄変イソシアネートであってもよく、無黄変イソシアネートの誘導体であってもよい。よって、ウレタン系接着剤は、ポリエステルポリオール、ポリアクリルポリオール、軟質ポリオレフィン系ポリオール、及びポリオールと無黄変イソシアネートとを反応させて得られるウレタン樹脂の少なくとも1つと、無黄変イソシアネート及び無黄変イソシアネートの誘導体の少なくとも1つとを含み、必要に応じて、更にシランカップリング剤等を含んでもよい。なお、ポリオールは、1分子中に水酸基を1つ以上もつ多官能アルコールを意味する。
【0080】
ここで、ウレタン系接着剤に含有されるポリオールは、そのガラス転移点Tgが20℃より高いことが好ましい。これにより、接着時の初期強度を確保することができ、高温のブチル系ゴムとガラスを貼り合わせた時の板ズレの発生を防止又は抑制することができる。また、ポリオールの分子量は、2000~50000の範囲内にあることが好ましい。これにより、耐熱性、耐候性等の長期信頼性を確保することができる。更に、ポリオールの酸価は、3KOHmg/g未満であることが好ましい。これにより、接着剤溶液の安定性及び作業性を確保することができる。なお、酸価は、ポリオール1g中に存在する遊離脂肪酸を中和するのに必要な水酸化カリウムのmg数であり、ポリオールの精製度を示し、低い方が精製度が高い。
【0081】
なお、スペーサー20の材料となるブチル系ゴムを含有する樹脂組成物とガラス板1a、1bとを接着するための接着剤としては、(A)炭素数4の2価の炭化水素基を繰り返し単位とする末端反応性オリゴマーと前記オリゴマーの末端官能基と反応し得る化合物の混合物、(B)炭素数4の2価の炭化水素基を繰り返し単位とする末端反応性オリゴマーと前記オリゴマーの末端官能基と反応し得る化合物の反応生成物、との組み合わせから構成される接着剤であってもよい。
【0082】
例えば、炭素数4の2価の炭化水素基を繰り返し単位とする末端反応性オリゴマーは、 炭素数4の炭化水素系モノマーに由来する繰り返し単位を含むオリゴマ一であって、かつオリゴマー末端に水酸基、カルボキシル基、アミノ基、メルカプト基、エポキシ基、イソシアネート基などの反応性官能基を有する化合物である。この官能基と反応しうる官能基を有する化合物を反応させて鎖伸長させたり架橋させたりすることにより接着剤として機能する高分子量のポリマーとなりうる化合物である。
【0083】
末端反応性オリゴマーの分子量の下限は特に限定されないが、通常は2000程度である。上限は特に限定されないが、10000程度である。分子量は500~1万が好ましく、1000~5000が特に好ましい。 またこの末端反応性オリゴマーは実質的に線状のオリゴマーであることが好ましい。また、比較的低分子量のオリゴマーは分岐を有するオリゴマ一であってもよく、また末端それぞれに反応性官能基を有する分岐を有する3官能以上のオリゴマーであってもよい。
【0084】
本発明の実施形態に係る複層ガラスにおいて好ましい末端反応性オリゴマーは、1-ブテンの単独重合体、イソプレンの単独重合体、1-ブテンとイソプレンとの共重合体、ブタジエンの単独重合体(1,2-ポリブタジエンや1,4-ポリブタジエン)の水素化物、ならびに、1-ブテン、イソプレン、ブタジエンなどの炭素数4の単量体1種以上とイソプレン、ペンタジエン、スチレンなどとの共重合体とその水素化物である。 最も好ましい末端反応性オリゴマーはブタジエンの単独重合体の水素化物である。
【0085】
末端反応性オリゴマーにおける官能基としては水酸基、カルボキシル基、アミノ基、メルカプト基、エポキシ基、および、イソシアネート基などがある。水酸基またはカルボキシル基が好ましく、水酸基が特に好ましい。
【0086】
前記オリゴマーの末端官能基と反応し得る化合物としては上記の末端反応性オリゴマーの官能基に反応しうる官能基を2以上有する化合物が用いられる。
【0087】
例えば、水酸基末端オリゴマーはポリイソシアネー卜と反応させてポリウレタンとすることができ、ポリカルボン酸またはその酸クロリドやアルキルエステルなどと反応させてポリエステルとすることができる。同様に、カルボキシル基末端オリゴマーはポリオール、ポリアミン、ポリエポキシドなどと反応させることができ、アミノ基末端オリゴマーはポリエポキシド、ポリカルボン酸またはその無水物などと反応させることができる。本発明の実施形態に係る複層ガラスにおいて特に好ましい末端反応性オリゴマーと前記オリゴマーの末端官能基と反応し得る化合物の組み合わせは、水酸基末端オリゴマーとポリイソシアネートまたはポリカルボン酸またはその反応性酸誘導体からなる化合物との組み合わせである。
【0088】
また、上述の接着剤には、必要に応じてシランカップリング剤を加えることができる。上述のように、シランカップリング剤は、ガラスとの密着性を高めるために用いられる。
【0089】
上記シランカップリング剤としては、例えば、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等のエポキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3‐アミノプロピルエトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン等のアミノシラン、等が挙げられる。
【0090】
更に、上述の接着剤には、必要に応じて、酸化防止剤、濡れ剤、消泡剤等の添加剤及び、有機溶媒を加えてもよい。
【0091】
[実施例]
以下、本発明の実施例について説明する。なお、以下にいう「幅」は例えば
図1の左右方向の寸法に相当する。また、「厚み方向」は例えば
図1の上下方向に相当し、「厚さ」は例えば
図1の上下方向の寸法に相当する。
【0092】
(接着剤の例)
表1は、本実施例において作製した接着剤溶液1~3の組成を示している。
【0093】
【表1】
表1に示される接着剤溶液1~3は、以下のようにして作製した。
【0094】
1,2-ポリブタジエンの水素化物(末端OH基、水酸基価46.3mgKOH/g)48gを80℃に加熱し、撹拌しながらイソホロンジイソシアネート4gを静かに滴下し、8時間加熱・撹拌を行った。これを冷却後、トルエンとメチルエチルケトンとを等重量混合した溶剤94g、1,2-ポリブタジエンの水素化物42gを加えて溶解し、固形分濃度約50wt%のウレタン樹脂溶液を得た。この溶液100質量部に、ヘキサメチレンジイシアネートのヌレート体1.13質量部、3-アミノプロピルトリメトキシシラン0.5質量部、トルエンとメチルエチルケトンを等量混合した溶剤6.13質量部を加えて表1の接着剤1を得た。
【0095】
同様にして、固形分濃度約50wt%のウレタン樹脂溶液100質量部に、ヘキサメチレンジイシアネートのヌレート体1.13質量部、3-アミノプロピルトリメトキシシラン0.5質量部、トルエンとメチルエチルケトンを等量混合した溶剤の量を61.3質量部、0質量部と変化させ、それぞれ接着剤2、3を得た。また、固形分濃度は、接着剤1、2、3でそれぞれ10%、1%、50%であった。
【0096】
表2は、本実施例において作製した接着剤溶液4~7の組成を示している。
【0097】
【表2】
また、表3は、表2の示した接着剤溶液4~7のポリオールの具体的な種類と特性を示している。
【0098】
【表3】
アクリルポリオール(水酸基価90mgKOH/g)10gにヘキサメチレンジイソシアネートのアダクト体17質量部、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン1.0質量部、トルエンとメチルエチルケトンを等量混合した溶剤84質量部を加えて、接着剤溶液4を得た。同様に、表2、3に記載の原料、添加量を調合して接着剤溶液5~7を得た。
【0099】
(スペーサーの例)
表4は、本実施例で用いたスペーサーA、B、Cの組成を示している。
【0100】
【表4】
表4に示されるスペーサーA、B、Cは、以下のようにして作製した。
【0101】
なお、表4において、各数値は、100質量部に対する質量比を示している。
【0102】
ブチルゴムは、高分子量ブチル系ゴムの物性(エラストマー特性、ゴム状弾性)を示す数平均分子量55000以上の範囲において、低分子量側の数平均分子量76000のブチルゴムを用いた。スペーサーAでは18.0質量部、スペーサーBでは21.3質量部の質量比である。
【0103】
ポリイソブチレンは、低分子量ブチル系ゴムの物性(粘着性)の物性を示す数平均分子量50000以下の範囲において、高分子量側の数平均分子量41000のポリイソブチレンを用いた。スペーサーAでは18.0質量部、スペーサーBでは21.3質量部の質量比である。
【0104】
なお、これらのブチル系ゴムの数平均分子量Mnについては、東ソー株式会社製のサイズ排除クロマトグラフィー装置(本体:HLC-8220GPC、RI検出器 ガードカラム:TSKgen guardcolumn SuperHZ-L、カラム:TSKgen SuperHZ2000、TSKgel SuperHZ2500、TSKgel SuperHZ4000)を用いて、THF溶媒、ポリスチレン標準サンプルを基準として測定した。
【0105】
結晶性ポリオレフィンについては、HDPEが、メルトフローレートMFRが20g/10分(JIS K6922-2に準じた)で融点が133℃の高密度ポリエチレンを示している。スペーサーAには含有されておらず、スペーサーBでは4.3質量部の質量比である。また、変性PEが、メルトフローレートMFRが80g/10分(JIS K6922-2に準じた)、融点が98℃であり、酸無水物及びアクリル酸エステルを導入したポリエチレンを示している。スペーサーAでは6.0質量部の質量比であり、スペーサーBでは含有されていない。
【0106】
粘着付与剤については、DCPD(ジシクロペンタジエン)型水添炭化水素樹脂であって、軟化点が125℃の材料を用いた。スペーサーAでは10.7質量部、スペーサーBでは10.6質量部の質量比である。
【0107】
タルク及びカーボンブラックは無機フィラーである。無機フィラーについては、平均粒径が2μmのタルクと、HAF(High Abrasion Furnace)型カーボンブラックとを含有する無機フィラーを用いた。各々スペーサーA、Bに含有され、表2に示された質量部で含有されている。
【0108】
乾燥剤として、4A型ゼオライトパウダーを用いた。スペーサーA、Bとも21.3質量部含有されている。
【0109】
(実施例及び評価結果)
図6は、実施例1~12及び比較例1~3の接着性を評価するための接着性評価サンプルの構成を示した図である。ガラス板11c、11dの表面に接着剤14sが塗布され、スペーサー12sが接着された接着性評価サンプルを作製し、実施例1~12及び比較例1~3の接着性の評価を行った。
【0110】
図7は、実施例1~12の組み合わせ構成及び評価結果を示した表である。また、
図8は、比較例1~3の組み合わせ構成及び評価結果を示した表である。
【0111】
具体的には、以下のようにして実施例1を作製した。50mm×50mm、厚さ5mmのフロートガラス2枚をエタノールで洗浄し、ガラスの中央部に10mm幅になるように接着剤1をフェルトに染み込ませて塗布し、1分後に予め60℃に加温した幅7mm×厚さ12mm×長さ50mmのスペーサーAを接着剤1上に配置した。更にその上に同様に接着剤1が塗布されたガラスを合せ、0.1MPaの圧力で1分間プレスし、
図6に示されるような実施例1のサンプルを得た。
【0112】
実施例3~6及び比較例2、3のサンプルは、実施例1と同様にして作製した。実施例2では、接着剤2を用いた。また、実施例7では、スペーサーBを用いた。更に、実施例8では、接着剤3を用いた。実施例9では接着剤4及びスペーサーC、実施例10では接着剤5及びスペーサーC、実施例11では接着剤6及びスペーサーC、実施例12では接着剤7及びスペーサーCをそれぞれ用いた。比較例1では、接着剤を用いなかった。その際、接着時のスペーサー温度も変化させた。実施例1~12では、スペーサー温度を60~150℃の範囲で変化させた。比較例2、3では、下限以下の40℃、上限以上の180℃に設定した。
【0113】
また、
図7及び
図8の下から2段目の露点測定で用いられる露点測定サンプルは、350mm×500mm、厚さ5mmのフロートガラス2枚を温水洗浄し、ガラスの周辺部に10mm幅になるように接着剤1を塗布して実施例1の露点測定サンプルを得た。同様にして、接着剤を変化させて実施例2~12及び比較例2、3の露点測定サンプルを得た。
【0114】
更に、
図7及び
図8の最下段の加速耐久試験で用いられる加速測定サンプルは次のようにして作製した。露点測定サンプルを得た後、予め60℃に加温した幅7mm×厚さ6mmのスペーサーAを1枚のガラス外縁部に配置した。更にその上にもう1枚のガラスを合わせ、圧力0.1MPaで5分間プレスし、実施例1の複層ガラスを得た。同様にして、接着剤の種類、スペーサーの種類、接着時のスペーサー温度を変化させ、実施例2~12及び比較例1~3の複層ガラスを得た。
【0115】
図7及び
図8の下から4段目の初期板ズレ性については、500mm×1000mm、厚さ5mmのフロートガラス2枚を温水洗浄し、ガラスの周辺部に10mm幅になるように接着剤1を塗布した。その後、あらかじめ140℃に加温した幅7mm×厚さ12mmのスペーサーAを1枚のガラス周辺部に配置し、スペーサーAに接着剤1を塗布した。さらにその上に、もう一枚のガラスをあわせ、圧力0.1MPaで20秒間プレスし、複層ガラス(実施例1)を得た。同様にして、接着剤の種類、スペーサーの種類、接着時のスペーサー温度を変化させ、実施例2~12及び比較例1~3の積層ガラスを得た。
【0116】
実施例1~12及び比較例1~3の各項目における評価方法は以下の通りである。
【0117】
図7及び
図8の上から4段目の接着剤膜厚については、50mm×50mm、厚さ5mmのフロートガラスに接着剤溶液を塗布し、溶剤を乾燥させた。その後、3D測定レーザー顕微鏡(OLYMPUS株式会社製 LEXT OLS4000)にて接着剤の塗布厚さを測定した。
【0118】
図7及び
図8の上から5段目の風乾時間については、50mm×50mm、厚さ5mmのフロートガラスに接着剤溶液を塗布し、室温下で溶剤の臭気が無くなる時間を風乾時間とした。風乾時間が20分以下を合格とし、20分を超えた場合は不合格とした。
【0119】
図7及び
図8の下から4段目の初期板ズレ性については、プレス直後の複層ガラスの片方のガラスを固定し、5分後にもう一方のガラスの初期位置からのズレを計測した。ガラス板のズレがない場合、及びズレはあるがズレが1mm未満の場合には合格とし、ズレが1mm以上の場合には不合格とした。
【0120】
図7及び
図8の下から3段目の接着性については、
図5に示したサンプルを作製後、室温下で2日間サンプルを放置し、更に60℃の温水に6日浸漬させ、温水から取り出して1日室温で乾燥させた。この乾燥したサンプルについて、オートグラフ(ORIENTIC RTC-1210)を使用し、速度50mm/分でガラスを両方向に引っ張り、接着試験を行った。判定としては、最大点応力25N/cm
2以上を合格とし、25N/cm
2未満を不合格とした。
【0121】
図6の下から2段目の露点測定については、JIS R3209に記載の装置と方法に従って露点を測定した。判定としては、JIS R3209の項目4.2に記載されている通り、-35°未満を合格とし、-35°以上を不合格とした。
【0122】
図7及び
図8の最下段の加速耐久試験については、JIS R3209に従い、350mm×500mm、厚さ5mmのフロートガラスと厚さ6mmのスペーサーを有する複層ガラスについて試験を行った。判定としては、JIS R3209の項目3b)に記載のIII類判定の記載に従って判定した。
【0123】
図7に示される通り、実施例1~7及び実施例9~12については、接着時のスペーサーの温度を50℃以上160℃以下の範囲内である60℃~150℃に設定した。膜厚は総て2.3μm以下となり、薄い接着剤層が得られ、風乾時間も総て1分以下であった。また、接着性も26N/cm
2以上であり、25N/cm
2以上の合格基準を上回った。露点も-60℃で-35℃未満の合格基準をクリアした。また、加速耐久試験も合格であった。更に、初期ズレ性試験も合格であった。
【0124】
実施例8については、接着剤3を用いて、接着時のスペーサーの温度は80℃でサンプルを得た。接着剤膜厚が50μm以上、風乾時間が30分以上となり、この点のみ基準をクリアしなかったが、他の評価項目は総て合格であり、JISの基準である露点測定試験及び加速耐久試験も合格であった。よって、風乾時間の要求が高くない場合には、実施例8も使用可能な範囲に含まれる。
【0125】
一方、接着剤を使用しない比較例1では、当然に接着性が悪く、温水中で剥離してしまい、加速耐久試験も不合格であった。また、接着剤を使用しているが、スペーサーの温度が40℃であり、下限の50℃以下である比較例2は、露点測定と加速耐久試験が不合格であり、JISの基準を満たすことができなかった。更に、接着剤を使用しているが、スペーサーの温度が180℃であり、上限の160℃以上である比較例3では、スペーサーの粘度が低く、所定の厚さのサンプルの作製ができず、露点測定試験及び加速耐久試験を実施することができなかった。
【0126】
このように、実施例1~12及び比較例1~3より、スペーサーにブチル系ゴムを用い、接着時のスペーサーの温度を50~160℃の範囲とすることにより、JISの基準を満たし、かつ風乾時間が短く、生産性を向上させることが可能な複層ガラスを製造及び構成することが出来ることが示された。
【0127】
以上、本発明の好ましい実施形態及び実施例について詳説したが、本発明は、上述した実施形態及び実施例に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、上述した実施形態及び実施例に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0128】
本願は、日本特許庁に2017年4月28日に出願された基礎出願2017-090610号の優先権を主張するものであり、その全内容を参照によりここに援用する。
【符号の説明】
【0129】
10、10’ 複層ガラス
11a、11b、11c、11d ガラス板
12、12’、12s スペーサー
14、14s 接着剤層
15 中空層